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ユリガミノカナタニ

1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
??「―――――――。」


―――声が聞こえる。



これは、わたしの一番古い記憶?


何も、見えない。


そこは、暗闇の中―。

851 名前:たけのこ軍 791:2016/03/07 19:59:34.399 ID:OnAnuYjYo
更新おう
切ない…(´;ω;`)

852 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:27:48.598 ID:/zPciKa20
―――遥か、遥か、気の遠くなるような、削れた岩が、もとの形のままであるほどのむかし。


月女神は生まれた。

853 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:28:05.896 ID:/zPciKa20
國を産んだ神のもとに、姉に太陽の女神を、弟に海の男神を持っていた。

月の女神は、太陽の女神と美しき仲であった。


しかし、ある事件によりふたりは永遠の決別をしてしまった。

ふたりの小指の赤い糸は、脆く切れ、決して二度と寄り合わぬようになった。

854 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:28:24.177 ID:/zPciKa20
それは、昼と夜のふたつの世界が生まれる始まりでもあった。
月の女神の支配する闇の世界と、太陽の女神の支配する光の世界は、陰と陽に分かれたのだ。


月女神は、月に國を作り、生き物を産んだ。
そして、神剣・黄泉剣を遺し、何処か遠くへと消えていった。

855 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:28:41.287 ID:/zPciKa20
その月女神の血を濃く引く、月の王族は、神に選ばれし者。
それは、月女神の遺した、黄泉剣に選ばれる資格があるということ―――。

月女神の名は、月夜見。その剣の名は、黄泉剣。

856 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:28:55.036 ID:/zPciKa20
そして、月夜見の血を引く姫君と、太陽の民の人間のもとに―――

一人の少女が―――わたしは姫と呼んでいる存在が産まれた。

857 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:29:07.864 ID:/zPciKa20
その様子を見るわたしは、式神―――。
ただのそれだけ―――。
姫は、あの子の魂ソノモノ―――。

わたしにつけられた名前は、ない―――。

858 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:29:25.947 ID:/zPciKa20
いいや、正確にはあるのだけれども、その名は今、姫の式神として存在するわたしには相応しくない。

姫がわたしのことを、魔女の囁き、と称する―――。
その名前が、わたしにとって相応しい―――。

姫の母親が、腹の中に宿りし姫の魂に、わたしを憑かせた。
其れが、其の存在がわたしなのだ―――。

859 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:31:52.197 ID:/zPciKa20
わたしは、姫君の腹の子と共に、その魂を宿し、魄を宿し、双子の姉妹として生まれる――はずだった。
しかし、わたしが宿るべき肉体は、ただの肉塊だけとして在った。

それは、姫の高祖父母が、はじめに産んだ子供と同じ、出来損ないの子と同じもの―――。
わたしが肉塊となって在ったのは、月と太陽の女神がまだ、永久の別れをするその時、
太陽の女神が月の女神の腹の中に、神のできそこないの肉塊を入れた、それが姫君の腹の中で、双子の片割れへ昇華されたのだ。

それが、ずっと巡り巡って、わたしとなった。

860 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:32:05.069 ID:/zPciKa20

わたしは、生まれることなくして死せる存在だった。

そして、わたしは―――蛭子が海に流されていったように、わたしもそうなるのだろうと―――。
生まれる腹の子のことなど、常人には分からないから―――
わたしを産んだとき、出来そこないだとわかったとき、海か何処かにが棄てられると思っていた。

861 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:32:19.385 ID:/zPciKa20
―――しかし、姫の母親は月女神の血を強く濃く引く、常人とは違った存在。
わたしが、ただの肉塊であることを、わたしがそれに憑いていたことを読み、見ていた。


そして、彼女はその事を知ると、わたしを姫の式神に生まれ還そうと考えた。
生まれても生きられない存在ならば、生まれる姫を護って生きるほうが、はるかにいい―――と。

862 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:32:30.169 ID:/zPciKa20
そして、わたしは姫の魂に入れられた。
わたしをつくるはずだった肉塊は、ぐしゃぐしゃに、ばらばらになって、魂の中のわたしを包む膜となった。

863 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:32:43.567 ID:/zPciKa20
―――式神は、それにかけられた力が強いほど、憑代が不変であればあるほどずっと存在する。
―魂に宿りし式神は、その魂の持ち主が死ぬまで生ける式神となるのだ。


わたしは、姫であり―――。
―――姫は、わたしである。

864 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:33:06.874 ID:/zPciKa20
姫の母親は、わたしにこう命じた。
「貴女は、蛭子―――
 生まれることのできない子―――
 海に流されてしまう、不具の子―――
 だから、あなたを転生させる―――この子の式神へ……

 ―――貴女の名は、沙波(イサナ)
 数えられぬほどの、散らばる、小さな沢山の砂のように、無限に貴女が在り続け―――
 海を覆い護る波のように、この子を護る存在で在り続けるように―――
 

 貴女は、この子が心底嫌がるものを、運命の力を持ってして、絶対に護る力を持つ―――
 それが貴女の力―――貴女の持つ力―――

 力を織りなす源は、わたしたちを産みし女神を産みし、黄泉の國で朽ちて逝った國生みの女神の力―
 この子が死に、その魄が消滅し、魂が黄泉の國へ旅立とうとも消えない力―――

 ―――この子が嫌がるものは、命じるわたしにすら、分からないけれど…
 この子の魂魄が拒否する其れは、貴女ならわかるはず……
 あなたは、護る力の一部となり―――
 この子をずうっと、護れ、護れ――――」



865 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:33:38.995 ID:/zPciKa20
姫の母親には、月女神の血が流れていた。
わたしは、運命の力を持ってして、わたしは、わたしの意志が消えようとも、絶対に消すことのできない力の一部となった。


姫が本能的に、心底嫌う、男に操を狙われることから、完全に護る力の。
それは、姫の魂魄すべてが消滅するまで残る力―――。

866 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:33:49.766 ID:/zPciKa20
そしてわたしは、姫の操を護る魔女で在り続けた。

何が在ろうと、姫にとって不利に成ろうと、護り抜く。
―――最も、わたしの意志ではなく、この世界の意志―運命の動き―その力に動かされて護ってきた。

わたしは、ただその力の軌跡を写し出す、力の具現化のような存在だからだ―――。

867 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:34:00.704 ID:/zPciKa20
兎も角、わたしは、ずうっと、ずうっと、あの子を護り続けた。

姫の操を狙う男から―――。

そして、わたしという存在を消し去り、姫の操を護れぬようにする存在から―――。

868 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:34:57.760 ID:/zPciKa20
わたしは、肉塊で、生まれつき天稟だった術の力の高さを用いて作った、
邪悪なる鬼の―髑髏の如き鎧を全身に身に着け、魔女で在り続けた。

わたしの鎧も魂も、姫が育つのと同じように、小さな姿から大きな姿へと育っていった。

869 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:35:20.482 ID:/zPciKa20
鎧は、大きく硬く重く、まるで邪鬼の身体のように。
魂は――わたし自身の姿は、太陽の民の血の多い姫とは違って、
月の民の血の多い、白髪黒眼の、その姿が。
もっとも、わたしの眼は、二つの瞳が重なる、まともなものではなかったけれども―――。



わたしは、ただの守護霊と呼ばれる存在として、その正体を明かさずに、過ごしてきた。

870 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:35:34.479 ID:/zPciKa20
―――何年も。

千代の年を越えても―――。


わたしは姫を護る魔女で在り続けた。



―――けれども、姫自身が魔女と呼ばれるようになった。

871 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:35:57.528 ID:/zPciKa20
それは、姫が黄泉剣と呼ばれる神剣を身体に飲み込んだからであり、
姫の愛した人が、黄泉剣に喰われてしまったからだ。

わたしに命じられた、姫を護るその力は、わたしが操ることのできない力であったからだ。

姫は、月の女神の力を得て、月の女神そのものに近い存在へとなった。
それは、生けとし生きるものが持てない、すべてを越える力を得たということであり―――。
そして、わたしは姫の操る力の一部として、姫の意志で操られるようになった。

操を護るために放たれる力を、直接的に闘争に使うように――。
そして、触れたものを溶かす力を新たに得た――。

鬼の鎧に包まれたわたしの、その拳で、足から、荒れ狂うように、力を放てるように。

872 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:36:12.212 ID:/zPciKa20
けれども、姫は遂には闇の彼方へ封じられた―――。
それは同時にわたしも、闇の彼方に封じられたことになる―――。

神に仕える、少女の手にした鏡によって。

―――――。


永遠の闇の彼方に封じられるとき、わたしは気が付いた―――。

嗚呼、わたしは姫のことを―――。

愛していたのだと――――。

873 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:36:30.401 ID:/zPciKa20
―――姫に操られ、姫の力の一部となったとき―。

千代を越える年、淡々と運命の力で姫を護っていただけのわたしは、生を受けたようであった。


そして同時に、姫に操られることがうれしかった。

874 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:36:45.273 ID:/zPciKa20
――けれども、わたしは姫とただ居られるだけでいい。

姫と話せなくていい。

姫と触れ合わなくたっていい。

姫の魂として存在する―――ただそれだけで―――。

だから、ずっと鬼の鎧を背負い続ける―――――――。


永遠の暗闇の中――――。

875 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:36:57.887 ID:/zPciKa20
わたしと姫は、永遠の闇に消え去った――。

二度と目覚めることはないだろう――。



そして、わたしのただ一つの恋も闇の彼方へと―――。


―――ああ、でも――。

姫と、ずうっと一緒にいられるなら、構わないか―――。


――決して目覚めぬ闇の中でも、姫と共に目覚めず、ずうっといられるのなら―――。

876 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:37:20.501 ID:/zPciKa20
わたし「鈴姫―――」


わたしは、彼女の名を囁きながら、鈴姫と共に眠りに着いた―――。

877 名前:月夜見の遺産:2016/03/11 21:37:32.664 ID:/zPciKa20



                月 夜 見 の 遺 産



878 名前:社長:2016/03/11 21:40:08.608 ID:/zPciKa20
>>482-493の魔女ノ見タ夢 のリメイクみたいな物語。


879 名前:社長:2016/03/11 21:43:46.547 ID:/zPciKa20
http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/783/isana.png

イサナ
鈴鶴の双子の姉。もっとも彼女自身は鈴鶴を護る力にくっついている魂だけの存在。
簡単に言えば魔女の囁きの中の人。
魔女の囁きの、鬼の鎧はイサナの魄になるはずだった肉塊からつくられている。

彼女は、鈴鶴が讃岐造の武術の才能を受け継いでいるのと逆に、
カグヤの術に対する才能を受け継いでいる。

きのたけで言えば、筍魂(戦闘術魂という技で勝負)タイプが鈴鶴、
魔王791(たくさんの魔力でガチンコ勝負)タイプがイサナ。

双子といっても、一卵性ではなく二卵性なので、何から何までそっくりというわけではない。

また、その眼の瞳は、2つ重なったように見える重瞳――。

880 名前:名無しのきのたけ兵士:2016/03/26 23:34:51.684 ID:x3Oks6oUo
乙、悲しいなあ

881 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:34:23.023 ID:qpb8DoIg0
この世界には、見えない運命の糸が複雑怪奇に絡み合っている。

その糸を、ふつりふつりと人は繋ぎ、また切っている。


―――運命というのは不可思議なもので。

もう二度と闇から出てこないはずの、あの子は、再び顕現した。

882 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:35:59.526 ID:qpb8DoIg0
鈴姫「…………?」
鈴姫は、気が付くと森の中にある、百合の花畑に眠っていた。
はたから見れば、ある日の午後、少女が陽の光の温かさに、微睡んで昼寝をしたようにも見れるように。


永遠の闇の彼方に居た鈴姫は、光を見るのは何時振りか。
何時振りかの光に、目を細めながら辺りを見回していた。

少し戸惑って、首を振る姿が、いとおしい。
鈴姫の髪はとても長いから、首を振るたびに揺れる。

その様子を見るだけで、わたしはありもしない鼓動が高まる感覚を覚えた。

883 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:36:40.479 ID:qpb8DoIg0
鈴姫「………一体、此処は…?」
疑問を呈しながらも、鈴姫はその場から立ち上がった。

鈴姫「……ともかく、此処が何処か―――それを確かめよう」
鈴姫は、身に着けた巫女装束をぽんぽんと叩き、腰に太刀を携え、森の外へと歩いて行った。

衣に太刀は、たいせつなひとの形見―――。

884 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:37:40.340 ID:qpb8DoIg0
その森の外は、ただ点々と集落が並んでいた。
煉瓦造りの家立ち並び、牧場が広がる、静かでのどかな村―――。


鈴姫は、旅の者を装いながら、村人にその場所を聞くと、ミルキィ村だと答えが返ってきた。

けれど、鈴姫が封印される前に居たところとは、違うところがあった。

885 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:37:51.526 ID:qpb8DoIg0
もし、鈴姫が居た世界に再顕したとするならば、当然、魔女に関する歴史は残るか、語り継がれている筈だ。
遠い未来だとしても、断片的に残るだろう。

あるいはそれよりも過去に戻ったならば、もと居た世界で知っている、それより前の歴史と等しくなければならないからだ。
此処が鈴姫の居た國かどうかは別としても、外つ國の歴史は確かに存在しているから。

886 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:38:05.226 ID:qpb8DoIg0


そして、一つの結論に思い至った。
―――もと居たところとは、遠いところへ来た、という結論に。



887 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:38:29.838 ID:qpb8DoIg0
鈴姫は、当然ながら文無しで、さてどうしようかと考えていた。
けれども、鈴姫には戦闘能力も生活能力も、様々な技能を持っている。

だから、鈴姫は成るように成れ、そう思いながら話をしていった。


鈴姫「わたし、一文無しなのよね………
   ――何か路銀を手に入れられることはないかしら」

村人「………ん!
   それは、それは……

   そういや、民宿のあいつが手伝いを欲しがってたなあ………
   どうだ、一度行ってみては?」

鈴姫「ならば、そこに行ってみるわ………」



888 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:38:42.927 ID:qpb8DoIg0
そして、鈴姫は民宿で暫しの間、働くことになった。
鈴姫は、自身の本当の名を隠し、ツクヨミという名を名乗り、
路銀を稼ぎたいこと、家事全般が得意だということを伝えると、すぐに雇われた。

889 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:38:57.817 ID:qpb8DoIg0
鈴姫は、言った通り、布団を畳み、掃除をし、料理を作り――。
こういった家事には手馴れていたから、あっさりとそこに馴染むことができた。
なにしろ、民宿の中で最高の立場の、女将にも、褒められる腕前だったからだ。

女将「…ツクヨミちゃん、まだ、そんなに若そうなのに…
   あたしゃ、もう驚きよ」

鈴姫「……わたしは、唯、こういうことには手馴れているだけだから
   岩よりも短い生き様で、得た、ほんのすこしの技よ」



890 名前:月夜見の遺産:2016/04/11 22:39:19.471 ID:qpb8DoIg0
そしてまた、民宿に住まい働く人々や、泊まる人々は、鈴姫の腕に感心し、ねぎらいの言葉をかけたりしていた。
其処が別段身を削るような、辛いことのない環境だったのは、
此処が何処だかも分からぬ鈴姫にとって、幸運な出会いだったのかもしれない。


鈴姫は、とりあえずの目標は、拾ってくれた礼にあたるだけ、ここで働く――と決めた。


891 名前::2016/04/11 22:40:00.518 ID:qpb8DoIg0
遠い世界へ、顕現せし乙女。

ちなみに鈴鶴は

892 名前:社長:2016/04/11 22:41:26.073 ID:qpb8DoIg0
いい嫁になれるタイプなので
いったいヤミやシズやフチやイサナの誰の嫁になればいいんだろう

全員!

893 名前:たけのこ軍 791:2016/04/14 22:42:36.597 ID:fJkDeVq2o
全員!に笑った

894 名前:社長:2016/04/26 00:40:21.614 ID:vvR4MoPo0
魔女の囁きの能力 おそらい
本体の操を狙いに来た男を吹っ飛ばす。
この判定基準は客観的なもの+本体の主観である。
この能力を消したり封印したり奪ったりすることも、それに値するのでその場合は女も吹っ飛ばす。
自分の意志では抑えられない。

鈴鶴の主観はそんなのが、というほど細かすぎるものまで入るため、実質的に殴り合いなら男相手に絶対に敗北しない。

895 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:46:14.093 ID:XsKN/Qg20
さて、暫しの路銀を稼ぎながら、ある夜、鈴姫は夜空を見つめていた。

月は、青白く、夜を彩るかのように、星に包まれながら輝いていた―――。
あの月は、自身に宿りし女神の月なのだろうか、と考えながら、鈴姫は夜空を見ていた。

896 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:47:45.452 ID:XsKN/Qg20
そんなある時、村に五人の破落戸(ゴロツキ)が現れた。
嫌がらせか、ただの欲望の解放かは分からないけれど、その表情は醜く、そして醜悪な雰囲気を漂わせていた。

破落戸1「おいおい、俺と付き合わねェってのか?あ?」
村娘「ひ、あの……やめて…」

ある者は一人の村娘に集団で囲み、ある者は軒先の物を蹴飛ばしていた。
難癖、暴力、恐喝―――ただの暮らしを営むものにとっては恐ろしい、
けれど、人を其の手で殺したことのある鈴姫にとって、ちっぽけな所業――――。


897 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:49:48.412 ID:XsKN/Qg20
鈴姫「………」
その様子を、鈴姫は、氷のように冷たい瞳で見つめていた。
その心の中に、感情の揺らぎはない。

鈴姫は、男に興味など微塵もないから、当然そうなるのだけれど――。
傍から見れば、それは無愛想な人間のようであった。

898 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:50:11.387 ID:XsKN/Qg20
破落戸1「おい、お前……
     なァに、眼飛ばしてやがる………?」
破落戸の一人が凄もうとも、鈴姫は、無表情だった。


鈴姫「………いいえ、なんでも」
鈴姫の言之葉には、感情の込められていない冷たさが、氷のように宿っていた。
無愛想な返答のようで、そんな生半なものではない答え。

899 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:52:36.607 ID:XsKN/Qg20
破落戸1「てめぇ、ナメてんじゃ……」
そして、その態度に怒りを覚えたらしい、破落戸のひとりが、
鈴姫の胸倉をつかもうとした時、その腕を捻って、そして鈴姫よりも重いであろうそいつを思いっ切り投げ飛ばした。

破落戸1「がは……ッ」

鈴姫の、男から操を守るその力は、たとえ傍から見ればそうは思えないものだろうと現れる。
それは、触れようとも。

鈴姫の捻った腕は、まるで鉄球で潰されたように潰れていた。
そう、鈴姫は男に触れることすら操を汚すと、生まれたときから思っているのだ。


鈴姫自身が、人体の脆い部分に、弱点となる部分に的確に攻撃を当てられるというのに加え、
男を吹き飛ばすその力は、心で定めてる事も加えてとてもとても大きい―――。

鈴姫「………」
そして、崩れ落ちる一人の身体を、感情ひとつ動かず、ただ障害を取り除いただけのように鈴姫は見ていた。
思いっ切り、崩れ落ちた身体の首の部分を蹴っ飛ばして殺し、別の破落戸へと顔を向ける。


900 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:52:54.600 ID:XsKN/Qg20
破落戸2「お前、何を……、何をしたんだぁーーッ!?」

慌てて駆け寄ってくるもう一人に、鈴姫は携えた太刀を抜き――そして、その動きのまま破落戸の腹に全力の峰打ち。
そこに躊躇というものは、全く持ってない。

鈴姫の動きは、軽やかで、力強く、粗一つない達人の動きだった。
この動きを見ると、わたしは鈴姫に宿る血が、肉体に刻まれた技術が、ああ美しいと思えて仕方ない。

破落戸2「ごぼぉぁ―――」
また、破落戸の一人苦しみ、痛み、倒れる様子に、鈴姫は何も感じない。
表情は変えず、何も思わず、足で首の骨をへし折った。

901 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:55:58.376 ID:XsKN/Qg20
破落戸3「ひ、ひッ………」
その様子を見て怯んだ破落戸は、其の場を動けない。
がたがたと、腰を抜かして震えていようと、お構いなく、思いっ切り殴打し殺した。

その力の差は、誰が見ても、一目瞭然。
鈴姫と破落戸では、闘いの勘が違うのだ。

最も、鈴姫は、歴戦の強者、と言うほど、何百、何千回と闘いを経験していない。
けれど、ずうっとずうっと、鍛冶屋が鉄を鍛えるように、鈴姫はたいせつなひとと技術を高めてきたのだ。

だからこそ、闘いに関する勘は、常人よりも遥かに遥かに―――。

902 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:56:21.052 ID:XsKN/Qg20

破落戸4「俺、オレは、何も…」
破落戸5「逃げ…」
逃げようとする破落戸たちにも、鈴姫は疾風の如き素早さで、飛び、峰打ち――、
そして、その勢いを保ったまま、全力の踵落としに裏拳で殺した。



鈴姫「………」

村人たちは呆然としていた。
鈴姫自身には、迫り来る敵を殺すことに何の揺らぎもないけれど、
それでも、そのことがまともな人間のすることではないと知っていた。

903 名前:月夜見の遺産:2016/05/13 23:56:37.737 ID:XsKN/Qg20
鈴姫「流石に、人を殺すような人間は、こんな穏やかな村に居ていい道理はないでしょう」
鈴姫は、そう言うと、破落戸どもの死体を引き摺りながら、村を出て行った。

鈴姫「民宿の人には、わたしは消えたと伝えておいて―――」

904 名前:社長:2016/05/13 23:57:27.169 ID:XsKN/Qg20
鈴鶴を倒せる男などいない。
女なら倒せるやもしれない。

905 名前:791:2016/05/14 22:40:48.962 ID:kyv2rmvAo
更新おつ

906 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:06:37.717 ID:18vGAI1.0
―――鈴姫は死体をそこらに投げ捨て、さてどうするかと思いながら、村の近くの森の中に再び居た。

鈴姫「………」

鈴姫は、身から出た錆となって、破落戸どもの残党が報復に来ないかということを考え、
それがないように見張り、見張り―――。

そして、日が経ち続け、それがないことを確信すると―――。


907 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:08:11.ウンコ ID:18vGAI1.0
鈴姫は、目を見開き、自身の左腕と右目に、力を込めた。


―――鈴姫の左腕には神剣が、あの子の右目には神剣の飾り――いいや、神剣の本体である勾玉が在る。

神剣、そして勾玉に宿るその闇の力は、月女神の純なる血を持っているからこそ扱える。

908 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:08:43.636 ID:18vGAI1.0
鈴姫「どうやら、この力は、自在に操れるようだけど……」
禍々しい漆黒の瘴気、闇色に染まった右眼と、青白い瞳―――。

そして、その身体には、月女神の紋章が、刺青のように浮かび出ていた。
最も、其れは衣に隠れて見えないけれども、それは魔女と呼ばれて然るべき雰囲気を漂わせていた。


神の力を顕現させても、鈴姫は冷静だった。

909 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:09:33.875 ID:18vGAI1.0
鈴姫「―――!」

月女神は、闇の世界を統治している。
だからこそ、その女神の力を扱えるということは、闇へと潜れるということなのだ。

鈴姫「これは―――?」

鈴姫は、月女神の力を用いて、闇の中へと潜りこんだ。
星の瞬く、不思議な闇の中へ。

そこは、宇宙の中のような、幻想的で、そして寂しい空間だった。
しずかな、音もしない暗闇。

910 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:11:26.303 ID:18vGAI1.0
無限に広がる其の闇の中は、鈴姫自身の作り出した、狭間の世界だったのだ。

鈴姫「…………」

鈴姫は、自身の棲家をこの闇の中にしようと決めた。
それと同時に、如何して再び顕現したのかを考えていた。


嘗て魔女に堕ち、わけの分からぬままに男を殺しに行った業が、鈴姫にはある。
魔女となり殺した男どもは、鈴姫が嫌うような種類の男どもだとしても―――。

鈴姫に触れることが許されない―――わたしの力が吹き飛ばすに値する男どもだとしても。

鈴姫は、意思のない行動による業がある。
魔女の、操を護る本能の力ではない、ただの殺意によるそれが。

911 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:11:39.995 ID:18vGAI1.0

魔女の力は、世界を混乱させた。
そして魔女の引き起こす災禍を止めるために、鈴姫は封印された。


けれども、その封じが、解かれた――あるいは解けた意味を。


鈴姫「………………」
熟考の末、鈴姫は――。

自身が、悪しき魔女ではなく―――、
――善き魔女として、善き神としてやり直すために再顕したのだと考えた。

そう、鈴姫を封じた少女は言っていたから。

912 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:12:51.306 ID:18vGAI1.0
世界を混乱させた、自身にをやり直す―――。
そう考えて―――。


鈴姫「さて、それにしても、どうするか………」
鈴姫は、闇の中から出て、世界を彷徨い始めた。

913 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:15:03.239 ID:18vGAI1.0

道中、鈴姫はその日暮らしの旅烏を装いながら、様々なところを歩き廻った。

時には悪鬼を打倒し、時には恋の相談に乗り、時には自身の身に着けた技術で手伝をした。
それと同時に、闇の中にかつてあの子が住んでいた棲家と同じ構造のそれを作っていった。



時代を経るごとに、鈴姫は表には出ないけれども、力ある存在に―――百合神と書いて、ツクヨミと呼ぶ神となっていった。
時には恨みを晴らすための、尊厳を守るための殺人をし、時には恋人たちの橋渡し役に、時には技術をふるまう仕事を行って。


それは、いわば生と死をつかさどる女神―――。
恋を技術を生むことに関わり、そして逆に命を死す存在―――。

914 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:15:33.872 ID:18vGAI1.0
そうやって生きていくと、鈴姫には自然と路銀がたまりゆく。
いいや路銀と言うよりは、財産と言うべきか。


それは、闇の中に作った棲家以外にも、よそ行きの、大きな屋敷を持てるほどに。
鈴姫は出会いと別れを体験し、信頼できる人間と出会えば、信頼できる人間とも出会っていった。


鍛冶屋、孤児院、料亭、衣類店、家具屋、はたまたある趣味に秀でた者と、数えきれぬほどに――――。

鈴姫は彼ら彼女らを信頼し、自身の持つ技術を教え、援助し、
時には手伝いを要請することもあれば、そのとき彼ら彼女らは、鈴姫の期待に応えるように働いた。

915 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:16:00.825 ID:18vGAI1.0
そういう風に生きて行くと、鈴姫が稼ぐ財産は、専ら鈴姫が製造した品物を買い取って貰うことが、主となっていた。
人殺しや恋愛相談などは、その願いが来る時期が分からないからだ。
それに、恋愛相談は神頼みのような少額で聞いていたから、ほとんどそれでは稼げなかった。



鈴姫に在る技術は、一流の鍛冶屋の持つ技術であり、一流の世話役の持つ技術だからこそ、それは成り立つ。
武器であれ、家具であれ、衣類であれ―――様々な職人の得意とすることを成し得ることができるのだ。

そしてなにより、一方的な関係ではなく、それらの店の困りごとがあれば、鈴姫はその困りごとに対し真摯に対応していった。

916 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:16:18.590 ID:18vGAI1.0
それは、不老不死の肉体を持つ鈴姫からすれば、いずれ消えてしまう存在だけれど、
その一期一会の出会いは、鈴姫が善の魔女として生きる為の、見えないハシラとなっていった。

時には、店が続くように、人と人の繋がりを橋渡しも――ハシラを継ぎ足したりも。

917 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:18:07.570 ID:18vGAI1.0
ある日、孤児院に資金援助をした帰り、鈴姫は院長に呼ばれ応接室に居た。

院長「こんにちはぁ、いつも援助ありがとう、ね」
院長は、鈴姫と違い齢を重ねた老婆だ。
人だからこそ、こうして老いる。

鈴姫は、見知った人が老い死ぬことも多々経験したが、やはり普通に死ねるというのは幸せ者だと思っていた。
だからこそ、こうして技術や、それに心を込める人間には協力する。

鈴姫は、男という魄が嫌いでも、技術についての魂は嫌いにはならない。
協力者が男だとしても、その技術、心根までは吹き飛ばさない。

最も、操を狙うようなどうしようもない奴は、技術を奪い殺していたこともあるけれど――ー。

918 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:18:23.190 ID:18vGAI1.0
―――院長は、苦労を重ねてきたことが読み取れる風貌だけれども、その顔につらさというものは見えない。

鈴姫「いいや、援助は…単なる、気まぐれよ―――」

院長「気まぐれで、こんなに良くしてくれるかしら」

鈴姫「道楽よ、道楽…」

鈴姫が信頼するその人は、希望の塊である子供を羽ばたく鳥のように育てることを信念としていた。
鈴姫が時折、願いを叶えに行く際、身寄りのない子供に出会うことがある。

919 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:18:46.502 ID:18vGAI1.0
人に非ざる子供ならば、その種族の者に預けるが、人ならば人のところへと預けている。

とはいえただ預けるのではなく、絶対なる信頼の補強として、多額の資金援助もしている。
それ以外にも、困りごとがあればそれを解決している。

危険因子がいる―――と相談された時には、そいつをこの世から消し去ったことだってある。

920 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:19:07.519 ID:18vGAI1.0
鈴姫「…それで、用件は?」

院長「貴女にいつもお世話になっているから、お返しはできないか―――と思って」

鈴姫「いいえ……わたしにそれは必要ではないわ……」

院長「そんな、悪いわ―――」

鈴姫「わたしは、貴女がいつもその仕事をしてくれている――ただそれだけがお返しよ」

院長「………ならば、無理強いはしないでおきましょう
   けれども、無理はしないでね」

鈴姫「……そちらこそ」


鈴姫は、大きな礼やらお返しやらは苦手だった。
最も、それは、鈴姫が利用できること自体が、大きな礼と考えている、ということもあるからだけれども。

921 名前:月夜見の遺産:2016/05/21 01:21:49.383 ID:18vGAI1.0
鈴姫は、ずうっとずうっと、こうしてこの世界を生きてきた。

この世界は不可思議なところがあろうとも、ただ百合神として歩み続けた。


―――年月は過ぎて行った。

ひい、ふう、みい、よお、いつ、むう、なな、やあ、この、とお。

――――幾月、幾年も、過ぎて行く。

鈴姫の生き方は変わらない。

―――それまでは。
孤独に生きる鈴姫の生き方は、その時まで変わらなかった―――。

922 名前:社長:2016/05/21 01:28:20.265 ID:18vGAI1.0
次回、鈴姫を変えるものとは、その時とは―――。


ちなみに鈴姫様が願い事聞いてた神社的場所とか謎の森の奥は狭間の世界。

923 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:14:03.256 ID:WU6YT0SY0
―――そして、ある日。

雪降る、街灯が灯った夜の町を、鈴姫は静かに歩いていた。
積もった雪を踏みしめながら、ただただ前に進んでいた。

924 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:14:46.360 ID:WU6YT0SY0
すると、緑色の、猫のような小さな生き物を抱え、赤い衣を纏った少女がそこに居た。


少女「はぁ……はぁ……」
寒さに身を震わせ、白い息を吐きながら、少女は必死でその生き物を売ろうとしている。


しばらく様子を見ていても、少女に話しかける人はなし。

925 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:19:04.188 ID:WU6YT0SY0
少女「抹茶、抹茶はいりませんか――?」
か細い声で、切実に言っている少女――。

茶道も嗜んでいた鈴姫は、抹茶という言葉に興味を覚え、少女に歩み寄った。

その少女は、とても寂しそうに見えた。
――初めて出会った少女なのに、不思議と既視感のある少女だった。

ざ、ざ、ざ―――。
雪を踏み鳴らす足音が、静かな夜に響き、そして少女はその気配に気が付いた。


鈴姫は、何故だかとてもとても懐かしい気持ちを感じながら、こちらを見た少女へと話しかけた。

926 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:21:50.915 ID:WU6YT0SY0
鈴姫「…………これは?」

少女「抹茶です、かわいいでしょう?」

鈴姫は、その緑色の生き物が抹茶であることに驚愕した。
そんな存在は、今まで見たこともなかったからだ。

しかし、ただの人間からすれば月の民など想像もつかない存在だ、と考え直し――。


鈴姫「その……抹茶?売れてるの……?」
少女へ、問うた。

927 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:23:08.394 ID:WU6YT0SY0
少女「………っ」
少女は、口からなにか言の葉を出そうとしているけれど、言葉にならないのか、
あるいは寒さに動かせないのか、ただじっと、鈴姫を見つめていた。

その眼には涙が浮かび―。


鈴姫「……はぁ」
鈴姫は、その様子を見て溜息ひとつ。

928 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:23:31.438 ID:WU6YT0SY0
鈴姫「あなた、わたしの家に来なさい
   ―――食べるのにも、困っているんでしょう?」


鈴姫は、どうしてもその少女をほおっておけなかった。
今まで出会った幾多の、不幸な境遇の子は、すべて信頼できる者へ託したはずなのに。


気まぐれか、それとも運命がそうさせたのか。

929 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:23:55.754 ID:WU6YT0SY0
少女「なんで、そんなにやさしくしてくれるの……?」

少女の、もっともの問いは、鈴姫にとって答えることができない。

それは、鈴姫にとっても、そしてわたしでさえも分からない。
その言葉を濁すように、鈴姫は名を告げた。

鈴姫「わたしは鈴鶴―――よろしくね」

―――優しい顔で、少女に微笑みながら。

930 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:24:08.354 ID:WU6YT0SY0
そう―――。

わたしという存在は、鈴鶴という少女の魂其の物なのだ。
鈴鶴は、姫たる存在に値する血を持っているから、わたしはそう呼んでいる。

わたしだって、太陽の女神の血は引いてるし、わたしのほうが僅かに姉であるけれど…。
やっぱり鈴姫の方がふさわしい―――。

そう、わたしよりも姫と呼ばれるにふさわしい―――。

931 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:26:05.052 ID:WU6YT0SY0
鈴姫「そして、あなたの名は……?」
そして、少女の持った籠を、さっと抱え、少女に逆に問い返した。


少女「ヴェスタ……ヴェスタ、です」
震える―けれども、すこしほっとしたような声で少女は答えた。


鈴姫「――ヴェスタ…
   いい名ね、じゃあ、わたしの家に行きましょうか」


ヴェスタ「は、はい…」

鈴姫とは、先ほど語った家へと歩いて行った。
よそ行きの、この世に作った家へと。


ヴェスタの連れていた抹茶たちと共に。
鈴姫は、ヴェスタと手をがっちりと握って、雪降る街から遠ざかっていった―――。

932 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:26:18.225 ID:WU6YT0SY0
ヴェスタの魂魄を凍えさせるかのように降っていた雪は、鈴姫との出会いの祝福に変じたようだった。


けれども、その祝福は、永久のものではなかったのだ―――――。
最もそのことは、その時が来るまで、鈴姫も、ヴェスタも――そして、わたしも知ることはなかった。

933 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:26:29.763 ID:WU6YT0SY0
           月夜見の遺産 完

934 名前:月夜見の遺産:2016/05/26 01:31:03.116 ID:WU6YT0SY0
──────To be continued
            Eden of lily girl

935 名前:社長:2016/05/26 01:32:35.295 ID:WU6YT0SY0
霊歌ちゃんとの相談のもと、ヴェスタという名に決まりました。
色々と許可とか相談に協力してくれた霊歌ちゃんに感謝。


次回、集計班の遺言(予定)

936 名前:791:2016/05/26 17:19:17.349 ID:FSwFCE1so
緑色の猫みたいな生き物なんだろう?と思ったら抹茶で笑った
売れないだろうなぁ…

937 名前:社長:2016/07/04 21:38:27.652 ID:yNMvRWCw0
集計班の遺言(予定)はまだまだ。

とりあえずキャラクター設定追記だけ投下

938 名前:社長:2016/07/04 21:49:29.607 ID:yNMvRWCw0
・鈴鶴
この物語の主人公である。月女神の血を引き、剣術に優れ、その他戦闘に対する嗅覚も抜群、
美人で家事も抜群、その他鍛冶・建築など様々なこともでき、欠点は泳ぐことのみといった、ほぼ完璧超人。

しかしながら気立てはよいか――と言われればむしろ最悪の部類である。
彼女は生まれながらに、本当的に男を吹っ飛ばす『魔女の囁き』の力があるが、それは彼女の本能的な意思である。
そのため、男に触れない、極力近づかない、触れるか触れられれば吹っ飛ばす―――最も、彼女は男に興味がないから問題ないが。

男と接するのは、技術を見せる時―――それぐらいであり、その時でも彼女は触れようとはしない。
また、彼女は殺人に抵抗などない。最も、彼女は敵対する人物や、嫌いな者限定だが。
しかしそれでも、躊躇なく切り飛ばし、処理できる精神力は只者ではない。


ちなみに、彼女の好きなタイプは『自分より強い人』である。
一見すれば、『百合神伝説』で互角だった魔王791のように思えるが、そういう意味ではない。
彼女を支えられ、彼女を受け止める強さのある人―――最も、女性限定だが―――それが、彼女の好きな人。

だからヤミ、シズ、フチが好きなのだ。
―――ちなみに、彼女は受け止められたい、ニアリーイコール甘えん坊である。
だから彼女は、太刀の達人でありながら、猫なのだ―――。

939 名前:社長:2016/07/04 21:55:19.972 ID:yNMvRWCw0
・ヤミ
天狗の少女。隻眼で、左手の指が三本なかったりする。また、実は身体も傷跡だらけだったりする。
彼女は天狗であるため飛べるが、何にせよ身体が身体なため、天狗の中ではそこまで動ける方ではなかったりする。

彼女は、鈴鶴に、ヤミに、シズに尽くす感がある。はず。
最も、彼女の場合、7歳ぐらいの鈴鶴に血を飲ませていたのは果たして尽くす意味だけだったのかは知らぬ存ぜぬ。

彼女の好きなタイプは、ずばり『鈴鶴さま』であり、また『鈴鶴さまを守れる人』である。
鈴鶴は当然、また鈴鶴を守るシズとフチも好きである。

また、彼女は欠損した身体ではあるが、日常生活は意外と問題ない。
最も、鈴鶴やフチと比べると劣るが――、一般人と比べればむしろ上。
鈴鶴のおねえちゃんとして、頑張っているのだ。

940 名前:社長:2016/07/04 22:01:30.146 ID:yNMvRWCw0
・シズ
月の民。鈴鶴たちの中で一番身長が高い。
鍛冶屋であり、その技術は一級品。戦闘能力も、かなり高い。

彼女は、アナログ的な父親のような存在。仕事はできるが、家事はできない。
しかしながら、一応鍛冶屋の長とかだったりしてるので、きちんとした上の人的なタイプ。

彼女は、幼馴染であるフチと触れ合ううちに、それが愛に目覚めた。
――また、鈴鶴やヤミについても、それを守る愛に目覚めた。

もっとも彼女は、恋愛についての表現がダメダメなので、あまりそういうことを語らないが――。
そういう心があることは、鈴鶴たち皆知っているはずだ。

941 名前:社長:2016/07/04 22:05:47.678 ID:yNMvRWCw0
・フチ
月の民。幼い体のまま身体が育たなかった。
月の姫君の世話役と、実はけっこう凄い役職だったりする。

彼女は、アナログ的な母親――のようで、微妙に違ったりする。仕事も家事もできる。
ただし、戦闘能力は少なめ。式神召喚はあるが、身体能力がさすがに劣るのだ。

彼女は、自分の事を守ってくれたシズが好きだし、それに、自身の姿を見てもなんとも思わないカグヤも好きであり、
そのカグヤの面影のある鈴鶴が好きだし、その鈴鶴を育てたヤミが好き―――
言うなら、自身をあまりどうこう思わないタイプが好きだ。

最も、彼女の場合、自分が好きと思った人が、若干その判定から触れていても、我慢するけれど―――。

942 名前:社長:2016/07/04 22:06:19.918 ID:yNMvRWCw0
適当にイメージを書いたけど、表現できてるかとかそんなものは、う、うーん…。

943 名前:社長:2016/07/19 01:36:42.238 ID:oWq3o6Q.0
http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/806/Next+character.jpg
次回作に登場予定の女の子

944 名前:きのこ軍 プロ召喚士 撃破1:2016/07/20 23:18:44.384 ID:ARZ0NUP20
ローマ字の書き方に知性を感じる

945 名前:社長:2016/08/20 02:31:15.027 ID:ufdOp7qs0
次回作は【集計班の遺言】とキッパリ言ったばかりなのに…
スマン ありゃ ウソだった

でもまあこの次々回作は本当に【集計班の遺言】だって事でさ…こらえてくれ

946 名前:邪神スピリットJ:2016/08/20 02:31:53.490 ID:ufdOp7qs0




                邪神スピリットJ





947 名前:邪神スピリットJ:2016/08/20 02:34:28.670 ID:ufdOp7qs0
――――此れはずっと昔の、話。
此の世界の【理】が解明され、此の世界の中枢となる宮処が生まれるよりも、ずうっと……。


世界の【理】を見つけ、此の世界は先へ先へ進んでいったが―――。
其れが解る前からも――此の世界は、先に進んでいった。


最も―――其れは、宮処が出来る前の話であるから、誰も知覚せずも記録されていない。

948 名前:邪神スピリットJ:2016/08/20 02:34:46.358 ID:ufdOp7qs0
其の【理】とは―――茸と筍が争うこと。
其れが世界を進める【理】。

此の事が解るまでは、其の条件が偶然に満たされた時に歴史が動いていた。
ただし、其の事は何処にも記録されていない。

宮処は歴史の動きを記録する場処でもあるが、宮処が出来る前の事は記録できないからだ。
簡単に言えば―――記録されている歴史、K.N.C1年より前にも、歴史は動いていたということだ。

949 名前:邪神スピリットJ:2016/08/20 02:36:49.132 ID:ufdOp7qs0
――――遠い昔…一人の鬼の少女が生まれた。

名はディアナ。身長5尺ほどがほとんどである鬼の女には珍しく、6尺以上の身長を持ち、美しい金色の髪を持っていた。
鬼は力強く、長寿の存在であるが、ディアナの力は可もなく不可もなく普通そのものだった。

そんなディアナは、武器の扱いに手馴れていた。
特に弓、銃、アトラトル、ブーメラン等の、遠距離戦の武器に。

だからといって、ナイフなどの、近距離戦の武器や、格闘技なども上手く扱えないことはなく、むしろかなりの腕前であった。
だが、弓などの腕ほど、極めて優れている――という程では無かった。

最も―――ディアナの生まれた頃は、銃のような優れた武器はなかったが――。

950 名前:邪神スピリットJ:2016/08/20 02:37:48.598 ID:ufdOp7qs0
ディアナは、大人になるとやがてマタギの道へ進んだ。
その有り余る天性の才能、そして彼女自身は才能に溺れずに鍛錬も熟していた為、マタギとしての彼女の名声は高まっていった。

ディアナは、必要以上に殺さず―――生きることだけに最低限に必要なものか、害を為すものしか殺さなかった。
また、彼女は無駄に延命する事は好きではなく、ザンのような不老不死の身体を得られるものは殺さなかった。


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