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百合ss総合スレッド

1 名前:社長:2014/05/12 00:47:20.43 ID:.sXzRBOo0
百合のssを書いていくスレッドです

社長以外にも執筆したいひとは構わぬぞ。

2 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:50:36.45 ID:.sXzRBOo0
…最初に、言っておく。わたしは、狼なのだ。

人を喰らい、血をすすり、肉を喰らわなければならぬ性がある。
――人の姿であっても、その性は抑えられない。

3 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:51:07.59 ID:.sXzRBOo0
―――俗に言う、人狼という存在なのだ。

4 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:51:55.22 ID:.sXzRBOo0
生まれたときから、わたしは人とは違うと云われ。
呪われた身体と、云われ。


いつしか、わたしは、人を喰らう獣に成り果てた。

5 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:53:32.81 ID:.sXzRBOo0
今夜は、どの村にしようか………。


空が少し赤くなった頃、立て看板があった。
『ここは 燐ノ寸村(まつのちむら)』


……ここに、しよう。
そう、決めた。

この村では、何日耐えられるのだろうか。

6 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:56:00.47 ID:.sXzRBOo0
……わたしにとって、人を喰らわない行為は、欲を束縛していること。

人の食らう食べ物で耐えていても、いつかは耐えられなくなる。
いつかその縄が、千切れてしまう。

この村では、いつまで耐えられるのだろうか。
永遠に耐えられればいいと思うけれど、わたしが保てられたのは一年ほど。
行く年も人を喰らう行為を続けていれば、初めは嫌悪感のあったことも、もうない。

7 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:57:13.77 ID:.sXzRBOo0
わたしは八百の時を、過ごしている。
そんな長い永い年月は、わたしを獣にしたのだ。

8 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:58:42.94 ID:.sXzRBOo0
…わたしが、村の宿に荷物を置いて、ぶらぶらと散歩する。
そのとき、近くから、誰かをいじめるような声。

「この呪われ者ぉ、近づくなァ!」
「近寄るなよ、呪われるだろぉ」

9 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 00:59:24.12 ID:.sXzRBOo0
どうやらその対象は、近くにいた少女に。

おかっぱで、雪のような白い髪。
けれども、袖の長い黒い服と、深く被った帽子が、彼女を隠すように包み込んでいた。

10 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:00:08.79 ID:.sXzRBOo0
いじめているのは、少年二人。
何故だか、わたしは、性が抑えられない。

それは、いつもの肉を喰らいつき、血をすするものではなく。



11 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:00:38.96 ID:.sXzRBOo0
ただ、殺してしまいたい。
その感情が、渦巻いて、仕方がない。
こんな場所にはいたくない。何故だか、歩き去る少女のあとを追いかけた。

12 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:01:56.91 ID:.sXzRBOo0
「…だれ、ですか?」
「…わたしは、旅の者ね。
 流れ者…そういうことにしておいて」

「…その、何の用ですか?」

「あなたが、気になったの。その…」

わたしが、言い出しづらいと、少女は判断したらしく。

13 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:02:19.90 ID:.sXzRBOo0
「私は、生まれたときから、こうなんです
 色がない子って、呪われた子だって」
少女は、ただ淡々と。

「…それに、わたしは呪いのようなこともできるから」

14 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:03:08.21 ID:.sXzRBOo0
「呪い?」
「人のことが、分かるんです。
 集中しないと、分からないけれど、その人がどのような人物であるか、が。」

そんな力があるから、私は一人ぼっちなのだ、と。

15 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:03:52.13 ID:.sXzRBOo0
何故だか、わたしと重なっているようで。
何故だか、言葉が勝手に口から出る。

「わたしは、呪いだとは思わない、かな。」

少女は、不思議そうに問うた。
「どうして、ですか?」

16 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:06:11.25 ID:.sXzRBOo0
わたしは、何故だか、思いが口から出ることが押さえられない。

「人は、それぞれ違うから、かしら
 ただ、それだけなのだけれど、わたしはそう思うわ。
 それに、あなたのその髪も、肌も、雪のようで わたしは美しいと思うわ」

「個性、ですか…」

17 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:07:01.45 ID:.sXzRBOo0
少女は、小さく呟き、そしてわたしにまた問うた。
「お名前は…何ですか?」

「わたしの名前は、ロウと言うわ」
「私は、…ささめと言います」

18 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:08:44.84 ID:.sXzRBOo0
いつのまにか、夕暮れ空は、暗くなろうとしている。

「そろそろ、夜ねぇ。わたしはこの村でしばらくいるつもりだから、また明日会いましょう」
「…わたしは、森の近くの、小さな家に、います。
 ありがとう、ございました」

19 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:09:04.40 ID:.sXzRBOo0
そうして、1年の日々が過ぎていった。



とある夜―――
わたしは、人を食べたい衝動に駆られて、目が覚めた。
わたしは、血肉を貪りたい。

20 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:09:30.56 ID:.sXzRBOo0
眠って押さえつけようとしても、そのことで目が冴えて、押さえつけられない。


もう、限界なのか。

わたしは、外に出るやいなや、獲物を探し当てた。

21 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:10:56.25 ID:.sXzRBOo0
「ングゥ!」

獲物の口を塞いで、首を裂く。
猟銃を持った狩人が、たまたまそこにいたから、そいつを裂いたのだ。


「はぁ…はぁ…もぐ、もぐ」
肉を喰らい、血を啜り。
食事が終わると口元の血をぬぐい、わたしは宿へと戻った。

22 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:11:13.08 ID:.sXzRBOo0
翌朝―――
村は、当然のことながら、騒ぎになっていた。
人狼が出た、と。

村の会合では、話し合いが行われる。
「おい、どうするんだ」
「…この村の中に狼がいるってことだから……」

23 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:12:08.75 ID:.sXzRBOo0
話し合いが続く中、ひとりが提案する。

「呪われ者のあの娘に、頼ってみるとかはどうだ」

そして、ほかの村人も話をする。

「そーいや、人がどうって分かるんだよな」
「今までのことは、水に流して…認めていけば」
「わしは信用できないと思うのお」
「その力だけ有効に使ってもらって、どさくさで追い出せば」

ガヤガヤと、話し合いが続く。

24 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:12:31.86 ID:.sXzRBOo0

わたしは、適当に相槌を打ちながら、吐き気を我慢していた。
何故だか、こいつらからは吐き気がする。

どうしてなのだろう。わからない。

「そうじゃ、ロウさんや。あの娘にお願いしてくれんかのう」
「頼みやすそうだしな 頼むよなっなっ」
「…はい、承りました」

25 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:13:30.39 ID:.sXzRBOo0
わたしが行く、ということで話は終わったらしい。


夕刻、わたしは彼女のところへ行って、彼女と話をした。

「…この村に、狼がいる…ということは、知っている…わよね」
「はい…。猟師さんが、食べられたって」
「…どうやら、村はあなたの力で誰が狼かを暴いて欲しいらしい、わ」

26 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:13:53.47 ID:.sXzRBOo0
彼女は、うつむいて、悲しそうな目で見つめながら。
「…ロウさんの、意見ですか」

「わたしは、別にわたしたちで探せばいいんじゃないか、って思うけれど
 ……一応、村全体はそういう感じね」

「わかり、ました
 じゃあ…明日、迎えに来てください」

27 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:14:13.17 ID:.sXzRBOo0
夜――


何故だろう。わたしは、捕食したい性が渦巻いているのに、彼女だけは捕食したくない。

適当に、見張りをしていた男を殺した。

28 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:14:49.72 ID:.sXzRBOo0
そして、夜が明けた。


「どうも」
「おはよう、ございます」
彼女と一緒に、あーだこーだとどよめく会合の場に訪れた。

「誰が、狼か、分かったかぁ?」
少々、威圧的な態度で、ひとりの村人が聞く。

29 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:15:13.10 ID:.sXzRBOo0
「いえ…
 6人占ったんですけれど、その、全員狼ではありませんでした
 占ったのは……」

彼女が、一人ずつ挙げていく。

30 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:15:59.54 ID:.sXzRBOo0
きっと、彼女は、わたしのことを信じているのだろう。

だから、わたしが狼だと知ってしまったなら。

そしてわたしが死んでしまったあとに残される彼女のことを考えると、どうすればいいのだろう。

わたしは、愚かな行為をしてしまったのだと思いながら、彼女が挙げる人物の名前を聞いていく。

31 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:16:26.13 ID:.sXzRBOo0
「そして、ロウさんです」

私は、内心驚いた。
どうして、嘘を言うのだろう。



もしかしたら、わたしが狼であることは、知っていたのかもしれない。

32 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:17:01.30 ID:.sXzRBOo0
話し合いは、進んで行く。

「うーむ、あの娘の力は本物だしなあ」
「とりあえず、誰か、怪しい者を処刑してみるか」



「オレじゃねエエエエエエエエエーーッ!」
「仕方ない 村のためだ 犠牲になれ」

……村人の誰かが、処刑される。

夜になり、わたしは、村人を食べていく。

33 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:18:11.83 ID:.sXzRBOo0
翌朝も、彼女は同じように、占いの結果を告げていく。

そして、夜が来れば、また私は人を食べていく。

それが繰り返されていき、いつしか占われていない者は2人になった。

34 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:18:55.35 ID:.sXzRBOo0
彼女は、こう告げた
「…さんは、その…狼、でした」
「ふはははは!粘ったようだがおしまいだぜ」
「違う!俺じゃあない!」

「…なら、処刑しなければ、ね。」
「だなあッ!おら!喚くな!」
「やめろぉおおおおおおうおおおおおおおガァアアああッ!!」

数の暴力。―3対1という決め方ではあったけれど、多数決で、そいつは処刑された。

35 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:20:24.48 ID:.sXzRBOo0
最後の夜――
わたしは、最後に残った村人の一人を殺した。

「何故だ!?何でキサマがあああああああ」

「…報いなのかもしれないわね あの子への。
 あなたでこの村も終わり。
 さようなら。」

36 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:23:15.65 ID:.sXzRBOo0
そして、最後に彼女の元へ―――
彼女の家に、たどり着く。

彼女は、何故だか笑顔で、私を見つめる。
「やっぱり、あなたでしたね。狼さん、は」


「やっぱり、分かっていたのね」


「私は、あなたが人を食らう狼だったとしても」
少女は、私に歩み寄り、私に身体を寄せて、顔を見上げて。


「私と、一緒にいてくれたから。
 たとえ、狼だとしても、私はあなたのためになるなら、命だって捧げてもかまわない。」

37 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:23:34.73 ID:.sXzRBOo0
わたしは、彼女を、抱きしめた。

「…できれば、わたしはあなたを殺したくはない」
「私は、あなたのものになりたい」

38 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:25:54.34 ID:.sXzRBOo0
「だから」
「だから」

「私を」
「あなたを」

「狼にしてほしい」
「狼にする」

39 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:26:23.19 ID:.sXzRBOo0
お互い、人差し指を切る。
そして、その血を交わらせた。


わたしと彼女は、互いに、呪われている血を、共有しあう。
わたしは占う霊力が、彼女には狼の力が。

40 名前:マコトノカミサマ:2014/05/12 01:26:56.31 ID:.sXzRBOo0
これは、間違っているのかもしれないけれど。


彼女といっしょになれるなら、間違っていたってかまわない。




人狼たちは村人を全滅させると、獲物を求めて次の村へ向かうのであった…


マコトノカミサマ 完

41 名前:名無しのきのたけ兵士:2014/05/12 01:27:40.11 ID:bQLc/uak0
おつなのよー

42 名前:きのこ軍:2014/05/12 01:33:08.86 ID:GaJZytj6o
乙だぞ

43 名前:マコトノカミサマ 人物紹介:2014/05/12 01:36:53.94 ID:.sXzRBOo0
ロウ 800歳程度

人狼の血を持つ、人に在らざる存在。
見た目はスタイルが良い、おねえさん。
人を喰らいたい気持ちが抑えられないとき、人を喰らう。
狼と化したとき、狼のような尻尾と耳が生え、鋭い爪を持ち、狼のごとき動きができる。

ササメ 12歳程度

アルビノであり、かつ占い師の能力を持つ。
その特異性から、村人達からは迫害されていた。
ロウと出会い、すでにロウのことは狼だと分かっていた。
ただし、ロウへの愛から、隠していた。いわば、狂人の占い師。

44 名前:名無しのきのたけ兵士:2014/05/12 05:06:11.60 ID:U1aBoV02o
http://download4.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/357/NCM_0967.JPG

45 名前:社長:2014/05/12 20:21:59.05 ID:.sXzRBOo0
絵を描いてくれるとは… 感謝いたします

46 名前:きのこ軍:2014/05/12 20:48:35.85 ID:GaJZytj6o
熱い自演

47 名前:社長:2014/05/12 21:07:26.23 ID:.sXzRBOo0
>>46
本当に僕じゃあないんだよなあ。

48 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:06:51.42 ID:19QXiN3U0
ここは何処かの山のふもとの村。

雲りなき、満月の夜。

あたしは、この世に誕生した。


もし、あたしが普通であれば、変わったのかもしれない。

あたしは、普通の赤子として、生まれなかった。

49 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:11:08.66 ID:19QXiN3U0
あたしの耳は、尖っている。

あたしの犬歯は、獣のような鋭さだ。

あたしの頭には、小さな角二つ。

50 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:12:09.38 ID:19QXiN3U0
生まれたあたしは、すでに乳児の大きさではなく。


生まれたあたしは、鬼の子と呼ばれ。

51 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:16:54.91 ID:19QXiN3U0
あたしは、山の中、奥深くに、棄てられた。


幼い身体であろうとも、呪われた身体と罵られ、身体を砕かれ。


それでも、命は残っていたから、這いずり、地に塗れながら、生きていった。

52 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:20:31.52 ID:19QXiN3U0
壱の年を経る。
弐の年を経る。
年月を重ね重ねて、拾の年。


あたしは、生まれて拾年、ずっと孤独に生きている。


鬼子として棄てられ、そして、山の中を生きている。

53 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:25:36.60 ID:19QXiN3U0
――ある日。

山に吹き荒れる大嵐。
木々を大きく揺らす風、視界を覆う強い雨。

54 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:28:49.43 ID:19QXiN3U0
あたしは、住処の洞穴で、ただ吹き荒れる大嵐を見つめていた。

住処の洞穴からは、海を見渡す崖に近い。

この嵐は、いつになったら止むのだろうか。

55 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:31:32.67 ID:19QXiN3U0
「あ……」

あたしは、止まない嵐に辛抱できずに、様子を見ようと外に出てしまった。


吹き荒れる強い風は、あたしの身体も吹き飛ばす。

56 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:31:51.18 ID:19QXiN3U0
息苦しい。前が見えない。意識が、自然に遠のいていく。

意識が、嵐の中に飲み込まれた。

―――――――――暗闇。





真っ暗な中に、沈んでいる。

57 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:39:56.61 ID:19QXiN3U0
「おい」
……何か、声が、聞こえるような……

暗闇の中で、あたしは考える。

「おいっ!」
あたしは、頬を叩かれた。

58 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:42:57.46 ID:19QXiN3U0
「ん……っ?」
あたしは、目を開ける。

暗闇から突如差し込む光に驚いて、声を漏らした。


「やっと目が覚めたか、お前さんは」
声の主は、呆れた声であたしに呼びかける。

59 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:44:11.63 ID:19QXiN3U0

「え?」


「あー、わしの声が、聞こえる…みたいじゃな」


「え?え?」


あたしは、困惑する。
嵐に呑まれてしまったと思っていたのに、何故、肌や声の感触を感じるのだろう。

60 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:45:03.68 ID:19QXiN3U0
「…あたしは、死んでしまったんじゃあ……?」

「……寝ぼけておるのか?」


あたしは、呆れた目で見つめられた。

61 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:48:44.89 ID:19QXiN3U0
そのひとは、月光のような色の髪。

耳には、狐のような耳が付いている。

腰には、太刀を二本携えている。

服は、神の使いのような、陰陽師のような服。


あたしと同じ、鬼の子なのだろうか。
それとも、神のような存在なのだろうか。

62 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:59:52.50 ID:19QXiN3U0
「…その、ここは、あなたは、いったい?」


「混乱…してるみたいじゃなあ。申し訳ないことをしたのう
 ここは、空の上、雲の中、その狭間にある【天の国】という…

 わしはこの世界の……一応、主であり、長じゃ
 もっとも…わしの作った世界じゃし、わし以外の、誰もおらぬけれどもな」

女性は、かっかっと笑う。

63 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:00:43.22 ID:19QXiN3U0

「えっ、…天の、国?
 …あの世じゃ、ないの?」
あたしは、何が何だか分からない。


「あの世は、命果てた者の来る世界じゃ」
「あたしは、その…」

「おぬし、死んだと思っておるのか
 わしが、海の中へと沈み逝きそうなそなたを引き上げたんじゃぞ」

64 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:02:14.65 ID:19QXiN3U0
「えっ?」


「そなた、海の藻屑になるところじゃったぞ?」
脅すように、はたまたからかうように、女性はあたしに語った。

65 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:04:02.89 ID:19QXiN3U0
「まだ、名を名乗っていなかったの
 わしの名前じゃが、フウと云う」


「…フウ…」

「そう、フウじゃ。
 おぬしは、何と申す?」

66 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:05:14.62 ID:19QXiN3U0




「……い」

「?」



「その、あたしには、名前が……」
涙が、ひとすじ。
一筋の涙は、すこしずつ溢れてくる。

67 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:06:17.31 ID:19QXiN3U0
「なま…えは…」


あたしは、生まれてすぐに捨てられた。
そう言おうとしたけれど、言葉にならない。

「…その、なま…うぐっ、なまえ…は…」


あたしは、目の前がぼやけて見える。
目頭が、燃えるように熱い。

68 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:07:24.02 ID:19QXiN3U0
そのひとは、察したのか、あたしを抱きしめた。
「……すまない、のう。…聞いては、まずいものじゃったか」


「んぐっ…うっ…あなたは悪くな………」
あたしは、そのひとに包まれる感覚が、とても嬉しく感じた。

69 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:08:29.96 ID:19QXiN3U0
そして、あたしの涙をぬぐいながら、そのひとは少し考えて。


「そなたは、これから行くあては、あるのか?

 ……よければ、わしと、一緒に過ごさぬか…
 ただ、わしと一緒にいてくれるだけでいい」

70 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:10:18.02 ID:19QXiN3U0
「え…?」


「わしは、おぬしと、一緒にいたい…
 引き上げたとき、何故だか、そういう気持ちがして、のう」

そのひとは、あたしを抱く腕を、強くする。
あたしを、離したくないように。

71 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:11:10.31 ID:19QXiN3U0
そのひとは、あたしを抱きしめたまま、あたしに顔を近づけて。



「………」
あたしは、そのひとを見つめる。



「………」
そのひとは、あたしを見つめる。

72 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:12:11.73 ID:19QXiN3U0


あたしにとって、そのひとは、ひとりの、おねえさん。


そのひとにとって、あたしは、ひとりの、しょうじょ。

73 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:14:15.44 ID:19QXiN3U0

「あたしなんかと、一緒に、いても、いいの?」


そのひとは、表情を悟られないように、すこし顔を背けて。

「ああ」
でも、その声はどこか嬉しそうで。



「いっしょに、すごしても、いいよ」

74 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:14:42.44 ID:19QXiN3U0
「……ありがとう
 なら…おぬしに、名前をつけないとな」



少し、考えて。


「…そなたと出会う切欠の、今日の海の荒れ、大地を奮わせる嵐はもう過ぎた…
 天の国からでも分かる、新月の日……
 …引き上げたときに舞った海の水が、月をも流したのじゃろうか
 ………じゃから、朔海…サクミ
 でどうじゃろうか…な」

75 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:15:31.27 ID:19QXiN3U0
「サク、ミ……サクミ…
 ありがとう、あたしに、名前をくれて…
 フウ、さん」




周りの静けさは、あたしたちの邪魔をしないようで。
その静けさが、あたしの体温を感じさせる。
その静けさが、そのひとの体温を感じさせる。




「サクミ、では、契りの儀式を執り行うぞ」

「うん…」

76 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:16:08.85 ID:19QXiN3U0

フウさんは、あたしの唇に、唇を合わせた。
一瞬のうちに、体温も鼓動も、上がってゆく。



「そ、その…」
フウさんは、少し顔を赤らめながら、あたしを抱いた腕を放して。

「接吻することが、…その、わしの契りじゃからのう
 ふふ、サクミよ、そんなに緊張したのか?
 かわいい反応じゃな」

77 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:16:25.49 ID:19QXiN3U0
からかい気味に言ったあと、そしてまた、あたしに抱きついた。
「ちょ、ちょっとっ」


「わしは、千の年月を越えても、ずっと一人だったから、誰かに触れる…のは初めてなんじゃ
 もう少し、抱いていてもかまわない……かの」


78 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:17:09.32 ID:19QXiN3U0
「あ……」
フウは、きっと、あたしと同じ心なのだろう。
千の年を越して―――
この世界とは違う、天の国の住まい人で、天の国の長で。


あたしと出生も、暮らしも、種族が違っても、心は、気持ちは同じ。

79 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:21:16.00 ID:19QXiN3U0
だから、あたしも抱き返した。

触れ合う肌の暖かさも、心の臓の鼓動も、寄せ合おう。


この天の国で、あたしとフウと、ずっといっしょに―――




鬼乃子と長乃狐 完

80 名前:鬼乃子と長乃狐 人物紹介:2014/05/29 21:22:01.32 ID:19QXiN3U0
サクミ 10歳
鬼子として生まれ、山の中に棄てられた。
それなのに人の言葉が普通に分かっていたり、いろいろ知識があるのは、
母親の腹の中で外界から聞こえてきたことからすでに学んでいたからである。

フウ 推定1000歳。
人の姿を持ちながら、狐である。
異常な存在とみなされ、山奥に追放された。
霊力などの呪力を操り、幾年も生き永らえ、いつしか神と呼ばれる存在となる。

81 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:01:00.61 ID:/Mg51Rnw0
―――此処は、いたって普通の高等学校。

82 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:01:26.58 ID:/Mg51Rnw0
私は、その高校の美術部のひとりの部員。

高校に入学してすぐに入り、一年経て。

83 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:02:30.35 ID:/Mg51Rnw0
可愛い後輩もできて、先輩として頑張って。


そんなある日、一人の後輩の子に、アドバイスしてあげた。
その子は、あまり深く美術をしたことがないという。
いろいろと、先輩として、後輩に教える。

84 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:03:14.10 ID:/Mg51Rnw0

「せんぱい、ありがとうございました!」


ぱあっとした表情で、後輩の子はお礼を言う。

「また、今度何かあったらおねがいしてもいいですか?」


「いいわよ、いつでも困ったことがあったら相談に乗るわ」

85 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:03:30.00 ID:/Mg51Rnw0
――――これがあの子との出会い。この出会いが、私の運命を変えた。

86 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:04:03.63 ID:/Mg51Rnw0
そうして、時は過ぎ、夏休み―――

87 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:04:15.25 ID:/Mg51Rnw0
暇なある日、あの子と、二人で遊びに出かけた。

ショッピング、映画館、ファーストフード店…

楽しんで、夕空が近づくころ。

88 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:05:41.60 ID:/Mg51Rnw0
「せんぱい」

あの子は、緊張した様子で、けれどはっきりと話を切り出した。

「なあに?」

89 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:07:21.01 ID:/Mg51Rnw0
「わたしは、その…
 …………
 そ、その…せ、せんぱいのことが 好き です…!!」


「えっ?」
私は、唐突に好きと言われて、混乱する。

90 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:09:21.36 ID:/Mg51Rnw0
けれども、私はすぐに、頭を撫でながら。


「ふふ、私も、あなたが好きよ。これからもよろしくねっ」

私は、あの子の好きが、愛だとは、分からなかった。

91 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:10:31.78 ID:/Mg51Rnw0
―――その日から、あの子は、機会があるたび私に触れるようになる。

お弁当も一緒に食べたり、勉強も教えたり。

私はすこし鬱陶しさを感じるときもあるけれど、あの子と一緒にいることは苦じゃないから。

92 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:12:09.61 ID:/Mg51Rnw0
季節は移り、冬休みのある日。

私は、あの子の家に呼ばれた。
あの子の親は、旅行に行っているから、寂しいのだと。
また、勉強を教えて欲しいのだと。

93 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:12:34.54 ID:/Mg51Rnw0
「せんぱい、こんにちは!」

笑顔で癒されるのに、何故だか、その目は凍りついているようだった。

94 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:13:43.26 ID:/Mg51Rnw0
「せんぱい」

「どうしたの?」

勉強の小休憩のときに、彼女とお茶を飲みながら、話をした。

95 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:14:55.09 ID:/Mg51Rnw0

「わたし、せんぱいのこと、好きです」

「前も聞いたわよ?」

彼女は、少し顔を赤らめて
「せんぱい、わたしは…その、Likeではない…好…きなんです…」

「えっ?」


96 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:15:08.06 ID:/Mg51Rnw0

つまり、それは――ー

「あいして、います」
「愛して…いる?」

97 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:15:38.54 ID:/Mg51Rnw0
突然のことに、わたしは混乱する。
「え…っと、その……」

「せんぱいは、わたしのこと…」

98 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:16:10.36 ID:/Mg51Rnw0
「私は………」

好きではあるけれど、それか恋なのか。

「どっちの好きかが、分からない……」

99 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:16:41.15 ID:/Mg51Rnw0
「……………」

気まずい空気が流れて――
「あ、お茶が切れてる…すぐ持ってきます!」

彼女が戻って、再びお茶を飲みながら。

無言、無音の空気が続く。

100 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:16:58.75 ID:/Mg51Rnw0
……あれ?
「ちょっと…眠く…」



私の意識は、まどろみのなかに。


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