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百合ss総合スレッド

1 名前:社長:2014/05/12 00:47:20.43 ID:.sXzRBOo0
百合のssを書いていくスレッドです

社長以外にも執筆したいひとは構わぬぞ。

62 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 20:59:52.50 ID:19QXiN3U0
「…その、ここは、あなたは、いったい?」


「混乱…してるみたいじゃなあ。申し訳ないことをしたのう
 ここは、空の上、雲の中、その狭間にある【天の国】という…

 わしはこの世界の……一応、主であり、長じゃ
 もっとも…わしの作った世界じゃし、わし以外の、誰もおらぬけれどもな」

女性は、かっかっと笑う。

63 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:00:43.22 ID:19QXiN3U0

「えっ、…天の、国?
 …あの世じゃ、ないの?」
あたしは、何が何だか分からない。


「あの世は、命果てた者の来る世界じゃ」
「あたしは、その…」

「おぬし、死んだと思っておるのか
 わしが、海の中へと沈み逝きそうなそなたを引き上げたんじゃぞ」

64 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:02:14.65 ID:19QXiN3U0
「えっ?」


「そなた、海の藻屑になるところじゃったぞ?」
脅すように、はたまたからかうように、女性はあたしに語った。

65 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:04:02.89 ID:19QXiN3U0
「まだ、名を名乗っていなかったの
 わしの名前じゃが、フウと云う」


「…フウ…」

「そう、フウじゃ。
 おぬしは、何と申す?」

66 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:05:14.62 ID:19QXiN3U0




「……い」

「?」



「その、あたしには、名前が……」
涙が、ひとすじ。
一筋の涙は、すこしずつ溢れてくる。

67 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:06:17.31 ID:19QXiN3U0
「なま…えは…」


あたしは、生まれてすぐに捨てられた。
そう言おうとしたけれど、言葉にならない。

「…その、なま…うぐっ、なまえ…は…」


あたしは、目の前がぼやけて見える。
目頭が、燃えるように熱い。

68 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:07:24.02 ID:19QXiN3U0
そのひとは、察したのか、あたしを抱きしめた。
「……すまない、のう。…聞いては、まずいものじゃったか」


「んぐっ…うっ…あなたは悪くな………」
あたしは、そのひとに包まれる感覚が、とても嬉しく感じた。

69 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:08:29.96 ID:19QXiN3U0
そして、あたしの涙をぬぐいながら、そのひとは少し考えて。


「そなたは、これから行くあては、あるのか?

 ……よければ、わしと、一緒に過ごさぬか…
 ただ、わしと一緒にいてくれるだけでいい」

70 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:10:18.02 ID:19QXiN3U0
「え…?」


「わしは、おぬしと、一緒にいたい…
 引き上げたとき、何故だか、そういう気持ちがして、のう」

そのひとは、あたしを抱く腕を、強くする。
あたしを、離したくないように。

71 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:11:10.31 ID:19QXiN3U0
そのひとは、あたしを抱きしめたまま、あたしに顔を近づけて。



「………」
あたしは、そのひとを見つめる。



「………」
そのひとは、あたしを見つめる。

72 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:12:11.73 ID:19QXiN3U0


あたしにとって、そのひとは、ひとりの、おねえさん。


そのひとにとって、あたしは、ひとりの、しょうじょ。

73 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:14:15.44 ID:19QXiN3U0

「あたしなんかと、一緒に、いても、いいの?」


そのひとは、表情を悟られないように、すこし顔を背けて。

「ああ」
でも、その声はどこか嬉しそうで。



「いっしょに、すごしても、いいよ」

74 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:14:42.44 ID:19QXiN3U0
「……ありがとう
 なら…おぬしに、名前をつけないとな」



少し、考えて。


「…そなたと出会う切欠の、今日の海の荒れ、大地を奮わせる嵐はもう過ぎた…
 天の国からでも分かる、新月の日……
 …引き上げたときに舞った海の水が、月をも流したのじゃろうか
 ………じゃから、朔海…サクミ
 でどうじゃろうか…な」

75 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:15:31.27 ID:19QXiN3U0
「サク、ミ……サクミ…
 ありがとう、あたしに、名前をくれて…
 フウ、さん」




周りの静けさは、あたしたちの邪魔をしないようで。
その静けさが、あたしの体温を感じさせる。
その静けさが、そのひとの体温を感じさせる。




「サクミ、では、契りの儀式を執り行うぞ」

「うん…」

76 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:16:08.85 ID:19QXiN3U0

フウさんは、あたしの唇に、唇を合わせた。
一瞬のうちに、体温も鼓動も、上がってゆく。



「そ、その…」
フウさんは、少し顔を赤らめながら、あたしを抱いた腕を放して。

「接吻することが、…その、わしの契りじゃからのう
 ふふ、サクミよ、そんなに緊張したのか?
 かわいい反応じゃな」

77 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:16:25.49 ID:19QXiN3U0
からかい気味に言ったあと、そしてまた、あたしに抱きついた。
「ちょ、ちょっとっ」


「わしは、千の年月を越えても、ずっと一人だったから、誰かに触れる…のは初めてなんじゃ
 もう少し、抱いていてもかまわない……かの」


78 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:17:09.32 ID:19QXiN3U0
「あ……」
フウは、きっと、あたしと同じ心なのだろう。
千の年を越して―――
この世界とは違う、天の国の住まい人で、天の国の長で。


あたしと出生も、暮らしも、種族が違っても、心は、気持ちは同じ。

79 名前:鬼乃子と長乃狐:2014/05/29 21:21:16.00 ID:19QXiN3U0
だから、あたしも抱き返した。

触れ合う肌の暖かさも、心の臓の鼓動も、寄せ合おう。


この天の国で、あたしとフウと、ずっといっしょに―――




鬼乃子と長乃狐 完

80 名前:鬼乃子と長乃狐 人物紹介:2014/05/29 21:22:01.32 ID:19QXiN3U0
サクミ 10歳
鬼子として生まれ、山の中に棄てられた。
それなのに人の言葉が普通に分かっていたり、いろいろ知識があるのは、
母親の腹の中で外界から聞こえてきたことからすでに学んでいたからである。

フウ 推定1000歳。
人の姿を持ちながら、狐である。
異常な存在とみなされ、山奥に追放された。
霊力などの呪力を操り、幾年も生き永らえ、いつしか神と呼ばれる存在となる。

81 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:01:00.61 ID:/Mg51Rnw0
―――此処は、いたって普通の高等学校。

82 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:01:26.58 ID:/Mg51Rnw0
私は、その高校の美術部のひとりの部員。

高校に入学してすぐに入り、一年経て。

83 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:02:30.35 ID:/Mg51Rnw0
可愛い後輩もできて、先輩として頑張って。


そんなある日、一人の後輩の子に、アドバイスしてあげた。
その子は、あまり深く美術をしたことがないという。
いろいろと、先輩として、後輩に教える。

84 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:03:14.10 ID:/Mg51Rnw0

「せんぱい、ありがとうございました!」


ぱあっとした表情で、後輩の子はお礼を言う。

「また、今度何かあったらおねがいしてもいいですか?」


「いいわよ、いつでも困ったことがあったら相談に乗るわ」

85 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:03:30.00 ID:/Mg51Rnw0
――――これがあの子との出会い。この出会いが、私の運命を変えた。

86 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:04:03.63 ID:/Mg51Rnw0
そうして、時は過ぎ、夏休み―――

87 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:04:15.25 ID:/Mg51Rnw0
暇なある日、あの子と、二人で遊びに出かけた。

ショッピング、映画館、ファーストフード店…

楽しんで、夕空が近づくころ。

88 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:05:41.60 ID:/Mg51Rnw0
「せんぱい」

あの子は、緊張した様子で、けれどはっきりと話を切り出した。

「なあに?」

89 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:07:21.01 ID:/Mg51Rnw0
「わたしは、その…
 …………
 そ、その…せ、せんぱいのことが 好き です…!!」


「えっ?」
私は、唐突に好きと言われて、混乱する。

90 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:09:21.36 ID:/Mg51Rnw0
けれども、私はすぐに、頭を撫でながら。


「ふふ、私も、あなたが好きよ。これからもよろしくねっ」

私は、あの子の好きが、愛だとは、分からなかった。

91 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:10:31.78 ID:/Mg51Rnw0
―――その日から、あの子は、機会があるたび私に触れるようになる。

お弁当も一緒に食べたり、勉強も教えたり。

私はすこし鬱陶しさを感じるときもあるけれど、あの子と一緒にいることは苦じゃないから。

92 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:12:09.61 ID:/Mg51Rnw0
季節は移り、冬休みのある日。

私は、あの子の家に呼ばれた。
あの子の親は、旅行に行っているから、寂しいのだと。
また、勉強を教えて欲しいのだと。

93 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:12:34.54 ID:/Mg51Rnw0
「せんぱい、こんにちは!」

笑顔で癒されるのに、何故だか、その目は凍りついているようだった。

94 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:13:43.26 ID:/Mg51Rnw0
「せんぱい」

「どうしたの?」

勉強の小休憩のときに、彼女とお茶を飲みながら、話をした。

95 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:14:55.09 ID:/Mg51Rnw0

「わたし、せんぱいのこと、好きです」

「前も聞いたわよ?」

彼女は、少し顔を赤らめて
「せんぱい、わたしは…その、Likeではない…好…きなんです…」

「えっ?」


96 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:15:08.06 ID:/Mg51Rnw0

つまり、それは――ー

「あいして、います」
「愛して…いる?」

97 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:15:38.54 ID:/Mg51Rnw0
突然のことに、わたしは混乱する。
「え…っと、その……」

「せんぱいは、わたしのこと…」

98 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:16:10.36 ID:/Mg51Rnw0
「私は………」

好きではあるけれど、それか恋なのか。

「どっちの好きかが、分からない……」

99 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:16:41.15 ID:/Mg51Rnw0
「……………」

気まずい空気が流れて――
「あ、お茶が切れてる…すぐ持ってきます!」

彼女が戻って、再びお茶を飲みながら。

無言、無音の空気が続く。

100 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:16:58.75 ID:/Mg51Rnw0
……あれ?
「ちょっと…眠く…」



私の意識は、まどろみのなかに。

101 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:17:43.87 ID:/Mg51Rnw0
――――起きてしまえば、すでに夜。



私は、ベッドの上に、手足を縛られていた。



「せん、ぱい…」

「!?」

彼女が、私をじっと見つめる。

102 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:18:07.61 ID:/Mg51Rnw0
「え……?」

縛られた手足を動かしても、ただベッドをぎしぎしと揺らすだけで。


「これで、いっしょですね、ふふ…」

103 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:18:29.67 ID:/Mg51Rnw0
―――私は、彼女の凍った目に吸い寄せられてゆく。


私の髪の毛を、柔らかな手で撫でるのが、感触で伝わる。


私は、深い闇へ堕ちてゆく。
私は、深い闇へ沈みゆく。

104 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:19:11.47 ID:/Mg51Rnw0
ああ、わたしも―――



「ん……」

唇に、柔らかな感触を感じる。



あの子の、私への口づけの感触を感じながら、私は深い闇へと沈み込む。

105 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:19:37.85 ID:/Mg51Rnw0

もう、このまま堕ちてしまえば二度と光をつかめないだろう。


…ああ、そうだとしても、あの子に沈められるなら、堕とされるなら。

106 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:20:17.13 ID:/Mg51Rnw0
わたしも あのこが すきなのだから。





この からだをも ささげよう。
この こころをも ささげよう。



「せんぱい…」

「いいよ………」

107 名前:藍の海底に沈み逝く:2014/06/22 02:22:33.18 ID:/Mg51Rnw0
私は、深い深い、藍色の海の、闇の底へと。



愛の生まれる其処へと、沈んだ。



藍の海底に沈み逝く 完

108 名前:藍の海底に沈み逝く 人物紹介:2014/06/22 02:25:40.65 ID:/Mg51Rnw0
せんぱい 17歳
山元高校 2年生 美術部。
どこにでもいる普通の女子高生。
「こうはい」との出会いが、彼女の運命の分岐点。

こうはい 16歳
山元高校 1年生 美術部。
美術部に入り、「せんぱい」と出会う。
彼女の愛情は、世間的には異常なものと捉えられるほど、深い。

109 名前:きのこ軍:2014/06/22 02:58:06.78 ID:4ZWBsheMo
ヤンデレ子ちゃん。

110 名前:名無しのきのたけ兵士:2014/06/22 04:05:22.20 ID:j.bbFbmw0
野獣と化した後輩

111 名前:夢と現の柔らかな朝:2017/04/17 00:41:08.032 ID:F6m6jif.0
「鈴鶴おねえちゃん―――たすけて――」
悪夢にうなされる、少女―見た目は10ほどだが、其の年は其れより少し多い。

「どうしたの、ヴェスタ―」
答えはないと知っていても、少女の小さな手をぎゅうっと握りながら、おねえちゃんと呼ばれたその女性―鈴鶴は優しく声をかけ続けた。

始めは、悪夢の苦しみに怖がっていた少女――。
けれども、鈴鶴の手の温かさと、優しい声はヴェスタを安心させるには充分で――。
次第に、怖がっていた様子は薄れ、安心して眠り始めた。

翌朝―――ヴェスタは、鈴鶴にぎゅうっと抱きついた。
「おねえちゃん、ありがとうっ」

「え――」
突然のヴェスタの行動に、鈴鶴は少し戸惑った。

「朝起きたときはもういなかったけれど、確かに手を握ってくれたのが―夢の中でわかったの
おねえちゃんが居なかったら、こわいまま今日の朝を過ごすことになったかもしれない」
戸惑う鈴鶴に、ヴェスタはさらに言葉を紡ぐ。

「あら、あらっ
 それよりも、朝ご飯できたから、食べましょうっ」
鈴鶴の照れた言葉と共に、幸せな日常は今日もまた―。


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