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きのたけカスケード ss風スレッド

1 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:24:14.292 ID:MbDkBLmQo

数多くの国が点在する世界のほぼ中心に 大戦自治区域 “きのこたけのこ会議所” は存在した。

この区域内では兵士を“きのこ軍”・“たけのこ軍”という仮想軍に振り分け、【きのこたけのこ大戦】という模擬戦を定期的に開催し全世界から参加者を募っていた。
【大戦】で使用されるルールは独特で且つユニークで評判を博し、全世界からこの【大戦】への参加が相次いだ。
それは同じ戦いに身を投じる他国間の戦友を数多く生むことで、本来は対立しているはずの民族間の対立感情を抑え、結果的には世界の均衡を保つ役割も果たしていた。
きのこたけのこ会議所は平和の使者として、世界に無くてはならない存在となっていた。


しかしその世界の平和は、会議所に隣接するオレオ王国とカキシード公国の情勢が激化したことで、突如として終焉を迎えてしまう。


戦争を望まないオレオ王国は大国のカキシード公国との関係悪化に困り果て、遂には第三勢力の会議所へ仲介を依頼するにまで至る。
快諾した会議所は戦争回避のため両国へ交渉の使者を派遣するも、各々の思惑も重なりなかなか事態は好転しない。
両国にいる領民も日々高まる緊張感に近々の戦争を危惧し、自主的に会議所に避難をし始めるようになり不安は増大していく。

そして、その悪い予感が的中するかのように、ある日カキシード公国はオレオ王国内のカカオ産地に侵攻を開始し、両国は戦闘状態へ突入する。
使者として派遣されていた兵士や会議所自体も身動きが取れず、或る者は捕らわれ、また或る者は抗うために戦う決意を固める。

この物語は、そのような戦乱に巻き込まれていく6人の会議所兵士の振る舞いをまとめたヒストリーである。



                 きのたけカスケード 〜 裁きの霊虎<ゴーストタイガー> 〜



近日公開予定

2 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:28:57.856 ID:MbDkBLmQo
本ssは6人の会議所兵士を主役としたオムニバスストーリーを予定しています。
各章は短く書いていきたい(希望)

そして、本ssのストーリーは誰かさん作チョコレートマーケットの設定の影響を多く受けています。ごめんなさい。ありがとうございます。


3 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:33:00.744 ID:MbDkBLmQo
・考案中の設定

▽オレオ王国
 きのたけ大陸の中心に位置する王国。
 多くの隣国に囲まれているが、カカオ産地を始めとした肥沃な土地により交易を中心に発展した。
 隣国とはいずれも同盟関係を結んでいる。
 食料だけでなく銃火器の燃料としても使われる“チョコ”最大の生産地でもある。
 王国自体は正規軍を持たず平和主義を貫く。

▽カキシード公国
 大陸の西に位置する大国。
 多くの小国をライス家がまとめあげ、カキシード公国と称している。
 魔術師を多く有していると言われるが、大国でありながらその戦力の全貌は未だに謎に包まれている。
 他国との交流があまり盛んではなく秘密主義的体質から“霧の大国”の異名を持つ。

▽きのこたけのこ会議所(KNC) 仲介陣営
 オレオ王国とカキシード公国に接する独立自治区域。世界的に国家承認を得てないが、ある程度の経済力を持ち【会議所】を中心とした行政府が実質的に統治している。
 きのこたけのこ会議所では【きのこたけのこ大戦】という模擬戦が定期的に【大戦場】で開催されており、全世界より参加が可能。
 毎回、参加者は指定されたルールの下できのこ軍・たけのこ軍という仮想軍に分かれ戦う。
 魔法により参加者は死ぬことがなく安全に戦えるため、当初は各国より軍事演習目的の意図として参加が相次いでいたが、最近は特殊ルールのおもしろさから娯楽やイベントとしても十分な人気を誇る。


世界マップ予定図
https://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/1012/Damatimo%20Feb24%2011-26.png


4 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:34:05.362 ID:MbDkBLmQo
・ssコンセプト
主人公を複数に分けたオムニバス形式
KTC(きのたけカスケード) カードゲームに繋げるための簡易ストーリー作り
オレオ王国、カカオ産地などを使ったオリジナル地名要素

・キャッチコピー
個々の小さな思惑・行動は重なりあい、やがて大きな連鎖(カスケード)を引き起こす…


5 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:54:56.408 ID:MbDkBLmQo
■登場人物
◆斑虎
異名:“白き虎豹(こひょう)”

「Episode : 斑虎」の主人公。
会議所に属するたけのこ軍兵士で、曲がったことが大嫌いな性格。
オレオ王国とカキシード公国の一触即発の事態の中で、王国出身の縁から交渉役に指名され王国に赴くことになる。
しかし交渉も虚しく公国からの侵攻にあい、会議所への帰還もできず王都で戦いに身を投じることになる。
同じくカキシード公国へ使者として派遣されているsomeoneとは親友の関係で常に彼の身を案じている。


◆Tejas
異名:“マイスター”

「Episode : Tejas」の主人公。
会議所に属するきのこ軍兵士で、技術力の高さと“特異な体質”から新進気鋭の若手として期待されている。
バカンスのためにカカオ産地で楽しんでいた最中、ひょんなことから奇妙な同行者と行動を共にすることになる。


◆加古川かつめし
異名:“赤の兵(つわもの)”

「Episode : 加古川かつめし」の主人公。
会議所に属するたけのこ軍兵士で、落ち着き払った所作から数多くの兵士から相談を受けている。
日課のバーで酒を楽しんでいた最中、妙な“噂”を耳にし真偽を確かめるべく動き始める。


◆791
異名:“魔術師”
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

6 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:55:16.973 ID:MbDkBLmQo
まだ書き溜めてないのは秘密だよ〜。

7 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:59:18.134 ID:MbDkBLmQo
https://seesaawiki.jp/kinotakelejend/d/%a5%ab%a5%b9%a5%b1%a1%bc%a5%c9ss%a4%de%a4%c8%a4%e1

wikiもとりあえずつくったので情報とかは同時にまとめていく予定です。
カードゲームのKTCもしくよろな!

8 名前:たけのこ軍:2020/03/16 01:17:34.750 ID:oPtCc.nk0
おもしろそう

9 名前:きのこ軍:2020/04/05 01:33:30.245 ID:zmqkJGH.o
じゃあ定期的にちょっとずつ投稿始めていこうかしら。

10 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)”:2020/04/05 01:48:02.812 ID:zmqkJGH.o
明日(というか今日)からちょっとずつ。



11 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎:2020/04/05 16:16:13.802 ID:zmqkJGH.o




・Keyword

虎豹(こひょう):
1 虎と豹。
2 勇猛でたけだけしいもののたとえ。扱いやすそうに見えて、策謀家から見た真の敵。





12 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  :2020/04/05 16:17:06.623 ID:zmqkJGH.o





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きのたけカスケード 〜裁きの霊虎<ゴーストタイガー>〜
Episode. “白き虎豹(こひょう)”

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13 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  お経会議編その1:2020/04/05 16:19:48.099 ID:zmqkJGH.o
【きのこたけのこ会議所 会議所 会議場:議案チャットサロン】

滝本「――ということで、次の大戦ではペッツ皇国のヘッド皇女が初参加されるということで、大戦後の移動は交通規制に伴う厳戒態勢を取ります。各会議所兵士は定められた指示の下で一般参加兵士の誘導に――」

斑虎「…」

議長である滝本スヅンショタンのお経にも似た抑揚のない説明が続く中、たけのこ軍兵士 斑虎(ぶちとら)はふと訪れた眠気を無くすため、この会議に同席している他の兵士に視線を彷徨わせた。
円卓テーブル中央の最上座に座る滝本から見て左手の方向、 つまり斑虎から見て正面方向に【きのこ軍兵士】の一団が座っている。
滝本から近い順に¢(せんと)、参謀B’Z(ぼーず)といった、きのこたけのこ会議所の黎明期に尽力した英雄達が座り、下座に進むに連れ中堅から新参の兵士の顔ぶれが並ぶ。
いずれも滝本の定時連絡に心ここにあらずといった面持ちで聴いている。始まって十分も経たずに歴戦の兵士たちを眠りに誘う滝本の話術はある意味才能なのかもしれない。
中堅兵士のきのきのに至っては豪快に口を開けながら寝ている。


14 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  お経会議編その2:2020/04/05 16:21:07.828 ID:zmqkJGH.o
滝本「――また、直近ではケーキ教団による砂糖の買い占めで会議所内でも角砂糖の値段高騰が問題となっており――」

続けて、斑虎は末席に座る一人のきのこ軍兵士に視線を移した。
そこには無表情な新米兵士someone(のだれか)が、斑虎にだけわかる退屈そうな表情で滝本の口をぼうと眺めていた。

彼と斑虎は親友だ。何時からかは覚えていないが、気がつけば二人はよく行動を伴にする間柄になっていた。
とは言っても、専ら喋るのは斑虎ばかりで、口数の多くないsomeoneは黙って聞いていたり、相槌を打ったり、時々反論したりと、極力無表情で応対する。
しかし、そんな彼も斑虎の話に応じて次第に顔を綻ばせていく様を見て、素直に嬉しく感じたものだ。
ある時、笑顔を見せるようにまでなった時、初めて斑虎はsomeoneの心の壁を破ったようでたまらなく嬉しく、自らも満面の笑みを浮かべた。
他の兵士に対し、someoneがここまで自然体で接している姿を見たことがなかったからだ。
勝手に斑虎がそう感じているだけかもしれないが。

斑虎の視線に気がついたのかsomeoneもこちらに目を向けた。
今度ははっきりと分かる表情で“うんざりしている”と顔で告げていた。珍しい彼の自己主張に斑虎は可笑しくなり、思わずにやけかけた口を手で抑えた。


15 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  お経会議編その3:2020/04/05 16:22:28.989 ID:zmqkJGH.o
滝本「それでは以上で定時連絡を終わります。続いて、“本題”に移ります――」

滝本の言葉に、緩んでいた会議場の空気が一変して張り詰めた。大口を開け寝ていたきのきのもすぐに身を起こし、滝本の方を真剣に見つめている。
両軍兵士側に何人か空きの席はあるが本会議の出席率の高さは異常だった。それだけ、全員がこれから彼の話す“本題”を待っていたのだ。

滝本は全員の視線を受け一度だけ頷くと、右手を天井に向かい突き出した。
すると、テーブルの中心に地球儀のような巨大な球体が表れ、同時に球体には文字がゆっくりと浮かび上がった。
滝本の魔法の力によるもので、室内にいる全員が文字を読めるように配慮をしたものだった。

斑虎もしげしげとその文字を見つめた。文字は手紙からの写しを拡大したもののようで、力のこもった筆跡で次のように書かれていた。


16 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  お経会議編その4:2020/04/05 16:24:34.947 ID:zmqkJGH.o


偉大な友人である会議所諸君よ。
最近のきのこたけのこ会議所のますますの発展、一人の友人として喜ばしく思う。
挨拶はさておき、早速ではあるが喫緊の頼みがあり文を出した。

我がオレオ王国はこれまで全ての国、地域と友好関係を結んできた。
しかし先日、隣国のカキシード公国は我が国との同盟破棄を検討していると突如として告げ、今や彼の国との関係は危機的状況を迎えている。
公国の主張するように、我々はチョコ独占による価格の不当引き上げなど一切しておらず、謂れのない誹謗中傷と国境封鎖等を含む過大な圧力を受け続けている。

申し開きを行う機会も無く、事態は刻一刻と悪化している。
事此処に至っては、我が国だけでは事態の打開に限界があり、第三国の仲介依頼を頼む他ない。

頼みというのは他でもない。この仲介をきのこたけのこ会議所に任せたいのだ。
滝本君を始め会議所兵士には世話をかけるが、どうか我が国とカキシード公国の間に入り関係を修復するよう働きかけてほしいのだ。
良い返事を期待している。

オレオ王国 ナビス国王



17 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  お経会議編その5:2020/04/05 16:25:45.133 ID:zmqkJGH.o
滝本「今朝、このような内容の手紙がナビス国王から私宛に届きました。
要約すると『カキシード公国からやっかみを持たれて戦争になりそうだから、第三国である会議所よ何とかしてくれないか』といったものです」

抹茶「会議所は国ではなく独立自治区域ですけどね…」

【たけのこ軍兵士】側の中で上座に座る抹茶が頬をかきながら、生徒を嗜める教師のように静かに指摘した。

【会議所】はきのこたけのこ会議所という独立自治区を統括している行政府の総称である。
自治区域と行政府が同名なのはややこしいことこの上ないが、決まっているものはしょうがない。最初に決めた者を恨むほかないのだ。
国ではなくあくまで自治区域なので、此処にいる兵士は皆それぞれ出身の国の国籍を持っている。
会議所内で生まれればパスポートの国籍欄には一応、会議所と記されるが実質は無国籍民として扱われ、最近ではそのことが問題になっている。


18 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  お経会議編その6:2020/04/05 16:27:12.772 ID:zmqkJGH.o
参謀B’Z「カキシード公国とオレオ王国の関係悪化は此処最近激しさを増している。
かたや“霧の大国”、一方は世界随一のチョコ生産と角砂糖の出荷量を誇る“交易の国”の喧嘩事や。世界が注目しないわけがない」

雑用係「この文面を見る限り、オレオ王国が公国から虐められているようですけどね」

斑虎の隣りにいたたけのこ軍兵士 雑用係は、道端で鳥類の食物連鎖を目の当たりにした通行人のように、憐れみの声を以て参謀の言葉に応じた。

791「彼の国の民の一人としてこれ程恥ずかしいことはないよ。一体、【ライス家】は何を考えてオレオ王国に圧力を強めているんだか」

怒気を孕んだ声で、たけのこ軍兵士側の最上座に座る791(なくい)は不満を口にした。
彼女はカキシード公国出身の魔法使いで、本国では魔法学校の校長も務めているようだ。最近は会議所と公国を行ったり来たりの慌ただしい生活を送っている。


19 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  お経会議編その7:2020/04/05 16:28:02.066 ID:zmqkJGH.o
斑虎「それで、滝さんはどう考えているんだ?会議所のスタンスについて」

それぞれの兵士が感想を口にし出し収拾がつかなくなることを危惧し、斑虎は先に滝本に質問を投げかけた。
滝本は思案顔のままでいたが、暫くして観念したように口を開いた。

滝本「色々考えましたが、私としては会議所介入を支持します。会議所としても、王国からはチョコを多く買い付けているという政治的背景もありますが、一人の兵士として友人の頼みには応えたい」

¢「ぼくもその意見に異論はないんよ。オレオ王国を助けたいんよ」

次々と兵士たちが滝本の意見に同調した。反論するものは誰もなく、ここに会議所の方針が決まったのだった。


20 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/05 16:30:34.462 ID:zmqkJGH.o
今日はここまで。こんな感じでのんびりと投稿していきます。一章毎のボリュームはなるみじ(なるべく短く)済ませる予定です。
この章は斑虎さんが主人公なので虎ちゃん視点でストーリーが進んでいきます。

21 名前:たけのこ軍:2020/04/05 23:44:19.549 ID:pvw/c0bk0
私もこういう文章を書きたい……

22 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/05 23:50:24.024 ID:zmqkJGH.o
>>21
本当は前作みたいに台詞主体で進めたいけど、どうも心理描写が多くなっちゃうんですよね…
私の日本語も全然うまくないのでほどほどに読み飛ばしてくださいな。

23 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編:2020/04/11 04:51:49.767 ID:zmqkJGH.o
じゃあ今日の更新スタート。

24 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編その1:2020/04/11 04:53:54.263 ID:zmqkJGH.o

黒砂糖「しかし、そもそも介入とはどうすればいいんだろうな?」

きのこ軍兵士 黒砂糖が最もな疑問を口にした。斑虎も同じことを考えていたところだ。

社長「ときのはぐるまさえあれば・・・」

たけのこ軍兵士 社長の発言はバグっているため基本的に誰も耳を貸さない。

抹茶「最終的な目標は、カキシード公国とオレオ王国の対話の場を開き対立関係を解消することですね。
そのためには講話に持ち込ないといけないから、まずは両国に対し会議所が働きかけないといけないということかな?」

抹茶はこのような時、まず筋道を立て結論から考え始める。流石はたけのこ軍きっての理論派として会議所幹部候補に名を連ねるだけの力はある。
斑虎はこの場では意見せず、会議の流れに身を任せることにした。

参謀B’Z「ということは、二国のトップにそれぞれ話ができる交渉役が居たほうがいいんじゃないか?
最終的な取りまとめは本部たる此処<会議所>で行うとして、両国にそれぞれ交渉人役の使者は出したほうがええな」

会議所は国ではないので各国に大使館や領事館を持たない。そのため外交官は会議所兵士から選抜しなくてはいけない。
なおかつその使者は、ある程度の発言権を持ち首脳陣にも物怖じしない度胸も必要になる。


25 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編その2:2020/04/11 04:55:59.マオウ ID:zmqkJGH.o
791「おもしろそうな話だね。そのポジション、私には正にうってつけだけど今回はお断りかな。最近、魔法学校に新しい生徒が多く入ってきてね。そちらの面倒も見ないといけないんだ」

カキシード公国出身の791は教育者としての顔も覗かせながら、公国への交渉役を丁重に断った。
公国の交渉役は半ば791で決まりだと思っていただけに皆は驚いた。

なんだか雲行きが怪しくなってきた、と斑虎は不安になった。

滝本「そうですか…では誰が適任だろうか」

誰も立候補するわけもなく、無言の間が流れた。
斑虎はたまらなくこの淀んだ空気が嫌いだ。

すると、良い提案があるとばかりに791はふふっと不敵に笑った。

791「断った私からでよければ一つ良い案があるよ」

斑虎は嫌な予感を察知した。791がチラッとこちらのほうを一度見たからだ。


26 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編その3:2020/04/11 04:59:57.889 ID:zmqkJGH.o
791「交渉役の兵士は、国のお役人さんや元首とも話すわけだから度胸のある兵士がいいよね。それにその国の事情や慣習も分かっている兵士のほうがいい」

そらきた、と斑虎は露骨に顔をしかめた。

791「私は王国の交渉役はオレオ出身の有力な兵士がいいと思うんだ。ね、斑虎さん?」

全員の視線が比較的末席辺りに座っていた斑虎に集中した。
オレオ出身の兵士は何名もいるが、自分を指名してくるあたり791に認められているということなのだろう。
この場合、何も嬉しくはないが。

¢「斑虎さんなら適任なんよ。熱血漢だし、分析力もある。実力は戦っているこちらからしても十分に折り紙付きだ」

滝本のすぐ傍にいる¢からも賛同の声が上がった。普段は口数の多くない重鎮だが、こうした機会に名のある兵士から褒められるのはとても光栄なことだ。
だが、今このときだけは彼を恨むしか無かった。きのこ軍古参の発した言葉に、途端に斑虎で決まりとの空気が場に漂い始めたからだ。


27 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編その4:2020/04/11 05:04:59.112 ID:zmqkJGH.o
斑虎「待ってくれッ!俺はただのたけのこ軍兵士だ。そりゃあオレオ王国出身だが住んでいたのは十年も前の話だッ!
いまは会議所に住んでいるんだからオレオのことなんてわからないよ」

滝本「幼少期は住んでいたんですよね。ならば土地勘はありますね、より適任だ」

ああ言えばこう言う。さっきまでウンウンと唸っていた議長とは思えないほど目を輝かせて滝本はしきりに頷いた。
なんて調子のいい兵士だ。

抹茶「確かに幼少期の記憶は人生で最も印象付けられるメモリと言いますものね…斑虎さんは適任かもしれないな」

抹茶にまでそう言われては楯突く術がない。この場に同軍の加古川かつめしがいればまだ味方してくれたかもしれないが、彼は近頃病欠で今日もこの場にはいない。
少し考えた末に斑虎は振り上げた拳をおろし力なく椅子に腰掛けた。肩をすくめ深々と溜息も付き、せめてもの抵抗とばかりにやる気の無さを示した。

斑虎「はぁ。というか、交渉役なんて何をすればいいんだよ」

参謀B’Z「王国へ向かいナビス国王を始めとした首脳陣と直接会話をするんや。手筈は整えておく。王国の主張を聞き、斑虎は逐次会議所へ報告してほしい。
同じくカキシード公国からも情報を集め、本部であるこちらから王国側へ提案や妥協案、それに講話の準備を打診するので、それらを斑虎から伝えるってのが大きな役目になるな」

つまり中間管理職ね、と斑虎は心のなかで呟いた。
深い責任を負わなくていいが、その分雑用は全てこちらに回されるということだ。お手上げとばかりに斑虎は両手を上げた。

滝本「オレオ王国側の交渉役は斑虎さんで決まりですね。カキシード公国側の交渉役はどうしましょう。791さんではないとすると他に誰か――」


28 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編その5:2020/04/11 05:07:22.504 ID:zmqkJGH.o
【きのこたけのこ会議所 会議所 大廊下】

斑虎「someoneッ!」

長い会議が終わり、会議場の解き放たれた扉から幾人も兵士が出ていった。
斑虎は真っ先に姿を消したsomeoneを見つけるとすぐに声をかけた。
“共に”被害者となった彼を慰めるためだ。

someoneもこちらを視界に捉えると、困ったように僅かに眉尻を下げた。
多くを語らない彼はこうした表情の変化も、進化の過程で退化したと思えるほど微々たるものだ。

斑虎「なんで抵抗しなかったんだよッ!カキシード公国の交渉役なんて、こんな仕事は面倒なだけだぞッ」

と、勢いよく声に出したはいいもののよく考えれば自分もオレオ王国の交渉役に選ばれた際に碌な抵抗をしていなかったことに気が付き、斑虎は少し罰が悪くなった。
知ってか知らずかsomeoneも表面上は少し微笑んだ。

someone「仕方ないよ。決まったことなんだから」

時々、someoneはこうして観念的な言葉を吐くことがある。
さも自分の運命が予め決まっているとでも言いたげな儚さを含んだ言葉を口にするのだ。
斑虎からすると親友の行く末が心配でしかない。


29 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編その6:2020/04/11 05:11:23.571 ID:zmqkJGH.o
斑虎「俺はまだいい。でもお前は生まれてから暫くカキシード公国に居たぐらいでほとんど祖国と関わりはないんだろ?
それに新人であるお前にこんな大役を任せるなんて、会議所はどうかしてるッ!」

何人か二人の前を通り過ぎた兵士がぎょっとしてこちらを振り返ったが、斑虎は気にせず会議所を非難した。

斑虎と違い、someoneはお世辞にも交友関係の広い兵士とは言えない。
口数も多くなく感情表現があまり得意でないため、誤解を招きやすいのだ。

それでも、過去には大戦で運用されている新ルール策定に一人で尽力した経歴があり、会議所からは若き有望枠として期待されていた。
その真価を発揮する機会がいまきた、と周りは思っていることだろう。
親友を利用するような会議所のやり方に、斑虎は納得がいかなかった。

someone「あまり感情的になってもよくないよ、斑虎。与えられた仕事はこなさないと」

someoneは冷静に斑虎を諭すように話した。
斑虎は直情的な熱血漢だが、someoneはうってかわり沈着冷静で物静かだ。
水と油のように見える二人の性格だが、これこそが二人の関係を長続きさせる秘訣でもあるのだ。

someone「すぐに791さんとここを発たないといけないんだ。暫く会えなくなるね」

斑虎「俺もだ。今晩にはもう出発だ。でも791さんも水臭いよな。お前を推薦するんなら、自分が交渉役になってくれたっていいのにな」

会議所の批判とは打って変わり、791のことになると少し声を潜める斑虎が可笑しくて、someoneは少し笑ってしまった。


30 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  選抜編その7:2020/04/11 05:16:20.939 ID:zmqkJGH.o
someone「僕は791さんと一緒だから平気だよ。寧ろ、斑虎の方が大変じゃない?一人だから」

斑虎「これを放置プレイと言うんだろうな」

二人はそこで言葉を切り笑いあった。ウィットに富んだ会話を二人は好んだ。
大戦時も軍の所属は違えど、二人はよくこうして集まり戦いの反省や出来事をおもしろおかしく語っていたものだ。

斑虎「気をつけてな、someone。まあ互いに交渉役だから逐次連絡は取り合うし、その内協議の場でも顔を合わせるだろうが、暫くは会えなくなる」

斑虎の差し出した手を見て、someoneは一瞬戸惑いを見せたようだった。

こうした時に握手をする慣習が無かったのか、果たして別の理由がありsomeoneを困惑させている気がした。
後ろめたさ、のような表現が近いのかもしれない。自分ひとりだけがマジックの種明かしを知っている観客のような、気まずさを放っている。
斑虎はそんな彼を心配そうに見つめた。

someone「…うん。斑虎も気をつけてね」

someoneは斑虎の手を握り返し、儚げな表情で一度だけ頷いた。
そんな顔をするからいつも心配になるんだ、と斑虎は心のなかで頭を掻いた。


31 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/11 05:17:44.987 ID:zmqkJGH.o
会議所パートは終わり、次からはオレオ王国に舞台が移ります。

32 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/11 10:48:20.990 ID:zmqkJGH.o
本章は恐らくあと10回ぐらいの更新で終わりまーす。

33 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/11 18:02:03.568 ID:zmqkJGH.o
https://seesaawiki.jp/kinotakelejend/d/cas%c0%df%c4%ea

wikiに設定ページを新たに設置しました。

34 名前:たけのこ軍:2020/04/11 22:48:42.211 ID:pvw/c0bk0
先の見えなさとテンポよく世界観を構築することにあこがれる。

35 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  謁見編その1:2020/04/18 11:21:01.965 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王都】

斑虎はひとり汗を拭った。なにも頭上から降り注ぐ日光に因るものだけではない。どちらかというとこの汗は防衛本能に近い。

十年ぶりに戻った故郷は特段大きな変化もなく、相変わらず人混みによる活気と熱気で溢れていた。
王が住まう巨大な宮殿の周りに、所狭しとばかりに商店を中心とした家々がひしめき合い、忙しい王都を構成している。

王宮前の大通りには露店が幾つも立ち並び、商人と通行客とでごった返している。商魂たくましい商人は声を張り上げ行き交う人々の足を止め、
通行人は物品と自らの利を見定めるために目を細め、その合間を縫うように荷車や馬車が行き交う。

王国は広大だが大地の多くを平原や荒野に支配されている。こうして人が住まう僅かな地域には、傍から見て心配になるほど人が押し寄せるのである。
ナビス国王から届いた手紙の悲痛な叫びからは考えられない平和で安心した日常風景が目の前に広がり、却って斑虎はその違和感から周りの風景が非日常のように感じずにはいられなかった。


36 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  謁見編その2:2020/04/18 11:24:05.175 ID:zmqkJGH.o
数分もかからない距離を倍以上かけて辿り着いた宮殿を見上げ、斑虎はホウと一息ついた。
幾多の大戦を経験し周りの兵士より体力に自信はある筈だが、人混みに気を払いながらの移動はどうも苦手だ。

「斑虎様ですね。話は伺っています、王様がお待ちです」

彼の到着を見越したように、見上げるほど巨大な宮門の前に立っていた番兵は斑虎に声をかけた。
どうせ待っているならば迎えに来てくれてもいいばかりに。

斑虎「この国は何も変わってないな。変わったのは奴さんのご機嫌だけか?」

「こちらになります」

斑虎の皮肉を意にも介さず、番兵は踵を返し歩き始めた。
なにも変わっていないな、だから好かないんだ、と心のなかで斑虎は悪態を吐いた。


37 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  謁見編その3:2020/04/18 11:25:58.631 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王都 王宮】

初めて中に入る王宮内は白を基調とした側壁と青のカーペットに、目を奪うほどの漆黒のシャンデリアが室内を暖かく照らす。正にこれぞ王宮といった絢爛さがあった。

斑虎が通された謁見の間も先程まで見ていた王宮の要素を一重に詰め込んだもので新鮮味は特段ない。
今までと違う点としては、部屋に先客がいた事だ。

ナビス国王「よく来てくれた。国賓として君を歓迎しよう、斑虎くん」

斑虎はナビス国王との初対面を果たした。

斑虎「私もお会いできて光栄です、王様」

斑虎は膝をつき服従の姿勢を表した。

ナビス国王「そこまで畏まらなくてもいい。手紙にも書いた通り、君たちとは対等な友人でいるつもりだ」

顔を上げると、ナビス国王は人の良さそうな笑顔で斑虎に席を進めた。
新聞や本などでしか彼を見たことが見たことはなかったが、世界一の交易国家を束ねる王は威厳こそあれど、親しみやすい“庶民”のような雰囲気を醸し出していた。

ナビス国王「そこにかけてくれ。あいにくとチョコレートドリンクを切らしていてね。カフェオレでいいかな?」


38 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  謁見編その4:2020/04/18 11:30:03.008 ID:zmqkJGH.o
斑虎「チョコを切らしているんですか?珍しいですね」

ソファに腰掛けた斑虎に、後から掛けたナビス国王は困ったように眉尻を下げた。

ナビス国王「いや、正確に言えば角砂糖を切らしている。最近、君たちの区域からの買い付けが凄くてね。一時的に王宮に供給できない日もあるくらいさ」

斑虎「ああ、なるほど…」

そういえば、先日の会議で、きのこたけのこ会議所内の新興宗教団体が角砂糖を買い占めているという話を滝本が話していた。
確か団体名は『ケーキ教団』だったはずだ。

斑虎「それで、早速ではありますが、単刀直入に伺います。一体カキシード公国との間に何があったんですか。
我々もニュースで確認はしていますが、何故急速に関係が悪化したのかまず真意を確認しないことには話を進められません」

聞くものによっては前のめりな斑虎の姿勢に言葉をつまらせる場面だが、ナビス国王は斑虎と目を合わせると滔々と語った。

ナビス国王「わからんのだ。これまで公国とは穏便に関係を築いてきた。我が国も“大国”の端くれではあるが、国力としては公国が圧倒的だからな。
公国の実質元首たるカメ=ライス公爵も知らない仲ではない。
だが、ここ最近になって『オレオ王国がチョコを不当に貯蓄し価格を釣り上げている』と公然と批判を受けるようになった」

オレオ王国は、世界一のカカオ収穫量を持つカカオ平野と、同平野に広がるチョコ製造工場で世界一のチョコ製造を誇る。
会議所地域から広大なチョ湖を跨いで広がる同平野一帯は“カカオ産地”と呼ばれており王国の経済を牽引する程に羽振りが良い。

チョコが今や世界に無くてはならない資源として注目されつつあるからだ。

一昔前、ただの食材としか見られていなかったチョコは、つい最近の研究で可燃性の素材に魔法錬成できる事が分かった。
つまり、チョコは錬成次第で化石燃料にもなることが判明したのだ。これは大きな発見だった。

この事実は瞬く間に世界を駆け巡り、人々は驚きの声をもって迎えた。元来、この世界は資源に乏しく人々は魔法で全てを補うしかなかった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

39 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  謁見編その5:2020/04/18 11:34:38.448 ID:zmqkJGH.o
カキシード公国側の指摘通り、確かにチョコ自体の価格が高騰していることは事実だった。
しかし、それは他国の消費量と王国からの供給量に見合わないための措置であり、王国が意図的に値段を上げているとの指摘には全く当てはまらない事態だった。
公国が作為的に王国を悪玉に仕立て上げようとしているのは明らかだった。

斑虎「手紙を出してからこの国を取り巻く変化はなにかありました?」

ナビス国王「貴地域だけでなく周辺国にも救援要請は出しているが、どこもまだ静観しているな。下手に“霧の大国”に反抗して恨みを持たれたくない、というのが本音だろう」

“霧の大国”ことカキシード公国は大陸の西側に位置する大型集合国家だ。
その歴史は定かではないが、混沌とした歴史の頃に既に公国自体は存在した。その後、周辺国を次々に飲み込み今の巨大国家が形成された。
国家統治はライス家という貴族が執り行っていると言われるが、その実態は定かではない。何しろ大国でありながら内部の情報を外に明かさない秘密の多い国なのだ。

きのこたけのこ会議所が【大戦】を始めた際にも、その秘密主義的体質から、当初カキシード公国からの参加は殆どなかった。
その後、791を始めとする有力兵士が登場しカキシード公国との橋渡し役を務めるようになってからは会議所にも参加する兵士が増加した背景がある。それでも、参加数は国の規模と比べればまだまだ少ない程だ。

そのため、現代でも公国に関する詳しい情報を斑虎たちは知らない。791が語る王都の話や自身が校長を務めるという魔法学校の様子を聞き、公国のイメージを深めたくらいである。
公国は古くから魔法文明を牽引してきた国で、魔法の技術とその意思を持つ強大な魔法戦士軍を有していると言われている。
大国に反抗したくない他国家は表立って王国に支援を表明できないのだ。


40 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  謁見編その6:2020/04/18 11:35:49.023 ID:zmqkJGH.o
斑虎「この国の豊富な資源を狙い、公国が色目を出してきた恐れがあります。
会議所からも同時に公国へ兵士を送っていますが、正直に言って協議は難航すると思います」

包み隠さず斑虎は自らの考えを述べた。下手におべっかを言うより、真実を告げるほうが得策であると思ったためだ。
ナビス国王にもその思いは伝わったようで、斑虎の淀みない言葉に力強く頷いた。

ナビス国王「元より覚悟の上だ」

ほう、と斑虎はナビス国王の姿勢に少し驚いた。
歳は斑虎の一回りも二回りも上だが、彼も斑虎に負けない覚悟と“若々しさ”があると感じたのだ。
困難を前にしても立ち向かう姿勢は年齢を感じさせない前向きさがあった。

ナビス国王「暫くは王宮に泊まっていきなさい。君には苦労をかける」

斑虎「ありがとうございます。ですがご心配なく。【大戦】での幾多の窮地に比べたらこんなのまだまだです」

斑虎の言葉にナビス国王は思わず吹き出した。

ナビス国王「確かに君たちは戦いのエキスパートだったな。【大戦】の武勇伝を今夜の食事のときにも詳しく聞かせてくれ。私も最後の【大戦】から久しく参加していない」

斑虎「王も参戦されていたんですね。当時はどの軍で出られていたんですか?」

ナビス国王「【きのこ軍】だよ。たけのこがどうにも苦手でね。君は私の同胞かな?」

斑虎はニヤリと笑うと手でバッテン印をつくった。それは残念とばかりに王は頭を振った。
国自体にユーモアはないがこの王はなかなかユーモアのセンスがあるじゃないかと、斑虎は王国に対し少しだけ考えを改めることにした。


41 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/04/18 11:36:26.179 ID:zmqkJGH.o
次から頑張れ斑虎くんパートがはじまります。

42 名前:たけのこ軍:2020/04/18 22:14:02.594 ID:pvw/c0bk0
このせんすある会話と設定がうらやましぃ

43 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その1:2020/04/23 22:03:17.004 ID:zmqkJGH.o
王国に来てからの斑虎は、会議所のときとは打って変わり慌ただしい生活を送った。
少しでも王国の現状を知ろうと次の日からは自らの足で各地に赴き調査を重ねた。

元々、会議所における斑虎の評価は勇往邁進な直言居士といったものだった。
誰に対しても物怖じせずに発言し類まれなる行動力を持っているため、中途半端な実力しか無い兵士からは目の上のたんこぶだが、力を持った人間からは気に入られる。
791が斑虎を気に入っていた理由もそれに因るものが大きい。

彼の持ち前の熱心さは王国側からすると嬉しい誤算だった。
斑虎のひたむきな姿勢と行動が、王国の民の意識を着実に変えていった。
その最中、彼の知名度を爆発的に上げる切欠となった一つの出来事があった。


44 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その2:2020/04/23 22:04:59.344 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王都】

その日、朝から宮殿内は慌ただしい空気に包まれていた。
【三大国】の一角であるトッポ連邦の外交使節団が王宮に訪れる予定になっていたためだ。
訪問の目的はチョコ資源の相互活用するための技術交流が主である。加えて、王国側としては、公国に対峙するための後ろ盾としての支援表明を連邦に要請したいという真の意図があった。

しかし王国側の気持ちに反し、連邦の態度は煮え切らないだった。
それは事前の王国の調査だけでなく多くの新聞や情報からでも明らかで、公国に遠慮している連邦の姿勢が如実に表れていた。

斑虎は王宮の外に出て、使節団の到着の様子を遠巻きに見ていた。
王宮前には多くの人だかりができ、まるで救国の英雄を持て囃すかのように連邦の使節団は民衆から熱烈に迎えられた。
見ていて痛々しい程の歓声だ。
力を持たないこの国は風前の灯だ。そして弱った国を救う英雄を人々は欲している。
表向きは平時と変わらないように過ごしている人々も心の底では状況を理解し求めているのだ。斑虎にもその切実な気持は伝わってきた。

オレオ王国を救うためには荒療治が必要だ、と斑虎は考えている。
武力を持たず平和主義を貫くオレオ王国は、今回のような連中から因縁をつけられた際の有事に対し非常に無力だ。自分一人では何も出来ないため、他国の力を借りるしかない。
“真の友人”なら助けてくれるだろう。しかし、幾ら同盟が王国を守る唯一の術だとしても、打算のある友好国たる“友人”から切り捨てられれば、残るは対抗手段を持たない王国だけだ。

孤立は避けなければいけない。そのためには“甘ちゃん”の王国の会議を遠くで見届けるのはあまりに心細い。
斑虎は子を見守る親のように気をもんでいた。

思考の渦に囚われていた斑虎は、目の前で外交団の一団が通り過ぎるのを気づかないほどだった。

斑虎「…あいつはッ!?」

しかし、続々と通り過ぎた外交団の中に、一人見知った人間がいたのを斑虎は見逃さなかった。
一瞬の驚きの後、シメたとばかりに斑虎はすぐにほくそ笑んだ。


45 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その3:2020/04/23 22:07:14.704 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王宮】

優雅な王宮内とは裏腹に厨房は異様な慌ただしさに包まれていた。見習いのコックが加熱処理を誤り鍋のチョコを丸ごと焦がしてしまったのだ。
厨房では慌ててチョコレートドリンクを始めとしたチョコ料理を一から作り直していた。

「ええい!まだ完成せんのかッ!これでは客人への饗しも満足に出せぬ国と言われるぞッ!王国の沽券に関わるッ!」

斑虎が厨房を覗くと、恐ろしい剣幕で初老の料理長が厨房内を怒鳴り散らしていた。
大戦の戦場にもここまで厳しい指揮官はいないだろう。

しかし、このトラブルはかえって斑虎にとっては追い風だ。

斑虎「やあ料理長。少しだけ時間いいかな?」

斑虎の声に、人を射抜かんとする目で料理長は振り返った。彼は斑虎をギロリと一瞥すると、やり場のない怒りを静めるためにギリと一度歯ぎしりした。

「これは斑虎さん。なにか御用で?」

料理長は明らかに苛ついている声色を隠そうともしていない。

斑虎「お困りのようならばお助けしますよ」

「ありがたいお申し出ですが結構です。今は一分一秒も惜しい」

すぐにでも会話を打ち切りたいように、料理長は斑虎から顔を背け吐き捨てるように告げた。それでも斑虎は余裕の表情を見せたまま引き下がらない。

斑虎「それは残念。今から人数分のチョコレートを再度溶かし料理を完成させるだけでも数十分はかかるでしょうね。
それでは予定していたチョコ料理は到底出せないし、せいぜい粗茶で時間を潰すのが関の山だ。王国料理団は首でしょうね」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

46 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その4:2020/04/23 22:11:50.820 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王都 大広間】

斑虎が大広間の扉を開けた時、両国の協議は正に佳境を迎えている最中だった。
広々とした部屋の天井には絢爛な壁画が一面に彩られ、見る者の目を奪う美しさだ。しかし、その壁画の真下では絵画の美しさなど見る余裕も暇もない大人たちが額を合わせ話し合っている最中だった。

少しだけ静観して斑虎は両者の話を聞くことにしたが、話の冒頭から早速ずっこけそうになった。
傍から見ても協議は対等な関係には見えず、懇願をする王国側に対し連邦側は理由をつけノラリクラリと交わしていた。

「ですから再三申し上げた通り、貴国のおっしゃるように【支援表明】など無くとも、我が国は貴国との友好関係を世界に十分に示せていると考えています」

連邦外交団席の中心に座る華奢な青年議員は、駄々をこねる子供たる王国側をたしなめる親のように、諭す口調でそのように突き放した。

「いえ。しかし、我が国はご承知の通り軍隊を持ちません。そのため、カキシード公国が仮に暴挙に出た際に対抗する手段を持たないのです。
貴国とは緊急時の安全同盟を締結している。この非常事態に事態を打開できる国家を貴国と見越し、このようにお願いをしているのです」

王国側の文臣の一人は懇切丁寧に連邦側に自らの置かれている立場と本心を伝えた。
しかし、彼の悲痛な叫びにも連邦側は眉一つ動かさない。文字通り連邦側の中心人物的な青年議員は掛けたメガネの位置を片手で直すと、顔色一つ変えずに語り始めた。

「大変申し訳無いが【支援表明】については、全権大使の私でもその一存はすぐに決められない。
我が国は議会制でね。議題を持ち帰り議会での議論がないと決められないのだ。今すぐのお応えはできない」

連邦使節団の中には彼よりも経験を積んだ重鎮は数多くいるだろうに、件の青年議員以外は一切の言葉を発さず、そのせいか彼は一際輝き目立って見えた。
もしかしたら彼以外の仲間は全員蝋人形かもしれないな、と遠巻きで眺めながら斑虎は考えていた。


47 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その5:2020/04/23 22:13:57.155 ID:zmqkJGH.o
「それならばすぐに持ち帰り協議していただけませんか。事態は一刻を争います」

ある王国の文臣からの声に、彼はフンと鼻を鳴らした。

「議会は現在閉会中です。それに緊急事態なのは承知していますが、果たしてこれが客人にもてなす態度なのでしょうか?
誠に僭越ながら、今日は昼食を取りながらの会談と聞いておりましたが、料理の一つも録に通されぬまま数十分が経とうとしています。
我が国では通常、このようなことは無礼千万にあたります。
加えて、いきなりそのように捲し立てられては、いくら友人といえども付き合い方を考える必要があるとは思いませんか?」

―― 外交上の非礼にあたります

最後に告げた彼の言葉は王国側から見れば非常な通告に聴こえたことだろう。

斑虎「物腰柔からなインテリヤクザと、食い物にされる哀しき貧民といった構図かな…」

斑虎の目の前で繰り広げられている会話は見るに絶えない、“交渉未満”の駆け引きだった。
一通り事の次第は把握した。満を持して、斑虎は交渉のテーブルに加わる覚悟を決めた。

斑虎「楽しいお話のところを失礼ッ!お待たせして申し訳ございません。お食事をお持ちいたしましたッ!」

突然の部外者の張り上げた声に、全員は一斉に斑虎に顔を向けた。その中には当然、件の青年議員も混ざっていた。
彼は怪訝な顔で顔を斑虎に向け、直後に驚愕の表情に変わった。今日初めて彼の表情が変わったところを見た、と斑虎は少し得意気になった。

「お前は、斑虎ッ!どうしてッ!?」

斑虎「こんなところで会うとは奇遇だな、椿(つばき)。祖国では随分と偉くなったみたいじゃないか」

元たけのこ軍兵士、現トッポ連邦国務大臣の椿は斑虎の言葉に金魚のように口をパクつかせることしかできなかった。


48 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/23 22:18:09.652 ID:zmqkJGH.o
斑虎さんは上に噛み付いて仲間の面倒見いい系兄貴分的なポジション。

49 名前:たけのこ軍:2020/04/23 22:29:49.283 ID:pvw/c0bk0
これは主人公だ

50 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その1:2020/04/30 19:58:04.733 ID:RaN.TSZYo
斑虎と椿のきのこたけのこ会議所自治区域への移住はほぼ同時だった。
正確には斑虎の方がほんの少し先だったが、当の斑虎は先輩面をしなかったし、もちろん椿も後輩として振る舞うこともしなかった。
移住後、たけのこ軍へ同期加入となった二人は互いに【大戦】で競い合い、会議所で開かれていた【会議】にも積極的に参加し存在感を増していった。
二人は良きライバルだった。

「斑虎さん。これは国同士の話だから貴方が口を挟むのは――」

ナビス国王「構わないよ、続けなさい。それに椿大臣と彼は旧友の様だ。“少しだけ”、旧友との再会を懐かしんでも罰はあたるまい」

王国側の一人が斑虎を静止しようとしたが、ナビス国王は彼の言葉を遮り斑虎に微笑んだ。
ナビス国王の目配せに斑虎は感謝の意を示しつつ、椿と向かいあう位置で静かに席についた。


51 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その2:2020/04/30 20:03:49.939 ID:RaN.TSZYo
突然の旧友の再会に、先程まで余裕綽々だった椿は打って変わり、明らかに動揺していた。

椿「何時から王国の一員になったんだ?」

斑虎「俺は今も会議所の人間さ。今回も会議所からの使者として派遣されている。いわばただのゲストさ」

机を挟んで向かいに座る椿は会議所に居た当時より少し老けたものの、かえってその老いが彼の風格に磨きをかけていた。
スマートな若者だったあの頃に“渋み”と“鋭さ”が加わり、やり手のエリート議員という風貌だ。

椿「私は君と昔を懐かしんでいる暇は無いんだ。すぐにでも協議に戻りたい」

こうした可愛げの無さは当時から変わっていない。必死に相手のペースに呑まれないように意識を強く持とうとする姿は若い頃と同じだ。
当時から少し背伸びをして会議所や世界の未来を語る椿を、斑虎は口でこそ茶化しながらも内心尊敬していた。
ある夜、『祖国に戻り政治家になる』と椿が斑虎に告げた時も、斑虎は背中を叩き応援したほどだ。

斑虎「まあ待てよ。俺は今、王宮に一時的に住まわせてもらっている。だから王国にも少しでも恩返しがしたくてね。
王国の意を受けて、俺の指示で料理を変えてもらったから時間がかかっちまったんだ。許してあげてくれ」

斑虎は扉の近くに居た給仕に目で合図を送ると、給仕たちは緊張の仕草で皿いっぱいに盛られた“お菓子”をテーブルに並べ始めた。


52 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その3:2020/04/30 20:05:31.493 ID:RaN.TSZYo
椿「これは一体なんだ?」

椿は硬貨程の大きさのビスケット菓子を手にとり目の高さまで上げ訝しんだ。

斑虎「“リッツ”という王国に古くから伝わる郷土菓子だ。あいにくとチョコを出せない事情があってね」

斑虎の言葉に途端に場が凍りついた。
目を細めた椿は向かい合った斑虎を睨みつけながら、静かにリッツを大皿に戻した。
その目は怒りに震えているが、目の前の菓子に当たらなかっただけ理性は制御できているようだ。

椿「世界随一の生産量を誇る王国で客人にチョコが出せない?
それは当てつけと受け取って良いのか?公国と同じように、我が国へも輸出量を絞り価格を跳ね上げようと画策すると解釈できかねんぞッ!」

斑虎「早まるなよ、椿。そいつをよく見てみろよ」

旧友の言葉に椿は既で怒りを抑え、リッツが盛られた大皿を忌々しそうに覗き込んだ。

人の顔の五つ分の大きさを超える大皿の上には、多様な彩りのペーストを載せたリッツが並んでいた。
あるリッツの上にはトマトとチーズの紅白のペーストが載り、あるリッツには真紅のいちごジャムが並々と注がれ、またあるリッツには溶けたチーズの輝いた黄金色が皿に垂れんばかりの量で見る者の目を奪った。
実に様々な彩り豊かな色と味のリッツが椿たち連邦外交団の食欲をそそった。


53 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その4:2020/04/30 20:07:48.281 ID:RaN.TSZYo
斑虎「俺の祖国であるこのオレオ王国では昔から伝統的な催しがあった。最近はチョコ一色だから、知っている国民も少なくなっただろうけどな」

皿から目を離せなくなった椿たちを目にしながら、斑虎は静かに語り始めた。

斑虎「昔から村で催しがあると誰かがリッツを焼いて、その家に皆が食材を持ち込んで集まってな。
そしてリッツの上に色々なものを載せて食べあうんだ。リッツは淡白な味のビスケットだが、その分色々な料理を載せることで味にアクセントがつく。
皆は自分こそがリッツを最大限に美味しくできる“最良の料理家”だと思い込み、毎回色々な料理や食材を持ち込んでリッツを取り合い食べ自慢し合うんだ。
“どうだ?俺のリッツこそが一番だろう”とな」

かつて幼き頃に斑虎の家で同じ催しが開かれた際に、それまで寡黙だった隣家の旦那が同じことを途端に叫び出した時を思い出し、斑虎は笑みをこぼした。

斑虎「大皿に向かい皆がリッツを取り合い食べることで互いの距離がぐっと縮まり、村は一致団結した。
昔は何処も同じことがどの村でも行われていたのさ。この催しは“リッツパーティ”と呼ばれ、古くから王国に伝わる最大級の饗しとなった。忘れられて久しいがな」

椿「“リッツパーティ”…」

椿のつぶやきに、斑虎は力強く頷いた。


54 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その5:2020/04/30 20:13:45.008 ID:RaN.TSZYo
斑虎「見ての通り、この大皿はオレオ王国からの信頼の証だ。
お前たちトッポ連邦を“真の友人”と見込んだ上で、腹を割って話し合おうとしている。

寧ろ、チョコなんて安易なもので釣ろうとしないだけ真摯じゃないか?
何処かの国みたいにチョコを外交の“材料”として王国の攻撃手段として使う国もある程さ。
信頼している相手に“リッツパーティ”を振る舞うのは寧ろ当然のことだ」

椿は黙って斑虎の話を聞いている。

斑虎「先程から一部始終を聞いていたよ、椿。まさかこの王国からの申し出、受けないわけじゃあないよな?」

話を聞き終わった椿は少し長く息を吐き、瞼を閉じ考えこんだ。暫くするとカッと目を見開き、勢いよく斑虎たちに頭を下げた。

椿「王国の皆さん。これまでの数多くの非礼をお許しください。斑虎殿の言った通りです。
皆さんがここまで正直に腹を割って話そうというのに、その好意を私は見落としていました。大変申し訳無い」

椿の深謝に慌てたのは周りの連邦外交団だけでなく王国側も同じだった。
堅物だと思っていた全権大使が突然頭を下げ詫びてきたのだから戸惑いもするだろう。
一人、斑虎だけがからからと笑った。

斑虎「素直に自分の非を認められるのがお前のいいところだな。昔から【大戦】でもお前は、自分の立てた作戦に責任を持って取り組んでいた」

椿「一本してやられたよ、斑虎。今日の話はすぐに持ち帰り、緊急議会の開催を私から訴えよう。
さあみんなッ!“友人”とともに“リッツパーティ”を楽しもうッ!」

椿の掛け声に外交団たちは暫し逡巡した後に、席を立ちおずおずと大皿に手を伸ばした。
リッツを手に取り口に放り込んだ一同は、一瞬の咀嚼の後、あまりの美味しさに驚いたのか歓喜の声を以てすぐに他のリッツにも手を伸ばし始めた。
王国側の一同も続々と席を立ち、またたく間に厳粛な会談の場は賑やかな立食パーティへと変貌した。


55 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その6:2020/04/30 20:16:49.169 ID:RaN.TSZYo
椿「懐かしいな。最後に【大戦】に出てから何年経ったことだろう」

先程までとはうってかわり柔和な目をした椿に、斑虎は彼の本来の姿を見た気がした。
先程まではテーブルを挟んで椿との距離が遠く感じたが、瞬く間に近づいた気分だ。

斑虎「椿が祖国で成功したことは知っていたが、まさか大臣にまでなっていたとは驚きだ。
会議所に留まり続けなくてよかったじゃないか。おめでとう」

椿「ありがとう。でも俺の目標は大臣じゃない。最終的には国のトップ、首相になることさ。
そのためには連邦としてこの危機にも本腰を入れたほうがいいと思い直したよ。お前の熱弁に俺も熱意を刺激されたかな?」

素直な椿の評価が直視できず、斑虎は照れ隠しに大皿に手を伸ばした。
狙っていたサラミリッツは外交団の一人に取られてしまったので、悔し紛れに隣りのほうれん草リッツを手に取った。

椿「それに悔しいが、あの当時でも戦いの才能はお前の方があった。【大戦】でもいつもお前には撃破数で勝てなかった」

からし入りリッツを食べたのか、椿は思わず顔をしかめた。彼の様子が可笑しくて斑虎は声を上げて笑ってしまった。

斑虎「また椿に会えてよかったよ。変わっていなくて安心した」

椿「俺もだ。集計班さん含めだいぶ会議所には世話になった。あの頃の経験があり、今の俺がある」

斑虎「また落ち着いたら遊びに来いよ。公人でも私人としてでもどちらでも構わないぜ」

椿はフフッと笑いマスタード入りリッツを口に含んだ。
辛いけどうまいな、と冷静に分析する椿が可笑しくて斑虎はもう一度声を上げて笑った。


56 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/30 20:24:48.912 ID:RaN.TSZYo
友人は大臣。一度は口にしてみたい響きですな。あと5回の更新でこの章はおわりまーす。

57 名前:たけのこ軍:2020/04/30 21:58:46.176 ID:zvS2ejWk0
虎ちゃん強キャラ感ある

58 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その1:2020/05/08 18:57:52.925 ID:M5FgLRMQo
【オレオ王国 王都 王宮 斑虎の自室】

この“リッツパーティ事件”を機に、世界中に斑虎の名は轟くこととなった。

友好国からの支援を仰ぐために事件を機に斑虎自身もオレオ王国の首脳陣に混じり各国の首脳陣と交渉を重ねるようになった。
ナビス国王も斑虎を信頼し、斑虎の存在が内政干渉にあたるのではないかという類の内外の批判をはねのけた。
王国で奮闘する斑虎を次第に各国は“王国の外交官よりも仕事をする民間兵士”という評価を与えるとともに、その存在が認知されていったのだ。

その宣伝にあやかったのがきのこたけのこ会議所とオレオ王国だ。

きのこたけのこ会議所では、滝本主導で斑虎を支えたのは戦いであるという旨の宣伝広告がうたれ、彼の活躍に感化された自治区域内外の人々はこぞって【大戦】に参加した。
結果的には【大戦】に参加する兵士が増え、自治区域に移住する人間も増えたというのだからちゃっかりしている。


59 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その2:2020/05/08 19:14:08.620 ID:M5FgLRMQo
一方、オレオ王国では挙国一致体制を強めるための宣伝材料として格好の的となった斑虎をプロパガンダに仕立て上げた。
強大な相手にも物怖じせず、逆に噛み付いて一泡吹かる胆勇無双な性格に加え、国外の人間とはいえ斑虎自身の出自も重なり、オレオ王国内では英雄並の扱いを受けた。

緊迫した状況においてこそ弱き人々には“縋りつくための”英雄が必要だということをナビス国王はよく知っていたのだ。
図らずも斑虎はその英雄に選ばれたのである。国外の人間でありながら国を救う英雄として崇めるのは王国としても随分と自虐的な決断をしたものだ、と斑虎は分析したが、
挙国一致のシンボルとなった斑虎は国民の羨望の的となり、結果的に愛国精神が高まり公国への対決姿勢が高まったのだから国王の判断は間違っていない。

ただ、その宣伝の仕方が少々誇張気味で話に尾ひれがついているのだ。
先日斑虎が街で聞いた話ではこうだ。
“リッツパーティ事件”の際に連邦の椿大臣に向かい英雄・斑虎は机を蹴り上げ外交団に向かい怒鳴りながらオレオ王国の国家を歌い、相手を怖じ気づかせすぐに本国まで逃げ帰った、と。
ここまでくるとやりすぎだ。


60 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その3:2020/05/08 19:15:46.303 ID:M5FgLRMQo
滝本『定時報告ご苦労さまです。オレオ王国の内情、交渉状況、地政学上のリスクを含めた環境要因についてこれだけの短期間でよくここまでの状況をまとめたものです。
貴方の評判はこちらまで届いていますよ』

自室に充てがわれた宮殿内の一室で、その日も斑虎は会議所からの連絡を確認していた。
連絡手段は手紙に留まるが、魔法の影響で手紙は録音テープのように、その場で相手の肉声を再生可能としていた。

斑虎は毎朝、毎晩と状況報告の手紙を会議所に出した。
会議所からは一日一通のペースで滝本から返事が届き、公国と王国間での協議の調整を行っている旨の連絡が届いていた。

滝本『someoneさんからも返事が届いています。カキシード公国も国内の統制が取れていなかったとのことでオレオ王国との関係悪化を望んではいないと。
斯様な事態になったことに胸を痛めているとのことです。ついては、予定通り第三国の会議所にて今後のことについて会談を開きたいとのことです。
日程については――』

滝本の報告は夜に届くので開封するのはいつも夜遅くになってからだった。
彼の抑揚のない声は斑虎の眠気を誘うため、できれば子守唄として聴きながらそのまま寝てしまいたいが、そうはいかない。

加えて、今日は斑虎にとって朗報とも云える内容だったので眠気も吹き飛んだ。親友・someoneの内容も手紙に添えられていたからだ。
彼とは会議所で最後に話して以来連絡を取っていないが、公国でうまく活動している事がわかり、斑虎の嬉しさを人一倍押し上げた。


61 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その4:2020/05/08 19:17:04.783 ID:M5FgLRMQo
手紙を読み終え、聞き終えた斑虎は机の上で静かに手紙を閉じた。
そして、数日後に会議所で開かれるであろう両国間の会議に向けオレオ王国について今一度思いを馳せた。

一連の調査で分かったことは、王国が意外にも一枚岩の団結ではなかったという事実だ。
現君主のナビス国王は先代が築いたチョコ生産体制を引き継ぎつつ、いち早く各国と同盟を結び世界に巻き起こったチョコ革命の主役として上手い立ち回りを見せてきた。
その点で先を見通すことのできる賢主だと言えよう。

しかし、オレオ王国は正規の軍隊を持たない平和主義国家だった。
これはナビス国王肝いりの方針で、自らが軍備を放棄することで世界平和の実現に自ら行動を起こし訴えているのだ。
この崇高な考えに国内で反発する人間も少なくはないようで、王都から離れた市街では今回の事態に合わせて散発的とはいえ度々デモ行進が行われていた。
会議所に居た頃はデモ活動が起きていることさえ知らなかった。

一度だけ、王国に到着した夜の晩餐会で斑虎はナビス国王から自らの経緯について訊かれたことがある。

― 『君はオレオ王国の生まれだそうだね。どうして会議所に移り住んだんだい?』


62 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その5:2020/05/08 19:19:49.227 ID:M5FgLRMQo
王国に住んでいた頃、斑虎はどちらかといえばデモ隊に近い考えを持った現実主義者だった。
平和主義が嫌いなのではなく、平和主義に縋る弱者にならなければいけない事実が嫌いなのだ。
祖国を離れ会議所に居着いたのも、王国の牧歌的な雰囲気に嫌気が差したということもある。

この国は駄目だ。
今の自分はただ“生かされて”生きているだけだ。
自らの意志で生きているという“実感”を持てない。この国に居ては自分自身が腐ってしまう。

そんな大それた危機感を心の中に抱き、ある日斑虎は王国を飛び出した。
そして、日々戦いに身を投じることで“生”を実感できる会議所を選び居着いたのだ。

しかし、本当はそんな大層な考えが真の理由ではなく、ただ逃げ出したかっただけなのだ、と会議所に居着き暫くしてから青年斑虎は気がついた。

鬱屈としていた自分の心の殻を破り、新たな環境に身を置くために奔走し、汗水垂らし働く自分自身に酔っていただけなのだ。

環境を理由にして逃げただけだ。
あの頃の自分は若かったとさえ思う。

何処だって自分自身は其の都度判断を下し、重大な選択をしながら生きることができる。
事実、今の斑虎は一人の会議所兵士として戦争を避けようと再び王国に戻り国のために尽力している。不思議なものだ。


63 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その6:2020/05/08 19:23:15.900 ID:M5FgLRMQo
巨大な王宮の脇から筍のように何本も空に向かい伸びた塔内の最上位に位置する斑虎の部屋は、眼下の街並みをよく見渡せた。
夜遅くでも灯りは多く点り、人々の活気を感じることができた。それは王国の権威の表れでもあった。

しかし、ふと遠くに目を向けると王都を出た途端に広がるのは一面の闇だった。
途端に斑虎は言いようもしれぬ不安を抱いた。

交渉は今のところ順調だ。ただ、順調すぎるのだ。
自分たちが見ている状況は、市街地に広がる灯りのように表面的のもので、実際は市街地の周りに広がる闇こそが水面下の真実なのではないか。

一連の事態の引き金を引いたカキシード公国は、一部幹部が先走り「オレオ王国から干渉を受けている」旨の発言が出てしまい事態の沈静化に苦労していたという。
someoneを通じ公国側からは協議を先行して王国に対し謝意が伝えられ、今後はオレオ王国と歩みを共にしたいと言う。
王国関係者からすれば胸を撫で下ろす内容であると同時に、小躍りをしたくなる程の満点回答だ。

しかし、あの“霧の大国”がそのような不始末を起こすだろうか。

そもそも、幹部が先走り事を起こしたとすれば、なぜ国の元首は直ぐにその発言を否定しなかったのだろうか。
思惑と作為の交錯する事実は眼前に広がる黒き闇の沼のように深く強大で、王国を覆い追い詰めようとしているのではないか。


64 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その7:2020/05/08 19:23:57.610 ID:M5FgLRMQo
斑虎「考えすぎだな…」

斑虎はそこで考えを打ち切り、背後に置かれているフカフカのベッドにその身を投げた。
そして凝り固まった考えをほぐすように、精一杯伸びをした。

そもそも、その仮定通りだとしたら公国にいるsomeoneから朗報は届かない筈だ。
彼は口数こそ少ないが真実を見抜く力は人一倍持っているのだ。

斑虎は彼を信頼している。それで十分だ。
一瞬、彼の頭の中にさらに別の嫌な予感が立ち込めたものの、安心しきっていた斑虎は気にすることなく目を閉じ、すぐに寝息を立て始めた。

疲れ切っていた斑虎は、自身が持つちょっとした“能力を”忘れていた。

昔から彼の勘はよく当たるということを。


65 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その8:2020/05/08 19:25:14.236 ID:M5FgLRMQo
幼少期の頃である。
自分の部屋に帰り灯りを点そうとした時、少年斑虎は胸騒ぎとも気分の悪いとも言えない気分になり、部屋の入り口で足を止めた。
部屋に入ったら駄目だという電気信号が身体の中を走ったのだ。自分でも何故胸騒ぎが起きるのか分からず、とにかく斑虎は勇気を出し部屋を注意深く見てみた。

すると、部屋の隅に彼の大嫌いな大きい蜘蛛がその大きな複眼で斑虎をじっと見つめていた。

また別の日のことである。
会議所に来て日の浅い斑虎は悪友から誘いを受け夜の街に繰り出した。街を飲み歩き何軒かハシゴし、行き着いた先が路地裏にある小綺麗なパブだった。
その時、青年斑虎は、以前と同じ得体の知れない胸騒ぎを覚え、ふと気がつくと彼だけが足を止めていた。
すっかり酔いの覚めてしまった斑虎は友人の誘いを断り一人帰宅した。

その後、ちょうど違法酒場の摘発に乗り出していた警察がそのパブに突入し、悪友ともども身柄を拘束されてしまった。
先に帰宅した斑虎だけが難を逃れたのだ。

幼少期から斑虎の勘はあたる。

とりわけ悪い予感はかなりの割合で現実になることを、この時の斑虎はすっかり忘れていた。


66 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/08 19:26:24.095 ID:M5FgLRMQo
ここまで怖いほど順調よ斑虎さん!

67 名前:たけのこ軍:2020/05/09 21:16:05.592 ID:sTZVnoi60
展開が二転三転して面白い

68 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その1:2020/05/15(金) 17:50:30.362 ID:mvdBU80wo
【きのこたけのこ会議所 会議所 議案チャットサロン】

その日、久々に会議所を訪れた斑虎を滝本は何時にもない満面の笑みで出迎えた。

滝本「おお、“英雄”のお帰りだッ!」

いつも座っていた議長席から立ち上がり、斑虎たち王国使節団の到着に諸手を挙げて歓迎の意を示した。

斑虎「やめてくださいよ、滝さん。まだ協議は始まってもいないのに」

そう言葉を返しながらも悪い気はしていなかった。
この短期間で目標のために邁進した実感はあった。
時には他国の外交問題にも肩入れし、無礼を承知の上で意見を述べたりもしたのだ。

斑虎の歯に衣着せぬ素直な物言いが却って王国の悲痛さと真摯さに拍車をかけ、他国の首脳陣の心を揺り動かしたのだ。

現時点でいずれの国からも即答での返事は貰えていないが、この協議の後、各国はオレオ王国への支援表明を行う予定となっている。

そして今日の二国間協議で事態が一段落すればこの騒動は完璧な幕引きを図れる。
斑虎は確かな手応えを感じていた。自然と漏れた笑みは、彼の背後に居た使節団にも伝搬したようで周囲は和やかな雰囲気に包まれた。


69 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その2:2020/05/15(金) 17:53:06.363 ID:mvdBU80wo
滝本「公国の使節団も直に到着すると思います。someoneさんにもよく頑張ってもらいましたよ。
お二人を使者に選んでよかったと心の底から思います」

参謀B’Z「滝本は昨日からずっとこの調子や。きのこ軍が大逆転して勝った時でもこんな喜びは見せなかったのになあ」

各人は微笑み、いつもはたけのこ軍側が会議で専有するスペースに王国使節団と斑虎が着席した。
協議には、王国使節団と公国使節団が向かい合い、会議所からはオブザーバーとして滝本と参謀B’Zが出席する予定となっていた。

ナビス国王「カキシード公国への使者には君の親友がいるんだったね?積もる話もあるだろう。終わったら、こちらの事は気にせず会うといい」

斑虎「痛み入ります」

ナビス国王は自慢のアゴ髭をそっと撫でた。その所作が勝利の余裕から生まれるものを、短期間の付き合いながら斑虎も理解していた。
使節団は協議が始まる前から余裕綽々といった様子で構えていた。


70 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その3:2020/05/15(金) 17:56:03.052 ID:mvdBU80wo
すると、会議室の扉が勢いよく開け放たれ、すぐにぞろぞろと公国の使節団が闊歩しながら入ってきた。
純白のローブを羽織っていた使節団の行進は、歩く度に袖や裾の音がはためき、実際の人数以上に使節団がいるのではないかと錯覚させた。

カメ=ライス公爵「滝本殿に参謀殿、遅れてすまない」

先頭に居た公爵が形ばかりの謝罪を述べ席についた。

斑虎は少し驚いた。
彼が、絵に描いたような高圧的で傲慢な人間ここに在り、というような所作や姿形をしていたからだ。

でっぷりと膨らんだ腹には恐らく公国の特産品であるピーナッツやネギをたらふく溜め込んだのだろう。
さらに彼の鋭い眼光は相手を値踏みするまでもなく全てを下等に見下すような蔑みを含んでいるように見えた。

先程までの和やかな雰囲気は消し飛び、会議室は途端に張り詰めた緊張感に包まれた。

すると、緊張に拍車をかけるかのように室内の扉が閉まる音がした。目を向けると、いつもの群青色のローブを身にまとったsomeoneがそこに居た。
斑虎は途端に抱いた不安を消し飛ばし、せめて心の拠り所にしようと必死に彼に目で合図を送った。
しかし、彼はまるで会議に初めて参加する兵士のようにおどおどした様子で、顔を伏せたまま斑虎と顔を合わせること無く末席に着いた。


71 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その4:2020/05/15(金) 17:59:09.002 ID:mvdBU80wo
カメ=ライス公爵「早速で恐縮だが、これが我が国の提案する【妥協案】だ」

公国使節団から王国使節団に人数分の古紙が渡された。
妥協という耳慣れない言葉に王国使節団は一様に顔を見合わせたが、仕方なしとばかりに公爵から渡された要求書を手にとった。

そして一瞬の沈黙の後、使節団から短い叫びと悲鳴が起きた。

それは妥協案とは程遠い、公国から王国へ向けた最後通牒だったのだ。

戸惑う彼らの先陣を切ったのは、やはり斑虎だった。

斑虎「内容書を拝見しました。これは一体どういうことですか?」

「どういうこと、とは?」

公爵の隣りにいる大臣然とした人間が怪訝そうに聞き返した。
公国の偉い人間は全員太っていけない決まりでもあるのかと思うほど、その人間も肥えていた。

斑虎は一瞬我を忘れ、その場で立ち上がり手に持った要求書を机に叩きつけた。

斑虎「譲歩案だと?
ふざけるな、バカバカしいッ!
この【今後の両国の友好を示す証として、オレオ王国はカカオ産地を含む1/2の領土をカキシード公国へ譲渡する】という内容は、いったい何だッ!」

カメ=ライス公爵「間違いなく我が国が妥協し譲歩した案だ。本当はね、最初は2/3にしようと話していたのだが、それではあまりに両国のためにならないと思い直してね。
1/2に削ったのだよ、これは紛れもない【譲歩】だな」

いけしゃあしゃあとうそぶく公爵の顔を、斑虎は怒りのあまり直視できなかった。
ただ、会議所に居たときから同じ端の席に座って居たsomeoneに勢いで睨みつけた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

72 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その5:2020/05/15(金) 18:01:30.768 ID:mvdBU80wo
カメ=ライス公爵「そもそも精製されたチョコの金額を不当に釣り上げ、我が国の経済を混沌に陥れた元凶は“お前たち”だろう。
私は多くの小国規模の地域を管理するライス家の領主だ。
隣国の友人からの不当な圧力には正当な手段で返さなければ、我が家を支えてくれている臣民に示しがつかない」

「だ、だがッ!先日の貴国からの連絡では、今回の混乱は国内統制の乱れで誤った内容だったと謝罪があったはずだッ!そ、その内容と今回の要求は食い違うだろうッ!」

斑虎の横にいた文臣はこみあげる嗚咽と恐怖を必死に抑え、悲鳴に近い反論を上げた。
だが、公爵は道端の虫けらを蹴飛ばすかの如く下卑た笑いを浮かべた。

カメ=ライス公爵「最初の発表は確かに統制の乱れで“どこかの誰かが”勝手に発表した。それは謝罪しよう。
しかし内容を精査した結果、当初どこかの誰かが“発表した内容は真実”であることが急遽分かったのだよ。

本来は斯様な事は到底許されるべき事態ではない。我が国としても尊厳を侮辱される許しがたい王国側の背信に内心憤っている。
だが、我々は寛容だから“この程度で妥協”しようと歩み寄っているのだよ」

参謀「馬鹿な…」

オブザーバーとして前列に座っていた参謀と滝本は、目の前のやり取りに信じられないと言った様子で言葉を失っていた。
きっと、この二人も真相は知らなかったに違いない。


73 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その6:2020/05/15(金) 18:03:27.798 ID:mvdBU80wo
斑虎「ふざけ――」

ナビス国王「もう良い斑虎くん」

気が逸り掴みかかろうと激昂する斑虎を鎮めたのは、先程から一言も言葉を発していないナビス国王だった。

ナビス国王「本気なのか公爵?冗談では済まされんぞ」

彼は冷静に、ただ短く訊いた。
公国使節団は彼の質問に嗤った。彼の言葉は、彼らからすると弱者の喘ぎ、縋りにきこえたのだろう。

カメ=ライス公爵「聞き返したいのはこちらの方だよ、ナビス国王。なぜ不当にチョコの価格を釣り上げた?我が国の発展がそこまで脅威か?妬ましいか?」

ナビス国王「有志の調査により、輸出されたチョコは正当な価格で貴国に販売している確認が取れている。
だが、それでも事態を静めるためならば、通常の量に加え一定量のチョコを譲渡し――」

ナビス国王の言葉を遮るように、公爵は机を拳で叩いた。

カメ=ライス公爵「くどいッ!貴様らはまだ自分の犯した罪を認めないのかッ!呆れた根性だッ守銭奴どもめッ!」

滝本「お待ち下さい、公爵。ナビス国王の言い分ももう少し聞いて――」

公爵は滝本の方に右手を突き出し、話をやめるよう促した。
人の話を聞かないなんて傲慢な人間なのだと、怒りから覚めつつある斑虎は目の前の光景をぼうと眺めることしかできなかった。


74 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その7:2020/05/15(金) 18:07:38.760 ID:mvdBU80wo
カメ=ライス公爵「五日間だ。それが貴様らに残された時間だ。
それまでに返事がなかったら、友好条約及び同盟は即刻破棄する。我々の主張は以上だ、ひきあげるぞッ!」

呆気にとられた周りを横目に、公国使節団は一斉に立ち上がり堂々と会議室から出ていった。

斑虎「someoneッ!待ってくれッ!」

我に戻った斑虎は、最後に室内から逃げ出そうとしていた親友に声をかけた。

びくり、と一度だけ跳ねたその背中は斑虎に振り向いた。
そのsomeoneの顔を斑虎が視界に捉えた瞬間、声を失った。
しかし二の句を継ぐ日間もなく、すぐに彼は部屋から出ていってしまった。

彼の儚げな顔が暫く頭に残っていた。
親友は斑虎にしか分からない所作で、眉尻を下げ謝罪を示すとともに、目を細め“気をつけて”と告げていた。

残された室内には悲痛の静寂だけが残った。


75 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/15(金) 18:08:37.959 ID:mvdBU80wo
あと3回。今月中に1章は終わりにします。

76 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 12:42:55.320 ID:AYZ3P7Eko
あと3回だが、今日中に全て更新し一章は終わらすぞオー

77 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その1:2020/05/23(土) 12:44:47.321 ID:AYZ3P7Eko
【きのこたけのこ会議所 会議所 議案チャットサロン】

斑虎「すぐにこれまで交渉を行った全ての諸外国に書簡と支援要請を出しましょう。
公国の横暴を許すわけにはいきませんッ!!」

会議室がすすり泣く声と怒りの怨嗟で渦巻く中、斑虎はナビス国王にすぐに直訴した。
先に人一倍怒ったせいで立ち直りも誰より早かったのだ。

ナビス国王は神妙に頷いたが、顔面蒼白の滝本がたまらず口を挟んだ。

滝本「斑虎さん、貴方の仕事はここまでです。交渉は決裂しました、会議所に留まるべきです」

斑虎「滝さんッ!何を言っているんだッ!?」

信じられないといった面持ちで斑虎は滝本を見返した。
しかし、その言葉に同調するようにナビス国王は肩をポンと叩いた。

ナビス国王「滝本くんの言うとおりだ。ここからは我が国の問題だ。君を巻き込むわけにはいかない。斑虎くんにはこれまでの働き、大変感謝している」

ナビス国王は深々と頭を下げる。国王の最大限の敬意に使節団は思わずざわめいたが、斑虎は動じなかった。諦めきれなかったのだ。


78 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その2:2020/05/23(土) 12:45:52.470 ID:AYZ3P7Eko
斑虎「お言葉ですが、国王。私はオレオ王国の使者として成すべき事を果たしていません。王国はいま絶体絶命の窮地にいます。
今日の協議を見てはっきりとしました。

私は公国を甘く見ていました。そして裏を欠かれ王国を窮地に追いやったのは私の責任でもあります。
それに、私は公国の専横を看過するわけにはいきません。
その思いは【きのこたけのこ会議所】も同じはずです。
王国と会議所、そして世界の均衡を保つため私は最後まで奔走します。
いいよな、滝さんッ!!」

斑虎の剣幕に滝本は目を丸くし、思わず頷いた。

ナビス国王も驚きはしたが、彼は少し考え込み、そして同じく滝本に目線を送った。国王の強い眼差しに滝本は再度頷くしかなかった。

満足気に笑った国王はあごひげをまた一度撫でた。
落ち着き払った彼の王たる振る舞いは、周りを急速に冷静にさせた。

ナビス国王「“英雄”斑虎よ。其方の働きに敬意と感謝を贈る。最後まで世話をかけるが、よろしく頼む」

王国はこの窮地を乗り切るために、再度斑虎を中心として一致団結した。


79 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その3:2020/05/23(土) 12:48:12.242 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都】
しかし、其の日から王国を取り巻く環境は悪い方に激変した。
オレオ王国はすぐに今回の協議内容を公開し国内外で王国への理解を求めた。

しかし、当初の予定とは反し諸外国からの支援要請は三日以上経っても進展の兆しすら見えなかった。
二国間協議まで友好的だった諸外国が途端に消極的な返事とともに王国を突き放し始めたのだ。

以前から懸念していた公国へ盾突きたくないという消極的外交姿勢に加え、
信じがたいことに『でも、公国の言うことも一理ある…』と、公国擁護を始める国も一つや二つではなかった。

事前に公国が根回しを行い、公国に同調する勢力を急速に拡大させていることは容易に推測できた。

頼みの綱だった“三大国”の一角だったトッポ連邦からも良い返事は無かった。
支援推進派の椿と保守派の勢力が衝突し議会が紛糾しているという。
中立派の首相は議会の引き伸ばしにかこつけて結論を先延ばしにしているのがありありと見て取れた。

椿からの手紙には何度も謝罪の言葉が書かれていた。
加えて、末文には『このまま決議遅延が図られるのであれば自らの職を辞してでも個人で支援を行う』との強い決意が記されていた。

斑虎「昔から責任感が強すぎるんだよなあ、あいつは」

口ではそう言いながらも、自分たち以外にも少なからず味方がいることに、斑虎は少し救われた気持ちになった。


80 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その4:2020/05/23(土) 12:49:00.185 ID:AYZ3P7Eko
ただ、ここにきて王国内の反乱勢力も勢いを増していた。
点在した地方都市にデモ勢力が結集し、打倒王政を訴え王都に向かいデモを開始したというのである。
このような状況の中であまねく国民に自制を訴えようとするナビス国王の言葉は虚しく、敏い王都の民はすぐに不穏な空気を察知した。
そして彼らは緊急事態宣言が出る前に、自主的に避難を始めてしまった。

オレオ王国は事実上八方塞がりともいえる状況に陥っていた。
そして公国が一方的に突きつけた五日目の期限の朝を迎えても、何もいい手立ては浮かばず手をこまねいているしか無かったのである。


81 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その5:2020/05/23(土) 12:52:52.007 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都 王宮】

協議から五日目の朝、王都にはシトシトと雨が降り注いでいた。
王宮の擬宝珠を濡らす雨が人々のさめざめとした涙のようで、まるで心の写し鏡のようだと斑虎は暫し幻想的な気持ちに浸った。
しかし、すぐに気持ちを目の前の会議に戻した。

斑虎「滝さんからの連絡で『協議の日以来、someoneさんと同行していた791さんとからの連絡は途絶したまま』とのことだ。くそッ!公国の野郎めッ!」

someoneと791は公国に監禁、幽閉されたと見るのが普通だろう。
こうなると、以前からのsomeoneの報告が全て疑わしくなる。

ナビス国王「踊らされたな。悔しいが、情報戦においては公国が一歩上手だった」

其の場が痛々しい沈黙に包まれた。
意を決し、以前の会議所で行われていた会議と同じように、斑虎は発言した。

斑虎「公国の工作で各国からの支援は得られず、国内では暴動が多発し沈静化できていない。
この状況で公国から攻め込まれでもしたら王国はひとたまりもなく“霧の大国”の霧に呑まれることでしょう。今からでも軍備を編成し国境に配置するべきです」

ナビス国王は珍しく顔を苦悶に歪ませた。

ナビス国王「斑虎くんの言いたいことはよくわかる。だが、この国は戦いを起こさず無血で今日まで発展してきた。
流れたのは血ではなくチョコだけだ。
私にはこの国を統べる覚悟と誇りがある。やすやすと軍備結集に舵を切るわけにはいかない」

ナビス国王は聡明でありながら、唯一反戦の話になると頑固者になる。
平時には名君だが、非常時には自らの選択肢を狭めてしまうことに彼は気づいていない。

彼の臣君たちも罰が悪そうに目を背けた。分かっているのだ、彼の性格を。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

82 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その6:2020/05/23(土) 12:54:42.026 ID:AYZ3P7Eko
斑虎「それではダメなのです、ナビス国王ッ!
公国は近い内に本気で攻めてきます。軍備は国家防衛のための緊急の策です。各国から協力を得られず四面楚歌となった今、我々は自分で自分の身を守るしか無いのです」

同じ提案は以前より周りの人間が提言していたものの、其の度に国王は掛け合わず議論にすらならなかった。

しかし、今日此の時ばかりはナビス国王も話に耳を傾けるわけにもいかず、彼は深く考え込んだ。
たったの数分だろうが、一分一秒も惜しい斑虎には無限の時間に感じられた。

ナビス国王「わかった。すぐに、緊急事態宣言を発令し国軍を編成する。
ただ、我らには軍隊編成の仕方も判らない素人だ。
君には軍事顧問として我軍を率いてもらいたい。それでいいな?」

斑虎「わかりました。助かります――」

しかし、彼の判断はおそすぎた。

轟音が室内に響き渡った。
音の主は、外へと続く扉が勢いよく開け離れたことによるものだった。

そこにはびしょ濡れのままの兵士が立っていた。
絶望にまみれた表情で、王の謁見への挨拶も忘れ、彼は息も絶え絶えに叫んだ。

「報告しますッ!

先程、カキシード公国が同盟の破棄通達とともに、我が領地のカカオ産地に大規模進軍を敢行ッ!
少数の警備隊は壊滅し、カカオ産地はカキシード公国に支配されましたッ!!」

戦乱の火蓋はかくもあっという間に切って落とされた。


83 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 12:54:57.405 ID:AYZ3P7Eko
残りはまた後で。

84 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その1:2020/05/23(土) 20:15:43.533 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都 王宮】

「報告しますッ!王都周りの隊の配備、完了しましたッ!」

ナビス国王「ご苦労、下がっていいぞ」

厳かな声で国王は応じ、鎧を着た兵士は慣れない格好に苦労した様子でふらふらと走り去っていった。

斑虎「それでは一足先に行って参ります。本当に戦場に行かれるので?」

ナビス国王「当たり前だ。兵の士気を高めるためにはそれしかない」

斑虎「この間までは反戦を訴えていた方とは思えないお覚悟だ。いえ、褒めているんですよ?
ですがすぐに戦いになる。そうしたら王宮に引き上げてください」

ナビス国王「君には本当に苦労をかける。交渉事だけでなく戦乱の中でも我々は君に頼りっぱなしだ」

斑虎「滝さんからの帰還命令を断ってから、この国のために戦うと決めたんです。俺も感謝しているんです。
この国に来てから“生きている”という実感を得られます。
いまイキイキとしているんですよ。
まあ状況は至極不利ですがね」

ナビス国王「さしずめ、きのこ軍に追い詰められたたけのこ軍陣地本部ってところかな?今の此処は」

斑虎はふふっと笑った。

斑虎「いえ、それ以上ですよ。だけど勝負は最後までわからない。でしょう?」

斑虎は踵を返し王宮を出た。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

85 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その2:2020/05/23(土) 20:25:25.379 ID:AYZ3P7Eko
斑虎「へッ。久々の戦いが、国の存亡をかけた戦いだとは。腕がなるねえ」

オレオ王国は降伏を選択せず徹底抗戦の道を選んだ。ナビス国王が決断したのだ。

王国はカカオ産地を占領されるという、チェスの盤面で喩えればクイーンを取られ絶体絶命の状況に陥った。
即座の降伏案も考えられた。事実、斑虎も口に出そうかと思ったほどだ。
しかし、屈服を瞬時に否定し継戦を主張したのは意外にもナビス国王自身だった。

その後、カキシード公国は当初の目的であるカカオ産地の制圧意外にも、短期間で王国の領土の1/2を制圧した。
殆ど戦いらしい戦いは起こらず、散発的に発生した戦いでも急増の王国軍部隊では到底彼らの進撃は食い止められず、精々彼らの大休止を倍増させたぐらいだった。
公国軍は補給のことをあまり考えず、行軍をひたすら続けた。
兵の消耗も抑えられ、オレオ王国のほぼ中心に位置する王都は、公国軍の次なる“ハイキング”にはうってつけの目的地だったのだ。

しかし、その目論見を看破していた王国側は、密かに王都決戦の準備を始めた。
軍部顧問という名の王国軍の軍務トップとなった斑虎は、すぐに王都の陣地構築を進め、同時に少しでも公国軍を足止めさせるための策を展開し始めた。
全て【きのこたけのこ大戦】や【会議所】で学んだ知識だ。
数日も経つ頃には、王都周辺に強大な防衛線を配置し、急増部隊とともに一大決戦に備えることに成功した。

急増部隊の多くは国を守ろうと立ち上がった義勇兵たちだ。
王政打倒のデモ隊に遮られたこともあり、当初よりも参加する人数は少なくなってしまったが、だからこそ障害を乗り越えて駆けつけてきた兵士たちの士気は十分に高い。

さらに士気を上げる出来事がもう一つあった。
カカオ侵攻が報じられた次の日、突然、トッポ連邦から武器を含む大量の物資が届いた。
驚愕する王国側に、輸送役の行商人は、斑虎にある手紙を託し早々に引き上げていった。


86 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その3:2020/05/23(土) 20:26:50.494 ID:AYZ3P7Eko

『親愛なる友へ。
これは興国の崩壊を防ぐために一人で抗う“英雄”への一時の手向けだ。
本当は私自身も君の下に駆けつけ共に奮戦したいが、いま私の身は連邦政府に拘束されている。
ただ、旧くの友にも私から声を掛け君の力になるようにお願いをした。直に到着すると思う。

連邦政府は中立立場を貫くとなっているが、実際は公国の言いなりとなり、王国の滅亡を今か今かと待ち望んでいる。

私の力が足りなかった。だからこれは友人として約束を果たせなかった詫びでもある。

個人の資金でかき集めたものだ、上手く使ってくれ。
正義は我々にこそ微笑む。
最後まで、決して諦めるな。

たけのこ軍兵士 椿』

王都に運ばれてきた積荷は大名行列のように長蛇の列で荷台の渋滞を起こしていた。
次から次へと届けられる物資は、明らかに個人で用意できる量を凌駕していた。
ここまで大々的に動いてしまっては、直に彼の行動は公にされ連邦内では職を追われ、処罰もされるだろう。その未来を予期できぬほど愚かな男ではない。

だが、彼も斑虎と同じく“赦せなかった”のだ。
強大な一国家の向けた悪意がこれ程効果的で、非もない弱者が虐げられ泣き寝入りをするしか無いという事実を赦せなかったのだ。

二人は離れていながらも同じ信念を持っていた。
“正義”という眩しい理想を信じ続ける信奉者だったのだ。


87 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その4:2020/05/23(土) 20:30:48.308 ID:AYZ3P7Eko
王都の周りに広がる草花が生い茂っていたルヴァン平野は、今は塹壕のため凹凸の盛り土が多く用意され、掘り返された大地は剥き出しとなっている。
会議所地域にある大戦場と変わらなくなった見た目に、次にこの草原に緑が戻るのは何時になるだろう、と斑虎は思いを馳せた。
戦争とはこういうものだ。華々しい戦果の裏には必ず代償がある。

王国陣地に到着するや否や、斑虎は異色の集団に出くわした。
同色の甲冑を付けておらず思い思いの格好で戦いに臨む、見るからに傭兵集団だ。しかし、その全員が斑虎の見知った顔だった。

雑用係「おう虎さん。久しぶり」

傭兵集団の戦闘にいた男が声をかけた。ダークグレーのスーツに身を纏ったその男には見覚えがあった。

斑虎「雑用さんじゃないか、久しぶりだな。あんたもこの戦いに駆けつけてくれたのか」

雑用係「椿さんからの便りを見てな。王国の一大事に居てもたてもいられなくなってね。会議所からの静止を振り切って来たのさ」

雑用係は斑虎と同じく王国出身のたけのこ軍兵士だ。会議所加入は斑虎より遅いが、数多くの大戦で功績を残してきた戦闘のエキスパートである。

雑用係「他にも有志を募って会議所を抜け出してきたんだ」

雑用係の背後には見知った顔の兵士が数多く、きのこ軍・たけのこ軍問わず大勢の仲間が集った。

ビギナー「虎さん。あなたがこの軍を実質指揮しているんだって?越権行為じゃないかッ?ハハハッ」

メテオ隊「新しい魔法を覚えたんです。丁度使う良い機会だ」

現役兵士たちでひしめく集団の中には、大戦を引退したはずの老兵もいた。

シャンパン「久々の戦いだ、血湧くな」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

88 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その5:2020/05/23(土) 20:33:15.808 ID:AYZ3P7Eko
「報告しますッ!敵軍はノアール河を迂回しながら王都へ接近中ッ!もう間もなく、このルヴァン平野に侵入すると思われますッ!」

斑虎「よし、目論見通りだ。予定通り主力部隊を展開させ、敵の侵攻を食い止める。別働隊は敵の背後に周り込み敵の補給路を経つ。
孤立させた敵軍をここで叩く。全てのプランが上手くいかなかった場合は王都で籠城戦を行う。いいですね、ナビス国王?」

斑虎の提案にナビス国王は頷いた。

ナビス国王「皆の衆、よく聞いてくれ。王国の民も王国外から駆けつけてくれた者も、感謝している。本当に、本当にありがとう」

国王は軍勢の前に立ち、魔法の拡声スピーカーで語り始めた。

ナビス国王「我々は重大な戦局を迎えている。王国の興廃を決めるのは、正に今回の会戦だッ。敵は強大だッ!しかし我々には心強い味方がいる。

私の横にいるたけのこ軍兵士 斑虎殿だッ!」

話に上がると思っていなかったため、国王の横でビクッと肩を震わせた。

ナビス国王「貴君らも既に承知のことだろうッ!
斑虎殿は王国の窮地に、【きのこたけのこ会議所】から単身で駆けつけ、我が国のために公国側への交渉のみならず各国に働きかけを行い尽力してくれている御仁だ。
そして公国との戦乱に巻き込まれると、不退転の決意で会議所には帰還せず、我軍の実質的な編成や作戦指揮を担っているッ!
彼の働きで今日この日を迎えることが出来たッ!紛れもない名将だッ!!」

歓声が上がるにつれ、斑虎は顔を赤くした。

ナビス国王「私は彼のような英雄を忘れはしない。歴史も決して彼を忘れることをしないだろう。

“白き虎豹<こひょう>” 斑虎がいる限り、オレオ王国に負けはないッ!そうだろうッ!」

王国軍は怒号にも似た熱狂的な歓声で応えた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

89 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 20:33:39.010 ID:AYZ3P7Eko
次の更新で一章終わりです。いきまーす。

90 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その1:2020/05/23(土) 20:38:59.661 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都周辺 ルヴァン平野】

大会戦はその後すぐに始まった。
大軍を率いて予想地点から行軍をしてきた公国軍は何の躊躇もなく魔法の光弾をこちらに放ち、戦いの火蓋が切って落とされた。
光弾は次々に大地に刺さり炸裂した。しかし、事前に塹壕に隠れていた王国軍はほとんどの被害を出さず、公国軍の詠唱のタイミングで地上へ現れ怒号とともに突撃を始めた。
あまりの剣幕に余裕綽々でいた公国軍はたじろぎ、そのために序盤の戦局は王国軍が有利に進めた。

斑虎「『活破壊火閃』ッ!おらおら、次の敵はどこにいるッ!」

斑虎は戦いの中心にいた。両脇から抜いた二刀の剣で敵兵を斬り伏せた。

雑用係「おお、いいねェ“白き虎豹<こひょう>”さん!」

近くにいた雑用係はサブマシンガンでチョコ弾を発射し目の前の敵を掃討した。見る見る白ローブで身を包んだ敵兵は数を減らしていく。

斑虎「しかし、これは予想外だな…これ程までに公国軍の武器が充実しているとはな」

公国軍の攻撃手段は実に豊富だった。

魔法戦士の遠距離攻撃だけではなく、詠唱段階に入るとその間に速射砲や連射砲など間髪入れない砲撃を繰り返し敢行した。
接近戦に持ち込んでも彼らは魔法に頼らず、サブマシンガンや銃剣など多彩な手段で王国軍と対峙していた。

『公国軍は魔法に頼り過ぎで、武器は前時代のものばかりだよ』

いつか、会議所で791が語っていた言葉だ。
その言葉を鵜呑みにするには早計ではあったが、接近戦に持ち込めば【大戦】経験者が多いこちらにある程度の勝機を引き寄せられると踏んでいたため、想定外の接戦だ。

歴史上、カキシード公国は【大戦】に参加する兵士が多くはおらず、戦いの熟練度でいえば実は王国軍よりも高いとは言えない。
ただ、それを上回る銃火器で王国軍は押されつつある。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

91 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その2:2020/05/23(土) 20:46:25.429 ID:AYZ3P7Eko
先頭にいた公国兵が槍を突き出すも、斑虎は華麗に体捌きで避けた。
敵兵の背後からはローブの魔法兵がネギの形をした小型弾を発射してきた。

斑虎は、よろけて前のめりになっている槍兵の肩に片足を載せると華麗に宙に跳んだ。
そして空中でネギ弾を剣で真っ二つに斬り、さらには落下地点にいた魔法兵ももう片手の剣で斬り伏せた。
正に虎のような獰猛さと豹のような素早い身のこなしで、斑虎はその名の通り、獅子奮迅の活躍をしていた。

ビギナー「いまの魔法はもしや…」

斑虎「ああ。恐らく、791さんの言っていた“魔法学校”出身の兵士だろう。あのネギ魔法は791さんが使っていたものそっくりだ。威力も速さもてんで足りないがな」

その場でうつ伏せに斃れた魔法兵を一瞥し、斑虎は一瞬公国に捕われているだろう791と親友のsomeoneの顔を頭の中に浮かべた。

―― 彼らは今何処で何をしているのだろう。無事でいるのだろうか。


92 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その3:2020/05/23(土) 20:50:10.027 ID:AYZ3P7Eko
彼の意識を瞬時に現実に戻したのは、予想外の爆音だった。
地を揺るがすほどの爆音とともに、前方の公国軍側に数十m規模の火柱が上がり、次いで背後の王都側でも同様の爆音が鳴り響いた。

斑虎「何事だッ!」

公国軍は一斉に進撃を停止した。その反応から公国からの攻撃でないことはすぐに察知できた。

「わかりませんッ!敵軍前方で謎の火柱を確認ッ!我軍の攻撃ではありませんッ!ですが、同時に王都の方にも火柱が上がっていますッ!」

斑虎は下唇を噛んだ。王都に攻め込まれないように斑虎たちのいる主力軍をカバーするように、敵軍の背後に周る別働隊がいたはずだ。
もし王都が襲われるとしたら別働隊を突破されたということになる。
非常にまずい状況だ。

斑虎「この場は任せるッ!私は王都に戻り状況を確認するッ!」

「護衛の兵をつけますッ!」

斑虎「大丈夫だッ!今は一人でも多く目の前の戦いに兵を投入して目の前の勝利をもぎ取れッ!」

斑虎は馬に跨り黒煙の上がる王都へ急ぎ向かった。


93 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その4:2020/05/23(土) 20:53:05.541 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都】

王都は数刻前にみた景色とはうってかわり、各地で黒煙と爆炎が上がり、王都全体が赤黒く染まっていた。
逸る気持ちを抑えながら馬を降り、斑虎は倒れていた王都守備兵に駆け寄った。

斑虎「おいッ!無事かッ!いったい何があったッ!?」

「ば、化け物が…一瞬で王都を…粉々に…」

倒れていた兵士は苦しみながらも、先刻の恐怖を思い出したのかガタガタと震えだした。

「別働隊が…突破され…あいつらが…王都に…王都に…」

斑虎「わかった。ありがとう、休んでいてくれ」

斑虎は兵士を横たえ、すぐ隣に位置していた、城下町への大門だった“はず”の場所を見た。
石でできた大門は跡形もなくぐしゃぐしゃに崩れ去り、なにか得体のしれぬ“災厄”が通り過ぎたことを予感させた。
不幸なことに、王都は激しい火災に見舞われ、少し先の状況も見通せぬ視界の悪さだった。

斑虎「ナビス国王のことも心配だッ!すぐに王宮に向かわなくてはッ!」

一歩町に足を踏み入れた斑虎は、自らの予感を遥かに超えた最悪の事態に思わず顔をしかめた。
大通りは轟々と燃え盛る黒煙で行く手を封じられ、住宅街は家ごと他の家にもたれかかるように積み重なりぺしゃんこになっている。

まるで子どもが積み木で遊びその後にそのまま放置したかのように、建造物は連なり崩れている。明らかに人外の力が王都を襲っているとしか考えられない。
数多くの疑問を抱えながら斑虎は疾走った。先程聞いた爆音こそ今は耳に届かなかったが、それが却って斑虎を不安にさせた。


94 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その5:2020/05/23(土) 20:55:09.375 ID:AYZ3P7Eko
王宮に辿り着こうとした丁度その時、斑虎の眼前に信じられない光景が飛び込んできた。

斑虎「なんだこれは…ありえない」

【きのこたけのこ大戦】でも経験したことのない事態に、一瞬斑虎は言葉を失った。
王宮前にいた“敵”は斑虎を視界の端に捕えると、すぐさま攻撃体勢に入った。

斑虎「お前はなんだ…なんなんだッ!!」

敵の殺意に気がついた斑虎はすぐ構えようとするが、瞬間の反応が遅れた。
両手に持つ剣で防ぐにはあまりに“敵”の攻撃は強大だったのだ。



「斑虎さん、あぶないッ!!」



見知った人間の声が横から聞こえた気がした。


しかし、斑虎の視界と意識は目の前の“敵”を捉えたまま外すことができず――






その直後、爆音が王都に鳴り響いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

95 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 20:57:01.179 ID:AYZ3P7Eko
かくして一章は終わります。
二章 Tejasさん編もお楽しみに!

96 名前:たけのこ軍:2020/05/23(土) 21:23:57.435 ID:LOWd3G1w0
いい引き

97 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/30(土) 10:41:31.252 ID:EGCyId9co
第二章突入。
全7回の更新を見込んでおります。ただ今回の更新はけっこう長いです。

98 名前:Episode:“マイスター” Tejas :2020/05/30(土) 10:44:27.978 ID:EGCyId9co




・Keyword

マイスター:
1 名人。職人。
2 専門分野のエキスパート。一癖も二癖もある巧みな技術者。





99 名前:Episode:“マイスター” Tejas :2020/05/30(土) 10:46:40.821 ID:EGCyId9co





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きのたけカスケード 〜裁きの霊虎<ゴーストタイガー>〜
Episode. “マイスター”

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100 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その1:2020/05/30(土) 10:50:40.140 ID:EGCyId9co
【オレオ王国 カカオ産地 避暑地】

カカオ産地からチョ湖寄りに進んだところに広がる別荘地帯。
白を基調とした漆喰で塗られたロッジ群の中のとあるコテージに、会議所の“若き技術者”は居た。

明け方頃。少しだけ開けていた窓からそよ風が流れてくる。
その風に流れてカカオの好ましい香りが窓際で眠っている主の鼻孔をくすぐった。
暫くは布団にくるまり惰眠を貪り続けていたが、断続的に風に流れてくるその甘美な匂いに抗うことができず。

きのこ軍兵士Tejas(てはす)は静かに目を覚ました。


暫くは覚醒状態にいたがベッド上で何度か瞬きをすると、それが合図となったかのように、Tejasは弾んだバネのように身体を起き上がらせすぐにベッドから降りた。

そして動きが決まったメイドのように淀みない足取りでキッチンまで赴き、水を入れたコーヒーサイフォンにランプで火を付け、湯を沸かし始めた。

湯が沸騰するまでの間に彼は洗面所へと移動し、きっちりと決まった回数だけ顔を洗うとタオルで顔の水滴を拭い再びキッチンへ戻った。
計ったように丁度沸騰したフラスコを見ながら、今度は決まった分量のコーヒー粉をロートに振りかけフラスコの上にセットした。

そして美味しいコーヒーが出来上がるまでの一分の間に用を足し、再びキッチンへ戻る。
ここまで身体を止めること無く、且つ時間配分にも無駄がなく動き続ける彼は、演台の上で懸命に指揮棒を振る指揮者のように洗練された所作をしていた。

熱々のフラスコからマグカップにコーヒーを注ぎ、仕上げとばかりに自身の好物のチョコをひとかけら入れマドラーでかき混ぜれば、あっという間にホットチョコの完成だ。



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