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きのたけカスケード ss風スレッド

1 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:24:14.292 ID:MbDkBLmQo

数多くの国が点在する世界のほぼ中心に 大戦自治区域 “きのこたけのこ会議所” は存在した。

この区域内では兵士を“きのこ軍”・“たけのこ軍”という仮想軍に振り分け、【きのこたけのこ大戦】という模擬戦を定期的に開催し全世界から参加者を募っていた。
【大戦】で使用されるルールは独特で且つユニークで評判を博し、全世界からこの【大戦】への参加が相次いだ。
それは同じ戦いに身を投じる他国間の戦友を数多く生むことで、本来は対立しているはずの民族間の対立感情を抑え、結果的には世界の均衡を保つ役割も果たしていた。
きのこたけのこ会議所は平和の使者として、世界に無くてはならない存在となっていた。


しかしその世界の平和は、会議所に隣接するオレオ王国とカキシード公国の情勢が激化したことで、突如として終焉を迎えてしまう。


戦争を望まないオレオ王国は大国のカキシード公国との関係悪化に困り果て、遂には第三勢力の会議所へ仲介を依頼するにまで至る。
快諾した会議所は戦争回避のため両国へ交渉の使者を派遣するも、各々の思惑も重なりなかなか事態は好転しない。
両国にいる領民も日々高まる緊張感に近々の戦争を危惧し、自主的に会議所に避難をし始めるようになり不安は増大していく。

そして、その悪い予感が的中するかのように、ある日カキシード公国はオレオ王国内のカカオ産地に侵攻を開始し、両国は戦闘状態へ突入する。
使者として派遣されていた兵士や会議所自体も身動きが取れず、或る者は捕らわれ、また或る者は抗うために戦う決意を固める。

この物語は、そのような戦乱に巻き込まれていく6人の会議所兵士の振る舞いをまとめたヒストリーである。



                 きのたけカスケード 〜 裁きの霊虎<ゴーストタイガー> 〜



近日公開予定

140 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その3:2020/07/10(金) 15:42:16.556 ID:xO8HNv3go
オリバー「こらァッ!こんな速度きいてないぞッ!」

瞬時に路地裏を抜けていく中、運転手のTejasは気持ちよさそうにニヤリと笑い、無言で自身の胸を指差した。ジャケットの中に入れということらしい。
オリバーは舌を突き出し反抗の意志を示しながらも、するりと彼の服の中に収まった。
例のごとく、顔だけは外に出しままだ。

Tejas「大通りに出るぞッ!」

彼がそう告げた時には、もうホースバイクは大通り沿いに飛び出していた。

――アレグロ(快速に)。

彼は慣れた手さばきでバイクの角を傾けホースバイクを傾け通りの端で旋回した。
その後にバイクは再加速し通りを快速で飛ばし始めた。

圧巻だった。その一言に尽きた。

乗り物といえば、田園地帯をのんびりと歩く牛車や馬車にしか乗ったことがなった。オリバーにとってそれが日常であり常識だった。
否、確か過去に自らの“主人”が語っていたかもしれない。

『世界には人智を結集させて発明した熱機関を使い、機関車や船舶などあらゆる乗り物が溢れている。その最新技術が他の国では発展している』と。

当時のオリバーは早く外の世界を見たくうずうずしており、主人の語る言葉はあまり気にかからなかった。
その人智の結晶たる技術をいま正に、オリバーは顔に精一杯の風を受けながら体感していた。


141 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その4:2020/07/10(金) 15:43:30.899 ID:xO8HNv3go
大通りを移動していると、二人は正にいま行われている公国の侵略風景を目の当たりにした。
通りには先程と同じ鎧やローブを身にまとった公国兵たちでひしめき合っている様子が見えた。
出歩いていた一般人たちだろうか、彼らは両手を壁に付け、公国兵たちに服従の意を示している様子が快速で飛ばしながら何度か目に写った。

そういった光景のすぐ横を通り抜ける度に、ひゅっと風切り音がオリバーの耳に嫌でも届いた。
体感以上の速度と衝撃を感じ彼の小さい頭脳は悲鳴を上げていた。公国兵たちが自分たちに気づいているのかどうかもわからない。
この姿勢で振り返って背後を確認しようものなら振り落とされてしまうだろう。

別荘地帯を抜けると視界一面にカカオ畑が広がった。
普段なら辺りから漂う香ばしい匂いは、その先で爆発炎上するチョコ精錬所地帯から流れてきた硝煙の臭いに完全に上書きされ、かき消されていた。

バイクは速度を落とさずチョコ精錬所の方へ向かっていく。ひたすらチョコ精錬所の方へ――

オリバー「おい、どこに向かっているんだッ!?チョコ精錬所の方に向かう意味はなんだッ!?」

オリバーは声を張り上げすぐ頭上の運転手に問いかけた。

Tejas「さてね。会議所に戻ろうとしたが、会議所はどっちだっけ?」

思わず怒鳴りそうになるのをぐっとこらえ、オリバーは声を震わし“チョ湖の方だ”と伝えた。
すると頭上の運転手は“おお、真反対じゃないかッ”と素っ頓狂な声を上げ、あっさりと角を操作し機体を反転させた。
急な旋回にオリバーの頭痛はサイレンのようにますます痛みだし、『いっそこの場で投げ出されたほうがこれからの苦しみを味わなくてはいいのではないか』と思うほどに弱々しくなった。


142 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その5:2020/07/10(金) 15:45:21.897 ID:xO8HNv3go
引き返し再加速までを終えた二人が先程の大通りに差し掛かると、通りの入口付近には切れに整列した公国兵小隊が待ち構えていた。

「あそこにいたぞ!“馬乗り”のやつだッ!」

前列には銃兵部隊を配置し、後列には魔法詠唱部隊まで揃えている正規の隊列で待ち構えている。
さぞ先程通り抜けた姿が快速過ぎて、兵士たちに強い警戒感を抱かせたのだろう。

Tejas「おいオリバー。身を低くしながら捕まってろッ、加速するぜッ!」

オリバー「これ以上ッ!?」

――プレスティッシモ(非常なまでに急速に)。

敵に突入する最中、Tejasはその身を下げつつ右手で再度そっと胴体を撫でた。

機械馬は今日一番の唸り声を上げ超加速しつつ、Tejasはすぐさま握り部の角を手前に引き寄せた。
するとホースバイクの前輪は天に向き、ロデオの姿勢のままでバイクの腹を向けたまま敵に突撃する形となった。

「フルファイアッ!」

隊長の一声を合図に、兵士たちはホースバイクに向かい一斉に発泡を始めた。
直後のオリバーの悲鳴は、公国兵からの発砲音と魔法の炸裂音でかき消された。
銃弾や魔法の光弾は全てホースバイクのお腹の部分が受け止めつつ、鋼の塊が高速で近づいてくるさまは、公国兵からすれば恐怖以外の何者でもなかった。

「さ、散開ッ!轢かれるぞッ!」

隊長の指示を待たずに生に貪欲な数人の兵士は武器を捨て逃げ出し、残りの兵士たちも遅れること数秒後、ハッとしたように背を向け逃げ出した。
すぐに散り散りになった小隊のど真ん中をホースバイクが悠々と通過した。
通過と同時に重心を前に向けたTejasはすぐにホースバイクの前足を下ろし同時にさらにスピードを上げた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

143 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その6:2020/07/10(金) 15:48:33.384 ID:xO8HNv3go
【オレオ王国 カカオ産地 チョ湖湖畔】

公国軍の攻撃を振り切った二人は、その後数km先にあるチョ湖の湖畔付近を走行していた。
湖畔ではサトウキビの栽培が盛んに行われているためか、背の高い作物たちに囲まれながらホースバイクは快速を保ちながら轍を走っていた。

Tejas「いやあ、久々に楽しめたなッ!またやろうなッ!」

オリバー「バカヤロウッ!おれは二度とテメエの運転に付き合うのはごめん、だぜ…」

意識を戻したオリバーはよろよろと顔を服から突き出し、外の空気を弱々しく吸い込んだ。
今は顔に当たる風がそよ風のように心地よい。

Tejas「敵の奴らも巻いたし、このまま会議所まで――ん?」

プスッ、プスッ。
明らかにこれまでの機械音には無かった異常音が断続的に鳴り続き、その直後にガコンという鈍い音ともに激しい衝撃が二人を襲った。
Tejasは後ろを振り向きすぐに首を横に振った。

Tejas「これはまずいッ!部品が取れちまったし、チョコも漏れてるッ!止めないと爆発するなッ!」

徐々に機械馬はスピードを落とし、やがて二人の背後から煙を吹かし完全に停止してしまった。

Tejas「さっき敵に撃たれた時に燃料庫をやられていたか。他の部品に引火しないだけ運がよかったな…」

ブツブツとつぶやきながらTejasはホースバイクから飛び降りた。

そのすきにTejasの胸の間からするりと抜け出し地に降りたオリバーは、数日分の体内の空気を外に逃がすかのように深く息を吐いた。

オリバー「もうあんな目にあわなくてすむだけ、まだ運がいいのか悪いのか…」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

144 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その7:2020/07/10(金) 15:49:39.609 ID:xO8HNv3go
広大なチョ湖を眼前にしながら、Tejasたちは早くも移動の手段を一つ失った。

チョ湖を間にオレオ王国ときのこたけのこ会議所は接している。
数十km先の対岸は確かに会議所の領地だが、その間には鉄橋や石橋など無く物理的に渡ろうと思えば、気の遠くなるほどの距離を泳ぐしかない。

仮に泳ぎきり終えても、対岸は断崖絶壁の崖が連なる丘陵地帯のため会議所領地に足を踏み入れることは事実上不可能に近い。
そのため会議所へ帰るためにはこのチョ湖の周囲をぐるりと周り陸地で接した地域から会議所領地に入る手段しか無いのである。

Tejas「さて。どうやって帰るかね」

頭をポリポリと掻きながらTejasは同行者を頼るしかなかった。
二人は少しの間押し黙った。その間耳に届くものといえば、湖畔の水の波音に背後で遠くに響く砲撃音と爆発音だった。

Tejasは急速に冷静さを取り戻した。ここは数刻前から戦場となり自分たちは追われている。
バイクの運転で気が昂りすっかりと自分たちが窮地に陥ったままだということを忘れていた。

オリバー「お前が泳ぎとクライマーの達人ならこの湖を超えていけばいいさ。
そうでないなら、ひたすら湖沿いに歩いて会議所領地に駆け込むしか無いな。
でもこんな状況だし、今は国境封鎖でもされているんじゃねえか?」

Tejas「それに関しては、俺の顔を見れば入れてくれるだろうけどな。まあどのみち、ここに留まってもどうしようもないな」

Tejasはお別れをするように、横倒しになり煙を上げている機械に右手でそっと一撫でした。
主人の思いが通じたのか機械馬の心臓部の小箱は一瞬だけブルブルと反応し、すぐに静かになった。


145 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その8:2020/07/10(金) 15:50:41.298 ID:xO8HNv3go
「こちらの方から煙が上がっていたぞッ!急げッ!」

すると、二人の後方から公国兵たちの大声と慌ただしい軍靴の音が近づいてきた。

オリバー「まずいッ!すぐにここを離れようッ!」

Tejas「言われなくてもッ!」

オリバーはひょいとTejasの肩に飛び乗ると、器用に彼の腰程の位置にあるポーチに入り込んだ。
Tejasは近くのサトウキビ畑の中に飛び込み身を伏せながら移動し始めた。

公国兵たちの声が次第に大きくなってくる。今は身を隠せているが、もし魔法でこの辺りを燃やされでもしたらひとたまりもない。
しかし走っては物音ですぐに敵軍に気づかれてしまう。そのため、作物を掻き分けながらTejasたちは慎重に進んだ。
一歩一歩進む度に、まるでサトウキビの葉がTejasをあざ笑うかのように彼の眼前でカサカサと音を立て嗤っていた。

そんな雑念を払うように背後の公国兵たちに意識を向けていたTejasは、よもや進行方向上が斜面になっているとは気づかず、思わず足を滑らせてしまった。

Tejas「しまったッ!」

オリバー「うおッ!」

体勢を崩したTejas尻もちを付きながら斜面となった獣道に身体を打ち付けることになった。


146 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その9:2020/07/10(金) 15:51:56.977 ID:xO8HNv3go
Tejas「イテテ…オリバー、大丈夫か?」

オリバー「ああ、おれは落ちる前にポーチから抜け出したから無事だったぜ」

なんて卑怯な。そんなTejasのうめき声は無視し、オリバーは突如現れた獣道の下る先に目を向けた。
Tejasが尻もちをついた獣道は、まるでそこだけを避けるように作物が一切生えていなかった。
そして、数m先にあった小さい横穴まで続き、道は途絶えていた。

四方は相変わらず人間の背丈程のサトウキビが自生していたが、かえってこの叢がこの洞穴の存在を隠匿しているようにも思えた。
他の道はわからないが、もしこの洞穴がこの場所にしか無いというのならこの場所を引き当てたのは奇跡といえるほどに、目印らしい目印はなかった。
まるで大型のモグラが掘ったかのような洞穴にオリバーは顔を突っ込み、すぐにTejasに手で合図を出した。

オリバー「おい、奥は結構広そうだぜ。先に行ってるから、公国兵に見つかる前に早く来いよ」

声を潜めオリバーは洞穴の中に入っていった。

腰をさすりながらTejasも中腰で起き上がり続いた。モグラの洞穴は近づいてみると、人一人が腹ばいになり通れるほどの大きさはあった。

少し背後ではガサガサという足音ともに公国兵がサトウキビ畑に侵入した音がきこえてきた。

どのみち、この状況では会議所に戻るなど夢のまた夢だ。
ならば、一時でも身を隠し公国兵を巻くしか無い。
追い込まれた寿命が少し伸びた気分でしかないが。

Tejasは半ば諦観に近い思いを抱きながら、洞穴に頭を突っ込んだ。


147 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/07/10(金) 15:52:26.327 ID:xO8HNv3go
少し長めでしたが。本章はあと二回の更新で終わります。

148 名前:名無しのきのたけ兵士:2020/07/11(土) 22:20:04.545 ID:6oF9hC1Y0
ピンチの切り抜け方 おもしろそう

149 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その1:2020/07/18(土) 18:21:01.624 ID:yMC9/8xUo
モグラの洞穴は思っていたよりも遥かに長く、緩やかに地下まで続いているようだった。

だが、最初はTejasの中腰程度の高さだった洞穴が、次第に人一人が通れるほどの大きさへと変わり、終いには掘削機で掘ったかのような広大さを誇るようになるに至った過程を目の当たりにし、
この穴は人為的に掘られたものだとTejasは確信した。

暫く進めば入り口から漏れていた外の光はすぐに消え失せ、洞窟内は一切の闇に包まれていた。
Tejasは手を洞窟の壁に当てながら方向感覚を失わないように歩いた。外が雨模様だからだろう、土の壁はほんの少し温く湿っていた。

少し前ではオリバーの歩いている音こそ聞こえるが、姿を捉えることができない。それに彼の歩く速度は少しずつ早くなっているようだった。
なにかに逸る同行者を止めるべく、Tejasは声を張り上げた。

Tejas「おい、オリバー。先にいるのか?」

オリバー「あ、ああ。すまん、先に進みすぎた。おれは夜目がきくからな」

前方から少し焦り気味の返答があり、歩く速度は少し落ち着いたようだった。これで彼を見失う危険性こそ減ったが、視界の悪さに対する根本的な解決策はない。
やれやれ、火属性の魔法を使って辺りを照らさないといけないな。と、Tejasが得意ではない魔法を使おうとしたその瞬間。

先頭からパチンというフィンガースナップのような小気味よい音が鳴り響き、途端にどこからともなく火の玉が表れた。
人の顔程度の大きさの火の玉は二人の周りをくるくると一周し召喚された喜びを表現しながら同時に辺りを明るく照らした。

Tejas「魔法、使えたんだな」

オリバー「まあな」

火の玉に照らされたオリバーは、少し罰が悪そうに俯いていた。
隠していたわけではないが、若干の後ろめたさはあった。
自らの正体を明かしていないのだから無理はない。近頃の犬っころは魔法も使えるんだぜ、と冗談の一つでも言えればよかったが今はそんな気分でもない。


150 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その2:2020/07/18(土) 18:22:27.228 ID:yMC9/8xUo
後方を再度確認した。
公国兵たちが洞穴に迫ってくる様子はない。ひとまずは身の安全を確かめられたといってもいいだろう。

オリバーは今朝から疑問に思っていたことを直接、Tejasに確かめることにした。

オリバー「いい加減教えてくれ。あの時、あんたは一体何をして公国兵を気絶させたんだ?」

こちらに近づこうと歩き始めていたTejasは再び立ち止まった。

ぼんやりと火の玉に照らされた彼を見て、そこでオリバーは初めて彼の“特異”の一端に気がついた。

オリバー「おまえ、一体いつから“それ”を付けていた…?」

短時間でお互いに色々なことがあった。
オリバーもホースバイクの恐怖の走行から完全に立ち直ってはいなかったが、オリバーの思っていた以上にTejasは外傷がひどかった。

身体はススで黒く汚れ、頬や足首は叢によるものか裂傷が目立ち逃避行の悲惨さを物語っていた。
さらに彼の羽織っていた革のジャケットもぼろぼろになり、いつの間にか二の腕あたりの袖部分が破れ、血の滲んだ肌が僅かにむき出しになっていた。
洞窟に入る前には気が付かなったが、もしかしたら既に地上に居た時から破けておりオリバーが見落としていただけかもしれない。

いずれにせよ、この状況下で初めてオリバーは気がついた。

顕となった彼の右腕には、まるで刺青のようにぎっしりと【魔法の紋章】が描き込まれていたのだ。


151 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その3:2020/07/18(土) 18:24:51.099 ID:yMC9/8xUo
オリバー「おまえ、その【紋章】は――」

Tejas「俺の右手はな…“呪われて”いるんだ」

オリバーの言葉を遮り、Tejasはポツリと呟いた。

オリバー「…呪われているだと?」

オリバーは、今度はまじまじと彼の右腕を眺めた。
思えば、いつも何かしら長袖の上着を身につけていた彼の右腕を直視したことはなかった。
初夏だというのにおかしいとは思っていたが、彼が“変人”であると知っていたので、あまり気にとめていなかった。

彼の右腕にかけられている【紋章】とは、魔法を発生させる魔法陣の代わりに使われる術式である。

そもそも魔法とは、魔法使いが魔法陣を生成、媒介とし詠唱することで人智を超えた業を解き放つ術である。
【魔法の紋章】とは都度呼び出す魔法陣の代わりに、強大な魔法力で永続的に陣を生成し世に縛り付ける高等儀法だ。

それゆえ、【紋章】は呪いにもなり得る強力な術式だ。
広大な魔法力を持つ者にしか【魔法の紋章】を創り出すことはできない。【紋章】を創るということは魔法使いにとって一種のステータスにもなるのだ。
その【紋章】には魔法使いの誇りと自信の表れとして、詠唱発生させる魔法や魔法使いの“意図”となるフレーズが描き込まれていることが殆どだ。

これらは訓練をしないと見る者も判別することはできないが、凡そ中級以上の魔法使いであれば会得していることが多い。
自らを中級以上の魔法使いであることを自覚しているオリバーであったが、彼の右腕に刻まれている紋章については内容を一切読み取ることができなかった。
それは即ち、Tejasにかけられている“呪い”が相当高度な魔法であることの裏返しでもある。

ただ、紋章の節々に表れる魔法の“フレーズ”に、オリバーは見覚えがあった。


152 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その4:2020/07/18(土) 18:25:54.635 ID:yMC9/8xUo
オリバー「これは、カキシード公国古来の魔法陣、だよな?…お前が詠唱したわけではないな。あの国で何かしたのか?」

Tejasは笑いながら首を横に振った。

Tejas「いや、公国には行っていない。
子供の頃、近くに住んでいた魔法使いにちょっとした呪いをかけられてな。
それ以降、ずっと右腕はこのままだ。洗っても傷つけても消えやしないのさ」

オリバー「紋章は魔法陣のポータル版だからな。魔法の性質によっては、術者がいなくなっても永久発動するものもある。
何年経っても消えないということは、あんたにかけられた紋章は恐らくその類のものだろうな」

Tejas「随分詳しいんだな?」

オリバー「…おれはカキシード公国の出身だからな。魔法に関することであれば詳しいさ」

オリバーはまたも罰が悪そうに目をそらしながら答えた。彼が答えに詰まる時は、罪悪感を覚えているか嘘をついている時しかない。
短い付き合いながらTejasは彼の性格を理解し始めていた。

Tejas「まあ、それで。この呪いを受けてから俺の右手だけが特異な力を持つようになったのさ。具体的に言うと、右手で触れたものに俺は何であろうと“干渉”できるようになった」

オリバー「干渉…?」

Tejasは唐突にオリバーの視線の前まで屈むと、何の断りもなく自身の右手でオリバーの前脚を掴んだ。


153 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その5:2020/07/18(土) 18:27:40.087 ID:yMC9/8xUo
オリバー「なにしやがッ……!!」

ちらりと見えた彼の右腕の紋章が青く光ったその瞬間、オリバーの脳内に走馬灯のように数多くの光景が浮かび上がってきた。

オリバー「な、なんだこれは…ッ!」

セピア色にかかった思い出が、脳内に写真のように次々と浮かび上がっては消えていった。

―― 幼い頃、かけっこが遅く周りからいじめられていた記憶。
―― 仲の良い友達と駄菓子屋に行き初めてもぎもぎフルーツを食べた記憶。
―― その友人たちと山奥の小屋に忍び込もうとした記憶。
―― そして、ローブを被った無口な魔法使いが杖から放った閃光を間近で見た記憶。

印象深い記憶が表れては消え、また表れては消えてゆく。

ただ、この記憶はすべてオリバー自身の記憶ではなかった。

Tejasの記憶なのだ。
全てTejasの目線で起きた記憶が、オリバーの脳内にどんどんと流されていった。

Tejasがパッと前足を離すと、それまで濁流のように流れ込んでいた脳内の記憶は瞬時に消えた。

Tejas「これが俺の記憶だ。説明するよりも早いだろ?」

オリバー「ハハッ…そういうことかよ」

Tejas「俺の右手はあらゆる万物に“干渉”し、俺が持っている情報を流し込むことができる。転用すれば一種の精神汚染攻撃なんてこともできる」

Tejas「また、この右腕には“転送”能力もある。たとえばオリバーと本当の子犬とをロープで結んでおいて、そのロープを俺の右手が掴めば、お前たちは俺を介して“繋がった”状態になる。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

154 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その6:2020/07/18(土) 18:38:01.251 ID:yMC9/8xUo
オリバー「さっきの兵士とお前はロープを介してその能力でつながり、お前のびっくり脳内映像でも相手に流して気絶させたというわけか。
万物に干渉する…まるで神みたいだな」

内心でオリバーは計り知れない衝撃を受けていた。
目の前で起きた能力の異端さだけに驚いていたわけではない。

以前オリバーの“仕事”の依頼主から、Tejasの能力について話を聞かされたことがあった。
依頼主たる彼の主人は、オレオ王国へ旅立つ直前のオリバーにTejasのような能力を持つ人物を【鍵】と表現した上で、次のように告げた。

『今回の一連の事態の主謀者は【鍵】を欲している。【鍵】があれば主謀者が従える眠った駒を完全に蘇らせることができる。
しかし幸運にも、その【鍵】は遠い場所へ旅立ち容易に戻っては来ない。お前の役目は、もしそいつを見つけても、決して会議所に戻してはいけないことだ』と。

まさに【鍵】とはTejasの事を指していたのだ。

Tejasの“特異”がこの一連の戦争を集結させる【鍵】となるのだ。
知らずのうちに、オリバーはゴクリと喉を鳴らし事態の重要さを理解した。

オリバー「信じられねえな。そんな便利な能力があったとはな」

声の震えを悟られないように、オリバーは低い声で喋らざるをえなかった。

Tejas「言っただろ?“呪い”だってな。俺はこの能力と一生付き合わないといけない。それに何も便利になるだけじゃない。こいつには“制約”もあるのさ」

オリバー「制約か…ん?なんだ、あれは?」

先に先導していた火の玉は少し先が行き止まりになっていることを二人に告げるように、辺りをぐるぐると周った。
その行き止まりには土の壁の中には不自然な、鋼鉄の扉がそびえ立っていた。


155 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その7:2020/07/18(土) 18:39:48.566 ID:yMC9/8xUo
Tejas「こんなところに扉があるなんて妙だな。ん?どうしたオリバー?」

横で呆然としているオリバーを見て、Tejasは心配そうに声をかけた。
先程のTejasの告白に続き、次々と明らかになる事態にオリバーの頭はパンク寸前だった。

オリバー「信じられねえ、やはりここが…いや、でも。確かに、位置的にいえばここは湖の底。そうか緊急脱出通路なのか…」

ブツブツと呟く彼を尻目に、Tejasは扉に近寄った。鋼鉄でできた扉はさすってみると埃も被っておらず錆びてもおらず、最近設置されたものだと一目で理解した。
唯一変わったところといえば、扉の表面には静脈のように扉中に張り巡らされた印が青く光り存在感を放っている。

Tejas「これはもしかして――」

オリバー「――そう、お前に憑いているものと同じ【紋章】だな。どうやら見る限り、魔法無効の術が施されているらしい」

Tejasの術式とは違い、扉に憑いている【紋章】は比較的中身が読み取りやすい部類だ。

Tejas「それに鍵もついているな」

扉の取っ手部分にはとこれまた真新しい錠前が何個も取り付いていた。
【紋章】に加えて四つも鍵を取り付けているところを見ると、この扉を設置した者は先日のチョコ屋の店主よりも用心深い人物のようだ。

オリバー「魔法でぶち壊せないとなると、鍵があっちゃあ開かないじゃねえか」

Tejas「おいおい、俺を誰だと思っているんだい?自称“マイスター”だぜ?」

Tejasは左手で胸ポケットから“仕事”のための工具を取り出した。襲撃の時に咄嗟に持ってきたものだが、早速役立つことになり内心ホッとした。

Tejas「3分で片を付けよう。難しいが、新記録を狙うよ」

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156 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その8:2020/07/18(土) 18:41:52.697 ID:yMC9/8xUo
自らが課した課題は必ず応えなくてはいけない。これが彼の信条であり【制約】でもあった。

達成しなければ“呪われた”右腕が暴走し彼の生命を吸い取っていく。

右腕の紋章が古傷のようにジュクジュクと痛みだした。
失敗した際に【紋章】の呪いが彼の生命を吸い取ろうと、今か今かと待ち構えているのだ。

自らの生命を賭け、困難に挑戦するこの瞬間が、Tejasはたまらなく好きだった。

―― アダージョ(ゆるやかに)。

自らを信用し信頼しない限り勝利はあり得ない。
急がなければならないこの刻に、Tejasは敢えて普段の所作で“仕事”に取り掛かる選択肢を選んだ。

一気に目先の錠前に意識を集中する。左手で錠前の鍵に工具を差し、右手では虚空のトランペットを吹く。いつものルーティーンは変わらない。
数秒も経たないうちに一個目の錠前は外れ地面に落ちていた。

―― アレグレット(やや速く)。

逸る気持ちを抑え、引き続きTejasは落ち着いた所作で次の鍵の解除に取り掛かる。

オリバーは目の前の“マイスター”の仕事様に、ただ言葉を失いながら見るしかなかった。
その中で、オリバーは初めてTejasが右手を頑なに使わない理由がわかった。
最初は左利きかと思っていたが、その理由は彼の右手が呪われていたことに理由があったのだ。

―― ビバーチェ(生き生きと)。

既に3個の錠前を外しながら、Tejasは弾むような手付きでラストスパートにかかった。右手は演奏こそしているものの、特定の曲を刻んでいるわけではなかった。
これまではどれも最初からアップテンポに刻んだリズムだったので、このテンポにちなんだ曲を持ち合わせていなかったのである。
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157 名前:Episode:“マイスター” Tejas  呪い編その9:2020/07/18(土) 18:42:37.267 ID:yMC9/8xUo
Tejas「ほい、できた。型式はどれも新しいし最近取り付けたんだろうな」

余裕綽々といった様子で工具を元の胸ポケットに戻した。
時間は2分40秒。余韻に浸る間もない。

オリバー「あんた、本当にすげえな…そうやっておれのことも救い出したんだな」

Tejas「結果的にはな。でも今回の“お宝”はすごいだろうな。お前の反応を見ればわかるさ、オリバー」

オリバー「おれは知らねえ…」

オリバーが再び目を背ける様を見て、Tejasは苦笑した。
Tejasがそっと扉を押すと、錆による音もなく静かに扉は開き奥に繋がる道を示した。
洞窟の時とは打って変わりTejasが先に入り、その背中を追うようにオリバーも後に続いたのだった。


158 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/07/18(土) 18:43:24.397 ID:yMC9/8xUo
二人にはそれぞれ話せない秘密があります。次で二章最終回。

159 名前:名無しのきのたけ兵士:2020/07/19(日) 19:37:33.928 ID:5jrhKbLY0
謎が謎を呼ぶ展開がすごいこういうのか期待感を湧き立てる・・・

160 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒編その1 :2020/07/25(土) 20:45:49.441 ID:0zzN1S8oo
扉の奥は先程までの洞窟内と同じく漆黒の闇が続いていたが、その趣は少々異なっていた。
一歩足を踏み入れた瞬間に、Tejasの耳にはヒューという風切り音とともに背後から外気の流れ込みを肌で感じ取った。
外は蒸し暑い初夏だというのに、軽く鳥肌が立つほどに中の空気は冷えきっていた。

Tejasは試しに足元にあった石ころを蹴飛ばしてみると、石はカン、カンと大きな反響音を鳴らしながら闇の中に消えていった。
地面に鉄板が敷かれていることもあってか音はよく響き、反響具合からもこの“室内”は相当広大なスペースであることは容易に想像できた。
まるで巨大な冷蔵庫に迷い込んだのではないかと一瞬勘違いしたほどだ。

後から続いてきたオリバーを追い越すように、火の玉は慌てたようにTejasの周りをぐるぐると浮遊し辺りを照らした。
すると、先程の土の壁はすっかりと鳴りを潜め、二人の眼前には規則正しく何本も並ぶ鋼鉄の柱が現れた。

Tejas「なんだここは…?倉庫か何かか?」

正確には保冷機能付きの巨大倉庫ではないかと突拍子のない想像をしたが、口にするのは流石に憚られた。

オリバー「…武器庫だよ」

Tejas「武器庫?」

さらに突拍子のない返事に眉を潜めTejasは振り返った。オリバーは顎をクイと突き出しつつ、口を真一文字に結びながら答えようとはしなかった。
どうやら“先に進め”ということらしい。

Tejas「これで“お宝”が大したことなかったら俺は泣くぞ」

火の玉に先導をしてもらいながら、鋼鉄の壁伝いにTejasたちは歩き始めたがその旅路はすぐに終わりを迎えることになった。
歩いて暫くすると鋼鉄の壁が唐突に消え恐らくは開けた広間に出た。
その直後、一行の目の前を“見えない壁”が立ち阻んだためである。


161 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒編その2:2020/07/25(土) 20:48:01.773 ID:0zzN1S8oo
Tejas「これは、ガラスか?」

行く手を遮る、壁と思しき物は目を奪うほどの透明さで透き通っており、火の玉の明かりを難なく透過し壁の向こう側へ光を届けていた。その透明度は今まで見たどのガラスよりも澄んで見えた。
事実、Tejasは壁に間近まで近づき、ようやく僅かな明かりの反射でその存在に気づける程だった。先を進んでいた火の玉が後続の二人に合図を送っていなければ、間違いなく壁に気づかず激突していただろう。

壁に近づいたことで、Tejasはさらに一つの新事実を発見した。
眼前の壁が冷気を発していたのである。僅かに冷気を放つ程度ではなく、水滴が凍った白煙がモクモクと湧き出る程に、透明な壁はこの広大な部屋を冷やしきっていた。

Tejas「なんだこれはッ…!?」

試しにTejasは指の関節でコンコンと壁を叩いてみた。
鈍い音すら響かない。想像以上に質量を持った物体であることが想像できた。

さらに火の玉がTejasの頭上を浮遊すると壁の正体が少しずつ見えてきた。
Tejasの首が傾けなくなるまで高さを保ったそれは、最上部近くになると綺麗に保っていた平面から少し角張り始め、最上部では鋭利な突起部を見せ、
それを境に数m程度進んだ反対の奥行き部と対称になっているようだった。

それならば、と今度は火の玉は左方向へ捜索を始めたがこれが容易ではなかった。
数十m程度火の玉が移動しても終わりが見えてこないのである。右方向も同様で、終いには火の玉も捜索を諦め再びTejasたちの下に戻ってきてしまった。
ただ、左右方向はいまTejasたちが見ている形状からは大分異なり、複雑な立体構造がちらりと垣間見えた。

眼前の壁は、数十m以上の左右に伸びた巨大な透明な結晶という表現が近かった。
冷気を発しているのであれば、巨大な氷菓アイスとでも言うべきか。

Tejas「おい、オリバー。見てみろよ、これは――」

Tejasは言葉を切った。否、口を噤まざるをえなかった。
不思議に思うべきだった。ここまで奇天烈な出来事があるのに、背後にいたオリバーから物音一つ発せられていなかったのだ。
目の前の神秘に気を取られていたTejas自身の落ち度だが、反省する時間は与えられなかった。


162 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒編その3:2020/07/25(土) 20:52:03.414 ID:0zzN1S8oo


―― ガチャリ。


背筋を凍らせるには十分な無機質な撃鉄を起こす音が背後で鳴った。
Tejasがすぐさま振り返ると、宙に浮いたオリバーが前足で握った小銃の銃口をTejasの眉間に定めていた。
彼の周りには同じように複数の小銃が浮かびそのどれもが一様に同じ狙いを定めていることから、魔法によるものだろう。

Tejas「どういうことだ、これは?」

Tejasは静かに両手を上げオリバーと相対した。

オリバー「わるい。巻き込むつもりは無かった。でも事情が変わったんだ」

オリバーは淡々と、だが自身の言葉を脳内に反芻させるかのようにゆっくりと言葉を口にした。
彼の様子に加え、彼自身が召喚した筈の火の玉が目の前の事態にオロオロと彷徨っている様子からも、Tejasには彼の言葉が嘘ではないと判った。

Tejas「これがお前の“仕事”か?オリバー」

オリバー「いや、本来これはおれの“仕事”の範疇ではない。それに…それに、おれの真の名前はオリバーですらない。黙っていてわるかった」

オリバーは一度言い淀んだが、目線を外し俯きながら自身の名が偽名であることを告げた。
別にいいよ、とTejasは心のなかで彼を許した。


163 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒編その4:2020/07/25(土) 20:54:30.126 ID:0zzN1S8oo
Tejas「別に生かすも殺すもお前次第だが、冥土の土産に少しでも教えてくれ。此処はどこだ?」

オリバー「此処は会議所領内だ。既にな」

Tejas「本当か?こんな広大な地下施設、俺は知らないぞ」

オリバー「隠された場所だからな。限られた者しか知らないのさ。

実は、おれには“主人”たる人間がいてな。
本当に、本当に、たまたまなんだがかつてお前の様な“特異”な人間についてその主人が語ったことがある。
曰く、もしその人間を見つけたら決して会議所に戻してはいけない、と。

おれはあいつにはこれまで歯向かってばかりでな。だから、奴のために人肌脱ごうかなと思ってよ」

Tejas「へぇ、それは素晴らしい考えだ」

一緒に話を聞いていた火の玉がTejasを離れオリバーの近くに向かい、改めて彼の顔を明るく照らした。
軽い口調とは裏腹に、眉間にシワを寄せその顔は覚悟に満ちていた。
【大戦】で、敵軍の本陣に総攻撃をしかけんとする突撃兵の表情によく似ていた。

―― ここまでか。

Tejasも覚悟を決め、今日一日で溜め込んだ体内の空気を一息で吐き出した。
事情はよく分からないが、オリバーは自らの主人に恩を立てるためここでTejasを始末する気だろう。
自身の能力は会議所内では極一部の人間にしか話していなかったが、信頼したオリバーに話したことは仕方がないことだ。

思えば、自身の右腕に呪いがかけられた際に一命を取り留めただけでも運が良かったのだ。今日まで生きながらえたのはひとえに運の良さでしかない。
それが、一日という短い時間ながらともに過ごした信頼する相手の手にかけられるのならば寧ろ行幸だ。
公国兵に討ち取られるよりも余程良い。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

164 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒編その5:2020/07/25(土) 21:03:26.262 ID:0zzN1S8oo
Tejasはオリバーをチラリと見た。覚悟を決めたはずのオリバーの顔は先ほどと違い少し曇り始めていた。

―― どうした、早く決断しろ。

逆にTejasがオリバーの決断を急かすように目を細め訴えかけた。
意志を汲み取ったのか、考え込んでいたオリバーは重々しい様子で口を開いた。

オリバー「本来、ここまで来られたからにはお前を生きては帰せない。

おれもつい先ほどまでそのつもりだった。

だけど、同時におれの頭の中には一つの“バカげた”プランが浮かんじまってな。

実行するためには助けがいる。
おれの“仕事”には、お前が必要不可欠なんだ――」

―― だから、慎重に言葉を選べ。

銃を握り直したオリバーを見ながら、“生命を握られている状況で直ぐに冷静な判断ができるものか”とTejasは半ば諦め気味で見つめ返した。

オリバー「おれと協力して―― “このバカげた戦争”を終わらせてくれるか?」

随分と大事になったものだ。
Tejasは彼の途方も無い提案を、頭の中で反芻してみた。


武器庫?此処が会議所?戦争?

一体なんだ。どういうことだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

165 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒編その6:2020/07/25(土) 21:06:07.684 ID:0zzN1S8oo
Tejas「いまの話に答える前に、改めて俺の決意をきいてくれないか」

オリバーは頷き先を促した。

Tejas「俺はな。“マイスター”と自称はしているが、会議所きっての変人として名を馳せている異分子だ。
周りからは扱いづらいと思われているだろうし、事実そうだと思う」

オリバーは容易に彼の会議所内での振る舞い、立ち位置が想像できた。

Tejas「俺は何においても拘りが強い。だからこそ他人は俺に付き合いきれないし、俺もまた半端な人間とは相容れない」

オリバーは再度頷いた。

Tejas「だが、もし“俺が信頼したる”相手を見つけたとしたら俺はそいつに従うし、力になりたいと思う。

俺が信頼した相手からの頼みには、文字通り、“生命を賭けて”それに応えよう。それが、俺の決意だ」

目の前の“マイスター”の物騒な言葉に眉をひそめたオリバーは、少し考え込んだ後に、唖然とし慌てて口を開いた。

オリバー「おい、待てッ!お前の言ってた【制約】ってもしかして――」

Tejas「―― 二つ提案がある」

Tejasは上げたままの左手を突き出し、オリバーの言葉を遮った。


166 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒編その7:2020/07/25(土) 21:07:22.762 ID:0zzN1S8oo
Tejas「まず一つ。お前の話は受けよう。だが、俺には事情がさっぱり分からないから、真相を教えてくれ」

オリバーは神妙に頷いた。Tejasは満足そうに頷いた。

オリバー「二つ目は?」

Tejasは鋭い目をさらに細めた。ゴクリとオリバーは固唾を飲んで彼の言葉を待った。

Tejas「俺の目の前にいる“友達”の、本当の名前を教えてくれないか?」

オリバーはキョトンとした顔の後に、彼の突拍子もない提案に笑った。
Tejasも笑った。
真剣な空気は緩和され、笑い合う二人を見ながら火の玉も楽しそうにゆらゆらと揺れていた。

いまこの時は、昨夜夜中まで喋ったように屈託なく笑いあったのだった。
張り詰めた緊張感が解けたからか、いつもより多めに笑ったせいで目に浮かんだ涙を拭い取りながら、オリバーは彼の提案を受けることにした。

オリバー「ああ、いいぜ。真相はこれから話す。その前に、まず二つ目の提案から片付けよう。
おれの本当の名は――」




これより一人と一匹は、カキシード公国とオレオ王国間で勃発した戦乱を終結させるという大事を為すことになる。





(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

167 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/07/25(土) 21:11:11.846 ID:0zzN1S8oo
二章、完!
Tejasさんの設定はまた出てきますが、裏設定は書けないかもしれないのでまたwikiかどこかで。

三章 加古川さん編ではようやく真相に近づいていきます!お楽しみに。

168 名前:名無しのきのたけ兵士:2020/07/25(土) 21:14:12.873 ID:HiQGqkII0
引きがまねしたい

169 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/08/02(日) 10:57:05.932 ID:28btstrso
今週はお休みといたします。

170 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/08/08(土) 19:01:47.969 ID:i0fgnP7Yo
もうちょっとだけお日にちかかります。

171 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/08/12(水) 15:44:21.166 ID:8gGE/IPgo
休んじゃってた。第三章開始!

172 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川かつめし :2020/08/12(水) 15:46:18.646 ID:8gGE/IPgo




・Keyword

兵(つわもの):
1 武器をとって戦う人。兵士。軍人。
2 真相を究明する探究家。想像を超える真理に立ち向かう勇士。






173 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川かつめし :2020/08/12(水) 15:46:58.895 ID:8gGE/IPgo





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きのたけカスケード 〜裁きの霊虎<ゴーストタイガー>〜
Episode. “赤の兵(つわもの)”

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174 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 男たちの日常編その1:2020/08/12(水) 15:52:00.085 ID:8gGE/IPgo
【きのこたけのこ会議所 BAR “TABOO<タブー>”】

きのこたけのこ会議所自治区域の中心部に存在する【会議所】本部から程近い繁華街の一角に、“TABOO<タブー>”というバーは存在する。

きのこたけのこ会議所自治区域内には多くの住民が点在し暮らしているが、地図上で中心にある会議所本部の存在する場所が、名実ともに自治区域の中心街だ。
中央政府機関となっている会議所本部前の大通りは朝から多くのビジネスマンの往来で混み合う。

その人々の往来を支える中心通りから一本外れた脇道を歩いていくと、程なくして自治区域内随一の狭さと濃さが反比例する歓楽街・【ポン酢町】に到着する。
ポン酢町は昼間こそ閑散としているが、夜になるとどの店もネオンをギラつかせ、疲れ切ったビジネスマンたちを飲み込む欲望と遊楽の町へと早変わりする。

“TABOO<タブー>”は、所狭しと軒を連ねるそのポン酢町の中でもさらに裏道に入った奥地に存在する。
特に看板や案内板を出すことなく、馴染みの客の手引がなければ初見の客はまずたどり着けない隠れた存在だ。

ようやくたどり着けたとしても、掃除もされずくすんだ窓ガラスやこぢんまりとした入り口の様子を見て、初見の客からは廃墟か、さもなければ古ぼけた理髪店かと間違えられる程に、
人々の欲望を吸収する筈のその店には覇気の欠片もなかった。
しかし知る人ぞ知るこの老舗の店内は、夕闇が落ちた頃にはいつも熱気であふれかえっていた。

たけのこ軍兵士 加古川かつめしも“TABOO<タブー>”の常連の一人だった。
【大戦】が近くなるといつも残業が多くなる。
今日も疲れきった心と身体を癒やすため、他の流行っている飲み屋には目もくれず、加古川は店選びをしている通りの客を避けるようにいつものように細道に入り、いつものように店の扉を開けた。


175 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 男たちの日常編その2:2020/08/12(水) 15:56:41.018 ID:8gGE/IPgo
カランカランと小気味よいドアベルの音とともに、一気に店の中の熱気が押し寄せてきた。ま
だ底冷えする外気とのギャップになぜか思わず身震いしてしまう。
みすぼらしい外観とは裏腹に店内は広々としており清潔さも保たれていた。
今夜も既に夜更けに近い時間帯だというのにも関わらず店内はほぼ満席に近く、客同士の話し声が心地よい賑やかさとして耳に届き、加古川の冷えた心を温めた。

「いらっしゃい旦那。“いつもの”でいいかい?」

店のマスターで元・きのこ軍兵士 軍隊蟻はコップを磨いていた手を止め加古川に声をかけると、目の前の空いているカウンター席を目で案内した。
加古川は一度だけ頷くと、入り口のハンガーラックに羽織っていたコートと中折れ帽を掛け、指定されたカウンター席にするりと腰掛けた。
途端に、店主はシャカシャカと小気味よい音でシェイカーをシェイクさせ始めた。加古川はこのシェイク音を聞くと一日の仕事の疲れを忘れ、穏やかな気持ちになる。

軍隊蟻「はい。“カルーアミルク リキュール抜き”お待ち」

首元のネクタイを緩めていると、早速カウンター上でカクテルグラスがスライドされ放たれた。加古川は自然に受け取り、静かに口に付けた。
ほのかな香りに続いて口の中に一斉に広がる甘みに思わずクラクラする。
至福の一時だ。


176 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 男たちの日常編その3:2020/08/12(水) 15:58:48.025 ID:8gGE/IPgo
「美味しそうなカクテルですね。僕も同じものを貰おうかな?」

加古川が一息ついたタイミングを見計らい横の客が気さくに彼に声をかけてきた。
聞き慣れた声に加古川が顔を横に向けると、隣の席では同じ会議所兵士のたけのこ軍兵士 埼玉が微笑みながら挨拶をしてきた。

加古川「やあやあ。埼玉さんもこんな遅くまで居るということは残業かい?」

埼玉「部署が変わってばかりでして。仕事も慣れてない上にここにきて大変なんですよ。ほら、今は【大戦】強化月間じゃないですか。
先日【大戦】を終えたばかりなのに、近く他の国からお偉いさんが来る【特別大戦】もやるものだから、終わった後の交通規制やら宿泊先の手配やら色々な問題がありまして」

埼玉は会議所本部の【大戦業務課】という部署で働いている青年兵士だ。
定期的に会議所本部主催で全世界から人を呼び戦いあう【きのこたけのこ大戦】の裏方業務を一手に担っている。
【大戦】が近づけば準備の手間も増え、帰る時間は遅くなる激務を要求される部署だ。

加古川「それは苦労するな。おいマスター。埼玉さんにも私と同じものを一杯つけてやってくれ。支払いはこちらでいいよ」

マスターの軍隊蟻はチラリと加古川を見やると一度だけ頷いた。店主の寡黙で落ち着いた雰囲気が、この店の隠れた人気の秘訣だ。

埼玉「いいんですか?お気遣いありがとうございますッ!」

ニカッとした人懐っこい笑みを浮かべた埼玉を見て、先輩受けの良い後輩だと加古川は感じた。
きっと部署内でもかわいがられているに違いない。


177 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 男たちの日常編その4:2020/08/12(水) 15:59:47.985 ID:8gGE/IPgo
埼玉「加古川さんは【市民課】ですよね?最近忙しいと聞きますけど、大丈夫ですか?」

加古川「その通り、こちらも最近忙しくてな。【大戦】の影響か、特に最近は若い人の流入が多くてな。対応にひっきりなしさ」

加古川は【市民課】という受付部署で、会議所内の住民登録や証明書の交付、両軍の軍籍の交付など、会議所自治区域に関する行政業務を行っている。
市民課も時期によっては非常に混み合うため、激務と噂される部署の一つだ。

軍隊蟻「“カルーアミルク リキュール抜き”お待ち」

カクテルグラスを受け取った埼玉は加古川とグラスを軽く合わせ、日々の多忙を互いに労った。

その後は互いに杯を重ねながら仕事の他愛もない話を交わしていたが、二人で何杯目かのカクテルを飲んでいた時、“そういえば”と埼玉がある話を切り出した。

埼玉「おもしろい話がありましてね、加古川さん。

最近巷で話題になっている“きのたけのダイダラボッチ”という伝説、ご存知ですか?」

聞き慣れない言葉に、思わず加古川は眉を潜めた。


178 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 男たちの日常編その5:2020/08/12(水) 16:01:58.492 ID:8gGE/IPgo
加古川「“ダイダラボッチ”というと、あの伝承に出てくる巨人のことか?いや、知らないな」

そう答えながら、マスターの好意で出されたビターチョコをかじる。
甘いカクテルには少しぐらい苦いビターフレーバーの方がより味を引き立てる。マスターはよくカクテルというものを理解しているなと、改めてこの店を再評価した。

埼玉「そうです。その“ダイダラボッチ”です。それがチョ湖のほとりにも現れるというんですッ」

チョ湖とは、加古川たちが今いる会議所本部からは少し離れ、北東に幾ばくか進んだ先にある、オレオ王国とカキシード公国に面す国境代わりの広大な湖だ。

加古川「その湖に現れる巨人が“きのたけのダイダラボッチ”なのか。
誰かの魔法が暴走して犬か猫が巨大に化けたとかではなくか?」

今でこそ“チョコ革命”で動力物の熱源はチョコに置き換わりつつあるが、加古川の若い頃は魔法が全ての根源であり動力源だった。
街には無人の魔法の馬車が走ったり寒いときには爪先から火を灯し寒さを凌いだりと、いま以上に魔法は人々にとって身近なものだった。

同時に、魔法の詠唱失敗によるトラブルは日常茶飯事だった。
当時、加古川の隣家で誤って自分のペットを巨大化させてしまい自らの家を木っ端微塵にさせてしまった兵士もいて、ちょっとした騒ぎになったこともあった。
今となっては古き良き時代だ。

その時の若かりしたけのこ軍 社長の青ざめた顔を思い出し、今になって加古川は思い出し笑いをしてしまった。

埼玉「そうだったら笑い話ですが。目撃者も多いらしく、決まってみんなが夜中に見るというんですタマッ!」

先程までの疲れ切った顔とは打って変わり鼻息を荒くして語る埼玉を見て、加古川は彼がゴシップ好きの若者なのだと悟った。


179 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 男たちの日常編その6:2020/08/12(水) 16:07:08.519 ID:8gGE/IPgo
加古川「別に悪さはしていないんだろう?」

埼玉「そうです。ただ湖の上に突っ立っているかその場を歩き回るだけみたいで。
さらに面白いことに、みんな口を揃えて『明け方になると日光に溶けるようにスゥーッと透明になり姿を消してしまう』というんですタマッ!」

相当酔いが回ったのか、埼玉は次第に語気を強め熱心に語り始めていた。
彼の強い語尾の訛りは、確か大陸の最西部近くにあるネギ首長国由来だったはずだ。
彼が会議所区域から遠く離れた首長国出身だということを、加古川は今になり初めて気がついた。

加古川「不思議な話じゃないか」

加古川は静かにグラスを傾けた。

埼玉「嘘か本当か、ダイダラボッチが見えた後の【大戦】はきのこ軍かたけのこ軍、どちらかが大勝するらしいタマッ!
周りからは、嘘か本当か“戦の神”と呼ばれ崇められているんですって」

加古川「ほう、それはおもしろい。真理は、想像を超えると言ったところか」

埼玉は楽しそうに話を終え、つられて加古川もニヤリと笑った。

噂はあくまで噂だ。
それに、【会議所】本部で仕事をする二人にとってチョ湖周辺に行く機会などほとんどない。
休日にふらりと行くか、それこそ不測の事態でも起きて現地に仕事で行くでもしない限りこの噂の真偽を確かめる術はない。
それを承知の上で埼玉は語り加古川も承知の上で聴いているのだ。
要するに、盛り上がる話のネタで二人は酒の肴にしているに過ぎなかった。


180 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 男たちの日常編その7:2020/08/12(水) 16:08:39.293 ID:8gGE/IPgo
グラスの中の氷が溶けカランと氷の跳ねた音が響いた時、魔法が解けたように加古川は意識を戻し時計を見た。
もう日付けはとうの昔に跨いでいる。普段ならもう寝ている時間だ。

加古川「まだ飲んでいくのかい?」

埼玉「明日はたまたま非番でして。まだいらっしゃるのでしたらお付き合いしますよ?」

加古川「悩ましいお誘いだが今日はやめておくよ。酔いも覚まさないといけないしな」

店主に埼玉分の代金も払い終え、加古川は席を立った。

埼玉「すみません。払ってもらっちゃって」

加古川「気にするな。ユニークな話をきいた駄賃さ」

おやすみなさいという埼玉の声に、手にもった黒の中折れ帽を上げ応えながら、加古川は店を後にした。

彼が出ていった扉を見つめながら、ふと疑問が湧いたのか、埼玉は手元のグラスを眺めポツリとつぶやいた。

埼玉「そういえば、酔い覚ましと言っていたけど。

カルーアミルクのリキュール抜きって、それはもうただのカフェオレでは…?」


静かに夜は更けていく。



181 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/08/12(水) 16:09:23.323 ID:8gGE/IPgo
私はぐうたらぼっちです。

182 名前:たけのこ軍:2020/08/12(水) 21:23:28.790 ID:4kLxZHuY0
こういうのみてるとモチベーションあがる

183 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/08/22(土) 09:55:51.201 ID:EY8MH9h2o
今回、少し長めの更新です。

184 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その1 :2020/08/22(土) 09:57:27.713 ID:EY8MH9h2o
【きのこたけのこ会議所 本部事務棟】

明くる日、加古川は会議所議長の滝本から驚きの話を告げられた。

加古川「えッ!私がチョ湖支店に出向ですか?」

滝本「ええ。お願いできないかと思いまして…」

徹夜明けなのか青髪をボサボサにした滝本は、困ったように頭を掻いた。

滝本「チョ湖支店にいた責任者の方が過労で倒れてしまいましてね…最近、あそこの支店は周辺の急な人口増加で仕事が切迫していまして。
私としても信頼できる方を後任に充てたいところで…」

“大変心苦しいお願いですが”と続ける滝本を見ながらも、加古川の脳裏には昨夜の埼玉が語っていた空言が頭の中に浮かんでいた。

埼玉『そうです。その“ダイダラボッチ”です。それがチョ湖のほとりにも現れるというんです』

加古川はひとしきり考えた後に、力強く頷いた。

加古川「その話、受けましょう。すぐに準備をします」

打診したはずの滝本は逆に目を丸くし驚いた。

滝本「そんなあっさりといいんですか?加古川さんはご家族も居るというのに…」

加古川「なに、単身赴任ですから。定例会議の際には会議所本部に戻ってくるようにしますよ。それに…いや、なんでもありません」

加古川は一瞬、滝本に昨夜の与太話を話そうか悩んだが、すぐに止めた。
仕事の最中に茶々を入れることになるし、そもそも真偽が不明な話で目の前の疲れ切った顔の彼を混乱させることもない。


185 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その2:2020/08/22(土) 09:58:19.983 ID:EY8MH9h2o
それに突然の異動にも関わらず、加古川は内心で湧き上がる興奮を抑えきれなかった。

加古川は、子どもの頃から人一倍探究心が強かった。
分からないことがあればすぐに周りの者に聞き回り自分が納得するまで繰り返し聞いた。身の回りにあふれている謎も進んで解明したがった。
裏山にある廃墟に人が潜んでいるとの話があれば仲間を引き連れ進んで探検に向かった。結果は狸だったが。

そうして青年になった頃の彼の芯には、探究心の強さとともに謎を残すことを良しとしない生真面目さも加わった。
壮年期を迎えるに連れ生真面目さが表立ってきていた彼は周りから緻密な人間だと評価され、現在の事務方で役職を得るまで至った。
しかし、彼の心底には幼少期から宿る“探究心”が今も確かに強く残っていた。

昨夜聞いた“きのたけのダイダラボッチ”の話は子どもの時以来の探究心を心の奥底から喚び起こした。
そして運命のようにチョ湖へ赴く話が転がり込んだ。

これでワクワクするなという話が無理なのだ。
仕事に忙殺され枯れかけていた彼の心は、再び熱く燃え上がる兆しを見せていた。

滝本「ありがとうございます。すぐに向こうの邸宅はこちらで手配しますので。宜しくお願いします」

滝本は深く頭を下げた。
こうして加古川のチョ湖支店への異動は決まったのだった。


186 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その3:2020/08/22(土) 09:59:41.342 ID:EY8MH9h2o
【きのこたけのこ会議所 チョ湖支店】

滝本の言葉に嘘偽りは無く、異動後の加古川は周りへの挨拶などろくにする暇も無く仕事に追われる日々だった。

続々と訪れる住民の住民登録や相談対応に奔走し、気づけばあっという間に数日が過ぎ去っていた。
加古川の新しい職場はチョ湖ほとりにある【会議所】支店だ。古城のようにそびえ立っていた【会議所】本部と違い、チョ湖支店は田舎町の劇場といった具合のこぢんまり具合だ。
しかし、その劇場に例年にはない人々が押し寄せ支店は既にパンク寸前だった。

仕事を整理しているうちに、その日はあっという間に深夜を迎えていた。
加古川は椅子の背もたれに背を投げ、大きく伸びをした。

加古川以外に働いている者はいない。

加古川「仕事になれた…なんて言えないな。疲れすぎてて、先日の【大戦】にも出られなかったし。年はとりたくないものだ」

【きのこたけのこ大戦】は会議所自治区域の南部にある【大戦場】にて行われる世界規模の模擬戦だ。
自治区域民であれば無条件に参加できるし、事前登録さえすれば他国からでも参加は可能だ。

事前に戦場で実弾抜きの銃器を借りるか持ち込み、定められたルールに則りきのこ軍、たけのこ軍という架空の軍に分かれ勝敗がつくまで戦う。
これが【大戦】のルールであり、会議所自治区域を収益でも精神的にも支えている一大イベントだ。
会議所区域民で余程のことがない限り大戦を欠席する人間はいない。
年間の参加割合で減税等の優遇措置が取られるといった制度の恩恵を各々が受けられるといったことも背景にはあるが、単純に区域民が【大戦】をゲームとして愛しているのだ。


187 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その4:2020/08/22(土) 10:01:45.852 ID:EY8MH9h2o
【会議所】は【大戦】を恒久継続させるために、様々なルールで参加者を飽きさせないように努力させている。
参加者全員に階級章を配り戦いながら自身の階級を成長させる【階級制】ルール、兵種という役割に振り分けられ部隊が団結し敵軍と戦う【兵種制】ルール、
さらには大戦場内に複数の陣地を設け陣取り合戦を行わせる【制圧制】ルールなどルールの豊富さには枚挙にいとまがない程だ。

【会議所】は人々を飽きさせないようにこうしたルール作りに加え、【大戦】遂行にあたり交通インフラの整備や大戦終了後の交通規制などを率先して執り行う。
当日は数百万もの人が一気に移動するためにてんやわんやだ。
だが、その後会議所で働く人々も一緒に【大戦】に混じり戦い疲れを吹き飛ばしながら銃を乱射する様はストレスの捌け口としても優秀なのだ。

加古川も【大戦】を心待ちにする人間の一人だった。
それだけに、異動後の業務に忙殺され【大戦】を欠席してしまった自分自身に、歳をとってしまったという感想が出てくることは至極当然なのだ。

加古川「しかし、チョ湖付近の人口増加率が対前年比で400%超えか。それは前任者も過労で倒れるわな」

前任の支店長だったきのこ軍 じゃがバターが倒れるのも無理はない。
今、加古川のいるチョ湖の湖畔沿い地域は【大戦場】から相当離れており、これまで住民の頻繁な移住など殆どなかった地なのだ。

観光地としての役割も対岸のオレオ王国カカオ産地の観光地帯に奪われ、この地で潤うものといえば湖畔の陸に並ぶサトウキビ畑ぐらいだ。
生産量こそカカオ産地とほぼ同等規模だが、昨今のチョコ革命でカカオに注目が集まる今、角砂糖に注目が集まることなど殆どなかった。

なので、現在の人口増加は異常と言ってもいい。突然の人口増に備えのない地方支店では限界などすぐに超えてしまっていたのだ。


188 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その5:2020/08/22(土) 10:03:03.613 ID:EY8MH9h2o
加古川「こんな辺境の地への突然の人口流入。流入者の多くが新規就農者。鍵となるのはこの教団か…」

数日ではあるが、加古川は事前のリサーチで人口増加の原因をほぼ突き止めていた。
手にしていたクリップ留めの資料をバサッと机の上に投げつけると、表紙に書かれていた文字が改めて目に止まった。


『ケーキ教団』


自らまとめた報告書の表題にマジックペンでデカデカと書いたこの教団は、最近になり信者数を増やしている新興宗教団体である。
まだ会議の議題に上がったことは一度もないが、先日も新しい部下に訊いたところ、殆どの人間が教団の存在を認知していた。

加古川自身も会議所本部にいた頃に、酒場で話を何度かきいたことがあったが気にも留めていなかった。
それが、この町に来るや否や街中に教団の公告は溢れ、教団後任のケーキ屋も多く立ち並び、ケーキ教団は自然と街と同化していた。
教団本部は人里離れ広大な山の中に本部を構え多くの信者を呼び寄せているという。
ここまでの認知度の高さだとは内心驚いた。会議所中央と地方とではかなりの温度差があることを実感した。

また、ついでだからとあわせて“きのたけのダイダラボッチ”についても訊いてみた。
こちらについてもケーキ教団程ではないものの反応した部下は何名かいた。
しかし、その内容はどれもメチャクチャなもので、ある若手の部下は“ダイダラボッチは湖ではなく鬱蒼とした森で雨の日だけ現れる”と言い、
またある部下は“何年かに一度、大戦場に現れ大戦をメチャクチャに荒らして帰っていく”と言った出処のない話をするなど、その話はいずれも支離滅裂で容量を得ないものばかりだった。

ある意味で“きのたけのダイダラボッチ”が都市伝説として確立され、その存在だけが独り歩きしていると言えるだろう。
この話を聞いて、加古川はダイダラボッチ伝説について当初ほどの熱は無くなってしまった。


189 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その6:2020/08/22(土) 10:04:54.986 ID:EY8MH9h2o
加古川「【ケーキは食と世界を救う】が教理、か。
年のいったこの身からすると、こんなバカげた考えに若者の賛同する理由がわからないな」

いま、ケーキ教団は会議所自治区域内で急激に信者を増やしていた。
そして教団本部のあるこの地に、ケーキの材料に使う角砂糖となるサトウキビを収穫するため、若者が続々と移住してきていることが今回の人口増加に繋がっていると推測できた。
なんと涙ぐましい努力だろうか。

加古川「しかし、なぜここまで角砂糖が必要になる…?」

若者のケーキブームが来ているからか。
その可能性も考えられるが、わざわざそのために若者が今の職を捨てサトウキビ畑農家に転職するだろうか。
そもそも角砂糖が足りなくなっているという話も聞いたことはない。


何か言いようの知れない違和感が加古川を包んでいた。


加古川「まるで教団が…手引を…している…ような」

一つの推測に到達しかけた加古川だが、途端に急速な眠気に襲われた。
もともと、何日も働き詰めだったからか疲れがここに来て一気に押し寄せたのだ。

抗うこともできずに、加古川は深い眠りへ落ちていった。


190 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その7:2020/08/22(土) 10:06:51.929 ID:EY8MH9h2o
【きのこたけのこ会議所 チョ湖支店】

加古川はハッと目を覚ました。気づかぬうちに机の上に突っ伏して気を失っていたようだ。
壁の時計を見ると夜中はとうに過ぎ、もう明け方に近い刻だ。
窓の外はまだ漆黒の闇に包まれているが、直に白み始めるだろう。

顔を起こし、身体を伸ばすと節々が痛む。
若い頃は夜通し働き続けられたものだが、年老いた今ではデスクワークも一苦労だ。首を曲げると自分でも不安になるほど骨のなる音が響いた。

加古川「一旦、家に引き上げてシャワーでも浴びるか…」

身体を起こし勢いよく椅子から立ち上がると、その風圧で机の上の調査書が足元に滑り落ちた。
ケーキ教団という踊る文字を見て、居眠り前にたどり着いた推測を加古川は思い出しかけたが、結局思い出せずに資料だけをケースに戻し、その場を後にした。


加古川「この季節だと夜中はまだ若干冷えるな…」

ブラウンのチェスターコートに身を包ませ、加古川は外へ出た。
この辺りの地域は温暖な天候だ。一年を通じてあまり気候は変わらず、だからこそサトウキビが成長しやすい。
しかし季節の移り目もあり、本格的な温暖な気候に向けてはまだ幾分かの時は必要だった。
中折れ帽を目深に被り厚手のコートに身を包むその姿は、この地方からすれば少々厚着のように思えるが、加古川はこの格好を気に入っていた。

ずっと屋内にいたからか、寒気は無視しても外気を吸うことは新鮮で加古川の気を軽くした。
昼間の喧騒が嘘のように、誰も出歩いていない中心街はひたすらに静寂を保っている。

加古川「そういえば、此処にきてからまだまともに湖を見ていないな」

加古川の家はチョ湖とは反対の内陸方向だ。だが、まだ幾分の時間はある。
どうせ帰宅しシャワーを浴びて少し経てばすぐに夜明けだ。
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191 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その8:2020/08/22(土) 10:08:22.217 ID:EY8MH9h2o
湖畔近くに並ぶ住宅街を通り過ぎると、さっと視界が広がり小高い丘へ続く道かサトウキビ畑へと下っていくY字路が出てきた。
上り坂に続く道の方を選び、目の前の丘にとぐろを巻くように続く轍を進んでいくと、すぐに周辺の住民が“展望台”と呼ぶ頂へと到着する。

加古川「展望台、と呼ぶには少々手入れが行き届いていないみたいだがな」

加古川は苦笑しながらも雑草の生える木のベンチに腰掛けた。
展望台はまるで民家の裏山の先端をちょん切ったような、こぢんまりとした広さだった。

季節柄、草木は枯れ見通しこそ良いが夏になれば背の高い木々が視界を邪魔するだろう。その程度にはこの展望台は荒れている。
異動した初日に若手社員からこの場所をきいていたが、まさに“穴場”のスポットのようだ。

加古川「それでも綺麗だな」

既に月は沈んでいたが、湖面はどこからか光を受けキラキラと反射していた。
薄明を控える湖畔は、乾いたサトウキビ畑の揺れる音と湖の波打ち音が絶妙のハーモニーを奏で加古川の心を癒やした。


暫くぼうと湖を眺めていた加古川だが、耳に届く音をより感じたいと思い目を閉じた。

湖の波は丘から少し離れた眼下の崖にぶつかり、静かなさざなみを発生させていた。
まるで海に来たかのような感覚だ。
そういえば、もう長く家族で遊びに出かけていない。

思えば仕事一筋で生きてきた人生だ。家族のことは何よりも愛しているが、家族の食い扶持を稼ぐためという理由で、いつしか仕事に没頭していた。
今回だってそうだ。
妻子を残し一人辺境の地にやってきて初日から残業三昧だ。こうしてちゃんとした休憩を取るのも久々な気がする。


192 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その9:2020/08/22(土) 10:09:55.553 ID:EY8MH9h2o
静かに一定の周期で、さざなみ音は加古川の耳に心地よく届いた。
加古川の心は次第に落ち着き、仕事で凝り固まった身体や気持ちは少しずつほぐれていった。
いつしか加古川は幼少期の思い出を振り返るほどに感慨深く自省し、繊細になった彼の心にそっと寄り添うように波打ち音が静かに響き渡った。


静かに。

静かに。

徐々に早く。

段々と早く。

次第に周期を早めて激しく。


いつしかさざなみは暴れ、お互いの波を打ち消しあい、岩壁に殴りつけるかのような乱暴な音を発するようになった。
波音はタクトを早める指揮者の奏曲のように加古川の耳にどんどんと押し寄せてきていた。

加古川「…なんだ?」

どれほど経っただろうか。いつしか異変に気づき、加古川は目を開けた。
ベンチから立ち上がり少し先の眼下の岸壁を眺めた。湖の波が激しいほどに暴れている。強風も吹いていないし、波が荒れる要素などないはずだ。大型の船舶でも近づいているのだろうか。

加古川「一体なにが――」



ふと顔を上げた先に、“答え”はあった。
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193 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その10:2020/08/22(土) 10:12:34.390 ID:EY8MH9h2o
瞬間的に加古川は言葉を失った。
あまりに自然と巨人が周囲と同化していたからである。
まるでずっと前からそこにいたかのように、巨人はまんじりともせずに立っていた。

ある程度の距離があるからか加古川は巨人を一望できているが、
近くに寄ろうものなら首を垂直にしても視界からは見切れてしまう程に巨大さを誇っていることは、容易に想像できた。

加古川「ダイダラ…ボッチ…」

酒の席で埼玉からきいた“きのたけのダイダラボッチ”の話と瓜二つの状況だ。
当時は話半分に聞き流していたが、なんの前触れもなくこうして目の前に現れてしまっては信じるほかない。

加古川「なんなんだ、あいつは…」

ダイダラボッチは顔と思わしき部分を上げ、空を見上げているようだった。
というのも、彼に目鼻は無かった。顔と胴体の部分が首で区切られていることからようやく顔だと認識できるほどだった。
漆黒の闇に紛れ全貌は伺いしれないが、長い手足はともに湖に付き、身体の輪郭は流線型で、彫刻のような造形美が見て取れた。

彼は夜の闇の中でなにもせずぼうっと突っ立っていた。
時折、思い出したように膝の部分までつかっている脚を数歩動かすも、少し動いただけで歩みを止めてしまう。
一歩動くたびに身体は前のめりになりながらよろけ、転ばないように一々止まっているようだった。

まるで幼い動物が歩行練習をするようだ、と加古川は感じた。
波打ち際に押し寄せてきた乱暴な波の原因は彼がむやみに足をばたつかせているからに他ならなかった。


194 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その11:2020/08/22(土) 10:14:12.270 ID:EY8MH9h2o
加古川は急ぎ展望台を降り、サトウキビ畑を抜け少しでも巨人の下に近づこうか寸分悩んだ。

眼前の“巨人”に何故だか加古川は言いようの知れない安心感を覚えていた。彼は街を襲わないし自分が近寄っても何もしないという根拠のない“確信”があった。
第六感が働きかけているのか、自身の心の探究心が彼自身をけしかけているのかは定かではなかったが。
しかし、目を離したら途端に姿を消してしまいそうな、彼にはどこかしら儚さがあった。

“きのたけのダイダラボッチ”を見ながら幾分か冷静になった加古川は、ふと巨人の横で煌めく輝きを発している“存在”に気がついた。
灯台だ。展望台から数km近く離れたところで光を放つ小さな灯台が、仄かに巨人の足元を懸命に照らしていた。

加古川「あの近くにある城は…教団本部の建物か?」

巨人の背後には、展望台よりも標高の高い小高い山がそびえ立っていた。その山の頂きには廃城跡があり、小さな灯台はその天辺から懸命に光を放っているようだった。
先程資料で見たのだから間違いない。あの廃城は加古川の仕事を苦しめているケーキ教団の根城だった。

加古川「灯台の光に照らされているのならば、あの巨人の存在に気づいてもおかしくないな…」

ケーキ教団という異質な存在について考え始めようとした瞬間、白み始めていた空から一気に暁の陽が差し込み始めた。
上空の厚い雲から漏れた陽が湖を照らし、湖面はそれに応えるようにキラキラと反射し始めた。
数分もすると辺りはあっという間に朝の陽に包まれ、水面により散乱した太陽光に思わず加古川は手で目を覆った。

そして、指の隙間から再び湖を見ると、さらに不思議なことが起きた。


195 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その12:2020/08/22(土) 10:15:02.542 ID:EY8MH9h2o
加古川「なッ!?消えたッ!?」

先程まで巨人が立っていた場所に巨人の姿は跡形もなかった。

後にはゆらゆらと湖面が揺れるだけだ。

加古川は目を細め辺りを探してみた。
しかし、移動した痕跡どころか、先程までの光景が夢なのではないかと勘違いしてしまうほどに、巨人の痕跡は一切見つけられなかった。

あれ程巨大な図体を持った巨人が何の音も立てず消えることなど物理上不可能だ。


埼玉『みんな口を揃えて、明け方になると日光に溶けるようにスゥーッと透明になり姿を消してしまうというんですタマッ』


目の前で起きている現象は、先日の埼玉の与太話通りになっていた。
巨人の姿が無くなってもなお、波は暴れたように岩壁に押し寄せ乱暴な波打ち音を発していた。

加古川「なにか妙だな…」

大抵の人間ならば、きっと首を傾げながらも一度家に帰り、本棚の奥にしまっていたオカルト図鑑を引っ張り出しては、今日の“きのたけのダイダラボッチ”と空想上の妖怪の特徴点を探し想像に耽けていたことだろう。
そして夜に酒場に赴き、自らの体験談を多少誇張してでも伝説を目の当たりにした自身の体験を吹聴するに違いない。


しかし、加古川という人間は、自分が思っている以上に“探究家”であった。



196 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 遭遇編その13:2020/08/22(土) 10:17:32.584 ID:EY8MH9h2o
加古川「チョ湖での出現。夜中に突然現れ、明け方には突然消える。何をするわけでもなく佇み、その近くには…ケーキ教団の本部がある」

彼の頭の中には、巨人伝説をただの都市伝説にしない左証の欠片が次々に思い浮かび上がってきていた。

加古川は額に人差し指を当て少し考えた。

彼は元来、真実を追い求める探究家だ。喰らいついた謎は解明しないと気がすまない。その性格ゆえ、幼い頃は得もしたし同様に損もした。
成人し会議所で働くようになってからは、些細なミスも見逃さず不明確な処理があればひたすら原因を追求する名事務方として名を馳せるようになった。
そんな彼の性格が此処にも出た。



“きのたけのダイダラボッチ”の謎を解き明かしたい。



そう強く願う彼を誰が否定できようか。
もし仮に、彼のこれからの悲劇を全て承知している第三者が現れ彼を静止しようとしても聞く耳を持たないだろう。
先日、埼玉から“きのたけのダイダラボッチ”の話を聞いたことも、そして今日加古川がこの場所を訪れたことも、全ては偶然であり同時に必然なのだ。


ただ加古川にとって不幸だったことは、この“きのたけのダイダラボッチ”伝説は彼の口癖通り、“真理は想像を遥かに超える”出来事を孕んでいたということだった。



197 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/08/22(土) 10:19:18.504 ID:EY8MH9h2o
真実はいつもひとつ!

198 名前:たけのこ軍:2020/08/23(日) 00:14:02.812 ID:e.QjV2JY0
謎かけがわくわくしますね

199 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その1:2020/08/23(日) 21:08:33.958 ID:rLe6kz26o
【きのこたけのこ会議所 チョ湖付近 中心通り】

休日の支店近くの中心通りは多くの人で賑わっていた。
久方ぶりの休みを取った加古川は、休日に多く並ぶ露店の中で狙いの店を見つけると、ゆっくりと歩みを進めた。

加古川「こんにちはお嬢ちゃん。少し話をきいてもいいかな?」

「おじちゃん。だあれ?」

被っていたブラウンのシルクハットを取りにこやかに挨拶する加古川に、可憐な少女はきょとんとした顔で首を傾げた。
露店の前の積み上がった上の木箱に、店番とばかりに少女は退屈そうにちょこんと座っていた。

加古川「通りすがりのおじちゃんだよ。君たちの教団について教えてほしいんだ」

「わたしはお兄ちゃんのかわりに座っているだけなの。詳しいことはお兄ちゃんが戻ってからにして」

木箱の上で足をぷらぷらとさせ、青髪の少女は雑踏の中にいるだろう兄の姿を探した。


200 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その2:2020/08/23(日) 21:10:03.474 ID:rLe6kz26o
スティーブ「これはこれは、新しい希望者か?」

ケーキ教団のスティーブは背中越しに加古川に話しかけた。
少女は彼の姿を見るとすぐに笑顔になった。

「お帰りなさいお兄ちゃんッ!」

スティーブ「ただいまロリティーブ。いい子にしていたご褒美だよ」

同じく青髪のスティーブは少女に向かい棒付きキャンディを差し出した。
ロリティーブは満面の笑みでそれを受け取ると人目も気にせず早速舐め始めた。

加古川「教団に興味があってね。ここなら色々と教えてくれるときいたんだが」

加古川が指差した露店の看板には『ケーキ教団 体験入団応募口』と書かれていた。

スティーブ「その通りッ。あんたは運がいい。今から他の希望者も合わせて教団本部へ見学会に行くところさ。来るかい?」

加古川「定員オーバーでなければ、是非」

休日を使い加古川は市内の中心部を練り歩いていた。
『ケーキ教団』の勧誘出張所が露店で出ているとの話を風の噂できいたためだ。

スティーブ「なら馬車を呼んでくる。ここで少し待っていてくれ」

ロリティーブに“すぐ戻るから良い子にしていろよ”と言い聞かせ、加古川より一回り以上は年下だろうスティーブは走り去っていった。


201 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その3:2020/08/23(日) 21:15:35.903 ID:rLe6kz26o
加古川「ロリティーブちゃんは普段からスティーブお兄ちゃんと一緒なのかい?」

少女は少し間を置いてキャンディから顔を離すと、警戒感なく口を開いた。

ロリティーブ「そうだよ。お兄ちゃんとは【儀式】の時以外は、一緒だよ」

加古川「【儀式】?」

聞き慣れない言葉に思わず加古川は聞き返した。
ロリティーブは加古川と話している合間も再びキャンディをなめ始めた。

ロリティーブ「お兄ちゃんはね、毎日夜にね、仲間の人たちと一緒に礼拝堂に籠もってお祈りを捧げるんだって。
選ばれた人しか入れないからロリティーブは行けないの。つまんないの」

加古川「ほう…」

すると“おーい”という呼びかけとともに、スティーブが走って戻ってきた。

スティーブ「ちょうど馬車が来るぜ。ちょうど今から出るところだッ!のりなッ!」

加古川「お嬢ちゃん、ありがとう」

加古川はポケットからココアシガレットを取り出し渡した。

ロリティーブ「これなあに?」

加古川「甘い砂糖の棒さ。後で食べてごらん。おじちゃんのお気に入りだ」

すぐに踵を返し、加古川は通りに停まっている大型の馬車に向かって小走りで歩き始めた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

202 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その4:2020/08/23(日) 21:17:53.589 ID:rLe6kz26o
【きのこたけのこ会議所 ケーキ教団本部】

加古川「あいたた…馬車の揺れは腰に堪えるな。やれやれ、やっと着いたか」

小一時間程かけて入団希望者たちを載せた馬車は必死に山道を登り目的地の教団本部前に停まった。
すると間髪入れず満面の笑みを顔に貼り付けた一人の人間が馬車に駆け寄ってきた。

クルトン「ようこそ、ケーキ教団本部へ。私は案内役を務めますたけのこ軍 クルトンと申します。どうぞよろしくッ!」

クルトンの格好は神父というよりも寧ろ料理人のそれだった。クリーム色のコックコートと長めのコック帽の着こなしは、まるで厨房から飛び出してきたんじゃないかといわんばかりの格好だ。
ただ、シワも汚れもなくパリッとした服からみるに厨房で料理をしているわけではなさそうだ。

馬車を降りながら加古川はケーキ教団本部の周りを一瞥した。

ケーキ教団本部は湖畔の小山の頂上にある誰も住まわなくなった廃城を再活用している。
古城のすぐ横は岩壁で湖と面しており、眼下のチョ湖をよく一望できる。

もし先日の“ダイダラボッチ”の現れた同じ時間帯に此処に居たら、さぞあの巨人の横腹がさぞよく見えたことだろう。
先日巨人を照らしていた灯台は、今いる本部よりさらに奥地にある高台にちょこんと建っているのが見えた。


203 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その5:2020/08/23(日) 21:19:40.846 ID:rLe6kz26o
クルトンの先導で、加古川を含む入団希望者は本部の見学ツアーの案内を受けることになった。

クルトン「数百年前の戦乱の世でこの一帯を収めていた領主のお城を、今は教団本部として利用させてもらっています。
王族が住んでいた部屋は幾つものキッチンへとリフォームし、王の間は巡礼者を迎える聖堂へと様変わりしています」

彼の言葉通り本当に古城をそのまま利用したようで、部屋の内装を除く外壁や古城を取り巻く塔などは当時の歴史がそのまま残されていた。
本来の目的が無ければ、城好きの加古川は見惚れてしまうほどに生々しい歴史が残っている。

「城の奥にある建屋は何ですか?煙が出ているから、工場かなにかですか?」

教団本部の古城の奥には、朱色の細長い屋根に続いて工廠と思わしき建屋が何棟も左右奥にも連ねていた。
いずれも細長く突き出た煙突から黙々と薄黒い煙を吐き出している。

クルトン「ああ、あれはケーキスイーツ工場ですよ。教団の資金源は市販用、業務用スイーツの製造販売なのです。
最近巷で人気となっている【ポイフルケーキ】や【ミルキーウェイブクッキー】などは全て教団工場で真心こめてつくっているものなのですよ」

加古川と同じ希望者たちの何人かから“おお”と歓声が上がる。加古川は巷のスイーツ事情には詳しくなかったが、いずれも有名なブランド品らしい。
知らぬ間に日常にまで教団が接近していた事実に、加古川は少なからず衝撃を受けた。


204 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その6:2020/08/23(日) 21:21:09.014 ID:rLe6kz26o
クルトン「それでは皆さん、城の中に。ここが礼拝堂兼食堂です。
ここでは皆で作りあったケーキやスイーツを食べ、一時の幸福を噛みしめる神聖な場です」

大広間に案内された一行は、教会の聖堂に並べられた長椅子を取り払い、全てレストランの長テーブルに置き変えたかのような食堂に通された。
いずれのテーブルも、信者の全員が皿の上に並べられたケーキを一心不乱に食しているところだった。

クルトン「我々は厳しい戒律を求めません。 “ケーキは食と世界を救う”を教理としています。ケーキを食文化に根付かせるために、我々はケーキを作り食すことを至高の喜びと感じます」

クルトンはわざとらしい作り笑いでそう語るので、加古川は一瞬、彼が冗談で説明しているのかと思った。
だが、彼と同じ笑みを顔に貼り付けた信者たちが『ありがたい、ありがたい』とつぶやきながらケーキを食す姿を見て、これが宗教かと思い直した。

「教団に入ったら何か厳しい修行のようなものがあるのですか?」

希望者の一人が恐る恐る質問した。加古川がチラリとその人間を見やると、質問をした彼は背筋が良く、着ている服もシワひとつない清潔な白シャツだ。

“駄目だな”。
こういう付け入る隙を自分自身で無くしていると思い込んでいる人間ほど、宗教にのめり込む。
加古川は経験則で知っていた。


205 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その7:2020/08/23(日) 21:22:13.347 ID:rLe6kz26o
クルトン「とんでもないッ!我々の教えに修行などというものは存在しませんッ!ですが、そうですねえ。
強いて言えば、修行の代わりにここで何種類ものケーキを食べ続け、信仰を深めているのですが、それが時々お腹にたまりましてねえ。
厳しいのは、その時ぐらいですねえッ!」

その質問を待っていたとばかりに、営業スマイルを二割増しにしたクルトンは一気に捲し立てた。
クルトンがツバを飛ばすほど熱心に語る様に、入団希望者たちの持つ警戒感が一気に薄らいでいくのを加古川は肌で感じ取った。

クルトン「特に古い慣習など我々は許容しません。上納金や会費などで皆さんの生活を圧迫することもしません。
皆さんは、ケーキを食べその美味しさを追求し、周りに広めることが教団の望みであり皆さんの喜びにもなるのです」

クルトンの語る理想に、先程質問をした人間も安心したように何度か小さく頷いた。

加古川「この教団には階級があるんですか?教祖も誰だかわからないし」

端にいた加古川は手を上げ質問をした。クルトンはすぐに加古川へ顔を向けた。

クルトン「教団には教祖というものは存在しません。皆は平等ですが、そうですねえ。
教団内で地位を持つ方は“職人”と呼ばれます。そうした人たちは誰よりもケーキを食べ、ケーキを作った人たちになりますね」

ハハハと笑うクルトンに続き、周りもつられて笑い、辺りは穏やかな空気に包まれた。
加古川も口元では笑みを作りながら、何か小さな違和感を覚えていた。


206 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その8:2020/08/23(日) 21:23:02.621 ID:rLe6kz26o
加古川「それでは、特に信者が集まるための集会やらミサはないんですか?」

クルトン「みなさんも参加できる“ケーキフェス”という食事会は定期的に開かれますよ。みんなでケーキを作り合って食べるんです」

何かはぐらかされている気がする。そう加古川には感じられた。
事態の本質にたどり着くのをやんわりと拒まれている気がする。
長年の勘だ。

加古川「それでは、信者になっても本部や支部に夜通し集まり何か、言うなれば、儀式や座禅のようものはないと?」

クルトン「ええ、そんな話は聞いたことがないですね。信者の皆さんはただイベントに来てケーキを食べるだけです。それがなにか…?」

加古川は内心でしまったと思った。
仕事柄、細かいミスを指摘する事に慣れていたからか、つい仕事と同じ口ぶりで相手を問い詰めるように訊いてしまった。
あまりのしつこさに不審に感じたクルトンも眉をひそめている様子が見えた。


207 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 教団本部見学編その9:2020/08/23(日) 21:23:55.867 ID:rLe6kz26o
加古川「それは――実に素晴らしいですねえ」

咄嗟の加古川の機転に、一瞬眉を潜めたクルトンはすぐにパアと顔を綻ばせしきりに頷いた。加古川も満面の笑みで同調するように頷いた。

その時、加古川は確信をした。


―― 加古川「【儀式】?」

―― ロリティーブ「仲間の人たちと一緒に礼拝堂に籠もってお祈りを捧げるんだって。その間は選ばれた人しか本部に入れないの」





教団かスティーブ。どちらかが嘘をついている、と。



208 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/08/23(日) 21:24:22.439 ID:rLe6kz26o
今週は筆が進んだので二回更新じゃあ。

209 名前:たけのこ軍:2020/08/23(日) 21:37:42.724 ID:e.QjV2JY0
しぶい・・・おたくしぶいねぇ

210 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その1:2020/08/30(日) 22:50:52.495 ID:AIXgRpAoo
暫くして加古川は【きのこたけのこ大戦】と会議所で開かれる【定例会議】に参加するため、会議所本部に戻ってきた。

離れてからまだ一月も経っていないというのに、少し前に自分が居た目の前の都市はひどく大きく見えた。
会議所自治区域は国家承認を受けていないため首都は存在しないが、実質的に政府機構を持つ会議所本部一帯が自治区域内の中心都市である。
その発展度は他の地方よりも群を抜いているため、チョ湖町の実態を見てから本部一帯に戻ってくるとあまりのネオンの明るさや交通網の発達ぶりに、まるで田舎者が都会に出てきたかのように目がチカチカしてしまう。

先日一参加者として【大戦】できのこ軍を大いにいたぶった老兵は、明後日会議所本部で開かれる【定例会議】の前にとある友人と会う約束を交わしていた。
その人物とは“馴染みの”BARで待ち合わせていた。



【きのこたけのこ会議所自治区域 BAR “TABOO<タブー>”】

出張の日の夜は、普段の仕事も持ち込むことはないから録に残業をすることもない。
宵の口から指定席のカウンターを離れ、窓際のテーブル席で一人飲んでいた加古川は、この時間帯からでも店を賑わしている客が多いことに、今になり初めて気がついた。

加古川「この時間から飲めるなんて、幸せなことだ…」

「その幸せは、貴方たちみたいな善良で勤勉な社会人のお陰で甘受できているということを、ここにいる皆はきっと知っているに違いないさ」

グラスを傾けながら独りボヤいていると、頭上から聞き慣れた声がかかった。
加古川が顔を上げると、頭上の銀髪を短く刈り込んだ男はニヤリと笑い、向かいの椅子にスルリと座った。


211 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その2:2020/08/30(日) 22:52:39.715 ID:AIXgRpAoo
加古川「やあ、魂さん。こんな時間から飲み始めなんて、さてはサボりかな?」

たけのこ軍兵士 筍魂は目の前の友人の言葉を意にも介さず、手を上げ優雅に挨拶をした。

筍魂「よお、加古川さん。チョ湖の方にご栄転になったと聞いて寂しかったが、またこんなに早く会えるとはな」

加古川「別に向こうに永住するわけじゃあないしな。今回のように【大戦】や【会議】がある時はこちらに寄るさ。
それに栄転じゃあない。言うなれば、前線への兵士の補充さ」

筍魂は笑いながら、肩をすくめた。
スーツ姿だとオーバー気味のアクションも様になる。

筍魂「チョ湖周辺の人気が上がっているとは聴いていたが、そこまでとは。俺も移住しようかな」

加古川「それはいいッ。友人のよしみだ、移住の手続きは早めに終わらせよう。なんなら今からやってもいいぞ?」

筍魂「ありがたい申し出だけどやっぱりやめておく。この店のミルクチョコレートを食べられなくなるのは辛い」

ワイシャツのネクタイを緩めながら、ウエイターが運んできたカクテルグラスを手に取り、筍魂は加古川と再会の祝杯を上げた。

筍魂は加古川よりも半周り程年下の中堅兵士だ。
自治区域への移住は加古川よりも遅かったが、【会議】での発言の積極性や持ち前の掴みどころのない性格で信頼を集め、【会議所】内では一定の地位を得ていた。

彼とは【会議】でも積極的に顔を合わせていたが、互いにBAR“TABOO”の常連だと分かってからは頻繁に顔を合わせ飲んでいた仲だ。
加古川は気を使わず彼に話しかけ、誰ともフランクな口調で話す彼もまた加古川とは特に馬があった。


212 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その3:2020/08/30(日) 22:57:59.968 ID:AIXgRpAoo
筍魂「貴方から“仕事”の依頼が来た時は驚いた。俺が探偵だということをちゃんと覚えてくれていたんだな」

額にかかった銀髪を掻き上げる仕草は、いま脂のノッている時期の彼に色気を出させる所作だ。

加古川「私も少し前までは君のことを只の飲んだくれと思っていたが。この間、家の掃除をしていたら“たまたま”君の名刺が出てきてね。
飲み仲間として、普段払っている酒代の一部くらいは君の仕事に還元してもいいんじゃないかと思ったのさ」

二人は再び笑いあった。

筍魂「貴方から調査を受けた【ケーキ教団】と【ダイダラボッチの伝説】について調べてみた。これが報告書だ」

飲みきったグラスをテーブルに置き早々に、革のポーチから封筒を取り出した筍魂は加古川の前にそっと置いた。
加古川は手に取り封筒をすぐに裏返した。封筒の口に飾り気のない朱の封印が見えただけだ。

筍魂「おいおい。ただの封筒だから、特になにも無いぜ」

加古川「そうだったな。いや、つい癖でね。
“魔法使い”の性で、封書になにか魔法の術が施されていないか警戒してしまうんだ」

筍魂「これはいい話を聞いた。今度から何かイタズラをしてみようかな」

“やめてくれ”と苦笑しながら、加古川は封筒の口を開けた。

封筒の表面の隅には『魂探偵事務所』と整った印字で自己主張されている。

筍魂はこのポン酢町の近くに仕事場を構えているらしい。
“依頼とくれば浮気調査に借金滞納したパブの店員の身辺調査などシミッタレた仕事が多い”とよく愚痴をこぼしていたからか、教団見学後に今回の仕事を依頼した時にはやけに乗り気だったのが印象的だ。


213 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その4:2020/08/30(日) 23:01:10.590 ID:AIXgRpAoo
封筒の中には数枚の報告書が入っており、一枚目には目次と要旨を規定の様式にまとめられた表紙が差し込まれ、後の詳細報告書に続いていた。
要約書がある辺り、彼の生真面目さが伺える。

筍魂「結果から言う。まあ報告書にも書いているが。

まず教団についてはあまり深くまで調べられなかった。
精々、自治区域内に点在する支部の数や信者の想定人数ぐらいの情報だ。

本部についての情報もそれ程多くはない。
古城だけじゃなくその周りの広大な森林やスイーツ工場を教団本部と自称していることぐらいだな」

筍魂の言葉を耳にしながら、加古川は彼がまとめた報告書の文字を目で追った。

加古川「本当に、教団は急速な拡大を見せているな。半年前に比べて信者の数が爆発的に増えている」

データが記載してある頁を見る。
棒グラフで見れば、ある期間に比べ直近では見事に倍以上の信者数に増大している。
このデータを先日の希望者たちに見せればコロリと入信しそうだ。

筍魂「俺も知らなかったよ。会議でも議題に上がってなかっただろう?でも若者の間ではもう相当有名なんだそうだ」

加古川「先日、見学会できいたよ。有名菓子を作っているんだってな。
若者は何よりも勢いと流行り品を好む。

それで、最高指導者が誰かは分かったかい?」

書類に目を通しながら加古川は尋ねた。
困ったように筍魂は諸手を挙げた。


214 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その5:2020/08/30(日) 23:02:25.497 ID:AIXgRpAoo
筍魂「残念ながらNoだ。この教団、規模がデカイ割に実態がほとんどわからない。
誰が立ち上げたのか、幹部が何人居るかもはっきりしない。
信者に接触しても、ただケーキを食うイッちゃった奴らか不摂生な奴らばかりだ」

“ただ――”と、小皿に出されたミルクチョコレートの一片をかじりながら、筍魂は特ダネを見つけた記者のようにニヤリとして話を続けた。

筍魂「何人かの信者に接触する中で、奴らには二種類の傾向があった。

極端に教団と関わりがないやつらと、そうではないやつらだ。

前者はただ週末に開かれるイベントの時だけ教会に行きケーキを食らう。
後者は、それ以外にも度々教会に行く。
それこそ夜通しな」

加古川は報告書から目を離し、顔を上げた。

加古川「理由はあるのかい?」

筍魂「奴らは公には教会通いを否定する。
だが、一部の拠点となっている支部や本部の灯りは夜半でも消えることはない。
夜通し、お祈りでもしているんじゃあないか?」

運ばれてきたチョリソーをかじりながら、筍魂は『奴らの考えていることはわからんね』と呟いた。
加古川は額に人差し指を当て、暫し考え込んだ。


215 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その6:2020/08/30(日) 23:05:44.433 ID:AIXgRpAoo
筍魂「それと、奴らがひたすらケーキを作っているからか。自治区域内だけでなくどうやら世界中の角砂糖が不足気味になりつつあるらしい。
おかげで角砂糖の価格は目に見えて上昇している」

加古川は目を丸くし驚いた。その事実は初耳だった。

加古川「それは本当か?そんなに消費するものか?」

筍魂「さあな。でも、見学会だと古城の奥にスイーツ製造工場があるのを見ただろう?ならば本部の奴らは夜通しケーキを作りまくっているんじゃあないか?」

そこで何かを思い出したように筍魂は言葉を切ると、周りに目線を配りことさら声を落として話を続けた。

筍魂「ただ、これはここだけの秘密にしておいてほしいんだが。

その製造工場だが、なぜかガードが非常に硬い。

同じ教団員でも迂闊に近寄れないらしい」

加古川「…ただの製造工場じゃないのか?」

釣られて、加古川も声を落とした。

筍魂「工場であることは間違いない。事実、教団の手掛けるスイーツは人気だし、品切れも続出しているから稼働率を上げるために工場がフル稼働していることはおかしくない」

ウエイターが新たなカクテルグラスを運んできたところで彼は一度言葉を切った。
仕事を終えたウエイターの背中を目で追いながら、筍魂は再び加古川に目線を戻した。

筍魂「だが、俺が聴いた奴らの中に、その工場から出荷された品物を見た者は誰もいない。
誰一人もだ。
いったい何時、工場から出荷しているんだろうな?」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

216 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その7:2020/08/30(日) 23:08:02.079 ID:AIXgRpAoo
加古川「…」

情報は断片的に集まっている。
この間のスティーブやクルトンの反応も含め、ケーキ教団本部は間違いなく“何か”を隠している。
だが、何を起こそうとしているのか教団の目的が今ひとつハッキリとしない。

純粋な若者は興味本位から入信し、一部の敬虔な人間はチョ湖へ移住し自ら畑を耕し角砂糖の元になるサトウキビを収穫する。

また、さらに教団と繋がっている一部の信者は夜通しで教会に通い詰めている。
果たして純粋な祈りを捧げているのか、何か表には出せない作業をしているのか。

スイーツ製造工場の存在も怪しいものだ。
筍魂曰く異常なまでに高い機密保持性は、スイーツの製造過程を知られたくないのか、それとも工場で“何か”別のモノを生産しているのか。

加古川「どうにも、まとまらないな…」

加古川は胸ポケットからココアシガレットを一本取り出すと、徐に口に加えた。
考え込む時の癖だ。口に咥えているだけで甘さが口中に広がり、パンク寸前の脳内に程よい糖分を与えスッキリできるのだ。

筍魂「おや、火が必要かい?」

タバコだと勘違いしたのか、筍魂は胸ポケットからライターを取り出すと加古川の口にそっと近づけた。

加古川「いや、これはココアシガレット。ただの砂糖の棒さ。魂さんもいるかい?」

筍魂「こいつは失礼。よく似ていたものでな。じゃあ一本貰おうか」

彼との会話で一度思考の糸が切れてしまったので、加古川は筍魂にシガレットを渡しながら感謝の意を示し、続いて“きのたけのダイダラボッチ伝説”の報告書に目を移すことにした。


217 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その8:2020/08/30(日) 23:10:05.810 ID:AIXgRpAoo
加古川「これはすごいなッ。詳細な聞き取り結果、それにダイダラボッチの出没日時まで事細かに調べられている。よくまとめたな」

報告書には地域毎で住民にインタビューしたヒアリング内容、それに基づいたダイダラボッチの直近の出没日時が表でまとめられていた。
加古川が遭遇した日もまとめられていることから、データの信ぴょう性は高いと見て間違いないだろう。
表にまとめられているだけで5回以上の出現が確認されていることから、“きのたけのダイダラボッチ”は結構な頻度でチョ湖に出現しているようだ。

筍魂「会議所本部にまで話が来てないだけで、チョ湖周辺でダイダラボッチを見ている人はわりかしいたよ。ただの噂では無かったということだな。
そいつらの情報を統合しただけさ」

加古川からの賛辞の言葉への照れ隠しか、筍魂は目の前のチョコカクテルを傾け一気に飲み干した。
そうとは気づかず報告書を読み進めていた加古川は、ある事実に気がついた。

加古川「全て、【大戦】の一週間後なのか…」

ポツリと呟いた加古川の言葉に筍魂は眉をひそめた。

筍魂「【大戦】…ああ、昨日の話か?
たけのこ軍の圧勝だったなあ。きのこ軍の奴ら、まるで覇気が無いように総崩れだった。
それに終わった後もすごい騒ぎだった。
何処かの国のお偉いさんが来られてるもんだから帰るのにやけに時間がかかった」

加古川「いや、そうではないんだが――なんでも無い」

喉まで出かかった言葉を既(すんで)の所で噤んだ。



目の前の友人を、言いようの知れない闇に巻き込んでしまうことを恐れたのだ。


218 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その9:2020/08/30(日) 23:12:32.939 ID:AIXgRpAoo
筍魂は周辺住民からの情報をもとに、ここ最近のダイダラボッチが出没したと思われる日付を調べ上げた。

加古川は再び額に人差し指を当て考え始めた。
仕事柄、加古川は会議所区域内のイベントの日程を大まかに把握している。
会議所本部で行われる会議の日付、会議所区域内の大戦場で行われる【大戦】開催日などは空で言えるほどだ。

その職業柄のせいか、加古川は筍魂の気づかなかった違和感にすぐに気がついた。



“きのたけのダイダラボッチ”の出没日は、どの日付も【大戦】開催日と連動していた。

【大戦】開催日の一週間後の日付に必ずダイダラボッチが出没しているのだ。


思い起こせば、“きのたけのダイダラボッチ”と出会った日も【大戦】の一週間後だった。

一度や二度だけではなく加古川が覚えているだけで直近の五回の【大戦】と出没日は全て連動している。
これをただの偶然と片付けてしまっていいのだろうか。加古川は、自身が徐々に背筋の凍る思いを持ち始めていることに気がついた。


219 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その10:2020/08/30(日) 23:15:37.827 ID:AIXgRpAoo
筍魂に“きのたけのダイダラボッチ”と出会った話はしていない。
今回の調査の依頼は、自らの興味本位とほんの少しの友人への気遣いによるものだ。

与太話として、筍魂に当時の話をしていれば違った結果を生んだのかもしれない。

ただ、直感で加古川は遭遇談を筍魂に話すべきではないと感じていた。
今日の報告次第で、“きのたけのダイダラボッチ”はただの【大戦】の新ルール用の兵器で伝説でも何でも無かった、とでもなれば加古川も安堵して自らの体験を笑い話にしただろう。

埼玉から“きのたけのダイダラボッチ”伝説の話を聞いてから、滝本にチョ湖への異動を命じられ、その直後にダイダラボッチと出会った。
話が出来過ぎだ。

加えて、ダイダラボッチの出没日は【大戦】と連動していることがわかった。
埼玉や周りの部下は“きのたけのダイダラボッチ”を大戦の神と崇める者も少なくないと語っていた。
理由は不明だが、【大戦】後に決まって現れるからそう結びつける者もいるのだろう。もし噂通り、彼が大戦の神ならかわいいものだ。


だが、加古川はこの寸分狂わず一週間後に現れる日程の羅列から、微かに“事務的な無機質さ”を感じ取っていた。

もし。

限りなく可能性は低いが。

もし、このダイダラボッチが“何か”目的を持ってチョ湖に現れているのだとしたら。

“どこかの誰か”の管理下でダイダラボッチが現れているとだとしたら。



得体の知れない不気味さを前に加古川は、自分のワイシャツが冷や汗でべったりと濡れていることに気がついた。


220 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その11:2020/08/30(日) 23:17:35.820 ID:AIXgRpAoo
筍魂「どうした、加古川さん?」

神妙な顔をした加古川に疑問を持ったのか、筍魂は呑気に声を掛けた。

思考の沼に囚われていた加古川はすぐに意識を戻した。
咄嗟に作り慣れた仮初の笑顔を浮かべたのは、彼の年の功に因るものもあるし、口元に細くなったカカオの味が一斉に広がったことも大きかった。

加古川「いや、なに。部下と比べてあまりに資料のまとめ方がキレイだから、職場のことを考えたら却って頭が痛くなってね。
魂さん、よければうちで働いてくれないか?」

筍魂「嬉しい話だが、残業の虫にはなりたくないんでね」

追加で運ばれてきたカクテルグラスに目を写しながら、二人は再び杯を重ねた。

加古川「報酬は弾もう。まずは成功報酬の代わりとして、今夜の代金は私持ちだ」

筍魂「随分と気前がいいことだ。別に奢りでなくてもいいんだが、お言葉に甘えよう。
ついでに一つ教えてくれないか?」

加古川はグラスを傾けながら、目で続きを促した。

筍魂「こんなに調べて、いったい何をするつもりで?」

真意を探る質問を前に、加古川は飲み干したグラスを置き暫し凝り固まった首を回し時間を置いた。


221 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 探偵はBARにいる編その12:2020/08/30(日) 23:18:43.764 ID:AIXgRpAoo
加古川「さあ、私にも分からないんだ。
ただ、気になったことはとことん調べたい性格でね。それに…」

筍魂「それに?」

筍魂も手に持ったグラスを置き、神妙な顔で加古川の次の言葉を待った。

加古川「何かとてつもない発見をしそうなんだ。
それを見つけて、今のところどうこうするつもりはないがね」

筍魂「あんたの口癖の“真理は想像を超える”、だっけか?
そんな展開になるってことかい?」

加古川は肩をすくめ困ったように笑った。

加古川「そこまで掴んでないがね。目の前の花と謎は摘んでおきたい性質でね」

冗談を言ったつもりだったが、筍魂は途端に押し黙り眉間に皺を寄せた。

筍魂「それがたとえ茨の道になろうともか?」

加古川は筍魂からの視線と質問には向かい合わず、目の前のグラスを手に取ると静かに飲み干した。


いつも飲んでいるはずのカフェオレは、こころなしか苦かった。


222 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/08/30(日) 23:19:47.143 ID:AIXgRpAoo
咄嗟に嘘を隠す態度の余裕さで、大人かどうかわかりますよね。

223 名前:たけのこ軍:2020/08/30(日) 23:24:45.104 ID:wyQ1jM4A0
大人な渋い会話かっこいい

224 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その1:2020/09/06(日) 00:24:05.381 ID:tngxbY9Ao
【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部 会議場:議案チャットサロン】

滝本「それでは只今の議題について確認を取ります。
会議所自治区域内の人口増加に伴う新たな大戦場の増設について、反対はないですか?…はい、反対の方がいないということで本議題は可決されました。
すぐに空いている荒れ地を整備し、新たな大戦場を整備するという方向で調整いたします」

静まり返った会議室に、お経のように抑揚のない滝本の声が響き渡る。

議題が進むほど兵士たちの沈黙は濃くなっていく。
各人ともやる気がないわけではないのだが、ある程度の答えや方針が既に示されている議題については、“何も自分が発言しなくてもいいだろう”という遠慮に似た理性のブレーキが働くのだ。

加古川もそのようなことを考える一人だった。
【会議】が始まってそろそろ二時間程となる。当初は加古川も積極的に発言していたが、今では滝本が一人で喋るのみだ。

会議室には長い円卓テーブルを挟んで両側にはきのこ軍、たけのこ軍に分かれ何十人もの出席者がいたが滝本以外に誰も口を開く者はいなかった。
地方の法事にでも参加している気分だ。
だが、これが会議所本部で開かれる【会議】という伝統行事の日常風景だった。

滝本「おや、もうこんな時間ですね。参謀、他にもう議題はないですよね?」

滝本はチラリと掛け時計を見ると、きのこ軍側の上座に座る参謀B’Z(ぼーず)に声をかけた。

参謀「そうやな」

手元の書類に目を落とした参謀は一度だけ頷いた。参謀の答えに、親しい者にしかわからない程度の変化で、滝本は微笑を浮かべた。

滝本「それでは今日の【会議】を閉会とします。皆さんお疲れさまでした」

ペコリと頭を下げ、滝本は【会議】の終了を宣言とした。


225 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その2:2020/09/06(日) 00:24:47.202 ID:tngxbY9Ao
加古川「ふう。ずっと座ったままでは腰が痛くなるな」

滝本の宣言とともに途端に喧騒を取り戻した会議室で、周りに遅れて加古川も椅子から立ち上がって軽く伸びをした。

抹茶「お疲れさまです、加古川さん。これからお昼でもどうですか?最近、近くに新しい定食屋ができましてご一緒できれば」

加古川が立ち上がるのを見越してか、たけのこ軍兵士 抹茶(まっちゃ)が声をかけてきた。

彼は加古川よりも二周り程度年下の若者だが、その歳で大戦企画部の責任者にまで上り詰めている実力者だ。
会議所への加入は寧ろ加古川のほうが遅めのため抹茶は【会議所】では先輩にあたるが、年齢から見れば二人は子と父ぐらい離れている二人は気兼ねなく話せる仲だった。

加古川「おお、それはいい。ただ、あまり濃い味付けじゃないところがいいなあ。またカミさんに怒られるから」

抹茶「その点はご安心ください。味の美味しさは保証しますよ」

緑髪の髪が愉快そうに揺れる。画して、二人は昼食のために外出することになった。


226 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その3:2020/09/06(日) 00:27:51.819 ID:tngxbY9Ao
【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部近く 小料理“葱亭”】

会議所本部とは、自治区域内の実質的な政府機構を持つ【会議所】を含む庁舎群の総称である。
一帯は周りと区別するために塀で仕切られてはいるものの、中心にそびえ立つ巨大な本部棟以外に部署毎にそれぞれ庁舎が分けられており、そこでは数え切れないほど多くの自治区域民が汗水を垂らし働いている。
さらには、本部内にはポン酢町を始めとした飲食街や公共施設、さらに多様なショッピングモールなどが存在し、会議所本部自体が一つの都市としても他国の大都市と遜色ない程の充実さを有していた。

抹茶が勧める小料理“葱亭”は、本部棟から歩いて数分も経たない庁舎内の一角でひっそりと暖簾を出している小料理屋だった。

抹茶「ここが穴場でして。加古川さんが異動した直後あたりに出来たんですよ。特にこのネギのお吸い物が絶品ですよ」

出された膳の吸い物に口を付けながら、抹茶は笑顔で舌鼓をうった。

加古川「たしかに薄口でしっかりとした味付けだな。ただ、滝本さんはこの店には来られないだろうな」

一番人気の定食は葱御膳でネギハンバーグ、ネギの煮物、ネギの吸い物と全ての料理にネギが使われている。
大のネギ嫌いで通っている滝本は絶対にこの店には寄り付かないだろう。

抹茶「ははは。一回、騙してこの店に行かせようと思ったことがあるんですけどね。失敗しちゃいました」

抹茶は屈託なく笑った。抹茶と滝本は仲が良く、ふたりで個別に議題検討会を開き【会議】について話し合うこともあるらしい。
滝本の年齢はわからないが、案外抹茶と年が近く気が合うのかもしれない。


227 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その4:2020/09/06(日) 00:30:34.248 ID:tngxbY9Ao
加古川「ネギと言えば、前議長の集計班さんも大のネギ嫌いだったな。ウチの議長はネギ嫌いじゃないとなれない決まりでもあるのかね?」

抹茶「そう言われてみたらそうですね…ん?あれは?おーい、¢さんッ」

向かいの抹茶が手を振るので、加古川も振り返り視線を入り口に向けた。
すると、濃緑のきのこ軍の軍服を着た、くたびれた顔のきのこ軍 ¢(せんと)が立っていた。

¢「んあ?抹茶さんに加古川さんなんよ」

舌足らずの方言で彼は目を丸くした。

抹茶「混んでますよ。相席でよければ隣空いてます」

¢「ではお言葉に甘えるんよ」

¢は加古川たちのテーブルに座った。

こうして¢とともに食事をするなんて珍しい。
彼は正に会議所自治区域の誇る“頭脳”だ。
今日までに至る【大戦】のルールをほぼ一人で作りあげた英傑として、会議所でその名を知らない者はいない。
今も【大戦】統括責任者として自治区域を支えており、議長の滝本、副議長の参謀に続く【会議所】の三番手に位置する人間と目されている。

その英傑はしかし孤独を好むのか、あまり表立って外に出てくることはせず専ら引きこもっていた。
特段人付き合いが悪いというわけではないのだが、出不精なのか誘われない限りはあまり外に出てこないのだ。

彼は外出よりも庁舎に籠もり新たなルールの研究を進めるほうが性に合っている研究家肌の人物のように加古川には見えた。
【会議所】発足時から一貫してこの態度は崩さない。
敢えて孤独を好むその姿勢は、加古川もある種共感できるところはあるので否定はしない。


228 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その5:2020/09/06(日) 00:33:01.040 ID:tngxbY9Ao
抹茶「外出なんて珍しいですね。どうしたんですか?」

¢「ぼくだって外に出て食事することぐらいはあるんよ…」

呆れた口調で¢は言葉を返し、出された茶を啜った。
加古川の持つ¢という兵士のイメージ像は初期と今とで大きく異なる。

十年前、加古川が会議所本部にたどり着いた時、¢(せんと)はきのこ軍の確固たるエースとして君臨していた。
彼自身も今とは違い自信に満ち溢れた喋り方と物言いで、当時はその端正な顔立ちもあわさり、きのこ軍の“顔”として圧倒的な人気を誇っていた。

しかし前議長の集計班が亡くなった五年前ぐらいからだろうか。
彼はめっきり老け込んでしまった。
それに相関するように自信満々な物言いも影を潜めていき、次第に舌足らずな方言が口をついて度々出るようになった。
老人のようにか弱いその口調からも、今では自信の無い弱々しさだけが前面に出るようになってしまった。

いま目の前に座る彼は、当時と違い金髪はだらしなく垂れ下がり、頬はたるみ顔には皺が深く刻まれている。
彼は今も【大戦】の仕組みを一手に担う重責を負っている。いつの間にか顔に刻まれた多くの皺は、時々自身よりも老けて見えるのではないかと驚かされることがある。
それゆえ激務で、同時に会議所自治区域は大きく発展したということでもあるのだ。


229 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その6:2020/09/06(日) 00:37:23.708 ID:tngxbY9Ao
¢が食事を待っている間、三人は軽く雑談を進めていたがほんの少しの沈黙の最中、近くの話し声が耳に届いた。

「数日前の【大戦】、お前はどれだけ撃破したよ?」

「俺はたったの5撃破。ほとんど何もさせてもらえなかったよ」

何気ない世間話も聞き耳を立ててしまうのは悪い癖なのかもしれない。
加古川から見て右に座っていた二人の男はその格好からきのこ軍、たけのこ軍兵士のようだった。

「お前、きのこ軍だもんなあ。手酷くやられたんだろう?どの大戦地でも壊滅的だったときくぜ」

「うるせえ、きのこ軍をバカにするな。でも軍全体に勢いが無かったな。どうも軍を動かす人が出てこれなくてボロ負けした感じがしてさ」

二人はそこで言葉を切った。出てきた食事を食べ始めたようだ。
加古川は二人の発言になにか引っかかるものを感じた。だが、何かまではわからない。


230 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その7:2020/09/06(日) 00:38:36.962 ID:tngxbY9Ao
丁度いいとばかりに、手持ち無沙汰にしている¢に向け、吸い物を飲みきった抹茶は二人の話に関連して話題を振った。

抹茶「そういえば¢さんはこの間の【大戦】どうでした?やはりエースですから二桁撃破ぐらいはいきましたか?」

何の変哲もない話だが、なぜか¢はピクリと肩を震わせた。

¢「ぼくは…全然活躍できなかったんよ」

歯切れ悪く¢は答えた。
小さな違和感を覚えた。

加古川「¢さんはどの大戦場にいたんです?私と抹茶さんは第5大戦場でしたが」

今や膨大な参加者を抱える【大戦】では、大戦場を何箇所にも分けて同時多発的に戦いを行っている。
個々の戦場の結果を統合して最終的にその戦いの勝者を決める仕組みに少し前から移行したのだ。

¢「…第7…いや、第8戦場だったかな。すぐにたけのこ軍に撃たれて戦線離脱したからか、あんまり覚えていないんよ」

目を泳がせる¢だったが、そのとき丁度彼の前にネギ御膳のお盆が置かれた。
香ばしいネギの薫りが、隣りにいる加古川たちにもただよってきた。

¢「美味しそうだけど、滝本さんにはこの店は紹介できないんよ」

苦笑しながら、小さくなった背中を丸め目の前の食事に手をのばすかつてのエースの姿は改めて印象的で、同時に加古川にある決心を思い至らせた。


231 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その8:2020/09/06(日) 00:39:42.511 ID:tngxbY9Ao
【きのこたけのこ会議所自治区域 会議所本部 wiki図書館】

抹茶と¢との食事を終えた加古川は、余った時間を利用し本部一帯の外れに位置する図書館を訪れた。

参謀「おお、加古川さんや。此処に来る加古川さんを見るのは久々やな」

司書と図書館長を兼ねる参謀B’Zは受付の前で加古川を見つけると、“さっきの会議ぶりやな”と手を上げて歓迎の意を示した。

加古川「そういえば此処に来るのは久しぶりだ。資料室に入ってもいいかい?」

参謀「どうぞご自由に。許可なんていらんよ。俺の職場は生きた人よりも無機物な書物たちと向き合っている時間の方が多いからな」

互いに苦笑し、加古川は書物棚の奥にある資料室へ歩みを進めた。

wiki(ウィキ)図書館は【会議所】設立時から存在する歴史ある図書館だ。
数十万点以上の書物が保管されており、図書館長の参謀B’Zの指示の下、全ての書物は棚に整理整頓してあり利用者には大層評判がいい。
ただ、最近では客足が遠のいているようで、昼過ぎだというのに見渡す限り訪問客は加古川しかいない。
参謀が嘆くのも無理はない。

書棚が並んでいる大広間の奥には通路を隔てて幾つかの書物部屋に分かれており、その内の一室が資料室だ。
大戦に関する歴史がまとめられている部屋で、大戦の歴史や戦評などの詳細資料がまとめられている。
加古川も【会議所】に入りたての頃はこの部屋によく足を運んでいたものだ。


232 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その9:2020/09/06(日) 00:41:23.204 ID:tngxbY9Ao
加古川「綺麗に並べられているな…」

あまり人が足を踏み入れてないのだろう。
資料室の中は他のフロアと比べると少し湿っぽく埃臭かった。
それでも書棚を見れば直近の大戦の資料を並べられている辺り、参謀B’Zという人間の几帳面さが伺える。

加古川は部屋の中央棚の一角のラベルに書かれた『大戦参加者名簿』という列のファイリングを手に取った。
部屋の灯りを付け、テーブルに資料を広げ過去の大戦の両軍の参加者を確認し始める。

昨日の筍魂の資料を宿泊先でも読み返し、加古川は改めて“きのたけのダイダラボッチ”に関して不思議な点があることに気がついた。
そして先程の定食屋での話も相まって、いてもたってもいられなくなり【大戦】の歴史を漁り始めた。

―― 加古川「全て、【大戦】の一週間後なのか…」

―― 「うるせえ、きのこ軍をバカにするな。でも軍全体に勢いが無かったな。どうも軍を動かす人が出てこれなくてボロ負けした感じがしてさ」

―― ¢「…第7…いや、第8戦場だったかな。すぐにたけのこ軍に撃たれて戦線離脱したからか、あんまり覚えていないんよ」

昨日からの色々な人間の会話が、頭の中で何度も反芻される。

ケーキ教団。
 角砂糖の高騰。
  きのたけのダイダラボッチ。
    そして【きのこたけのこ大戦】。

一見、何の繋がりも見られない要素たちは、いま、加古川の調査により一つの“線”で繋がろうとしていた。


233 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その10:2020/09/06(日) 00:43:02.180 ID:tngxbY9Ao
加古川「やはりッ!この大戦にも“いない”。その前の大戦は…やはりいない。そうかッ」

加古川がめくる資料自体は何の変哲もないただの参加者名簿に過ぎない。
しかし、脳内には昨日の筍魂の調査内容とあわせて、不完全ながら一つの仮説が出来上がりつつあった。

加古川「そうすると、教団は一体何の目的でこんなことをッ――」


自らの考えをまとめようとしていた最中。


突如、パリンという小気味よい音とともに頭上の灯りが全て消えた。
資料室は途端に暗闇に包まれた。

加古川「なんだ、停電かッ――」





ガチャリ。




酷く冷酷な金属の重厚な音が室内に響き渡った。
心臓をキュッと掴まれたように加古川は言葉をつぐみ、無言で手を上げた。


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

234 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その11:2020/09/06(日) 00:44:23.386 ID:tngxbY9Ao
「警告だ。これ以上、首を突っ込むようなら容赦はしない」

しゃがれた声で銃の主は、背後から加古川の耳元で囁いた。
端的な言葉は驚くほど明快な殺意と威圧を放っていた。

聞き慣れない声だが、きっと何らかの道具で声を変えているのだろう。
喋り口調から声の主を聞いたことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
そこまで気を回す余裕はなかった。

加古川「どこの誰かは知らないが、ありがたい忠告をどうも」

加古川は腹から絞り出した自分の声が存外に震えてないことを確認した。
ハッタリは元々得意分野だ。

加古川「でも人違いじゃあないかい?私はただ大戦の歴史を調べるのが好きなだけなんだ」

とりわけ明るい声で応対するが、背後に突きつけられた腰の銃が下がることはない。

「即刻手を引き、平和で多忙な日常に戻るといい」

加古川「もちろんさ。仕事の合間でこうして趣味に没頭することが平和じゃなく何という?」


235 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その12:2020/09/06(日) 00:46:10.955 ID:tngxbY9Ao
「…警告はした。次はないぞ」

途端に腰の辺りから銃の違和感がなくなり、背後の気配も同時に消え失せたことを瞬時に察知した。
すぐに振り返るもそこには誰の姿もなく、資料室の外の通路は先程と同じ様に煌々と灯りが灯っていた。

ファイリングをパタリと閉じると、加古川はたらりと垂れた額の汗を静かに拭った。

加古川「真理は、想像を遥かに超えるな…」

しかし同時にこの忠告で、加古川は自分の推理は間違っていないという確証を得た。

何か得体のしれない闇に飲まれているのではないかと不安に思っていたが、何ということはない。


“すでに飲まれていた”のだ。


加古川「これぞ正に反証の理、というやつだな…」

自嘲気味に笑おうとするも、歴戦の兵士も流石に今回の出来事に顔はひきつり気味だった。
一度深く息を吐き出し、資料を元に戻した加古川は電球が割られた室内には目もくれず再び歩き始めた。


236 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 警告編その13:2020/09/06(日) 00:47:22.128 ID:tngxbY9Ao
参謀「おう、お帰り。ってどうしたんや、すごい汗だぞ」

加古川「いや、資料室内は熱気がすごくてね。そういえば、私の後に誰か客は来たかい?」

参謀「いや、今日はまだ加古川さん以外に誰も此処には来ていないが…」

参謀の言葉に加古川は作り笑いで一度だけ頷いた。
今度はひきつらずちゃんと演技できている。

加古川「それは苦労するね。そういえば、資料室の灯りだけど古いからか全部割れてしまっていたよ。後で交換しておいてくれ」

そう言い残し、加古川は図書館を出た。
一刻も早く外の空気を吸い、自らがまだ生きている実感を得たかった。


237 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/09/06(日) 00:48:13.835 ID:tngxbY9Ao
あと5回ぐらいの更新でこの章は終わる予定です。

238 名前:たけのこ軍:2020/09/06(日) 01:27:16.143 ID:OkrZNOqs0
緊迫する感じいいですね

239 名前:Episode:“赤の兵(つわもの)” 加古川 潜入編その1:2020/09/13(日) 23:24:25.133 ID:Xqoo728so
【きのこたけのこ会議所自治区域 ケーキ教団本部】

図書館での一件があってから加古川は急ぎチョ湖支店に戻り、すぐにスティーブ経由でケーキ教団への入信を告げた。

本部前で馬車を降りる彼に、相変わらずコック帽とコックコートを着こなしたクルトンが諸手を挙げて待ち構えていた。

クルトン「いやあ。いやあ。待っていましたよッ。貴方も入信してくれるとは嬉しいですよ、加古川さんッ!」

やわらかで穏やかな季節風が吹き始めた中、加古川の格好もチェックシャツにブラウンコートと相変わらずやや厚手のままだ。
加古川は彼の言葉に口元をニッコリとさせた。

加古川「この歳になり仕事一本で何も趣味を見つけられなくてね。この間の説明で心も穏やかになると思ったし、いいかなと思ったんですよ」

彼の言葉に、クルトンは敬虔な教祖に戻ったように仰々しく何度も頷き同調した。

クルトン「それでは早速食堂で加古川さんの入信を祝してお祝いケーキパーティを開きましょう」

二人は城門前の広場を横切り、井戸の脇にある入口から続く回廊を歩き始めた。



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