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きのたけカスケード ss風スレッド

1 名前:きのこ軍:2020/03/15 23:24:14.292 ID:MbDkBLmQo

数多くの国が点在する世界のほぼ中心に 大戦自治区域 “きのこたけのこ会議所” は存在した。

この区域内では兵士を“きのこ軍”・“たけのこ軍”という仮想軍に振り分け、【きのこたけのこ大戦】という模擬戦を定期的に開催し全世界から参加者を募っていた。
【大戦】で使用されるルールは独特で且つユニークで評判を博し、全世界からこの【大戦】への参加が相次いだ。
それは同じ戦いに身を投じる他国間の戦友を数多く生むことで、本来は対立しているはずの民族間の対立感情を抑え、結果的には世界の均衡を保つ役割も果たしていた。
きのこたけのこ会議所は平和の使者として、世界に無くてはならない存在となっていた。


しかしその世界の平和は、会議所に隣接するオレオ王国とカキシード公国の情勢が激化したことで、突如として終焉を迎えてしまう。


戦争を望まないオレオ王国は大国のカキシード公国との関係悪化に困り果て、遂には第三勢力の会議所へ仲介を依頼するにまで至る。
快諾した会議所は戦争回避のため両国へ交渉の使者を派遣するも、各々の思惑も重なりなかなか事態は好転しない。
両国にいる領民も日々高まる緊張感に近々の戦争を危惧し、自主的に会議所に避難をし始めるようになり不安は増大していく。

そして、その悪い予感が的中するかのように、ある日カキシード公国はオレオ王国内のカカオ産地に侵攻を開始し、両国は戦闘状態へ突入する。
使者として派遣されていた兵士や会議所自体も身動きが取れず、或る者は捕らわれ、また或る者は抗うために戦う決意を固める。

この物語は、そのような戦乱に巻き込まれていく6人の会議所兵士の振る舞いをまとめたヒストリーである。



                 きのたけカスケード 〜 裁きの霊虎<ゴーストタイガー> 〜



近日公開予定

40 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  謁見編その6:2020/04/18 11:35:49.023 ID:zmqkJGH.o
斑虎「この国の豊富な資源を狙い、公国が色目を出してきた恐れがあります。
会議所からも同時に公国へ兵士を送っていますが、正直に言って協議は難航すると思います」

包み隠さず斑虎は自らの考えを述べた。下手におべっかを言うより、真実を告げるほうが得策であると思ったためだ。
ナビス国王にもその思いは伝わったようで、斑虎の淀みない言葉に力強く頷いた。

ナビス国王「元より覚悟の上だ」

ほう、と斑虎はナビス国王の姿勢に少し驚いた。
歳は斑虎の一回りも二回りも上だが、彼も斑虎に負けない覚悟と“若々しさ”があると感じたのだ。
困難を前にしても立ち向かう姿勢は年齢を感じさせない前向きさがあった。

ナビス国王「暫くは王宮に泊まっていきなさい。君には苦労をかける」

斑虎「ありがとうございます。ですがご心配なく。【大戦】での幾多の窮地に比べたらこんなのまだまだです」

斑虎の言葉にナビス国王は思わず吹き出した。

ナビス国王「確かに君たちは戦いのエキスパートだったな。【大戦】の武勇伝を今夜の食事のときにも詳しく聞かせてくれ。私も最後の【大戦】から久しく参加していない」

斑虎「王も参戦されていたんですね。当時はどの軍で出られていたんですか?」

ナビス国王「【きのこ軍】だよ。たけのこがどうにも苦手でね。君は私の同胞かな?」

斑虎はニヤリと笑うと手でバッテン印をつくった。それは残念とばかりに王は頭を振った。
国自体にユーモアはないがこの王はなかなかユーモアのセンスがあるじゃないかと、斑虎は王国に対し少しだけ考えを改めることにした。


41 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/04/18 11:36:26.179 ID:zmqkJGH.o
次から頑張れ斑虎くんパートがはじまります。

42 名前:たけのこ軍:2020/04/18 22:14:02.594 ID:pvw/c0bk0
このせんすある会話と設定がうらやましぃ

43 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その1:2020/04/23 22:03:17.004 ID:zmqkJGH.o
王国に来てからの斑虎は、会議所のときとは打って変わり慌ただしい生活を送った。
少しでも王国の現状を知ろうと次の日からは自らの足で各地に赴き調査を重ねた。

元々、会議所における斑虎の評価は勇往邁進な直言居士といったものだった。
誰に対しても物怖じせずに発言し類まれなる行動力を持っているため、中途半端な実力しか無い兵士からは目の上のたんこぶだが、力を持った人間からは気に入られる。
791が斑虎を気に入っていた理由もそれに因るものが大きい。

彼の持ち前の熱心さは王国側からすると嬉しい誤算だった。
斑虎のひたむきな姿勢と行動が、王国の民の意識を着実に変えていった。
その最中、彼の知名度を爆発的に上げる切欠となった一つの出来事があった。


44 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その2:2020/04/23 22:04:59.344 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王都】

その日、朝から宮殿内は慌ただしい空気に包まれていた。
【三大国】の一角であるトッポ連邦の外交使節団が王宮に訪れる予定になっていたためだ。
訪問の目的はチョコ資源の相互活用するための技術交流が主である。加えて、王国側としては、公国に対峙するための後ろ盾としての支援表明を連邦に要請したいという真の意図があった。

しかし王国側の気持ちに反し、連邦の態度は煮え切らないだった。
それは事前の王国の調査だけでなく多くの新聞や情報からでも明らかで、公国に遠慮している連邦の姿勢が如実に表れていた。

斑虎は王宮の外に出て、使節団の到着の様子を遠巻きに見ていた。
王宮前には多くの人だかりができ、まるで救国の英雄を持て囃すかのように連邦の使節団は民衆から熱烈に迎えられた。
見ていて痛々しい程の歓声だ。
力を持たないこの国は風前の灯だ。そして弱った国を救う英雄を人々は欲している。
表向きは平時と変わらないように過ごしている人々も心の底では状況を理解し求めているのだ。斑虎にもその切実な気持は伝わってきた。

オレオ王国を救うためには荒療治が必要だ、と斑虎は考えている。
武力を持たず平和主義を貫くオレオ王国は、今回のような連中から因縁をつけられた際の有事に対し非常に無力だ。自分一人では何も出来ないため、他国の力を借りるしかない。
“真の友人”なら助けてくれるだろう。しかし、幾ら同盟が王国を守る唯一の術だとしても、打算のある友好国たる“友人”から切り捨てられれば、残るは対抗手段を持たない王国だけだ。

孤立は避けなければいけない。そのためには“甘ちゃん”の王国の会議を遠くで見届けるのはあまりに心細い。
斑虎は子を見守る親のように気をもんでいた。

思考の渦に囚われていた斑虎は、目の前で外交団の一団が通り過ぎるのを気づかないほどだった。

斑虎「…あいつはッ!?」

しかし、続々と通り過ぎた外交団の中に、一人見知った人間がいたのを斑虎は見逃さなかった。
一瞬の驚きの後、シメたとばかりに斑虎はすぐにほくそ笑んだ。


45 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その3:2020/04/23 22:07:14.704 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王宮】

優雅な王宮内とは裏腹に厨房は異様な慌ただしさに包まれていた。見習いのコックが加熱処理を誤り鍋のチョコを丸ごと焦がしてしまったのだ。
厨房では慌ててチョコレートドリンクを始めとしたチョコ料理を一から作り直していた。

「ええい!まだ完成せんのかッ!これでは客人への饗しも満足に出せぬ国と言われるぞッ!王国の沽券に関わるッ!」

斑虎が厨房を覗くと、恐ろしい剣幕で初老の料理長が厨房内を怒鳴り散らしていた。
大戦の戦場にもここまで厳しい指揮官はいないだろう。

しかし、このトラブルはかえって斑虎にとっては追い風だ。

斑虎「やあ料理長。少しだけ時間いいかな?」

斑虎の声に、人を射抜かんとする目で料理長は振り返った。彼は斑虎をギロリと一瞥すると、やり場のない怒りを静めるためにギリと一度歯ぎしりした。

「これは斑虎さん。なにか御用で?」

料理長は明らかに苛ついている声色を隠そうともしていない。

斑虎「お困りのようならばお助けしますよ」

「ありがたいお申し出ですが結構です。今は一分一秒も惜しい」

すぐにでも会話を打ち切りたいように、料理長は斑虎から顔を背け吐き捨てるように告げた。それでも斑虎は余裕の表情を見せたまま引き下がらない。

斑虎「それは残念。今から人数分のチョコレートを再度溶かし料理を完成させるだけでも数十分はかかるでしょうね。
それでは予定していたチョコ料理は到底出せないし、せいぜい粗茶で時間を潰すのが関の山だ。王国料理団は首でしょうね」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

46 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その4:2020/04/23 22:11:50.820 ID:zmqkJGH.o
【オレオ王国 王都 大広間】

斑虎が大広間の扉を開けた時、両国の協議は正に佳境を迎えている最中だった。
広々とした部屋の天井には絢爛な壁画が一面に彩られ、見る者の目を奪う美しさだ。しかし、その壁画の真下では絵画の美しさなど見る余裕も暇もない大人たちが額を合わせ話し合っている最中だった。

少しだけ静観して斑虎は両者の話を聞くことにしたが、話の冒頭から早速ずっこけそうになった。
傍から見ても協議は対等な関係には見えず、懇願をする王国側に対し連邦側は理由をつけノラリクラリと交わしていた。

「ですから再三申し上げた通り、貴国のおっしゃるように【支援表明】など無くとも、我が国は貴国との友好関係を世界に十分に示せていると考えています」

連邦外交団席の中心に座る華奢な青年議員は、駄々をこねる子供たる王国側をたしなめる親のように、諭す口調でそのように突き放した。

「いえ。しかし、我が国はご承知の通り軍隊を持ちません。そのため、カキシード公国が仮に暴挙に出た際に対抗する手段を持たないのです。
貴国とは緊急時の安全同盟を締結している。この非常事態に事態を打開できる国家を貴国と見越し、このようにお願いをしているのです」

王国側の文臣の一人は懇切丁寧に連邦側に自らの置かれている立場と本心を伝えた。
しかし、彼の悲痛な叫びにも連邦側は眉一つ動かさない。文字通り連邦側の中心人物的な青年議員は掛けたメガネの位置を片手で直すと、顔色一つ変えずに語り始めた。

「大変申し訳無いが【支援表明】については、全権大使の私でもその一存はすぐに決められない。
我が国は議会制でね。議題を持ち帰り議会での議論がないと決められないのだ。今すぐのお応えはできない」

連邦使節団の中には彼よりも経験を積んだ重鎮は数多くいるだろうに、件の青年議員以外は一切の言葉を発さず、そのせいか彼は一際輝き目立って見えた。
もしかしたら彼以外の仲間は全員蝋人形かもしれないな、と遠巻きで眺めながら斑虎は考えていた。


47 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  英雄エピソード編その5:2020/04/23 22:13:57.155 ID:zmqkJGH.o
「それならばすぐに持ち帰り協議していただけませんか。事態は一刻を争います」

ある王国の文臣からの声に、彼はフンと鼻を鳴らした。

「議会は現在閉会中です。それに緊急事態なのは承知していますが、果たしてこれが客人にもてなす態度なのでしょうか?
誠に僭越ながら、今日は昼食を取りながらの会談と聞いておりましたが、料理の一つも録に通されぬまま数十分が経とうとしています。
我が国では通常、このようなことは無礼千万にあたります。
加えて、いきなりそのように捲し立てられては、いくら友人といえども付き合い方を考える必要があるとは思いませんか?」

―― 外交上の非礼にあたります

最後に告げた彼の言葉は王国側から見れば非常な通告に聴こえたことだろう。

斑虎「物腰柔からなインテリヤクザと、食い物にされる哀しき貧民といった構図かな…」

斑虎の目の前で繰り広げられている会話は見るに絶えない、“交渉未満”の駆け引きだった。
一通り事の次第は把握した。満を持して、斑虎は交渉のテーブルに加わる覚悟を決めた。

斑虎「楽しいお話のところを失礼ッ!お待たせして申し訳ございません。お食事をお持ちいたしましたッ!」

突然の部外者の張り上げた声に、全員は一斉に斑虎に顔を向けた。その中には当然、件の青年議員も混ざっていた。
彼は怪訝な顔で顔を斑虎に向け、直後に驚愕の表情に変わった。今日初めて彼の表情が変わったところを見た、と斑虎は少し得意気になった。

「お前は、斑虎ッ!どうしてッ!?」

斑虎「こんなところで会うとは奇遇だな、椿(つばき)。祖国では随分と偉くなったみたいじゃないか」

元たけのこ軍兵士、現トッポ連邦国務大臣の椿は斑虎の言葉に金魚のように口をパクつかせることしかできなかった。


48 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/23 22:18:09.652 ID:zmqkJGH.o
斑虎さんは上に噛み付いて仲間の面倒見いい系兄貴分的なポジション。

49 名前:たけのこ軍:2020/04/23 22:29:49.283 ID:pvw/c0bk0
これは主人公だ

50 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その1:2020/04/30 19:58:04.733 ID:RaN.TSZYo
斑虎と椿のきのこたけのこ会議所自治区域への移住はほぼ同時だった。
正確には斑虎の方がほんの少し先だったが、当の斑虎は先輩面をしなかったし、もちろん椿も後輩として振る舞うこともしなかった。
移住後、たけのこ軍へ同期加入となった二人は互いに【大戦】で競い合い、会議所で開かれていた【会議】にも積極的に参加し存在感を増していった。
二人は良きライバルだった。

「斑虎さん。これは国同士の話だから貴方が口を挟むのは――」

ナビス国王「構わないよ、続けなさい。それに椿大臣と彼は旧友の様だ。“少しだけ”、旧友との再会を懐かしんでも罰はあたるまい」

王国側の一人が斑虎を静止しようとしたが、ナビス国王は彼の言葉を遮り斑虎に微笑んだ。
ナビス国王の目配せに斑虎は感謝の意を示しつつ、椿と向かいあう位置で静かに席についた。


51 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その2:2020/04/30 20:03:49.939 ID:RaN.TSZYo
突然の旧友の再会に、先程まで余裕綽々だった椿は打って変わり、明らかに動揺していた。

椿「何時から王国の一員になったんだ?」

斑虎「俺は今も会議所の人間さ。今回も会議所からの使者として派遣されている。いわばただのゲストさ」

机を挟んで向かいに座る椿は会議所に居た当時より少し老けたものの、かえってその老いが彼の風格に磨きをかけていた。
スマートな若者だったあの頃に“渋み”と“鋭さ”が加わり、やり手のエリート議員という風貌だ。

椿「私は君と昔を懐かしんでいる暇は無いんだ。すぐにでも協議に戻りたい」

こうした可愛げの無さは当時から変わっていない。必死に相手のペースに呑まれないように意識を強く持とうとする姿は若い頃と同じだ。
当時から少し背伸びをして会議所や世界の未来を語る椿を、斑虎は口でこそ茶化しながらも内心尊敬していた。
ある夜、『祖国に戻り政治家になる』と椿が斑虎に告げた時も、斑虎は背中を叩き応援したほどだ。

斑虎「まあ待てよ。俺は今、王宮に一時的に住まわせてもらっている。だから王国にも少しでも恩返しがしたくてね。
王国の意を受けて、俺の指示で料理を変えてもらったから時間がかかっちまったんだ。許してあげてくれ」

斑虎は扉の近くに居た給仕に目で合図を送ると、給仕たちは緊張の仕草で皿いっぱいに盛られた“お菓子”をテーブルに並べ始めた。


52 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その3:2020/04/30 20:05:31.493 ID:RaN.TSZYo
椿「これは一体なんだ?」

椿は硬貨程の大きさのビスケット菓子を手にとり目の高さまで上げ訝しんだ。

斑虎「“リッツ”という王国に古くから伝わる郷土菓子だ。あいにくとチョコを出せない事情があってね」

斑虎の言葉に途端に場が凍りついた。
目を細めた椿は向かい合った斑虎を睨みつけながら、静かにリッツを大皿に戻した。
その目は怒りに震えているが、目の前の菓子に当たらなかっただけ理性は制御できているようだ。

椿「世界随一の生産量を誇る王国で客人にチョコが出せない?
それは当てつけと受け取って良いのか?公国と同じように、我が国へも輸出量を絞り価格を跳ね上げようと画策すると解釈できかねんぞッ!」

斑虎「早まるなよ、椿。そいつをよく見てみろよ」

旧友の言葉に椿は既で怒りを抑え、リッツが盛られた大皿を忌々しそうに覗き込んだ。

人の顔の五つ分の大きさを超える大皿の上には、多様な彩りのペーストを載せたリッツが並んでいた。
あるリッツの上にはトマトとチーズの紅白のペーストが載り、あるリッツには真紅のいちごジャムが並々と注がれ、またあるリッツには溶けたチーズの輝いた黄金色が皿に垂れんばかりの量で見る者の目を奪った。
実に様々な彩り豊かな色と味のリッツが椿たち連邦外交団の食欲をそそった。


53 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その4:2020/04/30 20:07:48.281 ID:RaN.TSZYo
斑虎「俺の祖国であるこのオレオ王国では昔から伝統的な催しがあった。最近はチョコ一色だから、知っている国民も少なくなっただろうけどな」

皿から目を離せなくなった椿たちを目にしながら、斑虎は静かに語り始めた。

斑虎「昔から村で催しがあると誰かがリッツを焼いて、その家に皆が食材を持ち込んで集まってな。
そしてリッツの上に色々なものを載せて食べあうんだ。リッツは淡白な味のビスケットだが、その分色々な料理を載せることで味にアクセントがつく。
皆は自分こそがリッツを最大限に美味しくできる“最良の料理家”だと思い込み、毎回色々な料理や食材を持ち込んでリッツを取り合い食べ自慢し合うんだ。
“どうだ?俺のリッツこそが一番だろう”とな」

かつて幼き頃に斑虎の家で同じ催しが開かれた際に、それまで寡黙だった隣家の旦那が同じことを途端に叫び出した時を思い出し、斑虎は笑みをこぼした。

斑虎「大皿に向かい皆がリッツを取り合い食べることで互いの距離がぐっと縮まり、村は一致団結した。
昔は何処も同じことがどの村でも行われていたのさ。この催しは“リッツパーティ”と呼ばれ、古くから王国に伝わる最大級の饗しとなった。忘れられて久しいがな」

椿「“リッツパーティ”…」

椿のつぶやきに、斑虎は力強く頷いた。


54 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その5:2020/04/30 20:13:45.008 ID:RaN.TSZYo
斑虎「見ての通り、この大皿はオレオ王国からの信頼の証だ。
お前たちトッポ連邦を“真の友人”と見込んだ上で、腹を割って話し合おうとしている。

寧ろ、チョコなんて安易なもので釣ろうとしないだけ真摯じゃないか?
何処かの国みたいにチョコを外交の“材料”として王国の攻撃手段として使う国もある程さ。
信頼している相手に“リッツパーティ”を振る舞うのは寧ろ当然のことだ」

椿は黙って斑虎の話を聞いている。

斑虎「先程から一部始終を聞いていたよ、椿。まさかこの王国からの申し出、受けないわけじゃあないよな?」

話を聞き終わった椿は少し長く息を吐き、瞼を閉じ考えこんだ。暫くするとカッと目を見開き、勢いよく斑虎たちに頭を下げた。

椿「王国の皆さん。これまでの数多くの非礼をお許しください。斑虎殿の言った通りです。
皆さんがここまで正直に腹を割って話そうというのに、その好意を私は見落としていました。大変申し訳無い」

椿の深謝に慌てたのは周りの連邦外交団だけでなく王国側も同じだった。
堅物だと思っていた全権大使が突然頭を下げ詫びてきたのだから戸惑いもするだろう。
一人、斑虎だけがからからと笑った。

斑虎「素直に自分の非を認められるのがお前のいいところだな。昔から【大戦】でもお前は、自分の立てた作戦に責任を持って取り組んでいた」

椿「一本してやられたよ、斑虎。今日の話はすぐに持ち帰り、緊急議会の開催を私から訴えよう。
さあみんなッ!“友人”とともに“リッツパーティ”を楽しもうッ!」

椿の掛け声に外交団たちは暫し逡巡した後に、席を立ちおずおずと大皿に手を伸ばした。
リッツを手に取り口に放り込んだ一同は、一瞬の咀嚼の後、あまりの美味しさに驚いたのか歓喜の声を以てすぐに他のリッツにも手を伸ばし始めた。
王国側の一同も続々と席を立ち、またたく間に厳粛な会談の場は賑やかな立食パーティへと変貌した。


55 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 リッツ編その6:2020/04/30 20:16:49.169 ID:RaN.TSZYo
椿「懐かしいな。最後に【大戦】に出てから何年経ったことだろう」

先程までとはうってかわり柔和な目をした椿に、斑虎は彼の本来の姿を見た気がした。
先程まではテーブルを挟んで椿との距離が遠く感じたが、瞬く間に近づいた気分だ。

斑虎「椿が祖国で成功したことは知っていたが、まさか大臣にまでなっていたとは驚きだ。
会議所に留まり続けなくてよかったじゃないか。おめでとう」

椿「ありがとう。でも俺の目標は大臣じゃない。最終的には国のトップ、首相になることさ。
そのためには連邦としてこの危機にも本腰を入れたほうがいいと思い直したよ。お前の熱弁に俺も熱意を刺激されたかな?」

素直な椿の評価が直視できず、斑虎は照れ隠しに大皿に手を伸ばした。
狙っていたサラミリッツは外交団の一人に取られてしまったので、悔し紛れに隣りのほうれん草リッツを手に取った。

椿「それに悔しいが、あの当時でも戦いの才能はお前の方があった。【大戦】でもいつもお前には撃破数で勝てなかった」

からし入りリッツを食べたのか、椿は思わず顔をしかめた。彼の様子が可笑しくて斑虎は声を上げて笑ってしまった。

斑虎「また椿に会えてよかったよ。変わっていなくて安心した」

椿「俺もだ。集計班さん含めだいぶ会議所には世話になった。あの頃の経験があり、今の俺がある」

斑虎「また落ち着いたら遊びに来いよ。公人でも私人としてでもどちらでも構わないぜ」

椿はフフッと笑いマスタード入りリッツを口に含んだ。
辛いけどうまいな、と冷静に分析する椿が可笑しくて斑虎はもう一度声を上げて笑った。


56 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜:2020/04/30 20:24:48.912 ID:RaN.TSZYo
友人は大臣。一度は口にしてみたい響きですな。あと5回の更新でこの章はおわりまーす。

57 名前:たけのこ軍:2020/04/30 21:58:46.176 ID:zvS2ejWk0
虎ちゃん強キャラ感ある

58 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その1:2020/05/08 18:57:52.925 ID:M5FgLRMQo
【オレオ王国 王都 王宮 斑虎の自室】

この“リッツパーティ事件”を機に、世界中に斑虎の名は轟くこととなった。

友好国からの支援を仰ぐために事件を機に斑虎自身もオレオ王国の首脳陣に混じり各国の首脳陣と交渉を重ねるようになった。
ナビス国王も斑虎を信頼し、斑虎の存在が内政干渉にあたるのではないかという類の内外の批判をはねのけた。
王国で奮闘する斑虎を次第に各国は“王国の外交官よりも仕事をする民間兵士”という評価を与えるとともに、その存在が認知されていったのだ。

その宣伝にあやかったのがきのこたけのこ会議所とオレオ王国だ。

きのこたけのこ会議所では、滝本主導で斑虎を支えたのは戦いであるという旨の宣伝広告がうたれ、彼の活躍に感化された自治区域内外の人々はこぞって【大戦】に参加した。
結果的には【大戦】に参加する兵士が増え、自治区域に移住する人間も増えたというのだからちゃっかりしている。


59 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その2:2020/05/08 19:14:08.620 ID:M5FgLRMQo
一方、オレオ王国では挙国一致体制を強めるための宣伝材料として格好の的となった斑虎をプロパガンダに仕立て上げた。
強大な相手にも物怖じせず、逆に噛み付いて一泡吹かる胆勇無双な性格に加え、国外の人間とはいえ斑虎自身の出自も重なり、オレオ王国内では英雄並の扱いを受けた。

緊迫した状況においてこそ弱き人々には“縋りつくための”英雄が必要だということをナビス国王はよく知っていたのだ。
図らずも斑虎はその英雄に選ばれたのである。国外の人間でありながら国を救う英雄として崇めるのは王国としても随分と自虐的な決断をしたものだ、と斑虎は分析したが、
挙国一致のシンボルとなった斑虎は国民の羨望の的となり、結果的に愛国精神が高まり公国への対決姿勢が高まったのだから国王の判断は間違っていない。

ただ、その宣伝の仕方が少々誇張気味で話に尾ひれがついているのだ。
先日斑虎が街で聞いた話ではこうだ。
“リッツパーティ事件”の際に連邦の椿大臣に向かい英雄・斑虎は机を蹴り上げ外交団に向かい怒鳴りながらオレオ王国の国家を歌い、相手を怖じ気づかせすぐに本国まで逃げ帰った、と。
ここまでくるとやりすぎだ。


60 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その3:2020/05/08 19:15:46.303 ID:M5FgLRMQo
滝本『定時報告ご苦労さまです。オレオ王国の内情、交渉状況、地政学上のリスクを含めた環境要因についてこれだけの短期間でよくここまでの状況をまとめたものです。
貴方の評判はこちらまで届いていますよ』

自室に充てがわれた宮殿内の一室で、その日も斑虎は会議所からの連絡を確認していた。
連絡手段は手紙に留まるが、魔法の影響で手紙は録音テープのように、その場で相手の肉声を再生可能としていた。

斑虎は毎朝、毎晩と状況報告の手紙を会議所に出した。
会議所からは一日一通のペースで滝本から返事が届き、公国と王国間での協議の調整を行っている旨の連絡が届いていた。

滝本『someoneさんからも返事が届いています。カキシード公国も国内の統制が取れていなかったとのことでオレオ王国との関係悪化を望んではいないと。
斯様な事態になったことに胸を痛めているとのことです。ついては、予定通り第三国の会議所にて今後のことについて会談を開きたいとのことです。
日程については――』

滝本の報告は夜に届くので開封するのはいつも夜遅くになってからだった。
彼の抑揚のない声は斑虎の眠気を誘うため、できれば子守唄として聴きながらそのまま寝てしまいたいが、そうはいかない。

加えて、今日は斑虎にとって朗報とも云える内容だったので眠気も吹き飛んだ。親友・someoneの内容も手紙に添えられていたからだ。
彼とは会議所で最後に話して以来連絡を取っていないが、公国でうまく活動している事がわかり、斑虎の嬉しさを人一倍押し上げた。


61 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その4:2020/05/08 19:17:04.783 ID:M5FgLRMQo
手紙を読み終え、聞き終えた斑虎は机の上で静かに手紙を閉じた。
そして、数日後に会議所で開かれるであろう両国間の会議に向けオレオ王国について今一度思いを馳せた。

一連の調査で分かったことは、王国が意外にも一枚岩の団結ではなかったという事実だ。
現君主のナビス国王は先代が築いたチョコ生産体制を引き継ぎつつ、いち早く各国と同盟を結び世界に巻き起こったチョコ革命の主役として上手い立ち回りを見せてきた。
その点で先を見通すことのできる賢主だと言えよう。

しかし、オレオ王国は正規の軍隊を持たない平和主義国家だった。
これはナビス国王肝いりの方針で、自らが軍備を放棄することで世界平和の実現に自ら行動を起こし訴えているのだ。
この崇高な考えに国内で反発する人間も少なくはないようで、王都から離れた市街では今回の事態に合わせて散発的とはいえ度々デモ行進が行われていた。
会議所に居た頃はデモ活動が起きていることさえ知らなかった。

一度だけ、王国に到着した夜の晩餐会で斑虎はナビス国王から自らの経緯について訊かれたことがある。

― 『君はオレオ王国の生まれだそうだね。どうして会議所に移り住んだんだい?』


62 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その5:2020/05/08 19:19:49.227 ID:M5FgLRMQo
王国に住んでいた頃、斑虎はどちらかといえばデモ隊に近い考えを持った現実主義者だった。
平和主義が嫌いなのではなく、平和主義に縋る弱者にならなければいけない事実が嫌いなのだ。
祖国を離れ会議所に居着いたのも、王国の牧歌的な雰囲気に嫌気が差したということもある。

この国は駄目だ。
今の自分はただ“生かされて”生きているだけだ。
自らの意志で生きているという“実感”を持てない。この国に居ては自分自身が腐ってしまう。

そんな大それた危機感を心の中に抱き、ある日斑虎は王国を飛び出した。
そして、日々戦いに身を投じることで“生”を実感できる会議所を選び居着いたのだ。

しかし、本当はそんな大層な考えが真の理由ではなく、ただ逃げ出したかっただけなのだ、と会議所に居着き暫くしてから青年斑虎は気がついた。

鬱屈としていた自分の心の殻を破り、新たな環境に身を置くために奔走し、汗水垂らし働く自分自身に酔っていただけなのだ。

環境を理由にして逃げただけだ。
あの頃の自分は若かったとさえ思う。

何処だって自分自身は其の都度判断を下し、重大な選択をしながら生きることができる。
事実、今の斑虎は一人の会議所兵士として戦争を避けようと再び王国に戻り国のために尽力している。不思議なものだ。


63 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その6:2020/05/08 19:23:15.900 ID:M5FgLRMQo
巨大な王宮の脇から筍のように何本も空に向かい伸びた塔内の最上位に位置する斑虎の部屋は、眼下の街並みをよく見渡せた。
夜遅くでも灯りは多く点り、人々の活気を感じることができた。それは王国の権威の表れでもあった。

しかし、ふと遠くに目を向けると王都を出た途端に広がるのは一面の闇だった。
途端に斑虎は言いようもしれぬ不安を抱いた。

交渉は今のところ順調だ。ただ、順調すぎるのだ。
自分たちが見ている状況は、市街地に広がる灯りのように表面的のもので、実際は市街地の周りに広がる闇こそが水面下の真実なのではないか。

一連の事態の引き金を引いたカキシード公国は、一部幹部が先走り「オレオ王国から干渉を受けている」旨の発言が出てしまい事態の沈静化に苦労していたという。
someoneを通じ公国側からは協議を先行して王国に対し謝意が伝えられ、今後はオレオ王国と歩みを共にしたいと言う。
王国関係者からすれば胸を撫で下ろす内容であると同時に、小躍りをしたくなる程の満点回答だ。

しかし、あの“霧の大国”がそのような不始末を起こすだろうか。

そもそも、幹部が先走り事を起こしたとすれば、なぜ国の元首は直ぐにその発言を否定しなかったのだろうか。
思惑と作為の交錯する事実は眼前に広がる黒き闇の沼のように深く強大で、王国を覆い追い詰めようとしているのではないか。


64 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その7:2020/05/08 19:23:57.610 ID:M5FgLRMQo
斑虎「考えすぎだな…」

斑虎はそこで考えを打ち切り、背後に置かれているフカフカのベッドにその身を投げた。
そして凝り固まった考えをほぐすように、精一杯伸びをした。

そもそも、その仮定通りだとしたら公国にいるsomeoneから朗報は届かない筈だ。
彼は口数こそ少ないが真実を見抜く力は人一倍持っているのだ。

斑虎は彼を信頼している。それで十分だ。
一瞬、彼の頭の中にさらに別の嫌な予感が立ち込めたものの、安心しきっていた斑虎は気にすることなく目を閉じ、すぐに寝息を立て始めた。

疲れ切っていた斑虎は、自身が持つちょっとした“能力を”忘れていた。

昔から彼の勘はよく当たるということを。


65 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 第六感編その8:2020/05/08 19:25:14.236 ID:M5FgLRMQo
幼少期の頃である。
自分の部屋に帰り灯りを点そうとした時、少年斑虎は胸騒ぎとも気分の悪いとも言えない気分になり、部屋の入り口で足を止めた。
部屋に入ったら駄目だという電気信号が身体の中を走ったのだ。自分でも何故胸騒ぎが起きるのか分からず、とにかく斑虎は勇気を出し部屋を注意深く見てみた。

すると、部屋の隅に彼の大嫌いな大きい蜘蛛がその大きな複眼で斑虎をじっと見つめていた。

また別の日のことである。
会議所に来て日の浅い斑虎は悪友から誘いを受け夜の街に繰り出した。街を飲み歩き何軒かハシゴし、行き着いた先が路地裏にある小綺麗なパブだった。
その時、青年斑虎は、以前と同じ得体の知れない胸騒ぎを覚え、ふと気がつくと彼だけが足を止めていた。
すっかり酔いの覚めてしまった斑虎は友人の誘いを断り一人帰宅した。

その後、ちょうど違法酒場の摘発に乗り出していた警察がそのパブに突入し、悪友ともども身柄を拘束されてしまった。
先に帰宅した斑虎だけが難を逃れたのだ。

幼少期から斑虎の勘はあたる。

とりわけ悪い予感はかなりの割合で現実になることを、この時の斑虎はすっかり忘れていた。


66 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/08 19:26:24.095 ID:M5FgLRMQo
ここまで怖いほど順調よ斑虎さん!

67 名前:たけのこ軍:2020/05/09 21:16:05.592 ID:sTZVnoi60
展開が二転三転して面白い

68 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その1:2020/05/15(金) 17:50:30.362 ID:mvdBU80wo
【きのこたけのこ会議所 会議所 議案チャットサロン】

その日、久々に会議所を訪れた斑虎を滝本は何時にもない満面の笑みで出迎えた。

滝本「おお、“英雄”のお帰りだッ!」

いつも座っていた議長席から立ち上がり、斑虎たち王国使節団の到着に諸手を挙げて歓迎の意を示した。

斑虎「やめてくださいよ、滝さん。まだ協議は始まってもいないのに」

そう言葉を返しながらも悪い気はしていなかった。
この短期間で目標のために邁進した実感はあった。
時には他国の外交問題にも肩入れし、無礼を承知の上で意見を述べたりもしたのだ。

斑虎の歯に衣着せぬ素直な物言いが却って王国の悲痛さと真摯さに拍車をかけ、他国の首脳陣の心を揺り動かしたのだ。

現時点でいずれの国からも即答での返事は貰えていないが、この協議の後、各国はオレオ王国への支援表明を行う予定となっている。

そして今日の二国間協議で事態が一段落すればこの騒動は完璧な幕引きを図れる。
斑虎は確かな手応えを感じていた。自然と漏れた笑みは、彼の背後に居た使節団にも伝搬したようで周囲は和やかな雰囲気に包まれた。


69 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その2:2020/05/15(金) 17:53:06.363 ID:mvdBU80wo
滝本「公国の使節団も直に到着すると思います。someoneさんにもよく頑張ってもらいましたよ。
お二人を使者に選んでよかったと心の底から思います」

参謀B’Z「滝本は昨日からずっとこの調子や。きのこ軍が大逆転して勝った時でもこんな喜びは見せなかったのになあ」

各人は微笑み、いつもはたけのこ軍側が会議で専有するスペースに王国使節団と斑虎が着席した。
協議には、王国使節団と公国使節団が向かい合い、会議所からはオブザーバーとして滝本と参謀B’Zが出席する予定となっていた。

ナビス国王「カキシード公国への使者には君の親友がいるんだったね?積もる話もあるだろう。終わったら、こちらの事は気にせず会うといい」

斑虎「痛み入ります」

ナビス国王は自慢のアゴ髭をそっと撫でた。その所作が勝利の余裕から生まれるものを、短期間の付き合いながら斑虎も理解していた。
使節団は協議が始まる前から余裕綽々といった様子で構えていた。


70 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その3:2020/05/15(金) 17:56:03.052 ID:mvdBU80wo
すると、会議室の扉が勢いよく開け放たれ、すぐにぞろぞろと公国の使節団が闊歩しながら入ってきた。
純白のローブを羽織っていた使節団の行進は、歩く度に袖や裾の音がはためき、実際の人数以上に使節団がいるのではないかと錯覚させた。

カメ=ライス公爵「滝本殿に参謀殿、遅れてすまない」

先頭に居た公爵が形ばかりの謝罪を述べ席についた。

斑虎は少し驚いた。
彼が、絵に描いたような高圧的で傲慢な人間ここに在り、というような所作や姿形をしていたからだ。

でっぷりと膨らんだ腹には恐らく公国の特産品であるピーナッツやネギをたらふく溜め込んだのだろう。
さらに彼の鋭い眼光は相手を値踏みするまでもなく全てを下等に見下すような蔑みを含んでいるように見えた。

先程までの和やかな雰囲気は消し飛び、会議室は途端に張り詰めた緊張感に包まれた。

すると、緊張に拍車をかけるかのように室内の扉が閉まる音がした。目を向けると、いつもの群青色のローブを身にまとったsomeoneがそこに居た。
斑虎は途端に抱いた不安を消し飛ばし、せめて心の拠り所にしようと必死に彼に目で合図を送った。
しかし、彼はまるで会議に初めて参加する兵士のようにおどおどした様子で、顔を伏せたまま斑虎と顔を合わせること無く末席に着いた。


71 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その4:2020/05/15(金) 17:59:09.002 ID:mvdBU80wo
カメ=ライス公爵「早速で恐縮だが、これが我が国の提案する【妥協案】だ」

公国使節団から王国使節団に人数分の古紙が渡された。
妥協という耳慣れない言葉に王国使節団は一様に顔を見合わせたが、仕方なしとばかりに公爵から渡された要求書を手にとった。

そして一瞬の沈黙の後、使節団から短い叫びと悲鳴が起きた。

それは妥協案とは程遠い、公国から王国へ向けた最後通牒だったのだ。

戸惑う彼らの先陣を切ったのは、やはり斑虎だった。

斑虎「内容書を拝見しました。これは一体どういうことですか?」

「どういうこと、とは?」

公爵の隣りにいる大臣然とした人間が怪訝そうに聞き返した。
公国の偉い人間は全員太っていけない決まりでもあるのかと思うほど、その人間も肥えていた。

斑虎は一瞬我を忘れ、その場で立ち上がり手に持った要求書を机に叩きつけた。

斑虎「譲歩案だと?
ふざけるな、バカバカしいッ!
この【今後の両国の友好を示す証として、オレオ王国はカカオ産地を含む1/2の領土をカキシード公国へ譲渡する】という内容は、いったい何だッ!」

カメ=ライス公爵「間違いなく我が国が妥協し譲歩した案だ。本当はね、最初は2/3にしようと話していたのだが、それではあまりに両国のためにならないと思い直してね。
1/2に削ったのだよ、これは紛れもない【譲歩】だな」

いけしゃあしゃあとうそぶく公爵の顔を、斑虎は怒りのあまり直視できなかった。
ただ、会議所に居たときから同じ端の席に座って居たsomeoneに勢いで睨みつけた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

72 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その5:2020/05/15(金) 18:01:30.768 ID:mvdBU80wo
カメ=ライス公爵「そもそも精製されたチョコの金額を不当に釣り上げ、我が国の経済を混沌に陥れた元凶は“お前たち”だろう。
私は多くの小国規模の地域を管理するライス家の領主だ。
隣国の友人からの不当な圧力には正当な手段で返さなければ、我が家を支えてくれている臣民に示しがつかない」

「だ、だがッ!先日の貴国からの連絡では、今回の混乱は国内統制の乱れで誤った内容だったと謝罪があったはずだッ!そ、その内容と今回の要求は食い違うだろうッ!」

斑虎の横にいた文臣はこみあげる嗚咽と恐怖を必死に抑え、悲鳴に近い反論を上げた。
だが、公爵は道端の虫けらを蹴飛ばすかの如く下卑た笑いを浮かべた。

カメ=ライス公爵「最初の発表は確かに統制の乱れで“どこかの誰かが”勝手に発表した。それは謝罪しよう。
しかし内容を精査した結果、当初どこかの誰かが“発表した内容は真実”であることが急遽分かったのだよ。

本来は斯様な事は到底許されるべき事態ではない。我が国としても尊厳を侮辱される許しがたい王国側の背信に内心憤っている。
だが、我々は寛容だから“この程度で妥協”しようと歩み寄っているのだよ」

参謀「馬鹿な…」

オブザーバーとして前列に座っていた参謀と滝本は、目の前のやり取りに信じられないと言った様子で言葉を失っていた。
きっと、この二人も真相は知らなかったに違いない。


73 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その6:2020/05/15(金) 18:03:27.798 ID:mvdBU80wo
斑虎「ふざけ――」

ナビス国王「もう良い斑虎くん」

気が逸り掴みかかろうと激昂する斑虎を鎮めたのは、先程から一言も言葉を発していないナビス国王だった。

ナビス国王「本気なのか公爵?冗談では済まされんぞ」

彼は冷静に、ただ短く訊いた。
公国使節団は彼の質問に嗤った。彼の言葉は、彼らからすると弱者の喘ぎ、縋りにきこえたのだろう。

カメ=ライス公爵「聞き返したいのはこちらの方だよ、ナビス国王。なぜ不当にチョコの価格を釣り上げた?我が国の発展がそこまで脅威か?妬ましいか?」

ナビス国王「有志の調査により、輸出されたチョコは正当な価格で貴国に販売している確認が取れている。
だが、それでも事態を静めるためならば、通常の量に加え一定量のチョコを譲渡し――」

ナビス国王の言葉を遮るように、公爵は机を拳で叩いた。

カメ=ライス公爵「くどいッ!貴様らはまだ自分の犯した罪を認めないのかッ!呆れた根性だッ守銭奴どもめッ!」

滝本「お待ち下さい、公爵。ナビス国王の言い分ももう少し聞いて――」

公爵は滝本の方に右手を突き出し、話をやめるよう促した。
人の話を聞かないなんて傲慢な人間なのだと、怒りから覚めつつある斑虎は目の前の光景をぼうと眺めることしかできなかった。


74 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 譲歩編その7:2020/05/15(金) 18:07:38.760 ID:mvdBU80wo
カメ=ライス公爵「五日間だ。それが貴様らに残された時間だ。
それまでに返事がなかったら、友好条約及び同盟は即刻破棄する。我々の主張は以上だ、ひきあげるぞッ!」

呆気にとられた周りを横目に、公国使節団は一斉に立ち上がり堂々と会議室から出ていった。

斑虎「someoneッ!待ってくれッ!」

我に戻った斑虎は、最後に室内から逃げ出そうとしていた親友に声をかけた。

びくり、と一度だけ跳ねたその背中は斑虎に振り向いた。
そのsomeoneの顔を斑虎が視界に捉えた瞬間、声を失った。
しかし二の句を継ぐ日間もなく、すぐに彼は部屋から出ていってしまった。

彼の儚げな顔が暫く頭に残っていた。
親友は斑虎にしか分からない所作で、眉尻を下げ謝罪を示すとともに、目を細め“気をつけて”と告げていた。

残された室内には悲痛の静寂だけが残った。


75 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/15(金) 18:08:37.959 ID:mvdBU80wo
あと3回。今月中に1章は終わりにします。

76 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 12:42:55.320 ID:AYZ3P7Eko
あと3回だが、今日中に全て更新し一章は終わらすぞオー

77 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その1:2020/05/23(土) 12:44:47.321 ID:AYZ3P7Eko
【きのこたけのこ会議所 会議所 議案チャットサロン】

斑虎「すぐにこれまで交渉を行った全ての諸外国に書簡と支援要請を出しましょう。
公国の横暴を許すわけにはいきませんッ!!」

会議室がすすり泣く声と怒りの怨嗟で渦巻く中、斑虎はナビス国王にすぐに直訴した。
先に人一倍怒ったせいで立ち直りも誰より早かったのだ。

ナビス国王は神妙に頷いたが、顔面蒼白の滝本がたまらず口を挟んだ。

滝本「斑虎さん、貴方の仕事はここまでです。交渉は決裂しました、会議所に留まるべきです」

斑虎「滝さんッ!何を言っているんだッ!?」

信じられないといった面持ちで斑虎は滝本を見返した。
しかし、その言葉に同調するようにナビス国王は肩をポンと叩いた。

ナビス国王「滝本くんの言うとおりだ。ここからは我が国の問題だ。君を巻き込むわけにはいかない。斑虎くんにはこれまでの働き、大変感謝している」

ナビス国王は深々と頭を下げる。国王の最大限の敬意に使節団は思わずざわめいたが、斑虎は動じなかった。諦めきれなかったのだ。


78 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その2:2020/05/23(土) 12:45:52.470 ID:AYZ3P7Eko
斑虎「お言葉ですが、国王。私はオレオ王国の使者として成すべき事を果たしていません。王国はいま絶体絶命の窮地にいます。
今日の協議を見てはっきりとしました。

私は公国を甘く見ていました。そして裏を欠かれ王国を窮地に追いやったのは私の責任でもあります。
それに、私は公国の専横を看過するわけにはいきません。
その思いは【きのこたけのこ会議所】も同じはずです。
王国と会議所、そして世界の均衡を保つため私は最後まで奔走します。
いいよな、滝さんッ!!」

斑虎の剣幕に滝本は目を丸くし、思わず頷いた。

ナビス国王も驚きはしたが、彼は少し考え込み、そして同じく滝本に目線を送った。国王の強い眼差しに滝本は再度頷くしかなかった。

満足気に笑った国王はあごひげをまた一度撫でた。
落ち着き払った彼の王たる振る舞いは、周りを急速に冷静にさせた。

ナビス国王「“英雄”斑虎よ。其方の働きに敬意と感謝を贈る。最後まで世話をかけるが、よろしく頼む」

王国はこの窮地を乗り切るために、再度斑虎を中心として一致団結した。


79 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その3:2020/05/23(土) 12:48:12.242 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都】
しかし、其の日から王国を取り巻く環境は悪い方に激変した。
オレオ王国はすぐに今回の協議内容を公開し国内外で王国への理解を求めた。

しかし、当初の予定とは反し諸外国からの支援要請は三日以上経っても進展の兆しすら見えなかった。
二国間協議まで友好的だった諸外国が途端に消極的な返事とともに王国を突き放し始めたのだ。

以前から懸念していた公国へ盾突きたくないという消極的外交姿勢に加え、
信じがたいことに『でも、公国の言うことも一理ある…』と、公国擁護を始める国も一つや二つではなかった。

事前に公国が根回しを行い、公国に同調する勢力を急速に拡大させていることは容易に推測できた。

頼みの綱だった“三大国”の一角だったトッポ連邦からも良い返事は無かった。
支援推進派の椿と保守派の勢力が衝突し議会が紛糾しているという。
中立派の首相は議会の引き伸ばしにかこつけて結論を先延ばしにしているのがありありと見て取れた。

椿からの手紙には何度も謝罪の言葉が書かれていた。
加えて、末文には『このまま決議遅延が図られるのであれば自らの職を辞してでも個人で支援を行う』との強い決意が記されていた。

斑虎「昔から責任感が強すぎるんだよなあ、あいつは」

口ではそう言いながらも、自分たち以外にも少なからず味方がいることに、斑虎は少し救われた気持ちになった。


80 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その4:2020/05/23(土) 12:49:00.185 ID:AYZ3P7Eko
ただ、ここにきて王国内の反乱勢力も勢いを増していた。
点在した地方都市にデモ勢力が結集し、打倒王政を訴え王都に向かいデモを開始したというのである。
このような状況の中であまねく国民に自制を訴えようとするナビス国王の言葉は虚しく、敏い王都の民はすぐに不穏な空気を察知した。
そして彼らは緊急事態宣言が出る前に、自主的に避難を始めてしまった。

オレオ王国は事実上八方塞がりともいえる状況に陥っていた。
そして公国が一方的に突きつけた五日目の期限の朝を迎えても、何もいい手立ては浮かばず手をこまねいているしか無かったのである。


81 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その5:2020/05/23(土) 12:52:52.007 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都 王宮】

協議から五日目の朝、王都にはシトシトと雨が降り注いでいた。
王宮の擬宝珠を濡らす雨が人々のさめざめとした涙のようで、まるで心の写し鏡のようだと斑虎は暫し幻想的な気持ちに浸った。
しかし、すぐに気持ちを目の前の会議に戻した。

斑虎「滝さんからの連絡で『協議の日以来、someoneさんと同行していた791さんとからの連絡は途絶したまま』とのことだ。くそッ!公国の野郎めッ!」

someoneと791は公国に監禁、幽閉されたと見るのが普通だろう。
こうなると、以前からのsomeoneの報告が全て疑わしくなる。

ナビス国王「踊らされたな。悔しいが、情報戦においては公国が一歩上手だった」

其の場が痛々しい沈黙に包まれた。
意を決し、以前の会議所で行われていた会議と同じように、斑虎は発言した。

斑虎「公国の工作で各国からの支援は得られず、国内では暴動が多発し沈静化できていない。
この状況で公国から攻め込まれでもしたら王国はひとたまりもなく“霧の大国”の霧に呑まれることでしょう。今からでも軍備を編成し国境に配置するべきです」

ナビス国王は珍しく顔を苦悶に歪ませた。

ナビス国王「斑虎くんの言いたいことはよくわかる。だが、この国は戦いを起こさず無血で今日まで発展してきた。
流れたのは血ではなくチョコだけだ。
私にはこの国を統べる覚悟と誇りがある。やすやすと軍備結集に舵を切るわけにはいかない」

ナビス国王は聡明でありながら、唯一反戦の話になると頑固者になる。
平時には名君だが、非常時には自らの選択肢を狭めてしまうことに彼は気づいていない。

彼の臣君たちも罰が悪そうに目を背けた。分かっているのだ、彼の性格を。
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82 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎 厄災編その6:2020/05/23(土) 12:54:42.026 ID:AYZ3P7Eko
斑虎「それではダメなのです、ナビス国王ッ!
公国は近い内に本気で攻めてきます。軍備は国家防衛のための緊急の策です。各国から協力を得られず四面楚歌となった今、我々は自分で自分の身を守るしか無いのです」

同じ提案は以前より周りの人間が提言していたものの、其の度に国王は掛け合わず議論にすらならなかった。

しかし、今日此の時ばかりはナビス国王も話に耳を傾けるわけにもいかず、彼は深く考え込んだ。
たったの数分だろうが、一分一秒も惜しい斑虎には無限の時間に感じられた。

ナビス国王「わかった。すぐに、緊急事態宣言を発令し国軍を編成する。
ただ、我らには軍隊編成の仕方も判らない素人だ。
君には軍事顧問として我軍を率いてもらいたい。それでいいな?」

斑虎「わかりました。助かります――」

しかし、彼の判断はおそすぎた。

轟音が室内に響き渡った。
音の主は、外へと続く扉が勢いよく開け離れたことによるものだった。

そこにはびしょ濡れのままの兵士が立っていた。
絶望にまみれた表情で、王の謁見への挨拶も忘れ、彼は息も絶え絶えに叫んだ。

「報告しますッ!

先程、カキシード公国が同盟の破棄通達とともに、我が領地のカカオ産地に大規模進軍を敢行ッ!
少数の警備隊は壊滅し、カカオ産地はカキシード公国に支配されましたッ!!」

戦乱の火蓋はかくもあっという間に切って落とされた。


83 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 12:54:57.405 ID:AYZ3P7Eko
残りはまた後で。

84 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その1:2020/05/23(土) 20:15:43.533 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都 王宮】

「報告しますッ!王都周りの隊の配備、完了しましたッ!」

ナビス国王「ご苦労、下がっていいぞ」

厳かな声で国王は応じ、鎧を着た兵士は慣れない格好に苦労した様子でふらふらと走り去っていった。

斑虎「それでは一足先に行って参ります。本当に戦場に行かれるので?」

ナビス国王「当たり前だ。兵の士気を高めるためにはそれしかない」

斑虎「この間までは反戦を訴えていた方とは思えないお覚悟だ。いえ、褒めているんですよ?
ですがすぐに戦いになる。そうしたら王宮に引き上げてください」

ナビス国王「君には本当に苦労をかける。交渉事だけでなく戦乱の中でも我々は君に頼りっぱなしだ」

斑虎「滝さんからの帰還命令を断ってから、この国のために戦うと決めたんです。俺も感謝しているんです。
この国に来てから“生きている”という実感を得られます。
いまイキイキとしているんですよ。
まあ状況は至極不利ですがね」

ナビス国王「さしずめ、きのこ軍に追い詰められたたけのこ軍陣地本部ってところかな?今の此処は」

斑虎はふふっと笑った。

斑虎「いえ、それ以上ですよ。だけど勝負は最後までわからない。でしょう?」

斑虎は踵を返し王宮を出た。
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85 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その2:2020/05/23(土) 20:25:25.379 ID:AYZ3P7Eko
斑虎「へッ。久々の戦いが、国の存亡をかけた戦いだとは。腕がなるねえ」

オレオ王国は降伏を選択せず徹底抗戦の道を選んだ。ナビス国王が決断したのだ。

王国はカカオ産地を占領されるという、チェスの盤面で喩えればクイーンを取られ絶体絶命の状況に陥った。
即座の降伏案も考えられた。事実、斑虎も口に出そうかと思ったほどだ。
しかし、屈服を瞬時に否定し継戦を主張したのは意外にもナビス国王自身だった。

その後、カキシード公国は当初の目的であるカカオ産地の制圧意外にも、短期間で王国の領土の1/2を制圧した。
殆ど戦いらしい戦いは起こらず、散発的に発生した戦いでも急増の王国軍部隊では到底彼らの進撃は食い止められず、精々彼らの大休止を倍増させたぐらいだった。
公国軍は補給のことをあまり考えず、行軍をひたすら続けた。
兵の消耗も抑えられ、オレオ王国のほぼ中心に位置する王都は、公国軍の次なる“ハイキング”にはうってつけの目的地だったのだ。

しかし、その目論見を看破していた王国側は、密かに王都決戦の準備を始めた。
軍部顧問という名の王国軍の軍務トップとなった斑虎は、すぐに王都の陣地構築を進め、同時に少しでも公国軍を足止めさせるための策を展開し始めた。
全て【きのこたけのこ大戦】や【会議所】で学んだ知識だ。
数日も経つ頃には、王都周辺に強大な防衛線を配置し、急増部隊とともに一大決戦に備えることに成功した。

急増部隊の多くは国を守ろうと立ち上がった義勇兵たちだ。
王政打倒のデモ隊に遮られたこともあり、当初よりも参加する人数は少なくなってしまったが、だからこそ障害を乗り越えて駆けつけてきた兵士たちの士気は十分に高い。

さらに士気を上げる出来事がもう一つあった。
カカオ侵攻が報じられた次の日、突然、トッポ連邦から武器を含む大量の物資が届いた。
驚愕する王国側に、輸送役の行商人は、斑虎にある手紙を託し早々に引き上げていった。


86 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その3:2020/05/23(土) 20:26:50.494 ID:AYZ3P7Eko

『親愛なる友へ。
これは興国の崩壊を防ぐために一人で抗う“英雄”への一時の手向けだ。
本当は私自身も君の下に駆けつけ共に奮戦したいが、いま私の身は連邦政府に拘束されている。
ただ、旧くの友にも私から声を掛け君の力になるようにお願いをした。直に到着すると思う。

連邦政府は中立立場を貫くとなっているが、実際は公国の言いなりとなり、王国の滅亡を今か今かと待ち望んでいる。

私の力が足りなかった。だからこれは友人として約束を果たせなかった詫びでもある。

個人の資金でかき集めたものだ、上手く使ってくれ。
正義は我々にこそ微笑む。
最後まで、決して諦めるな。

たけのこ軍兵士 椿』

王都に運ばれてきた積荷は大名行列のように長蛇の列で荷台の渋滞を起こしていた。
次から次へと届けられる物資は、明らかに個人で用意できる量を凌駕していた。
ここまで大々的に動いてしまっては、直に彼の行動は公にされ連邦内では職を追われ、処罰もされるだろう。その未来を予期できぬほど愚かな男ではない。

だが、彼も斑虎と同じく“赦せなかった”のだ。
強大な一国家の向けた悪意がこれ程効果的で、非もない弱者が虐げられ泣き寝入りをするしか無いという事実を赦せなかったのだ。

二人は離れていながらも同じ信念を持っていた。
“正義”という眩しい理想を信じ続ける信奉者だったのだ。


87 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その4:2020/05/23(土) 20:30:48.308 ID:AYZ3P7Eko
王都の周りに広がる草花が生い茂っていたルヴァン平野は、今は塹壕のため凹凸の盛り土が多く用意され、掘り返された大地は剥き出しとなっている。
会議所地域にある大戦場と変わらなくなった見た目に、次にこの草原に緑が戻るのは何時になるだろう、と斑虎は思いを馳せた。
戦争とはこういうものだ。華々しい戦果の裏には必ず代償がある。

王国陣地に到着するや否や、斑虎は異色の集団に出くわした。
同色の甲冑を付けておらず思い思いの格好で戦いに臨む、見るからに傭兵集団だ。しかし、その全員が斑虎の見知った顔だった。

雑用係「おう虎さん。久しぶり」

傭兵集団の戦闘にいた男が声をかけた。ダークグレーのスーツに身を纏ったその男には見覚えがあった。

斑虎「雑用さんじゃないか、久しぶりだな。あんたもこの戦いに駆けつけてくれたのか」

雑用係「椿さんからの便りを見てな。王国の一大事に居てもたてもいられなくなってね。会議所からの静止を振り切って来たのさ」

雑用係は斑虎と同じく王国出身のたけのこ軍兵士だ。会議所加入は斑虎より遅いが、数多くの大戦で功績を残してきた戦闘のエキスパートである。

雑用係「他にも有志を募って会議所を抜け出してきたんだ」

雑用係の背後には見知った顔の兵士が数多く、きのこ軍・たけのこ軍問わず大勢の仲間が集った。

ビギナー「虎さん。あなたがこの軍を実質指揮しているんだって?越権行為じゃないかッ?ハハハッ」

メテオ隊「新しい魔法を覚えたんです。丁度使う良い機会だ」

現役兵士たちでひしめく集団の中には、大戦を引退したはずの老兵もいた。

シャンパン「久々の戦いだ、血湧くな」

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88 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦準備編その5:2020/05/23(土) 20:33:15.808 ID:AYZ3P7Eko
「報告しますッ!敵軍はノアール河を迂回しながら王都へ接近中ッ!もう間もなく、このルヴァン平野に侵入すると思われますッ!」

斑虎「よし、目論見通りだ。予定通り主力部隊を展開させ、敵の侵攻を食い止める。別働隊は敵の背後に周り込み敵の補給路を経つ。
孤立させた敵軍をここで叩く。全てのプランが上手くいかなかった場合は王都で籠城戦を行う。いいですね、ナビス国王?」

斑虎の提案にナビス国王は頷いた。

ナビス国王「皆の衆、よく聞いてくれ。王国の民も王国外から駆けつけてくれた者も、感謝している。本当に、本当にありがとう」

国王は軍勢の前に立ち、魔法の拡声スピーカーで語り始めた。

ナビス国王「我々は重大な戦局を迎えている。王国の興廃を決めるのは、正に今回の会戦だッ。敵は強大だッ!しかし我々には心強い味方がいる。

私の横にいるたけのこ軍兵士 斑虎殿だッ!」

話に上がると思っていなかったため、国王の横でビクッと肩を震わせた。

ナビス国王「貴君らも既に承知のことだろうッ!
斑虎殿は王国の窮地に、【きのこたけのこ会議所】から単身で駆けつけ、我が国のために公国側への交渉のみならず各国に働きかけを行い尽力してくれている御仁だ。
そして公国との戦乱に巻き込まれると、不退転の決意で会議所には帰還せず、我軍の実質的な編成や作戦指揮を担っているッ!
彼の働きで今日この日を迎えることが出来たッ!紛れもない名将だッ!!」

歓声が上がるにつれ、斑虎は顔を赤くした。

ナビス国王「私は彼のような英雄を忘れはしない。歴史も決して彼を忘れることをしないだろう。

“白き虎豹<こひょう>” 斑虎がいる限り、オレオ王国に負けはないッ!そうだろうッ!」

王国軍は怒号にも似た熱狂的な歓声で応えた。
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89 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 20:33:39.010 ID:AYZ3P7Eko
次の更新で一章終わりです。いきまーす。

90 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その1:2020/05/23(土) 20:38:59.661 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都周辺 ルヴァン平野】

大会戦はその後すぐに始まった。
大軍を率いて予想地点から行軍をしてきた公国軍は何の躊躇もなく魔法の光弾をこちらに放ち、戦いの火蓋が切って落とされた。
光弾は次々に大地に刺さり炸裂した。しかし、事前に塹壕に隠れていた王国軍はほとんどの被害を出さず、公国軍の詠唱のタイミングで地上へ現れ怒号とともに突撃を始めた。
あまりの剣幕に余裕綽々でいた公国軍はたじろぎ、そのために序盤の戦局は王国軍が有利に進めた。

斑虎「『活破壊火閃』ッ!おらおら、次の敵はどこにいるッ!」

斑虎は戦いの中心にいた。両脇から抜いた二刀の剣で敵兵を斬り伏せた。

雑用係「おお、いいねェ“白き虎豹<こひょう>”さん!」

近くにいた雑用係はサブマシンガンでチョコ弾を発射し目の前の敵を掃討した。見る見る白ローブで身を包んだ敵兵は数を減らしていく。

斑虎「しかし、これは予想外だな…これ程までに公国軍の武器が充実しているとはな」

公国軍の攻撃手段は実に豊富だった。

魔法戦士の遠距離攻撃だけではなく、詠唱段階に入るとその間に速射砲や連射砲など間髪入れない砲撃を繰り返し敢行した。
接近戦に持ち込んでも彼らは魔法に頼らず、サブマシンガンや銃剣など多彩な手段で王国軍と対峙していた。

『公国軍は魔法に頼り過ぎで、武器は前時代のものばかりだよ』

いつか、会議所で791が語っていた言葉だ。
その言葉を鵜呑みにするには早計ではあったが、接近戦に持ち込めば【大戦】経験者が多いこちらにある程度の勝機を引き寄せられると踏んでいたため、想定外の接戦だ。

歴史上、カキシード公国は【大戦】に参加する兵士が多くはおらず、戦いの熟練度でいえば実は王国軍よりも高いとは言えない。
ただ、それを上回る銃火器で王国軍は押されつつある。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

91 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その2:2020/05/23(土) 20:46:25.429 ID:AYZ3P7Eko
先頭にいた公国兵が槍を突き出すも、斑虎は華麗に体捌きで避けた。
敵兵の背後からはローブの魔法兵がネギの形をした小型弾を発射してきた。

斑虎は、よろけて前のめりになっている槍兵の肩に片足を載せると華麗に宙に跳んだ。
そして空中でネギ弾を剣で真っ二つに斬り、さらには落下地点にいた魔法兵ももう片手の剣で斬り伏せた。
正に虎のような獰猛さと豹のような素早い身のこなしで、斑虎はその名の通り、獅子奮迅の活躍をしていた。

ビギナー「いまの魔法はもしや…」

斑虎「ああ。恐らく、791さんの言っていた“魔法学校”出身の兵士だろう。あのネギ魔法は791さんが使っていたものそっくりだ。威力も速さもてんで足りないがな」

その場でうつ伏せに斃れた魔法兵を一瞥し、斑虎は一瞬公国に捕われているだろう791と親友のsomeoneの顔を頭の中に浮かべた。

―― 彼らは今何処で何をしているのだろう。無事でいるのだろうか。


92 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その3:2020/05/23(土) 20:50:10.027 ID:AYZ3P7Eko
彼の意識を瞬時に現実に戻したのは、予想外の爆音だった。
地を揺るがすほどの爆音とともに、前方の公国軍側に数十m規模の火柱が上がり、次いで背後の王都側でも同様の爆音が鳴り響いた。

斑虎「何事だッ!」

公国軍は一斉に進撃を停止した。その反応から公国からの攻撃でないことはすぐに察知できた。

「わかりませんッ!敵軍前方で謎の火柱を確認ッ!我軍の攻撃ではありませんッ!ですが、同時に王都の方にも火柱が上がっていますッ!」

斑虎は下唇を噛んだ。王都に攻め込まれないように斑虎たちのいる主力軍をカバーするように、敵軍の背後に周る別働隊がいたはずだ。
もし王都が襲われるとしたら別働隊を突破されたということになる。
非常にまずい状況だ。

斑虎「この場は任せるッ!私は王都に戻り状況を確認するッ!」

「護衛の兵をつけますッ!」

斑虎「大丈夫だッ!今は一人でも多く目の前の戦いに兵を投入して目の前の勝利をもぎ取れッ!」

斑虎は馬に跨り黒煙の上がる王都へ急ぎ向かった。


93 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その4:2020/05/23(土) 20:53:05.541 ID:AYZ3P7Eko
【オレオ王国 王都】

王都は数刻前にみた景色とはうってかわり、各地で黒煙と爆炎が上がり、王都全体が赤黒く染まっていた。
逸る気持ちを抑えながら馬を降り、斑虎は倒れていた王都守備兵に駆け寄った。

斑虎「おいッ!無事かッ!いったい何があったッ!?」

「ば、化け物が…一瞬で王都を…粉々に…」

倒れていた兵士は苦しみながらも、先刻の恐怖を思い出したのかガタガタと震えだした。

「別働隊が…突破され…あいつらが…王都に…王都に…」

斑虎「わかった。ありがとう、休んでいてくれ」

斑虎は兵士を横たえ、すぐ隣に位置していた、城下町への大門だった“はず”の場所を見た。
石でできた大門は跡形もなくぐしゃぐしゃに崩れ去り、なにか得体のしれぬ“災厄”が通り過ぎたことを予感させた。
不幸なことに、王都は激しい火災に見舞われ、少し先の状況も見通せぬ視界の悪さだった。

斑虎「ナビス国王のことも心配だッ!すぐに王宮に向かわなくてはッ!」

一歩町に足を踏み入れた斑虎は、自らの予感を遥かに超えた最悪の事態に思わず顔をしかめた。
大通りは轟々と燃え盛る黒煙で行く手を封じられ、住宅街は家ごと他の家にもたれかかるように積み重なりぺしゃんこになっている。

まるで子どもが積み木で遊びその後にそのまま放置したかのように、建造物は連なり崩れている。明らかに人外の力が王都を襲っているとしか考えられない。
数多くの疑問を抱えながら斑虎は疾走った。先程聞いた爆音こそ今は耳に届かなかったが、それが却って斑虎を不安にさせた。


94 名前:Episode:“白き虎豹(こひょう)” 斑虎  大会戦、そして編その5:2020/05/23(土) 20:55:09.375 ID:AYZ3P7Eko
王宮に辿り着こうとした丁度その時、斑虎の眼前に信じられない光景が飛び込んできた。

斑虎「なんだこれは…ありえない」

【きのこたけのこ大戦】でも経験したことのない事態に、一瞬斑虎は言葉を失った。
王宮前にいた“敵”は斑虎を視界の端に捕えると、すぐさま攻撃体勢に入った。

斑虎「お前はなんだ…なんなんだッ!!」

敵の殺意に気がついた斑虎はすぐ構えようとするが、瞬間の反応が遅れた。
両手に持つ剣で防ぐにはあまりに“敵”の攻撃は強大だったのだ。



「斑虎さん、あぶないッ!!」



見知った人間の声が横から聞こえた気がした。


しかし、斑虎の視界と意識は目の前の“敵”を捉えたまま外すことができず――






その直後、爆音が王都に鳴り響いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

95 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/23(土) 20:57:01.179 ID:AYZ3P7Eko
かくして一章は終わります。
二章 Tejasさん編もお楽しみに!

96 名前:たけのこ軍:2020/05/23(土) 21:23:57.435 ID:LOWd3G1w0
いい引き

97 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/30(土) 10:41:31.252 ID:EGCyId9co
第二章突入。
全7回の更新を見込んでおります。ただ今回の更新はけっこう長いです。

98 名前:Episode:“マイスター” Tejas :2020/05/30(土) 10:44:27.978 ID:EGCyId9co




・Keyword

マイスター:
1 名人。職人。
2 専門分野のエキスパート。一癖も二癖もある巧みな技術者。





99 名前:Episode:“マイスター” Tejas :2020/05/30(土) 10:46:40.821 ID:EGCyId9co





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きのたけカスケード 〜裁きの霊虎<ゴーストタイガー>〜
Episode. “マイスター”

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100 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その1:2020/05/30(土) 10:50:40.140 ID:EGCyId9co
【オレオ王国 カカオ産地 避暑地】

カカオ産地からチョ湖寄りに進んだところに広がる別荘地帯。
白を基調とした漆喰で塗られたロッジ群の中のとあるコテージに、会議所の“若き技術者”は居た。

明け方頃。少しだけ開けていた窓からそよ風が流れてくる。
その風に流れてカカオの好ましい香りが窓際で眠っている主の鼻孔をくすぐった。
暫くは布団にくるまり惰眠を貪り続けていたが、断続的に風に流れてくるその甘美な匂いに抗うことができず。

きのこ軍兵士Tejas(てはす)は静かに目を覚ました。


暫くは覚醒状態にいたがベッド上で何度か瞬きをすると、それが合図となったかのように、Tejasは弾んだバネのように身体を起き上がらせすぐにベッドから降りた。

そして動きが決まったメイドのように淀みない足取りでキッチンまで赴き、水を入れたコーヒーサイフォンにランプで火を付け、湯を沸かし始めた。

湯が沸騰するまでの間に彼は洗面所へと移動し、きっちりと決まった回数だけ顔を洗うとタオルで顔の水滴を拭い再びキッチンへ戻った。
計ったように丁度沸騰したフラスコを見ながら、今度は決まった分量のコーヒー粉をロートに振りかけフラスコの上にセットした。

そして美味しいコーヒーが出来上がるまでの一分の間に用を足し、再びキッチンへ戻る。
ここまで身体を止めること無く、且つ時間配分にも無駄がなく動き続ける彼は、演台の上で懸命に指揮棒を振る指揮者のように洗練された所作をしていた。

熱々のフラスコからマグカップにコーヒーを注ぎ、仕上げとばかりに自身の好物のチョコをひとかけら入れマドラーでかき混ぜれば、あっという間にホットチョコの完成だ。


101 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その2:2020/05/30(土) 10:52:48.290 ID:EGCyId9co
栄養の源たる特製コーヒーに口をつけながら窓際に向かった。
そして空気の入れ替えのため窓を開け放ち、同時に外の景色を眺めた。

初夏を迎えた湖畔の街は肌寒さを感じさせず心地よい風が吹きかけてきていた。
内陸沿いに広がる広大なカカオ畑を見ているだけで食欲がそそられる。
Tejasは、近くに置いてあった椅子を窓の傍に引き寄せるとともに腰掛け、暫しその風景を堪能した。
起きてから忙しなかった“マイスター”の初めての休憩だ。

【きのこたけのこ会議所】に属するきのこ軍兵士 Tejasは先日、議長の滝本から許可を取った上で長期休暇を取得し、オレオ王国内のカカオ産地を訪れていた。

カカオ産地はその名の通り、広大なカカオ畑とチョコ精錬所を抱える世界一のチョコ精製地帯である。
だが同時に、会議所地域とオレオ王国を跨ぐように広がるチョ湖のほとりには、ヴィラを含む避暑地もあり、カカオ産地は世界有数のリゾート地としてもその名を馳せていた。

今回、Tejasが羽根を伸ばすために選んだ場所は、チョ湖からほど近い別荘地区だ。
暑過ぎもせず、かといって冷え込むこともなく、適度に風当たりの良い好みの土地だった。


102 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その3:2020/05/30(土) 10:56:07.640 ID:EGCyId9co
コーヒーを飲み終えると余韻に浸る暇もなくTejasは立ち上がり、扉の前のポストをあさり別荘宅に投函されたチラシ類を確認し始めた。
“マイスター”はあらゆる時間を無駄にはしない。
全ての所作が時間通りで且つ流暢だ。

Tejas「さて、と。今日はどんな便りが来ているかな。
なになに?『オレオ王国とカキシード公国の関係、さらなる悪化』…ああ、これは新聞か」

新聞は読まない。情報は全て自分の目と足で確かめる主義だ。
内容を確認しないまま、Tejasは不要な新聞をあっさりと暖炉に放り込んだ。

Tejas「そろそろ休暇も終わりか?前の別荘もなかなか良かったけど、ここも住心地だけなら三本の指に入るな」

胸ポケットに入っている手帳を取り出し、残りの日程を確認する。
まだ休暇の終わりまで一週間あるが、会議所への帰還を考えると数日以内にはこの別荘を後にしなくてはいけない。
楽しい休日も終わりか、と一人嘆息した。

この休暇中、Tejasは数々の観光地を転々とした。一つの拠点に滞在せず、気ままに赴く場所を決めた。
自由人でありながら一方で凝り性であることは自覚しているので、部屋を選ぶ際には必ずベッドの傍に窓が付いている角部屋にする。

選んだ宿には何泊かし、ある日思い立ったら旅立つ。その繰り返しだ。
そのため決まった日数は泊まらない。ただ、宿泊時にまとまった金を店主に渡すため、店主から見れば、こちらは若者ながら気前のいい上客に違いなかった。

Tejas「そろそろ“仕事”の準備をするか」

左手で封を開けた板チョコを手に持ちながら、Tejasはベッドの下に置いていた工具箱を引きずり出し、器用にも片手で必要な工具だけを取り出し、自らのポーチに詰め込んだ。
ここ数日でこの街の“傾向”はある程度掴んだ。用意しておく工具はそれ程無く、今回も楽な“仕事”となりそうだ。

Tejas「それでは行ってくる」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

103 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その4:2020/05/30(土) 10:57:59.099 ID:EGCyId9co
【オレオ王国 カカオ産地 避暑地 中心街】

白の外壁で彩られたモダンな邸宅街は、見る者に開放感と心を広々とさせてくれる。
湖へ続く中心街を歩きながら、Tejasは道の左右にそびえ立っている邸宅に次から次へと目を向けていた。
“仕事”のための物件選びだ。

―― あの家はダメだ。豪邸なので大層な裕福な実業家あたりが住んでいるだろうから期待できるが、如何せん開放的すぎる。
きっと家主が自由奔放と大雑把をいっしょくたにした人間だろうから、粗がある作りだろう。楽しめない。

とりわけ大きい屋敷を素通りしながら、Tejasはキビキビと歩く。

それにしても今日は出歩く人が特に少ない。日が経つに連れ、外出する人が減っているのはどうしたことだろうか。
同じ時間帯でも、昨日までならもう少し人は多かったはずなのに。
カツカツと歩く自らの靴音がこころなしかよく響く気がした。

―― あの商店の倉庫もダメだな。大通りに面しすぎている。こんなに分かりやすい場所に置いているということは隠しものなんてないし期待できない。

左手でチョコをかじり、景気の良さそうな土産店も素通りしながら歩を進める。


104 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その5:2020/05/30(土) 11:00:46.365 ID:EGCyId9co
ただ、別に人が少なかろうと多かろうと、Tejasにとって些細な問題ではない。
“仕事”をする上で人目は真っ先に気にしなければいけない問題ではあるが、その事象に気を取られすぎては本来ある“宝物”も取り逃してしまう。
リスクはある程度許容しなくてはいけないのだ。

ただ、ここまで人通りが少ないと“仕事”とは関係なく少し心配になった。
まるで、目の前の光景が、何か“厄災”が迫っていてそれに呼応するように姿を消すネズミと被る不気味さがある。

大通り沿いの建物は一通り物色し終わり、TejasはT字の交差点の外れから一本伸びている裏路地を見つけた。
ただでさえ人通りの少ない大通りから外れたその裏路地は、朽ちた倉庫の一角が路地全体に広がっているように陽にも当たらず、カビが自生できる程の湿っぽさだった。

観光客であればまず踏み入れることはないし、道の狭さから、地元民でも目に映らず知らずのうちに通り過ぎている者が大半だろう。
心の中で舌なめずりをしながらTejasは足を踏み入れ、そして予想通り、すぐに丁度いい“物件”を見つけた。

裏路地に入ってすぐ左手にある二階建ての建屋だ。
この建屋だけ路地から地下に階段が続いており、恐らく地下室への扉がある。
さしずめ表通りに面していれば肉屋かチョコ屋か、いずれかの商店の地下倉庫だろう。

自分の中でのレコードタイムの更新だ。
小躍りしたくなる気持ちをぐっと抑えたが口元のニヤつきは抑えられなかった。


105 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その6:2020/05/30(土) 11:03:17.568 ID:EGCyId9co
いつもは“物件”の選定に時間がかかる。

それは、Tejasという人間が向上心の塊であるからに他ならない。

Tejasは同じ条件の“仕事”を二度と行わない。

そのため、次々と趣向を変え自分に条件を課し“仕事”の難易度を上げていくのだ。
運が悪い時には町中を一日中歩き回り、そのまま宿に引き上げる時もある。

彼の強い拘りが彼自身を縛り上げていく中で、こんなにも早く“仕事”にありつけるとは、きっと日頃の行いが良いからに違いない。
Tejasはひとりでに何度か頷き自らの善行を顧みた。


Tejasが目の前の物件に惹かれた理由は二つある。

一つはやけに地下扉の錠が頑丈だということだ。
通常、こうした建屋では鍵をかけても錠前は一つか、多くても二つだ。しかし、この建屋の錠前はなんと三つも付いている。そ
れに扉に付いている鍵穴も合わせると計四つのプロテクトがかかっている。明らかに異常だ。
余程、中にお宝でもしまい込んでいるか、“外に出してはいけない物でもあるか”。そのどちらかでしかない。

二つ目の理由としては、この建物だけ周りの建屋よりもみすぼらしく“浮いた”外見だったということだ。

ここ数日の物色の成果だが、この付近の商人の羽振りは大層良い。
会議所地域にも観光地帯は点在しているが、どれも此処と同じように小洒落てはいない。良く言えば風情があり、悪くいえば田舎臭い風光明媚の良い地域ばかりだ。
“チョコ革命”により資源としてのチョコの価値が高まった今、カカオ産地自体の価値も他の地域とは一線を画す。当然、工業地域だけではなくその傍にある観光地域も潤う。当然の摂理だ。


106 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その7:2020/05/30(土) 11:05:31.089 ID:EGCyId9co
人々の懐が暖まれば生活は豊かになる。
その次に、人は何を考えるか?
Tejasは少ない経験則ながら知っている。

豊かになった人間は次第に、周りに対し見栄を張り始めるのだ。
特に周りも同じ水準で優雅な暮らしを始めれば、自分はより贅沢であると虚勢を張りたくなる。
それがこの路地裏にも如実に表れている。

Tejasはしげしげと人通りが皆無な路地裏を見渡した。

この路地は、あまりにキレイすぎるのだ。
ゴミも食べかけのガムも特に落ちていないし、野良猫も蜘蛛もいなければ、飲んだくれの親父も瓶を抱きながら辺りで寝転げてはいない。

表通りで見栄を張った人々は、次は路地裏にも気を使い始めたのだ。
路地裏にもたっぷりとペンキを塗りたくり、地面にこびりついたガムを引っ剥がし清掃し、不潔な生物が自分の家に背をもたれかけて寝ていないか目を光らせる。
誰も気にしていないというのに、自身の虚栄心がそうさせるのだ。

その中で、目の前の物件だけはみすぼらしい建屋を“維持している”。
店主は路地裏に気を回すほどの富裕層ではないか、さもなくか相当なケチらしい。
どちらにせよ、Tejasはこうした汚らしい建物のほうが周りの建物より余程好きだった。

Tejas「始めますかね。今日は記録が狙えそうだ」

さっと辺りを見渡すと、Tejasは躊躇いもなくその建屋の階段を降り半段下がった位置にある地下扉の前に立った。

扉に取り付けられギュウギュウ詰めになった錠前たちを手に取り眺める。
最新の型式のものが一つ、残りは古い型式のメーカー違いのもので固められている。

やはり店主はどケチなだけだな、とTejasは一人クツクツと笑った。


107 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その8:2020/05/30(土) 11:09:23.388 ID:EGCyId9co
ポーチから必要な工具を取り出した。
“仕事”の開始だ。

同時にTejasは鼻歌で“イン・ザ・マッチャー”を歌い始めた。
最近、会議所に居た時に作り終えたばかりの吹奏楽曲で、初演奏をする前に外に出てきてしまったが、これまで作った曲よりも完成度は高い。
たけのこ軍兵士抹茶の名を曲名に入れて入るが、これは曲名に困ったから入れただけで特に意味はない。

Tejas「今回は楽しませてくれよ?」

ただ鍵を開けるだけでは何の面白みもない。
自ら研鑽しレベルアップを図るため、Tejasはいつも“仕事”に条件を課す。

最近であれば片手で鍵の解錠作業を、もう片手でエアトランペットを吹き、時間内に“仕事”を終えるというものだ。
時間内に終わらなければたとえ作業の途中でもあっても潔く諦める。
こうして緊迫感のある状況を自ら演出し、手先の器用さを磨いてくのだ。


―― ウォーキングベース(歩くような速さで)。

“イン・ザ・マッチャー”はアップテンポの小気味いい曲で、演奏時間は3分にも満たない。

錠前が3つもあるため比較的難易度は高めだ。
腕が鳴るとばかりに、目の前の錠前の鍵穴に、Tejasは左手で細く尖った工具を勢いよく刺した。


108 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その9:2020/05/30(土) 11:11:27.259 ID:EGCyId9co

―― クレッシェンド(だんだん強く)。

鍵穴の中の工具を慎重に、そして高速で回していく。
同時に、右手はトランペットのピストンを抑えるように指をこまめに動かす。
最初の30秒でカチリという音とともに、新しい錠前はあっという間に外れた。


――フォルティシモ(とても強く)。

曲調にあわせて、Tejasの両手の動きは苛烈さを増していく。
古い錠前には目もくれず左手で工具を差し込むと、素早い所作で錠前を外していく。
右手の動きも絶好調だ。


Tejasは“仕事”中に、自らの手先の感覚を大事にしたい鍵の方を見ることを決してしない。

この“仕事”は【きのこたけのこ大戦】以上にゲーム性が高い。

【大戦】はきのこ軍勝利のために個を殺した団体戦となる場合も往々にして多いが、いま取り掛かっている“仕事”は完全な個人技だ。

自らを信用し信頼しない限り勝利はあり得ない。
また、誰かに見つけられるだけでも終わりだ。常に敗北のリスクは隣り合わせの状況にいる。

Tejasは常に自らの感覚を研ぎ澄ませるこの“仕事”を、【大戦】と同じくらい愛していた。


109 名前:Episode:“マイスター” Tejas  仕事の流儀編その10:2020/05/30(土) 11:13:50.710 ID:EGCyId9co

―― モデラート(中くらいの速さで)。

2分30秒。

全ての錠前を外し終わり扉の鍵穴を突破するまでに思いの外時間はかからなかった。
しかし曲も終盤に差し掛かっていたため、敢えてTejasは扉を開けず、“イン・ザ・マッチャー”を最後まで“奏で終えた”。


―― ダカーポ(始めに戻る)。

演奏後の余韻に浸りながら、左手でさっと工具を仕舞い。
そして演奏後の聴衆の拍手に応えるように、Tejasはエアトランペットで吹き終えた右手を静かに下げた。






きのこ軍兵士Tejas。



彼は自らの研鑽を理由に、ピッキングを趣味としている、困った“マイスター”だった。





110 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/30(土) 11:16:19.333 ID:EGCyId9co
仕事人って憧れますよね。
モデルは某小説に出てくる泥棒です。魅力的な人なんですね〜。
決して貶めているわけではないので許してくだしあ。

111 名前:たけのこ軍:2020/05/30(土) 16:06:57.824 ID:PmAokT6U0
単語がセンスある

112 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/05/30(土) 17:59:59.378 ID:EGCyId9co
褒められると嬉しい!ありがとうございます。
ちなみに『イン・ザ・マッチャー』の元ネタはイン・ザ・ムードという実在するジャズ曲です。すき。

https://www.youtube.com/watch?v=_CI-0E_jses


113 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/06/07(日) 20:22:27.008 ID:a3u4R9mko
今週の更新はお休みといたす。

114 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒の出会い編その1:2020/06/13(土) 18:23:26.896 ID:23aRB2TMo
Tejas「さて、どんなお宝が眠っているのかな」

鍵を解除しても“仕事”はまだ終わらない。
厳重に管理された部屋の中に眠る“お宝”を確認するこの瞬間が至福のひと時だ。
逸る気持ちを抑え、革手袋をはめた手でゆっくりと鉄扉を開けた。

室内は路地裏よりも一層暗い空間が広がっていた。
室内は広さがあるのか、外の光が差し込んでも奥にまで光が通らず、室内を見渡すことができない。

一歩、足を踏み入れてすぐに顔には蜘蛛の巣が付いた。幸先が悪い。

Tejas「これは大層な歓迎だな…」

顔を歪めたTejasはハンカチで急ぎ顔を拭った。
蜘蛛の巣を顔につけたことよりも予定外の行動が発生したことに苛立ちを感じた。

光が差し込んでいる室内には、目に見えて埃が舞っている。
下唇にもじとりした湿り気を感じることから、湿度も不自然に高い。
どうやら長年手入れがされていない部屋のようだ。


115 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒の出会い編その2:2020/06/13(土) 18:25:50.754 ID:23aRB2TMo
Tejas「しかし、なんでこんな部屋に頑丈に鍵をかけたんだ?」

すると、部屋の奥からガタンという物音がきこえてきた。
音の大きさと鈍さから、木箱に何か物が落ちた時のような音だ。
続いて、ズリズリと地面を這うような微かな雑音もきこえてくる。生物の存在を予感させた。

Tejas「おいおい。ドブネズミがお宝でした、なんてことはないよな?」

歩みを進めながら、手慣れた動作でポーチから小型のランタンを取り出すと、目線の高さまでかざし火を付けた。

Tejas「…なんだ?」

灯りは部屋の壁際までほのかに照らし、地面に横たわる“とある”動物を捉えた
最初は布袋かと思ったが、規則的に上下する様子を見て生命の息吹なのだとTejasは確信した。

Tejas「…犬?」

灯りに照らされた動物はビクリと身体を震わせ、身体に埋めていた顔をこちらに向けた。

動物の正体は小型犬よりもうひと回り小型の犬だった。
元は白くふさふさとした毛並みだったのだろう。
外見は薄黒く汚れ、大きく垂れた両耳は疲れからか、さらに垂れ下がっているように見える。

小型のテリアは壁際の棚にロープで縛られており、その様子から少なくともこの地下室で飼われているわけではないことだけは確認できた。


116 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒の出会い編その3:2020/06/13(土) 18:29:02.059 ID:23aRB2TMo
「誰だお前は。こそ泥か?」

Tejas「うおッ、喋ったッ!?」

白い犬はキャンキャン吠えることなく、ドスのきいた声で問いかけた。
Tejasが声の主を目の前のテリアと疑わなかったのは、彼が犬にしては不自然なまで落ち着きを払っており、かつ冷静な視線でTejasの目を射抜いていたからである。

「質問に答えろッ」

催促するようにテリアは再度尋ねた。面食らっていたTejasは途端に意識を戻し、その弾みでランタンを持った手を下げた。
目の前にかざされた眩い光に小型犬は思わず顔をしかめた。

Tejas「ああ、明るすぎたなッ。すまんすまん。
あー、質問の答えだが。俺は泥棒ではない。“仕事”で此処に来た」

「仕事?…もしかしてお前、【教団】の人間か?」

Tejas「教…団?なんのことだ」

聞き慣れない言葉にTejasは思わず聞き返した。


117 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒の出会い編その4:2020/06/13(土) 18:29:25.020 ID:23aRB2TMo
キョトンとした顔のTejasを見て、犬は暫く黙り込んでいたが、しばらくするとおもむろに口を開いた。

「丁度いい。おれも“仕事”の途中だったんだ。ここから出してくれないか、礼はするぜ」

後ろ足を縛られ地面にうつ伏せになっている姿とは思えない程の尊大な態度だな、とTejasは半ば感心した。

Tejas「それはいいが、俺は君のことを何も知らない。連れ出すにしても互いに自己紹介ぐらいはしないか?俺の名はTejas、きのこ軍兵士だ」

Tejasは屈み、静かに右手を犬の前に差し出した。犬はまたも暫く考え込み、眉をひそめながらもぶっきらぼうに答えた。

「おれの名はオリバーだ。よろしくな、こそ泥さん」

オリバーは右の前足で差し出された手のひらをポンと軽く叩いた。


118 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒の出会い編その5:2020/06/13(土) 18:30:16.714 ID:23aRB2TMo
Tejas「それで、此処から出てもアテはあるのか?」

オリバー「…あんた、おれのことを何も聞かないんだな」

Tejas「人は誰しも秘密を持っている。この俺にだって秘密はある。
ああ、お前は人じゃあなかったか?まあ、でもみんな同じさ。
話したい時に話せばいい」

Tejasは言葉を切り、部屋を見渡した。彼の“仕事”はまだ終わっていない。
地下室内は殺風景で、棚が幾つも置かれて入るもののまともな物は無かった。
金目の物があろうがなかろうが彼には一切関知しないことではあるが、侵入した部屋はいつも一通り見回すのが“仕事”の流儀だ。

Tejas「まあこれでいいか」

壁際の棚に置かれていた1m程度のロープを手に取ると、Tejasはポーチの口を開けしまい込んだ。
室内に侵入したら部屋にあるガラクタを一つだけ貰うのが“仕事”の決まりだ。
戦利品は価値がなければないほど良い。誰も気が付かずに済むからだ。


119 名前:Episode:“マイスター” Tejas  相棒の出会い編その6:2020/06/13(土) 18:31:50.659 ID:23aRB2TMo
オリバー「変わったこそ泥だな、あんた」

目の前で“こそ泥”の行動を眺めていたオリバーは呆れたとばかりに嘆息した。

Tejas「さっきも言ったが、こそ泥じゃない。その縄を解いてやらないぜ?」

オリバーは途端につぶらな瞳で助けてとばかりに上目遣いで見つめた。
調子のいい犬だ、と今度はTejasの呆れる番だった。

まあいいか、とつぶやいたTejasはポーチから小型ナイフを取り出した。
そして左手に持ちかえ器用に縄を解いていく様を、オリバーはじっと観察するように見つめていた。

Tejas「よっと。これで縄は解けたぜ」

オリバーは両足と首を回し自由を噛み締めた。
飛び跳ねもせずに喜びも表さないその態度は下手な人間よりも人間らしい。

オリバー「ありがとうな。それで、恩人様にこんな聞き方は失礼かもしれないが。あんたは一体何者なんだ?」

不躾な質問にTejasは思わず吹き出してしまった。

Tejas「それを答えるには場所を変えないか?ここは湿気が高すぎる」

それもそうだ、とばかりにオリバーは両耳をぺたんと身体に付け、目の前の恩人の意見に同調した。


120 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/06/13(土) 18:32:07.285 ID:23aRB2TMo
この章には相棒がいます。

121 名前:たけのこ軍:2020/06/14(日) 02:24:31.654 ID:1OcklqqA0
セリフ回しをまねしたいが

122 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/06/21(日) 22:27:34.657 ID:478TN2n6o
今週中に投稿します。

123 名前:Episode:“マイスター” Tejas  ゲーム編その1:2020/06/27(土) 06:23:24.902 ID:7tXeO7Ako
【オレオ王国 カカオ産地 Tejasの別荘】

シャワー室から姿を現したオリバーは、見違えるように毛並みがよくなった。
彼は、彼のために地面に敷かれたタオルケットに身を投げるとゴロゴロと転がり身体についた水滴を拭いた。
そしてそれが終わると、タオルの隣に置かれていた牛乳瓶を左の前足で掴むと、もう片方の前足で器用に瓶の蓋を開けミルクを飲み始めた。

その様子はさながら風呂上がりの一服といったところだ。
犬ながらその行動は人間臭い。

オリバー「助けてもらっただけじゃなく、シャワーまで提供してくれるなんてありがたい限りだぜ」

Tejas「気にするなよ。一人よりも二人のほうが楽しいからな」

床の上でカチャカチャと一人で機械をいじるTejasを尻目に、オリバーはフカフカのベッドにダイブし、眼前の羽毛布団の柔らかさを堪能した。

オリバー「機械いじりが趣味なのか?」

Tejas「昔から好きなんだ。手先を動かしてないと我慢できない性質でさ」

オリバー「なるほど。だから日常的に街に繰り出しては空き巣業に勤しむと。そういうわけだな?」

Tejasは手を止め、漂白された布団から興味深そうに顔をのぞかせている純白のオリバーと目を合わせた。


124 名前:Episode:“マイスター” Tejas  ゲーム編その2:2020/06/27(土) 06:24:19.689 ID:7tXeO7Ako
Tejas「決して泥棒が本分じゃない。侵入する前の鍵が大事なんだ。分かるか?」

オリバーは肩をすくめるように両耳を上げ、“さっぱりだ”と返答した。

Tejas「鍵がかかっている宝箱は誰だって開けたくなるだろう?俺は目の前の課題に全力で取り組む性質<たち>でさ。
昔は目の前の機械いじりだけだった。だけど、子供の頃、興味本位でとある事件に首を突っ込んで大事故を貰ったことがあってさ。
それで気がついたんだ。“人間はやはりスリルと隣合わせでないと真価を発揮できない”ってな」

オリバー「あんた、イカれてるな」

二人は笑いあった。

Tejas「こうして休みを貰っては、機械弄りと“仕事”を趣味にしている。
人生はゲームのようなものだよ。
一戦一戦を大事に、真剣に“遊ぶ”。
そこで今日選んだ家が、たまたまオリバーのいた地下室だったということさ」

オリバー「そういうことか。ちなみに、これまでに今日みたいに特大の“宝物”を見つけた経験は?」

今度はTejasが肩をすくめる番だった。オリバーは再び笑った。


125 名前:Episode:“マイスター” Tejas  ゲーム編その3:2020/06/27(土) 06:25:54.874 ID:7tXeO7Ako
オリバー「そんな大事な話を突然出会った犬ころに話してもいいのかよ?」

Tejas「構わないさ。まずお前はただの“犬ころ”だから、周りに話したところで俄には信じてもらえない。
それに、お前自身は“何らかの理由”があって捕えられているぐらいだから容易に外は出歩けないだろう?」

存外に洞察力の鋭い若者だとオリバーは感じた。

オリバー「俺は甘いものが大好きでな。数日前もチョコの匂いにつられてこの街に来たのさ」

Tejas「理由を話してくれるのか?」

オリバー「あんた一人だけが話すのはフェアじゃないからな。貰った恩はなるべく早くチャラにしたい主義なのさ、おれは」

オリバーの意志の籠もった目を見て、Tejasは手にしていた機械を放り投げ、近くの家具にもたれかかった。

オリバー「おれもこの国でとある“仕事”をやっていてな。ある程度の目処がついたから帰ろうとしていたんだ。そうしたら、その途中にちょいと小腹が空いてさ」

わかるだろ?とでも言いたげなオリバーの顔を見て、Tejasは呆れたとばかりに溜息を付いた。
そして、やはり今日選定した家主の親父はケチだったという結論も同時に得た。
空き巣に食い逃げ。これではまともなパーティではない。


126 名前:Episode:“マイスター” Tejas  ゲーム編その4:2020/06/27(土) 06:26:45.928 ID:7tXeO7Ako
Tejas「それでチョコを盗み食いしていたら親父にバレて地下室にぶち込まれていたと。良かったな、保健所に引き渡される前で」

オリバー「おれは犬じゃない。もっと崇高な存在だ。あんまり舐めると恩人のあんたにも噛み付くぜ」

崇高な存在は盗み食いなんてしないだろう、とTejasは心の中でツッコミを入れた。

Tejas「そんなに腹が減っていたのか?そもそも金が無かったのか」

オリバー「両方だな。何日も飯を食っていなかったし、資金は“仕事”で使っちまってさ」

Tejas「仕事ってのはまさか賭け事じゃあないよな?」

先程と同じく、オリバーは肩をすくめるように両耳を上げた。
Tejasには目の前の犬が近所で管を巻く親父とそっくりに見えてきた。
とんでもない珍客を招いてしまったのかもしれない。

Tejas「まあいいや。それで、もう戻るのか?」

オリバー「そうしたいところだが、風呂にも入り腹も膨れたし少し休んでいくことにする。
久々に羽毛布団の感触も味わっていたいしな。ありがとうな、恩人様よ」

Tejasの返事も待たず、小憎たらしい珍客はそのまま布団の上で身体を丸め、スヤスヤと寝始めた。
神経の図太さだけは今までに会ったどの人間よりも太いなと感心しつつ、自らも軽い眠気に襲われたTejasはオリバーの隣に向かいその身を投げた。

ありえないことに順応している自分も十分神経が太いのかもしれない。
そう思い至った頃には、Tejasもすでに夢の中に居たのだった。


127 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/06/27(土) 06:27:28.001 ID:7tXeO7Ako
短いけど今回はここまで。尖ったパーティ

128 名前:たけのこ軍:2020/06/28(日) 22:44:11.288 ID:4lm.znWY0
文章まねしたい

129 名前:Episode:“マイスター” Tejas  開戦編その1:2020/07/04(土) 18:58:14.432 ID:gFvoeRsco
【オレオ王国 カカオ産地 Tejasの別荘】

オリバー「いやあ。雨だねえ」

Tejas「心なしか嬉しそうだな?」

オリバー「こんな天気を見るのは初めてでな」

オリバーは窓の縁に足をかけ頭だけを出し外を眺めていた。
白を基調とした美しい町並みは朝靄(もや)に隠れ、地面に叩きつけられる雨音を聴かなければ雨模様だとわからないほどに幻想的な雰囲気を演出していた。

眼前にまで迫る靄の匂いを嗅ごうとオリバーはしきりに鼻をひくつかせたが、彼の鼻腔には地面から上がってくる雨特有のスレた臭いと微かに漂う土煙の粒しか届かなかった。
オリバーは途端に靄に漂う雨空が嫌いになった。

対してTejasは、雨が好きだ。
“仕事”を行う上では人数がめっきり減る雨模様の方が気持ちとしては楽だし人数も減るので物件の吟味には絶好の機会となるからだ。
雨の臭いも嫌いではない。雨が降ることで地面に吸着している油分が蒸発してくることで発生するペトリコールというこの臭いを嗅ぐことで、寝起きのぼんやりとした意識が鮮明になり、
早朝の一杯のコーヒーよりもTejasにとっては意識覚醒のための起爆剤となるのだ。
案の定、今朝のTejasの気分は爽快そのものだった。


130 名前:Episode:“マイスター” Tejas  開戦編その2:2020/07/04(土) 19:00:04.165 ID:gFvoeRsco
昨日は二人とも眠りこけてしまい、お互いに自然と目を覚ました時には、外は墨のように黒々としていた。
ベッドからムクリと身を起こしたオリバーを何処かへ旅立つのかと思ったTejasだったが、彼は寝ぼけ眼をこすると開口一番『腹が減っては旅も出来ぬ』と言葉を発し、図々しくも夕飯を要求してきた。

仕方なく夕飯を作り食事をともにすれば、満腹になった腹をさすり『もう遅いから帰るのは明日にする』と言い出し、結局奇妙な珍客を泊めるハメになったのだった。
一瞬、Tejasはたちの悪い浮浪者を泊めたバツの悪い気分になった。

しかし、話をしている内に二人はすぐに意気投合し、時間を忘れ夜遅くまで語り合った。
Tejasは幼少期の思い出や自らの趣味にしている機械弄りに対して熱い思いを語り、オリバーはオリバーでTejasの話に耳を傾けつつも、ここ最近で旅をしたオレオ王国内の様子を話した。

互いに自らの出自については話さなかったし深く聞きもしなかった。
オリバーは自らの出自を明かせない理由がありTejasに話を振れば必ず自分にもその質問が返ってくることを恐れた。
対してTejasはオリバーがこの手の話題を避けていることを機敏に感じ取り敢えて聞き出すことをせず、少しもどかしく感じた。
ただ、ここまで相手と話し込んだのは子供の時に悪友たちと戯れていた以来久々の出来事であり、
一匹狼のきらいがあったTejasは窓の縁に足をかけ尻尾を振るオリバーを見ながら、静かに口元をほころばせたのだった。

Tejas「今日の旅立たない理由は『雨が降れば旅も出来ぬ』か?」

オリバー「惜しいな。正しくは『足元が滑って転ぶのも嫌だから旅は明日』だぜ」

Tejasのつくったホットケーキの匂いにつられ、自らの足元で尻尾を振るオリバーを見ると、本当にその辺りにいる小動物と変わらない。

ホットケーキを載せた皿をオリバーに渡すと、Tejasは別荘宅に投函されたチラシを確認し始めた。
“マイスター”はあらゆる時間を無駄にはしない。全ての所作が時間通りで且つ流暢だ。


131 名前:Episode:“マイスター” Tejas  開戦編その3:2020/07/04(土) 19:01:30.801 ID:gFvoeRsco
Tejas「『会談から五日経過。両国悪化の事態、未だに打開せず。』なんだ、これは新聞か…」

新聞を暖炉に投げ捨てる。
情報は自らの足と耳で稼ぐスタイルだ。

途端に、背後で勢いよく椅子が倒れる音がした。

口に咥えていたホットケーキを落とし、オリバーはTejasの言葉に唖然とした面持ちだった。

オリバー「なんてことだ、おれとしたことが…もうあの日から五日経っていたのかッ!」

Tejasは眉をひそめた。

Tejas「何の話をしている?」

オリバー「ばかッ!話は後だッ!とりあえず逃げるぞッ!すぐにここを出ないと、大変なことに――」




ドカンッ。



心臓が跳ねるほどに爆音が響き、オリバーの言葉はたちまちかき消された。
音の大きさから比較的近くで炸裂したに違いない。
一度の爆発音だけなら程遠くないチョコ精練工場の火災と考えることもできるが、最初の爆発音の後に何度も続く爆発音に風を切る砲弾の落下音。

これらの状況は【きのこたけのこ大戦】で嫌というほど覚えがある。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

132 名前:Episode:“マイスター” Tejas  開戦編その4:2020/07/04(土) 19:02:49.599 ID:gFvoeRsco
Tejas「伏せろッ!」

咄嗟に軍人としての本分の出たTejasはオリバーの首根っこを掴み、急ぎ壁際に身を寄せた。
オリバーを抱えTejasは身を縮こませ次の砲撃に備えていた。
思えば【大戦】でも、Tejasが前線兵として参加するといつもたけのこ軍からは土砂降りのような集中砲火を食らっていた。
それに比べれば先程の爆撃は散発的だが、非武装地帯に火の手が上がったことへの衝撃は図り知れない。

いつの間にか爆撃が止んでいたのか、辺りは先ほどと同じように途端に静寂に包まれた。
窓から外の様子を眺めたい気持ちをぐっとこらえ、Tejasたちはひたすら耐えていた。

硝煙の匂いが窓から伝わってきた頃、外から大勢の足音が近づいてきた。
大勢の人間の走る音は所狭しと並んでいる建物間で反響しあい異常な焦燥感を演出していた。

Tejas「随分と響く足音だな。これは軍靴か?おいおい、今日は軍事訓練の日だったか?」

ポツリと呟いた言葉に、オリバーが顔をしかめた。

オリバー「冗談を言うんじゃねえ、これはカキシード公国軍だよ。戦争が始まったんだッ。全くツイてねえ」

Tejas「戦争?ああ、前に滝さんがチラッと言っていた王国と公国の小競り合いってヤツか。すっかり忘れてたッ」

今回の休暇を取得する際に、滝本から『最近は王国と公国の関係が悪化しているので、何かあった際には自分で自分の身を守ってくださいね』とお節介事を言われたことを今頃になって思い出した。


133 名前:Episode:“マイスター” Tejas  開戦編その5:2020/07/04(土) 19:04:22.435 ID:gFvoeRsco
直後にまたも爆発音が響き渡ったため、オリバーは隣りの若者に向けて怒号に近い程の声を張り上げなくてはいけなかった。

オリバー「滝…もしかして、滝本スヅンショタンかッ!?あんた、会議所出身だったのかッ!?」

Tejas「ああ、そうだよ。言ってなかったっけ?きのこ軍兵だと」

キョトンとした顔のTejasに、今度こそ正真正銘オリバーは怒った。

オリバー「それだけじゃあ会議所兵だとはわからねえよッ!世界にきのこ軍兵なんてごまんといるんだッ!
畜生、なんてこったッ!色々と奇跡が起きてらあ。というか、会議所兵でいてこの騒乱を知らないとかモグリか!?ッ」

爆発音は止み散発的な銃声が響くようになった。
外の様子は分からず、威嚇発泡か精密射撃のどちらなのかはわからない。

Tejas「丁度、長期休暇に入ったからな。それに、新聞は読まない主義なんだ」

頃合いだな。そう呟くと、抱いていた手を離しオリバーを地面に置き、Tejasはベッドの下をゴソゴソと探ると、“仕事”に使う工具箱から最低限の物とポーチを取り出した。

Tejas「俺は逃げる。掴まるのは面倒だし御免だからな。オリバー、お前はどうする?」

オリバーは少し迷いの表情を見せたが、すぐにキッとした目でTejasを睨んだ。

オリバー「…おれもいまここで捕まり顔を知られるのは得策じゃない。あんたと同行させてもらう。会議所へ帰るんだろう?」

Tejasはその言葉に一度だけ頷くと、オリバーに向かいポーチの口を指差した。中に入れという指示に、オリバーは急ぎポーチの中に収まった。
収まったといっても、流石に身体は全て入り切らなかったため胸から上は顔を出したままだ。

Tejas「さて、では…いきますかッ!」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

134 名前:Episode:“マイスター” Tejas  開戦編その6:2020/07/04(土) 19:05:45.923 ID:gFvoeRsco
【オレオ王国 カカオ産地 別荘地域】

Tejasが邸宅の扉を開け放ったとき、タイミングが悪いことに階下の通りにいた二人組の公国兵と鉢合わせしてしまった。

「手を上げろッ!動くと容赦なく撃つぞッ!」

オリバーは敵に姿を見られまいとすぐに顔をポーチの中に隠したが、すぐにそろりと顔だけを出し改めて状況を確認した。

二人組のうち一人は公国のトレードマークでもある漆黒の鎧を纏い、手にしているチョコマシンガンの銃口をこちらに向けている。
背後の気弱そうなもう一人の兵士は、これもまた公国のトレードマークでもある白い魔法ローブを身にまとい、ブカブカの袖の中に構える杖を僅かにこちらに覗かせている。

これまでの公国兵には彼のような魔法使いしかいなかった。公国はその土地柄、魔法使いの数こそ非常に多かったが工業化が遅れていたのだ。
しかし、近年では公国内で急速に銃火器の配備が進み、近接戦闘にも長けた前線兵を多く配備できるようになった事実は、意外と他国には知られていない。
オリバーはその一端を垣間見た気になった。

対してTejasは銃口を向けられても怖気ず、かえって涼しい顔を浮かべ扉の前に寄りかかった。

「聞こえなかったのか!手を上げろと言ったんだッ!」

「最終通告だッ!次は撃つッ!」

二人組の兵は怒鳴り、銃口と杖先を改めてこちらに向けた。

ポーチの中のオリバーはふと横から伸びるTejasの右手を見た。
オリバーと同じ目線の高さに構えられたその右手には、いつ手にしたのかくすんだ色のロープを手にしていた。


135 名前:Episode:“マイスター” Tejas  開戦編その7:2020/07/04(土) 19:06:56.197 ID:gFvoeRsco
オリバーはそのロープに見覚えがあった。昨日、捕えられていた地下室に無造作に転がっていた物品で、彼いわく“戦利品”だ。

Tejas「手荒なマネになるが、許してくれよなッ!」

Tejasは勢いよく右手を振り上げた。手にしていたロープが連動して宙に舞い、蛇のように一人の兵士に巻き付いた。

二人組の兵士は途端に激昂した。

もう駄目だ。顔を引っ込め銃撃を避けようとした瞬間――

「ふざけるなッ!撃て…ああああああああッ!」


途端にオリバーの目の前で不思議な光景が起こった。

ロープに軽く巻きつけられた鎧の兵士は、きつく縛られたわけでもないのに、途端に頭を抑え悶絶し始め、暫くすると泡を吹いて倒れてしまった。

唖然としたオリバーとローブの兵士だったが、我に返ったのは敵のほうが僅かばかし早かった。

「き、貴様ァ!くらえ――あああああああああッ!」

すかさずTejasの右手はしなやかに動き、残りの兵士にもロープを巻きつけた。すると、先程と同じように兵士は叫び声を上げた後に、白目を向いて倒れてしまった。

Tejas「よし、裏に回れば移動手段がある。急ぐぞッ!」

パンパンと手を叩くと、何事も無かったとばかりにTejasはオリバーに声をかけた。

オリバー「待て待て待てッ!いまなにが起こったんだッ!なんで兵士たちが倒れたんだッ!」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

136 名前:きのたけカスケード 〜裁きの霊虎_ゴーストタイガー_〜 :2020/07/04(土) 19:08:18.998 ID:gFvoeRsco
公国がカカオ産地に攻め込んだその時、二人はそのカカオ産地にいたのだった…

137 名前:名無しのきのたけ兵士:2020/07/05(日) 17:49:11.301 ID:POMZK3bE0
戦闘描写もまねしたい

138 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その1:2020/07/10(金) 15:39:48.341 ID:xO8HNv3go
【オレオ王国 カカオ産地 別荘地域】

裏手に回ると、建物の脇に大きな幌に包まれた物体が置かれていた。
躊躇なくTejasが幌を取り去ると、中から人一人程度の大きさの機械が現れた。

オリバー「これが移動手段?ただのゴミの塊じゃねえか」

Tejasはムッとした顔で、オリバーに非難の目を送った。

オリバー「やれやれ。やっと年相応らしくなったな」

自分の発言を棚に上げて、オリバーは頭上の若者の顔を見上げ率直な感想を口にした。

Tejas「これは鉄くずじゃない、乗り物だ。まさかお前、“ホースバイク”を知らないのか?」

今度はTejasが呆れる番だった。事実、オリバーはバイクという乗り物を知らなかった。しかし、此処で認めるのだ。

オリバー「確かに、見た目は馬のように見えなくもない、か…」

結果的に、Tejasの呆れた視線からぷいと目を背け、オリバーは目の前の機械馬をよく眺め観察することにした。

眼前の馬は、長い鋼鉄の胴に、前足と後ろ足の部分には鋼鉄の車輪が取り付けられていた。
馬に鋼鉄の鎧を取り付けたのではない。馬自体がその骨に至るまで全て鋼鉄でできているのだ。

頭の左右からは鹿のように凛々しい鉄の角が伸びている。手綱が取り付けられていないことから、恐らく両の角が操作部となるのだろう。
本物の鹿の角を触ろうものなら蹴られるだろうに、この製作者は動物のことを理解していないな。
と、オリバーは見当外れな考察を行った。

このような工業の結晶をオリバーはこれまで目にしたことはなかった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

139 名前:Episode:“マイスター” Tejas  機械の活躍編その2:2020/07/10(金) 15:41:03.046 ID:xO8HNv3go
Tejasは間髪入れずに機械馬の背に跨った。途端に、視界を鋼鉄の部品たちで覆われたオリバーは、すぐさまポーチから抜け出しTejasの肩に跳び乗った。

オリバー「あんたが一人で作ったのか?すごいな」

Tejas「その様子じゃやっぱりバイクそのものを知らないな?
バイクという乗り物自体は最近開発されたものでさ。この本体も会議所の倉庫から拝借したのさ。まあ細かい部分は俺が改造してるけど。
昔から機械弄りが好きだと言っただろ?まあ見てなって」

Tejasはバイクに跨ったまま、太ももを載せている胴体部に右手を当て、本物の馬に触るかのように優しく一撫でした。

すると、途端に二人を載せた機械馬は金切り音に似た音を上げ、カタカタと豪快に揺れ始めた。
この鳴き声が機械音だとオリバーが気づくのは少し経ってからになる。

オリバー「なんだこの轟音は…これが工業化された最新鋭のオートメーションってやつかッ!」

Tejas「通常のバイクとは違いイグニッションキーを無くし、俺の右手で動力が反応し、俺の考えを共鳴させる機械と魔法のハイブリッドさッ!
さあ動くぜッ!振り落とされないように捕まってなッ!」

――フォルティシモ(とても強く)。

Tejasが左右の角を強く握ると一度だけホースバイクは短い雄叫びのような轟音を発し、すぐに自ら意志を持つように車輪を回転させながら動き始めた。
精々が野生馬と同等の速度だと予想していたオリバーは、あまりの加速度と揺れにたちまち振り落とされそうになった。



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