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ユリガミノカナタニ2

1 名前:社長:2016/09/04 00:44:24.091 ID:PNG5mMkE0
邪神スピリットJ あらすじ

鬼のマタギ、ディアナは人魚を狩る狩人を殺すとともに、襲われかけていた幼い人魚ネプトゥーンを助けた。
そして数十年後―――再び狩人を殺したディアナだが、最後の一人の自爆で大怪我を負って海の底に沈んでしまった。

そこには、ネプトゥーンの親が治める竜宮があり、ディアナも人魚の肉を狙った存在と勘違いされた。
それをネプトゥーンは訂正しようとしたが聞き入れられず、ディアナを助けて駆け落ちしようとした。

ディアナに人魚の血を飲ませ、傷を癒したネプトゥーン。
ネプトゥーンは助けられた時から好きになったとディアナに告白し、二人は逃げることにした。

そして―――無事に逃げ、海岸まで上がることができた。

301 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:13:00.954 ID:qxlwgJac0
――――。


ユピテルが791に封印された後―――。
ヴェスタに憑依したユピテルの分霊は、すぐ其れに気が付いた。

しかし…雷の力は使えない、ヴェスタには何の【力】もない―――。
或るのは海神の血を引く、ただ其れだけの事。

此れでは封印を施した場所が分かっても、封印など破れないだろう。
そう考えたユピテルは、他の神器を探しに行った。

たまたま見つけた抹茶を手にし、ふとユピテルは思いついた。
此の娘を、抹茶売りの少女にさせ、彷徨わせながら、神器を此の血でもって探そうと―――。

302 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:16:01.688 ID:qxlwgJac0
――――。

翌日―――。
鈴鶴は筍魂の元に現れた。

筍魂「さっさと終わらせるプランは立てた…まぁ、終わるかはお前次第なところもあるが…

   まずは戦闘術【魂】の神髄を、お前の其の身に沁み渡せねばならぬ
   此の武術の基礎と言うところだ…しっかりと理解してもらおう」

そして筍魂は課題を出した。
【無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】
其の意味を理解しろ、と―――。

303 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:24:50.917 ID:qxlwgJac0
筍魂「お前は、十五ぐらいの小娘だ――
   そんな質問をしたところで、何のことやら―――と思うかもしれんな

   ―――――本当にお前が、見た目どおりなら

   お前は小娘ではない―――寧ろ老婆といった方がいい年齢だろう
   億という途方もない年月を生きた魔王様のように―――必ず、其の長い生の中で理解している筈だ……」

鈴鶴「……そうね」
鈴鶴は少し考えていた―――。

しかし、直ぐに答えを見つけたようで、言葉を紡いだ。


304 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:25:07.269 ID:qxlwgJac0
鈴鶴「すべて陰陽のもの―――
   此れが其の武術のハシラでしょう……」

筍魂「ほう……速攻で何か、思いついたとは…
   そして其の単語の意味も、問おう―――」


305 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:25:53.107 ID:qxlwgJac0
鈴鶴は語り始めた。

すべて陰陽のもの――。

すべては、陰陽が、所有しているもの―――。


世界のすべては陰陽ふたつの要素で成り立っている。
逆に、世界を構成する一つ一つもまた、陰陽ふたつの要素で成り立っている。

其れは目に見えるものから、概念まで多岐に渡る。
感情だろうと、世界の流れだろうと、すべては陰陽で構成されている。

306 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:26:06.035 ID:qxlwgJac0
最も大きなものであろう、世界の流れ―――。
もし、それが陽の流れをとるならば、必然的に個々の感情も陽になるだろう。
もし、それが陰の流れをとるならば、必然的に個々の感情も陰になるだろう。

しかし―――其の逆も言える。
此処の感情が寄り、合わさり、世界の流れが陰陽どちらかをとることが―――。

【無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】事に繋がるのだと。

307 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:26:19.372 ID:qxlwgJac0
筍魂「……成程、いいだろう
   やはり……お前も791さんのように、長い時を生きて其れを実感していたのか…」

鈴鶴「確かに私は長い時を生きたけれど…
   わたしが今のわたしになった其の時が、偶然其の一文と合っていただけよ」

ちっぽけな一つの陰の感情が、其れが世界の流れを陰の流れに変えてしまうことを、鈴鶴は知っていた。
たいせつなひとを奪われた悲しみが――男を滅ぼそうとした。
もしその試みが成功していれば、世界は女だけと――世界は陰に包まれただろうから。

308 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/18 23:26:52.087 ID:qxlwgJac0
筍魂「よし…今から、魂を取る技を教える―――
   名は【ハートスワップ】

   てめェの訳のわかんねぇ力にぶち当たらないようにしながら、速攻で教える…」

鈴鶴「ええ……お願いするわ」

そして、鈴鶴の修行が始まった―――。

309 名前:社長:2017/04/18 23:27:26.996 ID:qxlwgJac0
戦闘術魂の奴解釈間違ってたらごめんなさい。
ちなみに魔王様は33億歳設定らしい。

310 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:15:56.472 ID:BnhtrUcg0
――――。


【剣】―――。
其れは波の下で眠っていた。
魚にも、人魚にも、触れられる事もなく、ただ静かに。


ある時、波に流され、【剣】は海を彷徨った。
そして集計班の目の前に流れ着いた―――。


何故集計班の前に流れ着いたのか。

其れは、若しかしたら―――世界の未来を左右する此の人物に、
【剣】の使い手に相応しい、血を引くものを探してほしかったのかもしれない。


311 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:22:01.423 ID:BnhtrUcg0
――――。

修行から3日後―――。

たった3日で、鈴鶴は其の技を会得した。

312 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:22:20.844 ID:BnhtrUcg0
【ハートスワップ】―――。
自身の魂を世界全てのものにし―――そして目の前の相手の魂に触れ、其れを奪い去る技術だ。

しかし、其れは実戦向きの技ではない―――。

【魂】を抜き取る―――此れなら必殺の一撃だが……
其れを成す為には、自身の魂を世界すべてに溶け込ませる必要がある。

その行動は隙を大きく作るため、実戦ではまず使えないのだ。
気絶させた相手になら使えるが、あえて其れをするよりもとどめを刺した方が早い――。

313 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:23:08.096 ID:BnhtrUcg0
筍魂「一つの技だけだが…こんなにあっさりと行かれると、他の技も伝授させたくなるが…
   其れはお前の意向ではないからな…」

鈴鶴「伝授してくれて、感謝するわ……」

筍魂「なぁに……俺も感謝したいところだ
   お前の強さ、よぉく知って…さらに俺は強くなりたいと思ったからな…

   鈴鶴よ、お前の目的をばっちり決めてこい!」

鈴鶴「ええ―――」

その言葉を受けながら、鈴鶴は其の場を去った―――。


314 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:26:14.660 ID:BnhtrUcg0
鈴鶴が戦闘術【魂】を会得するまでの間、ヴェスタは【力】の使い方をしっかり791に伝授してもらった。

【剣】はある程度の魔力も持っている。其れを制御する方法を、ヴェスタは会得したのだ。

791「ふーーー
   鈴鶴が帰ってくるまでに、ばっちりとヴェスタに叩き込んだよ
   はりきりすぎて、疲れちゃった…」
791は、ベッドの上に座りながらそう言った。

鈴鶴「ヴェスタともども、世話になったわ……礼として、この金を受け取ってほしい」

ヴェスタ「791さん、ありがとうございましたっ!」

791「はいはい…別にわたしはこんなにお金いらないけれど、其れで貴女が納得するのなら貰っておこう
   ――――さて、もう行くんだね」
791は金を受け取りながら、鈴鶴に問うた。


315 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:26:51.432 ID:BnhtrUcg0
鈴鶴「ええ……長居はする気はないから…」

791「そう…
   そして鈴鶴、あなたにひとつだけ言いたいことがあるの」

鈴鶴「いったい、何……?」
鈴鶴は訝しげに、791を見た。

316 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:28:05.051 ID:BnhtrUcg0
791「わたし―――ずうっとあなたが気になっていた

   あなたは…ユピテルみたいに……魂が複数あるって……
   魂さんのように技術じゃあないけれど、私も魂が視えるタチだから」

イサナ「それは、わたしの事―――?」
イサナが鈴鶴の横に、ぼうっと姿を現した。

イサナは、魂の姿として鈴鶴の隣には出られるものの、鈴鶴が黄泉剣を使わなければ【力】を発揮できない。
其の為、鈴鶴が【会議所】に来てからは、其の重瞳もあって厄介事にならないためにも眠っていたのだ。


317 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:28:25.457 ID:BnhtrUcg0
791「…!
   確かに、貴女はそう……

   けれど……鈴鶴にある魂は―――鈴鶴と、貴女を含めて5つなんだ
   そのうち、貴女を除けば4つの魂は肉体のある魂――

   鈴鶴はユピテルみたいに、魂を奪うような人じゃないから、何かあるんだろうと思っていたけれど
   要らないかもしれないけれど、もしも、気が付いていなかったら、と思って―――」

鈴鶴「……!」
イサナ「なに……!?」
鈴鶴とイサナは791の言葉に、固まっていた。

318 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:28:43.900 ID:BnhtrUcg0
ヴェスタ「その…おねえちゃんたち、どうしてそんなに、慌てているの?」
一人、ヴェスタは鈴鶴達の様子に戸惑っていた。


鈴鶴「わたしとイサナを除けば3つの魂―――
   1つでも2つでも4つでもなく、3つ―――」

イサナ「その魂――ユピテルの中にユノの魂が視えたあなたなら、どんな姿形か―――わかるはず…」

791「うん、そうだね…」

319 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:29:42.834 ID:BnhtrUcg0
続いた791の言葉―――其れは、鈴鶴とイサナの予想していたものであった。

一人は天狗の乙女―――黒と白、二つの髪色を持ち、隻眼であり、左手の指は3つ欠けている――。
一人は白髪と白肌の乙女―――女にしては高い其の背と、長い髪を持った、職人のような乙女―――。
一人は白髪と白肌の乙女―――おかっぱ頭で、其の身体は幼い少女のもの―――。

320 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:30:13.571 ID:BnhtrUcg0
791「……その反応を見るからに、心当たりは…あるんだね?」

鈴鶴「其の特徴だけで、声も思い出す程には…心当たりがあるわ」

イサナ「……其の魂は、何処に或る?」

791「鈴鶴の中に、眠ってるよ」

鈴鶴「ありがとう……其の言葉は、わたしをも…救うかもしれない」

791「私の力が役に立って、嬉しいよ
   それじゃ、鈴鶴、ヴェスタ、イサナ―――ユノを、きっちりと救ってね!」

鈴鶴・イサナ「勿論―――」
ヴェスタ「頑張るよっ」

そして鈴鶴達は帰路についた。

321 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:32:31.173 ID:BnhtrUcg0
鈴鶴の屋敷―――。

帰ってきたころには、すっかり夜になっていた―――。
屋敷に帰ってきた時、鈴鶴たちは見違えるようになった屋敷を見て驚いた。
月夜に照らされる屋敷は、どこな妖しげで―けれども美しかった。


ヴェスタ「綺麗に…なっている……」

鈴鶴「ヴェスタを連れてきた、あの時のようね」

イサナ「生まれ変わったようだ―――」
三人は、見違えた屋敷の様子に驚いていた。

その時――鈴鶴たちに駆け寄る足音が近づいてきた。

アポロ「あ―――
    帰ってきたっ―――お帰りなさいっ」

鈴鶴たちの帰還を知ったアポロが、玄関に駆け寄ってきたのだ。

322 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:33:58.665 ID:BnhtrUcg0
ヴェスタ「ただいまっ……あれっ……どうして、アポロは…まだ起きているの?」

アポロ「僕……ユノちゃんが助かる見込みがあるのか、不安で不安で、寝付けなかった…」

鈴鶴「心配させて、ごめんなさい…
   ……しかし、綺麗に掃除してくれて…ありがとう
   ディアナ達にも、伝えないとね…」

アポロ「あ、あはは…ど、どういたしまして―――
    その…其れよりも――――聞きたいことが―――
    鈴鶴さんたちの雰囲気で、なんとなくわかるけれど…
    ユノちゃんは―――」

鈴鶴「奴を如何にかすればいい――唯それだけになっているわ
   つまり…端的に言えば、今から向かって救う事だって出来る」

アポロ「あぁ―――やっと、なんだ……
    やっと……ユノちゃんを目覚めさせられるんだ…」
アポロは、感慨深い表情で鈴鶴たちを見つめた。

323 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:34:40.160 ID:BnhtrUcg0
鈴鶴「ただ……その前に、ひとつだけ…話しておきたいことがあるの」

アポロ「何?」

鈴鶴「…此処ではなんだから、座敷の上で話しましょう」

座敷の上で、アポロは真剣な表情をし、鈴鶴を見つめている。

その視線に応えるように、鈴鶴は言葉を紡ぎ始めた。

324 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:36:22.133 ID:BnhtrUcg0
鈴鶴「わたしと、イサナは――知らなかった
   わたしの魂の中には、3つ―――魄ある魂がある

   奇しくも―ユピテルと一緒の状況なの」

イサナ「そしてその魂は、鈴鶴にとって大切な存在の魂―――」

アポロ「鈴鶴さんにも、そんなことが―――」
アポロは、じっと鈴鶴を見据え――。

ヴェスタ「……その、それはどういう存在なの?」
ヴェスタは、少し心配そうに鈴鶴に聞いた。

325 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:36:48.327 ID:BnhtrUcg0
鈴鶴「わたしの…姉のような存在―――千代の時を過ごした存在―――」

そして鈴鶴は其の生い立ちを語った。
自身は月の民の姫の子である事、そしてその大切な人の事―――。


その名は、ヤミ、シズ、フチ。
千代の時を生きた思い出―遠き昔の、鈴鶴にとって忘れる事出来ない思い出。

三人はかつて月を滅ぼした月の民の残党に、黄泉剣に喰われて散ったことも―――。

けれども―――。
身を裂かれて散った三人は、魂魄共に鈴鶴の中に在ったのだ。

326 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:39:01.821 ID:BnhtrUcg0
鈴鶴は一通り身の上を説明し終えると、ヴェスタは泣いていた。

鈴鶴「―――どうしたの?」

ヴェスタ「おねえちゃんは、わたし以外にも――つらい事があったんだなって
     其れなのに、ずっと弱さを見せないなんて―――
     凄いと思ったら、急に涙が―――」

鈴鶴「ううん、わたしは―――わたしの中に或る神の力で其れを押し殺しているに過ぎないわ」
そう言いながら、鈴鶴はヴェスタを抱きしめ、撫でてあげた。


327 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:41:11.882 ID:BnhtrUcg0
アポロ「鈴鶴さんも―――僕たちと同じような存在だったんだ」

鈴鶴「皮肉か運命か、其れとも別のものかは分からないけれども、ね―――」

アポロの言葉に、何処かぼんやりとした言葉で鈴鶴は答えた。



鈴鶴「さて―――」
鈴鶴は、真剣な瞳と真剣な声を以て―――コトノハを紡ぎ始めた。


鈴鶴「わたしは―――」

328 名前:すべて陰陽のもの:2017/04/19 23:42:59.376 ID:BnhtrUcg0
1.「彼女たちを目覚めさせ、すべてにケリを付ける」

2.「すべてにケリをつけ、そして彼女たちを目覚めさせる」

329 名前:社長:2017/04/19 23:46:24.692 ID:BnhtrUcg0
たいせつなひとの存在、此れがやりたかった為に此の話があるといっても過言ではない。

ちなみにこの選択肢要素や百合屋敷要素はれいかちゃんリスペクトです。

選択肢はどちらか選んでレスしてくださいな。
どちらを選んでも選ばなかった方の展開もやるんで安心してね。

330 名前:きのこ軍:2017/04/30 10:13:07.408 ID:VPfxtsfE0
熱い展開
悩むが1で

331 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:01:19.478 ID:dShcXiy20
鈴鶴「わたしは―――彼女たちを目覚めさせ、そしてすべてにケリを付けに行こうと思う―――」
鈴鶴は、アポロを見据えて、そう答えた。

鈴鶴「アポロにとっては、歯がゆいかもしれないけれど
   彼女たちを、ずっとわたしの中に居させて―――奴に奪われるかもしれない

   特別な血はないけれども、それでもわたしの中でわたしの血と混ざっている存在だから―――
   微量でも、神の血を求める可能性は無きにしも非ず―――

   そして、万が一彼女たちが消えてしまえば―――わたしは理性を保てるか分からないから
   一度――そうなった身としては、其れでユノが救えないことになったら……」

アポロ「大丈夫―――
    救えるという確実な保証があるんだから、僕は、大丈夫―――
    其れに、鈴鶴さんの方が、恐らく僕よりも長い間、そういう状態なのだろうから
    其れならば、年の功で、鈴鶴さんが先にやっても文句はないよ」

332 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:01:50.349 ID:dShcXiy20
鈴鶴「ありがとう―――
   明日の朝、ディアナ達にも其の事を話して、復活させるわ―――」

アポロ「うんっ……!
    少し、不安が晴れたから、僕は寝床に入るね」

鈴鶴「おやすみなさい」

鈴鶴は、そう言うと、夜空に浮かぶ月を見上げた。
其の月は満ちかけていた―――。

333 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:02:06.761 ID:dShcXiy20
ヴェスタ「おねえちゃん―」

ふとヴェスタが鈴鶴に話しかけた。

ヴェスタ「おねえちゃんは、たいせつなひとを――
     その、ヤミ、シズ、フチっていう子を蘇らせるつもり…なんだよね?」

鈴鶴「そうね――」

ヴェスタ「すべてが終わって―――おねえちゃんはたいせつなひとを蘇らせる
     けれど、わたしは―――

     目覚めるユノおねえちゃんは居るけれど、おねえちゃんのように沢山の人を好いたことはない」
ヴェスタは、そう言うと、涙を流しながら鈴鶴の腕にしがみついた。

334 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:03:07.795 ID:dShcXiy20
ヴェスタ「おねえちゃんは、今までずうっとそばに居た人が帰ってきたとき
     わたしの事を、同じように愛してくれているか―――不安でたまらないの」

鈴鶴「大丈夫―――誰一人とて、無碍にはしないわ」
そう言い、鈴鶴はヴェスタの頭を撫でた。
けれども、ヴェスタの言葉は続いた。

335 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:03:28.832 ID:dShcXiy20
ヴェスタ「おねえちゃんが、そんな事しないのは分かっていても――
     でも……わたしは、おねえちゃんのたいせつなひとのことは分からないの
     もしおねえちゃんを取られたらって―――
     其れが恐くて、わたしが、自分勝手に独り占めするかもって―――
     わたし、其の人達を受け入れることができるのかって―――

     そんな悩みが、出てきてたまらないの…」

その言葉を聞いて、鈴鶴はヴェスタを抱きしめた。

鈴鶴「わたしの中に在る大切な人―――
   其の人達は、今も――ヴェスタを見ているでしょう

   確かに、会った事のないヴェスタは分からないかもしれないけれど
   其の人達は、確かにヴェスタの事を理解しているでしょう
   
   ヴェスタは、わたしの【力】に対する劣等感で、一度は仲違いしてしまったけれど―――
   其れまでの日々にも――此処での日々でも、心優しい少女だということを
   
   だから、大丈夫―――
   ヴェスタは、そんな事しない―――」
   
そして、優しい口調で、そう告げた。

336 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:03:45.386 ID:dShcXiy20
ヴェスタ「おねえちゃん―――
     ありがとう
     しばらく、こうしていていい?」

鈴鶴「うん―――」

そして二人は、そのまましばらく抱き合っていた。

イサナは、鈴鶴の中で其の様子をじっと見ていた。
口を挟むことはない――。

けれども、微笑みながらその様子を見ていた。

337 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:08:23.992 ID:dShcXiy20
翌朝―――。
鈴鶴は、自身の意志をディアナ達に伝えた。

ディアナ「鈴鶴の中に在る人を、取り戻す―――
     俺は、鈴鶴の事は信頼しているが、
     魂を元の身体に戻す処を、実際に見れば尚の事、信頼できるだろう
     だから、俺は其の事に対して構わない―――」

ネプトゥーン「わたしも、同じ意見――
       奴からユノの魂を救ってほしい立場としては、
       其れを成す貴女たちには、迷いない状態で行ってもらいたいから」

ディアナとネプトゥーンも、鈴鶴の選択を受け入れた。

338 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:10:03.070 ID:dShcXiy20
鈴鶴「ありがとう―――」
そう言うと、鈴鶴は自身の寝床の辺りを片付け、部屋の中央に座った。
イサナは、その傍らで同じように座っている。


其の様子を、ディアナ達が、ヴェスタが固唾を飲んで見守っていた。
魂を取る―――其れを技のみで成し遂げるという奇跡を、今此処で行うのだ。

339 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:10:48.540 ID:dShcXiy20
鈴鶴「では、始めるわ―――」

鈴鶴は、【ハートスワップ】の構えを取っていた。

同時に、イサナは、ヤミ達の身体を引っ張り出していた。

鈴鶴は、黄泉剣の中にヤミ達の肉体があると考えた。
彼女たちが最後に触れたものが其れだから―――。

340 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:12:46.823 ID:dShcXiy20
けれども、其の肉体は黄泉剣ではなく、【勾玉】の中に―――。
黄泉剣は確かに、神をひとり殺せるほどには力の強い神剣だ。

しかし―――真の強さは、其の漆黒の斬撃といった数々の奇跡は、勾玉によって支えられている。
【勾玉】は力の塊―――其れは【創世書】を創るにも十分なほどに在る。

【勾玉】の中にある魔力の海を、イサナがドロドロ化の能力でかき分けながら其の肉体を掴み、此の世に其の姿を取り戻させた。

341 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:14:18.364 ID:dShcXiy20
そして鈴鶴は心を世界に溶け合わせた。
世界と同じ存在となった鈴鶴は、其の中に或る魂に触れ、そして―――。

鈴鶴「はっ―――!」

鈴鶴は、彼女たちの魂を其の肉体に移した。

暫くの時間が経った。
鈴鶴たちは、不安な様子で眠っているヤミ達を見ていた。

342 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:15:42.968 ID:dShcXiy20
眠る彼女たちの目は、或る時、見開かれた。

ヤミ「鈴鶴さま―――」

其れは、【魂】を操る其の技の正しさを立証し―――。

シズ「ん―――」

そして、ユノをも救える事が、分かる奇跡だった―――。

フチ「あ―――」

―――彼女たちは目覚めた。

343 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:17:20.713 ID:dShcXiy20
ヤミ「鈴鶴さま―――そして皆さま、有難うございます
   感謝してもしきれない位に――わたくし達はいろいろな事を言いたいのはやまやまですが……
   再会の言葉や、喜びの言葉を交わすのは、まだ早いでしょう」

シズ「そう―――鈴鶴たちにはやる事が一つ、残っている
   其れを為し遂げたら―――にしよう」

フチ「あたし達は、もう何処にも行かない
   此処で、ディアナ達と共に、ユノという子が救われるのを祈っているわ
   だから―――名残惜しいけれど、早く行ってあげて、あの子の為にも」

けれども、彼女たちは――ずっと、意識は鈴鶴の中にあった。
これまでの経緯すらも、すべて見ていた。

ユノの事も、アポロの事も分かっていた。
だから、言いだしたい言葉を抑えて、鈴鶴を、イサナを、ヴェスタを見送る事を優先したのだ。

344 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/04 23:18:09.679 ID:dShcXiy20
鈴鶴「えぇ……
   ―――眠り姫を覚ましに行ってくるわ

   そして――すべてが終わって、また、色々と―――語り合いましょう」

鈴鶴も、彼女たちの気配りを知っていた。
勿論、イサナも―――また、ヴェスタも分かっていた。

だから鈴鶴は其れだけを言って、イサナとヴェスタと共に、一枚岩へと向かって行った。

345 名前:社長:2017/05/04 23:18:55.955 ID:dShcXiy20
復活したたいせつなひと。

346 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:34:07.622 ID:rbawSLrA0
海に浮かぶ一枚岩―――今宵の其れは、いつもよりも恐ろしく見えた。
此の下に―――緑色の悪魔が眠っているからだ。


ヴェスタ「おねえちゃん――此処に、戻って来たね――」

鈴鶴「すべて終われば……もう二度と、此処に戻る事はないでしょう――
   此処できちっと片を付けましょう」

イサナ「わたしも―鈴姫と、ヴェスタの為に、出来るだけ手助けしよう――」

三人は言葉をつぶやくと、ユピテルの封印を解きにかかった。

347 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:39:41.356 ID:rbawSLrA0
鈴鶴は黄泉剣―【勾玉】の力を解放し―――。
ヴェスタは【剣】の力を解放した。

そして、それらから放たれる斬撃で一枚岩を斬り裂き続けた。

幾度となく神の力で叩きつけられた一枚岩は、遂には罅が入り、そして―――。

中から、光とともに―――。


ユピテル「―――――」


ユピテルが、目覚めた――。
其れは、つまり―――ユピテルの封印が解かれたということに―――。

348 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:40:23.760 ID:rbawSLrA0
ユピテルは、空に浮かんでいた。

手には、【鏡】を―――
そして、その表情は、恨みでもなく、歓びでもなく、怒りでもなく―――。

ただ、普段通りといったような表情を見せていた。


349 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:43:31.432 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ふぅううーーーっ」
そして溜め息一つ。

ユピテル「奴が、ガキの魂一つ消せん臆病者だったおかげで――こうして消える事なく俺は復活できた
     あの封印の中でも、この【鏡】は効力を発揮してくれたおかげで――俺は更に強くなった」
ユピテルは、きょろきょろと鈴鶴達を見ていた。

ユピテル「そして…分霊は死んだようだが、その憑りついた先のガキが――【剣】を――
     もう一つ、横に居るテメェも【勾玉】を持って来てくれるとは」
そして―――神に等しい【力】を持つ鈴鶴たちを眺めながら、平然とそう言った。

350 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:46:43.578 ID:rbawSLrA0
鈴鶴「ずいぶんと……余裕なのね……」

ユピテル「今の俺なら―――神具二つでも相手に出来るさ
     吸収、しまくったからなァ―――力を―――」

そしてユピテルは、鈴鶴達に向かって雷を撃ちだした。

鈴鶴「………」
ヴェスタ「ひゃぁっ!!」

二人は構える剣で其れを薙ぎ払う。
鈴鶴は冷静に―――ヴェスタは、驚きこそするものの、振り払う動作其の物は正確に―――。

351 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:46:59.488 ID:rbawSLrA0
ユピテル「てめェらは―――
     俺を消しに来たんじゃァねェ―――
     そういう目的なら、封印ごと俺を消すことだってできただろうしな
     目的は、俺の中に在る魂の方だろう
     
     一方、俺はてめェらを消すだけだ
     その神器を奪うだけだ
     其の認識の違い―――思い知らせてやるぜェ」

そして戦いは始まった。


352 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:51:16.517 ID:rbawSLrA0
鈴鶴とヴェスタは、其れが初めてではあるが、統制のとれたコンビネーションでユピテルに斬りかかった。
だが―――。

ユピテル「ハハハハハハハハハ―――」
ユピテルは其れを己の肉体で受け止めた。
そしてそのまま、圧倒的な筋力で二人を弾き飛ばした。

353 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 01:53:20.722 ID:rbawSLrA0
ヴェスタ「おねえちゃん―――こいつ、おかしいよっ」

鈴鶴「硬い……
   恐らく、【鏡】の力を最大限使ってるのね
   けれども、斬れないなら、其の力尽きるまで攻撃し続ければいい―――」

イサナ「ちっ―――雷には、わたしの【力】も使えないか―――
    どうにか、岩を溶かして足止めぐらいしか出来ない――」

鈴鶴とヴェスタは、しばらくユピテルに攻撃を投げつけた。
時折イサナの【力】を挟み、斬る事其の物は出来るのだが―。

それでも―やっと傷が出来たと思えばすぐ修復され―――、
また、反撃に強烈な拳と雷を加えて行くため、なかなか大きなダメージが与えられない―――。

反撃自体は、鈴鶴は経験と黄泉剣の力でかわし、ヴェスタは【剣】の力で無理矢理突き抜ける―――。
しかし―――此の状態は、互いに決定打を打てない状況に等しかった―――。

354 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 02:01:03.240 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ふ―――互いに膠着状態―――
     めんどくせェなぁ……
     フン
     ならばよォ―――俺が一つ更にてめェらを絶望させてやらァ―――」

ユピテルは【鏡】に力を送り込み、海水を用いて圧倒的な量のDBとオモラシスを召喚した。
静かな海上は、醜悪な式神達で埋め尽くされた―――。


【鏡】―――其れは―――、
光を受け、其れを何倍にも増幅し―――【力】に替える神具―――。
其の【力】は【剣】と【鏡】自身を同時に封印することが出来るほどに或る―――。

だからこと、かつて悪しき存在となった百合神を、封印する事さえできたのだ―――。

355 名前:社長:2017/05/07 02:04:35.426 ID:rbawSLrA0
魔王様に軽くやられてたけど一応ラスボスなので強いぞ。

356 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:17:15.333 ID:rbawSLrA0
鈴鶴「な―――きりがない―――!」

そして其の式神は、斬っても斬っても其の場でまた召喚されてゆく。
其れ自体は漆黒の斬撃で容易く切断できる脆さだけれども、数が異様というべきものだった。

また、式神と共に、ユピテルの雷が鈴鶴たちに飛びかった―――。


357 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:17:35.537 ID:rbawSLrA0

鈴鶴たちはどうにかかわすものの、其の不規則な軌道を躱し切れず、雷はどんどんと身体を掠るほどまでになり――――。
気が付けば、鈴鶴達は追い詰められていた。

鈴鶴「はぁ――ーはぁ―――
   人海戦術―――圧倒的な力でやってくるとは――――」


鈴鶴の【力】は男を寄せ付けないため、式神からの直接攻撃は無効にできるものの、
ユピテルの雷は避けられず――――また、ヴェスタの事もかばいながらだったため、鈴鶴は徐々に手傷を負い始めた。

358 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:18:37.821 ID:rbawSLrA0

鈴鶴の【力】は男を寄せ付けないため、式神からの直接攻撃は無効にできるものの、
ユピテルの雷は避けられず――――また、ヴェスタの事もかばいながらだったため、鈴鶴は徐々に手傷を負い始めた。


鈴鶴「わたしの式神は―――わたしの血で創ればやつらをとりあえず牽制できるけど―――
   奴の式神に比べればちっぽけ―――其れに余計な力を使うことになるし――――」

イサナ「岩をドロドロに溶かして、奴らに投げて消滅させているけれども―――これでは厳しいわ―――」

鈴鶴たちは、此の劣勢の間でも前を見据えていた―――。

ヴェスタ「はぁ―――はぁ――――」
対照的に、ヴェスタは、まだ闘いの経験が少ないこと―そして其の自分を鈴鶴が庇って手傷を負うことに、絶望的な気持ちになっていた。
けれども、鈴鶴がユピテルに立ち向かうのを見て、戦意はぎりぎりで保っていた。

しかしそれは、綱渡りのようにギリギリの戦意だった。

359 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:19:25.260 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ハハハハハハハ―――数を使えばいいんだよォ―――数でテメェを押し潰せば―――なァ」

そしてユピテルの雷が鈴鶴とヴェスタの心臓目がけて飛んできた――――。

鈴鶴は其れをさらりとかわしたが、ヴェスタはそれをかわし切れず―――。
―――咄嗟に、鈴鶴はヴェスタのもとへ飛びかかった。

360 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:19:43.968 ID:rbawSLrA0
鈴鶴「あ―――」

けれども、【一手】――ほんの数秒の差で、其れは間に合わなかった。

ヴェスタの胸を、雷が貫いていた。

鈴鶴の脳裏には、かつてヤミ達が消えたあの日の事が鮮明に蘇った。

361 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:20:00.393 ID:rbawSLrA0
――――。

362 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:20:59.177 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ククク―――ハハハ―――【剣】持ちはもう終いだな―――
     そして【勾玉】の方も―――」

イサナ「鈴姫っ!」
イサナが声を掛けても、鈴鶴は呆然としたままで―――。


鈴鶴「嘘―――嫌―――たいせつなひとを――――わたしは―――」
鈴鶴は、よろよろとヴェスタの袂に歩み寄って行った。


ユピテル「神器を持っていながら、そんな甘かったとは―――
     こんな面白いものを見ずに、さっさと止めを刺したら勿体ない―――

     心の底から笑い切るまで眺めてやろう、クククク―――
     封印された時間に合うだけの、面白いもんだからなァ」
ユピテルの嘲笑すらも、もはや鈴鶴には聞こえなかった。


363 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:21:22.228 ID:rbawSLrA0
ヴェスタ「かは―――おねぇ―――ちゃん―――」
ヴェスタは、声にならないか細い声で、鈴鶴を見つめて泣いていた。

鈴鶴「死んじゃいや―――わたしはもう―――たいせつなひとが消えるのは―――」
鈴鶴も涙を流し、ヴェスタの身体を抱きしめた。

イサナ「鈴姫―――ヴェスタの事はわたしが、如何にか血を捧げるから―――
    頼むから、正気に―――」

鈴鶴「血―――そうだ、わたしの血を―――生命(いのち)を―――あげなければ―――」
イサナの言葉ももはや届かず。
躊躇なく、鈴鶴は己の手を斬り、溢れ出る血をヴェスタに捧げた。

364 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:22:19.781 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ハハハハハハハハ―――最後は自滅か
     やはり、愛とやらを利用するのは面白いなァ」


鈴鶴は血を捧げた。
それでも、ヴェスタの傷は未だふさがらない。

其れは【鏡】の―――神に等しい力のものだから。
鈴鶴の女神の血ですらもなお、ふさぐことできず―――。

だから己の血だけではなく、己の力も、心も、そして【黄泉剣】さえも。
何もかも、ヴェスタに飲ませた。

そして、決して消える事のない男を吹き飛ばす力以外の、全ての力を捧げた鈴鶴は、その場に倒れ伏した。


365 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:22:32.520 ID:rbawSLrA0
――――。


イサナも、もはや戦意を失った。
いや、失うしかなかった。

彼女は鈴鶴に憑りつく存在。大本は男を吹き飛ばす其の力に依ってはいるが、其れに加え様々な力で彼女はユピテルに対抗できていた。
けれども其れはすべて消え去り―――男を吹き飛ばす其の力しか残っていない状態は、彼女の力を削ぐのにも十分だった。


ユピテル「さて―――そろそろ止めと行こうか
     哀れなガキどもよ―――俺が其の神器を最大限使ってやらァ」

ユピテルは戦いが終わったと認識し、式神を全て決して鈴鶴達へ歩み寄った。

そして雷が鈴鶴を、ヴェスタを、イサナに向かって放たれた。

366 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:22:50.465 ID:rbawSLrA0
――――。


わたしはだれ?

ここは、どこ?

まっくらやみのなか?

わたしは―――そうだ、ユノおねえちゃんをたすけるために―――。
でも、此処は、一体―――。


367 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:23:04.479 ID:rbawSLrA0
わたしの中に何かが流れ込んでくる。
―――記憶だ。

わたしの知らない記憶が。
ヤミや、シズや、フチ―――おねえちゃんのたいせつなひとの記憶?


これは、鈴鶴おねえちゃんの記憶?

何も見えない。

暗闇の中、ただ思い出と、流れる言葉だけがわたしに響く。

368 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:23:38.778 ID:rbawSLrA0
―――「目覚めろ」


誰かの声が聞こえた。
知らない誰かの声。


―――「我を顕現させよ」


その声の主は、わたしの後ろに近づいた。


―――「さもなければ、おまえの姉は救えんぞ」

其の声ではっと我に返った。
わたしは、ユピテルの雷に打たれたのだ。
如何して奴と戦っていたのか。其の理由もはっきりとある。

369 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:26:30.350 ID:rbawSLrA0
わたし「でも―――わたしには【力】が―――」


―――「【力】は或る
    月の女神の力が―――記憶も、技術も、そして【勾玉】も―――おまえの中に或る
    おまえの傷は塞がっている―――

    それどころか―――二柱の神の【力】が、おまえに或る―――」


わたし「え―――?」


―――「鈴鶴だったか―――彼女がおまえにすべて捧げたようだ
    理解したなら、早く―――左手に【力】を込めろ」


370 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:27:55.581 ID:rbawSLrA0
言われた通り、わたしは左手に【力】を―――そして、其れと同時に其の行為が何を意味するのかも思い出した。
わたしの記憶が呼び覚まされた。

791「よし―――此れなら、もう十分だ!飲み込みが早いね、やるねっ!」

わたし「ありがとうございます、791さん」

791「でも…貴女は、隠し玉がある…よね?」

わたし「えっ―――?」

371 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:28:28.102 ID:rbawSLrA0
791「とぼけてもダメ
   ものすごい式神を召喚できる【力】がある」

わたし「でも―――この式神は、鈴鶴おねえちゃんに打ち勝つ為に練り上げたから
    だから……おねえちゃんに、見せるのは……」

791「万が一、どうしようもない状態の時の保険…これならどう?
   何をしてでも―――貴女の姉、ユノちゃんを救いたいと思うのなら、石橋を叩いて渡っても問題ないと思うな
   そして使わずに済むのなら、其れでいいわけだから…」

わたし「――――――
    それなら…やってみます」

791「よし、決まったね!私がビシバシ鍛えてあげよう」

372 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:28:52.387 ID:rbawSLrA0
其れは【力】の扱い方を教えて貰った其の時の記憶だった。

嗚呼、今は、どうしようもならない時なのだ―――。
【力】を使わなければ―――!

わたしは、其れと同時に暗闇の中に差し込んだ光の中へと進んでいった。

373 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:34:12.106 ID:rbawSLrA0
ユピテル「なにッ―――!?」

其処には、鈴鶴おねえちゃんが倒れ、イサナおねえちゃんも膝を付いていた。
ユピテルは驚愕した表情で此方を見つめている。

わたしの後ろには―――
式神―――ミネルヴァが立っていた。

其の存在感は、其処に或るユピテルの式神すべてを呑込むがごとく大きかった。


そしてわたしは、ミネルヴァを構成する【力】の源たる【剣】を左手に、
【勾玉】の力の根源たる、おねえちゃんの剣を右手に構えて―――、

ヴェスタ「覚悟しろっ、ユピテルゥーーーっ!!」

戦いの最中にあった不安を全てかき消すように、そう奴に言い放った。


374 名前:社長:2017/05/07 23:34:57.866 ID:rbawSLrA0
最強の式神ミネルヴァ登場。

375 名前:きのこ軍:2017/05/07 23:41:35.411 ID:90JAJ7Q6o
お姉ちゃんの思いを組んでヴェスタちゃんが立ち向かうとか熱いし泣けるわ。

376 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:41:47.099 ID:yDmhOjew0
ユピテル「ちィ――貴様ァ、俺のように式神も呼べたのかい」
ユピテルは其れでもなお、余裕を見せた表情でじっとヴェスタとミネルヴァを眺めていた。

ヴェスタ「曲りなりにも、此れはお姉ちゃんを叩き潰す為に私の中り上げた式神
     ――――お姉ちゃんには、見せたくなかった―――

     精神的にも、肉体的にも――出来る事なら使いたくはなかったけれど―――
     不思議と―――此れを出しているのに、身体が軽い―――」

式神を使役するのには【力】を使用する。
発揮する力が強いほど、より多く。

ミネルヴァのようなものは、体力の消耗が激しい。
791と修行をした時、ヴェスタは非常に疲労したことを覚えていた。
立つことが限界なほどだった。

けれども―――今、そのような事は全く感じられなかった。
何事もないように―――軽やかに、其処に立つことが――【剣】と黄泉剣を構えることが出来た。


377 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:42:56.529 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「行くよ―――ミネルヴァ!」

ミネルヴァ「――――――!」

ミネルヴァは其の指示と共に、咆哮をあげた。
其の咆哮は、乙女の様に美しく――けれども、辺りを震わせるには十分なものだった。

いいや、そんな生半ではものではなかった。
辺りに居た式神が、其の咆哮と共に全て吹き飛んだ。

378 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:49:08.612 ID:yDmhOjew0
ユピテル「何ッ!?」

ミネルヴァ「―――――!」
そして―――ユピテルが一瞬驚愕した、其の間に――――。
ミネルヴァは圧倒的な速度でユピテルに詰め寄って―――。


ユピテルの腕は、片方吹っ飛んでいた。
其の腕は―――ミネルヴァの拳の下に―――大きくへこんだ一枚岩の中に、もはや原型を留めぬほどに潰れていた。


ユピテル「ぐぅぅぅぅぅ――――ッ!」
ユピテルは、なくなった腕を抑えながら、苦痛の声をあげていた。

379 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:50:00.305 ID:yDmhOjew0
ミネルヴァ―――それはヴェスタの生み出した式神―――。

式神は、何か憑代となるものがなければ作れない。

鈴鶴の式神が、鈴鶴の血や髪などから作られるように―――
ユピテルの式神が、海水と【鏡】の力から作られるように―――
ミネルヴァにも、憑代となるものがある。

それは―――【剣】から漏れ出る瘴気とヴェスタの血―――。

神具と神の血を混ぜ合わせた其れは、とても相性のよい存在だ。
だから、其れを混ぜ合わせて作った式神は、恐ろしく強くなる。

かつて出現したオモラシスは、神の力で創られた【創世書】と、神の血で依り合わされた。
だから、其れも恐ろしく強かったのだ。

380 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:52:46.251 ID:yDmhOjew0
ミネルヴァは唯大振りに敵を殴り蹴る――小細工も何もない戦法しかとらない。
しかし其れだけで充分―――。

目に留まらぬ速さで地を海を空を駆ける神速の機動力―――。
あらゆる環境で生存する強靭無比の生命力―――。
軍神の一撃をも退け火風水のいずれにも傷つかぬ鉄壁の防御力―――。
そして古き世界の民草を押し流し滅ぼす無敵の攻撃力―――。

其の機動力は戦闘機よりも速く動く程に―――。
其の生命力はあるゆる生命が滅びる環境だろうとも平然と動くほどに―――。
其の防御力は科学や魔法に拠る力が束になってかかってもも跳ね返す程に―――。
其の攻撃力は頑強なる鋼の塊をその拳一振りで粉々に崩す程に―――。


其れほどまでに、恐ろしい存在だった。

また、同時にヴェスタは軽やかに飛び上がり、ユピテルの身体を斬った。
自身の中に在る技術と【剣】の【力】が生み出す其れは、ミネルヴァとは対照的に人智の最終点といえるほどに完成された技術だった。

381 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:58:39.186 ID:yDmhOjew0

【剣】の力と、ミネルヴァの瘴気は、式神に宿るユピテルの力をも喰らった。
徐々に―――徐々に―――ユピテルの力が削れていった。

ユピテルはなおも雷を撃ち出して抵抗するも、ミネルヴァの恐るべき生命力は束となった雷を食らっても平然とするほどであり―――。
そしてヴェスタにも、同じほどの生命力が備わっており―――もはや其れは戦いにならない程になっていた。

そしてヴェスタは、自身の中に在った【ハートスワップ】たる技術の構えを取った。
ミネルヴァに思いきり蹴られ、仰け反ったユピテルに向かい、ヴェスタは―――、


ヴェスタ「【ハートスワップ】―――」

ヴェスタは戦闘術【魂】の技を使って、ユノの魂を其の身に入れた。


其れと同時に、ミネルヴァはユピテルを原型が留めぬほどに殴打し、
肉塊となった其れらを海の向こうへ投げ飛ばした。

其れと同時に、ミネルヴァの咆哮に耐えたわずかな式神の残党も、消え失せた。

ヴェスタは、此の時―――
自身が恐ろしいほど大きな【力】を身に着けたと、実感していた。

382 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:59:17.958 ID:yDmhOjew0
世界を獲ろうとし―――其の過程で、一つの街を、多数の民を殺戮した緑色の悪魔は、消滅した。

383 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:59:37.868 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「おねえちゃん―――!」

けれども――其処には大きな犠牲があった。

イサナ「―――息はある
    脈もあれば、体温も―――

    だが、如何して目覚めないの……」

鈴鶴は―――目覚めなかった。
其の黒いまなざしは見えることなく。

まるで、ユノのように眠っていた―――。

384 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 23:03:54.380 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「魂は―――ユノおねえちゃんのように、消えていない…
     確かに、鈴鶴おねえちゃんは居る筈なのに」

イサナ「【魂】は、確かにあるのね」

ヴェスタ「うん―――」
ヴェスタは、不安げな表情で眠る鈴鶴を見つめていた。

ヴェスタ「………取り敢えず、屋敷に戻って――考えたい
     だから、こんな場所から―――早く帰りたいけれど、いい?」
其の場に流れた不穏な空気が嫌になったヴェスタは、そうイサナに告げた。

385 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 23:08:30.007 ID:yDmhOjew0
イサナ「そうね―――其れから、【鏡】も持って帰りましょう」

イサナは、ユピテルの持っていたらしい―――そこに落ちていた【鏡】を拾い上げた。

イサナ「わたしは鈴姫とは姉妹だけれど、其の血の元となる神が違う
    鈴姫は月――わたしは太陽の女神の血を引いている

    此の【鏡】は、太陽の女神のもの―――わたしが持つのが最善でしょう」

ヴェスタ「わたしは分からないから、イサナおねえちゃんに任せるよ――」

イサナは、じろじろと【鏡】を眺めていた。
その途端、【鏡】はまるで在るべきものを見つけたように、すぐにイサナの身体に取り込まれた。

386 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 23:24:41.977 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「身体が―――!?」

ヴェスタとイサナは、共に呆然としていた。
―――ふと、イサナは語り出した。

イサナ「わたしの身体は―――もともと出来損ないの、肉片だった――――
    太陽の女神がよこした肉片―――もう、海の底とヴェスタの中に消えた肉塊―――

    けれど―――今は、完全にわたしとして存在している
    きっと、これは【鏡】の力だろう―――
    わたしは、もう鈴姫の【力】にしがみ付かなくても―――在れる、という訳なのね…」

ヴェスタ「………けれど、鈴鶴おねえちゃんに見せたかったな
     如何して、目覚めないのかな……」

イサナ「分からない―――
    取り敢えず、屋敷に帰って考えるしかないだろう」

ヴェスタ「うん……」

イサナは鈴鶴の身体を抱き上げ、ヴェスタと共に屋敷へと戻って行った。


387 名前:社長:2017/05/10 23:24:56.802 ID:yDmhOjew0
次回最終回予定。

388 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:14:24.111 ID:wsQTm1ZE0
―――。

屋敷に帰ってきてから、ヴェスタは事の顛末を語った。

鈴鶴が未だ目覚めない事。
けれども、ヴェスタが当初の目的たる、ユノの魂を戻すことは可能だということ。

アポロは、其の知らせに、複雑な感情を抱いていた。
自身の願いが果たされるけれど、其れによってまた別の悲しみが生まれた事に対し。

ディアナやネプトゥーンも、同じ想いを抱いていた。

鈴鶴に依頼をした三人は、ヴェスタに懺悔した。
けれども、ヴェスタは、其れに対し、気にしないでと――気丈にそう告げ、ユノの魂を身体に戻した。

389 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:17:53.974 ID:wsQTm1ZE0
ユノは、無事に目覚めた。
ディアナ達の意向で、ユノには鈴鶴まわりの事情は告げず、
ただ、長い間眠り続けていた事、父親たちは死んだ事、ヴェスタが其れを救った事、ザンの血を得た事等を教えた。

ユノは初めは呆然としていたものの、直ぐに立ち直った。
アポロが自身の眠り続けていた長い間、諦めずに傍に居てくれた事が分かったからだ。
そして、事実を受け入れ、此の屋敷でアポロとずっと暮らす事になった。

ディアナ達も、此の屋敷を守る為、隠れ家から此処で過ごすこととなった。

390 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:18:09.736 ID:wsQTm1ZE0
ヤミ達は―――眠り続ける鈴鶴を、ずっと看ていた。
事の顛末を知り、ヤミは泣きじゃくり、シズは表情を暗く落とし、フチは悲しげに鈴鶴を見つめていた。


どれ程時が経っただろう。
絶対的な時間からすれば短くとも、彼女たちにとっては遥かに長い時間―――。


391 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:29:16.253 ID:wsQTm1ZE0
鈴鶴「あ―――」

ヤミ「鈴鶴さまっ!」
ヤミは直ぐに鈴鶴の袂に駆け寄った。

鈴鶴は、きょろきょろと其の様子を見ていた。

シズ「大丈夫、かな―――鈴鶴」
続いて、シズが口を開いた。
フチ、イサナ、ヴェスタも言葉を続けようとした―――。

392 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:29:32.448 ID:wsQTm1ZE0
けれども―――。

鈴鶴「ヤミ―――
   この人たち、だれ?」
続いた鈴鶴の言葉は―――。

鈴鶴「あれ―――此処は、どこ?
   こんなに、棲家は立派な処だったっけ………?」

其の言葉が意味する事――――。

鈴鶴「………父上は、何処に?」

鈴鶴の心は、子供の様になっていった―――。
ヴェスタを除いた、全員は、幼いころから鈴鶴を知っているから―――即座に、其れを理解した。

393 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:30:16.983 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタは、ただ茫然と―――自身の知らぬ、其の人を見つめていた。

ヤミ「鈴鶴さま―――其の事は、明日の朝話します―――
   今の鈴鶴さまは、お疲れでしょうから、ゆっくりと休んでください」

ヤミは、取り敢えずの処置として、鈴鶴を再び床に就かせた。
其れは咄嗟の判断だったけど、幼い鈴鶴の知るただ一人の存在は彼女だけだったから、其の点では丁度良かったのだ。

394 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:44:45.588 ID:wsQTm1ZE0
――――。

ヴェスタは、未だ呆然とした表情で、部屋に座り込んでいた。


ヴェスタ「おねえちゃん―――おねえちゃんが―――居なく―――なって―――」
ヴェスタの心は締め付けられるように苦しく―――そして、目からは大量の涙が――――。

其れは、たいせつなひとがいなくなってしまった悲しみと―――、
幼い鈴鶴を、自身だけが知らない其の疎外感で、心が張り裂けそうになっていた。

395 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:46:47.487 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタ「あは、あはははははははは―――」
気が付くと、ヴェスタは、乾いた笑い声を出していた―――。


ヤミ「ヴェスタさま―――」
そんなヴェスタの身体を、ヤミが抱きしめた。

ヤミ「ヴェスタさま―――鈴鶴さまは、心が七つになってしまったけれど
   それでも、其れでも―――五体は満足に――」
ヤミも泣きながら、其れでもヴェスタの頭を撫でた。

ヴェスタ「でも―――わたしの好きな、鈴鶴おねえちゃんは、もう―――」

396 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:48:29.949 ID:wsQTm1ZE0
フチ「ヴェスタっ!」
譫言を呟くヴェスタに、フチは強い口調で話しかけた。

フチ「貴女にとって―――鈴鶴は、姉でなければ好きではないの?
   そりゃあ、幼い鈴鶴を知る知らないはあるでしょう
   だから、鈴鶴が居なくなって辛いでしょう

   あたし達だって―――ヤミ以外は、みんな忘れてしまっているわ
   ヤミだって―――育った鈴鶴の事もよく知っているけれど、其の思い出は全て忘れてしまっている
   あたし達にとっても………好きだった其の人は―――」
其処で、フチも涙を流した。

シズ「ヴェスタ―――鈴鶴の事が、すべてを忘れてしまって―――嫌いだと
   そう言える人じゃない……
   ヴェスタ―――鈴鶴の事が本当に好き、そうだから―――其処まで悲しんでくれている」
シズは、涙は見せなかった。
けれども―――其の様子は、涙を堪えていた。

397 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:50:35.174 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタ「……そう
     わたしも、分かっている

     おねえちゃんが変わってしまっても―――わたしの中に在る感情は変わらないことぐらい
     
     でも―――わたしは―――わたしを棄てなければいけないの――――――」

そう呟くと、ヴェスタは自身の中にある剣を――黄泉剣を顕現させた。

イサナ「―――!
    まさか―――鈴鶴は―――あの時―――」

ヴェスタ「全てをわたしに捧げてくれた
     血も、技術も、経験も、【勾玉】すらも―――

     わたしは―――おねえちゃんとなってしまった―――」

ヴェスタは、黄泉剣を顕現させる内に、流す涙を止めた。

398 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:54:13.407 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタ「だから―――わたしは、鈴鶴の姉となり―――」

其の瞳は―――右目を漆黒の眼と青白い瞳に変えて―――。
十の年齢に相当する――その表情は―――。
少女らしい、無垢な表情は消え去って―――。


ヴェスタ「わたしは―――百合神を引き継ぐ」
嘗ての鈴鶴の様に、凛とした目で、そう言い放った。
其の表情は、自身の母の様に――神職に努める少女の様な表情だった。

ヴェスタは、鈴鶴のすべてが身体に入った時に、鈴鶴が百合神である事も知った。
そして―――鈴鶴が居ない今、其れは消え去ってしまう事も―――。

鈴鶴は、嘗て邪神となった償いとして百合神として生きていた。

ヴェスタも、同じような存在だから―――。
鈴鶴は、ユピテルを倒す事が償いとして言ってくれたけれども―――。
たいせつなひとを失った要因は、自分自身にあるから、其の償いの為に、百合神として生きる道を選んだのだ。

399 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:54:31.487 ID:wsQTm1ZE0
其の後―――。

鈴鶴には、自身の里が、悪者によって焼打ちにあった事。

父親は自身を助ける為、犠牲となり死んでしまった事。

追い詰められた鈴鶴とヤミを助けたのは、シズ、フチ―――そしてイサナとヴェスタである事。

今居る此の場所は、ヴェスタの世話になっている人物――ディアナの屋敷だという事を伝えた。

七つの頃の、心となった鈴鶴―――彼女が知る存在は、ヤミしかいないから、ヤミの口から―――。

鈴鶴は、父親が亡くなった事に少し悲しそうな表情を見せたけれど、其の事実を受け容れた。
嘗て彼女が体験した事実と、虚構が混ざった事実を。

400 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:56:31.284 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタは、屋敷の縁側に座り、ぼうっと夜空に浮かぶまるい月を眺めていた。


イサナ「ヴェスタ―――」
イサナは、其の横に座った。

イサナ「わたしは―――【鏡】の力で、此の屋敷を守る事にした」

ヴェスタ「うん―――其れは宜しくお願いするね、イサナおねえちゃん」

イサナ「ヴェスタ―――後悔はしていないか?」

ヴェスタ「―――大丈夫
     わたしは、新たなる女神として、生きるから」


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