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ユリガミノカナタニ2

1 名前:社長:2016/09/04 00:44:24.091 ID:PNG5mMkE0
邪神スピリットJ あらすじ

鬼のマタギ、ディアナは人魚を狩る狩人を殺すとともに、襲われかけていた幼い人魚ネプトゥーンを助けた。
そして数十年後―――再び狩人を殺したディアナだが、最後の一人の自爆で大怪我を負って海の底に沈んでしまった。

そこには、ネプトゥーンの親が治める竜宮があり、ディアナも人魚の肉を狙った存在と勘違いされた。
それをネプトゥーンは訂正しようとしたが聞き入れられず、ディアナを助けて駆け落ちしようとした。

ディアナに人魚の血を飲ませ、傷を癒したネプトゥーン。
ネプトゥーンは助けられた時から好きになったとディアナに告白し、二人は逃げることにした。

そして―――無事に逃げ、海岸まで上がることができた。

401 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:57:35.919 ID:wsQTm1ZE0
イサナ「そう―――」

ヴェスタ「在りたいわたしを棄てるのは、残酷かもしれないけれども
     でも、其れで鈴鶴を守れるのなら―――」

イサナ「決意が固いなら、わたしも、もう――何も言わない
    わたしは、ただ―――此れからの永久を守ることに務めるだけ」

ふと、ヴェスタが何かを察知した。

ヴェスタ「―――どうやら、依頼が来たようだから、わたしはもう行くね」

イサナ「―――気を付けて」

ヴェスタは、暗黒の中に浮かぶ神の社へ、其の歩を進めて行った。

402 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:58:18.156 ID:wsQTm1ZE0
        すべて陰陽のもの ルートA完


403 名前:社長:2017/05/13 02:58:38.149 ID:wsQTm1ZE0
次回はエピローグ

404 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:55:59.234 ID:wsQTm1ZE0
百合神―――。
それは、此の世界に存在する女神。
その正体を見た者はいないとされる。

その女神にどうしても祈りたい――布施と共にそう思った時、突如彼女に願いを託せるという。
承るのは、恋の相談と、復讐による人殺しが主だ―――。

けれども、其の存在は、ある時、大きくやり口変わった――と噂されるようになった。
百合神は正真正銘神の血を引き、願いを必ず叶えてくれるにも関わらず―――。

噂の前後では―――殺し方が違うという。
武術の達人か何かがやれる―――いわばすべての生物が極めれば真似られる事ではなく―――
其れをも凌駕した、得体の知れない者が願いを叶えていると噂になっている。


――――それは、正しい。

405 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:56:58.210 ID:wsQTm1ZE0
わたしは―――百合神―――。
いいや――、正しくは―――そうではない。
―――わたしは、此の世界で語り継がれた百合神ではない。

何故なら…昔からずっと居た其の女神は、もういないからだ。
わたしは、その宿命を引き継いだ存在に過ぎない。


わたしは―――あの時から、恐ろしく、強くなった。
其れは比喩ではなければ、傲慢でもない―――。
絶対的な事実―――自身が其れを否定しようとしても、出来ない。

406 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:57:38.378 ID:wsQTm1ZE0
剣技をはじめとした様々な武術の技―――。
自身の中に在る女神の【血】から織り成される恐ろしき力―――。
其れらは絡まり合い、複雑に混ざってわたしを支えている。

わたしに【力】の扱い方を教えてくれた師にも―――
世界すべてを探しても、其れより強い存在はいないほど強い其の人に、わたしは打ち勝った。

407 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:57:55.193 ID:wsQTm1ZE0
わたしは、誰であろうと勝てる。
どんな存在だろうと勝てる。

どれだけ居ようと。
どんな武装をしていようと。
どんな【力】を持っていようと。
どんな小細工でわたしを手玉に取ろうとしようと。

わたしの前に立つ敵は、すべて勝つことが叶わない。
量で敵わず、質で敵わず、力で敵わず、技で敵わず、小細工で敵わず―――。

そして最後に【剣】を振るい、全てが断つ―――。

闘いにおいて、あらゆる要素について、わたしに敵うものが何一つないからだ。

408 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:58:40.579 ID:wsQTm1ZE0
けれども―――わたしは其れで幸せになることなどない。
すべてを斬り伏せても、何も思わず、何も感じず―――。

かつてのわたしは、あの人に勝ちたい気持ちでいっぱいだった。
武芸に長け、とりわけ剣術に秀で、さらには神剣すらも自在に操るあの人に―――。

その時のわたしならば、今、此の時を幸せと思っているのだろうか。
夢が叶った嬉しさに、浸っているのだろうか。
世界を創ることの出来る喜びに満ちたのだろうか。

409 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:00:41.336 ID:5YOab5X.0
でも。
あの人がわたしを助けてくれた、其の時―――あの人に何としてでも勝ちたいという気持ちはなくなってしまった。
だから、今こうしていくらあの人よりも強かろうと―――虚しいばかりだ。

わたしは―――実の姉を助けるために、あの人と共に緑色の悪魔に挑んだ。
そいつは、神の力を得た悪魔だった。

あの人は、戦いに挑む前に――全ての清算を付けるために、自身の肉体に或るたいせつなひとたちの魂魄を取り出した。
そしてたいせつなひとたちが目覚めたのを見てから、奴に挑んだ―――。

けれども、そいつの攻撃は苛烈で―――わたしは、奴の打ち出した雷に打たれた。
【鏡】を持った奴の攻撃に、わたしの身体は崩れ落ちようとしていた。

あの人は、そんなわたしを救う為―――血をすべて捧げた。
いや、血だけではない。
あの人の記憶も、技術も、神器も。すべてわたしに捧げた。

わたしの傷は、【鏡】の力も加わり、あの人の不老不死の血でも、治らぬばかりに酷かったから―――。
だから、あの人は何もかも捧げて、わたしを助けてくれた。

410 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:02:17.281 ID:5YOab5X.0
其の後――わたしは、あの人の力と、式神であるミネルヴァの力を使い、実の姉を救うことはできた。
けれども―――あの人はもう居ない。

あの人は、わたしに【力】をすべて捧げてしまった影響か、その精神が童の様になってしまった。
わたしの事も、わたしの実の姉のことも、そして、自身が百合神であった事も、全て忘れていた。

実姉を救ってほしいと依頼した人たちは、責任を感じたためか、
あの人の住まう大きなお屋敷をずっと守るようになった。
わたしは要らないといったけれども、せめてもの償いをさせてほしい気持ちがあったから。

また、【鏡】で其の姿を取り戻したあの人の姉と、たいせつなひとたちは、あの人の面倒をみてくれている。

411 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:02:43.633 ID:5YOab5X.0
わたしは―――。
あの人と、ありたかった関係を捨て去った。

あの人を姉と慕う妹として過ごす関係を。
楽園で永久に、幸せに暮らす日々を。

412 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:03:02.525 ID:5YOab5X.0
わたしは―――鈴鶴おねえちゃん――いいや、鈴鶴を年下の妹として扱っている。
鈴鶴のたいせつなひとたちは皆、姉としてあの人に接していたから、其処に変わりはない。

ただ、わたしだけが―――扱いを変えているだけだ。

たいせつなひとたちや、わたしの実姉を救ってほしいと依頼したひとたちは、わたしの事をいつも気にかけてくれる。
時には、辛くなったら甘えてもいいと言ってくれる時もあった。

けれども、わたしはその選択は取る事はなかった。
鈴鶴は、たった一人で、百合神として生きていたから―――。
わたしも同じようにしなければならないと、そう思ったのだ。


413 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:04:29.797 ID:5YOab5X.0
わたしの身体の中には、【勾玉】と、其の力を利用している剣がある。
そして、わたし自身は【剣】を持っている。

神器をふたつも持つことは、ふつうでは出来ない。
選ばれた血の持ち主でなければ、其の【力】に呑まれてしまうからだ。
そして、其の【血】が薄ければ、完全に呑まれない―――と言うこともない。
其れほどまでに、神器を操ることは難しい。

けれども。
わたしは、鈴鶴の【血】と、自分自身の【血】で特別な血を持っている。
だから、そのふつうではないことが出来るがゆえに―――。

わたしは女神として在り続けることが出来る。

414 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:06:24.721 ID:5YOab5X.0
わたしは、女神として、復讐の願いを受けた時――、
鈴鶴のように、素晴らしい太刀でその命を断ち切る事はしない。
その太刀は、あの人のたいせつなものだから―――其れを勝手に持ち出すなんて、出来ないから―――。

蟒を切り裂く剣をも斬る【剣】で、わたしは願いを叶える。
【剣】の瘴気で其の対象が苦しもうと、わたしはもう、何も思わない。


あの日、わたしの大好きだった鈴鶴おねえちゃんが居なくなってから―――。
鈴鶴という妹が出来てから―――

わたしは、鬼に―――
此の世ならざるものに―――
女神に―――
ありたいわたしを棄てた死者のような存在に―――

なった。

415 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:07:07.240 ID:5YOab5X.0
鈴鶴の祖先たる女神は、ある神を斬った為に姉と仲違いしてしまったという。
わたしだって―――百合神を斬ったようなものだ。あの人を失ってしまったから。

時折、わたしの求めた日々に戻りたいと思うことはあるけれど―――其れは鈴鶴には見せない。
わたしは、百合神という鬼となりて生きる事しか、もうできない。

わたしは―――神斬りの鬼―――。
わたしは、楽園で過ごす鈴鶴達を、ずっと守り――そして、女神で在り続ける―――。

鈴鶴は―――神として生き続ける生き方でも心を壊すことはなかった。
けれども、わたしは―――ずっとそういう生き方をしても、今のままで居られるのだろうか。

416 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:07:17.395 ID:5YOab5X.0
もし、わたしの心が耐えられず―――例え心までも鬼になろうとも―――。
鈴鶴おねえちゃんの事を、もう完全に忘れてしまっても―――。

鈴鶴という妹が居る、其れだけしか覚えていなかったとしても―――。

鈴鶴たちと此の日常を守るならば―――。
永久に―――わたしは、百合神として在り続けるだろう。

鬼たるわたしは、神を斬った鬼として、百合神として、永久に生き続けるだろう。

417 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:07:30.750 ID:5YOab5X.0
わたしは、夜空に浮かぶ月を見つめていた。

月は妖しいまでに輝いていた。
他の星よりも強く、大きく、まるく、空に浮かぶ月―――。
けれど、其れは何処か寂しくも見えた―――。

すべての色を失った白い月が、何もかもを埋め尽くす暗黒にぽつんと、輝いていた―――。

418 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:08:23.826 ID:5YOab5X.0
          

             ―完―

419 名前:社長:2017/05/14 00:09:48.326 ID:5YOab5X.0
ルートA完結。
というわけでビターエンド。いつかもう片方のルートも書くぞ。

420 名前:社長:2017/05/14 00:27:44.219 ID:5YOab5X.0
http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/932/Vesta_2.jpg

421 名前:きのこ軍:2017/05/16 20:14:31.111 ID:ZW3/lQW20
乙乙
これがトゥルーエンドなのでしょうか。納得するも切ないしなるほどなあと。
残りルート心待ちにしております。。

422 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:40:06.732 ID:FwOrZUGo0
鈴鶴「けれども―――わたしは、まだ彼女たちを復活させるわけにはいけない」
鈴鶴は、固い意志を秘めた瞳で―――アポロをしっかりと見据えてそう告げた。

アポロ「その、ユノちゃんの事があるから……?」

鈴鶴「一つはそう……
   眠り姫となったユノを、貴女はいつまでも待ち続けた―――

   わたしは、ヤミもシズもフチも、みんなあの世に逝ってしまったと思っていたから…
   大切な人が目覚めないのを待つ――其れはある意味、死ぬよりも辛い事だと思うから…

   早く、その苦しみから解放したいから―――」

アポロ「……もう道が見えているならば、僕は其の後でも―――」

鈴鶴「もう一つ……ずっと、みんなはわたしとイサナのことを見ていたと思うの
   ならば―――全てが終わる其の時までは、わたしの中で見させてあげたいから…」

423 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:40:58.622 ID:FwOrZUGo0
アポロ「鈴鶴さんが、そういうのなら…鈴鶴さんの想いを優先するね…」

鈴鶴「変に、心配させてごめんなさい……
   けれども―――最低でも、貴女とヴェスタには、聞いておいてほしかったから……」

アポロ「どうして、僕にも…?」

鈴鶴「ディアナとネプトゥーンだって、此の事態に対して真摯に受け止めているけれど…
   一番、此の状況に対して、重きをおくのは…貴女だけだから…
   だから、一番最初に話しておきたかったの」

アポロ「そっか…
    此の事、ディアナと、ネプトゥーンにも…話して、いい?」

鈴鶴「ええ……構わないわ…」

アポロ「ふうーっ……
    少し、不安が晴れたから、僕は寝床に入るね」

鈴鶴「おやすみなさい」

424 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:45:19.665 ID:FwOrZUGo0
鈴鶴は、そう言うと、夜空に浮かぶ月を見上げた。
其の月は満ちかけていた―――。

ヴェスタ「おねえちゃん―」

ふとヴェスタが鈴鶴に話しかけた。

ヴェスタ「おねえちゃんは、たいせつなひとを――
     その、ヤミ、シズ、フチっていう子を蘇らせるつもり…なんだよね?」

鈴鶴「そうね――」

ヴェスタ「すべてが終わって―――おねえちゃんはたいせつなひとを蘇らせる
     けれど、わたしは―――

     目覚めるユノおねえちゃんは居るけれど、おねえちゃんのように沢山の人を好いたことはない」
ヴェスタは、そう言うと、涙を流しながら鈴鶴の腕にしがみついた。


425 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:45:38.388 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃんは、今までずうっとそばに居た人が帰ってきたとき
     わたしの事を、同じように愛してくれているか―――不安でたまらないの」

鈴鶴「大丈夫―――誰一人とて、無碍にはしないわ」
そう言い、鈴鶴はヴェスタの頭を撫でた。
けれども、ヴェスタの言葉は続いた。

426 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:45:51.298 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃんが、そんな事しないのは分かっていても――
     でも……わたしは、おねえちゃんのたいせつなひとのことは分からないの
     もしおねえちゃんを取られたらって―――
     其れが恐くて、わたしが、自分勝手に独り占めするかもって―――
     わたし、其の人達を受け入れることができるのかって―――

     そんな悩みが、出てきてたまらないの…」

その言葉を聞いて、鈴鶴はヴェスタを抱きしめた。

鈴鶴「わたしの中に在る大切な人―――
   其の人達は、今も――ヴェスタを見ているでしょう

   確かに、会った事のないヴェスタは分からないかもしれないけれど
   其の人達は、確かにヴェスタの事を理解しているでしょう
   
   ヴェスタは、わたしの【力】に対する劣等感で、一度は仲違いしてしまったけれど―――
   其れまでの日々にも――此処での日々でも、心優しい少女だということを
   
   だから、大丈夫―――
   ヴェスタは、そんな事しない―――」
   
そして、優しい口調で、そう告げた。

427 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:46:01.750 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃん―――
     ありがとう
     しばらく、こうしていていい?」

鈴鶴「うん―――」

そして二人は、そのまましばらく抱き合っていた。

イサナは、鈴鶴の中で其の様子をじっと見ていた。
口を挟むことはない――。

けれども、微笑みながらその様子を見ていた。

428 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:46:21.449 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃん――」

鈴鶴「ヴェスタ――」

ヴェスタ「……おねえちゃん、今日は、一緒のお布団で寝たいの
     二人っきりで……いっしょに…」

鈴鶴「ふふ―――いいわよ」

そしてふたりは、互いの手を握り合って眠りについた。

429 名前:社長:2017/05/17 00:46:49.363 ID:FwOrZUGo0
運命の分かれ道の先に待つものは。

430 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:03:41.843 ID:fvhsgqo20
翌朝――――。

鈴鶴達は、身支度をしていた。

431 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:05:34.329 ID:fvhsgqo20
ディアナ「事情は、アポロから聞いた―――
     だが……其れに対する事は、俺は言わん
     俺は普段、マタギとして…受けた依頼をこなすことしかしていない
     こうして何かを頼み―そしてそれが為されるかを待つということは、此れが初めてだ

     ユノの魂を――宜しく頼む」

ネプトゥーン「わたしも―ディアナと同じ
       ユノの魂を取り戻すことを、祈ってるわ」

アポロ「ユノちゃんの事、お願い――
    僕もついて行きたいけれど、そうしてもほとんど意味がないから――此処、願ってるから」


432 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:06:53.008 ID:fvhsgqo20
海に浮かぶ一枚岩―――今宵の其れは、いつもよりも恐ろしく見えた。
此の下に―――緑色の悪魔が眠っているからだ。


ヴェスタ「おねえちゃん――此処に、戻って来たね――」

鈴鶴「すべて終われば……もう二度と、此処に戻る事はないでしょう――
   此処できちっと片を付けましょう」

イサナ「わたしも―鈴姫と、ヴェスタの為に、出来るだけ手助けしよう――」

三人は言葉をつぶやくと、ユピテルの封印を解きにかかった。


433 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:08:02.141 ID:fvhsgqo20
鈴鶴は黄泉剣―【勾玉】の力を解放し―――。
ヴェスタは【剣】の力を解放した。

そして、それらから放たれる斬撃で一枚岩を斬り裂き続けた。

幾度となく神の力で叩きつけられた一枚岩は、遂には罅が入り、そして―――。

中から、光とともに―――。


ユピテル「―――――」


ユピテルが、目覚めた――。
其れは、つまり―――ユピテルの封印が解かれたということに―――。


434 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:08:23.446 ID:fvhsgqo20
ユピテルは、空に浮かんでいた。

手には、【鏡】を―――
そして、その表情は、恨みでもなく、歓びでもなく、怒りでもなく―――。

ただ、普段通りといったような表情を見せていた。

435 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:08:37.387 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ふぅううーーーっ」
そして溜め息一つ。

ユピテル「奴が、ガキの魂一つ消せん臆病者だったおかげで――こうして消える事なく俺は復活できた
     あの封印の中でも、この【鏡】は効力を発揮してくれたおかげで――俺は更に強くなった」
ユピテルは、きょろきょろと鈴鶴達を見ていた。

ユピテル「そして…分霊は死んだようだが、その憑りついた先のガキが――【剣】を――
     もう一つ、横に居るテメェも【勾玉】を持って来てくれるとは」
そして―――神に等しい【力】を持つ鈴鶴たちを眺めながら、平然とそう言った。


436 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:10:56.426 ID:fvhsgqo20
鈴鶴「ずいぶんと……余裕なのね……」

ユピテル「今の俺なら―――神具二つでも相手に出来るさ
     吸収、しまくったからなァ―――力を―――」

そしてユピテルは、鈴鶴達に向かって雷を撃ちだした。

鈴鶴「………」
ヴェスタ「ひゃぁっ!!」

二人は構える剣で其れを薙ぎ払う。
鈴鶴は冷静に―――ヴェスタは、驚きこそするものの、振り払う動作其の物は正確に―――。

437 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:11:09.792 ID:fvhsgqo20
ユピテル「てめェらは―――
     俺を消しに来たんじゃァねェ―――
     そういう目的なら、封印ごと俺を消すことだってできただろうしな
     目的は、俺の中に在る魂の方だろう
     
     一方、俺はてめェらを消すだけだ
     その神器を奪うだけだ
     其の認識の違い―――思い知らせてやるぜェ」

そして戦いは始まった。

438 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:13:03.534 ID:fvhsgqo20
鈴鶴とヴェスタは、其れが初めてではあるが、統制のとれたコンビネーションでユピテルに斬りかかった。
だが―――。

ユピテル「ハハハハハハハハハ―――」
ユピテルは其れを己の肉体で受け止めた。
そしてそのまま、圧倒的な筋力で二人を弾き飛ばした。

439 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:14:32.209 ID:fvhsgqo20
ヴェスタ「おねえちゃん―――こいつ、おかしいよっ」

鈴鶴「硬い……
   恐らく、【鏡】の力を最大限使ってるのね
   けれども、斬れないなら、其の力尽きるまで攻撃し続ければいい―――」

イサナ「ちっ―――雷には、わたしの【力】も使えないか―――
    どうにか、岩を溶かして足止めぐらいしか出来ない――」

鈴鶴とヴェスタは、しばらくユピテルに攻撃を投げつけた。
時折イサナの【力】を挟み、斬る事其の物は出来るのだが―。

それでも―やっと傷が出来たと思えばすぐ修復され―――、
また、反撃に強烈な拳と雷を加えて行くため、なかなか大きなダメージが与えられない―――。

反撃自体は、鈴鶴は経験と黄泉剣の力でかわし、ヴェスタは【剣】の力で無理矢理突き抜ける―――。
しかし―――此の状態は、互いに決定打を打てない状況に等しかった―――。

440 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:14:51.525 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ふ―――互いに膠着状態―――
     めんどくせェなぁ……
     フン
     ならばよォ―――俺が一つ更にてめェらを絶望させてやらァ―――」

ユピテルは【鏡】に力を送り込み、海水を用いて圧倒的な量のDBとオモラシスを召喚した。
静かな海上は、醜悪な式神達で埋め尽くされた―――。


【鏡】―――其れは―――、
光を受け、其れを何倍にも増幅し―――【力】に替える神具―――。
其の【力】は【剣】と【鏡】自身を同時に封印することが出来るほどに或る―――。

だからこと、かつて悪しき存在となった百合神を、封印する事さえできたのだ―――。

441 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:16:40.822 ID:fvhsgqo20
鈴鶴「な―――きりがない―――!」

そして其の式神は、斬っても斬っても其の場でまた召喚されてゆく。
其れ自体は漆黒の斬撃で容易く切断できる脆さだけれども、数が異様というべきものだった。

また、式神と共に、ユピテルの雷が鈴鶴たちに飛びかった―――。

442 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:16:53.119 ID:fvhsgqo20
鈴鶴たちはどうにかかわすものの、其の不規則な軌道を躱し切れず、雷はどんどんと身体を掠るほどまでになり――――。
気が付けば、鈴鶴達は追い詰められていた。

鈴鶴「はぁ――ーはぁ―――
   人海戦術―――圧倒的な力でやってくるとは――――」


鈴鶴の【力】は男を寄せ付けないため、式神からの直接攻撃は無効にできるものの、
ユピテルの雷は避けられず――――また、ヴェスタの事もかばいながらだったため、鈴鶴は徐々に手傷を負い始めた。

443 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:17:17.096 ID:fvhsgqo20
鈴鶴「わたしの式神は―――わたしの血で創ればやつらをとりあえず牽制できるけど―――
   奴の式神に比べればちっぽけ―――其れに余計な力を使うことになるし――――」

イサナ「岩をドロドロに溶かして、奴らに投げて消滅させているけれども―――これでは厳しいわ―――」

鈴鶴たちは、此の劣勢の間でも前を見据えていた―――。

ヴェスタ「はぁ―――はぁ――――」
対照的に、ヴェスタは、まだ闘いの経験が少ないこと―そして其の自分を鈴鶴が庇って手傷を負うことに、絶望的な気持ちになっていた。
けれども、鈴鶴がユピテルに立ち向かうのを見て、戦意はぎりぎりで保っていた。

しかしそれは、綱渡りのようにギリギリの戦意だった。

444 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:17:28.556 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ハハハハハハハ―――数を使えばいいんだよォ―――数でテメェを押し潰せば―――なァ」

そしてユピテルの雷が鈴鶴とヴェスタの心臓目がけて飛んできた――――。

445 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:19:54.805 ID:fvhsgqo20
鈴鶴は―――咄嗟に、自身の中にある―――天の狗の―――ヤミの―――風の術を使い――雷を受け流した―――。
けれども雷は際限なく飛んでくる。

風の術が切れるか、雷が切れるか―――という勝負だった。

イサナ「わたしの【力】もあげるから―――どうか、頑張って―――」

イサナが鈴鶴に【力】を与えていたが、其れでもなおユピテルの【力】の方が強く―――。

鈴鶴の生み出した風は、徐々に勢いを落とし始めた。
ユピテルの飛ばした雷は、複雑な軌道でヴェスタの元へと襲いかかった。

446 名前:社長:2017/05/20 02:20:38.988 ID:fvhsgqo20
使い回し そして分岐点は此処。

447 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:06:24.395 ID:fvhsgqo20
其の時―――。

ヴェスタは―――。
時間が遅くなるのを感じた。
其れは危機に相見えた時に見られる感覚だった―――。

448 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:08:25.967 ID:fvhsgqo20
ヴェスタは、其の時、ふと自身の記憶を呼び覚ました。
其れは――自身に【力】の扱い方を教えてくれた、其の人のものだった。

791「確かに、此れは強い―――隠し玉としては十分だ
   なにせ、本気を出した私と互角だから――――

   でも、デカい式神で、これほど強いから、流石に消耗がひどすぎるね
   こんなのを、先が見えない時に使ったら、其の次に対応できない……
   ―――此の力は、どうしようもなくなったら使って
   前述したとおり…【力】自体は、私と互角なのだから―――
   私が正面切った闘いで誰にも負けないように―――負ける事は、断じてないから」

449 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:09:57.721 ID:fvhsgqo20
同時に―――頭の中で声が響いた。

―――「我を顕現させよ」

其の声と共に、ヴェスタは、【剣】に力を込めた。


其れは本当に一瞬の出来事。
一瞬の中で、ヴェスタは濃密な記憶の再生と共に、【力】を放った――――。


450 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:14:35.705 ID:fvhsgqo20
辺りに、蟒の瘴気が溢れ出た―――。
【剣】―――蟒の尾より出でし神器は、八つの首持つ蟒の、其の力を秘めているのだ。

ユピテル「なに―――ッ!?」

鈴鶴「――――!」

其処には―――。

雷は何かにぶつかり、弾けて散った。
けれどもヴェスタに傷一つない。

いいや、正確に言えば、ヴェスタの前に立ちはだかるもの一人―――。

其処には―――あの時、ユピテルに憑りつかれたヴェスタが召喚した式神―ミネルヴァが立っていた。
そして飛んできた雷をまともに受けてなお、苦しむことも、傷つくこともなく――ミネルヴァは平然と其処に立っていた。

いいや、正確に言えば、ヴェスタの前に立ちはだかるもの一人―――。

451 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:19:06.662 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ちィ――貴様ァ、俺のように式神も呼べたのかい」
ユピテルは其れでもなお、余裕を見せた表情でじっとヴェスタとミネルヴァを眺めていた。

ヴェスタ「曲りなりにも、此れはお姉ちゃんを叩き潰す為に私の中り上げた式神
     ――――お姉ちゃんには、見せたくなかった―――

     精神的にも、肉体的にも――出来る事なら使いたくはなかったけれど―――」

鈴鶴「ヴェスタ―――わたしは、気にしないのに―――」

ヴェスタ「そっか…
     ならば、はやくいえば、よかったな―――
     少なくとも、精神的な枷は、無かっただろうから―――

     ふふっ、ミネルヴァ、行け―――其の式神全て、叩き潰してやれっ」

ミネルヴァ「――――――!」

ミネルヴァは直ぐに其の指示に従い、周りに居る式神を薙ぎ払った。
其の咆哮は、乙女の様に美しく――けれども、辺りを震わせるには十分なものだった。

いいや、そんな生半ではものではなかった。
辺りに居た式神が、其の咆哮と共に全て吹き飛んだ。


452 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:19:23.690 ID:fvhsgqo20
ミネルヴァ―――それはヴェスタの生み出した式神―――。

式神は、何か憑代となるものがなければ作れない。

鈴鶴の式神が、鈴鶴の血や髪などから作られるように―――
ユピテルの式神が、海水と【鏡】の力から作られるように―――
ミネルヴァにも、憑代となるものがある。

それは―――【剣】から漏れ出る瘴気とヴェスタの血―――。

神具と神の血を混ぜ合わせた其れは、とても相性のよい存在だ。
だから、其れを混ぜ合わせて作った式神は、恐ろしく強くなる。

かつて出現したオモラシスは、神の力で創られた【創世書】と、神の血で依り合わされた。
だから、其れも恐ろしく強かったのだ。

453 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:19:45.062 ID:fvhsgqo20
ヴェスタは、791に【力】の使い方を教えてもらった時の事を思い出した。
【力】の放出の仕方、維持の仕方―――。
一通り、基本を教えて貰った後、791はヴェスタに話しかけた。

791「よし―――此れなら、もう十分だ!飲み込みが早いね、やるねっ!」

ヴェスタ「ありがとうございます、791さん」

791「でも…貴女は、隠し玉がある…よね?」

ヴェスタ「えっ―――?」

791「とぼけてもダメ
   ものすごい式神を召喚できる【力】がある」

ヴェスタ「でも―――この式神は、鈴鶴おねえちゃんに打ち勝つ為に練り上げたから
     だから……おねえちゃんに、見せるのは……」

791「万が一、どうしようもない状態の時の保険…これならどう?
   何をしてでも―――貴女の姉をユノを救いたいと思うのなら、石橋を叩いて渡っても問題ないと思うな
   そして使わずに済むのなら、其れでいいわけだから…」

ヴェスタ「――――――
     それなら…やってみます」

791「よし、決まったね!私がビシバシ鍛えてあげよう」

791はミネルヴァの恐ろしく強い性能を更に引き出させた。
其れと同時に、ミネルヴァを出しながら【剣】で戦う方法も教えた。

454 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:20:26.484 ID:fvhsgqo20
ミネルヴァは唯大振りに敵を殴り蹴る――小細工も何もない戦法しかとらない。
しかし其れだけで充分―――。

目に留まらぬ速さで地を海を空を駆ける神速の機動力―――。
あらゆる環境で生存する強靭無比の生命力―――。
軍神の一撃をも退け火風水のいずれにも傷つかぬ鉄壁の防御力―――。
そして古き世界の民草を押し流し滅ぼす無敵の攻撃力―――。

其の機動力は戦闘機よりも速く動く程に―――。
其の生命力はあるゆる生命が滅びる環境だろうとも平然と動くほどに―――。
其の防御力は科学や魔法に拠る力が束になってかかってもも跳ね返す程に―――。
其の攻撃力は頑強なる鋼の塊をその拳一振りで粉々に崩す程に―――。

其れほどまでに、恐ろしい存在だった。
弱点は、魔法其の物を打ち消すアポロのような存在か、式神の本体たるヴェスタを先に仕留めるかしかない―――。


455 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:21:32.624 ID:fvhsgqo20
ミネルヴァの身体から溢れる瘴気は、式神に宿るユピテルの力をも喰らった。
徐々に―――徐々に―――ユピテルの力も、削れていった。

鈴鶴「ふんっ!」

ユピテル「ぐっ―――」

そして―――強大な【力】に護られていたユピテルの守りは、徐々に薄れ―――。
ユピテルの身体をまともに切れるまでになっていた。

また、無限にいたように思われる式神が、片付けられるにつれて、それがやがてかわせなくなっていった。

456 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:22:11.882 ID:fvhsgqo20

そして―――。

鈴鶴「―――――」
鈴鶴は、ユピテルの前に立ち、【ハートスワップ】を喰らわせるために心を世界に溶け合わせた。

ユピテルは、無防備な状態となった鈴鶴に一撃を喰らわせようとした―――。


しかし―――。

イサナ「鈴姫の動きは邪魔させない―――」
イサナがドロドロ化の力でユピテルの足を液状化し、ユピテルを仰け反らせ―――。

ヴェスタ「させるか―――」

ヴェスタの命と共に、ユピテルの身体目がけて、ミネルヴァが思いっ切り拳を打ち―――。

同時に―――。


鈴鶴「【ハートスワップ】―――!」
鈴鶴は戦闘術【魂】の技を使って、ユノの魂を其の身に入れた。

457 名前:社長:2017/05/20 23:23:02.554 ID:fvhsgqo20
三位一体の魂奪還

458 名前:きのこ軍:2017/05/21 10:50:39.336 ID:ZwNv9EdMo
サンキュー戦闘術魂

459 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:13:54.114 ID:8C40QCWk0
ユピテルは、其れと同時に其の身をぐったりと地に伏せ、起き上がる事はなかった。
其れと同時に、ユピテルの式神の残党は全て消え失せた。

鈴鶴「力を…使い果たしたか―――」

イサナ「ユノの魂がなければ、元は唯の緑色の悪魔―――ということみたいね」

460 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:14:49.525 ID:8C40QCWk0
ヴェスタ「おねえちゃん―――」
ヴェスタは、ふるふると震えながら鈴鶴を見つめている。

鈴鶴「ユノの魂は、わたしの中に在る―――
   すべては……終わった―――」

ヴェスタ「おねえちゃんっ……やった、やったんだね……」
ヴェスタは泣きながら鈴鶴に抱きついた。

ヴェスタ「嬉しさとか、感動とかが、色々と溢れて―――わたし―――」

鈴鶴「待って―――まだ一つ残ってる―――」
ヴェスタが言いきる前に、鈴鶴は向こうを見ながら、言葉を遮った。

461 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:15:15.602 ID:8C40QCWk0
イサナ「【鏡】のことね―――」

ヴェスタ「あっ――――!」
イサナの冷静な言葉に、ヴェスタは涙が止んだ。

鈴鶴「ふむ―――此れが【鏡】か―――」
鈴鶴はユピテルの持っていた【鏡】を拾い上げた。
其れは烏らしき鳥の骨が周りに付いた、よく磨かれた鏡だった。

ヴェスタ「ふぅ―――
     でも、これ、どうするの?」

イサナ「わたしが持っておく―――
    わたしは――――太陽の女神の血も混ざっているから―――

    ヴェスタも混ざっているけれど、濃さなら一応わたしの方が濃いし―――ね」

鈴鶴「―――それが、適任ね」
ヴェスタ「わたしも、賛成―――」

イサナ「ならば―――」
イサナは【鏡】に祈りを捧げた。

【鏡】はまるで在るべきものを見つけたように、すぐにイサナの身体に取り込まれた。

462 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:15:39.889 ID:8C40QCWk0
イサナ「――――!?」
そして―――気が付くと、霊体であったイサナに肉体が出来ていた。
―――ふと、イサナは語り出した。

イサナ「わたしの身体は―――もともと出来損ないの、肉片だった――――
    太陽の女神がよこした肉片―――もう、海の底とヴェスタの中に消えた肉塊―――

    けれど―――今は、完全にわたしとして存在している
    きっと、これは【鏡】の奇跡―――
    わたしは、もう鈴姫の【力】にしがみ付かなくても―――生きていける…」
イサナは、少し残念そうな顔をした。

けれども、鈴鶴はそんなイサナの手をぎゅっと握った。
鈴鶴「ずうっとわたしと一緒にいたひとが、わたしから離れて立っている……
   少し……変な気分だけれど―――
   こうして、肌の温かさが分かるなら――――それも、また」

そして、そう言った。

ヴェスタ「おねえちゃんが、おねえちゃんとしての姿を取り戻した―――
     鈴鶴おねえちゃんのおねえちゃんが蘇った―――
     今から、ユノおねえちゃんを蘇らせることを考えると、
     なんだか…鈴鶴おねえちゃんとわたしはいっしょ……だね」
ヴェスタは、鈴鶴のもう片方の手を握った。

463 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:18:04.096 ID:8C40QCWk0
鈴鶴「……早く、ユノを蘇らせよう
   眠り姫を―――目覚めさせよう―――」

ヴェスタ「おねえちゃん―――ユピテルはどうするの?」

鈴鶴「そうね―――わたしが、止めを刺しましょう―――」

そして―――。
鈴鶴「はぁああ――――――っ!」

鈴鶴は黄泉剣でユピテルを細切れに切り刻み、海の中へ投げ棄てた。
もう、神器を求める愚か者は居ないだろう。

全ての神器は、神の血を引き継ぐ乙女の中にあるのだから―――。


鈴鶴「さ、帰りましょうか――――」

ヴェスタ「うんっ!」

イサナ「え―――」

そして三人は、一枚岩から離れた―――。
此処に、二度と戻ることはない。

元々、此処はユピテルが封じられていた、其れ以上の事はないのだから。

464 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:24:13.595 ID:8C40QCWk0
――――。


鈴鶴の屋敷に鈴鶴達が帰ってきた時、アポロは感涙して鈴鶴達に駆け寄った。

アポロ「おかえりなさいっ!!」
その眼からは大粒の涙が流れていた。

アポロに続いてやって来たディアナとネプトゥーンも、鈴鶴達の様子を見て直ぐに全ては終わったと確信した。

ディアナ「鈴鶴…有難う―――
     奴への決着をつけてくれて」

ネプトゥーン「無事に帰ってきてくれて、よかった……」

鈴鶴「まだ、終わってない―――魂を戻すまでやらないと―――願いは叶っていない」

ディアナ「そうだったな―――」
ディアナ達は、早とちりした事に少し照れの感情を見せていた。

465 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:26:12.699 ID:8C40QCWk0
鈴鶴は、早速眠り姫となったユノの傍らに座った。

アポロ「あぁ―――ようやく―――ずうっと待っていた、此の時が来るんだね……」

鈴鶴「ええ―――
   では、行くわよ」

鈴鶴は再び構えを取り、ユノの中に在るべき魂を入れた。

466 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:29:14.319 ID:8C40QCWk0


――――。

467 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:31:25.955 ID:8C40QCWk0
ユノ「――――」

ユノの、鍵のかかったように閉じられた眼は、開いた―――。
ユノの黒い瞳が、ぼうっと辺りを見ていた。

其の眼を見て、鈴鶴は―――自身が封じられた時の事を思い出した。
自身を封じたあの少女の―――面影があると。

自身を封じたあの少女こそが―――ユノとヴェスタの母親であると、鈴鶴は悟った。
運命の糸は、自身が邪神となった其の時から、結い合わされていたのだと―――鈴鶴は悟った。

ユノ「わたしは―――お家が燃えて、怖い人が迫ってきて―――
   ????」
ユノは、きょろきょろと辺りを見回し、自身の手を見ていた。

ユノ「あれ―――アポロちゃん……?」
そして、アポロの存在に気が付いたようだった。

468 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:40:00.348 ID:8C40QCWk0

アポロ「あ……目覚めた―――目覚めたんだ―――
    ユノちゃんっ!!」
困惑するユノに、アポロは涙を流しながら抱きついた。

ユノ「もうっ、そんなにきつく抱きしめないでっ、痛いよっ」

アポロ「あっ、ごめんねっ…嬉しすぎて、つい…」

ユノ「あはははははっ」

アポロとユノは、少しの間笑い合った。

469 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:42:26.749 ID:8C40QCWk0
ユノ「でも―――此処は、何処?

   それに―――知らない女の人が、ひとり、ふたり―――
   ……ヴェスタ?」
ユノは冷静に周りを見ていると、自身の妹を見つけ、その名を呼んだ。

ヴェスタ「あ―――おねえ、ちゃんっ…」
ヴェスタも、ユノの傍らに近寄った。

ユノ「ヴェスタ……背、伸びた―――?」

ヴェスタ「おねえちゃんと、一緒ぐらいだよ…」

ユノ「んーーっ?でも、変だなぁ…わたしの方がお姉ちゃんだから、
   わたしももっと大きくなってるはずなのに―――」

ヴェスタ「その―――それは―――」
ユノの疑問にどう答えようか、ヴェスタはあたふたしていた。


470 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:42:37.210 ID:8C40QCWk0
鈴鶴「それは、わたしが話そう―――」
けれど、鈴鶴はヴェスタの手を取り、ユノの前に座った。

ユノ「えーと……」

鈴鶴「わたしの名は鈴鶴―――
   ……信じられないかもしれないが、貴女に起こった事を―――今から話そう」

ユノ「わたしに…起こった事?」

そして鈴鶴は語り始めた。

ユピテルという緑色の悪魔がユノ達の家を燃やしたことを。
ユピテルに魂を奪われ、ずうっと眠り続けていたことを。
ヴェスタとの出会い、一時の別れ、そして再会を―――。
ユノを助けるために、幼い身体でずっと眠り続けていたことを。
そして、ユノの魂を今、鈴鶴が居れ、目覚めたことを―――。

471 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:42:49.395 ID:8C40QCWk0
ユノ「――――
   そっか……」
ユノは、信じられないようなその話を、あっさりと受け止めた。


ユノ「お父さんや―――お手伝いさん―――もう、ずっと昔に死んじゃったのか
   でも―――もし、【鏡】のことを話さなければ…こうなってはいなかったのかもしれないな」
ユノは少し後悔した表情で、空を見つめていた。


アポロ「そんなことは、ないよ…
    全ては、悪い奴が居たから―――

    あの時、誰にも聞かれないように、ディアナとネプトゥーンが見てた―――
    でも、その死角で態々聴いていた奴が居た―――
    悪意のある奴が、予めユノちゃんを狙っていたから―――だから―――」


けれども、そんなユノの手を、アポロはぎゅっと握ってあげた。

ユノ「ありがとう、わたしを慰めてくれて……」

472 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:45:33.126 ID:8C40QCWk0
アポロ「ううん……其れに、大人になれなくても、再会できるという約束を果たせた―――」

ユノ「ありがとう、ずっとわたしを―――面倒見てくれて
   それからディアナさん、ネプトゥーンさんも―――わたしを守ってくれてありがとう」

ディアナ「気にすることはない―――」

ネプトゥーン「どういたしましてっ」

ユノ「鈴鶴さん、イサナさん、そしてヴェスタも…わたしの事を助けてくれてありがとう」

それから、しばらくの間、全員で色々な話を語り合った。

世の中の動き――。
ディアナとネプトゥーンの出会い、そしてアポロとの出会い―――。
また、ヴェスタと鈴鶴との出会いについて―――。

473 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:45:43.240 ID:8C40QCWk0
其の中で、ディアナ達は鈴鶴に頼みごとをした。

ネプトゥーン「その―――鈴鶴に、お願いがあるのだけれど」

鈴鶴「なに…かしら?」

ディアナ「鈴鶴―――
     アポロとユノに、あの隠れ家は狭すぎる―――

     かといって、信頼できる奴も見当たらなかったから、ずっとあそこで暮らしていたが―――
     鈴鶴は、信頼できる…
     それに、ユノにとって、ヴェスタも居た方がいいだろう―――
     
     アポロとユノを、此の家で住まわしてくれないか―――?」

アポロ「えっ?」
アポロは困惑していた。

ディアナ「お前たちは、本来は餓鬼だ―――
     身体は育たんから、正確には違うところもあるが…

     あの隠れ家で過ごすのには、似合わん―――そういうことだ」

474 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:46:44.206 ID:8C40QCWk0
鈴鶴「此の家はわたしたちだけでは広すぎるから、構わないけれど……
   ディアナとネプトゥーンは……此処には残るつもりはないの?」

ネプトゥーン「え―――?」

鈴鶴「アポロにとっても―――貴女達の存在は、大切でしょう
   親代わりといっていい存在でしょう―――


   其れに―――此れはわたしの考えだけれど、桜花の様に百年の生きられないならまだしも、
   貴女達は共にザンの血を分けた存在―――其の運命を分け合ったのなら、
   ずっと―――居た方が………幸せかも、しれないから……」

アポロ「その……僕も、その意見と同じこと、思っていたの…
    だから…お願い、ディアナ達も…此処で暮らさない?」

ディアナ「………そうだな
     俺たちも、落ち着いた方がいいかもしれん
     ―――此処に住むことにしよう」

ネプトゥーン「わたしも―――
       同じだよ」

鈴鶴「話は、決まったわね―――」

語らいは続いた――――。

475 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:46:54.152 ID:8C40QCWk0
鈴鶴「さて―――わたしは、もうひとつやらなければならない事があるから、席を外すわね」

鈴鶴とイサナは、皆が語らい合う光景を微笑みながら見其の場を立ち去った。



ヴェスタ「あ、おねえちゃん―――」
ヴェスタが、其の後を追い掛けてやって来た。

鈴鶴「……なに?」

ヴェスタ「わたしも、手伝うよ―――
     おねえちゃんが運命を分け合った、其の人達に触れないと、
     わたし、後悔するかもしれないから―――」

鈴鶴「ありがとう―――」

476 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:53:54.819 ID:8C40QCWk0
――――。

鈴鶴は、再び【ハートスワップ】の構えを取っていた。

同時に、イサナとヴェスタは、ヤミ達の肉体を引っ張り出していた。


鈴鶴は、黄泉剣の中にヤミ達の肉体があると考えた。
彼女たちが最後に触れたものが其れだから―――。

けれども、其の肉体は黄泉剣ではなく、【勾玉】の中に―――。
黄泉剣は確かに、神をひとり殺せるほどには力の強い神剣だ。

しかし―――真の強さは、其の漆黒の斬撃といった数々の奇跡は、勾玉によって支えられている。
【勾玉】は力の塊―――其れは【創世書】を創るにも十分なほどに在る。

477 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:55:01.136 ID:8C40QCWk0
【勾玉】の中にある魔力の海を、イサナがドロドロ化の能力でかき分けながら其の肉体を掴んでいった。

ヴェスタは、取り出された肉体を――ユノのように眠っている其の身体を、丁寧な姿勢に直していた。

鈴鶴「はっ―――!」


そして、鈴鶴は、彼女たちの魂を其の肉体に移した。

暫くの時間が経った。
鈴鶴もイサナもヴェスタも、不安な様子で眠っているヤミ達を見ていた。

478 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:55:13.539 ID:8C40QCWk0
ヤミ「鈴鶴さま―――」
シズ「―――」
フチ「あ―――」

そして―――彼女たちは目覚めた。


鈴鶴「あ――――」
ヴェスタ「やった…やったね、おねえちゃん―――」
鈴鶴とヴェスタは、感極まって、大粒の涙を流していた。

イサナ「鈴姫―――
    やっと―――取り戻すことができた―――」
イサナも、その眼に涙を浮かべていた。


479 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:57:38.530 ID:8C40QCWk0
ヤミ「あの時、斬られてから―――わたくしたちは、ずうっと―――鈴鶴さまを見ていました
   すでに死んだようなものだから、鈴鶴さまを見守るだけでも良かったけれど

   こうして、また鈴鶴さまと触れ合える日が来るなんて―――」

シズ「鈴鶴―――わたし達を蘇らせてくれて―――有難う
   イサナ―――わたし達は知らなかったが、ずっと鈴鶴を守ってくれて有難う

   それから、ヴェスタ―――色々な事を全て見たが、其れでも―――
   鈴鶴に楽しい日々を与えてくれて、有難う」

フチ「その……蘇らせてくれてありがとうっ
   それから――――ヴェスタ!
   あなたは、鈴鶴と出会ってまだ数年ちょっとでしょう?
   鈴鶴の事、まだまだ知らないでしょうから―――いっぱい教えてあげるねっ」

彼女たちらしい感謝の言葉が、鈴鶴達に伝わった。

鈴鶴は、此の時一つの事を思った―――。

あの時、ヴェスタの母親であろう、あの人に、あの言葉を言われて―――。

その通り、百合神として生き―――。
自分にとって、陽たる流れになるように、百合神として務めた。

480 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:57:51.991 ID:8C40QCWk0
其れは、取り戻したかったあの日常を取り戻すことに繋がった。

あの時、戦闘術【魂】を学ぶ時の言葉―――すべて陰陽のもの―――。

既に理解していた其の言葉を、改めて実感した―――。


鈴鶴「さ、みんなのところに戻りましょう、そして―――紹介しなきゃ、ねっ」

鈴鶴は涙を拭い、ユノ達の居る場所へと歩き出した―――。

庭の百合の花が、その様子を祝福しているように――風に吹かれて揺れた。

――――。

―――。

――。

―。


481 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/22 00:58:20.169 ID:8C40QCWk0

            すべて陰陽のもの ルートB完

482 名前:社長:2017/05/22 00:58:38.826 ID:8C40QCWk0
タイトル回収

483 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:35:48.113 ID:eQfN5MIo0
わたしは、わたしのおねえちゃんを助けることが、できた―――。

実姉である、ユノおねえちゃんを。

484 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:36:00.339 ID:eQfN5MIo0
ユノおねえちゃんは、血を分けた姉妹だけれども、目の色も髪の色も、わたしとは違う。
彼の人は、5年ほど―――物心ついた時からすれば、僅かな時間だけ―――わたしの事を気にかけてくれた。

―――わたしが5歳のとき、ユノおねえちゃんは、ユピテルという緑色の悪魔によって魂が奪われていた。
其れから、気の遠くなるぐらい長い刻、ずうっと―――眠り姫として、ディアナ達に保護されていた。

485 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:36:59.096 ID:eQfN5MIo0
……けれども、其のような悲劇はもうない。
わたしは―――たいせつな、だいすきな、鈴鶴おねえちゃんと共に―――ユノおねえちゃんを助けだせた。


そして―――、ユノおねえちゃんが蘇ってから……わたしたちは、幸せな日々を送っている。

486 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:37:15.011 ID:eQfN5MIo0
―――ユノ、おねえちゃん。
わたしのほんとうのおねえちゃんは―――昔、わたしたちが暮らしていたように―――日々を楽しく生きている。
とうに育つことのない、幼い身体だから、外の世界でずっと生きることはできないけれど――。
ときどき、遊びに出て――色々な事を学んで――世界を見て―――そうやって、生きている。

487 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:37:42.130 ID:eQfN5MIo0
―――ディアナ。
彼女は、あれからもずっと…マタギとして生きている。

一匹狼のマタギとして―――時折、仕事をやっている。
けれど、ユノおねえちゃんを助ける以前に比べれば、その量はずいぶんと少ない。

その理由は―――ネプトゥーンと長い時間居るためだ。
ディアナは、ユノおねえちゃんを、アポロを、ネプトゥーンを守る為、マタギとしての仕事を数多くこなし、路銀を稼いでいた。
今や、ユノおねえちゃんとアポロの事は、ディアナ達だけではなく、鈴鶴おねえちゃん達も護る事が出来る。
だから、節操なくマタギの仕事を引き受ける必要はなくなったのだ。

勿論、家族が多いから、その分金はかかるけれど―――ディアナだけが、稼ぎ頭というわけではないから―――。

488 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:43:45.118 ID:eQfN5MIo0
―――ネプトゥーン。
彼女は、ディアナと同じマタギとなった。
最も、彼女はザンであるから、そう容易く仕事は出来ない。

けれども、ディアナ一人では難しい依頼に対して、ディアナと協力して仕事をしている―――。
其の【力】を最大限利用し、見えない敵にも迫る彼女は、ディアナとは違う方向性で強い。

好きな人と力を分け合って先に進む関係が―――わたしは、素敵だと思っている。

489 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:44:13.296 ID:eQfN5MIo0
―――アポロ。
ユノおねえちゃんを好いている彼女は、ユノおねえちゃんの恋人となった。
飛べない天狗であろうとも、同じ性であろうとも―――彼女は其れを気にしない。

わたしが鈴鶴おねえちゃんと和解したその日、アポロからユノおねえちゃんとのなれ初めを聞いた。
その短い想い出を、ずっと忘れないで、ずっとユノおねえちゃんを見守ってくれたアポロ。

そんな人と一緒になれて、ユノおねえちゃんは―――わたしと同じように、素敵な人と結ばれたのだと感じた。

490 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:44:28.657 ID:eQfN5MIo0
―――ヤミ。
幼い鈴鶴おねえちゃんを育てた、義理の姉のような存在―――
わたしにとっての、鈴鶴おねえちゃんのような存在―――。

そんな彼女は、屋敷でみんなの面倒を見ている。
時々、鈴鶴おねえちゃんと一緒にデートしたり、同胞たるアポロに天狗について教えたり―――。

わたしも、鈴鶴おねえちゃんが【仕事】のときは、ヤミと遊んでもらってしている。

491 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:44:44.827 ID:eQfN5MIo0
―――シズ。
鍛冶屋の彼女は――其の腕を大いに振るっている。
武器は勿論、金属加工品に関して、様々な場所に売っている。

其の技術は、世界の中枢たるきのたけ会議所にも十分認められ、きのたけ会議所は上客となっている。
最も、此の屋敷でそれらを売っているのではなく、鈴鶴おねえちゃんの知り合いの鍛冶屋でだけれど。


492 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:44:56.111 ID:eQfN5MIo0
―――フチ。
月の御姫様の御付をしていたという彼女――わたしたちぐらいの身体でも、しっかりとしている。
ヤミと同じく、みんなの面倒を見て――時には、わたしたちに色々なことを教えてくれる。

時には、恋の事も教えて貰う事もあって―――わたしは、その度に鈴鶴おねえちゃんと実践したくなって。

また、フチが復活した影響で、式神を召喚できる術を失って鈴鶴おねえちゃんの為に、
百合神への依頼がある時に、フチが協力している―――。

493 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:45:07.972 ID:eQfN5MIo0
―――イサナ。
【鏡】の力で身体を得た、鈴鶴おねえちゃんのおねえちゃん。

【鏡】の力で、わたしたちの住まう屋敷に結界を張り、維持している。
決して誰も入れず、誰にも認識できず、誰にも攻撃できない守りを固めている―――。

其処が永久の楽園であるために―――楽園の守り人として、ずっと過ごしている。
だから外には出られないけれど――でも、彼女は其れでもいいと言っている。


494 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:45:20.180 ID:eQfN5MIo0
―――鈴鶴おねえちゃん。
わたしのだいすきな、鈴鶴おねえちゃんは、変わらず――百合神として生きている。
たいせつなひとが復活したから、風の術と、鍛冶する力と、式神を生み出す術はないけれど――ー
イサナおねえちゃんが身体を得たから、ドロドロに溶ける術はないけれど―――

つらいことを乗り越えて、幸せになったおねえちゃんには、もう向かうところ敵はない。
心を削りとるような日々がなくなったおねえちゃんは、明るい笑顔を見せるようになった。

そして、わたしたちともしあわせに―――。

495 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:45:30.951 ID:eQfN5MIo0
―――もう、何があろうとも…
わたしたちは、絆の糸が切れることはない。

もう、わたしたちには―――不幸という、陰たるものは襲い掛からない。

わたしは、輝く、雲一つない青空を見つめていた。
其の太陽は、わたしたちを祝福するかのように、さんさんと輝いていた。

496 名前:エピローグ:百合咲き誇る楽園で:2017/05/28 17:45:42.694 ID:eQfN5MIo0


          ――完――

497 名前:社長:2017/05/28 17:46:23.674 ID:eQfN5MIo0
ここまでかかるとは思わなかったユリガミSS完。
キャラを借りいろんな設定を盛りました。元となった設定などを作ったれいかちゃんと滝さんに感謝。

498 名前:社長:2017/05/28 17:49:33.002 ID:eQfN5MIo0
ユノ
http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/939/juno.jpg

ミネルヴァ
http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/940/minerva.jpg

499 名前:きのこ軍:2017/05/28 21:15:32.001 ID:SxmJTPO.0
大団円やったぜ。長いこと本当におつかれさまでした。

500 名前:設定:2017/06/25 00:39:43.042 ID:zs9yol3k0
・鈴鶴

この物語の主人公。
讃岐造と月の王族の姫カグヤの娘。
父親から引き継いだものとしては、剣術と髪・目の色―――。
母親から引き継いだものとしては、その綺麗な髪質や女性的な身体、そして美しいその顔―――。

身長は165cm、体重は45kg。スリーサイズは89-61-85。
彼女は長い髪を持つ。その長さは、165cmほどあることは言うまでもない。
利き手は両方、和風っぽい趣味を好むけれど、しかし別の文化を好まぬということはない。

彼女は剣術に秀でているが、其れ以外の武術に関してもかなり強い。
其の腕前は、長年大戦で腕を鳴らした兵士を上回るほどに。
また、武術だけではなく、料理やら裁縫といった家庭的なものから、鍛冶などの技術にも優れる。
たった一つの苦手な事は、泳ぐ事のみ―――。

何故彼女はここまで完璧に近いのか。それぱ、彼女の心持にある―――
ひとつは、ヤミたちに其れを褒められたいから。
もうひとつは、身一人でなんでもできるようにしたいから―――。
男に頼らずとも生きることができる、彼女の心持がよく表れている。

彼女は、男が嫌いだ。
しかし、男と云う存在が嫌いなのであり、彼らが持つ技術などを否定はしない。
だから、積極的に男を滅ぼそうということはしない。
触れられること、自身の中に在る基準を超えて近寄ろうとすることが無い限りは。
最も、彼女が激しく絶望して男を滅ぼしにかかろうとしたことがあるが……。

また、彼女には最強の【力】がある。
其の【力】は、自身の操を汚そうとする男を吹き飛ばす力。そしてそれは、血液を介して伝染する(感染した能力がさらに別の人物に感染することはない)。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)


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