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ユリガミノカナタニ2

1 名前:社長:2016/09/04 00:44:24.091 ID:PNG5mMkE0
邪神スピリットJ あらすじ

鬼のマタギ、ディアナは人魚を狩る狩人を殺すとともに、襲われかけていた幼い人魚ネプトゥーンを助けた。
そして数十年後―――再び狩人を殺したディアナだが、最後の一人の自爆で大怪我を負って海の底に沈んでしまった。

そこには、ネプトゥーンの親が治める竜宮があり、ディアナも人魚の肉を狙った存在と勘違いされた。
それをネプトゥーンは訂正しようとしたが聞き入れられず、ディアナを助けて駆け落ちしようとした。

ディアナに人魚の血を飲ませ、傷を癒したネプトゥーン。
ネプトゥーンは助けられた時から好きになったとディアナに告白し、二人は逃げることにした。

そして―――無事に逃げ、海岸まで上がることができた。

359 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:19:25.260 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ハハハハハハハ―――数を使えばいいんだよォ―――数でテメェを押し潰せば―――なァ」

そしてユピテルの雷が鈴鶴とヴェスタの心臓目がけて飛んできた――――。

鈴鶴は其れをさらりとかわしたが、ヴェスタはそれをかわし切れず―――。
―――咄嗟に、鈴鶴はヴェスタのもとへ飛びかかった。

360 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:19:43.968 ID:rbawSLrA0
鈴鶴「あ―――」

けれども、【一手】――ほんの数秒の差で、其れは間に合わなかった。

ヴェスタの胸を、雷が貫いていた。

鈴鶴の脳裏には、かつてヤミ達が消えたあの日の事が鮮明に蘇った。

361 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:20:00.393 ID:rbawSLrA0
――――。

362 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:20:59.177 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ククク―――ハハハ―――【剣】持ちはもう終いだな―――
     そして【勾玉】の方も―――」

イサナ「鈴姫っ!」
イサナが声を掛けても、鈴鶴は呆然としたままで―――。


鈴鶴「嘘―――嫌―――たいせつなひとを――――わたしは―――」
鈴鶴は、よろよろとヴェスタの袂に歩み寄って行った。


ユピテル「神器を持っていながら、そんな甘かったとは―――
     こんな面白いものを見ずに、さっさと止めを刺したら勿体ない―――

     心の底から笑い切るまで眺めてやろう、クククク―――
     封印された時間に合うだけの、面白いもんだからなァ」
ユピテルの嘲笑すらも、もはや鈴鶴には聞こえなかった。


363 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:21:22.228 ID:rbawSLrA0
ヴェスタ「かは―――おねぇ―――ちゃん―――」
ヴェスタは、声にならないか細い声で、鈴鶴を見つめて泣いていた。

鈴鶴「死んじゃいや―――わたしはもう―――たいせつなひとが消えるのは―――」
鈴鶴も涙を流し、ヴェスタの身体を抱きしめた。

イサナ「鈴姫―――ヴェスタの事はわたしが、如何にか血を捧げるから―――
    頼むから、正気に―――」

鈴鶴「血―――そうだ、わたしの血を―――生命(いのち)を―――あげなければ―――」
イサナの言葉ももはや届かず。
躊躇なく、鈴鶴は己の手を斬り、溢れ出る血をヴェスタに捧げた。

364 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:22:19.781 ID:rbawSLrA0
ユピテル「ハハハハハハハハ―――最後は自滅か
     やはり、愛とやらを利用するのは面白いなァ」


鈴鶴は血を捧げた。
それでも、ヴェスタの傷は未だふさがらない。

其れは【鏡】の―――神に等しい力のものだから。
鈴鶴の女神の血ですらもなお、ふさぐことできず―――。

だから己の血だけではなく、己の力も、心も、そして【黄泉剣】さえも。
何もかも、ヴェスタに飲ませた。

そして、決して消える事のない男を吹き飛ばす力以外の、全ての力を捧げた鈴鶴は、その場に倒れ伏した。


365 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:22:32.520 ID:rbawSLrA0
――――。


イサナも、もはや戦意を失った。
いや、失うしかなかった。

彼女は鈴鶴に憑りつく存在。大本は男を吹き飛ばす其の力に依ってはいるが、其れに加え様々な力で彼女はユピテルに対抗できていた。
けれども其れはすべて消え去り―――男を吹き飛ばす其の力しか残っていない状態は、彼女の力を削ぐのにも十分だった。


ユピテル「さて―――そろそろ止めと行こうか
     哀れなガキどもよ―――俺が其の神器を最大限使ってやらァ」

ユピテルは戦いが終わったと認識し、式神を全て決して鈴鶴達へ歩み寄った。

そして雷が鈴鶴を、ヴェスタを、イサナに向かって放たれた。

366 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:22:50.465 ID:rbawSLrA0
――――。


わたしはだれ?

ここは、どこ?

まっくらやみのなか?

わたしは―――そうだ、ユノおねえちゃんをたすけるために―――。
でも、此処は、一体―――。


367 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:23:04.479 ID:rbawSLrA0
わたしの中に何かが流れ込んでくる。
―――記憶だ。

わたしの知らない記憶が。
ヤミや、シズや、フチ―――おねえちゃんのたいせつなひとの記憶?


これは、鈴鶴おねえちゃんの記憶?

何も見えない。

暗闇の中、ただ思い出と、流れる言葉だけがわたしに響く。

368 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:23:38.778 ID:rbawSLrA0
―――「目覚めろ」


誰かの声が聞こえた。
知らない誰かの声。


―――「我を顕現させよ」


その声の主は、わたしの後ろに近づいた。


―――「さもなければ、おまえの姉は救えんぞ」

其の声ではっと我に返った。
わたしは、ユピテルの雷に打たれたのだ。
如何して奴と戦っていたのか。其の理由もはっきりとある。

369 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:26:30.350 ID:rbawSLrA0
わたし「でも―――わたしには【力】が―――」


―――「【力】は或る
    月の女神の力が―――記憶も、技術も、そして【勾玉】も―――おまえの中に或る
    おまえの傷は塞がっている―――

    それどころか―――二柱の神の【力】が、おまえに或る―――」


わたし「え―――?」


―――「鈴鶴だったか―――彼女がおまえにすべて捧げたようだ
    理解したなら、早く―――左手に【力】を込めろ」


370 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:27:55.581 ID:rbawSLrA0
言われた通り、わたしは左手に【力】を―――そして、其れと同時に其の行為が何を意味するのかも思い出した。
わたしの記憶が呼び覚まされた。

791「よし―――此れなら、もう十分だ!飲み込みが早いね、やるねっ!」

わたし「ありがとうございます、791さん」

791「でも…貴女は、隠し玉がある…よね?」

わたし「えっ―――?」

371 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:28:28.102 ID:rbawSLrA0
791「とぼけてもダメ
   ものすごい式神を召喚できる【力】がある」

わたし「でも―――この式神は、鈴鶴おねえちゃんに打ち勝つ為に練り上げたから
    だから……おねえちゃんに、見せるのは……」

791「万が一、どうしようもない状態の時の保険…これならどう?
   何をしてでも―――貴女の姉、ユノちゃんを救いたいと思うのなら、石橋を叩いて渡っても問題ないと思うな
   そして使わずに済むのなら、其れでいいわけだから…」

わたし「――――――
    それなら…やってみます」

791「よし、決まったね!私がビシバシ鍛えてあげよう」

372 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:28:52.387 ID:rbawSLrA0
其れは【力】の扱い方を教えて貰った其の時の記憶だった。

嗚呼、今は、どうしようもならない時なのだ―――。
【力】を使わなければ―――!

わたしは、其れと同時に暗闇の中に差し込んだ光の中へと進んでいった。

373 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/07 23:34:12.106 ID:rbawSLrA0
ユピテル「なにッ―――!?」

其処には、鈴鶴おねえちゃんが倒れ、イサナおねえちゃんも膝を付いていた。
ユピテルは驚愕した表情で此方を見つめている。

わたしの後ろには―――
式神―――ミネルヴァが立っていた。

其の存在感は、其処に或るユピテルの式神すべてを呑込むがごとく大きかった。


そしてわたしは、ミネルヴァを構成する【力】の源たる【剣】を左手に、
【勾玉】の力の根源たる、おねえちゃんの剣を右手に構えて―――、

ヴェスタ「覚悟しろっ、ユピテルゥーーーっ!!」

戦いの最中にあった不安を全てかき消すように、そう奴に言い放った。


374 名前:社長:2017/05/07 23:34:57.866 ID:rbawSLrA0
最強の式神ミネルヴァ登場。

375 名前:きのこ軍:2017/05/07 23:41:35.411 ID:90JAJ7Q6o
お姉ちゃんの思いを組んでヴェスタちゃんが立ち向かうとか熱いし泣けるわ。

376 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:41:47.099 ID:yDmhOjew0
ユピテル「ちィ――貴様ァ、俺のように式神も呼べたのかい」
ユピテルは其れでもなお、余裕を見せた表情でじっとヴェスタとミネルヴァを眺めていた。

ヴェスタ「曲りなりにも、此れはお姉ちゃんを叩き潰す為に私の中り上げた式神
     ――――お姉ちゃんには、見せたくなかった―――

     精神的にも、肉体的にも――出来る事なら使いたくはなかったけれど―――
     不思議と―――此れを出しているのに、身体が軽い―――」

式神を使役するのには【力】を使用する。
発揮する力が強いほど、より多く。

ミネルヴァのようなものは、体力の消耗が激しい。
791と修行をした時、ヴェスタは非常に疲労したことを覚えていた。
立つことが限界なほどだった。

けれども―――今、そのような事は全く感じられなかった。
何事もないように―――軽やかに、其処に立つことが――【剣】と黄泉剣を構えることが出来た。


377 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:42:56.529 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「行くよ―――ミネルヴァ!」

ミネルヴァ「――――――!」

ミネルヴァは其の指示と共に、咆哮をあげた。
其の咆哮は、乙女の様に美しく――けれども、辺りを震わせるには十分なものだった。

いいや、そんな生半ではものではなかった。
辺りに居た式神が、其の咆哮と共に全て吹き飛んだ。

378 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:49:08.612 ID:yDmhOjew0
ユピテル「何ッ!?」

ミネルヴァ「―――――!」
そして―――ユピテルが一瞬驚愕した、其の間に――――。
ミネルヴァは圧倒的な速度でユピテルに詰め寄って―――。


ユピテルの腕は、片方吹っ飛んでいた。
其の腕は―――ミネルヴァの拳の下に―――大きくへこんだ一枚岩の中に、もはや原型を留めぬほどに潰れていた。


ユピテル「ぐぅぅぅぅぅ――――ッ!」
ユピテルは、なくなった腕を抑えながら、苦痛の声をあげていた。

379 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:50:00.305 ID:yDmhOjew0
ミネルヴァ―――それはヴェスタの生み出した式神―――。

式神は、何か憑代となるものがなければ作れない。

鈴鶴の式神が、鈴鶴の血や髪などから作られるように―――
ユピテルの式神が、海水と【鏡】の力から作られるように―――
ミネルヴァにも、憑代となるものがある。

それは―――【剣】から漏れ出る瘴気とヴェスタの血―――。

神具と神の血を混ぜ合わせた其れは、とても相性のよい存在だ。
だから、其れを混ぜ合わせて作った式神は、恐ろしく強くなる。

かつて出現したオモラシスは、神の力で創られた【創世書】と、神の血で依り合わされた。
だから、其れも恐ろしく強かったのだ。

380 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:52:46.251 ID:yDmhOjew0
ミネルヴァは唯大振りに敵を殴り蹴る――小細工も何もない戦法しかとらない。
しかし其れだけで充分―――。

目に留まらぬ速さで地を海を空を駆ける神速の機動力―――。
あらゆる環境で生存する強靭無比の生命力―――。
軍神の一撃をも退け火風水のいずれにも傷つかぬ鉄壁の防御力―――。
そして古き世界の民草を押し流し滅ぼす無敵の攻撃力―――。

其の機動力は戦闘機よりも速く動く程に―――。
其の生命力はあるゆる生命が滅びる環境だろうとも平然と動くほどに―――。
其の防御力は科学や魔法に拠る力が束になってかかってもも跳ね返す程に―――。
其の攻撃力は頑強なる鋼の塊をその拳一振りで粉々に崩す程に―――。


其れほどまでに、恐ろしい存在だった。

また、同時にヴェスタは軽やかに飛び上がり、ユピテルの身体を斬った。
自身の中に在る技術と【剣】の【力】が生み出す其れは、ミネルヴァとは対照的に人智の最終点といえるほどに完成された技術だった。

381 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:58:39.186 ID:yDmhOjew0

【剣】の力と、ミネルヴァの瘴気は、式神に宿るユピテルの力をも喰らった。
徐々に―――徐々に―――ユピテルの力が削れていった。

ユピテルはなおも雷を撃ち出して抵抗するも、ミネルヴァの恐るべき生命力は束となった雷を食らっても平然とするほどであり―――。
そしてヴェスタにも、同じほどの生命力が備わっており―――もはや其れは戦いにならない程になっていた。

そしてヴェスタは、自身の中に在った【ハートスワップ】たる技術の構えを取った。
ミネルヴァに思いきり蹴られ、仰け反ったユピテルに向かい、ヴェスタは―――、


ヴェスタ「【ハートスワップ】―――」

ヴェスタは戦闘術【魂】の技を使って、ユノの魂を其の身に入れた。


其れと同時に、ミネルヴァはユピテルを原型が留めぬほどに殴打し、
肉塊となった其れらを海の向こうへ投げ飛ばした。

其れと同時に、ミネルヴァの咆哮に耐えたわずかな式神の残党も、消え失せた。

ヴェスタは、此の時―――
自身が恐ろしいほど大きな【力】を身に着けたと、実感していた。

382 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:59:17.958 ID:yDmhOjew0
世界を獲ろうとし―――其の過程で、一つの街を、多数の民を殺戮した緑色の悪魔は、消滅した。

383 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 22:59:37.868 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「おねえちゃん―――!」

けれども――其処には大きな犠牲があった。

イサナ「―――息はある
    脈もあれば、体温も―――

    だが、如何して目覚めないの……」

鈴鶴は―――目覚めなかった。
其の黒いまなざしは見えることなく。

まるで、ユノのように眠っていた―――。

384 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 23:03:54.380 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「魂は―――ユノおねえちゃんのように、消えていない…
     確かに、鈴鶴おねえちゃんは居る筈なのに」

イサナ「【魂】は、確かにあるのね」

ヴェスタ「うん―――」
ヴェスタは、不安げな表情で眠る鈴鶴を見つめていた。

ヴェスタ「………取り敢えず、屋敷に戻って――考えたい
     だから、こんな場所から―――早く帰りたいけれど、いい?」
其の場に流れた不穏な空気が嫌になったヴェスタは、そうイサナに告げた。

385 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 23:08:30.007 ID:yDmhOjew0
イサナ「そうね―――其れから、【鏡】も持って帰りましょう」

イサナは、ユピテルの持っていたらしい―――そこに落ちていた【鏡】を拾い上げた。

イサナ「わたしは鈴姫とは姉妹だけれど、其の血の元となる神が違う
    鈴姫は月――わたしは太陽の女神の血を引いている

    此の【鏡】は、太陽の女神のもの―――わたしが持つのが最善でしょう」

ヴェスタ「わたしは分からないから、イサナおねえちゃんに任せるよ――」

イサナは、じろじろと【鏡】を眺めていた。
その途端、【鏡】はまるで在るべきものを見つけたように、すぐにイサナの身体に取り込まれた。

386 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/10 23:24:41.977 ID:yDmhOjew0
ヴェスタ「身体が―――!?」

ヴェスタとイサナは、共に呆然としていた。
―――ふと、イサナは語り出した。

イサナ「わたしの身体は―――もともと出来損ないの、肉片だった――――
    太陽の女神がよこした肉片―――もう、海の底とヴェスタの中に消えた肉塊―――

    けれど―――今は、完全にわたしとして存在している
    きっと、これは【鏡】の力だろう―――
    わたしは、もう鈴姫の【力】にしがみ付かなくても―――在れる、という訳なのね…」

ヴェスタ「………けれど、鈴鶴おねえちゃんに見せたかったな
     如何して、目覚めないのかな……」

イサナ「分からない―――
    取り敢えず、屋敷に帰って考えるしかないだろう」

ヴェスタ「うん……」

イサナは鈴鶴の身体を抱き上げ、ヴェスタと共に屋敷へと戻って行った。


387 名前:社長:2017/05/10 23:24:56.802 ID:yDmhOjew0
次回最終回予定。

388 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:14:24.111 ID:wsQTm1ZE0
―――。

屋敷に帰ってきてから、ヴェスタは事の顛末を語った。

鈴鶴が未だ目覚めない事。
けれども、ヴェスタが当初の目的たる、ユノの魂を戻すことは可能だということ。

アポロは、其の知らせに、複雑な感情を抱いていた。
自身の願いが果たされるけれど、其れによってまた別の悲しみが生まれた事に対し。

ディアナやネプトゥーンも、同じ想いを抱いていた。

鈴鶴に依頼をした三人は、ヴェスタに懺悔した。
けれども、ヴェスタは、其れに対し、気にしないでと――気丈にそう告げ、ユノの魂を身体に戻した。

389 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:17:53.974 ID:wsQTm1ZE0
ユノは、無事に目覚めた。
ディアナ達の意向で、ユノには鈴鶴まわりの事情は告げず、
ただ、長い間眠り続けていた事、父親たちは死んだ事、ヴェスタが其れを救った事、ザンの血を得た事等を教えた。

ユノは初めは呆然としていたものの、直ぐに立ち直った。
アポロが自身の眠り続けていた長い間、諦めずに傍に居てくれた事が分かったからだ。
そして、事実を受け入れ、此の屋敷でアポロとずっと暮らす事になった。

ディアナ達も、此の屋敷を守る為、隠れ家から此処で過ごすこととなった。

390 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:18:09.736 ID:wsQTm1ZE0
ヤミ達は―――眠り続ける鈴鶴を、ずっと看ていた。
事の顛末を知り、ヤミは泣きじゃくり、シズは表情を暗く落とし、フチは悲しげに鈴鶴を見つめていた。


どれ程時が経っただろう。
絶対的な時間からすれば短くとも、彼女たちにとっては遥かに長い時間―――。


391 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:29:16.253 ID:wsQTm1ZE0
鈴鶴「あ―――」

ヤミ「鈴鶴さまっ!」
ヤミは直ぐに鈴鶴の袂に駆け寄った。

鈴鶴は、きょろきょろと其の様子を見ていた。

シズ「大丈夫、かな―――鈴鶴」
続いて、シズが口を開いた。
フチ、イサナ、ヴェスタも言葉を続けようとした―――。

392 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:29:32.448 ID:wsQTm1ZE0
けれども―――。

鈴鶴「ヤミ―――
   この人たち、だれ?」
続いた鈴鶴の言葉は―――。

鈴鶴「あれ―――此処は、どこ?
   こんなに、棲家は立派な処だったっけ………?」

其の言葉が意味する事――――。

鈴鶴「………父上は、何処に?」

鈴鶴の心は、子供の様になっていった―――。
ヴェスタを除いた、全員は、幼いころから鈴鶴を知っているから―――即座に、其れを理解した。

393 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:30:16.983 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタは、ただ茫然と―――自身の知らぬ、其の人を見つめていた。

ヤミ「鈴鶴さま―――其の事は、明日の朝話します―――
   今の鈴鶴さまは、お疲れでしょうから、ゆっくりと休んでください」

ヤミは、取り敢えずの処置として、鈴鶴を再び床に就かせた。
其れは咄嗟の判断だったけど、幼い鈴鶴の知るただ一人の存在は彼女だけだったから、其の点では丁度良かったのだ。

394 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:44:45.588 ID:wsQTm1ZE0
――――。

ヴェスタは、未だ呆然とした表情で、部屋に座り込んでいた。


ヴェスタ「おねえちゃん―――おねえちゃんが―――居なく―――なって―――」
ヴェスタの心は締め付けられるように苦しく―――そして、目からは大量の涙が――――。

其れは、たいせつなひとがいなくなってしまった悲しみと―――、
幼い鈴鶴を、自身だけが知らない其の疎外感で、心が張り裂けそうになっていた。

395 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:46:47.487 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタ「あは、あはははははははは―――」
気が付くと、ヴェスタは、乾いた笑い声を出していた―――。


ヤミ「ヴェスタさま―――」
そんなヴェスタの身体を、ヤミが抱きしめた。

ヤミ「ヴェスタさま―――鈴鶴さまは、心が七つになってしまったけれど
   それでも、其れでも―――五体は満足に――」
ヤミも泣きながら、其れでもヴェスタの頭を撫でた。

ヴェスタ「でも―――わたしの好きな、鈴鶴おねえちゃんは、もう―――」

396 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:48:29.949 ID:wsQTm1ZE0
フチ「ヴェスタっ!」
譫言を呟くヴェスタに、フチは強い口調で話しかけた。

フチ「貴女にとって―――鈴鶴は、姉でなければ好きではないの?
   そりゃあ、幼い鈴鶴を知る知らないはあるでしょう
   だから、鈴鶴が居なくなって辛いでしょう

   あたし達だって―――ヤミ以外は、みんな忘れてしまっているわ
   ヤミだって―――育った鈴鶴の事もよく知っているけれど、其の思い出は全て忘れてしまっている
   あたし達にとっても………好きだった其の人は―――」
其処で、フチも涙を流した。

シズ「ヴェスタ―――鈴鶴の事が、すべてを忘れてしまって―――嫌いだと
   そう言える人じゃない……
   ヴェスタ―――鈴鶴の事が本当に好き、そうだから―――其処まで悲しんでくれている」
シズは、涙は見せなかった。
けれども―――其の様子は、涙を堪えていた。

397 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:50:35.174 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタ「……そう
     わたしも、分かっている

     おねえちゃんが変わってしまっても―――わたしの中に在る感情は変わらないことぐらい
     
     でも―――わたしは―――わたしを棄てなければいけないの――――――」

そう呟くと、ヴェスタは自身の中にある剣を――黄泉剣を顕現させた。

イサナ「―――!
    まさか―――鈴鶴は―――あの時―――」

ヴェスタ「全てをわたしに捧げてくれた
     血も、技術も、経験も、【勾玉】すらも―――

     わたしは―――おねえちゃんとなってしまった―――」

ヴェスタは、黄泉剣を顕現させる内に、流す涙を止めた。

398 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:54:13.407 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタ「だから―――わたしは、鈴鶴の姉となり―――」

其の瞳は―――右目を漆黒の眼と青白い瞳に変えて―――。
十の年齢に相当する――その表情は―――。
少女らしい、無垢な表情は消え去って―――。


ヴェスタ「わたしは―――百合神を引き継ぐ」
嘗ての鈴鶴の様に、凛とした目で、そう言い放った。
其の表情は、自身の母の様に――神職に努める少女の様な表情だった。

ヴェスタは、鈴鶴のすべてが身体に入った時に、鈴鶴が百合神である事も知った。
そして―――鈴鶴が居ない今、其れは消え去ってしまう事も―――。

鈴鶴は、嘗て邪神となった償いとして百合神として生きていた。

ヴェスタも、同じような存在だから―――。
鈴鶴は、ユピテルを倒す事が償いとして言ってくれたけれども―――。
たいせつなひとを失った要因は、自分自身にあるから、其の償いの為に、百合神として生きる道を選んだのだ。

399 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:54:31.487 ID:wsQTm1ZE0
其の後―――。

鈴鶴には、自身の里が、悪者によって焼打ちにあった事。

父親は自身を助ける為、犠牲となり死んでしまった事。

追い詰められた鈴鶴とヤミを助けたのは、シズ、フチ―――そしてイサナとヴェスタである事。

今居る此の場所は、ヴェスタの世話になっている人物――ディアナの屋敷だという事を伝えた。

七つの頃の、心となった鈴鶴―――彼女が知る存在は、ヤミしかいないから、ヤミの口から―――。

鈴鶴は、父親が亡くなった事に少し悲しそうな表情を見せたけれど、其の事実を受け容れた。
嘗て彼女が体験した事実と、虚構が混ざった事実を。

400 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:56:31.284 ID:wsQTm1ZE0
ヴェスタは、屋敷の縁側に座り、ぼうっと夜空に浮かぶまるい月を眺めていた。


イサナ「ヴェスタ―――」
イサナは、其の横に座った。

イサナ「わたしは―――【鏡】の力で、此の屋敷を守る事にした」

ヴェスタ「うん―――其れは宜しくお願いするね、イサナおねえちゃん」

イサナ「ヴェスタ―――後悔はしていないか?」

ヴェスタ「―――大丈夫
     わたしは、新たなる女神として、生きるから」

401 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:57:35.919 ID:wsQTm1ZE0
イサナ「そう―――」

ヴェスタ「在りたいわたしを棄てるのは、残酷かもしれないけれども
     でも、其れで鈴鶴を守れるのなら―――」

イサナ「決意が固いなら、わたしも、もう――何も言わない
    わたしは、ただ―――此れからの永久を守ることに務めるだけ」

ふと、ヴェスタが何かを察知した。

ヴェスタ「―――どうやら、依頼が来たようだから、わたしはもう行くね」

イサナ「―――気を付けて」

ヴェスタは、暗黒の中に浮かぶ神の社へ、其の歩を進めて行った。

402 名前:すべて陰陽のもの:2017/05/13 02:58:18.156 ID:wsQTm1ZE0
        すべて陰陽のもの ルートA完


403 名前:社長:2017/05/13 02:58:38.149 ID:wsQTm1ZE0
次回はエピローグ

404 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:55:59.234 ID:wsQTm1ZE0
百合神―――。
それは、此の世界に存在する女神。
その正体を見た者はいないとされる。

その女神にどうしても祈りたい――布施と共にそう思った時、突如彼女に願いを託せるという。
承るのは、恋の相談と、復讐による人殺しが主だ―――。

けれども、其の存在は、ある時、大きくやり口変わった――と噂されるようになった。
百合神は正真正銘神の血を引き、願いを必ず叶えてくれるにも関わらず―――。

噂の前後では―――殺し方が違うという。
武術の達人か何かがやれる―――いわばすべての生物が極めれば真似られる事ではなく―――
其れをも凌駕した、得体の知れない者が願いを叶えていると噂になっている。


――――それは、正しい。

405 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:56:58.210 ID:wsQTm1ZE0
わたしは―――百合神―――。
いいや――、正しくは―――そうではない。
―――わたしは、此の世界で語り継がれた百合神ではない。

何故なら…昔からずっと居た其の女神は、もういないからだ。
わたしは、その宿命を引き継いだ存在に過ぎない。


わたしは―――あの時から、恐ろしく、強くなった。
其れは比喩ではなければ、傲慢でもない―――。
絶対的な事実―――自身が其れを否定しようとしても、出来ない。

406 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:57:38.378 ID:wsQTm1ZE0
剣技をはじめとした様々な武術の技―――。
自身の中に在る女神の【血】から織り成される恐ろしき力―――。
其れらは絡まり合い、複雑に混ざってわたしを支えている。

わたしに【力】の扱い方を教えてくれた師にも―――
世界すべてを探しても、其れより強い存在はいないほど強い其の人に、わたしは打ち勝った。

407 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:57:55.193 ID:wsQTm1ZE0
わたしは、誰であろうと勝てる。
どんな存在だろうと勝てる。

どれだけ居ようと。
どんな武装をしていようと。
どんな【力】を持っていようと。
どんな小細工でわたしを手玉に取ろうとしようと。

わたしの前に立つ敵は、すべて勝つことが叶わない。
量で敵わず、質で敵わず、力で敵わず、技で敵わず、小細工で敵わず―――。

そして最後に【剣】を振るい、全てが断つ―――。

闘いにおいて、あらゆる要素について、わたしに敵うものが何一つないからだ。

408 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/13 23:58:40.579 ID:wsQTm1ZE0
けれども―――わたしは其れで幸せになることなどない。
すべてを斬り伏せても、何も思わず、何も感じず―――。

かつてのわたしは、あの人に勝ちたい気持ちでいっぱいだった。
武芸に長け、とりわけ剣術に秀で、さらには神剣すらも自在に操るあの人に―――。

その時のわたしならば、今、此の時を幸せと思っているのだろうか。
夢が叶った嬉しさに、浸っているのだろうか。
世界を創ることの出来る喜びに満ちたのだろうか。

409 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:00:41.336 ID:5YOab5X.0
でも。
あの人がわたしを助けてくれた、其の時―――あの人に何としてでも勝ちたいという気持ちはなくなってしまった。
だから、今こうしていくらあの人よりも強かろうと―――虚しいばかりだ。

わたしは―――実の姉を助けるために、あの人と共に緑色の悪魔に挑んだ。
そいつは、神の力を得た悪魔だった。

あの人は、戦いに挑む前に――全ての清算を付けるために、自身の肉体に或るたいせつなひとたちの魂魄を取り出した。
そしてたいせつなひとたちが目覚めたのを見てから、奴に挑んだ―――。

けれども、そいつの攻撃は苛烈で―――わたしは、奴の打ち出した雷に打たれた。
【鏡】を持った奴の攻撃に、わたしの身体は崩れ落ちようとしていた。

あの人は、そんなわたしを救う為―――血をすべて捧げた。
いや、血だけではない。
あの人の記憶も、技術も、神器も。すべてわたしに捧げた。

わたしの傷は、【鏡】の力も加わり、あの人の不老不死の血でも、治らぬばかりに酷かったから―――。
だから、あの人は何もかも捧げて、わたしを助けてくれた。

410 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:02:17.281 ID:5YOab5X.0
其の後――わたしは、あの人の力と、式神であるミネルヴァの力を使い、実の姉を救うことはできた。
けれども―――あの人はもう居ない。

あの人は、わたしに【力】をすべて捧げてしまった影響か、その精神が童の様になってしまった。
わたしの事も、わたしの実の姉のことも、そして、自身が百合神であった事も、全て忘れていた。

実姉を救ってほしいと依頼した人たちは、責任を感じたためか、
あの人の住まう大きなお屋敷をずっと守るようになった。
わたしは要らないといったけれども、せめてもの償いをさせてほしい気持ちがあったから。

また、【鏡】で其の姿を取り戻したあの人の姉と、たいせつなひとたちは、あの人の面倒をみてくれている。

411 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:02:43.633 ID:5YOab5X.0
わたしは―――。
あの人と、ありたかった関係を捨て去った。

あの人を姉と慕う妹として過ごす関係を。
楽園で永久に、幸せに暮らす日々を。

412 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:03:02.525 ID:5YOab5X.0
わたしは―――鈴鶴おねえちゃん――いいや、鈴鶴を年下の妹として扱っている。
鈴鶴のたいせつなひとたちは皆、姉としてあの人に接していたから、其処に変わりはない。

ただ、わたしだけが―――扱いを変えているだけだ。

たいせつなひとたちや、わたしの実姉を救ってほしいと依頼したひとたちは、わたしの事をいつも気にかけてくれる。
時には、辛くなったら甘えてもいいと言ってくれる時もあった。

けれども、わたしはその選択は取る事はなかった。
鈴鶴は、たった一人で、百合神として生きていたから―――。
わたしも同じようにしなければならないと、そう思ったのだ。


413 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:04:29.797 ID:5YOab5X.0
わたしの身体の中には、【勾玉】と、其の力を利用している剣がある。
そして、わたし自身は【剣】を持っている。

神器をふたつも持つことは、ふつうでは出来ない。
選ばれた血の持ち主でなければ、其の【力】に呑まれてしまうからだ。
そして、其の【血】が薄ければ、完全に呑まれない―――と言うこともない。
其れほどまでに、神器を操ることは難しい。

けれども。
わたしは、鈴鶴の【血】と、自分自身の【血】で特別な血を持っている。
だから、そのふつうではないことが出来るがゆえに―――。

わたしは女神として在り続けることが出来る。

414 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:06:24.721 ID:5YOab5X.0
わたしは、女神として、復讐の願いを受けた時――、
鈴鶴のように、素晴らしい太刀でその命を断ち切る事はしない。
その太刀は、あの人のたいせつなものだから―――其れを勝手に持ち出すなんて、出来ないから―――。

蟒を切り裂く剣をも斬る【剣】で、わたしは願いを叶える。
【剣】の瘴気で其の対象が苦しもうと、わたしはもう、何も思わない。


あの日、わたしの大好きだった鈴鶴おねえちゃんが居なくなってから―――。
鈴鶴という妹が出来てから―――

わたしは、鬼に―――
此の世ならざるものに―――
女神に―――
ありたいわたしを棄てた死者のような存在に―――

なった。

415 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:07:07.240 ID:5YOab5X.0
鈴鶴の祖先たる女神は、ある神を斬った為に姉と仲違いしてしまったという。
わたしだって―――百合神を斬ったようなものだ。あの人を失ってしまったから。

時折、わたしの求めた日々に戻りたいと思うことはあるけれど―――其れは鈴鶴には見せない。
わたしは、百合神という鬼となりて生きる事しか、もうできない。

わたしは―――神斬りの鬼―――。
わたしは、楽園で過ごす鈴鶴達を、ずっと守り――そして、女神で在り続ける―――。

鈴鶴は―――神として生き続ける生き方でも心を壊すことはなかった。
けれども、わたしは―――ずっとそういう生き方をしても、今のままで居られるのだろうか。

416 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:07:17.395 ID:5YOab5X.0
もし、わたしの心が耐えられず―――例え心までも鬼になろうとも―――。
鈴鶴おねえちゃんの事を、もう完全に忘れてしまっても―――。

鈴鶴という妹が居る、其れだけしか覚えていなかったとしても―――。

鈴鶴たちと此の日常を守るならば―――。
永久に―――わたしは、百合神として在り続けるだろう。

鬼たるわたしは、神を斬った鬼として、百合神として、永久に生き続けるだろう。

417 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:07:30.750 ID:5YOab5X.0
わたしは、夜空に浮かぶ月を見つめていた。

月は妖しいまでに輝いていた。
他の星よりも強く、大きく、まるく、空に浮かぶ月―――。
けれど、其れは何処か寂しくも見えた―――。

すべての色を失った白い月が、何もかもを埋め尽くす暗黒にぽつんと、輝いていた―――。

418 名前:エピローグ:Eden of the Lily goddess:2017/05/14 00:08:23.826 ID:5YOab5X.0
          

             ―完―

419 名前:社長:2017/05/14 00:09:48.326 ID:5YOab5X.0
ルートA完結。
というわけでビターエンド。いつかもう片方のルートも書くぞ。

420 名前:社長:2017/05/14 00:27:44.219 ID:5YOab5X.0
http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/932/Vesta_2.jpg

421 名前:きのこ軍:2017/05/16 20:14:31.111 ID:ZW3/lQW20
乙乙
これがトゥルーエンドなのでしょうか。納得するも切ないしなるほどなあと。
残りルート心待ちにしております。。

422 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:40:06.732 ID:FwOrZUGo0
鈴鶴「けれども―――わたしは、まだ彼女たちを復活させるわけにはいけない」
鈴鶴は、固い意志を秘めた瞳で―――アポロをしっかりと見据えてそう告げた。

アポロ「その、ユノちゃんの事があるから……?」

鈴鶴「一つはそう……
   眠り姫となったユノを、貴女はいつまでも待ち続けた―――

   わたしは、ヤミもシズもフチも、みんなあの世に逝ってしまったと思っていたから…
   大切な人が目覚めないのを待つ――其れはある意味、死ぬよりも辛い事だと思うから…

   早く、その苦しみから解放したいから―――」

アポロ「……もう道が見えているならば、僕は其の後でも―――」

鈴鶴「もう一つ……ずっと、みんなはわたしとイサナのことを見ていたと思うの
   ならば―――全てが終わる其の時までは、わたしの中で見させてあげたいから…」

423 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:40:58.622 ID:FwOrZUGo0
アポロ「鈴鶴さんが、そういうのなら…鈴鶴さんの想いを優先するね…」

鈴鶴「変に、心配させてごめんなさい……
   けれども―――最低でも、貴女とヴェスタには、聞いておいてほしかったから……」

アポロ「どうして、僕にも…?」

鈴鶴「ディアナとネプトゥーンだって、此の事態に対して真摯に受け止めているけれど…
   一番、此の状況に対して、重きをおくのは…貴女だけだから…
   だから、一番最初に話しておきたかったの」

アポロ「そっか…
    此の事、ディアナと、ネプトゥーンにも…話して、いい?」

鈴鶴「ええ……構わないわ…」

アポロ「ふうーっ……
    少し、不安が晴れたから、僕は寝床に入るね」

鈴鶴「おやすみなさい」

424 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:45:19.665 ID:FwOrZUGo0
鈴鶴は、そう言うと、夜空に浮かぶ月を見上げた。
其の月は満ちかけていた―――。

ヴェスタ「おねえちゃん―」

ふとヴェスタが鈴鶴に話しかけた。

ヴェスタ「おねえちゃんは、たいせつなひとを――
     その、ヤミ、シズ、フチっていう子を蘇らせるつもり…なんだよね?」

鈴鶴「そうね――」

ヴェスタ「すべてが終わって―――おねえちゃんはたいせつなひとを蘇らせる
     けれど、わたしは―――

     目覚めるユノおねえちゃんは居るけれど、おねえちゃんのように沢山の人を好いたことはない」
ヴェスタは、そう言うと、涙を流しながら鈴鶴の腕にしがみついた。


425 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:45:38.388 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃんは、今までずうっとそばに居た人が帰ってきたとき
     わたしの事を、同じように愛してくれているか―――不安でたまらないの」

鈴鶴「大丈夫―――誰一人とて、無碍にはしないわ」
そう言い、鈴鶴はヴェスタの頭を撫でた。
けれども、ヴェスタの言葉は続いた。

426 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:45:51.298 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃんが、そんな事しないのは分かっていても――
     でも……わたしは、おねえちゃんのたいせつなひとのことは分からないの
     もしおねえちゃんを取られたらって―――
     其れが恐くて、わたしが、自分勝手に独り占めするかもって―――
     わたし、其の人達を受け入れることができるのかって―――

     そんな悩みが、出てきてたまらないの…」

その言葉を聞いて、鈴鶴はヴェスタを抱きしめた。

鈴鶴「わたしの中に在る大切な人―――
   其の人達は、今も――ヴェスタを見ているでしょう

   確かに、会った事のないヴェスタは分からないかもしれないけれど
   其の人達は、確かにヴェスタの事を理解しているでしょう
   
   ヴェスタは、わたしの【力】に対する劣等感で、一度は仲違いしてしまったけれど―――
   其れまでの日々にも――此処での日々でも、心優しい少女だということを
   
   だから、大丈夫―――
   ヴェスタは、そんな事しない―――」
   
そして、優しい口調で、そう告げた。

427 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:46:01.750 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃん―――
     ありがとう
     しばらく、こうしていていい?」

鈴鶴「うん―――」

そして二人は、そのまましばらく抱き合っていた。

イサナは、鈴鶴の中で其の様子をじっと見ていた。
口を挟むことはない――。

けれども、微笑みながらその様子を見ていた。

428 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/17 00:46:21.449 ID:FwOrZUGo0
ヴェスタ「おねえちゃん――」

鈴鶴「ヴェスタ――」

ヴェスタ「……おねえちゃん、今日は、一緒のお布団で寝たいの
     二人っきりで……いっしょに…」

鈴鶴「ふふ―――いいわよ」

そしてふたりは、互いの手を握り合って眠りについた。

429 名前:社長:2017/05/17 00:46:49.363 ID:FwOrZUGo0
運命の分かれ道の先に待つものは。

430 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:03:41.843 ID:fvhsgqo20
翌朝――――。

鈴鶴達は、身支度をしていた。

431 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:05:34.329 ID:fvhsgqo20
ディアナ「事情は、アポロから聞いた―――
     だが……其れに対する事は、俺は言わん
     俺は普段、マタギとして…受けた依頼をこなすことしかしていない
     こうして何かを頼み―そしてそれが為されるかを待つということは、此れが初めてだ

     ユノの魂を――宜しく頼む」

ネプトゥーン「わたしも―ディアナと同じ
       ユノの魂を取り戻すことを、祈ってるわ」

アポロ「ユノちゃんの事、お願い――
    僕もついて行きたいけれど、そうしてもほとんど意味がないから――此処、願ってるから」


432 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:06:53.008 ID:fvhsgqo20
海に浮かぶ一枚岩―――今宵の其れは、いつもよりも恐ろしく見えた。
此の下に―――緑色の悪魔が眠っているからだ。


ヴェスタ「おねえちゃん――此処に、戻って来たね――」

鈴鶴「すべて終われば……もう二度と、此処に戻る事はないでしょう――
   此処できちっと片を付けましょう」

イサナ「わたしも―鈴姫と、ヴェスタの為に、出来るだけ手助けしよう――」

三人は言葉をつぶやくと、ユピテルの封印を解きにかかった。


433 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:08:02.141 ID:fvhsgqo20
鈴鶴は黄泉剣―【勾玉】の力を解放し―――。
ヴェスタは【剣】の力を解放した。

そして、それらから放たれる斬撃で一枚岩を斬り裂き続けた。

幾度となく神の力で叩きつけられた一枚岩は、遂には罅が入り、そして―――。

中から、光とともに―――。


ユピテル「―――――」


ユピテルが、目覚めた――。
其れは、つまり―――ユピテルの封印が解かれたということに―――。


434 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:08:23.446 ID:fvhsgqo20
ユピテルは、空に浮かんでいた。

手には、【鏡】を―――
そして、その表情は、恨みでもなく、歓びでもなく、怒りでもなく―――。

ただ、普段通りといったような表情を見せていた。

435 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:08:37.387 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ふぅううーーーっ」
そして溜め息一つ。

ユピテル「奴が、ガキの魂一つ消せん臆病者だったおかげで――こうして消える事なく俺は復活できた
     あの封印の中でも、この【鏡】は効力を発揮してくれたおかげで――俺は更に強くなった」
ユピテルは、きょろきょろと鈴鶴達を見ていた。

ユピテル「そして…分霊は死んだようだが、その憑りついた先のガキが――【剣】を――
     もう一つ、横に居るテメェも【勾玉】を持って来てくれるとは」
そして―――神に等しい【力】を持つ鈴鶴たちを眺めながら、平然とそう言った。


436 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:10:56.426 ID:fvhsgqo20
鈴鶴「ずいぶんと……余裕なのね……」

ユピテル「今の俺なら―――神具二つでも相手に出来るさ
     吸収、しまくったからなァ―――力を―――」

そしてユピテルは、鈴鶴達に向かって雷を撃ちだした。

鈴鶴「………」
ヴェスタ「ひゃぁっ!!」

二人は構える剣で其れを薙ぎ払う。
鈴鶴は冷静に―――ヴェスタは、驚きこそするものの、振り払う動作其の物は正確に―――。

437 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:11:09.792 ID:fvhsgqo20
ユピテル「てめェらは―――
     俺を消しに来たんじゃァねェ―――
     そういう目的なら、封印ごと俺を消すことだってできただろうしな
     目的は、俺の中に在る魂の方だろう
     
     一方、俺はてめェらを消すだけだ
     その神器を奪うだけだ
     其の認識の違い―――思い知らせてやるぜェ」

そして戦いは始まった。

438 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:13:03.534 ID:fvhsgqo20
鈴鶴とヴェスタは、其れが初めてではあるが、統制のとれたコンビネーションでユピテルに斬りかかった。
だが―――。

ユピテル「ハハハハハハハハハ―――」
ユピテルは其れを己の肉体で受け止めた。
そしてそのまま、圧倒的な筋力で二人を弾き飛ばした。

439 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:14:32.209 ID:fvhsgqo20
ヴェスタ「おねえちゃん―――こいつ、おかしいよっ」

鈴鶴「硬い……
   恐らく、【鏡】の力を最大限使ってるのね
   けれども、斬れないなら、其の力尽きるまで攻撃し続ければいい―――」

イサナ「ちっ―――雷には、わたしの【力】も使えないか―――
    どうにか、岩を溶かして足止めぐらいしか出来ない――」

鈴鶴とヴェスタは、しばらくユピテルに攻撃を投げつけた。
時折イサナの【力】を挟み、斬る事其の物は出来るのだが―。

それでも―やっと傷が出来たと思えばすぐ修復され―――、
また、反撃に強烈な拳と雷を加えて行くため、なかなか大きなダメージが与えられない―――。

反撃自体は、鈴鶴は経験と黄泉剣の力でかわし、ヴェスタは【剣】の力で無理矢理突き抜ける―――。
しかし―――此の状態は、互いに決定打を打てない状況に等しかった―――。

440 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:14:51.525 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ふ―――互いに膠着状態―――
     めんどくせェなぁ……
     フン
     ならばよォ―――俺が一つ更にてめェらを絶望させてやらァ―――」

ユピテルは【鏡】に力を送り込み、海水を用いて圧倒的な量のDBとオモラシスを召喚した。
静かな海上は、醜悪な式神達で埋め尽くされた―――。


【鏡】―――其れは―――、
光を受け、其れを何倍にも増幅し―――【力】に替える神具―――。
其の【力】は【剣】と【鏡】自身を同時に封印することが出来るほどに或る―――。

だからこと、かつて悪しき存在となった百合神を、封印する事さえできたのだ―――。

441 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:16:40.822 ID:fvhsgqo20
鈴鶴「な―――きりがない―――!」

そして其の式神は、斬っても斬っても其の場でまた召喚されてゆく。
其れ自体は漆黒の斬撃で容易く切断できる脆さだけれども、数が異様というべきものだった。

また、式神と共に、ユピテルの雷が鈴鶴たちに飛びかった―――。

442 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:16:53.119 ID:fvhsgqo20
鈴鶴たちはどうにかかわすものの、其の不規則な軌道を躱し切れず、雷はどんどんと身体を掠るほどまでになり――――。
気が付けば、鈴鶴達は追い詰められていた。

鈴鶴「はぁ――ーはぁ―――
   人海戦術―――圧倒的な力でやってくるとは――――」


鈴鶴の【力】は男を寄せ付けないため、式神からの直接攻撃は無効にできるものの、
ユピテルの雷は避けられず――――また、ヴェスタの事もかばいながらだったため、鈴鶴は徐々に手傷を負い始めた。

443 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:17:17.096 ID:fvhsgqo20
鈴鶴「わたしの式神は―――わたしの血で創ればやつらをとりあえず牽制できるけど―――
   奴の式神に比べればちっぽけ―――其れに余計な力を使うことになるし――――」

イサナ「岩をドロドロに溶かして、奴らに投げて消滅させているけれども―――これでは厳しいわ―――」

鈴鶴たちは、此の劣勢の間でも前を見据えていた―――。

ヴェスタ「はぁ―――はぁ――――」
対照的に、ヴェスタは、まだ闘いの経験が少ないこと―そして其の自分を鈴鶴が庇って手傷を負うことに、絶望的な気持ちになっていた。
けれども、鈴鶴がユピテルに立ち向かうのを見て、戦意はぎりぎりで保っていた。

しかしそれは、綱渡りのようにギリギリの戦意だった。

444 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:17:28.556 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ハハハハハハハ―――数を使えばいいんだよォ―――数でテメェを押し潰せば―――なァ」

そしてユピテルの雷が鈴鶴とヴェスタの心臓目がけて飛んできた――――。

445 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 02:19:54.805 ID:fvhsgqo20
鈴鶴は―――咄嗟に、自身の中にある―――天の狗の―――ヤミの―――風の術を使い――雷を受け流した―――。
けれども雷は際限なく飛んでくる。

風の術が切れるか、雷が切れるか―――という勝負だった。

イサナ「わたしの【力】もあげるから―――どうか、頑張って―――」

イサナが鈴鶴に【力】を与えていたが、其れでもなおユピテルの【力】の方が強く―――。

鈴鶴の生み出した風は、徐々に勢いを落とし始めた。
ユピテルの飛ばした雷は、複雑な軌道でヴェスタの元へと襲いかかった。

446 名前:社長:2017/05/20 02:20:38.988 ID:fvhsgqo20
使い回し そして分岐点は此処。

447 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:06:24.395 ID:fvhsgqo20
其の時―――。

ヴェスタは―――。
時間が遅くなるのを感じた。
其れは危機に相見えた時に見られる感覚だった―――。

448 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:08:25.967 ID:fvhsgqo20
ヴェスタは、其の時、ふと自身の記憶を呼び覚ました。
其れは――自身に【力】の扱い方を教えてくれた、其の人のものだった。

791「確かに、此れは強い―――隠し玉としては十分だ
   なにせ、本気を出した私と互角だから――――

   でも、デカい式神で、これほど強いから、流石に消耗がひどすぎるね
   こんなのを、先が見えない時に使ったら、其の次に対応できない……
   ―――此の力は、どうしようもなくなったら使って
   前述したとおり…【力】自体は、私と互角なのだから―――
   私が正面切った闘いで誰にも負けないように―――負ける事は、断じてないから」

449 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:09:57.721 ID:fvhsgqo20
同時に―――頭の中で声が響いた。

―――「我を顕現させよ」

其の声と共に、ヴェスタは、【剣】に力を込めた。


其れは本当に一瞬の出来事。
一瞬の中で、ヴェスタは濃密な記憶の再生と共に、【力】を放った――――。


450 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:14:35.705 ID:fvhsgqo20
辺りに、蟒の瘴気が溢れ出た―――。
【剣】―――蟒の尾より出でし神器は、八つの首持つ蟒の、其の力を秘めているのだ。

ユピテル「なに―――ッ!?」

鈴鶴「――――!」

其処には―――。

雷は何かにぶつかり、弾けて散った。
けれどもヴェスタに傷一つない。

いいや、正確に言えば、ヴェスタの前に立ちはだかるもの一人―――。

其処には―――あの時、ユピテルに憑りつかれたヴェスタが召喚した式神―ミネルヴァが立っていた。
そして飛んできた雷をまともに受けてなお、苦しむことも、傷つくこともなく――ミネルヴァは平然と其処に立っていた。

いいや、正確に言えば、ヴェスタの前に立ちはだかるもの一人―――。

451 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:19:06.662 ID:fvhsgqo20
ユピテル「ちィ――貴様ァ、俺のように式神も呼べたのかい」
ユピテルは其れでもなお、余裕を見せた表情でじっとヴェスタとミネルヴァを眺めていた。

ヴェスタ「曲りなりにも、此れはお姉ちゃんを叩き潰す為に私の中り上げた式神
     ――――お姉ちゃんには、見せたくなかった―――

     精神的にも、肉体的にも――出来る事なら使いたくはなかったけれど―――」

鈴鶴「ヴェスタ―――わたしは、気にしないのに―――」

ヴェスタ「そっか…
     ならば、はやくいえば、よかったな―――
     少なくとも、精神的な枷は、無かっただろうから―――

     ふふっ、ミネルヴァ、行け―――其の式神全て、叩き潰してやれっ」

ミネルヴァ「――――――!」

ミネルヴァは直ぐに其の指示に従い、周りに居る式神を薙ぎ払った。
其の咆哮は、乙女の様に美しく――けれども、辺りを震わせるには十分なものだった。

いいや、そんな生半ではものではなかった。
辺りに居た式神が、其の咆哮と共に全て吹き飛んだ。


452 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:19:23.690 ID:fvhsgqo20
ミネルヴァ―――それはヴェスタの生み出した式神―――。

式神は、何か憑代となるものがなければ作れない。

鈴鶴の式神が、鈴鶴の血や髪などから作られるように―――
ユピテルの式神が、海水と【鏡】の力から作られるように―――
ミネルヴァにも、憑代となるものがある。

それは―――【剣】から漏れ出る瘴気とヴェスタの血―――。

神具と神の血を混ぜ合わせた其れは、とても相性のよい存在だ。
だから、其れを混ぜ合わせて作った式神は、恐ろしく強くなる。

かつて出現したオモラシスは、神の力で創られた【創世書】と、神の血で依り合わされた。
だから、其れも恐ろしく強かったのだ。

453 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:19:45.062 ID:fvhsgqo20
ヴェスタは、791に【力】の使い方を教えてもらった時の事を思い出した。
【力】の放出の仕方、維持の仕方―――。
一通り、基本を教えて貰った後、791はヴェスタに話しかけた。

791「よし―――此れなら、もう十分だ!飲み込みが早いね、やるねっ!」

ヴェスタ「ありがとうございます、791さん」

791「でも…貴女は、隠し玉がある…よね?」

ヴェスタ「えっ―――?」

791「とぼけてもダメ
   ものすごい式神を召喚できる【力】がある」

ヴェスタ「でも―――この式神は、鈴鶴おねえちゃんに打ち勝つ為に練り上げたから
     だから……おねえちゃんに、見せるのは……」

791「万が一、どうしようもない状態の時の保険…これならどう?
   何をしてでも―――貴女の姉をユノを救いたいと思うのなら、石橋を叩いて渡っても問題ないと思うな
   そして使わずに済むのなら、其れでいいわけだから…」

ヴェスタ「――――――
     それなら…やってみます」

791「よし、決まったね!私がビシバシ鍛えてあげよう」

791はミネルヴァの恐ろしく強い性能を更に引き出させた。
其れと同時に、ミネルヴァを出しながら【剣】で戦う方法も教えた。

454 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:20:26.484 ID:fvhsgqo20
ミネルヴァは唯大振りに敵を殴り蹴る――小細工も何もない戦法しかとらない。
しかし其れだけで充分―――。

目に留まらぬ速さで地を海を空を駆ける神速の機動力―――。
あらゆる環境で生存する強靭無比の生命力―――。
軍神の一撃をも退け火風水のいずれにも傷つかぬ鉄壁の防御力―――。
そして古き世界の民草を押し流し滅ぼす無敵の攻撃力―――。

其の機動力は戦闘機よりも速く動く程に―――。
其の生命力はあるゆる生命が滅びる環境だろうとも平然と動くほどに―――。
其の防御力は科学や魔法に拠る力が束になってかかってもも跳ね返す程に―――。
其の攻撃力は頑強なる鋼の塊をその拳一振りで粉々に崩す程に―――。

其れほどまでに、恐ろしい存在だった。
弱点は、魔法其の物を打ち消すアポロのような存在か、式神の本体たるヴェスタを先に仕留めるかしかない―――。


455 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:21:32.624 ID:fvhsgqo20
ミネルヴァの身体から溢れる瘴気は、式神に宿るユピテルの力をも喰らった。
徐々に―――徐々に―――ユピテルの力も、削れていった。

鈴鶴「ふんっ!」

ユピテル「ぐっ―――」

そして―――強大な【力】に護られていたユピテルの守りは、徐々に薄れ―――。
ユピテルの身体をまともに切れるまでになっていた。

また、無限にいたように思われる式神が、片付けられるにつれて、それがやがてかわせなくなっていった。

456 名前:すべて陰陽のもの Another:2017/05/20 23:22:11.882 ID:fvhsgqo20

そして―――。

鈴鶴「―――――」
鈴鶴は、ユピテルの前に立ち、【ハートスワップ】を喰らわせるために心を世界に溶け合わせた。

ユピテルは、無防備な状態となった鈴鶴に一撃を喰らわせようとした―――。


しかし―――。

イサナ「鈴姫の動きは邪魔させない―――」
イサナがドロドロ化の力でユピテルの足を液状化し、ユピテルを仰け反らせ―――。

ヴェスタ「させるか―――」

ヴェスタの命と共に、ユピテルの身体目がけて、ミネルヴァが思いっ切り拳を打ち―――。

同時に―――。


鈴鶴「【ハートスワップ】―――!」
鈴鶴は戦闘術【魂】の技を使って、ユノの魂を其の身に入れた。

457 名前:社長:2017/05/20 23:23:02.554 ID:fvhsgqo20
三位一体の魂奪還

458 名前:きのこ軍:2017/05/21 10:50:39.336 ID:ZwNv9EdMo
サンキュー戦闘術魂


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