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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

2 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/08/14(金) 23:08:04.244 ID:nQ7ybU.E0

The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
                                            ――Genesis 6:13


3 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/08/14(金) 23:09:32.332 ID:nQ7ybU.E0
月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。

純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。

……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。

4 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/08/14(金) 23:11:56.792 ID:nQ7ybU.E0
いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。

世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。

絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。

まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。

……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
カードを表に返すと同時に、水晶玉の中の人物がはっきりと映し出された。

5 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/08/14(金) 23:12:45.019 ID:nQ7ybU.E0
その人物とは――

6 名前:Route:A:2020/08/14(金) 23:13:36.628 ID:nQ7ybU.E0
――希望を胸に羽ばたく長身の女性だった。

7 名前:Route:A:2020/08/14(金) 23:18:08.908 ID:nQ7ybU.E0
Route:A 


                   Chapter0

8 名前:Route:A twilight dream:2020/08/14(金) 23:18:46.602 ID:nQ7ybU.E0
……オレは、夢を見ていた。

それは、幼い日の思い出……。
砂浜で出会った少女との、たった一日限りの――それでいて、決して忘れることのない思い出。

???
「……えっ、きみは人魚、なのか……?」

???
「――」

(――そう。だから、私は帰らなければいけない。)

自身を人魚と語った少女は言葉を話せなかった。……だから、砂浜に言葉を紡いでコミュニケーションをとっていた。
そのしぐさは、非現実的で――そのきれいな字も相まって、空想の世界にも思えた。


9 名前:Route:A twilight dream:2020/08/14(金) 23:19:35.748 ID:nQ7ybU.E0
???
「そっか……でも、これでお別れじゃないよ
 また、絶対に会える」

それでも……オレの五感はその景色を覚えている。
水面から漂う潮の香りを。濡れた砂浜の感触を。舌に感じる塩辛い味を。細波が揺れて織りなす音を。
そしてエメラルド・グリーンの瞳とアクアマリンの髪が特徴的な人魚の少女の姿を……。

???
「――――」

(ありがとう――貴女の言葉、貴女のしてくれてことを私は決して忘れない――)

オレの言葉に感銘を受けたのか、人魚の少女は涙を流しながらも、感謝の言葉を伝え……海の中へと、潜って行った。
夕陽に照らされる海は、ざぁざぁと細波を立てていた。


10 名前:Route:A twilight dream:2020/08/14(金) 23:21:45.676 ID:nQ7ybU.E0
オレの瞳もまた、涙で滲んでいた――。それは名残惜しさによるものか、あるいは黄昏の光景によるものか……。
だが、そこには完全な絶望はなかった。
なぜなら、絶対に会える――、オレ自身が呟いたその言葉が必ず叶うと思っていたからだ。
根拠はなかったが、それは自信をもってオレの心の中を灯していた。

眼前に広がる赤い夕焼けは、人魚の少女の影が見えなくなるまでオレを包んでいた……。

赤い光に包まれながら……オレはぼうっとそこに佇んで、ふと頭をよぎるものがあった。

……ああ、そうかとオレは思った。
この、幼い日の思い出で、オレは知ったのだ――――。


                 世 界 に は 希 望 が 存 在 す る の だ と 。

11 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:22:27.866 ID:nQ7ybU.E0
手探りで新作始めました

12 名前:Route:A-1:2020/08/15(土) 23:33:34.030 ID:6On/JKWI0
Route:A 

                 2013/4/1(Mon)
                   月齢:20.3
                    Chapter0

13 名前:Route:A-1 dream remnants:2020/08/15(土) 23:35:08.875 ID:6On/JKWI0
――――――。

オレは、幼い日の思い出を掴みながら、陽光射すマンションの一室で、目覚めた。
高校を卒業してから数週間……、今朝からオレは【会議所】の兵士として活動することになっていた。

ベッドから立ち上がったオレの視点は、ぐぐっと急上昇する。
それもそのはず、背は、女にしては高く――183cmもあるからだ。
おまけに手足も長いから、学生時代はいつも女子たちに囲まれていたことを思い出す。

???
「あの、夢か……」

オレは、洗面所で、歯を磨きながら手を握ったり離したりして、夢を名残惜しそうに反芻していた。
次第に脳が覚醒し始めると、思考を纏う夢の残滓は薄れ始め……夢の出来事も徐々に頭から飛んだ。


14 名前:Route:A-1 dream remnants:2020/08/15(土) 23:35:46.873 ID:6On/JKWI0
ふと、鏡に映るオレの顔を見た。
プラチナブロンドのショートヘアーや、きりりとした切れ長の蒼い目を見て、学生時代をふと思い返した。

女子
「いつ見てもかっこいいわぁ、どの男子よりもかっこいい――」

女子
「背が高くて、声や顔も凛々しくて――王子様みたい」

女子たちに、やたらともてはやされたような……そういう記憶がある。

女子
「あの……付き合ってください」

時には、同性からの告白も受けた。……オレにとってよく知らない人物からだったから、断ったが……。

そんなことを思い返ししているうち、オレはやがてリビングの机の上に置いた書類を読む――そういった予定を思い出す。


「おはよう、乙海――」

軍服に着替えたオレがリビングに行くと、新聞を読んでいた親父が顔をあげ、オレの名を呼んだ。
お袋は、オレが物心つく前に亡くなり、親戚付き合いもなかったから、たった一人の肉親といってもいい存在だ。


15 名前:Route:A-1 dream remnants:2020/08/15(土) 23:38:29.753 ID:6On/JKWI0
短い白髪に、白い口ひげ……そしてそれとは対照的に黒い眼球と青白い瞳……。
いつもはシルクハットとシェードグラスをかぶっているが、今はプライベートな場だからか、それらを外している。

乙海
「おはよう」

淡々と返すオレ。……オレは、世間一般的に言われる父親のような関係がない。
もともと仕事人間の気がある親父……幼稚園や小学校のころは、オレとなるべく過ごすようにしていたが、
中学校に上がってからは仕事に本格的に復帰し、たまに顔を合わせるぐらいになっていた。
そのため、まる6年ほど、疎遠な関係になっているのだ――それでも、幼いころに築かれた信頼関係はまだ残っているが。

オレは朝食の準備に取り掛かった。
親父もオレも料理はできるが、今朝の分はあらかじめ作れる範囲まで作っていたから、その続きにかかるのはオレになるのも自然だった。
魔力を用いた加熱器具のスイッチを押し、温まった朝食を食卓に並べた。

乙海
「……」


「……」

会話もなく、静かに朝食を終えた。
……昔からこうだ。たまの近況報告はあれども、和気藹々とした団らんをオレは知らない。

オレは腕時計をちらりと見た。
時刻は7時19分……まだ、会議所に向かうには早い時間だ。
オレは、リビングの上に置いた書類を見直すことにした。



16 名前:Route:A-1 dream remnants:2020/08/15(土) 23:46:09.228 ID:6On/JKWI0
乙海
「ふむ………」

ガサリと音を立てながら、紙束を掴む。

その横に置いてあった書類のひとつ、兵士登録願にはオレの本名――竹内乙海(たけうちおとめ)が記されている。
他にも適否基準や【会議所】や【大戦】について記された資料も横に重ねられている。
オレは、近くの書類に不備がないか――【会議所】の生活や、【大戦】とははどういったものか――
数回と見てきたそれを、改めて見直すことにした。

きのこたけのこ会議所とは、きのこたけのこ理論に基づいた行事(きのこたけのこ大戦)をまとめる行政区である。
メイジ大陸の国、明治国の真ん中に存在している行政区。
その場所は、独立自治区でもある。

――きのこたけのこ理論とは、二陣営による争いによって、精神的なプラスのエネルギーが世界に拡散するという理論のことだ。
この理論を、きのことたけのこというテーマに沿って大戦を行うことで、世界を活発化させる……それが大戦の目的となる。

それでは大戦はどういったことをするのだろうか。
それは、きのこ軍と、たけのこ軍――二人の陣営に分かれた参加者(兵士)が戦う行事だ。一種の試合のようなものとも言える。
先に兵力が尽きた軍が敗北し、兵力が残っていた軍が勝利するという単純なルールである。
大戦は週1で行われるが、事情によっては行われない、あるいは連続で行うこともある。


17 名前:Route:A-1 dream remnants:2020/08/15(土) 23:46:37.760 ID:6On/JKWI0
それでは、人々はどのように兵士になるのか。大まかに分ければ、3つ方法がある。
1つ目は短期(お試し)コース。1回大戦に参加するだけ、という簡単なもの。
忙しかったり、兵士の体験をしてみたい――といった人向けのコースだ。

2つ目は中期(定期)コース。1ヶ月、3か月、6か月といった1月単位で参加するというもの。
このコースからは、会議所での業務なども行うことになる。
副業で兵士として参加する――といった人向けのコースだ。

3つ目は長期(会議所)コース。これは1年間、ほぼ毎回大戦に参加するというもの。
会議所で生活しながら大戦にも携わり、専業で会議所の一員として生きるコースだ。
オレは、親父がかつて会議所で活躍していたこともあり、彼が見た世界を自分でも見るためにこのコースを選択したのだ。

乙海
「こんなものかな……」

知識を整理しきったオレは、書類の不備がないことも確認し、出発の準備をした。

18 名前:Route:A-1 dream remnants:2020/08/15(土) 23:47:19.336 ID:6On/JKWI0

「……乙海、会議所で兵士として生きることに、少々の不安もあるだろうが、
 お前の選んだ道なら、そのまま突っ走ってしまえ」

親父は、今朝初めての言葉らしい言葉をオレに告げた。
オレはその言葉をエールと解釈し、頷くと、父も頷き返した。


「オレは、またこれから仕事でしばらく家を空けるが――いつものことだから、大丈夫だろう」

乙海
「ああ、そうだね……親父……」

親父の声を背に、オレは表情を引き締め、家を出た。
ふと空を見上げると、陽光が祝福するかのように会議所へ歩むオレを照らしていた……。

19 名前:SNO:2020/08/15(土) 23:47:39.196 ID:6On/JKWI0
名前欄の表記も模索中。

20 名前:きのこ軍:2020/08/16(日) 15:33:37.173 ID:T/xzUP.oo
おお、更新おつ!ついに念願の大作SSはじまったぜ!
竹内さんに娘がいたとは…

21 名前:きのこ軍:2020/08/16(日) 15:34:28.780 ID:T/xzUP.oo
会議所を学園都市みたいな設定にするのは参考になる。なるまど〜

22 名前:SNO:2020/08/16(日) 21:27:40.463 ID:EC7N/SAU0
>>12がchapter01なのに00になってたのは秘密だよ

23 名前:Route:A-1 loiter:2020/08/16(日) 21:30:34.410 ID:EC7N/SAU0
オレは、【会議所】の門の前に辿り着いた。
時刻は7時59分――

会議所の中に人が集まり始めるのは、運営開始時刻の15分前ほどと聞いた。
その時刻は9時だから、随分と――早く来たことになる。

乙海
「うーむ、時間でも潰すかな」

頭をかきながら、オレは適当に会議所をうろつくことにした。

何せ、会議所は広い。その中心の本部棟は、巨大な城のような建物の中にある。
窓も多く、何百人、何千人という人々をも収容できるようにも思える。
また、会議所自体もうんと高く、厚い城壁に囲まれている。会議所裏にある岩山ほどの高さに、オレは圧巻されていた。

また、本部から海を臨む方向には城下町のように市場が広がり、路上の店であったり、飲食店であったり――
あるいは、観光グッズ屋であったりと、人々の賑わう施設の多い町並みが見えていた。

とはいえ、まだ時間が時間なだけに人通りも少ないが……。


24 名前:Route:A-1 loiter:2020/08/16(日) 21:32:05.910 ID:EC7N/SAU0
乙海
「それにしても、本当に広い……
 散策するなら、もっと先でもいいかもしれないな」

会議所は、本当に大きく、広く……すべてを見るとなると、陽が暮れて月が昇るどころか、次の朝日を見るほどかかりそうだ。
会議所の土地を所有権を持つ明治国にも、首相官邸は存在するが……会議所と比べればはるかに規模は小さい。
写真や映像でしか見たことはないが……それでも、スケールの違いは圧倒的だった。

まぁ、会議所は様々な国や企業が連携した組織だから、そうなるのも当然だろうか。
オレは、【会議所】の広報資料に書いてあった内容を思い起こしながら、ぶらつくことにした。


25 名前:Route:A-1 loiter:2020/08/16(日) 21:33:11.087 ID:EC7N/SAU0
国家だけでも、大小、100を超える国々がこの会議所で連携しあっている…。
【会議所】の運営に関わる施設や武器庫を有し、工業に力を注ぐ産業大国、明治国。
種族を問わず、メイジ(魔法使い)を大勢有するモリナガ大陸の、マリー共和国。
オーガの住む土地であるルマンド大陸の大国、ブルボン王朝。
エネルギー物質であるチョコレートの原料であるカカオ栽培に力を入れている農業大国、オレオ王国。
魔族が住み、魔力を多く含むクリスタルの産地であるカキシード公国……。

企業で言えば、メイジ関連の製品の研究開発をメインに、医療や義肢など様々な分野で活躍する、【ルミナス・マネイジメント】。
農業に特化した食品会社の大企業、【ヴァルトラング】。
世界的な自動車会社のひとつ、【江崎糖原(ジャン・チー・タン・イェン)】。
エネルギー関連の大企業、【不死屋】。

26 名前:Route:A-1 loiter:2020/08/16(日) 21:33:59.018 ID:EC7N/SAU0
……例を挙げるだけでも、両手では足りない。
すべてを把握するのが難しいほどの集団が集まり、蜘蛛の巣のよりも複雑なネットワークを形成している――。

それは、【会議所】の設備を見ても明らかだった。
様々な国の調度品。設備に刻まれた企業のマーク。
これらは多種多様に富んでいて、その規模を改めて実感させられることになる――。

ふと、オレは足を止める……。事務室の案内板が目についたからだ。
オレは、もともとそこに用があったこともあり、時間は早いながらも室内へと入ることにした……。

27 名前:Route:A-1 admin assistant:2020/08/16(日) 21:35:43.595 ID:EC7N/SAU0
事務室……そこは、たくさんの書類やら、電卓やら、算盤やら、机やらが並んだ、広い部屋だった。
その広さだけで、オレの住むマンションの一室よりも広い。
……しかし、朝の早い時間なだけに、人はほぼいない、閑散とした光景が広がっている。

いや、一人はいた。
受付で、コーヒーを飲みながら書類に目を通す初老の男性……。

彼は、オレが入ってきたことに気が付いていないらしい。
――オレは彼の近くに近づいてみると、彼は顔を上げてオレの方を見た。

男性
「おや、おはようございます……」

渋い声で、極めて事務的な口調で。
さて、どうしたものか――そう思っていると……。

28 名前:Route:A-1 admin assistant:2020/08/16(日) 21:36:51.733 ID:EC7N/SAU0
男性
「おや、貴女は竹内乙海さん――ですね」

オレの名前を知っている――いや、それも当然というべきか。
兵士になる場合、申請書類を会議所に送付する。その中の項目には本人の顔写真も存在する。
だから、あっさりとオレが誰かを理解できたのだろう。

乙海
「そうですが――」

男性
「おっと、申し遅れました……私は加古川かつめしです
 事務長を務めております、どうぞよろしく」

とはいえ……兵士申請をする人の数は、100人はゆうに超す。
その中でオレのことを直ちに認識できたのは、親父が兵士をしていた関係か、あるいはオレの性別のためか……。

手を差し出す加古川かつめし――本名かどうかは、分からない。
【会議所】では、コードネーム(ハンドルネームと呼ぶ者も居る)をつけて生活する者も多い。
恐らくは、彼もその一人なのだろうか……。

乙海
「よろしくお願いします」

――ともかく。
オレは、少なくともここでは新人だ。丁寧な言葉遣いで、加古川と握手をした。


29 名前:Route:A-1 admin assistant:2020/08/16(日) 21:39:13.645 ID:EC7N/SAU0
加古川
「それにしても、あの竹内さんの娘も兵士とはね――
 きのこ軍なのが意外だったが……」

……それを境目に、加古川は少し崩した口調で話し始めた。
竹内――それはおそらく、コンバット竹内というたけのこ軍の兵士のことだろう。

乙海
「父は確かにたけのこ軍でしたが、オレはきのこ軍の方が肌に合っていると感じたので」

コンバット竹内と呼ばれる人物は、オレの親父その人でもあった。
その卓越した剣術と射撃能力は、近距離・遠距離問わず、様々な相手と立ち回っていた……と、どこかで聞いたことがある。
加古川の言葉を聞きながら、オレは、親父から射撃の技術を教えてもらった――という事実を思い返していた。


30 名前:Route:A-1 admin assistant:2020/08/16(日) 21:40:41.401 ID:EC7N/SAU0
加古川
「なるほどね……確かに、軍は個々人の思想に基づいているから、親子関係で決められるものではない、な
 私も娘が二人いるが、兵士になるかは分からないし、なってもきのこ軍に入るかもしれない……
 だが、道がどうあれ応援する気ではいるがね」

加古川はうんうんと頷きながら少し口元を緩ませた。それは娘を思う父親の表情でもあった……。

オレは――どうなのだろうか。
……思い返そうとしても、オレにとって父親の印象は曖昧でもあった。
なにせ、中学校にあがってからは家を空けることがほとんどで、実質的に一人暮らしをしていたようなものだからだ。

……父親として、オレの生活の保障やらといったことは抜かりなかったが…。
周りの同世代が話しているような家族サービスは受けていなかったような気もする。
とはいえ――それに名残惜しさを思うようなことはないのだが……。

オレが、考え込んでいるうちに――いつしか、加古川は諭すようにオレに言った。

加古川
「さて、もう少ししたら兵士がたくさん来るから、先に集合場所に行っていた方がいいよ
 手続きも今以上に混雑するだろうし、軽口も叩けないかもしれないしな
 ほら、入所式のプログラムだ」

乙海
「ありがとうございます」

そのアドバイスは、長年の経験を実感しているような重さを感じ取れる言葉だった。
オレは彼に軽くお辞儀をし、集合場所――大会議室へと歩き始めた。

31 名前:SNO TIPS:2020/08/16(日) 21:44:55.947 ID:EC7N/SAU0
竹内乙海
Route:A 主人公。
腕利きのたけのこ軍兵士、コンバット竹内の娘。
高校は射撃部でそのセンスを発揮し、全国入賞したことがある。

女性にしては高い身長と、凛々しい顔立ちから女性にモテることが多いが、
本人はあまり気にすることなく、人と距離を取りながら過ごしてきた。
家庭の事情で一人で過ごす期間が長かったためか、孤独を好み、人の賑わいはあまり好みではない。

幼いころのとある出来事を胸に秘めたロマンチストな部分もある。
大戦では、その射撃センスを生かして立ち回ることになるのだが……。

32 名前:SNO:2020/08/16(日) 21:45:31.022 ID:EC7N/SAU0
Route:A-1の1がchapter番号と思ってください

33 名前:きのこ軍:2020/08/16(日) 22:35:17.054 ID:T/xzUP.oo
男勝りなキャラめずらしい期待

34 名前:Route:A-1 admission:2020/08/18(火) 22:55:21.666 ID:aRObaPz.0
大会議室――そこは、大ホールで構成された部屋だった。
たくさんの座席と、檀上……会議といっても、顔を向かい合わせて聞く――というよりは、講演会を聞く場所のようにも見える。

座席は自由らしい。とりあえず、オレは後ろの席の端に座り、入所式のプログラムを眺めていた。

「1.開式の辞
 2.入所許可宣言
 3.集計班式辞
 4.スケジュール説明
 5.来賓式辞
 6.来賓、祝電の紹介
 7.閉会の辞」
 
――内容は、学校の入学式と、そう変わりはない。
組織に入る――そういった意味では、どこも同じなのだろう。
オレは、足を組み、目を閉じながら、その時が始まるのを待っていた……。


35 名前:Route:A-1 admission:2020/08/18(火) 22:56:52.314 ID:aRObaPz.0
やがて、オレと同じように、ブログラムを持った兵士たちが部屋に入り始める音が聞こえ、オレは目を開けた。
そこには人、人、人……。男の方が割合としてはかなり多いが――軍服を着た男女たちでいっぱいだった。
ざわめきも聞こえる……この【会議所】が、どれだけの兵士を集めているのか……それを体で実感する。

ビーッ……やがて、開会を示すアナウンスが鳴り響いた。
いつしか、周りには兵士だらけ……座席は軍の関係なく、兵士たちが座り、なかには友人らしき者たちが会話もしている。

加古川
「オホン――これより、入所式を始めます
 座席についていない方は、つくように――」

先ほど、オレに助言をした加古川が壇上で式を取り仕切っていた。
その手慣れた仕草は、オレよりも長く生き、父親として家庭を守ってきた人生の重みを感じさせられた。


36 名前:Route:A-1 admission:2020/08/18(火) 22:57:25.165 ID:aRObaPz.0
加古川
「えー……只今より、第4回きのこたけのこ会議所入所式を開会します」

加古川
「まず初めに、入所許可宣言となります――きのこ軍のB‘Z兵士、お願いします」

加古川の様式めいた言葉に、短髪でありながらも、その濃いもみあげを持つ兵士が壇上に上がった。
……ニュース番組でも、よく見る顔だから見覚えがある。会議所のコメント代表として、よく喋っているのを見たことがあった。

彼の登場に、ざわめきと、感嘆するような歓声が会場内を巡っていた。

B`Z
「えー、ご紹介にあずかりましたB`Zです
 新たな兵士として活躍するみなさんに、祝福の言葉をお送りします――おめでとうございます」

B`Zは、訛りがかった丁寧な口調で話し始めた。
それを呼び水に、あたりの声は徐々に静まってゆく。


37 名前:Route:A-1 admission:2020/08/18(火) 22:58:14.125 ID:aRObaPz.0
B`Z
「皆さんもご存じの通り、【会議所】は設立して4年目――様々な国や企業の協力もありますが、
 何より参加してくださる兵士の皆さんのおかげやと思っております」

B`Z
「【大戦】は、世界すべての士気を上げる祭典として重要なイベントであると自負しております
 物理学者、コルヴォ・フェルミ――彼は不幸な死を遂げましたが、その意思を引き続け、この場所を運営し続けています
 そのためにも、これから新しく兵士として参加する皆さん、よろしくお願いします」

B`Zは、大きく一礼した。

B`Z
「ほな、これから皆さんには兵士として、運営に協力し、時には切磋琢磨していくようにしてください」

B`Zは再び礼をし、壇上から降りた。

大きな拍手と、大歓声が響く。ここにいる兵士たちは、その言葉に感銘を受けたのだろうか。
オレは――そういった感情を持つこともなく、どこか視点を外した、冷めた心で形式だけの拍手をしていた。

38 名前:Route:A-1 greeting:2020/08/18(火) 23:01:12.557 ID:aRObaPz.0
加古川
「続きまして、きのこ軍の兵士、集計班による式辞です――」

紹介されて壇上に上がった集計班は、端正な顔をした、青い長髪の男性だった。
その姿が現れるやいなや、歓声は続いた。
特に、近くに居た女性兵士は黄色い歓声をあげていた。

……やはり、女ならば男に対して一定の憧れとやらがあるのか……?
オレは、その気持ちをなんとか考えようとするが――その答えにはたどり着けず、ついには理解することはできなかった。


39 名前:Route:A-1 greeting:2020/08/18(火) 23:02:35.309 ID:aRObaPz.0
集計班
「みなさん、静粛に――ご紹介に預かりました、きのこ軍集計班です
 皆さん、兵士としての入所、おめでとうございます――また、兵士としての道を歩む皆さんに、感謝の意を示します」

集計班の鶴の一声で、歓声は止み……会場に居た一同は集計班の話に耳を傾けるようになっている。

集計班
「先ほど、きのこ軍のB`Zの方から説明があったと思いますが、大戦の歴史について語りましょう
 コルヴォ・フェルミ――物理学者の彼が見つけた理論を、第1次大戦で試験したところ実証されました
 そこから大戦が続くようになり――第7次の時点で、組織を運営する運びになりました」

集計班
「コルヴォ・フェルミ自体は、大戦を始める前に火災で亡くなりましたが……
 彼は名誉兵士・まいうとして名を残しており、その意思ともども設立メンバーの心に刻んでいます」

感情を込めて話している仕草は、そのスピーチの説得力を増していた。


40 名前:Route:A-1 greeting:2020/08/18(火) 23:04:13.057 ID:aRObaPz.0
集計班
「また、会議所では世界各国、ならびに企業からの支えもあります
 さまざまな叡智や種族が集まる場所、それが会議所という場所であり、私たちはその橋渡しをする役割でもあります
 兵士として過ごすことは、ただ戦うだけではない――様々な文化を、多角的な視点で見ることが大切です」

集計班
「皆さんも、様々な人々との出会い――文化との出会いを大切にしてください――」

集計班の端正な顔に似合った、インテリジェンスな口調……
それは、その名に使われている単語――集計というイメージに合致するように思えた。
綺麗な姿勢で壇上から立ち去る集計班にも、大きな拍手が送られていた。
オレは……相変わらず形式だけの拍手を送るだけであったが……。

41 名前:Route:A-1 greeting:2020/08/18(火) 23:04:33.650 ID:aRObaPz.0
加古川
「続きまして、スケジュールの説明となります
 プログラムの2ページ目をご覧ください――」

加古川
「今日のイベントは、スケジュール通りに入所式のみとなっています
 明日以降は、スケジュール表通り、修練所での大戦教育課程となります
 特に必要な所持品はありませんが、日用品は持参していただければと思います
 昼食は食堂での食事となります――」

加古川の話し方は、完全に手慣れていた。
――4回目ともなれば、もう目を瞑ってもできるのだろう。すらすらと流れるように紡がれる言葉は、理解の手助けになっている。

加古川
「大戦教育課程では、訓練時の特性からも適性検査なども行います
 後日配布する書類には、診断書なども含まれているので、筆記用具などは――」

加古川の話している内容は、事前に配布してあった資料にも記載してあった。
だから――オレは頭の中でその事項を確認するだけだ。


42 名前:Route:A-1 greeting:2020/08/18(火) 23:05:52.679 ID:aRObaPz.0
加古川
「――以上で、説明を終わりとさせていただきます
 何かご質問等ある場合は、入所式後にて、事務室で対応いたします」

加古川は、一礼をした。
――拍手は起こらない。まぁ、事務説明だから当然だろう……。

加古川
「続いて、来賓代表の式辞となります
 来賓代表は、ルミナス・マネイジメント代表取締役、月輪弦夜さんです」

――【ルミナス・マネイジメント】。それは、オレでも知っている大企業であり……オレにも少なからず関わりのある企業でもあった。
なぜなら、親父がそこに籍を置いているから……。生活基盤の確保に貢献していることは言うまでもない。
そのため、代表取締役である月詠弦夜についても、多少の見覚えはあった。


43 名前:Route:A-1 greeting:2020/08/18(火) 23:07:37.207 ID:aRObaPz.0
加古川
「また彼は、たけのこ軍でスリッパという名前で活躍し、大戦の原動となった人物でもあります
 第一線を退いた現在でも会議所の運営に協力して下さっています――」

加古川
「それでは、月詠弦夜さん、お願いします――」

44 名前:Route:A-1 president:2020/08/18(火) 23:08:55.728 ID:aRObaPz.0
壇上に上がった月詠弦夜――スリッパは、白い髪を後頭部になでつけたサングラスの男性だった。
高級そうなスーツに身を包み、まさに――大企業のトップといえるような外見。

集計班の時と同じく、黄色い歓声が会場に沸いた。

その地位でありながら若いことは、初めて存在を知ったとき意外に感じた記憶がある。
老いを感じさせない若々しい見た目……確か、大戦の原動力になる切っ掛けも若々しい立ち振る舞いによるものだったはずだ。

スリッパ
「ご紹介に預かりました、月詠弦夜と申します――スリッパの方がここではなじみ深いかもしれませんね
 皆さん、兵士としての参加、まことにおめでとうございます」

渋い声が、マイクを通して室内に響き渡る。
集計班の時と同じように、声はぴったりと止んだ。その端正な顔立ちにはそういった魔力のようなものがあるのだろうか。
……そんな疑問を浮かべるぐらい、オレには男の魅力について理解することができなかった。


45 名前:Route:A-1 president:2020/08/18(火) 23:09:14.004 ID:aRObaPz.0
スリッパ
「先ほどの紹介通り、私はかつては大戦に兵士として参加し、現在は企業として会議所を支える立場にあります」

スリッパ
「私が大戦に参加した時――こんなことを言いました」

スリッパ
「突き進む、たとえその先が闇だったとしても――と」

その言葉に、会場のあちこちで歓声を押し殺したようなどよめきが聞こえた。
……その言葉は、名言として世界に広く知れ渡っていたからだろう。

スリッパ
「当時、第1次大戦を終え、続けて第2次大戦へと移行した時には不安も多くありました
 コルヴォ・フェルミ――まいう氏の意思を引き継げるか、彼の追い求めた理論を世界が認めるか――」


46 名前:Route:A-1 president:2020/08/18(火) 23:09:32.031 ID:aRObaPz.0
スリッパ
「大戦という新しいイベントは、未開の荒野を切り開く冒険でもありました
 当時、ルミナス・マネイジメントを立ち上げて数年……大戦は世界的なイベントになると考え、
 私は企業の代表という立場ではありますが、そのイベントの運営に積極的に協力してまいりました」

スリッパ
「はじめは有志で集まっていたイベントも、回数を重ねるにつれ、
 ルミナス・マネイジメント以外の企業、あるいは明治国以外の各国も協力する一大行事として成長していきました」

スリッパ
「先ほど、集計班氏が申しあげたとおり、【大戦】は戦うことだけではありません
 世界の士気を高め、よりよいうねりを作り上げる――そういった行事です」


47 名前:Route:A-1 president:2020/08/18(火) 23:12:01.486 ID:aRObaPz.0
スリッパ
「現在では多忙の身である立場上、私は大戦に直接参加してはいませんが、間接的に協力しています
 いずれは復帰も考えていますが――この話はまたの機会にということで――」

スリッパ
「さて、話が脱線しましたが――
 大戦に参加するみなさん――これまでとは違うことにチャレンジするようになると思います
 ですが、そこでは様々な出会いもあります、これは先人としての助言ですが、大戦は目いっぱい楽しみましょう
 ありがとうございました――」

スリッパが話し終わると、大歓声とともに拍手が沸いた。
それは今まで聞いたものよりも大きく、部屋自体を震撼させていた。

そういえば、スリッパ……月詠弦夜は、一代で大企業を作り上げたことから、彼は企業の皇帝と呼ばれることもあった。
部屋を包み込むような熱狂的な音は、その肩書へのリスペクトなのかもしれない……。

加古川
「月詠弦夜――スリッパさん、ありがとうございました
 続いては来賓の紹介です――オレオ王国、ナビス国王……」

――それからは、ただ形式ばった紹介と、式辞だけが流れていった。
オレは、どこか冷めた気持ちでそれを聞きつつ、式典の終わりまで過ごしていた……。

48 名前:SNO:2020/08/18(火) 23:18:35.867 ID:aRObaPz.0
ユリガミSSは兵士が死ぬほどいなかったのでとりあえず兵士を目立たせるようにします

49 名前:きのこ軍:2020/08/18(火) 23:20:53.417 ID:vREtE36Io
おもしろい設定が多くていいですね。
兵士の真名が別にあるという設定は特にいいなと思っています。

50 名前:Route:A-1 stroll:2020/08/19(水) 22:45:21.099 ID:QtrAoYXE0
乙海
「うーん――」

人で込み合う大会議室を抜け、外に出たオレ……。
どこか息苦しい――大勢の人がいるから当然でもあるが、解放感でオレは大きく伸びをしていた。

……オレを、興味深そうに見る兵士の眼が少しあった。
きっと、女にしては高いその背の高さが原因だろう……もう、そうみられることには慣れているが。

ふと、腕時計を見た。
午前11時05分――このまま帰るのもいいが、適当に会議所でもぶらついてみることにした。

会議所の中に広がる街並み。朝の静けさが嘘のように、人でごった返している。


51 名前:Route:A-1 stroll:2020/08/19(水) 22:48:17.449 ID:QtrAoYXE0
乙海
「ふむ……」

オレは、近くにあった喫茶店の中をちらり――と見てみた。
そこも、人でにぎわい、オレのような新人兵士や、あるいは住民、ベテランの兵士たちが談笑している。

オレは、人ごみは好きではない。
一人でいられる空間――そういったところの方が好みだ。

……まぁ、人ごみの中で過ごすことも、過敏に嫌だ、というわけではないのだが。

オレは、一人で過ごすことに慣れていた。
――父親が、家を空けることが多かったのもその一因だが……やはり生まれ持っての性格もあるのだろう……。

オレは、人ごみを交わすように店の入り口をちらりと見やった。

飲食店だけでも、数多くの専門店が並んでいる。
明治国に最も近いのだから、明治料理も多いわけだが――他の国の料理を謳う店もある。

オレオ王国料理専門店―RITZ―
カカオの産地でも有名な土地の料理専門店……。ほかにも、各国の専門店が広がっていた。

52 名前:Route:A-1 stroll:2020/08/19(水) 22:48:36.804 ID:QtrAoYXE0
また、八百屋に、精肉店に――日々の生活必需品の店も並んでいる。
一大マーケットと言ってもいいかもしれない。その中をオレは、ウィンドウ・ショッピングしていた。

乙海
「ん……腹が減ったか」

……しばらくして、オレは空腹感を覚えていた。
ぐぅと腹の音が鳴るの感覚。さて、どうするか……。
一人暮らしに慣れているため、日々の料理は小分けで保存しているから、帰ってから食べるか……?

一瞬そうも思ったが、会議所の空気感に慣れるためにも、適当な飲食店で腹をくちくすることにした。

53 名前:Route:A-1 pub:2020/08/19(水) 22:49:32.954 ID:QtrAoYXE0
フィリップ・パブ――洒落た看板に刻まれた店名が、店頭に掲げられていた。
どうやら居酒屋らしいが、この時間帯は料理屋としての営業をしているらしい。
まぁ、オレの年齢では酒も飲めないが――。

店頭の予定表を見ると、平日の12時から15時。それから、金曜日を除く平日と土曜の18時から20時。
営業時間としては短いが……道楽だろうか?

まぁ、それはどうだっていい――人も少ないようだから、ここで食事をとろう。
カランカラン――とベルの音が鳴らして、オレは店に入った。

店の中には――客は、一人もいそうにない。


54 名前:Route:A-1 pub:2020/08/19(水) 22:51:48.573 ID:QtrAoYXE0
乙海
(……大丈夫だろうか)

少々の不安を抱きながらも、オレはドアを閉める。

店主
「いらっしゃい――」

銀髪と金色の目をした、いかにもうさんくさそうな男が短く挨拶をした。
タキシードを着た男の胸の名札には、たけのこ軍 筍魂と刻まれている――。

……たけのこ軍の筍魂は、訊いたことのある名前だ。
確か、古武術を極めた兵士だとか、戦いのセンスに秀でているとか、親父から聞いたことがある。
それにしても、会議所で第一線を張る兵士がやっている店か。ならば、普段の営業時間が変則的なのも納得がいく。


55 名前:Route:A-1 pub:2020/08/19(水) 22:52:33.974 ID:QtrAoYXE0
筍魂
「適当に座席に座って構わんぞ」

ぶっきらぼうな筍魂の言葉に従い、空いた座席に座った。

???
「えーと、お冷を置いておきます
 それから、こちらがメニューです」

横から、可愛らしい少女の声が聞こえた。
民族衣装を着た、金髪のエルフ――その胸の名札には、フィンと刻まれている。

彼女は、兵士ではなさそうだ。
背がオレよりは一回りも二回りも小さく……むしろ、オレの方が女として大きするのかもしれない。
……そんなことを思いながら、メニューに目を通した。


56 名前:Route:A-1 pub:2020/08/19(水) 22:54:16.198 ID:QtrAoYXE0
パンシット――トルタン・タロン――ピナクベット――レチョン・カワリ――
聞きなれない単語と、料理の写真が並べられている。価格は良心的な部類といったところだ……。

乙海
「すみません――」

近くに居た、フィンに声をかけた。

フィン
「はいっ、何にいたしますか」

乙海
「ああ、このパンシットと、ピナクベット、それからジンジャーティーを……」

フィン
「パンシット、ピナクベット、ジンジャーティーですね、かしこまりましたっ」

フィンは、小柄な体を精いっぱい動かしながらカウンターに戻っていく。
オレとは縁の遠い風景……それは異国の地に来たような感覚もあった。

57 名前:Route:A-1 pub:2020/08/19(水) 22:55:32.954 ID:QtrAoYXE0
筍魂
「それにしても、見ない顔だが――新人か?」

注文を受け取った筍魂は、メニューを作りながらオレに聞いた。

乙海
「はい」

筍魂
「きのこ軍で、その体躯――というよりは立ち振る舞いや姿勢を見る限り、センスがありそうだな」

軽口をたたきながら、彼の手元ではメニューができていく。その手際の良さは、何度も鍛錬した技術を感じられた。
武術に造詣が深いであろう彼にとって、料理の技術もまた関連しているのだろうか。


58 名前:Route:A-1 pub:2020/08/19(水) 22:55:50.618 ID:QtrAoYXE0
筍魂
「ほら、頼んだメニューだ」

いつの間にか、頼んだメニューがオレの前に並べられた。

パンシット――炒めた麺が、肉や野菜と一緒になっている。
一口、運んでみると――なかなかに、美味しい。

ピナクベットは、野菜と豚肉と海老が煮込まれたスープ。
甘みと旨味が混ざった味は、胃にも優しそうな感覚がある……。

筍魂
「フフフ――営業時間は短いが、味には自信あるんでね」

オレの表情を読んだか、筍魂はしたり顔で答えた。


59 名前:Route:A-1 pub:2020/08/19(水) 22:56:50.592 ID:QtrAoYXE0
乙海
「――なるほど」

その自信満々な表情に似合うだけの技量のおかげか、
あっさりと食が進み、ジンジャーティーのさわやかな味で、食事を終えていた。

乙海
「ごちそうさま――」

すっかりくちくなった腹をさすりつつ、財布から出した金を、フィンに手渡した。

フィン
「ありがとうございます、またよかったら来てね」

そのにこやかな笑顔は、純粋で、どこか計算的にも見えた。
――彼女目当てに来る客もいるのだろうか。ふと、そんなことを思っていると……。

筍魂
「おう、気に入ってくれたみたいで感謝するぞ
 あと――多分大戦でオレと戦うことになるとは思うが――手加減はしないぞ?」

筍魂が、ニヤリとしながら自信満々にオレに語った。

乙海
「はい」

オレは頷く。彼はどういった戦法を取るのだろうか――どれだけの判断力や立ち回りを見せるのだろうか――。
そんなことを思いながら、オレは店を出て――帰途についた。

60 名前:SNO:2020/08/19(水) 22:57:03.113 ID:QtrAoYXE0
みんなのヒロイン登場

61 名前:きのこ軍:2020/08/19(水) 22:59:49.840 ID:XsMsdtRwo
受け入れられないが受け入れるしかない。
あとフィリパブが定食屋になってて笑う

62 名前:Route:A-2:2020/08/22(土) 00:12:42.648 ID:gxicPUNI0
Route:A 

                 2013/4/2(Tue)
                   月齢:21.3
                    Chapter2

63 名前:Route:A-2 sergeant:2020/08/22(土) 00:18:49.341 ID:gxicPUNI0
――――――。

翌朝、オレは――いや、新人兵士たちは、事務室で書類を受け取ってから、修練所に集合していた。
そこは広めの体育館のような場所――その広さは、学校にあったものよりも数倍広い場所だった。
様々な競技も行えそうだ。床を傷つける恐れはあるものの、射撃競技も十分できるスペースはあるだろう。

これから何が始まるのか――期待と不安の混じった少々のざわめきの中、一人の兵士がステージの上に現れた。

山本
「静粛にッ!
 私はたけのこ軍 山本先任軍曹である――」

ごつく、厚みのある筋肉質な身体と、よく通る低い声。
修練所全体にぴりぴりと痺れるような響きもあって、ざわめきは静まった。



64 名前:Route:A-2 sergeant:2020/08/22(土) 00:20:51.690 ID:gxicPUNI0
山本
「私は、新人教育――すなわち、今年度に入所した兵士たちを大戦で戦えるための訓練を総括している」

山本
「実際は、会議所長期コースのメンバーも訓練を担当するが……
 私も訓練を担当するので、以後お見知りおきをッ」

マイク越しでも大きな声は、耳がじんじんとする。近くで聞いたら鼓膜が破れてしまうほどだ――とオレは感じていた。

山本
「新人教育課程は、来る土曜日の大戦に向けて行われる
 最も、その訓練で自信が持てない場合は、来週の大戦を初戦としても構わない
 だが、精いっぱい努力することは怠らないでほしい!」

山本は、大きく腕を振り上げる大仰なパフォーマンスをした。
そのごつい腕の太さが、その発言を後押しするように天を仰ぎ――同時に、拍手が沸いた。

相変わらず、オレは形式だけの拍手をしていた……。

65 名前:Route:A-2 sergeant:2020/08/22(土) 00:24:00.970 ID:gxicPUNI0
山本
「さて――これから行うトレーニングだが、座学、ファイター・メイジ適正、それから大戦場でのトレーニングとなる」

山本
「さて、これから座学に移ってもらう
 座学については、私を含め……さまざまな兵士たちで対応するッ
 教室と講師については、今日配られた資料を参考にしてほしい
 自分の兵士番号と照らし合わせて、間違わないようにしてくれ――」

山本
「移動ッ!」

――あいも変わらず大きな声で、山本は語り終えた。

さて、座学を受けに行かなければならない……オレの行くべき場所は小会議室B、講師はB`Zだったか……。
一斉に立ち上がった兵士の動きに身を合わせながら、オレは目的の場所へと向かった。

66 名前:Route:A-2 officer:2020/08/22(土) 00:26:48.025 ID:gxicPUNI0
会議室Bでは、B`Zが壇上にすでに待機していた。
スケジュール的には、始まるまで十数分の余裕がある……オレは、机の上にある資料をぱらぱらと眺めていた。

資料には、会議所の歴史が簡潔に示されている。大戦の開始条件、大戦の運営方法……

B`Z
「よし、みんな集まったな――入所式でもお会いしたと思いますが、ワイはきのこ軍B`Zや
 皆からは、参謀と呼ばれとるが……」

崩したような訛り口調は、どこか親しみを感じさせた。

B`Z
「さて、これから座学や――配布資料の1ページ目からいくで」

配布資料の始めには、きのこたけのこ大戦の歴史がかいつまんで書いてあった。


67 名前:Route:A-2 officer:2020/08/22(土) 00:27:41.003 ID:gxicPUNI0
――コルヴォ・フェルミ。明治国の最高学府にして名門校、アポロ大学の物理学者が、偶然発見した物理法則。
それは、きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展するというものだ。

コルヴォ・フェルミ自体は、研究活動に精を出す最中、自宅の火災に巻き込まれ死去した。
しかし、彼の意思を継ぐ者たち――現会議所で、B`Zや集計班、¢と呼ばれる兵士や、ルミナス・マネイジメントを主として研究は続行された。
その努力も実り、初めは懐疑的に見られていたその理論は、現会議所のある土地で起きた戦いをもとに、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】。会議によって作られた、大戦をとりまとめる同盟という意味だ。
――その法則をコントロールする行事は【大戦】。大いなる戦いの略称で、世界の発展をコントロールするという大きな意思がこめられた単語だ。

B`Zは、それらの内容を流暢に語った。
訛りがかった口調は、聞いていて飽きない。時にはおどけてみせる話し方に、オレを含めその場の全員は聞き入っていた。
――こういった講師は、全員の共通理解を進めるうえでも重要だ。世界の中枢とも呼ばれる場所なのだから、さすがの人員配置というべきか。
……そこで、オレはB`Zがインタビュアーとしてたびたび呼ばれる理由に納得した。


68 名前:Route:A-2 officer:2020/08/22(土) 00:28:08.934 ID:gxicPUNI0
続いて、大戦の開始条件。
年の瀬を除いた毎週土曜日、会議所近辺の【大戦場】に一定数の兵士が集まる。
大戦場は、会議所本部棟裏にそびえる岩山に囲まれた大戦闘場。
当日、一定の人数が集まらないなど、トラブルの場合は、大戦は延期される……。

ルールは、会議所が決める。
階級バッヂを付ける階級制、陣地の取り合いの制圧制、兵種を割り当てる兵種制などだ。

また、紛争と称した、小規模の戦いも行われる。
この紛争は、会議所に定住する長期コースのメンバーがもっぱら行う。
――この紛争では、たった一人で96撃破をした鉄人と呼ばれる者もいるらしい。

B`Z
「大戦に参加してもらうためには、その理論のすばらしさを解くだけではなく、
 魅力的なイベントであることを広めることと、エネルギーのうねりを起こす闘争心が必要や
 きのこを憎む、たけのこを憎む――そういう、マイナスの感情が大切になる
 とはいえ、憎むのはその戦いだけ――戦いが過ぎれば、ゼロに戻さんといかんがな」

どこか楽し気なB`Zの姿は、まるでコメディアンのようにも見えた……。

69 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:32:40.207 ID:gxicPUNI0
――座学が終わり、ファイター・メイジ適正を受けることになった。
メイジか、そうでないかを判別する作業だ……。

メイジ……それは、魔力をうまく操ることのできる存在。
同時に、もともと体内に魔力を多く持っている存在のことを指す。

そうではない者は――便宜上に、ファイターとして区別されている。
魔術を使えない、武術に心得のない存在でも、一応は、ファイターという括りになるのだとB`Zは言っていた。

もともと、会議所に入所する際の適性検査でも同じような検査があった。
この簡便な検査ではなく、病院での診察のようにもっと時間と工程を必要とするものだった……。
配られた資料には、この検査の時間は短いことが記されていたから、恐らく最終確認を目的としているものだろう。

70 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:36:44.358 ID:gxicPUNI0
兵士
「竹内乙海さん」

乙海
「はい」

兵士
「ふん、ふむふむ――」

兵士が、リモコンのような機械をオレにかざした。おそらくは、これで魔力を測定しているのだろう。

兵士
「はい、事前検査通りにファイターですね……次の方……」

測定をしていた兵士の言葉からも、この作業が最終確認のために行われるものであると認識できた。

メイジに該当する種族は、知性を有する種族の中で言えばあまり多くはない。
人間では少ない。魔族や、エルフ――亜人に当たる者に多い。
亜人でも、オーガのメイジは人間よりも少ないといわれている。

また、メイジは遺伝すると言われている。
確かに親父も、メイジではなくファイターだった。だからオレも、その法則に従いファイターということだ。
鳶が鷹を産むように、突然メイジが生まれることもあるそうだが……その確率は低いらしい。

だからオレは――特別でも何でもない、確率通りの存在なのだ……。

71 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:40:47.963 ID:gxicPUNI0
滞りなく、適性検査が済み――昼食と休憩を経て、大戦場でのトレーニングが執り行われる手筈になっている。
賑わう食堂の中で、配布された弁当をひとり食べながら、オレは次の予定を確認していた。

兵士
「ふーっ、講義疲れたなぁ」

兵士
「あのB`Zって人はわかりやすかったよ」

兵士
「社長って人はしゃべり方が変でそれが気になって大変だったよ」

兵士
「山本さんは威圧感がすごいな……そして軍曹なんだぜ……」

兵士
「¢さんってイケメンよね、アイドルにいそう」

様々な兵士の声――それは会議所が多種多様な人物が集まる場所であることを改めて思わせる光景でもあった。
辺りを見やれば会議所に入所する前の仲らしく、和気藹々と食事するグループもいたが……
オレの居た学校では、会議所への進路を決める者は少なく――またオレの交友関係も広くなかったからか――オレは孤独だった。
まぁ、孤独だからといって特にどうということではない。オレは昔から孤独に慣れていた。


72 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:42:19.767 ID:gxicPUNI0
そして、食事を終え……オレたちは、大戦場へと向かった。
オレは他の兵士たちとともに講師の前に並んでいた。

トレーニングの講師は――791という女性兵士だった。
大戦は男女関係なく戦うが、こういったトレーニングは男女に分けて行われるらしい。
――まぁ、それは学校でも同じだったから、それに倣ったということだろう。

それにしても――791という人物は、聞き覚えのある存在でもあった。
確か、鬼のように強い腕力と魔力を持つ、通称――魔王とも呼ばれる魔族だと親父から聞いたことがあった。

791
「こんにちはっ」

大戦場で集合したオレたちに挨拶する791は、その魔王という単語には名会わない柔和な笑顔を見せていた。


73 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:43:33.038 ID:gxicPUNI0
791
「私は791――女の子たちをまとめるのは、一応私の仕事になっています
 まぁ、代表はもう一人いるけれど――彼女は別の用事があるからね」

しかし紫色のローブをはためかせる791の額には、魔族であることを示す金色の角が輝いていた。

791
「男の子たちと、トレーニングは一緒だけど、性別を考えてやっています
 あと、女の子の行事の人はそれも考慮するから――」

オレを含め、女兵士は男兵士と比べれば割合は少ない。兵士の1割か2割が該当する――と言えばいいだろうか。
しかも、大抵はメイジ……オレのようなファイターは少ない。

791は、逐一全員の様子を見ていた。その器の大きさは、魔王――民を束ねる上位存在として相応しいもののように思える。


74 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:43:49.233 ID:gxicPUNI0
791
「はい、みんなとりあえず大丈夫そうだね――
 じゃあ、ランニングから――」

兵士たち
「はいっ」

オレたちは、791の提示したトレーニングをこなしていく……。
大戦場は、草も生えない荒野の地――ところどころに岩があり、岩山近くには森も見える。
走るたびに散らばる砂。硬い地面――その上を走っていて、オレは学生時代に体力作りのために、近所をランニングしていたことを思い出していた……。


75 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:44:01.724 ID:gxicPUNI0
――――。

791
「はい、おつかれさま――明日から大戦の前々日まで、トレーニングは続きます
 みんな、今日は早く寝ようね、解散っ」

トレーニングは、オレにとっては体力の余力が残るものだったが――ほかのだいたいの女子は、息を切らしてへばっている。
……なるほど、考えられている。メイジは、どうしても魔力に頼ることが多いから体力がないものも多い。
それを、同じ女性のメイジがやれば、大体の塩梅を掴んだうえで行える――会議所の選択に、オレは内心感心していた。


76 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:44:55.765 ID:gxicPUNI0
帰路につこうとするオレの背中を、不意にぽんと叩かれた。

乙海
「!」

振り向くと―ー791がにこやかに微笑んで佇んでいた。

791
「貴女は、なかなか体力があるね」

ふわりと揺れた髪からは、レモンの香りが鼻をくすぐる。香水だろうか?

乙海
「ありがとうございます」

感謝の言葉とともにオレは礼をした。少なくとも――オレは立場的には下なのだから。



77 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:47:02.926 ID:gxicPUNI0
791
「それに、確かあなたは射撃の大会にも出ていて、いい成績を取ってたね」

乙海
「そうですね」

そうだ。
学生時代、オレは射撃部に所属し……全国大会にも出場した。
上位入賞もし、表彰も受けた記憶もある。――それも、過ぎ去った過去の出来事だが。

791
「そんなにすごい新人が来るなんて嬉しいな
 きのこ軍だから、ライバルにはなるんだけど――大戦以外では仲良くしましょう」

乙海
「はい」

791が、腕をオレに差し出す。指に輝く紫色の爪は、マニュキアで塗ったものはなさそうだ……。
爪先の下に広がる肉そのものが紫色……これは魔族の生物的な特徴なのだろうか?

ともかく、オレは791とぐっと握手をし、これからの日常に思いを馳せていた。

78 名前:SNO:2020/08/22(土) 00:47:37.901 ID:gxicPUNI0
とりあえず兵士出しまくるスタイル

79 名前:きのこ軍:2020/08/22(土) 07:35:28.797 ID:EY8MH9h2o
魔族791こわいよお。

80 名前:Route:A-3:2020/08/23(日) 17:36:28.594 ID:e.QjV2JY0
Route:A

                 2013/4/5(Fri)
                   月齢:24.3
                    Chapter

81 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:37:35.697 ID:e.QjV2JY0
――――――。

それから、3日が経過した。
791(あるいは会議所)の決めたトレーニングの効果だろうか、
初めはへばっていた女子たちも、ある程度体力が付き、同時に基本的な戦いの動きについても手慣れてきた。

3日間で、こうも鍛える――そのノウハウはどこからきたのだろうか?
世界各国、あるいは企業の叡智と経験によるものか……。少なくとも、これまでに会議所を運営して得られたノウハウであることに違いはないだろう。


82 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:38:42.409 ID:e.QjV2JY0
大戦前夜――体を休め、大戦に備える期間として設けられた日、オレは会議所を散策していた。
……wiki図書館とやらが、気になったからだ。

wiki図書館――速いを意味するwikiwikiという単語から着想を得た名前らしい。
世界の様々な情報を、素早く得られる――それをコンセプトにしているとか。

とはいえ、素早く得られることと素早く調べられることはイコールではない。
あくまでも、この図書館だけで解決する――すなわち世界各国を探し回らなくてもいい――という意味合いらしい。
B`Zが誇らしげにそう語っていた光景を、オレは思い返していた。

ともかく、オレはwiki図書館に足を運んだ。
――広い。本部棟よりはさすがに大きくはないが、これだけでも小国の城と呼べそうなほどだ……。
とはいえ、中は図書館――静けさに満ちていた。

――そもそも、人の姿もあまり見えないような気がするが。

83 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:44:35.090 ID:e.QjV2JY0
B`Z
「おっ――乙海か、おはようさん」

乙海
「おはようございます」

気さくに話しかけてきたB`Zは、軍服ではなく着流しを揺らしていて、どこかその表情はうれしげだった。

B`Z
「解説した時は割と来てたが――今は、そう大勢で来ることもないからな」

静寂な部屋を見渡しながら、語るB`Zは、いきいきとしていた。
乾いた笑いをこぼすB`Zを見ながら、オレはある疑問を彼にぶつけた。

乙海
「それにしても、設立3年目で3代目とは、何があったんですか」

B`Z
「おお、歴史についても知ろうとするとは――お前は中々うれしい新人やな」

B`Zは、うきうきした様子で、オレに語り始めた。
――その様子からは、歴史に耳を傾ける者の少なさを、思い知らされるようでもあった。

84 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:50:14.762 ID:e.QjV2JY0
wiki図書館は、もともときのこ軍の兵士、無口が作り上げたものらしい。
――しかし、ある日火災に遭い、無口は行方不明になった。
所蔵している本は、特に貴重な本が主に無事で、手に入りやすいものだけで焼失するという、不可解な火災だったという。

原因は不明。――無口がどうなったかも当然不明。
その後、山本とB`Zが協力して再建し、新人兵士の教育代表になった山本に替わり、B`Zが館長になったそうだ。

乙海
「無口――」

そのコードネームは、シンプルながらも底知れない恐ろしさを覚えた……。

B`Z
「――長い白髪に隠れているから、その顔を見た者はおらん
 ……その恐ろしい強さから、虎って呼んでた人もおったな……」

その出で立ちはいかにも怪しいような気がするが――それは偏見かもしれない。
そもそも、噂だけで真実と決めつけるのもよくないだろう……。
頭の片隅に留めておくだけ……中庸を選択するのが一番最善だろう。

B`Z
「性別も当然不明――声も中性的やったから判別も困難……
 戦闘能力は、武術と魔術に秀でた……いわば、ファイターとメイジを合わせた存在やったが
 ――まぁ、今はもう昔の話、やな」

回想するB`Zは、名残惜しそうな――そんな顔をしていた。


85 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:50:35.537 ID:e.QjV2JY0
B`Z
「それはそうと、そんな雑談をしてもあんたの時間を奪うだけやな
 ほら、好きなものを調べや」

そう言うと、B`Zは大手を振って図書館の奥に消えていった……。
ぽつんと取り残されるオレ。B`Zはおしゃべり好きのようだ。そんな性格が、静寂な図書館の館長。
――意外な取り合わせだ……と思いながら、オレは図書館の中をうろつき始めた。

86 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 17:52:51.780 ID:e.QjV2JY0
図書館の中をぶらつき、膨大な量の本棚を見ては、本の背表紙に指を触れ――
そうしているうち、オレは気になるタイトルの本を見つけた。

『バラガミの伝説』

著者は――衣月忍……?一体何者だろうか。
その表紙には、人魚の絵が描いてある。
本の区分は伝記……人魚にまつわる物語なのか?

夢の中の人魚の少女のことを思い出す。オレはあの思い出を今もなお心に留めている。
この本がその思い出に関わるのかは分からないが……ともかく、これも何かの縁かもしれない。
オレは本を手に取り、近くの席に座った。


87 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 17:55:32.725 ID:e.QjV2JY0
衣月忍――その著者に関する情報は、ルミナス・マネイジメント所属の探検家ということだけしか記されていなかった。
あの会社の誰か……企業の規模としては大きいからそれを特定するのは難しいだろう。

オレはぺらりとページをめくり――そこに広がる情報の海に身を投げた。

――バラガミと呼ばれる存在。
それは白い髪と肌を持ち、血のように赤い眼をした若い女性の尼僧として語り継がれている。
羽織る衣装は烏のように黒く、白鷺のような髪とは対照的な見た目をしており、
紅薔薇の髪飾りをしていたから、奇跡を起こす存在であることもありバラガミと呼ばれているらしい。

88 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 17:55:57.711 ID:e.QjV2JY0
彼女は傷病にあえぐ人々を救った。彼女の【力】は、治療法のなかった病をなかったかのように消すことができた。
一方で、彼女には治癒できないものもあったと聞く。
生まれ持って機能を失った部位は、不可能だと断言していたそうだ……。

彼女は、はるか昔から最近になるまでその噂が語り継がれていた。
いずれのうわさも、彼女の姿は同じ。若い女性であることに変わりはなかった。
一説によれば――彼女は人魚の肉を食べて不老不死になった、と言うものもいた。


89 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 18:00:28.350 ID:e.QjV2JY0
彼女は、『人魚の肉を食べることはとても愚かなことで、願いは叶わない』と語ったこともあるらしい。
人魚の肉――それは食べれば不老不死になると言う妙薬。
人魚という存在は、未だ確認されていないから、眉唾物と、本には記されていた……。

オレはごくりと固唾を飲んだ。人魚――それはオレの心に残る思い出。
しかし……親父にその思い出を話したら、『人には話すな』と言っていたような気がする。

それは、妙薬の存在を隠すためという理由なのだろうか。
…オレは、突然胸がざわつくような感覚を覚え、オレは本の出版日を確認した。

それは20年前――オレが生まれるより前の古い本だった。
ならば、ただの伝聞ということか……。オレはなぜだか胸を撫で下ろしていた。

90 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 18:03:40.060 ID:e.QjV2JY0
――オレは、続きを読み進めた。

バラガミは20年ほど前からその噂を聞くことはなかった、との記述が続いていた。
本の出版日もそれぐらいだ。オレが生れ落ちてから今まで、バラガミについては聞いたことがない。
この本も、一時の夢や都市伝説を記録したものになるのだろうか……?

乙海
「ふぅ」

オレは、ため息をついてぱたりと本を閉じた。
……人魚。それもまた伝説の存在だと言うが、オレは確かに見た。

では、バラガミも存在するのか?
……存在したとして、人魚の肉とやらを食べたのか?

オレはその理由が気にはなったが……
そのバラガミの存在自体が確かかどうかがわからないから、その思考が結論にたどり着くことは、ついになかった。

91 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:04:30.188 ID:e.QjV2JY0
集計班
「おや――貴女は竹内さんの――」

バラガミと人魚について後ろ髪を引かれつつも、本をもとの場所に戻したところで、
スーツを着た青髪の男性――きのこ軍兵士の集計班に話しかけられた。

乙海
「!――どうも」

いきなりのことに、面食らいながらも……オレは挨拶を交わした。
どこから、現れたのか……闇の中に潜んでいたのだろうか。


92 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:12:56.807 ID:e.QjV2JY0
集計班
「こんにちは、乙海さん――お父さんは、お元気ですか?」

乙海
「たぶん――今は、単身赴任でどこかに行っていて、たまに顔を合わせるぐらいですね」

――父と離れ離れなことには、もう慣れた。というより、子供のころからオレは一人に慣れているような人間だった。
だから、少しぶっきらぼうに――大人げない返しをする。
その返答をしてから、もう少し取り繕ってもよかったか……と少し自信を省みた。

集計班
「はぁ、なるほどね――まぁ、家族と離れ離れになりすぎると、そうなることもありますよね」

オレの態度に、集計班は頷いたように見えた。
同情?あるいは嘲笑?その長めの青い髪と青い瞳からは何も読み取れない。
一見、温和そうで……しかし陰を落とした雰囲気が、彼についての内面を理解させないように思える……。


93 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:14:16.575 ID:e.QjV2JY0
集計班
「でも、離れてた家族のことに、思いを馳せるぐらいはしておいたほうがいいですよ――
 人に忘れ去られることは、死にも近いようなものですからね」

感慨深そうに、語る集計班の横顔は――物寂しそうにも見えた。
それが彼の内面かどうかは……確定できないが。

集計班
「それはそうと、どうしてここに?明日は大戦だから、身体を休めたほうがいいのでは?
 ここは、周るだけでも一苦労ですからね」

乙海
「……確かに、予想以上に広いですね
 本をひとつ読んで、今戻したところですが……」

集計班
「ふーむ、確かにここは暇をつぶすのにはぴったりですが――
 やるならば、まとまった休日の日に取るべきですかね」

集計班は辺りを一瞥し……オレに向き直って、諭すようにそう語った。

94 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:20:59.710 ID:e.QjV2JY0
集計班
「なんせ、情報が集積されすぎて、探すのにうんざりしますからね……
 魔術でそういった制御もしようと考えていますが、まだ開発中ですからねぇ」

乙海
「ふむ」

集計班
「なにより、初めての大戦はかなり体力を使うものですからね……」

集計班は、頷きながらそう言った。――そういえば、彼は大戦の総括もしていたはずだ。
そういう立場にあるからこそ、大戦の流れについても広く把握しているのだろう。

乙海
「それも、そうですね――また来ます」

オレは、集計班の言葉に従うことにした。
踵を返し、こつこつと靴の音を響かせながら、図書館を後にするオレ……。

ふと後ろを見ると、集計班はオレが戻した本のあたりを見ていた。
……場所は合っているとは思うが、順番が微妙に違っただろうか。
まぁ、その場合彼が直すと思うが……そんな無責任なことを思いながら、オレは帰路についた……。

95 名前:SNO:2020/08/23(日) 18:21:26.463 ID:e.QjV2JY0
>>80
chapter番号スレ忘れてるのは秘密だよ chapter3です

96 名前:きのこ軍:2020/08/23(日) 18:56:19.905 ID:rLe6kz26o
人魚伝説…気になる。

97 名前:Route:A-4:2020/08/29(土) 22:53:07.849 ID:l7P1gmjU0
Route:A

                 2013/4/6(Sat)
                   月齢:26.3
                    Chapter4

98 名前:Route:A-4 arrangement:2020/08/29(土) 22:57:52.484 ID:l7P1gmjU0
――――――。

翌日の正午過ぎ、オレたちは、大戦が行われる場所……大戦場に居た。
岩山に囲まれた、広大な荒野の中……。トレーニングを行った場所……。
きのこ軍とたけのこ軍は、互いが見えないほどの距離を開けて集合していた。

山本
「諸君らが初めて挑む大戦のルールは階級制だ、オーソドックスなルールだからわかりやすいしとっつきやすいだろう」

――新人教育課程の中で、山本がそんなことを言っていたことを思い出す。

階級制――ランダムに決定される階級バッヂをつける戦いだ。
階級の位が高いほど、普段の運動能力を増強させる――そういう仕掛けを凝らしたルールらしい。
それならば、高い階級ばかりならいいのではないか――という疑問も出てくるが、
それに関しては高すぎる運動能力は制御しづらいという特徴を利用して戦力のバランスを取っているようだ。
だからこそ、階級が低くても十分に戦える……。

オレにとっては、まだふわふわとした概要しか理解できていない概念でもあった。

99 名前:Route:A-4 arrangement:2020/08/29(土) 23:32:12.431 ID:l7P1gmjU0
大戦場に敷かれた広大な魔法陣は、大戦を制御するために使われているという……。
階級による、運動性能の変化も、その一端――そんな都合のいい世界を生み出す魔方陣は、誰が作り出したのだろう。

兵士
「ほい、階級だ――」

そんな疑問を思っているうち、オレの手にバッヂが手渡された。
まぁ、その魔法陣の想像主など、オレには、関係ないだろう。

受け取った階級は軍曹¶だった。
新人には、少し過ぎたものかもしれないが……まぁ、いいだろう。

B`Z
「新人はん、これが初めての戦いや――もちろん緊張もあるかもしれんが、しすぎなくてもええ」

B`Zは、その場の全員にエールを送っていた。
それは参謀というよりは、軍のリーダーのようにも見えたが……その力強い言葉に、不安は和らいでいた。

¢
「僕もたくさん戦ったが、戦いは日々変わるものだ、この大戦で状況判断力をつけてほしいよ」

¢――オレほどの高い身長と、整った顔をした黒髪の兵士は、後ろ手を組みながらそう言った。
その腰には二丁拳銃。あれが彼の得物というわけか……。

100 名前:Route:A-4 arrangement:2020/08/29(土) 23:33:23.654 ID:l7P1gmjU0
――大戦が始まるまで、まだ時間はある。
ふとオレは岩山の頂上を見上げた……そこには、大戦観測所があった。
そこでは、集計班あるいはその他の兵士が、観測機器を用いて戦況を確認し、両軍の戦力を計算するのだという。

昔は、魔術を利用しながら手作業で測定していたと聞く――想像するだけでその面倒さでうんざりしそうだ。
大戦を円滑にするための技術の発展もまた、大戦によって得られたものなのだろうか。

そんなことを思いながら、時計を見た。時刻は12:50――。

乙海
(もうすぐか)

そう思っていると……。

集計班
「お待たせしました、ただいまより第162次きのこたけのこ大戦の準備が完了いたしました
 それにつき、定刻通り13:00から大戦を開始します……」

集計班の声が、大戦場全域に広がった。マイクにはつきもののノイズはなく、鮮明な声色があたりに響く。
進んだ技術の結晶?あるいは魔術?ともかく、オレは今までに見たことのない世界を実感していた。

そうこうするうち、時計は時刻13:00を指し示した。


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