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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

101 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:36:07.874 ID:l7P1gmjU0
集計班
「ファイエルッ!」

集計班の指示とともに、戦いの火蓋が切って落とされた。

きのこ軍兵士
「いくぞーーッ!」

同時に、前線で銃を構えた味方が、銃の引き金を引き、ダダダーーッという銃声と硝煙をまき散らした。

オレは、ライフルを構えながら後方支援の役割を担っていた。
――射撃が得意なことは大会にも出たことから周知の事実だからだ。

¢
「さすが上位入賞しただけある、センスがあるよ
 初めての大戦では、新人だが狙撃手をやってみないか?」

――トレーニングの中、ライフルのテスト射撃をしていたオレに向けて、¢は拍手をしていたことを思い出した。
その後、¢はきのこ軍のエースと呼ばれる兵士――俊敏な機敏力と、腰に提げた二丁拳銃の扱いに秀でており、
接近戦でもナイフを利用した立ち回りができるファイターだとB`Zから聞いた。

オレのやっていた射撃競技も、遠くの的を狙うという意味では共通点は大いにあった。
だから、得意分野を活かせるという意味ではオレにとっても渡りに船であり、¢の提案に快く了承することになった。


102 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:36:59.840 ID:l7P1gmjU0
きのこ軍兵士
「ヨシッ!撃破だ!」

たけのこ軍兵士
「ぐわっ!」

銃声に、金属――おそらくは刃物の刃――がぶつかりあう音と、かすかな断末魔。
しかし、大戦で死亡することはない。
広大な魔方陣の中に刻み込まれた魔術には、致死的あるいは再起不能になるダメージを受ける瞬間に、
バーボン墓場――岩山の麓に作られた広場に転送される仕組みとなっている。

転送された兵士は、そこで大戦の成り行きを見守ることになるということらしい――。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍92%、たけのこ軍88%です」

B`Z
「優勢のようやな」

狙撃手の待機場所で、司令官として座るB`Zが、頷きながら言った。
同時に大戦場の地図や本日の気候データの書類を見比べながら、次の一手を考える仕草を取っていた。

B`Z
「だが、戦いは何が起こるかわからん――狙撃手は、手を抜かずに射程内に敵が入ったら撃つように」

きのこ軍兵士たち
「了解!」

その言葉には、何度も大戦に参加したという重みもあり、説得力を増していた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

103 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:38:16.084 ID:l7P1gmjU0
乙海
「たけのこ軍か……」

走っている人影――新緑色の軍服を着たたけのこ軍の兵士をオレは見ていた。
オレはゆっくりと引き金に指をかけ――敵の動きを予測しながら弾を発射した。

たけのこ軍兵士
「がはっ!」

命中。走る軌道を予測して視ることができた。この調子なら、なんとかなりそうだ。
これが、軍曹¶という階級に紐づけられた身体能力の強化か?そう思っていると……。

集計班
「たけのこ軍に軍神君臨!」

慌てたような、集計班の声とともに――あたりはどよめいた。


104 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:39:12.382 ID:l7P1gmjU0
B`Z
「なに、軍神やて――
 全隊に告ぐ、軍神とサシではやりあうな――基本はほかの兵士を狩りながら、射程外で足止めするんや」

B`Zも、少し驚愕しながらもすぐに命令を無線機を通じて伝える。
迅速な対応――これが、参謀と呼ばれる所以なのだろうか。

軍神――それは階級制の最高級の階級。しかし、最初のバッヂ配布には存在しない。
ランダムで決まる一定のタイミングで、敵を多数撃破したものがなることのできる階級。
スポーツ大会では、凡人だろうと世界一を狙えるぐらいに身体能力が上がるという。

乙海
「たけのこ軍が……ひとり、ふたり……」

どよめきの中、オレは変わらずスコープで敵の様子を見ていた。
敵は、オレから身を隠すように岩陰に入り、魔術の詠唱をしながら様子を伺っていた。
様子を伺う周期は一定のリズムだ。相手の行動は予測できそうだ。

105 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:40:58.640 ID:l7P1gmjU0
ちらりと、たけのこ軍兵士が動こうとする一瞬――。
このタイミングなら射貫けると――オレは再び引き金を引いた。

たけのこ軍兵士
「がっ!」

たけのこ軍兵士
「ぐふっ!」

近くに居た兵士を巻き込んで撃破――偶然にも、大量に撃破する形となった。

乙海
「うん……?」

ふと、オレの周りにきらきらと輝く光が見えた。その発生源に目をやる。
そこには……オレの軍服に留められた軍曹¶のバッヂがきらきらと輝き始めていた。

集計班
「き、きのこ軍にも、軍神君臨!」

同時に――驚愕したような集計班のアナウンスが響いた。


106 名前:SNO:2020/08/29(土) 23:41:40.968 ID:l7P1gmjU0
大戦開始の合図が会議所に誤爆してた内容と同じなのは秘密でもなんでもない

107 名前:きのこ軍:2020/08/29(土) 23:44:40.451 ID:DPnacW0so
まじかよ覚えてないのは秘密だよ

108 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:06:23.062 ID:wyQ1jM4A0
乙海
「B`Zさん、どうすればいいですか」

――さすがに、この事態は予想だにしていなかった。
すぐにオレはB`Zの知恵を借りることにした。
まさかこんなイレギュラーな事態が起きるとは――オレは、極度にパワーアップした肉体を的確に操れるだろうか。

B`Z
「今のお前さんの戦い方から、ここで狙撃を続けるんや
 なに――初陣で軍曹¶の身体能力を活かした狙撃をしたんや、いけるで
 ワシらも精いっぱいサポートするから、全力を尽くすんや」

B`Zは、親指を立ててオレに頷いた。

乙海
「了解」

オレはその行動に、背中を押され――言葉に従うことにした。
B`Zの言葉には頼りがいがあった。やはり大戦を長く続けているだけのことはある。

乙海
「よし」

息を大きく吐いて、オレはスコープを覗いた。狙うはオレの敵――たけのこ軍。
スコープ越しに居るたけのこ軍兵士は、彼らにとっての敵―きのこ軍にも軍神が発生したことの焦りが見えた。

109 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:10:34.695 ID:wyQ1jM4A0
乙海
(見える……これなら、なんとかなるだろうか)

まるで、目の前の動きがスローになったようだ。これなら相手の行動も予測することも容易だろう。
さらに、弾丸の起動もどことなく予想が付く。それどころか、風の吹き方までも予測できるような気がする。

引き金を引いては、すぐさま次の標的にスコープを向ける――。次々と撃ち抜かれる兵士たち……。
軽やかに動く身体が、一気に敵の10%以上の兵力を削ったのだ――。

乙海
「っ」

くらりと、身体がふらつく。
がしりと、地面に膝をつきながら、息を整える――突然の身体能力の向上に、オレの身体が困惑しているのだろうか?

が、そのふらつきも一瞬――再び姿勢を直し、敵を撃破するためにオレはスコープを覗いた。
そこでは、たけのこ軍の軍曹¶と大尉‡が、コンビネーションを取ってきのこ軍の兵士を多数撃破していた。


110 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:11:53.203 ID:wyQ1jM4A0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍45%、たけのこ軍68%です」

――オレのふらつきの一瞬のうちに、戦況が一気に変わっていた。

B`Z
「なんやと――今回の戦況は目まぐるしいな……
 しかし乙海、無理はせんでええ――平常心を保て」

参謀の額には露のような汗が浮かんでいる。目まぐるしく変わる戦況に、参謀と言われる彼でも焦りを覚えているらしい。
れでも、オレへの言葉は的確なものだった。

¢
「参謀!敵が予想以上のコンビネーションを取って味方をなぎ倒している!」

B`Z
「いかん、一旦退却や――そのついでに、軍神Å率いる狙撃隊の射程距離におびき寄せろ」

¢
「了解!皆、敵から距離を取り退却だッ」

オレは、通信機の向こうで叫ぶ¢の声を聴きながら、再びスコープを覗く。
――そこには、きのこ軍の軍曹¶が、敵をなぎ倒す姿が見えた。


111 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:14:38.130 ID:wyQ1jM4A0
きのこ軍兵士 軍曹¶
「よしッ!まだいけるッ!」

軍曹¶から曹長†に昇給し、彼はガッツポーズをとっていた。
しかし――そのスキを狙っているたけのこ軍の兵士がいた!

隣の狙撃手が、引き金を引いて、迫る敵を足止めしていた。

乙海
「………」

オレも、隣の狙撃手が狙う標的の向こうをスコープで見た。
曹長†になったきのこ軍の兵士を撃破しようとしているメイジの集団。おまけに、すでに何らかの魔術を詠唱中だ。

だが――その足取りは見えていた。
弾丸をライフルに込め、引き金を素早く引き、敵の一帯目がけて弾丸を飛ばした。

たけのこ軍兵士
「う、うわっ!魔法が!」

狙いを定めるオレの頭には、ひとつの光景が見えていた。
それは、相手の自爆を誘発するものだった。

詠唱中のメイジの相手の足元を狙い、さらに詠唱中の魔力の塊すれすれに射撃。
慌てた敵軍のメイジが、ふらついた瞬間に魔力を誤爆し、さらにその誤爆は隣に隣に、連鎖的に広がる……。

それはまるで台風が過ぎ去ったような光景でもあった。
なかば予想通りではあったが、思ったよりも多く、恐らくは30%を越える兵力を削っていた……。

112 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:19:25.753 ID:wyQ1jM4A0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍19%、たけのこ軍26%です」

――それでも、優位がひっくり返らない。

¢
「参謀、こっちの舞台では罠が――うおおおっ!」

¢の断末魔が、通信機越しに響いた。
後には重火器や魔術の弾ける音と、兵士たちの喧騒だけが響いていた。

B`Z
「おい¢?おいッ!」

――参謀の必死の呼びかけにも答えない。つまりは……エースと呼ばれる¢もやられたのか?

黒砂糖
「――大変なことになっているな」

その時、きのこ軍の黒砂糖――紛争で、たった一人で敵軍の96%を壊滅させたという――通称【鉄人】が、
気配もなく、後ろに立っていた。


113 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:23:20.764 ID:wyQ1jM4A0
黒砂糖
「おそらくは軍神Åのきみが――48%以上の兵力を一気に削ったみたいだが
 兵士ひとりだけ居ても、敵が数で押してくると面倒だからな
 私も援護に来た」

――黒砂糖は、メイジでありながら優れたファイターでもあった。剣術を得意とする、ファイター寄りのメイジ。
しかし、黒砂糖の十八番はやはり魔術。詠唱なく漆黒の雷撃を連発し、敵を牽制あるいは撃破することができると、¢が語っていたのを思い出した。

B`Z
「黒ちゃん、来てくれたか
 お前の部隊も壊滅したんか?」

黒砂糖
「ああ――791さんが暴れてたからね――私はうまく退却できたが」

こんな状況でも、軽口を叩きながらすでに魔術の詠唱を始めていた。

黒砂糖
「軍神Å、お前の狙った魔術の誤爆は私や791さんレベルには通用しないぞ
 たとえ攻撃を受けても、魔力がその場に停留するようになっているからな」

乙海
「なるほど、危ないところでした」

黒砂糖
「ふぅ……これもまた、新人へのアドバイスといったところかな」

黒砂糖に返答しながら、内心オレは安堵していた。
メイジであれば誰であろうと、その作戦を取るつもりでいたからだ。
調子よく敵軍の兵力は削ったものの、オレがまだ新人であることを改めて思い知ることとなった。

114 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:24:45.717 ID:wyQ1jM4A0
再び、敵への攻撃を加えようとしたその瞬間――。
スコープ越しに、たけのこ軍の大尉‡と大佐▽が、再びコンビネーションを取り味方を撃破していた。

乙海
「なにっ」

黒砂糖
「チッ、あの波状攻撃のせいで、近くの味方は戦意喪失しながら逃げる最悪のパターンになっているな」

オレは、引き金を引き――黒砂糖は、雷撃の魔術を同時に飛ばした。
周りの兵士たちも、各々の攻撃でたけのこ軍を攻撃しようとした。
だが、それが敵軍を撃破するよりも先に――。

集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は25%でした――」

集計班のアナウンスが聞こえ、同時にオレたちの攻撃は掻き消えた。


115 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:28:18.091 ID:wyQ1jM4A0
B`Z
「くっ、いいところまで行けてたが――今回も負けたかっ」

きのこ軍兵士
「くそーっ、来週は勝つぞ!」

きのこ軍
「うぅうう……」

兵士たちは、悔しそうにその場に立っていた。

黒砂糖
「――まぁ、いくら強者が一人居てもダメなことはこれでわかったな」

黒砂糖は、ため息一つつきながら、静観したように語ると、オレの肩を叩いた。

乙海
「はい」

オレは――敗北したにも関わらず、なぜか納得したように答えを返した。
オレには、不思議と悔しい感情を覚えなかった。
周りの兵士たちは皆悔しさに震えたり、憤怒している者もいるというのに――。

B`Z
「しかし、初めての兵士もみんな頑張っていたんや、今回の失敗を次回に改善すればええんやで」

何度も大戦を経験したであるうB`Zは、悔しそうに唇を噛みながら――兵士たちを励ましている。
流石は参謀と呼ばれることだけはある。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

116 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:47:38.131 ID:wyQ1jM4A0
大戦を終えた後は、敗北した軍が大戦場の清掃を行う手筈になっていた。
散らばった銃弾や草の切れ端など、戦いの痕跡を片付け、会議所に戻ると、中庭一帯にバーベキューセットが組まれていた。

山本
「今回は我がたけのこ軍の勝利だが、きのこ軍の粘りも感服した――
 それはともかく、大戦終了後の後夜祭のようなものだ、精いっぱい楽しんでくれ!」

山本が、その中心でマイク越しに大きな声で宣言していた。
少し、その声量に鼓膜がキンキンするが。

【大戦】は、準備から後始末、そしてこの後夜祭を含めた一大イベントなのだと、新人教育課程で聞いた。
【大戦】が徹底してイベントとしてのスタンスをとっていることに、オレは感心していた……。

117 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:49:26.648 ID:wyQ1jM4A0
きのこ軍兵士
「お前、やるなぁ!」

たけのこ軍兵士
「お前の戦い方だって、震えたぜ」

B`Z
「よし、じゃんじゃん焼くで――肉追加や!」

791
「いよっ、参謀――おかわりちょうだいね」

筍魂
「戦闘術魂なら、さらに手際よくできるぞ」

791
「うるさいなぁ――魂さん」

軍派関係なく、和気藹々と対話する兵士たち。じゅうじゅうと焼ける肉の音が、それを彩っていた。


118 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:49:55.514 ID:wyQ1jM4A0
きのこ軍兵士
「乙海――お前すごいな!」

きのこ軍兵士
「強い女兵士――魔王791の再来みたいだな」

女兵士
「かっこいいわねーっ」

乙海
「はぁ……どうも……」

オレは――兵士に声をかけられても、適当に返答し、なんとなく、飲み物を飲みながら、適当に肉と野菜をつまむだけだった。
……どうも、オレは対等に話しかけてくれる存在がいない。自分から歩めば変わるかもしれないが――
かつての経験から、どうしても相手が委縮してしまうビジョンが見え、ついつい避けようとしてしまう――。
そうなるのは背丈といった身体的特徴か、あるいは、オレの性格といった精神的特徴のため――その両方かもしれない。


119 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:51:08.431 ID:wyQ1jM4A0
オレは飲み物に口をつけてみた。大戦で疲弊し乾いた喉を潤す感覚は、少々の爽快感を覚えるが……
その場の空気は、オレにとってはあまり好みではなかった。

乙海
(ふぅ……隅の方で様子でも見ておくか)

オレは、こっそりと中庭の隅へ移動した。
辺りの空気感に、どうしてもなじむことができない。
オレは、距離感を覚えながら、和気藹々した後夜祭の風景を眺めていた。

120 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 22:54:39.897 ID:wyQ1jM4A0
¢
「乙海――お疲れ」

乙海
「――どうも」

ひとりで佇むオレに、¢が話しかけてきた。

¢
「きみは、誰かと食べないのか?」

乙海
「あいにくですが、一人の方が落ち着くので」

心配するような¢に、オレは正直な感情を伝えた。

121 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 22:56:00.368 ID:wyQ1jM4A0
¢
「ふーん、僕と同じだな……
 エース級の活躍をしても、どこか冷めた目線でいるところが――そして、孤独を好むところが
 まぁ今回、たけのこ軍の罠に引っかかってやられた兵士が言うセリフではないかもしれないけどね」

エースと呼ばれている¢――その端正な顔立ちと立ち振る舞いからは意外な答えだった。
……ある意味、似た者同士、ということなのだろうか?

乙海
「そうなんですか」

¢
「――その人物をただ見ることは、仮面を見ているだけにすぎないんだ」

オレの考えていることを悟ったのか、¢はゆっくりと答え始めた。


122 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 22:58:51.874 ID:wyQ1jM4A0
¢
「――人は、みんな仮面をかぶっているんだ
 僕も、エースという仮面をかぶって、優秀な人間として見られているが――
 その中身――性格はこういうものだぞ?
 まぁ、参謀や集計さんといった古くからの面子は知ってるけどね」

乙海
「確かに、そうですね……」

¢は、感慨深そうにオレに語った。
たしかに、彼の語った内容は、オレと共感できる点もあった。

彼からそのことを聞かなければ、エースという肩書だけで別の想像をしていたかもしれない。
¢
「だから、きみも――物事の外面だけではなく内面を見ながら行くといいん
 醜いものは案外近くにあるかもしれないし――おっと」

そこまで言って、¢は話すのをやめた。

¢
「これ以上は面倒事になりそうだから、ぼくはあっちに行くよ――」

気が付くと、オレは女性兵士たちからじーっと見られていた。
その表情は、どこか不満げで――¢が立ち去ると、その後を追従してる……。


123 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 23:00:03.248 ID:wyQ1jM4A0
……ああ、そうか。
彼女たちは、¢目当ての兵士ということか――。
端正な顔立ちのエースという仮面に、惹かれているのだろうか?

オレは――どうなのだろうか?
彼の特徴を脳で分析しても、魅力的とは思わない。
考え方に共感できることはあるが、それもオレと同じ考えを持つ存在がいることを知っただけにすぎなかった。

……そういえば、オレは誰かを魅力的に思ったことはあるのだろうか。
――異性で、何か思い当たるか考えてみる。

しかし、何一つとして、思い浮かばない。
オレが通っていた学校は、男女両方ともいたはずだが――。


124 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 23:02:44.855 ID:wyQ1jM4A0
――ふと、頭によぎる光景があった。
それは、幼い日の思い出。夢の中で見る光景。オレにとっては確かな事実である景色。

夕日の海をバックに、砂浜できれいな字を書いた人魚。
彼女の魅力に、オレはずっととらわれているのかもしれない。だから――魅力を覚える人物がいないのだろうか。

――まぁ、それよりも……次の大戦だ。
今回は、身体能力が非常に強化されたから――次回こそ手堅く戦ってみたいという気分もある。

オレは、ぐっと手を握ったり開いたりしながら、後夜祭で兵士たちが楽しげにする様子を遠くで見ていた。

加古川
「娘が待ってるから、今日はこの辺で――」

抹茶
「僕も見たい番組があるのでこれで――」

やがて、兵士の一部が帰り始め……オレも、それに合わせて帰宅することにした。

帰路につくオレの中では……¢の語った、外面と内面の差異についての話題が、かすかに残っていた。


125 名前:SNO:2020/08/30(日) 23:03:05.481 ID:wyQ1jM4A0
大戦は実際の内容と同じ

126 名前:きのこ軍:2020/08/30(日) 23:33:59.747 ID:AIXgRpAoo
た、大戦で青春をしている!?
終わった後にみんなでBBQするってのはらしさが出てますね〜感心

127 名前:たけのこ軍:2020/09/01(火) 22:11:52.593 ID:0c4Ev95Q0
>>97の月齢は25.7のミスなのは秘密だよ

128 名前:たけのこ軍:2020/09/01(火) 22:14:24.861 ID:0c4Ev95Q0
>>127
25.3だった

129 名前:Route:A-5:2020/09/01(火) 22:14:44.887 ID:0c4Ev95Q0
Route:A

                 2013/4/7(Sun)
                   月齢:26.3
                    Chapter5

130 名前:Route:A-5:2020/09/01(火) 22:16:12.394 ID:0c4Ev95Q0
――――――。

オレは、夢を見ていた……。

それは、幼い日の思い出。
砂浜で出会った少女との、たった一日限りの――それでいて、決して忘れることのない思い出。

おとめ
「――きみは?」

???
「………」

オレが海岸を散策していたとき、着物を着た少女が呆然と座り込んでいたのを見つけた。
年齢は恐らくオレと同じか、少し上といったところか……オレは、心配になって彼女に話しかけた。

131 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:17:52.324 ID:0c4Ev95Q0
少女の目には涙が浮かんでおり、無言で自分の足を指さした。
そこには、赤い血が滲み、だらだらと傷口から当てれ出ていた。
見るからに痛々しく……オレの心も、ちくちくと痛んだことを今でも覚えている。

おとめ
「けがをしているのか――人を呼んでこようか?」

???
「………」

ふるふると、首を横に振る少女――その身体も同じようにぶるぶると震えていた。

おとめ
「………じゃあ、オレが応急手当するよ」

――子供のころから、オレは孤独を好んでいた。
そして父も、そんなオレのスタンスに異を唱えるわけでもなく……
ケガしても一人でなんとかできるようにと――応急手当の仕方を学び、簡単な道具を持ち歩くように言い聞かされていた。


132 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:25:09.718 ID:0c4Ev95Q0
おとめ
「ちょっと、待ってて――」

オレは、すぐに近くの自販機で水を数本買い、傷口を洗い流した。

???
「……!」

そして、ハンカチを傷口に当て――止血する。

おとめ
「痛いかもしれないけれど――」

心配しながら手当てをするオレに対して、少女の顔は――どこかほっとしていた。
オレはその表情がずっと忘れらなかった……心に、深く深く、楔を打ち付けたかのように刻まれていた。

乙海
「はっ――」


……そこで、オレが目覚めた。

133 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:27:31.919 ID:0c4Ev95Q0
翌日……日曜日は、完全な休養日となっていた。
大戦で疲れた心身を癒す――そういう目的があるそうだ。
まれに、土曜日に大戦ができなかった時の代替日になる時もあると聞いたが……。

オレは――翌朝、初めての大戦のために疲労でぐったりとした身体を何とかベッドから起こしていた。

乙海
「っ……ぐぐぐっ」

バキバキに凝った肩を、どうにかぐるぐると回す。
しばらく、そうやっているうちに……ようやく、立ち上がることができた。

乙海
「ふぅ……どうするかな――」

背伸びをしながら、オレは、会議所にでも行こうかとも思ったが、どうせこれから何度も行く場所に、あえて行く必要はあるのだろうか……とも思っていた。
どうせどこかに行くのなら、普段行かない場所のほうが有意義ではないか?

乙海
「……」

オレは、しばらく考え込んでみることにした。


134 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:29:40.146 ID:0c4Ev95Q0
――しかし、それも思いつかなかった。
オレの住むきのこ軍居住区は、一つの大都市ともいえるが……。
子供のころ、父とオレがたまの外出をするとき、主要なところはあらかた巡り、行かない場所というものがぱっと浮かばなかったのだ……。

乙海
「…………」

結局、オレは、【会議所】の施設の開放時間を見ていた。
本部棟の散策は可能。事務棟は休日は閉まっている――wiki図書館は時短になるが解放されている――。

乙海
「――まぁ、いいか」

結局、オレは会議所へ行くことに決めた。――選択肢が、それしか思いつかなかったからだ。

軍神の影響か――後夜祭では気が付かなかった疲れは、細波のように、わずかに残っていたが……
オレは、外に足を向けた。

135 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:31:11.669 ID:0c4Ev95Q0
会議所にたどり着いたオレは、人の少なさにどこかほっとしていた。

大戦当日はこれでもかと密集していたのに、休日ではまばらに居るだけ。
――ゆっくり、落ち着ける場所に居るのかもいいかもしれない。

そう思って、自分好みの場所がないか――それを探すことにした。

そう思って、歩き始めたが――本部棟は、広い。本当に――広い。
新人教育課程の時には、人でごっ返していたから、意識しなかったが……。
改めて見るその廊下は雄大で、まるで無限に続くかのようだった。

……様々な研究室まで、存在している。
オレに縁はあるのだろうか――学業は、それなりにできた方だが、
ここまでの専門知識を突き詰める人間――その器はないような気がすると直感がそう言っていた。

136 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:36:36.567 ID:0c4Ev95Q0
そんなことを思いながら、研究室の近くの張り紙を見る。

【トニトルス・フェラム】研究所会議所支部――。

――確か、義肢などを開発している会社だったか。
大企業のルミナス・マネイジメントと提携したというニュースも、昔聞いたことがあった。

そんな思考に耽っていると、突然声をかけられた。

???
「――貴女は、つい先日の大戦の新人ですね」

乙海
「!」

そこには、メイド服を着た、左はブラック、右はホワイトに分かれた色をしたショート・ヘアーの女性が居た。
耳の形状から、恐らくはエルフなのだろうか……?
その背中には髪色と同じく、左はブラック、右はホワイトの翼……これは衣装なのだろうか、あるいは本物なのだろうか。


137 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:40:59.048 ID:0c4Ev95Q0
ブラック
「驚かせてしまったようですね――私(わたくし)はトニトルス・フェラムの社長秘書のブラックと申します」

――ブラックと名乗った女性は、ぺこりと、綺麗な姿勢の礼をした。

その顔には右目を縦に走る傷痕があった。頬にも横薙ぎの傷痕……。
その右目はずっと瞑っていて、オレは、知らずのうちに彼女をじっと見ていた。

ブラック
「おや……この眼が気になる――まぁ、それも当然ですね
 私の右眼は見えませんから……それももう、とても昔の話です」

オレの疑問を解消するためか、あるいは予想したのか――彼女は感慨深げにそう答えた。

乙海
「すみません」

オレは、居心地の悪さを覚えて謝意を伝えた。

ブラック
「気にしなくても大丈夫です……私は奇異の目で見られることはもう慣れていますから」

あっさりと答える彼女の言葉からは、オレと同じ視線で何度も見られたのだ――という事実の重みがあった。

138 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:44:02.619 ID:0c4Ev95Q0
ブラック
「同時に、たけのこ軍所属の兵士であり、女性兵士の相談役でもあります
 ――とはいえ、現在は、相談役は791さんがメインでやってもらってますけれど」

乙海
「なるほど、よろしくお願いします」

ブラック
「相談なら聞きますよ――解決まで至れるかは分からないですが」

とても丁寧で……それでいて、どこか儚さと淡々との混ざった声色は、不思議な印象をオレに与えた。

ブラック
「トップはともかくとして……この会社の義肢技術は、なかなか素晴らしいですよ」

ブラックは、そう言うと左手をオレに差し出した。
握手だろうか?
オレは腕を差し出し、手を握ると――中指あたりから鋼の重さを感じた。

乙海
「……!
 貴女も、そうなんですね」

ブラック
「そう――見た目ではわからないようになっていますが、身体能力も上がり、武器としても使うことができる
 ――わざわざ肉体を捨ててまで強化する必要性はないと思いますけれど」

義肢に初めて触れ、驚きの感情を覚えるオレに対し、
ブラックは相変わらず淡々と語っていたが……どことなく、その義肢に対しての高い信頼を思わせる答えを返した。


139 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:46:39.054 ID:0c4Ev95Q0
乙海
「どういった機能があるんですか」

ブラック
「――全部は、話しません
 しかし、機能の一つとしては魔力を利用した兵装があるということだけはお伝えしましょう」

乙海
「!」

魔術を用いた兵装……。
そういえば、親父から聞いたことがあった。弾丸を丸ごと魔力だけに置換した兵装があることを……。
それを義肢に組み込むことで、手足を操るようにその兵装を操ることができる……というわけか。

ブラック
「まぁ、私の義指に兵装は無いですが」

ブラックの淡々としたしゃべり方からは、その機能性の応用性まではわからない――。
その声色からは先の見えない闇のような感覚がある。
彼女の名前のブラックは、そういったところにも由来しているのだろうか?

140 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:49:15.347 ID:0c4Ev95Q0
乙海
「魔術の兵装と、ライフル射撃との違いは」

そんな中でも、なんとかオレは冷静に訊く。

ブラック
「兵装の方は、魔力そのものですから、火薬やらなにやらを用意する必要がなく…メイジの魔力が尽きない限りはいつまでも使えるという利点があります
 とはいえ、弾丸を入れ替える銃は戦闘のテンポを鋭敏に鍛えさせますから――
 兵装は大戦で重要な、戦闘の感覚を失うリスクがあります……
 とはいえ、結局、扱う者しだいといったところでしょう」

乙海
「……」

オレは、固唾を飲みながらブラックの答えを聞いていた。……なにせ、今まで出会ったことのない概念だからだ。
射撃競技に身を尽くしたオレに興味のある話題だからか?あるいは、未知の技術を学びたいという好奇心なのだろうか?

ブラック
「――女性で、この機能を真剣に聞いてくれそうな人は珍しいですね」

――答えの出ない理由は兎も角、オレの姿勢はブラックとしては満足だったらしい。
ブラックは、ここまで鉄仮面を貫いていたが――話し終えて、少し微笑んだような気がした。


141 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:53:38.245 ID:0c4Ev95Q0
ブラック
「それはそうと、孤独になそうな場所なら――会議所の城下近くの海岸が穴場です」

乙海
「!」

ブラック
「貴女は、私と似ています――
 孤独を好んでいそうなところが――とても、とても――
 だから、こっそりと教えてあげます」

乙海
「ありがとうございます」

――ブラックは、二色の翼を揺らせながら研究室の中に消えていった。
結局、翼には言及されなかった。
オレの興味のある内容とは真逆の話題のために、質問をするタイミングがなかったのもあるが、
どことなく立ち入りづらい話題でもあった。彼女のふさがった右眼のように……。

それにしても……孤独を好む存在に二人もオレは出会った。
¢と、ブラック……。

会議所は、オレにとってある意味ぴったりの場所なのかもしれない。
世界各国から人が集まるから、オレと同じ価値観を持つ存在とも会える可能性が高くなる――。
そういった考えは、今この時間にしてようやくたどり着くことになったが……。

オレは、ブラックの言葉通り、海岸を散策してみよう――。
こつこつと響く足音が、海岸へと舵を切った。

142 名前:SNO:2020/09/01(火) 22:54:09.470 ID:0c4Ev95Q0
隻眼の翼を持つメイド枠……一体誰なんだ……

143 名前:きのこ軍:2020/09/01(火) 23:04:44.319 ID:yA7Sawfgo
お姉さんの登場いいぞ

144 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:36:32.825 ID:35rxNv.Y0
海岸は――シーズンオフだからか、人の気配はなかった。
細波の音が聞こえ、潮の香りが鼻をくすぐる。

乙海
「静かだ――」

――そこは、オレにとって理想的な場所だった。
夏は例外かもしれないが……足元の砂を手ですくってみる。

さらさらとした砂がオレの手の中でこぼれ、地面に散らばっていく。

……そうしていると、オレはある一つの事実に気が付いた。

乙海
「ここは――あの女の子と会った――」

――夢の中で見る光景。人魚の少女との出会いはこの場所だったのだ。

145 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:38:48.569 ID:35rxNv.Y0
どうしてここなのか――それは、親父の仕事に付いていったからだ。


「しばらくの間、この海岸で遊んでいてくれ――」

とはいえ、オレの存在は仕事には不必要。
その間、オレは一人で海岸で佇んでいた。
オレは親父の言葉に従い、定刻までそこに居た。

……あの日見たときは、世界すべてのように思える広さだった海岸。
今見れば、なんの変哲もない海岸。これも――成長による視野の違いなのだろうか?

――確か、このあたりに……。
自販機は、変わらず佇んでいた。中のメニューは多少入れ替わっているが、あの時買ったものと同じ銘柄の水は残っていた。


146 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:40:27.001 ID:35rxNv.Y0
乙海
「ふむ」

なんとなく、小銭を入れてスイッチを押す……ガコンという音とともに、水が取り出し口に落ちてくる。

オレは、その中身を飲むわけでもなく、ただ砂浜に落とした。

乙海
「……」

どぼどぼと落ちる水――砂を湿らせ、粘度を上げ、そのしぶきはオレを濡らす。

乙海
「………」

この行為に――意味はない。あの人魚が出てくるわけでもない。
それでも、どこか憧憬を覚え――気が付くと、のどの渇きを覚えた。

乙海
「んっ、んっ――ぷはぁ」

やがて、オレは残った水を一気に飲み干した。
空になったペットボトルを、自販機のごみ箱に捨て――オレは再び、水で濡らした砂を見つめた。


147 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:40:41.082 ID:35rxNv.Y0
乙海
「――」

茶色く湿った砂は、何も語り掛けない。ただ物質としてそこにあるだけだ。
――そういえば、あの人魚も……言葉を話すことはできなかった。

……人魚。wiki図書館で見たバラガミの伝記を思い返す。
人魚の肉。不老不死の妙薬。それを食べたと噂されるバラガミ……。

本の内容を思い返しながら顔を上げると、いつの間にか海は夕焼けに染まっていた。
夢の中で見たのと同じような景色――そこに人魚はいないが。

……ふと、誰かの気配を感じた。
オレはその方向へと向かう……すると、黒砂糖が夕陽を眺めながら小さなキャンバスに絵を描いていた……。

148 名前:Route:A-5 animus:2020/09/04(金) 23:53:04.142 ID:35rxNv.Y0
黒砂糖
「おや、前回の軍神さん――名前は何だったかな」

黒砂糖は気配を察したのか、オレの方を向いて尋ねた。
翡翠色の瞳に紺碧色の髪。その細身な身体を、オレよりも背は少し低く……鉄人という単語には似つかない姿。
身に纏った神父装束は戦闘とは無縁な雰囲気があった。

その長い耳は、エルフという種族の特徴だ――と誰かから聞いたことがある。
つまりは黒砂糖もエルフなのだろうと、オレは判断した……。

乙海
「どうも……竹内乙海です」

軽く会釈をすると、黒砂糖は再びキャンパスに向き直り絵描きを再開した。
神父装束を着こんだ黒砂糖の表情は、向こうを向いているから見えないが……おそらくは絵に集中した真剣な表情をしているのだろう。


149 名前:Route:A-5 animus:2020/09/04(金) 23:56:34.817 ID:35rxNv.Y0
黒砂糖
「そうだ、乙海だったか……」

乙海
「黒砂糖さんも、人気がいないところを選んでここに?」

黒砂糖
「そう……
 それに海には複雑な想いがあるから……私はたまにここに来て絵を描くことにしている」

オレはキャンパスをちらと覗き見た……その小さな世界の中では、オレの見ているのと同じ海が広がっていた。
波しぶきを、空を、雲を正確に再現している……オレは思わず小さく唸った。

乙海
「凄い……」

黒砂糖
「私は、絵を描くのは趣味だ……
 それで、描き続けているうちにいつしかこうなった」

戦闘に関するものではないものの、確かに技術を突き詰めていることは確実だ。
それがどのような技術であれ、尊敬できるものだった……。


150 名前:Route:A-5 animus:2020/09/05(土) 00:01:00.594 ID:RLhGsxlc0
――そういえば、黒砂糖は鉄人と呼ばれているらしいが……そのルーツはどこからなのだろうか。
絵に関しては、趣味に身を捧げ研鑽した理由だろうが……オレは、好奇心で訊ねていた。

乙海
「一つ質問が――あなたの強さはどうやって身に付いたんですか」

黒砂糖
「率直に訊いたな……
 ――古い知り合いに、武術を修めている者が居て……彼にいろいろと叩き込んでもらった……これが答えだ」

乙海
「なるほど……」

武術の達人。その手の道を究めた者に師事するのは、シンプルな手段の一つでもあった。
親父も射撃技術に長けていたから、それに師事することでオレも得手としている。
全くもって非の打ちどころのない納得いく答えだった。

黒砂糖
「たけのこ軍の筍魂――彼もまた武術の達人だから、彼に頼れば手助けになるかもしれないな」

……黒砂糖は、遠い眼で、海の果てを見つめながらそう呟いた。


151 名前:Route:A-5 animus:2020/09/05(土) 00:01:40.801 ID:RLhGsxlc0
乙海
「………ありがとうございます」

オレは礼を告げる。それにしても……オレはどうして強さに興味があるのだろうか。
それは味方でもある兵士に興味を示したのか……あるいはオレ自身なのか……
答えはまだ、出ることはなかった。

黒砂糖
「――よし、描けた
 時間もいい頃合だし、そろそろ、退散するか」

気が付くと、空は夕暮れに染まっていた。
キャンバスの中には、オレの見るものと同一の景色が出来上がっていた。
その技術に、オレは再度心の中で敬意を表した。

152 名前:Route:A-5 animus:2020/09/05(土) 00:02:41.462 ID:RLhGsxlc0
黒砂糖は、立ち上がり……絵画道具を持って立ち去った。

黒砂糖
「乙海よ、会議所でまた会おう
 あるいは大戦で共闘するかもしれないな」

乙海
「はい」

それだけの短いやり取りを交わし、黒砂糖の背中は遠くなっていった……。

砂浜の景色への名残惜しさを覚えつつも、オレも帰路につくことにした。

後ろで波の音が響いていた。
ざぁざぁ――という細波の音は、オレを呼び止めようとしているようにも聞こえた。

153 名前:SNO:2020/09/05(土) 00:04:22.064 ID:RLhGsxlc0
鉄人はWARSで強い存在感あったので影響されて出てきたよ

154 名前:きのこ軍:2020/09/05(土) 00:18:42.180 ID:mtd6p51.o
鉄人エルフでワロタ

155 名前:Route:A-6:2020/09/06(日) 00:24:33.321 ID:OkrZNOqs0
Route:A

                 2013/4/10(Wed)
                   月齢:29.3
                    Chapter6

156 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:32:17.868 ID:OkrZNOqs0
――――――。

翌日から、会議所での日常が始まり……3日が経過した。
――それからの日々は、刺激の少ない、変わり映えのしない毎日だった。

短期(お試し)コースの兵士は、日常……すなわち学業であったり、仕事に戻り――。

中期(定期)コースと、長期(会議所)コースは、会議所での業務が始まった。
オレは後者の立場で――大戦に向けた訓練と、運営作業の日々を送っていた。

運営作業――単語だけ見れば内容が多岐に渡り難解そうだが、そう高度なものではない。
大戦場やバーボン墓場の手入れ……会議所の設備の点検や清掃……
事務作業に、武器の手入れといったように、人員が必要な作業が主だった。


157 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:44:46.266 ID:OkrZNOqs0
その作業にも慣れ――オレは昼休みを終えて、何をしようか考えあぐねていると……。

???
「……おや、乙海さん、こんにちは
 お手すきならば、少し手伝ってほしいことがあるのですが」

争いには無縁そうな穏やかな表情を浮かべた、眼鏡をかけた白衣の男性――たけのこ軍の兵士、抹茶がオレに声をかけた。
彼は湯呑を操りながら戦うメイジ――そうB`Zから聞いた。とはいえ――先日の大戦では交戦することがないから、印象は薄い……。

乙海
「別に構いませんが」

抹茶
「それはよかった、研究の手伝いがほしくて――」

――白衣を着て、研究という単語を入れたのだから、抹茶は研究者なのだろうと、オレはひどく短絡的に判断した。


158 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:48:51.248 ID:OkrZNOqs0
乙海
「オレに手伝いできることがあるかはわからないですが」

抹茶
「なに、貴女のスキルに関わることですから」

――その日行う作業の割り振りは、割と自由でもある。
それこそ、時間の余裕があるのならば、訓練や読書といった余暇活動をすることも可能なシステムだ。
オレは、特別な予定もなかったので、抹茶の手伝いをすることになった。

研究室は、ガラスでできた実験器具やらなにやらが置いてあり、机の一つは本の山が出来ていた。
床は汚れたマットが敷いてあり、実験机の上は焦げた跡もあった。

抹茶
「ああ、ごちゃごちゃしているのは気にしないでください
 それよりも、手伝ってほしいのはこれについてです」

オレの訝し気な視線を悟ったらしい抹茶は、すぐになにやら変わった銃をオレに見せた。


159 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:53:52.424 ID:OkrZNOqs0
抹茶
「僕はメイジなので、銃は門外漢でしてね――
 射撃競技の大会にも出て、つい最近の大戦でも狙撃スキルを活かしていた貴女に見てもらおうと思って」

乙海
「ほかにも――銃の扱いが得意なものはいると思いますが」

オレの頭には、エースと呼ばれるきのこ軍兵士――¢の顔が思い浮かんでいた。

抹茶
「確かに¢さんなど、銃の上手い知り合いもいますが
 新人というフレッシュな立場での感想を知りたいんですよ」

――オレの疑問を予期していたかのように、抹茶からは淀みなく答えが返ってきた。

乙海
「なるほど……?」

オレは面食らったように、困惑した声を出していた。
オレの思考が読まれていると判断したためか……あるいは、彼から伝わる熱意のようなもののためか……。


160 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:56:38.757 ID:OkrZNOqs0
……同時に、この銃を開発するのに、自分の力を惜しみなく注いだのだろうということも悟った。
オレは、その熱意に応えるべきなのだろう。少なくとも……今オレを必要としているのも熱意によるものだろうから。

乙海
「それで――どうすればいいんですか」

抹茶
「ああ、重さとか、握りやすさとか――部品の感触とかをリポートしてほしいんです」

乙海
「――そういうことか、わかりました」

この発言で、オレは抹茶の言いたいことが、ようやくわかった。
オレは抹茶という存在をよくは知らない……それは彼の立場からしても同じだ。

だからこそ――率直な意見を得られやすい。そういうことなのだ。
幸い、オレはライフル以外の銃も手に取ったことはある。扱い方についても基本的な部分については把握できている。


161 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:03:53.205 ID:OkrZNOqs0

抹茶
「弾は入ってないので、安心してください」

オレは、銃を握り、弾丸が入っていないことを確かめてから、引き金を引いた。

カチン――という音と、引き金を引いた独特の感覚。
……その感触は、手にぴったりと吸い付くよう。トリガーの感覚もいい按排だ。
一つ一つの部品もかみあい、スムーズに撃てそうだ――。

乙海
「――なるほど、これは扱いやすいですね
 ただ一つ、この銃はオートマチックだから、オレには合わないかな……」

オートマチック銃は部品が多く、弾詰まりすることがある。
オレは、再装填の手間と装弾数の少なさを省みても、回転式の方が使いやすいと感じていた。

抹茶
「ふむふむ――射撃が得意な人は、そういう意見か――
 ちなみに、弾は、こんな感じです……試作品ですが」

抹茶は、オレの手に試作品という弾丸を乗せた。
深緑の弾丸。素材は軽いが、ぴりぴりとした感触が肌を刺激する――これは魔力?


162 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:06:22.962 ID:OkrZNOqs0
乙海
「この弾丸はやけに軽いですが――この感触からして、魔力が入ってるんですか」

抹茶
「はい――魔力そのものを弾丸にする武器は存在しています、マジックガン、マジックマシンガンという名前でね
 しかし弾丸に魔力を込めたものはまだ研究段階――試行錯誤する分野になるんです」

抹茶は手元の銃に視線をやってから、またオレの方へと視線を戻した。

抹茶
「だから、ルミナス・マネイジメントと協力して研究しているんです――」

乙海
「……なるほど」

ルミナス・マネイジメントとの関わりは――親父だけではなく、会議所でも長くなるようだ。
様々な組織が集まっている場所なのだからそれも当然といえば当然だが――こうして身近な部分でも接すると、改めてその事実が浮き彫りになる。

163 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:07:01.246 ID:OkrZNOqs0
抹茶
「的も用意したので、試し撃ちしてくれませんか?一応僕が何度かテストしたので安全性は大丈夫です」

抹茶は、部屋の向こうに目配せをした。すると確かに的があり、その下には弾痕の開いた的が4、5個ほど転がっていた。

乙海
「はい」

オレは弾丸を弾倉に込めると、的に視線を向けた。
狙うは中央……オレは息を深く吐くと、弾丸の跳ぶイメージを脳裏に描きながら引き金を引いた。
バスバスと的を銃弾が貫く音。弾痕は、狙い通りの位置に着弾した。

抹茶
「さすが……すごいですね、僕では正確に真ん中を狙うことは難しいので」

抹茶は拍手しながら的の穴を興味深げに眺めていた。

乙海
「弾丸自体は、問題なさそうです
 狙い通りに引き金を引いて、着弾もできたので」

オレは弾丸を抜いて抹茶に銃を返した。


164 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:10:02.953 ID:OkrZNOqs0
乙海
「しかし、この銃の部品は丁寧な仕事だ
 これも抹茶さんが?」

抹茶
「いえ――これはルミナス・マネイジメントを通じてです
 なんでも名うての鍛冶屋に特注で作ってもらったと聞きました――
 僕も分析してみましたが、ズレがほぼないすごい仕上がりです」

抹茶は手元の銃と弾丸を見ながら、感心した風に呟いた。

抹茶
「……それはそうと、ありがとうございました、色々と参考になりました
 今日はこれぐらいにしましょう……なんだか研究意欲が湧いてきたので
 また、協力してもらうかもしれませんね」

抹茶は、銃を机の上に置いて、謝礼の意を仕草で伝えた、すぐに背を向けてノートにメモを取り始めた。
――どうやら、オレの行動で何らかのスイッチが入ったらしい。
研究者だから、やるべきことが見つかったらすぐに全力を注ぐのだろうか?

乙海
「わかりました――また、機会があれば協力します」

ともかく――ここにこれ以上オレが居ても、何も協力できそうなことはない。
門外漢がずっとここにいても彼の迷惑になるだけだろう。
抹茶の熱心な姿勢に感服しながら、そそくさとオレは部屋を出た……。

165 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:12:21.462 ID:OkrZNOqs0
抹茶の部屋を出たオレの前には、一人の兵士がいた。
その顔は半分が鋼で出来ていた。性別は男だが、その佇まいからは金属の重さを感じ取れる。
――白衣を着ているから、彼も研究者か?

???
「コンニちは――確か竹内乙海サンでしたね」

ノイズのかかった、片言の話し方。鋼の肉体がきしみ、ギリギリと音がする。
それは生物的な特徴を切り捨てた不気味な雰囲気をオレに感じさせた。

社長
「ワタシ、トニトルス・フェラムの社長です――お見知りおきヲ」

――トニトルス・フェラム……義肢に関わる会社だから、義肢を装着しているのか?
肉体を捨てたような、不気味な外見に――オレは訝し気な感情で握手を交わした。

166 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:16:29.103 ID:OkrZNOqs0
ずっしりとした鋼の重み。やはりこれは義肢なのだ。
ブラックのものよりも重みを感じる。置換している部位が多いのだろうか……?

社長
「ソレハソウト……ユリガミは素晴らしい女神デス、貴女も信仰してみませんカ?」

……オレが頭の中で考えていると、唐突に胡散臭い言葉でオレに語り掛けた。
ユリガミ……そういった都市伝説は、オレも聞いたことはあった。
とはいえその具体的な内容は知らなかった。ただ、そういう存在がいることだけしか知識はなかった。

乙海
「はぁ……」

知識を得られる……それ自体は有意義かもしれないが、
あまりにも唐突にその話題を振られ、オレは困惑したように答えることしかできなかった。

社長
「ユリガミは剣術を極めた女神……その長イ黒髪と顔は美シク、立ち振る舞いもまた美しイ
 窮地に陥った乙女を助けるが、特に性欲で動く男を嫌ウ……そういう存在デス
 嗚呼トテモ格好良ク美しイ……ウオゥオォォオオオオオ」

早口になって、さらには雄たけびをあげながら話を続けた。
ユリガミの都市伝説に、彼はずいぶんと熱をあげているらしい……が、オレは困惑したままだった。


167 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:18:34.749 ID:OkrZNOqs0
ブラック
「社長、こんなところにいたのですね」

……そうしていると、助け舟とばかりに――社長の後ろから、ブラックが現れた。
そういえばブラックはトニトルス・フェラムの秘書だったはずだ。ならばこの場に居るのもおかしくはない。

それにしても、彼女は背が高い――オレより少し低いぐらいで、170cmは確実に超えている。
社長よりも大きいその身体からは、彼女の方が格が上であるように思えた。

乙海
「どうも」

ブラック
「ああ、乙海さん……こんにちは
 社長は、全身を改造しているユリガミを信仰する者ですが……一応は、悪人ではないのでご安心を」

秘書であるはずのブラックは仕えているであろう社長相手に、そこそこ辛辣な言葉を投げていた。

社長
「ソッスネ」

――そして、社長も否定はしない。この二人は、上下関係のある立場だと思われるが――それが感じられない。
どういうことだろうか……しかし、オレの疑問は解決することなく二人の会話は続いていた。


168 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:19:34.165 ID:OkrZNOqs0
ブラック
「それはそうと――社長はなんでここにいるのですか」

社長
「抹茶サンの部屋に遊びに行こうと思ったら――乙海サンニデアッタんですよ
 ギィギギギキギギギッ」

ブラック
「ああ、そうですか……雑務処理があるので部屋に戻っていただけますか」

社長の聞き取りがたい片言を、ブラックは軽く流していた。
そして相変わらず言葉は淡々としている――この二人の関係性が読めない。

社長
「ソレデハ、社長は風のように去るッス――」

そう言うやいなや、社長は、足に取り付けた義肢のバーニアを作動させ、その場から高速で立ち去って行った。

――あれは義肢に備わった技術の一端なのか?オレはその背中が見えなくなるまでその軌道を目で追っていた。


169 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:21:48.455 ID:OkrZNOqs0
乙海
「一体何だったんだ……」

嵐のように立ち去る、理解できない兵士……。たけのこ軍には、あんな兵士がいるのか……
オレがきのこ軍を選択したのは、正解だったのか……?

ブラック
「……気にしないほうがいいですよ」

呆然と立ち尽くしたオレに、ブラックが頷いた。

ブラック
「一応、彼の会社の義肢の技術は優れていることは間違いありません……
 私の義肢も、トニトルス・フェラムのものですから――」

すこし、気まずそうにブラックは語った。
丁寧な仕草とは裏腹に、やはり右眼を走る傷はどこか痛々しくも見える。

オレが彼女を格上と感じているのはこの傷が故なのだろうか?

ブラック
「会議所は、本当に様々な人物がいるから、ああいった特殊な人物もいます――
 あなたとは馬の合わない人間ではない人物も、少なからずいる――そういうことですね」

……そんなことを考えていると、彼女は話を続けた。

170 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:22:57.496 ID:OkrZNOqs0
乙海
「………」

――その理屈は理解はできるが、やはり……あの社長という男は、苦手だと思った。

ブラック
「まぁ、あの人は特別とっつきづらいでしょうから、適当に流してくれて構いませんので――」

あたりの空気は少し沈んでいた。困惑と気まずさ靄のように包んでいるようにも思えた。

ブラック
「それはそうと、私の教えた海岸はどうでしたか」

その空気をブラックも察したのか、話題を変えた一言がこぼれる。
共通の話題――するすると話を続けられる前向きな話題……。

乙海
「……あの場所は、よかったです」

ブラック
「なら、よかった……でも、他の方には秘密にしておいてくださいね
 あれは、穴場であるべきですから……」

乙海
「そうですね」

ブラック
「――では、また
 私は、社長の手伝いがありますので」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

171 名前:SNO:2020/09/06(日) 01:23:31.729 ID:OkrZNOqs0
貴重な女性兵士は話動かす中でも便利

172 名前:きのこ軍:2020/09/06(日) 01:42:47.093 ID:tngxbY9Ao
社長やばい人で笑う

173 名前:Route:A-7:2020/09/06(日) 21:16:36.076 ID:OkrZNOqs0
Route:A

                 2013/4/13(Sat)
                   月齢:2.7
                    Chapter7

174 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:19:01.850 ID:OkrZNOqs0
――――――。

それから3日が経ち――オレにとっては二回目となる大戦が始まった。
ルールは兵種制……階級制のように、ランダムに配布される兵種バッヂを身に着けて戦うというものだ。

階級制では、その位に応じた運動能力が身に付くが、兵種制ではそうはいかない。
このルールでは、指定された兵種に応じた行動しかできないという特徴があった。

だから、狙撃の素質がない者が狙撃兵になることもあれば、接近戦の達人が前線兵となることもある。
適材適所になるかならないか……それがランダムで決定されるのがこのルールの醍醐味でもあった。

また、大活躍をした際は、運動能力が強化されるというルールが――階級制のものと、類似している点もある。

とはいえ、単純な基本的な能力ではない、場の変化に対応する力が必要になるルール。
自分の有利不利への対応――それが求められている……。

新人教育課程で聞いたフレーズを、オレは頭の中で反芻していた。

175 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:23:34.581 ID:OkrZNOqs0
兵士
「ほら、バッヂだ
 ――お前さんは衛生兵だな」

当日、オレは、衛生兵となった。
衛生兵……それは、傷ついた味方を手当てし、戦力を取り戻す役割がある。
こうして門外漢の役割を担うことも、よくあることなのだと教育課程で聞いた。

負傷した兵士のほか――戦闘不能状態になった兵士が転送される場所、バーボン墓場に兵士を救うことができる役割がある。
とはいえ、その治癒行動をうまく成功させなければならないのだが……。


176 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:32:52.547 ID:OkrZNOqs0
救う方法はふたつ――ひとつは、メイジとして、治癒魔術を使うことだ。
治癒の魔術は、創傷の回復などに効果を示す魔術……。大戦外の医術でも使われる技術のひとつだ。
原理としては、代謝を促進し、症状の回復を早める治療法というべきか。
――すなわち、主に簡単な外傷と、内科的治療に使われ、素早い治療と、魔力さえあればすぐに治療できる利点がある。

もうひとつは――メイジ以外の、すなわち薬品の使用と、手を動かした治癒。
複雑な外傷や、体内の疾患はこちらが主として使われる。
……こちらは、技術。メイジと違い、理論上は誰でも行うことのできる行為。
技術の研鑽と、道具が必要であるが……複雑な治療においては、こちらが主となる。

とはいえ、オレが大戦で担うのは簡単な応急処置レベルだ。
戦いながら、オレは門外漢の分野である治癒ができるだろうか?


177 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:43:05.479 ID:OkrZNOqs0
オレは、前線でもなければ後方でもない――その中間の部隊に配属された。

黒砂糖
「――乙海か、この前といい、縁がある」

黒砂糖の翡翠色の瞳が、オレを見据えた。
吊りあがった目からの視線は――威圧感を覚える。それが鉄人と呼ばれる強者特有のものなのだろうか?

黒砂糖
「私は爆撃兵だ――ちょっとだけ、面倒な役割だな」

爆撃兵は、文字通り――敵軍を空中から攻撃する兵種だ。
一つは技術の進歩により生まれた小型飛行ユニットを背負うことで――もう一つは、魔力を用いてで飛翔する。

メイジなら後者――ファイターなら前者で戦うが、武器の都合もあり、撃破することが難しい役職でもある……。
活躍することができれば、いわば毒に近いものをばら撒き、敵を永続的に痛めつけられることができるが……。

ともかく、それをちょっとだけ――と表現するのは、自分がその役割を為しえる自信があってのことだろう。
鉄人――そう言われるだけの実力があることを、再び実感していた。


178 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:45:32.923 ID:OkrZNOqs0
黒砂糖
「メイジではないと、こういう役職は面倒だが――
 自分の技術を深める――という点では学べることが多い」

黒砂糖は、応急手当セットのマニュアルを見るオレに、そうアドバイスした。
その佇まいからは大きな自信と信頼感を覚えた。

乙海
「はい」

黒砂糖
「射撃の腕を発揮するにせよ、日々練習や実戦で触れた勘も肝要になる
 ――その勘を鍛える意味でも、やれるだけはやってみておいてほしい」

乙海
「わかりました……」

黒砂糖は、きわめて淡々とした口調で語った。

――そのアドバイスの終わりと同時に、集計班の合図が響いた。

集計班
「ファイエルッ!」

179 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:48:18.704 ID:OkrZNOqs0
――戦局は、初めは両軍ともに肉薄していた。
オレは相手の様子と、味方の動きを伺いながら、応急手当キットを握りしめていた。

黒砂糖
「――メルティカース」

その戦況の中、黒砂糖が爆撃をたけのこ軍陣地に決める立ち回りを見せた。
毒をばらまく魔術を詠唱し――空を魚のように自由に舞い踊りながら、紫煙を地上に覆わせたのだ。

たけのこ軍兵士
「ごほ、ごほっ!」

たけのこ軍
「うう……、やりやがったな……」

メルティカース自体、元々半永続的に続く魔術だが――
大戦では、外部から解除されない限りはそれが永続するような仕組みになっている。
……これは、魔術以外の方法で爆撃を決めたときも同じではあるのだが。

集計班
「たけのこ軍、毒により、戦力1%ダウン……ただいまの戦力差は、きのこ軍90%、たけのこ軍90%です」

集計班のアナウンスが響く。状況はいまだ互角だった。

180 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:49:42.209 ID:OkrZNOqs0
黒砂糖
「――私の仕事はとりあえず為した」

黒砂糖が、オレの隣に舞い降りた。

黒砂糖
「工作兵がメルティカースを解除する可能性もあるが……この毒のアドバンテージを活かしながら戦うことになる」

黒砂糖は、オレに手短に告げた。
工作兵――爆撃兵の作った敵陣への永続的なダメージや、制圧兵の立てた敵軍の士気を落とす制圧旗などを破壊できる兵種……。

黒砂糖
「とりあえず、私は再び跳ぶ……」

オレが、知識を整理している間に、黒砂糖は再び空へと飛んだ。

オレも……衛生兵として活躍できるだろうか?
懐の拳銃に手をかけながら、オレはバーボン墓場までの道のりを確認していた。

オレは、衛生兵……オレ自身が戦闘不能になりバーボン墓場に転送されては、その役割すら果たせない。
敵との交戦を避けながら、なんとか無事にバーボン墓場まで行く必要があるのだが……。


181 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:53:15.201 ID:OkrZNOqs0
――ふと、空中に影が見えた。これは敵の爆撃兵か?

たけのこ軍兵士
「くらえっ、爆撃攻撃ッ!」

乙海
「!」

オレの予感は的中していた。
影が舞うより早く、オレは近くの岩陰に飛び退いた。

瞬間、轟音が響き、びりびりとした衝撃波を岩越しに感じていた。
同時に……辺りに熱気が湧き、だらりと汗が流れ始める。

乙海
「魔術ではない爆撃……どちらにせよ、ここに居ては戦意を奪われてしまう」

オレは、敵の目を避けながら、身をかがめてその場を駆け抜けた。

たけのこ軍兵士
「撃て撃て!」

きのこ軍兵士
「うおおおーッ!くらえ!コパンミジン!」

ガガガッ――と銃が撃たれる音が背後で聞こえる。
魔術による爆音が背後で響く。

社長
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

182 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:54:46.291 ID:OkrZNOqs0
乙海
(やや、劣勢か――)

集計班の言葉を背にして、オレは駆ける、駆ける…ただ目的の場所へ向かって戦場を駆けていた。

集計班
「たけのこ軍爆撃兵の攻撃が再び成功、これで爆撃カウンターは2に……」

どこに居ても、同じ声量のアナウンスをオレは聞いていた。

――それにしても、どこかで再び爆撃されたらしい。
なんて面倒な事態が起きたのだ……。

とにかく、一刻も早く、衛生兵としてその職務を全うしなければいけない――。
オレは……与えられた役割のために、転がり込むようにバーボン墓場に駆け込んだ。

183 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 21:57:17.474 ID:OkrZNOqs0
――バーボン墓場は、十字の形をした墓標が、秩序をもった等間隔で整然と並んでいる墓場だが、
その墓標の下に骨が眠ることはない。……すなわち、飾りのようなものである。

両軍の兵士はクリスタルを通して大戦を観戦していた。まるで酒盛り場のように……というより、すでに酒を飲んでいる者までいた。
本物の墓場ならば、このように盛り上がったりはしないだろう……。
少し不謹慎な光景のようにオレは思えた。

あるいは、この姿は仮初で――誰もいないときに、墓場に巣食うなにものかが、夜な夜な盛り上がるのかもしれないが……。

きのこ軍兵士
「オイゴルァ!そこは撃たんかい!」

たけのこ軍兵士
「よしよし……着実に削ってる、これはたけのこ側の勝ちだな?」

まるで、観客のようにふるまう兵士……軍服は着用しているから、服装との乖離にひどくアンバランスに見えた。


184 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:00:43.884 ID:OkrZNOqs0
きのこ軍兵士
「おっ乙海ちゃんか……衛生兵か、さっそく兵力を立て直してくれ!」

たけのこ軍兵士
「クソーッ、ここに来るとは……戦いの展開が読めなくなるじゃないか」

敵のぼやきと、味方の歓迎する声――オレは、その言葉に応じることなく、てきぱきと任務をこなそうとしていた

乙海
「ええと……このキットだな」

衛生兵には、メイジであろうとファイターであろうと、バーボン墓場用の回復キットが配布されていた。
マニュアル通りに回復キットを使用することで、味方兵士の一部が戦線に復帰できるようになる。

きのこ軍兵士
「よし、たけのこ軍をまたやっつけてやるぜ!」

きのこ軍兵士
「サンキューッ!」

きのこ軍兵士
「ありがとう、乙海さん」

様々な兵士が、礼とともに戦場に駆けた。
なんとか、キットを使用できたと安堵したその瞬間――。


185 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:02:26.458 ID:OkrZNOqs0
乙海
「!」

筍魂
「――おっと、不意打ちを防ぐとは」

バーボン墓場から足を踏み出したその瞬間、筍魂が、オレに蹴りを放っていた。
咄嗟に回復キットの蓋で受け流して、なんとかダメージは避けることはできた。

瞬時に、オレは筍魂に銃を抜いて引き金を引いて反撃する!

筍魂
「はっはっは――俺は防衛兵なんでね――まぁ、そうでなくとも銃ぐらいなら防げるが」

筍魂は、物怖じすることなくオレの放った弾丸を盾で逸らして受け流した。
防衛兵――それは味方を守る兵種。どんなに重い一撃でも、その盾で受けきり、そして反撃することが可能。
メイジならば、バリアを張る魔術を操ることができ――ファイターなら、通常なら深手を負う攻撃だろうと、その肉体を持って受け流せると聞いた。

集計班
「衛生兵により、きのこ軍の兵力が5%回復しました
 ただいまの戦力差は、きのこ軍35%、たけのこ軍58%です」

オレの衛生兵としての働きでも、戦況はなかなかひっくり返らない。
あと20%以上の兵力……そして、目の前の手慣れの敵……オレはどう対抗する?

186 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:03:56.318 ID:OkrZNOqs0
筍魂は、微動だにせずにオレを見ていた。オレの動きを待っているかのように。
戦況は常に動いているから、千日手――というわけにはならないだろうが、ここで彼だけに構うメリットはあるだろうか。

回復キットを自陣から持ち出せるのは、1人1個までというルールがあった――。
使ってしまったら自陣まで戻るか、誰かから奪いに行かなくてはいけない。
さて――どうすればいい……?

たけのこ軍兵士
「魂さん、お疲れ様です!その衛生兵を倒しましょう!」

そうこうするうち、ますます、状況は悪化していった。
援軍までやってきたのだ。
オレは、どうやってこの状況を切り抜けるか……。そう思っていると……。

¢
「砲撃ッ!」

¢の声とともに、巨大な砲弾が援軍目がけて飛んできた!

筍魂
「ちっ――横やりが入ったか」

筍魂は、瞬時に転がって避け――その瞬間、砲弾が炸裂した。

たけのこ軍兵士たち
「うわーーっ!」

断末魔とともに、近くに居た兵士たちはオレの背後のバーボン墓場に転送された。

187 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:07:05.875 ID:OkrZNOqs0
乙海
「これは――」

砲撃の衝撃波で、オレの足元には偶然にも回復キットが転がってきた。
回復キットを持ち出せるのは1人1個まで――だが、落としたものや奪ったものでも使用することは制限されてはいない。

乙海
(これはチャンスだ!)

オレは、再びバーボン墓場に行き、キットを作動させた。
兵力は再び回復し、さらに――。

「衛生兵により、きのこ軍の兵力が5%回復しました
 ただいまの戦力差は、きのこ軍32%、たけのこ軍29%です」

先ほどの砲撃もあってか、戦力差はひっくり返っていた。
このままオレの為すべきことを続けなくてはいけない。

きのこ軍兵士
「ありがとう!恩に着るぜ」

社長
「シマッタァ回復サレテシマッタァ、ギギギギギ――」

感謝の言葉。悔しそうな言葉。敵味方入り混じる言葉を背に、オレは再び戦場へ駆けだした。

筍魂
「――おやおや、目ざというえに判断もなかなかのものだ……
 しかしこのまま走らせるわけにはいかんな、戦闘術魂――リーフストーム」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

188 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:17:04.790 ID:OkrZNOqs0
乙海
「くっ!」

――今度はかわしきれず、刃が左腕をかすった。カーキ色の軍服に血がにじむ……。
怪我は軽いようだが、オレはその攻撃を見抜けていないことを認識した。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍25%、たけのこ軍20%です」

ようやく生まれた優位は、未だ残っているらしい……今は目の前の相手に集中できそうか?

筍魂
「さて、瞬時の判断と運もあって、2連続の補給――なかなかセンスがあっていいじゃないか
 しかし、まだまだお前はペーペーだ……俺が戦闘術魂の達人であることを見せないとな」

オレの視線の先で筍魂は、腕をだらりと下げ、手のひらを大きく開いた不思議な構えをとっていた。
――なんだ、どうする気だ?
オレはその一挙手一投足に注目しようと凝視していた。

筍魂
「ストーンエッジ――」

その瞬間、彼は足元の石を蹴り上げ、オレに向けて飛ばした!


189 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:20:48.081 ID:OkrZNOqs0
乙海
「!」

ただ蹴り上げたとは思えない石の速さ――オレは、咄嗟に、その石に銃弾を撃ち込んだ!
標的は小さく、かつ速度もあるが――軌道は読みやすい直線的なものだから、なんとかそれを射貫くことができた。
石と銃弾、二つのエネルギーがぶつかり相殺され、砕けた石が地面に散らばった……。

筍魂
「ほう、大した技術だ――新人という立場は年数だけかもしれないな」

感心したように、筍魂は呟いた。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍18%、たけのこ軍12%です」

それと同時に集計班のアナウンスが聞こえる。
優位はそのまま――そう思った瞬間……遠くで轟音が聞こえた。

同時に、筍魂の持っていた通信機に連絡が入る。

たけのこ軍兵士
「魂さん、制圧兵長がまた活躍してくれた!この調子で攻める!」

筍魂
「そうか」

冷や汗がオレの背中を流れた。
……まずい、嫌な予感がする。このままここに留まってはいけない感覚がある。
しかし……焦って動きだすこともさらにまずい気がする……。


190 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:22:39.086 ID:OkrZNOqs0
筍魂
「――なかなか、やるな
 今、通信機を通した声はお前にも聞こえたと思うが……焦って攻めようとはしない
 射撃競技の入賞者だって791さんから聞いたことがあるが、オレが考える本物の気を感じる」

筍魂が、再び構えを取った。
オレは、銃に弾丸を込め、相手の動きを見る――対峙して、オレも筍魂も動かない。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍4%、たけのこ軍5%です」

……ギリギリの戦況。僅かではあるが再び優位はひっくり返った。
どうする?そんなことが頭を掠めたその瞬間……。

集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は3%でした――」

集計班のアナウンスが聞こえ……オレと筍魂の対峙もなかったかのように、あっさりと大戦は、終わった。
同時に、オレの左腕の傷は綺麗さっぱりなくなっており――血で滲んだ軍服も、いつの間にかきれいになっていた。


191 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:24:09.482 ID:OkrZNOqs0
筍魂
「一応――勝ったか」

筍魂はその場に立ち止まったまま、やれやれ――と手を振りながらそう言った。

乙海
「………」

今回も……敗北したが、軍の敗北に対しては、悔しさも、悲しさもなかった。
心がなぜか揺れ動かなかったのだ。

乙海
「………」

しかし――この状況で、筍魂との戦いに横やりが入ったことには、どこか釈然としないものがあった。

筍魂
「煮え切らない――って表情だな」

筍魂はオレの表情を伺いながら真剣にそう呟いた。


192 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:27:03.145 ID:OkrZNOqs0
乙海
「ああ――」

オレは、先人に対してではあるが――取り繕ったりしない、生の感情で答えていた。

筍魂
「お前のセンス――鍛えればさらに伸びそうだ
 そのもやもやした気持ち――戦闘術魂にぶつけてみないか?」

戦闘が終わるや否や、筍魂はややうさんくさい顔をしながら人差し指を立ててオレに提案した。

筍魂
「なにより、戦闘術魂はメンタル・トレーニングにも最適――
 射撃で重要なメンタルも鍛えられるぞ?」

どうする……?彼は信頼できる人物なのか……?
筍魂の言葉が本当かは分からない。それでも、草や石といった自然物を操り正確にオレに狙った技術は本物だろう。
特に、その行動を読ませない姿勢は研鑽された技術の証明にも思えた。


193 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:29:45.092 ID:OkrZNOqs0
乙海
「とりあえず、お試しで――というのは可能ですか」

――オレは、完全に頷くわけではないが、断るわけでもない……やや腰の引いた折衷案を答えた。

筍魂
「フッフッフッ、それも可能だぞ
 何しろ弟子がほぼほぼいないもんでなっ、ははははは……」

肩をすくめて筍魂は笑った。
そのうさんくささが、弟子のいない理由?それともほかに理由があるのだろうか――。
ともかく、その技術を学ぶことは今後重要かもしれない。射撃以外の技術も、大戦では必要になることはすでに体感済みだ。

乙海
「では、その方針で――」

筍魂
「ああ――とりあえず、月曜日、様子見に、俺の店にでも寄ってきてくれ
 確か、お前は昼の予定が入っていなかったはずだから丁度いい――俺からも、会議所の方に伝えておくから予定も入れられないだろう」

筍魂は、まくしたてるように言葉を並べたかと思うと、その場を立ち去って行った……。
――戦闘術魂を学ぶ。オレにとっては未知の古武術だが、吉と出るか凶と出るか……それはまだ分からなかった。

きのこ軍兵士
「お、乙海そこにいたのか――片づけ手伝ってくれ――」

乙海
「はい」

一抹の不安に胸を馳せながらも、味方の兵士に呼ばれ、オレは大戦の後片付けへと向かった……。

194 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:33:46.877 ID:OkrZNOqs0
オレは大戦の後片付けを終え、帰路についていた。
時刻は19:07――。あれから、後夜祭をそそくさと抜け出して、まっすぐに帰宅したのだ。

オレは後夜祭のことを思い返しながら道を歩いていた。

¢も同じことをしていたから……という理由もある。
彼は……後夜祭の直前、姿を変えてオレに話しかけてきた。

¢
「やぁ、乙海」

乙海
「……ええと、何方ですか」

金髪の短髪に低い身長……覚えのない声と姿をした兵士に、オレは戸惑っていた。

¢
「おっと……僕だ、¢だ」

オレの疑問に答えるように、ぽんと煙が立ったかと思うと、見知った¢の姿がそこにあった。


195 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:34:39.254 ID:OkrZNOqs0
¢
「この後夜祭は、イベントに関わっている兵士以外は自由に帰れる
 今回も、きみは活躍したから、面倒事になるかもしれない……それが苦手なら、だからさっさと帰ってもいいんだ」

¢
「僕は時々こうして他人に成りすまして逃げるようにしている……
 とはいえ、これは僕にしかできない……乙海は適当に言い繕って去ればいいと思うよ」

乙海
「はぁ……」

¢
「いつものことだが、大戦を終えるとすごく疲れるから、毎回毎回さっさと帰ろうと思っていてね……
 エースと呼ばれるぼくがそうするんだから、今回も活躍した新人のきみも同じようにしても文句は少ないはずだ
 たぶん――」

オレはその言葉に深く納得し、同時に¢の考え方に共感もした……。
そんなことを思い返しながら、家のドアを開けると……親父が、新聞を読みながらソファーに腰かけていた。


196 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:37:23.200 ID:OkrZNOqs0

「乙海――帰ったか」

親父は視線だけを動かして、淡々と呟いた。

乙海
「あぁ――久しぶり」

父はいつも家を空けているから、いつ帰ってくるかも不定だ。
このように突拍子もなく家の中に居ることもあった。


「今日は久々に戻ってこれたのでな
 さて、今日の大戦を見ていたが……時の運だけではない、センスがあるのを感じた」

乙海
「そう……みたいだね」

親父は、距離感は疎遠なものの、褒めるときは褒めるし、叱る時は叱る……
オレを導くことに関してはしっかりとした人物でもあった。


197 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:38:59.065 ID:OkrZNOqs0
乙海
「そういえば、戦闘術魂……だったかな
 それを修めているという、筍魂という人に弟子入りしないかと言われたな」


「……ふむ、そういえば乙女はあいつと対峙していたな
 あいつも、乙海のセンスに目を付けたか……」

その口ぶりは、少なからず筍魂のことを知っている――そんな感じを覚えた。

乙海
「彼を知っているのか?」


「……ああ、彼とはいろいろな点で付き合いがあってねオレが会議所で兵士として過ごしていた時に、武術のことで語り合ったことがある
 オレは戦闘術魂に入門はしなかったが、あいつの織りなす技は目で盗んだことはある」

在りし日の憧憬を思い浮かべているのだろうか、感慨深げに親父は答えた。


198 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:39:32.530 ID:OkrZNOqs0
乙海
「………」


「あいつの腕前は本物だ
 彼に並ぶ武術家……オレが知っている限りでも、3人ぐらいしか思い浮かばないな」

乙海
「……それぐらいしかいないのか」


「そうだな……彼女は天性のセンスがあったが、今は姿をくらませているから……
 会議所にいる黒砂糖ぐらいが、あいつに並ぶ武の術を持つものになるだろうか……」

懐かし気に、思いに耽りながら親父は語った。

乙海
「……黒砂糖、鉄人と言われている兵士」

爆撃兵として空を舞った黒砂糖の姿を、オレは思い返していた。

199 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:41:04.977 ID:OkrZNOqs0

「ああ……今日の大戦では爆撃兵として飛び回っていたな
 そういう魔術の扱い方も素晴らしいが、素手での武術に関してもかなり――というより、世界での屈指の腕の持ち主だ」

乙海
「96%の戦力を一人で削いだ――それは聞いたことがあるが、技術面でも優れた兵士だったのか」


「それに関しては、あまり表には出さないからな……
 様々な武術と魔術……総括した技術でその戦闘力を作っている兵士になる
 ……それはそうと、乙海は戦闘術魂をやってみるのか?」

乙海
「――試してみようと思っているよ」


「そうだな、お前はまだ若い
 まだまだ技術をスポンジのように吸収できるから、いいんじゃないか」

オレの答えに、親父は嬉しそうに頷いた。
そういう素振りを見たのは、オレが会議所に入所することを決めたとき以来だった。

200 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:41:54.368 ID:OkrZNOqs0

「あいつはその内面を掴ませない男だが……悪人ではない
 武術に関しては真摯だ……それ以外がイイカゲンなところはあるがな」

筍魂と親父は、親交関係があるのだ――と、改めて感じる。
思えば親父はそうやって交友関係をオレに話したこともなかったから、それが意外に思えた。

乙海
「ありがとう、親父……決心がさらに固まった」

親父の言葉に背中を押され、さらに親父の違った一面を見られ――オレの口元は知らずに緩んでいた。


「これからオレはまた家を空けることになると思うが、努力は惜しむなよ
 陰からになるが、応援はしているからな」

そして……オレと親父は、本当に久々に……会話をしながら、夕食をとった。


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