■掲示板に戻る■ 全部 最新50 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 901- 1001-

S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

801 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 21:57:44.393 ID:5sApY14E0
―――――。

わたしは……どこかのビルの駐車場を歩いていた。
ヤミはどうなったの……?そう思っていると、人影を視認した。

???
「誰――?」

……それはヤミではなかった。
女性の声に、わたしはびっくりして、立ち止まる。

???
「貴女は――」

ぬっと、姿を現した女性は、わたしを見定める様に眺めるかと思うと―。

???
「…ごきげんよう、お嬢様」

そう、わたしを呼んだ……。

802 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 21:59:23.758 ID:5sApY14E0
彼女の髪は、シズやフチのように白く――
その目もまた、シズやフチのように漆黒の眼球と青白い瞳をしていた。

ふわりとした髪は背まで伸び、ピアスだらけの耳に、左手首に巻き付いた手首。
くるくると螺旋を描く髪と、紫色のレディーススーツからは高貴な雰囲気がある。

……しかし、右腕と両足は、機械であることを隠さない義肢で出来ていた。
すでに死した社長と同じような存在ということ……。
どこかチグハグな印象をわたしは覚えていた。

???
「弦夜――例のお嬢様です――
 ――私がついていますので、ご安心を」

女性は、他の誰かの名前を呼んだ。
それに呼応するようにコツコツと靴の音が響く……。
……そして足音が近づくとともに、サングラスをかけた白髪の男性が現れた。

身長はわたしよりも高い。黒いスーツとネクタイはビッシリと整い、
まさに上に立つもののような、帝のような雰囲気を醸し出している。

弦夜
「すまんな、サラ」

弦夜と呼ばれた男性は、女性をサラと呼んだ。


803 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:02:20.275 ID:5sApY14E0
ユリガミ
(あれ――)

……なんとも言えない違和感があった。
何かが噛み合わないような……それでも、弦夜と呼ばれた男性が、女性をそう呼ぶのなら間違いないだろう、とも思えた。

実に不思議な感覚だった。
わたしにとって、彼らは敵ではない――そう本能が告げていた。

弦夜
「ふむ……
 なるほど、そういうことか――」

弦夜は、見定める様に男はわたしの身体をじろりと見て――わたしの首を見たとたん、納得したように頷いた。
その視線に合わせる様に、わたしの手が首筋をなぞったとき、わたしもまた納得した。

サラ
「流石は、女神の血を引くだけはありますわね――【勾玉】を持っていても、問題がない様子です
 ……まぁ、危なっかしいことに、変わりないですわ……」

弦夜
「それにしても、きみがここに来るとはな――
 ――あちこちを彷徨っているとは聞いたが……確かなようだ」

首の【勾玉】を見て、彼らはこの場の状況を把握しているらしい。
会話内容から察するに、これこそがユリガミであることの証ということなのだろう。

それにしても、わたしをお嬢様と呼ぶなんて……彼らはわたしの素性を知っているのだろうか?


804 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:04:05.304 ID:5sApY14E0
サラ
「弦夜……お嬢様をどうします?」

サラは、生身の左腕で弦夜のタバコに火を着けた。
それはもはや日常動作であるかのように、自然と息の合った動きでもあった。

弦夜
「そうだな……」

煙を吐いて、弦夜は頷いた。

弦夜
「とりあえず……
 きみは、我が社――ルミナス・マネイジメントの警備をすり抜けてここに来たのは間違いない……」

その言葉で思い出した。彼は月詠弦夜(つくよみげんや)――ルミナス・マネイジメントの長。
企業のトップ。帝のような存在……だからわたしは上に立つものなのだと判断したのだろう。
そして、サラはそれを補佐する秘書だということも同時に思い出す……。

サラ
「そうですわね
 一応、素性を知ってはいますが――幸鉢の得た情報からも考えると……
 ……お嬢様を消したほうが、安全かと思いますが?」

――物騒な発言に、わたしの心はぴくりと跳ねた。
義体化された右腕は兵装であることには違いはない。
……顔色一つ変えずに、日常会話のように告げるサラは、今まで出会った男よりもぞくりとするものがあった。


805 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:05:47.653 ID:5sApY14E0
弦夜
「サラ……戯言はいらんだろう」

サラ
「あら、バレました?
 ふふふ、冗談ですよぉ、お嬢様……単に、弦夜とお話しするのに嫉妬してるだけですから♪」

それを手で制する弦夜。それに、サラの口ぶりからすれば、本気で殺す気はないようだ。
これがわたしを油断させる作戦かもしれないから、気を緩めることはできないけれど……。

弦夜
「それにしても――きみが、いろいろと動いているとは
 にわかには信じがたいが……」

二本目の煙草に手を付ける弦夜。サングラスの奥の瞳は見えない……。
ゆっくりと煙を吐き出すと、そう答えた。

弦夜
「そこらの強者に負けぬ【力】も備えているのは、間違いないようだが――」

サラ
「そうですわね――あの子も出し抜けるのは確実でしたわね」

見据えるような弦夜の言葉に、わたしに備わる【力】を思い返す……。
そうだ……わたしは太刀の腕に覚えがあるのだ……。
その腕で敵を打ち倒せるからこそ――ユリガミと、そう呼ばれるのだ。

806 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:06:26.464 ID:5sApY14E0
弦夜
「まぁ、それはともかく……聞きたいことがある
 きみは何のために戦っているんだ……?」

弦夜は、三本目の煙草を吹かしながら、本当に意外そうに……そう言った。
どうして、そんなことを言うのだろう……?わたしにはわからなかった。
わたしのことを知ってはいても、行動する理由を知らない――それぐらいしか、訊ねられた理由が思いつかなかった。

弦夜
「【彼女】は君の手によって死んだ――
 他にも、会議所の優秀な兵も、殺され……世界から希望が失われているその状況で
 きみは――何のために突き進むのか――その理由を聞きたい」

真剣に問う弦夜の言葉には重みがあった。
それは帝としての、上に立つものとしての立ち振る舞いのようにも見えた。
いまだにサングラスの奥の瞳は見えないが……おそらくはその眼もまた真剣なのだろう。

わたしは――どうしたいの――?
いいや、悩む理由はない。わたしにはたった一つの単純な答えがある。


807 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:06:53.266 ID:5sApY14E0
ユリガミ
「真実を探すため――」

はっきりと、堂々と――わたしは彼らに答えた。

弦夜
「そうか……」

彼はどこか静観したような言葉を返すと、吸い終わった煙草を携帯灰皿に放り込んだ。

サラ
「あらあら、お嬢様は自信たっぷりのようですわね」

そして、にっこりと口を緩めたサラが、携帯灰皿を回収する……。
ふたりはわたしの言葉をどう受け止めているのだろうか……。


808 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:07:20.832 ID:5sApY14E0
弦夜
「……それがきみの望みなら、俺はきみには干渉はしない
 これ以上……我が社に敵対しなければ、の話だが
 サラの方はどうするかは分からんが」

サラ
「ふふふ、弦夜の言葉は絶対ですもの――
 私も、お嬢様に手出しはできないですわ、ふふふ……
 まぁ、貴女の【力】は危険ですから、個人的には無力化ぐらいはしたいですけど♪」

真剣で重苦しい弦夜と対比して、サラの言葉はひどく明るく、それが逆に恐ろしさを際立てていた。
それでも……わたしは真実にたどり着かなくてはいけない。
だからこうやって前に進んでいるのだから。


809 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:07:59.242 ID:5sApY14E0
弦夜
「――さらばだ」

サラ
「また会うかは分かりませんが――雑魚相手にはやられないように」

そして――ふたりは投げ出すように、突き放すようにわたしにそう言い残すと、その場を立ち去って行った。
サラは弦夜の腕に縋りつき……弦夜はそれを突き離そうとせず、そのままに……。

革靴のカツカツとした靴音と、義体由来の金属のコンコンとした足音が辺りに響く。
立ち去る彼らの背中は……少し孤独に見えた。

――わたしは、遠くなるふたりの背中を、ぼうっと見つめていて……。

810 名前:SNO:2020/12/14(月) 22:08:27.031 ID:5sApY14E0
しまったぁ・・・久しぶりに出るキャラにふりがなをつけていなかったぁ・・・

811 名前:きのこ軍:2020/12/14(月) 22:24:35.359 ID:.QutmfHso
気にかけてしまっているようでまじすまない

812 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:35:02.178 ID:HQUkm.VM0
Route:C


                   Chapter14

813 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:36:50.841 ID:HQUkm.VM0
――――――。

相も変わらず、わたしはこことは違うどこかに居た。

???
「やっと、見つけたわよ!」

鬱蒼とした森の中――わたしの前には、小柄なエルフの少女――。
金色の髪の毛と、紅蓮の瞳――そこには、強い意思のようなものを感じられる。

???
「貴女があの女を殺した張本人ね?」

ユリガミ
「え……?」

いきなり、そんな質問をする彼女は何者?
――あの子のことを尋ねているのは、間違いないのだけれど。

???
「え、じゃないわよ 
 たとえアンタが虎であっても、龍じゃないわよねっ!」

まくしたてるように少女は、地団太を踏む。
彼女は……龍虎の関係でも、語ろうとしているの……?

814 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:39:19.549 ID:HQUkm.VM0
わけがわからない……。
わたしの記憶うんぬんとはまた別の方向性で、悩みの種が増える感覚。

ユリガミ
「――あなたは、龍なの?」

――わたしは思うがままの言葉を呟いた。
それは深慮もなければ思案もない、ひどく単純な言葉でもあった。

フィン
「そうよ、だってわたしはフィン・ジェンシャン――
 名前からして、龍にふさわしいもんっ!」

しかし……わたしの回答に、彼女は否定する素振りはなかった。
わたしの考えは合っていたらしい。

肯定するような返答を終えると、フィンと名乗った少女は腕を高く掲げた。

――とても、嫌な予感がする。
わたしはフィンの一挙手一投足を注視しながら、太刀を構えた。


815 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:42:35.492 ID:HQUkm.VM0
瞬間、空は暗雲に染まり、いきなり大雨が降りだした。
さらには雹、吹雪、落雷、嵐……ありとあらゆる天候が、わたしに襲い掛かる!

ユリガミ
「くっ――」

迫り来る天候の変化は、わたしを、周り全てで押し流そうとする――。
雷はわたしを消さんとばかりに宙を駆け巡り、水はわたしの足を止め、風はわたしを吹き飛ばそうとし、霜がわたしを縛り付けようとする。
彼女は、龍と名乗ったが――なるほど確かに、この【力】は龍のものと言っても変わりない。

フィン
「トリプルキーック!」

天候変化に交えて、蹴りが三発。

フィン
「波乗り――!」

さらに、水しぶきに乗せた攻撃が一発。だが、こちらの攻撃は武術――捌くのはたやすい。
致命的な一撃を受けず、軽い傷で受け流すことはわたしにとって難しくはなかったが……。

フィン
「おりゃーっ!」

――天候を操ることに関しては、反撃の糸口が見つからない。
遠距離から攻撃してくる相手でも、弓や銃やらならば、本人の筋肉の動きから軌道を推察できる。
しかしフィンのそれは、一挙手一投足が読めない。人智を越えた【力】であることしか分からない。

816 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:45:26.741 ID:HQUkm.VM0
――雨は相変わらず降り注ぐ。
身体に対する影響も計り知れない。体温は確実に奪われている。

……こんなところで倒れるわけにはいけない。
わたしは真実にたどり着くまでは、前へ進み続けなければならない。

――わたしとフィンの戦い。
互いに決定打は与えられないものの、戦況としてはわたしのほうが不利だった。

武術は悪天候の中でも戦える余地があるけれど……
この悪天候は、ある程度予測できる範疇にはない……。

それでも、わたしは耐えていた。
それはあの子への贖罪と真実へ向かう気持ち――そして、【嵐】を倒してほしいと願った人々の思いによって……。

817 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:02.173 ID:HQUkm.VM0
フィン
「武術は、荒れ狂う天候の前では――すべてを洗い流す力の前では無力なの
 それなのに……あたしのライバルは皆いなくなっちゃう――屏風の中に掻き消えてしまうんだもん
 だから、あんたで憂さを晴らしてやる!」

フィンの言葉に、どこか既視感がある。それは――

???
「ははは……当然でしょう?
 これは私の持論ですが、いかなる武術を極めようと、それを押しつぶす【力】があれば無意味になりますからね」

わたしに襲い掛かってきた大男の発言だった。フィンの言い分は、まるで大男の同胞のよう。
そして、さらに天候を操る【力】を持つ。フィンも、【嵐】の一員なの――?

フィン
「アイスボールっ!」

ユリガミ
「くっ!」

考えている間にも、絶え間なくフィンの攻撃――すなわち天候操作と武術による攻撃が続く。
軌道がまったく予測できないものもある。
わたしに出来ることは、攻撃の意思を感じ取るだけ。

フィン
「ボルテッカーッ!」

雷を纏った突進。こちらは、武術と【力】の合わせ技!
武術による攻撃なら予測もしやすいのに、別の【力】になると――相手の殺気を読むぐらいしか対処方法はない。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

818 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:21.501 ID:HQUkm.VM0
ユリガミ
「――――っ」

体力が奪われてゆく。それは自然を操る【力】、武術ではない、【力】に――。
あの男の言う通り――全てを押しつぶす【力】こそが、全てということ?

どうにかフィンの攻撃をやめさせたいが、太刀を振るえる範囲には居ない。
今、飛び道具を使っても、天候操作で逸らされる可能性が高い。わたしはどう切り抜ける――?

フィン
「今、知ってる情報から推測すると――
 アンタには、必ず勝って――強くならなきゃいけないのっ――」

フィンは、悲愴に染まった感情にまかせて吹雪を起こした。
濡れた髪の毛や、服が凍りつき、またたく間にわたしの動きが制限される。
もはや、わたしに打つ手はないのか――?


819 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:52.683 ID:HQUkm.VM0
その時――。

ユリガミ
「――いいや、違う
 人智を越えた【力】というのは、天候操作ではない」

わたしは、確かにわたしが紡いだ――しかし、わたしが紡いだわけではない言葉をフィンに投げかけた。
それは――まるで、別のわたしが喋ったかのようにも思えた。
フィンに向ける表情すらも、わたしの意思ではないよう……。

フィン
「!?」

フィンの表情が固まる。まるで、自己を否定されたかのような、絶望にも満ちた表情が顔に張り付いていた。
それに付随して、一瞬だけ彼女の動きも固まった。


820 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:52:02.520 ID:HQUkm.VM0
フィン
「フン、なによ――あいつみたいなことを言って……
 あたしのこの【力】だって強いのよ!」

フィンは、すぐにわたしを見据え、再び攻撃を仕掛けようとした。
しかし冷静さはわずかに欠けている。その――やや欠いた状態。
それはわたしにとって充分なほどの猶予だった……。わたしは、太刀と鞘とをフィンに投げつけた。

フィン
「―――えっ!?」

宙を舞う刀と鞘。それと同時に、わたしも地を駆ける。
フィンが視認する、3つの標的……それに眩んだ一瞬で十分だった。
わたしは、フィンの鳩尾に、一撃を加えた。


821 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:53:10.749 ID:HQUkm.VM0
フィン
「うう――ひきょーもの……っ」

その一撃で、ぱたりと、フィンは崩れ落ち――地面に倒れた。
……同時に、天候も元通りに戻った。急激に、冷えていた外気が元に戻ってゆく。

ユリガミ
「はぁ――はぁ――」

疲労感。身体がひどく重い。
ありえない気候の変化に晒されたからか。厄介な相手だったからか……。

気絶したフィンの傍にゆっくりと歩み、彼女の脈を確認した。
――彼女は、気絶しているだけだ。何故かわたしはほっと胸をなでおろした。
どうして、こんな気持ちになるのだろう。


822 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:53:24.464 ID:HQUkm.VM0
ユリガミ
「やっぱり……あの子をこの太刀の刃で斬ったから?」

地面に落ちた太刀を拾い上げながら、わたしはぽつりと呟いた。

彼女が、【嵐】だったのかは分からない。
それでもわかる事は一つだけあった。
わたしは人智を越えた【力】を知っているということだ。

そう。
そ れ を わ た し が 一 番 よ く 知 っ て い る の だ か ら …。

空は、フィンを撃破したからか、暗雲が消えうせていた。
わたしは、ゆっくりと森の向こうへと歩き始めた……。

823 名前:SNO:2020/12/16(水) 21:53:55.699 ID:HQUkm.VM0
女の子バトル!

824 名前:きのこ軍:2020/12/16(水) 22:15:38.983 ID:khWqlFOAo
フィンの意味不明な感じな。

825 名前:Route:C-15:2020/12/17(木) 22:45:25.215 ID:ZkxNVsXY0
Route:C


                   Chapter15

826 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:45:42.689 ID:ZkxNVsXY0
――――――。

ここは――何処かの廃工場か。
もはや……わたしは、見知らぬ場所に居ることにすっかり慣れ切っていた。
そしてあたりの様子を伺う……そこには一人の男性が佇んでいた。

シルクハットをかぶった、軍服の男性。
――わたしに襲い掛かってきた男とは雰囲気が違う。

鍛えられた肉体と、整えられた口ひげは、真摯に物事に向き合い、欲を制する直向きさが伺えた。
彼もまた、シズやフチのような白髪と、漆黒の眼球と青白い瞳……。

この場所に誘われた――ということなのか、あるいはわたしがこの場所に誘ったのか――。
最も、その理由を問う必要はない。わたしは、警戒するように男性を見つめていると……。

827 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:50:19.654 ID:ZkxNVsXY0
???
「ようやく、君を見つけることができた……
 早速、本題に入ろう……」

男性は、丁寧に語り掛けた。
この男性は、今までに見た男の中では少なくとも弦夜に近い人間だろう。

???
「君は……【会議所】から出てきたと聞くが――
 【彼女】はどうなったか、知っているか?」

しかし、彼はわたしを責めるような言葉を、淡々と告げた。
それは、胸をえぐり取られるように、ひどくわたしの心を揺さぶった。
あの紅い月の光景が頭をよぎり、頭痛がわたしを苛む。

頭を押さえるわたし……目の前が紅く染まっているような気がする……。

???
「大丈夫か……?」

心配そうに眉を顰める男性。
しかしその表情に打算のようなものはない。本気で心配しているように思える。

彼は、心配こそしても、わたしには触れようとしなかった。
恐らく、わたしには指一本触れないという意思があるもかもしれない。

その様子を見ていると、急に冷静になった。
すうっと頭痛が引き、わたしの口からすらすらと言葉が紡がれた。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

828 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:52:11.825 ID:ZkxNVsXY0
???
「俺は、ルミナス・マネイジメントの人間として――【会議所】での出来事を、調査している……
 【彼女】が死んだ時間帯に、君らしき人物が走り去っていった――とのことで、君を探していた……」

重々しく、渋い声で男性はわたしにそう答えた。
それにしても、ルミナス・マネイジメントの人間だとは……だから弦夜に近しい存在と感じたのだろうか。

彼の語る……【彼女】の死。
そうか……あの子の……ことを……。

???
「【彼女】は、君が殺したのか?」

――彼は厳しい声でその質問を投げかけた。
それはわたしの心を鋭く貫く。とてもとても――重々しい楔を打ち付けられた感覚でもあった。

それでも、事実であることにはかわりがない。

ユリガミ
「……ええ
 わたしが、彼女を……この手で斬った」

だから、彼の質問にわたしは頷いた。
認めなくてはいけない。わたしが真実を目指す根源から目を背けてはいけない。

829 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:55:44.012 ID:ZkxNVsXY0
???
「そうか……君が……
 俺には信じられないが、君がそう認めるのなら――そういうことなのだろう」

彼もまた、短く頷いた。
その顔には陰が落ち、表情は読めないが……どこか達観したような雰囲気もあった。

ユリガミ
「わたしを……どうするの……」

――少なくとも、わたしは真実を探さなくてはいけない。
もしここで尋問をされたりしたら、真実に向かえなくなる。
場合によっては……この男性を……。

???
「……君をどうするかだが
 俺は何も関与しない――ほかの余罪はなさそうだからな――」

――そう思っているわたしにとって、彼の答えは意外なものだった。

ユリガミ
「わたしを……見逃すの……?」

???
「……俺の任務は、調査だけだ
 それ以上のことは命令されていない」

……わたしは内心ほっとしていた。
この男性は、わたしにとって敵とは思えなかったから。
たとえわたしを探していても、戦いを避けられるのはありがたかった。

830 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:58:15.499 ID:ZkxNVsXY0
しかし、男性は腕を組み、何かを思案していた。
その答えが見つかったのか、ひとつ頷くと……。

???
「しかし、一つ君に忠告するとしたら――
 フィンというエルフの少女には気を付けたほうがいい」

わたしに、そう告げた。
フィン――天候を操る【力】を持つ少女。
しかし――打ち倒したはずではないのか。

???
「【彼女】を殺したと知れば……その怒りをぶつけるだろうからな」

――フィンを殺さなかったことで、面倒事になったのかもしれない。
……それでも、わたしはフィンを殺さなくてよかった。そう思う。

もし、殺していたりしたら……。あの子の時の二の舞だから。

その他、【嵐】のメンバーや、長身の達人の男、巨大なケダモノ……記憶にない部分で倒し、命を奪った者もいるかもしれない。
それでも――わたしの中では、殺すべき存在と、殺したくない存在が――あいまいながらも位置付けられていた。

あの子も……後者だったのに……わたしは手にかけていた。
それでも、落ち込んではいられない……きっと、殺したくない存在だからこそ、わたしが真実へ向かう理由なのだから。

831 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 23:01:29.114 ID:ZkxNVsXY0
???
「彼女の【力】は、厄介なものだからな……」

――その言葉はすでに理解できていた。フィンとは一度戦ったのだから。

ユリガミ
「……そうね」

少し俯きながら、彼の言葉にわたしはうなずいた――。
わたしはフィンを打ち倒したから。それなのに、彼がわたしにこう告げるということは――。
いずれ、彼女と再び会い見える――そういうことなのだろうか。

???
「……命には、気を付けろ
 俺は……年頃の乙女が消えるのは、まっぴらだからな……」

相変らず、彼女が【嵐】がどうかは分からないけれど。
それでも……わたしは進み続けなくてはいけない。
彼の、後悔の念の籠った……低い声を背に……。

わたしはその場を後にし、進み続けた。
彼の姿はすでに遠くなっていた。追いかける素振りもない。

――真実は……。わたしのたどり着くべき真実は……。
恐らく――もうすこしで――。

832 名前:SNO:2020/12/17(木) 23:02:13.908 ID:ZkxNVsXY0
これは秘密だけどあと数回の更新で終わるらしい?

833 名前:きのこ軍:2020/12/17(木) 23:33:45.855 ID:jR4GfnqUo

ん?もしかしてすみれじゃない…?

834 名前:Route:C-16:2020/12/18(金) 23:34:06.344 ID:z.2MHdwo0
Route:C


                   Chapter16

835 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:35:10.676 ID:z.2MHdwo0
――――――。

もう、何度目だろうか……。
わたしは、また何処かわからない場所に居る。そこへ行くまでの記憶がないことも、相変らずだ。

舗装された――とは言え、ところどころボロボロの街をわたしはふらふらと彷徨うように歩いていた。
この街の様子も……【嵐】によるものだろうか……?

そばには電気屋の店頭があって……置かれているクリスタル・テレビジョンからは、様々なニュースが流れている。
――わたしは、亡者のような足取りをしつつ、横目でその映像を見ていた。


836 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:37:33.412 ID:z.2MHdwo0
キャスター
「緊急ニュースが入りました
 悲劇の報せです――
 ……【会議所】の兵士、集計班さんと¢さんが【嵐】によって暗殺されたとのことです――」

わずかに動揺した、キャスターの語りとともに、ふたりの顔が映し出された。
……それは青髪の男性と、黒髪の男性――。
どちらとも整った顔をしている……。

ユリガミ
「っ……!?」

その顔を見た途端、ずきり、とわたしの頭は痛み出した。ぶるぶると体も震え始めた……。
からからに口が乾く……だらりと汗が背中を伝う……わたしの肉体はとても不吉な予兆を覚えていた。

……わたしには彼らに心当たりが全くない。
それなのに、この身体は明らかに動揺していた。

いったい……どういうことなの……。

ユリガミ
「はぁ……はぁ……」

胸を押さえながら……わたしは足を止めていた。

わたしが混乱している間にも、報道は続いていて……。
映像の中ではもみあげの目立つ男性――B`Zが神妙な顔でキャスターの質問に答えていた。


837 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:39:16.962 ID:z.2MHdwo0
キャスター
「【会議所】では、この事件をどう受け止めていますか?」

B`Z
「会議所の兵士がここ最近暗殺される事件が増えています
 ベテラン兵、新人兵を問わず――誠に遺憾であります」

キャスター
「なるほど
 それでは、今後の【会議所】の動向についてお聞かせ願えませんか?」

B`Z
「はい、我々は頑固、【嵐】には屈せず、【会議所】の維持に努める所存でございます
 きのたけ理論を維持することがこの場所の役割にもなるのですから」

キャスター
「ありがとうございました――
 次のニュースです――」

映像に映ったB`Zの表情は、絶望の中でも立ち向かおうとする意志が感じられた。
わたしも――似たようなものだろう。

……わたしは、真実を見つけるのが【終わり】になるけれど。

838 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:44:02.705 ID:z.2MHdwo0
……会議所の兵士は、ニュースの内容やB`Zの口ぶりからすれば、次々と死んでいるらしい。
わたしの手に負えない部分で――悲劇が起きている。

胸の苦しみは相変わらず。悲劇の報せはわたしの心を負の方向へと蝕もうとしている。
わたしは会議所の一員という社長なる男を守ることはできなかった。
……その後悔によるものか。それほどまでに――わたしは役目を果たせていないのか――。

ヤミがわたしに願いを託していたのは……そういった可能性を危惧してのものだったのだろう。
……守ることができていない。マイのことも、はっきりとわかっていない。

ユリガミ
「……わたしはどうすればいいの?」

ぽつりと、悩みがこぼれかけた。
そして【勾玉】を祈るように握り締める。

ユリガミ
「――っ」

しかし、その悩みは――すぐに吹き飛んだ。
悩むな。そこで立ち止まっても、真実におそらくたどり着けるものではない。
真実にたどり着くためには、前へ進む以外の方法はないのだから。

わたしは――その本筋を忘れてはいけない。
悲劇に心を痛め、足を止め、その本筋を忘れてはいけないのだ。

……犠牲者は増えてしまった。
それでも、わたしには、わたしができることをする……。
これが、わたしにできる精いっぱいのことだから……。

839 名前:SNO:2020/12/18(金) 23:45:25.642 ID:z.2MHdwo0
カスでは今絶賛活躍しているお方が…

840 名前:きのこ軍:2020/12/18(金) 23:55:31.526 ID:lMa9vqFIo
あっさりと逝って悲しいなあ

841 名前:Route:C-17:2020/12/19(土) 12:46:34.787 ID:UCu58hcA0
Route:C


                   Chapter17

842 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:01:51.579 ID:UCu58hcA0
――――――。

ドッグオンと轟音が鳴り響き、砂煙が舞い上がる光景が、わたしの目の前には在った。

ユリガミ
「――っ!?」

突然、破壊音がわたしの耳に響いた。
土をえぐるような音。水しぶき。刃が何かを切り裂く音……。

……誰も目の前には、居ない。そもそも街とは全然異なる場所だ。
ここは――険しい岩山の中腹らしい……。

この頂には、何かがあるのだろうか。
破壊音のした方角へと、わたしは近づいてみた。


843 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:05:30.627 ID:UCu58hcA0
わたしに襲い掛かった長身の男が、タキシードを着た銀髪の男と戦っていた。
……何故か、消し飛んだはずの長身の男の腕は――まるで何事もなかったかのように、存在していた。

どうして――?それを思うまでもなく、戦いは目まぐるしく進んでいた。

銀髪の男
「戦闘術【魂】――ストーンエッジ」

石の刃が長身の男に襲い掛かる。しかし、長身の男もまた石の刃を操り、相殺した。

銀髪の男
「――やっぱりお前は、ふざけた態度だろうと達人なことに変わりはないな」

???
「はっはっは――筍魂さん――いつもはおちゃらけているあなたの方だって達人であることは変わりはないでしょうが」

筍魂
「チッ――俺のように、武術に関して愚直に追い求めないてめェの態度が嫌いなんだよ」

筍魂と呼ばれた男は、舌打ちをしながらも、構えを崩さない。
――相変らず、長身の男は、おどけた口調をしながらも、構えの姿勢自体は解いていない。


844 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:12:49.795 ID:UCu58hcA0
これは、達人同士の戦い。わたしの時とは違い同門対決だ。
二人とも、戦闘技術は同じぐらいに高められている。

――違うのは、武術に対するスタンスのみ。それぞれの意思のぶつかり合いとも言えた。

筍魂
「戦闘術【魂】――マッハパンチ!」

???
「戦闘術【魂】、燕返し」

筍魂の神速の突きに合わせて、長身の男が手刀で切りつける!

筍魂
「なんて面倒な奴だ、お前は」

筍魂の腕からは、わずかに出血――一方で、長身の男の手からも出血していた。

???
「いやいや――カウンターをしたにも関わらず、一撃を貰った側からすれば、あなたの方が面倒ですよ」

出血した手をばたばたと振りながら、不敵に長身の男は笑った。


845 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:16:27.448 ID:UCu58hcA0
筍魂
「フン――武術は【力】よりも優れた存在であることを――」

???
「ははは――優れた【力】こそが真の強さだということを――」

筍魂・???
「示してやるッ!」

長身の男は、再び薬を自己注射し、ケダモノのように変化した。

筍魂・???
「うおおおおおーーーッッ!!」

二人がぶつかり合う。わたしは――ただその光景を見るばかり。
岩が削れて舞う砂塵が、二人の影を映すだけ。

そして、その戦いの結末は――

筍魂
「戦闘術【魂】――風起こしッ!!」

その渾身の攻撃は、長身の男に直撃した――!

???
「ああ、残念――私、痛覚も切ったので――
 お返しです、戦闘術【魂】、ブレイズキック」

だが……筍魂の渾身の一撃を、長身の男は変化させた肉体で受け切り、
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

846 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:18:40.962 ID:UCu58hcA0
筍魂
「ガハッ――」

血を吐きながら……筍魂は奈落の底へと消えていった。
わたしは――呆然と、とうまきにその光景を眺めているだけだった。

???
「ハハ、ハハハハハハ――防御を考えなくてもいい――
 【力】は、鍛錬でようやくたどり着くことのできる技術をすっ飛ばせる――
 フフ、フフフフフフフフフハハハハハハハハハーーッ」

納得したためか、男は高笑いをしながら崖下を見つめていた。

???
「あの女神の【力】のように――私の考えは、正しいようですね」

――その言葉は、わたしの心をひどく動揺させた。
わたしは――こいつの信念に――褒め称えられている――。

847 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:20:04.389 ID:UCu58hcA0
そして男はわたしに目もくれずに立ち去ってゆく。

わたしは――いったい――どうしてこんなやつに――。
どうして――?

ユリガミ
「……っぁっ!」

それを考えようとすると、頭痛がひどくなる。
まるで、思い出してはいけない記憶に触れたように。

ユリガミ
「くっ――」

近くの岩に腰掛けながら、わたしは頭痛が治まるのを待っていた。
ふと見上げた月は弓を張った月が天に浮かんでいる。

あの満月の日から――あの子を切ったときから、どれだけ時が過ぎたのだろうか――
そんなことを考えながら、わたしはただ、ただ――月を見上げていて……。

848 名前:SNO:2020/12/19(土) 13:20:19.282 ID:UCu58hcA0
メリバになるのかなぁ?

849 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 17:14:26.997 ID:nqgeZCUYo
メリバじゃなくてバッド直行定期

850 名前:Route:C-18:2020/12/19(土) 17:34:39.940 ID:UCu58hcA0
Route:C


                   Chapter18

851 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:42:14.701 ID:UCu58hcA0
――――――。

わたしの目の前には、【会議所】があった。
わたしは、ついに――ここに辿り着いたのか。夜空の下で、わたしは【会議所】を見上げていた。

――どれほど、わたしはここまで時間をかけたのだろうか。
数々の人が死んでいった。わたしの――【嵐】への抵抗は意味があったのだろうか。
そもそも……本当に、ここがわたしのたどり着くべき場所なのか。

……もはや、そんなことはどうでもいい。
わたしにできることは、真実に辿り着くために、前へ進むこと。

――疑うのは、【会議所】を調べてから。そうしてから、情報をようやく精査できるのだから……。

わたしは、【会議所】を、眺めた。
背後にそびえる岩山と、同じぐらいの城壁――しかし、ところどころヒビが入り、茨が絡み付いていた。

これは、【嵐】の攻撃によるものなのだろう。
背後にそびえる岩山は、筍魂と長身の男の戦った場所だろうか。


852 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:42:36.855 ID:UCu58hcA0
……わたしは、【嵐】と戦いながら、失った記憶に苦しみながら、辿り着いた。
あの子を――この手を斬った理由を求める為に。

それは、わたしが納得するだけの自己満足かもしれない。
それでも――向かう必要がある。それが、あの時死ぬことができなかった意味なのだろうと感じた。

ユリガミ
「――っ!?」

足元に目をやろうとして、わたしは、反射的に目を閉じた。
それは何かから逃げる合図のようにも思えた。

眼前には暗黒の世界が広がり、びゅうう――っと風の音が耳を通り過ぎる。
わたしを呼び止めるかのように、風が吹いていた。

わたしの服の裾や、肩まで伸びた黒髪が風になびいて揺れている。
――わたしは、風で揺れる髪の毛を片手で抑えながら、ぐっともう片方の手に力を込める。


853 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:43:33.483 ID:UCu58hcA0
ユリガミ
「だめ――逃げてはいけない――」

――わたしは、真相に近付いている。そんな予感があった。
それなのに、どうしてこんなにも不安な気持ちになるの?逃げたくなるの?

……わたしは、自然と【勾玉】に手を寄せていた。

ユリガミ
「どうか、わたしが真実を見つけられますように――」

わたしは、胸元の【勾玉】を握りながら、祈った――それはわたし自身への願いでもあった。
……その祈りが届くのかは分からない。

――それでも、祈念することはわたしの心を落ち着ける一要因にもなった。
この気持ち――これが、人々がわたしに願いを託した時の気持ち?

854 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:45:32.946 ID:UCu58hcA0
――わたしはユリガミという女神として、願いを託される存在。
……恐らく、これまでも、そしてこれからも――わたしはそう呼ばれるのだろう。

――ある時では魔女と呼ばれるかもしれない。
でも――ここまでわたしが来れた理由。それはわたしが前に進むことを信じ続けてきたからだ。

その姿勢もまた、女神として称えられる要因のひとつだと、わたしは思っていた。
だから、わたしも祈ろう――わたし自身に。これから先、真実に辿り着けるように。

ユリガミ
「行こう――真実を見る為に」

――ようやく、目を開けることができた。
そしてわたしは前を見据える。広がる光景は【会議所】――茨の城壁――。

風にわたしは逆らう。意思は揺ぎ無いこと見せるために。
一歩、一歩――わたしは足を進め始めて……。

855 名前:SNO:2020/12/19(土) 17:46:05.627 ID:UCu58hcA0
茨の城壁と書いて茨城――書き込んでいるときに思いついた。

856 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 17:48:20.697 ID:nqgeZCUYo
納 豆 要 塞
それはさておき、会議所が最終決戦てことはもう陥落してますね…ほとんど生き残ってなさそう。

857 名前:Route:C-19:2020/12/19(土) 20:23:51.907 ID:UCu58hcA0
Route:C


                   Chapter19

858 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:26:59.934 ID:UCu58hcA0
――――――。
ここは、あの子を斬ったあの中庭のようだ。
茨の巻き付いた城壁の中――すなわち、ここが【会議所】ということ?

ユリガミ
「……あの子を斬ったのは、【会議所】だったのね……」

一人ごちったわたしは……ひどく、疲れ切っていた。
わたしの始まりは、わたしの終わりでもあった――そういうことなの?

わたしは【逃げた】場所へと戻ってきている――そういうことなの?

ふと――ぽたりと、液体が滴る音が聞こえた。
それはとても近く――わたしの腕から。

――はっ!

わたしはすぐに両手を挙げた。
――そして、すぐに気が付く。わたしは――再び、血にまみれていた。
赤く、金気臭い液体が、わたしの身体を染め上げていた。

ユリガミ
「え――どうして――」

ぽた――ぽた――っ。困惑するわたしをよそに、紅い液体は地面へと散らばる。
わたしの衣服の裾から、血の雫がぽたぽたと流れ落ちてゆく……。

どういう、こと、なの……?
わたしは、記憶を失っている間に誰かを斬ったの……?


859 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:28:34.051 ID:UCu58hcA0
どくん――どくん――
急に、心臓が早鐘を打つように脈打ち始める。
血に染まった事実が、胸をかき乱そうとしている。

いったい――何があったの……?
社長を殺害した男……【嵐】のメンバー……長身の男……醜いケダモノ……
彼らと相まみえたとき、わたしは返り血の一滴すらも浴びてはいない。

返り血を浴びたのは――
わたしが、血に染まったのは――

思い出そうとするだけで、身体が震える。
ぶるぶると――がたがたと――わたしは身震いする。

さあっと、体温が下がる感覚もあった。
凍てつく雪山の中に放り出されたかのように――。

横たわる少女の亡骸――あの子を斬った感覚は、覚えてはいない。
どうしてあの子と戦ったのか――それも、覚えてはいない。

それでも、あの紅い月と返り血は覚えていた。
……わたしは不安でたまらない。どうしようもない不穏な気配があった。

860 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:31:30.374 ID:UCu58hcA0
ふと、わたしは天を見上げた。
天上に広がる夜空には、星々が瞬いてはいるけれど、月はいない。
満ち欠けを永遠に繰り返す金色の鈴は、完全に欠けていた。

血染めのわたしと、満ちた――あるいは欠けた月――。
朔の夜と望の夜は、血染めのわたしを境に鏡合わせになっていた。

ユリガミ
「――わたしは、どうして……」

血に染まったことが、どうしてこれほどまでにわたしを動揺させるの?
あの子の出来事は、それほどまでに――わたしが畏怖するまでの記憶になっているの?

――その瞬間、何かの光景がわたしの中を駆け巡った。
それは戦いの光景――ふたりの人物の戦い――ああ、これは――。

ユリガミ
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

ひどく、わたしは動揺していた。
この先は――わたしのたどり着くべき場所のはずなのに――
真実に近づいているのに――どうして、一歩が踏み出せないの?

――逃げたい、そんな気持ちが心の中にあった。
わたしは……たまらなく、恐怖に打ちひしがれていたのだ。

わたしは――真実から目を逸らそうとしているの?
今、此処で起きていることから目を逸らそうとして、何も考えないようにしているの――?

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

861 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:38:40.773 ID:UCu58hcA0
……………。

それは、まるで赤子が乳を求めるかのように。
それは、とても原始的な行動だった。

……わたしの手は、滑らかに動き、胸元の【勾玉】を握った。

この【勾玉】はとてつもない【力】がある――。

――そうだ。それは、わたしが一番知っている。

――そうだ。だから、わたしは――。

ユリガミ
「どうか――わたしに真実に立ち向かうだけの【力】を、わたしにください」

【勾玉】に込めてぽつりとそう呟き、再び祈りを捧げた。
それは、わたしに願いを託した人々のように……。

ふと、目の前の景色が、歪んだ気がした。
ぐらりと、景色が変わる。ぐらりと、空気が変わる……。
――ああ、この感覚は、幾度となくわたしは味わってきた感覚だ……。

そして………………。

862 名前:SNO:2020/12/19(土) 20:39:05.855 ID:UCu58hcA0
これは秘密だけど次で終わるかもしれない みんなには秘密だよ

863 名前:たけのこ軍:2020/12/19(土) 22:58:15.389 ID:l8lRnlf60
ようやくおいついたぞ
RouteCは時間軸を追える物がないから今後の章が出たら読み直さないと謎が多いな…

864 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 23:09:59.049 ID:nqgeZCUYo
読みが当たりそう

865 名前:Route:C-20:2020/12/20(日) 00:06:05.511 ID:RKGgwQgI0
Route:C


                   Chapter20

866 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:08:48.329 ID:RKGgwQgI0
――――――。

わたしは――薄暗い部屋の中に居た。ここは、地下室なの――?
近くには、本が山積みになった机がある。灯り代わりのランプの向こうは、薄暗く見えない。

……ここは、【会議所】の、何処かなのだろう。それだけは確固たる事実だと言えた。
――失った記憶の中にその答えや理由があるのかもしれないけれど、もうどうだっていい。
わたしは真実に近づいていることは間違いはないのだから……。

この場所は、真実にたどり着くために、重要な場所……それを、心か、あるいは身体か――そのどこかで理解していた。

――わたしの視線の先には、白髪の人物が居た。
その人物は、梔子の飾りの入った功夫服を着て、同じく梔子の飾りで彩られた棍を持っていた。

その顔は見えない。
伸びた前髪は、目を、鼻を、口を覆い、表情を――そして、性別をも完全に隠している。

その人物に――わたしは見覚えがあった。
その人物の名前……それは……。


867 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:13:59.062 ID:RKGgwQgI0
わたしが考えようとしたその時……。
だれかが、そこに割り込んできた。

そこには――神父装束の人物が、居た。
黒衣をはためかせながら、靴音を響かせ、ゆっくりと、ゆっくりと歩いてくる。

神父
「――無口さん、行方不明になったと聞いたが……
 ――死んでは、いないようだ……どうして最近この辺りをうろついている?」

神父装束の人物は白髪の人物を無口と呼んだ。
――無口?いいや、違う……わたしが知っているのはその名前ではない……。

白髪の人物の名前……わたしの頭の中はひどく矛盾に混乱しているが、結局、思い出すことはできなかった……。
そうしている間にも――わたしのことを意に介せずに、二人は対峙していた。

無口
「……」

白髪の人物……無口は、神父装束の人物の答えに何も答えなかった。

――その無口という名前のように。
口をなくした花の――梔子で飾られた名前の通りに――。

868 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:16:11.182 ID:RKGgwQgI0
神父
「まぁ、あなたは知っているとは思うが……私は黒砂糖――
 疑わしきは――とのことだから、あなたを始末させてもらう」

神父装束の人物――黒砂糖が宣言すると同時に、紫の雷は無口へと放たれた。

無口
「……」

しかし……無口も同時に紫の雷を放ち、相殺させた。

黒砂糖
「――その腕は、いなくなる前から変わらず
 研鑽はしているようだけれど」

無口は、漆黒の棍を……黒砂糖は、懐から諸刃の剣を取り出し、二人は同時にぶつかった!

鋼の刃と、棍が織りなす金属音。ふたつの得物の軌道は、鏡合わせのようにそっくりだった。
それは、黒砂糖の操る剣術と、無口の操る棍術が、同じ水準にあるとも言えた。

――長身の男や筍魂と呼ばれていた男も一種の達人だった。
わたしもそれに準ずる技術を持っている――そう言われたこともある。

恐らくは……無口と黒砂糖も同じ類の人物なのだろうと、直感で悟った。

無口の人物は、わたしの攻め方と、守り方――それを完全に模倣しているようにも思えた。
……無口がわたしの技術を見たのか?あるいはわたしが無口の技術を見たのか――?

869 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:18:26.477 ID:RKGgwQgI0
少なくとも、わたしは無口に見覚えがあるから、恐らくはどちらかなのだろうが……それがどちらかまでは思い出せなかった。

無口と黒砂糖は互いに攻守の応酬を幾度もなく繰り返していた。
すなわち千日手……ふたりとも傷すら負っていなかった。
体力を極力使わない立ち回りをしているから、息の切れる音一つもない。

黒砂糖
「コパンミジン」

黒砂糖
「ブラックサンダー」

黒砂糖
「アポロソーラーレイ」

黒砂糖
「アスタフリスク」

炎に雷、光に闇――矢継ぎ早に魔術の連撃を加えながらも、剣で切りかかる。
淀みない動き。スキもなければ、無駄もない。完成された動きといってもいい。

最も、それは無口にも言えた。相手の突きを、大薙ぎを、逆袈裟懸けを、完璧に処理していた。

――わたしは、ただふたりの戦いぶりを見ているだけだった。
身体は前に出ようとしない。それは身を守るため――それともほかの理由があるのか――。

――どちらにせよ、この場に割りこむのは得策に思えない。
下手に動けない。迂闊なことをすると真実にたどり着けない。そんな予感があったから。


870 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:19:28.108 ID:RKGgwQgI0
相手を見て分かった違いは、得物の届く範囲。棍のほうが、剣よりも若干長い。
刃の有無によって、受ける傷の深さは異なるが、互いの持つ武術の技量の前では、そのような差は些末な事だった。

無口
「ブラックサンダー」

無口は、黒砂糖と全く魔術を唱えていた。
二人が操るのはフィンのものとは違う。これは魔力に依って作られた雷……魔力独特のぴりぴりとした感触を知覚しながら、わたしはそう思っていた。

――魔術もまた、技術の一つ。どわたしには才がないから扱えないが……。
その技術が拮抗しているならば、魔術のぶつかり合いもまた互角となった。

無口
「ガルボルガノン」

無口
「ホルンサイクロン」

無口
「ミールメイルストロム」

静かに放たれる詠唱。織りなす炎、風、水――その中に在る魔力を感じ取っているのか、黒砂糖は冷静に回避していた。
そこに剣の反撃を加えるが――無口もまた、冷静に受け流していた。


871 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:26:27.204 ID:RKGgwQgI0
魔術の攻撃は、辺りの本や机にぶつかり、それらを破壊してゆく。
それでも、ふたりの存在は、破壊されてはいない!

互いに相手、撃退するという意思はそこにあった。

――ふたりの戦いを見ながら、わたしは……。
無口という人物に対して、何かあったのではないか――そう感じ取っていた。

間違いなく、わたしは無口を知っている――
頭のどこかでそう告げている。――その具体的な内容までは思い出せないのに。

――ああ、そうだ……。

ユリガミ
「――っ」

電流が走った感覚――ふたりに悟られないように、出かけた声を殺しながら、わたしはゆっくりと頭を押さえる。

――そうだ、あの人は……。

無口
「……、強くならなくてはいけない」

わたしの名前を呼んで――語り掛けている。
――わたしはあの人を地上から見上げている。

わたしの中で、何かがはじけそうだった。
もつれあった何かがほどけそうな――そんな感覚を覚えていた。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

872 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:28:19.724 ID:RKGgwQgI0
一体、何が――わたしは顔を上げようとしたけれど、身体がひどく苦しい。
肺の中の空気が、奪われているような感覚があった。

これは魔術ではない――まるで、フィンの天候操作のような――そんな【力】。
――ふと、記憶の残滓が頭をよぎった。

恐怖で押さえつけられた子供――醜いケダモノのような男――【力】に屈する男女――

ユリガミ
(いったい――これは……?)

記憶の残滓に戸惑いながら……息苦しさに、わたしはぐらりと膝を突いた。

一方で、黒砂糖は……顔を少し歪めてはいたものの、その場に立っていた。
無口より遠い私がこの様なのだから、恐らくは――黒砂糖の方が苦しいはずなのに……。

黒砂糖
「無口さん――これは……超能力か?
 しかし……私にその能力は……効果的とは言えないな」

苦笑しながら、黒砂糖は空中に指を滑らせ、何かを描き出す……。
――途端、そこには黒砂糖の姿をした分身が現れた。

873 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:30:13.752 ID:RKGgwQgI0
黒砂糖
「――私は兎も角、こちらには無意味だろう」

――分身。それは空気など必要ない。そういう意味だろうか……。
それでも、黒砂糖本人には影響はあるはずなのに……。

この状況に、わたしは、どうすればいい――?
息が苦しい。酸素が奪われ、思考が徐々に鈍麻化していく……。

ぼやける眼前の果てで――
黒砂糖ともそして分身は剣を構え、無口を切り裂かんと空間を駆けた。
無口は――その攻撃を棍で打ち払う。金属音が鈍く響き渡る……。

……互いに全力を尽くした戦い。一対二の争い――。
やがて、二人の身体には傷が走り始めた。血しぶきがぽたぽたと地面に散らばってゆく……。

その紅い色は、暗い部屋の中だからはっきりとはわからない。
それでもランプの明かりの下には確かな紅があった。


874 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:32:53.952 ID:RKGgwQgI0
ユリガミ
「……どうしたらいい?」

不安と焦燥感の入り混じった感覚。
どうしたら……いいの……?

このままでは、二人のどちらかは――あるいは二人とも、命を落としてしまう。
どうにかして、わたしは二人を死なせてはいけない――そうしなければならないという使命感に駆られていた。

――すでに、前に進む力はない。
だから、わたしにできること――それは――。

首元に手を動かすことは、どうにかできた。
――大丈夫。信じよう。【勾玉】を。ユリガミを。

わたしは、【勾玉】を握りながら祈った。

ユリガミ
(どうか――どうかわたしに、この苦難の道を切り抜けるすべを――)


875 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:38:19.420 ID:RKGgwQgI0
その瞬間――。
わたしの心の中で――わたしのものとは違う女性の声が――響いていた。

???
「貴女にはやるべきことがある」

――神々しい、そしてどこか優しげな声が、はっきりと響いていた。

???
「それは――この戦いを止めること」

――真剣な口調で語られる言葉。
その言葉は、乾いた地面に水が吸い込まれるようにわたしの中に染み渡っていく。

???
「この戦いを止めることが――貴女が真に為すべきこと」

……その声に、わたしの身体は聞き覚えがあると言っている。
わたしの記憶には心当たりがないけれど――それでも、この声を無視してはいけない、そんな予兆があった。

わたしは……この声の言葉を信じるべきなのだろうか。
今までに出会ったことのない人物。――あるいは、どこかで出会ったかもしれない人物。
その言葉を……わたしはどう受け止めればいい?

ユリガミ
「…………」

ぼやける視界の向こうでふたりが戦う様子を見ながら………息苦しさに淀む思考の中でも考えを巡らせて、わたしはひとつの結論に至った。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

876 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:40:30.201 ID:RKGgwQgI0
???・ユリガミ
「戦いを、やめ、て――!」

頭の中で響く声に、続けて――
わたしは――その言葉とともに、二人の間に割って入った。
息苦しさも、強引に捻じ伏せて……わたしの為すべきことのために。

黒砂糖
「――!?」

無口
「…………!」

ふたりは……困惑したようにわたしを見ていた。
同時に、息苦しさは消滅し……。黒砂糖の分身含めた、三人の視線がわたしに集中した。

――もしかしたら、わたしも敵とみなされるかもしれない。
緊張のためか、わたしの背中にはじんわりと汗が滲んだ。

それでも、わたしは不思議と恐怖を覚えなかった。

きっと――わたしには、初めからここに辿り着くのだと、わかっていたのだと思う。

877 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:43:05.385 ID:RKGgwQgI0
???・ユリガミ
「あなたたちが争って得られることはない――
 今なすべきことではないことは、二人とも分かっているでしょう?」

頭の中で、諭すような声が響く。
わたしも、彼女と同じ口調で、諭すように一言一句同じ言葉を続けた。

黒砂糖
「……きみは誰だ
 太刀を腰にぶらさげたきみも……私にとっての敵なのか?」

黒砂糖は、分身に無口を任せ、わたしの目の前で剣の刃を向けた。
目の前にある鈍い金属の塊。わたしは血に塗れて命を落とすかもしれない――。
しかしその脅しはわたしにとって障害とはならなかった。

ここで命を捧げてもいい。それぐらい、わたしにとって――この行動が必要不可欠だったから。

878 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:44:36.516 ID:RKGgwQgI0
???・ユリガミ
「違う――わたしが為すべきことは――」

???・ユリガミ
「絶望の未来を回避する行動――」

黒砂糖への答え……それは声の主に言わされているかのように、
あるいはわたしの中で答えが決まっていたかのように、すらすらと口をついて出た。

無口
「……黒砂糖、退け」

わたしの言葉に何かを察したらしい無口は、初めて言葉らしい言葉を発した。
とても短く――そして強い口調で――あたりの空気を切り裂くような鋭い言葉を――。

無口
「彼女は――少なくとも、私や君の敵ではない」

黒砂糖
「……どうやら、そのようだ」

――無口の真剣な口調に、黒砂糖はわたしに向けた剣を離した。

879 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:46:26.343 ID:RKGgwQgI0
黒砂糖
「……私は、この少女に手を出せとは言われていない
 一旦は退かせてもらおう……」

黒砂糖は、不服そうにつぶやきながらも、その場を立ち去って行った。

その背中が遠くなるのを見つめながら……わたしはほっとしていた。

わたしは――この争いを、止めることができたのだ……。

???
「――それでいいの
 あとは貴女がすべてを……思い出すことができれば……」

わたしが呆然しているうち、ほっとしたような、満足したような謎の声が響き――

瞬間、わたしの中に悟りが広がった。
失われた記憶は急速に復旧し、わたしの中で不鮮明な部分が鮮明になっていった。

あまりにも急激すぎて、ばちばちと雷に打たれた感覚。
それでも――恐怖はなかった。痛みもない。むしろ、憑きものが落ちた感覚にも思えた。

880 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:49:50.421 ID:RKGgwQgI0
確かに――わたしはあの子を確かに斬ったことに間違いはない。
――しかし、あの子の命は失われてはいない。
あの子は、傷ついてはいるけれど、眠っている。

いつ覚めるかもわからない闇の中で、目覚めを待っている……。

そうだ……わたしは向かわなくてはいけない。
あの子に謝るために――あの子を救い出し、楽園に戻る為に。

――わたしの中に、あの子と過ごした記憶の一部が思い出された。

ユリガミ
「――貴女は、大人になったらどんな人間になりたいの?」

少女
「わたしは、おねえちゃんと結婚して、一緒に幸せにくらしたい!」

ユリガミ
「……わたしと?」

少女
「だっておねえちゃんは、とても綺麗、とっても頼りになって」

少女
「……憧れの、大好きなおねえちゃんだから」

――誇らしげに語るあの子は、言葉の終わりに、少し顔を背けてほほを染めていた。

ユリガミ
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

881 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:51:51.073 ID:RKGgwQgI0
あの子の仕草が、声が、姿が、心が――まるで昨日のように思い出せる。

――あの子と過ごした楽園の日々。
それはヤミの居た屋敷の一部屋での出来事だった……。

そうだ、あの場所はわたしの住処でもあったのだ。
わたしは、この幸せな光景を失い、絶望を抱えたまま、この世界を彷徨っていた。

行き場をなくし……永遠と彷徨うわたしに向けた誰かの言葉が、その世界に一筋の光明を見せた。
――わたしはあの幸せを取り戻すことが出来る。希望を取り戻すことが出来る。

だから、行こう。だから、征こう。
あの子を救い出すために、【彼女】の眠る場所へと、わたしは向かわなくてはいけないのだから……。

無口
「……私は、貴女の向かうべき場所へ、誘わなくてはいけない」

無口は、傷口を押さえながら、指を空中に指し示した。

わたしは、無言で頷く。大丈夫――わたしの意思はきちんと伝わっている。


882 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:53:57.866 ID:RKGgwQgI0
――続く無口の言葉に、わたしは耳を傾けようとした。

無口
「……ユリガミを取り戻すために」

――え?

今……なんて……言ったの……?

わたしを――取り戻す――?
何を言っているの?わたしは――わたしは――ここに――。

途端に不安が胸をかき乱した。

まるで世界が崩れ落ちたかのように――わたしの身体はわたしの思うままに動こうとはしない。
わたしの意識に反して、わたしの身体は――無口と名乗るその人物の後ろを追いかけはじめた。

わたしは他人事のようにその光景を見ていた。
――他人事のように、風景が流れ去っていった。


883 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:55:13.814 ID:RKGgwQgI0
――わたしはどこに向かっているの?
とても重要なように思えるけれど、わからない、わからない、わからない……。

無口
「……、………」

――何かを無口が言っている。

ユリガミ
「………………」

わたしも何かを呟いている――それなのに、分からない。

わたしの意思に反して言葉を発しているように思える。
まるで別の言語を話しているように、わたしはなにもかもを知覚できなくなっていた。

どういう……こと……なの……。

――もう、わたしには……なにもかもが、わからなかった。


884 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:56:20.592 ID:RKGgwQgI0

わたしには、何も聞こえない――
いや、それだけではない。見ることも、触れることも、嗅ぐことも、味わうことも。すべてがなくなっていた。

               ―― わ た し は ど こ に あ る の ?

              ――― わ た し は ど こ に い る の ?

   ―――そして、光が一瞬世界を覆いつくすように輝いたかと思うと……。

        わ た し の 世 界 か ら 色 が 失 わ れ て い っ た … … 。

885 名前:Route:C Ending:2020/12/20(日) 00:57:22.727 ID:RKGgwQgI0
――Revealed the moon card.

But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.

          ―――Route:C Fin.

886 名前:SNO:2020/12/20(日) 00:58:31.990 ID:RKGgwQgI0
なんか勢いに突っ走った更新速度だったけど、Route:C、終。

887 名前:きのこ軍:2020/12/20(日) 01:02:37.239 ID:hkt5gB0co
更新おつ次章に持ち越しかな

888 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/22(火) 19:58:21.160 ID:1BjummYA0

The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
                                            ――Genesis 6:13



889 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/22(火) 19:59:53.056 ID:1BjummYA0
月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。

純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。

……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。

いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。

世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。

絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。

まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。

……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

890 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:00:56.908 ID:1BjummYA0
――希望を祈念する白髪の女性だった。

891 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:01:37.131 ID:1BjummYA0
Route:D


                   Chapter0

892 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:04:22.380 ID:1BjummYA0
……私は、現を見ていた。

私は【鏡】を胸の中で抱き、そこに広がる現を、見つめていた。
そこに在る世界。【鏡】の中で広がる世界では……天空に浮かぶまあるい月。

いつの日か、月を見て、自分自身をこう思ったことがある――。
私欲の果てに、月のような存在と呪われた成り果てた――哀れなる乙女だと。

それは……一時の欲望に身をゆだねてしまった愚かな女の思いだ。
太陽が消え去って月と成り果てた……死を捨てた愚かな女の……。

ざんの肉を喰らった呪いは、私の中に永遠と刻み付けられているのだ。

――生きとし生けるものには、終わりがある。
しかし――私の中の呪いは……その終わりを良しとはしない。
これは、ある意味で滑稽な話だ……。私は、初めに望んでいたものは……死だったのだから……。


893 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:07:21.466 ID:1BjummYA0
それでも――。

それでも、私の見る月は、永遠と沈むことなく天空に浮かんでいた。
朝に姿を隠すはずの変若水の在る場所は、今や――永遠のものとなっていた。

それは私にとってひどく違和感のある場所でもあった――。
私のたどり着くべき場所ではない――そんな予兆が、身体のどこかで叫んでいるようでもあった。

世界を見渡せば、幸せそうに歩く女性たちが見える。
友人として――あるいは恋人として――。

それはとても素敵な世界に思えた。幸せそうに暮らす人々の生き様……そして、終わりを迎える……。
……けれども、私の中で大切な何かが失われているという予感はあった。

――今の私には、過去の記憶がなかった。
すべてが抜け落ちていた。私という器は、記憶という名の水を溜めることができず、すべてを洗い流してしまっていた。

894 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:09:39.711 ID:1BjummYA0
???
「―――」

ふと、私の中に――何かがよぎる感覚があった。
そうだ……私は……。

――この世界は、あってはならない。

その言葉が頭の中で響き渡った。
そうだ――この【鏡】の向こうはあってはならない世界。

私は――この世界から抜け出さなくてはいけない。
理由は分からない。けれども、その強迫観念にも思える感情は、
原始的な恐怖のようでもあった。

私は、今一度……【鏡】を力強く抱いた。
三つ足のカラスの骨をかたどった外装は、脆そうな見た目に反して、きしむ音ひとつ立てない。
カラスの立ち姿が、私にとって、とても力強く見えた。

――そのまま、私は祈るように目を瞑って……。

895 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:10:41.350 ID:1BjummYA0
4人目の主人公とはいったい誰だろう……

896 名前:きのこ軍:2020/12/22(火) 22:09:46.449 ID:wHdr1uW6o
更新おつ 儚い出だしですね

897 名前:Route:D-1:2020/12/23(水) 21:59:13.827 ID:xN/CTYgs0
Route:D


                   Chapter1


898 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:01:06.335 ID:xN/CTYgs0
――――――。

空に浮かぶは満ちた月。影に隠れることなく円い鈴がそこに存在している。
月下に照らされた大地の上には、龍しかり、キマイラしかり――空想上の生物が蔓延っていた。

その光景は、一見すれば夢の中で描かれる幻のようにも思える。
……だが、それは紛れもない現実であることを、私は理解していた。

やがて、巫女装束の女性が現れた。彼女の髪は黒く、腰よりも下まで伸びている。
横の髪は結わえているけれど、それでも胸まである長さだ――。

――黒髪の女性は、腰に携えた太刀を抜き、視線をある一点に向けた。
その視線の先には、赤いロリヰタ服を着た少女……。
彼女の手には漆黒の【剣】があった……。それを見ると、どくんと心臓が跳ねた。

女性と少女を見た私は、その光景を見るや否や、目を見開いて、ぎゅっと手を胸の前で握った。
祈るように……祈りを捧げる巫女のように……。


899 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:02:44.618 ID:xN/CTYgs0
女性には、面識はないはずなのに既視感を覚える。
……それがどうしてかは分からないけれど、私の身体は痺れるようなぴりぴりとした感覚があった。

そして……少女は――私にとって、たいせつなそんざい。自らを犠牲にしてでも守りたい存在でもあった。
それは理解していても……――どうして、たいせつなそんざいなのかは、分からない。
思い出すことができない。記憶が失われているから……。

それでも、ただ、心の奥で――
あるいは本能で――そう感じ取っているのだけはわかる。

……やがて、少女を中心として赤い薔薇の花びらが浮かんだ。
その赤い花びらの周りには、白い瘴気が纏わりついていた。

その光景が、私にとってひどく不吉なものに見えた。
まるで、羽を得た青年が天を目指し続けたが為に命を落とすような感覚を覚えたからだ。

……少女に呼応するかのように、女性も花びらを浮かべた。
それは少女とは対照的で、白百合の花びらで、周りには黒い瘴気が纏わりついていた。
赤と白――白と黒――それらの花びらと瘴気がぶつかり合いながら、二人は戦った。


900 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:05:08.012 ID:xN/CTYgs0
――どれほど、戦っていただろう。
どれほど、二人は戦っていたのだろう……。

???
「っ――――!」

切り裂く音が、耳に響いた。遅れて――血が滴り落ちる、とても嫌な音が耳を通り抜ける。

呆然と……私はその景色を見ていた。

少女はぐらりと、糸が切れたようにバランスを崩して仰向けに倒れ、
女性は、だらりと血の滴った太刀をぶらさげながら、立ち尽くしていた。
戦いの終わりを示すかのように、二人を纏った花びらは消え、少女の胸で渦巻く黒い瘴気と、地面に突き刺さった【剣】がそこに残っていた。

???
「あ――あああ―――っ」

その惨劇に、私は思わず号泣していた。
大粒の涙がぽろぽろと落ちる。拭う事もできず、呆然とその光景を見つめるばかり……。
その間も、眼から溢れる涙は尽きることなく流れ続けた。

ぽたりと、涙が鏡面に落ちる。
その向こうで滲んだ景色は……惨劇の光景を映し続けている……。



663.99 KBytes  
続きを読む

掲示板に戻る 前100 次100 全部 最新50
名前: E-mail(省略可):

read.cgi (ver.Perl) ver4.1 配布元(06/12/10)