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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

71 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:40:47.963 ID:gxicPUNI0
滞りなく、適性検査が済み――昼食と休憩を経て、大戦場でのトレーニングが執り行われる手筈になっている。
賑わう食堂の中で、配布された弁当をひとり食べながら、オレは次の予定を確認していた。

兵士
「ふーっ、講義疲れたなぁ」

兵士
「あのB`Zって人はわかりやすかったよ」

兵士
「社長って人はしゃべり方が変でそれが気になって大変だったよ」

兵士
「山本さんは威圧感がすごいな……そして軍曹なんだぜ……」

兵士
「¢さんってイケメンよね、アイドルにいそう」

様々な兵士の声――それは会議所が多種多様な人物が集まる場所であることを改めて思わせる光景でもあった。
辺りを見やれば会議所に入所する前の仲らしく、和気藹々と食事するグループもいたが……
オレの居た学校では、会議所への進路を決める者は少なく――またオレの交友関係も広くなかったからか――オレは孤独だった。
まぁ、孤独だからといって特にどうということではない。オレは昔から孤独に慣れていた。


72 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:42:19.767 ID:gxicPUNI0
そして、食事を終え……オレたちは、大戦場へと向かった。
オレは他の兵士たちとともに講師の前に並んでいた。

トレーニングの講師は――791という女性兵士だった。
大戦は男女関係なく戦うが、こういったトレーニングは男女に分けて行われるらしい。
――まぁ、それは学校でも同じだったから、それに倣ったということだろう。

それにしても――791という人物は、聞き覚えのある存在でもあった。
確か、鬼のように強い腕力と魔力を持つ、通称――魔王とも呼ばれる魔族だと親父から聞いたことがあった。

791
「こんにちはっ」

大戦場で集合したオレたちに挨拶する791は、その魔王という単語には名会わない柔和な笑顔を見せていた。


73 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:43:33.038 ID:gxicPUNI0
791
「私は791――女の子たちをまとめるのは、一応私の仕事になっています
 まぁ、代表はもう一人いるけれど――彼女は別の用事があるからね」

しかし紫色のローブをはためかせる791の額には、魔族であることを示す金色の角が輝いていた。

791
「男の子たちと、トレーニングは一緒だけど、性別を考えてやっています
 あと、女の子の行事の人はそれも考慮するから――」

オレを含め、女兵士は男兵士と比べれば割合は少ない。兵士の1割か2割が該当する――と言えばいいだろうか。
しかも、大抵はメイジ……オレのようなファイターは少ない。

791は、逐一全員の様子を見ていた。その器の大きさは、魔王――民を束ねる上位存在として相応しいもののように思える。


74 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:43:49.233 ID:gxicPUNI0
791
「はい、みんなとりあえず大丈夫そうだね――
 じゃあ、ランニングから――」

兵士たち
「はいっ」

オレたちは、791の提示したトレーニングをこなしていく……。
大戦場は、草も生えない荒野の地――ところどころに岩があり、岩山近くには森も見える。
走るたびに散らばる砂。硬い地面――その上を走っていて、オレは学生時代に体力作りのために、近所をランニングしていたことを思い出していた……。


75 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:44:01.724 ID:gxicPUNI0
――――。

791
「はい、おつかれさま――明日から大戦の前々日まで、トレーニングは続きます
 みんな、今日は早く寝ようね、解散っ」

トレーニングは、オレにとっては体力の余力が残るものだったが――ほかのだいたいの女子は、息を切らしてへばっている。
……なるほど、考えられている。メイジは、どうしても魔力に頼ることが多いから体力がないものも多い。
それを、同じ女性のメイジがやれば、大体の塩梅を掴んだうえで行える――会議所の選択に、オレは内心感心していた。


76 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:44:55.765 ID:gxicPUNI0
帰路につこうとするオレの背中を、不意にぽんと叩かれた。

乙海
「!」

振り向くと―ー791がにこやかに微笑んで佇んでいた。

791
「貴女は、なかなか体力があるね」

ふわりと揺れた髪からは、レモンの香りが鼻をくすぐる。香水だろうか?

乙海
「ありがとうございます」

感謝の言葉とともにオレは礼をした。少なくとも――オレは立場的には下なのだから。



77 名前:Route:A-2 great mother:2020/08/22(土) 00:47:02.926 ID:gxicPUNI0
791
「それに、確かあなたは射撃の大会にも出ていて、いい成績を取ってたね」

乙海
「そうですね」

そうだ。
学生時代、オレは射撃部に所属し……全国大会にも出場した。
上位入賞もし、表彰も受けた記憶もある。――それも、過ぎ去った過去の出来事だが。

791
「そんなにすごい新人が来るなんて嬉しいな
 きのこ軍だから、ライバルにはなるんだけど――大戦以外では仲良くしましょう」

乙海
「はい」

791が、腕をオレに差し出す。指に輝く紫色の爪は、マニュキアで塗ったものはなさそうだ……。
爪先の下に広がる肉そのものが紫色……これは魔族の生物的な特徴なのだろうか?

ともかく、オレは791とぐっと握手をし、これからの日常に思いを馳せていた。

78 名前:SNO:2020/08/22(土) 00:47:37.901 ID:gxicPUNI0
とりあえず兵士出しまくるスタイル

79 名前:きのこ軍:2020/08/22(土) 07:35:28.797 ID:EY8MH9h2o
魔族791こわいよお。

80 名前:Route:A-3:2020/08/23(日) 17:36:28.594 ID:e.QjV2JY0
Route:A

                 2013/4/5(Fri)
                   月齢:24.3
                    Chapter

81 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:37:35.697 ID:e.QjV2JY0
――――――。

それから、3日が経過した。
791(あるいは会議所)の決めたトレーニングの効果だろうか、
初めはへばっていた女子たちも、ある程度体力が付き、同時に基本的な戦いの動きについても手慣れてきた。

3日間で、こうも鍛える――そのノウハウはどこからきたのだろうか?
世界各国、あるいは企業の叡智と経験によるものか……。少なくとも、これまでに会議所を運営して得られたノウハウであることに違いはないだろう。


82 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:38:42.409 ID:e.QjV2JY0
大戦前夜――体を休め、大戦に備える期間として設けられた日、オレは会議所を散策していた。
……wiki図書館とやらが、気になったからだ。

wiki図書館――速いを意味するwikiwikiという単語から着想を得た名前らしい。
世界の様々な情報を、素早く得られる――それをコンセプトにしているとか。

とはいえ、素早く得られることと素早く調べられることはイコールではない。
あくまでも、この図書館だけで解決する――すなわち世界各国を探し回らなくてもいい――という意味合いらしい。
B`Zが誇らしげにそう語っていた光景を、オレは思い返していた。

ともかく、オレはwiki図書館に足を運んだ。
――広い。本部棟よりはさすがに大きくはないが、これだけでも小国の城と呼べそうなほどだ……。
とはいえ、中は図書館――静けさに満ちていた。

――そもそも、人の姿もあまり見えないような気がするが。

83 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:44:35.090 ID:e.QjV2JY0
B`Z
「おっ――乙海か、おはようさん」

乙海
「おはようございます」

気さくに話しかけてきたB`Zは、軍服ではなく着流しを揺らしていて、どこかその表情はうれしげだった。

B`Z
「解説した時は割と来てたが――今は、そう大勢で来ることもないからな」

静寂な部屋を見渡しながら、語るB`Zは、いきいきとしていた。
乾いた笑いをこぼすB`Zを見ながら、オレはある疑問を彼にぶつけた。

乙海
「それにしても、設立3年目で3代目とは、何があったんですか」

B`Z
「おお、歴史についても知ろうとするとは――お前は中々うれしい新人やな」

B`Zは、うきうきした様子で、オレに語り始めた。
――その様子からは、歴史に耳を傾ける者の少なさを、思い知らされるようでもあった。

84 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:50:14.762 ID:e.QjV2JY0
wiki図書館は、もともときのこ軍の兵士、無口が作り上げたものらしい。
――しかし、ある日火災に遭い、無口は行方不明になった。
所蔵している本は、特に貴重な本が主に無事で、手に入りやすいものだけで焼失するという、不可解な火災だったという。

原因は不明。――無口がどうなったかも当然不明。
その後、山本とB`Zが協力して再建し、新人兵士の教育代表になった山本に替わり、B`Zが館長になったそうだ。

乙海
「無口――」

そのコードネームは、シンプルながらも底知れない恐ろしさを覚えた……。

B`Z
「――長い白髪に隠れているから、その顔を見た者はおらん
 ……その恐ろしい強さから、虎って呼んでた人もおったな……」

その出で立ちはいかにも怪しいような気がするが――それは偏見かもしれない。
そもそも、噂だけで真実と決めつけるのもよくないだろう……。
頭の片隅に留めておくだけ……中庸を選択するのが一番最善だろう。

B`Z
「性別も当然不明――声も中性的やったから判別も困難……
 戦闘能力は、武術と魔術に秀でた……いわば、ファイターとメイジを合わせた存在やったが
 ――まぁ、今はもう昔の話、やな」

回想するB`Zは、名残惜しそうな――そんな顔をしていた。


85 名前:Route:A-3 previous night:2020/08/23(日) 17:50:35.537 ID:e.QjV2JY0
B`Z
「それはそうと、そんな雑談をしてもあんたの時間を奪うだけやな
 ほら、好きなものを調べや」

そう言うと、B`Zは大手を振って図書館の奥に消えていった……。
ぽつんと取り残されるオレ。B`Zはおしゃべり好きのようだ。そんな性格が、静寂な図書館の館長。
――意外な取り合わせだ……と思いながら、オレは図書館の中をうろつき始めた。

86 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 17:52:51.780 ID:e.QjV2JY0
図書館の中をぶらつき、膨大な量の本棚を見ては、本の背表紙に指を触れ――
そうしているうち、オレは気になるタイトルの本を見つけた。

『バラガミの伝説』

著者は――衣月忍……?一体何者だろうか。
その表紙には、人魚の絵が描いてある。
本の区分は伝記……人魚にまつわる物語なのか?

夢の中の人魚の少女のことを思い出す。オレはあの思い出を今もなお心に留めている。
この本がその思い出に関わるのかは分からないが……ともかく、これも何かの縁かもしれない。
オレは本を手に取り、近くの席に座った。


87 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 17:55:32.725 ID:e.QjV2JY0
衣月忍――その著者に関する情報は、ルミナス・マネイジメント所属の探検家ということだけしか記されていなかった。
あの会社の誰か……企業の規模としては大きいからそれを特定するのは難しいだろう。

オレはぺらりとページをめくり――そこに広がる情報の海に身を投げた。

――バラガミと呼ばれる存在。
それは白い髪と肌を持ち、血のように赤い眼をした若い女性の尼僧として語り継がれている。
羽織る衣装は烏のように黒く、白鷺のような髪とは対照的な見た目をしており、
紅薔薇の髪飾りをしていたから、奇跡を起こす存在であることもありバラガミと呼ばれているらしい。

88 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 17:55:57.711 ID:e.QjV2JY0
彼女は傷病にあえぐ人々を救った。彼女の【力】は、治療法のなかった病をなかったかのように消すことができた。
一方で、彼女には治癒できないものもあったと聞く。
生まれ持って機能を失った部位は、不可能だと断言していたそうだ……。

彼女は、はるか昔から最近になるまでその噂が語り継がれていた。
いずれのうわさも、彼女の姿は同じ。若い女性であることに変わりはなかった。
一説によれば――彼女は人魚の肉を食べて不老不死になった、と言うものもいた。


89 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 18:00:28.350 ID:e.QjV2JY0
彼女は、『人魚の肉を食べることはとても愚かなことで、願いは叶わない』と語ったこともあるらしい。
人魚の肉――それは食べれば不老不死になると言う妙薬。
人魚という存在は、未だ確認されていないから、眉唾物と、本には記されていた……。

オレはごくりと固唾を飲んだ。人魚――それはオレの心に残る思い出。
しかし……親父にその思い出を話したら、『人には話すな』と言っていたような気がする。

それは、妙薬の存在を隠すためという理由なのだろうか。
…オレは、突然胸がざわつくような感覚を覚え、オレは本の出版日を確認した。

それは20年前――オレが生まれるより前の古い本だった。
ならば、ただの伝聞ということか……。オレはなぜだか胸を撫で下ろしていた。

90 名前:Route:A-3 biography:2020/08/23(日) 18:03:40.060 ID:e.QjV2JY0
――オレは、続きを読み進めた。

バラガミは20年ほど前からその噂を聞くことはなかった、との記述が続いていた。
本の出版日もそれぐらいだ。オレが生れ落ちてから今まで、バラガミについては聞いたことがない。
この本も、一時の夢や都市伝説を記録したものになるのだろうか……?

乙海
「ふぅ」

オレは、ため息をついてぱたりと本を閉じた。
……人魚。それもまた伝説の存在だと言うが、オレは確かに見た。

では、バラガミも存在するのか?
……存在したとして、人魚の肉とやらを食べたのか?

オレはその理由が気にはなったが……
そのバラガミの存在自体が確かかどうかがわからないから、その思考が結論にたどり着くことは、ついになかった。

91 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:04:30.188 ID:e.QjV2JY0
集計班
「おや――貴女は竹内さんの――」

バラガミと人魚について後ろ髪を引かれつつも、本をもとの場所に戻したところで、
スーツを着た青髪の男性――きのこ軍兵士の集計班に話しかけられた。

乙海
「!――どうも」

いきなりのことに、面食らいながらも……オレは挨拶を交わした。
どこから、現れたのか……闇の中に潜んでいたのだろうか。


92 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:12:56.807 ID:e.QjV2JY0
集計班
「こんにちは、乙海さん――お父さんは、お元気ですか?」

乙海
「たぶん――今は、単身赴任でどこかに行っていて、たまに顔を合わせるぐらいですね」

――父と離れ離れなことには、もう慣れた。というより、子供のころからオレは一人に慣れているような人間だった。
だから、少しぶっきらぼうに――大人げない返しをする。
その返答をしてから、もう少し取り繕ってもよかったか……と少し自信を省みた。

集計班
「はぁ、なるほどね――まぁ、家族と離れ離れになりすぎると、そうなることもありますよね」

オレの態度に、集計班は頷いたように見えた。
同情?あるいは嘲笑?その長めの青い髪と青い瞳からは何も読み取れない。
一見、温和そうで……しかし陰を落とした雰囲気が、彼についての内面を理解させないように思える……。


93 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:14:16.575 ID:e.QjV2JY0
集計班
「でも、離れてた家族のことに、思いを馳せるぐらいはしておいたほうがいいですよ――
 人に忘れ去られることは、死にも近いようなものですからね」

感慨深そうに、語る集計班の横顔は――物寂しそうにも見えた。
それが彼の内面かどうかは……確定できないが。

集計班
「それはそうと、どうしてここに?明日は大戦だから、身体を休めたほうがいいのでは?
 ここは、周るだけでも一苦労ですからね」

乙海
「……確かに、予想以上に広いですね
 本をひとつ読んで、今戻したところですが……」

集計班
「ふーむ、確かにここは暇をつぶすのにはぴったりですが――
 やるならば、まとまった休日の日に取るべきですかね」

集計班は辺りを一瞥し……オレに向き直って、諭すようにそう語った。

94 名前:Route:A-3 shadow:2020/08/23(日) 18:20:59.710 ID:e.QjV2JY0
集計班
「なんせ、情報が集積されすぎて、探すのにうんざりしますからね……
 魔術でそういった制御もしようと考えていますが、まだ開発中ですからねぇ」

乙海
「ふむ」

集計班
「なにより、初めての大戦はかなり体力を使うものですからね……」

集計班は、頷きながらそう言った。――そういえば、彼は大戦の総括もしていたはずだ。
そういう立場にあるからこそ、大戦の流れについても広く把握しているのだろう。

乙海
「それも、そうですね――また来ます」

オレは、集計班の言葉に従うことにした。
踵を返し、こつこつと靴の音を響かせながら、図書館を後にするオレ……。

ふと後ろを見ると、集計班はオレが戻した本のあたりを見ていた。
……場所は合っているとは思うが、順番が微妙に違っただろうか。
まぁ、その場合彼が直すと思うが……そんな無責任なことを思いながら、オレは帰路についた……。

95 名前:SNO:2020/08/23(日) 18:21:26.463 ID:e.QjV2JY0
>>80
chapter番号スレ忘れてるのは秘密だよ chapter3です

96 名前:きのこ軍:2020/08/23(日) 18:56:19.905 ID:rLe6kz26o
人魚伝説…気になる。

97 名前:Route:A-4:2020/08/29(土) 22:53:07.849 ID:l7P1gmjU0
Route:A

                 2013/4/6(Sat)
                   月齢:26.3
                    Chapter4

98 名前:Route:A-4 arrangement:2020/08/29(土) 22:57:52.484 ID:l7P1gmjU0
――――――。

翌日の正午過ぎ、オレたちは、大戦が行われる場所……大戦場に居た。
岩山に囲まれた、広大な荒野の中……。トレーニングを行った場所……。
きのこ軍とたけのこ軍は、互いが見えないほどの距離を開けて集合していた。

山本
「諸君らが初めて挑む大戦のルールは階級制だ、オーソドックスなルールだからわかりやすいしとっつきやすいだろう」

――新人教育課程の中で、山本がそんなことを言っていたことを思い出す。

階級制――ランダムに決定される階級バッヂをつける戦いだ。
階級の位が高いほど、普段の運動能力を増強させる――そういう仕掛けを凝らしたルールらしい。
それならば、高い階級ばかりならいいのではないか――という疑問も出てくるが、
それに関しては高すぎる運動能力は制御しづらいという特徴を利用して戦力のバランスを取っているようだ。
だからこそ、階級が低くても十分に戦える……。

オレにとっては、まだふわふわとした概要しか理解できていない概念でもあった。

99 名前:Route:A-4 arrangement:2020/08/29(土) 23:32:12.431 ID:l7P1gmjU0
大戦場に敷かれた広大な魔法陣は、大戦を制御するために使われているという……。
階級による、運動性能の変化も、その一端――そんな都合のいい世界を生み出す魔方陣は、誰が作り出したのだろう。

兵士
「ほい、階級だ――」

そんな疑問を思っているうち、オレの手にバッヂが手渡された。
まぁ、その魔法陣の想像主など、オレには、関係ないだろう。

受け取った階級は軍曹¶だった。
新人には、少し過ぎたものかもしれないが……まぁ、いいだろう。

B`Z
「新人はん、これが初めての戦いや――もちろん緊張もあるかもしれんが、しすぎなくてもええ」

B`Zは、その場の全員にエールを送っていた。
それは参謀というよりは、軍のリーダーのようにも見えたが……その力強い言葉に、不安は和らいでいた。


「僕もたくさん戦ったが、戦いは日々変わるものだ、この大戦で状況判断力をつけてほしいよ」

¢――オレほどの高い身長と、整った顔をした黒髪の兵士は、後ろ手を組みながらそう言った。
その腰には二丁拳銃。あれが彼の得物というわけか……。

100 名前:Route:A-4 arrangement:2020/08/29(土) 23:33:23.654 ID:l7P1gmjU0
――大戦が始まるまで、まだ時間はある。
ふとオレは岩山の頂上を見上げた……そこには、大戦観測所があった。
そこでは、集計班あるいはその他の兵士が、観測機器を用いて戦況を確認し、両軍の戦力を計算するのだという。

昔は、魔術を利用しながら手作業で測定していたと聞く――想像するだけでその面倒さでうんざりしそうだ。
大戦を円滑にするための技術の発展もまた、大戦によって得られたものなのだろうか。

そんなことを思いながら、時計を見た。時刻は12:50――。

乙海
(もうすぐか)

そう思っていると……。

集計班
「お待たせしました、ただいまより第162次きのこたけのこ大戦の準備が完了いたしました
 それにつき、定刻通り13:00から大戦を開始します……」

集計班の声が、大戦場全域に広がった。マイクにはつきもののノイズはなく、鮮明な声色があたりに響く。
進んだ技術の結晶?あるいは魔術?ともかく、オレは今までに見たことのない世界を実感していた。

そうこうするうち、時計は時刻13:00を指し示した。

101 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:36:07.874 ID:l7P1gmjU0
集計班
「ファイエルッ!」

集計班の指示とともに、戦いの火蓋が切って落とされた。

きのこ軍兵士
「いくぞーーッ!」

同時に、前線で銃を構えた味方が、銃の引き金を引き、ダダダーーッという銃声と硝煙をまき散らした。

オレは、ライフルを構えながら後方支援の役割を担っていた。
――射撃が得意なことは大会にも出たことから周知の事実だからだ。


「さすが上位入賞しただけある、センスがあるよ
 初めての大戦では、新人だが狙撃手をやってみないか?」

――トレーニングの中、ライフルのテスト射撃をしていたオレに向けて、¢は拍手をしていたことを思い出した。
その後、¢はきのこ軍のエースと呼ばれる兵士――俊敏な機敏力と、腰に提げた二丁拳銃の扱いに秀でており、
接近戦でもナイフを利用した立ち回りができるファイターだとB`Zから聞いた。

オレのやっていた射撃競技も、遠くの的を狙うという意味では共通点は大いにあった。
だから、得意分野を活かせるという意味ではオレにとっても渡りに船であり、¢の提案に快く了承することになった。


102 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:36:59.840 ID:l7P1gmjU0
きのこ軍兵士
「ヨシッ!撃破だ!」

たけのこ軍兵士
「ぐわっ!」

銃声に、金属――おそらくは刃物の刃――がぶつかりあう音と、かすかな断末魔。
しかし、大戦で死亡することはない。
広大な魔方陣の中に刻み込まれた魔術には、致死的あるいは再起不能になるダメージを受ける瞬間に、
バーボン墓場――岩山の麓に作られた広場に転送される仕組みとなっている。

転送された兵士は、そこで大戦の成り行きを見守ることになるということらしい――。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍92%、たけのこ軍88%です」

B`Z
「優勢のようやな」

狙撃手の待機場所で、司令官として座るB`Zが、頷きながら言った。
同時に大戦場の地図や本日の気候データの書類を見比べながら、次の一手を考える仕草を取っていた。

B`Z
「だが、戦いは何が起こるかわからん――狙撃手は、手を抜かずに射程内に敵が入ったら撃つように」

きのこ軍兵士たち
「了解!」

その言葉には、何度も大戦に参加したという重みもあり、説得力を増していた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

103 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:38:16.084 ID:l7P1gmjU0
乙海
「たけのこ軍か……」

走っている人影――新緑色の軍服を着たたけのこ軍の兵士をオレは見ていた。
オレはゆっくりと引き金に指をかけ――敵の動きを予測しながら弾を発射した。

たけのこ軍兵士
「がはっ!」

命中。走る軌道を予測して視ることができた。この調子なら、なんとかなりそうだ。
これが、軍曹¶という階級に紐づけられた身体能力の強化か?そう思っていると……。

集計班
「たけのこ軍に軍神君臨!」

慌てたような、集計班の声とともに――あたりはどよめいた。


104 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:39:12.382 ID:l7P1gmjU0
B`Z
「なに、軍神やて――
 全隊に告ぐ、軍神とサシではやりあうな――基本はほかの兵士を狩りながら、射程外で足止めするんや」

B`Zも、少し驚愕しながらもすぐに命令を無線機を通じて伝える。
迅速な対応――これが、参謀と呼ばれる所以なのだろうか。

軍神――それは階級制の最高級の階級。しかし、最初のバッヂ配布には存在しない。
ランダムで決まる一定のタイミングで、敵を多数撃破したものがなることのできる階級。
スポーツ大会では、凡人だろうと世界一を狙えるぐらいに身体能力が上がるという。

乙海
「たけのこ軍が……ひとり、ふたり……」

どよめきの中、オレは変わらずスコープで敵の様子を見ていた。
敵は、オレから身を隠すように岩陰に入り、魔術の詠唱をしながら様子を伺っていた。
様子を伺う周期は一定のリズムだ。相手の行動は予測できそうだ。

105 名前:Route:A-4 battle of wars:2020/08/29(土) 23:40:58.640 ID:l7P1gmjU0
ちらりと、たけのこ軍兵士が動こうとする一瞬――。
このタイミングなら射貫けると――オレは再び引き金を引いた。

たけのこ軍兵士
「がっ!」

たけのこ軍兵士
「ぐふっ!」

近くに居た兵士を巻き込んで撃破――偶然にも、大量に撃破する形となった。

乙海
「うん……?」

ふと、オレの周りにきらきらと輝く光が見えた。その発生源に目をやる。
そこには……オレの軍服に留められた軍曹¶のバッヂがきらきらと輝き始めていた。

集計班
「き、きのこ軍にも、軍神君臨!」

同時に――驚愕したような集計班のアナウンスが響いた。


106 名前:SNO:2020/08/29(土) 23:41:40.968 ID:l7P1gmjU0
大戦開始の合図が会議所に誤爆してた内容と同じなのは秘密でもなんでもない

107 名前:きのこ軍:2020/08/29(土) 23:44:40.451 ID:DPnacW0so
まじかよ覚えてないのは秘密だよ

108 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:06:23.062 ID:wyQ1jM4A0
乙海
「B`Zさん、どうすればいいですか」

――さすがに、この事態は予想だにしていなかった。
すぐにオレはB`Zの知恵を借りることにした。
まさかこんなイレギュラーな事態が起きるとは――オレは、極度にパワーアップした肉体を的確に操れるだろうか。

B`Z
「今のお前さんの戦い方から、ここで狙撃を続けるんや
 なに――初陣で軍曹¶の身体能力を活かした狙撃をしたんや、いけるで
 ワシらも精いっぱいサポートするから、全力を尽くすんや」

B`Zは、親指を立ててオレに頷いた。

乙海
「了解」

オレはその行動に、背中を押され――言葉に従うことにした。
B`Zの言葉には頼りがいがあった。やはり大戦を長く続けているだけのことはある。

乙海
「よし」

息を大きく吐いて、オレはスコープを覗いた。狙うはオレの敵――たけのこ軍。
スコープ越しに居るたけのこ軍兵士は、彼らにとっての敵―きのこ軍にも軍神が発生したことの焦りが見えた。

109 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:10:34.695 ID:wyQ1jM4A0
乙海
(見える……これなら、なんとかなるだろうか)

まるで、目の前の動きがスローになったようだ。これなら相手の行動も予測することも容易だろう。
さらに、弾丸の起動もどことなく予想が付く。それどころか、風の吹き方までも予測できるような気がする。

引き金を引いては、すぐさま次の標的にスコープを向ける――。次々と撃ち抜かれる兵士たち……。
軽やかに動く身体が、一気に敵の10%以上の兵力を削ったのだ――。

乙海
「っ」

くらりと、身体がふらつく。
がしりと、地面に膝をつきながら、息を整える――突然の身体能力の向上に、オレの身体が困惑しているのだろうか?

が、そのふらつきも一瞬――再び姿勢を直し、敵を撃破するためにオレはスコープを覗いた。
そこでは、たけのこ軍の軍曹¶と大尉‡が、コンビネーションを取ってきのこ軍の兵士を多数撃破していた。


110 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:11:53.203 ID:wyQ1jM4A0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍45%、たけのこ軍68%です」

――オレのふらつきの一瞬のうちに、戦況が一気に変わっていた。

B`Z
「なんやと――今回の戦況は目まぐるしいな……
 しかし乙海、無理はせんでええ――平常心を保て」

参謀の額には露のような汗が浮かんでいる。目まぐるしく変わる戦況に、参謀と言われる彼でも焦りを覚えているらしい。
れでも、オレへの言葉は的確なものだった。


「参謀!敵が予想以上のコンビネーションを取って味方をなぎ倒している!」

B`Z
「いかん、一旦退却や――そのついでに、軍神Å率いる狙撃隊の射程距離におびき寄せろ」


「了解!皆、敵から距離を取り退却だッ」

オレは、通信機の向こうで叫ぶ¢の声を聴きながら、再びスコープを覗く。
――そこには、きのこ軍の軍曹¶が、敵をなぎ倒す姿が見えた。


111 名前:Route:A-4 army god:2020/08/30(日) 22:14:38.130 ID:wyQ1jM4A0
きのこ軍兵士 軍曹¶
「よしッ!まだいけるッ!」

軍曹¶から曹長†に昇給し、彼はガッツポーズをとっていた。
しかし――そのスキを狙っているたけのこ軍の兵士がいた!

隣の狙撃手が、引き金を引いて、迫る敵を足止めしていた。

乙海
「………」

オレも、隣の狙撃手が狙う標的の向こうをスコープで見た。
曹長†になったきのこ軍の兵士を撃破しようとしているメイジの集団。おまけに、すでに何らかの魔術を詠唱中だ。

だが――その足取りは見えていた。
弾丸をライフルに込め、引き金を素早く引き、敵の一帯目がけて弾丸を飛ばした。

たけのこ軍兵士
「う、うわっ!魔法が!」

狙いを定めるオレの頭には、ひとつの光景が見えていた。
それは、相手の自爆を誘発するものだった。

詠唱中のメイジの相手の足元を狙い、さらに詠唱中の魔力の塊すれすれに射撃。
慌てた敵軍のメイジが、ふらついた瞬間に魔力を誤爆し、さらにその誤爆は隣に隣に、連鎖的に広がる……。

それはまるで台風が過ぎ去ったような光景でもあった。
なかば予想通りではあったが、思ったよりも多く、恐らくは30%を越える兵力を削っていた……。

112 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:19:25.753 ID:wyQ1jM4A0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍19%、たけのこ軍26%です」

――それでも、優位がひっくり返らない。


「参謀、こっちの舞台では罠が――うおおおっ!」

¢の断末魔が、通信機越しに響いた。
後には重火器や魔術の弾ける音と、兵士たちの喧騒だけが響いていた。

B`Z
「おい¢?おいッ!」

――参謀の必死の呼びかけにも答えない。つまりは……エースと呼ばれる¢もやられたのか?

黒砂糖
「――大変なことになっているな」

その時、きのこ軍の黒砂糖――紛争で、たった一人で敵軍の96%を壊滅させたという――通称【鉄人】が、
気配もなく、後ろに立っていた。


113 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:23:20.764 ID:wyQ1jM4A0
黒砂糖
「おそらくは軍神Åのきみが――48%以上の兵力を一気に削ったみたいだが
 兵士ひとりだけ居ても、敵が数で押してくると面倒だからな
 私も援護に来た」

――黒砂糖は、メイジでありながら優れたファイターでもあった。剣術を得意とする、ファイター寄りのメイジ。
しかし、黒砂糖の十八番はやはり魔術。詠唱なく漆黒の雷撃を連発し、敵を牽制あるいは撃破することができると、¢が語っていたのを思い出した。

B`Z
「黒ちゃん、来てくれたか
 お前の部隊も壊滅したんか?」

黒砂糖
「ああ――791さんが暴れてたからね――私はうまく退却できたが」

こんな状況でも、軽口を叩きながらすでに魔術の詠唱を始めていた。

黒砂糖
「軍神Å、お前の狙った魔術の誤爆は私や791さんレベルには通用しないぞ
 たとえ攻撃を受けても、魔力がその場に停留するようになっているからな」

乙海
「なるほど、危ないところでした」

黒砂糖
「ふぅ……これもまた、新人へのアドバイスといったところかな」

黒砂糖に返答しながら、内心オレは安堵していた。
メイジであれば誰であろうと、その作戦を取るつもりでいたからだ。
調子よく敵軍の兵力は削ったものの、オレがまだ新人であることを改めて思い知ることとなった。

114 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:24:45.717 ID:wyQ1jM4A0
再び、敵への攻撃を加えようとしたその瞬間――。
スコープ越しに、たけのこ軍の大尉‡と大佐▽が、再びコンビネーションを取り味方を撃破していた。

乙海
「なにっ」

黒砂糖
「チッ、あの波状攻撃のせいで、近くの味方は戦意喪失しながら逃げる最悪のパターンになっているな」

オレは、引き金を引き――黒砂糖は、雷撃の魔術を同時に飛ばした。
周りの兵士たちも、各々の攻撃でたけのこ軍を攻撃しようとした。
だが、それが敵軍を撃破するよりも先に――。

集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は25%でした――」

集計班のアナウンスが聞こえ、同時にオレたちの攻撃は掻き消えた。


115 名前:Route:A-4 settlement:2020/08/30(日) 22:28:18.091 ID:wyQ1jM4A0
B`Z
「くっ、いいところまで行けてたが――今回も負けたかっ」

きのこ軍兵士
「くそーっ、来週は勝つぞ!」

きのこ軍
「うぅうう……」

兵士たちは、悔しそうにその場に立っていた。

黒砂糖
「――まぁ、いくら強者が一人居てもダメなことはこれでわかったな」

黒砂糖は、ため息一つつきながら、静観したように語ると、オレの肩を叩いた。

乙海
「はい」

オレは――敗北したにも関わらず、なぜか納得したように答えを返した。
オレには、不思議と悔しい感情を覚えなかった。
周りの兵士たちは皆悔しさに震えたり、憤怒している者もいるというのに――。

B`Z
「しかし、初めての兵士もみんな頑張っていたんや、今回の失敗を次回に改善すればええんやで」

何度も大戦を経験したであるうB`Zは、悔しそうに唇を噛みながら――兵士たちを励ましている。
流石は参謀と呼ばれることだけはある。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

116 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:47:38.131 ID:wyQ1jM4A0
大戦を終えた後は、敗北した軍が大戦場の清掃を行う手筈になっていた。
散らばった銃弾や草の切れ端など、戦いの痕跡を片付け、会議所に戻ると、中庭一帯にバーベキューセットが組まれていた。

山本
「今回は我がたけのこ軍の勝利だが、きのこ軍の粘りも感服した――
 それはともかく、大戦終了後の後夜祭のようなものだ、精いっぱい楽しんでくれ!」

山本が、その中心でマイク越しに大きな声で宣言していた。
少し、その声量に鼓膜がキンキンするが。

【大戦】は、準備から後始末、そしてこの後夜祭を含めた一大イベントなのだと、新人教育課程で聞いた。
【大戦】が徹底してイベントとしてのスタンスをとっていることに、オレは感心していた……。

117 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:49:26.648 ID:wyQ1jM4A0
きのこ軍兵士
「お前、やるなぁ!」

たけのこ軍兵士
「お前の戦い方だって、震えたぜ」

B`Z
「よし、じゃんじゃん焼くで――肉追加や!」

791
「いよっ、参謀――おかわりちょうだいね」

筍魂
「戦闘術魂なら、さらに手際よくできるぞ」

791
「うるさいなぁ――魂さん」

軍派関係なく、和気藹々と対話する兵士たち。じゅうじゅうと焼ける肉の音が、それを彩っていた。


118 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:49:55.514 ID:wyQ1jM4A0
きのこ軍兵士
「乙海――お前すごいな!」

きのこ軍兵士
「強い女兵士――魔王791の再来みたいだな」

女兵士
「かっこいいわねーっ」

乙海
「はぁ……どうも……」

オレは――兵士に声をかけられても、適当に返答し、なんとなく、飲み物を飲みながら、適当に肉と野菜をつまむだけだった。
……どうも、オレは対等に話しかけてくれる存在がいない。自分から歩めば変わるかもしれないが――
かつての経験から、どうしても相手が委縮してしまうビジョンが見え、ついつい避けようとしてしまう――。
そうなるのは背丈といった身体的特徴か、あるいは、オレの性格といった精神的特徴のため――その両方かもしれない。


119 名前:Route:A-4 after party:2020/08/30(日) 22:51:08.431 ID:wyQ1jM4A0
オレは飲み物に口をつけてみた。大戦で疲弊し乾いた喉を潤す感覚は、少々の爽快感を覚えるが……
その場の空気は、オレにとってはあまり好みではなかった。

乙海
(ふぅ……隅の方で様子でも見ておくか)

オレは、こっそりと中庭の隅へ移動した。
辺りの空気感に、どうしてもなじむことができない。
オレは、距離感を覚えながら、和気藹々した後夜祭の風景を眺めていた。

120 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 22:54:39.897 ID:wyQ1jM4A0

「乙海――お疲れ」

乙海
「――どうも」

ひとりで佇むオレに、¢が話しかけてきた。


「きみは、誰かと食べないのか?」

乙海
「あいにくですが、一人の方が落ち着くので」

心配するような¢に、オレは正直な感情を伝えた。

121 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 22:56:00.368 ID:wyQ1jM4A0

「ふーん、僕と同じだな……
 エース級の活躍をしても、どこか冷めた目線でいるところが――そして、孤独を好むところが
 まぁ今回、たけのこ軍の罠に引っかかってやられた兵士が言うセリフではないかもしれないけどね」

エースと呼ばれている¢――その端正な顔立ちと立ち振る舞いからは意外な答えだった。
……ある意味、似た者同士、ということなのだろうか?

乙海
「そうなんですか」


「――その人物をただ見ることは、仮面を見ているだけにすぎないんだ」

オレの考えていることを悟ったのか、¢はゆっくりと答え始めた。


122 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 22:58:51.874 ID:wyQ1jM4A0

「――人は、みんな仮面をかぶっているんだ
 僕も、エースという仮面をかぶって、優秀な人間として見られているが――
 その中身――性格はこういうものだぞ?
 まぁ、参謀や集計さんといった古くからの面子は知ってるけどね」

乙海
「確かに、そうですね……」

¢は、感慨深そうにオレに語った。
たしかに、彼の語った内容は、オレと共感できる点もあった。

彼からそのことを聞かなければ、エースという肩書だけで別の想像をしていたかもしれない。

「だから、きみも――物事の外面だけではなく内面を見ながら行くといいん
 醜いものは案外近くにあるかもしれないし――おっと」

そこまで言って、¢は話すのをやめた。


「これ以上は面倒事になりそうだから、ぼくはあっちに行くよ――」

気が付くと、オレは女性兵士たちからじーっと見られていた。
その表情は、どこか不満げで――¢が立ち去ると、その後を追従してる……。


123 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 23:00:03.248 ID:wyQ1jM4A0
……ああ、そうか。
彼女たちは、¢目当ての兵士ということか――。
端正な顔立ちのエースという仮面に、惹かれているのだろうか?

オレは――どうなのだろうか?
彼の特徴を脳で分析しても、魅力的とは思わない。
考え方に共感できることはあるが、それもオレと同じ考えを持つ存在がいることを知っただけにすぎなかった。

……そういえば、オレは誰かを魅力的に思ったことはあるのだろうか。
――異性で、何か思い当たるか考えてみる。

しかし、何一つとして、思い浮かばない。
オレが通っていた学校は、男女両方ともいたはずだが――。


124 名前:Route:A-4 persona:2020/08/30(日) 23:02:44.855 ID:wyQ1jM4A0
――ふと、頭によぎる光景があった。
それは、幼い日の思い出。夢の中で見る光景。オレにとっては確かな事実である景色。

夕日の海をバックに、砂浜できれいな字を書いた人魚。
彼女の魅力に、オレはずっととらわれているのかもしれない。だから――魅力を覚える人物がいないのだろうか。

――まぁ、それよりも……次の大戦だ。
今回は、身体能力が非常に強化されたから――次回こそ手堅く戦ってみたいという気分もある。

オレは、ぐっと手を握ったり開いたりしながら、後夜祭で兵士たちが楽しげにする様子を遠くで見ていた。

加古川
「娘が待ってるから、今日はこの辺で――」

抹茶
「僕も見たい番組があるのでこれで――」

やがて、兵士の一部が帰り始め……オレも、それに合わせて帰宅することにした。

帰路につくオレの中では……¢の語った、外面と内面の差異についての話題が、かすかに残っていた。


125 名前:SNO:2020/08/30(日) 23:03:05.481 ID:wyQ1jM4A0
大戦は実際の内容と同じ

126 名前:きのこ軍:2020/08/30(日) 23:33:59.747 ID:AIXgRpAoo
た、大戦で青春をしている!?
終わった後にみんなでBBQするってのはらしさが出てますね~感心

127 名前:たけのこ軍:2020/09/01(火) 22:11:52.593 ID:0c4Ev95Q0
>>97の月齢は25.7のミスなのは秘密だよ

128 名前:たけのこ軍:2020/09/01(火) 22:14:24.861 ID:0c4Ev95Q0
>>127
25.3だった

129 名前:Route:A-5:2020/09/01(火) 22:14:44.887 ID:0c4Ev95Q0
Route:A

                 2013/4/7(Sun)
                   月齢:26.3
                    Chapter5

130 名前:Route:A-5:2020/09/01(火) 22:16:12.394 ID:0c4Ev95Q0
――――――。

オレは、夢を見ていた……。

それは、幼い日の思い出。
砂浜で出会った少女との、たった一日限りの――それでいて、決して忘れることのない思い出。

おとめ
「――きみは?」

???
「………」

オレが海岸を散策していたとき、着物を着た少女が呆然と座り込んでいたのを見つけた。
年齢は恐らくオレと同じか、少し上といったところか……オレは、心配になって彼女に話しかけた。

131 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:17:52.324 ID:0c4Ev95Q0
少女の目には涙が浮かんでおり、無言で自分の足を指さした。
そこには、赤い血が滲み、だらだらと傷口から当てれ出ていた。
見るからに痛々しく……オレの心も、ちくちくと痛んだことを今でも覚えている。

おとめ
「けがをしているのか――人を呼んでこようか?」

???
「………」

ふるふると、首を横に振る少女――その身体も同じようにぶるぶると震えていた。

おとめ
「………じゃあ、オレが応急手当するよ」

――子供のころから、オレは孤独を好んでいた。
そして父も、そんなオレのスタンスに異を唱えるわけでもなく……
ケガしても一人でなんとかできるようにと――応急手当の仕方を学び、簡単な道具を持ち歩くように言い聞かされていた。


132 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:25:09.718 ID:0c4Ev95Q0
おとめ
「ちょっと、待ってて――」

オレは、すぐに近くの自販機で水を数本買い、傷口を洗い流した。

???
「……!」

そして、ハンカチを傷口に当て――止血する。

おとめ
「痛いかもしれないけれど――」

心配しながら手当てをするオレに対して、少女の顔は――どこかほっとしていた。
オレはその表情がずっと忘れらなかった……心に、深く深く、楔を打ち付けたかのように刻まれていた。

乙海
「はっ――」


……そこで、オレが目覚めた。

133 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:27:31.919 ID:0c4Ev95Q0
翌日……日曜日は、完全な休養日となっていた。
大戦で疲れた心身を癒す――そういう目的があるそうだ。
まれに、土曜日に大戦ができなかった時の代替日になる時もあると聞いたが……。

オレは――翌朝、初めての大戦のために疲労でぐったりとした身体を何とかベッドから起こしていた。

乙海
「っ……ぐぐぐっ」

バキバキに凝った肩を、どうにかぐるぐると回す。
しばらく、そうやっているうちに……ようやく、立ち上がることができた。

乙海
「ふぅ……どうするかな――」

背伸びをしながら、オレは、会議所にでも行こうかとも思ったが、どうせこれから何度も行く場所に、あえて行く必要はあるのだろうか……とも思っていた。
どうせどこかに行くのなら、普段行かない場所のほうが有意義ではないか?

乙海
「……」

オレは、しばらく考え込んでみることにした。


134 名前:Route:A-5 holiday:2020/09/01(火) 22:29:40.146 ID:0c4Ev95Q0
――しかし、それも思いつかなかった。
オレの住むきのこ軍居住区は、一つの大都市ともいえるが……。
子供のころ、父とオレがたまの外出をするとき、主要なところはあらかた巡り、行かない場所というものがぱっと浮かばなかったのだ……。

乙海
「…………」

結局、オレは、【会議所】の施設の開放時間を見ていた。
本部棟の散策は可能。事務棟は休日は閉まっている――wiki図書館は時短になるが解放されている――。

乙海
「――まぁ、いいか」

結局、オレは会議所へ行くことに決めた。――選択肢が、それしか思いつかなかったからだ。

軍神の影響か――後夜祭では気が付かなかった疲れは、細波のように、わずかに残っていたが……
オレは、外に足を向けた。

135 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:31:11.669 ID:0c4Ev95Q0
会議所にたどり着いたオレは、人の少なさにどこかほっとしていた。

大戦当日はこれでもかと密集していたのに、休日ではまばらに居るだけ。
――ゆっくり、落ち着ける場所に居るのかもいいかもしれない。

そう思って、自分好みの場所がないか――それを探すことにした。

そう思って、歩き始めたが――本部棟は、広い。本当に――広い。
新人教育課程の時には、人でごっ返していたから、意識しなかったが……。
改めて見るその廊下は雄大で、まるで無限に続くかのようだった。

……様々な研究室まで、存在している。
オレに縁はあるのだろうか――学業は、それなりにできた方だが、
ここまでの専門知識を突き詰める人間――その器はないような気がすると直感がそう言っていた。

136 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:36:36.567 ID:0c4Ev95Q0
そんなことを思いながら、研究室の近くの張り紙を見る。

【トニトルス・フェラム】研究所会議所支部――。

――確か、義肢などを開発している会社だったか。
大企業のルミナス・マネイジメントと提携したというニュースも、昔聞いたことがあった。

そんな思考に耽っていると、突然声をかけられた。

???
「――貴女は、つい先日の大戦の新人ですね」

乙海
「!」

そこには、メイド服を着た、左はブラック、右はホワイトに分かれた色をしたショート・ヘアーの女性が居た。
耳の形状から、恐らくはエルフなのだろうか……?
その背中には髪色と同じく、左はブラック、右はホワイトの翼……これは衣装なのだろうか、あるいは本物なのだろうか。


137 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:40:59.048 ID:0c4Ev95Q0
ブラック
「驚かせてしまったようですね――私(わたくし)はトニトルス・フェラムの社長秘書のブラックと申します」

――ブラックと名乗った女性は、ぺこりと、綺麗な姿勢の礼をした。

その顔には右目を縦に走る傷痕があった。頬にも横薙ぎの傷痕……。
その右目はずっと瞑っていて、オレは、知らずのうちに彼女をじっと見ていた。

ブラック
「おや……この眼が気になる――まぁ、それも当然ですね
 私の右眼は見えませんから……それももう、とても昔の話です」

オレの疑問を解消するためか、あるいは予想したのか――彼女は感慨深げにそう答えた。

乙海
「すみません」

オレは、居心地の悪さを覚えて謝意を伝えた。

ブラック
「気にしなくても大丈夫です……私は奇異の目で見られることはもう慣れていますから」

あっさりと答える彼女の言葉からは、オレと同じ視線で何度も見られたのだ――という事実の重みがあった。

138 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:44:02.619 ID:0c4Ev95Q0
ブラック
「同時に、たけのこ軍所属の兵士であり、女性兵士の相談役でもあります
 ――とはいえ、現在は、相談役は791さんがメインでやってもらってますけれど」

乙海
「なるほど、よろしくお願いします」

ブラック
「相談なら聞きますよ――解決まで至れるかは分からないですが」

とても丁寧で……それでいて、どこか儚さと淡々との混ざった声色は、不思議な印象をオレに与えた。

ブラック
「トップはともかくとして……この会社の義肢技術は、なかなか素晴らしいですよ」

ブラックは、そう言うと左手をオレに差し出した。
握手だろうか?
オレは腕を差し出し、手を握ると――中指あたりから鋼の重さを感じた。

乙海
「……!
 貴女も、そうなんですね」

ブラック
「そう――見た目ではわからないようになっていますが、身体能力も上がり、武器としても使うことができる
 ――わざわざ肉体を捨ててまで強化する必要性はないと思いますけれど」

義肢に初めて触れ、驚きの感情を覚えるオレに対し、
ブラックは相変わらず淡々と語っていたが……どことなく、その義肢に対しての高い信頼を思わせる答えを返した。


139 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:46:39.054 ID:0c4Ev95Q0
乙海
「どういった機能があるんですか」

ブラック
「――全部は、話しません
 しかし、機能の一つとしては魔力を利用した兵装があるということだけはお伝えしましょう」

乙海
「!」

魔術を用いた兵装……。
そういえば、親父から聞いたことがあった。弾丸を丸ごと魔力だけに置換した兵装があることを……。
それを義肢に組み込むことで、手足を操るようにその兵装を操ることができる……というわけか。

ブラック
「まぁ、私の義指に兵装は無いですが」

ブラックの淡々としたしゃべり方からは、その機能性の応用性まではわからない――。
その声色からは先の見えない闇のような感覚がある。
彼女の名前のブラックは、そういったところにも由来しているのだろうか?

140 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:49:15.347 ID:0c4Ev95Q0
乙海
「魔術の兵装と、ライフル射撃との違いは」

そんな中でも、なんとかオレは冷静に訊く。

ブラック
「兵装の方は、魔力そのものですから、火薬やらなにやらを用意する必要がなく…メイジの魔力が尽きない限りはいつまでも使えるという利点があります
 とはいえ、弾丸を入れ替える銃は戦闘のテンポを鋭敏に鍛えさせますから――
 兵装は大戦で重要な、戦闘の感覚を失うリスクがあります……
 とはいえ、結局、扱う者しだいといったところでしょう」

乙海
「……」

オレは、固唾を飲みながらブラックの答えを聞いていた。……なにせ、今まで出会ったことのない概念だからだ。
射撃競技に身を尽くしたオレに興味のある話題だからか?あるいは、未知の技術を学びたいという好奇心なのだろうか?

ブラック
「――女性で、この機能を真剣に聞いてくれそうな人は珍しいですね」

――答えの出ない理由は兎も角、オレの姿勢はブラックとしては満足だったらしい。
ブラックは、ここまで鉄仮面を貫いていたが――話し終えて、少し微笑んだような気がした。


141 名前:Route:A-5 anima:2020/09/01(火) 22:53:38.245 ID:0c4Ev95Q0
ブラック
「それはそうと、孤独になそうな場所なら――会議所の城下近くの海岸が穴場です」

乙海
「!」

ブラック
「貴女は、私と似ています――
 孤独を好んでいそうなところが――とても、とても――
 だから、こっそりと教えてあげます」

乙海
「ありがとうございます」

――ブラックは、二色の翼を揺らせながら研究室の中に消えていった。
結局、翼には言及されなかった。
オレの興味のある内容とは真逆の話題のために、質問をするタイミングがなかったのもあるが、
どことなく立ち入りづらい話題でもあった。彼女のふさがった右眼のように……。

それにしても……孤独を好む存在に二人もオレは出会った。
¢と、ブラック……。

会議所は、オレにとってある意味ぴったりの場所なのかもしれない。
世界各国から人が集まるから、オレと同じ価値観を持つ存在とも会える可能性が高くなる――。
そういった考えは、今この時間にしてようやくたどり着くことになったが……。

オレは、ブラックの言葉通り、海岸を散策してみよう――。
こつこつと響く足音が、海岸へと舵を切った。

142 名前:SNO:2020/09/01(火) 22:54:09.470 ID:0c4Ev95Q0
隻眼の翼を持つメイド枠……一体誰なんだ……

143 名前:きのこ軍:2020/09/01(火) 23:04:44.319 ID:yA7Sawfgo
お姉さんの登場いいぞ

144 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:36:32.825 ID:35rxNv.Y0
海岸は――シーズンオフだからか、人の気配はなかった。
細波の音が聞こえ、潮の香りが鼻をくすぐる。

乙海
「静かだ――」

――そこは、オレにとって理想的な場所だった。
夏は例外かもしれないが……足元の砂を手ですくってみる。

さらさらとした砂がオレの手の中でこぼれ、地面に散らばっていく。

……そうしていると、オレはある一つの事実に気が付いた。

乙海
「ここは――あの女の子と会った――」

――夢の中で見る光景。人魚の少女との出会いはこの場所だったのだ。

145 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:38:48.569 ID:35rxNv.Y0
どうしてここなのか――それは、親父の仕事に付いていったからだ。


「しばらくの間、この海岸で遊んでいてくれ――」

とはいえ、オレの存在は仕事には不必要。
その間、オレは一人で海岸で佇んでいた。
オレは親父の言葉に従い、定刻までそこに居た。

……あの日見たときは、世界すべてのように思える広さだった海岸。
今見れば、なんの変哲もない海岸。これも――成長による視野の違いなのだろうか?

――確か、このあたりに……。
自販機は、変わらず佇んでいた。中のメニューは多少入れ替わっているが、あの時買ったものと同じ銘柄の水は残っていた。


146 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:40:27.001 ID:35rxNv.Y0
乙海
「ふむ」

なんとなく、小銭を入れてスイッチを押す……ガコンという音とともに、水が取り出し口に落ちてくる。

オレは、その中身を飲むわけでもなく、ただ砂浜に落とした。

乙海
「……」

どぼどぼと落ちる水――砂を湿らせ、粘度を上げ、そのしぶきはオレを濡らす。

乙海
「………」

この行為に――意味はない。あの人魚が出てくるわけでもない。
それでも、どこか憧憬を覚え――気が付くと、のどの渇きを覚えた。

乙海
「んっ、んっ――ぷはぁ」

やがて、オレは残った水を一気に飲み干した。
空になったペットボトルを、自販機のごみ箱に捨て――オレは再び、水で濡らした砂を見つめた。


147 名前:Route:A-5 ripple:2020/09/04(金) 23:40:41.082 ID:35rxNv.Y0
乙海
「――」

茶色く湿った砂は、何も語り掛けない。ただ物質としてそこにあるだけだ。
――そういえば、あの人魚も……言葉を話すことはできなかった。

……人魚。wiki図書館で見たバラガミの伝記を思い返す。
人魚の肉。不老不死の妙薬。それを食べたと噂されるバラガミ……。

本の内容を思い返しながら顔を上げると、いつの間にか海は夕焼けに染まっていた。
夢の中で見たのと同じような景色――そこに人魚はいないが。

……ふと、誰かの気配を感じた。
オレはその方向へと向かう……すると、黒砂糖が夕陽を眺めながら小さなキャンバスに絵を描いていた……。

148 名前:Route:A-5 animus:2020/09/04(金) 23:53:04.142 ID:35rxNv.Y0
黒砂糖
「おや、前回の軍神さん――名前は何だったかな」

黒砂糖は気配を察したのか、オレの方を向いて尋ねた。
翡翠色の瞳に紺碧色の髪。その細身な身体を、オレよりも背は少し低く……鉄人という単語には似つかない姿。
身に纏った神父装束は戦闘とは無縁な雰囲気があった。

その長い耳は、エルフという種族の特徴だ――と誰かから聞いたことがある。
つまりは黒砂糖もエルフなのだろうと、オレは判断した……。

乙海
「どうも……竹内乙海です」

軽く会釈をすると、黒砂糖は再びキャンパスに向き直り絵描きを再開した。
神父装束を着こんだ黒砂糖の表情は、向こうを向いているから見えないが……おそらくは絵に集中した真剣な表情をしているのだろう。


149 名前:Route:A-5 animus:2020/09/04(金) 23:56:34.817 ID:35rxNv.Y0
黒砂糖
「そうだ、乙海だったか……」

乙海
「黒砂糖さんも、人気がいないところを選んでここに?」

黒砂糖
「そう……
 それに海には複雑な想いがあるから……私はたまにここに来て絵を描くことにしている」

オレはキャンパスをちらと覗き見た……その小さな世界の中では、オレの見ているのと同じ海が広がっていた。
波しぶきを、空を、雲を正確に再現している……オレは思わず小さく唸った。

乙海
「凄い……」

黒砂糖
「私は、絵を描くのは趣味だ……
 それで、描き続けているうちにいつしかこうなった」

戦闘に関するものではないものの、確かに技術を突き詰めていることは確実だ。
それがどのような技術であれ、尊敬できるものだった……。


150 名前:Route:A-5 animus:2020/09/05(土) 00:01:00.594 ID:RLhGsxlc0
――そういえば、黒砂糖は鉄人と呼ばれているらしいが……そのルーツはどこからなのだろうか。
絵に関しては、趣味に身を捧げ研鑽した理由だろうが……オレは、好奇心で訊ねていた。

乙海
「一つ質問が――あなたの強さはどうやって身に付いたんですか」

黒砂糖
「率直に訊いたな……
 ――古い知り合いに、武術を修めている者が居て……彼にいろいろと叩き込んでもらった……これが答えだ」

乙海
「なるほど……」

武術の達人。その手の道を究めた者に師事するのは、シンプルな手段の一つでもあった。
親父も射撃技術に長けていたから、それに師事することでオレも得手としている。
全くもって非の打ちどころのない納得いく答えだった。

黒砂糖
「たけのこ軍の筍魂――彼もまた武術の達人だから、彼に頼れば手助けになるかもしれないな」

……黒砂糖は、遠い眼で、海の果てを見つめながらそう呟いた。


151 名前:Route:A-5 animus:2020/09/05(土) 00:01:40.801 ID:RLhGsxlc0
乙海
「………ありがとうございます」

オレは礼を告げる。それにしても……オレはどうして強さに興味があるのだろうか。
それは味方でもある兵士に興味を示したのか……あるいはオレ自身なのか……
答えはまだ、出ることはなかった。

黒砂糖
「――よし、描けた
 時間もいい頃合だし、そろそろ、退散するか」

気が付くと、空は夕暮れに染まっていた。
キャンバスの中には、オレの見るものと同一の景色が出来上がっていた。
その技術に、オレは再度心の中で敬意を表した。

152 名前:Route:A-5 animus:2020/09/05(土) 00:02:41.462 ID:RLhGsxlc0
黒砂糖は、立ち上がり……絵画道具を持って立ち去った。

黒砂糖
「乙海よ、会議所でまた会おう
 あるいは大戦で共闘するかもしれないな」

乙海
「はい」

それだけの短いやり取りを交わし、黒砂糖の背中は遠くなっていった……。

砂浜の景色への名残惜しさを覚えつつも、オレも帰路につくことにした。

後ろで波の音が響いていた。
ざぁざぁ――という細波の音は、オレを呼び止めようとしているようにも聞こえた。

153 名前:SNO:2020/09/05(土) 00:04:22.064 ID:RLhGsxlc0
鉄人はWARSで強い存在感あったので影響されて出てきたよ

154 名前:きのこ軍:2020/09/05(土) 00:18:42.180 ID:mtd6p51.o
鉄人エルフでワロタ

155 名前:Route:A-6:2020/09/06(日) 00:24:33.321 ID:OkrZNOqs0
Route:A

                 2013/4/10(Wed)
                   月齢:29.3
                    Chapter6

156 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:32:17.868 ID:OkrZNOqs0
――――――。

翌日から、会議所での日常が始まり……3日が経過した。
――それからの日々は、刺激の少ない、変わり映えのしない毎日だった。

短期(お試し)コースの兵士は、日常……すなわち学業であったり、仕事に戻り――。

中期(定期)コースと、長期(会議所)コースは、会議所での業務が始まった。
オレは後者の立場で――大戦に向けた訓練と、運営作業の日々を送っていた。

運営作業――単語だけ見れば内容が多岐に渡り難解そうだが、そう高度なものではない。
大戦場やバーボン墓場の手入れ……会議所の設備の点検や清掃……
事務作業に、武器の手入れといったように、人員が必要な作業が主だった。


157 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:44:46.266 ID:OkrZNOqs0
その作業にも慣れ――オレは昼休みを終えて、何をしようか考えあぐねていると……。

???
「……おや、乙海さん、こんにちは
 お手すきならば、少し手伝ってほしいことがあるのですが」

争いには無縁そうな穏やかな表情を浮かべた、眼鏡をかけた白衣の男性――たけのこ軍の兵士、抹茶がオレに声をかけた。
彼は湯呑を操りながら戦うメイジ――そうB`Zから聞いた。とはいえ――先日の大戦では交戦することがないから、印象は薄い……。

乙海
「別に構いませんが」

抹茶
「それはよかった、研究の手伝いがほしくて――」

――白衣を着て、研究という単語を入れたのだから、抹茶は研究者なのだろうと、オレはひどく短絡的に判断した。


158 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:48:51.248 ID:OkrZNOqs0
乙海
「オレに手伝いできることがあるかはわからないですが」

抹茶
「なに、貴女のスキルに関わることですから」

――その日行う作業の割り振りは、割と自由でもある。
それこそ、時間の余裕があるのならば、訓練や読書といった余暇活動をすることも可能なシステムだ。
オレは、特別な予定もなかったので、抹茶の手伝いをすることになった。

研究室は、ガラスでできた実験器具やらなにやらが置いてあり、机の一つは本の山が出来ていた。
床は汚れたマットが敷いてあり、実験机の上は焦げた跡もあった。

抹茶
「ああ、ごちゃごちゃしているのは気にしないでください
 それよりも、手伝ってほしいのはこれについてです」

オレの訝し気な視線を悟ったらしい抹茶は、すぐになにやら変わった銃をオレに見せた。


159 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:53:52.424 ID:OkrZNOqs0
抹茶
「僕はメイジなので、銃は門外漢でしてね――
 射撃競技の大会にも出て、つい最近の大戦でも狙撃スキルを活かしていた貴女に見てもらおうと思って」

乙海
「ほかにも――銃の扱いが得意なものはいると思いますが」

オレの頭には、エースと呼ばれるきのこ軍兵士――¢の顔が思い浮かんでいた。

抹茶
「確かに¢さんなど、銃の上手い知り合いもいますが
 新人というフレッシュな立場での感想を知りたいんですよ」

――オレの疑問を予期していたかのように、抹茶からは淀みなく答えが返ってきた。

乙海
「なるほど……?」

オレは面食らったように、困惑した声を出していた。
オレの思考が読まれていると判断したためか……あるいは、彼から伝わる熱意のようなもののためか……。


160 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:56:38.757 ID:OkrZNOqs0
……同時に、この銃を開発するのに、自分の力を惜しみなく注いだのだろうということも悟った。
オレは、その熱意に応えるべきなのだろう。少なくとも……今オレを必要としているのも熱意によるものだろうから。

乙海
「それで――どうすればいいんですか」

抹茶
「ああ、重さとか、握りやすさとか――部品の感触とかをリポートしてほしいんです」

乙海
「――そういうことか、わかりました」

この発言で、オレは抹茶の言いたいことが、ようやくわかった。
オレは抹茶という存在をよくは知らない……それは彼の立場からしても同じだ。

だからこそ――率直な意見を得られやすい。そういうことなのだ。
幸い、オレはライフル以外の銃も手に取ったことはある。扱い方についても基本的な部分については把握できている。


161 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:03:53.205 ID:OkrZNOqs0

抹茶
「弾は入ってないので、安心してください」

オレは、銃を握り、弾丸が入っていないことを確かめてから、引き金を引いた。

カチン――という音と、引き金を引いた独特の感覚。
……その感触は、手にぴったりと吸い付くよう。トリガーの感覚もいい按排だ。
一つ一つの部品もかみあい、スムーズに撃てそうだ――。

乙海
「――なるほど、これは扱いやすいですね
 ただ一つ、この銃はオートマチックだから、オレには合わないかな……」

オートマチック銃は部品が多く、弾詰まりすることがある。
オレは、再装填の手間と装弾数の少なさを省みても、回転式の方が使いやすいと感じていた。

抹茶
「ふむふむ――射撃が得意な人は、そういう意見か――
 ちなみに、弾は、こんな感じです……試作品ですが」

抹茶は、オレの手に試作品という弾丸を乗せた。
深緑の弾丸。素材は軽いが、ぴりぴりとした感触が肌を刺激する――これは魔力?


162 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:06:22.962 ID:OkrZNOqs0
乙海
「この弾丸はやけに軽いですが――この感触からして、魔力が入ってるんですか」

抹茶
「はい――魔力そのものを弾丸にする武器は存在しています、マジックガン、マジックマシンガンという名前でね
 しかし弾丸に魔力を込めたものはまだ研究段階――試行錯誤する分野になるんです」

抹茶は手元の銃に視線をやってから、またオレの方へと視線を戻した。

抹茶
「だから、ルミナス・マネイジメントと協力して研究しているんです――」

乙海
「……なるほど」

ルミナス・マネイジメントとの関わりは――親父だけではなく、会議所でも長くなるようだ。
様々な組織が集まっている場所なのだからそれも当然といえば当然だが――こうして身近な部分でも接すると、改めてその事実が浮き彫りになる。

163 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:07:01.246 ID:OkrZNOqs0
抹茶
「的も用意したので、試し撃ちしてくれませんか?一応僕が何度かテストしたので安全性は大丈夫です」

抹茶は、部屋の向こうに目配せをした。すると確かに的があり、その下には弾痕の開いた的が4、5個ほど転がっていた。

乙海
「はい」

オレは弾丸を弾倉に込めると、的に視線を向けた。
狙うは中央……オレは息を深く吐くと、弾丸の跳ぶイメージを脳裏に描きながら引き金を引いた。
バスバスと的を銃弾が貫く音。弾痕は、狙い通りの位置に着弾した。

抹茶
「さすが……すごいですね、僕では正確に真ん中を狙うことは難しいので」

抹茶は拍手しながら的の穴を興味深げに眺めていた。

乙海
「弾丸自体は、問題なさそうです
 狙い通りに引き金を引いて、着弾もできたので」

オレは弾丸を抜いて抹茶に銃を返した。


164 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:10:02.953 ID:OkrZNOqs0
乙海
「しかし、この銃の部品は丁寧な仕事だ
 これも抹茶さんが?」

抹茶
「いえ――これはルミナス・マネイジメントを通じてです
 なんでも名うての鍛冶屋に特注で作ってもらったと聞きました――
 僕も分析してみましたが、ズレがほぼないすごい仕上がりです」

抹茶は手元の銃と弾丸を見ながら、感心した風に呟いた。

抹茶
「……それはそうと、ありがとうございました、色々と参考になりました
 今日はこれぐらいにしましょう……なんだか研究意欲が湧いてきたので
 また、協力してもらうかもしれませんね」

抹茶は、銃を机の上に置いて、謝礼の意を仕草で伝えた、すぐに背を向けてノートにメモを取り始めた。
――どうやら、オレの行動で何らかのスイッチが入ったらしい。
研究者だから、やるべきことが見つかったらすぐに全力を注ぐのだろうか?

乙海
「わかりました――また、機会があれば協力します」

ともかく――ここにこれ以上オレが居ても、何も協力できそうなことはない。
門外漢がずっとここにいても彼の迷惑になるだけだろう。
抹茶の熱心な姿勢に感服しながら、そそくさとオレは部屋を出た……。

165 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:12:21.462 ID:OkrZNOqs0
抹茶の部屋を出たオレの前には、一人の兵士がいた。
その顔は半分が鋼で出来ていた。性別は男だが、その佇まいからは金属の重さを感じ取れる。
――白衣を着ているから、彼も研究者か?

???
「コンニちは――確か竹内乙海サンでしたね」

ノイズのかかった、片言の話し方。鋼の肉体がきしみ、ギリギリと音がする。
それは生物的な特徴を切り捨てた不気味な雰囲気をオレに感じさせた。

社長
「ワタシ、トニトルス・フェラムの社長です――お見知りおきヲ」

――トニトルス・フェラム……義肢に関わる会社だから、義肢を装着しているのか?
肉体を捨てたような、不気味な外見に――オレは訝し気な感情で握手を交わした。

166 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:16:29.103 ID:OkrZNOqs0
ずっしりとした鋼の重み。やはりこれは義肢なのだ。
ブラックのものよりも重みを感じる。置換している部位が多いのだろうか……?

社長
「ソレハソウト……ユリガミは素晴らしい女神デス、貴女も信仰してみませんカ?」

……オレが頭の中で考えていると、唐突に胡散臭い言葉でオレに語り掛けた。
ユリガミ……そういった都市伝説は、オレも聞いたことはあった。
とはいえその具体的な内容は知らなかった。ただ、そういう存在がいることだけしか知識はなかった。

乙海
「はぁ……」

知識を得られる……それ自体は有意義かもしれないが、
あまりにも唐突にその話題を振られ、オレは困惑したように答えることしかできなかった。

社長
「ユリガミは剣術を極めた女神……その長イ黒髪と顔は美シク、立ち振る舞いもまた美しイ
 窮地に陥った乙女を助けるが、特に性欲で動く男を嫌ウ……そういう存在デス
 嗚呼トテモ格好良ク美しイ……ウオゥオォォオオオオオ」

早口になって、さらには雄たけびをあげながら話を続けた。
ユリガミの都市伝説に、彼はずいぶんと熱をあげているらしい……が、オレは困惑したままだった。


167 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:18:34.749 ID:OkrZNOqs0
ブラック
「社長、こんなところにいたのですね」

……そうしていると、助け舟とばかりに――社長の後ろから、ブラックが現れた。
そういえばブラックはトニトルス・フェラムの秘書だったはずだ。ならばこの場に居るのもおかしくはない。

それにしても、彼女は背が高い――オレより少し低いぐらいで、170cmは確実に超えている。
社長よりも大きいその身体からは、彼女の方が格が上であるように思えた。

乙海
「どうも」

ブラック
「ああ、乙海さん……こんにちは
 社長は、全身を改造しているユリガミを信仰する者ですが……一応は、悪人ではないのでご安心を」

秘書であるはずのブラックは仕えているであろう社長相手に、そこそこ辛辣な言葉を投げていた。

社長
「ソッスネ」

――そして、社長も否定はしない。この二人は、上下関係のある立場だと思われるが――それが感じられない。
どういうことだろうか……しかし、オレの疑問は解決することなく二人の会話は続いていた。


168 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:19:34.165 ID:OkrZNOqs0
ブラック
「それはそうと――社長はなんでここにいるのですか」

社長
「抹茶サンの部屋に遊びに行こうと思ったら――乙海サンニデアッタんですよ
 ギィギギギキギギギッ」

ブラック
「ああ、そうですか……雑務処理があるので部屋に戻っていただけますか」

社長の聞き取りがたい片言を、ブラックは軽く流していた。
そして相変わらず言葉は淡々としている――この二人の関係性が読めない。

社長
「ソレデハ、社長は風のように去るッス――」

そう言うやいなや、社長は、足に取り付けた義肢のバーニアを作動させ、その場から高速で立ち去って行った。

――あれは義肢に備わった技術の一端なのか?オレはその背中が見えなくなるまでその軌道を目で追っていた。


169 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:21:48.455 ID:OkrZNOqs0
乙海
「一体何だったんだ……」

嵐のように立ち去る、理解できない兵士……。たけのこ軍には、あんな兵士がいるのか……
オレがきのこ軍を選択したのは、正解だったのか……?

ブラック
「……気にしないほうがいいですよ」

呆然と立ち尽くしたオレに、ブラックが頷いた。

ブラック
「一応、彼の会社の義肢の技術は優れていることは間違いありません……
 私の義肢も、トニトルス・フェラムのものですから――」

すこし、気まずそうにブラックは語った。
丁寧な仕草とは裏腹に、やはり右眼を走る傷はどこか痛々しくも見える。

オレが彼女を格上と感じているのはこの傷が故なのだろうか?

ブラック
「会議所は、本当に様々な人物がいるから、ああいった特殊な人物もいます――
 あなたとは馬の合わない人間ではない人物も、少なからずいる――そういうことですね」

……そんなことを考えていると、彼女は話を続けた。

170 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:22:57.496 ID:OkrZNOqs0
乙海
「………」

――その理屈は理解はできるが、やはり……あの社長という男は、苦手だと思った。

ブラック
「まぁ、あの人は特別とっつきづらいでしょうから、適当に流してくれて構いませんので――」

あたりの空気は少し沈んでいた。困惑と気まずさ靄のように包んでいるようにも思えた。

ブラック
「それはそうと、私の教えた海岸はどうでしたか」

その空気をブラックも察したのか、話題を変えた一言がこぼれる。
共通の話題――するすると話を続けられる前向きな話題……。

乙海
「……あの場所は、よかったです」

ブラック
「なら、よかった……でも、他の方には秘密にしておいてくださいね
 あれは、穴場であるべきですから……」

乙海
「そうですね」

ブラック
「――では、また
 私は、社長の手伝いがありますので」
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