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S-N-O The upheaval of iteration
- 1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
- 数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。
初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。
――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。
【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。
これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。
目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。
ワタシガ 見ルノハ
真 偽 ト
虚 実 ノ
世 界
- 600 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:51:49.209 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「警告する――少女から離れろ」
そこには――燕虎が居た。
燕虎は、漆黒の棍を右手で掴み、あいつの方を見ていた。
……その表情は、長い前髪に隠れて読めない。口調からも感情は読み取れない。
――しかし、あいつへの嫌悪感がある。それだけは、わたしにも理解できた。
グローリー
「なんだ、お前――お前がボディーガードか?」
燕虎
「………」
あいつの質問に、燕虎は何も答えない。
――でも、こんなタイミングで現れたのだから、恐らくは燕虎がそうなのだろう。
グローリー
「無視か――まぁ消えてもらうけど」
余裕綽々にそう言うと――グローリーは懐中電灯を燕虎に向けた。
増幅された光のビームが、燕虎目がけて宙を駆ける。
瞿麦
「ひっ!」
わたしは――その後の光景を想像して、思わず目を瞑ってしまった。
壁に穴を開けるような威力の光を、生き物が受けたらどうなってしまうの!?
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 601 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:00:43.213 ID:bu1djGd60
- ――続けて、じゅっという音と、破壊音が聞こえた。
恐る恐る、目を開くと……。
燕虎
「――あまねく飛道具は我が意思にありけり」
どういうわけか、何事もなく、燕虎はそこに立ったままで――その横の壁に穴が開いていた。
よく見れば右手は少し被弾したようで、わずかに煙が経っていたけれど――負傷というほどの怪我には見えない。
燕虎は――身をかがめながらあいつに向かって走り出し、その速度エネルギーごと棍であいつのどてっ腹を思いっきり突きにかかった!
グローリー
「な、なぜ跳ね返された!?くそ、もう一度だ!」
グローリーは再び燕虎に攻撃するために光を照らした。
だが、今度は燕虎に当たる寸前に、何事もなかったかのように消え去った。
グローリー
「あ?がはっ!」
そして、棍で突かれたあいつは呻き声とともに倒れ伏し、燕虎はわたしとあいつの間に割って入っていた。
それはわずか、数秒の出来事だった――。
- 602 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:05:28.645 ID:bu1djGd60
- グローリー
「……うぐ、うぐぐ、なぜ、なぜ効かない……」
吐瀉物をまき散らしながら、あいつは言葉をこぼす。
燕虎
「――すべては魔女の囁くがままに……これで満足?」
返す言葉は氷のように冷たく、周りの気温すらも下げるのではないかと思うほどだった。
燕虎
「……奴から才能を開花されたのだろうが
超能力を使えるだけでは……強いとはいえない……」
燕虎
「魔術のように、普遍的ではない――
たった一人だけしか操ることのできない才能だとしても――
そこに鍛錬を加えないようでは……無意味にすぎない」
グローリー
「グギャッ!」
続けて淡々と言葉を吐き捨てた燕虎は、それだけ言うと、鳩尾に思いっきり棍を振り下ろし、あいつを気絶させた。
- 603 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:08:52.992 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「さて――」
燕虎はわたしに振り向いた。
恐らくはボディーガードだと思うけど、確信はない。
瞿麦
「あ、ありが、とう……ございます……」
固唾を飲みながら、恐る恐る感謝の言葉を述べると――。
瞿麦
「この場からは、さっさと逃げる必要があるだろう
今の間は、私を信じてほしい――」
瞿麦
「え?きゃっ!」
わたしの言葉になにも返すことなく、燕虎はわたしを抱きかかえて駆け出した。
燕虎
「――あなたの行くべき場所に、私が導く
その間、あなたは休んでいればいい――」
――淡々とした燕虎の言葉は、僅かながら気遣いを感じ取れるような気がした。
安心。この人は、信頼できる。そう思うと、一気に張り詰めていたものが身体から抜け落ちる。
わたしは、燕虎の腕に揺られながら――いつの間にか、眠りについていて……。
- 604 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:10:59.666 ID:bu1djGd60
- ――――――。
わたしは、夢を見ていた。
それは……苺との初めて暮らした時の記憶でもあった。
苺
「――その、ぼくは、静さんや縁さん、791さんから……
瞿麦ちゃんと一緒に過ごすよう頼まれたんだ」
瞿麦
「…………うん」
苺
「僕の趣味は、料理かな…【月輪堂】でも、時々料理を作ってたの
縁さんも料理が上手で……縁さんに教えてもらったんだ」
瞿麦
「………うん」
色々なことがありすぎて、このころのわたしは言葉を発するのも億劫だった。
――あの頃と比べれば、日々が過ぎ去って……わたしの心は軟化したように思える。
けれども、この時期は……わたしは、短く小さな返事を繰り返すだけの機械のようになっていた。
- 605 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:11:44.702 ID:bu1djGd60
- 苺
「ぼくは――天狗、らしいんだけど……
空を飛べないし、魔術も使えない……静さんと縁さんの話によると、僕は川に流されてたんだって」
瞿麦
「…………そう、なんだ」
苺
「……僕は、物心ついたころから、【月輪堂】でずっと暮らしてきたけれど
静さんと縁さんから比べると、ずっと歳が違うから……瞿麦ちゃんと会えて、なんだか新鮮なんだ」
瞿麦
「何歳、なの?」
苺は、一方的にわたしにいろいろなことを教えてくれた。
……今思えば、苺も寂しかったのかもしれない。
その時に投げかけた質問――それは心に浮かんだ素朴な疑問でもあった。
- 606 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:13:59.108 ID:bu1djGd60
- 苺
「12歳だよ」
瞿麦
「わたしより、1歳年上なんだ」
苺
「そうだったんだ……ぼくと同じぐらいだね?」
瞿麦
「…そういえば、自分のことを【ぼく】って呼ぶんだね」
苺の純粋な紅い瞳と、やさしい声色で返される答え……
それは、自然と凍り付いたわたしの心を溶かしてくれたのかもしれない。
徐々に、わたしは浮かんだ疑問を苺に投げかけ始めた。
苺
「その、瞿麦ちゃん……へん、かな?」
瞿麦
「ううん……わたしは、いいと思う」
苺
「よかった――静さんや縁さんは、珍しいけれどアイデンティティは失わないで――って、かっこいい言葉を言ってくれたんだけど
やっぱり……近い年の女の子に言われると、うれしいな」
ぎゅっと、手を握る苺。そのぱあっと明るい表情は、咲き誇る苺のように綺麗だった……と、その時わたしは感じた。
- 607 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:15:32.518 ID:bu1djGd60
- それから、いつもの暮らしが始まったのだ。
時折あいつの悪夢を見てはいたけれど、それでもどうにか生活できていた。
それは――苺のおかげであることは言うまでもない。
また、静さんや縁さんとも触れ合いも、その理由の一つだと思う。
縁
「別に、男に媚びる必要なんてないんだよ
自分が好きだと思えるなら、性別も種族も関係なく――その人に好かれるような形を目指せばいいの」
縁さんのほうは、見た目はわたしよりも幼かったけれど、心はずっと大人で……母性を小さい体に収めた、まさに大人の女性といえる人だった。
静
「……私が子供のころは、教育機関もなかった
当然、縁も……それでも、鍛冶屋として生きていけるまでなっている
だから、私たちの背中も見ていてほしい……これぐらいしか、私は言えないかな」
静さんのほうは、不器用でも、しっかりとわたしを気遣ってくれる――まるで父性を纏った、かっこいい人だった。
- 608 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:17:33.126 ID:bu1djGd60
- 791
「瞿麦ちゃん、そのふわふわした髪が可愛らしいねぇ」
瞿麦
「……そ、そうですか?」
791
「私、こんなにかわいい髪形をして街を練り歩きたいなぁ♪」
791さんとも、短い間だけど、一緒に過ごしていた。
その天真爛漫さや、頼れる背中――それは偉大な統治者のように思えた。
791
「私は強いけど――強いだけじゃ面白くないからね、一緒に遊べる友達、腹を割って話せる友達――そういう存在も大事だよ」
瞿麦
「……791さんには、いるんですか?」
791
「うん――今、ここにはいないけれど、私のライバルで、一番の友達がいるよ
あの子は私と違って、とてもかっこいい子だからね」
- 609 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:18:25.135 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……わたしにも、そんな子ができるんでしょうか」
791
「苺ちゃんという女の子が、もういるじゃないか」
瞿麦
「あっ――」
791
「もう、友達を超えて、家族として思っていたんだね」
791さんの発言は、的を射ていた。
苺と一緒に、ふたりで過ごすにつれ、関係が深まっていたのだ。
それも、そう言われるまで気が付かないぐらいに。
けれども、791さんはいつの日か、【会議所】へと行ってしまった。
そのころには、私が居なくても安全が保たれる――そういうことを言っていた気がする。
- 610 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:19:24.957 ID:bu1djGd60
- ――はっ。
わたしが目を開けると、ベンチの上だった。
寝ぼけ眼であたりの風景を見る――そこには、燕虎が足を組んで座っていた。
燕虎
「覚醒したか」
瞿麦
「ふぁ、はい……」
思わず、あくびをしようとしてしまい、抑えながら答えるわたし。
瞿麦
「その、いろいろと……ありがとうございます」
そして、ぺこりと頭を下げ、再び感謝の意を伝えた。
燕虎
「………」
燕虎は、わたしの言葉に肯定も否定もせず、無言のままだった。
- 611 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:21:23.722 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「ここが【会議所】――貴女が向かおうとしていた場所」
わたしがベンチから起き上がると――いつの間にか、【会議所】の敷地内に居た。
本やCTVでも見た光景だけど、実際に見るとなると、その大きさに圧巻される。
城壁は天まで届かんとばかりに積み重なり、中核である城の高さも同等に高い。
この城の中だけで、一つの集落の住民ぐらいは余裕で入れそうなぐらいだ。
燕虎
「今は日付を過ぎる寸前の深夜23時57分……今なら、出歩く兵士も少ない」
ふと空を見上げる……月は、わずかに見えるだけ。
もう少しで新月になるのだろうか。まるで、今のわたしの心を反映させたかのような月にも思えた。
燕虎
「……wiki図書館は、この時間、通常利用――すなわち、図書の貸出は不可能――
ただし、会議所の兵士ならば、本を読むことは許可されている――」
そして、燕虎は私についてこい――といわんばかりに、指を指し示してわたしを導いた。
瞿麦
「は、はい――」
風景に気を取られたわたしは、焦りながら答えた。
足音すら聞こえない、ぶれのない燕虎の足取り――その後ろを、わたしは幼鳥のように何とかついていった。
- 612 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:24:32.956 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「あれがwiki図書館……警備員はいない代わりに、専用の魔法陣で警備している
賊が居れば、一瞬で会議所にそのことが伝わる仕組みになっている――」
wiki図書館は、わたしの目覚めたベンチからすぐだった。
燕虎は……わたしを気遣ってくれている……のだろうか。いろいろと情報を教えてくれた。
それでも、燕虎について何もかもが読めなから、ただ頷くしかできなかった。
燕虎
「――賊と間違わないために、私に掴まっていろ」
燕虎
「はっ!」
瞿麦
「わっ!」
ひょいと、燕虎はわたしを抱きかかえると、一足飛びで図書館の中に入った。
一瞬光がわたしたちに向かったような気がしたけれど――跳ね返っただけで、何も起こりはしなかった。
――夜の図書館は、ランプの明かりだけが灯る、やや不気味な空間だった。
人の気配も、ない。それでも、闇の中から「なにものか」が這い出てきそうな……そんな雰囲気もある。
- 613 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:24:52.362 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……わたしの探す情報は、どのあたりを探せばいいんですか」
……その恐怖が、逆にわたしを落ち着けた。
燕虎
「………」
燕虎は、わたしの質問には答えず……ついてくるように、指でジェスチャーを作った。
誘うような燕虎の足取りは、やはりぶれのない足取り……。
わたしは、燕虎の無言の圧力に、何も答えられないままついていくだけ。
本棚の間を、延々と歩き続けている。
それどころか、同じ場所をぐるぐるとぐるぐると、ずうっと回り続けているような……。
- 614 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:25:49.122 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……あれっ?」
――気が付くと、周りの風景が変わっていた。
地下に降りる螺旋階段の入り口が、目の前にはあった。
後ろは、本棚で挟まれた通路。ここは一体――どこなの?
燕虎は、すでに螺旋階段に足を掛けていた。
わたしは困惑しながらも、すぐにその後に続いた。
- 615 名前:SNO:2020/11/23(月) 22:26:11.879 ID:bu1djGd60
- 演出と展開WARSをパクってますね・・・
- 616 名前:Route:B-12:2020/11/24(火) 20:03:53.670 ID:z8PnalhE0
- Route:B
2013/5/9(Thu)
月齢:28.7
Chapter12
- 617 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:06:00.577 ID:z8PnalhE0
- 螺旋階段は、まるで地獄へ垂らされた蜘蛛の糸のように、底まで続いていた。
こつん――こつん――硬質な音が響く。
かつん――かつん――その階段は、無限に続くようにも思える。
蜷局を巻く大蛇のように……わたしは、その背を伝っている。
あるいは、これは龍の背なのかもしれない。
ともかく――その長い階段を、燕虎は、そしてわたしは下ってゆく。
途中、部屋につながる通路があったけれど――燕虎はそれに目もくれない。
燕虎は、いったいどこへわたしを導こうとしているの?
瞿麦
「あれ……」
――通路に、レポートのようなものが落ちていた。
思わず駆け寄って拾い上げる。内容は――超能力についての考察……著者は、コルヴォ・フェルミーー。
瞿麦
「え――父さんの――」
思わず、わたしはそう呟いていた。
が、燕虎はそれを気にすることなく、下へと降りていく……。
咄嗟にレポートをパーカーの中にしまい、慌てて燕虎に続いて階段を降りる。
- 618 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:06:53.308 ID:z8PnalhE0
- こつん――こつん――足音が響く。
金属でできた階段。なのに不思議と足になじんで、疲れを感じさせない。
どれほど歩いただろう。気が付くと、終点までたどり着いていた。
天を見上げる――その天辺は、まるで月のように遠くにあるようにも思えた。
正面には、分厚い鉄板の扉。入り口には魔術で制御した鍵がかかっているらしい。
燕虎が何やら魔術を詠唱すると、すぐにその扉が開いた。
ゴゴゴ――ッ、と重々しい音が鳴り響く。一体、この向こうに何があるのだろう。
燕虎
「……」
中は、エメラルド・グリーンのライトが光っていた。しかし灯りはそれだけで、全体的に暗い部屋。
……しかし、この部屋は外界とは切り離された異質な雰囲気がある。
その感覚は、肌にぴりぴりと響くよう。
瞿麦
「……えっ?」
近くに、服がハンガーで吊られていた。
赤い、ゴスロリ服――それは、まぎれもなく、あの子の……。
- 619 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:08:22.505 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……この服は、なんでここに」
――じわりと、冷や汗が背中を伝った。
それは、生存本能?それても第六感が何かを訴えている?
部屋の奥には、一つのポッドがあった。
燕虎は、それを見下ろしている。
わたしは――そのポッドを、恐る恐る覗く。すると……。
瞿麦
「!」
そこには……澄鴒が、そこに眠っていた。
生まれたままの姿で、胸の上で手を組み――羊水のような液体に沈んで眠っていた。
彼女の横には、諸刃の【剣】が底に沈んでいる……。それはこの世のものとは思えない不気味な感覚があった。
- 620 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:10:55.436 ID:z8PnalhE0
- 燕虎
「貴女が探し求めるその人物――どうして、彼女を探す必要があるのか――
それは――眠り姫を目覚めさせるため」
瞿麦
「………」
燕虎の言葉に、わたしは息を呑むだけだった。
ともかく、一つの結論にわたしはたどり着いた。
ユリガミを探す理由――それは、澄鴒を目覚めさせるためだ!
でも――どうしてユリガミが必要なのだろうか――それが分からない。
瞿麦
「……この子を目覚めさせるのには、わたしでは駄目なんですか」
浮かんだ疑問を、わたしは燕虎にぶつけた。
燕虎
「彼女の体の中で、傷がいまだ残っている
このポッドの中で眠りながら癒してはいるが――
完全に癒すためには、彼女が必要――」
淡々と、燕虎はその答えを告げた。
――ユリガミは、あの子を目覚めさせる鍵と、いうことか。
- 621 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:12:06.925 ID:z8PnalhE0
- 燕虎
「……ここに連れてきた理由は、貴女の意思を強くさせるため」
――うすうす感づいてはいたけれど、どうやら燕虎はわたしの事情を把握しているらしい。
燕虎は、何者なんだろうか。同じ髪の色をしていることからすると……
もしかしたら、静さんや縁さんとも関わりがあるのかもしれない。
瞿麦
「それでは、ユリガミは?」
でも、今はそれどころじゃない。
わたしがやるべきこと。それはユリガミを探すことなのだから。
燕虎
「………」
燕虎は、再びついてくるように指を指し、踵を返して部屋を出た。わたしもその後を追いかける。
背後で、ゴゴゴ――ッと扉が閉まる音が聞こえた。
……おそらく、こうやって厳重な仕掛けがあるから、澄鴒の身柄は安全なのだろう……そう納得しながら、わたしは燕虎に続いた。
- 622 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:13:20.284 ID:z8PnalhE0
- 再度、わたしは抱きかかえられて図書館を出たのち、【会議所】の中へと連れられた。
……燕虎は、ひたすら【会議所】の中を歩き続けた。
正面玄関を通り、本部棟の廊下を通り、会議室を横切り――。
とても広い城の中は、静まり返り、わずかな月明りとランプだけが室内を照らす。
不気味で、静寂で、そしてどこか神秘的な――そんな不思議な空間を、わたしは横切った。
……燕虎は、兵士たちの生活区域へと入っていった。
恐らく、燕虎は見つからない工夫をしているだろうけれど……少し不安に思いながら、わたしはその後をついていった。
ぴたり――と、急に燕虎の動きが止まった。
瞿麦
「わ、わわっ」
思わず急ブレーキを踏んだものだから、わたしは躓いて転びそうになる。
燕虎
「……」
燕虎は、その手を、掴んで引き起こしてくれた。
- 623 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:14:36.550 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……あ、ありがとう、ございます」
わたしが感謝の意を示しても、燕虎は何も返さなかった。
しかし、部屋の表札に指を指していた。見ろ――ということ?
そこには――「791」と書いてあった。
791さんの部屋?どうしてここにわたしを導いたの?
瞿麦
「あの、どうしてここに」
わたしが質問をしようと振り返ると、すでに燕虎は居なかった。
一体どこに行ってしまったの……?わたし一人で、どうすれば――。
視界の果てには夜の会議所……暗い廊下に、僅かなランプの灯火と星明りだけがある光景が広がっていた。
瞿麦
「……っ」
視界の果てには闇が広がるばかり。……一人で置いて行かれた孤独に不安を覚えた。
しかし、もう引くことなんてできない。わたしは、意を決してドアをノックした。
- 624 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:15:37.252 ID:z8PnalhE0
- 791
「誰?こんな夜中に――」
寝ぼけた様子の791さんが、少し不機嫌そうにドアを開け――。
791
「え?瞿麦ちゃん、どうして……」
わたしの顔を見たとたん、目を丸くして驚いたのも一瞬、すぐに優しげな口調に変わった。
……わたしの表情を見て、何かを察したらしい。
791
「……とりあえず、中に入って
話を聞くから」
791さんはわたしの背中を押して、部屋に入れてくれた。
部屋の中は綺麗に整頓され、レモンのアロマオイルが漂う素敵な部屋だった。
- 625 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:18:15.854 ID:z8PnalhE0
- 791
「……それにしても、どうしてまた私のところに?
久しぶりに顔を見にきたってことはないよね?あの場所とここの距離を考えると――
まぁ、仮にその理由でも、瞿麦ちゃんが色々立ち直ってると解釈はできるけどさ」
瞿麦
「……その、笑わないで聞いてくれますか
わたし、ユリガミを探しているんです」
悩みながらわたしを見る791さんに、わたしは単刀直入に切り込んだ。
791
「!
……どうして、私のところに?」
791さんは、驚いたようにかっと目を開いた。
アメジストのような瞳がわたしを捉える……わたしは、その視線から目を背けずに続けた。
瞿麦
「――ユリガミを探していたら、
朔燕虎って人がここに導いてくれたんです」
791
「…………」
791さんは、わたしの答えを聞いて腕を組みながら考え事を始めた。
突拍子もないことに思われて、怪しまれているのだろうか。
- 626 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:19:23.376 ID:z8PnalhE0
- しかし、791はさんはわたしの言葉を信じてくれたらしい。
うんっ、と一回頷くと――。
791
「確かに、私はユリガミの場所を知っている――知ってはいるけれど」
791さんは、思わせぶりに答えた。その表情は、真剣そのものだった。
791
「……どうして、ユリガミを探しているのか、教えて」
わたしの顔面間近に顔を接近させ、彼女は訊いた。
791さんの全身を包む威圧感のようなものが、とても近くにあって、怖い。
それでも――わたしは、目的のために立ち向かう必要がある。だから……。
瞿麦
「妹の、澄鴒を助ける、ためです」
しどろもどろに詰まりながらも、わたしは答えた。
- 627 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:22:02.322 ID:z8PnalhE0
- 791
「……そう、妹ちゃんを」
791さんは、窓の外を見て憧憬に耽りながら、考え込んで……。
791
「なら、私は案内するしかないね
――ユリガミの袂に……
あの時、私は瞿麦ちゃんしか助けられなかったから……」
そう、言い切った。
きっぱりと答えるその姿は、王者のように貴く見え――改めて、魔王と呼ばれるだけはあると思っていた。
瞿麦
「ありがとう、ございます」
ぺこりと頭を下げ、上げたときには791さんの表情は普段の柔和なものに戻っていた。
791
「でも、私は明日……というよりは、今日の日中、用事があるから――今すぐには行けないかな
――午後7時ぐらいになるかもだけど、それでもいいかな」
瞿麦
「はい、それでも構いません」
- 628 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:26:01.348 ID:z8PnalhE0
- 791
「わかった――今日は、私の部屋に泊まって
――恐らく、そのために……燕虎という人物は、ここに連れてきたんだろうから
明日も、この部屋の中でずっと居ればいいからね」
瞿麦
「はい」
791
「……しかし、この部屋はベッドが1個しか置いてないから――どうしようかな」
きょろきょろと、791さんは部屋を見渡した。……と思いきや、すぐにわたしに向き直り……。
791
「――ソファーで寝ようかと思ったけど面倒だし、それに女の子同士だし――
一緒のベッドで寝ようか?」
ばっと、ベッドのシーツを叩いた。別に、信頼のおける人だからいいけれど――それでも、不思議な感覚があった。
わたしにとっては、とても大きく、対等ではない存在と思っていたから――そのどこか子供っぽい発言が、とても不思議だったのだ。
瞿麦
「は、はいっ」
――それでも、わたしは頷いた。
ふかふかのベッドが身体をぴったりと包み込む。
その感覚に沈みながら、わたしは考える。
色々なことがあった……澄鴒との再会。ユリガミを探す目的。そして――謎の人物、燕虎。
そんなことを考えているうち、身体は、自然に微睡んで……。わたしは夢の海へと沈んでいった。
- 629 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:32:04.366 ID:z8PnalhE0
- ――――――。
わたしは、夢を見ていた。
それは――苺との生活。平穏で緩慢な死を迎える日常。
苺
「瞿麦ちゃん、手をつないでもいい?」
瞿麦
「うん」
――苺のおかげか、わたしの精神は徐々に明るさを取り戻していった。
相変わらず、悪夢に苦しめられたりはしたけれど、その当時から比べればかなり改善されていた。
それから、苺のスキンシップが少し――深まったような気がする。
わたしのことをどう思っているのだろうか……それは、結局、訊けなかった。
本で、同性愛者についての記述を見たことがある。もしかしたら――とも思った。
でも、苺がそうだったとして、わたしに恋愛感情を抱いていたとして――わたしは嫌なのだろうか。
……いいや、むしろそっちのほうがいいのかもしれない。
苺と過ごす日々はとても平穏で素晴らしいものだった。喧嘩もめったにしない天国のような場所。
- 630 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:33:11.040 ID:z8PnalhE0
- ――そう思いながらも、結局わたしは苺に特別なことを言うことはなかった。
それは苺も同じ……告白に近い発言はしていないと思う。
もし、色々な面倒事が片付いたら――わたしは苺に話を切り出したほうがいいのかもしれない……そう感じていた。
かつては平穏を崩すことを恐れていたけれど――
ユリガミを探すために、色々なことに立ち向かうようになって――心境が変化していた。
やがてその思考も記憶の海に溶けていき、いつのまにかわたしは目を覚ましていた。
7
91さんは……すでに部屋を出ていた。
わたしはベッドからのそのそと起き上がる……机の上には、箱に入れられたサンドイッチが置いてあった。
隣には791さんのメモ―― 「おなかがすいたら、食べてね♡ 791より」、と書いてある。
瞿麦
「ありがとう……」
わたしは、本人には届かないけれど、感謝の気持ちを伝えてサンドイッチを食べた。
- 631 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:35:40.465 ID:z8PnalhE0
- ……さて、これからどうしよう。
そう思いながらパーカーに触れて、かさかさとした紙の感触があることに気が付いた。
そうだ……そういえば……wiki図書館で拾ったレポートを、うっかり持って帰ってしまったんだ……。
……この部屋を出るわけにもいかない。とりあえず、これを読んで時間を潰そう……と思った。
父さんが書いた論文……超能力についての考察……。
わたしはそれを読み始めた。
『超能力――それは魔術に似た――しかし魔力を伴わない力。
魔術を操る存在をメイジ、それ以外をファイターと便宜上呼び、今後戦いを行う上での選別に反映させたいが、
その二つとは異なる存在……エスパーと呼ばれる存在をどうするか……これが今後の課題かもしれない。』
『……魔力を伴わない、魔術といえばいいのだろうか。
私の友人の姉もまた、超能力を持っているという……』
『今はもうこの手を離れた私の妻――彼女も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
彼女が【力】を使った際、魔力センサーを使ったことがあるが、
その力に対し、魔力は検知されなかったからだ。』
『……超能力は、まだオカルトめいた、理論もはっきりとしない概念である。
微弱魔力による影響の可能性も考えられるが、誰でも起こすことのできる可能性のあるきのたけ理論と異なり検証も難しい。
しかし、きのたけ理論と同じく興味深い現象だ……。』
- 632 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:39:54.759 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「超能力――」
ぽつりと、わたしは呟いた。
……そんな概念は今まで聞いたことはない。
しかし……母さんが不思議な力を使っていたのは確かだった。
その時、母さんについての記憶が、濁流のようにわたしの中を流れ込んだ。母さんがいなくなる前の出来事を……。
ある日――わたしは、転んでけがをした。
瞿麦
「っ、うぇええーーんっ、っ、っ……」
まだそのころは幼かったから、痛みにわたしは泣きじゃくるばかり。
そんなわたしに――母さんは、ケガをした膝にやさしく手を当てた……。
母
「痛いの、痛いの、飛んでいけ」
すると、その手が傷を負った膝を包むやいなや、まるではじめから怪我がなかったかのようにきれいさっぱり治っていたのだ。
瞿麦
「お母さん、ありがとう」
母
「――」
わたしが明るく返すと、母もうれしそうに微笑んだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 633 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:40:48.385 ID:z8PnalhE0
- ――そこで、わたしは思い出した。
あいつの光の攻撃――それに対して、燕虎は超能力と言っていなかったか?
燕虎
「魔術のように、普遍的ではない――
たった一人だけが操ることのできない才能だとしても――
そこに鍛錬を加えないようでは……無意味にすぎない」
――あいつに吐き捨てたときに、そう言っていた。
……これは何かの宿命とでもいうの?
わたしは……わたしに引き寄せられる因縁に、すこし身体を震わせていた。
- 634 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:41:16.533 ID:z8PnalhE0
- 791
「ただいま、瞿麦ちゃんっ♪」
……どうやら、所定の時間になったらしく、791さんが部屋に帰ってくるなり、私の手を握った。
791
「今からユリガミの住処に行くけれど、準備は大丈夫?」
瞿麦
「――あっ、少し待ってください……」
791
「どうしたの?」
瞿麦
「ホテルに、荷物を置いていて――もうユリガミのところに行くのなら、チェックアウトしないと……」
……いろいろなことがあって、すっかり頭の中から追いやられていたけれど、いざ、行く時になって思い出した。
お金は静さん持ちだけど、このまま忘れてしまうと迷惑になってしまう。
- 635 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:41:49.886 ID:z8PnalhE0
- 791
「……それって、どこのホテル?」
瞿麦
「たけのこ軍の居住区の――」
791
「ああ、あそこか――なら、私が後で話をつけておこうか?」
瞿麦
「えっ……いいんですか?」
791
「うん、だって多分お金は【月輪堂】持ちでしょ?
だから、私に任せなさいっ」
胸をぽんと叩いて、自信満々に791さんは答えた。
同時に――わたしの境遇まで読むなんて。
確かに、事情を知っていれば予想できる範囲ではあるけれど、そこまでできるなんて……。
瞿麦
「……お願いします」
わたしは、少し涙ぐみそうになって、それをこらえながらおじぎをした。
- 636 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:44:05.520 ID:z8PnalhE0
- 791
「さて、その問題は私が何とかするとして――
今は夜の19時7分、いい頃合だね――
瞿麦ちゃんはこっそりここに来たみたいだから、こっそりと出ましょう」
そう言うと791さんは、わたしをローブの中に入れて、抱っこした。
瞿麦
「ふぇ!?」
791
「息苦しいかもしれないけれど、ちょっとだけ……我慢していてね」
瞿麦
「ひゃ、ひゃい……」
わたしは、カンガルーの赤子のように、791さんに連れられて会議所を出た。
どれだけそうしていただろう……わたしは、ローブの中で必死に掴まっていると……。
- 637 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:45:17.542 ID:z8PnalhE0
- 791
「はい、息苦しかったでしょう」
瞿麦
「ぷはっ――ふぅ、ふぅ……」
ようやく791さんの懐から出られたわたしは、息苦しさから解放されて……大きく深呼吸をした。
791
「ユリガミの住処は、貴女の住処と同じく僻地にある――知っているのは、限られた者だけ」
わたしを連れ出すときはおどけた態度の791さんは、真剣な表情に変わっていた。
ユリガミを目指す――あの子を助ける――その目的を、791さんは真摯に手伝おうとしている。
だから、わたしも――頑張らないと。
791
「とはいえ――あの長い距離を歩くのは、瞿麦ちゃんではちょっと厳しいかな」
791さんは、わたしを見ながらそう言った。
- 638 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:49:14.116 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……その通りです」
その言葉は図星。少し落ち込んでいると……
791
「まぁ、大丈夫――私がなんとかするから♪
落ち込まない、落ち込まない」
そう言いながら、背中をぽんぽんと叩くやいなや、
791さんはわたしを腕に抱き抱え、そのまま地を駆けだした。
瞿麦
「わぁっ?!」
いきなりのことに、素っ頓狂な声をあげるわたし……まるで、燕虎にされた時と一緒だ。
わたしは女で、体重もそう重くはないからできるのかもしれないけれど――。
そういえば――初めて791さんと出会ったとき、【月輪堂】へと向かうときもこうされたっけ。
わたしは懐かしさを覚えながら、流れる景色を目で追っていた。
空を駆け、野を超え、山を潜り――森を抜け――
どれほど時間が経ったのだろう。どこまで移動したのだろう。
もはやそれはどうだっていいかもしれない。
ともかく、一つ言えること――目の前に、屋敷がそびえていた。
- 639 名前:SNO:2020/11/24(火) 20:50:13.329 ID:z8PnalhE0
- 魔王様大活躍!
- 640 名前:きのこ軍:2020/11/24(火) 22:20:56.023 ID:P0MW6/Zko
- 更新おつ。無口さんの立ち位置が気になりますね。
あと時間おいて真名が出てくるときは一度フリガナふってくれるとうれしいかも。
私はメモってるから知ってるんですけどね。
- 641 名前:Route:B-13:2020/11/25(水) 21:47:56.460 ID:BmIsXKQc0
- Route:B
2013/5/10(Fri)
月齢:0.1
Chapter13
- 642 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:49:15.972 ID:BmIsXKQc0
- 791
「よっ――と」
791さんは、丁寧にわたしを地面に下ろした。
791
「あれが――ユリガミの住処」
瓦屋根、木造りの外観。その庭園は自然に溢れ、向こうには花畑も見える。
――それは神の御許に近づく神聖な場所というよりは、なにもかもが平和に過ごす楽園のように見えた。
――空に月はない。完全な朔の夜。
――星が夜空に瞬くだけの闇が広がっている。
その下で、灯りの灯る屋敷は、とても幻想的な風景だった。
……その時、雰囲気に不似合いな携帯電話の音が鳴り響いた。
わたしは電話を持ってきていないから、必然的に、791さん充ての電話だろう。
- 643 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:50:36.655 ID:BmIsXKQc0
- 791
「はい、こちら、791……
魂さん?今、とても大事な用事があるから、手早く……」
791
「はぁ?……それ本当なの?わかったよ……
ただ……私の用事は、本当に外せないの……それが済んだらでいい?」
791
「うん、うん……それじゃあ」
深刻そうな顔つきで、791さんは電話を終えた。
瞿麦
「そ、その……大変そうなことでも、あったんですか……?
その、ここにいて大丈夫ですか?」
思わず、わたしは心配になってそう呟いた。
791
「大丈夫――気にしなくていいから
あなたの身の保障の方が大事だから、安心して」
791
「じゃあ、行こう」
瞿麦
「は、はい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 644 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:52:07.766 ID:BmIsXKQc0
- 果たして――ユリガミは本当にわたしを助けてくれるだろうか。
そう思いながら境内に入ると……。
???
「こんばんは――」
瞿麦
「!」
綺麗なハスキーボイスが、わたしの耳に響いた。
――見上げると、右目に大きな刀傷の走った、隻眼の女性が縁側に腰かけていた。
左は黒、右は白に分かれた髪色に、背には翼が生えている。翼の色も、髪の色の分け方と同じ。
――もしかして、苺のように彼女は天狗なのだろうか。
その衣装も時代がかった黒の修験道の衣装だから、その可能性は高い気がする。
791
「……いきなり現れるのはいいけれど、この子、驚いてるよ」
???
「791様……確かに、彼女を驚かせてしまったようですね……申し訳ありません
貴女のお名前を、申し上げてください――」
791さんの軽口にも丁寧に対応しながら、隻眼の女性はわたしにゆっくりと尋ねた。
その立ち振る舞いはとても凛々しく、かっこいい――と思った。
- 645 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:54:38.278 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「な、瞿麦……瞿麦=フェルミです」
なんとか、女性の問いに答える。
汗がわたしの身体を流れ、その冷たさを感じる……そうだ、わたしは今、とても、緊張しているのだ。
女性は、翼で羽ばたくことはなく、自分の足でわたしに近付いて、わたしを全身を見ながら何か考え事をしていた。
???
「瞿麦=フェルミ――」
左手はよく見れば、中指から小指まで欠損していた。
……この女性は、どこかで見覚えがある。どこで見たのだろうか。
- 646 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:54:56.331 ID:BmIsXKQc0
- ???
「なるほど――
791様が、彼女を守ったというわけですね」
791
「まぁ、そうなるかな?」
――納得したように、女性は頷く。
791さんの口調だからして、この人は知り合い――。
はっ――そこで気が付く。
この人は、トニトラス・フェラムの秘書だ。なんで、義肢をつけていないのかはわからないが、
その特徴的な隻眼と翼はそうに違いない!
???
「承知しました――貴女は嘘をついていない
ならば、少なくとも敵ではないでしょう」
――そんなことを思っていると、彼女はわたしのことを信用してくれたらしい。
791さんの協力もあったけれど、門前払いされなくて、よかった。
- 647 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:56:36.472 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「その――ひとつ、いいですか」
???
「なんでしょう?」
瞿麦
「その……貴女は、ブラックさん、ですよね
どうしてここに?」
不躾な質問かもしれないけれど、訊かずにはいられなかった。
791
「瞿麦ちゃん、あまり女の子のプライベートには……」
???
「791様、構いません……ブラックは、云わばあの場所での仮初の姿
わたくしの真名(まな)をお伝えしましょう」
――791さんの言葉を手で制し、淡々と、彼女は答えた。
ブラックという名前に、思い入れが感じられないようにも思えた。
闇美
「わたくしの名前は闇美(ヤミ)――ここで女中のようなことをしている天狗です」
瞿麦
「天狗――」
やはり、彼女は天狗だった。苺と同じ種族だったのだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 648 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:57:09.258 ID:BmIsXKQc0
- 791
「……まぁ、これ以上は深くは追及しないであげて」
瞿麦
「あっ……闇美さん、不躾な質問、ごめんなさい」
闇美
「いいえ――わたくしは、特に気にしていませんから」
窘める791さんの言葉と、それをフォローする闇美さんの言葉。
791さんと闇美さんの間にも、見えない絆があるのだろうか。
闇美
「瞿麦様――貴女はユリガミサマに御用があるのでしょう?」
瞿麦
「は、はいっ」
そこで、話題は本題へと移った。考え事をしていて、呆気に取られてしまったけれど、わたしはなんとか答える……。
791
「………」
791さんは、そんなわたしを見ながら、うんうんと頷いていた。
- 649 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:57:51.525 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――承知しました
それでは、わたくしの後をついて来てください――」
くるりとヤミさんは背を向け、屋敷の中に歩き始めた。
慌てて、わたしもついていく。791さんも、マイペース気味に後ろを歩いていた。
――ついに、ユリガミに会えるのか。
どくどくと、心臓が鳴る。口が、乾いたような感覚。汗で体がにじむ。
とても緊張している。
――それは、女神と呼ばれる存在に会うから?
それとも、自分の過去に向き合い、変える切っ掛けがきたから?
そんなことを思いながら、わたしたちは屋敷の中へと入った……。
- 650 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 21:59:24.613 ID:BmIsXKQc0
- ……屋敷の中は、木でできた廊下が縁側に設けられていた。
部屋の敷居としては障子が使われて、部屋の中に置かれたものの影が見える。
闇美さんは、導くようにわたしの前を歩いていた。
無限に続くような廊下を、ヤミさんの白黒の羽に誘われながら、わたしは進んでゆく……。その後を、791さんが続く形だ。
不意に、闇美さんが立ち止まり、こちらへと振り向いた。
闇美
「――女神の御許に近付かんとする覚悟は、ありますか」
闇美
「貴女の望みを叶えられるかは、確約はできない――それでも、構いませんか」
瞿麦
「……はい!」
――脅すような闇美さんの口調。でも、力強く頷くことができた。
闇美
「――立ち向かう覚悟は見えるようですね」
791
「当たり前だよ、瞿麦ちゃんは前へ向かうために頑張ってるからね」
闇美
「なるほど」
791さんの元気いっぱいのフォローに、
闇美さんは、淡々とそれだけ言って、再び歩き始めた。
- 651 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:00:40.060 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――ひとつ、おとぎ話をしましょう」
――しばらく歩いたのち、歩きながら闇美さんはひとつの話を語ってくれた。
――昔、傷ついた人魚を助けた若者が居た。
その人魚は、お礼に人魚の住処へと案内をし、若者はもてなしを受け、人魚と恋仲になった。
――しばらく経って、若者はふと、地上が恋しくなった。
けれども人魚はそれを良しとはしなかった。
議論の末、最終的には、若者が地上に戻ることになったが――その時、ひとつの宝物を手渡された。
ひもで縛られた宝箱。決しては開けてはいけないと忠告された宝箱を――。
かくして、若者は地上に戻ったが、見知った人物は居なかった。
近くの人間に訊ねても、若者を知るものは居ない。
若者が人魚と過ごした間に、時は驚くほど過ぎ去り家も、風土も、伝統も――すべて過去の遺物としてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれた若者は、やけになってその箱を開けると――若者は急激に老衰してしまった。
- 652 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:01:47.052 ID:BmIsXKQc0
- ――それは、訊いたことのあるおとぎ話だった。
いったいどこで――そうだ、母さんから聞いた。内容は違う点もある気がするけど……今すぐに思い出すことまではできない。
まぁ、おとぎ話だから、そういうものなのだろうけれど。
瞿麦
「その――どうして、そんな話を?」
――でも、突然のことにわたしは戸惑った。
闇美さんは、わたしに何かを伝えたいのだろうか?それでも、その意図が分からない。
闇美
「――貴女がユリガミサマと接触することで、世界が変わるかもしれないでしょう
見える景色も時間も、変わるやもしれません」
わたしは、忠告する闇美さんの話に、固唾を飲みつつ集中した。
- 653 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:03:31.313 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――それでも、かの若者のように、絶望して、癇癪を起してはいけない
自分が自分で在り続けることを、意識してください」
――自分が自分で在り続ける。コギトエルゴスム。我思う、ゆえに我あり……。
自分の意思で、ユリガミまでたどり着けたけれど、これからも、わたしは前へ向けるのかな?
不安で、少し緊張して、手に汗が滲む。……その時、791さんが、ぽん、と肩に手を置いた。
791
「まぁ、ユリガミって不老不死って言われてるからね~
既存の概念で捉えられない部分もあるんだよねぇ
だから、よくわからないことがあっても、惑わずに行こうってことでいいよね?闇美?」
闇美
「――そうですね」
791さんの意訳は、合っているかわからないけれど――
闇美さんがわたしへ伝えた言葉は、闇美さんなりの激励の言葉なのかもしれない。
瞿麦
「はい、がんばります――」
わたしは、ふたりに改めて意思表示をした。
- 654 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:04:59.878 ID:BmIsXKQc0
- ―――――。
どれだけ、歩いたのだろう。
どれだけ、時間が経ったのだろう――。
不意に、風が外でざわめいた。
――同時に、さわやかな花の香りと、心地よい草の揺れる音。
それが、わたしの心を何故だか落着けてくれる。
瞿麦
「……あれ?」
気が付くと、闇美さんと791さんは消えていた。
瞿麦
「あれっ、791さん?闇美さん?どこに――?」
不思議に思い、横に首を振るけれど、まるで、最初から人っ子一人いなかったかのように、あたりは静寂に包まれていた。
- 655 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:09:27.546 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「………ひとりぼっちか」
思わず、一人ごちる。
瞿麦
「ううん、大丈夫、大丈夫なんだ」
少し不穏な気持ちが心をよぎったけれど、強引にそれを振り払おうと、首を振った。
――よし、行ける。大丈夫。突然の事態があっても、わたしには進む意思が消えていないじゃないか。
わたしは意を決してとにかく前へと進んだ……。
前後ともに、無限に続く廊下。まるで夢幻の世界のようにも思える。
――しばらく、わたしは歩いていた。
ふと脇に目をやると、一歩先の部屋の障子がわずかに開いていた。
……ここに、入れということ?
明らかにその場所はわたしを誘っている。
ならば、そこに行ってみよう。わたしは障子を引き、部屋に入った。
- 656 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:11:21.474 ID:BmIsXKQc0
- ――そこには、シンプルな木造りの祭壇があった。
その上には白い【勾玉】があった。真珠のように美しさに目を奪われそうになるけれど、どことなく白骨のような薄気味悪さも感じる。
その横には太刀――百合の花びらの飾りを鞘と柄に施した、恐らくは素晴らしい鍛冶師が作ったであろう得物が置かれていた。
瞿麦
「?!」
瞬間――わたしの目の前には目を閉じた女性の姿があった。
しかしその姿は半透明だった――幽霊なのか、あるいは映し出された像なのか……。
闇美さんが言っていた、世界が変わるという言葉――それはこのことを示唆していたのかもしれない。
その女性は、整った顔立ちと、長い睫と、腰ほどある黒い髪が重なり合い、芸術品のように美しかった。
- 657 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:13:02.709 ID:BmIsXKQc0
- そしてこの女性にはわたしは見覚えがあった。
そうだ――この女性は――
わたしの中で――様々な記憶の景色が流れては消えてゆく。
あいつに追い詰められたわたしに――家族に何も言えなかったわたしに手を差し伸べてくれたひと――。
おねえさま。――おねえさまが、そこに佇んでいた。
父さんにも、兄さんにも、顔見知りの大人にも……、わたしは「助けて」の一言が言えなかった。
それほどまでに、絶望で視界が狭まったのわたしを、おねえさまは救い上げてくれた。
おねえさまは、あいつに襲われかけたわたしの下に現れて、助けてくれた。
――おねえさまが、わたしの探すべき存在――ユリガミだったのだ。
何も知らなかったあのときのわたしが、おねえさまと感じたのは……女神そのものだったからなの?
- 658 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:15:25.299 ID:BmIsXKQc0
- おねえさまの身体の周りは、白い靄で満ちていた。その靄がおねえさまを投影しているようにも思えた。
この現象は、科学や魔術の見地では説明のつかない、超越的な現象なのかもしれない。
最も、わたしにとって、もはやそれはどうでもいいことだった。
瞿麦
「おねえさま――」
――感慨に耽るわたしは、思わず声に出してそう言っていた。
わたしにとって、彼女は――ユリガミは――まさに、頼れるおねえさまだったから。
おねえさま
「――――」
わたしが話しかけると、おねえさまは目を開けた。
ふたつの漆黒の瞳は、あの時見たように、吸い込まれそうなほどに綺麗だった。
おねえさま
「――貴女は、かつて公園で出会った……あの子ね」
瞿麦
「……っ」
感慨深そうに語るおねえさま……わたしのことを覚えてくれていたのだ。
――神々しさを覚える雰囲気に、わたしは畏怖の感情に包まれる。
でもそれは、おねえさまのことを女神と認識したからだ。
声色は、あの時と変わりなく、やさしいまま。わたしが勝手に畏怖しているだけだ。
- 659 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:17:54.124 ID:BmIsXKQc0
- わたしは、嬉しさに、涙ぐみそうになる。
おねえさま
「それで、どうしてここに――」
おねえさまの言葉で、はっとする。そうじゃない。
わたしが来たのは、再開の感動を分かち合うためではない。――わたしは言わなくてはいけない言葉がある!
瞿麦
「お願いします――わたしの妹を、助けてください」
ぎゅっと、拳を握りながら……どきどきする鼓動を噛み締めて耐えながら……わたしは、おねえさまに言葉を告げた。
おねえさま
「……貴女の、妹を……?」
感情を読み取れないおねえさまの声――まるで、彫像が言葉を発するかのように、氷のように冷え切った声。
それは、困惑しているからなのか、あるいは――興味がないのかはわからない。
――それでも、わたしはこのことを伝えなくてはいけない。
それこそが、わたしが前に進むために必要なことだから。
- 660 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:19:10.616 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「わたしは、大切な妹と喧嘩をして――謝ることが出来ないまま、離ればなれになってしまいました
そして、その妹を助けるためには――おねえさまが――必要――なんです」
勇気を振り絞って――こらえきれずに、少し涙を流してしまっても、構わず……。
瞿麦
「……わたしは、妹に……謝りたいんです
妹は、静かに復活の刻を待ちながら眠り続けていて、その眠りを覚ますのはおねえさまが必要なんです――」
おねえさま
「…………」
必死で感情をぶつけるわたしを見たおねえさまの表情は、複雑そうな顔つきに変わった。
わたしの悔恨の気持ちが、おねえさまの心を揺さぶったのだろうか?
瞿麦
「わたしの、妹を救い出すために、どうか――おねえさ――ユリガミサマの、力を、貸してください」
ぎゅっと両手を重ね、おねえさま――ユリガミサマに跪いて願いを伝えた。
声は涙で詰まり、たどたどしくなる。それでも――わたしはユリガミサマに伝えなくてはいけない。
ぽたり――と涙が畳の上に落ちる。ぷるぷると身体が震える。気持ちが伝わったか、不安になる。
- 661 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:21:35.800 ID:BmIsXKQc0
- わたしは、ゆっくりと顔をあげてみる……。
すると、ユリガミサマは慈しみの表情でわたしを見ていた。
ユリガミ
「――貴女は、ここまで来ることを選んだ
いろいろな人との協力もあったかもしれない――それでも、最終的にここへ来る決断をしたのは貴女」
続けて、ユリガミサマは、ゆっくりとつぶやき始めた。
瞿麦
「えっ……」
ユリガミ
「貴女は――明確な意思を持って、前に歩き出した素敵な乙女ね
――あの時から、紆余曲折はあったかもしれない
それでも――己を、意思を取り戻すことができたのね」
その表情は――あの時のおねえさまと同じ頼れる表情だった。
ユリガミ
「わたしのように――大切な人を斬り、挙句の果てに眠り続ける羽目になったわたしとは違う――」
そこで、自嘲するように、ユリガミサマは顔を落とした。
- 662 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:22:43.687 ID:BmIsXKQc0
- ユリガミ
「贖罪のためにも――目覚めのためにも――
貴女がやり直すためにここまで訪れる意思を汲み取らなければいけない」
ユリガミ
「……貴女の願いを受け容れましょう――貴女の後悔を乗り越える助けになるために」
その姿からは、記憶の中に、わずかだけ残っている母のような信頼感を覚えた。
瞿麦
「……お願いします」
ユリガミ
「しかし――わたしはこの身体を目覚めさせるには――鍵がいる」
鍵――?
呆然とするわたしに、ユリガミサマは言った。
ユリガミ
「――わたしの身体は、眠ってもなお回復しない……だから――貴女の力を貸してほしい」
瞿麦
「あ――」
ユリガミサマは、――白く、細く、長い指を伸ばした綺麗な手をわたしに差し出した。
- 663 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:24:59.834 ID:BmIsXKQc0
- その手がわたしに重なると同時に、ユリガミサマの身体の周りの白い靄は、
わたしを包み込んで纏い始めて――わたしの心が、ふわふわとしたあいまいな感覚になる。
そのあやふやな感覚の中で、ああ――そうか――と思う。
存在しないまやかしのように思えた希望――
それは、わたしに包まれた――あるいは、わたしが包んだ絶望で見えなかったのだと。
絶望は、確かに存在する概念だ。
でも、わたしは絶望だけが世界に存在するかのように思っていた。
……それは誤りだった。希望は、個々人が思わなければ生まれない。とても当たり前の概念だった。
今までのわたしは、希望から目をそらしていた。
けれども、兄からの手紙を切っ掛けに、
希望を求めるために、見えない絶望を振り払い――前へ進んで――
そして今、希望たる――ユリガミサマ――おねえさま――に辿り着くことが出来たのだ。
- 664 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:27:51.848 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「はい―――」
わたしは、ユリガミサマの手を強く握った。
感触はない。それでも……手と手は重なり合っていた。
今、心もユリガミサマとつながっているはずだ。
……ユリガミサマに、すべてを託そう。
そして、その果てに――わたしは澄鴒を――。
――わたしは、目を瞑って、手の感覚に集中しながら……
意識の奥へと、深層へと向かった……。
- 665 名前:Route:B Ending:2020/11/25(水) 22:30:35.709 ID:BmIsXKQc0
- ――Revealed the high priestess card.
But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.
―――Route:B Fin.
- 666 名前:SNO:2020/11/25(水) 22:31:07.507 ID:BmIsXKQc0
- なんか一気に投下した感あったけけどRoute:B、完。
- 667 名前:SNO TIPS:2020/11/25(水) 22:40:00.155 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦=フェルミ
Route:B 主人公。
異常性愛者であるグローリー・カヴルのセクハラを受けた被害者の一人。
絶望の悪夢を見ながら、かりそめの平穏を過ごしていた少女。
――しかし、兄であるアイローネ・フェルミの手紙によって、彼女の心は変わることとなる。
苺たちの、一般的な16歳の少女の生活とは異なる暮らしをしているため、
意外かもしれないが、地頭もよく、運動神経もいいため、
順当に学校に通っていれば、文武両道の美少女として、あこがれの的になっていたかもしれない。
――とはいえ、それはもしもの話。
これから、向かうべきものに立ち向かった彼女の行く末は、少なくとも絶望ではないだろう。
- 668 名前:きのこ軍:2020/11/26(木) 22:28:51.329 ID:INEErJ/Qo
- いいひきですね。感慨に浸りました。
- 669 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:32:19.718 ID:Zyvl.xYI0
The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
――Genesis 6:13
- 670 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:30.607 ID:Zyvl.xYI0
- 月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。
純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。
……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。
いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。
世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。
絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。
まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。
……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
カードを表に返すと同時に、水晶玉の中の人物がはっきりと映し出された。
- 671 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:44.281 ID:Zyvl.xYI0
- その人物とは――
- 672 名前:Route:C:2020/12/05(土) 22:34:53.073 ID:Zyvl.xYI0
- ――絶望に立ち向かう黒髪の女性だった。
- 673 名前:Route:C-0:2020/12/05(土) 22:35:05.801 ID:Zyvl.xYI0
- Route:C
Chapter0
- 674 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:40:53.441 ID:Zyvl.xYI0
- ……わたしは、現を見ていた。
天空には月が浮かんでいた。
天に浮かぶ月――太陰は、金色の光を照らしている。
――昔話の一説には、こうある。
月の都の人は、とても清らかで美しく、老いることもなく――物思いに耽ることもない、と。
だが、それは……月を夢見る人々の記した言葉だ。
月に都があるかなんて、月に民がいるなんて、示すことなんてできないだろう。
それでも、不死の国という幻想は、かつてより人間を魅了していた。
――人間には寿命がある。ほかの種族にも、長さの差異はあれど、最期が存在する。
いずれ来る死に怯えるからこそ、そういった伝説に思いを馳せ、あるいは乗り越える方法を探そうとする。
- 675 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:44:47.100 ID:Zyvl.xYI0
- それでも――。
それでも、わたしの見る月は、永遠と沈むことなく天空に浮かんでいた。
夜にしか姿を見せぬ天空の鈴は、今や――永遠のものとなったのだ。
わたしの周りで、白百合の花びらが舞った。
それはまるで雪のようにとても綺麗で、世界にそよいでいる。
この世界こそが、わたしのたどり着くべき場所――。
わたしの心が望んだ世界そのもの――。
世界を見渡せば、幸せそうに歩く女性たちが見える。
友人として――あるいは恋人として――。
それはとても素敵な世界だった。
それにしても、わたしは、どうしてここに居るのだろう?
思い出すことはできない。
わたしの中には、過去の記憶がなかった。
- 676 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:49:09.039 ID:Zyvl.xYI0
- それでも。
それでも――。
この世界がわたしにとって、心地よい世界であることはわかる。
???
「―――」
ふと、わたしの中に――何かがよぎる感覚があった。
一体どうしてだろうか……。
焦燥感に駆られる。何かをわたしは忘れているような気がする。
――その何かは……何だっただろうか。
世界の中心で、わたしは祈るように目を瞑って……。
- 677 名前:Route:C:2020/12/05(土) 22:50:29.091 ID:Zyvl.xYI0
- Route:C始動。
- 678 名前:きのこ軍:2020/12/05(土) 22:53:34.148 ID:I0oyd7coo
- 更新おつついにきましたね
- 679 名前:Route:C-1:2020/12/06(日) 14:31:17.527 ID:XDLbaKnA0
- Route:C
Chapter1
- 680 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:32:09.377 ID:XDLbaKnA0
- ――――。
変わらず、空には満月が輝いていた。
月光に照らされながら、どこかの中庭でわたしは立ち尽くしていた。
ぼうっと……わたしは、与えられた情報を飲み込んでいた。
ここは……いったい……?
片手には、姫百合の飾りで彩られた一振りの太刀。
その鈍い光を放つ刃は、紅色の生命の水で濡れ、ぽたぽたと雫を垂らしていた。
いや、刃だけではない……わたしの着る白衣も紅く染まっていた。
わたしの着ている巫女装束は、腰まで伸びた黒髪と共に、風に揺られて靡いた。
- 681 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:33:14.041 ID:XDLbaKnA0
- 同時に、わたしの中に五感が入り込む感覚があった。
――情報を、視て、嗅いで、味わって、聴いて、触れることができるようになった。
……まずは、身体と太刀に紅い液体を浴びていることがわかった。
その金気臭い匂いが、わたしの鼻をつんと刺激した。
焦燥感に駆られ――わたしはすぐに足元に目をやった。
その目線の先には、ひとりの少女が目を閉じて倒れていた。
地面に広がるふわりとした金色の髪と、赤を基調とした、これまたふわりとした衣装。
――この子は……いったい……。
- 682 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:37:56.018 ID:XDLbaKnA0
- その少女の胸には、黒い瘴気がぐるぐると蠢いていた。
蠢く瘴気の下では、紅色の液体がだらだらと流れ出ている。
地面には漆黒の【剣】が突き刺さっていた。
――少女は既にこと切れていた。
わたしは、紅に濡れた太刀を不意に地面に落とし、彼女をゆっくりと抱き寄せた。
わたし
「…………」
わたしは無言で少女を抱き寄せ、うなだれていた。
……垂れた私の髪は少女を覆い隠す。
それでも、なお……この子が誰かは、わからない。
- 683 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:39:43.393 ID:XDLbaKnA0
- それでも――わたしの中では、ひとつの結論があった。
涙腺から流れる涙が少女の衣装を濡らし、染みをつくる。
わたし
「ごめんね、ごめんね―――――」
わたしは、拭うこともなく、少女のために、涙を涸れるまで流し続けた。
顔を上げた表情は、喜怒哀楽すべてを失った虚無に包まれていることだろう。
もう、わたしの中に――希望は存在しないのだから。
その時――わたしの中に、一つの記憶が泡を立てて引き出される。
この子は、わたしにとって希望でもあった。
だが、それは一振りの太刀によって――自らの手により失われてしまったのだ、と。
- 684 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:41:07.857 ID:XDLbaKnA0
- わたしの心からは、光が失われていくように思えた。闇がわたしの心の中を蝕んでゆく……。
ややあって、わたしは己の心臓に太刀の刃を突き刺した。
わたし
「げぼっ――かはっ――」
紅の花が地面や服を染め――わたしは苦悶の表情に顔を歪める。
…自刃で己の身に始末をつけるために、肋骨の間に刃を滑らせて、肉を突き刺し、心臓をえぐった。
が、どうしても――どれだけ急所を傷つけても、意識が薄れない。
わたし
「どうして――
どうして、死なないの――」
ひどく熱い感覚が胸にある。息苦しさがある。視界は紅に染まる。
それなのに……わたしの身体は、崩れ落ちない。
痛みはあれど、決定的な――致命的な部分が残っている。
- 685 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:41:47.937 ID:XDLbaKnA0
- わたし
「どうして、死ねないの?」
そして――深く突き刺したはずの太刀は、血に濡れた刀身を晒して地面に投げ出された。
わたしの心は絶望で満ち始めて、それを反映するように、空に浮かぶ月も闇に蝕まれ始め……
やがて、月は紅く染まった。
同時に――わたしの首に掛けられた白い【勾玉】が、どろりとした黒い光を生み出したように――思えた。
わたし
「――――――」
わたしは、ぐっと【勾玉】を握り、わたしの中に在る意識を世界全てに溶け込ませた。
逃げ出すため?それとも……
――感覚は、あやふやで、わたしが今ここに存在しているのかどうかも分からない。
- 686 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:42:09.724 ID:XDLbaKnA0
- 同時に、わたしを中心として白い花びらと黒い瘴気が生まれた。
花びらは、ふわりと瘴気によって辺りを漂い、わたしの意思通りに遥か遠く、地平の向こうまで舞い散った。
紅い月は、まるでわたしの意思に呼応するかのように、永遠に空で輝いていた。
その光景を、わたしは幾度も見たような気がする……。
だが、それに想いを馳せる前に――
白百合の花吹雪がすべてを包むとともに――
世 界 は 在 り 方 を 変 え た 。
- 687 名前:SNO:2020/12/06(日) 14:42:32.626 ID:XDLbaKnA0
- これはもしや・・・誰かが求めていた展開かぁ・・・?
- 688 名前:きのこ軍:2020/12/06(日) 18:17:01.608 ID:0hn0GjB2o
- 予想していた展開と違うな。
ちなみに私の好きなエンドはメリーバッドエンドだからな。ただのバッドとは違う。
- 689 名前:Route:C-2:2020/12/06(日) 19:35:31.632 ID:XDLbaKnA0
- Route:C
Chapter2
- 690 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:39:47.799 ID:XDLbaKnA0
- ――――。
わたしの目の前の景色は、満月でもなければ、血に塗れた紅い月でもなく――わずかに欠けた月だった。
月が欠けるほどに、時が経っていたようだ……。
その間の記憶はわたしにはないけれど……。
それどころか、あの子の亡骸も、傷つけた己の傷も、返り血も――
まるで初めから存在してなかったかのように、綺麗さっぱりなくなっていた。
抜いた太刀はいつの間にか、鞘に納められ、
白い【勾玉】は何事もなくわたしの首元に収まっている。
- 691 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:41:08.174 ID:XDLbaKnA0
- わたし
「……っ」
それでも、ひどい倦怠感は全身を覆い尽くしていた。
それは、単に肉体的なものではなく、精神的な重圧によるものも合わさっている。その理由は――
わたし
「――あの子をこの手で斬ったから……」
両手を見ても、そこには赤い花の散らない白い手があるだけ。
まるであれが夢幻の光景でもあったかのように、血の匂いのひとかけらすらもない。
斬ったのは確かなのに、その手ごたえすらも思い出せない……。
顔を上げると、遥か遠くにそびえる城があった。
後ろにそびえる岩山と同じぐらいの高さの城壁。
囲う面積は、あまたの人間を収容できるほどに広い。
それを見て、わたしの中に電流が走った。
- 692 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:46:13.739 ID:XDLbaKnA0
- わたし
「……確か、あの場所は、わたしの向かうべき場所だったはず」
頭を押さえながら、呟く。
確証はないが、なぜだかそうなのだと確信を持つことができた。
記憶の海の中にその答えがあるのか……あるいは、直感によるものかは分からない。
だが、その理由はどうしても思い出すことが出来ない。
思い出そうとすると、頭ががんがんと痛みだし、思考すらも出来なくなるからだ。
いや、城へ向かう理由だけではない。わたしに関する情報は、名前すらも全く思い出すことが出来ない――。
しかし、どうにか――今の季節だけは知りうることができた。
今は、春あたりだろう。辺りに咲く花は撫子。
それに、空にはばたく紋白蝶も、その紋様が薄い――夏ではない。
手元に確認できるものはないけれども、それはわたしの中に刻み込まれた経験則でもあった。
もっとも、あの子の名前を……
わたしが斬ったあの子の名前を……思い出すことはできない。
- 693 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:49:06.927 ID:XDLbaKnA0
- 思い出そうとするたびに、頭痛が蝕み、思考を鈍くさせてしまう。
わたし
「………わたしは、どうしてあの子を殺さなければならなかったのか………
その理由を探すことが、わたしのやるべきこと――そう思えてくる」
わたしは、頭痛を強引に耐えながら、遥か向こうの城を見据えた。
――あの場所へ向かうこと。
それがすべてを失ったわたしに、唯一残された目的だから。
わたし
「そのためならば、わたしは死すら厭わないだろう
――あの時死ぬことが出来なかったのは、このためかもしれない」
言い聞かせるように、呟いた。
今、目の前に在ることを――それだけに注力すれば、いい。
――欠落している記憶のことは、そのあと考えればいい。
わたし
「そのためならば、絶望が待ち受けていてもわたしは向かうだろう」
わたしの瞳に宿る光は、不死の月のように尽きることなく輝いていた。
決意を胸に、城への方向へと足を進め……。
- 694 名前:SNO:2020/12/06(日) 19:49:51.939 ID:XDLbaKnA0
- これは秘密だけどはじめは和歌から引用しようかなーと思ってたけど探すのがめんどうなのでやめたらしい。
- 695 名前:きのこ軍:2020/12/06(日) 22:45:21.207 ID:r33lW6Owo
- こうしんおつ
- 696 名前:Route:C-3:2020/12/09(水) 23:10:55.013 ID:5/Kb0Hqo0
- Route:C
Chapter3
- 697 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:15:19.497 ID:5/Kb0Hqo0
- ――――――。
???
「フフフ……
ユリガミが、現れたか――」
わたしの前に、突然、男が現れ、わたしに話しかけた。
――いや、現れたというよりは……男の居る場所に、わたしが現れたという方が正しいだろうか。
身長はゆうに六尺六寸を越えている。その分厚い唇と、スキンヘッド……そして、針のように細い目。
眼球が黒く、その目は青白く――わたしはその特徴な眼を知っているようで、頭のどこかで何かが引っかかる感触があった。
――しかし、それは思い出せない。
月明かりに照らされる男の表情は鬼か、悪魔か、あるいは――魑魅魍魎といったところか。
その巨躯も相まって、わたしはひどくちっぽけな存在にも思える。
- 698 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:22:12.249 ID:5/Kb0Hqo0
- ……それはそうと、ユリガミとわたしの名前を呼んだ?わたしの名前がそうなの?
わたし
「……わたしは、ユリガミ」
確認するように、繰り返す。
???
「おや、あなた……記憶でも失っているんですか?
まぁ、そうであろうと……
確かに……確かに、貴女は間違いなく、私の知るユリガミだ――」
男は、わたしの全身を見てから頷いた。
わたしの名前はユリガミらしい。
……百合神……?わたしは祀られる存在ということ……?
???
「――いやはや、貴女がこうしてここに居ることは、私としてはうれしいですね
貴女の【力】を知っているから……なおのこと……」
???
「一時はどうなるかと思いましたが……
貴女に恐れをなす兵士は数知れず……もはや戦う気をなくす者もいる……
……私の目的は、果たせそうですね」
飄々と語る男は、一見無防備のようで、油断も隙もなく構えを取っていた。
――恐らくは、達人と呼ばれる類の人物なのだろう。
わたしの腰に下がる二尺三寸の太刀を持っていることを把握しているはず。
それなのに、男は素手で対峙しているということは……業物相手とも対等に戦えるが故の自信なのだろう。
- 699 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:25:24.137 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「それで――このわたし――ユリガミに、何の用?」
そして、わたしはユリガミであることを認めた。
理由は分からないが、それを認めるとぽっかり空いた何かが埋まる感覚があった。
――これはわたしが呼ばれていた名前であると、記憶の奥底で訴えかけている!
???
「ああ、なに…単純なことです、私は貴女と戦いに来た――ただそれだけです」
肩をすくめながら、その男は言った。
その表情はつねに笑っているため、不気味な印象を受ける――が、この男はただ不気味な存在ではない。
再度、男が何らかの武術の達人であることを肌でぴりぴりと感じ取る……。
ユリガミ
「どうして、わたしに?」
???
「はっはっは……貴女は剣の達人じゃないですか、それも忘れましたか?」
???
「それはともかく、貴女の剣術は世界一といっても過言ではない……
立場上、私はそういった達人を狩る役目ですのでねぇ
――まぁ、その役目もどうせあと少しでなくなるんでしょうがねぇ」
己を卑下するように、大げさに手を振ったも一瞬
男は、すぐに右手をこちらに向け、構えを取った。
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