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S-N-O The upheaval of iteration
- 1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
- 数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。
初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。
――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。
【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。
これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。
目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。
ワタシガ 見ルノハ
真 偽 ト
虚 実 ノ
世 界
- 694 名前:SNO:2020/12/06(日) 19:49:51.939 ID:XDLbaKnA0
- これは秘密だけどはじめは和歌から引用しようかなーと思ってたけど探すのがめんどうなのでやめたらしい。
- 695 名前:きのこ軍:2020/12/06(日) 22:45:21.207 ID:r33lW6Owo
- こうしんおつ
- 696 名前:Route:C-3:2020/12/09(水) 23:10:55.013 ID:5/Kb0Hqo0
- Route:C
Chapter3
- 697 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:15:19.497 ID:5/Kb0Hqo0
- ――――――。
???
「フフフ……
ユリガミが、現れたか――」
わたしの前に、突然、男が現れ、わたしに話しかけた。
――いや、現れたというよりは……男の居る場所に、わたしが現れたという方が正しいだろうか。
身長はゆうに六尺六寸を越えている。その分厚い唇と、スキンヘッド……そして、針のように細い目。
眼球が黒く、その目は青白く――わたしはその特徴な眼を知っているようで、頭のどこかで何かが引っかかる感触があった。
――しかし、それは思い出せない。
月明かりに照らされる男の表情は鬼か、悪魔か、あるいは――魑魅魍魎といったところか。
その巨躯も相まって、わたしはひどくちっぽけな存在にも思える。
- 698 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:22:12.249 ID:5/Kb0Hqo0
- ……それはそうと、ユリガミとわたしの名前を呼んだ?わたしの名前がそうなの?
わたし
「……わたしは、ユリガミ」
確認するように、繰り返す。
???
「おや、あなた……記憶でも失っているんですか?
まぁ、そうであろうと……
確かに……確かに、貴女は間違いなく、私の知るユリガミだ――」
男は、わたしの全身を見てから頷いた。
わたしの名前はユリガミらしい。
……百合神……?わたしは祀られる存在ということ……?
???
「――いやはや、貴女がこうしてここに居ることは、私としてはうれしいですね
貴女の【力】を知っているから……なおのこと……」
???
「一時はどうなるかと思いましたが……
貴女に恐れをなす兵士は数知れず……もはや戦う気をなくす者もいる……
……私の目的は、果たせそうですね」
飄々と語る男は、一見無防備のようで、油断も隙もなく構えを取っていた。
――恐らくは、達人と呼ばれる類の人物なのだろう。
わたしの腰に下がる二尺三寸の太刀を持っていることを把握しているはず。
それなのに、男は素手で対峙しているということは……業物相手とも対等に戦えるが故の自信なのだろう。
- 699 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:25:24.137 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「それで――このわたし――ユリガミに、何の用?」
そして、わたしはユリガミであることを認めた。
理由は分からないが、それを認めるとぽっかり空いた何かが埋まる感覚があった。
――これはわたしが呼ばれていた名前であると、記憶の奥底で訴えかけている!
???
「ああ、なに…単純なことです、私は貴女と戦いに来た――ただそれだけです」
肩をすくめながら、その男は言った。
その表情はつねに笑っているため、不気味な印象を受ける――が、この男はただ不気味な存在ではない。
再度、男が何らかの武術の達人であることを肌でぴりぴりと感じ取る……。
ユリガミ
「どうして、わたしに?」
???
「はっはっは……貴女は剣の達人じゃないですか、それも忘れましたか?」
???
「それはともかく、貴女の剣術は世界一といっても過言ではない……
立場上、私はそういった達人を狩る役目ですのでねぇ
――まぁ、その役目もどうせあと少しでなくなるんでしょうがねぇ」
己を卑下するように、大げさに手を振ったも一瞬
男は、すぐに右手をこちらに向け、構えを取った。
- 700 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:29:16.401 ID:5/Kb0Hqo0
- ???
「まぁ、万が一が起きたら、私は大層困るんですが――
時が来るまでは、一応、貴女も始末しにいかなくてはいけないのでね……」
その口ぶりからは、完全な敵意はないようにも思える。
逃げることもできるかもしれない。
どうする――?
いや――わたしは、逃げてはいけない。
……おそらく、この男は真実に辿り着く障害だから。
だから、わたしのできることは―――
ユリガミ
「――」
太刀を抜き、切っ先を男に向けた
――すなわち、宣戦布告の合図だった。
わたしは、剣術の達人なの――?その記憶も当然ながらない。
しかし、身体には太刀の技が刻み込まれていたらしく、
相手に刃を向ける姿勢、視線、態勢――すべてが、自然とわたしの身体に現れていた。
- 701 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:30:49.355 ID:5/Kb0Hqo0
- ――本能なのか、あるいは認識していない記憶なのか。
ユリガミ
「ちぇーーっ!!」
隼のような神速の切払い。豪雨のような連続突き。わたしはいともたやすく相手に切りかかる。
それを繰り出すたび、これまでずっと鍛え続けてきたのだと――、そんな納得感を覚えていた。
確かにわたしは、剣術を修めているのだ――。
???
「フン――」
男は、わたしの斬撃を受け流し、合間合間で反撃を繰り出す――
素手?いいや違う……。
男が操っているのは、自然現象を武術と組み合わせた戦闘術だろう。
拳で生み出した風圧、足元に大量にある土……それを巧みに操っていた。
戦いは、完璧に互角だった。
わたしも、相手も――決定打を与えることなく、いいや、傷ひとつ与えることすらなく――
――膠着状態のまま、わたしは男と対峙していた。
- 702 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:33:19.088 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「自然現象を操る技術――一体、あなたは何の技術を修めているの」
――わたしは男から間合いを取り、ひとつの疑問を投げかけた。
男の考え方は、わたしには到底受け入れられない価値観だから……。
――価値観?わたしはどうしてそう考えているのだろう。
しかし、それを考えるのは今ではない。
???
「もうそれは、色々と……キマイラのように……
ですが……ベースは戦闘術【魂】――
見どころのある一人の男を除いて、師範ですらぽっと出の新人にやられるような、そんなつまらない武術です」
――わたしが流れてくる思考を吹き飛ばすと同時に
本当に、つまらなさそうに男は言った。
武術への信奉は感じられない……だが、極限まで鍛えられた技術であることは、立ち振る舞いから見ても間違いない。
ユリガミ
「あなたは武術を修めながら、全く持って敬意がない」
口をついて出た疑問――それは、ごく自然に発せられていた。
???
「ははは……当然でしょう?
これは私の持論ですが、いかなる武術を極めようと、それを押しつぶす【力】があれば無意味になりますからね」
――不気味に笑いながら男は答えた。
その口ぶりからは不思議な説得力がある。それほどまでに、男はその考えを支持しているようだった。
- 703 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:34:22.283 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「では、どうして――あなたの言うつまらない武術を、あなたは極めているの
【力】だけでいいと言うのなら、武術はいらないでしょう」
???
「ああ、なに……単純なことですよ
私のような、武術に対して不真面目な人間に――自分が積み重ねた技術が互角という事実を突きつけたうえで――
武術は【力】に無力ということを教えてあげたいからです」
ニヤリと、男は笑った。
ユリガミ
「……ああ、あなたは気でも違えてるのかしら」
???
「そんな、ひどい――私、貴女を見てから、ようやく生きるきっかけを見つけたんですよ?
最も、今の状況はつまらなくてしかたないですが……」
ユリガミ
「――とても、不愉快……わたしを、見ることすらも……」
あっけらかんとした態度で語る男に、ふつふつと、怒りが湧く。
わたしは、この男の欲望を果たす為だけに存在していた……?
- 704 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:37:08.804 ID:5/Kb0Hqo0
- ???
「ふん――」
その拳は、わたしの胸目掛け軌道を描き――わたしは、無意識のうちに衣の裾でその拳の軌道をそらし――。
突き出す拳の勢いを利用し男を投げ飛ばした。
???
「く――」
わたしに、ダメージはない。
男は、受け身をとりながらも、ニヤリと笑っていた。
???
「流石、彼女と同じく護身術もお手の物だ――
しかし、私が求めているのはそれではない――」
擦りむいたらしい拳を押さえながら、男は満足げに笑うやいなや――懐から注射器を取り出し、内部の液体を血管に注入した。
ユリガミ
「はっ――!」
――ぞくりとわたしの背中に冷や汗が流れた。
???
「ふんっっ!」
男が勢いよく注射針を刺した腕を掴むや否や、
男の筋肉ははち切れんばかりに膨らみ、顔の血管はぱんぱんに膨らんでむくんでいた。
- 705 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:38:01.168 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「【力】――そういうことなのね」
???
「ふふふ……ただの【力】を、技術でどうにかする貴女は、私好みの達人だ――
でも貴女に私が求めているのは、そんなものじゃない――」
その表情は、まさにケダモノのようにも思えた――。
ユリガミ
「……こんな奴に、わたしは負けない」
胸の中に溜まったひどい嫌悪感を、男に吐き捨てる。
そして、私は再び刀を構えた。
ユリガミ
「こんな醜いケダモノに、慕われる道理があるものか――」
怒りながらも、男を見る目は冷静に――奴を――斬る!
???
「そう――私はその顔が見たかった――
貴女は、それでこそ――魔女と恐れられる、最強の女神だっ!」
そして――再び、わたしと男は同時に飛び交った。
- 706 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:38:56.959 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「来い、ケダモノ――」
???
「ウォオオオオオオオーーーーッ!!」
男は、地面に思いきり着地し、衝撃波でわたしを揺らす。
それは無理矢理作り出した肉体で繰り出した攻撃だ……だが…問題はない。
大丈夫、対処できる――不安定な足場の上でも戦えるすべを、わたしは知っている。
???
「ウォ゛オ゛オ゛オ゛オオ゛オ゛ッ」
突然、男が口から何かを吐きだした。
異臭のするガス――毒!?
わたしは、後ろに転がりながらそれをかわす。ガスの残滓は、わたしの身体に触れる前に霧散していく――。
???
「やはり……
私の求めていた【力】だ――やはり貴女は最高だ――」
嬉しそうな、男の声――それを聞くだけで、心の底からわたしの中でどろりとした何かが生まれるような気がする。
- 707 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:40:47.631 ID:5/Kb0Hqo0
- なに――何が言いたいの――?
???
「もらった――」
――そして、その思考の隙を突いて、男が全力の拳を打ち出した。
それは神速の突き……意識よりも速く空間を切り裂く突き……。
それでも、その軌道をそらすために、被害を抑えるために、指1本で牽制しようとし――
拳と指がごくわずか掠った瞬間、男の拳は、なかったかのように消え去った。
???
「――――ク、クククッ」
その情景には、なぜか覚えがあった。
男は、さらに笑いながら消えた拳を押し付けようと血液とともに腕を突きつけたが、
わたしに触れる傍から、皮も、肉も、血も、骨も消滅していった。
まるで、熱に触れて溶ける氷のように……。
???
「ハハハハハハハハハハッ――」
やがて、男は笑いながら腕を引っ込め、さっと跳び、わたしから離れた。
- 708 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:43:03.167 ID:5/Kb0Hqo0
- ???
「やはり、貴女は最高だ――
ハハハ、ハハハ、ハハハハハハ――だからこそ、女神であり天使だった」
そう言うと、男は、満足げに笑いながら、血止めをしつつ、その場を走り去った。
ユリガミ
「なに――なんなの――」
男の腕を消滅させた――これは、明らかに武術ではない。それとは違う系統の【力】だ。
返り血すらもない。無意識に、発現した力……。
呆然と、わたしはその場に座り込んでいた。
既に男の姿は見えない。――戦いは終わりを告げていた。
ユリガミ
「――っ」
心当たりは、ある。しかし、それが明確に思い出せない――思い出そうとすると、がんがんと頭が痛む。
その場に膝を突き、その痛みに耐えながら目を瞑っていると――記憶の残滓が頭をよぎった。
- 709 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:43:42.725 ID:5/Kb0Hqo0
- 恐怖で押さえつけられた子供――醜いケダモノのような男――酸欠状態に陥った男女――
ユリガミ
「――はぁ、はぁ、はぁ」
思い出せない、思い出せない、思い出せない、思い出せない――
いいや、違う――ここで【力】に考える事が間違いなのだ。
わたしがやるべきことから外れてはいけない。あの男はわたしを惑わせるために現れたのだろう。
わたしがやるべきこと。それは真実に辿り着くことなのだ。
だから、立ち上がり――向かわなくてはいけないのだ。その場所へ――。
よろよろと立ちあがり、わたしはゆっくりと歩き始め――。
- 710 名前:SNO:2020/12/09(水) 23:44:06.771 ID:5/Kb0Hqo0
- バトルシーンの描写むずい
- 711 名前:きのこ軍:2020/12/10(木) 22:40:13.065 ID:kC.YKhqoo
- スピード感出しながら書こうとするのはむずいよね。
- 712 名前:Route:C-4:2020/12/10(木) 23:52:50.157 ID:gzdccGE60
- Route:C
Chapter4
- 713 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/10(木) 23:56:35.877 ID:gzdccGE60
- ――――――。
気が付くと、わたしは――何処かの屋敷に居た。
山や野原や花畑といった、自然に囲まれた――世間からは切り離されたような場所。
先程の戦いも――男の腕を消滅させた【力】も、まるで夢だったかのように思えてくる。
空のよく見える縁側で、わたしは三日月を見上げていた。
――ここは、とても懐かしいはずなのに、何処かは思い出せない。
……なぜか、わたしの斬ったあの子の姿が視界をよぎった。
もちろんそれは幻。ただの、情景の再現……。
わたしはあの子と、この場所で出会っている。
???
「おねえちゃん……」
――可愛らしい声が、記憶を駆け巡る。
彼女は、妹のような存在……?そしてわたしは姉のように慕われていたの……?
その瞬間――
???
「――お姉ちゃん、許せない
わたしの方が、【力】を操れるんだからぁぁぁぁ!」
……あの子はわたしへ怒りをぶつけた。
いったい……どういうことなの……
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 714 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/10(木) 23:59:01.199 ID:gzdccGE60
――とぼとぼと歩いていると、灯りの灯った部屋を見つけた。
わたしは、その中を用心深くのぞき込む……すると……
???
「――貴女は!
……また、貴女に逢えましたね」
感極まった、聞き慣れた声が聞こえた。
……記憶のないわたしにとっては不可思議な表現だが、
確かに聞き慣れたハスキーボイスが、後ろから聞こえた。
目の前に隻眼の女性。
――背中に羽が生えているから、彼女は天狗だろうと、わたしは直ぐに判断していた。
……その姿に見覚えがあった。名前は確か――
???
「わたくしは、ヤミ――」
記憶の中で、幼い――けれども、既に右眼を失っていた彼女が名前を告げる情景が流れる。
ぽっかりと空いた穴が埋められる感覚があった。
- 715 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:00:43.341 ID:OGkBNIQ20
- 左手の指を、半分ほど欠損し――顔にも大きな傷がある。
その姿は、一度見たら印象に残るからだからだろうか、わたしは彼女の名前を思い出すことができた。
彼女がどういった立場にあたるかは、覚えていない……それでも彼女がヤミであることは、確固たる事実だ。
ヤミ
「貴女は――わたくしが引き留めても、あの場所へ――【会議所】へと行くのでしょうね」
ヤミは、わたしの後ろに抱き着いて、顔を寄せる。
少しさびしそうな顔は、少し私の心を揺らす。
――【会議所】、それは街宵月の夜に見たあの城のことなのだろう。
……わたしは、城に【会議所】へ真実を見つける為に存在している。
それだけが――わたしの存在する意味だから。
それでも、ヤミはわたしを抱きしめている。
名残惜しそうに。わたしの長い黒髪を、指ですくい取っていたりもしている。
――どうして、心が揺れるの?
あなたは――わたしにとって――どういったそんざいなの?
それを言おうとしても、どうしても声に出せない。
- 716 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:02:30.165 ID:OGkBNIQ20
- ――ややあって、ヤミはわたしから身体を離した。
ヤミ
「……けれども、貴女をこうして引き留めてはいけない
……貴女を抱きしめていたいけれど、貴女のすべてをもう少し味わいたいけれど……」
陰を落とした顔で、ヤミは呟く。
ヤミ
「貴女は――心に決めた事は、たとえ何があろうともやり遂げる――そういう人です
それが地獄の門だったとしても――貴女は、為すべきことのためならば、死すらも厭わないのですから
その意思の強さが、貴女の【力】の原動力でもあるのだから――」
続くヤミの言葉は、わたしの揺れる心に再び決意を与えた。
そうだ――今、ヤミのことを考えていても、真実には辿り着かない。
今わたしが為すべきこと――それは【会議所】に向かうことなのだ。
- 717 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:06:25.418 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「そう――わたしは、【会議所】に向かうの
あの子のために――わたしは真実に向かい合う為に――」
ヤミ
「ふふ、それでこそ――わたくしの大好きな貴女です
ですから――どうか、良い結末になることを願っています」
わたしの決意に、ヤミは少し寂しそうな笑顔で答えた。
その仕草もまた、見覚えがある。きっと、わたしはヤミとは長い間親交があったのだろう。
ヤミ
「今やは、何から何まで滅ぼさんとばかりに、
世界すべてが面倒なことになっていますが……
わたくしに入っている状況から判断すれば……貴女の敵となりそうな存在は、ほぼ存在しないかと思われます」
ヤミ
「そして、貴女は心配かもしれませんが――
此の場所は、わたくしが必ず護ります――貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」
ヤミは、ちらりと襖の向こうを見つめた。心なしかその奥に影があるようにも見える。
――そこには、何かあるのだろうか。でも、それに思いを馳せるのは今ではない。
わたしは――【会議所】へ向かわなければならないのだから。
ユリガミ
「わかったわ――こちらは任せるわ」
ヤミ
「はい――あの場所のようにならぬように――確実に――」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 718 名前:SNO:2020/12/11(金) 00:07:34.494 ID:OGkBNIQ20
- 今更ですがこのRouteの主人公はあの人です。
- 719 名前:きのこ軍:2020/12/11(金) 07:36:22.772 ID:NDdxqdXMo
- ユリガミ様サイコー
- 720 名前:Route:C-5:2020/12/11(金) 22:42:10.029 ID:OGkBNIQ20
- Route:C
Chapter5
- 721 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:44:46.695 ID:OGkBNIQ20
- ――――――。
わたしは、どこかの荒野に居た。
あの屋敷から移動して――いつの間にか、ここに居たことになる。
……その道中の記憶はない。もう、道中の記憶といった些末なことを考える必要はないのかもしれない。
わたしは、失われた記憶の中で、失われた過程(道中)の中でも、真実に向かって歩いているはずだ。
わたしがそうしていると信じるのが重要であって、それ以外の出来事は些細なことと考えるしかない。
だから――今は、ただ目の前の出来事に集中するだけだ。
辺りの様子を確認する。
死屍累々――橙や緑の軍服を着た兵士たちが、崩れ落ちるように倒れ、折り重なっている地獄絵図だ。
ユリガミ
「……一体、何が起きているの?」
冷静に、状況を判断しながら、わたしは考えを巡らせる。
不思議と――動揺はない。わたしは屍の群れに慣れているのか、
あるいは記憶が完全ではないから、それに伴うように心も鈍麻しているのか。
- 722 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:45:29.999 ID:OGkBNIQ20
- ――目の前には、醜い見た目の化け物が居た。
生物ではあるようだ。茸の傘のような頭頂部。長い胴体とは対照的にひどく短い手足。
身体からは腐臭をまき散らし、辺りの雑草を枯らしている――。
その顔は――
ユリガミ
「――っ」
その化け物の、ただ欲望のみを考えた、理知的なところのひとかけらもない顔には、既視感がある。
――失われた記憶の何処かで、この顔への嫌悪感が或る。
化け物
「ヴォオオオーーーーーーッ」
劈くような低い声は、耳障りに辺りを揺らした――。
――その音にも聞き覚えがあり――ああ、なんて……どうしようもなく醜い音なのだろうと感じた。
その時――わたしの頭に稲妻が走ったような感覚があった。
- 723 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:47:23.557 ID:OGkBNIQ20
- ???
「――男は存在してはいけない
その汚らしい身体は誰であろうとも存在してはいけない
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
唐突に――わたしの中に呪詛のような子供の声がよぎった。
一体、この声は――だれの――声――なの――?
深く考えようとすると、今度はずきりと頭が痛み始めた。
駄目だ――今これについてどうこう考える必要はない。
なにしろ、化け物はわたしを敵として判断している。
――今やるべきことは、目の前にいるこの化け物をどうにかすること。
そうでなければ、真実にたどり着くことすらおぼつかないのだから。
- 724 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:50:01.398 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「来い――化け物」
わたしは太刀を抜き、その化け物にその刃を向けた。
闘志で無理矢理頭痛を捻じ伏せる……。そうしているうち、捻じ伏せなくとも頭痛は治まってきた。
化け物
「グチャグチャと、この俺様を化け物と言いやがって――この阿婆擦れが」
化け物は、わたしにそう吐き捨てながら巨大な振り鼓を振るった。
それはメイジにとっての杖のように、音波の真空波を繰り出した。
空気を操る力――それを認識した瞬間、全身の毛が逆立ったような感覚を覚えた。
わたしの根源にある何かが警報を鳴らしているような気がする。
それは記憶の奥底に依るものなのか……あるいは本能に依るものなのか……。
――わたしは、避けられないと観念してしまったのか?
- 725 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:50:48.702 ID:OGkBNIQ20
- ――いいや、違う!
化け物
「チーーよけやがるかァ」
わたしは、冷静にその攻撃を回避する。音速の波だろうと、わたしには冷静に対処できるだけの技術がある!
しかし、どうしてこの攻撃に恐怖を覚えているの?
――考えている場合ではない。
矢継ぎ早に、化け物は次の攻撃を繰り出してくる!
化け物
「ダースクエイク」
地面を分割させるほどの地震――
化け物
「ミールメイルストロム」
魔術で作った、大津波――
しかし、大丈夫。よけられる。嵐のような攻勢でもわたしは己を保ち、対処できる!
- 726 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:51:22.840 ID:OGkBNIQ20
- 化け物
「グーーちょこまかと、ゴキブリのようによけやがって――」
化け物
「死ねや、ブラックサンダー!」
再び、魔術による攻撃、今度は雷撃がわたしに襲い掛かってくる!
拡散する電流は、うねるようにわたしを包み込もうとする――。
ユリガミ
「せいっ!」
――大丈夫。この攻撃もかわせる。
わたしは、電流の合間を縫って飛び、その跳躍を活かして化け物の頭上から斬り込んだ。
化け物
「ウグァッ!」
ぐにょりとした、ひどく気持ち悪い感覚――完全に切り裂くことができない。
化け物は、頭頂部を振り、その遠心力で太刀ごとわたしを投げ飛ばした。
- 727 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:53:10.742 ID:OGkBNIQ20
- 化け物
「いデェーーッ……許さんぞ、この売女ァ、糞アマがァーーッ
てめェは、所詮下等な存在で――オレ様のような存在のエネルギー補給装置にすぎねぇんだ」
ユリガミ
「――っ」
咄嗟に受け身をとったから、負傷はない。
だが――男の吐き捨てる、品性のかけらのない一言一言が、わたしの神経をぴりぴりと逆なでする。
どうして、こんなに――この化け物の言葉は、わたしの心を揺さぶるの――?
何度も交戦して、こういったことを聞かされてきたの――?
???
「――男なんて存在してはいけない存在そんなどうしようもない生物以下の存在なんて全てこのわたしが消滅させてやる
何もかも滅ぼしてやる植物だろうと獣だろうと神だろうと例外なく魂魄すべてを殺してやるわたしの目の前から全て殺す
殺してやる殺してやるわたしの見えないところだろうと何処だろうとそれがこの世界の正しい形正しい在り方」
頭痛が激しくなる。こういった戦いの場では、一瞬の隙すらも与えてはならないのに――。
再び子供の呪詛のような言葉が、わたしの頭の中を巡る。
まるで、それが化け物への反論かのように……。
- 728 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:54:01.407 ID:OGkBNIQ20
- 化け物
「――貰った、クソ女がァー!」
わたしが頭を押さえた隙を突いて、その化け物は酷く短い腕を振り上げ、わたしに振り下ろそうとしていた。
だが――
ユリガミ
「お前のような存在に――わたしは倒れるわけがない」
意識もせず、その言葉が出て――同時に、わたしは太刀を振り上げて化け物の腕を斬り落とした。
化け物
「あ――?グギャァアアアアアッ!」
苦しみにもだえる化け物。その傷口からは、コールタールのようなどす黒い血液が、どろどろと溢れている。
太刀には一滴の血液もない。――そして、続けて化け物の片足を捩じ切る!
化け物
「ガァアアーーーーッ!」
骨の継ぎ目を斬り落とす。脆弱な部分を、相手の動きから予測して真っ二つに斬り飛ばした。
返り血がわたしに跳びかかろうとしているけれど、わたしにそんなものは通用しない!
わたしの予想通り……結界に阻まれたように、血液ははじけて霧散した。
- 729 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:55:15.271 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「――消滅しなさい」
バランスを崩した化け物の目を切り裂く。鼻を抉り取る。血を吐く口を削ぎ落す。
――わたしは、まるで自分が為せなかったこと成し遂げるような感覚があった。
どうして――?
ユリガミ
「お前の言う、下等な存在に、切り刻まれる方が――下等なのでしょう
――この世から、消えてなくなれ」
――吐き捨てるように、見下すように……わたしは化け物に語る。
そのまま、抵抗もままならない化け物の全身を、念入りにバラバラに切り刻み、絶命させた。
化け物
「グギャアアアアーーーーーーーーーーッ」
飛び散る血液。響き渡る断末魔――血液を浴びて、腐り落ちる荒野の草――小動物――。
それなのに、わたしに返り血は一切ない。――あの子の時は、白い衣を染めていたのに……どうしてなのだろう。
不気味なまでに――わたしは綺麗だった。
- 730 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:56:57.035 ID:OGkBNIQ20
- たとえ――兵士たちを殺した化け物を始末したのだとしても――
それはきれいごとでは片付けられないし――あの子を殺したのだから――
わたしは、黒に近い存在なはずなのに――どうして、こんなにも綺麗なの?
太刀を収め、わたしは近くの岩場に腰かけた。
腰かけた岩場に長い髪がぱさりと広がる。そしてわたしは胸に手を当てる……。
ユリガミ
「はぁ、はぁ、はぁ……」
――わたしがこんなに綺麗な理由。それをわたしは知っているはずだ。
何故か、わたしの求める真実に関わっているような気がする――。
けれども、それも思い出せない。同時に、動悸が激しくなる。
――これも、考えてはいけないの?
- 731 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:57:20.877 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「……落着け、落着け……」
ゆっくりと、深呼吸し、気分を落ち着かせる。
このことについて考えるのをやめると、動悸は治まり始めた。
ユリガミ
「――大丈夫、わたしが導いてくれるはず」
そして――少しでも、前向きに考えようと、わたしは呟いた。
考えてはいけないことを、体調の変化で知らせる。それこそが、わたしの信じられる感覚と思おう。
真実という本線から外れないように、わたしが止めてくれるのなら――わたしはそれに体を預けよう。
ユリガミ
「――だから、せめて……わたしが真実に辿り着けるように、わたしはわたしに祈ろう」
わたしは立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた……。
- 732 名前:SNO:2020/12/11(金) 22:57:36.629 ID:OGkBNIQ20
- みんな!強い主人公いいよね!
- 733 名前:きのこ軍:2020/12/11(金) 23:01:58.797 ID:NDdxqdXMo
- 最強!最強!
- 734 名前:Route:C-6:2020/12/12(土) 00:02:45.269 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter6
- 735 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:05.364 ID:pVacs5r60
- ――――――。
気が付くと、わたしは何処かの森の中に居た。
荒野からがらりと風景が変わる。それも、わたしにとっては一瞬の出来事だった。
ここはどこなのか――とも思ったけれど、もう、それについて考えるのはよそう。
どうせ、分からない。記憶を欠損しているわたしにとって、今やるべきことではない。
――月は、木の葉に遮られて見えない。月光も遮られていて、今の満ち欠けはわからない。
月は完全に欠けてしまっているのか……あるいは、ただ遮られているだけなのか。
月を見れないと――少し不安を胸が包んだ。
過程を見ずに辿り着く真実が、本当の真実なの?
大切なことを、見落としてしまうかもしれない――
そう思いながらも、わたしは歩いて……二人の人影を発見した。
- 736 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:44.624 ID:pVacs5r60
- ひとりは、金の角の生えた魔族の女性――もうひとりは、かむろ髪の、白髪の少女――。
途端に、わたしの中に記憶が流れ込んだ。
???
「へぇ、貴女がさっちゃんの……ねぇ
私は791、よろしくねっ!」
そうだ、魔族の女性の名前は791。人智を越えた魔力の持ち主で、腕力も規格外だったはず。
???
「あたしは、フチ――
貴女があの人の娘なのですね――
……最も、あの人は分け隔てなく話すようおっしゃられていたから、もう少し砕けてもいいかな?」
白髪の少女の名前は、フチ。幼い見た目ではあるけれど、精神は立派な淑女そのもの……。
ふたりとも、わたしの知り合いであることに間違いはない。
……そうなるいきさつまでは、未だ思い出せないけれど。
- 737 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:07:59.433 ID:pVacs5r60
- どうして、この二人がこんな森の中に?
ふたりは、倒木の上に座って、ぼんやりと辺りを見つめている。
恐る恐る、わたしはふたりのもとへと駆け寄った。
ユリガミ
「どうしたの、二人とも」
791
「――あなたは……」
791は、目を丸くして驚いた。
――それは、わたしの起こした悲劇を知っているからだろうか?
791
「なるほど、そういうことか……」
納得したように頷いた791。
彼女は、たしか魔王と呼ばれていた――はずだけれど……
今の彼女は、その単語とは裏腹に――酷く憔悴した表情をしていた。
- 738 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:09:22.525 ID:pVacs5r60
- フチ
「……」
フチは――ただ791の腕にくっついて、俯くばかり。
彼女は、とても天真爛漫で、その小さな身体では抑えられないほどに元気な女性だったはずなのに――。
それに――確か彼女には――。
791
「あなたも知っていると思うけれど……テロ組織の【嵐】は、全世界で大暴れ――
会議所はギリギリ持ちこたえてる――あとは、企業としてはルミナスマ・ネイジメントも頑張っているほうかな
でも、ヴァルトラングといった多くの大企業はもう、ダメダメ――当然、中小企業や住民も、言わずもがな……」
わたしが思考する前に、テロ組織の【嵐】――新しい情報が耳に入った。
一体全体、何なの……?世界が混乱していることだけはわかる。
もしかしたら、わたしと相まみえた男や化け物も、それに関係しているのだろうか。
- 739 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:10:47.799 ID:pVacs5r60
- 791
「――まぁ、前置きは置いておきましょう
私――いや、私たちはあなたに……そう、ユリガミとしてのあなたに、頼みごとがあるんだ」
ユリガミ
「頼みごと――」
何故か、幾度もそんなことを言われたような気がする。
ユリガミ――女神と呼ばれているのだから、それは当然なのかもしれないけれど……。
フチ
「――【嵐】、あの組織を消滅させて」
フチは、俯いたまま言った。
表情は見えない。けれども、その言葉の節々からは、怒りと、呪詛と、悲愴さとが入り混じっていることが伺える。
791
「本来なら、【会議所】の管轄なんだけど――
私は、フチちゃんを守らないといけない――
守れるのは、もう……私だけしかいないだから……お願い……」
【会議所】の関係者。791に問いただせば、真実はあっさりと分かるのかもしれないけれど……。
791は、俯いたままのフチの身体をぎゅっと抱き寄せていた。
それは、まるで母が子を守る仕草のようで、ガラス細工のように脆く儚く見えて
――何かを尋ねることは、ついには出来なかった。
- 740 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:11:54.208 ID:pVacs5r60
- 【嵐】――テロ組織――それはわたしの辿り着く真実と関係があるのか?
分からない。それでも――わたしの向かうべき場所である【会議所】にも影響が出ているのは確かだ。
ならば、わたしと敵対関係となるかもしれない。
あるいは、既になっていることも考えれる。
さらに言えば、【嵐】のせいで真実に辿りつけない可能性だってある。
だから――
ユリガミ
「わかったわ――貴女たちの願いを聞き入れましょう」
わたしは、胸元の【勾玉】を握りながら、願いを受け容れた。
それが、正しい事なのかはわからない。
【嵐】がどういった組織なのもさっぱりとわからない。
それでも、真実に辿り着くために。わたしの為すべき事のためには――必要なことだから。
- 741 名前:SNO:2020/12/12(土) 00:12:25.141 ID:pVacs5r60
- 不穏。
- 742 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 11:18:16.174 ID:nppr98lso
- よくわからねぇ~
- 743 名前:Route:C:2020/12/12(土) 12:58:32.903 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter7
- 744 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:04:15.435 ID:pVacs5r60
- ――――――。
相変わらず……辺りの風景は一変していた。
――791もフチも森もここにはない。とはいえわたしは止まることはできない。
前へ前へ、歩き出した途端、再び敵に出くわした。
今度は男どもの集団。銃やら槍やら、物騒な武器を抱え、揃いも揃って、嫌悪感を覚える雰囲気の男たち。
男
「あの武器――あれはユリガミ……魔女だッ!」
男
「なに――しかし、いいんですかい?
殺してはまずいって……」
魔女――女神ではなく?
単に魔術を操る女性を表す単語なだけではなく、
悪魔と契約した災いなすものを魔女と呼んだはずだけど――。
- 745 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:07:09.983 ID:pVacs5r60
- 男
「ボスは、【嵐】の活動の邪魔になるなら、首だけでも持ってこいとのってことだぞ?忘れたのか?」
男
「ああ、そうだった……奴の執着が晴れてくれてる状況なら、別に構わねえのか」
男
「行くぞおおおおーーッ!」
よくわからない会話を繰り広げたかと思うと、わたしの前で男たちは円陣を組み、士気を高める……。
――それにしても、【嵐】……都合よく、わたしの前に現れたものだ。
フチ
「あの組織を、消滅させて」
フチが、わたしにそう願った。
791も、それに追従した。わたしの向かうべき【会議所】にも影響が出ている。
なら、【嵐】は真実へ向かう為の敵とみなしていい。
それに、すでに彼方此方に被害を出している組織だ。ここで撃退しないと、面倒なことになるのは目に見えている。
――わたしのことを、良くは思っていないことは、先程の会話の節々から判断できる。
ユリガミ
「――すぅぅ」
抜刀し、刃先を相手に向ける。
相手は集団。数十人は居るだろう……。
わたしは一人。そして得物は姫百合の装飾のある太刀一本。
- 746 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:10:15.797 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「――わたしにとりて、これぐらいの状況は縛めにあらず」
小さく、自分に言い聞かせるように呟く。
男
「いけェーーーッ!」
一人の声を呼び水に、男たちが武器を構えて左右から攻めてきた。
ユリガミ
「――すうっっ」
わたしは短く息を吸い込んで、、太刀を振るった。
わたしは、一人の首を飛ばし、返す刀でまたひとり、ふたり――その腕や胴を切り裂いた。
それも当然、彼らの動きは視えるのだ。どのように体を動かし、武器を振るのか――初めから終わりまで、全てが。
太刀の切り筋は、鬼をも切り裂く一閃の冥府となり――
男
「ぎゃァッ!」
男
「ごふ――」
男
「がハッ……」
ばたばたと、その命を刈り取った。
- 747 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:14.614 ID:pVacs5r60
- 男
「うおッ!一旦離れろ!」
男たちが飛び退くのを見ながら、わたしは考えていた……。
わたしに襲い掛かってきた長身の男。奴は、太刀を素手で捌く技量があった。
――本人の考えはともかく、技術の研鑽に努めてきたことは明らかな達人だった。
わたしに襲い掛かってきた化け物は、連続して魔術を唱え、抑え込もうという戦略があった。
そして、腐臭やその嫌悪感といった生物的な特性も持っていた。
彼らは、少なくとも――戦闘能力は高く、厄介な存在だった。
だが――この男たち――【嵐】はどうだ。
訓練はされているだろうが――連携に不完全さが見える。
人間か、あるいはオーガか、魔族か――ともかく、欲望だけで生きている――そんな感覚を覚える。
記憶はないけれど――わたしは剣術に身を捧げたことは、感覚的に分かっていた。
技術を長く研鑽してくれば、自ずと相手の動きも読む事が出来し、自分の動きを読ませないようにもできる。
欲望だけしか考えてない存在には――それは出来ない。
- 748 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:42.314 ID:pVacs5r60
- 男
「一斉射撃だ、誤射されんなよぉ!」
男の指示と共に、がちゃり――と重厚な金属音。銃に弾が込められ、引き金が引かれる音。
ユリガミ
「――すぅうう」
一呼吸置く。自分のリズムを作り、相手の動きに注目する。
近距離を相手にする太刀は、遠距離――すなわち飛び道具に対して弱い――そう言われることもある。
しかし――わたしの身体は知っている。
それは間違いであり、飛び道具に対抗する技術を身に付けていることを!
鉛玉が飛び交う。わたしを傷つけんと、空気を切り裂き、硝煙の匂いも辺りに散らばる。
ユリガミ
「はっ!」
問題はない。いくら距離をとっても、弾丸の速度が認識できるよりも速くても――
銃口と、相手の腕と、それから辺りの空気から、その軌道は完璧に読めるのだ。
- 749 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:14:58.235 ID:pVacs5r60
- わたしの背後にあった岩がハチの巣のように穴が開く。
彼らは、わたしの動きに追従するように銃弾を放つが――いずれも読み易い動き。
弾を充填するタイミングで、彼らを切り捨てる。
男
「う、うわァァァアッ!」
男
「まずい、このままだと全滅だ!あの魔女にやられちまう!」
――ただ、相手の動きを読んだだけ。これだけのことで、彼らは動揺し、恐慌状態に陥る。
あまりにも――醜い。わたしは、その表情すらも見たくない。
首や胴や腕や足――手当たり次第に斬り殺し、そこに居た男たち――【嵐】は、全て屍と化した。
ユリガミ
「片付いた――」
この戦いは、791とフチの救いになるだろうか。崩壊が願いだったから、これでは足りないかもしれない。
- 750 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:15:36.453 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「…………」
わたしの心は――氷のように冷え切り、何も感じていなかった。
数十人殺しても、何とも思わない。――あの子を斬った時は、あれほど悲しかったのに。
【勾玉】は、白いまま首元で揺れていた。
わたしは心が凍りついているのか――それとも、あの子には、特別な思い入れがあったのか。
一瞬、わたしの中に疑問が芽生えたが、すぐにそれは押し殺した。
ユリガミ
「――どちらでも、いい
わたしがやるべきことは、真実を見つけること」
そう。悩むことは必要だけど、主体を見失つてはいけない。
今のわたしに重要なことは、それなのだ。
それさえわかっていれば、大丈夫。わたしはその場所へ向かう必要があるのだから――。
- 751 名前:SNO:2020/12/12(土) 13:15:47.173 ID:pVacs5r60
- やっぱり強い!
- 752 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 18:42:08.547 ID:7nRg7TfQo
- 魔女って響きがキーワードぽいな。
- 753 名前:Route:C-8:2020/12/12(土) 19:28:59.955 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter8
- 754 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:33:29.840 ID:pVacs5r60
- ――――――。
わたしは、どこかの建物から出てきたところだった。
目の前にはたくさんの群衆……まるで、出迎えられているかのような感覚。
群衆
「おおおっ!黒い髪に、巫女装束に、太刀を携えている――
あれは間違いなくユリガミサマだ!」
群衆
「うおおおーー!」
――彼らや彼女らも敵?いいや、違う。敵ならもう少し敵意でも見せるはず……。
敵意を隠せる達人の可能性もあるけれど――そんな達人が、そういるものか。
それに――人々の顔は、とても疲弊しているし、子供や老人も居る。
包帯を巻いていたり、松葉杖をついていたり――ゴホゴホと咳き込む者もいる。
それすらも、演技――の可能性はあるけれども……。
群衆
「ユリガミサマ――ユリガミサマ――っ」
懇願するような人々の声。助けを攻ざわめきがこだまする。
それを聞くと、わたしの名前は――ユリガミのなのだ――と、改めて思えてくる。
それに、敵ならばわたしのことを魔女と呼ぶだろう。
そして決して覆すことのできない審判を下し……抹消にかかるだろうから。
- 755 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:35:09.144 ID:pVacs5r60
- 少年
「ぼくのパパ、【嵐】の化け物に殺されて……」
少女
「今、【嵐】が世界を滅茶苦茶にしてるの!助けて!おねえちゃ――じゃない、ユリガミサマ」
老人
「ワシの孫が、【嵐】のテロ行為に巻き込まれて……意識が今も戻らん」
……わたしは、人々に願いを託されていた。
そういえば――わたしは、791とフチから願いを託されていた。ユリガミは、人々の願いを叶える存在として認識されている?
???
「皆さん――落ち着いてください」
わたしに詰め寄るたくさんの人々は、ひとりの女性の凛とした声を聞いて、さっとわたしから距離を取った。
彼女が歩く道を、人々が作っていく。まるで海を割った奇跡のように。
ヤミ
「こんばんは、ユリガミサマ」
丁寧にあいさつした女性は、ヤミだった。
天狗装束とは違い、黒いメイド服に身を包んでいる。
それでも、彼女のその丁寧な立ち振る舞いは変わらない。
- 756 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:40:29.361 ID:pVacs5r60
- ヤミ
「ようやく、貴女を見つけることができましたね」
ヤミは、わたしの全身をちらと見やりながら、嬉しそうに頷いた。
ヤミ
「さて、貴女に伝えたいことがあります――
それは、【嵐】は今、世界中の人々を傷つけているということです
世界の中枢たる【会議所】では、【大戦】を一時休戦とし、被害を受けた人々の救済にまわっている状況です……」
真剣な表情で、わたしに語るヤミ。
【嵐】に苦しむ人々。自然現象よりも恐ろしい、人の悪意によって苦しむ人々……。
その語りは、屋敷で出会った時とは雰囲気が違う。恐らくは――人々の代表としてここにいるから。
ヤミ
「そして――わたくしは――この場の代表として――
貴女に願いを託したい――」
ヤミ
「今の貴女にとって、重荷になることは重々承知しています――
それでも、【嵐】に苦しむ人の救済を――どうか手伝ってほしいのです」
申し訳なさそうに深く礼をするヤミ……その背には、人々の様々な思いが込められていることに間違いはない。
- 757 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:42:10.641 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「わかったわ――貴女たちの願いを、聞き入れましょう――」
わたしは、【勾玉】を握りながら、はっきりと答えた。
それは、ヤミと――その背に居る人々の願いを聞き入れることが、ある種の救いになるから。
ユリガミ
(わたしは――【嵐】と戦わなければならないから……)
そして――もう一つ。791とフチが、わたしに願ったから。
彼女たちの願いを、他者も持っている――それほどまでに、【嵐】はこの現世に根深く蔓延っているらしい。
ヤミ
「ありがとうございます」
群衆
「うおおおーーっ!ユリガミサマ、ありがとうございます!ありがとうございます――」
ヤミの丁寧な礼の後、群衆は歓声で賑わっていた。
その様子を、わたしは――どこか、他人事のように見ていた。
- 758 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:46:23.146 ID:pVacs5r60
- ――その時、ヤミがわたしだけに聞こえる声で、言葉を続けた。
ヤミ
「貴女だけでは手に余ることは――わたくしが受け持ちます」
一体何のことだろうか。思い当たる節はない。
あるいは――これもまた、失った記憶の中に理由があるのかもしれない。
ユリガミ
「――ええ、ありがとう」
……それでも、わたしは頷いた。ヤミからかつて聞いた言葉を思い返しながら。
ヤミ
「此の場所は、わたくしが必ず護ります――貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」
ヤミは、わたしに対して少なからず、何らかの関係があったことは確かだ。
だからこそ……今もこうして、こっそりと言葉を告げたのだろう。
- 759 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:51:36.388 ID:pVacs5r60
- ヤミはわたしのことを知っている節があるから、わたしを頼るのも頷ける……。
けれども――人々もまた、わたしに願いを託した。
ユリガミとは、その名の通り、女神として――あるいは女神の使いとして動く存在なのだろうか。
苦しむ人々の為に奔走する……それは、目的を果たすためには必要な過程だから、ヤミと人々の願いを引き受けたことに問題はない。
……今も、こうやって、わたしは【嵐】と戦う道を選んでいるから、【嵐】はわたしを魔女と呼称しているのだろうか。
それでも――わたしの記憶は未だ不完全だ。
――わたしは、善の存在なのか?
善ととるか、悪ととるか――それは第三者の観測にすぎない。
【会議所】や、苦しみに喘ぐ人々――あるいは、【嵐】のように、立場が変わればすべては異なるから。
わたしは――どうなの?
少なくとも、あの子をこの手にかけた。その理由はいまだに思い出せない。
わたしが善悪かを判断するために、真実に向かっているのだろうか?
いいや――違う。
あの子を殺したこと自体そのものが、既にわたしの枷なのだ。
その枷は、ずっと背負わなくてはいけない業。
だから――その業を背負う理由を知り、納得するために、わたしは前へ向かっているのだ。
――あの時死ぬことが出来なかったのは、納得していなかったからだろう。
だから、わたしは――。
- 760 名前:SNO:2020/12/12(土) 19:52:27.978 ID:pVacs5r60
- ますます女神っぽくなってきたぞ!
- 761 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 20:20:05.323 ID:7nRg7TfQo
- 作者のテンションあがってきてて笑う。
- 762 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 20:20:19.342 ID:7nRg7TfQo
- これがユリガミぱわー。
- 763 名前:Route:C-9:2020/12/12(土) 22:17:44.414 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter9
- 764 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:25:08.938 ID:pVacs5r60
- ――――――。
再び、景色が移り変わった。
わたしの身体にはひどい倦怠感……。
心と体を繋ぎ止める血――それが、ぴりぴりと泡立つ感覚が全身を脈打たせていた。
ユリガミ
「っ……」
そのひどい感覚に思わず、腕を掴もうとした。
けれども、上腕と掴もうとした腕が、肘を掴んでしまう。
手も震えている。……わたしは、心身が疲れているのだろうか。
何があったのだろう。
――人々から願いを託されてから、わたしは……。
ダメだ。思い出せない……
記憶は相変わらず修復されていない。
なら、わたしのすべきこと――それはあたりの状況の把握だ。
どうやら、ここは……路地裏らしい。
――途端、わたしは焦燥感に苛まれ、身体はどこかを目指して駆け始めた。
巫女装束がはためく。黒髪が揺れ、肩のあたりをぶらぶらと揺れる。
- 765 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:30:07.438 ID:pVacs5r60
- そして……わたしはある場所で立ち止まった。
そこでは――目の前で、白髪の天狗が男に追い詰められていた。
背中に白い翼を生やした、二つ結いの少女。
彼女は腰が抜け、行き止まりで固まっている。まな板の上の鯉のように……。
追い詰めているのは、髪の毛の薄い初老の男……その背中からは、欲望を隠さない薄汚い魂かにじみ出ていた。
―――わたしはなぜか二人に見覚えがあった。しかし……同時に、わたしの中には違和感があった。
何かが矛盾している……そう心が叫んでいるような気がする。
いったい、どうして――。
男
「へへへっ――僕から逃げようったって、そうはいかない
お前からはあの子のにおいがするから、先生が確かめてやるよぉ」
少女
「――っ」
俯いた少女の表情は絶望に染まり怯え切っていた。
男を拒んでいること一目瞭然だった……。
わたしは――この少女を守るために、この男を始末しなくてはいけない!
真実を追い求める前に、疑問に耽る前に……為すべきことがある!
ユリガミ
「待ちなさい――」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 766 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:32:38.723 ID:pVacs5r60
- 男
「……!
き、君は……!」
男は、わたしの顔を見て心の底から驚いていた。
――この男も、【嵐】なのだろうか……?相変わらず、魔女とでも思われているのだろうか。
男
「ふ、ふふふ……君に、前はまんまと食わされた……
しかし、今度こそ僕の超能力でオシオキしてやろう!
ぐへへへへっ……それから、その身体を……」
男の醜く歪んだ口元――それは欲望を抑えきれない、理性を持たない肉塊。
わたしに襲い掛かってきたあの化け物のような嫌悪感。
わたしの身体は、いらついていた。
どうしてこんな存在が世にはびこっているの……?どうして、生きているの?
吐き気を催す。反吐が出る。わたしは、あいつを――殺してやろう――。
そんな考えが――漆黒に染まった殺意がわたしの中で煮えていた。
それは心にも浸透し、わたしを殺意に染め上げてゆく。
- 767 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:37:16.450 ID:pVacs5r60
- 男
「喰らえっ!」
男は、懐中電灯を構えてわたしに向けた。それは武術を修めた事のない素人のそれ――だけど、嫌な予感があった。
それは直感的に覚えた感覚で、理に準ずるようなものではない。
しかし、わたしはその直感を信じて、後ろにかわした!
一瞬の閃光と、じゅっ――と焦げるような音。わたしの足元のアスファルトが、一瞬にしてドロドロに溶けた。
男
「くそう……不意打ちでもだめかぁああ」
男は、懐中電灯のスイッチを切り、腕ごとだらりと下に下げた。
ああ、そうか――とわたしはすぐに納得した。この男は光を操る力を持っている。
男
「くら――」
男が、再び懐中電灯をこちらに向け、スイッチを入れようとする。
それと同時に、わたしは、懐を探った。
そこには黒い髪の毛が巻き付いた針があった。
針の金属の色は見えない。黒い髪で覆われた闇に溶ける漆黒の針……。
男の攻撃してくる位置を予測しながら、わたしは漆黒の針を投げつけた。
- 768 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:40:56.354 ID:pVacs5r60
- 男
「くら――えっ!」
わたしは素早く光の束を回避した。
一方で、黒い針は、光の束に辺り……あっさりと蒸発した。
いいや……正確には……蒸発したのは針だけだ。
巻き付いた黒髪は溶けることなく……男の腕に、ぴとりとまとわりついた。
男
「あ――?グギャアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!」
その瞬間、男は苦しみ始め、獣のような声で絶叫しだした。
髪が張り付いたが部分とぐずぐずと溶け、消滅しはじめ……、引き剥がそうと掴んだ指も、同じようになっていた――。
- 769 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:42:41.602 ID:pVacs5r60
- 男
「いでぇぇえっ!い――」
その断末魔をこれ以上少女に聞かせる意味はない――わたしは、悶え苦しみ、蹲る男を蹴り飛ばした。
少女からできるだけ離すように――その姿すらも、目に入れさせないように……。
ユリガミ
「死ね――死んでしまえ―
お前のせいで――」
――呪詛の言葉が口からこぼれた。
それを抑え込もうとするわたしの心に反して、身体はそれを許さなかった。
おそらくは少女も聞いているだろうに……わたしの身体はどうしてもその言葉を吐き続けた。
――わたしは太刀の刃を振り下ろし、男の首を刎ねた。
ごろりと転がる、醜い肉塊……わたしは、その光景に――不思議と付き物が落ちたような感覚を覚えた気がした。
ただ、汚らわしい死体がある。わたしはそれに思いを馳せる事すらない――それよりも、やるべきことがある。
- 770 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:43:59.903 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「大丈夫――?」
太刀を収め、わたしは震える少女に声をかけた。
少女
「…………」
少女は、俯いて震えるばかり――。
ちらりと覗いたその赤い瞳は苺のように赤かった。まるで瑪瑙のように……あるいは血のように……。
――わたしの、抑えられない衝動がこうしてしまったのかもしれない。
それでも、わたしは震える少女に手を貸した。
少女は……涙で濡れた目で、わたしを見つめていた。
- 771 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:46:16.068 ID:pVacs5r60
- ……その顔は、やはり見覚えがあった。
どうしてだろう。
わたしにはその記憶はないが――彼女と一度出会ったことがあるのかもしれない。
少女
「うん……ありがとう……」
そして少女は震える声で、感謝の言葉を紡いだ。
その声色には、感謝と恐怖と困惑とが入り混じっているようにも思えた。
無理もない……少女にこんな残虐な光景を見せてしまったのだから……。
そして、わたしは……。
- 772 名前:SNO:2020/12/12(土) 22:47:48.427 ID:pVacs5r60
- 戦闘シーン無双しかしてなくね?
- 773 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 09:41:40.161 ID:jDanbwJEo
- たまには苦戦する姿も見たいものですね(バッド期待勢)
- 774 名前:ルート祖C-10:2020/12/13(日) 12:45:53.216 ID:fi9QPJ.M0
- Route:C
Chapter10
- 775 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:49:06.568 ID:fi9QPJ.M0
- ――――――。
わたしは、気が付くと――どこかの集落に居た。
……あの少女は何処に行ったのだろうか。
相変らず、過程の記憶がないからもどかしさを覚えつつも――前へと進んでいく。
住民たちは、ばらばらの種族で構成されていた。
ここは人や、オーガや、エルフや魔族……その垣根を越えた空間ということ?
――彼らあるいは彼女らは、身を寄せ合って震えている。それは、わたしに願いを託した人々のようにひどく打ちひしがれているようにも見える。
集落の中を見やると、たき火を囲む人々たちの服装は、いずれも綺麗ではなく、まるで着の身着のまま逃げてきたようだった。
入口の立札には、難民キャンプ 【会議所】管轄と書いてある。
――つまり、これは【嵐】によって傷付いた難民の避難所ということになる。
わたしは、ユリガミとして知られている。
だから、悟られないように――笠を被り、気配を殺しながら、難民キャンプの中をうろついた。
……もっとも、顔を隠したとしても、場に似合わない巫女装束のためか、
あるいは服装がきれいすぎるからか……わたしは奇異の目で見られていた。
――とはいえ、それを気にする必要もない。
わたしには、真実に向かうだけ。
女神として尊敬されようと、魔女として蔑まれようと……わたしは真実に辿り着くための道を進むだけ。
- 776 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:52:46.592 ID:fi9QPJ.M0
- ???
「炊き出しですよ、皆さん」
――聞き覚えのある声。その可愛らしい少女の声の主を確かめてみると……。
???
「焦らないで、順番通りに並んでください!」
先程の助けた少女が、張り切って炊き出しをしていた。
難民
「マイちゃん、いつもありがとう」
マイ
「はい、七彩さん……今日も一番乗りですね」
彼女は、マイ――と言う名前なのか。
気丈に、難民たちに食事を振る舞っている。
その名前にも、わたしの耳は聞き覚えがあった。
……どこで聞いたのか。あるいは……彼女を助けてから名前を聞いたのか……。
それでも献身的な振る舞いは、多くの人に好感をもたれるものだろう
――そうわたしは感じていた。
- 777 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:53:27.575 ID:fi9QPJ.M0
- わたしは、遠くでマイが炊き出しをする様子を眺めていた。そこにはどこか興味を惹かれるものがあった。
どうしてだろう。彼女が天狗だから……?
隻眼の女天狗――ヤミのことを思い起こすから、わたしは彼女を見ているの?
わたしは、炊き出しが終わるまで、マイを見ていた。
人々の体調や性格に応じた会話――その気遣いで、心因的なストレスを和らげている。
炊き出し後の片付け――も、マイは献身的に手伝っていた。
少し周りを気にしながら……男に追い回されたのだから、それも当然だろう。
それでも――彼女が今無事である。その事実に、わたしは少し安堵していた。
わたしが胸をなでおろしていると、何者かの気配があった。
その気配の方向を、横目で見る……すると……。
???
「君は……ユリガミで、いいんだな?」
後ろで髪を縛った白髪の女性が、訝し気にわたしを見ながら、訊ねていた。
- 778 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:59:25.600 ID:fi9QPJ.M0
- ――その背はわたしよりも高く、フチのように漆黒の眼球と青白い瞳をしている。
???
「私はシズ――よろしく頼む――」
わたしは、その姿を見て――彼女が名乗った記憶ほ思い出していた。
そうだ、彼女はシズ。腕利きの女鍛冶師。
ユリガミ
「ええ……」
そしてわたしは淡々と答える……。
シズはその様子を見て、納得したような表情で頷いた。
シズ
「あの娘は――このご時世で、自分にもできることはないかと言って、
炊き出しを手伝っているんだが……」
シズ
「最近、ストーカーに追い回されていて、不安でたまらないとのことだ
こうやって人がいっぱいいる場所でないと安心できない……と本人は言っていたが、
どの道、ストーカーが居る限り……リスキーなことには構わない」
シズ
「……君の邪魔になるかもしれない
だが、できればマイを助けてやってほしい」
ユリガミ
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 779 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 13:00:33.187 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「……構わないけれど」
――わたしはマイのことは分からない。
ただ、男に追い回される不幸な身の上――それぐらいしか、知っていることがない。
……本当にそうだろうか、いや、それ以外にわかることはないのだから、そうなのだろう。
……でも、本当に?
わたしは彼女を見たような気がする……しかしどこで……。
頭を抱えても、その理由は思い出すことできなかった。
シズ
「……大丈夫か?調子が悪いのかい?」
ユリガミ
「いえ、大丈夫――」
ふらついたわたしを抱き留めようとするシズを制し、わたしは手をかざした。
……そして、わたしは……。
- 780 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 13:02:12.299 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「……その願い、引き受けましょう」
願いを受け容れながら、わたしは【勾玉】を握りしめた。
――どうやら、これはわたしの癖らしい。それをすることが、願いを聞き入れる合図のようにも思える。
シズ
「感謝する――
できれば、君に無茶はしてほしくはないが――
可能な範囲で助けてやってほしい……」
深々と礼したあと、シズはその場を立ち去った――。
シズはわたしに関して何らかの信頼があるようだ。
――というより、ユリガミという存在だからこそ、
害悪から己を守るために、わたしに頼ったのかもしれない。
――マイを救うこと。それは真実には関係がないのかもしれない。
それでも、その行動はわたしの存在意義のようにも思え、
遠くで揺れるマイの髪……二つ結いの白髪は兎の耳のようにぱたぱたと触れて……。
- 781 名前:SNO:2020/12/13(日) 13:02:54.595 ID:fi9QPJ.M0
- 七彩さんが出てきた!やった!
なおカスケード主人公のうち半分ぐらいは出てない模様
- 782 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 19:08:13.910 ID:T3i7ldrEo
- だんだんと全容が少しずつ見えてきたかもしれない
- 783 名前:Route:C-11:2020/12/13(日) 20:20:32.605 ID:fi9QPJ.M0
- Route:C
Chapter11
- 784 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:21:30.393 ID:fi9QPJ.M0
- ――――――。
わたしは、戦火に巻き込まれて、ぼろぼろの街を歩いていた。
マイ――彼女は、此処にはいない。
え?わたしは、彼女を見捨ててしまった――?
真実に向かう為なら――わたしは、少女を見捨ててしまっていいの?
ヤミ
「貴女は――心に決めた事は、たとえ何があろうともやり遂げる――そういう人です
それが地獄の門だったとしても――貴女は、為すべきことのためならば、死すらも厭わないのですから
その意思の強さが、貴女の【力】の原動力でもあるのだから――」
――ヤミに、こんなことを、言われたような気がする。
それでも、災禍に巻き込まれた少女たちを見捨てるのはおかしいだろう。
少なくとも――わたしは【嵐】を撃退し、マイを守るべきだ。
願いを託されて、それを見捨てて真実に向かう――そんな虫のよい話はないから。
- 785 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:23:21.283 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「マイは――どこに――」
頭を押さえながら、わたしは考える……。
過程を失った記憶。思い出そうとすると、きりきりと痛み出す記憶――。
――やはり、思い出せない。
それでも……一瞬だけ、わたしの脳裏に景色が広がった。
それはヤミと会話した屋敷だった。あの場所に――マイは居るの?
しかし……思い浮かんだのは……マイではなく、あの子の姿だった。
???
「じゃーんっ♪」
???
「おねえちゃん、ほら、うさぎさんだよっ」
あの子は、本の中から兎を呼び出し、はしゃいでいた。
それは屏風の中の虎も呼び出さんとばかりの奇跡だ。
ユリガミ
「ふふっ、すごいすごい」
わたしは、手を叩いて無邪気に褒めていた。
ヤミも、後ろで微笑んだ表情を見せて――
記憶が、少し修復されているのか……それが呼び水となったのか、わたしの頭の痛みは覚めつつあり、
思考が急速にまとまりはじめ――ひとつの仮定へと思い至った。
- 786 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:25:45.595 ID:fi9QPJ.M0
- 屋敷でヤミと話した時、彼女は、襖の奥に目配せていた。
そこに、マイが居るとすれば――
ヤミ
「此処は、わたくしが護ります――
貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」
その発言にも、納得がいく。ヤミの発言の真意は、マイを守る意思の表明――。
ユリガミ
「ちょっと待って――おかしい」
しかし、その考えには重大な問題点があることに気が付く。
時系列がおかしい……。そもそも、苺が狙われているのは、ヤミと会話したあとでの話だ。
仮にマイが屋敷に居るのなら、どうして男に狙われる可能性のある炊き出しに出ていたの?
荒れ狂う時代で生活するため、仕方なく――とも思ったけれど、それにしても納得がいかなかった。
- 787 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:26:54.040 ID:fi9QPJ.M0
- あの屋敷は――集落からは遠かったはず。
屋敷は、外界から離れた場所。安全性の面で言えば、屋敷の方が上だ。
どくん……。
心臓が、脈打ちだした。
わたしは、重大な見落としをしているのではないか?
抜け落ちた記憶の断片――そこには思い出すべき核心が含まれていないのではないか?
急激に不安に包まれるわたしの心――まるで、快晴だった天気が一瞬にして雨雲に包まれたように……。
どくん、どくん、どくん、どくん。
早鐘を突くように心臓が脈打つ。不安が心を塗りつぶそうとする。
そして――わたしの目に映る景色はぼやけはじめて……。
- 788 名前:SNO:2020/12/13(日) 20:27:18.227 ID:fi9QPJ.M0
- あとすこしで791レス越えますね…
- 789 名前:Route:C-12:2020/12/13(日) 21:32:54.551 ID:fi9QPJ.M0
- Route:C
Chapter12
- 790 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:34:48.003 ID:fi9QPJ.M0
- ――――――。
わたしは、どこかの廃屋に居た。
一体、ここはどこなの?此処が、真実に関係しているということなの?
???
「っ――」
困惑する私の横から、女性の息を呑む声が聞こえた。
この声には聞き覚えがある。
それは――
ヤミ
「【嵐】に……してやられたようですね――」
それは、ヤミだった。人々を代表して【嵐】の撃破を託した彼女……。
マイの居場所を知るかもしれない、彼女がそこに立っていた……。
- 791 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:39:03.289 ID:fi9QPJ.M0
- ヤミの足元には、一人の血まみれの男が倒れていた。
男はよく見れば様々な部位を義体化していたらしく、金属の破片とオイルも辺りに散らばっていた。
???
「マ、マサカ……君ガ、まさかとは思うガ、君ガユ、ユリガミ――サマなのカ?」
男が、わたしを見て驚愕した表情を見せた。
わたしが無言でうなずいてみせると、男はほっとしたような表情を見せた。
ヤミ
「社長――なぜ戯言を――」
困惑したヤミが後ろを振り向いて、わたしの存在に気が付いた。
ヤミ
「……貴女は」
彼女は、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに真剣な表情に切り替えた。
ヤミ
「………」
無言でわたしを見るヤミの目は、鋭い刃のようにわたしを射すくめたかと思うと、
足元で倒れている男……社長に目を向けていた。
- 792 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:41:59.772 ID:fi9QPJ.M0
- 社長
「ユリガミサマ――私はもウ……ダメダ
敵が近くにイる、敵――【嵐】ヲ倒してクレェ…」
社長と呼ばれた男は、もはや、虫の息で……最後の力を振り絞るようにわたしに告げた。
――【嵐】。彼がこんな状況になっているのも【嵐】が原因だというのか。
社長
「うぐッ……」
――願いの言葉を伝え終わったかと思うと、社長は事切れた。
ヤミ
「………」
ヤミは、複雑な表情でその最期を見下ろしていた。
いったい、彼女は何を思っているの?彼女の願いを、叶えらることができなかったが故の失望……?
しかし、敵がいると彼は言い残した。
なら――余計なことを考えるのは今ではない。
わたしにできることは――居るとされる、敵の撃破だ。
- 793 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:50:23.337 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「そこだっ――」
わたしは太刀を抜き、背後から感じる気配に斬り込んだ!
???
「ぐがッ!」
???
「ギャッ!」
男たちの断末魔。確かな肉と骨を断ち切る手ごたえ……。
???
「突然現れて、一体なんだってんだ……クソが……ァ……」
しかし……傷にまみれた身体で男たちは起き上がり、わたしを睨みつけながらそう吐き捨てた。
ヤミ
「……彼らは、消滅させない限りしつこく蘇る存在です
貴女なら……問題はないでしょう」
わたしが太刀を構える後ろで、ヤミは冷淡な声色で、まるで試しているかのようにわたしに告げた。
社長と呼ばれた男は――身体を義体化しているにも関わらず殺されたというのに……。
その冷たい言葉は、わたしへの失望のためなのかもしれない。
男
「シェッ!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
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