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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

339 名前:Route:A-14 encouragement:2020/09/27(日) 13:44:33.462 ID:x75UFPYM0
筍魂
「しかし、これで満足してはいけない
 もっと成長できる、さぁ修行だッ……もちろんフィンもな、互いに競い合うのもいい修行のスパイスだ」

そして筍魂は再びうさんくさい表情をしながら、パンと手を叩いた。

そして鍛錬……やることは、体幹を鍛えるというもので……これまでも何度かやっていたものでもあった。
ぶれずに綺麗な姿勢を保ち続ける……それはとても神経を使う鍛錬で、激しく動いていないのにもかかわらず精神的な消耗が激しい。

フィン
「…………っ」

乙海
「……ふっ、……ふっ」

オレとフィンの吐息が漏れる……苦悶にうめく声が…静かに部屋に響く……。

筍魂
「……」

その横で同じポーズをとる筍魂は、平然とした表情だった。

筍魂
「世界の流れに身を任せる技術を鍛えれば、これしきのことでも苦しみは覚えない
 だから今は真理を意識しながら耐え続けるんだ」

横から聞こえる筍魂の声を耳に、オレたちは座禅を続けた……。

340 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:48:32.800 ID:x75UFPYM0
――そして、どうにか鍛錬を終えたオレたちは、息を切らしながらマットを片付けた。

筍魂
「また明日な、乙海よ」

フィン
「はぁ……あんたに……追いついてやるから」

少し楽しそうな筍魂と、疲労で息を切らすフィンの言葉を聞きながら、
オレはふと思い立つことがあり、図書館へ行くことにした。

……嵐についてまだわかっていないことが多いからだ。

時刻は19:07――まだ図書館も開いている時間だ。
図書館には各国の出来事も取り揃えてある――すなわち――嵐のテロ行為を記録しているのではないか……?

そう思い、資料室の資料を漁りに来たのだ――。

乙海
「これは――兵士名簿?」


341 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:52:14.035 ID:x75UFPYM0
関係のないものだとはわかっているが……好奇心から、その表をざっと眺めた。
普段接している兵士の本名をオレは知らない……オレは本名のまま過ごしているが、彼らは違う。

黒砂糖 黒鮫蛟(ヘイ・ジャオジャオ)――
―――――。
集計班 滝本澄珠(たきもと すず)――
―――――。
¢    椎土鴒亜(しいど れあ)――
―――――。
―――――。
―――――。
無口   朔燕虎(シャオ・イェンフー)
―――――。

普段は知らない兵士の一面……思わず、以前談義していた無口の本名もちらりと見ていた。
しかし、よく考えれば……今オレはそれを見ている場合ではないだろう。
嵐について調べれなければいけないのだから……すぐに名簿を戻して、オレは目的の資料を探し始めた。

乙海
「これだ」

目的のディスクを取り出し、再生装置に入れた。
これは、きのこ軍居住区/たけのこ軍居住区の監視カメラの映像だ……。
嵐が居住区で暴れた日、オレは彼らの行動をすべて把握はしていない。ここで何かのヒントを掴めるかもしれない……。


342 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:57:41.059 ID:x75UFPYM0
4月27日の映像……嵐は、オレたちが見たのと同じような攻撃を兵士に加えている……
しかし本気で戦っているようにも見えない。まるでいつでも逃げられるかのような、そんな足どり……

5月4日、街を攻撃しながらも直ぐに逃げたのと重なる。
その日の映像も改めて見たが、オレが相対していない側も同じような光景があった。
……オレは何か作為的なものを感じ取った。

5月8日――その日はサラや親父も援軍として駆け付け嵐と闘った。
――そのさなか、雨が降っていた。……だが同時刻の居住区では雨が降っていない。どういうことだ……?

オレが悩んでいると、突然たけのこ軍居住区の映像が立て続けにぷつんと消えた。

乙海
「……ん?」

強烈な光とともに、映像は真っ暗になったのだ。オレはまぶしさに目を細めながら、その映像を再度見直した。
……白髪交じりの、髪の薄い、眼鏡をかけた中年の男……その男が懐中電灯をカメラに向けたかと思うと、
光線が破壊音とともにカメラを破壊していた。

乙海
「……なんだ、こいつは」

映像を一時停止し、その表情を見る。下劣で、何かを追いかけている様子だ……無線機で連絡も取りあっている。

しかし……巻き戻しても、その男の目的はわからない。オレにとっては謎が増えたばかりだ。
それどころか嵐の目的がさっぱり分からない。かろうじて陽動が狙いなのか、と匂わせるぐらいだ。
あるいはこうして悩ませること自体が目的なのか――。

オレが考え込んでいると、不意に後ろになにものかが居る感覚があった。


343 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:58:58.363 ID:x75UFPYM0
乙海
「――!?」

思わず、オレは振り向く。
そこには――顔を隠したサイドテールを揺らす白髪の人物が居た。

それは――筍魂や791が見ていた映像の人物……無口その人だった。

しかし無口はオレのことを気にすることもなく、その場を立ち去っていく。
身に纏う漆黒の衣装と、対照的な白髪が際立ち、その軌跡はわかりやすい。

乙海
「待て――」

無口は行方不明になった――とB`Zは言っていたのだ。
行方不明だから、死とイコールではないが……、なぜ、突然現れたんだ?

オレはすぐに無口の後を追いかけた。

344 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:05:04.031 ID:x75UFPYM0
無口は足音もなく、ただ階段を上り続けた。
オレはカンカンと足音を響かせながらその後を追いかける――しかし、どうしても追いつけない。

無口が部屋の一角に入った。チャンスとばかりに、オレはその部屋に駆け込んだ。

――そこには、虹色に輝く巨大な結晶があった。
手を伸ばしても届かない、天井まで届く高さと、部屋とほぼ同じ幅を誇る結晶が……。
これは……カキシード公国産の魔力結晶か……?

近くのパネルには封呪の聖晶糖と書いてある。
魔力結晶の塊を、カカオ産地で作成されたチョコレートでつなぎ合わせて巨大な結晶にした――との記述がある。

乙海
「なぜだ……どうして、誰もいないんだ」

オレはこの結晶に欺かれたのか?あるいは――無口の姿はオレの見た幻なのか……?
その結晶は魔力を流した柵で囲まれており、容易には近づけないようになっている。


345 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:07:48.513 ID:x75UFPYM0
オレはパネルに書かれた説明文を詳しく見た。
封呪の聖晶糖――ここに含まれる魔力によって図書館の書物の劣化を防ぐ調節を行っている
本が死ぬことを封じる呪文――確かに、この規模の建物ならこれほどの魔力が必要なのだろう……。

しかしオレはなぜかこの設備に違和感があった。根拠はないが……どうしても、何かが噛み合わないと思えた。
どうしてこんな重要な設備が誰にでも入れる部屋にあるのだ……?
柵での防御はあるが……この結晶が壊されない自信が故なのか……?

オレは封呪の聖晶糖をまじまじと見た。
――結晶の向こうに人影が見えた……。いや、それはオレの姿か――?

なにものかの気配を覚えるが、それが何なのかは分からない……とても奇妙な感覚だった。
……ふと、オレは後ろに誰かが居ることに気が付いた。

乙海
「っ!」

振り向くと――そこには、集計班が佇んでいた。


346 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:11:50.590 ID:x75UFPYM0
集計班
「乙海さん――この部屋でどうしたんですか――?」

訝し気にオレを見る集計班――。

乙海
「……実は……行方不明になった無口さんの姿を見たので」

オレは、正直にここに来た理由を説明した……荒唐無稽ではあるが、嘘をついても特にメリットがあるわけではないだろう。

集計班
「はぁ……」

集計班は、ため息を一つついてから考え込んだ。
トントンとこめかみのあたりを叩きながら、言葉を探しているようで――。

集計班
「行方不明になってる兵士が実は居る……死体は挙がっていないから可能性はありますが……
 幻を見た可能性の方が高そうですが」

乙海
「……」

集計班の極めて冷静な口調に、オレは何も答えられなかった。


347 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:13:43.985 ID:x75UFPYM0
集計班
「……まぁ、本当に無口さんその人が居るのかもしれませんが」

きょろきょろと部屋を見渡しながら、集計班は続けて告げた。

集計班
「私にはこの部屋に誰かの気配を感じ取ることはできないですねぇ……
 貴女は……今も感じ取ってますか?」

乙海
「……いいえ、オレも」

淡々と並べられる理知的な言葉の前に、オレは反論することができなかった。
事実、なにものかの気配は感じ取れないのだから。

集計班
「そうですか
 嵐の被害もこれから懸念されますし、貴女も早く休むほうがいいですよ
 それにこの部屋の結晶は図書館の本を守るために使われているので、長く滞在してほしくない――というのもありますし」

そう言うと、集計班は立ち去って行った。
――オレは、精神的に疲れていたのかもしれない……。
少しあの場所で気分転換をしてから帰宅することにした。

348 名前:Route:A-14 lunar mare:2020/09/27(日) 14:15:44.124 ID:x75UFPYM0
wiki図書館から出たオレが腕時計を見ると、針は22時30分を示していた……。
訳の分からないことが多い。この海岸で少し精神を癒そう……そう思いながら、海岸に足を踏み入れた。

オレは欠けきろうとしている月を見ながら大地を踏み出した。
ざっ、ざっと砂を歩く音が響く……乾いた砂の上にオレの足跡が残る……。

乙海
「……」

それは理由のない選択……ただ、そうしたいと漠然とした思いがあって選んだ行動……。
オレは、月に照らされた海岸を歩きながら、考え事をしていた……。

オレは波打ち際を見つめた。
人魚の少女と出会った場所は――夕焼けの景色ではなく、星空の下、広がっている。
恐らく……明日か明後日には、光を失った闇の月が浮かんでいることだろう。

349 名前:Route:A-14 lunar mare:2020/09/27(日) 14:16:22.229 ID:x75UFPYM0
ざくざくと濡れた砂を踏みしめる。
オレは……これからどうなるのだろうか?

嵐との戦いの中で、修行の成果とも言うべき活躍を為した。
筍魂も親父もそのことを称賛していたが……果たして、これがオレの目指す道だったのだろうか。

あるいは、突然に修行の成果が現れたために、その事実を完全に呑み込めていないだろうか……。

乙海
「…………」

揺れる波の音と潮の香りを感じる。
オレはその下で、考えていた。

乙海
「オレはまた強くなれるのだろうか」

それは波に消える小さい声だった。
……とんとん拍子に、オレは大戦――あるいは嵐への抵抗で活躍している。


350 名前:Route:A-14 lunar mare:2020/09/27(日) 14:17:53.416 ID:x75UFPYM0
武術の達人たる筍魂や、親父からもオレの活躍を称賛された……。
しかしそれが全てなのか……?
世界には陰陽が存在しているわけで、完全なプラスだけというわけではないだろう。

マイナス――それも存在するのではないか……?

夜の海はなにもかもを飲み込みそうな黒。オレは、ふと手元の時計を見やった――。

時計の針は、すでに23時58分を示していた。すなわち、1日の終わりも近づいているのだ。

乙海
「すぐに、帰らなければ……」

意識することなく、それほどの時間が経っていたのだ。
この海はオレにとっての思い出だからか……時間を忘れるほどに佇んでいたようだ。

オレは帰路につくために、踵を返した……。
ぐっ、と手を握ったり開いたりながら……。

それは鍛錬を意識してのものかもしれないし、ただの手癖かもしれない……。

そして……。

351 名前:SNO:2020/09/27(日) 14:18:07.756 ID:x75UFPYM0
謎が増える。

352 名前:きのこ軍:2020/09/27(日) 20:29:37.571 ID:GfS/g8hQo
嵐はたけのこ軍居住区で何かを探していた?

353 名前:Route:A-15:2020/09/27(日) 20:32:40.189 ID:x75UFPYM0
Route:A

                 2013/5/10(Fri)
                   月齢:0.1
                    Chapter15


354 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:37:30.028 ID:x75UFPYM0
???
「こんばんは――貴女は確か竹内乙海――、そういう名前でしたね?」

オレよりも背の高い――おそらくは、2mを優に超えるであろう――大男が、オレの前に立ちはだかっていた。

乙海
「!?」

???
「コンバット竹内――
 月……いいや、今は竹内幸鉢か――彼の娘であり……」

深いしわのある顔つき。頭髪をすべて剃り落とした僧のような風貌は、まるで暗闇に潜む妖怪のようにも思えた。
その巨大な体躯は、威圧感を強くオレに与えていた。

???
「なるほど、似ている――そして、彼らの血を引いているからこそ、あれほどの活躍を為せたというわけですね」

じろじろとオレを見る男の目は――漆黒の眼球と青白い瞳だった。
それは、父と同じ瞳。父のことを知っているような言い回しからすると――顔見知りと言える存在なのか?


355 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:40:02.903 ID:x75UFPYM0
覚眠
「ああ、自己紹介がまだでしたね――私は孟覚眠(モン・ジェイミン)――嵐のメンバーです」

飄々としながらも丁寧な口調。それでいてにっこりと笑う表情はとても不気味で……じわりと、汗が滲んだ。

乙海
「こんなところで、何の用だ……」

懐のディアナに手をかけながら、ゆっくりと聞く。
口の中がからからになるのを感じる……オレは緊張しているのに、向こうはその素振りすら見えない。

覚眠
「あなたを潰しに――あなたは会議所の有望な新人のようですからね
 射撃の腕に秀でた、戦闘術魂を覚えた新人――個人的にはそのまま成長するまで放っておいてもいいですが――
 【計画】に支障があるやもしれませんし」

笑いながら言い終えると、覚眠は構えを取った。その構えには見覚えがあった……。

乙海
「その構え、は……」

覚眠
「ああ、さすがに貴女なら一発で見破ると思ってましたが――私も戦闘術魂を修めているんですよ
 貴女の師――筍魂さんと同門なのでね……」

……そう、オレが鍛錬している武術そのものだったのだ。
しかも……その緊張のない仕草とは裏腹に、立ち振る舞いには、一切の隙がなかった。
その仕草が、筍魂と丸被りするのは、なんて忌々しい因縁なんだ……。

356 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:40:46.501 ID:x75UFPYM0
覚眠
「実力も――まぁ、あなたの師匠と同じぐらいじゃないんですか?」

余裕綽々と答える態度からは、はったりのようなものは感じ取れなかった。
というよりは、銃を持っている相手にこの態度でいられることそのものが……男の――覚眠の実力なのか?

乙海
「筍魂と……それから、父を知っているのか?」

オレは、どうにかこの男からいろいろなことを聞き出せないか――と思っていた。
覚眠は、確実に強い――だが少しでも時間を稼げば……活路が見いだせるかもしれないと思っていたからだ。

覚眠
「ええ――筍魂さんは素晴らしい実力者ですよ?まぁ……その大本の道場は私が壊滅させましたがね」

クックックと笑う覚眠――それは悪魔のようにも思える。
闇に浮かぶその声の不気味さに、オレの体温が下がるような感覚がある。

乙海
「かい、めつ……?」

覚眠
「ああ、戦闘術魂って今や弟子も少ないとか言われてますね?あれは私が原因なんですよ」

オレの、絞り出すような言葉に、覚眠はよどみなくすらすらと答えた。


357 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:42:01.837 ID:x75UFPYM0
覚眠
「それから、あなたのお父上ですが……なに、昔すこし顔を合わせてただけです
 まぁ……ルミナス・マネイジメントに在籍しているのは予想通りですが、
 ご結婚なさるのは予想外でした」

感慨深げにそう言い切ると、覚眠はぐっとこぶしに力を込めた。

覚眠
「さぁ……来なさい
 私は貴女を撃退させてもらいますよ――」

そして、一瞬で真剣な表情に切り替えた。それは殺し屋の目だった。
つい最近に相対した嵐のメンバーとか違う、意思を込めた目。

358 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:43:56.702 ID:x75UFPYM0
乙海
「くっ……」

オレの問いの答えは返り、疑問は解けても……この男から逃げる手段は思いつかなかった。
その飄々とした立ち振る舞いからは対照的に……隙が一切存在しなかったのだ。

オレは、ディアナの引き金に指をかけながら覚眠の様子を伺う。

覚眠
「ああ、そうそう――私は動きませんよ?それぐらい常套手段ですよ」

……しかし、覚眠は構えたまま一切の動きを見せなかった。

乙海
「…………」

引き金を引こうとしても――覚眠に当たるビジョンが見えない。
それは戦闘術魂の鍛錬を経て、オレは相手の動きをある程度予測できるようになったはずだが……。

だが――。
覚眠の動きは、何も見えない……。心の眼をもってしても……。
どう照準を合わせても……弾丸を回避される、そんな未来しか思い浮かばないのだ。


359 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:46:23.793 ID:x75UFPYM0
覚眠
「……やたらめったらと突っかからないだけ、やはり才能があるようだ
 女性でここまでの原石を持つものだから、実に惜しいが――まぁ、仕方がないでしょう」

そう言うと、覚眠の方から突っ込んできた。

覚眠
「戦闘術魂――叩き落とす」

神速の突き……そのモーションは、目で追えないほど速く……オレは、引き金を引くことなくディアナを弾き飛ばされていた。

乙海
「はっ……!」

スローモーションがかかったかのように――ディアナが手から落ちる。
濡れた砂に突き刺さるように、ディアナが地面に落ちた。
気が付くと、覚眠は元居た場所に戻り……また、構え直して待機していた。

覚眠
「――しかし、あなたはまだ未熟です
 さらに鍛えれば、この打撃も回避できたでしょうが……」

残念そうに、オレを見る覚眠……オレは、その動きを全く読めていなかった。
得物を失ったオレは、覚眠と同じ素手……ライフルは、今持っていない……。

覚眠
「戦闘術魂を学んでいるなら、ここから抵抗してみてください」

そして、再び覚眠はオレに飛び掛かってきた!


360 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:49:24.813 ID:x75UFPYM0
乙海
「ぐっ!」

覚眠のストレートをどうにかかわす。しかし、それもどうにかという程度。
さらに覚眠の蹴りが飛んできて、オレは思いっきり太ももを蹴られながら吹っ飛ばされてしまった。

乙海
「がはぁっ!」

思いっきり地面に叩きつけられる……地面が柔らかい砂浜だからか、衝撃がいくらか散ったのが幸いだった。
それでも……じんじんと足が痛み、立ち上がることができそうにない。

覚眠
「まだ未熟ですが突きの受け方もいい
 ――女性で強い武術家はもっと生まれてほしいんですよね」

嬉しそうにオレを見下す覚眠――悪魔の微笑みにしか見えない。
だがその口から紡がれるその言葉からは嘘を感じ取れない……本心で言っているようにも思える。

乙海
「どういう……ことだ……」

覚眠
「誰がどうしようとしても――たった一人の天使の存在で世界の在り方は確定している
 この世を制するのは女性なんです……貴女のような人がもっと増えてくれば、私としては面白い限りですからね」

……嵐のメンバー、ということはそれが嵐の目的に関わるのか?
――しかし、オレの疑問は言葉にはならなかった。覚眠に気圧されて、それすらも発せられなかったのだ。


361 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:54:55.938 ID:x75UFPYM0
覚眠
「しかし、惜しむらくは……【計画】の妨げになるという可能性だけで行動しないといけないことですねぇ」

相変わらず、底の見えない素振りで矛盾したようなことを呟く覚眠。
計画とはなんだ……オレの頭の中は混乱によってぐちゃぐちゃになる……。

覚眠
「仕方がない――戦闘不能になってもらいましょう――
 戦闘術魂――エアスラッシュ」

――不可視の攻撃が放たれた。
空気を切り裂く音と、僅かに歪んだ光でオレはその正体に気が付いたが――。

乙海
「―――」

その正体――空気の刃を回避することはできなかった。

乙海
「ぐぁあああああああっ!」

ひどい痛みに、オレは思わず叫んでいた。
両腕の血管が切れ、ダラダラと鮮血を流していた。
オレの着ていた黒い上着は、赤で染まり――不気味なコントラストを描いていた。

どうやら、刃は下腹部で止まったらしいが……、内臓まで傷は届いたらしく外から中から燃えるような痛みがオレを襲っていた。

362 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:58:29.684 ID:x75UFPYM0
乙海
「――っ……ぐ……が……」

そして……視界が濁った。
力が抜ける。耐えようとしても、焼けつく痛みとずっしりとした重みに身体が全く動いてくれない。

筍魂
「何をやっている!」

ふと……遠くで……筍魂の声が聞こえたような気がした。
しかしオレには、もはやそれが現実かどうかもわからなかった……。

覚眠
「おや――久しぶりですね――
 ここでは筍魂さんと呼んだほうがよかったですかね?」

筍魂
「名前なんてどうだっていい、なんでお前がここにいるッ!」

怒気を孕んだその声は、今まで聞いたことのない筍魂の感情の発露だった。
オレを――助けに来たのか――?

覚眠
「―なるほど、あなたからの技は、――していた――――――……
 面白い……あなたが―――――を願いましょ―…」

瞬間、覚眠がオレの首根っこを掴んだかと思うと、勢いよく海に投げ飛ばされた。
オレは抵抗することもできずに、まるで赤子の手を捻るかのように、為すがまま海に叩きつけられた。
血しぶきが空に軌跡を描くのを他人事のように見ながら……オレは、水面に浮かぶことなく……もがくことなく、沈んだ。

363 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:02:08.522 ID:x75UFPYM0
筍魂
「お前は――――か……」

覚眠
「ええ――」

筍魂
「――」

覚眠
「―」

遠くで、筍魂と覚眠の声が聞こえるが……それもはっきりとは聞き取れない。
あるのは、切り裂かれた痛みと……奴に敗北したという事実……。

乙海
(っ……ぐっ……)

声にならない声。何かを発しようとするたびにあぶくだけがごぼりと漏れ、海水がオレの中に入る。

その時、敗北の悔しさを、オレは初めて覚えていた。
大戦では味わったことのない感覚――そこで、オレは改めて気が付く。

オレは集団ではなく個人としての勝利を求めていたことに……。



364 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:04:18.133 ID:x75UFPYM0
もはや水面の様子も分からない。
筍魂と覚眠――二人のその後は勿論、これからの世界の流れも……。

オレは、今置かれている様子を現実味のない光景だと感じ取りながら……黒い闇に沈んでいく……。
まるで、第三者が俯瞰するような、不思議な感覚だった。

闇の中にオレは沈む……。
オレが瞑想した時に見た世界とは違う、真っ暗闇……光が一筋もない世界……。

はるか天空には星の明かりが瞬いているが……オレはそれを掴むことはできない。
オレは個と化していた。世界の構成要素のひとつに……。

ごぼごぼとあぶくが空に浮かぶ……対するオレは、重力に引っ張られ底へ沈む……。

なにかを掴もうとする腕は水中をするりとすり抜けるだけ……紅の煙がオレから漏れ、空に昇る……。

乙海
「――――」

声を上げようとしても、やはり音にならず……代わりにあぶくとなって空へと消える。
オレは、抵抗もすることなく……その底へと沈んでゆく。


365 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:05:23.517 ID:x75UFPYM0
闇へ、オレは飲まれる。
もはや――オレは闇そのものになろうとしている。

18年生きたオレという存在は――心と体は、魂魄は虚無に還ろうとしていた。

その意識でオレが見たもの――それは夢だった。
幼い日の思い出。人魚の少女との出会い……。

彼女は足を怪我していた。それをオレが手当てして……。
そして彼女はオレに感謝の言葉を伝えて海へと還った。

……その出来事をどうしてこのタイミングで思い出すのだろうか。
それは走馬灯、なのかもしれないとオレは思った。


366 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:08:16.270 ID:x75UFPYM0
ごぼりと泡が空に浮かんでゆく。それは掴むこともできがに空へと昇ってゆく。
狼煙のように……泡は希薄になって天へ……一方で、オレは底まで堕ちてゆく……。

オレはぎゅっと瞼を下ろし目を瞑った。
それは痛みから逃れるためなのかもしれないし、あるいは闇を理解しようとするための行動かもしれない……。

少なくとも……オレの視界は暗黒に染まった。
痛みでチカチカと光る何かがその暗黒にあったが、オレはきつく瞼を閉じた。

……オレが視界を開けることはなかった。
次第に、オレの中には水がゴボゴボと入り始める。
それらは口に、鼻に、肺に、消化器に……原始の溶液が染み渡るのだろう。
やがてオレは……水の一部に……海の一部に……溶けて散るのだろう。

視界の果てに、何かがはためいた気がするが……オレはもはや溶け切って……。

367 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:09:28.942 ID:x75UFPYM0
……海水に溶けあい希薄になるオレの意識は、ひとつの事象を思い返していた。

それは、幼い日の思い出。
砂浜で出会った少女との、たった一日限りの――それでいて、決して忘れることのない思い出。

乙海
「……!?」

オレは、何者かの気配を覚えていた……。
瞼を触れる指の感覚。その指に瞼が持ち上げられ、目を見開かされた。

すると暗黒の海中の世界に、何者かがいた。
オレは、その光景に……呆然としていた。

乙海
(きみ……は……)

――オレの思い出は……記憶の風景は……今、オレの目の前にあったのだ。

人魚
(…………)

エメラルド・グリーンの瞳。マリンブルーの髪。
あの頃よりも成長して女性らしくなっているが……その姿かたちは間違いなく、あの時の少女と同一だった。
彼女は、そこにゆらゆらと佇んでいたのだ。

368 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:11:50.157 ID:x75UFPYM0
着物をゆらゆらと揺らせながら、彼女は心配そうにオレを見つめていた……。
オレらのように呼吸に悩む必要なく、まるで自分のフィールドのように海を漂っている。

ああ――彼女は確かに、人魚なのだ。オレは希薄な意識でそう思っていた。

人魚
(…………)

そして、彼女はオレの身体を、ぎゅっと抱きかかえた。
まるで、母が子を抱き上げるかのように……それは神秘的な行動でもあった……。

オレよりも身長は低いが、水中ならそれも関係はないだろう。
……冷静に思考できている。どうしてだろうか。彼女がここに現れたからだろうか?

人魚
(私は――弘原海細波(わだつみさざなみ)――)

あの時とは違い――彼女は口を動かした。
同時に、聴いたことのない彼女の声が、オレの中に響き渡っていた。

それはとても透き通る可愛らしい声で――それにより、オレは彼女の名前を――細波であることを知った。

369 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:12:32.213 ID:x75UFPYM0
細波
(だい、じょうぶ?)

彼女の問いにいいや、違う――という意思を込めてオレは首を振った。
今もオレの身体からは血が止まらない……痛みも周りにまとわりついている。

細波
(……今から、地上に上がってもあなたを助けられない)

細波
(でも――私たちの住処ならば、あなたを助けられるかもしれない)

オレは彼女の言葉に頷いた。
……もう、オレにとっては生も死も、どうでもよかった。

オレにとって、敗北という概念すらも必要ではなかった。
今のオレは……彼女に出会えたという奇跡だけで満足だった。


370 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:13:06.429 ID:x75UFPYM0
細波
(!)

オレの答えに、彼女は驚き――そして、口元を緩ませた。

細波
(よかった――あなたと出会えたのに、このまま死に別れにならなくて)

乙海
(……)

オレは、歯を食いしばりながら無理に笑ってみせた。

細波
(大丈夫――必ず、送り届けるから――今は、休んでいて――)

どこに……?
それは黄泉の世界なのか、あるいは……。

いや、もうそれを考えるのはいい。

……彼女の言葉に、オレは目を閉じた。もはや沈むことに抵抗はない。
どこどこまでも、オレは彼女に導かれていこう……そう思っていた。


371 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:14:15.927 ID:x75UFPYM0
ごぼりというあぶくの音が耳に響いた。
これは死が近づく身体が見せた幻覚なのか、あるいは――現実なのか。
もはや、それすらもオレにとってはどうでもよかつた。

希望。オレが初めて知った世界の概念。
――戦闘術魂からこの世の真理の一つを垣間見てから、改めて希望を五感すべてで実感した。

陰陽入り混じる世界の中で――敗北という陰から、再開という陽へと……
移ろう流れを、肌で感じ取ることができたのだ。

だから――オレは――。
目を瞑って、沈む感覚だけに集中しながら……海底へと、深淵へと向かった……。

372 名前:Route:A Ending:2020/09/27(日) 21:26:47.657 ID:x75UFPYM0
――Revealed the chariot card.

But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.

          ―――Route:A Fin.


373 名前:SNO:2020/09/27(日) 21:27:20.674 ID:x75UFPYM0
ようやく1ルートが終わった

374 名前:きのこ軍:2020/09/27(日) 21:45:06.336 ID:GfS/g8hQo
最後急展開ですごいおもしろかった。
描写表現すごくよきですね。
2ルート目以降も期待。

375 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/10/04(日) 22:56:34.864 ID:5RIE3OKQ0

The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
                                            ――Genesis 6:13

376 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/10/04(日) 22:57:39.794 ID:5RIE3OKQ0
月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。

純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。

……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。

いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。

世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。

絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。

まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。

……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

377 名前:Route:B:2020/10/04(日) 23:00:19.390 ID:5RIE3OKQ0
――絶望を胸に地に伏す小柄な少女だった。

378 名前:Route:B:2020/10/04(日) 23:00:48.553 ID:5RIE3OKQ0
Route:B


                   Chapter0

379 名前:Route:B-0 コンシールメント:2020/10/04(日) 23:02:49.914 ID:5RIE3OKQ0
……わたしは、夢を見ていた。

それは、幼い日の出来事だった。
世の中が綺麗だと信じ切っていた純粋な時期の――忘れようとしても忘れられない、トラウマ。

???
「ひっく、ひっく……」

???
「泣いてても終わらないぞぉ?さぁ、さっさと先生の言う事を聞くんだ……」

嗚咽を漏らすわたしに対するあいつの表情は、まるで死体に集る蛆虫のように醜く……
その奥から漏れ出る腐臭を纏った肉欲を隠さんともしない目が、眼鏡の奥で鈍く光っていた。


380 名前:Route:B-0 コンシールメント:2020/10/04(日) 23:04:38.939 ID:5RIE3OKQ0
がしりと、あいつに肩を掴まれた。
大人の大きな掌に支配されること。それは、世界を知らない子供にとっては恐怖そのものでしかない。
その時のわたしは、逃げ場もないところに追い詰められていたのだから、猶更。

ふたり以外は、誰もいない人気のない部屋。
窓から射す夕陽は、わたしの身も心を焦がし、焼き尽くさんとばかりに、強く強く室内を照らしていた。
対照的に、わたしの表情は、鉛のように重々しく――わたしの心は、深海の底の底よりも暗く――。

あいつの、大きな手がわたしの身体をなぞった。
恐怖。一秒が無限のように思える、地獄。

成長し、世の中の汚さを知るたび、この絶望を思い出し、心がぐちゃぐちゃになる。

所詮、この世の中は、どれだけ上っ面で取り繕うとも、心の奥底に在る汚らしい本能が恐ろしいのだから。


381 名前:Route:B-0 コンシールメント:2020/10/04(日) 23:05:30.817 ID:5RIE3OKQ0
わたしは、子供心に……まだ何もかもを認識するには未熟でも、
【その事実】を知ったのだ。そう―――――


              希 望 な ど 存 在 し な い ま や か し な の だ と 。



382 名前:たけのこ軍:2020/10/04(日) 23:05:52.662 ID:5RIE3OKQ0
Route:B始動しました

383 名前:きのこ軍:2020/10/04(日) 23:08:26.277 ID:m5ISCwiAo
今回は闇深そう

384 名前:Route:B-1:2020/10/10(土) 20:46:36.114 ID:UGEA0.t.0
Route:B

                 2013/4/1(Mon)
                   月齢:20.3
                    Chapter1

385 名前:Route:B-1:2020/10/10(土) 20:47:59.930 ID:UGEA0.t.0
――――――。

???
「――っ!」

わたしは、全身をぐっしょりと汗で濡らして目覚めた。
カーテン越しに、月明かりが部屋を照らしている。

……快適な目覚めでないことは明らかだ。

???
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

まるで全力疾走でもしたかのような息切れと、激しい動悸が身体を駆け巡る。
脈打つ心拍の音を聴きながら、首筋の血管に指を当てながら、落ち着こうと深く溜め息をついた。

???
「ふぅ…………」

少しずつ、それらは治まっていく。
それでも胸のあたりにつかえる気持ち悪さは変わりない……。


386 名前:Route:B-1 クリンジ:2020/10/10(土) 20:49:49.709 ID:UGEA0.t.0
???
「また、あの夢……吐きそう……」

震える身体をぎゅっと抱きしめながら、わたしは右手で口元を押さえて、ふらふらと脱衣所に向かって歩き出した。
鏡に映ったのは亡者のように青白い顔と、光を失ったうねる黒い髪と、丸い黒い瞳。
……生気のない、人形のような顔がそこにあった。

???
「うっ……げほ、げほ、げほっ……」

わたしは涙を流しながら嘔吐した。喉に走る熱い痛みも、鼻の中をつんと響く感覚もそのままに、ただ吐き続けた。
――記憶にこびりついた悪夢を、押し流すように……。

???
「………ぅ、気持ち悪い……」

胃の中のものを全てぶちまけて、わたしはようやく全身が汗だくなことを思い出す。

わたし
(服も全部着替えたい……でも、着替えを取りに行かなくちゃ……
 ああ、面倒、シャワーを浴びてから取りに行けばいいか……)

乱雑に服を脱ぎ捨て、わたしはよろよろとした足取りでシャワーを浴び始めた。
身体にへばりついた汗は、まるで悪夢が残っているかのようで、わたしは丹念に身体を洗っていた。
やがて、自分自身の胸を掴むと…少し、自己嫌悪に陥った。


387 名前:Route:B-1 クリンジ:2020/10/10(土) 20:51:12.474 ID:UGEA0.t.0
???
「なんで、こんなに大きくなったんだろう」

片手では包み切れないほどに育った胸は、魅力的な女性となった証と言えるかもしれない。
それでも、鏡に映ったわたしの表情は、苦虫を噛み潰したかのようで、なんとも痛々しい。
胸が大きい……そのことに、わたしは深い嫌悪感を覚えていたから。

???
「…………もう、考えるのはよそう」

わたしは、身体に残ったシャワーの雫をバスタオルで拭い、
生まれたままの姿でふらふらと自室に戻ると、手首をすっぽり覆う長袖のパーカーに身を包んだ。
それは、何もかもから自分を覆い隠したい……わたしのそういった心理を反映したような衣装でもあった。

???
「目が冴えちゃったな…………」

時計を見ると、時刻は午前4時……ベッドに身を投げ出しても、もう眠気は飛んでいた。
……仕方なく、近くのランプをつけて、本を読みふける事にした。

388 名前:Route:B-1 ダイアンサス:2020/10/10(土) 20:52:56.100 ID:UGEA0.t.0
本……それは小説ではなく、専門書だった。
工業技術――魔力技術――読む者によっては、読んでいるだけで眠気を催すかもしれないようなもの。
でも、わたしには――とても、楽しめるものだった。

人々の叡智が集まって構築された世界。それは、浪漫があった。
今、読んでいるのは【トニトルス・フェラム】という企業の開発した義肢について。
手足を失った者が、外見あるいは機能を補うために開発された技術。

生命の海――胎内で構築される手足を、胎外で作る。
なにものかの意思により構築された生物学的な現象を、別視点から生み出そうとする。
それは、とても難解で同時に神秘的に思えた。


389 名前:Route:B-1 ダイアンサス:2020/10/10(土) 20:53:43.367 ID:UGEA0.t.0
当然ながら、企業秘密の部分は分からない。
それでも、公表されている概要だけでも、色々な事が想像できて、わくわくする。

――そうしているうち、心は少しずつ落ち着いてくる。
悪夢で沈んだ気持ちは、少し浮上していった。

……とはいえ、これは不安定な安堵でもあった。
何かあると、また沈むかもしれない。だから、わたしはそれから目をそらすように、本を読みふけっていた……。

なんでも、【トニトルス・フェラム】の秘書も、この義肢の技術で失った箇所を補填しているらしい。
身体の部位を失う……それはどれほど辛いのだろうか、わたしには分からない。
わたしは心の一部が欠けてしまったけれど――肉体は欠けていないから――。

所詮は、他人の気持ちを完全に理解することはできない。
それでも、その気持ちに向き合う――その心意義で発展する技術は素晴らしいと思う。

それに、その技術は【大戦】で戦う際にも役立っている――と聞く。
身を守るために、全身を金属にすることもあるのだろうか?


390 名前:Route:B-1 ダイアンサス:2020/10/10(土) 20:54:02.202 ID:UGEA0.t.0
……本を読んでいると、わたしはいろいろなことを思い浮かべることが多い。

???
「……もし、全てを機械にしたら、魂魄は、どうなるんだろう?」

……全身を金属で置換すれば、思考の大元である脳も必然的にそうなる。
なら、心は――受け継がれるのだろうか。
意識は、脳の生み出す電気的な信号……そういった説があるが、
機械が生み出すそれは、今思考するわたしの意識と同じなのだろうか?

……考えても、結論は思い浮かばない。
ただ、一つだけ思うこと――それは、意識が継続していれば、それは自分自身なのではないか。ということ。

???
「――わたしが、この肉体を捨てても
 ……結局、肉体へのコンプレックスは変わらないかもしれない」

少し、自己嫌悪に陥る自分の身体を見つめながら、わたしはぼそっと呟いた。

391 名前:たけのこ軍:2020/10/10(土) 20:54:49.166 ID:UGEA0.t.0
名前はまだ出ていない。

392 名前:きのこ軍:2020/10/10(土) 21:49:25.771 ID:TukoEIz6o
不穏な出だし ブラックちゃんが関わってくるのかしらね?

393 名前:Route:B-1 ストロベリー:2020/10/11(日) 21:33:25.025 ID:iFLPb49Q0
――気が付くと、朝日が部屋に射していた。
鳥のさえずりも聞こえて、ああ、朝だ――とわたしは思った。

時計の時刻は既に7時を回っていて、わたしは本に集中していたらしい。

もっとも、厚めのカーテンに遮られて、太陽の光はわずか差し込むだけ。
わたしの部屋は、朝だというのに薄暗かった。

――それは、太陽の光が苦手だから……。

皮膚が弱いわけではないけれど、太陽の光――特に夕陽は、はわたしのトラウマを刺激されるから苦手だ。
光が、骨に関わる栄養素のひとつに関わっていることを知っていても……。

知識という理知的なものと、わたしの内面に在る感情は擦り合わせられなかった。

394 名前:Route:B-1 ストロベリー:2020/10/11(日) 21:35:45.581 ID:iFLPb49Q0
こん、こん――と、その時部屋のドアがノックされた。

わたしはそのドアを開けると、白い髪のツインテールの女の子――苺(まい)が、そこに居た。
紅いゴスロリ衣装。背中に生えた白い翼。彼女は人間ではなく、天狗なのだという――。
わたしにとっては、同居人であり、憧れのパートナーのような立ち位置にあるから、種族の違いを意識することは少ないけれど。

……この家に住んでいるのはわたしと苺だけなのだから、苺が居るのは当然なことだった。
苺は、両手にはめた淡い桃色の手袋を合わせながら、普段通りの柔らかな表情でわたしを見ていた。


「瞿麦(なでしこ)ちゃん、起きてたんだね
 洗濯籠に服が入ってたから、あれ?って思ったんだけど」

――丸くて大きい赤い瞳が、苺のチャームポイント。
可憐に首をかしげる姿は、憔悴しているわたしと比較すると……
ずっとずっと、可愛らしい。


395 名前:Route:B-1 ストロベリー:2020/10/11(日) 21:38:32.970 ID:iFLPb49Q0
瞿麦
「……そういえば、脱いだ服のことを忘れてた」


「まぁ、ぼくがやっておくからいいよ」

苺は、家事全般をてきぱきとこなす家庭的な女の子だから、こうしてわたしの身の周りの世話もしてくれている。
その献身的な立ち振る舞いは、こんなわたしにはもったいない――と思うときもある。


「それはそうと、朝ごはんできたから、ぼくと一緒に食べよう?」

瞿麦
「うん、食べよう」

苺の、元気な顔つき。
わたしと一緒にご飯が食べたい――そう顔に書いてあったのを、悟られたのかも……。

悪夢の蟠りを洗い流されたような感覚を覚えつつ、わたしはキッチンへ向かった。

396 名前:たけのこ軍:2020/10/11(日) 21:55:36.102 ID:iFLPb49Q0
主人公とヒロインの名前がでてきました

397 名前:きのこ軍:2020/10/12(月) 00:35:57.200 ID:ou/pLXcMo
苺ってみたら問答無用に雛苺が出てきちゃうのは桃種読者の悪い癖

398 名前:Route:B-1 リユニオン:2020/10/19(月) 20:07:31.609 ID:lAYI73BY0
食卓に着くと、すでに出来立ての朝食がテーブルクロスの上に並んでいた。
トースト、新鮮な野菜のサラダ、ベーコンエッグ、コーンスープ、オレンジジュース……。

これらはすべて、苺が作ってくれたもの。
わたしは料理が苦手だから、こうして作ってもらわないと生きていけない。

瞿麦
「ありがとう、苺ちゃん」

だから、毎日こうやって礼を言う。わたしを献身的に支えてくれているからこそ、こうやってわたしは生きていられるから。


「ありがとう、さっ、食べよう?」

瞿麦
「うん」

瞿麦・苺
「いただきます――」

わたしと苺は、二人で朝ごはんを食べ始めた。


399 名前:Route:B-1 リユニオン:2020/10/19(月) 20:09:03.990 ID:lAYI73BY0

「きょうは早く起きていたみたいだけど、お腹は空いてなかった?」

瞿麦
「ううん、本に夢中だったから……」


「そっか、今日は何の本だったの?」

瞿麦
「今日は、義肢についての本かなぁ……」

パリッとしたトーストや、温かいスープやベーコンエッグ……
新鮮で瑞々しいサラダとジュースは、わたしの鼻腔や舌をくすぐり、
苺の穏やかで優しい声が、心を潤わせる。ああ、この団らんは――悪夢で目覚めたことを忘れさせてくれて、うれしい。

瞿麦・苺
「ごちそうさまでした――」

わたしは使い終わった食器を、流し台に入れ、洗い物を始めた。
かちゃかちゃと鳴る皿の音。じゃばじゃばと跳ねる水の音。いつも通りの平穏な風景……。
料理は出来ないけれど、これぐらいの行動ならわたしにもできるから……。


400 名前:Route:B-1 リユニオン:2020/10/19(月) 20:10:42.730 ID:lAYI73BY0

「瞿麦ちゃん、ありがとう」

瞿麦
「ううん、わたしは料理できないから……苺の助けになればなって」

――蛇口から流れる水の冷たさが、わたしに平穏であることを実感させていた。


「じゃあ、お洗濯してくるから、何かあったらぼくに声をかけてね」

朝食を食べ終わったら、リビングで本を読むのが日課だ。

……わたしの年齢は16歳。けれども、学校には通っていない。

あの場所に行こうとすると、ひどい吐き気と動悸に襲われる。
それは3年前のトラウマが、今を尾を引いているから……。

もちろん、学生の本分である勉強はしている。
……教科書ではないけれど、参考書を読むことで知識を蓄えている。

これが正しい学習方式なのかは分からないけれど、学校……とりわけ教師とは接したくないから。
他者と接することで、知見が広がることは分かっていても……心が、受け付けられないから……。

401 名前:SNO:2020/10/19(月) 20:11:01.008 ID:lAYI73BY0
闇が見えるかも

402 名前:きのこ軍:2020/10/20(火) 09:30:44.973 ID:Q7094Dkk0
ほのぼのパートのぞむ。

403 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:07:31.563 ID:OJPsyr0g0
わたしは、文系と理系でいえば、理系分野のほうが好きだ。
作家が考える、多岐にわたる表現や世界観も面白いけれど、
人々の叡智が集まり、一つの結論が出ている――そういった点が、面白い。

……それに、ロジックを組み立てることも好きというのもある。
何も書かずとも、頭の中で、パズルを解くように組み合わせながら考えることは、すべてを忘れて熱中できる……。


「……ちゃん、瞿麦ちゃん」

……気が付くと、瞿麦に呼ばれていた。

瞿麦
「なに?」


「そろそろ、お昼時……もう12時半だけど、お昼ご飯にしない?」

瞿麦
「えっ?」

面食らったようなわたしは、周りの様子に思考を傾ける。
きょろきょろと視線を動かし、時計を見ると、苺の言った通りの時刻が目に入った。


404 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:08:17.572 ID:OJPsyr0g0
それを認識した途端、わたしのお腹の虫もぐぅと鳴き始め……。

瞿麦
「あ……」

……こういうことは、時々するけれど、やはり年齢を顧みると少し恥ずかしい。
気を許した苺相手でも、それは同じ。わたしの顔はかぁっと熱くなる。


「ふふ、瞿麦ちゃんは集中してて、気が付かなかったんだね」

そんなわたしを、苺は微笑ましげに見ていた。

お昼ご飯……苺特製のスパゲティと、野菜スープ、それから市販のミネラルウォーター。
わたしの日常は、お昼ご飯を食べながら、クリスタル・テレビジョン(CTV)でニュースを見ること。

新聞はとっていないから、情報を得る手段はCTVとなる。
本来ならば、幅広いメディアから見るべきなのだけれど……これにも、事情があるからしかたがない。

CTVは、水晶玉に魔力機構を入れ、魔力に乗せた情報を受信する装置だ。
これが発明されていない時は、メイジ以外が遠くの情報を瞬時に得るのは難しいと言われていた。

でも、現在は技術の発展に伴い、メイジではない存在でも、こうやって平等に情報を享受できる。
そのことも、わたしが理系分野が好きな理由のひとつだった。


405 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:09:59.063 ID:OJPsyr0g0
アナウンサー
「――さて、次のニュースです
 4月1日……今年も【会議所】のメンバーが入所しました
 事務員ほか、兵士として参加するメンバーもおり、【会議所】を運営するメンバーたちも……」

画面の向こうには、世界の中枢と呼ばれる【会議所】――
そして、軍服で新人を出迎える、運営に携わるメンバーたち……。
¢、集計班、黒砂糖、抹茶、B`Z、山本、加古川……献身的に運営に携わるメンバーは、世界にその名を知られている。

……そういえば、画面の向こうにはわたしの兄も居るんだっけ。
……そんなことも聞いたことがある。画面の向こうにはそれらしい姿は見えないけれど。

家族とは、死に別れたり、消息が分からなくなったり……色々なことがあった。
だから、今は……苺が、たったひとりのわたしの家族といえる。


406 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:10:14.885 ID:OJPsyr0g0
アナウンサー
「続いてのニュースです
 国際的テロリスト【嵐】が、ブルボン王朝でテロ行為を行い、重症者11名、軽傷者160名――」

……テロリスト。わたしにとって、遠い存在。
どうして破壊活動をするのだろう。そもそも、戦いたければ【大戦】をすればいいのではないか。
【会議所】には、強者がたくさんいると聞いたことがあるから。

ニュースに思いを馳せながら食事をしていると、かちゃりとスプーンと皿がぶつかる音がした。
気がつくと、わたしは食事を平らげていた。
苺の作った美味しい昼食を、気が付かない間に……なんだか、申し訳なくなって、苺に謝るジェスチャーをする。


「僕のことは、気にしなくてもいいのに
 ニュースを見ている時の瞿麦ちゃんの目は、真剣だから……好きなんだよ」

すこし照れつつもうれしそうに答える苺。その言葉に、わたしの顔はかぁっと熱くなる。
苺は、こうしてわたしを恥ずかしくさせる言葉を紡ぐことが多い。それに慣れないわたしも、わたしだけれど……。


407 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:10:26.490 ID:OJPsyr0g0
瞿麦
「ぅ……」

顔を押さえてみると、指先に熱を感じる。顔に火がつくとは、こういうことなのかと納得してしまう。


「瞿麦ちゃん、お皿は僕が洗っておくから、休んでていいよ?」

瞿麦
「うん……」

恥ずかしくて、わたしは苺の言葉に頷くだけ頷いて、また本を読みにリビングへと戻って行った……。

408 名前:たけのこ軍:2020/10/20(火) 23:10:53.094 ID:OJPsyr0g0
カスの狂気さがないんよ平和なんよ

409 名前:きのこ軍:2020/10/21(水) 20:31:49.087 ID:5kIpooJEo
やっぱり時系列的にはAルートと同じなんだな。
細かなことだけど>>403
> 苺
> 「……ちゃん、瞿麦ちゃん」
>
> ……気が付くと、瞿麦に呼ばれていた。

ここは苺に呼ばれていた、が正しい?

410 名前:たけのこ軍:2020/10/21(水) 23:14:32.940 ID:jGp2O/hE0
>>409
本当ですね ありがたいんよ

411 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:15:11.534 ID:VklBH4xU0
瞿麦
「あっ」

本を読み終えたわたしが顔をあげると、部屋は夕焼けで赤く染まっていた。
……わたしは、夕焼けは嫌いだった。
閉まったカーテンをすり抜けて部屋を赤く染めるそれすらも……どうしても、苦手なのだ。
逃げるように本を机の上に置き、部屋の明かりをつける。

時計に目をやると8時半――もうすぐ、夕食の時間だろうか?
やることもなく、適当なCTV番組をぼーっと見ているうち、苺に呼ばれてキッチンへと足を向けた。

苺手作りのクロワッサンに、サーモンのムニエル、野菜たっぷりのポトフ。
苺の料理レパートリーの広さと、その味には頭が上がらない。

瞿麦
「これも、おいしい」


「ふふ、そう言われると作った甲斐があるなぁ」

なんとなく呟いた言葉で、苺はにっこりとほほ笑む。
その真っ赤な瞳と、桃色の頬は、白い肌によく映えて、わたしは見入っていた。



412 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:16:20.089 ID:VklBH4xU0

「瞿麦ちゃん、ほら、食べて食べて」

わたしの視線に、苺は少し恥ずかしげにわたしに催促した。
昼食の時とは逆。それでも、この平穏な風景はわたしにとって幸せだった。

ここが天国。旅人がいるならばこのような場所を目指すのだろう。
わたしは、意思を持ってここに目指したわけではないけれど……。

413 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:16:41.547 ID:VklBH4xU0
……夕食を終え、わたしはバスルームに入った。
わたしは、一人でシャワーを浴びることが常。それは思春期だからだろうか?
苺と一緒に入ろうとしても、恥ずかしがって入ってくれない。
悪夢を見た時、苺を呼ぼうと、一瞬だけ思ったけれど……眠っている彼女を起こして、恥ずかしがることを強要はしたくはなかった。
相手の状況も顧みようとすることが、二人で一緒に過ごせる理由……わたしはそう思っていた。

――ずきん。
そう納得した瞬間、わたしの頭に電流が走ったような気がする。
それは一瞬だけれど、何なのだろうか?
深く考えると、また悪夢を見た時に心がぶるぶると震えるかもしれないから、やめておこう。

瞿麦
「ふぅ……」

シャワーを浴び終え、長袖のパーカーを着ながら鏡を見ると、わたしの顔はほっとした表情をしていた。
目の下の隈は相変わらずだけれど……それでも、朝の亡者のような貌ではない。


414 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:17:56.595 ID:VklBH4xU0
……今のわたしの生活は、恵まれている。好きな本で知識を得、平穏に暮らせている。
悪夢を見て、苦しむことははあるけれど……学校に通うという、一般的な道からは外れているけれど……。

それでも、まだ、致命的な境界から踏みとどまれていると思う。

瞿麦
「ふぁ……」

そうこうしているうちに、眠気を催していた……。
あくびが漏れ、とろんと視界が歪み、瞼もゆっくりと重くなった。

朝の4時に起きたからか、夜の9時なのにもう眠い。
わたしはベッドに身を投げ、仰向けになって、考えていた。

瞿麦
(この平穏が、永久に続けばいいのに……
 苺と一緒に、日常をいつまでも……)

そう思いながら、わたしの目蓋は重くなって……。

415 名前:SNO:2020/10/23(金) 20:18:08.489 ID:VklBH4xU0
フラグっぽい文面やめろ

416 名前:きのこ軍:2020/10/24(土) 12:51:01.599 ID:WwT86jJso
永久に続くよきっと()

417 名前:Route:B-2:2020/11/02(月) 20:58:40.712 ID:zQlNnmUI0
Route:B

                 2013/4/8(Mon)
                   月齢:27.3
                    Chapter2


418 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:02:18.929 ID:zQlNnmUI0
――――――。
わたしは、悪夢を見ていた。
それはやはりあいつが出てくる夢で、夕暮れの部屋でわたしはあいつに迫られている。

瞿麦
(いや――やめて――)

助けを求める声も手も誰にも届かない。ただ、欲望に顔をゆがませた醜い存在だけがそこに存在するのみ。
理性という殻が欲望という災厄があふれ出るのを防いでいるのだとしても――
あいつは、その理性そのものに殻がなかったのだ。

そして、愚かなるわたしはそれに気が付くことなく――
今まで、その手にかかった哀れな生贄のように――

瞿麦
「っ――」

――わたしは、また悪夢を見て、早朝と言うには早い時間に目覚めた。
ばくばくと鳴り響く鼓動と、ぐっしょりと溢れた寝汗……。
あまりの気分の悪さに、脳が眠る姿勢にも入っていない……。

わたしは、そのまま起きていることにした。

419 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:06:39.133 ID:zQlNnmUI0
……それが、一週間後の朝の始まりだった。
時間は7時19分……苺が珍しく寝坊をしていて、わたしは何となく玄関の郵便ポストを見に行った。

そこには一枚の手紙があった。
差出人は――アイローネ・フェルミ。

……その名前を見てぴくっ、と身体が一瞬震えた。

瞿麦
「兄さん……?」

そこには――わたしの兄の名前が記されていた。
とはいえ兄と顔を合したのはずいぶんの前のことで、手紙でのやりとりすらもなかった。

当然ながら、ここに住んでいることを伝えていなかった……。

瞿麦
「……どうして、わたしの住所を知っているの?」

ぽつりと、疑問をこぼしても、答えるものはいない。

びくびくしながら、きょろきょろと辺りを見回したけれど……そこにあるのは、辺り一面の森が広がるばかり。
木々のざわめきとさわやかな風と、鳥のさえずり――平穏な光景があるだけだった。

誰もいない……気配すらも感じられない。


420 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:13:29.557 ID:zQlNnmUI0
瞿麦
「どうしてわたし宛に手紙が……?」

ここにある手紙だけが、異物のようにも思える。
わたしは差出人の名前をじっと見ていた。

この家は、森の中にぽつんと立った隠れ家のようなものだ……。
食料などの日用品の調達は、静さんという知り合いの女性にしてもらっているけれど……。

そこで、ふと一つの仮説を思いついた。

瞿麦
「静さんのところを通じて、わたしに――?」

静さんの家は、鍛冶屋。知る人ぞ知る――そんな店ではあるものの、意外とさまざまな機関との交流はある。
世界の中枢樽【会議所】もその技術に感銘を受け、協力している。
仕事の過程で様々な情報も集まってくるとも聞いたことがあるから、その繋がりで……。

瞿麦
「待って、それだとわたしが静さんと関わりがある理由をどうして知ってるの?」

しかしわたしの導いた仮説は、振り出しに戻った。
静さんはこの家を隠れ家として用意してくれたのだ。
仮に兄が静さんと何らかの接点があったとして、その場所をあっさりと教えるだろうか。

彼女は、職人気質なところがあるけれど、約束事は守ってくれる人なのだ。

改めて、手紙を眺める。正体不明のそれはわたしを動揺させる存在そのものなことに違いはない。
そもそも、この手紙が本当に兄からのものかもわからない……。

421 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:15:10.827 ID:zQlNnmUI0
わたしは、この手紙をどうしよう……。

手紙をパーカーのポケットにしまい、しばらく廊下をうろうろして……。
結局、わたしは部屋に戻って、封筒を開け、手紙を読むことにした。

「瞿麦へ
 ――何年も、会えなくて申し訳なかった

 あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
 名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた

 それは、彼女を救う為でもあった」

瞿麦
「――っ!」

その文面を途中まで読んで、頭痛がわたしを襲った。
痛みに、思わず手紙を握りしめてしまい、整然と折りたたまれた手紙はくしゃりと潰れてしまった。

手紙の字は、確かに……見覚えのある兄の字だった。
いいや、差出人の字も同じなのだから、わたしはどこか頭で否定していたのかもしれない。

よく知るその字の連なり――ああ、これは兄からの手紙なのだと、否定することはできなくなったのだ。


422 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:19:17.900 ID:zQlNnmUI0
瞿麦
「はぁ……」

納得していた、けれども……わたしはそこで立ち止まってしまった。
この先を読んで、わたしに何か利があるのだろうか。
否定したいものを、無理に読む必要があるのだろうか。

当然、そのあとの文面も、続いている――けれども、読む気にはなれない。
その手紙を読むと、今の平穏が崩れてしまうような気がしたから……。

丁度その時、こんこんと部屋のドアがノックされた。


「瞿麦ちゃん、ごめんね
 お寝坊して、今起きたの――簡単な朝ごはん作るから、起きてたら出てきてほしいな」

――苺が部屋を訪ねた。
時間は7時49分。
わたしにとって無限にも近かったけれど――それだけしか経っていなかった。

瞿麦
「すぅーー、はぁーーー」

深呼吸を一つ。わたしが今できること――それは――。

瞿麦
「うん、起きてる……今出るね」

くしゃくしゃになった手紙を机の中に放り込み、素知らぬ顔でドアを開けた。
そしてわたしは朝食を食べて、いつもの日常を過ごすのだ……。

423 名前:SNO:2020/11/02(月) 21:19:42.210 ID:zQlNnmUI0
いったい誰からの手紙なのだろう

424 名前:きのこ軍:2020/11/02(月) 21:25:44.690 ID:hwYNJ6rwo
謎が深まるーー。互いに想像するの楽しくていいですね

425 名前:Route:B-2 ヨーガ:2020/11/08(日) 21:45:58.419 ID:r/jg5VW60
苺の作ってくれたおいしい朝食を食べ終え、わたしは苺と運動をすることにした。


「少しは体動かさないと、将来、身体の色々なところにガタがきて困っちゃうよ?
 ……だから、一緒に運動しよう?少し運動するだけでも、気分転換にもなるよ?」

わたしと苺が一緒に住み始めてすぐのこと……。
部屋の中に閉じこもりがちだったわたしに、諭すように、苺がそう言ったことがあった。

その言葉が、わたしを心配してのことであるのはすぐにわかった。
気分転換になるのは間違いないし、運動ももともと嫌いではなかったから、わたしはその言葉をまっすぐに受け止めた。

……今回も、気分転換のために、運動をするのだ。
不安の種たる、わたし宛の手紙から離れるために……。


426 名前:Route:B-2 ヨーガ:2020/11/08(日) 21:48:23.236 ID:r/jg5VW60
庭は、こじんまりとしているが、わたしと苺の二人だけで考えれば、過分に十分ぐらいの広さだった。
二人でできる運動……と言っても、マットを敷いてヨーガ体操をするぐらいだけれど……。

瞿麦
「んーっ」


「うん、瞿麦ちゃん、いい感じだよ」

身体を伸ばしたり曲げるわたしを、教本を読みながら苺が見てくれている。
足をぴったりと伸ばしながら、身体を曲げようとすると、けっこう苦しい。

始めはあまりの痛さに逃げ出したくなったけれど、苺が献身的に支えてくれていたからか、なんとか続いている。
……閉じこもりがちで初めはがちがちに固まって動かなかった身体は、少しずつ柔軟にほぐれ、
今では第三者が見ても体が柔らかいというほどには改善されてきた。

それに……改めて思うと、わたしは運動神経がいいと褒められていた記憶があった。
だから、効果が大きく出ているのだろうか?

……昔は、楽しく運動もしていないような気がする。
もう過ぎ去った、世間をちっとも知らない愚かな昔――。
外敵を知らない獲物のころに――。

427 名前:Route:B-2 ヨーガ:2020/11/08(日) 21:51:30.709 ID:r/jg5VW60

「はい、お疲れ様!次は僕の番だね」

――どれぐらい、ヨーガ体操に取り組んでいただろうか。
ぱん、と手を叩く音と共に、苺の声が耳に届いた。
どうやら集中していたらしく、時間の経過も忘れていたらしい。

身体を動かしての疲労感はあまり感じ取れない。
これなら、休憩をしなくても苺の体操を手伝える。

瞿麦
「苺ちゃん、行くよ」


「うん、いつでもお願い」

空からは太陽がわたしたちを照らしていた。

……太陽の光は苦手だけれど、雲間に遮られているからなんとか大丈夫。
最も、こうやって運動する時以外では、あまり日光には当たらないのだけれど。

瞿麦
「右腕をもう少し、ぴんと張るように伸ばして――」


「んんんっ――いたっ、たっ」

苺が、わたしの指示に従って、身体を曲げたり、伸ばしたり。
苺はあまり運動が苦手ではなく、同じ時間こうして体操を続けているのに、わたしよりも体は柔らかくなっていなかった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

428 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 21:55:04.600 ID:r/jg5VW60
???
「おや――今日は、庭にいるのか」

わたしたちがヨーガ体操を終え、中庭の椅子に座って飲み物を飲んでいると……静さんが、わたしたちに声をかけた。


「おはよう――いつもの、買い出し分だ」

紙袋に入った食べ物や、洗剤や、石鹸などの日用品を、どっと玄関先に置く音が聞こえた。
わたしたちは、静さんのところへ駆け寄った。

静さんは、わたしの家に食べ物や日用品を持ってきてくれている女性だ。

身長は170cmを越え、苺のような白い髪と、苺とは違う漆黒の眼球と青白い瞳。
普段の鍛冶仕事で引き締まった身体をし、ツナギを着ていることからもクールさを感じさせる。


429 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 21:57:25.469 ID:r/jg5VW60
わたしに、色々なことがあって引き取ってもらってから、ずっとお世話になっている。


「あ、静さん!おはようございます 
 いつもいつも、ありがとうございます」

瞿麦
「どうも……ありがとう、ございます」

はきはきと答える苺と、対照的に少し詰まるわたし。
苺以外の相手には、あまり流暢に話すことができない……そのことも、苺に憧れる一因だった。


「私の店は、普段通りだ――
 君たちの方は、何か変わったことはあるか?」

瞿麦
(――!)

その言葉に、心当たりはあった。しかし……言いだしたくはない。
兄からの手紙。相談すれば楽になるかもしれないけれど、何故か隠し通してしまいたい。

わたしは、袖に隠れた手をひそかにぐっと握り、ごくりと固唾をのみながら、押し黙っていた。


430 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 22:49:07.818 ID:r/jg5VW60

「ええ、特にはありません……【嵐】が暴れているのがすこし怖いぐらいですかね?」

普段、静さんと会話するのは苺……わたしは、ときどき苺の言葉に追従するように頷くばかり。
――それで、いい。余計に何か口出しをしたら、隠していることが公になって、この平穏が崩れるかもしれないのだから。


「確かに――1週間前、ブルボン王朝でテロ行為というニュースもあったからね」


「この辺りは、辺境の地で何もないから……まず心配はいらないだろうけれど、
 私の店は武器の材料を取り扱っていることにもなるからね……」

静さんの店――【月輪堂】は、兵器のパーツや刀――そういったものを製作している小さな鍛冶屋だ。
私たちの住む家から、20分も歩いたところにある。
規模は小さくても、その鍛冶技術の高さは指折りのために高い評価を得ており、意外なところとも顔が利くという。


431 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 22:50:21.887 ID:r/jg5VW60

「また、2週間後にお願いしますね」


「ああ――君たちのことは、彼女からも承っているからな」

ぺこりとお辞儀をする苺……それにならって、わたしも深々と頭を下げる。
静さんは、軽く会釈をしながら、後ろで結んだ髪を揺らせながら、その場を立ち去って行った。

瞿麦
「……わたしとは大違いだな」

静さんの頼れる後ろ姿と比較して、わたしは自信を卑下していた。


「瞿麦ちゃんは、勉強家で、運動センスもある優しい子だよ……
 そんなに、自分を悪く言わないで」

慣れた口調で、わたしの背中を優しくさすりながら苺は答えた。
……わたしは、自分を卑下することが多い。手首やらなにやら……肉体を傷つけるまでには至らないけれど……。

……もしかしたら、わたしは苺に構ってほしいから、自分自身を蔑んでしまうのかもしれない。
早熟だったわたしの身体によって、人生が狂ったから……わたしはこうなってしまったのかな……。

そう思いながらも、わたしはいつもの日常に――本を読んで、苺と暮らす日々に戻った。

432 名前:SNO:2020/11/08(日) 22:50:40.606 ID:r/jg5VW60
魔王様にシトラスされないヨシ!

433 名前:きのこ軍:2020/11/08(日) 22:56:28.565 ID:JT93nRnIo
まだ平和ですね。

434 名前:Route:B-3:2020/11/10(火) 21:52:24.454 ID:24pHL/FI0
Route:B

                 2013/4/10(Wed)
                   月齢:29.3
                    Chapter3

435 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 21:55:25.764 ID:24pHL/FI0
――――――。

わたしは夢を見ていた……。

???
「服を脱いで見せてごらん……」

今にして思えば、欲望を隠さない醜く惨たらしい表情を、あいつはしていた……。

わたし
「はい」

……でも、当時のわたしはそれを見分ける審美眼を持っていなかった。
素直にその言葉に従ってしまったものだから、わたしは絶望の淵に立たされることになったのだ。

わたし
「……」

そして――わたしの意識はその光景から離れてゆく……。
それは夢の世界から逃れるため?

今見ている世界は、現在(いま)わたしの身の回りに起きていることとは異なる。
だから、この景色は遠ざかりさえすれば、これ以上何も思うこともなく……。

436 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 22:02:24.689 ID:24pHL/FI0
瞿麦
「……はっ」

幼いわたしの意識は、いつのまにか今のわたしに切り替わっていた。

現在の時間は7時21分……日付は4月10日、水曜日。

瞿麦
「今日は……第二水曜日」

カレンダーを見ながら、わたしは呟いていた。
隣では苺が朝食を準備してくれている。わたしは……悪夢のためか、本を読む気も起きず、
ただなんとなくカレンダーを眺めてみたり、苺を見守ったりしていた。


「今日も、静さんのところで頑張らなきゃね」

慣れた手つきでベーコンエッグを作りながら、苺が答える。

瞿麦
「うん」

そんな他愛もない会話が、悪夢で淀んだわたしの心を徐々に癒してくれる。
――平和だ。この生活は、ずっとずうっと……死ぬまで続けたいぐらい。

第2水曜と、第4水曜は、静さんの鍛冶屋でお手伝いをする日だ。
朝食を終え、一段落ついたわたしたちは、靴を履き、森を進み……目的の場所【月輪堂】へと向かう。

437 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 22:08:10.878 ID:24pHL/FI0
その場所はわたしたちの家から歩いて20分……苺と手をつないで、日傘を差して森の中を往く。
空から射す日差しは、日傘と木の葉に遮られ、わたしたちを少し照らすだけ。


「……瞿麦ちゃんの手は、いつもふわふわで温かいね」

瞿麦
「……そう、かな」


「うん、そうだよ……手袋越しにでも伝わるよ」

歩きながら、苺はそう言いながら少し顔を赤らめた。
その照れた表情は、可愛らしく……同時に、苺の言葉がわたしの心をどきりとさせる。

瞿麦
「そ、そうかな……」

恥ずかし気に、わたしに対して可愛らしく告げる苺を見ると、心が少しあわただしくなる。
慣れた苺相手でも、しどろもどろな答えになってしまう……。

わたしは、苺に……家族以外の感情を持っていた。
苺のことが、好きだと――それは、恋愛感情なのかもしれない……。

でも、それを苺には言えなかった。
それを告げることは、苺との距離感を変えることになってしまう。

――そして、いま享受している平穏が崩れてしまう。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

438 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 22:11:16.561 ID:24pHL/FI0
瞿麦
「あ、着いた……」

しばらくして、月輪堂の前に辿り着いた。
瓦屋根の、木造の建物。月輪堂の立て看板も脇に置かれている。
何度も訪れた場所だから間違えることはない。

ここは、鍛冶工房だけではなく、接客カウンター、倉庫、それから数人が住まえる居住スペースと、意外と広い建物だったりもする。
最も、いま住んでいるのは2人だけれども……。

……それについて思いを馳せても、何もない。
わたしたちは、がらがらと引き戸を開け、店内へと入っていった……。


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