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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

652 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:01:47.052 ID:BmIsXKQc0
――それは、訊いたことのあるおとぎ話だった。
いったいどこで――そうだ、母さんから聞いた。内容は違う点もある気がするけど……今すぐに思い出すことまではできない。
まぁ、おとぎ話だから、そういうものなのだろうけれど。

瞿麦
「その――どうして、そんな話を?」

――でも、突然のことにわたしは戸惑った。
闇美さんは、わたしに何かを伝えたいのだろうか?それでも、その意図が分からない。

闇美
「――貴女がユリガミサマと接触することで、世界が変わるかもしれないでしょう
 見える景色も時間も、変わるやもしれません」

わたしは、忠告する闇美さんの話に、固唾を飲みつつ集中した。


653 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:03:31.313 ID:BmIsXKQc0
闇美
「――それでも、かの若者のように、絶望して、癇癪を起してはいけない
 自分が自分で在り続けることを、意識してください」

――自分が自分で在り続ける。コギトエルゴスム。我思う、ゆえに我あり……。
自分の意思で、ユリガミまでたどり着けたけれど、これからも、わたしは前へ向けるのかな?
不安で、少し緊張して、手に汗が滲む。……その時、791さんが、ぽん、と肩に手を置いた。

791
「まぁ、ユリガミって不老不死って言われてるからね〜
 既存の概念で捉えられない部分もあるんだよねぇ
 だから、よくわからないことがあっても、惑わずに行こうってことでいいよね?闇美?」

闇美
「――そうですね」

791さんの意訳は、合っているかわからないけれど――
闇美さんがわたしへ伝えた言葉は、闇美さんなりの激励の言葉なのかもしれない。

瞿麦
「はい、がんばります――」

わたしは、ふたりに改めて意思表示をした。


654 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:04:59.878 ID:BmIsXKQc0
―――――。
どれだけ、歩いたのだろう。
どれだけ、時間が経ったのだろう――。

不意に、風が外でざわめいた。
――同時に、さわやかな花の香りと、心地よい草の揺れる音。
それが、わたしの心を何故だか落着けてくれる。

瞿麦
「……あれ?」

気が付くと、闇美さんと791さんは消えていた。

瞿麦
「あれっ、791さん?闇美さん?どこに――?」

不思議に思い、横に首を振るけれど、まるで、最初から人っ子一人いなかったかのように、あたりは静寂に包まれていた。

655 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:09:27.546 ID:BmIsXKQc0
瞿麦
「………ひとりぼっちか」

思わず、一人ごちる。


瞿麦
「ううん、大丈夫、大丈夫なんだ」

少し不穏な気持ちが心をよぎったけれど、強引にそれを振り払おうと、首を振った。

――よし、行ける。大丈夫。突然の事態があっても、わたしには進む意思が消えていないじゃないか。
わたしは意を決してとにかく前へと進んだ……。

前後ともに、無限に続く廊下。まるで夢幻の世界のようにも思える。

――しばらく、わたしは歩いていた。
ふと脇に目をやると、一歩先の部屋の障子がわずかに開いていた。

……ここに、入れということ?
明らかにその場所はわたしを誘っている。
ならば、そこに行ってみよう。わたしは障子を引き、部屋に入った。

656 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:11:21.474 ID:BmIsXKQc0
――そこには、シンプルな木造りの祭壇があった。
その上には白い【勾玉】があった。真珠のように美しさに目を奪われそうになるけれど、どことなく白骨のような薄気味悪さも感じる。
その横には太刀――百合の花びらの飾りを鞘と柄に施した、恐らくは素晴らしい鍛冶師が作ったであろう得物が置かれていた。

瞿麦
「?!」

瞬間――わたしの目の前には目を閉じた女性の姿があった。
しかしその姿は半透明だった――幽霊なのか、あるいは映し出された像なのか……。
闇美さんが言っていた、世界が変わるという言葉――それはこのことを示唆していたのかもしれない。

その女性は、整った顔立ちと、長い睫と、腰ほどある黒い髪が重なり合い、芸術品のように美しかった。


657 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:13:02.709 ID:BmIsXKQc0
そしてこの女性にはわたしは見覚えがあった。
そうだ――この女性は――

わたしの中で――様々な記憶の景色が流れては消えてゆく。
あいつに追い詰められたわたしに――家族に何も言えなかったわたしに手を差し伸べてくれたひと――。

おねえさま。――おねえさまが、そこに佇んでいた。

父さんにも、兄さんにも、顔見知りの大人にも……、わたしは「助けて」の一言が言えなかった。
それほどまでに、絶望で視界が狭まったのわたしを、おねえさまは救い上げてくれた。
おねえさまは、あいつに襲われかけたわたしの下に現れて、助けてくれた。

――おねえさまが、わたしの探すべき存在――ユリガミだったのだ。
何も知らなかったあのときのわたしが、おねえさまと感じたのは……女神そのものだったからなの?


658 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:15:25.299 ID:BmIsXKQc0
おねえさまの身体の周りは、白い靄で満ちていた。その靄がおねえさまを投影しているようにも思えた。
この現象は、科学や魔術の見地では説明のつかない、超越的な現象なのかもしれない。
最も、わたしにとって、もはやそれはどうでもいいことだった。

瞿麦
「おねえさま――」

――感慨に耽るわたしは、思わず声に出してそう言っていた。
わたしにとって、彼女は――ユリガミは――まさに、頼れるおねえさまだったから。

おねえさま
「――――」

わたしが話しかけると、おねえさまは目を開けた。
ふたつの漆黒の瞳は、あの時見たように、吸い込まれそうなほどに綺麗だった。

おねえさま
「――貴女は、かつて公園で出会った……あの子ね」

瞿麦
「……っ」

感慨深そうに語るおねえさま……わたしのことを覚えてくれていたのだ。

――神々しさを覚える雰囲気に、わたしは畏怖の感情に包まれる。
でもそれは、おねえさまのことを女神と認識したからだ。
声色は、あの時と変わりなく、やさしいまま。わたしが勝手に畏怖しているだけだ。

659 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:17:54.124 ID:BmIsXKQc0
わたしは、嬉しさに、涙ぐみそうになる。

おねえさま
「それで、どうしてここに――」

おねえさまの言葉で、はっとする。そうじゃない。
わたしが来たのは、再開の感動を分かち合うためではない。――わたしは言わなくてはいけない言葉がある!

瞿麦
「お願いします――わたしの妹を、助けてください」

ぎゅっと、拳を握りながら……どきどきする鼓動を噛み締めて耐えながら……わたしは、おねえさまに言葉を告げた。

おねえさま
「……貴女の、妹を……?」

感情を読み取れないおねえさまの声――まるで、彫像が言葉を発するかのように、氷のように冷え切った声。
それは、困惑しているからなのか、あるいは――興味がないのかはわからない。

――それでも、わたしはこのことを伝えなくてはいけない。
それこそが、わたしが前に進むために必要なことだから。

660 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:19:10.616 ID:BmIsXKQc0
瞿麦
「わたしは、大切な妹と喧嘩をして――謝ることが出来ないまま、離ればなれになってしまいました
 そして、その妹を助けるためには――おねえさまが――必要――なんです」

勇気を振り絞って――こらえきれずに、少し涙を流してしまっても、構わず……。

瞿麦
「……わたしは、妹に……謝りたいんです
 妹は、静かに復活の刻を待ちながら眠り続けていて、その眠りを覚ますのはおねえさまが必要なんです――」

おねえさま
「…………」

必死で感情をぶつけるわたしを見たおねえさまの表情は、複雑そうな顔つきに変わった。
わたしの悔恨の気持ちが、おねえさまの心を揺さぶったのだろうか?

瞿麦
「わたしの、妹を救い出すために、どうか――おねえさ――ユリガミサマの、力を、貸してください」

ぎゅっと両手を重ね、おねえさま――ユリガミサマに跪いて願いを伝えた。
声は涙で詰まり、たどたどしくなる。それでも――わたしはユリガミサマに伝えなくてはいけない。
ぽたり――と涙が畳の上に落ちる。ぷるぷると身体が震える。気持ちが伝わったか、不安になる。


661 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:21:35.800 ID:BmIsXKQc0
わたしは、ゆっくりと顔をあげてみる……。
すると、ユリガミサマは慈しみの表情でわたしを見ていた。

ユリガミ
「――貴女は、ここまで来ることを選んだ
 いろいろな人との協力もあったかもしれない――それでも、最終的にここへ来る決断をしたのは貴女」

続けて、ユリガミサマは、ゆっくりとつぶやき始めた。

瞿麦
「えっ……」

ユリガミ
「貴女は――明確な意思を持って、前に歩き出した素敵な乙女ね
 ――あの時から、紆余曲折はあったかもしれない
 それでも――己を、意思を取り戻すことができたのね」

その表情は――あの時のおねえさまと同じ頼れる表情だった。

ユリガミ
「わたしのように――大切な人を斬り、挙句の果てに眠り続ける羽目になったわたしとは違う――」

そこで、自嘲するように、ユリガミサマは顔を落とした。


662 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:22:43.687 ID:BmIsXKQc0
ユリガミ
「贖罪のためにも――目覚めのためにも――
 貴女がやり直すためにここまで訪れる意思を汲み取らなければいけない」

ユリガミ
「……貴女の願いを受け容れましょう――貴女の後悔を乗り越える助けになるために」

その姿からは、記憶の中に、わずかだけ残っている母のような信頼感を覚えた。

瞿麦
「……お願いします」

ユリガミ
「しかし――わたしはこの身体を目覚めさせるには――鍵がいる」

鍵――?
呆然とするわたしに、ユリガミサマは言った。

ユリガミ
「――わたしの身体は、眠ってもなお回復しない……だから――貴女の力を貸してほしい」

瞿麦
「あ――」

ユリガミサマは、――白く、細く、長い指を伸ばした綺麗な手をわたしに差し出した。


663 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:24:59.834 ID:BmIsXKQc0
その手がわたしに重なると同時に、ユリガミサマの身体の周りの白い靄は、
わたしを包み込んで纏い始めて――わたしの心が、ふわふわとしたあいまいな感覚になる。

そのあやふやな感覚の中で、ああ――そうか――と思う。
存在しないまやかしのように思えた希望――
それは、わたしに包まれた――あるいは、わたしが包んだ絶望で見えなかったのだと。

絶望は、確かに存在する概念だ。
でも、わたしは絶望だけが世界に存在するかのように思っていた。

……それは誤りだった。希望は、個々人が思わなければ生まれない。とても当たり前の概念だった。
今までのわたしは、希望から目をそらしていた。

けれども、兄からの手紙を切っ掛けに、
希望を求めるために、見えない絶望を振り払い――前へ進んで――
そして今、希望たる――ユリガミサマ――おねえさま――に辿り着くことが出来たのだ。


664 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:27:51.848 ID:BmIsXKQc0
瞿麦
「はい―――」

わたしは、ユリガミサマの手を強く握った。
感触はない。それでも……手と手は重なり合っていた。

今、心もユリガミサマとつながっているはずだ。
……ユリガミサマに、すべてを託そう。

そして、その果てに――わたしは澄鴒を――。

――わたしは、目を瞑って、手の感覚に集中しながら……
意識の奥へと、深層へと向かった……。

665 名前:Route:B Ending:2020/11/25(水) 22:30:35.709 ID:BmIsXKQc0
――Revealed the high priestess card.

But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.

          ―――Route:B Fin.

666 名前:SNO:2020/11/25(水) 22:31:07.507 ID:BmIsXKQc0
なんか一気に投下した感あったけけどRoute:B、完。

667 名前:SNO TIPS:2020/11/25(水) 22:40:00.155 ID:BmIsXKQc0
瞿麦=フェルミ
Route:B 主人公。
異常性愛者であるグローリー・カヴルのセクハラを受けた被害者の一人。
絶望の悪夢を見ながら、かりそめの平穏を過ごしていた少女。
――しかし、兄であるアイローネ・フェルミの手紙によって、彼女の心は変わることとなる。

苺たちの、一般的な16歳の少女の生活とは異なる暮らしをしているため、
意外かもしれないが、地頭もよく、運動神経もいいため、
順当に学校に通っていれば、文武両道の美少女として、あこがれの的になっていたかもしれない。

――とはいえ、それはもしもの話。
これから、向かうべきものに立ち向かった彼女の行く末は、少なくとも絶望ではないだろう。

668 名前:きのこ軍:2020/11/26(木) 22:28:51.329 ID:INEErJ/Qo
いいひきですね。感慨に浸りました。

669 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:32:19.718 ID:Zyvl.xYI0

The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
                                            ――Genesis 6:13

670 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:30.607 ID:Zyvl.xYI0
月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。

純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。

……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。

いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。

世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。

絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。

まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。

……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
カードを表に返すと同時に、水晶玉の中の人物がはっきりと映し出された。

671 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:44.281 ID:Zyvl.xYI0
その人物とは――

672 名前:Route:C:2020/12/05(土) 22:34:53.073 ID:Zyvl.xYI0
――絶望に立ち向かう黒髪の女性だった。


673 名前:Route:C-0:2020/12/05(土) 22:35:05.801 ID:Zyvl.xYI0
Route:C


                   Chapter0


674 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:40:53.441 ID:Zyvl.xYI0
……わたしは、現を見ていた。

天空には月が浮かんでいた。
天に浮かぶ月――太陰は、金色の光を照らしている。

――昔話の一説には、こうある。
月の都の人は、とても清らかで美しく、老いることもなく――物思いに耽ることもない、と。

だが、それは……月を夢見る人々の記した言葉だ。
月に都があるかなんて、月に民がいるなんて、示すことなんてできないだろう。
それでも、不死の国という幻想は、かつてより人間を魅了していた。

――人間には寿命がある。ほかの種族にも、長さの差異はあれど、最期が存在する。
いずれ来る死に怯えるからこそ、そういった伝説に思いを馳せ、あるいは乗り越える方法を探そうとする。


675 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:44:47.100 ID:Zyvl.xYI0
それでも――。

それでも、わたしの見る月は、永遠と沈むことなく天空に浮かんでいた。
夜にしか姿を見せぬ天空の鈴は、今や――永遠のものとなったのだ。

わたしの周りで、白百合の花びらが舞った。
それはまるで雪のようにとても綺麗で、世界にそよいでいる。

この世界こそが、わたしのたどり着くべき場所――。
わたしの心が望んだ世界そのもの――。

世界を見渡せば、幸せそうに歩く女性たちが見える。
友人として――あるいは恋人として――。

それはとても素敵な世界だった。

それにしても、わたしは、どうしてここに居るのだろう?
思い出すことはできない。

わたしの中には、過去の記憶がなかった。

676 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:49:09.039 ID:Zyvl.xYI0
それでも。
それでも――。
この世界がわたしにとって、心地よい世界であることはわかる。

???
「―――」

ふと、わたしの中に――何かがよぎる感覚があった。
一体どうしてだろうか……。
焦燥感に駆られる。何かをわたしは忘れているような気がする。

――その何かは……何だっただろうか。

世界の中心で、わたしは祈るように目を瞑って……。

677 名前:Route:C:2020/12/05(土) 22:50:29.091 ID:Zyvl.xYI0
Route:C始動。

678 名前:きのこ軍:2020/12/05(土) 22:53:34.148 ID:I0oyd7coo
更新おつついにきましたね

679 名前:Route:C-1:2020/12/06(日) 14:31:17.527 ID:XDLbaKnA0
Route:C


                   Chapter1


680 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:32:09.377 ID:XDLbaKnA0
――――。

変わらず、空には満月が輝いていた。
月光に照らされながら、どこかの中庭でわたしは立ち尽くしていた。

ぼうっと……わたしは、与えられた情報を飲み込んでいた。
ここは……いったい……?

片手には、姫百合の飾りで彩られた一振りの太刀。
その鈍い光を放つ刃は、紅色の生命の水で濡れ、ぽたぽたと雫を垂らしていた。
いや、刃だけではない……わたしの着る白衣も紅く染まっていた。

わたしの着ている巫女装束は、腰まで伸びた黒髪と共に、風に揺られて靡いた。


681 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:33:14.041 ID:XDLbaKnA0
同時に、わたしの中に五感が入り込む感覚があった。
――情報を、視て、嗅いで、味わって、聴いて、触れることができるようになった。

……まずは、身体と太刀に紅い液体を浴びていることがわかった。
その金気臭い匂いが、わたしの鼻をつんと刺激した。

焦燥感に駆られ――わたしはすぐに足元に目をやった。
その目線の先には、ひとりの少女が目を閉じて倒れていた。

地面に広がるふわりとした金色の髪と、赤を基調とした、これまたふわりとした衣装。

――この子は……いったい……。


682 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:37:56.018 ID:XDLbaKnA0
その少女の胸には、黒い瘴気がぐるぐると蠢いていた。
蠢く瘴気の下では、紅色の液体がだらだらと流れ出ている。
地面には漆黒の【剣】が突き刺さっていた。

――少女は既にこと切れていた。
わたしは、紅に濡れた太刀を不意に地面に落とし、彼女をゆっくりと抱き寄せた。

わたし
「…………」

わたしは無言で少女を抱き寄せ、うなだれていた。
……垂れた私の髪は少女を覆い隠す。

それでも、なお……この子が誰かは、わからない。



683 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:39:43.393 ID:XDLbaKnA0
それでも――わたしの中では、ひとつの結論があった。
涙腺から流れる涙が少女の衣装を濡らし、染みをつくる。

わたし
「ごめんね、ごめんね―――――」

わたしは、拭うこともなく、少女のために、涙を涸れるまで流し続けた。

顔を上げた表情は、喜怒哀楽すべてを失った虚無に包まれていることだろう。
もう、わたしの中に――希望は存在しないのだから。

その時――わたしの中に、一つの記憶が泡を立てて引き出される。
この子は、わたしにとって希望でもあった。

だが、それは一振りの太刀によって――自らの手により失われてしまったのだ、と。


684 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:41:07.857 ID:XDLbaKnA0
わたしの心からは、光が失われていくように思えた。闇がわたしの心の中を蝕んでゆく……。

ややあって、わたしは己の心臓に太刀の刃を突き刺した。

わたし
「げぼっ――かはっ――」

紅の花が地面や服を染め――わたしは苦悶の表情に顔を歪める。
…自刃で己の身に始末をつけるために、肋骨の間に刃を滑らせて、肉を突き刺し、心臓をえぐった。

が、どうしても――どれだけ急所を傷つけても、意識が薄れない。

わたし
「どうして――
 どうして、死なないの――」

ひどく熱い感覚が胸にある。息苦しさがある。視界は紅に染まる。
それなのに……わたしの身体は、崩れ落ちない。
痛みはあれど、決定的な――致命的な部分が残っている。


685 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:41:47.937 ID:XDLbaKnA0
わたし
「どうして、死ねないの?」

そして――深く突き刺したはずの太刀は、血に濡れた刀身を晒して地面に投げ出された。

わたしの心は絶望で満ち始めて、それを反映するように、空に浮かぶ月も闇に蝕まれ始め……

やがて、月は紅く染まった。

同時に――わたしの首に掛けられた白い【勾玉】が、どろりとした黒い光を生み出したように――思えた。

わたし
「――――――」

わたしは、ぐっと【勾玉】を握り、わたしの中に在る意識を世界全てに溶け込ませた。
逃げ出すため?それとも……

――感覚は、あやふやで、わたしが今ここに存在しているのかどうかも分からない。


686 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:42:09.724 ID:XDLbaKnA0
同時に、わたしを中心として白い花びらと黒い瘴気が生まれた。
花びらは、ふわりと瘴気によって辺りを漂い、わたしの意思通りに遥か遠く、地平の向こうまで舞い散った。
紅い月は、まるでわたしの意思に呼応するかのように、永遠に空で輝いていた。

その光景を、わたしは幾度も見たような気がする……。

だが、それに想いを馳せる前に――
白百合の花吹雪がすべてを包むとともに――


                     世 界 は 在 り 方 を 変 え た 。




687 名前:SNO:2020/12/06(日) 14:42:32.626 ID:XDLbaKnA0
これはもしや・・・誰かが求めていた展開かぁ・・・?

688 名前:きのこ軍:2020/12/06(日) 18:17:01.608 ID:0hn0GjB2o
予想していた展開と違うな。
ちなみに私の好きなエンドはメリーバッドエンドだからな。ただのバッドとは違う。

689 名前:Route:C-2:2020/12/06(日) 19:35:31.632 ID:XDLbaKnA0
Route:C


                   Chapter2

690 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:39:47.799 ID:XDLbaKnA0
――――。

わたしの目の前の景色は、満月でもなければ、血に塗れた紅い月でもなく――わずかに欠けた月だった。

月が欠けるほどに、時が経っていたようだ……。
その間の記憶はわたしにはないけれど……。

それどころか、あの子の亡骸も、傷つけた己の傷も、返り血も――
まるで初めから存在してなかったかのように、綺麗さっぱりなくなっていた。

抜いた太刀はいつの間にか、鞘に納められ、
白い【勾玉】は何事もなくわたしの首元に収まっている。


691 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:41:08.174 ID:XDLbaKnA0
わたし
「……っ」

それでも、ひどい倦怠感は全身を覆い尽くしていた。
それは、単に肉体的なものではなく、精神的な重圧によるものも合わさっている。その理由は――

わたし
「――あの子をこの手で斬ったから……」

両手を見ても、そこには赤い花の散らない白い手があるだけ。
まるであれが夢幻の光景でもあったかのように、血の匂いのひとかけらすらもない。
斬ったのは確かなのに、その手ごたえすらも思い出せない……。

顔を上げると、遥か遠くにそびえる城があった。
後ろにそびえる岩山と同じぐらいの高さの城壁。
囲う面積は、あまたの人間を収容できるほどに広い。

それを見て、わたしの中に電流が走った。


692 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:46:13.739 ID:XDLbaKnA0
わたし
「……確か、あの場所は、わたしの向かうべき場所だったはず」

頭を押さえながら、呟く。
確証はないが、なぜだかそうなのだと確信を持つことができた。
記憶の海の中にその答えがあるのか……あるいは、直感によるものかは分からない。

だが、その理由はどうしても思い出すことが出来ない。
思い出そうとすると、頭ががんがんと痛みだし、思考すらも出来なくなるからだ。
いや、城へ向かう理由だけではない。わたしに関する情報は、名前すらも全く思い出すことが出来ない――。

しかし、どうにか――今の季節だけは知りうることができた。
今は、春あたりだろう。辺りに咲く花は撫子。
それに、空にはばたく紋白蝶も、その紋様が薄い――夏ではない。

手元に確認できるものはないけれども、それはわたしの中に刻み込まれた経験則でもあった。

もっとも、あの子の名前を……
わたしが斬ったあの子の名前を……思い出すことはできない。

693 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:49:06.927 ID:XDLbaKnA0
思い出そうとするたびに、頭痛が蝕み、思考を鈍くさせてしまう。

わたし
「………わたしは、どうしてあの子を殺さなければならなかったのか………
 その理由を探すことが、わたしのやるべきこと――そう思えてくる」

わたしは、頭痛を強引に耐えながら、遥か向こうの城を見据えた。
――あの場所へ向かうこと。
それがすべてを失ったわたしに、唯一残された目的だから。

わたし
「そのためならば、わたしは死すら厭わないだろう
 ――あの時死ぬことが出来なかったのは、このためかもしれない」

言い聞かせるように、呟いた。
今、目の前に在ることを――それだけに注力すれば、いい。
――欠落している記憶のことは、そのあと考えればいい。

わたし
「そのためならば、絶望が待ち受けていてもわたしは向かうだろう」

わたしの瞳に宿る光は、不死の月のように尽きることなく輝いていた。
決意を胸に、城への方向へと足を進め……。

694 名前:SNO:2020/12/06(日) 19:49:51.939 ID:XDLbaKnA0
これは秘密だけどはじめは和歌から引用しようかなーと思ってたけど探すのがめんどうなのでやめたらしい。

695 名前:きのこ軍:2020/12/06(日) 22:45:21.207 ID:r33lW6Owo
こうしんおつ

696 名前:Route:C-3:2020/12/09(水) 23:10:55.013 ID:5/Kb0Hqo0
Route:C


                   Chapter3

697 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:15:19.497 ID:5/Kb0Hqo0
――――――。

???
「フフフ……
 ユリガミが、現れたか――」

わたしの前に、突然、男が現れ、わたしに話しかけた。
――いや、現れたというよりは……男の居る場所に、わたしが現れたという方が正しいだろうか。

身長はゆうに六尺六寸を越えている。その分厚い唇と、スキンヘッド……そして、針のように細い目。
眼球が黒く、その目は青白く――わたしはその特徴な眼を知っているようで、頭のどこかで何かが引っかかる感触があった。

――しかし、それは思い出せない。
月明かりに照らされる男の表情は鬼か、悪魔か、あるいは――魑魅魍魎といったところか。
その巨躯も相まって、わたしはひどくちっぽけな存在にも思える。


698 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:22:12.249 ID:5/Kb0Hqo0
……それはそうと、ユリガミとわたしの名前を呼んだ?わたしの名前がそうなの?

わたし
「……わたしは、ユリガミ」

確認するように、繰り返す。

???
「おや、あなた……記憶でも失っているんですか?
 まぁ、そうであろうと……
 確かに……確かに、貴女は間違いなく、私の知るユリガミだ――」

男は、わたしの全身を見てから頷いた。
わたしの名前はユリガミらしい。
……百合神……?わたしは祀られる存在ということ……?

???
「――いやはや、貴女がこうしてここに居ることは、私としてはうれしいですね
 貴女の【力】を知っているから……なおのこと……」

???
「一時はどうなるかと思いましたが……
 貴女に恐れをなす兵士は数知れず……もはや戦う気をなくす者もいる……
 ……私の目的は、果たせそうですね」

飄々と語る男は、一見無防備のようで、油断も隙もなく構えを取っていた。

――恐らくは、達人と呼ばれる類の人物なのだろう。
わたしの腰に下がる二尺三寸の太刀を持っていることを把握しているはず。
それなのに、男は素手で対峙しているということは……業物相手とも対等に戦えるが故の自信なのだろう。

699 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:25:24.137 ID:5/Kb0Hqo0
ユリガミ
「それで――このわたし――ユリガミに、何の用?」

そして、わたしはユリガミであることを認めた。
理由は分からないが、それを認めるとぽっかり空いた何かが埋まる感覚があった。
――これはわたしが呼ばれていた名前であると、記憶の奥底で訴えかけている!

???
「ああ、なに…単純なことです、私は貴女と戦いに来た――ただそれだけです」

肩をすくめながら、その男は言った。
その表情はつねに笑っているため、不気味な印象を受ける――が、この男はただ不気味な存在ではない。
再度、男が何らかの武術の達人であることを肌でぴりぴりと感じ取る……。

ユリガミ
「どうして、わたしに?」

???
「はっはっは……貴女は剣の達人じゃないですか、それも忘れましたか?」

???
「それはともかく、貴女の剣術は世界一といっても過言ではない……
 立場上、私はそういった達人を狩る役目ですのでねぇ
 ――まぁ、その役目もどうせあと少しでなくなるんでしょうがねぇ」

己を卑下するように、大げさに手を振ったも一瞬
男は、すぐに右手をこちらに向け、構えを取った。


700 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:29:16.401 ID:5/Kb0Hqo0
???
「まぁ、万が一が起きたら、私は大層困るんですが――
 時が来るまでは、一応、貴女も始末しにいかなくてはいけないのでね……」

その口ぶりからは、完全な敵意はないようにも思える。
逃げることもできるかもしれない。

どうする――?
いや――わたしは、逃げてはいけない。
……おそらく、この男は真実に辿り着く障害だから。

だから、わたしのできることは―――

ユリガミ
「――」

太刀を抜き、切っ先を男に向けた
――すなわち、宣戦布告の合図だった。

わたしは、剣術の達人なの――?その記憶も当然ながらない。
しかし、身体には太刀の技が刻み込まれていたらしく、
相手に刃を向ける姿勢、視線、態勢――すべてが、自然とわたしの身体に現れていた。

701 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:30:49.355 ID:5/Kb0Hqo0
――本能なのか、あるいは認識していない記憶なのか。

ユリガミ
「ちぇーーっ!!」

隼のような神速の切払い。豪雨のような連続突き。わたしはいともたやすく相手に切りかかる。
それを繰り出すたび、これまでずっと鍛え続けてきたのだと――、そんな納得感を覚えていた。

確かにわたしは、剣術を修めているのだ――。

???
「フン――」

男は、わたしの斬撃を受け流し、合間合間で反撃を繰り出す――
素手?いいや違う……。

男が操っているのは、自然現象を武術と組み合わせた戦闘術だろう。
拳で生み出した風圧、足元に大量にある土……それを巧みに操っていた。

戦いは、完璧に互角だった。
わたしも、相手も――決定打を与えることなく、いいや、傷ひとつ与えることすらなく――

――膠着状態のまま、わたしは男と対峙していた。


702 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:33:19.088 ID:5/Kb0Hqo0
ユリガミ
「自然現象を操る技術――一体、あなたは何の技術を修めているの」

――わたしは男から間合いを取り、ひとつの疑問を投げかけた。
男の考え方は、わたしには到底受け入れられない価値観だから……。

――価値観?わたしはどうしてそう考えているのだろう。
しかし、それを考えるのは今ではない。

???
「もうそれは、色々と……キマイラのように……
 ですが……ベースは戦闘術【魂】――
 見どころのある一人の男を除いて、師範ですらぽっと出の新人にやられるような、そんなつまらない武術です」

――わたしが流れてくる思考を吹き飛ばすと同時に
本当に、つまらなさそうに男は言った。
武術への信奉は感じられない……だが、極限まで鍛えられた技術であることは、立ち振る舞いから見ても間違いない。

ユリガミ
「あなたは武術を修めながら、全く持って敬意がない」

口をついて出た疑問――それは、ごく自然に発せられていた。

???
「ははは……当然でしょう?
 これは私の持論ですが、いかなる武術を極めようと、それを押しつぶす【力】があれば無意味になりますからね」

――不気味に笑いながら男は答えた。
その口ぶりからは不思議な説得力がある。それほどまでに、男はその考えを支持しているようだった。

703 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:34:22.283 ID:5/Kb0Hqo0
ユリガミ
「では、どうして――あなたの言うつまらない武術を、あなたは極めているの
 【力】だけでいいと言うのなら、武術はいらないでしょう」

???
「ああ、なに……単純なことですよ
 私のような、武術に対して不真面目な人間に――自分が積み重ねた技術が互角という事実を突きつけたうえで――
 武術は【力】に無力ということを教えてあげたいからです」

ニヤリと、男は笑った。

ユリガミ
「……ああ、あなたは気でも違えてるのかしら」

???
「そんな、ひどい――私、貴女を見てから、ようやく生きるきっかけを見つけたんですよ?
 最も、今の状況はつまらなくてしかたないですが……」

ユリガミ
「――とても、不愉快……わたしを、見ることすらも……」

あっけらかんとした態度で語る男に、ふつふつと、怒りが湧く。
わたしは、この男の欲望を果たす為だけに存在していた……?


704 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:37:08.804 ID:5/Kb0Hqo0
???
「ふん――」

その拳は、わたしの胸目掛け軌道を描き――わたしは、無意識のうちに衣の裾でその拳の軌道をそらし――。
突き出す拳の勢いを利用し男を投げ飛ばした。

???
「く――」

わたしに、ダメージはない。
男は、受け身をとりながらも、ニヤリと笑っていた。

???
「流石、彼女と同じく護身術もお手の物だ――
 しかし、私が求めているのはそれではない――」

擦りむいたらしい拳を押さえながら、男は満足げに笑うやいなや――懐から注射器を取り出し、内部の液体を血管に注入した。

ユリガミ
「はっ――!」

――ぞくりとわたしの背中に冷や汗が流れた。

???
「ふんっっ!」

男が勢いよく注射針を刺した腕を掴むや否や、
男の筋肉ははち切れんばかりに膨らみ、顔の血管はぱんぱんに膨らんでむくんでいた。


705 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:38:01.168 ID:5/Kb0Hqo0
ユリガミ
「【力】――そういうことなのね」

???
「ふふふ……ただの【力】を、技術でどうにかする貴女は、私好みの達人だ――
 でも貴女に私が求めているのは、そんなものじゃない――」

その表情は、まさにケダモノのようにも思えた――。

ユリガミ
「……こんな奴に、わたしは負けない」

胸の中に溜まったひどい嫌悪感を、男に吐き捨てる。
そして、私は再び刀を構えた。

ユリガミ
「こんな醜いケダモノに、慕われる道理があるものか――」

怒りながらも、男を見る目は冷静に――奴を――斬る!

???
「そう――私はその顔が見たかった――
 貴女は、それでこそ――魔女と恐れられる、最強の女神だっ!」

そして――再び、わたしと男は同時に飛び交った。


706 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:38:56.959 ID:5/Kb0Hqo0
ユリガミ
「来い、ケダモノ――」

???
「ウォオオオオオオオーーーーッ!!」

男は、地面に思いきり着地し、衝撃波でわたしを揺らす。
それは無理矢理作り出した肉体で繰り出した攻撃だ……だが…問題はない。
大丈夫、対処できる――不安定な足場の上でも戦えるすべを、わたしは知っている。

???
「ウォ゛オ゛オ゛オ゛オオ゛オ゛ッ」

突然、男が口から何かを吐きだした。
異臭のするガス――毒!?

わたしは、後ろに転がりながらそれをかわす。ガスの残滓は、わたしの身体に触れる前に霧散していく――。

???
「やはり……
 私の求めていた【力】だ――やはり貴女は最高だ――」

嬉しそうな、男の声――それを聞くだけで、心の底からわたしの中でどろりとした何かが生まれるような気がする。


707 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:40:47.631 ID:5/Kb0Hqo0
なに――何が言いたいの――?

???
「もらった――」

――そして、その思考の隙を突いて、男が全力の拳を打ち出した。

それは神速の突き……意識よりも速く空間を切り裂く突き……。
それでも、その軌道をそらすために、被害を抑えるために、指1本で牽制しようとし――

拳と指がごくわずか掠った瞬間、男の拳は、なかったかのように消え去った。

???
「――――ク、クククッ」

その情景には、なぜか覚えがあった。

男は、さらに笑いながら消えた拳を押し付けようと血液とともに腕を突きつけたが、
わたしに触れる傍から、皮も、肉も、血も、骨も消滅していった。
まるで、熱に触れて溶ける氷のように……。

???
「ハハハハハハハハハハッ――」

やがて、男は笑いながら腕を引っ込め、さっと跳び、わたしから離れた。


708 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:43:03.167 ID:5/Kb0Hqo0
???
「やはり、貴女は最高だ――
 ハハハ、ハハハ、ハハハハハハ――だからこそ、女神であり天使だった」

そう言うと、男は、満足げに笑いながら、血止めをしつつ、その場を走り去った。

ユリガミ
「なに――なんなの――」

男の腕を消滅させた――これは、明らかに武術ではない。それとは違う系統の【力】だ。
返り血すらもない。無意識に、発現した力……。

呆然と、わたしはその場に座り込んでいた。
既に男の姿は見えない。――戦いは終わりを告げていた。

ユリガミ
「――っ」

心当たりは、ある。しかし、それが明確に思い出せない――思い出そうとすると、がんがんと頭が痛む。
その場に膝を突き、その痛みに耐えながら目を瞑っていると――記憶の残滓が頭をよぎった。

709 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:43:42.725 ID:5/Kb0Hqo0
恐怖で押さえつけられた子供――醜いケダモノのような男――酸欠状態に陥った男女――

ユリガミ
「――はぁ、はぁ、はぁ」

思い出せない、思い出せない、思い出せない、思い出せない――
いいや、違う――ここで【力】に考える事が間違いなのだ。
わたしがやるべきことから外れてはいけない。あの男はわたしを惑わせるために現れたのだろう。

わたしがやるべきこと。それは真実に辿り着くことなのだ。
だから、立ち上がり――向かわなくてはいけないのだ。その場所へ――。

よろよろと立ちあがり、わたしはゆっくりと歩き始め――。

710 名前:SNO:2020/12/09(水) 23:44:06.771 ID:5/Kb0Hqo0
バトルシーンの描写むずい

711 名前:きのこ軍:2020/12/10(木) 22:40:13.065 ID:kC.YKhqoo
スピード感出しながら書こうとするのはむずいよね。

712 名前:Route:C-4:2020/12/10(木) 23:52:50.157 ID:gzdccGE60
Route:C


                   Chapter4

713 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/10(木) 23:56:35.877 ID:gzdccGE60
――――――。

気が付くと、わたしは――何処かの屋敷に居た。
山や野原や花畑といった、自然に囲まれた――世間からは切り離されたような場所。
先程の戦いも――男の腕を消滅させた【力】も、まるで夢だったかのように思えてくる。

空のよく見える縁側で、わたしは三日月を見上げていた。
――ここは、とても懐かしいはずなのに、何処かは思い出せない。

……なぜか、わたしの斬ったあの子の姿が視界をよぎった。
もちろんそれは幻。ただの、情景の再現……。

わたしはあの子と、この場所で出会っている。

???
「おねえちゃん……」

――可愛らしい声が、記憶を駆け巡る。
彼女は、妹のような存在……?そしてわたしは姉のように慕われていたの……?

その瞬間――

???
「――お姉ちゃん、許せない
 わたしの方が、【力】を操れるんだからぁぁぁぁ!」

……あの子はわたしへ怒りをぶつけた。
いったい……どういうことなの……

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

714 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/10(木) 23:59:01.199 ID:gzdccGE60

――とぼとぼと歩いていると、灯りの灯った部屋を見つけた。
わたしは、その中を用心深くのぞき込む……すると……

???
「――貴女は!
 ……また、貴女に逢えましたね」

感極まった、聞き慣れた声が聞こえた。
……記憶のないわたしにとっては不可思議な表現だが、
確かに聞き慣れたハスキーボイスが、後ろから聞こえた。

目の前に隻眼の女性。
――背中に羽が生えているから、彼女は天狗だろうと、わたしは直ぐに判断していた。

……その姿に見覚えがあった。名前は確か――

???
「わたくしは、ヤミ――」

記憶の中で、幼い――けれども、既に右眼を失っていた彼女が名前を告げる情景が流れる。
ぽっかりと空いた穴が埋められる感覚があった。


715 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:00:43.341 ID:OGkBNIQ20
左手の指を、半分ほど欠損し――顔にも大きな傷がある。
その姿は、一度見たら印象に残るからだからだろうか、わたしは彼女の名前を思い出すことができた。
彼女がどういった立場にあたるかは、覚えていない……それでも彼女がヤミであることは、確固たる事実だ。

ヤミ
「貴女は――わたくしが引き留めても、あの場所へ――【会議所】へと行くのでしょうね」

ヤミは、わたしの後ろに抱き着いて、顔を寄せる。
少しさびしそうな顔は、少し私の心を揺らす。
――【会議所】、それは街宵月の夜に見たあの城のことなのだろう。

……わたしは、城に【会議所】へ真実を見つける為に存在している。
それだけが――わたしの存在する意味だから。

それでも、ヤミはわたしを抱きしめている。
名残惜しそうに。わたしの長い黒髪を、指ですくい取っていたりもしている。

――どうして、心が揺れるの?
あなたは――わたしにとって――どういったそんざいなの?

それを言おうとしても、どうしても声に出せない。


716 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:02:30.165 ID:OGkBNIQ20
――ややあって、ヤミはわたしから身体を離した。

ヤミ
「……けれども、貴女をこうして引き留めてはいけない
 ……貴女を抱きしめていたいけれど、貴女のすべてをもう少し味わいたいけれど……」

陰を落とした顔で、ヤミは呟く。

ヤミ
「貴女は――心に決めた事は、たとえ何があろうともやり遂げる――そういう人です
 それが地獄の門だったとしても――貴女は、為すべきことのためならば、死すらも厭わないのですから
 その意思の強さが、貴女の【力】の原動力でもあるのだから――」

続くヤミの言葉は、わたしの揺れる心に再び決意を与えた。

そうだ――今、ヤミのことを考えていても、真実には辿り着かない。
今わたしが為すべきこと――それは【会議所】に向かうことなのだ。

717 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:06:25.418 ID:OGkBNIQ20
ユリガミ
「そう――わたしは、【会議所】に向かうの
 あの子のために――わたしは真実に向かい合う為に――」

ヤミ
「ふふ、それでこそ――わたくしの大好きな貴女です
 ですから――どうか、良い結末になることを願っています」

わたしの決意に、ヤミは少し寂しそうな笑顔で答えた。
その仕草もまた、見覚えがある。きっと、わたしはヤミとは長い間親交があったのだろう。

ヤミ
「今やは、何から何まで滅ぼさんとばかりに、
 世界すべてが面倒なことになっていますが……
 わたくしに入っている状況から判断すれば……貴女の敵となりそうな存在は、ほぼ存在しないかと思われます」

ヤミ
「そして、貴女は心配かもしれませんが――
 此の場所は、わたくしが必ず護ります――貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」

ヤミは、ちらりと襖の向こうを見つめた。心なしかその奥に影があるようにも見える。
――そこには、何かあるのだろうか。でも、それに思いを馳せるのは今ではない。
わたしは――【会議所】へ向かわなければならないのだから。

ユリガミ
「わかったわ――こちらは任せるわ」

ヤミ
「はい――あの場所のようにならぬように――確実に――」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

718 名前:SNO:2020/12/11(金) 00:07:34.494 ID:OGkBNIQ20
今更ですがこのRouteの主人公はあの人です。

719 名前:きのこ軍:2020/12/11(金) 07:36:22.772 ID:NDdxqdXMo
ユリガミ様サイコー

720 名前:Route:C-5:2020/12/11(金) 22:42:10.029 ID:OGkBNIQ20
Route:C


                   Chapter5


721 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:44:46.695 ID:OGkBNIQ20
――――――。
わたしは、どこかの荒野に居た。

あの屋敷から移動して――いつの間にか、ここに居たことになる。
……その道中の記憶はない。もう、道中の記憶といった些末なことを考える必要はないのかもしれない。

わたしは、失われた記憶の中で、失われた過程(道中)の中でも、真実に向かって歩いているはずだ。
わたしがそうしていると信じるのが重要であって、それ以外の出来事は些細なことと考えるしかない。

だから――今は、ただ目の前の出来事に集中するだけだ。
辺りの様子を確認する。

死屍累々――橙や緑の軍服を着た兵士たちが、崩れ落ちるように倒れ、折り重なっている地獄絵図だ。

ユリガミ
「……一体、何が起きているの?」

冷静に、状況を判断しながら、わたしは考えを巡らせる。

不思議と――動揺はない。わたしは屍の群れに慣れているのか、
あるいは記憶が完全ではないから、それに伴うように心も鈍麻しているのか。


722 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:45:29.999 ID:OGkBNIQ20
――目の前には、醜い見た目の化け物が居た。
生物ではあるようだ。茸の傘のような頭頂部。長い胴体とは対照的にひどく短い手足。
身体からは腐臭をまき散らし、辺りの雑草を枯らしている――。

その顔は――

ユリガミ
「――っ」

その化け物の、ただ欲望のみを考えた、理知的なところのひとかけらもない顔には、既視感がある。
――失われた記憶の何処かで、この顔への嫌悪感が或る。

化け物
「ヴォオオオーーーーーーッ」

劈くような低い声は、耳障りに辺りを揺らした――。
――その音にも聞き覚えがあり――ああ、なんて……どうしようもなく醜い音なのだろうと感じた。

その時――わたしの頭に稲妻が走ったような感覚があった。


723 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:47:23.557 ID:OGkBNIQ20
???
「――男は存在してはいけない
 その汚らしい身体は誰であろうとも存在してはいけない
 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

唐突に――わたしの中に呪詛のような子供の声がよぎった。
一体、この声は――だれの――声――なの――?

深く考えようとすると、今度はずきりと頭が痛み始めた。
駄目だ――今これについてどうこう考える必要はない。

なにしろ、化け物はわたしを敵として判断している。
――今やるべきことは、目の前にいるこの化け物をどうにかすること。

そうでなければ、真実にたどり着くことすらおぼつかないのだから。


724 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:50:01.398 ID:OGkBNIQ20
ユリガミ
「来い――化け物」

わたしは太刀を抜き、その化け物にその刃を向けた。
闘志で無理矢理頭痛を捻じ伏せる……。そうしているうち、捻じ伏せなくとも頭痛は治まってきた。

化け物
「グチャグチャと、この俺様を化け物と言いやがって――この阿婆擦れが」

化け物は、わたしにそう吐き捨てながら巨大な振り鼓を振るった。
それはメイジにとっての杖のように、音波の真空波を繰り出した。

空気を操る力――それを認識した瞬間、全身の毛が逆立ったような感覚を覚えた。
わたしの根源にある何かが警報を鳴らしているような気がする。

それは記憶の奥底に依るものなのか……あるいは本能に依るものなのか……。
――わたしは、避けられないと観念してしまったのか?


725 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:50:48.702 ID:OGkBNIQ20
――いいや、違う!

化け物
「チーーよけやがるかァ」

わたしは、冷静にその攻撃を回避する。音速の波だろうと、わたしには冷静に対処できるだけの技術がある!
しかし、どうしてこの攻撃に恐怖を覚えているの?

――考えている場合ではない。
矢継ぎ早に、化け物は次の攻撃を繰り出してくる!

化け物
「ダースクエイク」

地面を分割させるほどの地震――

化け物
「ミールメイルストロム」

魔術で作った、大津波――

しかし、大丈夫。よけられる。嵐のような攻勢でもわたしは己を保ち、対処できる!



726 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:51:22.840 ID:OGkBNIQ20
化け物
「グーーちょこまかと、ゴキブリのようによけやがって――」

化け物
「死ねや、ブラックサンダー!」

再び、魔術による攻撃、今度は雷撃がわたしに襲い掛かってくる!
拡散する電流は、うねるようにわたしを包み込もうとする――。

ユリガミ
「せいっ!」

――大丈夫。この攻撃もかわせる。
わたしは、電流の合間を縫って飛び、その跳躍を活かして化け物の頭上から斬り込んだ。

化け物
「ウグァッ!」

ぐにょりとした、ひどく気持ち悪い感覚――完全に切り裂くことができない。
化け物は、頭頂部を振り、その遠心力で太刀ごとわたしを投げ飛ばした。


727 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:53:10.742 ID:OGkBNIQ20
化け物
「いデェーーッ……許さんぞ、この売女ァ、糞アマがァーーッ
 てめェは、所詮下等な存在で――オレ様のような存在のエネルギー補給装置にすぎねぇんだ」

ユリガミ
「――っ」

咄嗟に受け身をとったから、負傷はない。
だが――男の吐き捨てる、品性のかけらのない一言一言が、わたしの神経をぴりぴりと逆なでする。

どうして、こんなに――この化け物の言葉は、わたしの心を揺さぶるの――?
何度も交戦して、こういったことを聞かされてきたの――?

???
「――男なんて存在してはいけない存在そんなどうしようもない生物以下の存在なんて全てこのわたしが消滅させてやる
 何もかも滅ぼしてやる植物だろうと獣だろうと神だろうと例外なく魂魄すべてを殺してやるわたしの目の前から全て殺す
 殺してやる殺してやるわたしの見えないところだろうと何処だろうとそれがこの世界の正しい形正しい在り方」

頭痛が激しくなる。こういった戦いの場では、一瞬の隙すらも与えてはならないのに――。
再び子供の呪詛のような言葉が、わたしの頭の中を巡る。
まるで、それが化け物への反論かのように……。


728 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:54:01.407 ID:OGkBNIQ20
化け物
「――貰った、クソ女がァー!」

わたしが頭を押さえた隙を突いて、その化け物は酷く短い腕を振り上げ、わたしに振り下ろそうとしていた。
だが――

ユリガミ
「お前のような存在に――わたしは倒れるわけがない」

意識もせず、その言葉が出て――同時に、わたしは太刀を振り上げて化け物の腕を斬り落とした。

化け物
「あ――?グギャァアアアアアッ!」

苦しみにもだえる化け物。その傷口からは、コールタールのようなどす黒い血液が、どろどろと溢れている。
太刀には一滴の血液もない。――そして、続けて化け物の片足を捩じ切る!

化け物
「ガァアアーーーーッ!」

骨の継ぎ目を斬り落とす。脆弱な部分を、相手の動きから予測して真っ二つに斬り飛ばした。
返り血がわたしに跳びかかろうとしているけれど、わたしにそんなものは通用しない!
わたしの予想通り……結界に阻まれたように、血液ははじけて霧散した。

729 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:55:15.271 ID:OGkBNIQ20
ユリガミ
「――消滅しなさい」

バランスを崩した化け物の目を切り裂く。鼻を抉り取る。血を吐く口を削ぎ落す。
――わたしは、まるで自分が為せなかったこと成し遂げるような感覚があった。

どうして――?

ユリガミ
「お前の言う、下等な存在に、切り刻まれる方が――下等なのでしょう
 ――この世から、消えてなくなれ」

――吐き捨てるように、見下すように……わたしは化け物に語る。
そのまま、抵抗もままならない化け物の全身を、念入りにバラバラに切り刻み、絶命させた。

化け物
「グギャアアアアーーーーーーーーーーッ」

飛び散る血液。響き渡る断末魔――血液を浴びて、腐り落ちる荒野の草――小動物――。
それなのに、わたしに返り血は一切ない。――あの子の時は、白い衣を染めていたのに……どうしてなのだろう。

不気味なまでに――わたしは綺麗だった。

730 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:56:57.035 ID:OGkBNIQ20
たとえ――兵士たちを殺した化け物を始末したのだとしても――
それはきれいごとでは片付けられないし――あの子を殺したのだから――
わたしは、黒に近い存在なはずなのに――どうして、こんなにも綺麗なの?

太刀を収め、わたしは近くの岩場に腰かけた。
腰かけた岩場に長い髪がぱさりと広がる。そしてわたしは胸に手を当てる……。

ユリガミ
「はぁ、はぁ、はぁ……」

――わたしがこんなに綺麗な理由。それをわたしは知っているはずだ。
何故か、わたしの求める真実に関わっているような気がする――。

けれども、それも思い出せない。同時に、動悸が激しくなる。
――これも、考えてはいけないの?


731 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:57:20.877 ID:OGkBNIQ20
ユリガミ
「……落着け、落着け……」

ゆっくりと、深呼吸し、気分を落ち着かせる。
このことについて考えるのをやめると、動悸は治まり始めた。

ユリガミ
「――大丈夫、わたしが導いてくれるはず」

そして――少しでも、前向きに考えようと、わたしは呟いた。
考えてはいけないことを、体調の変化で知らせる。それこそが、わたしの信じられる感覚と思おう。

真実という本線から外れないように、わたしが止めてくれるのなら――わたしはそれに体を預けよう。

ユリガミ
「――だから、せめて……わたしが真実に辿り着けるように、わたしはわたしに祈ろう」

わたしは立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた……。

732 名前:SNO:2020/12/11(金) 22:57:36.629 ID:OGkBNIQ20
みんな!強い主人公いいよね!

733 名前:きのこ軍:2020/12/11(金) 23:01:58.797 ID:NDdxqdXMo
最強!最強!

734 名前:Route:C-6:2020/12/12(土) 00:02:45.269 ID:pVacs5r60
Route:C


                   Chapter6

735 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:05.364 ID:pVacs5r60
――――――。

気が付くと、わたしは何処かの森の中に居た。
荒野からがらりと風景が変わる。それも、わたしにとっては一瞬の出来事だった。
ここはどこなのか――とも思ったけれど、もう、それについて考えるのはよそう。

どうせ、分からない。記憶を欠損しているわたしにとって、今やるべきことではない。

――月は、木の葉に遮られて見えない。月光も遮られていて、今の満ち欠けはわからない。
月は完全に欠けてしまっているのか……あるいは、ただ遮られているだけなのか。

月を見れないと――少し不安を胸が包んだ。
過程を見ずに辿り着く真実が、本当の真実なの?

大切なことを、見落としてしまうかもしれない――
そう思いながらも、わたしは歩いて……二人の人影を発見した。


736 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:44.624 ID:pVacs5r60
ひとりは、金の角の生えた魔族の女性――もうひとりは、かむろ髪の、白髪の少女――。

途端に、わたしの中に記憶が流れ込んだ。

???
「へぇ、貴女がさっちゃんの……ねぇ
 私は791、よろしくねっ!」

そうだ、魔族の女性の名前は791。人智を越えた魔力の持ち主で、腕力も規格外だったはず。

???
「あたしは、フチ――
 貴女があの人の娘なのですね――
 ……最も、あの人は分け隔てなく話すようおっしゃられていたから、もう少し砕けてもいいかな?」

白髪の少女の名前は、フチ。幼い見た目ではあるけれど、精神は立派な淑女そのもの……。

ふたりとも、わたしの知り合いであることに間違いはない。
……そうなるいきさつまでは、未だ思い出せないけれど。


737 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:07:59.433 ID:pVacs5r60
どうして、この二人がこんな森の中に?
ふたりは、倒木の上に座って、ぼんやりと辺りを見つめている。
恐る恐る、わたしはふたりのもとへと駆け寄った。

ユリガミ
「どうしたの、二人とも」

791
「――あなたは……」

791は、目を丸くして驚いた。
――それは、わたしの起こした悲劇を知っているからだろうか?

791
「なるほど、そういうことか……」

納得したように頷いた791。
彼女は、たしか魔王と呼ばれていた――はずだけれど……
今の彼女は、その単語とは裏腹に――酷く憔悴した表情をしていた。


738 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:09:22.525 ID:pVacs5r60
フチ
「……」

フチは――ただ791の腕にくっついて、俯くばかり。
彼女は、とても天真爛漫で、その小さな身体では抑えられないほどに元気な女性だったはずなのに――。
それに――確か彼女には――。

791
「あなたも知っていると思うけれど……テロ組織の【嵐】は、全世界で大暴れ――
 会議所はギリギリ持ちこたえてる――あとは、企業としてはルミナスマ・ネイジメントも頑張っているほうかな
 でも、ヴァルトラングといった多くの大企業はもう、ダメダメ――当然、中小企業や住民も、言わずもがな……」

わたしが思考する前に、テロ組織の【嵐】――新しい情報が耳に入った。
一体全体、何なの……?世界が混乱していることだけはわかる。

もしかしたら、わたしと相まみえた男や化け物も、それに関係しているのだろうか。


739 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:10:47.799 ID:pVacs5r60
791
「――まぁ、前置きは置いておきましょう
 私――いや、私たちはあなたに……そう、ユリガミとしてのあなたに、頼みごとがあるんだ」

ユリガミ
「頼みごと――」

何故か、幾度もそんなことを言われたような気がする。
ユリガミ――女神と呼ばれているのだから、それは当然なのかもしれないけれど……。

フチ
「――【嵐】、あの組織を消滅させて」

フチは、俯いたまま言った。
表情は見えない。けれども、その言葉の節々からは、怒りと、呪詛と、悲愴さとが入り混じっていることが伺える。

791
「本来なら、【会議所】の管轄なんだけど――
 私は、フチちゃんを守らないといけない――
 守れるのは、もう……私だけしかいないだから……お願い……」

【会議所】の関係者。791に問いただせば、真実はあっさりと分かるのかもしれないけれど……。
791は、俯いたままのフチの身体をぎゅっと抱き寄せていた。

それは、まるで母が子を守る仕草のようで、ガラス細工のように脆く儚く見えて
――何かを尋ねることは、ついには出来なかった。


740 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:11:54.208 ID:pVacs5r60
【嵐】――テロ組織――それはわたしの辿り着く真実と関係があるのか?
分からない。それでも――わたしの向かうべき場所である【会議所】にも影響が出ているのは確かだ。

ならば、わたしと敵対関係となるかもしれない。
あるいは、既になっていることも考えれる。
さらに言えば、【嵐】のせいで真実に辿りつけない可能性だってある。

だから――

ユリガミ
「わかったわ――貴女たちの願いを聞き入れましょう」

わたしは、胸元の【勾玉】を握りながら、願いを受け容れた。
それが、正しい事なのかはわからない。

【嵐】がどういった組織なのもさっぱりとわからない。
それでも、真実に辿り着くために。わたしの為すべき事のためには――必要なことだから。

741 名前:SNO:2020/12/12(土) 00:12:25.141 ID:pVacs5r60
不穏。

742 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 11:18:16.174 ID:nppr98lso
よくわからねぇ〜

743 名前:Route:C:2020/12/12(土) 12:58:32.903 ID:pVacs5r60
Route:C


                   Chapter7

744 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:04:15.435 ID:pVacs5r60
――――――。

相変わらず……辺りの風景は一変していた。

――791もフチも森もここにはない。とはいえわたしは止まることはできない。
前へ前へ、歩き出した途端、再び敵に出くわした。
今度は男どもの集団。銃やら槍やら、物騒な武器を抱え、揃いも揃って、嫌悪感を覚える雰囲気の男たち。


「あの武器――あれはユリガミ……魔女だッ!」


「なに――しかし、いいんですかい?
 殺してはまずいって……」

魔女――女神ではなく?
単に魔術を操る女性を表す単語なだけではなく、
悪魔と契約した災いなすものを魔女と呼んだはずだけど――。


745 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:07:09.983 ID:pVacs5r60

「ボスは、【嵐】の活動の邪魔になるなら、首だけでも持ってこいとのってことだぞ?忘れたのか?」


「ああ、そうだった……奴の執着が晴れてくれてる状況なら、別に構わねえのか」


「行くぞおおおおーーッ!」

よくわからない会話を繰り広げたかと思うと、わたしの前で男たちは円陣を組み、士気を高める……。
――それにしても、【嵐】……都合よく、わたしの前に現れたものだ。

フチ
「あの組織を、消滅させて」

フチが、わたしにそう願った。
791も、それに追従した。わたしの向かうべき【会議所】にも影響が出ている。

なら、【嵐】は真実へ向かう為の敵とみなしていい。
それに、すでに彼方此方に被害を出している組織だ。ここで撃退しないと、面倒なことになるのは目に見えている。
――わたしのことを、良くは思っていないことは、先程の会話の節々から判断できる。

ユリガミ
「――すぅぅ」

抜刀し、刃先を相手に向ける。
相手は集団。数十人は居るだろう……。
わたしは一人。そして得物は姫百合の装飾のある太刀一本。


746 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:10:15.797 ID:pVacs5r60
ユリガミ
「――わたしにとりて、これぐらいの状況は縛めにあらず」

小さく、自分に言い聞かせるように呟く。


「いけェーーーッ!」

一人の声を呼び水に、男たちが武器を構えて左右から攻めてきた。

ユリガミ
「――すうっっ」

わたしは短く息を吸い込んで、、太刀を振るった。

わたしは、一人の首を飛ばし、返す刀でまたひとり、ふたり――その腕や胴を切り裂いた。
それも当然、彼らの動きは視えるのだ。どのように体を動かし、武器を振るのか――初めから終わりまで、全てが。

太刀の切り筋は、鬼をも切り裂く一閃の冥府となり――


「ぎゃァッ!」


「ごふ――」


「がハッ……」

ばたばたと、その命を刈り取った。

747 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:14.614 ID:pVacs5r60

「うおッ!一旦離れろ!」

男たちが飛び退くのを見ながら、わたしは考えていた……。
わたしに襲い掛かってきた長身の男。奴は、太刀を素手で捌く技量があった。
――本人の考えはともかく、技術の研鑽に努めてきたことは明らかな達人だった。

わたしに襲い掛かってきた化け物は、連続して魔術を唱え、抑え込もうという戦略があった。
そして、腐臭やその嫌悪感といった生物的な特性も持っていた。

彼らは、少なくとも――戦闘能力は高く、厄介な存在だった。

だが――この男たち――【嵐】はどうだ。
訓練はされているだろうが――連携に不完全さが見える。
人間か、あるいはオーガか、魔族か――ともかく、欲望だけで生きている――そんな感覚を覚える。

記憶はないけれど――わたしは剣術に身を捧げたことは、感覚的に分かっていた。
技術を長く研鑽してくれば、自ずと相手の動きも読む事が出来し、自分の動きを読ませないようにもできる。

欲望だけしか考えてない存在には――それは出来ない。


748 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:42.314 ID:pVacs5r60

「一斉射撃だ、誤射されんなよぉ!」

男の指示と共に、がちゃり――と重厚な金属音。銃に弾が込められ、引き金が引かれる音。

ユリガミ
「――すぅうう」

一呼吸置く。自分のリズムを作り、相手の動きに注目する。
近距離を相手にする太刀は、遠距離――すなわち飛び道具に対して弱い――そう言われることもある。

しかし――わたしの身体は知っている。
それは間違いであり、飛び道具に対抗する技術を身に付けていることを!

鉛玉が飛び交う。わたしを傷つけんと、空気を切り裂き、硝煙の匂いも辺りに散らばる。

ユリガミ
「はっ!」

問題はない。いくら距離をとっても、弾丸の速度が認識できるよりも速くても――
銃口と、相手の腕と、それから辺りの空気から、その軌道は完璧に読めるのだ。


749 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:14:58.235 ID:pVacs5r60
わたしの背後にあった岩がハチの巣のように穴が開く。
彼らは、わたしの動きに追従するように銃弾を放つが――いずれも読み易い動き。

弾を充填するタイミングで、彼らを切り捨てる。


「う、うわァァァアッ!」


「まずい、このままだと全滅だ!あの魔女にやられちまう!」

――ただ、相手の動きを読んだだけ。これだけのことで、彼らは動揺し、恐慌状態に陥る。
あまりにも――醜い。わたしは、その表情すらも見たくない。
首や胴や腕や足――手当たり次第に斬り殺し、そこに居た男たち――【嵐】は、全て屍と化した。

ユリガミ
「片付いた――」

この戦いは、791とフチの救いになるだろうか。崩壊が願いだったから、これでは足りないかもしれない。


750 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:15:36.453 ID:pVacs5r60
ユリガミ
「…………」

わたしの心は――氷のように冷え切り、何も感じていなかった。
数十人殺しても、何とも思わない。――あの子を斬った時は、あれほど悲しかったのに。
【勾玉】は、白いまま首元で揺れていた。

わたしは心が凍りついているのか――それとも、あの子には、特別な思い入れがあったのか。
一瞬、わたしの中に疑問が芽生えたが、すぐにそれは押し殺した。

ユリガミ
「――どちらでも、いい
 わたしがやるべきことは、真実を見つけること」

そう。悩むことは必要だけど、主体を見失つてはいけない。
今のわたしに重要なことは、それなのだ。
それさえわかっていれば、大丈夫。わたしはその場所へ向かう必要があるのだから――。

751 名前:SNO:2020/12/12(土) 13:15:47.173 ID:pVacs5r60
やっぱり強い!


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