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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

156 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:32:17.868 ID:OkrZNOqs0
――――――。

翌日から、会議所での日常が始まり……3日が経過した。
――それからの日々は、刺激の少ない、変わり映えのしない毎日だった。

短期(お試し)コースの兵士は、日常……すなわち学業であったり、仕事に戻り――。

中期(定期)コースと、長期(会議所)コースは、会議所での業務が始まった。
オレは後者の立場で――大戦に向けた訓練と、運営作業の日々を送っていた。

運営作業――単語だけ見れば内容が多岐に渡り難解そうだが、そう高度なものではない。
大戦場やバーボン墓場の手入れ……会議所の設備の点検や清掃……
事務作業に、武器の手入れといったように、人員が必要な作業が主だった。


157 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:44:46.266 ID:OkrZNOqs0
その作業にも慣れ――オレは昼休みを終えて、何をしようか考えあぐねていると……。

???
「……おや、乙海さん、こんにちは
 お手すきならば、少し手伝ってほしいことがあるのですが」

争いには無縁そうな穏やかな表情を浮かべた、眼鏡をかけた白衣の男性――たけのこ軍の兵士、抹茶がオレに声をかけた。
彼は湯呑を操りながら戦うメイジ――そうB`Zから聞いた。とはいえ――先日の大戦では交戦することがないから、印象は薄い……。

乙海
「別に構いませんが」

抹茶
「それはよかった、研究の手伝いがほしくて――」

――白衣を着て、研究という単語を入れたのだから、抹茶は研究者なのだろうと、オレはひどく短絡的に判断した。


158 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:48:51.248 ID:OkrZNOqs0
乙海
「オレに手伝いできることがあるかはわからないですが」

抹茶
「なに、貴女のスキルに関わることですから」

――その日行う作業の割り振りは、割と自由でもある。
それこそ、時間の余裕があるのならば、訓練や読書といった余暇活動をすることも可能なシステムだ。
オレは、特別な予定もなかったので、抹茶の手伝いをすることになった。

研究室は、ガラスでできた実験器具やらなにやらが置いてあり、机の一つは本の山が出来ていた。
床は汚れたマットが敷いてあり、実験机の上は焦げた跡もあった。

抹茶
「ああ、ごちゃごちゃしているのは気にしないでください
 それよりも、手伝ってほしいのはこれについてです」

オレの訝し気な視線を悟ったらしい抹茶は、すぐになにやら変わった銃をオレに見せた。


159 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:53:52.424 ID:OkrZNOqs0
抹茶
「僕はメイジなので、銃は門外漢でしてね――
 射撃競技の大会にも出て、つい最近の大戦でも狙撃スキルを活かしていた貴女に見てもらおうと思って」

乙海
「ほかにも――銃の扱いが得意なものはいると思いますが」

オレの頭には、エースと呼ばれるきのこ軍兵士――¢の顔が思い浮かんでいた。

抹茶
「確かに¢さんなど、銃の上手い知り合いもいますが
 新人というフレッシュな立場での感想を知りたいんですよ」

――オレの疑問を予期していたかのように、抹茶からは淀みなく答えが返ってきた。

乙海
「なるほど……?」

オレは面食らったように、困惑した声を出していた。
オレの思考が読まれていると判断したためか……あるいは、彼から伝わる熱意のようなもののためか……。


160 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 00:56:38.757 ID:OkrZNOqs0
……同時に、この銃を開発するのに、自分の力を惜しみなく注いだのだろうということも悟った。
オレは、その熱意に応えるべきなのだろう。少なくとも……今オレを必要としているのも熱意によるものだろうから。

乙海
「それで――どうすればいいんですか」

抹茶
「ああ、重さとか、握りやすさとか――部品の感触とかをリポートしてほしいんです」

乙海
「――そういうことか、わかりました」

この発言で、オレは抹茶の言いたいことが、ようやくわかった。
オレは抹茶という存在をよくは知らない……それは彼の立場からしても同じだ。

だからこそ――率直な意見を得られやすい。そういうことなのだ。
幸い、オレはライフル以外の銃も手に取ったことはある。扱い方についても基本的な部分については把握できている。


161 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:03:53.205 ID:OkrZNOqs0

抹茶
「弾は入ってないので、安心してください」

オレは、銃を握り、弾丸が入っていないことを確かめてから、引き金を引いた。

カチン――という音と、引き金を引いた独特の感覚。
……その感触は、手にぴったりと吸い付くよう。トリガーの感覚もいい按排だ。
一つ一つの部品もかみあい、スムーズに撃てそうだ――。

乙海
「――なるほど、これは扱いやすいですね
 ただ一つ、この銃はオートマチックだから、オレには合わないかな……」

オートマチック銃は部品が多く、弾詰まりすることがある。
オレは、再装填の手間と装弾数の少なさを省みても、回転式の方が使いやすいと感じていた。

抹茶
「ふむふむ――射撃が得意な人は、そういう意見か――
 ちなみに、弾は、こんな感じです……試作品ですが」

抹茶は、オレの手に試作品という弾丸を乗せた。
深緑の弾丸。素材は軽いが、ぴりぴりとした感触が肌を刺激する――これは魔力?


162 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:06:22.962 ID:OkrZNOqs0
乙海
「この弾丸はやけに軽いですが――この感触からして、魔力が入ってるんですか」

抹茶
「はい――魔力そのものを弾丸にする武器は存在しています、マジックガン、マジックマシンガンという名前でね
 しかし弾丸に魔力を込めたものはまだ研究段階――試行錯誤する分野になるんです」

抹茶は手元の銃に視線をやってから、またオレの方へと視線を戻した。

抹茶
「だから、ルミナス・マネイジメントと協力して研究しているんです――」

乙海
「……なるほど」

ルミナス・マネイジメントとの関わりは――親父だけではなく、会議所でも長くなるようだ。
様々な組織が集まっている場所なのだからそれも当然といえば当然だが――こうして身近な部分でも接すると、改めてその事実が浮き彫りになる。

163 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:07:01.246 ID:OkrZNOqs0
抹茶
「的も用意したので、試し撃ちしてくれませんか?一応僕が何度かテストしたので安全性は大丈夫です」

抹茶は、部屋の向こうに目配せをした。すると確かに的があり、その下には弾痕の開いた的が4、5個ほど転がっていた。

乙海
「はい」

オレは弾丸を弾倉に込めると、的に視線を向けた。
狙うは中央……オレは息を深く吐くと、弾丸の跳ぶイメージを脳裏に描きながら引き金を引いた。
バスバスと的を銃弾が貫く音。弾痕は、狙い通りの位置に着弾した。

抹茶
「さすが……すごいですね、僕では正確に真ん中を狙うことは難しいので」

抹茶は拍手しながら的の穴を興味深げに眺めていた。

乙海
「弾丸自体は、問題なさそうです
 狙い通りに引き金を引いて、着弾もできたので」

オレは弾丸を抜いて抹茶に銃を返した。


164 名前:Route:A-6 doctor:2020/09/06(日) 01:10:02.953 ID:OkrZNOqs0
乙海
「しかし、この銃の部品は丁寧な仕事だ
 これも抹茶さんが?」

抹茶
「いえ――これはルミナス・マネイジメントを通じてです
 なんでも名うての鍛冶屋に特注で作ってもらったと聞きました――
 僕も分析してみましたが、ズレがほぼないすごい仕上がりです」

抹茶は手元の銃と弾丸を見ながら、感心した風に呟いた。

抹茶
「……それはそうと、ありがとうございました、色々と参考になりました
 今日はこれぐらいにしましょう……なんだか研究意欲が湧いてきたので
 また、協力してもらうかもしれませんね」

抹茶は、銃を机の上に置いて、謝礼の意を仕草で伝えた、すぐに背を向けてノートにメモを取り始めた。
――どうやら、オレの行動で何らかのスイッチが入ったらしい。
研究者だから、やるべきことが見つかったらすぐに全力を注ぐのだろうか?

乙海
「わかりました――また、機会があれば協力します」

ともかく――ここにこれ以上オレが居ても、何も協力できそうなことはない。
門外漢がずっとここにいても彼の迷惑になるだけだろう。
抹茶の熱心な姿勢に感服しながら、そそくさとオレは部屋を出た……。

165 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:12:21.462 ID:OkrZNOqs0
抹茶の部屋を出たオレの前には、一人の兵士がいた。
その顔は半分が鋼で出来ていた。性別は男だが、その佇まいからは金属の重さを感じ取れる。
――白衣を着ているから、彼も研究者か?

???
「コンニちは――確か竹内乙海サンでしたね」

ノイズのかかった、片言の話し方。鋼の肉体がきしみ、ギリギリと音がする。
それは生物的な特徴を切り捨てた不気味な雰囲気をオレに感じさせた。

社長
「ワタシ、トニトルス・フェラムの社長です――お見知りおきヲ」

――トニトルス・フェラム……義肢に関わる会社だから、義肢を装着しているのか?
肉体を捨てたような、不気味な外見に――オレは訝し気な感情で握手を交わした。

166 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:16:29.103 ID:OkrZNOqs0
ずっしりとした鋼の重み。やはりこれは義肢なのだ。
ブラックのものよりも重みを感じる。置換している部位が多いのだろうか……?

社長
「ソレハソウト……ユリガミは素晴らしい女神デス、貴女も信仰してみませんカ?」

……オレが頭の中で考えていると、唐突に胡散臭い言葉でオレに語り掛けた。
ユリガミ……そういった都市伝説は、オレも聞いたことはあった。
とはいえその具体的な内容は知らなかった。ただ、そういう存在がいることだけしか知識はなかった。

乙海
「はぁ……」

知識を得られる……それ自体は有意義かもしれないが、
あまりにも唐突にその話題を振られ、オレは困惑したように答えることしかできなかった。

社長
「ユリガミは剣術を極めた女神……その長イ黒髪と顔は美シク、立ち振る舞いもまた美しイ
 窮地に陥った乙女を助けるが、特に性欲で動く男を嫌ウ……そういう存在デス
 嗚呼トテモ格好良ク美しイ……ウオゥオォォオオオオオ」

早口になって、さらには雄たけびをあげながら話を続けた。
ユリガミの都市伝説に、彼はずいぶんと熱をあげているらしい……が、オレは困惑したままだった。


167 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:18:34.749 ID:OkrZNOqs0
ブラック
「社長、こんなところにいたのですね」

……そうしていると、助け舟とばかりに――社長の後ろから、ブラックが現れた。
そういえばブラックはトニトルス・フェラムの秘書だったはずだ。ならばこの場に居るのもおかしくはない。

それにしても、彼女は背が高い――オレより少し低いぐらいで、170cmは確実に超えている。
社長よりも大きいその身体からは、彼女の方が格が上であるように思えた。

乙海
「どうも」

ブラック
「ああ、乙海さん……こんにちは
 社長は、全身を改造しているユリガミを信仰する者ですが……一応は、悪人ではないのでご安心を」

秘書であるはずのブラックは仕えているであろう社長相手に、そこそこ辛辣な言葉を投げていた。

社長
「ソッスネ」

――そして、社長も否定はしない。この二人は、上下関係のある立場だと思われるが――それが感じられない。
どういうことだろうか……しかし、オレの疑問は解決することなく二人の会話は続いていた。


168 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:19:34.165 ID:OkrZNOqs0
ブラック
「それはそうと――社長はなんでここにいるのですか」

社長
「抹茶サンの部屋に遊びに行こうと思ったら――乙海サンニデアッタんですよ
 ギィギギギキギギギッ」

ブラック
「ああ、そうですか……雑務処理があるので部屋に戻っていただけますか」

社長の聞き取りがたい片言を、ブラックは軽く流していた。
そして相変わらず言葉は淡々としている――この二人の関係性が読めない。

社長
「ソレデハ、社長は風のように去るッス――」

そう言うやいなや、社長は、足に取り付けた義肢のバーニアを作動させ、その場から高速で立ち去って行った。

――あれは義肢に備わった技術の一端なのか?オレはその背中が見えなくなるまでその軌道を目で追っていた。


169 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:21:48.455 ID:OkrZNOqs0
乙海
「一体何だったんだ……」

嵐のように立ち去る、理解できない兵士……。たけのこ軍には、あんな兵士がいるのか……
オレがきのこ軍を選択したのは、正解だったのか……?

ブラック
「……気にしないほうがいいですよ」

呆然と立ち尽くしたオレに、ブラックが頷いた。

ブラック
「一応、彼の会社の義肢の技術は優れていることは間違いありません……
 私の義肢も、トニトルス・フェラムのものですから――」

すこし、気まずそうにブラックは語った。
丁寧な仕草とは裏腹に、やはり右眼を走る傷はどこか痛々しくも見える。

オレが彼女を格上と感じているのはこの傷が故なのだろうか?

ブラック
「会議所は、本当に様々な人物がいるから、ああいった特殊な人物もいます――
 あなたとは馬の合わない人間ではない人物も、少なからずいる――そういうことですね」

……そんなことを考えていると、彼女は話を続けた。

170 名前:Route:A-6 fanatic:2020/09/06(日) 01:22:57.496 ID:OkrZNOqs0
乙海
「………」

――その理屈は理解はできるが、やはり……あの社長という男は、苦手だと思った。

ブラック
「まぁ、あの人は特別とっつきづらいでしょうから、適当に流してくれて構いませんので――」

あたりの空気は少し沈んでいた。困惑と気まずさ靄のように包んでいるようにも思えた。

ブラック
「それはそうと、私の教えた海岸はどうでしたか」

その空気をブラックも察したのか、話題を変えた一言がこぼれる。
共通の話題――するすると話を続けられる前向きな話題……。

乙海
「……あの場所は、よかったです」

ブラック
「なら、よかった……でも、他の方には秘密にしておいてくださいね
 あれは、穴場であるべきですから……」

乙海
「そうですね」

ブラック
「――では、また
 私は、社長の手伝いがありますので」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

171 名前:SNO:2020/09/06(日) 01:23:31.729 ID:OkrZNOqs0
貴重な女性兵士は話動かす中でも便利

172 名前:きのこ軍:2020/09/06(日) 01:42:47.093 ID:tngxbY9Ao
社長やばい人で笑う

173 名前:Route:A-7:2020/09/06(日) 21:16:36.076 ID:OkrZNOqs0
Route:A

                 2013/4/13(Sat)
                   月齢:2.7
                    Chapter7

174 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:19:01.850 ID:OkrZNOqs0
――――――。

それから3日が経ち――オレにとっては二回目となる大戦が始まった。
ルールは兵種制……階級制のように、ランダムに配布される兵種バッヂを身に着けて戦うというものだ。

階級制では、その位に応じた運動能力が身に付くが、兵種制ではそうはいかない。
このルールでは、指定された兵種に応じた行動しかできないという特徴があった。

だから、狙撃の素質がない者が狙撃兵になることもあれば、接近戦の達人が前線兵となることもある。
適材適所になるかならないか……それがランダムで決定されるのがこのルールの醍醐味でもあった。

また、大活躍をした際は、運動能力が強化されるというルールが――階級制のものと、類似している点もある。

とはいえ、単純な基本的な能力ではない、場の変化に対応する力が必要になるルール。
自分の有利不利への対応――それが求められている……。

新人教育課程で聞いたフレーズを、オレは頭の中で反芻していた。

175 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:23:34.581 ID:OkrZNOqs0
兵士
「ほら、バッヂだ
 ――お前さんは衛生兵だな」

当日、オレは、衛生兵となった。
衛生兵……それは、傷ついた味方を手当てし、戦力を取り戻す役割がある。
こうして門外漢の役割を担うことも、よくあることなのだと教育課程で聞いた。

負傷した兵士のほか――戦闘不能状態になった兵士が転送される場所、バーボン墓場に兵士を救うことができる役割がある。
とはいえ、その治癒行動をうまく成功させなければならないのだが……。


176 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:32:52.547 ID:OkrZNOqs0
救う方法はふたつ――ひとつは、メイジとして、治癒魔術を使うことだ。
治癒の魔術は、創傷の回復などに効果を示す魔術……。大戦外の医術でも使われる技術のひとつだ。
原理としては、代謝を促進し、症状の回復を早める治療法というべきか。
――すなわち、主に簡単な外傷と、内科的治療に使われ、素早い治療と、魔力さえあればすぐに治療できる利点がある。

もうひとつは――メイジ以外の、すなわち薬品の使用と、手を動かした治癒。
複雑な外傷や、体内の疾患はこちらが主として使われる。
……こちらは、技術。メイジと違い、理論上は誰でも行うことのできる行為。
技術の研鑽と、道具が必要であるが……複雑な治療においては、こちらが主となる。

とはいえ、オレが大戦で担うのは簡単な応急処置レベルだ。
戦いながら、オレは門外漢の分野である治癒ができるだろうか?


177 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:43:05.479 ID:OkrZNOqs0
オレは、前線でもなければ後方でもない――その中間の部隊に配属された。

黒砂糖
「――乙海か、この前といい、縁がある」

黒砂糖の翡翠色の瞳が、オレを見据えた。
吊りあがった目からの視線は――威圧感を覚える。それが鉄人と呼ばれる強者特有のものなのだろうか?

黒砂糖
「私は爆撃兵だ――ちょっとだけ、面倒な役割だな」

爆撃兵は、文字通り――敵軍を空中から攻撃する兵種だ。
一つは技術の進歩により生まれた小型飛行ユニットを背負うことで――もう一つは、魔力を用いてで飛翔する。

メイジなら後者――ファイターなら前者で戦うが、武器の都合もあり、撃破することが難しい役職でもある……。
活躍することができれば、いわば毒に近いものをばら撒き、敵を永続的に痛めつけられることができるが……。

ともかく、それをちょっとだけ――と表現するのは、自分がその役割を為しえる自信があってのことだろう。
鉄人――そう言われるだけの実力があることを、再び実感していた。


178 名前:Route:A-7 second wars:2020/09/06(日) 21:45:32.923 ID:OkrZNOqs0
黒砂糖
「メイジではないと、こういう役職は面倒だが――
 自分の技術を深める――という点では学べることが多い」

黒砂糖は、応急手当セットのマニュアルを見るオレに、そうアドバイスした。
その佇まいからは大きな自信と信頼感を覚えた。

乙海
「はい」

黒砂糖
「射撃の腕を発揮するにせよ、日々練習や実戦で触れた勘も肝要になる
 ――その勘を鍛える意味でも、やれるだけはやってみておいてほしい」

乙海
「わかりました……」

黒砂糖は、きわめて淡々とした口調で語った。

――そのアドバイスの終わりと同時に、集計班の合図が響いた。

集計班
「ファイエルッ!」

179 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:48:18.704 ID:OkrZNOqs0
――戦局は、初めは両軍ともに肉薄していた。
オレは相手の様子と、味方の動きを伺いながら、応急手当キットを握りしめていた。

黒砂糖
「――メルティカース」

その戦況の中、黒砂糖が爆撃をたけのこ軍陣地に決める立ち回りを見せた。
毒をばらまく魔術を詠唱し――空を魚のように自由に舞い踊りながら、紫煙を地上に覆わせたのだ。

たけのこ軍兵士
「ごほ、ごほっ!」

たけのこ軍
「うう……、やりやがったな……」

メルティカース自体、元々半永続的に続く魔術だが――
大戦では、外部から解除されない限りはそれが永続するような仕組みになっている。
……これは、魔術以外の方法で爆撃を決めたときも同じではあるのだが。

集計班
「たけのこ軍、毒により、戦力1%ダウン……ただいまの戦力差は、きのこ軍90%、たけのこ軍90%です」

集計班のアナウンスが響く。状況はいまだ互角だった。

180 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:49:42.209 ID:OkrZNOqs0
黒砂糖
「――私の仕事はとりあえず為した」

黒砂糖が、オレの隣に舞い降りた。

黒砂糖
「工作兵がメルティカースを解除する可能性もあるが……この毒のアドバンテージを活かしながら戦うことになる」

黒砂糖は、オレに手短に告げた。
工作兵――爆撃兵の作った敵陣への永続的なダメージや、制圧兵の立てた敵軍の士気を落とす制圧旗などを破壊できる兵種……。

黒砂糖
「とりあえず、私は再び跳ぶ……」

オレが、知識を整理している間に、黒砂糖は再び空へと飛んだ。

オレも……衛生兵として活躍できるだろうか?
懐の拳銃に手をかけながら、オレはバーボン墓場までの道のりを確認していた。

オレは、衛生兵……オレ自身が戦闘不能になりバーボン墓場に転送されては、その役割すら果たせない。
敵との交戦を避けながら、なんとか無事にバーボン墓場まで行く必要があるのだが……。


181 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:53:15.201 ID:OkrZNOqs0
――ふと、空中に影が見えた。これは敵の爆撃兵か?

たけのこ軍兵士
「くらえっ、爆撃攻撃ッ!」

乙海
「!」

オレの予感は的中していた。
影が舞うより早く、オレは近くの岩陰に飛び退いた。

瞬間、轟音が響き、びりびりとした衝撃波を岩越しに感じていた。
同時に……辺りに熱気が湧き、だらりと汗が流れ始める。

乙海
「魔術ではない爆撃……どちらにせよ、ここに居ては戦意を奪われてしまう」

オレは、敵の目を避けながら、身をかがめてその場を駆け抜けた。

たけのこ軍兵士
「撃て撃て!」

きのこ軍兵士
「うおおおーッ!くらえ!コパンミジン!」

ガガガッ――と銃が撃たれる音が背後で聞こえる。
魔術による爆音が背後で響く。

社長
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

182 名前:Route:A-7 branch:2020/09/06(日) 21:54:46.291 ID:OkrZNOqs0
乙海
(やや、劣勢か――)

集計班の言葉を背にして、オレは駆ける、駆ける…ただ目的の場所へ向かって戦場を駆けていた。

集計班
「たけのこ軍爆撃兵の攻撃が再び成功、これで爆撃カウンターは2に……」

どこに居ても、同じ声量のアナウンスをオレは聞いていた。

――それにしても、どこかで再び爆撃されたらしい。
なんて面倒な事態が起きたのだ……。

とにかく、一刻も早く、衛生兵としてその職務を全うしなければいけない――。
オレは……与えられた役割のために、転がり込むようにバーボン墓場に駆け込んだ。

183 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 21:57:17.474 ID:OkrZNOqs0
――バーボン墓場は、十字の形をした墓標が、秩序をもった等間隔で整然と並んでいる墓場だが、
その墓標の下に骨が眠ることはない。……すなわち、飾りのようなものである。

両軍の兵士はクリスタルを通して大戦を観戦していた。まるで酒盛り場のように……というより、すでに酒を飲んでいる者までいた。
本物の墓場ならば、このように盛り上がったりはしないだろう……。
少し不謹慎な光景のようにオレは思えた。

あるいは、この姿は仮初で――誰もいないときに、墓場に巣食うなにものかが、夜な夜な盛り上がるのかもしれないが……。

きのこ軍兵士
「オイゴルァ!そこは撃たんかい!」

たけのこ軍兵士
「よしよし……着実に削ってる、これはたけのこ側の勝ちだな?」

まるで、観客のようにふるまう兵士……軍服は着用しているから、服装との乖離にひどくアンバランスに見えた。


184 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:00:43.884 ID:OkrZNOqs0
きのこ軍兵士
「おっ乙海ちゃんか……衛生兵か、さっそく兵力を立て直してくれ!」

たけのこ軍兵士
「クソーッ、ここに来るとは……戦いの展開が読めなくなるじゃないか」

敵のぼやきと、味方の歓迎する声――オレは、その言葉に応じることなく、てきぱきと任務をこなそうとしていた

乙海
「ええと……このキットだな」

衛生兵には、メイジであろうとファイターであろうと、バーボン墓場用の回復キットが配布されていた。
マニュアル通りに回復キットを使用することで、味方兵士の一部が戦線に復帰できるようになる。

きのこ軍兵士
「よし、たけのこ軍をまたやっつけてやるぜ!」

きのこ軍兵士
「サンキューッ!」

きのこ軍兵士
「ありがとう、乙海さん」

様々な兵士が、礼とともに戦場に駆けた。
なんとか、キットを使用できたと安堵したその瞬間――。


185 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:02:26.458 ID:OkrZNOqs0
乙海
「!」

筍魂
「――おっと、不意打ちを防ぐとは」

バーボン墓場から足を踏み出したその瞬間、筍魂が、オレに蹴りを放っていた。
咄嗟に回復キットの蓋で受け流して、なんとかダメージは避けることはできた。

瞬時に、オレは筍魂に銃を抜いて引き金を引いて反撃する!

筍魂
「はっはっは――俺は防衛兵なんでね――まぁ、そうでなくとも銃ぐらいなら防げるが」

筍魂は、物怖じすることなくオレの放った弾丸を盾で逸らして受け流した。
防衛兵――それは味方を守る兵種。どんなに重い一撃でも、その盾で受けきり、そして反撃することが可能。
メイジならば、バリアを張る魔術を操ることができ――ファイターなら、通常なら深手を負う攻撃だろうと、その肉体を持って受け流せると聞いた。

集計班
「衛生兵により、きのこ軍の兵力が5%回復しました
 ただいまの戦力差は、きのこ軍35%、たけのこ軍58%です」

オレの衛生兵としての働きでも、戦況はなかなかひっくり返らない。
あと20%以上の兵力……そして、目の前の手慣れの敵……オレはどう対抗する?

186 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:03:56.318 ID:OkrZNOqs0
筍魂は、微動だにせずにオレを見ていた。オレの動きを待っているかのように。
戦況は常に動いているから、千日手――というわけにはならないだろうが、ここで彼だけに構うメリットはあるだろうか。

回復キットを自陣から持ち出せるのは、1人1個までというルールがあった――。
使ってしまったら自陣まで戻るか、誰かから奪いに行かなくてはいけない。
さて――どうすればいい……?

たけのこ軍兵士
「魂さん、お疲れ様です!その衛生兵を倒しましょう!」

そうこうするうち、ますます、状況は悪化していった。
援軍までやってきたのだ。
オレは、どうやってこの状況を切り抜けるか……。そう思っていると……。

¢
「砲撃ッ!」

¢の声とともに、巨大な砲弾が援軍目がけて飛んできた!

筍魂
「ちっ――横やりが入ったか」

筍魂は、瞬時に転がって避け――その瞬間、砲弾が炸裂した。

たけのこ軍兵士たち
「うわーーっ!」

断末魔とともに、近くに居た兵士たちはオレの背後のバーボン墓場に転送された。

187 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:07:05.875 ID:OkrZNOqs0
乙海
「これは――」

砲撃の衝撃波で、オレの足元には偶然にも回復キットが転がってきた。
回復キットを持ち出せるのは1人1個まで――だが、落としたものや奪ったものでも使用することは制限されてはいない。

乙海
(これはチャンスだ!)

オレは、再びバーボン墓場に行き、キットを作動させた。
兵力は再び回復し、さらに――。

「衛生兵により、きのこ軍の兵力が5%回復しました
 ただいまの戦力差は、きのこ軍32%、たけのこ軍29%です」

先ほどの砲撃もあってか、戦力差はひっくり返っていた。
このままオレの為すべきことを続けなくてはいけない。

きのこ軍兵士
「ありがとう!恩に着るぜ」

社長
「シマッタァ回復サレテシマッタァ、ギギギギギ――」

感謝の言葉。悔しそうな言葉。敵味方入り混じる言葉を背に、オレは再び戦場へ駆けだした。

筍魂
「――おやおや、目ざというえに判断もなかなかのものだ……
 しかしこのまま走らせるわけにはいかんな、戦闘術魂――リーフストーム」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

188 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:17:04.790 ID:OkrZNOqs0
乙海
「くっ!」

――今度はかわしきれず、刃が左腕をかすった。カーキ色の軍服に血がにじむ……。
怪我は軽いようだが、オレはその攻撃を見抜けていないことを認識した。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍25%、たけのこ軍20%です」

ようやく生まれた優位は、未だ残っているらしい……今は目の前の相手に集中できそうか?

筍魂
「さて、瞬時の判断と運もあって、2連続の補給――なかなかセンスがあっていいじゃないか
 しかし、まだまだお前はペーペーだ……俺が戦闘術魂の達人であることを見せないとな」

オレの視線の先で筍魂は、腕をだらりと下げ、手のひらを大きく開いた不思議な構えをとっていた。
――なんだ、どうする気だ?
オレはその一挙手一投足に注目しようと凝視していた。

筍魂
「ストーンエッジ――」

その瞬間、彼は足元の石を蹴り上げ、オレに向けて飛ばした!


189 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:20:48.081 ID:OkrZNOqs0
乙海
「!」

ただ蹴り上げたとは思えない石の速さ――オレは、咄嗟に、その石に銃弾を撃ち込んだ!
標的は小さく、かつ速度もあるが――軌道は読みやすい直線的なものだから、なんとかそれを射貫くことができた。
石と銃弾、二つのエネルギーがぶつかり相殺され、砕けた石が地面に散らばった……。

筍魂
「ほう、大した技術だ――新人という立場は年数だけかもしれないな」

感心したように、筍魂は呟いた。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍18%、たけのこ軍12%です」

それと同時に集計班のアナウンスが聞こえる。
優位はそのまま――そう思った瞬間……遠くで轟音が聞こえた。

同時に、筍魂の持っていた通信機に連絡が入る。

たけのこ軍兵士
「魂さん、制圧兵長がまた活躍してくれた!この調子で攻める!」

筍魂
「そうか」

冷や汗がオレの背中を流れた。
……まずい、嫌な予感がする。このままここに留まってはいけない感覚がある。
しかし……焦って動きだすこともさらにまずい気がする……。


190 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:22:39.086 ID:OkrZNOqs0
筍魂
「――なかなか、やるな
 今、通信機を通した声はお前にも聞こえたと思うが……焦って攻めようとはしない
 射撃競技の入賞者だって791さんから聞いたことがあるが、オレが考える本物の気を感じる」

筍魂が、再び構えを取った。
オレは、銃に弾丸を込め、相手の動きを見る――対峙して、オレも筍魂も動かない。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍4%、たけのこ軍5%です」

……ギリギリの戦況。僅かではあるが再び優位はひっくり返った。
どうする?そんなことが頭を掠めたその瞬間……。

集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は3%でした――」

集計班のアナウンスが聞こえ……オレと筍魂の対峙もなかったかのように、あっさりと大戦は、終わった。
同時に、オレの左腕の傷は綺麗さっぱりなくなっており――血で滲んだ軍服も、いつの間にかきれいになっていた。


191 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:24:09.482 ID:OkrZNOqs0
筍魂
「一応――勝ったか」

筍魂はその場に立ち止まったまま、やれやれ――と手を振りながらそう言った。

乙海
「………」

今回も……敗北したが、軍の敗北に対しては、悔しさも、悲しさもなかった。
心がなぜか揺れ動かなかったのだ。

乙海
「………」

しかし――この状況で、筍魂との戦いに横やりが入ったことには、どこか釈然としないものがあった。

筍魂
「煮え切らない――って表情だな」

筍魂はオレの表情を伺いながら真剣にそう呟いた。


192 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:27:03.145 ID:OkrZNOqs0
乙海
「ああ――」

オレは、先人に対してではあるが――取り繕ったりしない、生の感情で答えていた。

筍魂
「お前のセンス――鍛えればさらに伸びそうだ
 そのもやもやした気持ち――戦闘術魂にぶつけてみないか?」

戦闘が終わるや否や、筍魂はややうさんくさい顔をしながら人差し指を立ててオレに提案した。

筍魂
「なにより、戦闘術魂はメンタル・トレーニングにも最適――
 射撃で重要なメンタルも鍛えられるぞ?」

どうする……?彼は信頼できる人物なのか……?
筍魂の言葉が本当かは分からない。それでも、草や石といった自然物を操り正確にオレに狙った技術は本物だろう。
特に、その行動を読ませない姿勢は研鑽された技術の証明にも思えた。


193 名前:Route:A-7 puer aeternus:2020/09/06(日) 22:29:45.092 ID:OkrZNOqs0
乙海
「とりあえず、お試しで――というのは可能ですか」

――オレは、完全に頷くわけではないが、断るわけでもない……やや腰の引いた折衷案を答えた。

筍魂
「フッフッフッ、それも可能だぞ
 何しろ弟子がほぼほぼいないもんでなっ、ははははは……」

肩をすくめて筍魂は笑った。
そのうさんくささが、弟子のいない理由?それともほかに理由があるのだろうか――。
ともかく、その技術を学ぶことは今後重要かもしれない。射撃以外の技術も、大戦では必要になることはすでに体感済みだ。

乙海
「では、その方針で――」

筍魂
「ああ――とりあえず、月曜日、様子見に、俺の店にでも寄ってきてくれ
 確か、お前は昼の予定が入っていなかったはずだから丁度いい――俺からも、会議所の方に伝えておくから予定も入れられないだろう」

筍魂は、まくしたてるように言葉を並べたかと思うと、その場を立ち去って行った……。
――戦闘術魂を学ぶ。オレにとっては未知の古武術だが、吉と出るか凶と出るか……それはまだ分からなかった。

きのこ軍兵士
「お、乙海そこにいたのか――片づけ手伝ってくれ――」

乙海
「はい」

一抹の不安に胸を馳せながらも、味方の兵士に呼ばれ、オレは大戦の後片付けへと向かった……。

194 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:33:46.877 ID:OkrZNOqs0
オレは大戦の後片付けを終え、帰路についていた。
時刻は19:07――。あれから、後夜祭をそそくさと抜け出して、まっすぐに帰宅したのだ。

オレは後夜祭のことを思い返しながら道を歩いていた。

¢も同じことをしていたから……という理由もある。
彼は……後夜祭の直前、姿を変えてオレに話しかけてきた。

¢
「やぁ、乙海」

乙海
「……ええと、何方ですか」

金髪の短髪に低い身長……覚えのない声と姿をした兵士に、オレは戸惑っていた。

¢
「おっと……僕だ、¢だ」

オレの疑問に答えるように、ぽんと煙が立ったかと思うと、見知った¢の姿がそこにあった。


195 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:34:39.254 ID:OkrZNOqs0
¢
「この後夜祭は、イベントに関わっている兵士以外は自由に帰れる
 今回も、きみは活躍したから、面倒事になるかもしれない……それが苦手なら、だからさっさと帰ってもいいんだ」

¢
「僕は時々こうして他人に成りすまして逃げるようにしている……
 とはいえ、これは僕にしかできない……乙海は適当に言い繕って去ればいいと思うよ」

乙海
「はぁ……」

¢
「いつものことだが、大戦を終えるとすごく疲れるから、毎回毎回さっさと帰ろうと思っていてね……
 エースと呼ばれるぼくがそうするんだから、今回も活躍した新人のきみも同じようにしても文句は少ないはずだ
 たぶん――」

オレはその言葉に深く納得し、同時に¢の考え方に共感もした……。
そんなことを思い返しながら、家のドアを開けると……親父が、新聞を読みながらソファーに腰かけていた。


196 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:37:23.200 ID:OkrZNOqs0

「乙海――帰ったか」

親父は視線だけを動かして、淡々と呟いた。

乙海
「あぁ――久しぶり」

父はいつも家を空けているから、いつ帰ってくるかも不定だ。
このように突拍子もなく家の中に居ることもあった。


「今日は久々に戻ってこれたのでな
 さて、今日の大戦を見ていたが……時の運だけではない、センスがあるのを感じた」

乙海
「そう……みたいだね」

親父は、距離感は疎遠なものの、褒めるときは褒めるし、叱る時は叱る……
オレを導くことに関してはしっかりとした人物でもあった。


197 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:38:59.065 ID:OkrZNOqs0
乙海
「そういえば、戦闘術魂……だったかな
 それを修めているという、筍魂という人に弟子入りしないかと言われたな」


「……ふむ、そういえば乙女はあいつと対峙していたな
 あいつも、乙海のセンスに目を付けたか……」

その口ぶりは、少なからず筍魂のことを知っている――そんな感じを覚えた。

乙海
「彼を知っているのか?」


「……ああ、彼とはいろいろな点で付き合いがあってねオレが会議所で兵士として過ごしていた時に、武術のことで語り合ったことがある
 オレは戦闘術魂に入門はしなかったが、あいつの織りなす技は目で盗んだことはある」

在りし日の憧憬を思い浮かべているのだろうか、感慨深げに親父は答えた。


198 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:39:32.530 ID:OkrZNOqs0
乙海
「………」


「あいつの腕前は本物だ
 彼に並ぶ武術家……オレが知っている限りでも、3人ぐらいしか思い浮かばないな」

乙海
「……それぐらいしかいないのか」


「そうだな……彼女は天性のセンスがあったが、今は姿をくらませているから……
 会議所にいる黒砂糖ぐらいが、あいつに並ぶ武の術を持つものになるだろうか……」

懐かし気に、思いに耽りながら親父は語った。

乙海
「……黒砂糖、鉄人と言われている兵士」

爆撃兵として空を舞った黒砂糖の姿を、オレは思い返していた。

199 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:41:04.977 ID:OkrZNOqs0

「ああ……今日の大戦では爆撃兵として飛び回っていたな
 そういう魔術の扱い方も素晴らしいが、素手での武術に関してもかなり――というより、世界での屈指の腕の持ち主だ」

乙海
「96%の戦力を一人で削いだ――それは聞いたことがあるが、技術面でも優れた兵士だったのか」


「それに関しては、あまり表には出さないからな……
 様々な武術と魔術……総括した技術でその戦闘力を作っている兵士になる
 ……それはそうと、乙海は戦闘術魂をやってみるのか?」

乙海
「――試してみようと思っているよ」


「そうだな、お前はまだ若い
 まだまだ技術をスポンジのように吸収できるから、いいんじゃないか」

オレの答えに、親父は嬉しそうに頷いた。
そういう素振りを見たのは、オレが会議所に入所することを決めたとき以来だった。

200 名前:Route:A-7 old wise man:2020/09/06(日) 22:41:54.368 ID:OkrZNOqs0

「あいつはその内面を掴ませない男だが……悪人ではない
 武術に関しては真摯だ……それ以外がイイカゲンなところはあるがな」

筍魂と親父は、親交関係があるのだ――と、改めて感じる。
思えば親父はそうやって交友関係をオレに話したこともなかったから、それが意外に思えた。

乙海
「ありがとう、親父……決心がさらに固まった」

親父の言葉に背中を押され、さらに親父の違った一面を見られ――オレの口元は知らずに緩んでいた。


「これからオレはまた家を空けることになると思うが、努力は惜しむなよ
 陰からになるが、応援はしているからな」

そして……オレと親父は、本当に久々に……会話をしながら、夕食をとった。

201 名前:SNO:2020/09/06(日) 22:42:41.495 ID:OkrZNOqs0
魔王様の強いところが出てなくね?

202 名前:きのこ軍:2020/09/06(日) 22:43:12.680 ID:tngxbY9Ao
魂ちゃんがすごいイケメン強キャラになってる

203 名前:Route:A-8:2020/09/09(水) 22:21:53.804 ID:YOyIm8lo0
Route:A

                 2013/4/15(Mon)
                   月齢:4.7
                    Chapter8

204 名前:Route:A-8 trickster:2020/09/09(水) 22:25:36.629 ID:YOyIm8lo0
――――――。

月曜日……オレは、筍魂の店――フィリップ・パブを訪れた。
昼食のついでに――戦闘術魂の鍛錬をテストしてみる、という算段だ。

筍魂
「おお、よく来たな――飯にしてから、話でもしよう
 今日は俺のおごりで構わんぞ、光栄に思えっ」

乙海
「……ありがとうございます」

筍魂は、機嫌よくオレを出迎えてくれた。
オレはその張り切った様子にすこしげんなりしながら謝礼の意を伝えた。

フィン
「久しぶりに来たかと思えば――あなた、戦闘術魂に挑戦するのねぇ」

対照的に、フィンは、この前の純粋でにこやかなものとは違い、訝し気な顔でじろじろとオレの顔を見ていた。


205 名前:Route:A-8 trickster:2020/09/09(水) 22:30:04.202 ID:YOyIm8lo0
フィン
「言っておくけど、アタシが先輩だからね」

出来上がった料理を運びながらも、フィンはえへんと胸を張りながら言った。
ほかの客はいない。いたら――おそらくはこういった態度はとらないだろう。
現に初めてオレに出会ったときもそうだった。

乙海
「はぁ……」

筍魂
「まぁ、フィンは一応先に弟子にしたが――兵士ではないからな」

フィン
「うっ……アタシ、年齢足りてないからしょうがないでしょ!」

大戦は18歳以上の者が参加できる。……ということは、フィンは年下なのか。
フィンは顔を赤くしながら反論する様子を、食事を口に運びながらオレは見ていた。

筍魂
「まぁそうだが……スリッパさんも、なんで俺のところに寄越したかよくわからんし……」

乙海
「ルミナス・マネイジメントの社長が、どうしてここに……?」

運ばれた料理を食しながら、オレは素朴な疑問を投げかけた。

フィン
「そんなことは、どうでもいいでしょ?
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

206 名前:Route:A-8 trickster:2020/09/09(水) 22:33:34.231 ID:YOyIm8lo0
筍魂
「まぁ、そうだな
 今日の昼は早めに閉めるつもりだし、いつも通り客も来なさそうだしな」

フィン
「2桁来ればいい方の店に居たら、アタシ暇で死にそうなんだけど……」

――そういえば、オレが来た時も……客はいなかった気がする。

筍魂
「これは趣味だからいいんだよ――それに、退屈に耐えるのも精神修行の一つだ」

フィン
「〜〜〜っ」

不満げな感情を隠そうともしないフィンに対し、筍魂は平然とした表情をしていた。
……この男は、フィンとは違って、奥が読めない。まるで先の見えない暗がりのようだ。

乙海
「ごちそうさまでした」

ややあって、オレは食事を終えた。
味は、前回同様――見たことのない料理ながらも、食が進み、すぐに完食できた。


207 名前:Route:A-8 trickster:2020/09/09(水) 22:35:10.081 ID:YOyIm8lo0
筍魂
「さて……店は閉めるか」

フィンが皿洗いをしている間に、筍魂はカーテンやらなにやらを閉め始め、表の看板には店を閉めたことを示す看板を立てていた。
オレは……その様子を、椅子に座りながら見るだけ。何か手伝った方がいいのかもしれないが――。

フィン
「あんた……あのオッサンは、結構適当だから覚悟した方がいいわよ」

流し台の前に居たフィンが、視線だけこちらに向けて、本人に聞こえないように小声で言った。

筍魂
「はっはっは……なんせ俺は会議所の訓練もサボったりしているからなぁ!」

――しかし、筍魂は笑いながら、胸を張って答えた。
内容は、胸を張るべきかは分からないが……。


208 名前:Route:A-8 trickster:2020/09/09(水) 22:35:39.810 ID:YOyIm8lo0
フィン
「げっ」

筍魂
「なに――誹謗中傷じゃない限り俺は気にせん
 ま、地獄耳なのは伝えたほうがいいけどな」

気まずそうなフィンに対して、筍魂は気にしたそぶりも見せずに答えた。
余裕綽々な態度……それは己の内面を見せつけないための仮面なのだろうか……?

オレは、改めて¢の言葉を思い出していた。

¢
「――人は、みんな仮面をかぶっているんだ
 ぼくも、エースという仮面をかぶって、優秀な人間として見られているが――その中身――性格はこういうものだぞ?」

その内面……それはまったくわからない。
わからないが、オレは戦闘術魂をこれから学ぶことに違いはないのだ……。

209 名前:SNO:2020/09/09(水) 22:36:08.513 ID:YOyIm8lo0
みんなのヒロインは清楚かと思ったら意外と毒を吐くタイプ?でした

210 名前:きのこ軍:2020/09/10(木) 23:10:24.962 ID:EFvf57pko
現実のフィンはまるで言葉が通じなかったというのに…

211 名前:Route:A-8 tactics "sprirt":2020/09/12(土) 20:38:00.252 ID:60ldZAIo0
筍魂は、店の掃除をしながらどこかから持ち出したマットを敷き始めた。

乙海
「これは……?」

フィン
「めんどぉだけど、この上で座禅を組んだりするのよ」

フィンが、胸を張りながら答えた。
――オレが年上であることは、オレが軍服を着ていることからも察していそうではある。
だからこそ、先輩風を吹かせて、アイデンティティを保っているのだろうか……?

オレは、フィンがどういった人物かも知らない。
今後も顔を合わせるかは分からないが――今後も同門の弟子として付き合うことになるだろうから、知っていた方がいいかもしれない。




212 名前:Route:A-8 tactics "sprirt":2020/09/12(土) 20:41:01.045 ID:60ldZAIo0
筍魂
「さて――」

筍魂は、後ろ手を組んでオレたちを見た。

筍魂
「戦闘術魂――これは、かつてブルボン王朝のルーヴェラに伝わる古武術だった」

ブルボン王朝……オーガの住まうルマンド大陸の一国。ルーヴェラはその地域の一つだ。
その青い瞳と、そして男女問わず高い身長がオーガの特徴であり…筍魂の外見も、その特徴をよく反映していた。

乙海
「ブルボン王朝の武術……ということは、貴方もオーガ?」

筍魂
「ああそうだ――お前もその背の高さと、目の色はオーガと見受けると……どうなんだ?」

浮かんだ素朴な疑問の答えと、返される質問は、想定できていた。

乙海
「母が――オーガの血を引いている」

――そう、幼いころに亡くなった母親も、ブルボン王朝出身だったのだ。


213 名前:Route:A-8 tactics "sprirt":2020/09/12(土) 20:44:29.177 ID:60ldZAIo0
筍魂
「ほー、それならこの戦闘術魂は合ってるかもしれないな」

感心したように、筍魂は頷いた。

フィン
「……アンタ、オッサン側だったの?エルフのアタシが仲間はずれみたいじゃない」

筍魂
「フフフ、性別は同じだろう……それに、素質があるかなんてまだ見てないぞ」

そして、オレに突っかかるフィンと……それを諫める筍魂。
二人は、師弟というよりは、親戚関係――例えるならば、叔父と姪のように――見えた。
そのやり取りは、オレが親父とはしたとはない類の会話で……どこか、オレに足りないものがそこにあるようにも思えた。

筍魂
「……話は脱線したが、戦闘術魂は云わば精神と肉体の完全な融合を成し遂げるもの
 自分の中にある力の扱い方を引き出すことができる武術だ……」

自信満々に、筍魂は語った。

214 名前:Route:A-8 tactics "sprirt":2020/09/12(土) 20:47:52.235 ID:60ldZAIo0
乙海
「……?」

複雑で、難解な言葉を並び建てられ……オレの脳は、疑問符で頭を埋めていた。

フィン
「難しいこと言ってるようだけど、言い直せば……
 メイジでない人間でも、メイジのように魔力を操れる――ってことよ」

そんなオレに、フィンが答えをくれた。
それは端的で、オレの中にあった疑問が次々と氷解した。

……なるほど、もともと体内に魔力を多く持つ――それがメイジの定義の一つだ。
しかし、魔力自体はどんな生物や物質の中にも存在している……魔力の閉じ込められた特殊な結晶もあることもそれを裏付けている。
だからこそ、それを操ることができるというもう一つの定義によって、メイジという存在が決定されるのだ。

とはいえ――魔力を操ることなら、誰でも行うことができる。
それを証拠に、魔力を動力とした器具も多い。伝線から魔力を流すシステムも存在している。

筍魂
「まぁ、そういうことだ――大戦で見せた攻撃も、微弱魔力を操ったということだな」

筍魂は、自慢げに、したり顔をして答えた。


215 名前:Route:A-8 tactics :2020/09/12(土) 20:52:54.026 ID:60ldZAIo0
乙海
「それと、メンタル・トレーニングがどう繋がるのかが分からない……」

しかし、新たな疑問は生まれた。

筍魂
「ふっ、メイジが魔力を操るためには精神的な修行が必要なんだ
 当然、この武術でもしている――まぁ、メイジのものと趣は多少違うかもしれないが」

乙海
「……なるほど」

――メイジについて、オレは表在的な知識はあれど深い部分まではオレは理解していなかった。
……しかし、筍魂の言葉と新人教育課程や、世間一般的な知識が絡み合い、すとんと腑に落ちた。

筍魂
「さて――戦闘術魂の素晴らしさを解説したところで……
 とりあえず、今から鍛錬するか!」

そんなオレの表情を読んでか、筍魂は張り切って言葉を紡いだ。

フィン
「うるさいなぁ――言われなくてもわかってるけど、その無駄にうるさいのはやめて……」

乙海
「はぁ」

――そして、どこか冷めたフィンと……様子を伺うオレの答えが同時に紡がれた。
どちらとも、その張り切った感情にうんざりしている……そういった点では、共通していた。

216 名前:Route:A-8 meditation:2020/09/12(土) 20:58:27.133 ID:60ldZAIo0
筍魂
「戦闘術魂は、精神を重要視する――
 戦闘術魂は、今から示す言葉が全てだ」

筍魂
「無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する」

ニッと歯を見せながら、筍魂は人差し指をチッチッと振りながら言った。

乙海
「……?」

――真剣な顔つきで語る筍魂の言葉の意味が、どうしても…掴めなかった。
なんだ――なにが言いたいんだ……。
どういう意味だろうか……オレが、誰から見てもわかるぐらいに悩んでいた。
今までも、わからないことに直面したことはあったが――この謎かけはオレにとって一番の難問だった。

フィン
「アンタわからないんだ――ふふっ、うふふっ」

そんなオレを見ながら、フィンはしたり顔で笑っていた。

乙海
「………フィンは、分かるのか?」

オレは、ゆっくりと、絞り出す声でフィンに訊ねた。

217 名前:Route:A-8 meditation:2020/09/12(土) 21:01:30.773 ID:60ldZAIo0
フィン
「そうよっ、なんせ先輩だからねぇ
 年下だけどあんたより学んでるからねぇ」

胸を張るフィン。……小さな身体を大きく見せて自慢しているのは虚勢を張っているのか、それとも自信の裏付けなのか……。

筍魂
「フィン……確かにお前は理解はできてるが、アウトプットがまだまだだからな」

筍魂は、ニヤリとしながら淡々と指摘した。

フィン
「うっ!」

その言葉は図星なのか、フィンは目を丸くしてぴくりと一瞬跳ねた。
――その光景から察するに、その言葉の意味にたどり着くことと身に着けることは完全なイコールではないようだ。

筍魂
「まぁ、乙海はこの意味を考えることが一つ目の鍛錬で――もう一つは、その意味を自分に使えるかってことだ」

乙海
「ふむ……」


218 名前:Route:A-8 meditation:2020/09/12(土) 21:05:39.361 ID:60ldZAIo0
筍魂
「そのためにも――精神を集中させる瞑想は大切だ
 瞑想の中で言葉の意味を考え――そして実行することが鍛錬の一つだ」

筍魂の言葉は鋼のようにしっかりとした説得力があった。
…その重みのある言葉は、フィンもうなずくだけ……オレは、この言葉の意味を知らなければならないようだ。

それから、マットの上で座禅を組み、オレは瞑想を始めた……。

目を瞑り、極力当たりの音を聞かないように――意識の中にトランスした。

……はじめは、思い出が頭を駆け巡った。
小学校――徐々に背が高くなるオレ――人魚の少女との出会い――
中学校――オレの力だけで、生活していく日々――父とはたまに会うぐらいで――
高等学校――射撃部に入り、練習し――全国大会まで進む光景――。

けれど、そのレパートリーがなくなるにつれ……オレが見る光景は、奥深くに沈んでいった……。

心の中で光景が浮かぶ――それはオレ自身がどこかに居る光景だ。
それは暗黒――宇宙の中に――ぽつんと佇むオレだった。


219 名前:Route:A-8 meditation:2020/09/12(土) 21:06:00.945 ID:60ldZAIo0
オレは――どこにいる?
オレの見る世界は、すべて――なのだろうか――。

その闇の中は、世界すべてのようにも見えるが――世界の中の一部のような気もする。
遠くで見える瞬きもまた、世界を構成するものだから……。

それでは、オレは一体、世界の中でどういう存在なのだ……?
オレは光なのか闇なのか――正なのか負なのか――その闇を漂うオレにはわからない。

そもそも――オレは何を求めている?
勝利か?あるいは夢幻の一時か?

オレは……。
……………………………。

オレ
「―――――!」

乙海
「!」

――気が付くと、オレはトランス状態から戻っていた。

220 名前:Route:A-8 meditation:2020/09/12(土) 21:08:37.195 ID:60ldZAIo0
何か……掴んだような気もするが……。

筍魂
「……その顔、少しは真理に近づいた顔だな」

筍魂は、したり顔でオレを見ていた。

フィン
「へー、このおっさんが言うからにはセンスはあるのね……」

フィンは、不満そうな顔をしながらも、認めるような発言をしていた。

筍魂
「今後も瞑想を続ければ……たどり着くんじゃないか?
 会議所での作業の割り振りがなかったらここへ来い、どうせ客なんてほぼいないからなぁ、はっはっは……」

筍魂は、あまり誇るべきではないことを誇らしそうに語っていた。
……やはり、この男は、底が読めない。
そんなことを思っていながら、オレはただそこに佇んでいた。

221 名前:SNO:2020/09/12(土) 21:09:00.286 ID:60ldZAIo0
意外!それはWARSのパクリ!

222 名前:きのこ軍:2020/09/13(日) 09:39:08.185 ID:Xqoo728so
うれしすありがとう 習得がんばれ

223 名前:Route:A-9:2020/09/15(火) 22:43:34.264 ID:lPQrte8s0
Route:A

                 2013/4/20(Sat)
                   月齢:9.7
                    Chapter9

224 名前:Route:A-9 church:2020/09/15(火) 22:45:10.578 ID:lPQrte8s0
――――――。
あれから、5日が経った。
同時にオレにとって三度目の大戦の日でもあった。

オレは、手が空いているときはひたすら瞑想を続けていた。
……瞑想するたび、何か掴みそうになりながらも……その決定的な部分までには触れられない。
なんとも歯痒く、消化不良な日々を送っていた。

筍魂
「この分だと……真理は、大戦で掴めるかもしれんな」

乙海
「……はぁ」

……昨日、修行を終えたオレに、筍魂はそう言った。
心なしか嬉しそうにも見えた。表情と声色からは、それを伺わせなかったが……。
どことなく、彼の醸し出す雰囲気が、そう言っているように思えた。


225 名前:Route:A-9 church:2020/09/15(火) 22:45:48.946 ID:lPQrte8s0
フィン
「アタシは大戦じゃなくても、真理にたどり着いたけどね」

その横で、フィンは誇らしげにしたり顔をしていた。

筍魂
「……まぁ、真理の理解と実戦での発揮は全然違うがな」

フィン
「うぅぅ……っ」

その横で、筍魂は横やりを入れて、フィンは悔しそうに顔を赤くしながらぶるぶると震えていた。
やはり二人は、叔父と姪のようなそんな雰囲気を見せていた。

オレは――昔から、家族との付き合いが少なかった。そして、それで特に困る事もなかった。
だが……この光景を見る限りは、その体験も必要だったのだろうか……少しだけ、そう感じていた。

……まだ、集合時間に充分早い。
オレは、これまでの出来事を思い返しながら、会議所内部にある教会を訪れていた。
なぜなら――そこには黒砂糖が常にいる場所だからだ。

黒砂糖は教会でカウンセラーのような役割を担っており、
筍魂の謎かけのヒントがないかを探りにやってきた……とういうわけだ。


226 名前:Route:A-9 church:2020/09/15(火) 22:49:46.250 ID:lPQrte8s0
黒砂糖
「乙海――おはよう」

神父装束に身を包んだ黒砂糖が、オレに短く挨拶を交わした。

黒砂糖
「その様子からするに、悩んでる――ってところのようだ
 まぁ、この衣装は単なる趣味で、私は無神論者であることは先に言っておこう
 カウンセラーの役割であることは確かだけれど」

――その立場にありながらも責任感を半分放棄している部分が、筍魂のように思えた。

乙海
「……戦闘術魂の謎かけに、今悩んでいる
 たどり着けそうでたどり着けない――筍魂は、大戦で辿り着けるとは言っていたが……たどり着けるのかが少し不安だ」

黒砂糖
「戦闘術魂――そういえば、乙海の空き時間はいつもあのパブに行っていたな」

納得したように、黒砂糖は何か考え事をしていた。


227 名前:Route:A-9 church:2020/09/15(火) 22:52:40.029 ID:lPQrte8s0
黒砂糖
「……大戦は実戦の一つで、毎回展開が異なる
 その特徴からいえば……謎かけの答えに辿り着ける可能性はあるだろう」

乙海
「……」

黒砂糖
「端的に言えば、無限の可能性があるのだから――答えを見つけられることには違いない」

乙海
「……なるほど、ありがとうございます」

黒砂糖
「これは完全な私の持論で、確実な答えではないが……
 ひとつの参考になったら幸いといったところ」

黒砂糖の一言は、確かにひとつの納得となってオレの中に染み渡り……大戦でその結論を見つける目標に昇華された。
オレは――答えを見つけるために今日の大戦で戦うのだ!


228 名前:Route:A-9 church:2020/09/15(火) 22:58:21.149 ID:lPQrte8s0
乙海
「……これは別件だけれど、どうして神父なのに無神論者なのかを教えてほしい」

黒砂糖
「神という概念は――全てを見、理解している存在――私はそう考えている
 我々が神と呼んでいる存在は――そうではない
 例えば、大戦の軍神だが――軍神になったからとはいえ知識が手に入るわけではない」

淡々と――しかし、確固たる自信があるのだろう、淀みなくすらすらと持論を語った。

黒砂糖
「それに――本当に神がいるのなら……すべてを知っている者が存在するのなら――
 われわれが会議所で会議する必要はないし、会議所の名も必要ない」

……きのこたけのこ大戦を運営する会議所の名前――それは、意見を出し合うことで協力することがもとになっている。
つまり――。

乙海
「ここが神ではない、すべてを知りえない者たちが集まったからできた組織だから……神はいない、ということ」

黒砂糖
「そう――あるいはすでに神は私たちに介入したくないという考えにもなるかもしれないな
 どちらにせよ、信じるのは自由だろう――社長はユリガミとかいう女神を信仰しているように」

――そういえば、あの社長という兵士はそういう人物だったと、黒砂糖の言葉でいま一度思い出した。


229 名前:Route:A-9 church:2020/09/15(火) 22:59:48.126 ID:lPQrte8s0
黒砂糖
「私が神父なのは、昔――神職に近いことをしていたから――それだけだ
 社長が語っているユリガミのほかにも――そのほかにも……恐ろしい力を秘めた剣と鏡と勾玉が存在するやら、
 この世の理は神とやらが作ったやら――そんな眉唾物の話もいろいろ聞いたりもしたな」

そして、黒砂糖は遠い眼をしながら、小さくそう呟いた。
すこし言葉が詰まったのは……何かを思い出そうとしたがゆえだろうか。

不思議と、黄昏の海岸を――人魚の少女と出会った日を思い出すときのオレに似ていると、思った。

黒砂糖
「まぁ、こんな戯言は捨て置いてほしい
 今、乙海が考えるべきことは先に相談した内容だろうから……」

そう言うと、黒砂糖は椅子に座って本を読み始めた……。

乙海
「はい」

そしてオレは小さく御辞宜をしてその場を立ち去った……。

230 名前:Route:A-9 inferiority:2020/09/15(火) 23:02:59.089 ID:lPQrte8s0
あれから、オレはストレッチをしながら集合場所――大戦場へと向かい、
大戦を待っている兵士たちの隙間で、係員の動きをじっと見ながら、真理について考えていた。
今日のルールは階級制で、階級バッヂが配られるのを待ちつつも、その手さばきを見る。

きのこ軍兵士
「ほれ、今回は二等兵=だ」

オレが思考の海に漂っているうちに、いつのまにかバッヂを受け取った。
最下級の階級バッヂを軍服につけながら、オレは考える――実戦でたどり着くべき真理を見れるのだろうか?

黒砂糖
「先ほどのこと、まだ悩んでいるのか」

その肩を、黒砂糖にぽんと叩かれた。

乙海
「……真理を見つけられるかが、まだ分からない」

黒砂糖
「……さっきも言ったが、大戦には無限の可能性があるし、きみにもその素質はあるから問題ないだろう
 焦りすぎても答えにはたどり着かないしな」

黒砂糖は、オレの肩を再びぽんと叩きながらそう答えた。


231 名前:Route:A-9 inferiority:2020/09/15(火) 23:09:56.572 ID:lPQrte8s0
集計班
「お待たせしました、ただいまより第164次きのこたけのこ大戦の準備が完了いたしました
 それにつき、定刻通り13:00から大戦を開始します……」

オレがその言葉に何か返そうとした瞬間、集計班のアナウンスに遮られた。

集計班
「ファイエルッ!」

そして……何か返す間もなく、代り映えのしない合図とともに戦いが始まった。

…………。
しかし、今回の戦いは劣勢だった。

始めはきのこ軍側が優勢だったが、参加したきのこ軍兵士とたけのこ軍兵士の割合に差があり、
ここぞとばかりに、たけのこ軍が獅子奮迅の活躍を見せた。
じわじわと、味方は徐々にやられ――気が付けば兵力差も大きくついていた。


232 名前:Route:A-9 inferiority:2020/09/15(火) 23:15:48.727 ID:lPQrte8s0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍46%、たけのこ軍71%です」

そのアナウンスに、オレの近くに居た兵士はがくりとうなだれ、どんよりとした雰囲気になっていた。
……対照的に、スコープで見た敵は士気を高め、気持ちが昂った雰囲気……に見えた。

オレは――その状況に心は揺れなかった。
それはオレが勝利以外の目標に向かっているからなのだろうか?

黒砂糖
「……これは面倒、やろうと思えばいけるかもしれないけれど――かなり無茶が必要」

いつの間にか、黒砂糖はオレの隣に立ち言葉を紡いでいた。

黒砂糖
「この味方の不甲斐なさ――見捨ててもいいが、奥の手を使って少しでも粘ってみよう
 少なくとも乙海は動揺していないようだから、実質、きみの援護として――」

黒砂糖はちらりと周りの兵士を見やり、そしてオレに向き直って言った。

233 名前:Route:A-9 inferiority:2020/09/15(火) 23:19:09.894 ID:lPQrte8s0
その仕草は、面倒くさそうにも見えるが――黒砂糖は、指を虚空に滑らした。
……これは、何かを描いているのか?その軌跡は何らかの物体を形取り……。

そこには、きのこ軍兵士の幻影が具現化していた。

乙海
「……!」

オレは、思わず息を呑む……このような形の魔術も、あるのか……と。
同時に――海岸で絵を描いていたときの情景も脳裏に浮かんだ。

黒砂糖
「さっきも言った通り――私の隠し玉、生きている兵士ではなく、ただの分身にすぎない
 簡易的なデコイのようなもの……乙海はこれを利用しながら射撃で抵抗してほしい」

黒砂糖は、そう言いながら魔術を詠唱し始めた。
……分身を生み出しながら、さらに攻撃魔術を使おうとする……そこには圧倒的な魔術の技量のようなものが感じ取れた。

……ともかく、オレもうかうかしてはいられない。ライフルを構え、敵の様子を確認することにした……。

234 名前:Route:A-9 learning:2020/09/15(火) 23:23:34.885 ID:lPQrte8s0
乙海
「…………」

スコープ越しの敵は、勢いに乗りながら味方を次々と撃破していた。
ダメージを負い、バーボン墓場に転送されていく味方……オレは、それをただじっと見ていた。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍29%、たけのこ軍68%です」

――――。

きのこ軍兵士
「うっ、負けたくねぇええ!!うおおーっ!」

きのこ軍兵士
「軍神様、俺らに力をーーー!」

B`Z
「待て!無駄に行くんやない!!ここは冷静に反撃を……」

その劣勢を耐えきれずに、一人、また一人と玉砕覚悟で突っ込んでは撃破される。
参謀――B`Zはその行為が愚かであると知っているようだが……周りの兵士はそうではないということか。

乙海
(見る……オレは、相手を視る)


耐えなくてはいけない――苦しくても、焦燥感が胸を包んでも……。
飛び出してどうにかしようというのは、心が乱れた愚かな行動なのだ――。


235 名前:Route:A-9 learning:2020/09/15(火) 23:24:20.321 ID:lPQrte8s0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍22%、たけのこ軍60%です」

時間が経つごとに、きのこ軍の兵力は風前の灯火となり……一方のたけのこ軍は半分以上の兵力を残していた。
その優位な状況に、たけのこ軍の中にはどこか緩んだような雰囲気も見える……。
が、浮かれず淡々と攻撃する兵士――それこそ、筍魂や、加古川もおり、対応が難しい。

オレはその様子をスコープ越しに眺めていた。
隣で黒砂糖の作ったデコイが撃ち抜かれても、不思議と動揺はなかった。

オレの思考にはある一つの考えだけがあり――もはや、オレが狙われるかというのは意識の外に追いやられていた。
兵士が集まった全体、それが軍というグループ……。それは――無秩序の全にあたるのではないか?

いや、何も軍だけではない。……オレの住む町、あるいは会議所……それも、様々なものが集まった全だ。
……全と解釈できるものは、幅広くこの世に存在するのかもしれない……。


236 名前:Route:A-9 learning:2020/09/15(火) 23:25:42.655 ID:lPQrte8s0
――――。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍15%、たけのこ軍58%です」

徐々に追い詰められている。このまま戦力差で押し切られる可能性も高い。
しかし――それでも、オレは冷静に戦いの推移を見る。

¢
「ぼくは何とかなっているが、相手の攻勢が激しい!
 くっ!また来た――」

……通信機越しの声も、遠ざかる。オレの思考には考えが浮かんでいた。
グループは、個々人の集まりによって構成されている……。すなわち一にあたるのではないか?

世界は一括りにして俯瞰できるが、事細かく見れば……それは無限の一の集まりではないか?

……すなわち、オレ。スコープ越しのたけのこ軍兵士の一人一人……。
少なくとも彼らは、余裕の表れか、あるいは油断か……どこか真剣味を失った表情をしている。


237 名前:Route:A-9 learning:2020/09/15(火) 23:26:11.862 ID:lPQrte8s0
乙海
「そこか――!」

オレは、何かを悟り……そして、彼らの隙を見つけた。
もはや蟷螂之斧かもしれないが……それでも、オレのなすべきことをなす!

たけのこ軍兵士
「うぁっ!?」

たけのこ軍兵士
「あがが……ッ」

油断した兵士の、意志の弱い銃の動きを、オレは読むことができた。
その銃口に、ライフルの弾丸を当て……同時に暴発させる!

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍5%、たけのこ軍43%です」

――戦局への影響はわからないが、悟りの果てに得た攻撃……。
不思議と、オレの中には何かが満たされた――そんな感覚があった。

238 名前:Route:A-9 learning:2020/09/15(火) 23:30:02.836 ID:lPQrte8s0
集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は32%でした――」

終戦を告げるアナウンスも、オレにとってはもはやどうでもよかった。

きのこ軍兵士
「うぅぅう……たけのこ軍、数で押すとは卑怯だぞ!」

B`Z
「落ち着くんや、きのこ軍の人を増やすために何ができるかが重要や」

きのこ軍兵士
「次回は勝つぞオラァ!練習、鍛錬、やったるぞ!」

味方は敗北したことに何らかの反応を示していたが……オレには全く持ってその感情がなかった。

黒砂糖
「乙海……何か掴んだような瞳をしている?」

黒砂糖の声に、オレは納得するように頷くだけだった。

――そう。オレは、戦いの中で真理を垣間見た……そんな感覚を受けていたのだ……。
その足掛かりを――劣勢の中の反撃で……。

この感覚を忘れないように、オレは両手を握り締めていた。

¢
「乙海も悔しいようだ……次は頑張ろう」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

239 名前:SNO:2020/09/15(火) 23:30:31.468 ID:lPQrte8s0
実際の大戦の展開まんまなので描写し大戦できのこ軍三連敗してますね・・・

240 名前:きのこ軍:2020/09/16(水) 21:52:12.010 ID:2L/.r96go
黒ちゃんマジレギュラー

241 名前:Route:A-10:2020/09/19(土) 00:01:27.980 ID:ig2Z2/yg0
Route:A

                 2013/4/26(Fri)
                   月齢:15.7
                    Chapter10

242 名前:Route:A-10 trance:2020/09/19(土) 00:03:59.013 ID:ig2Z2/yg0
――――――。

それから、6日が経過した。
大戦の中で真理のようなものが見えてもなお、オレは足しげくフィリップ・パブに通っては瞑想を続けた。

『無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』

その言葉の意味を、心の中で探し続けた。
大戦で、垣間見た真理を、意識の中で追い求め続ける……。

その日――オレが瞑想して訪れた世界は……まったくの暗闇だった。


243 名前:Route:A-10 trance:2020/09/19(土) 00:06:40.279 ID:ig2Z2/yg0
ふと、ごぼり、とあぶくが立った。
オレは深い深い処にトランスしていた。

ここは海の底なのか――?あるいは別の場所なのか――。
塩辛い液体が全身を包む感覚を、オレの心は捉えていた。

何も見えない場所。それでも、何かの溶液に包まれていることだけはわかる。
それは体温に近い温度で、オレはその中で一人佇んでいた。

オレは……その世界そのものなのか?
いいや――違う。オレはその世界の一部のはずだ……この溶液はオレではないからだ。

しかし……世界のかけらであることに違いはない。
この世界は、オレが居て成り立つ――そういった予感を覚えたからだ。

――その暗闇に、一筋の光が差した。
……陰の世界に陽が混じり――それでも、この世界は存在している。

オレは――陰陽に交じって溶け合っている……。
流動する溶液に、オレは流され――オレは世界と融合する……。

それは――まるで――。

244 名前:Route:A-10 trance:2020/09/19(土) 00:07:28.686 ID:ig2Z2/yg0
ああ、そうか――と思う。

無秩序の全……世界はとても無秩序なものなのだ。
オレの居たこの暗闇は、光と混じり変容する――それでも、世界そのものであることに変わりはない。
……そして、その変容を続ける世界の中に、オレという個人が、一として存在している。

――その世界は、光と影に――陰陽に支配されているのだ。
そうだ。陰陽はマイナスとプラスの関係と同義だ。
例えば、大戦で劣勢の時、味方には絶望するものがいて、敵には喜ぶものが居た。

世界は陰陽で包まれ――オレはその構成された要素の一つであり――同時に、オレの行動でも陰陽を操れる。
オレが初めて参加した大戦では、オレの行動によって味方の気持ちは高まった……。
そう、オレが陰陽のうちの陽を引き出すことができたのだ……。

つまり、それこそが――。

その瞬間、オレの意識は急激に引き戻される。
溶液から投げ出された意識が、フィリップ・パブまで戻り――そして、かっとオレは目を見開いていた。

同時に、全てを掴んだ感覚が、オレにあった。

245 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:09:33.040 ID:ig2Z2/yg0
筍魂は、オレの表情を見て、ニヤリと笑っていた。

筍魂
「……その顔は、ついに気が付いたか」

乙海
「おそらく……」

筍魂
「お前の考えを述べてみろ、聞いてやる」

フィン
「へー、やっといけたんだぁ、教えて教えてっ」

真剣な筍魂と、どこかからかうようなフィンの態度は対照的で――それもまた、オレが語ろうとする結論の後押しをしていた。


246 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:10:17.246 ID:ig2Z2/yg0
乙海
「…………」

オレは、どうにか辿り着いた結論を頭の中で整理し――反芻する。

乙海
「『無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』」

乙海
「無秩序の全――これは、この世界そのもの
 世界は数多の無秩序によって進行しているが故――」

筍魂
「………」

フィン
「………」

オレが語り始めると、筍魂も、フィンも真剣な表情になっていた。
……フィンもそういった態度をとるのは、正直意外だったが……オレは、話を続けた。


247 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:10:57.859 ID:ig2Z2/yg0
乙海
「次に、一に帰し――これは、オレそのもの
 この世界の無秩序さは、個々の存在がかかわっている」

乙海
「例えば、オレが呼吸することによって大気の酸素と二酸化炭素のバランスが変化するが……
 秩序あるバランスがわずかに変化した無秩序になる……
 あるいは、大戦でオレの攻撃によって味方の気持ちが高まり、逆に敵の気持ちが低まるのも――そう言える」

乙海
「……それが生命力の流れに繋がる
 オレが生存するための行動――その流れだけでも、世界の理の一部に――同化することになる」

乙海
「……加えれば、そこに陰陽が絡んでいる
 光と影、影と光――この二つの概念は切っても切れない関係で、個々が複雑に交じり合って世界を作っている」

乙海
「これが、オレの出した、結論……」

――どうにか、オレのたどり着いた結論を述べることができた。
すらすらと――流暢に語ることができたが、緊張のためか、喉がからからになっていた。

思わずオレはよろけそうになり、足に力を込めてなんとか耐える……。

248 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:12:29.505 ID:ig2Z2/yg0
筍魂
「ほう……」

興味深そうに、顎に手を当てながら話を聞いていたかと思うと、突然拍手を始めた。

筍魂
「いいだろう、その解釈で問題はない――」

乙海
「そうですか」

オレは内心胸を撫で下ろした。
オレの感じ取った世界が――オレの受け取った感覚が――どうにか、求めるべき答えに辿り着いたことに。

とにかく……これで、メンタルという部分ではある程度成長できたはずだ。
あとは、技術面だ。筍魂はこれが全てとは言ってはいない……。

フィン
「アタシと同じこと言ってる、やっぱり結論は似たり寄ったりなんだぁ」

乙海
「そうかもしれないな……」

一方で、フィンは、相変わらず突っかかるように――それでも、少し柔らかめの口調で言った。
多少は、オレのことを評価したのだろうか……?


249 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:13:26.927 ID:ig2Z2/yg0
筍魂
「さて――その言葉が戦闘術魂の基礎の基礎というわけだ
 戦闘術魂の肝である、いわば微弱魔力の操作もその言葉通りになるわけだが……
 それは、このフィンもまだ会得していない」

筍魂は、フィンをちらりと見ながら言った。

フィン
「っ〜!」

フィンは地団駄を踏みながら、悔しそうに筍魂を見つめる……。

筍魂
「これからは……技術を鍛えることになる……
 まぁ、時間はいつも通りで構わないがな」

そんなフィンの視線をスルーしながら、筍魂はオレに語った。

筍魂
「とはいえ、もういい時間だ――修行は今度で、
 今日は晩飯でも食べていくか?もちろん俺のおごりだ、成長祝いとしてのな」

フィン
「あ、あたしも食べるからね」

乙海
「……お願いします」

筍魂
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

250 名前:SNO:2020/09/19(土) 00:15:06.464 ID:ig2Z2/yg0
解釈これであってるのかはわからーん

251 名前:きのこ軍:2020/09/19(土) 00:32:07.980 ID:uha7bd/Io
あってるでしょ。
--
目に見えない世界の流れ。
そこにいるそれぞれの兵士はそれぞれちっぽけな“一”であり、同時に“全”でもある。

ありとあらゆる全ては同じ一つの存在である。その“一”から生まれる“正”や“負”の流れは即ち“全”の流れ と同化する。
“一”は“全”、“全”は“一”。
それこそが世界の理。戦闘術魂の真理。

252 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:35:19.911 ID:ig2Z2/yg0
――夕飯を終え、オレはハーブティーを飲みながらほっと溜息をついていると……。

フィン
「乙海、悔しいけど貴女はライバルね……あたしの中でのライバル2号よ、気に入った」

フィンは、手を握ったり開いたりしながら、オレに話しかけた。

乙海
「そうか……」

思えば――オレはこうやって突っかかってくる手合いと出会ったことがなかった。
射撃競技も――己との闘いであるため、それをする暇があればとことんまでに目的に向かう方が効率的だった。

その新鮮さに、オレは思わず口元を緩ませていた。

フィン
「よし!あたし、友達から教えてもらったタロット占いでもしてあげる」

フフンと胸を張りながら、フィンは机の上に22枚のカードを散らばせた。
表裏がばらばらになるように、全体をかき混ぜ……それを3つの山に分け、目を瞑りながら1つの山に戻す……。

フィン
「手慣れてるでしょ?練習したんだから……」

そう言いながら、フィンは22枚のカードをオレに見せた。

253 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:38:05.090 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「……じゃあ、あなたの悩みや心に秘めてること、ぼかしてもいいからまず教えて」

オレの悩み――いろいろあるが……一番オレにとって重要なのは、人魚の少女のことだろうか。

乙海
「じゃあ、幼いころに出会った友人……遠い場所に行ってしまったが、再開できるか――これについて尋ねよう」

しかし……人魚のことを話すわけにもいけないので、オレはぼかしながら答えた。

フィン
「へぇ……孤独そうだけどあなたにもそんな人いたんだね、意外ね
 じゃあ、あなた自身のを示すカードをこの中から選んで」

乙海
「……それを」

オレが選んだカードは、戦車の正位置……。
二輪の戦車に乗った兵士……彼はその手にきのこの錫杖を持ち、馬に引かれて陣地に凱旋している……。
その様子を称えるきのこ軍兵士たちが遠くに描かれている……。

フィン
「この図柄は、前に進もうとする意思――負けず嫌い――勝利――そういった意味合いがある」

フィン
「意外ね、乙海ってそんな素振りないのに……実は自分と戦ってるとかぁ?」

筍魂
「射撃は己との闘いと言うから、合ってそうだな」
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254 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:38:48.578 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「うるさいなぁ……リズムが崩れるからあまり話しかけないで
 続いて、乙海に立ちふさがるもの……引いて」

オレの選んだカードは、悪魔の正位置……。
厳つい角を携えた屈強な大男……その脇には、打ちひしがれたきのこ軍とたけのこ軍の兵士が座り込んでいる。
大男の顔は牡鹿。その爪は猛禽類のもの……キマイラのようにぐちゃぐちゃに混ぜ合わされた雰囲気がある。

フィン
「乙海に立ちふさがるのは混沌とした恐怖……何か面倒なトラブルに巻き込まれるかもよぉ?」

ふさげたように語るフィン。悪魔のカードを戦車のカードの上に重ねる。

フィン
「次は……あなたが認識している事柄についてね」

オレの引いたカードは……吊られた男の正位置。
逆さに吊るされたたけのこ軍兵士が、味方にヤジを飛ばされている……。
つまりは……戦犯への非難、というわけか?連続で、あまりよくない絵柄を引いているような気がする……。

フィンは、吊られた男のカードを戦車の上方に置いた。

フィン
「乙海は忍耐の人……射撃をやっているからそれも当然かぁ」

筍魂
「フィンも忍耐がいるんじゃないのか?」

納得したようなフィンの言葉に、筍魂が再び茶々を入れる。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

255 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:40:00.602 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「うるさぁい……次、次行くよっ
 乙海の認識してない事柄、潜在意識!さぁ引いて!」

急かされるように引いたカードは、皇帝のカードの正位置だった。
玉座に座るたけのこ軍兵士。その胸には元帥のバッヂが輝いている。
しっかりとした姿勢で、軍配を掲げた姿はまさにリーダーのようだ。

フィン
「積極性、向上心――前者はあなたの雰囲気からすると意外ねぇ
 まぁ、戦闘術魂を学ぶのは積極的かもしれなけどぉ」

筍魂
「そうだぞ」

積極性……確かに、戦闘術魂で鍛錬することを決めたのは、オレの心がそうすべきと判断したからだ。
それは己に何か足りないと思っていたが故の行動……そういうことなのか……?

フィン
「じゃあ、次は乙海の最近の出来事!それから、これから起きるであろう問題の原因!」

皇帝のカードを吊られた男の真逆に置き、フィンは再びカードを選ばせようとちらりとこちらを見やる。

オレが引いたカードは……世界のカードの逆位置だった。
初めて、逆位置の絵柄を引いたことになる……。
空に浮かぶきのこ軍とたけのこ軍の兵士。その周りをカラスやシラサギが祝福するように舞っている……。



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