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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

728 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:54:01.407 ID:OGkBNIQ20
化け物
「――貰った、クソ女がァー!」

わたしが頭を押さえた隙を突いて、その化け物は酷く短い腕を振り上げ、わたしに振り下ろそうとしていた。
だが――

ユリガミ
「お前のような存在に――わたしは倒れるわけがない」

意識もせず、その言葉が出て――同時に、わたしは太刀を振り上げて化け物の腕を斬り落とした。

化け物
「あ――?グギャァアアアアアッ!」

苦しみにもだえる化け物。その傷口からは、コールタールのようなどす黒い血液が、どろどろと溢れている。
太刀には一滴の血液もない。――そして、続けて化け物の片足を捩じ切る!

化け物
「ガァアアーーーーッ!」

骨の継ぎ目を斬り落とす。脆弱な部分を、相手の動きから予測して真っ二つに斬り飛ばした。
返り血がわたしに跳びかかろうとしているけれど、わたしにそんなものは通用しない!
わたしの予想通り……結界に阻まれたように、血液ははじけて霧散した。

729 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:55:15.271 ID:OGkBNIQ20
ユリガミ
「――消滅しなさい」

バランスを崩した化け物の目を切り裂く。鼻を抉り取る。血を吐く口を削ぎ落す。
――わたしは、まるで自分が為せなかったこと成し遂げるような感覚があった。

どうして――?

ユリガミ
「お前の言う、下等な存在に、切り刻まれる方が――下等なのでしょう
 ――この世から、消えてなくなれ」

――吐き捨てるように、見下すように……わたしは化け物に語る。
そのまま、抵抗もままならない化け物の全身を、念入りにバラバラに切り刻み、絶命させた。

化け物
「グギャアアアアーーーーーーーーーーッ」

飛び散る血液。響き渡る断末魔――血液を浴びて、腐り落ちる荒野の草――小動物――。
それなのに、わたしに返り血は一切ない。――あの子の時は、白い衣を染めていたのに……どうしてなのだろう。

不気味なまでに――わたしは綺麗だった。

730 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:56:57.035 ID:OGkBNIQ20
たとえ――兵士たちを殺した化け物を始末したのだとしても――
それはきれいごとでは片付けられないし――あの子を殺したのだから――
わたしは、黒に近い存在なはずなのに――どうして、こんなにも綺麗なの?

太刀を収め、わたしは近くの岩場に腰かけた。
腰かけた岩場に長い髪がぱさりと広がる。そしてわたしは胸に手を当てる……。

ユリガミ
「はぁ、はぁ、はぁ……」

――わたしがこんなに綺麗な理由。それをわたしは知っているはずだ。
何故か、わたしの求める真実に関わっているような気がする――。

けれども、それも思い出せない。同時に、動悸が激しくなる。
――これも、考えてはいけないの?


731 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:57:20.877 ID:OGkBNIQ20
ユリガミ
「……落着け、落着け……」

ゆっくりと、深呼吸し、気分を落ち着かせる。
このことについて考えるのをやめると、動悸は治まり始めた。

ユリガミ
「――大丈夫、わたしが導いてくれるはず」

そして――少しでも、前向きに考えようと、わたしは呟いた。
考えてはいけないことを、体調の変化で知らせる。それこそが、わたしの信じられる感覚と思おう。

真実という本線から外れないように、わたしが止めてくれるのなら――わたしはそれに体を預けよう。

ユリガミ
「――だから、せめて……わたしが真実に辿り着けるように、わたしはわたしに祈ろう」

わたしは立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた……。

732 名前:SNO:2020/12/11(金) 22:57:36.629 ID:OGkBNIQ20
みんな!強い主人公いいよね!

733 名前:きのこ軍:2020/12/11(金) 23:01:58.797 ID:NDdxqdXMo
最強!最強!

734 名前:Route:C-6:2020/12/12(土) 00:02:45.269 ID:pVacs5r60
Route:C


                   Chapter6

735 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:05.364 ID:pVacs5r60
――――――。

気が付くと、わたしは何処かの森の中に居た。
荒野からがらりと風景が変わる。それも、わたしにとっては一瞬の出来事だった。
ここはどこなのか――とも思ったけれど、もう、それについて考えるのはよそう。

どうせ、分からない。記憶を欠損しているわたしにとって、今やるべきことではない。

――月は、木の葉に遮られて見えない。月光も遮られていて、今の満ち欠けはわからない。
月は完全に欠けてしまっているのか……あるいは、ただ遮られているだけなのか。

月を見れないと――少し不安を胸が包んだ。
過程を見ずに辿り着く真実が、本当の真実なの?

大切なことを、見落としてしまうかもしれない――
そう思いながらも、わたしは歩いて……二人の人影を発見した。


736 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:44.624 ID:pVacs5r60
ひとりは、金の角の生えた魔族の女性――もうひとりは、かむろ髪の、白髪の少女――。

途端に、わたしの中に記憶が流れ込んだ。

???
「へぇ、貴女がさっちゃんの……ねぇ
 私は791、よろしくねっ!」

そうだ、魔族の女性の名前は791。人智を越えた魔力の持ち主で、腕力も規格外だったはず。

???
「あたしは、フチ――
 貴女があの人の娘なのですね――
 ……最も、あの人は分け隔てなく話すようおっしゃられていたから、もう少し砕けてもいいかな?」

白髪の少女の名前は、フチ。幼い見た目ではあるけれど、精神は立派な淑女そのもの……。

ふたりとも、わたしの知り合いであることに間違いはない。
……そうなるいきさつまでは、未だ思い出せないけれど。


737 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:07:59.433 ID:pVacs5r60
どうして、この二人がこんな森の中に?
ふたりは、倒木の上に座って、ぼんやりと辺りを見つめている。
恐る恐る、わたしはふたりのもとへと駆け寄った。

ユリガミ
「どうしたの、二人とも」

791
「――あなたは……」

791は、目を丸くして驚いた。
――それは、わたしの起こした悲劇を知っているからだろうか?

791
「なるほど、そういうことか……」

納得したように頷いた791。
彼女は、たしか魔王と呼ばれていた――はずだけれど……
今の彼女は、その単語とは裏腹に――酷く憔悴した表情をしていた。


738 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:09:22.525 ID:pVacs5r60
フチ
「……」

フチは――ただ791の腕にくっついて、俯くばかり。
彼女は、とても天真爛漫で、その小さな身体では抑えられないほどに元気な女性だったはずなのに――。
それに――確か彼女には――。

791
「あなたも知っていると思うけれど……テロ組織の【嵐】は、全世界で大暴れ――
 会議所はギリギリ持ちこたえてる――あとは、企業としてはルミナスマ・ネイジメントも頑張っているほうかな
 でも、ヴァルトラングといった多くの大企業はもう、ダメダメ――当然、中小企業や住民も、言わずもがな……」

わたしが思考する前に、テロ組織の【嵐】――新しい情報が耳に入った。
一体全体、何なの……?世界が混乱していることだけはわかる。

もしかしたら、わたしと相まみえた男や化け物も、それに関係しているのだろうか。


739 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:10:47.799 ID:pVacs5r60
791
「――まぁ、前置きは置いておきましょう
 私――いや、私たちはあなたに……そう、ユリガミとしてのあなたに、頼みごとがあるんだ」

ユリガミ
「頼みごと――」

何故か、幾度もそんなことを言われたような気がする。
ユリガミ――女神と呼ばれているのだから、それは当然なのかもしれないけれど……。

フチ
「――【嵐】、あの組織を消滅させて」

フチは、俯いたまま言った。
表情は見えない。けれども、その言葉の節々からは、怒りと、呪詛と、悲愴さとが入り混じっていることが伺える。

791
「本来なら、【会議所】の管轄なんだけど――
 私は、フチちゃんを守らないといけない――
 守れるのは、もう……私だけしかいないだから……お願い……」

【会議所】の関係者。791に問いただせば、真実はあっさりと分かるのかもしれないけれど……。
791は、俯いたままのフチの身体をぎゅっと抱き寄せていた。

それは、まるで母が子を守る仕草のようで、ガラス細工のように脆く儚く見えて
――何かを尋ねることは、ついには出来なかった。


740 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:11:54.208 ID:pVacs5r60
【嵐】――テロ組織――それはわたしの辿り着く真実と関係があるのか?
分からない。それでも――わたしの向かうべき場所である【会議所】にも影響が出ているのは確かだ。

ならば、わたしと敵対関係となるかもしれない。
あるいは、既になっていることも考えれる。
さらに言えば、【嵐】のせいで真実に辿りつけない可能性だってある。

だから――

ユリガミ
「わかったわ――貴女たちの願いを聞き入れましょう」

わたしは、胸元の【勾玉】を握りながら、願いを受け容れた。
それが、正しい事なのかはわからない。

【嵐】がどういった組織なのもさっぱりとわからない。
それでも、真実に辿り着くために。わたしの為すべき事のためには――必要なことだから。

741 名前:SNO:2020/12/12(土) 00:12:25.141 ID:pVacs5r60
不穏。

742 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 11:18:16.174 ID:nppr98lso
よくわからねぇ~

743 名前:Route:C:2020/12/12(土) 12:58:32.903 ID:pVacs5r60
Route:C


                   Chapter7

744 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:04:15.435 ID:pVacs5r60
――――――。

相変わらず……辺りの風景は一変していた。

――791もフチも森もここにはない。とはいえわたしは止まることはできない。
前へ前へ、歩き出した途端、再び敵に出くわした。
今度は男どもの集団。銃やら槍やら、物騒な武器を抱え、揃いも揃って、嫌悪感を覚える雰囲気の男たち。


「あの武器――あれはユリガミ……魔女だッ!」


「なに――しかし、いいんですかい?
 殺してはまずいって……」

魔女――女神ではなく?
単に魔術を操る女性を表す単語なだけではなく、
悪魔と契約した災いなすものを魔女と呼んだはずだけど――。


745 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:07:09.983 ID:pVacs5r60

「ボスは、【嵐】の活動の邪魔になるなら、首だけでも持ってこいとのってことだぞ?忘れたのか?」


「ああ、そうだった……奴の執着が晴れてくれてる状況なら、別に構わねえのか」


「行くぞおおおおーーッ!」

よくわからない会話を繰り広げたかと思うと、わたしの前で男たちは円陣を組み、士気を高める……。
――それにしても、【嵐】……都合よく、わたしの前に現れたものだ。

フチ
「あの組織を、消滅させて」

フチが、わたしにそう願った。
791も、それに追従した。わたしの向かうべき【会議所】にも影響が出ている。

なら、【嵐】は真実へ向かう為の敵とみなしていい。
それに、すでに彼方此方に被害を出している組織だ。ここで撃退しないと、面倒なことになるのは目に見えている。
――わたしのことを、良くは思っていないことは、先程の会話の節々から判断できる。

ユリガミ
「――すぅぅ」

抜刀し、刃先を相手に向ける。
相手は集団。数十人は居るだろう……。
わたしは一人。そして得物は姫百合の装飾のある太刀一本。


746 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:10:15.797 ID:pVacs5r60
ユリガミ
「――わたしにとりて、これぐらいの状況は縛めにあらず」

小さく、自分に言い聞かせるように呟く。


「いけェーーーッ!」

一人の声を呼び水に、男たちが武器を構えて左右から攻めてきた。

ユリガミ
「――すうっっ」

わたしは短く息を吸い込んで、、太刀を振るった。

わたしは、一人の首を飛ばし、返す刀でまたひとり、ふたり――その腕や胴を切り裂いた。
それも当然、彼らの動きは視えるのだ。どのように体を動かし、武器を振るのか――初めから終わりまで、全てが。

太刀の切り筋は、鬼をも切り裂く一閃の冥府となり――


「ぎゃァッ!」


「ごふ――」


「がハッ……」

ばたばたと、その命を刈り取った。

747 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:14.614 ID:pVacs5r60

「うおッ!一旦離れろ!」

男たちが飛び退くのを見ながら、わたしは考えていた……。
わたしに襲い掛かってきた長身の男。奴は、太刀を素手で捌く技量があった。
――本人の考えはともかく、技術の研鑽に努めてきたことは明らかな達人だった。

わたしに襲い掛かってきた化け物は、連続して魔術を唱え、抑え込もうという戦略があった。
そして、腐臭やその嫌悪感といった生物的な特性も持っていた。

彼らは、少なくとも――戦闘能力は高く、厄介な存在だった。

だが――この男たち――【嵐】はどうだ。
訓練はされているだろうが――連携に不完全さが見える。
人間か、あるいはオーガか、魔族か――ともかく、欲望だけで生きている――そんな感覚を覚える。

記憶はないけれど――わたしは剣術に身を捧げたことは、感覚的に分かっていた。
技術を長く研鑽してくれば、自ずと相手の動きも読む事が出来し、自分の動きを読ませないようにもできる。

欲望だけしか考えてない存在には――それは出来ない。


748 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:42.314 ID:pVacs5r60

「一斉射撃だ、誤射されんなよぉ!」

男の指示と共に、がちゃり――と重厚な金属音。銃に弾が込められ、引き金が引かれる音。

ユリガミ
「――すぅうう」

一呼吸置く。自分のリズムを作り、相手の動きに注目する。
近距離を相手にする太刀は、遠距離――すなわち飛び道具に対して弱い――そう言われることもある。

しかし――わたしの身体は知っている。
それは間違いであり、飛び道具に対抗する技術を身に付けていることを!

鉛玉が飛び交う。わたしを傷つけんと、空気を切り裂き、硝煙の匂いも辺りに散らばる。

ユリガミ
「はっ!」

問題はない。いくら距離をとっても、弾丸の速度が認識できるよりも速くても――
銃口と、相手の腕と、それから辺りの空気から、その軌道は完璧に読めるのだ。


749 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:14:58.235 ID:pVacs5r60
わたしの背後にあった岩がハチの巣のように穴が開く。
彼らは、わたしの動きに追従するように銃弾を放つが――いずれも読み易い動き。

弾を充填するタイミングで、彼らを切り捨てる。


「う、うわァァァアッ!」


「まずい、このままだと全滅だ!あの魔女にやられちまう!」

――ただ、相手の動きを読んだだけ。これだけのことで、彼らは動揺し、恐慌状態に陥る。
あまりにも――醜い。わたしは、その表情すらも見たくない。
首や胴や腕や足――手当たり次第に斬り殺し、そこに居た男たち――【嵐】は、全て屍と化した。

ユリガミ
「片付いた――」

この戦いは、791とフチの救いになるだろうか。崩壊が願いだったから、これでは足りないかもしれない。


750 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:15:36.453 ID:pVacs5r60
ユリガミ
「…………」

わたしの心は――氷のように冷え切り、何も感じていなかった。
数十人殺しても、何とも思わない。――あの子を斬った時は、あれほど悲しかったのに。
【勾玉】は、白いまま首元で揺れていた。

わたしは心が凍りついているのか――それとも、あの子には、特別な思い入れがあったのか。
一瞬、わたしの中に疑問が芽生えたが、すぐにそれは押し殺した。

ユリガミ
「――どちらでも、いい
 わたしがやるべきことは、真実を見つけること」

そう。悩むことは必要だけど、主体を見失つてはいけない。
今のわたしに重要なことは、それなのだ。
それさえわかっていれば、大丈夫。わたしはその場所へ向かう必要があるのだから――。

751 名前:SNO:2020/12/12(土) 13:15:47.173 ID:pVacs5r60
やっぱり強い!

752 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 18:42:08.547 ID:7nRg7TfQo
魔女って響きがキーワードぽいな。

753 名前:Route:C-8:2020/12/12(土) 19:28:59.955 ID:pVacs5r60
Route:C


                   Chapter8

754 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:33:29.840 ID:pVacs5r60
――――――。

わたしは、どこかの建物から出てきたところだった。
目の前にはたくさんの群衆……まるで、出迎えられているかのような感覚。

群衆
「おおおっ!黒い髪に、巫女装束に、太刀を携えている――
 あれは間違いなくユリガミサマだ!」

群衆
「うおおおーー!」

――彼らや彼女らも敵?いいや、違う。敵ならもう少し敵意でも見せるはず……。
敵意を隠せる達人の可能性もあるけれど――そんな達人が、そういるものか。

それに――人々の顔は、とても疲弊しているし、子供や老人も居る。
包帯を巻いていたり、松葉杖をついていたり――ゴホゴホと咳き込む者もいる。

それすらも、演技――の可能性はあるけれども……。

群衆
「ユリガミサマ――ユリガミサマ――っ」

懇願するような人々の声。助けを攻ざわめきがこだまする。
それを聞くと、わたしの名前は――ユリガミのなのだ――と、改めて思えてくる。

それに、敵ならばわたしのことを魔女と呼ぶだろう。
そして決して覆すことのできない審判を下し……抹消にかかるだろうから。

755 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:35:09.144 ID:pVacs5r60
少年
「ぼくのパパ、【嵐】の化け物に殺されて……」

少女
「今、【嵐】が世界を滅茶苦茶にしてるの!助けて!おねえちゃ――じゃない、ユリガミサマ」

老人
「ワシの孫が、【嵐】のテロ行為に巻き込まれて……意識が今も戻らん」

……わたしは、人々に願いを託されていた。
そういえば――わたしは、791とフチから願いを託されていた。ユリガミは、人々の願いを叶える存在として認識されている?

???
「皆さん――落ち着いてください」

わたしに詰め寄るたくさんの人々は、ひとりの女性の凛とした声を聞いて、さっとわたしから距離を取った。
彼女が歩く道を、人々が作っていく。まるで海を割った奇跡のように。

ヤミ
「こんばんは、ユリガミサマ」

丁寧にあいさつした女性は、ヤミだった。
天狗装束とは違い、黒いメイド服に身を包んでいる。
それでも、彼女のその丁寧な立ち振る舞いは変わらない。


756 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:40:29.361 ID:pVacs5r60
ヤミ
「ようやく、貴女を見つけることができましたね」

ヤミは、わたしの全身をちらと見やりながら、嬉しそうに頷いた。

ヤミ
「さて、貴女に伝えたいことがあります――
 それは、【嵐】は今、世界中の人々を傷つけているということです
 世界の中枢たる【会議所】では、【大戦】を一時休戦とし、被害を受けた人々の救済にまわっている状況です……」

真剣な表情で、わたしに語るヤミ。
【嵐】に苦しむ人々。自然現象よりも恐ろしい、人の悪意によって苦しむ人々……。
その語りは、屋敷で出会った時とは雰囲気が違う。恐らくは――人々の代表としてここにいるから。

ヤミ
「そして――わたくしは――この場の代表として――
 貴女に願いを託したい――」

ヤミ
「今の貴女にとって、重荷になることは重々承知しています――
 それでも、【嵐】に苦しむ人の救済を――どうか手伝ってほしいのです」

申し訳なさそうに深く礼をするヤミ……その背には、人々の様々な思いが込められていることに間違いはない。


757 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:42:10.641 ID:pVacs5r60
ユリガミ
「わかったわ――貴女たちの願いを、聞き入れましょう――」

わたしは、【勾玉】を握りながら、はっきりと答えた。
それは、ヤミと――その背に居る人々の願いを聞き入れることが、ある種の救いになるから。

ユリガミ
(わたしは――【嵐】と戦わなければならないから……)

そして――もう一つ。791とフチが、わたしに願ったから。
彼女たちの願いを、他者も持っている――それほどまでに、【嵐】はこの現世に根深く蔓延っているらしい。

ヤミ
「ありがとうございます」

群衆
「うおおおーーっ!ユリガミサマ、ありがとうございます!ありがとうございます――」

ヤミの丁寧な礼の後、群衆は歓声で賑わっていた。
その様子を、わたしは――どこか、他人事のように見ていた。


758 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:46:23.146 ID:pVacs5r60
――その時、ヤミがわたしだけに聞こえる声で、言葉を続けた。

ヤミ
「貴女だけでは手に余ることは――わたくしが受け持ちます」

一体何のことだろうか。思い当たる節はない。
あるいは――これもまた、失った記憶の中に理由があるのかもしれない。

ユリガミ
「――ええ、ありがとう」

……それでも、わたしは頷いた。ヤミからかつて聞いた言葉を思い返しながら。

ヤミ
「此の場所は、わたくしが必ず護ります――貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」

ヤミは、わたしに対して少なからず、何らかの関係があったことは確かだ。
だからこそ……今もこうして、こっそりと言葉を告げたのだろう。

759 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:51:36.388 ID:pVacs5r60
ヤミはわたしのことを知っている節があるから、わたしを頼るのも頷ける……。
けれども――人々もまた、わたしに願いを託した。
ユリガミとは、その名の通り、女神として――あるいは女神の使いとして動く存在なのだろうか。

苦しむ人々の為に奔走する……それは、目的を果たすためには必要な過程だから、ヤミと人々の願いを引き受けたことに問題はない。
……今も、こうやって、わたしは【嵐】と戦う道を選んでいるから、【嵐】はわたしを魔女と呼称しているのだろうか。

それでも――わたしの記憶は未だ不完全だ。

――わたしは、善の存在なのか?
善ととるか、悪ととるか――それは第三者の観測にすぎない。
【会議所】や、苦しみに喘ぐ人々――あるいは、【嵐】のように、立場が変わればすべては異なるから。

わたしは――どうなの?
少なくとも、あの子をこの手にかけた。その理由はいまだに思い出せない。
わたしが善悪かを判断するために、真実に向かっているのだろうか?

いいや――違う。
あの子を殺したこと自体そのものが、既にわたしの枷なのだ。
その枷は、ずっと背負わなくてはいけない業。

だから――その業を背負う理由を知り、納得するために、わたしは前へ向かっているのだ。
――あの時死ぬことが出来なかったのは、納得していなかったからだろう。

だから、わたしは――。

760 名前:SNO:2020/12/12(土) 19:52:27.978 ID:pVacs5r60
ますます女神っぽくなってきたぞ!

761 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 20:20:05.323 ID:7nRg7TfQo
作者のテンションあがってきてて笑う。

762 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 20:20:19.342 ID:7nRg7TfQo
これがユリガミぱわー。

763 名前:Route:C-9:2020/12/12(土) 22:17:44.414 ID:pVacs5r60
Route:C


                   Chapter9

764 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:25:08.938 ID:pVacs5r60
――――――。

再び、景色が移り変わった。
わたしの身体にはひどい倦怠感……。
心と体を繋ぎ止める血――それが、ぴりぴりと泡立つ感覚が全身を脈打たせていた。

ユリガミ
「っ……」

そのひどい感覚に思わず、腕を掴もうとした。
けれども、上腕と掴もうとした腕が、肘を掴んでしまう。

手も震えている。……わたしは、心身が疲れているのだろうか。
何があったのだろう。
――人々から願いを託されてから、わたしは……。

ダメだ。思い出せない……
記憶は相変わらず修復されていない。

なら、わたしのすべきこと――それはあたりの状況の把握だ。
どうやら、ここは……路地裏らしい。

――途端、わたしは焦燥感に苛まれ、身体はどこかを目指して駆け始めた。
巫女装束がはためく。黒髪が揺れ、肩のあたりをぶらぶらと揺れる。

765 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:30:07.438 ID:pVacs5r60
そして……わたしはある場所で立ち止まった。

そこでは――目の前で、白髪の天狗が男に追い詰められていた。

背中に白い翼を生やした、二つ結いの少女。
彼女は腰が抜け、行き止まりで固まっている。まな板の上の鯉のように……。

追い詰めているのは、髪の毛の薄い初老の男……その背中からは、欲望を隠さない薄汚い魂かにじみ出ていた。

―――わたしはなぜか二人に見覚えがあった。しかし……同時に、わたしの中には違和感があった。
何かが矛盾している……そう心が叫んでいるような気がする。
いったい、どうして――。


「へへへっ――僕から逃げようったって、そうはいかない
 お前からはあの子のにおいがするから、先生が確かめてやるよぉ」

少女
「――っ」

俯いた少女の表情は絶望に染まり怯え切っていた。
男を拒んでいること一目瞭然だった……。

わたしは――この少女を守るために、この男を始末しなくてはいけない!
真実を追い求める前に、疑問に耽る前に……為すべきことがある!

ユリガミ
「待ちなさい――」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

766 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:32:38.723 ID:pVacs5r60

「……!
 き、君は……!」

男は、わたしの顔を見て心の底から驚いていた。
――この男も、【嵐】なのだろうか……?相変わらず、魔女とでも思われているのだろうか。


「ふ、ふふふ……君に、前はまんまと食わされた……
 しかし、今度こそ僕の超能力でオシオキしてやろう!
 ぐへへへへっ……それから、その身体を……」

男の醜く歪んだ口元――それは欲望を抑えきれない、理性を持たない肉塊。
わたしに襲い掛かってきたあの化け物のような嫌悪感。

わたしの身体は、いらついていた。
どうしてこんな存在が世にはびこっているの……?どうして、生きているの?
吐き気を催す。反吐が出る。わたしは、あいつを――殺してやろう――。

そんな考えが――漆黒に染まった殺意がわたしの中で煮えていた。
それは心にも浸透し、わたしを殺意に染め上げてゆく。

767 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:37:16.450 ID:pVacs5r60

「喰らえっ!」

男は、懐中電灯を構えてわたしに向けた。それは武術を修めた事のない素人のそれ――だけど、嫌な予感があった。
それは直感的に覚えた感覚で、理に準ずるようなものではない。

しかし、わたしはその直感を信じて、後ろにかわした!

一瞬の閃光と、じゅっ――と焦げるような音。わたしの足元のアスファルトが、一瞬にしてドロドロに溶けた。


「くそう……不意打ちでもだめかぁああ」

男は、懐中電灯のスイッチを切り、腕ごとだらりと下に下げた。
ああ、そうか――とわたしはすぐに納得した。この男は光を操る力を持っている。


「くら――」

男が、再び懐中電灯をこちらに向け、スイッチを入れようとする。

それと同時に、わたしは、懐を探った。
そこには黒い髪の毛が巻き付いた針があった。
針の金属の色は見えない。黒い髪で覆われた闇に溶ける漆黒の針……。

男の攻撃してくる位置を予測しながら、わたしは漆黒の針を投げつけた。

768 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:40:56.354 ID:pVacs5r60

「くら――えっ!」

わたしは素早く光の束を回避した。
一方で、黒い針は、光の束に辺り……あっさりと蒸発した。

いいや……正確には……蒸発したのは針だけだ。
巻き付いた黒髪は溶けることなく……男の腕に、ぴとりとまとわりついた。


「あ――?グギャアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!」

その瞬間、男は苦しみ始め、獣のような声で絶叫しだした。
髪が張り付いたが部分とぐずぐずと溶け、消滅しはじめ……、引き剥がそうと掴んだ指も、同じようになっていた――。

769 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:42:41.602 ID:pVacs5r60

「いでぇぇえっ!い――」

その断末魔をこれ以上少女に聞かせる意味はない――わたしは、悶え苦しみ、蹲る男を蹴り飛ばした。
少女からできるだけ離すように――その姿すらも、目に入れさせないように……。

ユリガミ
「死ね――死んでしまえ―
 お前のせいで――」

――呪詛の言葉が口からこぼれた。
それを抑え込もうとするわたしの心に反して、身体はそれを許さなかった。
おそらくは少女も聞いているだろうに……わたしの身体はどうしてもその言葉を吐き続けた。

――わたしは太刀の刃を振り下ろし、男の首を刎ねた。
ごろりと転がる、醜い肉塊……わたしは、その光景に――不思議と付き物が落ちたような感覚を覚えた気がした。
ただ、汚らわしい死体がある。わたしはそれに思いを馳せる事すらない――それよりも、やるべきことがある。


770 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:43:59.903 ID:pVacs5r60
ユリガミ
「大丈夫――?」

太刀を収め、わたしは震える少女に声をかけた。

少女
「…………」

少女は、俯いて震えるばかり――。
ちらりと覗いたその赤い瞳は苺のように赤かった。まるで瑪瑙のように……あるいは血のように……。

――わたしの、抑えられない衝動がこうしてしまったのかもしれない。

それでも、わたしは震える少女に手を貸した。
少女は……涙で濡れた目で、わたしを見つめていた。


771 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:46:16.068 ID:pVacs5r60
……その顔は、やはり見覚えがあった。
どうしてだろう。
わたしにはその記憶はないが――彼女と一度出会ったことがあるのかもしれない。

少女
「うん……ありがとう……」

そして少女は震える声で、感謝の言葉を紡いだ。
その声色には、感謝と恐怖と困惑とが入り混じっているようにも思えた。

無理もない……少女にこんな残虐な光景を見せてしまったのだから……。

そして、わたしは……。

772 名前:SNO:2020/12/12(土) 22:47:48.427 ID:pVacs5r60
戦闘シーン無双しかしてなくね?

773 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 09:41:40.161 ID:jDanbwJEo
たまには苦戦する姿も見たいものですね(バッド期待勢)

774 名前:ルート祖C-10:2020/12/13(日) 12:45:53.216 ID:fi9QPJ.M0
Route:C


                   Chapter10


775 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:49:06.568 ID:fi9QPJ.M0
――――――。

わたしは、気が付くと――どこかの集落に居た。
……あの少女は何処に行ったのだろうか。
相変らず、過程の記憶がないからもどかしさを覚えつつも――前へと進んでいく。

住民たちは、ばらばらの種族で構成されていた。
ここは人や、オーガや、エルフや魔族……その垣根を越えた空間ということ?

――彼らあるいは彼女らは、身を寄せ合って震えている。それは、わたしに願いを託した人々のようにひどく打ちひしがれているようにも見える。
集落の中を見やると、たき火を囲む人々たちの服装は、いずれも綺麗ではなく、まるで着の身着のまま逃げてきたようだった。

入口の立札には、難民キャンプ 【会議所】管轄と書いてある。
――つまり、これは【嵐】によって傷付いた難民の避難所ということになる。

わたしは、ユリガミとして知られている。
だから、悟られないように――笠を被り、気配を殺しながら、難民キャンプの中をうろついた。

……もっとも、顔を隠したとしても、場に似合わない巫女装束のためか、
あるいは服装がきれいすぎるからか……わたしは奇異の目で見られていた。

――とはいえ、それを気にする必要もない。
わたしには、真実に向かうだけ。
女神として尊敬されようと、魔女として蔑まれようと……わたしは真実に辿り着くための道を進むだけ。

776 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:52:46.592 ID:fi9QPJ.M0
???
「炊き出しですよ、皆さん」

――聞き覚えのある声。その可愛らしい少女の声の主を確かめてみると……。

???
「焦らないで、順番通りに並んでください!」

先程の助けた少女が、張り切って炊き出しをしていた。

難民
「マイちゃん、いつもありがとう」

マイ
「はい、七彩さん……今日も一番乗りですね」

彼女は、マイ――と言う名前なのか。
気丈に、難民たちに食事を振る舞っている。

その名前にも、わたしの耳は聞き覚えがあった。
……どこで聞いたのか。あるいは……彼女を助けてから名前を聞いたのか……。

それでも献身的な振る舞いは、多くの人に好感をもたれるものだろう

――そうわたしは感じていた。


777 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:53:27.575 ID:fi9QPJ.M0
わたしは、遠くでマイが炊き出しをする様子を眺めていた。そこにはどこか興味を惹かれるものがあった。
どうしてだろう。彼女が天狗だから……?
隻眼の女天狗――ヤミのことを思い起こすから、わたしは彼女を見ているの?

わたしは、炊き出しが終わるまで、マイを見ていた。
人々の体調や性格に応じた会話――その気遣いで、心因的なストレスを和らげている。

炊き出し後の片付け――も、マイは献身的に手伝っていた。
少し周りを気にしながら……男に追い回されたのだから、それも当然だろう。
それでも――彼女が今無事である。その事実に、わたしは少し安堵していた。

わたしが胸をなでおろしていると、何者かの気配があった。
その気配の方向を、横目で見る……すると……。

???
「君は……ユリガミで、いいんだな?」

後ろで髪を縛った白髪の女性が、訝し気にわたしを見ながら、訊ねていた。


778 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:59:25.600 ID:fi9QPJ.M0
――その背はわたしよりも高く、フチのように漆黒の眼球と青白い瞳をしている。

???
「私はシズ――よろしく頼む――」

わたしは、その姿を見て――彼女が名乗った記憶ほ思い出していた。
そうだ、彼女はシズ。腕利きの女鍛冶師。


ユリガミ
「ええ……」

そしてわたしは淡々と答える……。
シズはその様子を見て、納得したような表情で頷いた。

シズ
「あの娘は――このご時世で、自分にもできることはないかと言って、
 炊き出しを手伝っているんだが……」

シズ
「最近、ストーカーに追い回されていて、不安でたまらないとのことだ
 こうやって人がいっぱいいる場所でないと安心できない……と本人は言っていたが、
 どの道、ストーカーが居る限り……リスキーなことには構わない」

シズ
「……君の邪魔になるかもしれない
 だが、できればマイを助けてやってほしい」

ユリガミ
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

779 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 13:00:33.187 ID:fi9QPJ.M0
ユリガミ
「……構わないけれど」

――わたしはマイのことは分からない。
ただ、男に追い回される不幸な身の上――それぐらいしか、知っていることがない。
……本当にそうだろうか、いや、それ以外にわかることはないのだから、そうなのだろう。

……でも、本当に?
わたしは彼女を見たような気がする……しかしどこで……。

頭を抱えても、その理由は思い出すことできなかった。

シズ
「……大丈夫か?調子が悪いのかい?」

ユリガミ
「いえ、大丈夫――」

ふらついたわたしを抱き留めようとするシズを制し、わたしは手をかざした。
……そして、わたしは……。

780 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 13:02:12.299 ID:fi9QPJ.M0
ユリガミ
「……その願い、引き受けましょう」

願いを受け容れながら、わたしは【勾玉】を握りしめた。
――どうやら、これはわたしの癖らしい。それをすることが、願いを聞き入れる合図のようにも思える。

シズ
「感謝する――
 できれば、君に無茶はしてほしくはないが――
 可能な範囲で助けてやってほしい……」

深々と礼したあと、シズはその場を立ち去った――。

シズはわたしに関して何らかの信頼があるようだ。
――というより、ユリガミという存在だからこそ、
害悪から己を守るために、わたしに頼ったのかもしれない。

――マイを救うこと。それは真実には関係がないのかもしれない。
それでも、その行動はわたしの存在意義のようにも思え、

遠くで揺れるマイの髪……二つ結いの白髪は兎の耳のようにぱたぱたと触れて……。

781 名前:SNO:2020/12/13(日) 13:02:54.595 ID:fi9QPJ.M0
七彩さんが出てきた!やった!
なおカスケード主人公のうち半分ぐらいは出てない模様

782 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 19:08:13.910 ID:T3i7ldrEo
だんだんと全容が少しずつ見えてきたかもしれない

783 名前:Route:C-11:2020/12/13(日) 20:20:32.605 ID:fi9QPJ.M0
Route:C


                   Chapter11


784 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:21:30.393 ID:fi9QPJ.M0
――――――。

わたしは、戦火に巻き込まれて、ぼろぼろの街を歩いていた。
マイ――彼女は、此処にはいない。

え?わたしは、彼女を見捨ててしまった――?
真実に向かう為なら――わたしは、少女を見捨ててしまっていいの?

ヤミ
「貴女は――心に決めた事は、たとえ何があろうともやり遂げる――そういう人です
 それが地獄の門だったとしても――貴女は、為すべきことのためならば、死すらも厭わないのですから
 その意思の強さが、貴女の【力】の原動力でもあるのだから――」

――ヤミに、こんなことを、言われたような気がする。

それでも、災禍に巻き込まれた少女たちを見捨てるのはおかしいだろう。
少なくとも――わたしは【嵐】を撃退し、マイを守るべきだ。
願いを託されて、それを見捨てて真実に向かう――そんな虫のよい話はないから。


785 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:23:21.283 ID:fi9QPJ.M0
ユリガミ
「マイは――どこに――」

頭を押さえながら、わたしは考える……。
過程を失った記憶。思い出そうとすると、きりきりと痛み出す記憶――。

――やはり、思い出せない。
それでも……一瞬だけ、わたしの脳裏に景色が広がった。

それはヤミと会話した屋敷だった。あの場所に――マイは居るの?
しかし……思い浮かんだのは……マイではなく、あの子の姿だった。

???
「じゃーんっ♪」

???
「おねえちゃん、ほら、うさぎさんだよっ」

あの子は、本の中から兎を呼び出し、はしゃいでいた。
それは屏風の中の虎も呼び出さんとばかりの奇跡だ。

ユリガミ
「ふふっ、すごいすごい」

わたしは、手を叩いて無邪気に褒めていた。
ヤミも、後ろで微笑んだ表情を見せて――

記憶が、少し修復されているのか……それが呼び水となったのか、わたしの頭の痛みは覚めつつあり、
思考が急速にまとまりはじめ――ひとつの仮定へと思い至った。


786 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:25:45.595 ID:fi9QPJ.M0
屋敷でヤミと話した時、彼女は、襖の奥に目配せていた。
そこに、マイが居るとすれば――

ヤミ
「此処は、わたくしが護ります――
 貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」

その発言にも、納得がいく。ヤミの発言の真意は、マイを守る意思の表明――。

ユリガミ
「ちょっと待って――おかしい」

しかし、その考えには重大な問題点があることに気が付く。
時系列がおかしい……。そもそも、苺が狙われているのは、ヤミと会話したあとでの話だ。

仮にマイが屋敷に居るのなら、どうして男に狙われる可能性のある炊き出しに出ていたの?
荒れ狂う時代で生活するため、仕方なく――とも思ったけれど、それにしても納得がいかなかった。


787 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:26:54.040 ID:fi9QPJ.M0
あの屋敷は――集落からは遠かったはず。
屋敷は、外界から離れた場所。安全性の面で言えば、屋敷の方が上だ。

どくん……。
心臓が、脈打ちだした。

わたしは、重大な見落としをしているのではないか?
抜け落ちた記憶の断片――そこには思い出すべき核心が含まれていないのではないか?

急激に不安に包まれるわたしの心――まるで、快晴だった天気が一瞬にして雨雲に包まれたように……。

どくん、どくん、どくん、どくん。
早鐘を突くように心臓が脈打つ。不安が心を塗りつぶそうとする。

そして――わたしの目に映る景色はぼやけはじめて……。

788 名前:SNO:2020/12/13(日) 20:27:18.227 ID:fi9QPJ.M0
あとすこしで791レス越えますね…

789 名前:Route:C-12:2020/12/13(日) 21:32:54.551 ID:fi9QPJ.M0
Route:C


                   Chapter12

790 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:34:48.003 ID:fi9QPJ.M0
――――――。

わたしは、どこかの廃屋に居た。

一体、ここはどこなの?此処が、真実に関係しているということなの?

???
「っ――」

困惑する私の横から、女性の息を呑む声が聞こえた。
この声には聞き覚えがある。

それは――

ヤミ
「【嵐】に……してやられたようですね――」

それは、ヤミだった。人々を代表して【嵐】の撃破を託した彼女……。
マイの居場所を知るかもしれない、彼女がそこに立っていた……。


791 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:39:03.289 ID:fi9QPJ.M0
ヤミの足元には、一人の血まみれの男が倒れていた。
男はよく見れば様々な部位を義体化していたらしく、金属の破片とオイルも辺りに散らばっていた。

???
「マ、マサカ……君ガ、まさかとは思うガ、君ガユ、ユリガミ――サマなのカ?」

男が、わたしを見て驚愕した表情を見せた。
わたしが無言でうなずいてみせると、男はほっとしたような表情を見せた。

ヤミ
「社長――なぜ戯言を――」

困惑したヤミが後ろを振り向いて、わたしの存在に気が付いた。

ヤミ
「……貴女は」

彼女は、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに真剣な表情に切り替えた。

ヤミ
「………」

無言でわたしを見るヤミの目は、鋭い刃のようにわたしを射すくめたかと思うと、
足元で倒れている男……社長に目を向けていた。


792 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:41:59.772 ID:fi9QPJ.M0
社長
「ユリガミサマ――私はもウ……ダメダ
 敵が近くにイる、敵――【嵐】ヲ倒してクレェ…」

社長と呼ばれた男は、もはや、虫の息で……最後の力を振り絞るようにわたしに告げた。
――【嵐】。彼がこんな状況になっているのも【嵐】が原因だというのか。

社長
「うぐッ……」

――願いの言葉を伝え終わったかと思うと、社長は事切れた。

ヤミ
「………」

ヤミは、複雑な表情でその最期を見下ろしていた。
いったい、彼女は何を思っているの?彼女の願いを、叶えらることができなかったが故の失望……?

しかし、敵がいると彼は言い残した。
なら――余計なことを考えるのは今ではない。

わたしにできることは――居るとされる、敵の撃破だ。


793 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:50:23.337 ID:fi9QPJ.M0
ユリガミ
「そこだっ――」

わたしは太刀を抜き、背後から感じる気配に斬り込んだ!

???
「ぐがッ!」

???
「ギャッ!」

男たちの断末魔。確かな肉と骨を断ち切る手ごたえ……。

???
「突然現れて、一体なんだってんだ……クソが……ァ……」

しかし……傷にまみれた身体で男たちは起き上がり、わたしを睨みつけながらそう吐き捨てた。

ヤミ
「……彼らは、消滅させない限りしつこく蘇る存在です
 貴女なら……問題はないでしょう」

わたしが太刀を構える後ろで、ヤミは冷淡な声色で、まるで試しているかのようにわたしに告げた。
社長と呼ばれた男は――身体を義体化しているにも関わらず殺されたというのに……。
その冷たい言葉は、わたしへの失望のためなのかもしれない。


「シェッ!」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

794 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:56:34.891 ID:fi9QPJ.M0
しかし、わたしにはそんなくだらない攻撃に対応する技術を知っている。
背後に居るナイフの切り筋はすでに予測できている……

わたしは、鞘を背後に投げつけた。


「おっと?!」

その一瞬の目くらましのうちに、わたしは着地点で再び跳ぶ。

カランカランと音を立てて落ちる鞘とともに、わたしはふたりの男を見据えて対峙していた。


「そんな光物振り回されたら、怖くてたまんねェ――
 お前ら、捕まえて監禁してやるゥ」

男は、わたしを睨みつけ高々とそう宣言した。


「死ね!」

男たちが、ナイフと剣を用いた連携攻撃をしていた。

ユリガミ
「――はっ」

しかしその攻撃も見切るのは容易だった。

わたしは攻撃の軌道の隙間を見極め――間隙を縫って、太刀で一人の首を刎ねた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

795 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 22:00:59.147 ID:fi9QPJ.M0

「ぐぐぐ……一瞬で消し去るなんて……
 ならヤツを殺したのと同じ方法で殺してやるッ」

もう一人の男がいきり立ってわたしとヤミに憎悪の目線を向けた。
眼は血走っている……しかしわたしは、その光景を見ても何も感じ取ることはなかった。

ヤミ
「……彼女を殺すことは、無理でしょう」


「うるさい――女ァ!」

男が激高すると同時に、雷撃のような魔術が四方八方からヤミを襲った。

ヤミ
「――はっ!」

ヤミは風を起こして雷撃を散らせた。ぱちぱちと音を立てて雷撃は地面に散らばりとろけて消える。


「くそ――しかし、これでわかったぞ……その技術では自分しか守れんようだな……
 残念だが、こっちの女のほうはもらったァ!」

男はわたしに攻撃の手を向けた。

――あの四方八方から来る雷撃。どうやってかわす……?
男の口ぶりからすれば、あの回避方法はヤミ自身しかできないようだ。

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796 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 22:02:43.567 ID:fi9QPJ.M0
ユリガミ
「男の【力】でわたしを殺すことはできない――」

わたしは……動かなかった。
同時にまるで台本を読むかのように、その言葉がすらすらと口を突いて出た。

そして、わたしの身には――宣言通り何も起きなかった。
まるで溶けるようにその雷撃は消滅した。


「え……馬鹿な!?」

男は、慌てながら、再度わたしに何か雷撃をわたしに向けようとする。
――それは、わたしには通じない!
その隙を突いて、わたしは男の首を一撃で刎ねた!


「ぐわぁああああッ!」

男の胴体と首が分かれて地面に落ちた。
ばしゃっ――と、血液が霧のように散らばる……。
一方のわたしには――相も変わらず、返り血はない。

さらに、わたしが男の死体に触れようとすると……その男もまた、消滅した。
わたしは、これで敵を撃退したのだ、と確信していた。



797 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 22:06:45.556 ID:fi9QPJ.M0
しかし……わたしの中のわたしの声。通じない【力】――。そして……力及ばずに死んだ存在。
戦いを切り抜けても疑念がわたしの中に増えるばかりだった。

――人々の総意をまとめたヤミは、失望しているだろう。
わたしは、本当に女神なのか――それすらも疑わしくなるような感覚。

ユリガミ
「……」

足元で倒れている社長と呼ばれた男――【嵐】による犠牲者の一人。
【嵐】に苦しむ人々の救済となったのか?ヤミの命は救えたけれど……。
わたしが悩む一方で、ヤミは納得したようにわたしを見ながら言った。

ヤミ
「……貴女のその力は、やはり――ユリガミの【力】ですね」

――今更、何を言っているのだろう。
ヤミはわたしのことを知っているはずだが……。

いいや、願いをしくじったが故の嫌味なのかもしれない……。

ユリガミ
「……ヤミ」

そして、わたしは、ヤミに話しかけようとして……。

798 名前:SNO:2020/12/13(日) 22:07:07.204 ID:fi9QPJ.M0
さようなら作者……。

799 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 22:19:16.152 ID:T3i7ldrEo
底が見えなくて実にいい。

800 名前:Route:C-13:2020/12/14(月) 21:56:17.812 ID:5sApY14E0
Route:C


                   Chapter13

801 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 21:57:44.393 ID:5sApY14E0
―――――。

わたしは……どこかのビルの駐車場を歩いていた。
ヤミはどうなったの……?そう思っていると、人影を視認した。

???
「誰――?」

……それはヤミではなかった。
女性の声に、わたしはびっくりして、立ち止まる。

???
「貴女は――」

ぬっと、姿を現した女性は、わたしを見定める様に眺めるかと思うと―。

???
「…ごきげんよう、お嬢様」

そう、わたしを呼んだ……。

802 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 21:59:23.758 ID:5sApY14E0
彼女の髪は、シズやフチのように白く――
その目もまた、シズやフチのように漆黒の眼球と青白い瞳をしていた。

ふわりとした髪は背まで伸び、ピアスだらけの耳に、左手首に巻き付いた手首。
くるくると螺旋を描く髪と、紫色のレディーススーツからは高貴な雰囲気がある。

……しかし、右腕と両足は、機械であることを隠さない義肢で出来ていた。
すでに死した社長と同じような存在ということ……。
どこかチグハグな印象をわたしは覚えていた。

???
「弦夜――例のお嬢様です――
 ――私がついていますので、ご安心を」

女性は、他の誰かの名前を呼んだ。
それに呼応するようにコツコツと靴の音が響く……。
……そして足音が近づくとともに、サングラスをかけた白髪の男性が現れた。

身長はわたしよりも高い。黒いスーツとネクタイはビッシリと整い、
まさに上に立つもののような、帝のような雰囲気を醸し出している。

弦夜
「すまんな、サラ」

弦夜と呼ばれた男性は、女性をサラと呼んだ。


803 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:02:20.275 ID:5sApY14E0
ユリガミ
(あれ――)

……なんとも言えない違和感があった。
何かが噛み合わないような……それでも、弦夜と呼ばれた男性が、女性をそう呼ぶのなら間違いないだろう、とも思えた。

実に不思議な感覚だった。
わたしにとって、彼らは敵ではない――そう本能が告げていた。

弦夜
「ふむ……
 なるほど、そういうことか――」

弦夜は、見定める様に男はわたしの身体をじろりと見て――わたしの首を見たとたん、納得したように頷いた。
その視線に合わせる様に、わたしの手が首筋をなぞったとき、わたしもまた納得した。

サラ
「流石は、女神の血を引くだけはありますわね――【勾玉】を持っていても、問題がない様子です
 ……まぁ、危なっかしいことに、変わりないですわ……」

弦夜
「それにしても、きみがここに来るとはな――
 ――あちこちを彷徨っているとは聞いたが……確かなようだ」

首の【勾玉】を見て、彼らはこの場の状況を把握しているらしい。
会話内容から察するに、これこそがユリガミであることの証ということなのだろう。

それにしても、わたしをお嬢様と呼ぶなんて……彼らはわたしの素性を知っているのだろうか?


804 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:04:05.304 ID:5sApY14E0
サラ
「弦夜……お嬢様をどうします?」

サラは、生身の左腕で弦夜のタバコに火を着けた。
それはもはや日常動作であるかのように、自然と息の合った動きでもあった。

弦夜
「そうだな……」

煙を吐いて、弦夜は頷いた。

弦夜
「とりあえず……
 きみは、我が社――ルミナス・マネイジメントの警備をすり抜けてここに来たのは間違いない……」

その言葉で思い出した。彼は月詠弦夜(つくよみげんや)――ルミナス・マネイジメントの長。
企業のトップ。帝のような存在……だからわたしは上に立つものなのだと判断したのだろう。
そして、サラはそれを補佐する秘書だということも同時に思い出す……。

サラ
「そうですわね
 一応、素性を知ってはいますが――幸鉢の得た情報からも考えると……
 ……お嬢様を消したほうが、安全かと思いますが?」

――物騒な発言に、わたしの心はぴくりと跳ねた。
義体化された右腕は兵装であることには違いはない。
……顔色一つ変えずに、日常会話のように告げるサラは、今まで出会った男よりもぞくりとするものがあった。


805 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:05:47.653 ID:5sApY14E0
弦夜
「サラ……戯言はいらんだろう」

サラ
「あら、バレました?
 ふふふ、冗談ですよぉ、お嬢様……単に、弦夜とお話しするのに嫉妬してるだけですから♪」

それを手で制する弦夜。それに、サラの口ぶりからすれば、本気で殺す気はないようだ。
これがわたしを油断させる作戦かもしれないから、気を緩めることはできないけれど……。

弦夜
「それにしても――きみが、いろいろと動いているとは
 にわかには信じがたいが……」

二本目の煙草に手を付ける弦夜。サングラスの奥の瞳は見えない……。
ゆっくりと煙を吐き出すと、そう答えた。

弦夜
「そこらの強者に負けぬ【力】も備えているのは、間違いないようだが――」

サラ
「そうですわね――あの子も出し抜けるのは確実でしたわね」

見据えるような弦夜の言葉に、わたしに備わる【力】を思い返す……。
そうだ……わたしは太刀の腕に覚えがあるのだ……。
その腕で敵を打ち倒せるからこそ――ユリガミと、そう呼ばれるのだ。

806 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:06:26.464 ID:5sApY14E0
弦夜
「まぁ、それはともかく……聞きたいことがある
 きみは何のために戦っているんだ……?」

弦夜は、三本目の煙草を吹かしながら、本当に意外そうに……そう言った。
どうして、そんなことを言うのだろう……?わたしにはわからなかった。
わたしのことを知ってはいても、行動する理由を知らない――それぐらいしか、訊ねられた理由が思いつかなかった。

弦夜
「【彼女】は君の手によって死んだ――
 他にも、会議所の優秀な兵も、殺され……世界から希望が失われているその状況で
 きみは――何のために突き進むのか――その理由を聞きたい」

真剣に問う弦夜の言葉には重みがあった。
それは帝としての、上に立つものとしての立ち振る舞いのようにも見えた。
いまだにサングラスの奥の瞳は見えないが……おそらくはその眼もまた真剣なのだろう。

わたしは――どうしたいの――?
いいや、悩む理由はない。わたしにはたった一つの単純な答えがある。


807 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:06:53.266 ID:5sApY14E0
ユリガミ
「真実を探すため――」

はっきりと、堂々と――わたしは彼らに答えた。

弦夜
「そうか……」

彼はどこか静観したような言葉を返すと、吸い終わった煙草を携帯灰皿に放り込んだ。

サラ
「あらあら、お嬢様は自信たっぷりのようですわね」

そして、にっこりと口を緩めたサラが、携帯灰皿を回収する……。
ふたりはわたしの言葉をどう受け止めているのだろうか……。


808 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:07:20.832 ID:5sApY14E0
弦夜
「……それがきみの望みなら、俺はきみには干渉はしない
 これ以上……我が社に敵対しなければ、の話だが
 サラの方はどうするかは分からんが」

サラ
「ふふふ、弦夜の言葉は絶対ですもの――
 私も、お嬢様に手出しはできないですわ、ふふふ……
 まぁ、貴女の【力】は危険ですから、個人的には無力化ぐらいはしたいですけど♪」

真剣で重苦しい弦夜と対比して、サラの言葉はひどく明るく、それが逆に恐ろしさを際立てていた。
それでも……わたしは真実にたどり着かなくてはいけない。
だからこうやって前に進んでいるのだから。


809 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:07:59.242 ID:5sApY14E0
弦夜
「――さらばだ」

サラ
「また会うかは分かりませんが――雑魚相手にはやられないように」

そして――ふたりは投げ出すように、突き放すようにわたしにそう言い残すと、その場を立ち去って行った。
サラは弦夜の腕に縋りつき……弦夜はそれを突き離そうとせず、そのままに……。

革靴のカツカツとした靴音と、義体由来の金属のコンコンとした足音が辺りに響く。
立ち去る彼らの背中は……少し孤独に見えた。

――わたしは、遠くなるふたりの背中を、ぼうっと見つめていて……。

810 名前:SNO:2020/12/14(月) 22:08:27.031 ID:5sApY14E0
しまったぁ・・・久しぶりに出るキャラにふりがなをつけていなかったぁ・・・

811 名前:きのこ軍:2020/12/14(月) 22:24:35.359 ID:.QutmfHso
気にかけてしまっているようでまじすまない

812 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:35:02.178 ID:HQUkm.VM0
Route:C


                   Chapter14

813 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:36:50.841 ID:HQUkm.VM0
――――――。

相も変わらず、わたしはこことは違うどこかに居た。

???
「やっと、見つけたわよ!」

鬱蒼とした森の中――わたしの前には、小柄なエルフの少女――。
金色の髪の毛と、紅蓮の瞳――そこには、強い意思のようなものを感じられる。

???
「貴女があの女を殺した張本人ね?」

ユリガミ
「え……?」

いきなり、そんな質問をする彼女は何者?
――あの子のことを尋ねているのは、間違いないのだけれど。

???
「え、じゃないわよ 
 たとえアンタが虎であっても、龍じゃないわよねっ!」

まくしたてるように少女は、地団太を踏む。
彼女は……龍虎の関係でも、語ろうとしているの……?

814 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:39:19.549 ID:HQUkm.VM0
わけがわからない……。
わたしの記憶うんぬんとはまた別の方向性で、悩みの種が増える感覚。

ユリガミ
「――あなたは、龍なの?」

――わたしは思うがままの言葉を呟いた。
それは深慮もなければ思案もない、ひどく単純な言葉でもあった。

フィン
「そうよ、だってわたしはフィン・ジェンシャン――
 名前からして、龍にふさわしいもんっ!」

しかし……わたしの回答に、彼女は否定する素振りはなかった。
わたしの考えは合っていたらしい。

肯定するような返答を終えると、フィンと名乗った少女は腕を高く掲げた。

――とても、嫌な予感がする。
わたしはフィンの一挙手一投足を注視しながら、太刀を構えた。


815 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:42:35.492 ID:HQUkm.VM0
瞬間、空は暗雲に染まり、いきなり大雨が降りだした。
さらには雹、吹雪、落雷、嵐……ありとあらゆる天候が、わたしに襲い掛かる!

ユリガミ
「くっ――」

迫り来る天候の変化は、わたしを、周り全てで押し流そうとする――。
雷はわたしを消さんとばかりに宙を駆け巡り、水はわたしの足を止め、風はわたしを吹き飛ばそうとし、霜がわたしを縛り付けようとする。
彼女は、龍と名乗ったが――なるほど確かに、この【力】は龍のものと言っても変わりない。

フィン
「トリプルキーック!」

天候変化に交えて、蹴りが三発。

フィン
「波乗り――!」

さらに、水しぶきに乗せた攻撃が一発。だが、こちらの攻撃は武術――捌くのはたやすい。
致命的な一撃を受けず、軽い傷で受け流すことはわたしにとって難しくはなかったが……。

フィン
「おりゃーっ!」

――天候を操ることに関しては、反撃の糸口が見つからない。
遠距離から攻撃してくる相手でも、弓や銃やらならば、本人の筋肉の動きから軌道を推察できる。
しかしフィンのそれは、一挙手一投足が読めない。人智を越えた【力】であることしか分からない。

816 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:45:26.741 ID:HQUkm.VM0
――雨は相変わらず降り注ぐ。
身体に対する影響も計り知れない。体温は確実に奪われている。

……こんなところで倒れるわけにはいけない。
わたしは真実にたどり着くまでは、前へ進み続けなければならない。

――わたしとフィンの戦い。
互いに決定打は与えられないものの、戦況としてはわたしのほうが不利だった。

武術は悪天候の中でも戦える余地があるけれど……
この悪天候は、ある程度予測できる範疇にはない……。

それでも、わたしは耐えていた。
それはあの子への贖罪と真実へ向かう気持ち――そして、【嵐】を倒してほしいと願った人々の思いによって……。

817 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:02.173 ID:HQUkm.VM0
フィン
「武術は、荒れ狂う天候の前では――すべてを洗い流す力の前では無力なの
 それなのに……あたしのライバルは皆いなくなっちゃう――屏風の中に掻き消えてしまうんだもん
 だから、あんたで憂さを晴らしてやる!」

フィンの言葉に、どこか既視感がある。それは――

???
「ははは……当然でしょう?
 これは私の持論ですが、いかなる武術を極めようと、それを押しつぶす【力】があれば無意味になりますからね」

わたしに襲い掛かってきた大男の発言だった。フィンの言い分は、まるで大男の同胞のよう。
そして、さらに天候を操る【力】を持つ。フィンも、【嵐】の一員なの――?

フィン
「アイスボールっ!」

ユリガミ
「くっ!」

考えている間にも、絶え間なくフィンの攻撃――すなわち天候操作と武術による攻撃が続く。
軌道がまったく予測できないものもある。
わたしに出来ることは、攻撃の意思を感じ取るだけ。

フィン
「ボルテッカーッ!」

雷を纏った突進。こちらは、武術と【力】の合わせ技!
武術による攻撃なら予測もしやすいのに、別の【力】になると――相手の殺気を読むぐらいしか対処方法はない。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

818 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:21.501 ID:HQUkm.VM0
ユリガミ
「――――っ」

体力が奪われてゆく。それは自然を操る【力】、武術ではない、【力】に――。
あの男の言う通り――全てを押しつぶす【力】こそが、全てということ?

どうにかフィンの攻撃をやめさせたいが、太刀を振るえる範囲には居ない。
今、飛び道具を使っても、天候操作で逸らされる可能性が高い。わたしはどう切り抜ける――?

フィン
「今、知ってる情報から推測すると――
 アンタには、必ず勝って――強くならなきゃいけないのっ――」

フィンは、悲愴に染まった感情にまかせて吹雪を起こした。
濡れた髪の毛や、服が凍りつき、またたく間にわたしの動きが制限される。
もはや、わたしに打つ手はないのか――?


819 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:52.683 ID:HQUkm.VM0
その時――。

ユリガミ
「――いいや、違う
 人智を越えた【力】というのは、天候操作ではない」

わたしは、確かにわたしが紡いだ――しかし、わたしが紡いだわけではない言葉をフィンに投げかけた。
それは――まるで、別のわたしが喋ったかのようにも思えた。
フィンに向ける表情すらも、わたしの意思ではないよう……。

フィン
「!?」

フィンの表情が固まる。まるで、自己を否定されたかのような、絶望にも満ちた表情が顔に張り付いていた。
それに付随して、一瞬だけ彼女の動きも固まった。


820 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:52:02.520 ID:HQUkm.VM0
フィン
「フン、なによ――あいつみたいなことを言って……
 あたしのこの【力】だって強いのよ!」

フィンは、すぐにわたしを見据え、再び攻撃を仕掛けようとした。
しかし冷静さはわずかに欠けている。その――やや欠いた状態。
それはわたしにとって充分なほどの猶予だった……。わたしは、太刀と鞘とをフィンに投げつけた。

フィン
「―――えっ!?」

宙を舞う刀と鞘。それと同時に、わたしも地を駆ける。
フィンが視認する、3つの標的……それに眩んだ一瞬で十分だった。
わたしは、フィンの鳩尾に、一撃を加えた。


821 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:53:10.749 ID:HQUkm.VM0
フィン
「うう――ひきょーもの……っ」

その一撃で、ぱたりと、フィンは崩れ落ち――地面に倒れた。
……同時に、天候も元通りに戻った。急激に、冷えていた外気が元に戻ってゆく。

ユリガミ
「はぁ――はぁ――」

疲労感。身体がひどく重い。
ありえない気候の変化に晒されたからか。厄介な相手だったからか……。

気絶したフィンの傍にゆっくりと歩み、彼女の脈を確認した。
――彼女は、気絶しているだけだ。何故かわたしはほっと胸をなでおろした。
どうして、こんな気持ちになるのだろう。


822 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:53:24.464 ID:HQUkm.VM0
ユリガミ
「やっぱり……あの子をこの太刀の刃で斬ったから?」

地面に落ちた太刀を拾い上げながら、わたしはぽつりと呟いた。

彼女が、【嵐】だったのかは分からない。
それでもわかる事は一つだけあった。
わたしは人智を越えた【力】を知っているということだ。

そう。
そ れ を わ た し が 一 番 よ く 知 っ て い る の だ か ら …。

空は、フィンを撃破したからか、暗雲が消えうせていた。
わたしは、ゆっくりと森の向こうへと歩き始めた……。

823 名前:SNO:2020/12/16(水) 21:53:55.699 ID:HQUkm.VM0
女の子バトル!

824 名前:きのこ軍:2020/12/16(水) 22:15:38.983 ID:khWqlFOAo
フィンの意味不明な感じな。

825 名前:Route:C-15:2020/12/17(木) 22:45:25.215 ID:ZkxNVsXY0
Route:C


                   Chapter15

826 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:45:42.689 ID:ZkxNVsXY0
――――――。

ここは――何処かの廃工場か。
もはや……わたしは、見知らぬ場所に居ることにすっかり慣れ切っていた。
そしてあたりの様子を伺う……そこには一人の男性が佇んでいた。

シルクハットをかぶった、軍服の男性。
――わたしに襲い掛かってきた男とは雰囲気が違う。

鍛えられた肉体と、整えられた口ひげは、真摯に物事に向き合い、欲を制する直向きさが伺えた。
彼もまた、シズやフチのような白髪と、漆黒の眼球と青白い瞳……。

この場所に誘われた――ということなのか、あるいはわたしがこの場所に誘ったのか――。
最も、その理由を問う必要はない。わたしは、警戒するように男性を見つめていると……。

827 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:50:19.654 ID:ZkxNVsXY0
???
「ようやく、君を見つけることができた……
 早速、本題に入ろう……」

男性は、丁寧に語り掛けた。
この男性は、今までに見た男の中では少なくとも弦夜に近い人間だろう。

???
「君は……【会議所】から出てきたと聞くが――
 【彼女】はどうなったか、知っているか?」

しかし、彼はわたしを責めるような言葉を、淡々と告げた。
それは、胸をえぐり取られるように、ひどくわたしの心を揺さぶった。
あの紅い月の光景が頭をよぎり、頭痛がわたしを苛む。

頭を押さえるわたし……目の前が紅く染まっているような気がする……。

???
「大丈夫か……?」

心配そうに眉を顰める男性。
しかしその表情に打算のようなものはない。本気で心配しているように思える。

彼は、心配こそしても、わたしには触れようとしなかった。
恐らく、わたしには指一本触れないという意思があるもかもしれない。

その様子を見ていると、急に冷静になった。
すうっと頭痛が引き、わたしの口からすらすらと言葉が紡がれた。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)


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