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S-N-O The upheaval of iteration
- 1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
- 数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。
初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。
――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。
【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。
これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。
目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。
ワタシガ 見ルノハ
真 偽 ト
虚 実 ノ
世 界
- 575 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:06:18.337 ID:QFi5KiEY0
- 男
「あ……?」
しかし――続く光景は、困惑する男の声だった。
わたしが目を開けると……。
???
「………」
女性は、弾丸を摘み取ると、まるで粘土のようにぺらぺらに潰してぽいっとその場に投げ捨てた。
――銃弾のエネルギーを、指先だけで打ち消し、捻り潰し、怖がりもせず――淡々と切り抜ける。
その剛腕を見せた魔族の女性は、まるで救世主のように思えた。
そして――女性は、背中に翼を生やし、隼のように低空飛行したかと思うと、
わたしをかばうように、わたしの前に降り立った。
???
「私を――殺す?
何、言ってるの?何かの冗談かな?」
女性の背中からは、いつの間にか翼はなくなっていた。
後ろ手にわたしをかばいながら、男たちに投げかけた言葉は、地獄の鬼も恐れて逃げ出すほどに怖かった。
王者のような威圧感の陰に、わたしは女性に対する信頼感が芽生えていた。
- 576 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:10:49.901 ID:QFi5KiEY0
- ???
「シトラス」
――女性が、魔術を唱えた瞬間、レモン色の魔法弾が男たち目がけて飛んだ。
拳銃よりも――ライフル弾よりも速いスピードでその魔法弾は飛び交い、男たちの身体を次々と弾き飛ばした。
男
「ギャ!」
男
「ぐぼァッ?!」
男
「魔法を使ってくルゾ、マジックジャマーを使え!」
断末魔を上げた男を見て、生き残りの男が何やら機械を作動させた。
ぴりぴりと震えるような衝撃波が辺りに流れ出す。
その瞬間……。
???
「シトラ………
あぁ、不発かぁ」
女性が再びシトラスという名前の魔術が使おうとするが、魔法弾は出ることはなかった……。
彼女は、その事実に、やれやれと両手を広げて面倒くさそうに男たちを見ていた。
男
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 577 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:19:02.907 ID:QFi5KiEY0
- ???
「ハッ!」
男
「え?グワァァァッ!」
女性は、ため息を深く吐いたかと思うと思いっきり男の頬にビンタをかました。
その軌跡は目で追えないほど早く……そして、まるでバットで打ち返されたボールのように、男は数十メートル先まで吹っ飛んでいった。
???
「せいっ!」
さらに、女性は振り回す腕の遠心力を利用し、
ムチのように片腕を振るうと、残った男たちをすべて張り倒した。
男
「ギェエエッ!?」
???
「で……自慢げに、語ってたらしいメイジ封じの作戦は、私には無意味だよぉ♪
私は唯のメイジに非ずってさっちゃんも褒めてくれてたし~?」
女性は、楽し気に地に臥せた男たちに告げた。
???
「まぁ、こうなったのは……半ば自業自得だよね?
私にこうやって倒されることなんか、本当にそう……」
そして、餞の言葉のつもりか、男たちに再び怖い声でそう吐き捨てた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 578 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:33:45.392 ID:QFi5KiEY0
- ???
「とりあえず、消火しないと」
そう女性は呟くと、レモン色の濁流が家全体を包んだ。
それは瞬く間に炎を消し去り、焼けた家が眼前に広がった。
???
「この子を置いていくわけにはいけない……
でも、この中に連れて行くわけにも……」
続く女性の言葉は、考え込む言葉。
しかし、その疑問に答えが出たのか、すぐに頷くと……。
???
「よし」
ローブの裾から、タコのような、イカのような……無数の触手が現れた。
それらは家の窓から入り込み、何かを探るようにうねうねと蠢いていた、
瞿麦
「……」
わたしは、呆然としていると……。
???
「怖かったよね――でも、もう大丈夫、安心して」
ぎゅうっと、女性に抱きしめられた。
やわらかな感触。さわやかな檸檬の香りがわたしの鼻腔をくすぐる。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 579 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:35:19.843 ID:QFi5KiEY0
- ???
「――とりあえず、ここはとても危険だよ
追っ手がくるかもしれないから、私のことを信じて――わたしと一緒に来て」
続けて、素早く、わたしにそう告げた。
とても、顔が近い。眼前に広がるその紫の瞳は、アメジストのようにどこか魅力的で、蛇のようにどこか妖しく――それでいて、信頼できる瞳だった。
瞿麦
「――は、はい」
……もう、どうすればいいのかわからない。
この人が信頼できるか――それもわからないけれど、それでも、わたしを救ってくれた。
だからわたしは、こくりと頷いていた。
???
「ありがとう――私を信じてくれて」
そして、わたしは女性に抱かれて――その場を離れた。
視界の果てでは鎮火された家の残骸がある。
しかしそれもやがて遠ざかり、わたしは女性の腕の中で、流れる景色に身をゆだねていた。
- 580 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:38:35.926 ID:QFi5KiEY0
- ――女性に連れられて来たのは……その時は知りもしなかったけれど、今ではよく知った場所。
すなわち……【月輪堂】だった。
縁
「あら、なくちゃん……どうしたの、その子は……」
???
「フェルミ家の女の子――いろいろな事情があって、保護してきたの」
後で教えてもらったことだけど――女性は、いまや会議所で魔王の呼び名高い兵士でもある、魔族の女性――791さんだった。
791さんは縁さんと深刻な口調で会話しながら、わたしを地面にやさしく下ろしてくれた。
……とはいえ、わたしは戸惑うばかり。ここはどこなのかも知らなければ、目の前の人物が何者かもわからない。
あまつさえ――その人物が、当時のわたしよりも幼い外見で、白髪と黒い眼を持っているとなれば、なおさら……。
縁
「……緊急事態だったのはわかるけれど、この子、すごく困惑してない?」
冷めた目で、縁さんは791さんに軽口を発していた。
791
「そうだよね……それに、魔族の私が言うのもなんだけど……
ここ、月の民と天狗しかいないし……人間のこの子にとっては、びっくりすることが多いよね……」
縁さんと791さんは、旧知の仲のような、砕けた会話を広げていた。
内容は……わたしを気遣うたぐいのものだということは、なんとなく理解できていた。
- 581 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:40:54.991 ID:QFi5KiEY0
- 縁
「……とりあえず、この子にいろいろと説明しないと」
791
「あっ、そうだね――」
791
「ここは【月輪堂】――明治国の田舎の鍛冶屋
知る人ぞ知る――というか、ここの場所を知ってる人物なんて、まずいない」
瞿麦
「は、はぁ――」
――突然の出来事に、聞きなれない単語……天狗に、月の民――聞いたことのない種族。
わたしの頭には疑問符だらけで、話についていくのが精いっぱいだった……。
791
「――そして、あなたに謝らないといけないことが、ひとつ……
わたしがたどり着いたとき……誰かが攫われていたけれど、その人を助けることができなかった」
その言葉を聞いたとたんにわたしは気が付く。――その、誰か……それはおそらく澄鴒のことだ。
瞿麦
「それは、わたしの妹の――」
791
「――!妹ちゃん、だったのか……
なんとか、あなたを救うことはできたけれど……もう少し、フェルミ家に早くにたどり着いていれば――ごめんね」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 582 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:42:27.420 ID:QFi5KiEY0
- 791
「これは私の友達のさっちゃんの仮説なんだけど……
フェルミ家は、特別な宝物を持っていたって噂があるの――だから、あんな奴らが家に押し掛けたんだと思う
どうして、妹ちゃんが攫われたのかは、それははっきりとはわからないけれど――」
瞿麦
「…そんなの、わたし知らない……」
791
「知らなくても、狙うの――あいつらは、そういう奴らだから」
……あの子は、無事なの?
そもそも、喧嘩さえしなければ――未来は違っていたかもしれない。
瞿麦
「わたしが喧嘩しなければ……ひどいことを言わなければ……」
わたしは、思わず地面に膝をついて、涙をこぼした。
縁
「……大丈夫?」
そんなわたしを、その時は名前は知らなかったけれど――縁さんが、後ろから抱き留めてくれた。
わたしよりも小さな身体。澄鴒に近い体格の縁さんからは、まるで母親のような温かみを感じた。
- 583 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:45:23.512 ID:QFi5KiEY0
- 瞿麦
「……謝れなかった、澄鴒に、うっ、うぅ……」
縁
「たぶん、喧嘩別れと事件が重なったから、頭がぐちゃぐちゃになってるのね」
縁
「……どうして喧嘩したのか、それは聞かないわ
それでも、あなたはその事実に後悔して、挽回ができないことに怯えていることはわかる」
やさしく、そして核心を突く言葉……わたしは、縁さんにすがりついてただ泣くばかりだった。
縁
「でも、大丈夫……あたしたちが、助けてあげるから
少なくとも、あなたのことは、ここで面倒見てあげることができるから」
頭を撫でながら、縁さんは続けた。
791
「……」
縁
「――わたしの知り合いには、信頼できる強者がいる……
そこにいる、なくちゃん――じゃない、791って魔族の女の子も含めてね
だから、もう大丈夫……」
791
「ああ、うん……名乗り遅れたけれど、私は791で、隣のおかっぱ頭の子が月輪縁って名前だよ」
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- 584 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:48:31.046 ID:QFi5KiEY0
- ふと、がたりと、物音が店の奥から聞こえた。
わたしが、店の奥に目をやると、静さんと苺が姿を現した。
――もっとも当時は、一人の女性と、一人の女の子としか捉えられなかったけれど。
縁
「それから――この鍛冶屋の鍛冶師、静
この住居の責任者みたいなものね」
静
「奥で話は聞いていたが……厄介事に巻き込まれたらしいね」
静さんは、女性にしては長身で、初めて見たときは威圧感を勝手に覚えていたような気がする。
静
「縁の言った通り――私もきみに協力するから、安心してほしい
口下手だから、怖がらせるかもしれないが……きみの身の保障は確保できるよう最大限務めるするつもりだ」
重々しい静さんの言葉。始めは、取っつきづらい人だと思っていたけれど、
……少しずつ接するにつれて、あまり活発的ではないけれど、やるべき仕事をきっちりとこなす人だということは、すぐに理解できた。
そして――苺。
縁
「それから、この子は、ここでお手伝いをしてもらっている苺
たぶん……あなたと同年代ぐらいだと思うわ」
苺
「は、はじめまして……ご紹介に預かった苺です」
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- 585 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:53:39.592 ID:QFi5KiEY0
- 瞿麦
「!」
思わず、その白い翼に目をやるわたし……すると、苺はわたしに駆け寄って、恥ずかしそうに告げた。
苺
「僕は……余り知られてない種族の――天狗、なんです……翼が生えてるから、不思議だよね
ても、翼をはためかせても、身体を持ち上げられないから、飛べないんだけどね……」
ぎゅっとわたしの手を握り、早口でわたしに答える苺。
白い髪、白い肌、白い翼、そして対照的な紅い眼は、わたしの心を一瞬で捉え――
可愛らしい表情と、わたしと仲良くしようとする純粋な心は、わたしの気持ちを一瞬で和らげ――
なにより、久々に出会う同年代の女の子ということが――わたしの心を貫いた。
瞿麦
「っ、ふふっ――」
それは気持ちが揺れ動いたからか。
あるいは、母さんも、白髪と紅い眼をしていたから、それを重ねたからなのか。
どちらにせよ、わたしは、苺を見て、思わず笑っていた。
- 586 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:55:11.080 ID:QFi5KiEY0
- 縁
「あら――あなた、表情がすごく沈んでいたけれど
苺のスキンシップで、すこしやわらいだみたいね」
縁さんの口元も、微笑みにゆるんでいた。
791
「あーよかった、ここに連れてきてよかった……
地理的にも安全で、できるだけ女の子が多くて、頼れる知り合いにも顔が利く――そういう条件で連れてきたんだけど
少し、あなたが落ち着いたようで――本当によかった」
791さんは、胸を撫で下ろしていた。
静
「そういえば、きみの名前を聞いていなかったが……」
瞿麦
「な、瞿麦・フェルミです
……その、助けてくれて、ありがとうございます」
苺との接触で少し落ち着いたわたしは、そこでようやく挨拶をした。
- 587 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:56:00.853 ID:QFi5KiEY0
- 苺
「瞿麦ちゃん、その……よ、よろしくね」
すこし顔を赤らめた苺……その純粋な笑顔に、わたしの心は溶かされるようにも思えた。
恐怖でがちがちに固まり凍り付いた心が、その温かみで解凍されたようにも思えた。
瞿麦
「う、うん……」
だから、わたしは――この【月輪堂】と、別荘での暮らしにスムーズに入ることができたのだ。
あの子に対する後悔と、父さんが死んでしまった――その二点を心に抱えながら……。
…………。
瞿麦
「ふぅ」
わたしは、追想を経て、ため息をついていた。
ああ――わたしは、あの頃と比べれば……真実に向かうために歩んでいる。
だから……必ずユリガミまでたどり着こうと、そう心に刻んだ。
- 588 名前:SNO:2020/11/22(日) 21:56:48.414 ID:QFi5KiEY0
- 色々と見えてきたかも。
- 589 名前:きのこ軍:2020/11/23(月) 16:18:39.688 ID:Yj4cfpNQo
- やっぱりお父さんは殺されていたか。
791さんかっこいい。
- 590 名前:Route:B-11:2020/11/23(月) 21:24:53.582 ID:bu1djGd60
- Route:B
2013/5/8(Wed)
月齢:23.7
Chapter11
- 591 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:29:36.033 ID:bu1djGd60
- ――――――。
あれから、4日経った。本来ならば【月輪堂】で手伝っている時間帯――
とはいえ、向こうの理解もあるからこそわたしはここにいるのだ。
アナウンス
「【会議所】での緊急会議の結果、今日から外出規制が解除される並びとなりました
テロの可能性などもありますが、自治体の兵士などによる警備の強化が……」
……お昼時を過ぎて、ようやく外に出られるようになった。
どうしようか。今から【会議所】に向かってもいいけれど、十分に調べられる時間が取れるだろうか?
少し悩んで、わたしは結論を下した。【会議所】に行こう。
会議所が有する図書館は、世界有数の大きさだと聞く。
たぶん、一朝一夕未満の、半日では目的の情報にたどり着くのは難しいだろう。
……慣れない場所ということもある。一度行ってみて、感覚をつかみつつ、数日かけて情報に辿り着く。
これが最良の選択だと、思う。
わたしは、【会議所】へ向かうバスに乗るために、ホテルを出た。
- 592 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:31:16.551 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「なにか…いる…?」
わたしがバス停に向かって歩いていると、なぜか視線を感じた。
……振り向いても、誰もいない。それでも気配を感じるような気がする。
瞿麦
「……まさか、ね」
――まさか、奴が脱走したとして、わたしをそうそう見つけられるだろうか。
……そんなはずはない。いくら【嵐】が【会議所】を標的にしているとしても……。
それでも不安の感情は少しずつあった。試しに、走ってみよう。
……けれど、閉じこもっている間に鈍ったわたしの身体はすぐに音をあげ、息を切らせた……。
瞿麦
「はっ、はっ、はっ、はっ――げほ、げほ、げほっ!」
近くのベンチで、むせ返るわたし。
目の前では、車が走り……通りゆく人々の目は、不思議なものを見るようなもので――なんだか恥ずかしかった。
- 593 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:32:18.010 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「わたし――なにやっているんだろう」
わたしはがっくりと肩を落とす。
【会議所】に行ってもいないのに、なんでこんなに疲れてるんだろう。
気を取り直して、バス停に向かおうとしたその時……嫌な視線を感じた。
瞿麦
「――え?」
それも――あいつのような、下劣な視線。
振り向いても、何もいない。それでも、視線のようなものは――あるような気がする。
ざっ、ざっ、ざっ――足音が聞こえる。
その方向をちらりと見やる――足早に、男が近づいているような気がする。
呆気にとられる私に近づく男が一人いた。
- 594 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:33:56.183 ID:bu1djGd60
- ……その顔は――
グローリー
「ヒヒヒ――」
汚く黄ばんだ歯を見せながら、近づいてくる男は――
紛れもなく、あいつだった。
瞿麦
「――!」
わたしは、足早に人ごみの中をかき分け、バス停とは逆の方向へと駆け出した。
逃げなきゃ。逃げなきゃ……あいつから、逃げなきゃ。
わたしは、前も見ず、ただ、適当な曲がり角を見つけては曲がり――適当な横道に逸れ――
気が付くと、どこかの路地裏に迷い込んでいた。
- 595 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:36:28.701 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「あれ――ここ、どこ――」
地図は持っていたけれど、夢中で逃げ出したからここが何処かなんてわからない。
そもそもこんな人通りの少ない道を彷徨うほうが、危ないのではないか?
焦燥感にかられる。心臓が早鐘を打つようにばくばくと唸りだす。
わたしは、路地裏から抜け出すために、身をかがめてただ走った。
瞿麦
「きゃ!」
前を見ずに走っているうち、わたしは何かにぶつかった。
尻もちをついて、思わず上を見上げると――厳つい顔の男が、わたしを見下ろしていた。
男
「こいつが――フェルミ家の娘か……?連絡しないと」
瞿麦
「いたっ、やめてっ!はなしてっ!」
そのごつい腕で、わたしの細い腕が掴まれる。
男は……わたしの抵抗など意に介せず、手元の通信機で何かを連絡しようとしていた。
- 596 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:38:59.383 ID:bu1djGd60
- ――その瞬間、黄金色の流れ星と、遅れて風切り音が耳元を掠った。
同時に、男の持っていた通信機はバラバラに砕け、破片が地面に散らばった。
そして爽やかなシトラスの香りが辺りに散らばってゆく……。
男
「なんだと?」
困惑する男は、不意の腕の力を抜いた。その機を逃さず、わたしは脱兎のごとく逃げ出す……。
男
「おい、待てッ!クソガキがッ……」
後ろから聞こえる怒号……地面を蹴り迫り来る足音。
しかし、再び風切り音が聞こえたかと思うと……。
男
「あがっ――」
再びの風切り音とともに、断末魔と、倒れこむ音……それから遅れて爽やかなシトラスの香り。
振り向くわけにはいかないけれど、先ほどの男がわたしを追いかけている様子はない。
すなわち、これは――ボディーガードが現れた、ということなのだろうか。
- 597 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:42:15.631 ID:bu1djGd60
- 男
「待て―このガキがぁ!」
足が棒になるのをこらえて必死に逃げるわたし――。その後ろから、追っ手らしき男たちの声が聞こえた。
男
「ぐわっ!」
男
「ぎゃぁっ!」
――しかし、これまた風切り音と断末魔とシトラスの香り。
やはり、これはボディーガードの人が助けてくれているのだろう。
とにかく、どうにか安全な場所まで逃げないと――。
疲れに音をあげそうになる身体に鞭打ちながらひたすら走っていると、じゅっという音が聞こえた。
まるで、虫眼鏡で太陽光を集めて燃やしたような、じゅっという音が聞こえた。
瞿麦
「きゃっ!」
その瞬間、わたしは地面に躓いて転んでしまった。
瞿麦
「いたた……」
擦りむいたりはしていないようだけれど、地面に打ち付けた痛みが腕にあった。
転んだ場所を見ると……アスファルトの地面が、微妙に陥没している……。
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- 598 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:44:20.251 ID:bu1djGd60
- グローリー
「瞿麦ちゃあん――さんざん苦労をかけさけてくれたね
お仲間が、そこそこやられちゃったよ――」
瞿麦
「ひっ!」
――あの時同様の下劣な表情を見せたあいつがそこに……。
当時から比べれば顔は老け、髪も薄くはなっているが、魂自体は、その薄汚い心そのものは変化していなかった。
グローリー
「…あの頃から、ずいぶんと身体が成長しているらしいなぁ、フフフ――
先生に、見せてみてよ――」
あふれた涎も拭いながら、あいつは迫ってくる。
この本性に昔から気が付いていれば――。
瞿麦
「来ないで!わたしには、ボディーガードがいる」
グローリー
「ほー、なら呼んでみなよ……先生は、ボディーガードだろうと勝てる強さを手に入れたんだよ」
わたしの抵抗の言葉も意に介さず、あいつは手元の懐中電灯をつけたかと思うと、わたしの横の壁を照らした。
その瞬間――凝縮された光がわたしを横切り、じゅっという音とともに、壁に穴を開けた。
- 599 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:47:55.693 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「えっ――」
突然のことに、わたしはただ呆然とするだけ。
グローリー
「フフフ、人間に当てればどうなるだろうねぇ
まぁ瞿麦ちゃんにはやらないけどね、ボディーガードとやらには無意味だろうね」
自慢げににやにやと語るあいつの顔は、欲望がにじみ出た醜い本性であふれていた。
瞿麦
「!」
――どうして、こんな魔術を!?あいつはメイジでもなんでもなかったはず……。
わたしの口はからからに乾き、何も言えない――ぱくぱくと、陸に打ち上げられた魚のように口を動かすだけだった。
グローリー
「さぁ、時間をかけちゃったね……久しぶりに続きといこうじゃないか、ハァ、ハァハァ……」
カチャカチャとベルトを降ろす音が聞こえた。
いやっ、やめて――!そう叫ぼうとしても、あまりの恐怖で叫べない。
その時……。
檸檬色の魔法弾が、降り注ぎ、煙がもうもうと立ち込めた。
グローリー
「ん、なんだ!?」
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- 600 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:51:49.209 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「警告する――少女から離れろ」
そこには――燕虎が居た。
燕虎は、漆黒の棍を右手で掴み、あいつの方を見ていた。
……その表情は、長い前髪に隠れて読めない。口調からも感情は読み取れない。
――しかし、あいつへの嫌悪感がある。それだけは、わたしにも理解できた。
グローリー
「なんだ、お前――お前がボディーガードか?」
燕虎
「………」
あいつの質問に、燕虎は何も答えない。
――でも、こんなタイミングで現れたのだから、恐らくは燕虎がそうなのだろう。
グローリー
「無視か――まぁ消えてもらうけど」
余裕綽々にそう言うと――グローリーは懐中電灯を燕虎に向けた。
増幅された光のビームが、燕虎目がけて宙を駆ける。
瞿麦
「ひっ!」
わたしは――その後の光景を想像して、思わず目を瞑ってしまった。
壁に穴を開けるような威力の光を、生き物が受けたらどうなってしまうの!?
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- 601 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:00:43.213 ID:bu1djGd60
- ――続けて、じゅっという音と、破壊音が聞こえた。
恐る恐る、目を開くと……。
燕虎
「――あまねく飛道具は我が意思にありけり」
どういうわけか、何事もなく、燕虎はそこに立ったままで――その横の壁に穴が開いていた。
よく見れば右手は少し被弾したようで、わずかに煙が経っていたけれど――負傷というほどの怪我には見えない。
燕虎は――身をかがめながらあいつに向かって走り出し、その速度エネルギーごと棍であいつのどてっ腹を思いっきり突きにかかった!
グローリー
「な、なぜ跳ね返された!?くそ、もう一度だ!」
グローリーは再び燕虎に攻撃するために光を照らした。
だが、今度は燕虎に当たる寸前に、何事もなかったかのように消え去った。
グローリー
「あ?がはっ!」
そして、棍で突かれたあいつは呻き声とともに倒れ伏し、燕虎はわたしとあいつの間に割って入っていた。
それはわずか、数秒の出来事だった――。
- 602 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:05:28.645 ID:bu1djGd60
- グローリー
「……うぐ、うぐぐ、なぜ、なぜ効かない……」
吐瀉物をまき散らしながら、あいつは言葉をこぼす。
燕虎
「――すべては魔女の囁くがままに……これで満足?」
返す言葉は氷のように冷たく、周りの気温すらも下げるのではないかと思うほどだった。
燕虎
「……奴から才能を開花されたのだろうが
超能力を使えるだけでは……強いとはいえない……」
燕虎
「魔術のように、普遍的ではない――
たった一人だけしか操ることのできない才能だとしても――
そこに鍛錬を加えないようでは……無意味にすぎない」
グローリー
「グギャッ!」
続けて淡々と言葉を吐き捨てた燕虎は、それだけ言うと、鳩尾に思いっきり棍を振り下ろし、あいつを気絶させた。
- 603 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:08:52.992 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「さて――」
燕虎はわたしに振り向いた。
恐らくはボディーガードだと思うけど、確信はない。
瞿麦
「あ、ありが、とう……ございます……」
固唾を飲みながら、恐る恐る感謝の言葉を述べると――。
瞿麦
「この場からは、さっさと逃げる必要があるだろう
今の間は、私を信じてほしい――」
瞿麦
「え?きゃっ!」
わたしの言葉になにも返すことなく、燕虎はわたしを抱きかかえて駆け出した。
燕虎
「――あなたの行くべき場所に、私が導く
その間、あなたは休んでいればいい――」
――淡々とした燕虎の言葉は、僅かながら気遣いを感じ取れるような気がした。
安心。この人は、信頼できる。そう思うと、一気に張り詰めていたものが身体から抜け落ちる。
わたしは、燕虎の腕に揺られながら――いつの間にか、眠りについていて……。
- 604 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:10:59.666 ID:bu1djGd60
- ――――――。
わたしは、夢を見ていた。
それは……苺との初めて暮らした時の記憶でもあった。
苺
「――その、ぼくは、静さんや縁さん、791さんから……
瞿麦ちゃんと一緒に過ごすよう頼まれたんだ」
瞿麦
「…………うん」
苺
「僕の趣味は、料理かな…【月輪堂】でも、時々料理を作ってたの
縁さんも料理が上手で……縁さんに教えてもらったんだ」
瞿麦
「………うん」
色々なことがありすぎて、このころのわたしは言葉を発するのも億劫だった。
――あの頃と比べれば、日々が過ぎ去って……わたしの心は軟化したように思える。
けれども、この時期は……わたしは、短く小さな返事を繰り返すだけの機械のようになっていた。
- 605 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:11:44.702 ID:bu1djGd60
- 苺
「ぼくは――天狗、らしいんだけど……
空を飛べないし、魔術も使えない……静さんと縁さんの話によると、僕は川に流されてたんだって」
瞿麦
「…………そう、なんだ」
苺
「……僕は、物心ついたころから、【月輪堂】でずっと暮らしてきたけれど
静さんと縁さんから比べると、ずっと歳が違うから……瞿麦ちゃんと会えて、なんだか新鮮なんだ」
瞿麦
「何歳、なの?」
苺は、一方的にわたしにいろいろなことを教えてくれた。
……今思えば、苺も寂しかったのかもしれない。
その時に投げかけた質問――それは心に浮かんだ素朴な疑問でもあった。
- 606 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:13:59.108 ID:bu1djGd60
- 苺
「12歳だよ」
瞿麦
「わたしより、1歳年上なんだ」
苺
「そうだったんだ……ぼくと同じぐらいだね?」
瞿麦
「…そういえば、自分のことを【ぼく】って呼ぶんだね」
苺の純粋な紅い瞳と、やさしい声色で返される答え……
それは、自然と凍り付いたわたしの心を溶かしてくれたのかもしれない。
徐々に、わたしは浮かんだ疑問を苺に投げかけ始めた。
苺
「その、瞿麦ちゃん……へん、かな?」
瞿麦
「ううん……わたしは、いいと思う」
苺
「よかった――静さんや縁さんは、珍しいけれどアイデンティティは失わないで――って、かっこいい言葉を言ってくれたんだけど
やっぱり……近い年の女の子に言われると、うれしいな」
ぎゅっと、手を握る苺。そのぱあっと明るい表情は、咲き誇る苺のように綺麗だった……と、その時わたしは感じた。
- 607 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:15:32.518 ID:bu1djGd60
- それから、いつもの暮らしが始まったのだ。
時折あいつの悪夢を見てはいたけれど、それでもどうにか生活できていた。
それは――苺のおかげであることは言うまでもない。
また、静さんや縁さんとも触れ合いも、その理由の一つだと思う。
縁
「別に、男に媚びる必要なんてないんだよ
自分が好きだと思えるなら、性別も種族も関係なく――その人に好かれるような形を目指せばいいの」
縁さんのほうは、見た目はわたしよりも幼かったけれど、心はずっと大人で……母性を小さい体に収めた、まさに大人の女性といえる人だった。
静
「……私が子供のころは、教育機関もなかった
当然、縁も……それでも、鍛冶屋として生きていけるまでなっている
だから、私たちの背中も見ていてほしい……これぐらいしか、私は言えないかな」
静さんのほうは、不器用でも、しっかりとわたしを気遣ってくれる――まるで父性を纏った、かっこいい人だった。
- 608 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:17:33.126 ID:bu1djGd60
- 791
「瞿麦ちゃん、そのふわふわした髪が可愛らしいねぇ」
瞿麦
「……そ、そうですか?」
791
「私、こんなにかわいい髪形をして街を練り歩きたいなぁ♪」
791さんとも、短い間だけど、一緒に過ごしていた。
その天真爛漫さや、頼れる背中――それは偉大な統治者のように思えた。
791
「私は強いけど――強いだけじゃ面白くないからね、一緒に遊べる友達、腹を割って話せる友達――そういう存在も大事だよ」
瞿麦
「……791さんには、いるんですか?」
791
「うん――今、ここにはいないけれど、私のライバルで、一番の友達がいるよ
あの子は私と違って、とてもかっこいい子だからね」
- 609 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:18:25.135 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……わたしにも、そんな子ができるんでしょうか」
791
「苺ちゃんという女の子が、もういるじゃないか」
瞿麦
「あっ――」
791
「もう、友達を超えて、家族として思っていたんだね」
791さんの発言は、的を射ていた。
苺と一緒に、ふたりで過ごすにつれ、関係が深まっていたのだ。
それも、そう言われるまで気が付かないぐらいに。
けれども、791さんはいつの日か、【会議所】へと行ってしまった。
そのころには、私が居なくても安全が保たれる――そういうことを言っていた気がする。
- 610 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:19:24.957 ID:bu1djGd60
- ――はっ。
わたしが目を開けると、ベンチの上だった。
寝ぼけ眼であたりの風景を見る――そこには、燕虎が足を組んで座っていた。
燕虎
「覚醒したか」
瞿麦
「ふぁ、はい……」
思わず、あくびをしようとしてしまい、抑えながら答えるわたし。
瞿麦
「その、いろいろと……ありがとうございます」
そして、ぺこりと頭を下げ、再び感謝の意を伝えた。
燕虎
「………」
燕虎は、わたしの言葉に肯定も否定もせず、無言のままだった。
- 611 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:21:23.722 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「ここが【会議所】――貴女が向かおうとしていた場所」
わたしがベンチから起き上がると――いつの間にか、【会議所】の敷地内に居た。
本やCTVでも見た光景だけど、実際に見るとなると、その大きさに圧巻される。
城壁は天まで届かんとばかりに積み重なり、中核である城の高さも同等に高い。
この城の中だけで、一つの集落の住民ぐらいは余裕で入れそうなぐらいだ。
燕虎
「今は日付を過ぎる寸前の深夜23時57分……今なら、出歩く兵士も少ない」
ふと空を見上げる……月は、わずかに見えるだけ。
もう少しで新月になるのだろうか。まるで、今のわたしの心を反映させたかのような月にも思えた。
燕虎
「……wiki図書館は、この時間、通常利用――すなわち、図書の貸出は不可能――
ただし、会議所の兵士ならば、本を読むことは許可されている――」
そして、燕虎は私についてこい――といわんばかりに、指を指し示してわたしを導いた。
瞿麦
「は、はい――」
風景に気を取られたわたしは、焦りながら答えた。
足音すら聞こえない、ぶれのない燕虎の足取り――その後ろを、わたしは幼鳥のように何とかついていった。
- 612 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:24:32.956 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「あれがwiki図書館……警備員はいない代わりに、専用の魔法陣で警備している
賊が居れば、一瞬で会議所にそのことが伝わる仕組みになっている――」
wiki図書館は、わたしの目覚めたベンチからすぐだった。
燕虎は……わたしを気遣ってくれている……のだろうか。いろいろと情報を教えてくれた。
それでも、燕虎について何もかもが読めなから、ただ頷くしかできなかった。
燕虎
「――賊と間違わないために、私に掴まっていろ」
燕虎
「はっ!」
瞿麦
「わっ!」
ひょいと、燕虎はわたしを抱きかかえると、一足飛びで図書館の中に入った。
一瞬光がわたしたちに向かったような気がしたけれど――跳ね返っただけで、何も起こりはしなかった。
――夜の図書館は、ランプの明かりだけが灯る、やや不気味な空間だった。
人の気配も、ない。それでも、闇の中から「なにものか」が這い出てきそうな……そんな雰囲気もある。
- 613 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:24:52.362 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……わたしの探す情報は、どのあたりを探せばいいんですか」
……その恐怖が、逆にわたしを落ち着けた。
燕虎
「………」
燕虎は、わたしの質問には答えず……ついてくるように、指でジェスチャーを作った。
誘うような燕虎の足取りは、やはりぶれのない足取り……。
わたしは、燕虎の無言の圧力に、何も答えられないままついていくだけ。
本棚の間を、延々と歩き続けている。
それどころか、同じ場所をぐるぐるとぐるぐると、ずうっと回り続けているような……。
- 614 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:25:49.122 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……あれっ?」
――気が付くと、周りの風景が変わっていた。
地下に降りる螺旋階段の入り口が、目の前にはあった。
後ろは、本棚で挟まれた通路。ここは一体――どこなの?
燕虎は、すでに螺旋階段に足を掛けていた。
わたしは困惑しながらも、すぐにその後に続いた。
- 615 名前:SNO:2020/11/23(月) 22:26:11.879 ID:bu1djGd60
- 演出と展開WARSをパクってますね・・・
- 616 名前:Route:B-12:2020/11/24(火) 20:03:53.670 ID:z8PnalhE0
- Route:B
2013/5/9(Thu)
月齢:28.7
Chapter12
- 617 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:06:00.577 ID:z8PnalhE0
- 螺旋階段は、まるで地獄へ垂らされた蜘蛛の糸のように、底まで続いていた。
こつん――こつん――硬質な音が響く。
かつん――かつん――その階段は、無限に続くようにも思える。
蜷局を巻く大蛇のように……わたしは、その背を伝っている。
あるいは、これは龍の背なのかもしれない。
ともかく――その長い階段を、燕虎は、そしてわたしは下ってゆく。
途中、部屋につながる通路があったけれど――燕虎はそれに目もくれない。
燕虎は、いったいどこへわたしを導こうとしているの?
瞿麦
「あれ……」
――通路に、レポートのようなものが落ちていた。
思わず駆け寄って拾い上げる。内容は――超能力についての考察……著者は、コルヴォ・フェルミーー。
瞿麦
「え――父さんの――」
思わず、わたしはそう呟いていた。
が、燕虎はそれを気にすることなく、下へと降りていく……。
咄嗟にレポートをパーカーの中にしまい、慌てて燕虎に続いて階段を降りる。
- 618 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:06:53.308 ID:z8PnalhE0
- こつん――こつん――足音が響く。
金属でできた階段。なのに不思議と足になじんで、疲れを感じさせない。
どれほど歩いただろう。気が付くと、終点までたどり着いていた。
天を見上げる――その天辺は、まるで月のように遠くにあるようにも思えた。
正面には、分厚い鉄板の扉。入り口には魔術で制御した鍵がかかっているらしい。
燕虎が何やら魔術を詠唱すると、すぐにその扉が開いた。
ゴゴゴ――ッ、と重々しい音が鳴り響く。一体、この向こうに何があるのだろう。
燕虎
「……」
中は、エメラルド・グリーンのライトが光っていた。しかし灯りはそれだけで、全体的に暗い部屋。
……しかし、この部屋は外界とは切り離された異質な雰囲気がある。
その感覚は、肌にぴりぴりと響くよう。
瞿麦
「……えっ?」
近くに、服がハンガーで吊られていた。
赤い、ゴスロリ服――それは、まぎれもなく、あの子の……。
- 619 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:08:22.505 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……この服は、なんでここに」
――じわりと、冷や汗が背中を伝った。
それは、生存本能?それても第六感が何かを訴えている?
部屋の奥には、一つのポッドがあった。
燕虎は、それを見下ろしている。
わたしは――そのポッドを、恐る恐る覗く。すると……。
瞿麦
「!」
そこには……澄鴒が、そこに眠っていた。
生まれたままの姿で、胸の上で手を組み――羊水のような液体に沈んで眠っていた。
彼女の横には、諸刃の【剣】が底に沈んでいる……。それはこの世のものとは思えない不気味な感覚があった。
- 620 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:10:55.436 ID:z8PnalhE0
- 燕虎
「貴女が探し求めるその人物――どうして、彼女を探す必要があるのか――
それは――眠り姫を目覚めさせるため」
瞿麦
「………」
燕虎の言葉に、わたしは息を呑むだけだった。
ともかく、一つの結論にわたしはたどり着いた。
ユリガミを探す理由――それは、澄鴒を目覚めさせるためだ!
でも――どうしてユリガミが必要なのだろうか――それが分からない。
瞿麦
「……この子を目覚めさせるのには、わたしでは駄目なんですか」
浮かんだ疑問を、わたしは燕虎にぶつけた。
燕虎
「彼女の体の中で、傷がいまだ残っている
このポッドの中で眠りながら癒してはいるが――
完全に癒すためには、彼女が必要――」
淡々と、燕虎はその答えを告げた。
――ユリガミは、あの子を目覚めさせる鍵と、いうことか。
- 621 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:12:06.925 ID:z8PnalhE0
- 燕虎
「……ここに連れてきた理由は、貴女の意思を強くさせるため」
――うすうす感づいてはいたけれど、どうやら燕虎はわたしの事情を把握しているらしい。
燕虎は、何者なんだろうか。同じ髪の色をしていることからすると……
もしかしたら、静さんや縁さんとも関わりがあるのかもしれない。
瞿麦
「それでは、ユリガミは?」
でも、今はそれどころじゃない。
わたしがやるべきこと。それはユリガミを探すことなのだから。
燕虎
「………」
燕虎は、再びついてくるように指を指し、踵を返して部屋を出た。わたしもその後を追いかける。
背後で、ゴゴゴ――ッと扉が閉まる音が聞こえた。
……おそらく、こうやって厳重な仕掛けがあるから、澄鴒の身柄は安全なのだろう……そう納得しながら、わたしは燕虎に続いた。
- 622 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:13:20.284 ID:z8PnalhE0
- 再度、わたしは抱きかかえられて図書館を出たのち、【会議所】の中へと連れられた。
……燕虎は、ひたすら【会議所】の中を歩き続けた。
正面玄関を通り、本部棟の廊下を通り、会議室を横切り――。
とても広い城の中は、静まり返り、わずかな月明りとランプだけが室内を照らす。
不気味で、静寂で、そしてどこか神秘的な――そんな不思議な空間を、わたしは横切った。
……燕虎は、兵士たちの生活区域へと入っていった。
恐らく、燕虎は見つからない工夫をしているだろうけれど……少し不安に思いながら、わたしはその後をついていった。
ぴたり――と、急に燕虎の動きが止まった。
瞿麦
「わ、わわっ」
思わず急ブレーキを踏んだものだから、わたしは躓いて転びそうになる。
燕虎
「……」
燕虎は、その手を、掴んで引き起こしてくれた。
- 623 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:14:36.550 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……あ、ありがとう、ございます」
わたしが感謝の意を示しても、燕虎は何も返さなかった。
しかし、部屋の表札に指を指していた。見ろ――ということ?
そこには――「791」と書いてあった。
791さんの部屋?どうしてここにわたしを導いたの?
瞿麦
「あの、どうしてここに」
わたしが質問をしようと振り返ると、すでに燕虎は居なかった。
一体どこに行ってしまったの……?わたし一人で、どうすれば――。
視界の果てには夜の会議所……暗い廊下に、僅かなランプの灯火と星明りだけがある光景が広がっていた。
瞿麦
「……っ」
視界の果てには闇が広がるばかり。……一人で置いて行かれた孤独に不安を覚えた。
しかし、もう引くことなんてできない。わたしは、意を決してドアをノックした。
- 624 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:15:37.252 ID:z8PnalhE0
- 791
「誰?こんな夜中に――」
寝ぼけた様子の791さんが、少し不機嫌そうにドアを開け――。
791
「え?瞿麦ちゃん、どうして……」
わたしの顔を見たとたん、目を丸くして驚いたのも一瞬、すぐに優しげな口調に変わった。
……わたしの表情を見て、何かを察したらしい。
791
「……とりあえず、中に入って
話を聞くから」
791さんはわたしの背中を押して、部屋に入れてくれた。
部屋の中は綺麗に整頓され、レモンのアロマオイルが漂う素敵な部屋だった。
- 625 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:18:15.854 ID:z8PnalhE0
- 791
「……それにしても、どうしてまた私のところに?
久しぶりに顔を見にきたってことはないよね?あの場所とここの距離を考えると――
まぁ、仮にその理由でも、瞿麦ちゃんが色々立ち直ってると解釈はできるけどさ」
瞿麦
「……その、笑わないで聞いてくれますか
わたし、ユリガミを探しているんです」
悩みながらわたしを見る791さんに、わたしは単刀直入に切り込んだ。
791
「!
……どうして、私のところに?」
791さんは、驚いたようにかっと目を開いた。
アメジストのような瞳がわたしを捉える……わたしは、その視線から目を背けずに続けた。
瞿麦
「――ユリガミを探していたら、
朔燕虎って人がここに導いてくれたんです」
791
「…………」
791さんは、わたしの答えを聞いて腕を組みながら考え事を始めた。
突拍子もないことに思われて、怪しまれているのだろうか。
- 626 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:19:23.376 ID:z8PnalhE0
- しかし、791はさんはわたしの言葉を信じてくれたらしい。
うんっ、と一回頷くと――。
791
「確かに、私はユリガミの場所を知っている――知ってはいるけれど」
791さんは、思わせぶりに答えた。その表情は、真剣そのものだった。
791
「……どうして、ユリガミを探しているのか、教えて」
わたしの顔面間近に顔を接近させ、彼女は訊いた。
791さんの全身を包む威圧感のようなものが、とても近くにあって、怖い。
それでも――わたしは、目的のために立ち向かう必要がある。だから……。
瞿麦
「妹の、澄鴒を助ける、ためです」
しどろもどろに詰まりながらも、わたしは答えた。
- 627 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:22:02.322 ID:z8PnalhE0
- 791
「……そう、妹ちゃんを」
791さんは、窓の外を見て憧憬に耽りながら、考え込んで……。
791
「なら、私は案内するしかないね
――ユリガミの袂に……
あの時、私は瞿麦ちゃんしか助けられなかったから……」
そう、言い切った。
きっぱりと答えるその姿は、王者のように貴く見え――改めて、魔王と呼ばれるだけはあると思っていた。
瞿麦
「ありがとう、ございます」
ぺこりと頭を下げ、上げたときには791さんの表情は普段の柔和なものに戻っていた。
791
「でも、私は明日……というよりは、今日の日中、用事があるから――今すぐには行けないかな
――午後7時ぐらいになるかもだけど、それでもいいかな」
瞿麦
「はい、それでも構いません」
- 628 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:26:01.348 ID:z8PnalhE0
- 791
「わかった――今日は、私の部屋に泊まって
――恐らく、そのために……燕虎という人物は、ここに連れてきたんだろうから
明日も、この部屋の中でずっと居ればいいからね」
瞿麦
「はい」
791
「……しかし、この部屋はベッドが1個しか置いてないから――どうしようかな」
きょろきょろと、791さんは部屋を見渡した。……と思いきや、すぐにわたしに向き直り……。
791
「――ソファーで寝ようかと思ったけど面倒だし、それに女の子同士だし――
一緒のベッドで寝ようか?」
ばっと、ベッドのシーツを叩いた。別に、信頼のおける人だからいいけれど――それでも、不思議な感覚があった。
わたしにとっては、とても大きく、対等ではない存在と思っていたから――そのどこか子供っぽい発言が、とても不思議だったのだ。
瞿麦
「は、はいっ」
――それでも、わたしは頷いた。
ふかふかのベッドが身体をぴったりと包み込む。
その感覚に沈みながら、わたしは考える。
色々なことがあった……澄鴒との再会。ユリガミを探す目的。そして――謎の人物、燕虎。
そんなことを考えているうち、身体は、自然に微睡んで……。わたしは夢の海へと沈んでいった。
- 629 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:32:04.366 ID:z8PnalhE0
- ――――――。
わたしは、夢を見ていた。
それは――苺との生活。平穏で緩慢な死を迎える日常。
苺
「瞿麦ちゃん、手をつないでもいい?」
瞿麦
「うん」
――苺のおかげか、わたしの精神は徐々に明るさを取り戻していった。
相変わらず、悪夢に苦しめられたりはしたけれど、その当時から比べればかなり改善されていた。
それから、苺のスキンシップが少し――深まったような気がする。
わたしのことをどう思っているのだろうか……それは、結局、訊けなかった。
本で、同性愛者についての記述を見たことがある。もしかしたら――とも思った。
でも、苺がそうだったとして、わたしに恋愛感情を抱いていたとして――わたしは嫌なのだろうか。
……いいや、むしろそっちのほうがいいのかもしれない。
苺と過ごす日々はとても平穏で素晴らしいものだった。喧嘩もめったにしない天国のような場所。
- 630 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:33:11.040 ID:z8PnalhE0
- ――そう思いながらも、結局わたしは苺に特別なことを言うことはなかった。
それは苺も同じ……告白に近い発言はしていないと思う。
もし、色々な面倒事が片付いたら――わたしは苺に話を切り出したほうがいいのかもしれない……そう感じていた。
かつては平穏を崩すことを恐れていたけれど――
ユリガミを探すために、色々なことに立ち向かうようになって――心境が変化していた。
やがてその思考も記憶の海に溶けていき、いつのまにかわたしは目を覚ましていた。
7
91さんは……すでに部屋を出ていた。
わたしはベッドからのそのそと起き上がる……机の上には、箱に入れられたサンドイッチが置いてあった。
隣には791さんのメモ―― 「おなかがすいたら、食べてね♡ 791より」、と書いてある。
瞿麦
「ありがとう……」
わたしは、本人には届かないけれど、感謝の気持ちを伝えてサンドイッチを食べた。
- 631 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:35:40.465 ID:z8PnalhE0
- ……さて、これからどうしよう。
そう思いながらパーカーに触れて、かさかさとした紙の感触があることに気が付いた。
そうだ……そういえば……wiki図書館で拾ったレポートを、うっかり持って帰ってしまったんだ……。
……この部屋を出るわけにもいかない。とりあえず、これを読んで時間を潰そう……と思った。
父さんが書いた論文……超能力についての考察……。
わたしはそれを読み始めた。
『超能力――それは魔術に似た――しかし魔力を伴わない力。
魔術を操る存在をメイジ、それ以外をファイターと便宜上呼び、今後戦いを行う上での選別に反映させたいが、
その二つとは異なる存在……エスパーと呼ばれる存在をどうするか……これが今後の課題かもしれない。』
『……魔力を伴わない、魔術といえばいいのだろうか。
私の友人の姉もまた、超能力を持っているという……』
『今はもうこの手を離れた私の妻――彼女も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
彼女が【力】を使った際、魔力センサーを使ったことがあるが、
その力に対し、魔力は検知されなかったからだ。』
『……超能力は、まだオカルトめいた、理論もはっきりとしない概念である。
微弱魔力による影響の可能性も考えられるが、誰でも起こすことのできる可能性のあるきのたけ理論と異なり検証も難しい。
しかし、きのたけ理論と同じく興味深い現象だ……。』
- 632 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:39:54.759 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「超能力――」
ぽつりと、わたしは呟いた。
……そんな概念は今まで聞いたことはない。
しかし……母さんが不思議な力を使っていたのは確かだった。
その時、母さんについての記憶が、濁流のようにわたしの中を流れ込んだ。母さんがいなくなる前の出来事を……。
ある日――わたしは、転んでけがをした。
瞿麦
「っ、うぇええーーんっ、っ、っ……」
まだそのころは幼かったから、痛みにわたしは泣きじゃくるばかり。
そんなわたしに――母さんは、ケガをした膝にやさしく手を当てた……。
母
「痛いの、痛いの、飛んでいけ」
すると、その手が傷を負った膝を包むやいなや、まるではじめから怪我がなかったかのようにきれいさっぱり治っていたのだ。
瞿麦
「お母さん、ありがとう」
母
「――」
わたしが明るく返すと、母もうれしそうに微笑んだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 633 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:40:48.385 ID:z8PnalhE0
- ――そこで、わたしは思い出した。
あいつの光の攻撃――それに対して、燕虎は超能力と言っていなかったか?
燕虎
「魔術のように、普遍的ではない――
たった一人だけが操ることのできない才能だとしても――
そこに鍛錬を加えないようでは……無意味にすぎない」
――あいつに吐き捨てたときに、そう言っていた。
……これは何かの宿命とでもいうの?
わたしは……わたしに引き寄せられる因縁に、すこし身体を震わせていた。
- 634 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:41:16.533 ID:z8PnalhE0
- 791
「ただいま、瞿麦ちゃんっ♪」
……どうやら、所定の時間になったらしく、791さんが部屋に帰ってくるなり、私の手を握った。
791
「今からユリガミの住処に行くけれど、準備は大丈夫?」
瞿麦
「――あっ、少し待ってください……」
791
「どうしたの?」
瞿麦
「ホテルに、荷物を置いていて――もうユリガミのところに行くのなら、チェックアウトしないと……」
……いろいろなことがあって、すっかり頭の中から追いやられていたけれど、いざ、行く時になって思い出した。
お金は静さん持ちだけど、このまま忘れてしまうと迷惑になってしまう。
- 635 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:41:49.886 ID:z8PnalhE0
- 791
「……それって、どこのホテル?」
瞿麦
「たけのこ軍の居住区の――」
791
「ああ、あそこか――なら、私が後で話をつけておこうか?」
瞿麦
「えっ……いいんですか?」
791
「うん、だって多分お金は【月輪堂】持ちでしょ?
だから、私に任せなさいっ」
胸をぽんと叩いて、自信満々に791さんは答えた。
同時に――わたしの境遇まで読むなんて。
確かに、事情を知っていれば予想できる範囲ではあるけれど、そこまでできるなんて……。
瞿麦
「……お願いします」
わたしは、少し涙ぐみそうになって、それをこらえながらおじぎをした。
- 636 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:44:05.520 ID:z8PnalhE0
- 791
「さて、その問題は私が何とかするとして――
今は夜の19時7分、いい頃合だね――
瞿麦ちゃんはこっそりここに来たみたいだから、こっそりと出ましょう」
そう言うと791さんは、わたしをローブの中に入れて、抱っこした。
瞿麦
「ふぇ!?」
791
「息苦しいかもしれないけれど、ちょっとだけ……我慢していてね」
瞿麦
「ひゃ、ひゃい……」
わたしは、カンガルーの赤子のように、791さんに連れられて会議所を出た。
どれだけそうしていただろう……わたしは、ローブの中で必死に掴まっていると……。
- 637 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:45:17.542 ID:z8PnalhE0
- 791
「はい、息苦しかったでしょう」
瞿麦
「ぷはっ――ふぅ、ふぅ……」
ようやく791さんの懐から出られたわたしは、息苦しさから解放されて……大きく深呼吸をした。
791
「ユリガミの住処は、貴女の住処と同じく僻地にある――知っているのは、限られた者だけ」
わたしを連れ出すときはおどけた態度の791さんは、真剣な表情に変わっていた。
ユリガミを目指す――あの子を助ける――その目的を、791さんは真摯に手伝おうとしている。
だから、わたしも――頑張らないと。
791
「とはいえ――あの長い距離を歩くのは、瞿麦ちゃんではちょっと厳しいかな」
791さんは、わたしを見ながらそう言った。
- 638 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:49:14.116 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……その通りです」
その言葉は図星。少し落ち込んでいると……
791
「まぁ、大丈夫――私がなんとかするから♪
落ち込まない、落ち込まない」
そう言いながら、背中をぽんぽんと叩くやいなや、
791さんはわたしを腕に抱き抱え、そのまま地を駆けだした。
瞿麦
「わぁっ?!」
いきなりのことに、素っ頓狂な声をあげるわたし……まるで、燕虎にされた時と一緒だ。
わたしは女で、体重もそう重くはないからできるのかもしれないけれど――。
そういえば――初めて791さんと出会ったとき、【月輪堂】へと向かうときもこうされたっけ。
わたしは懐かしさを覚えながら、流れる景色を目で追っていた。
空を駆け、野を超え、山を潜り――森を抜け――
どれほど時間が経ったのだろう。どこまで移動したのだろう。
もはやそれはどうだっていいかもしれない。
ともかく、一つ言えること――目の前に、屋敷がそびえていた。
- 639 名前:SNO:2020/11/24(火) 20:50:13.329 ID:z8PnalhE0
- 魔王様大活躍!
- 640 名前:きのこ軍:2020/11/24(火) 22:20:56.023 ID:P0MW6/Zko
- 更新おつ。無口さんの立ち位置が気になりますね。
あと時間おいて真名が出てくるときは一度フリガナふってくれるとうれしいかも。
私はメモってるから知ってるんですけどね。
- 641 名前:Route:B-13:2020/11/25(水) 21:47:56.460 ID:BmIsXKQc0
- Route:B
2013/5/10(Fri)
月齢:0.1
Chapter13
- 642 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:49:15.972 ID:BmIsXKQc0
- 791
「よっ――と」
791さんは、丁寧にわたしを地面に下ろした。
791
「あれが――ユリガミの住処」
瓦屋根、木造りの外観。その庭園は自然に溢れ、向こうには花畑も見える。
――それは神の御許に近づく神聖な場所というよりは、なにもかもが平和に過ごす楽園のように見えた。
――空に月はない。完全な朔の夜。
――星が夜空に瞬くだけの闇が広がっている。
その下で、灯りの灯る屋敷は、とても幻想的な風景だった。
……その時、雰囲気に不似合いな携帯電話の音が鳴り響いた。
わたしは電話を持ってきていないから、必然的に、791さん充ての電話だろう。
- 643 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:50:36.655 ID:BmIsXKQc0
- 791
「はい、こちら、791……
魂さん?今、とても大事な用事があるから、手早く……」
791
「はぁ?……それ本当なの?わかったよ……
ただ……私の用事は、本当に外せないの……それが済んだらでいい?」
791
「うん、うん……それじゃあ」
深刻そうな顔つきで、791さんは電話を終えた。
瞿麦
「そ、その……大変そうなことでも、あったんですか……?
その、ここにいて大丈夫ですか?」
思わず、わたしは心配になってそう呟いた。
791
「大丈夫――気にしなくていいから
あなたの身の保障の方が大事だから、安心して」
791
「じゃあ、行こう」
瞿麦
「は、はい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 644 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:52:07.766 ID:BmIsXKQc0
- 果たして――ユリガミは本当にわたしを助けてくれるだろうか。
そう思いながら境内に入ると……。
???
「こんばんは――」
瞿麦
「!」
綺麗なハスキーボイスが、わたしの耳に響いた。
――見上げると、右目に大きな刀傷の走った、隻眼の女性が縁側に腰かけていた。
左は黒、右は白に分かれた髪色に、背には翼が生えている。翼の色も、髪の色の分け方と同じ。
――もしかして、苺のように彼女は天狗なのだろうか。
その衣装も時代がかった黒の修験道の衣装だから、その可能性は高い気がする。
791
「……いきなり現れるのはいいけれど、この子、驚いてるよ」
???
「791様……確かに、彼女を驚かせてしまったようですね……申し訳ありません
貴女のお名前を、申し上げてください――」
791さんの軽口にも丁寧に対応しながら、隻眼の女性はわたしにゆっくりと尋ねた。
その立ち振る舞いはとても凛々しく、かっこいい――と思った。
- 645 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:54:38.278 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「な、瞿麦……瞿麦=フェルミです」
なんとか、女性の問いに答える。
汗がわたしの身体を流れ、その冷たさを感じる……そうだ、わたしは今、とても、緊張しているのだ。
女性は、翼で羽ばたくことはなく、自分の足でわたしに近付いて、わたしを全身を見ながら何か考え事をしていた。
???
「瞿麦=フェルミ――」
左手はよく見れば、中指から小指まで欠損していた。
……この女性は、どこかで見覚えがある。どこで見たのだろうか。
- 646 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:54:56.331 ID:BmIsXKQc0
- ???
「なるほど――
791様が、彼女を守ったというわけですね」
791
「まぁ、そうなるかな?」
――納得したように、女性は頷く。
791さんの口調だからして、この人は知り合い――。
はっ――そこで気が付く。
この人は、トニトラス・フェラムの秘書だ。なんで、義肢をつけていないのかはわからないが、
その特徴的な隻眼と翼はそうに違いない!
???
「承知しました――貴女は嘘をついていない
ならば、少なくとも敵ではないでしょう」
――そんなことを思っていると、彼女はわたしのことを信用してくれたらしい。
791さんの協力もあったけれど、門前払いされなくて、よかった。
- 647 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:56:36.472 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「その――ひとつ、いいですか」
???
「なんでしょう?」
瞿麦
「その……貴女は、ブラックさん、ですよね
どうしてここに?」
不躾な質問かもしれないけれど、訊かずにはいられなかった。
791
「瞿麦ちゃん、あまり女の子のプライベートには……」
???
「791様、構いません……ブラックは、云わばあの場所での仮初の姿
わたくしの真名(まな)をお伝えしましょう」
――791さんの言葉を手で制し、淡々と、彼女は答えた。
ブラックという名前に、思い入れが感じられないようにも思えた。
闇美
「わたくしの名前は闇美(ヤミ)――ここで女中のようなことをしている天狗です」
瞿麦
「天狗――」
やはり、彼女は天狗だった。苺と同じ種族だったのだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 648 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:57:09.258 ID:BmIsXKQc0
- 791
「……まぁ、これ以上は深くは追及しないであげて」
瞿麦
「あっ……闇美さん、不躾な質問、ごめんなさい」
闇美
「いいえ――わたくしは、特に気にしていませんから」
窘める791さんの言葉と、それをフォローする闇美さんの言葉。
791さんと闇美さんの間にも、見えない絆があるのだろうか。
闇美
「瞿麦様――貴女はユリガミサマに御用があるのでしょう?」
瞿麦
「は、はいっ」
そこで、話題は本題へと移った。考え事をしていて、呆気に取られてしまったけれど、わたしはなんとか答える……。
791
「………」
791さんは、そんなわたしを見ながら、うんうんと頷いていた。
- 649 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:57:51.525 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――承知しました
それでは、わたくしの後をついて来てください――」
くるりとヤミさんは背を向け、屋敷の中に歩き始めた。
慌てて、わたしもついていく。791さんも、マイペース気味に後ろを歩いていた。
――ついに、ユリガミに会えるのか。
どくどくと、心臓が鳴る。口が、乾いたような感覚。汗で体がにじむ。
とても緊張している。
――それは、女神と呼ばれる存在に会うから?
それとも、自分の過去に向き合い、変える切っ掛けがきたから?
そんなことを思いながら、わたしたちは屋敷の中へと入った……。
- 650 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 21:59:24.613 ID:BmIsXKQc0
- ……屋敷の中は、木でできた廊下が縁側に設けられていた。
部屋の敷居としては障子が使われて、部屋の中に置かれたものの影が見える。
闇美さんは、導くようにわたしの前を歩いていた。
無限に続くような廊下を、ヤミさんの白黒の羽に誘われながら、わたしは進んでゆく……。その後を、791さんが続く形だ。
不意に、闇美さんが立ち止まり、こちらへと振り向いた。
闇美
「――女神の御許に近付かんとする覚悟は、ありますか」
闇美
「貴女の望みを叶えられるかは、確約はできない――それでも、構いませんか」
瞿麦
「……はい!」
――脅すような闇美さんの口調。でも、力強く頷くことができた。
闇美
「――立ち向かう覚悟は見えるようですね」
791
「当たり前だよ、瞿麦ちゃんは前へ向かうために頑張ってるからね」
闇美
「なるほど」
791さんの元気いっぱいのフォローに、
闇美さんは、淡々とそれだけ言って、再び歩き始めた。
- 651 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:00:40.060 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――ひとつ、おとぎ話をしましょう」
――しばらく歩いたのち、歩きながら闇美さんはひとつの話を語ってくれた。
――昔、傷ついた人魚を助けた若者が居た。
その人魚は、お礼に人魚の住処へと案内をし、若者はもてなしを受け、人魚と恋仲になった。
――しばらく経って、若者はふと、地上が恋しくなった。
けれども人魚はそれを良しとはしなかった。
議論の末、最終的には、若者が地上に戻ることになったが――その時、ひとつの宝物を手渡された。
ひもで縛られた宝箱。決しては開けてはいけないと忠告された宝箱を――。
かくして、若者は地上に戻ったが、見知った人物は居なかった。
近くの人間に訊ねても、若者を知るものは居ない。
若者が人魚と過ごした間に、時は驚くほど過ぎ去り家も、風土も、伝統も――すべて過去の遺物としてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれた若者は、やけになってその箱を開けると――若者は急激に老衰してしまった。
- 652 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:01:47.052 ID:BmIsXKQc0
- ――それは、訊いたことのあるおとぎ話だった。
いったいどこで――そうだ、母さんから聞いた。内容は違う点もある気がするけど……今すぐに思い出すことまではできない。
まぁ、おとぎ話だから、そういうものなのだろうけれど。
瞿麦
「その――どうして、そんな話を?」
――でも、突然のことにわたしは戸惑った。
闇美さんは、わたしに何かを伝えたいのだろうか?それでも、その意図が分からない。
闇美
「――貴女がユリガミサマと接触することで、世界が変わるかもしれないでしょう
見える景色も時間も、変わるやもしれません」
わたしは、忠告する闇美さんの話に、固唾を飲みつつ集中した。
- 653 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:03:31.313 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――それでも、かの若者のように、絶望して、癇癪を起してはいけない
自分が自分で在り続けることを、意識してください」
――自分が自分で在り続ける。コギトエルゴスム。我思う、ゆえに我あり……。
自分の意思で、ユリガミまでたどり着けたけれど、これからも、わたしは前へ向けるのかな?
不安で、少し緊張して、手に汗が滲む。……その時、791さんが、ぽん、と肩に手を置いた。
791
「まぁ、ユリガミって不老不死って言われてるからね~
既存の概念で捉えられない部分もあるんだよねぇ
だから、よくわからないことがあっても、惑わずに行こうってことでいいよね?闇美?」
闇美
「――そうですね」
791さんの意訳は、合っているかわからないけれど――
闇美さんがわたしへ伝えた言葉は、闇美さんなりの激励の言葉なのかもしれない。
瞿麦
「はい、がんばります――」
わたしは、ふたりに改めて意思表示をした。
- 654 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:04:59.878 ID:BmIsXKQc0
- ―――――。
どれだけ、歩いたのだろう。
どれだけ、時間が経ったのだろう――。
不意に、風が外でざわめいた。
――同時に、さわやかな花の香りと、心地よい草の揺れる音。
それが、わたしの心を何故だか落着けてくれる。
瞿麦
「……あれ?」
気が付くと、闇美さんと791さんは消えていた。
瞿麦
「あれっ、791さん?闇美さん?どこに――?」
不思議に思い、横に首を振るけれど、まるで、最初から人っ子一人いなかったかのように、あたりは静寂に包まれていた。
- 655 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:09:27.546 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「………ひとりぼっちか」
思わず、一人ごちる。
瞿麦
「ううん、大丈夫、大丈夫なんだ」
少し不穏な気持ちが心をよぎったけれど、強引にそれを振り払おうと、首を振った。
――よし、行ける。大丈夫。突然の事態があっても、わたしには進む意思が消えていないじゃないか。
わたしは意を決してとにかく前へと進んだ……。
前後ともに、無限に続く廊下。まるで夢幻の世界のようにも思える。
――しばらく、わたしは歩いていた。
ふと脇に目をやると、一歩先の部屋の障子がわずかに開いていた。
……ここに、入れということ?
明らかにその場所はわたしを誘っている。
ならば、そこに行ってみよう。わたしは障子を引き、部屋に入った。
- 656 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:11:21.474 ID:BmIsXKQc0
- ――そこには、シンプルな木造りの祭壇があった。
その上には白い【勾玉】があった。真珠のように美しさに目を奪われそうになるけれど、どことなく白骨のような薄気味悪さも感じる。
その横には太刀――百合の花びらの飾りを鞘と柄に施した、恐らくは素晴らしい鍛冶師が作ったであろう得物が置かれていた。
瞿麦
「?!」
瞬間――わたしの目の前には目を閉じた女性の姿があった。
しかしその姿は半透明だった――幽霊なのか、あるいは映し出された像なのか……。
闇美さんが言っていた、世界が変わるという言葉――それはこのことを示唆していたのかもしれない。
その女性は、整った顔立ちと、長い睫と、腰ほどある黒い髪が重なり合い、芸術品のように美しかった。
- 657 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:13:02.709 ID:BmIsXKQc0
- そしてこの女性にはわたしは見覚えがあった。
そうだ――この女性は――
わたしの中で――様々な記憶の景色が流れては消えてゆく。
あいつに追い詰められたわたしに――家族に何も言えなかったわたしに手を差し伸べてくれたひと――。
おねえさま。――おねえさまが、そこに佇んでいた。
父さんにも、兄さんにも、顔見知りの大人にも……、わたしは「助けて」の一言が言えなかった。
それほどまでに、絶望で視界が狭まったのわたしを、おねえさまは救い上げてくれた。
おねえさまは、あいつに襲われかけたわたしの下に現れて、助けてくれた。
――おねえさまが、わたしの探すべき存在――ユリガミだったのだ。
何も知らなかったあのときのわたしが、おねえさまと感じたのは……女神そのものだったからなの?
- 658 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:15:25.299 ID:BmIsXKQc0
- おねえさまの身体の周りは、白い靄で満ちていた。その靄がおねえさまを投影しているようにも思えた。
この現象は、科学や魔術の見地では説明のつかない、超越的な現象なのかもしれない。
最も、わたしにとって、もはやそれはどうでもいいことだった。
瞿麦
「おねえさま――」
――感慨に耽るわたしは、思わず声に出してそう言っていた。
わたしにとって、彼女は――ユリガミは――まさに、頼れるおねえさまだったから。
おねえさま
「――――」
わたしが話しかけると、おねえさまは目を開けた。
ふたつの漆黒の瞳は、あの時見たように、吸い込まれそうなほどに綺麗だった。
おねえさま
「――貴女は、かつて公園で出会った……あの子ね」
瞿麦
「……っ」
感慨深そうに語るおねえさま……わたしのことを覚えてくれていたのだ。
――神々しさを覚える雰囲気に、わたしは畏怖の感情に包まれる。
でもそれは、おねえさまのことを女神と認識したからだ。
声色は、あの時と変わりなく、やさしいまま。わたしが勝手に畏怖しているだけだ。
- 659 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:17:54.124 ID:BmIsXKQc0
- わたしは、嬉しさに、涙ぐみそうになる。
おねえさま
「それで、どうしてここに――」
おねえさまの言葉で、はっとする。そうじゃない。
わたしが来たのは、再開の感動を分かち合うためではない。――わたしは言わなくてはいけない言葉がある!
瞿麦
「お願いします――わたしの妹を、助けてください」
ぎゅっと、拳を握りながら……どきどきする鼓動を噛み締めて耐えながら……わたしは、おねえさまに言葉を告げた。
おねえさま
「……貴女の、妹を……?」
感情を読み取れないおねえさまの声――まるで、彫像が言葉を発するかのように、氷のように冷え切った声。
それは、困惑しているからなのか、あるいは――興味がないのかはわからない。
――それでも、わたしはこのことを伝えなくてはいけない。
それこそが、わたしが前に進むために必要なことだから。
- 660 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:19:10.616 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「わたしは、大切な妹と喧嘩をして――謝ることが出来ないまま、離ればなれになってしまいました
そして、その妹を助けるためには――おねえさまが――必要――なんです」
勇気を振り絞って――こらえきれずに、少し涙を流してしまっても、構わず……。
瞿麦
「……わたしは、妹に……謝りたいんです
妹は、静かに復活の刻を待ちながら眠り続けていて、その眠りを覚ますのはおねえさまが必要なんです――」
おねえさま
「…………」
必死で感情をぶつけるわたしを見たおねえさまの表情は、複雑そうな顔つきに変わった。
わたしの悔恨の気持ちが、おねえさまの心を揺さぶったのだろうか?
瞿麦
「わたしの、妹を救い出すために、どうか――おねえさ――ユリガミサマの、力を、貸してください」
ぎゅっと両手を重ね、おねえさま――ユリガミサマに跪いて願いを伝えた。
声は涙で詰まり、たどたどしくなる。それでも――わたしはユリガミサマに伝えなくてはいけない。
ぽたり――と涙が畳の上に落ちる。ぷるぷると身体が震える。気持ちが伝わったか、不安になる。
- 661 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:21:35.800 ID:BmIsXKQc0
- わたしは、ゆっくりと顔をあげてみる……。
すると、ユリガミサマは慈しみの表情でわたしを見ていた。
ユリガミ
「――貴女は、ここまで来ることを選んだ
いろいろな人との協力もあったかもしれない――それでも、最終的にここへ来る決断をしたのは貴女」
続けて、ユリガミサマは、ゆっくりとつぶやき始めた。
瞿麦
「えっ……」
ユリガミ
「貴女は――明確な意思を持って、前に歩き出した素敵な乙女ね
――あの時から、紆余曲折はあったかもしれない
それでも――己を、意思を取り戻すことができたのね」
その表情は――あの時のおねえさまと同じ頼れる表情だった。
ユリガミ
「わたしのように――大切な人を斬り、挙句の果てに眠り続ける羽目になったわたしとは違う――」
そこで、自嘲するように、ユリガミサマは顔を落とした。
- 662 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:22:43.687 ID:BmIsXKQc0
- ユリガミ
「贖罪のためにも――目覚めのためにも――
貴女がやり直すためにここまで訪れる意思を汲み取らなければいけない」
ユリガミ
「……貴女の願いを受け容れましょう――貴女の後悔を乗り越える助けになるために」
その姿からは、記憶の中に、わずかだけ残っている母のような信頼感を覚えた。
瞿麦
「……お願いします」
ユリガミ
「しかし――わたしはこの身体を目覚めさせるには――鍵がいる」
鍵――?
呆然とするわたしに、ユリガミサマは言った。
ユリガミ
「――わたしの身体は、眠ってもなお回復しない……だから――貴女の力を貸してほしい」
瞿麦
「あ――」
ユリガミサマは、――白く、細く、長い指を伸ばした綺麗な手をわたしに差し出した。
- 663 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:24:59.834 ID:BmIsXKQc0
- その手がわたしに重なると同時に、ユリガミサマの身体の周りの白い靄は、
わたしを包み込んで纏い始めて――わたしの心が、ふわふわとしたあいまいな感覚になる。
そのあやふやな感覚の中で、ああ――そうか――と思う。
存在しないまやかしのように思えた希望――
それは、わたしに包まれた――あるいは、わたしが包んだ絶望で見えなかったのだと。
絶望は、確かに存在する概念だ。
でも、わたしは絶望だけが世界に存在するかのように思っていた。
……それは誤りだった。希望は、個々人が思わなければ生まれない。とても当たり前の概念だった。
今までのわたしは、希望から目をそらしていた。
けれども、兄からの手紙を切っ掛けに、
希望を求めるために、見えない絶望を振り払い――前へ進んで――
そして今、希望たる――ユリガミサマ――おねえさま――に辿り着くことが出来たのだ。
- 664 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:27:51.848 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「はい―――」
わたしは、ユリガミサマの手を強く握った。
感触はない。それでも……手と手は重なり合っていた。
今、心もユリガミサマとつながっているはずだ。
……ユリガミサマに、すべてを託そう。
そして、その果てに――わたしは澄鴒を――。
――わたしは、目を瞑って、手の感覚に集中しながら……
意識の奥へと、深層へと向かった……。
- 665 名前:Route:B Ending:2020/11/25(水) 22:30:35.709 ID:BmIsXKQc0
- ――Revealed the high priestess card.
But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.
―――Route:B Fin.
- 666 名前:SNO:2020/11/25(水) 22:31:07.507 ID:BmIsXKQc0
- なんか一気に投下した感あったけけどRoute:B、完。
- 667 名前:SNO TIPS:2020/11/25(水) 22:40:00.155 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦=フェルミ
Route:B 主人公。
異常性愛者であるグローリー・カヴルのセクハラを受けた被害者の一人。
絶望の悪夢を見ながら、かりそめの平穏を過ごしていた少女。
――しかし、兄であるアイローネ・フェルミの手紙によって、彼女の心は変わることとなる。
苺たちの、一般的な16歳の少女の生活とは異なる暮らしをしているため、
意外かもしれないが、地頭もよく、運動神経もいいため、
順当に学校に通っていれば、文武両道の美少女として、あこがれの的になっていたかもしれない。
――とはいえ、それはもしもの話。
これから、向かうべきものに立ち向かった彼女の行く末は、少なくとも絶望ではないだろう。
- 668 名前:きのこ軍:2020/11/26(木) 22:28:51.329 ID:INEErJ/Qo
- いいひきですね。感慨に浸りました。
- 669 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:32:19.718 ID:Zyvl.xYI0
The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
――Genesis 6:13
- 670 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:30.607 ID:Zyvl.xYI0
- 月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。
純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。
……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。
いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。
世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。
絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。
まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。
……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
カードを表に返すと同時に、水晶玉の中の人物がはっきりと映し出された。
- 671 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:44.281 ID:Zyvl.xYI0
- その人物とは――
- 672 名前:Route:C:2020/12/05(土) 22:34:53.073 ID:Zyvl.xYI0
- ――絶望に立ち向かう黒髪の女性だった。
- 673 名前:Route:C-0:2020/12/05(土) 22:35:05.801 ID:Zyvl.xYI0
- Route:C
Chapter0
- 674 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:40:53.441 ID:Zyvl.xYI0
- ……わたしは、現を見ていた。
天空には月が浮かんでいた。
天に浮かぶ月――太陰は、金色の光を照らしている。
――昔話の一説には、こうある。
月の都の人は、とても清らかで美しく、老いることもなく――物思いに耽ることもない、と。
だが、それは……月を夢見る人々の記した言葉だ。
月に都があるかなんて、月に民がいるなんて、示すことなんてできないだろう。
それでも、不死の国という幻想は、かつてより人間を魅了していた。
――人間には寿命がある。ほかの種族にも、長さの差異はあれど、最期が存在する。
いずれ来る死に怯えるからこそ、そういった伝説に思いを馳せ、あるいは乗り越える方法を探そうとする。
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