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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

238 名前:Route:A-9 learning:2020/09/15(火) 23:30:02.836 ID:lPQrte8s0
集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は32%でした――」

終戦を告げるアナウンスも、オレにとってはもはやどうでもよかった。

きのこ軍兵士
「うぅぅう……たけのこ軍、数で押すとは卑怯だぞ!」

B`Z
「落ち着くんや、きのこ軍の人を増やすために何ができるかが重要や」

きのこ軍兵士
「次回は勝つぞオラァ!練習、鍛錬、やったるぞ!」

味方は敗北したことに何らかの反応を示していたが……オレには全く持ってその感情がなかった。

黒砂糖
「乙海……何か掴んだような瞳をしている?」

黒砂糖の声に、オレは納得するように頷くだけだった。

――そう。オレは、戦いの中で真理を垣間見た……そんな感覚を受けていたのだ……。
その足掛かりを――劣勢の中の反撃で……。

この感覚を忘れないように、オレは両手を握り締めていた。

¢
「乙海も悔しいようだ……次は頑張ろう」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

239 名前:SNO:2020/09/15(火) 23:30:31.468 ID:lPQrte8s0
実際の大戦の展開まんまなので描写し大戦できのこ軍三連敗してますね・・・

240 名前:きのこ軍:2020/09/16(水) 21:52:12.010 ID:2L/.r96go
黒ちゃんマジレギュラー

241 名前:Route:A-10:2020/09/19(土) 00:01:27.980 ID:ig2Z2/yg0
Route:A

                 2013/4/26(Fri)
                   月齢:15.7
                    Chapter10

242 名前:Route:A-10 trance:2020/09/19(土) 00:03:59.013 ID:ig2Z2/yg0
――――――。

それから、6日が経過した。
大戦の中で真理のようなものが見えてもなお、オレは足しげくフィリップ・パブに通っては瞑想を続けた。

『無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』

その言葉の意味を、心の中で探し続けた。
大戦で、垣間見た真理を、意識の中で追い求め続ける……。

その日――オレが瞑想して訪れた世界は……まったくの暗闇だった。


243 名前:Route:A-10 trance:2020/09/19(土) 00:06:40.279 ID:ig2Z2/yg0
ふと、ごぼり、とあぶくが立った。
オレは深い深い処にトランスしていた。

ここは海の底なのか――?あるいは別の場所なのか――。
塩辛い液体が全身を包む感覚を、オレの心は捉えていた。

何も見えない場所。それでも、何かの溶液に包まれていることだけはわかる。
それは体温に近い温度で、オレはその中で一人佇んでいた。

オレは……その世界そのものなのか?
いいや――違う。オレはその世界の一部のはずだ……この溶液はオレではないからだ。

しかし……世界のかけらであることに違いはない。
この世界は、オレが居て成り立つ――そういった予感を覚えたからだ。

――その暗闇に、一筋の光が差した。
……陰の世界に陽が混じり――それでも、この世界は存在している。

オレは――陰陽に交じって溶け合っている……。
流動する溶液に、オレは流され――オレは世界と融合する……。

それは――まるで――。

244 名前:Route:A-10 trance:2020/09/19(土) 00:07:28.686 ID:ig2Z2/yg0
ああ、そうか――と思う。

無秩序の全……世界はとても無秩序なものなのだ。
オレの居たこの暗闇は、光と混じり変容する――それでも、世界そのものであることに変わりはない。
……そして、その変容を続ける世界の中に、オレという個人が、一として存在している。

――その世界は、光と影に――陰陽に支配されているのだ。
そうだ。陰陽はマイナスとプラスの関係と同義だ。
例えば、大戦で劣勢の時、味方には絶望するものがいて、敵には喜ぶものが居た。

世界は陰陽で包まれ――オレはその構成された要素の一つであり――同時に、オレの行動でも陰陽を操れる。
オレが初めて参加した大戦では、オレの行動によって味方の気持ちは高まった……。
そう、オレが陰陽のうちの陽を引き出すことができたのだ……。

つまり、それこそが――。

その瞬間、オレの意識は急激に引き戻される。
溶液から投げ出された意識が、フィリップ・パブまで戻り――そして、かっとオレは目を見開いていた。

同時に、全てを掴んだ感覚が、オレにあった。

245 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:09:33.040 ID:ig2Z2/yg0
筍魂は、オレの表情を見て、ニヤリと笑っていた。

筍魂
「……その顔は、ついに気が付いたか」

乙海
「おそらく……」

筍魂
「お前の考えを述べてみろ、聞いてやる」

フィン
「へー、やっといけたんだぁ、教えて教えてっ」

真剣な筍魂と、どこかからかうようなフィンの態度は対照的で――それもまた、オレが語ろうとする結論の後押しをしていた。


246 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:10:17.246 ID:ig2Z2/yg0
乙海
「…………」

オレは、どうにか辿り着いた結論を頭の中で整理し――反芻する。

乙海
「『無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』」

乙海
「無秩序の全――これは、この世界そのもの
 世界は数多の無秩序によって進行しているが故――」

筍魂
「………」

フィン
「………」

オレが語り始めると、筍魂も、フィンも真剣な表情になっていた。
……フィンもそういった態度をとるのは、正直意外だったが……オレは、話を続けた。


247 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:10:57.859 ID:ig2Z2/yg0
乙海
「次に、一に帰し――これは、オレそのもの
 この世界の無秩序さは、個々の存在がかかわっている」

乙海
「例えば、オレが呼吸することによって大気の酸素と二酸化炭素のバランスが変化するが……
 秩序あるバランスがわずかに変化した無秩序になる……
 あるいは、大戦でオレの攻撃によって味方の気持ちが高まり、逆に敵の気持ちが低まるのも――そう言える」

乙海
「……それが生命力の流れに繋がる
 オレが生存するための行動――その流れだけでも、世界の理の一部に――同化することになる」

乙海
「……加えれば、そこに陰陽が絡んでいる
 光と影、影と光――この二つの概念は切っても切れない関係で、個々が複雑に交じり合って世界を作っている」

乙海
「これが、オレの出した、結論……」

――どうにか、オレのたどり着いた結論を述べることができた。
すらすらと――流暢に語ることができたが、緊張のためか、喉がからからになっていた。

思わずオレはよろけそうになり、足に力を込めてなんとか耐える……。

248 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:12:29.505 ID:ig2Z2/yg0
筍魂
「ほう……」

興味深そうに、顎に手を当てながら話を聞いていたかと思うと、突然拍手を始めた。

筍魂
「いいだろう、その解釈で問題はない――」

乙海
「そうですか」

オレは内心胸を撫で下ろした。
オレの感じ取った世界が――オレの受け取った感覚が――どうにか、求めるべき答えに辿り着いたことに。

とにかく……これで、メンタルという部分ではある程度成長できたはずだ。
あとは、技術面だ。筍魂はこれが全てとは言ってはいない……。

フィン
「アタシと同じこと言ってる、やっぱり結論は似たり寄ったりなんだぁ」

乙海
「そうかもしれないな……」

一方で、フィンは、相変わらず突っかかるように――それでも、少し柔らかめの口調で言った。
多少は、オレのことを評価したのだろうか……?


249 名前:Route:A-10 verity:2020/09/19(土) 00:13:26.927 ID:ig2Z2/yg0
筍魂
「さて――その言葉が戦闘術魂の基礎の基礎というわけだ
 戦闘術魂の肝である、いわば微弱魔力の操作もその言葉通りになるわけだが……
 それは、このフィンもまだ会得していない」

筍魂は、フィンをちらりと見ながら言った。

フィン
「っ〜!」

フィンは地団駄を踏みながら、悔しそうに筍魂を見つめる……。

筍魂
「これからは……技術を鍛えることになる……
 まぁ、時間はいつも通りで構わないがな」

そんなフィンの視線をスルーしながら、筍魂はオレに語った。

筍魂
「とはいえ、もういい時間だ――修行は今度で、
 今日は晩飯でも食べていくか?もちろん俺のおごりだ、成長祝いとしてのな」

フィン
「あ、あたしも食べるからね」

乙海
「……お願いします」

筍魂
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

250 名前:SNO:2020/09/19(土) 00:15:06.464 ID:ig2Z2/yg0
解釈これであってるのかはわからーん

251 名前:きのこ軍:2020/09/19(土) 00:32:07.980 ID:uha7bd/Io
あってるでしょ。
--
目に見えない世界の流れ。
そこにいるそれぞれの兵士はそれぞれちっぽけな“一”であり、同時に“全”でもある。

ありとあらゆる全ては同じ一つの存在である。その“一”から生まれる“正”や“負”の流れは即ち“全”の流れ と同化する。
“一”は“全”、“全”は“一”。
それこそが世界の理。戦闘術魂の真理。

252 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:35:19.911 ID:ig2Z2/yg0
――夕飯を終え、オレはハーブティーを飲みながらほっと溜息をついていると……。

フィン
「乙海、悔しいけど貴女はライバルね……あたしの中でのライバル2号よ、気に入った」

フィンは、手を握ったり開いたりしながら、オレに話しかけた。

乙海
「そうか……」

思えば――オレはこうやって突っかかってくる手合いと出会ったことがなかった。
射撃競技も――己との闘いであるため、それをする暇があればとことんまでに目的に向かう方が効率的だった。

その新鮮さに、オレは思わず口元を緩ませていた。

フィン
「よし!あたし、友達から教えてもらったタロット占いでもしてあげる」

フフンと胸を張りながら、フィンは机の上に22枚のカードを散らばせた。
表裏がばらばらになるように、全体をかき混ぜ……それを3つの山に分け、目を瞑りながら1つの山に戻す……。

フィン
「手慣れてるでしょ?練習したんだから……」

そう言いながら、フィンは22枚のカードをオレに見せた。

253 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:38:05.090 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「……じゃあ、あなたの悩みや心に秘めてること、ぼかしてもいいからまず教えて」

オレの悩み――いろいろあるが……一番オレにとって重要なのは、人魚の少女のことだろうか。

乙海
「じゃあ、幼いころに出会った友人……遠い場所に行ってしまったが、再開できるか――これについて尋ねよう」

しかし……人魚のことを話すわけにもいけないので、オレはぼかしながら答えた。

フィン
「へぇ……孤独そうだけどあなたにもそんな人いたんだね、意外ね
 じゃあ、あなた自身のを示すカードをこの中から選んで」

乙海
「……それを」

オレが選んだカードは、戦車の正位置……。
二輪の戦車に乗った兵士……彼はその手にきのこの錫杖を持ち、馬に引かれて陣地に凱旋している……。
その様子を称えるきのこ軍兵士たちが遠くに描かれている……。

フィン
「この図柄は、前に進もうとする意思――負けず嫌い――勝利――そういった意味合いがある」

フィン
「意外ね、乙海ってそんな素振りないのに……実は自分と戦ってるとかぁ?」

筍魂
「射撃は己との闘いと言うから、合ってそうだな」
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254 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:38:48.578 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「うるさいなぁ……リズムが崩れるからあまり話しかけないで
 続いて、乙海に立ちふさがるもの……引いて」

オレの選んだカードは、悪魔の正位置……。
厳つい角を携えた屈強な大男……その脇には、打ちひしがれたきのこ軍とたけのこ軍の兵士が座り込んでいる。
大男の顔は牡鹿。その爪は猛禽類のもの……キマイラのようにぐちゃぐちゃに混ぜ合わされた雰囲気がある。

フィン
「乙海に立ちふさがるのは混沌とした恐怖……何か面倒なトラブルに巻き込まれるかもよぉ?」

ふさげたように語るフィン。悪魔のカードを戦車のカードの上に重ねる。

フィン
「次は……あなたが認識している事柄についてね」

オレの引いたカードは……吊られた男の正位置。
逆さに吊るされたたけのこ軍兵士が、味方にヤジを飛ばされている……。
つまりは……戦犯への非難、というわけか?連続で、あまりよくない絵柄を引いているような気がする……。

フィンは、吊られた男のカードを戦車の上方に置いた。

フィン
「乙海は忍耐の人……射撃をやっているからそれも当然かぁ」

筍魂
「フィンも忍耐がいるんじゃないのか?」

納得したようなフィンの言葉に、筍魂が再び茶々を入れる。
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255 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:40:00.602 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「うるさぁい……次、次行くよっ
 乙海の認識してない事柄、潜在意識!さぁ引いて!」

急かされるように引いたカードは、皇帝のカードの正位置だった。
玉座に座るたけのこ軍兵士。その胸には元帥のバッヂが輝いている。
しっかりとした姿勢で、軍配を掲げた姿はまさにリーダーのようだ。

フィン
「積極性、向上心――前者はあなたの雰囲気からすると意外ねぇ
 まぁ、戦闘術魂を学ぶのは積極的かもしれなけどぉ」

筍魂
「そうだぞ」

積極性……確かに、戦闘術魂で鍛錬することを決めたのは、オレの心がそうすべきと判断したからだ。
それは己に何か足りないと思っていたが故の行動……そういうことなのか……?

フィン
「じゃあ、次は乙海の最近の出来事!それから、これから起きるであろう問題の原因!」

皇帝のカードを吊られた男の真逆に置き、フィンは再びカードを選ばせようとちらりとこちらを見やる。

オレが引いたカードは……世界のカードの逆位置だった。
初めて、逆位置の絵柄を引いたことになる……。
空に浮かぶきのこ軍とたけのこ軍の兵士。その周りをカラスやシラサギが祝福するように舞っている……。


256 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:41:28.817 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「初めて逆位置が出たねぇ、この意味合いは低迷したり未完成なところがあるためってところ
 ふっふーん、これはまだまだ戦闘術魂の修行が必要そうねぇ」

筍魂
「それはお前もだぞ、フィン」

フィン
「うぅ〜〜〜っ……」

いじわる気に言ったフィンは、筍魂の言葉にあっさりと肩を落とした。
……しかし、フィンの言うことは間違いでもない。オレはまだ、戦闘術魂の意味を知っただけに過ぎないのだ。

フィン
「……つ、次よ
 これからあなたに起きる未来!さぁ引いて!」

皇帝のカードを右に置き、フィンはぶっきらぼうにカードを指さした……オレがそれを引くと、それは塔のカードの逆位置が現れた。
会議所のように雄大な塔が、雷によってひび割れ、茨のように崩れ落ちようとしている……。
その絵柄を見た途端、フィンの表情が少し強張った。

フィン
「あぁーっ、これは最悪ね……乙海の未来は最悪ねぇ
 受難だとか不安定だとか緊迫だとかよくない意味しかないカードよぉ」

フィン
「しかも逆位置だから、不安定な状態が長続きする――こわぁい」

フィンは口をすぼめながら、塔のカードを左に置き、カードの十字架を作る。
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257 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:44:12.884 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「気を取り直してぇ、7枚目――乙海のこれからの役割について引いてみて」

オレは促されるままに引いたカード……それは太陽のカードの正位置だった。
さんさんと輝く太陽の下に佇む女性――鏡を抱えて祈りを捧げている。

フィン
「へぇ……いい絵柄ねぇ、真逆って感じ?
 成功とか祝福とか――その意味は活躍してる新人兵士にはぴったりかもね」

乙海
「ふむ…」

オレは、フィンの言葉に不思議な気分になっていた。
ランダムにかき混ぜられたカード――その中から、オレに近しい意味合いのカードが出る……。
それは今までの体験と似たようなことを結び付けただけの詭弁なのか――あるいは何者かの采配なのか……。


258 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:44:54.819 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「じゃあ、次は乙海を見る他人の目がどうかよ――」

太陽のカードを十字架の右に置きながら、フィンはカードに目配せをする。

オレの引いたカード……それは星のカードの正位置だった。
満天の星空の下、少女が疲れ切った兵士に声をかけようとしている絵柄。それは煌めくような光景にも見える。

フィン
「へーっ、希望の星と思われてる?まぁ、活躍する新人兵士なら、ベテランでも新人でもそう思うかもしれないねぇ」

にやにやと笑うフィン。その仕草は、どこかオレに突っかかっているようにも見える。

フィン
「じゃあ、次――あなたを変える出来事について……引いて」

星のカードを太陽の上に置きながら、フィンはふらふら揺らせながらカードに指さした。
促されるように引いたカード……それは隠者のカードの正位置。
ローブを着込んだきのこ軍兵士が、月明りをランプのようにして、迷った味方を導いている……。

フィン
「意味合いとしては、慎重さとか思慮深さとか……冷静な感情について
 へぇ……乙海には悟りを開くときが来るみたいだね
 ……ひょっとしてさっきの修行?もう変わってるかもねぇ」

筍魂
「はっはっは、意外とあるかもしれんなぁ」

冗談にけらけらと笑うフィンに、筍魂もおどけて同調した。
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259 名前:Route:A-10 fortune telling:2020/09/19(土) 23:46:55.604 ID:ig2Z2/yg0
フィン
「じゃあ最後――これまでの結果を踏まえた質問の答えを、このカードで決めて」

しかし、オレの疑問も晴れることなく、急かされるようにそのカードを引いた。

それは――審判のカードの正位置だった。
軍神が、傷つく兵士の上に現れ、加勢しようとしている絵柄――。

フィン
「ふぅん……この意味合いからして、乙海はいろいろな障害に巻き込まれるけれども――そのおともだちと再開できるんじゃない?」

両手を広げて、フィンはあっけらかんと笑った。

乙海
「そういうものか……」

オレは、半信半疑でフィンの答えに頷いた。

フィン
「所詮占いは信じるか信じないかはその人次第だからぁ……ねっ
 あたしの友達はもっと神々しく話せるけど、あたしには無理ねぇ」

フィンは、おどけたようにぺろっと舌を出して笑った。

260 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/19(土) 23:49:26.586 ID:ig2Z2/yg0
……そんなとき、店舗の電話が鳴りだした。オレが来てからは初めて聴いた着信音……一体、何事だろうか。

筍魂
「ああ、俺だ……なに?シューさんか……ああ、ああ……わかった、すぐ行く
 ん?ほかの兵士?乙海ならここにいるが……ああ、わかった」

筍魂は、真剣な口調で相手と会話している。シューさん……と言っていたが、集計班のことだろう。
オレが会議所で作業しているとき、たびたび彼はそう呼ばれていた。

……それにしても、オレの名前が出るとは、いったいどういう内容なのだ?
そう思っていると……。

筍魂
「乙海、今から会議所本部棟に行くぞ
 フィンは片づけと留守番していてくれ」

フィン
「はああい…」

急かすような筍魂の後にオレは続いた。
その後ろでフィンは不満そうに両脇にマットを抱えていたが……オレはそれを後ろ目でちらりと見ただけだった。


261 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/19(土) 23:51:32.683 ID:ig2Z2/yg0
……慌てて、オレと筍魂は会議所本部棟の会議室に入った。
初めて、オレはその部屋に入った……というよりは筍魂に導かれるように入らされたというべきか。
オレらのような一般兵士には縁のない場所だから、オレは部屋の内装を見回していた。

会議は、一部のメンバーが執り行う。
一般兵士はルールの採用といった一部の案件の賛否に投票するぐらいしか、会議には関わらないことが多い。

……部屋の中には、名だたる兵士が円卓を囲んでいる。オレはとりあえず筍魂の隣の椅子に座った。
神妙な顔をした兵士たち――¢に、黒砂糖に、B`Zといったきのこ軍兵士……
山本、加古川、791といったたけのこ軍兵士……彼ら彼女らの間には緊張が走っていた。

集計班
「夜分に緊急のお呼び出し、申し訳ない……」

集計班が、部屋に入ってきた。紙をまとめた資料を抱え、緊張した顔で最上座に座った。

集計班
「竹内乙海さんは会議は初めてだとは思いますが――話を聞くだけでも大丈夫ですので」

優しい口調で集計班はそう言った。そして……人数分の資料が配られた。


262 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/19(土) 23:55:58.442 ID:ig2Z2/yg0
その資料には、新聞の切り抜きで作られたいびつで不揃いな文字で、こう書かれてあった。

『明日4月27日の大戦を中止させる
 ――かつて会議所に現れた化け物DBを引き連れて
                           ――嵐』

集計班
「テロ組織の嵐が、DBをけしかける――そう犯行声明を出してきました」

真剣な口調。その言葉は部屋の空気を一瞬で張り詰めさせた……。

B`Z
「はぁ?奴は討伐したはずだが……
 それに、嵐やと……?
 確か、4月の頭にブルボン王朝でテロを起こしたぐらいしか聞いてはないが……今回の標的は会議所ということなんか?」

B`Zは、意味が分からないと言わんばかりに顔をしかめていた。

¢
「で、DB――ありえない、奴は……いなくなったはずだ」

一方、¢は極度の焦燥感を見せ、全力疾走した後のように息を切らせながら呟いた。
その様子は、まるで幽霊でも見たかのように、ありえない――とった雰囲気だ。
エースと呼ばれた彼がここまで取り乱すとは……DBとはいったい、なんなのだ……?

黒砂糖
「………」

黒砂糖は、沈黙したまま資料を見つめていた。
その表情は鉄仮面を張り付けたかのようにも見えた。

263 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/20(日) 00:00:05.842 ID:C8ftq5ew0
集計班
「改めてDBについて説明しなければなりませんね
 資料の最初をご覧ください」

示された通り、オレは資料を開いた。
そこには、DBについての情報が細かく記されていた。

――DB。Devil Beast(デヴィル・ビースト)の略称。
写真に写っていたのは、きのこの笠のような頭頂部。性格の捻じ曲がったかのような醜悪な顔面。
胴体と比べてとても短い手足のアンバランスさに、目を背けそうになる。

……しかし、移動する場合は車輪のようにそれが動き、その長さに見合わぬ機動力を見せるそうだ。
薄汚れ、脂肪で覆われた全身からはひどい刺激臭を放ち、口からは毒ガス、歩いた場所は毒で汚染され、その声は聴くだけで気力の失せるだみ声……。

文章だけで、気が滅入ってくる雰囲気があった……。
周りの兵士は、思い出した気な顔をしたり、露骨に顔をしかめている者もいた。

集計班
「会議所では……1年前の8月に討伐し、消滅したはずですが……
 どういうわけか、テロリストの嵐はDBをけしかけるぞ、と予告しています」

淡々と、事実を語る集計班の姿に、オレはごくりと固唾を飲んだ。


264 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/20(日) 00:01:30.928 ID:C8ftq5ew0
加古川
「私は今まで、DBは一匹狼の存在だと思っていたんだが……DBは、嵐の仲間だったのかい?」

集計班
「……それは判断しかねますね、何しろ情報が少ないし、本当にDBが来るのかもわからない」

B`Z
「そうやな……ただ、考えられるケースは二つ
 もともと嵐の仲間だったか、あるいは討伐した後に何らかの方法で仲間になったか……」

B`Zは、やはり参謀――と言われるぐらいに、重々しい顔ながら意見はすっきりとまとまっていた。

791
「……で、どうするの?明日の大戦は……」

791は、苦々しそうな顔でクリームソーダを飲みながら言った。

山本
「そうだな……これまでは、偶然にもDBは大戦の日には来ていなかったがゆえに休戦措置もいらなかったが……」

山本
「あのDBは、ただ兵が集まれば倒せる存在でもないだろうしな……」

社長
「一時休戦ガ妥当デスカね?」

ブラック
「……その意見に一理ありますね」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

265 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/20(日) 00:03:24.178 ID:C8ftq5ew0
791
「乙海は、どう?筍魂さんに連れられて来たみたいだけど――」

乙海
「!」

突然、791がオレに話を振ってきた。皆の視線がオレに注目している……。

791
「新人さんの、何もわからない状況での意見を聞いてみたいな」

乙海
「……オレはDBのことはわかりませんが、テロリストの嵐が犯行声明を出したなら、近隣の集落にも影響は出るかもしれないですね」

791のフォローに、オレはなんとか意見をひねり出した……。
とはいえ、とてもありふれた意見ではあったが――。

B`Z
「ああ、確かに――DBの面倒さを知っているから、そっちに目が行きがちやが――
 その考えは大いにあり得るな」

B`Zは、感心したように腕を組んでオレに頷いた。


266 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/20(日) 00:04:37.702 ID:C8ftq5ew0
山本
「いい意見だ、乙海……
 会議所で自警団を作って、嵐に備える必要がありそうだな」

オレが一石を投じたことで、周りはさらに建設的な意見を出し合い、わいわいがやがやと騒がしくなっていた。
その中で、オレは内心ほっとしながらその様子を見ていた。

やがて――。

集計班
「……意見が出そろったようなので、結論に移ります」

集計班
「一つは、明日の大戦は一時休止にすること
 もう一つは、嵐とDBに備えて緊急に軍を組織すること――」

山本
「ふむ……一般兵たちは嵐の方に対応して、私たち会議所組の半分はDBへの対応がいいだろうか?」

B`Z
「そうやな……山本さんやワシみたいに、ある程度統率できる会議所組も均等にしておきたいしな」


267 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/20(日) 00:06:42.849 ID:C8ftq5ew0
791
「私はDBの方で――」

筍魂
「俺も791さんと同じだ――」

皆は、集計班のまとめる言葉に続いて、思い思いに意見を言っていた。

¢
「ぼくは、嵐の方へ……」

黒砂糖
「DBも面白そうだが――今回は嵐側に行くよ」

抹茶
「僕も、黒ちゃんと同じで…」

ブラック
「私はDBで――気になることがありますので」

社長
「オナジく」

集計班
「……私は嵐に対応する側に回りますが、乙海さんはどうしますか?」

青い髪を指でいじりながら、集計班はオレに尋ねた。
その青い瞳が一瞬赤く燃えたように見えるが――気のせいだろうか。
今見える瞳は青いまま……ともかく、オレが立ち向かうのは……。

268 名前:Route:A-10 a claim of responsibility:2020/09/20(日) 00:09:57.030 ID:C8ftq5ew0
乙海
「DB側に行きます」

あえて、DBに対抗する選択を取った……。
どうしてだろうか……それは、現在、戦闘術魂の師である筍魂が居るからかもしれない。
戦闘術魂の扱い方を、その目で盗み取りたい――というところなのか。
オレにも、そのはっきりとした理由はわからなかった。

集計班
「わかりました――頼もしい言い回しで、さすが竹内さんの娘といったところ」

集計班は、予期していたような表情で答えていた。

抹茶
「そうですね……コンバット竹内さんもDBと戦っていましたし」

――ああ、そういうことか。父がDBと戦っていたから、その血を引き継いでいると解釈されたらしい。
集計班の表情もそういうことなのか。オレは少し腑に落ちないものを覚えつつも、同調して頷いた。

やがて、集計班は明日の大戦が中止になる件を、各情報機関に送り始めた。
同時に、加古川も兵士たちにも可能な限り伝達していた……。

会議所は、少しずつ兵士が立ち去り、円卓のテーブルが残る孤独な部屋に様変わりした。
オレは筍魂の後についていき、フィリップ・パブへと戻ることになった。

――オレは、明日、DBと戦うはずだ。大戦ではない戦い……それは今までに体験したことのない事象。
果たしてオレは、悪魔の獣と戦えるだろうか。

少々の不安はあるが、立ち向かうことで、オレの選択の理由も見えるかもしれない……。

269 名前:SNO:2020/09/20(日) 00:10:10.405 ID:C8ftq5ew0
物語やっと動いた

270 名前:きのこ軍:2020/09/20(日) 00:53:10.120 ID:OEiG2AyM0
タロットから今後の展開が見えますねー。
そしてみんなちゃんと会議してる感動した。

271 名前:Route:A-11:2020/09/23(水) 23:46:28.413 ID:3YCUBldw0
Route:A

                 2013/4/27(Sat)
                   月齢:16.7
                    Chapter11

272 名前:Route:A-11 idle talk:2020/09/23(水) 23:48:43.775 ID:3YCUBldw0
――――――。
翌日――メディアを通した報道のほか、会議所を訪れた兵士に、随時大戦が中止になるというアナウンスと、自警団の参加の確認が行われていた。
オレは、既に会議所で意思を伝えていたから、面倒な手続きに巻き込まれることもなく、手がすいており……。
大戦場へ行く前に……wiki図書館で嵐の情報を集めることにした。

目指すは資料室。直近1、2か月のニュース番組の記録はあるだろう……
また、DBと戦った映像もあるかもしれない。何しろ大戦の映像も保管していることもある。
そう思って資料室に入ると……。

筍魂
「DB――俺たちとはまったく異なる種族――そして、その面倒な部分は手ごたえがありそうだ」

791
「魂さん……あなた本当にバトルマニアだね」

黒砂糖
「………」

オレと同じ発想だったのか、DBとの闘いを記録した映像を丁度見終えたらしい兵士が3人いた。
ぐっと両こぶしを握る筍魂と、それを冷めた目で見る791……。
黒砂糖は、いつも通り鉄仮面を張り付けたまま、ディスクを元のケースにしまっていた。


273 名前:Route:A-11 idle talk:2020/09/23(水) 23:51:36.516 ID:3YCUBldw0
筍魂
「俺は強い奴と戦いたいんでね――無口さんとも戦ってみたかったし、何なら791さんや黒ちゃんとも戦いたい」

791
「ああ、そうなんだ……」

無口――wiki図書館の創設者。武術と魔術の両方に優れたきのこ軍兵士――今は行方不明の存在。
筍魂は、別のディスクを取り出して再生させる……そこには、先ほど彼が語っていた無口が映っていた。

筍魂
「俺は過去の大戦を何回か見返していたが……
 あの人は映像を見る限り女――791さんと同じぐらいの強さを持っていると確信するぜ」

ニヤリと、筍魂が笑った。

791
「はぁ……私も無口さんが戦う映像見たことあるけれど、あれは男じゃないの?
 女だから、そういうのはぴんと来るもんだよ?」

791はやれやれと呆れたように肩をすくめていた。

筍魂
「はぁー、さすがの魔王様には分からんかねぇ……黒ちゃんはどうだい」

からかうように791を見つめる筍魂……791の表情は、心なしか苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

黒砂糖
「……あれは女だろう、足周りの動きでそう判断する
 まぁ、そうカムフラージュしているかもしれないから、確定はできないだろうが」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

274 名前:Route:A-11 idle talk:2020/09/23(水) 23:52:55.206 ID:3YCUBldw0
791
「あら、乙海――」

遅れて791もオレに気が付いたようで、いつもの柔和な笑顔でオレに微笑んだ。

乙海
「どうも……」

791
「それでぇ、乙海はどう思う?無口さんの性別……」

そして791は先ほどの会話で出た疑問をオレに訊いた。
オレは、映像をちらりと見てみる――。

映像の中では、顔を隠した白髪の人物が、漆黒の棍を振り回して戦っている。
その足取りは完璧にバランスが取れている。体重のかけ方は、足にかかる衝撃を一番散らすことのできる姿勢だ。

魔術の詠唱も、極めて短時間かつ、棍での攻撃を織り交ぜており、隙が全く見えない。
無口のサイドテールがゆらゆら揺れる……その軌道すらも、理で定められたもののようにも見える……・
まるで、筍魂のように、技術を研鑽したのだ――とオレは思った。

オレの選択は――。

乙海
「女……だと思う」

――それは、確信はなかったが……その動きを視たオレは、そう思えた。
それは同じ性別というシンパシーなのか……あるいは第六感によるものなのか……。それは説明できない……。

275 名前:Route:A-11 idle talk:2020/09/23(水) 23:53:37.890 ID:3YCUBldw0
筍魂
「ほう……オレや黒ちゃんと同意見か」

黒砂糖
「………」

791
「えー……乙海もぉ……?」

たった一人、791だけが意見を違えていた。
不満げにオレの目を見る791……その紫の瞳がオレを見据える……。

791
「うーっ、私と同じ女の子の意見も違ってしまうなんて…なんだかショックだなぁ」

大げさに肩をすぼめながら、791はやれやれと言わんとばかりに手を投げ出した。

黒砂糖
「そんな戯言はともかく――乙海もDBの映像を見に来たのか?」

乙海
「はい」

――質問に答えていて、本来の目的を忘れていた。そうだ……オレのやるべきことはそれなのだ。
危うく当初の目的を忘れるところだった……。

276 名前:Route:A-11 idle talk:2020/09/23(水) 23:54:12.700 ID:3YCUBldw0
すぐにオレはDBを映像で確認する……。資料通りの醜い生物が、少数の会議所兵士と相対している。

手に持つ巨大な電電太鼓からは空気を震わせた振動で攻撃しているらしい。
臭いによって兵士たちは顔をしかめているが、遠距離攻撃の応酬で互角――といったところか。

ざっと、数戦ぶんのビデオを見てみる……。
B`Z、黒砂糖、抹茶、加古川……名だたる兵士がその面倒な相手と戦っている様子が見える。
その中には、オレの親父も居た。太刀を構えて切り込む姿は、長年の鍛錬によって得られた技術を感じ取った。

筍魂
「相手が新たな戦法を編み出しているかもしれないが……今の乙海なら対応は問題ないだろう」

筍魂は頷く。オレも頷き返し、嵐と戦う決意を込めながら、拳を握った。

乙海
「そういえば……¢さんや集計班さんの姿が見えない気がする」

ふと、映像を見て気になった事実を呟いた。この事実は偶然なのだろうか……?


277 名前:Route:A-11 idle talk:2020/09/23(水) 23:55:40.204 ID:3YCUBldw0
筍魂
「シューさんは……この戦いでも戦局の分析をしていたからな……
 彼自身も戦闘能力は高い――魔術に優れたメイジだが、立場上あまり前線出ないのが惜しい」

――そうだ。集計班は大戦で集計している立場にあるのだから、それ以外でもそう言った行為をしている可能性だってある。
オレの視野の狭さに、少し気を引き締めなければならない点がある……
このままでは、いずれ壁にぶち当たってしまう。そう思い知らされた気がした。

791
「そうだねぇ――まぁ¢さんはちょっと自信がなくてヘタレな部分があるから、出なかったのかもねぇ」

一方で791はため息を交えて答えた。そういえば――彼はDBに対して怯えている態度を見せていた。
それはDBと戦わないが故の態度なのだろうか……。

791
「さて、そろそろ行こうか――みんな」

791が、部屋の時計を見上げながら呟いた。
確かに、そろそろ集合していたほうがいい頃合だ。オレたちは頷き合い、大戦場へと向かった……。

278 名前:Route:A-11 defense:2020/09/23(水) 23:57:16.005 ID:3YCUBldw0
オレたちは、大戦場でその時が来るのを待っていた。
会議所に常駐する兵士のほか、普段は会議所に居ない兵士も緊急事態とあって駆け付け、
普段の大戦より少し少ないぐらいの人数が集まっていた。

その時……ザッ――ザザッ――、
手元の通信機から音が聞こえた。なにやら連絡事項があるらしい……。

¢
「嵐がきのこ軍居住地に出現……今から、きのこ軍防衛隊、作戦に入る――」

山本
「こちらたけのこ軍防衛隊、嵐出現――これより作戦に入る」

791
「わかった、¢さん、山本さん――みんな、頑張って――」

……嵐は、予告通りに訪れたようだ。その場の空気は一気に張り詰め始める。
通信機の向こうでは緊張した声が響く。オレも固唾を飲んで、これからの動向を確認するために神経をとがらせた。


279 名前:Route:A-11 defense:2020/09/24(木) 00:02:16.061 ID:87BecFbw0
嵐というテロ組織――。
オレが会議所に入所したその日にも、ブルボン王朝でテロ行為をしていたという。
また、明治国の果汁組刑務所から囚人を脱走させたこともあるそうだ。

オレは大戦や会議所での忙しさにかまけ、そのことを知ったのは予告されてからだった。
恐らくは、大戦に直接かかわらない親父などは知っていたのかもしれない。

乙海
(親父が仕事にかまけてるのと、似たようなものか――)

……自嘲気味にため息をつきつつ、オレは嵐の情報を改めて整理していた。
構成員は、はぐれ者、ならず者――破壊や略奪を繰り返す迷惑者。

その行動原理は不明で、ただ破壊しては悲しみ憤る人々の様子を見て楽しんでいる――という説もあるそうだ。
構成員は逮捕されたことがあっても、リーダーや幹部の名前は絶対に漏らさない。
時には自殺する輩もいるそうだ。一体、どうやってその忠誠心が身に付くのだろう……。

ざっ――足音が聞こえた。
これはオレたちのものではない――すなわち――。

乙海
「!」

ブラック
「……どうやら、お出ましのようですね」

そして――そいつらは、現れた……。

社長
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

280 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:04:41.739 ID:87BecFbw0
乙海
「………!」

オレは、思わず息を呑んでいた。

嵐の軍団が、現実にオレたちの前に現れたからだ。
青い軍服を着ている山賊のようなひげ面の男たち……チンピラのような風貌の男たち……。
社会性というものが皆無――恐らくは、オレたちの平均的価値観とは外にある集団なのだ。


「ハーッ!ここが本番みたいですぜ、ボス!」

一人は通信機で何らかのやり取りをしていた。……ボス、という存在と連絡を取っているということは、リーダー格はここにはいないということか。
男たちの向こうには、車輪の付いた檻があった……。その中は、暗くて見えない。
だが、恐らくはDBがいるのだろう……不吉でおぞましい雰囲気がそこにはあった。


281 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:06:49.254 ID:87BecFbw0

「……行け、DBォォォ!」

そして……男の声とともに、檻が開け放たれた。
中からは――。
その、ブラックホールのように真っ暗な檻の中からは――。

DB
「ヴォオオオオオオオオオーーーーッ!」

――DBが、獣のようなうなり声をあげて勢いよく飛び出してきた。
それはまさにケダモノ――悪魔のような恐ろしさが全身からにじみ出ている。

791
「…………これは、まさか」

ブラック
「はぁ……いつ見ても醜悪ですね、アレは――」

791は何かを思い出したように、ブラックはげんなりとした顔でDBを見ていた……。
DBの顔は、欲望しか考えていない汚らわしい醜悪な表情をしていた。
そのぶくぶくに太った腹と脂肪が張り付いた腕からは、堕落に身をやつしたものの末路にも思えた。

……奴は人間なのか?オーガなのか?魔族なのか……?
どれも違うような気がするし、正解なような気もする……オレの背中には冷や汗が流れ、焦燥感に苛まれていた。


282 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:08:09.833 ID:87BecFbw0
筍魂
「乙海ぇ、気を張れ――奴と相対するときは精神力がものをいう」

ぽん、と肩を叩かれた。
その言葉に、オレの焦燥感はすっと消え――冷静に相手を見据える心が浮かび上がった。

そうだ――敵を見据える――それがオレのやるべきことだ。
嵐のメンバーと、DB。恐ろしいのはDB。嵐のメンバーは……武器こそ持っているが、見た限りではメイジはいない。

メイジは、詠唱用に杖を持っていることが多い。791や黒砂糖は杖なしでも魔術を操れるが――
そういった強者の雰囲気は、向こうから感じ取ることはできない……。

乙海
「………」

ライフルと、大戦場に行く途中に抹茶から借り受けた試作中の銃に手を触れる。

抹茶
「ああ、乙海さん――ちょうどよかった貴女のアドバイスを元にさらなる試作品を作ってみましたよ
 名前はディアナ――狩猟を得意とする女神の名にあやかってみました
 とりあえず、弾詰まりを起こさない形の銃に変えてみました」

その時交わした抹茶の声が脳裏に浮かんだ。その場で試し撃ちしても、使用感に問題はなかった。
彼の研究者としての誇りを、新人のオレに託す――これはある意味名誉なことなのかもしれない。

大丈夫だ……これは大戦とは違う戦いだが、感じ取るものは似ている。

乙海
「よし……行ける」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

283 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:10:30.348 ID:87BecFbw0
DB
「ヴォオオオオオオオオオーーーーッ!!」

けたたましい、耳をつんざくような咆哮。
同時に電電太鼓を振り衝撃波がオレたちをぴりぴりと刺激する。
奴が本能のままに叫んでいるだみ声は、心臓をわしづかみにされるような恐怖感がある……しかし……。

乙海
「!」

だが、オレは、銃を構える。
その手は震えない――なぜなら、その恐怖も世界の構成要素だから。
世界の一部。だからオレはそれを避けるのではなく、あえて向かい合い――オレと同じものだと認識する。

筍魂
「ほう……あの瞑想でメンタル・コントロールは会得したか」

筍魂は、興味深そうに頷いた。……あの鍛錬の成果は、もうここで発露しているのだ。

ブラック
「行きましょう――ホルンウィンド」

ブラックが、静かに言霊を呟くと、真空の刃が空気を切り裂いた。
その魔術を皮切りに……戦いの火蓋は切って落とされた。

284 名前:SNO:2020/09/24(木) 00:11:18.ウンコ ID:87BecFbw0
抹茶さんの出番あってよかったネ

285 名前:きのこ軍:2020/09/24(木) 00:20:43.324 ID:DdKEqu9wo
決戦が始まるッ!…

286 名前:Route:A-11 a united front:2020/09/24(木) 22:42:32.231 ID:87BecFbw0
ブラックの真空の刃は、嵐の兵士を瞬く間に切断した。
まるで包丁で魚をさばくかのように……バターナイフでバターを切り取るかのように……
ずばりと、嵐の兵士の腰を、えぐり、血をまき散らす。

乙海
「…………」

どちゃりと音を立てて崩れ落ちる兵士……血と臓物が地面に散らばる。
死――大戦とは違い、これは敗北すれば死を意味する戦い。
内臓をこぼしながら倒れる男たち――その残酷な光景に、周りの兵士は少し動揺を覚えていた。

しかしオレは……特に、何も感じてはいなかった……。
どうしてだろうか……敵であろうと何であろうと、生物の死であることに変わりはないのに……。

――しかし、今はその理由を考えている必要はない!

乙海
「そこだ!」

オレは敵の武器目がけて弾丸を放った。魔力を宿した弾丸は見事に命中し、弾き飛ばすことに成功する。
さらにもう一弾、もう一弾……相手の武器を、冷静に弾き飛ばしてゆく……。


287 名前:Route:A-11 a united front:2020/09/24(木) 22:48:10.532 ID:87BecFbw0
筍魂
「戦闘術魂――リーフブレード」

そして、思わずよろけた敵に、筍魂が草の刃で追撃した。
連携――きのこ軍とたけのこ軍の枠を超えた共闘が今ここで織りなされている。

オレは、嵐のメンバーの動きを視ながら、DBの方に目を見やると……。

791
「シトラス――」

791が、レモン色の魔法弾をDBに叩き込んでいた。
矢継ぎ早に魔術を連打する……その威力は、地面がえぐれ、その衝撃波だけで小石が砕けるほどだ。
DBは、それをかわすことに専念していた……。

幸いながら、距離が遠いためかDBの悪臭は感じない。やつの咆哮だけが気になるぐらいだ……。

社長
「ツインポップミサイル――」

オレの隣で、社長も魔力の塊の小型ミサイルをDBに撃っていた。
小規模な爆発――791の魔法弾よりも威力は低そうだが、それでも奴をひるませるのには充分……。

そして、そのよろめきと同時に、シトラスがDBに直撃した。

DB
「ギィイヤヤアアアアアアア!!!」

DBの身体からボタボタと血が落ちる。同時に土は腐りぶよぶよに散らばった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

288 名前:Route:A-11 a united front:2020/09/24(木) 22:50:32.671 ID:87BecFbw0
¢
「こちらきのこ軍防衛隊、嵐は突然撤退した――」

山本
「奴らは、まるで示し合わせたかのように、思い切り逃走したぞ?――」

――同時に、居住地で任務にあたっていた二人からも連絡が入った。
実に不可解だ……犯行声明までしておいて、こんなにあっさりと逃げ出すとは……。

その違和感を覚える状況に、オレは疑問符を浮かべていた……。
周りでは、困惑したように兵士がざわついている。ほっとしているような声も聞こえる。
……命に係わる可能性があるのだから、当然かもしれないが。

791
「乙海……多分、これは前哨戦じゃないかな」

筍魂
「そうだな……奴らはある程度いたはずなのに、その数を活かした攻撃もしなかった……
 DBを檻から放つことぐらいしかやっていない……あとは少々の抵抗といったところか」

オレの疑問は、他の兵士も考えていたらしく、791や筍魂もまた、考察を始めていた。


289 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 22:53:18.603 ID:87BecFbw0
社長
「DBノテストトカ?」

ブラック
「――私も、その意見はありうると思います」

……その場では、会議のような雑談が行われていた。
向こうでは嵐の男たちの肉片が転がっている……その異様な雰囲気の中、オレの中にある想いがあった。

乙海
(……この人たちは、強い)

……そう。少なくともオレより場数は踏んでおり、戦闘経験があるのだ……。
オレは確かに大戦で活躍したとはいえど、射撃大会で入賞しただけの存在だ。

オレとは違い、彼らには実戦での実力もある。戦闘術魂を操る武術家。強力な魔力の持ち主。
兵器として、高い威力を持つ武器を搭載できる義肢の持ち主。そして義肢の制作に関わっている者……。

先の大戦で、社長は、出会い頭に攻撃を加えただけで、791とは交戦する機会はなく、実力は未だわかっていなかった。
しかし、大戦経験の多さは、確かに実感できる。
完璧にDBに攻撃を当てるための布石を打っていたのだから……。

乙海
(オレは……強くなれるのだろうか?)

確かに……戦闘術魂の鍛錬の一環の、瞑想によってオレはメンタル面では多少強くなった。
しかし……戦闘技術の技量は、まだまだだろう。オレには銃の腕が多少あるだけ……。
弾丸を失ったとき、オレは戦えるのだろうか?


290 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 22:53:45.196 ID:87BecFbw0
筍魂
「心配するな、乙海」

そんなオレの表情を、筍魂は見抜いていた……。

筍魂
「お前のスナイプ技術を磨くんだ……さらにな
 戦闘術魂は技術が大切なんだ、どんな技術でも構わない……それが魔術でもいいんだ
 その経験が糧になるし、強くもなれる……」

その言葉は、今のオレにとって頼れる言葉でもあった。

筍魂
「お前が敵と戦う目はどこかいきいきとしていた……おそらくは、自分自身を鍛えたいという気持ちの発露だろう
 ――射撃も、自分との闘いだから納得できる」

続く筍魂の言葉に、オレは感服するしかなかった……そしてオレは、その言葉を聞いてようやく気が付いた。


291 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 22:55:07.020 ID:87BecFbw0
オレが会議所に入った理由――それは、己を鍛えるため、なのだと……。

乙海
「そうですね、たしかにそう――オレは大戦の勝敗で心が揺れ動かなかった――
 その理由は、恐らくそういうことです」

すっきりとしたような気持ち。オレはすらすらと筍魂に言葉を紡ぐ……。

筍魂
「フフフ、戦闘術魂の鍛錬の時間はいつでも取るぜ、また今度来い」

オレの自信をもった答えに満足したのか、筍魂も親指を立ててニヤリと笑った。

それから、援軍にやってきた兵士たちは帰され……
会議に関わったオレたちだけで、大戦場にできた攻撃の後と、嵐のメンバーの死体を片付けることになった。


292 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 23:01:08.508 ID:87BecFbw0
¢
「うぅう……死体は初めて見るから怖いよ」

青い顔をしながら、¢は血の痕を片付けていた。

B`Z
「まぁ仕方ないとはいえ――あまり殺しはようないかもな」

B`Zも真剣な顔でブラックに話しかけていた。

ブラック
「申し訳ございません――私の嫌いな存在でしたから」

ブラックは丁寧な言葉をしていながらも、言葉の節々からは後悔も動揺も感じられなかった。
いったい、彼女はどういう精神構造をしているのだろう……。

そんなことを思いながら、オレはDBの血で腐った地面を掘り返し、新たな土を入れていた……。

791
「それにしても、DB――シトラスが当たっても軽い出血で済むのは、普通の生き物じゃないのかもね」

黒砂糖
「DBは……そんな奴だったのか」

791
「うん――まるで私のように……特別タフな存在なんじゃないかなって……
 まぁあんなのと同一視されたくないけど」

意味深な791の言葉……そういえば、791は攻撃への耐久力が優れていると聞いたことがある。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

293 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 23:07:32.454 ID:87BecFbw0
筍魂
「まぁ、ともかく――奴らはまた来るだろうな」

筍魂が、死体を袋に詰めながらそう言った。
彼は死体を動揺もなく処理している……肚が座っているのか、あるいは別の理由があるのだろうか。

山本
「……それにしても、嵐のメンバーの武器はそこまでいいものではないな
 質もまちまちだから、密造したものだろう」

遺品を拾い上げながら山本はそう答えた。
ごつい肉体と武器の大小から織りなされる――支援を受けられない立場にあるテロリストという推測。

兵士たちの意見を耳に入れながら、オレは、ただ、ただ、土を掘り返していた……。

294 名前:SNO:2020/09/24(木) 23:08:10.671 ID:87BecFbw0
乙海の目的もはっきりしたけどまだまだ続くよ

295 名前:きのこ軍:2020/09/24(木) 23:22:33.809 ID:DdKEqu9wo
明確な意志がモテる主人公は強くなるの法則

296 名前:Route:A-12:2020/09/25(金) 23:24:23.159 ID:.gg7iJa60
Route:A

                 2013/5/4(Sat)
                   月齢:23.7
                    Chapter11-2

297 名前:Route:A-12:2020/09/25(金) 23:27:45.490 ID:.gg7iJa60
――――――。

嵐との戦いから1週間が経過した……。
その間のオレは、相変わらず戦闘術魂の鍛錬を行いながら、会議所の業務を手伝っていた。

その日の朝――嵐からの犯行声明が、再び会議所に送り付けられていたのだ。
嵐の対応に当たった、会議所の代表――その中にはオレも含まれる――が、再び会議室に集められたのだ。

集計班
「皆さん……朝早くからご足労ありがとうございます
 非常に面倒な事態――嵐からの犯行声明がまた届きました、文面は前と同じような内容です」

深刻そうな表情を浮かべた集計班は、指でトントンと机の上を叩きながらそう告げた。

『今日5月4日の大戦を中止させる
 ――かつて会議所に現れた化け物DBを引き連れて
                           ――嵐』

前回は、あっさりと退いた嵐……しかし、しつこく犯行声明を出してきている。
今回は当日――大戦が執り行えないようにする妨害を続ける……これもテロリズムの一種だろうか?゜

298 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:31:43.076 ID:.gg7iJa60
¢
「で、DB……本当に居たって聞いたけど、また持って……来るのか……」

¢は、またもひどく怯えていた。
まるで、不安に苛まれた赤子のように、顔を青くしてぶるぶると震えている。
顔に流れる汗をハンカチで拭い取っているが、その手もまたぶるぶると震えていた。

エースと呼ばれた彼とは真逆のイメージ。心なしか、DBに関する話を聞くと動揺しているようにも思える……。

黒砂糖
「………」

黒砂糖は、相変わらず無言だった。
何を考えているのか……その鉄仮面からは読み取ることはできない……。

集計班
「それに――ルミナス・マネイジメントに所属するきのこ軍のtejasさんによると、
 開発中の機械人形装置を奪われた――そういう報告もあがっています
 嵐が、会議所への攻撃を続行すると見ていいでしょう」

社長
「マサカ……ヴァルトラングなどノ大企業にモ攻撃をシカケルカモシレマセンネ」

嵐は、会議所と、その周り――あらゆるものに噛みつこう、というのだろうか。
オレは、嵐の思惑に薄気味悪さを覚えていた。


299 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:32:52.327 ID:.gg7iJa60
B`Z
「このまま手をこまねているわけにもいかんが、兵士たちの安全も考えないといかん」

山本
「そうだな参謀……防衛隊の皆は、一般生活も送っているものが多いから死は絶対に避けたい」

やがて、前回のようにB`Zと山本が意見を出し合う。それを呼び水として、議論が活発化していく……。

791
「それに……このままずーっと休戦すると、会議所の存在意義もなくなっちゃうよね」

……791の意見はもっともだ。脅せば休止する――という流れが形成されたら、向こうの思うがままかもしれない。

乙海
「相手の様子を見ながら、大戦はどこかで行ったりする必要があるのだろうか……」

オレは、思いついた意見を推敲することなくただ呟いた。
それは意見として挙げるのも自信がない、小さな声だったが……。

筍魂
「おっと乙海……その意見はもっともだな」

筍魂は、その小さな意見を聞きつけて、肯定しながら頷いた。
そういえば彼は地獄耳と自称していたと、改めて思い出し……彼の顔を見ると、したり顔でオレを見ていた。


300 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:33:56.290 ID:.gg7iJa60
乙海
「ふむ……」

筍魂
「小規模な大戦を執り行う、例えば俺らが外敵から守りながら、一部の会議所兵士が指揮を執る大戦――こういう形をとるのも重要かもしれない
 いえば紛争を少しスケールアップしたような……」

社長
「ソレハ言えている……魔王様の言う通りに、会議所は大戦を運営する場所デス」

抹茶
「……大戦そのものに携われない兵士も居れど、僅かにでも世界の流れを動かすことは重要……そういうわけですね」

オレの素朴な言葉が、ほかの兵士によって噛み砕いた表現になり、発展していく……。
この光景は、大戦の縮図なのか……?議論という戦いによる影響なのか……?

議論に沸き立つ会議室を、オレはどこか遠くで見ているように眺めていた……。
そういえば、ブラックがここにはいない。彼女はどうしたのだろうか……少なくとも社長の秘書なら隣には居るとは思ったのだが……。

そんなことを考えている間にも、議論は活発に進み……会議はいつの間にか終わっていた。


301 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:34:53.644 ID:.gg7iJa60
集計班
「……意見が出そろったようなので、結論に移ります」

集計班
「対応としては前回と同様で行きましょう――
 ただし、今後の対応として、大戦を継続できるような努力が必要です」

集計班の総括が、すらすらと語られた。

加古川
「大戦継続の努力――具体的には?」

集計班
「これもまた、早急に会議しないといけない内容ですが……とにかく、直近の嵐に対応しないといけません」

集計班は、時計をちらりと見やった――そこには8時58分……会議所が開く時間が近づいていた。

加古川
「っ、そろそろ運営時間か……皆で案を温めないといけないな」

集計班
「そうですね、大変だとは思いますが、何か意見を考え……今夜中にでも決定しましょう」

B`Z
「よし、きのこ軍の皆はきのこ軍居住区へ行くで――」

山本
「たけのこ軍はこっちへ行くぞ!」

オレはきのこ軍だ――すなわち参謀の先導する声に従い、その後を追った。

302 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:38:12.275 ID:.gg7iJa60
……きのこ軍、たけのこ軍の両居住区では、嵐がすでに暴れていた。
前回、彼らは魔術を唱えることはなかったが――それは偶然だったのか、杖を構えたメイジもそこに居た。

武器や魔術で公共物を破損し、騒ぎ、わめく……人々は、それだけでも怯えてしまうものだ。

オレは、B`Zに率いられ、居住区へと駆け付けた。
手元には特殊な鎮圧用の弾丸がある。相手を気絶させる特殊仕様のもの……。

ブラックの嵐構成員の殺害は、戒厳令は敷いたものの噂になっているらしい。
というよりは嵐が広めているのかもしれないが……ともかく、敵の殺害はほぼ避けるという方針になっていた。

B`Z
「居住区での破壊活動は禁止されている!直ちに降伏しなさい!」

嵐に対する力強いB`Zの声は、拡声器を通して居住区中に響いた。

¢
「……怖いが、追い払わないといけない」

隣で、¢は少し震えていながらも銃に手をかけていた。
その様子を見て――それが¢のエースという仮面を外した本当の中身のようにも思えた。


303 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:40:03.757 ID:.gg7iJa60
黒砂糖
「……」

一方で黒砂糖はだんまりを決め込みながら、反撃態勢に入っていた……。

オレたちが、嵐の行動を止めようとすると駆け出す。
魔術の攻撃が飛んでくるかもしれない。オレはいつでも回避できる姿勢を取りながら銃に手をかけていた。


「おっと、逃げろ!退却だ!」


「イェエエエイ!おそいぜ会議所さま!」

……だが、オレたちが現れた途端に嵐は突然散り散りに走り去っていった。
オレたちが近づいただけで……まるで何かを企んでいるような動きのように見えた。
一体、どういうことなんだ…彼らは何を企んでいる?

¢
「……?なぜだ、あの声明からするとまたテロ行為に走ると思ってたのに」

肩透かしを食らったような顔を、¢はしていた。
恐らくは、周りに居る皆すべてが同じ疑問を浮かべているだろう。


304 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:43:02.941 ID:.gg7iJa60
黒砂糖
「…………」

山本
「こちらたけのこ軍防衛隊――嵐はすぐに去っていった
 DBもいないらしい……厳重注意は必要だが、対応は終了になりそうだ」

通信機越しの山本の言葉にも、困惑の色があった。
実に不可解だ。ただ愉快犯的な行動にしては、オレらが来るという事態を予測していたようにも思えた。

B`Z
「……ふむ、不可解な動きやな
 もう一度会議をすることになりそうや――」

¢
「で、DBはいなかったみたいだが……一体も奴らは何のために来たんだ……」

訝し気に状況を見据えるB`Zの表情……隣に居た¢も、同じ表情をしていた。


305 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:43:36.514 ID:.gg7iJa60
……会議所に戻ってきたオレたちは、困惑の中会議をしていた。
しかし、不可解すぎる嵐の動きの前では、建設的な意見も出てこない。

黒砂糖
「……もしかしたら、これは会議所の対応を見るための陽動かもしれない」

そんな中――黒砂糖は鉄仮面を貫きながらも、自説を唱えた。

集計班
「なるほど、会議所がどれだけの人員で抵抗できるか、その戦闘力、チームワークの確認……」

B`Z
「黒ちゃん、それや――嵐の狙いはっ――」

筍魂
「ふむ……どちらにせよ、俺らができるのは大戦の維持とかだな」


306 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:53:19.719 ID:.gg7iJa60
……黒砂糖の意見を呼び水に、再び会議は活性化した。

791
「そうだね……今のところは建物に一部被害が出たぐらいで、会議所側に大きな被害はない
 すべてのリソースを防衛につぎ込むのは間違いに思える」

山本
「ただ、今後住民を標的にする可能性は考えないとな
 何より、関連企業まで狙ったんだ――次狙うのが住民や兵士じゃないという保証はない」

B`Z
「居城区の警察から報告書があがったが、ワシらがたどり着くまでは、
 嵐は警察の攻撃をかわしながらひたすら騒ぎ、破壊する行動を取っていたらしい
 ……しかも警察が対応し始めてからワシらが居住区にたどり着くまでは20分ほどだったらしい」

抹茶
「……嵐は、警察の妨害を避けつつ会議所を呼ぶように仕向けた、ということですかね」

警察……治安維持の組織の中にも兵士は居る。
しかし彼らは短期あるいは中期コースの者しかいない。それも当然で、警察としての業務が優先されているからだ……。

だからこそ、会議所の一員ともいえる長期コースの兵士を呼び出し、立ち振る舞いや人員を見ようとしたのだろう。

同じ結論を、周りの兵士たちが口々に呟いていた。

加古川
「なんにしても、私たちへの挑戦であることには変わりないな」

集計班
「ええ……ともかく、そろそろ意見は出尽くしたようなので、結論に移りましょう」

307 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:57:16.251 ID:.gg7iJa60
集計班
「苦しい決断ではありますが、今回の大戦も中止とします
 何せ今回はすでに騒ぎになっていますし、まだ我々に心構えもないですから大戦の運営を円滑にできる確実性に欠けます」

集計班は苦虫を噛み潰したような顔で、淡々と結論を告げた。

集計班
「そして嵐から住民を守る――これもまた重要でしょう
 そこで、警察と協力しながら居住区を警備するグループと、
 会議所と大戦の運営を行うグループに分けて活動する……これでどうでしょうか」

加古川
「賛成だ」

B`Z
「そうやな……ええと思うで」

集計班の意見に、皆が頷いた。

集計班
「あと、不要不急の外出を規制しておきましょう――
 少なくとも、我々が警備して安全を確認できるまでは」

山本
「まぁ、仕方がないだろう……今朝の出来事は住民も知っているしな」

308 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/26(土) 00:06:03.814 ID:4nSfvMe.0
集計班
「そして、規制を解いた後も警備する――
 しばらくは苦しい展開になるやもしれませんが、この方針で行きましょう」

791
「うん、賛成」

乙海
「はい」

集計班は、その名前にふさわしいというべきか――スムーズに意見を集約していた。
これもまた彼の才能なのだろうか。

山本
「さて、善は急げとばかりにオレと参謀で班分けを作ろう、いいだろうか参謀」

B`Z
「ええで、手伝おう」

……そして、会議の終わりを告げるまでもなく、兵士たちは動き始めた。

¢
「ぼ、僕も手伝うよ」

抹茶
「よし、こちらは居住区の防犯システム班と打ち合わせをしてきます」

……それぞれが、やれることをやろうとしている。
オレは……どうすべきだろうか。そう思っていると……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

309 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/26(土) 00:10:17.624 ID:4nSfvMe.0
フィン
「あらぁ……乙海は仲間外れにされちゃったんだぁ、けらけら」

フィリップ・パブを訪れたオレに、フィンは楽し気な態度を取っていた。

乙海
「ああ……しかし、君がここに居る……
 少なくとも修行仲間が居るだけでも精神的には楽だ」

フィン
「ちっ……アンタ意外とアタシの気にしていることを言うね
 まぁ、いいや……鍛錬をやりましょう」

――フィンの態度にも、オレは慣れていた。
まるで妹ができたかのような……そんな感覚。

そういえばオレは友人らしい友人もいないのだ。
これまではオレと対等にしようとする人物がいなかったから――
だからこそ、オレは……フィンと切磋琢磨しながら、
嵐と対抗できるようにしよう――そう思っていたた。

310 名前:SNO:2020/09/26(土) 00:10:50.627 ID:4nSfvMe.0
てはすさんちょい役だけど出てきたよやったね

311 名前:きのこ軍:2020/09/26(土) 19:19:55.568 ID:py5sioxko
ちゃんとみんな会議してて感動する。

312 名前:Route:A-13:2020/09/26(土) 21:05:26.497 ID:4nSfvMe.0
Route:A

                 2013/5/8(Wed)
                   月齢:27.7
                    Chapter13

313 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:07:23.525 ID:4nSfvMe.0
――――――。

それから……4日が経過した。
オレは、同軍の兵士とともに居住区を警備し……手すきの時間は戦闘術魂の鍛錬を行う日々を過ごしていた。

……警備中に、嵐の連中はいなかった。出会ったのは心配そうに過ごす住民だけ……。
その中には、新人兵士もちらほらおり、会議所に来るのを控えている者もいた。
嵐は……様々な影響を与えていることに違いはない。

災害と同じ名前を使っているだけはある、ということなのだろうか……?

オレらの対策の間……待てど暮らせど嵐は訪れず……。
ただ、兵士の警備がいたずらに住民の不安をあおるだけとなっていた。

そして――そのことに関する問い合わせが会議所に届けられたことも踏まえ、
今朝の会議で、外出規制の解除措置が取ることとなったのだ。


314 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:12:15.114 ID:4nSfvMe.0
アナウンス
「【会議所】での緊急会議の結果、今日から外出規制が解除される並びとなりました
 テロの可能性などもありますが、兵士・警察などによる警備の強化で対応を……」

――とはいえ会議所の兵士が警備を続けることは変わりはない。
オレも、今朝からきのこ軍居住地を警備のために巡回していた。

乙海
「……ふぅ」

オレは、警備の交代時間を終え、一息ついていた。
まだ会議所に入って1か月だが、テロリストへの対応を行っているなんて、想像だにしていなかった。

乙海
「筍魂のところに行くか」

オレは、相変わらずフィリップ・パブで修行を行っていた。
昼までの割り当てられた作業を終え、腹ごしらえと同時に修行。それがオレのルーティーンに組み込まれていた。
そして……今回もそのつもりで足を運んだ。

筍魂
「よぅ、常連になってくれてありがたいな」

フィン
「はいはい、どうも」

相変わらず、筍魂は底の見えない飄々とした雰囲気を、フィンもオレへのライバル意識を向けていた。
いつものように昼食を取っていると、唐突にフィンが話しかけてきた。


315 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:13:02.048 ID:4nSfvMe.0
フィン
「ねぇ……嵐って強いの?弱いの?」

乙海
「……わからない」

いつもよりも真剣な表情のフィン……しかしオレには本当にわからなかった。
嵐は、なぜか本気を見せているようには見えなかったからだ。仮説として挙げられた陽動や戦闘力の確認は間違いではない気がするとも思えた。

フィン
「ふーん、そうなんだぁ、へぇ……」

フィンは、なぜかにやにやしながらオレの傍の席に座っていた。
どういうことだろうか……彼女にとってテロリストは下に見る存在なのだろうか。

筍魂
「奴らは全力を出していないな、ただ一つ言えるのは、今のところは武術の達人らしきものはいないってことだ」

補足するように、筍魂が続けた。

筍魂
「身のこなしは誰でもたどり着ける訓練のたまものに近かったし、魔術もここの教育課程で身に着けられるものと同じだった」


316 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:13:52.949 ID:4nSfvMe.0
フィン
「へー、じゃあDBっていう変な奴が切り札になるの?」

筍魂
「それはわからんな……DBが大戦場に来た時も、割とすぐに逃走していたしな
 もしかしたら秘密兵器はあるかもしれんぞ」

そんな二人の会話を聞きながらオレは思っていた。
嵐は――捉えどころがない組織だと。会議所への反旗を翻すにしてもその理由は声明にはなかった。

確かに、会議所は意図的に闘争させる組織という識者もいたが……それへの反論のために闘争するのは道理としては矛盾しているようにも思える。

そんなことを思っていると……店の電話が唐突に鳴った。


317 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:15:32.039 ID:4nSfvMe.0
筍魂
「もしもし、おっシューさんか……ふむふむ」

筍魂
「なるほど、分かった……すぐに向かう」

電話での数秒のやりとりのうち、筍魂の表情は真剣なものに移り変わった。

筍魂
「乙海、大戦場に敵さんが来たらしい――軍関係なく俺たちで対応しにいくぞ」

乙海
「……」

オレは無言でうなずく。食事も丁度終えてタイミング的にも差し支えはない。

筍魂
「フィンは片づけと留守番だ、外にはあまり出るなよ」

フィン
「はいはい、アタシはまだまだな子ですよぉ」

肩をすくめながら、フィンは頷いていた。

オレと筍魂は急いで店を出る。武器も、ディアナとライフルが懐にあるから問題はない。
その背で電話が鳴っていたが……フィンが応対しているみたいだ。

フィン
「もしもし……フィリップパブです……
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

318 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:16:06.281 ID:4nSfvMe.0
大戦場には、791をはじめとした数十人の兵士がすでに嵐と交戦していた。
そしてその向こうには嵐たちの影……DBの居る檻もあった。

筍魂
「¢さんや山本さんは居住区の方にいるのか?」

791
「そうだね
 それから、ルミナス・マネイジメントから援軍が来たよ」

援軍?そういえばルミナス・マネイジメントには会議所で兵士として活躍していたものもいたと聞く。
791が指し示した方向を視線をやる……そこには……。


「……」

サングラスとシルクハットを付けた……オレの親父と、もう一人、白髪の女性が居た。

オレは悟られないように親父に目配せをする。親父もその目線に気が付いたようで、小さく頷いた。
その横で、スーツを着た白髪の女性がじっとオレらの方を見ていた……。


319 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:18:36.792 ID:4nSfvMe.0
今駆け付けた兵士たちには、見知らぬ人物に戸惑うものも居た。
そのため――彼らのために、ふたりの人物は短く挨拶をした。

コンバット竹内
「コンバット竹内だ、わけあって大戦からは離れていたが今回の嵐の対応の援軍に来た」

仮にもオレの血の半分の由来である父親なのだから、よく聞いた声で……その淡々とした口調は、余所行きでもこうなのか――と思うと、なぜか納得するものがあった。
……親父は腕の立つ兵士でもあった。一線を退いてるとはいえ、援軍に来てもおかしくはないはないだろう。

サラ
「私はサラ――ルミナス・マネイジメントの秘書を務めております
 開発中の装置を奪われた――との報告を受けた件で、確認のために参りましたわ」

恭しく礼をした女性――サラ。しかしその右腕と両足は社長のような鋼のもの――すなわち義肢で出来ていた。
ブラックとは異なり、見るからに機械のものであることが見て取れる外観でもあった。
その目は――親父のような、漆黒の眼球と青白い瞳だった。親父の、知り合いなのか……?

それにしても、耳にたくさんついたピアスに、生身の左腕に巻き付いた白い包帯――そしてその二つに割れた舌からは、
丁寧な仕草とは何処か噛み合わないものを感じた。


320 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:24:02.617 ID:4nSfvMe.0
サラ
「私はあまり戦いは好みませんが、緊急事態とのことですので助太刀に参りましたわ」

オレの疑問は、彼女の凛々し気な声にかき消されてゆく……。
サラは胸を張って答えるとともに、右手からレーザー光線を嵐に向けて発射した。
嵐の兵士の足元の地面を焼ききられ、足元をふらつかせる……これがルミナス・マネイジメントならびにトニトルス・フェルムの技術なのだろうか?

……それはともかく、オレも交戦に参加しなくては!
オレはディアナを構え、敵に照準を合わせた。

コンバット竹内
「…………」

近くで親父も同じように銃を構えて照準を合わせていた。

狙いはどうやらオレと同じようだ。すなわち相手の武器へと――同時に引き金を引いた。


321 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:25:55.496 ID:4nSfvMe.0

「うがぁ!」

狙い通り武器を弾き飛ばすことに成功する……その動きに合わせて、筍魂の追撃が繰り出される。

筍魂
「チッ」

しかし、敵を撃退しながら筍魂は向こうの方を見やり舌打ちをしていた。

乙海
(はっ――)

――オレは、そして周りに居た兵士もすぐに気がついた。
そう……DBが檻から解き放たれたのだ……!

その素振りがなかったから、迂闊にもDBのことを頭から追いやってしまっていたことに、少し後悔を覚える。

DB
「ヴォオオオオオオオオーーーッ!!!」

しかしそのけたたましい咆哮で後悔の気持ちは吹き飛んだ。
そのだみ声は身を震え上がらせるほどに気色の悪いものだった。
だが、その気色悪さが救いにもなった。冷静さを取り戻させてくれたからだ……。

322 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:29:27.258 ID:4nSfvMe.0
その時……不意に雨が降ってきた。
それも、身を叩きつけるほどの豪雨。
天気予報ではそういったことは言っていなかったはずだが……。

強く降る雨に気を取られ、すっ転ぶ兵士もちらほら現れた……。
それは嵐にも言えることだが。

これは恵みの雨なのか、あるいは絶望の始まりなのかはわからない。
……オレはなんとか足を取られないように踏ん張っていた。

嵐の兵士は、困惑気に腕や足を見つめていた。
その困惑は、奪われたというルミナス・マネイジメントの技術に関連しているのだろうか。

それが、雨に弱いもの――という仮説を立てればその様子も納得はいくが……。
とはいえ、それが正しいかは分からない……。

サラ
「……これは、そういうことか」

サラは雨を意味深げに見つめていた。
……そういえば彼女は複雑な機構であろう兵装を装着しているのだ。彼女に影響はないのか?

そう思ったとき、その兵装のあたりでじゅうっという音が聞こえた。見れば雨が蒸発して煙となった。
雨はサラに当たる傍から蒸発している……これも兵装の機能なのか?


323 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:30:15.245 ID:4nSfvMe.0
いや、今はそんなことはどうでもいい……。考えるにしても戦いが終わってからだ。

オレは再び敵に照準を合わせる。狙いはやはり手に持つ武器だ。
雨で軌道が多少変化するかもしれない。……だが、オレには相手の動きと弾の軌道がなんとなく予測できていた。

それは今までの経験もあるかもしれないが――
『無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』
――その言葉がそっくり言えると、オレは瞬時に理解した。

引き金を撃つ。雨でできた泥濘に敵は足を取られたが、武器は弾き跳ぶ。
親父も同じように弾丸を敵にぶち込む。さらに連撃……武器を失った嵐の兵士は早々にDBのもとへ撤退していった。

サラ
「喰らいなさい」

さらに、レーザー砲が頭上を横切った。見上げるとサラは空に浮かび、レーザー砲でDBの居る場所を薙ぎ払っていた。
その義足からはバーニアが火を吹いていた。その推進力で空中に待機しているというわけか……。
……義肢は人間を超える力を出すのか?あるいは、魔術に近い力を発揮するのかもしれない。

どちらにせよ、この技術も大戦によって得られた世界の流れの恩恵もあるのだろう。


324 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:31:32.854 ID:4nSfvMe.0
791
「シトラス!」

さらに、791の魔術がDBの居るであろう場所に着弾した。

DB
「ヴォオオオオーーーッ」

しかしDBは短い腕でその衝撃をガードし、口から紫色の煙を吹きだした!

乙海
「――っ」

オレは咄嗟に腕でそれをかばった。
しかし、ひどい刺激臭。思わず顔をしかめてしまうほどだ……雨水に叩きつけられているからか、その煙の速度はやや遅いのが幸いだったが。
親父をちらと見やる。この状況の対処法を探るために……。

コンバット竹内
「……面倒な」

親父は――オレと同じように、紫煙を腕でかばって弾いていた。
その表情は冷静そのもので、表情も歪んでいない。この刺激臭を感じていないのか?
あるいは精神力で捻じ伏せているのかもしれない……。


325 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:33:14.662 ID:4nSfvMe.0
サラは上空に居るからか、今度はマジックマシンガンをDBに撃っていた。
筍魂や791も受け流しているようで、表情に変わりはない。ほかの兵士は……その悪臭に屈しているらしい……。

筍魂
「フン――それしきのことなら問題はないッ!
 戦闘術魂、ハイドロポンプ」

DB
「ギギッ!?」

DBは、サラのマシンガンと筍魂の水の塊を受けて仰け反っていた。

791
「……ネギソード」

さらに、791は魔力で翡翠色の剣を作り出し、DBに投げつけた。

DB
「ア、アガガァーーーッ」

それはDBの左目に深々と突き刺さる。
だがDBはもがきつつも血のようにどすぐろい煙を剣の刺さった部位から噴き出した。

791
「!」

791は魔力を展開してそれを弾き飛ばしたが、その間に翡翠色の剣は溶けた氷のように霧散していった。
さらにサラのマジックマシンガンや戦闘術魂の水弾もあらぬ方向に軌道を変えて霧に変わった。


326 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:33:44.149 ID:4nSfvMe.0
コンバット竹内
「どうやら、魔力を消しているらしいな……」

隣で親父が冷静に呟いた。
そ、そうか……マジックマシンガンは魔力の塊。戦闘術魂は魔力を利用した技術。そして791の攻撃は魔術そのもの。

そしてDBは魔力を消す不可思議な力を秘めていた。
世の中には、魔力の絶縁体も存在しており……魔力を通す導線のコーティングに使われていたりする。
それと同じものがDBにもあるのか……?あるいは別の要因があるのか……?

どちらにせよ……これは面倒な事態であることに変わりはない。
サラの兵装自体は魔力以外のエネルギーも使用されているだろうし、筍魂は武術の達人でもある。
791はメイジでありながらもその腕力が規格外だと聞いたことがあるから、危機的状況とまではいかないだろうが……。

327 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:35:37.547 ID:4nSfvMe.0
ふと、親父がオレを見ているのに気が付いた。

オレは視線の端に親父をとらえた。
親父は銃をDBに向けながら、オレを見てオレだけに聞こえるように小さくつぶやいた。

コンバット竹内
「奴の傷口を狙え」

オレは小さく頷き、DBの左目に照準を合わせた。
DBはもがきながら動いている。まるで規則性のないぐちゃぐちゃな動き――
周りの兵士の大半は困惑し、嵐のメンバーに対する攻撃を当てたり外したりと、動きに乱れがあった。

しかし――。

オレには、視えた。それはDBが生物だから……そしてその動きが痛みによる本能的なものだから……。
今までも、オレは敵の動きを予測できた。しかし今は未来を見透かすように見える。

これは戦闘術魂の修行の成果なのだろうか……?
オレは、DBの目とは外れた虚空に、ディアナの弾丸を放った。

親父は、オレのその射撃を見ながら納得したように口元をニヤリと笑わせた。

328 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:39:08.533 ID:4nSfvMe.0
サラの放ったマシンガンは弾丸そのものが魔力だが、この銃の弾丸自体は金属なのだ。
だから奴に霧散される恐れもなく――そして、弾丸の軌道に奴の左目が重なった。

DB
「グギャーーーーーーッ!」

DBは獣のように叫ぶ。ぴりぴりとした感覚が雨に濡れた体に響くが、オレはなんとか踏ん張った。

さらに親父が弾丸をダムダムとDBに撃った。
その鉛弾は左目に次々と着弾し、DBは呻きながら檻の中に逃げ出した。


「まずい、DBのダメージが大きい、撤退だ!」

そして続く嵐の鶴の一声……まるで脱兎のごとく、打ち合わせていたかのように逃げ出した。

とはいえ、今回の撤退は――純粋にDBへのダメージが要因だろう。
恐らくは傷の入った左目だけを狙おうとしたオレと親父に警戒をしていたのかもしれない。

あるいは、傷を負った状態でたくさんの兵士たちを相手するのを嫌ったか……。
ともかく、今回も何とか嵐を追い返すことに成功したのだ。

329 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:40:29.179 ID:4nSfvMe.0
――同時に、雨が止んだ。
これは偶然なのか……?DBの出現と共に降り始め、消えた瞬間に止む雨……。

訝しげな顔をして、オレが立ち尽くしていると……。

ぽん、と肩を叩かれた。振り向くとそこには親父がいた。

コンバット竹内
「乙海、成長したな」

淡々と親父は呟いたが……その声色は心なしか喜んでいるようにも思えた。

乙海
「そうみたいだ……」

オレは率直に答えた。実感がなかったのだ……。
確かにオレは奴の動きを読めたが、それが成長の証かどうかの自信がなかった。

そう思っていると……。

筍魂
「竹内さん、乙海は確かに成長してますよ」

筍魂がオレらの間に割って入ってきた。
そして自慢の弟子とでも言うようにオレの肩をぽんと叩いた。


330 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:41:56.371 ID:4nSfvMe.0
コンバット竹内
「そのようだな……」

筍魂
「竹内さんだって、乙海との連携が綺麗だったじゃないですか
 いくら父娘の関係とはいえ、何処で鍛えればそういう勘が身に付くんです?」

コンバット竹内
「実戦の場に携わっていれば……自ずと」

筍魂
「はー、なるほど……確か竹内さんは傭兵だかなんだかやってましたっけ……」

二人の会話を聞きながら、オレは雨に濡れた髪をハンカチで拭っていた。
雨上がりの後はさんさんと太陽が輝いていた。雲一つもない。どうしてこんなに天候が極端に変わっているのだろか……。
答えの出ない疑問を抱えながらも、オレは成長したということをようやく理解していた……。


331 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:44:26.613 ID:4nSfvMe.0
親父と筍魂が肯定していたから……。
曲がりなりにも幼いオレに銃の使い方を教えた親父に、戦闘術魂の師匠として訓練に携わった筍魂……
技術を教育した二人の評価は確かと言っていいだろう。

ぐっとオレは手を握ったり開いたりしながら……二人の話を聞き続けた。

コンバット竹内
「感謝する、娘を鍛えてくれて」

筍魂
「なぁに、センスのある若者を鍛えるのは面白いですからね
 何しろ……彼女は戦闘術魂を生み出した種族である、この、オーガの血を引いているのだから――
 なおさら教えないと損ですよ、ふふふ」

コンバット竹内
「……そうか、そうだったな」

胸を張って答える筍魂に、親父は少し陰を落とした表情をしていた。
御袋のことを思い返しているのか……それとも別の感情があるのだろうか……。

オレは、親父を今まで意識してはいなかったが……
御袋に対しては、どう思っていたのだろう……そういった素朴な疑問が、浮かんでいた。

332 名前:SNO:2020/09/26(土) 21:45:20.447 ID:4nSfvMe.0
親子の共闘とルミナスマネイジメントの秘書。
魔王様も相変わらず御強い

333 名前:きのこ軍:2020/09/26(土) 21:46:26.146 ID:py5sioxko
いろいろ進みましたね。濃ゆいキャラが多いことで。

334 名前:SNO:2020/09/27(日) 00:08:17.777 ID:x75UFPYM0
>>256で皇帝のカード2枚に増えてるけど実際は世界のカード右においてますねこれ・・・

335 名前:Route:A-14:2020/09/27(日) 13:20:47.992 ID:x75UFPYM0
Route:A

                 2013/5/9(Thu)
                   月齢:28.7
                    Chapter14


336 名前:Route:A-14 encouragement:2020/09/27(日) 13:22:31.548 ID:x75UFPYM0
――――――。

翌日、会議所での会議が行われた。

会議では今後の対応についてを話し合ったが、意見が新たに出ることはなく、
既存の意見の見直しが行われ、会議所と居住区の警備と、小規模の大戦の運営という結論を継続することになった。

……その帰り道に、筍魂に誘われてオレはフィリップ・パブに赴いた。

筍魂
「昨日も言ったが――乙海、修行の成果が出たな」

フィンの前で、筍魂は拍手しながらオレにニヤリと笑った。

フィン
「はいはい、おめでとおめでとっ」

その横でやる気なくフィンが拍手をしていた。
腕をだらりと投げ出して拗ねているようだ……。ふくれっ面もしている。

337 名前:Route:A-14 encouragement:2020/09/27(日) 13:26:19.616 ID:x75UFPYM0
フィン
「あなたたちの戦いのときは雨が降ってたらしいから、そのせいじゃないのぉ?」

筍魂
「天候変化も時の運――それにその状況変化に対応できることも戦闘術魂には肝要だ」

フィンは食い下がろうとするが、筍魂に諫められてぷいっと横を向いた。

フィン
「べーっだ、なによなによぉ……乙海ばかりぃ」

乙海
「……」

そしてオレは、返す言葉も思い浮かばず、無言で頭を下げた。

筍魂
「しかしフィンもセンスはあるんだ――このまま続ければ乙海と同レベルになれるだろう」

その間に筍魂のフォローが入る。
師たる立場にある存在ならば当然の判断……。


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