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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

277 名前:Route:A-11 idle talk:2020/09/23(水) 23:55:40.204 ID:3YCUBldw0
筍魂
「シューさんは……この戦いでも戦局の分析をしていたからな……
 彼自身も戦闘能力は高い――魔術に優れたメイジだが、立場上あまり前線出ないのが惜しい」

――そうだ。集計班は大戦で集計している立場にあるのだから、それ以外でもそう言った行為をしている可能性だってある。
オレの視野の狭さに、少し気を引き締めなければならない点がある……
このままでは、いずれ壁にぶち当たってしまう。そう思い知らされた気がした。

791
「そうだねぇ――まぁ¢さんはちょっと自信がなくてヘタレな部分があるから、出なかったのかもねぇ」

一方で791はため息を交えて答えた。そういえば――彼はDBに対して怯えている態度を見せていた。
それはDBと戦わないが故の態度なのだろうか……。

791
「さて、そろそろ行こうか――みんな」

791が、部屋の時計を見上げながら呟いた。
確かに、そろそろ集合していたほうがいい頃合だ。オレたちは頷き合い、大戦場へと向かった……。

278 名前:Route:A-11 defense:2020/09/23(水) 23:57:16.005 ID:3YCUBldw0
オレたちは、大戦場でその時が来るのを待っていた。
会議所に常駐する兵士のほか、普段は会議所に居ない兵士も緊急事態とあって駆け付け、
普段の大戦より少し少ないぐらいの人数が集まっていた。

その時……ザッ――ザザッ――、
手元の通信機から音が聞こえた。なにやら連絡事項があるらしい……。

¢
「嵐がきのこ軍居住地に出現……今から、きのこ軍防衛隊、作戦に入る――」

山本
「こちらたけのこ軍防衛隊、嵐出現――これより作戦に入る」

791
「わかった、¢さん、山本さん――みんな、頑張って――」

……嵐は、予告通りに訪れたようだ。その場の空気は一気に張り詰め始める。
通信機の向こうでは緊張した声が響く。オレも固唾を飲んで、これからの動向を確認するために神経をとがらせた。


279 名前:Route:A-11 defense:2020/09/24(木) 00:02:16.061 ID:87BecFbw0
嵐というテロ組織――。
オレが会議所に入所したその日にも、ブルボン王朝でテロ行為をしていたという。
また、明治国の果汁組刑務所から囚人を脱走させたこともあるそうだ。

オレは大戦や会議所での忙しさにかまけ、そのことを知ったのは予告されてからだった。
恐らくは、大戦に直接かかわらない親父などは知っていたのかもしれない。

乙海
(親父が仕事にかまけてるのと、似たようなものか――)

……自嘲気味にため息をつきつつ、オレは嵐の情報を改めて整理していた。
構成員は、はぐれ者、ならず者――破壊や略奪を繰り返す迷惑者。

その行動原理は不明で、ただ破壊しては悲しみ憤る人々の様子を見て楽しんでいる――という説もあるそうだ。
構成員は逮捕されたことがあっても、リーダーや幹部の名前は絶対に漏らさない。
時には自殺する輩もいるそうだ。一体、どうやってその忠誠心が身に付くのだろう……。

ざっ――足音が聞こえた。
これはオレたちのものではない――すなわち――。

乙海
「!」

ブラック
「……どうやら、お出ましのようですね」

そして――そいつらは、現れた……。

社長
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

280 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:04:41.739 ID:87BecFbw0
乙海
「………!」

オレは、思わず息を呑んでいた。

嵐の軍団が、現実にオレたちの前に現れたからだ。
青い軍服を着ている山賊のようなひげ面の男たち……チンピラのような風貌の男たち……。
社会性というものが皆無――恐らくは、オレたちの平均的価値観とは外にある集団なのだ。


「ハーッ!ここが本番みたいですぜ、ボス!」

一人は通信機で何らかのやり取りをしていた。……ボス、という存在と連絡を取っているということは、リーダー格はここにはいないということか。
男たちの向こうには、車輪の付いた檻があった……。その中は、暗くて見えない。
だが、恐らくはDBがいるのだろう……不吉でおぞましい雰囲気がそこにはあった。


281 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:06:49.254 ID:87BecFbw0

「……行け、DBォォォ!」

そして……男の声とともに、檻が開け放たれた。
中からは――。
その、ブラックホールのように真っ暗な檻の中からは――。

DB
「ヴォオオオオオオオオオーーーーッ!」

――DBが、獣のようなうなり声をあげて勢いよく飛び出してきた。
それはまさにケダモノ――悪魔のような恐ろしさが全身からにじみ出ている。

791
「…………これは、まさか」

ブラック
「はぁ……いつ見ても醜悪ですね、アレは――」

791は何かを思い出したように、ブラックはげんなりとした顔でDBを見ていた……。
DBの顔は、欲望しか考えていない汚らわしい醜悪な表情をしていた。
そのぶくぶくに太った腹と脂肪が張り付いた腕からは、堕落に身をやつしたものの末路にも思えた。

……奴は人間なのか?オーガなのか?魔族なのか……?
どれも違うような気がするし、正解なような気もする……オレの背中には冷や汗が流れ、焦燥感に苛まれていた。


282 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:08:09.833 ID:87BecFbw0
筍魂
「乙海ぇ、気を張れ――奴と相対するときは精神力がものをいう」

ぽん、と肩を叩かれた。
その言葉に、オレの焦燥感はすっと消え――冷静に相手を見据える心が浮かび上がった。

そうだ――敵を見据える――それがオレのやるべきことだ。
嵐のメンバーと、DB。恐ろしいのはDB。嵐のメンバーは……武器こそ持っているが、見た限りではメイジはいない。

メイジは、詠唱用に杖を持っていることが多い。791や黒砂糖は杖なしでも魔術を操れるが――
そういった強者の雰囲気は、向こうから感じ取ることはできない……。

乙海
「………」

ライフルと、大戦場に行く途中に抹茶から借り受けた試作中の銃に手を触れる。

抹茶
「ああ、乙海さん――ちょうどよかった貴女のアドバイスを元にさらなる試作品を作ってみましたよ
 名前はディアナ――狩猟を得意とする女神の名にあやかってみました
 とりあえず、弾詰まりを起こさない形の銃に変えてみました」

その時交わした抹茶の声が脳裏に浮かんだ。その場で試し撃ちしても、使用感に問題はなかった。
彼の研究者としての誇りを、新人のオレに託す――これはある意味名誉なことなのかもしれない。

大丈夫だ……これは大戦とは違う戦いだが、感じ取るものは似ている。

乙海
「よし……行ける」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

283 名前:Route:A-11 storm:2020/09/24(木) 00:10:30.348 ID:87BecFbw0
DB
「ヴォオオオオオオオオオーーーーッ!!」

けたたましい、耳をつんざくような咆哮。
同時に電電太鼓を振り衝撃波がオレたちをぴりぴりと刺激する。
奴が本能のままに叫んでいるだみ声は、心臓をわしづかみにされるような恐怖感がある……しかし……。

乙海
「!」

だが、オレは、銃を構える。
その手は震えない――なぜなら、その恐怖も世界の構成要素だから。
世界の一部。だからオレはそれを避けるのではなく、あえて向かい合い――オレと同じものだと認識する。

筍魂
「ほう……あの瞑想でメンタル・コントロールは会得したか」

筍魂は、興味深そうに頷いた。……あの鍛錬の成果は、もうここで発露しているのだ。

ブラック
「行きましょう――ホルンウィンド」

ブラックが、静かに言霊を呟くと、真空の刃が空気を切り裂いた。
その魔術を皮切りに……戦いの火蓋は切って落とされた。

284 名前:SNO:2020/09/24(木) 00:11:18.ウンコ ID:87BecFbw0
抹茶さんの出番あってよかったネ

285 名前:きのこ軍:2020/09/24(木) 00:20:43.324 ID:DdKEqu9wo
決戦が始まるッ!…

286 名前:Route:A-11 a united front:2020/09/24(木) 22:42:32.231 ID:87BecFbw0
ブラックの真空の刃は、嵐の兵士を瞬く間に切断した。
まるで包丁で魚をさばくかのように……バターナイフでバターを切り取るかのように……
ずばりと、嵐の兵士の腰を、えぐり、血をまき散らす。

乙海
「…………」

どちゃりと音を立てて崩れ落ちる兵士……血と臓物が地面に散らばる。
死――大戦とは違い、これは敗北すれば死を意味する戦い。
内臓をこぼしながら倒れる男たち――その残酷な光景に、周りの兵士は少し動揺を覚えていた。

しかしオレは……特に、何も感じてはいなかった……。
どうしてだろうか……敵であろうと何であろうと、生物の死であることに変わりはないのに……。

――しかし、今はその理由を考えている必要はない!

乙海
「そこだ!」

オレは敵の武器目がけて弾丸を放った。魔力を宿した弾丸は見事に命中し、弾き飛ばすことに成功する。
さらにもう一弾、もう一弾……相手の武器を、冷静に弾き飛ばしてゆく……。


287 名前:Route:A-11 a united front:2020/09/24(木) 22:48:10.532 ID:87BecFbw0
筍魂
「戦闘術魂――リーフブレード」

そして、思わずよろけた敵に、筍魂が草の刃で追撃した。
連携――きのこ軍とたけのこ軍の枠を超えた共闘が今ここで織りなされている。

オレは、嵐のメンバーの動きを視ながら、DBの方に目を見やると……。

791
「シトラス――」

791が、レモン色の魔法弾をDBに叩き込んでいた。
矢継ぎ早に魔術を連打する……その威力は、地面がえぐれ、その衝撃波だけで小石が砕けるほどだ。
DBは、それをかわすことに専念していた……。

幸いながら、距離が遠いためかDBの悪臭は感じない。やつの咆哮だけが気になるぐらいだ……。

社長
「ツインポップミサイル――」

オレの隣で、社長も魔力の塊の小型ミサイルをDBに撃っていた。
小規模な爆発――791の魔法弾よりも威力は低そうだが、それでも奴をひるませるのには充分……。

そして、そのよろめきと同時に、シトラスがDBに直撃した。

DB
「ギィイヤヤアアアアアアア!!!」

DBの身体からボタボタと血が落ちる。同時に土は腐りぶよぶよに散らばった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

288 名前:Route:A-11 a united front:2020/09/24(木) 22:50:32.671 ID:87BecFbw0
¢
「こちらきのこ軍防衛隊、嵐は突然撤退した――」

山本
「奴らは、まるで示し合わせたかのように、思い切り逃走したぞ?――」

――同時に、居住地で任務にあたっていた二人からも連絡が入った。
実に不可解だ……犯行声明までしておいて、こんなにあっさりと逃げ出すとは……。

その違和感を覚える状況に、オレは疑問符を浮かべていた……。
周りでは、困惑したように兵士がざわついている。ほっとしているような声も聞こえる。
……命に係わる可能性があるのだから、当然かもしれないが。

791
「乙海……多分、これは前哨戦じゃないかな」

筍魂
「そうだな……奴らはある程度いたはずなのに、その数を活かした攻撃もしなかった……
 DBを檻から放つことぐらいしかやっていない……あとは少々の抵抗といったところか」

オレの疑問は、他の兵士も考えていたらしく、791や筍魂もまた、考察を始めていた。


289 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 22:53:18.603 ID:87BecFbw0
社長
「DBノテストトカ?」

ブラック
「――私も、その意見はありうると思います」

……その場では、会議のような雑談が行われていた。
向こうでは嵐の男たちの肉片が転がっている……その異様な雰囲気の中、オレの中にある想いがあった。

乙海
(……この人たちは、強い)

……そう。少なくともオレより場数は踏んでおり、戦闘経験があるのだ……。
オレは確かに大戦で活躍したとはいえど、射撃大会で入賞しただけの存在だ。

オレとは違い、彼らには実戦での実力もある。戦闘術魂を操る武術家。強力な魔力の持ち主。
兵器として、高い威力を持つ武器を搭載できる義肢の持ち主。そして義肢の制作に関わっている者……。

先の大戦で、社長は、出会い頭に攻撃を加えただけで、791とは交戦する機会はなく、実力は未だわかっていなかった。
しかし、大戦経験の多さは、確かに実感できる。
完璧にDBに攻撃を当てるための布石を打っていたのだから……。

乙海
(オレは……強くなれるのだろうか?)

確かに……戦闘術魂の鍛錬の一環の、瞑想によってオレはメンタル面では多少強くなった。
しかし……戦闘技術の技量は、まだまだだろう。オレには銃の腕が多少あるだけ……。
弾丸を失ったとき、オレは戦えるのだろうか?


290 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 22:53:45.196 ID:87BecFbw0
筍魂
「心配するな、乙海」

そんなオレの表情を、筍魂は見抜いていた……。

筍魂
「お前のスナイプ技術を磨くんだ……さらにな
 戦闘術魂は技術が大切なんだ、どんな技術でも構わない……それが魔術でもいいんだ
 その経験が糧になるし、強くもなれる……」

その言葉は、今のオレにとって頼れる言葉でもあった。

筍魂
「お前が敵と戦う目はどこかいきいきとしていた……おそらくは、自分自身を鍛えたいという気持ちの発露だろう
 ――射撃も、自分との闘いだから納得できる」

続く筍魂の言葉に、オレは感服するしかなかった……そしてオレは、その言葉を聞いてようやく気が付いた。


291 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 22:55:07.020 ID:87BecFbw0
オレが会議所に入った理由――それは、己を鍛えるため、なのだと……。

乙海
「そうですね、たしかにそう――オレは大戦の勝敗で心が揺れ動かなかった――
 その理由は、恐らくそういうことです」

すっきりとしたような気持ち。オレはすらすらと筍魂に言葉を紡ぐ……。

筍魂
「フフフ、戦闘術魂の鍛錬の時間はいつでも取るぜ、また今度来い」

オレの自信をもった答えに満足したのか、筍魂も親指を立ててニヤリと笑った。

それから、援軍にやってきた兵士たちは帰され……
会議に関わったオレたちだけで、大戦場にできた攻撃の後と、嵐のメンバーの死体を片付けることになった。


292 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 23:01:08.508 ID:87BecFbw0
¢
「うぅう……死体は初めて見るから怖いよ」

青い顔をしながら、¢は血の痕を片付けていた。

B`Z
「まぁ仕方ないとはいえ――あまり殺しはようないかもな」

B`Zも真剣な顔でブラックに話しかけていた。

ブラック
「申し訳ございません――私の嫌いな存在でしたから」

ブラックは丁寧な言葉をしていながらも、言葉の節々からは後悔も動揺も感じられなかった。
いったい、彼女はどういう精神構造をしているのだろう……。

そんなことを思いながら、オレはDBの血で腐った地面を掘り返し、新たな土を入れていた……。

791
「それにしても、DB――シトラスが当たっても軽い出血で済むのは、普通の生き物じゃないのかもね」

黒砂糖
「DBは……そんな奴だったのか」

791
「うん――まるで私のように……特別タフな存在なんじゃないかなって……
 まぁあんなのと同一視されたくないけど」

意味深な791の言葉……そういえば、791は攻撃への耐久力が優れていると聞いたことがある。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

293 名前:Route:A-11 hope the staunch:2020/09/24(木) 23:07:32.454 ID:87BecFbw0
筍魂
「まぁ、ともかく――奴らはまた来るだろうな」

筍魂が、死体を袋に詰めながらそう言った。
彼は死体を動揺もなく処理している……肚が座っているのか、あるいは別の理由があるのだろうか。

山本
「……それにしても、嵐のメンバーの武器はそこまでいいものではないな
 質もまちまちだから、密造したものだろう」

遺品を拾い上げながら山本はそう答えた。
ごつい肉体と武器の大小から織りなされる――支援を受けられない立場にあるテロリストという推測。

兵士たちの意見を耳に入れながら、オレは、ただ、ただ、土を掘り返していた……。

294 名前:SNO:2020/09/24(木) 23:08:10.671 ID:87BecFbw0
乙海の目的もはっきりしたけどまだまだ続くよ

295 名前:きのこ軍:2020/09/24(木) 23:22:33.809 ID:DdKEqu9wo
明確な意志がモテる主人公は強くなるの法則

296 名前:Route:A-12:2020/09/25(金) 23:24:23.159 ID:.gg7iJa60
Route:A

                 2013/5/4(Sat)
                   月齢:23.7
                    Chapter11-2

297 名前:Route:A-12:2020/09/25(金) 23:27:45.490 ID:.gg7iJa60
――――――。

嵐との戦いから1週間が経過した……。
その間のオレは、相変わらず戦闘術魂の鍛錬を行いながら、会議所の業務を手伝っていた。

その日の朝――嵐からの犯行声明が、再び会議所に送り付けられていたのだ。
嵐の対応に当たった、会議所の代表――その中にはオレも含まれる――が、再び会議室に集められたのだ。

集計班
「皆さん……朝早くからご足労ありがとうございます
 非常に面倒な事態――嵐からの犯行声明がまた届きました、文面は前と同じような内容です」

深刻そうな表情を浮かべた集計班は、指でトントンと机の上を叩きながらそう告げた。

『今日5月4日の大戦を中止させる
 ――かつて会議所に現れた化け物DBを引き連れて
                           ――嵐』

前回は、あっさりと退いた嵐……しかし、しつこく犯行声明を出してきている。
今回は当日――大戦が執り行えないようにする妨害を続ける……これもテロリズムの一種だろうか?゜

298 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:31:43.076 ID:.gg7iJa60
¢
「で、DB……本当に居たって聞いたけど、また持って……来るのか……」

¢は、またもひどく怯えていた。
まるで、不安に苛まれた赤子のように、顔を青くしてぶるぶると震えている。
顔に流れる汗をハンカチで拭い取っているが、その手もまたぶるぶると震えていた。

エースと呼ばれた彼とは真逆のイメージ。心なしか、DBに関する話を聞くと動揺しているようにも思える……。

黒砂糖
「………」

黒砂糖は、相変わらず無言だった。
何を考えているのか……その鉄仮面からは読み取ることはできない……。

集計班
「それに――ルミナス・マネイジメントに所属するきのこ軍のtejasさんによると、
 開発中の機械人形装置を奪われた――そういう報告もあがっています
 嵐が、会議所への攻撃を続行すると見ていいでしょう」

社長
「マサカ……ヴァルトラングなどノ大企業にモ攻撃をシカケルカモシレマセンネ」

嵐は、会議所と、その周り――あらゆるものに噛みつこう、というのだろうか。
オレは、嵐の思惑に薄気味悪さを覚えていた。


299 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:32:52.327 ID:.gg7iJa60
B`Z
「このまま手をこまねているわけにもいかんが、兵士たちの安全も考えないといかん」

山本
「そうだな参謀……防衛隊の皆は、一般生活も送っているものが多いから死は絶対に避けたい」

やがて、前回のようにB`Zと山本が意見を出し合う。それを呼び水として、議論が活発化していく……。

791
「それに……このままずーっと休戦すると、会議所の存在意義もなくなっちゃうよね」

……791の意見はもっともだ。脅せば休止する――という流れが形成されたら、向こうの思うがままかもしれない。

乙海
「相手の様子を見ながら、大戦はどこかで行ったりする必要があるのだろうか……」

オレは、思いついた意見を推敲することなくただ呟いた。
それは意見として挙げるのも自信がない、小さな声だったが……。

筍魂
「おっと乙海……その意見はもっともだな」

筍魂は、その小さな意見を聞きつけて、肯定しながら頷いた。
そういえば彼は地獄耳と自称していたと、改めて思い出し……彼の顔を見ると、したり顔でオレを見ていた。


300 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:33:56.290 ID:.gg7iJa60
乙海
「ふむ……」

筍魂
「小規模な大戦を執り行う、例えば俺らが外敵から守りながら、一部の会議所兵士が指揮を執る大戦――こういう形をとるのも重要かもしれない
 いえば紛争を少しスケールアップしたような……」

社長
「ソレハ言えている……魔王様の言う通りに、会議所は大戦を運営する場所デス」

抹茶
「……大戦そのものに携われない兵士も居れど、僅かにでも世界の流れを動かすことは重要……そういうわけですね」

オレの素朴な言葉が、ほかの兵士によって噛み砕いた表現になり、発展していく……。
この光景は、大戦の縮図なのか……?議論という戦いによる影響なのか……?

議論に沸き立つ会議室を、オレはどこか遠くで見ているように眺めていた……。
そういえば、ブラックがここにはいない。彼女はどうしたのだろうか……少なくとも社長の秘書なら隣には居るとは思ったのだが……。

そんなことを考えている間にも、議論は活発に進み……会議はいつの間にか終わっていた。


301 名前:Route:A-12 crisis conference:2020/09/25(金) 23:34:53.644 ID:.gg7iJa60
集計班
「……意見が出そろったようなので、結論に移ります」

集計班
「対応としては前回と同様で行きましょう――
 ただし、今後の対応として、大戦を継続できるような努力が必要です」

集計班の総括が、すらすらと語られた。

加古川
「大戦継続の努力――具体的には?」

集計班
「これもまた、早急に会議しないといけない内容ですが……とにかく、直近の嵐に対応しないといけません」

集計班は、時計をちらりと見やった――そこには8時58分……会議所が開く時間が近づいていた。

加古川
「っ、そろそろ運営時間か……皆で案を温めないといけないな」

集計班
「そうですね、大変だとは思いますが、何か意見を考え……今夜中にでも決定しましょう」

B`Z
「よし、きのこ軍の皆はきのこ軍居住区へ行くで――」

山本
「たけのこ軍はこっちへ行くぞ!」

オレはきのこ軍だ――すなわち参謀の先導する声に従い、その後を追った。

302 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:38:12.275 ID:.gg7iJa60
……きのこ軍、たけのこ軍の両居住区では、嵐がすでに暴れていた。
前回、彼らは魔術を唱えることはなかったが――それは偶然だったのか、杖を構えたメイジもそこに居た。

武器や魔術で公共物を破損し、騒ぎ、わめく……人々は、それだけでも怯えてしまうものだ。

オレは、B`Zに率いられ、居住区へと駆け付けた。
手元には特殊な鎮圧用の弾丸がある。相手を気絶させる特殊仕様のもの……。

ブラックの嵐構成員の殺害は、戒厳令は敷いたものの噂になっているらしい。
というよりは嵐が広めているのかもしれないが……ともかく、敵の殺害はほぼ避けるという方針になっていた。

B`Z
「居住区での破壊活動は禁止されている!直ちに降伏しなさい!」

嵐に対する力強いB`Zの声は、拡声器を通して居住区中に響いた。

¢
「……怖いが、追い払わないといけない」

隣で、¢は少し震えていながらも銃に手をかけていた。
その様子を見て――それが¢のエースという仮面を外した本当の中身のようにも思えた。


303 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:40:03.757 ID:.gg7iJa60
黒砂糖
「……」

一方で黒砂糖はだんまりを決め込みながら、反撃態勢に入っていた……。

オレたちが、嵐の行動を止めようとすると駆け出す。
魔術の攻撃が飛んでくるかもしれない。オレはいつでも回避できる姿勢を取りながら銃に手をかけていた。


「おっと、逃げろ!退却だ!」


「イェエエエイ!おそいぜ会議所さま!」

……だが、オレたちが現れた途端に嵐は突然散り散りに走り去っていった。
オレたちが近づいただけで……まるで何かを企んでいるような動きのように見えた。
一体、どういうことなんだ…彼らは何を企んでいる?

¢
「……?なぜだ、あの声明からするとまたテロ行為に走ると思ってたのに」

肩透かしを食らったような顔を、¢はしていた。
恐らくは、周りに居る皆すべてが同じ疑問を浮かべているだろう。


304 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:43:02.941 ID:.gg7iJa60
黒砂糖
「…………」

山本
「こちらたけのこ軍防衛隊――嵐はすぐに去っていった
 DBもいないらしい……厳重注意は必要だが、対応は終了になりそうだ」

通信機越しの山本の言葉にも、困惑の色があった。
実に不可解だ。ただ愉快犯的な行動にしては、オレらが来るという事態を予測していたようにも思えた。

B`Z
「……ふむ、不可解な動きやな
 もう一度会議をすることになりそうや――」

¢
「で、DBはいなかったみたいだが……一体も奴らは何のために来たんだ……」

訝し気に状況を見据えるB`Zの表情……隣に居た¢も、同じ表情をしていた。


305 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:43:36.514 ID:.gg7iJa60
……会議所に戻ってきたオレたちは、困惑の中会議をしていた。
しかし、不可解すぎる嵐の動きの前では、建設的な意見も出てこない。

黒砂糖
「……もしかしたら、これは会議所の対応を見るための陽動かもしれない」

そんな中――黒砂糖は鉄仮面を貫きながらも、自説を唱えた。

集計班
「なるほど、会議所がどれだけの人員で抵抗できるか、その戦闘力、チームワークの確認……」

B`Z
「黒ちゃん、それや――嵐の狙いはっ――」

筍魂
「ふむ……どちらにせよ、俺らができるのは大戦の維持とかだな」


306 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:53:19.719 ID:.gg7iJa60
……黒砂糖の意見を呼び水に、再び会議は活性化した。

791
「そうだね……今のところは建物に一部被害が出たぐらいで、会議所側に大きな被害はない
 すべてのリソースを防衛につぎ込むのは間違いに思える」

山本
「ただ、今後住民を標的にする可能性は考えないとな
 何より、関連企業まで狙ったんだ――次狙うのが住民や兵士じゃないという保証はない」

B`Z
「居城区の警察から報告書があがったが、ワシらがたどり着くまでは、
 嵐は警察の攻撃をかわしながらひたすら騒ぎ、破壊する行動を取っていたらしい
 ……しかも警察が対応し始めてからワシらが居住区にたどり着くまでは20分ほどだったらしい」

抹茶
「……嵐は、警察の妨害を避けつつ会議所を呼ぶように仕向けた、ということですかね」

警察……治安維持の組織の中にも兵士は居る。
しかし彼らは短期あるいは中期コースの者しかいない。それも当然で、警察としての業務が優先されているからだ……。

だからこそ、会議所の一員ともいえる長期コースの兵士を呼び出し、立ち振る舞いや人員を見ようとしたのだろう。

同じ結論を、周りの兵士たちが口々に呟いていた。

加古川
「なんにしても、私たちへの挑戦であることには変わりないな」

集計班
「ええ……ともかく、そろそろ意見は出尽くしたようなので、結論に移りましょう」

307 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/25(金) 23:57:16.251 ID:.gg7iJa60
集計班
「苦しい決断ではありますが、今回の大戦も中止とします
 何せ今回はすでに騒ぎになっていますし、まだ我々に心構えもないですから大戦の運営を円滑にできる確実性に欠けます」

集計班は苦虫を噛み潰したような顔で、淡々と結論を告げた。

集計班
「そして嵐から住民を守る――これもまた重要でしょう
 そこで、警察と協力しながら居住区を警備するグループと、
 会議所と大戦の運営を行うグループに分けて活動する……これでどうでしょうか」

加古川
「賛成だ」

B`Z
「そうやな……ええと思うで」

集計班の意見に、皆が頷いた。

集計班
「あと、不要不急の外出を規制しておきましょう――
 少なくとも、我々が警備して安全を確認できるまでは」

山本
「まぁ、仕方がないだろう……今朝の出来事は住民も知っているしな」

308 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/26(土) 00:06:03.814 ID:4nSfvMe.0
集計班
「そして、規制を解いた後も警備する――
 しばらくは苦しい展開になるやもしれませんが、この方針で行きましょう」

791
「うん、賛成」

乙海
「はい」

集計班は、その名前にふさわしいというべきか――スムーズに意見を集約していた。
これもまた彼の才能なのだろうか。

山本
「さて、善は急げとばかりにオレと参謀で班分けを作ろう、いいだろうか参謀」

B`Z
「ええで、手伝おう」

……そして、会議の終わりを告げるまでもなく、兵士たちは動き始めた。

¢
「ぼ、僕も手伝うよ」

抹茶
「よし、こちらは居住区の防犯システム班と打ち合わせをしてきます」

……それぞれが、やれることをやろうとしている。
オレは……どうすべきだろうか。そう思っていると……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

309 名前:Route:A-12 aggregate:2020/09/26(土) 00:10:17.624 ID:4nSfvMe.0
フィン
「あらぁ……乙海は仲間外れにされちゃったんだぁ、けらけら」

フィリップ・パブを訪れたオレに、フィンは楽し気な態度を取っていた。

乙海
「ああ……しかし、君がここに居る……
 少なくとも修行仲間が居るだけでも精神的には楽だ」

フィン
「ちっ……アンタ意外とアタシの気にしていることを言うね
 まぁ、いいや……鍛錬をやりましょう」

――フィンの態度にも、オレは慣れていた。
まるで妹ができたかのような……そんな感覚。

そういえばオレは友人らしい友人もいないのだ。
これまではオレと対等にしようとする人物がいなかったから――
だからこそ、オレは……フィンと切磋琢磨しながら、
嵐と対抗できるようにしよう――そう思っていたた。

310 名前:SNO:2020/09/26(土) 00:10:50.627 ID:4nSfvMe.0
てはすさんちょい役だけど出てきたよやったね

311 名前:きのこ軍:2020/09/26(土) 19:19:55.568 ID:py5sioxko
ちゃんとみんな会議してて感動する。

312 名前:Route:A-13:2020/09/26(土) 21:05:26.497 ID:4nSfvMe.0
Route:A

                 2013/5/8(Wed)
                   月齢:27.7
                    Chapter13

313 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:07:23.525 ID:4nSfvMe.0
――――――。

それから……4日が経過した。
オレは、同軍の兵士とともに居住区を警備し……手すきの時間は戦闘術魂の鍛錬を行う日々を過ごしていた。

……警備中に、嵐の連中はいなかった。出会ったのは心配そうに過ごす住民だけ……。
その中には、新人兵士もちらほらおり、会議所に来るのを控えている者もいた。
嵐は……様々な影響を与えていることに違いはない。

災害と同じ名前を使っているだけはある、ということなのだろうか……?

オレらの対策の間……待てど暮らせど嵐は訪れず……。
ただ、兵士の警備がいたずらに住民の不安をあおるだけとなっていた。

そして――そのことに関する問い合わせが会議所に届けられたことも踏まえ、
今朝の会議で、外出規制の解除措置が取ることとなったのだ。


314 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:12:15.114 ID:4nSfvMe.0
アナウンス
「【会議所】での緊急会議の結果、今日から外出規制が解除される並びとなりました
 テロの可能性などもありますが、兵士・警察などによる警備の強化で対応を……」

――とはいえ会議所の兵士が警備を続けることは変わりはない。
オレも、今朝からきのこ軍居住地を警備のために巡回していた。

乙海
「……ふぅ」

オレは、警備の交代時間を終え、一息ついていた。
まだ会議所に入って1か月だが、テロリストへの対応を行っているなんて、想像だにしていなかった。

乙海
「筍魂のところに行くか」

オレは、相変わらずフィリップ・パブで修行を行っていた。
昼までの割り当てられた作業を終え、腹ごしらえと同時に修行。それがオレのルーティーンに組み込まれていた。
そして……今回もそのつもりで足を運んだ。

筍魂
「よぅ、常連になってくれてありがたいな」

フィン
「はいはい、どうも」

相変わらず、筍魂は底の見えない飄々とした雰囲気を、フィンもオレへのライバル意識を向けていた。
いつものように昼食を取っていると、唐突にフィンが話しかけてきた。


315 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:13:02.048 ID:4nSfvMe.0
フィン
「ねぇ……嵐って強いの?弱いの?」

乙海
「……わからない」

いつもよりも真剣な表情のフィン……しかしオレには本当にわからなかった。
嵐は、なぜか本気を見せているようには見えなかったからだ。仮説として挙げられた陽動や戦闘力の確認は間違いではない気がするとも思えた。

フィン
「ふーん、そうなんだぁ、へぇ……」

フィンは、なぜかにやにやしながらオレの傍の席に座っていた。
どういうことだろうか……彼女にとってテロリストは下に見る存在なのだろうか。

筍魂
「奴らは全力を出していないな、ただ一つ言えるのは、今のところは武術の達人らしきものはいないってことだ」

補足するように、筍魂が続けた。

筍魂
「身のこなしは誰でもたどり着ける訓練のたまものに近かったし、魔術もここの教育課程で身に着けられるものと同じだった」


316 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:13:52.949 ID:4nSfvMe.0
フィン
「へー、じゃあDBっていう変な奴が切り札になるの?」

筍魂
「それはわからんな……DBが大戦場に来た時も、割とすぐに逃走していたしな
 もしかしたら秘密兵器はあるかもしれんぞ」

そんな二人の会話を聞きながらオレは思っていた。
嵐は――捉えどころがない組織だと。会議所への反旗を翻すにしてもその理由は声明にはなかった。

確かに、会議所は意図的に闘争させる組織という識者もいたが……それへの反論のために闘争するのは道理としては矛盾しているようにも思える。

そんなことを思っていると……店の電話が唐突に鳴った。


317 名前:Route:A-13 harm:2020/09/26(土) 21:15:32.039 ID:4nSfvMe.0
筍魂
「もしもし、おっシューさんか……ふむふむ」

筍魂
「なるほど、分かった……すぐに向かう」

電話での数秒のやりとりのうち、筍魂の表情は真剣なものに移り変わった。

筍魂
「乙海、大戦場に敵さんが来たらしい――軍関係なく俺たちで対応しにいくぞ」

乙海
「……」

オレは無言でうなずく。食事も丁度終えてタイミング的にも差し支えはない。

筍魂
「フィンは片づけと留守番だ、外にはあまり出るなよ」

フィン
「はいはい、アタシはまだまだな子ですよぉ」

肩をすくめながら、フィンは頷いていた。

オレと筍魂は急いで店を出る。武器も、ディアナとライフルが懐にあるから問題はない。
その背で電話が鳴っていたが……フィンが応対しているみたいだ。

フィン
「もしもし……フィリップパブです……
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

318 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:16:06.281 ID:4nSfvMe.0
大戦場には、791をはじめとした数十人の兵士がすでに嵐と交戦していた。
そしてその向こうには嵐たちの影……DBの居る檻もあった。

筍魂
「¢さんや山本さんは居住区の方にいるのか?」

791
「そうだね
 それから、ルミナス・マネイジメントから援軍が来たよ」

援軍?そういえばルミナス・マネイジメントには会議所で兵士として活躍していたものもいたと聞く。
791が指し示した方向を視線をやる……そこには……。


「……」

サングラスとシルクハットを付けた……オレの親父と、もう一人、白髪の女性が居た。

オレは悟られないように親父に目配せをする。親父もその目線に気が付いたようで、小さく頷いた。
その横で、スーツを着た白髪の女性がじっとオレらの方を見ていた……。


319 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:18:36.792 ID:4nSfvMe.0
今駆け付けた兵士たちには、見知らぬ人物に戸惑うものも居た。
そのため――彼らのために、ふたりの人物は短く挨拶をした。

コンバット竹内
「コンバット竹内だ、わけあって大戦からは離れていたが今回の嵐の対応の援軍に来た」

仮にもオレの血の半分の由来である父親なのだから、よく聞いた声で……その淡々とした口調は、余所行きでもこうなのか――と思うと、なぜか納得するものがあった。
……親父は腕の立つ兵士でもあった。一線を退いてるとはいえ、援軍に来てもおかしくはないはないだろう。

サラ
「私はサラ――ルミナス・マネイジメントの秘書を務めております
 開発中の装置を奪われた――との報告を受けた件で、確認のために参りましたわ」

恭しく礼をした女性――サラ。しかしその右腕と両足は社長のような鋼のもの――すなわち義肢で出来ていた。
ブラックとは異なり、見るからに機械のものであることが見て取れる外観でもあった。
その目は――親父のような、漆黒の眼球と青白い瞳だった。親父の、知り合いなのか……?

それにしても、耳にたくさんついたピアスに、生身の左腕に巻き付いた白い包帯――そしてその二つに割れた舌からは、
丁寧な仕草とは何処か噛み合わないものを感じた。


320 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:24:02.617 ID:4nSfvMe.0
サラ
「私はあまり戦いは好みませんが、緊急事態とのことですので助太刀に参りましたわ」

オレの疑問は、彼女の凛々し気な声にかき消されてゆく……。
サラは胸を張って答えるとともに、右手からレーザー光線を嵐に向けて発射した。
嵐の兵士の足元の地面を焼ききられ、足元をふらつかせる……これがルミナス・マネイジメントならびにトニトルス・フェルムの技術なのだろうか?

……それはともかく、オレも交戦に参加しなくては!
オレはディアナを構え、敵に照準を合わせた。

コンバット竹内
「…………」

近くで親父も同じように銃を構えて照準を合わせていた。

狙いはどうやらオレと同じようだ。すなわち相手の武器へと――同時に引き金を引いた。


321 名前:Route:A-13 relief:2020/09/26(土) 21:25:55.496 ID:4nSfvMe.0

「うがぁ!」

狙い通り武器を弾き飛ばすことに成功する……その動きに合わせて、筍魂の追撃が繰り出される。

筍魂
「チッ」

しかし、敵を撃退しながら筍魂は向こうの方を見やり舌打ちをしていた。

乙海
(はっ――)

――オレは、そして周りに居た兵士もすぐに気がついた。
そう……DBが檻から解き放たれたのだ……!

その素振りがなかったから、迂闊にもDBのことを頭から追いやってしまっていたことに、少し後悔を覚える。

DB
「ヴォオオオオオオオオーーーッ!!!」

しかしそのけたたましい咆哮で後悔の気持ちは吹き飛んだ。
そのだみ声は身を震え上がらせるほどに気色の悪いものだった。
だが、その気色悪さが救いにもなった。冷静さを取り戻させてくれたからだ……。

322 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:29:27.258 ID:4nSfvMe.0
その時……不意に雨が降ってきた。
それも、身を叩きつけるほどの豪雨。
天気予報ではそういったことは言っていなかったはずだが……。

強く降る雨に気を取られ、すっ転ぶ兵士もちらほら現れた……。
それは嵐にも言えることだが。

これは恵みの雨なのか、あるいは絶望の始まりなのかはわからない。
……オレはなんとか足を取られないように踏ん張っていた。

嵐の兵士は、困惑気に腕や足を見つめていた。
その困惑は、奪われたというルミナス・マネイジメントの技術に関連しているのだろうか。

それが、雨に弱いもの――という仮説を立てればその様子も納得はいくが……。
とはいえ、それが正しいかは分からない……。

サラ
「……これは、そういうことか」

サラは雨を意味深げに見つめていた。
……そういえば彼女は複雑な機構であろう兵装を装着しているのだ。彼女に影響はないのか?

そう思ったとき、その兵装のあたりでじゅうっという音が聞こえた。見れば雨が蒸発して煙となった。
雨はサラに当たる傍から蒸発している……これも兵装の機能なのか?


323 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:30:15.245 ID:4nSfvMe.0
いや、今はそんなことはどうでもいい……。考えるにしても戦いが終わってからだ。

オレは再び敵に照準を合わせる。狙いはやはり手に持つ武器だ。
雨で軌道が多少変化するかもしれない。……だが、オレには相手の動きと弾の軌道がなんとなく予測できていた。

それは今までの経験もあるかもしれないが――
『無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』
――その言葉がそっくり言えると、オレは瞬時に理解した。

引き金を撃つ。雨でできた泥濘に敵は足を取られたが、武器は弾き跳ぶ。
親父も同じように弾丸を敵にぶち込む。さらに連撃……武器を失った嵐の兵士は早々にDBのもとへ撤退していった。

サラ
「喰らいなさい」

さらに、レーザー砲が頭上を横切った。見上げるとサラは空に浮かび、レーザー砲でDBの居る場所を薙ぎ払っていた。
その義足からはバーニアが火を吹いていた。その推進力で空中に待機しているというわけか……。
……義肢は人間を超える力を出すのか?あるいは、魔術に近い力を発揮するのかもしれない。

どちらにせよ、この技術も大戦によって得られた世界の流れの恩恵もあるのだろう。


324 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:31:32.854 ID:4nSfvMe.0
791
「シトラス!」

さらに、791の魔術がDBの居るであろう場所に着弾した。

DB
「ヴォオオオオーーーッ」

しかしDBは短い腕でその衝撃をガードし、口から紫色の煙を吹きだした!

乙海
「――っ」

オレは咄嗟に腕でそれをかばった。
しかし、ひどい刺激臭。思わず顔をしかめてしまうほどだ……雨水に叩きつけられているからか、その煙の速度はやや遅いのが幸いだったが。
親父をちらと見やる。この状況の対処法を探るために……。

コンバット竹内
「……面倒な」

親父は――オレと同じように、紫煙を腕でかばって弾いていた。
その表情は冷静そのもので、表情も歪んでいない。この刺激臭を感じていないのか?
あるいは精神力で捻じ伏せているのかもしれない……。


325 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:33:14.662 ID:4nSfvMe.0
サラは上空に居るからか、今度はマジックマシンガンをDBに撃っていた。
筍魂や791も受け流しているようで、表情に変わりはない。ほかの兵士は……その悪臭に屈しているらしい……。

筍魂
「フン――それしきのことなら問題はないッ!
 戦闘術魂、ハイドロポンプ」

DB
「ギギッ!?」

DBは、サラのマシンガンと筍魂の水の塊を受けて仰け反っていた。

791
「……ネギソード」

さらに、791は魔力で翡翠色の剣を作り出し、DBに投げつけた。

DB
「ア、アガガァーーーッ」

それはDBの左目に深々と突き刺さる。
だがDBはもがきつつも血のようにどすぐろい煙を剣の刺さった部位から噴き出した。

791
「!」

791は魔力を展開してそれを弾き飛ばしたが、その間に翡翠色の剣は溶けた氷のように霧散していった。
さらにサラのマジックマシンガンや戦闘術魂の水弾もあらぬ方向に軌道を変えて霧に変わった。


326 名前:Route:A-13 heavy rain:2020/09/26(土) 21:33:44.149 ID:4nSfvMe.0
コンバット竹内
「どうやら、魔力を消しているらしいな……」

隣で親父が冷静に呟いた。
そ、そうか……マジックマシンガンは魔力の塊。戦闘術魂は魔力を利用した技術。そして791の攻撃は魔術そのもの。

そしてDBは魔力を消す不可思議な力を秘めていた。
世の中には、魔力の絶縁体も存在しており……魔力を通す導線のコーティングに使われていたりする。
それと同じものがDBにもあるのか……?あるいは別の要因があるのか……?

どちらにせよ……これは面倒な事態であることに変わりはない。
サラの兵装自体は魔力以外のエネルギーも使用されているだろうし、筍魂は武術の達人でもある。
791はメイジでありながらもその腕力が規格外だと聞いたことがあるから、危機的状況とまではいかないだろうが……。

327 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:35:37.547 ID:4nSfvMe.0
ふと、親父がオレを見ているのに気が付いた。

オレは視線の端に親父をとらえた。
親父は銃をDBに向けながら、オレを見てオレだけに聞こえるように小さくつぶやいた。

コンバット竹内
「奴の傷口を狙え」

オレは小さく頷き、DBの左目に照準を合わせた。
DBはもがきながら動いている。まるで規則性のないぐちゃぐちゃな動き――
周りの兵士の大半は困惑し、嵐のメンバーに対する攻撃を当てたり外したりと、動きに乱れがあった。

しかし――。

オレには、視えた。それはDBが生物だから……そしてその動きが痛みによる本能的なものだから……。
今までも、オレは敵の動きを予測できた。しかし今は未来を見透かすように見える。

これは戦闘術魂の修行の成果なのだろうか……?
オレは、DBの目とは外れた虚空に、ディアナの弾丸を放った。

親父は、オレのその射撃を見ながら納得したように口元をニヤリと笑わせた。

328 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:39:08.533 ID:4nSfvMe.0
サラの放ったマシンガンは弾丸そのものが魔力だが、この銃の弾丸自体は金属なのだ。
だから奴に霧散される恐れもなく――そして、弾丸の軌道に奴の左目が重なった。

DB
「グギャーーーーーーッ!」

DBは獣のように叫ぶ。ぴりぴりとした感覚が雨に濡れた体に響くが、オレはなんとか踏ん張った。

さらに親父が弾丸をダムダムとDBに撃った。
その鉛弾は左目に次々と着弾し、DBは呻きながら檻の中に逃げ出した。


「まずい、DBのダメージが大きい、撤退だ!」

そして続く嵐の鶴の一声……まるで脱兎のごとく、打ち合わせていたかのように逃げ出した。

とはいえ、今回の撤退は――純粋にDBへのダメージが要因だろう。
恐らくは傷の入った左目だけを狙おうとしたオレと親父に警戒をしていたのかもしれない。

あるいは、傷を負った状態でたくさんの兵士たちを相手するのを嫌ったか……。
ともかく、今回も何とか嵐を追い返すことに成功したのだ。

329 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:40:29.179 ID:4nSfvMe.0
――同時に、雨が止んだ。
これは偶然なのか……?DBの出現と共に降り始め、消えた瞬間に止む雨……。

訝しげな顔をして、オレが立ち尽くしていると……。

ぽん、と肩を叩かれた。振り向くとそこには親父がいた。

コンバット竹内
「乙海、成長したな」

淡々と親父は呟いたが……その声色は心なしか喜んでいるようにも思えた。

乙海
「そうみたいだ……」

オレは率直に答えた。実感がなかったのだ……。
確かにオレは奴の動きを読めたが、それが成長の証かどうかの自信がなかった。

そう思っていると……。

筍魂
「竹内さん、乙海は確かに成長してますよ」

筍魂がオレらの間に割って入ってきた。
そして自慢の弟子とでも言うようにオレの肩をぽんと叩いた。


330 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:41:56.371 ID:4nSfvMe.0
コンバット竹内
「そのようだな……」

筍魂
「竹内さんだって、乙海との連携が綺麗だったじゃないですか
 いくら父娘の関係とはいえ、何処で鍛えればそういう勘が身に付くんです?」

コンバット竹内
「実戦の場に携わっていれば……自ずと」

筍魂
「はー、なるほど……確か竹内さんは傭兵だかなんだかやってましたっけ……」

二人の会話を聞きながら、オレは雨に濡れた髪をハンカチで拭っていた。
雨上がりの後はさんさんと太陽が輝いていた。雲一つもない。どうしてこんなに天候が極端に変わっているのだろか……。
答えの出ない疑問を抱えながらも、オレは成長したということをようやく理解していた……。


331 名前:Route:A-13 outcome:2020/09/26(土) 21:44:26.613 ID:4nSfvMe.0
親父と筍魂が肯定していたから……。
曲がりなりにも幼いオレに銃の使い方を教えた親父に、戦闘術魂の師匠として訓練に携わった筍魂……
技術を教育した二人の評価は確かと言っていいだろう。

ぐっとオレは手を握ったり開いたりしながら……二人の話を聞き続けた。

コンバット竹内
「感謝する、娘を鍛えてくれて」

筍魂
「なぁに、センスのある若者を鍛えるのは面白いですからね
 何しろ……彼女は戦闘術魂を生み出した種族である、この、オーガの血を引いているのだから――
 なおさら教えないと損ですよ、ふふふ」

コンバット竹内
「……そうか、そうだったな」

胸を張って答える筍魂に、親父は少し陰を落とした表情をしていた。
御袋のことを思い返しているのか……それとも別の感情があるのだろうか……。

オレは、親父を今まで意識してはいなかったが……
御袋に対しては、どう思っていたのだろう……そういった素朴な疑問が、浮かんでいた。

332 名前:SNO:2020/09/26(土) 21:45:20.447 ID:4nSfvMe.0
親子の共闘とルミナスマネイジメントの秘書。
魔王様も相変わらず御強い

333 名前:きのこ軍:2020/09/26(土) 21:46:26.146 ID:py5sioxko
いろいろ進みましたね。濃ゆいキャラが多いことで。

334 名前:SNO:2020/09/27(日) 00:08:17.777 ID:x75UFPYM0
>>256で皇帝のカード2枚に増えてるけど実際は世界のカード右においてますねこれ・・・

335 名前:Route:A-14:2020/09/27(日) 13:20:47.992 ID:x75UFPYM0
Route:A

                 2013/5/9(Thu)
                   月齢:28.7
                    Chapter14


336 名前:Route:A-14 encouragement:2020/09/27(日) 13:22:31.548 ID:x75UFPYM0
――――――。

翌日、会議所での会議が行われた。

会議では今後の対応についてを話し合ったが、意見が新たに出ることはなく、
既存の意見の見直しが行われ、会議所と居住区の警備と、小規模の大戦の運営という結論を継続することになった。

……その帰り道に、筍魂に誘われてオレはフィリップ・パブに赴いた。

筍魂
「昨日も言ったが――乙海、修行の成果が出たな」

フィンの前で、筍魂は拍手しながらオレにニヤリと笑った。

フィン
「はいはい、おめでとおめでとっ」

その横でやる気なくフィンが拍手をしていた。
腕をだらりと投げ出して拗ねているようだ……。ふくれっ面もしている。

337 名前:Route:A-14 encouragement:2020/09/27(日) 13:26:19.616 ID:x75UFPYM0
フィン
「あなたたちの戦いのときは雨が降ってたらしいから、そのせいじゃないのぉ?」

筍魂
「天候変化も時の運――それにその状況変化に対応できることも戦闘術魂には肝要だ」

フィンは食い下がろうとするが、筍魂に諫められてぷいっと横を向いた。

フィン
「べーっだ、なによなによぉ……乙海ばかりぃ」

乙海
「……」

そしてオレは、返す言葉も思い浮かばず、無言で頭を下げた。

筍魂
「しかしフィンもセンスはあるんだ――このまま続ければ乙海と同レベルになれるだろう」

その間に筍魂のフォローが入る。
師たる立場にある存在ならば当然の判断……。

338 名前:Route:A-14 encouragement:2020/09/27(日) 13:28:28.377 ID:x75UFPYM0
フィン
「ふふふ、そうよねぇ、そうそう」

フィンはあっさりと態度を翻した。

筍魂
「戦闘術魂、心乃眼――相手の動きを予期することは、世界の流れを視るというこの武術にぴったり当てはまっている」

乙海
「!」

筍魂の淡々とした解説に、オレはようやく……気が付いた。
そうか、オレは……修行の成果が確かに出ていたのだ……と。

フィン
「射撃競技に出てたんでしょ?じゃあもともと鍛えられてたのね
 世界の流れを視ることは貴女は初めてではなかったんだからぁ、それじゃあ褒められても当然ね」

フィンは、オレに向き直りながらそう言った。
先ほどの妬みの交えた態度は、筍魂のフォローによって少し戻ったらしく褒めているようにも聞こえる声色になっていた……。

筍魂
「これまでの経験もまた世界の流れの一部だからな……」

乙海
「なるほど……」

筍魂の補足に、オレは納得して頷いた……改めて、戦闘術魂の神髄……
『無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

339 名前:Route:A-14 encouragement:2020/09/27(日) 13:44:33.462 ID:x75UFPYM0
筍魂
「しかし、これで満足してはいけない
 もっと成長できる、さぁ修行だッ……もちろんフィンもな、互いに競い合うのもいい修行のスパイスだ」

そして筍魂は再びうさんくさい表情をしながら、パンと手を叩いた。

そして鍛錬……やることは、体幹を鍛えるというもので……これまでも何度かやっていたものでもあった。
ぶれずに綺麗な姿勢を保ち続ける……それはとても神経を使う鍛錬で、激しく動いていないのにもかかわらず精神的な消耗が激しい。

フィン
「…………っ」

乙海
「……ふっ、……ふっ」

オレとフィンの吐息が漏れる……苦悶にうめく声が…静かに部屋に響く……。

筍魂
「……」

その横で同じポーズをとる筍魂は、平然とした表情だった。

筍魂
「世界の流れに身を任せる技術を鍛えれば、これしきのことでも苦しみは覚えない
 だから今は真理を意識しながら耐え続けるんだ」

横から聞こえる筍魂の声を耳に、オレたちは座禅を続けた……。

340 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:48:32.800 ID:x75UFPYM0
――そして、どうにか鍛錬を終えたオレたちは、息を切らしながらマットを片付けた。

筍魂
「また明日な、乙海よ」

フィン
「はぁ……あんたに……追いついてやるから」

少し楽しそうな筍魂と、疲労で息を切らすフィンの言葉を聞きながら、
オレはふと思い立つことがあり、図書館へ行くことにした。

……嵐についてまだわかっていないことが多いからだ。

時刻は19:07――まだ図書館も開いている時間だ。
図書館には各国の出来事も取り揃えてある――すなわち――嵐のテロ行為を記録しているのではないか……?

そう思い、資料室の資料を漁りに来たのだ――。

乙海
「これは――兵士名簿?」


341 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:52:14.035 ID:x75UFPYM0
関係のないものだとはわかっているが……好奇心から、その表をざっと眺めた。
普段接している兵士の本名をオレは知らない……オレは本名のまま過ごしているが、彼らは違う。

黒砂糖 黒鮫蛟(ヘイ・ジャオジャオ)――
―――――。
集計班 滝本澄珠(たきもと すず)――
―――――。
¢    椎土鴒亜(しいど れあ)――
―――――。
―――――。
―――――。
無口   朔燕虎(シャオ・イェンフー)
―――――。

普段は知らない兵士の一面……思わず、以前談義していた無口の本名もちらりと見ていた。
しかし、よく考えれば……今オレはそれを見ている場合ではないだろう。
嵐について調べれなければいけないのだから……すぐに名簿を戻して、オレは目的の資料を探し始めた。

乙海
「これだ」

目的のディスクを取り出し、再生装置に入れた。
これは、きのこ軍居住区/たけのこ軍居住区の監視カメラの映像だ……。
嵐が居住区で暴れた日、オレは彼らの行動をすべて把握はしていない。ここで何かのヒントを掴めるかもしれない……。


342 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:57:41.059 ID:x75UFPYM0
4月27日の映像……嵐は、オレたちが見たのと同じような攻撃を兵士に加えている……
しかし本気で戦っているようにも見えない。まるでいつでも逃げられるかのような、そんな足どり……

5月4日、街を攻撃しながらも直ぐに逃げたのと重なる。
その日の映像も改めて見たが、オレが相対していない側も同じような光景があった。
……オレは何か作為的なものを感じ取った。

5月8日――その日はサラや親父も援軍として駆け付け嵐と闘った。
――そのさなか、雨が降っていた。……だが同時刻の居住区では雨が降っていない。どういうことだ……?

オレが悩んでいると、突然たけのこ軍居住区の映像が立て続けにぷつんと消えた。

乙海
「……ん?」

強烈な光とともに、映像は真っ暗になったのだ。オレはまぶしさに目を細めながら、その映像を再度見直した。
……白髪交じりの、髪の薄い、眼鏡をかけた中年の男……その男が懐中電灯をカメラに向けたかと思うと、
光線が破壊音とともにカメラを破壊していた。

乙海
「……なんだ、こいつは」

映像を一時停止し、その表情を見る。下劣で、何かを追いかけている様子だ……無線機で連絡も取りあっている。

しかし……巻き戻しても、その男の目的はわからない。オレにとっては謎が増えたばかりだ。
それどころか嵐の目的がさっぱり分からない。かろうじて陽動が狙いなのか、と匂わせるぐらいだ。
あるいはこうして悩ませること自体が目的なのか――。

オレが考え込んでいると、不意に後ろになにものかが居る感覚があった。


343 名前:Route:A-14 monitor:2020/09/27(日) 13:58:58.363 ID:x75UFPYM0
乙海
「――!?」

思わず、オレは振り向く。
そこには――顔を隠したサイドテールを揺らす白髪の人物が居た。

それは――筍魂や791が見ていた映像の人物……無口その人だった。

しかし無口はオレのことを気にすることもなく、その場を立ち去っていく。
身に纏う漆黒の衣装と、対照的な白髪が際立ち、その軌跡はわかりやすい。

乙海
「待て――」

無口は行方不明になった――とB`Zは言っていたのだ。
行方不明だから、死とイコールではないが……、なぜ、突然現れたんだ?

オレはすぐに無口の後を追いかけた。

344 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:05:04.031 ID:x75UFPYM0
無口は足音もなく、ただ階段を上り続けた。
オレはカンカンと足音を響かせながらその後を追いかける――しかし、どうしても追いつけない。

無口が部屋の一角に入った。チャンスとばかりに、オレはその部屋に駆け込んだ。

――そこには、虹色に輝く巨大な結晶があった。
手を伸ばしても届かない、天井まで届く高さと、部屋とほぼ同じ幅を誇る結晶が……。
これは……カキシード公国産の魔力結晶か……?

近くのパネルには封呪の聖晶糖と書いてある。
魔力結晶の塊を、カカオ産地で作成されたチョコレートでつなぎ合わせて巨大な結晶にした――との記述がある。

乙海
「なぜだ……どうして、誰もいないんだ」

オレはこの結晶に欺かれたのか?あるいは――無口の姿はオレの見た幻なのか……?
その結晶は魔力を流した柵で囲まれており、容易には近づけないようになっている。


345 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:07:48.513 ID:x75UFPYM0
オレはパネルに書かれた説明文を詳しく見た。
封呪の聖晶糖――ここに含まれる魔力によって図書館の書物の劣化を防ぐ調節を行っている
本が死ぬことを封じる呪文――確かに、この規模の建物ならこれほどの魔力が必要なのだろう……。

しかしオレはなぜかこの設備に違和感があった。根拠はないが……どうしても、何かが噛み合わないと思えた。
どうしてこんな重要な設備が誰にでも入れる部屋にあるのだ……?
柵での防御はあるが……この結晶が壊されない自信が故なのか……?

オレは封呪の聖晶糖をまじまじと見た。
――結晶の向こうに人影が見えた……。いや、それはオレの姿か――?

なにものかの気配を覚えるが、それが何なのかは分からない……とても奇妙な感覚だった。
……ふと、オレは後ろに誰かが居ることに気が付いた。

乙海
「っ!」

振り向くと――そこには、集計班が佇んでいた。


346 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:11:50.590 ID:x75UFPYM0
集計班
「乙海さん――この部屋でどうしたんですか――?」

訝し気にオレを見る集計班――。

乙海
「……実は……行方不明になった無口さんの姿を見たので」

オレは、正直にここに来た理由を説明した……荒唐無稽ではあるが、嘘をついても特にメリットがあるわけではないだろう。

集計班
「はぁ……」

集計班は、ため息を一つついてから考え込んだ。
トントンとこめかみのあたりを叩きながら、言葉を探しているようで――。

集計班
「行方不明になってる兵士が実は居る……死体は挙がっていないから可能性はありますが……
 幻を見た可能性の方が高そうですが」

乙海
「……」

集計班の極めて冷静な口調に、オレは何も答えられなかった。


347 名前:Route:A-14 crystallization:2020/09/27(日) 14:13:43.985 ID:x75UFPYM0
集計班
「……まぁ、本当に無口さんその人が居るのかもしれませんが」

きょろきょろと部屋を見渡しながら、集計班は続けて告げた。

集計班
「私にはこの部屋に誰かの気配を感じ取ることはできないですねぇ……
 貴女は……今も感じ取ってますか?」

乙海
「……いいえ、オレも」

淡々と並べられる理知的な言葉の前に、オレは反論することができなかった。
事実、なにものかの気配は感じ取れないのだから。

集計班
「そうですか
 嵐の被害もこれから懸念されますし、貴女も早く休むほうがいいですよ
 それにこの部屋の結晶は図書館の本を守るために使われているので、長く滞在してほしくない――というのもありますし」

そう言うと、集計班は立ち去って行った。
――オレは、精神的に疲れていたのかもしれない……。
少しあの場所で気分転換をしてから帰宅することにした。

348 名前:Route:A-14 lunar mare:2020/09/27(日) 14:15:44.124 ID:x75UFPYM0
wiki図書館から出たオレが腕時計を見ると、針は22時30分を示していた……。
訳の分からないことが多い。この海岸で少し精神を癒そう……そう思いながら、海岸に足を踏み入れた。

オレは欠けきろうとしている月を見ながら大地を踏み出した。
ざっ、ざっと砂を歩く音が響く……乾いた砂の上にオレの足跡が残る……。

乙海
「……」

それは理由のない選択……ただ、そうしたいと漠然とした思いがあって選んだ行動……。
オレは、月に照らされた海岸を歩きながら、考え事をしていた……。

オレは波打ち際を見つめた。
人魚の少女と出会った場所は――夕焼けの景色ではなく、星空の下、広がっている。
恐らく……明日か明後日には、光を失った闇の月が浮かんでいることだろう。

349 名前:Route:A-14 lunar mare:2020/09/27(日) 14:16:22.229 ID:x75UFPYM0
ざくざくと濡れた砂を踏みしめる。
オレは……これからどうなるのだろうか?

嵐との戦いの中で、修行の成果とも言うべき活躍を為した。
筍魂も親父もそのことを称賛していたが……果たして、これがオレの目指す道だったのだろうか。

あるいは、突然に修行の成果が現れたために、その事実を完全に呑み込めていないだろうか……。

乙海
「…………」

揺れる波の音と潮の香りを感じる。
オレはその下で、考えていた。

乙海
「オレはまた強くなれるのだろうか」

それは波に消える小さい声だった。
……とんとん拍子に、オレは大戦――あるいは嵐への抵抗で活躍している。


350 名前:Route:A-14 lunar mare:2020/09/27(日) 14:17:53.416 ID:x75UFPYM0
武術の達人たる筍魂や、親父からもオレの活躍を称賛された……。
しかしそれが全てなのか……?
世界には陰陽が存在しているわけで、完全なプラスだけというわけではないだろう。

マイナス――それも存在するのではないか……?

夜の海はなにもかもを飲み込みそうな黒。オレは、ふと手元の時計を見やった――。

時計の針は、すでに23時58分を示していた。すなわち、1日の終わりも近づいているのだ。

乙海
「すぐに、帰らなければ……」

意識することなく、それほどの時間が経っていたのだ。
この海はオレにとっての思い出だからか……時間を忘れるほどに佇んでいたようだ。

オレは帰路につくために、踵を返した……。
ぐっ、と手を握ったり開いたりながら……。

それは鍛錬を意識してのものかもしれないし、ただの手癖かもしれない……。

そして……。

351 名前:SNO:2020/09/27(日) 14:18:07.756 ID:x75UFPYM0
謎が増える。

352 名前:きのこ軍:2020/09/27(日) 20:29:37.571 ID:GfS/g8hQo
嵐はたけのこ軍居住区で何かを探していた?

353 名前:Route:A-15:2020/09/27(日) 20:32:40.189 ID:x75UFPYM0
Route:A

                 2013/5/10(Fri)
                   月齢:0.1
                    Chapter15


354 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:37:30.028 ID:x75UFPYM0
???
「こんばんは――貴女は確か竹内乙海――、そういう名前でしたね?」

オレよりも背の高い――おそらくは、2mを優に超えるであろう――大男が、オレの前に立ちはだかっていた。

乙海
「!?」

???
「コンバット竹内――
 月……いいや、今は竹内幸鉢か――彼の娘であり……」

深いしわのある顔つき。頭髪をすべて剃り落とした僧のような風貌は、まるで暗闇に潜む妖怪のようにも思えた。
その巨大な体躯は、威圧感を強くオレに与えていた。

???
「なるほど、似ている――そして、彼らの血を引いているからこそ、あれほどの活躍を為せたというわけですね」

じろじろとオレを見る男の目は――漆黒の眼球と青白い瞳だった。
それは、父と同じ瞳。父のことを知っているような言い回しからすると――顔見知りと言える存在なのか?


355 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:40:02.903 ID:x75UFPYM0
覚眠
「ああ、自己紹介がまだでしたね――私は孟覚眠(モン・ジェイミン)――嵐のメンバーです」

飄々としながらも丁寧な口調。それでいてにっこりと笑う表情はとても不気味で……じわりと、汗が滲んだ。

乙海
「こんなところで、何の用だ……」

懐のディアナに手をかけながら、ゆっくりと聞く。
口の中がからからになるのを感じる……オレは緊張しているのに、向こうはその素振りすら見えない。

覚眠
「あなたを潰しに――あなたは会議所の有望な新人のようですからね
 射撃の腕に秀でた、戦闘術魂を覚えた新人――個人的にはそのまま成長するまで放っておいてもいいですが――
 【計画】に支障があるやもしれませんし」

笑いながら言い終えると、覚眠は構えを取った。その構えには見覚えがあった……。

乙海
「その構え、は……」

覚眠
「ああ、さすがに貴女なら一発で見破ると思ってましたが――私も戦闘術魂を修めているんですよ
 貴女の師――筍魂さんと同門なのでね……」

……そう、オレが鍛錬している武術そのものだったのだ。
しかも……その緊張のない仕草とは裏腹に、立ち振る舞いには、一切の隙がなかった。
その仕草が、筍魂と丸被りするのは、なんて忌々しい因縁なんだ……。

356 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:40:46.501 ID:x75UFPYM0
覚眠
「実力も――まぁ、あなたの師匠と同じぐらいじゃないんですか?」

余裕綽々と答える態度からは、はったりのようなものは感じ取れなかった。
というよりは、銃を持っている相手にこの態度でいられることそのものが……男の――覚眠の実力なのか?

乙海
「筍魂と……それから、父を知っているのか?」

オレは、どうにかこの男からいろいろなことを聞き出せないか――と思っていた。
覚眠は、確実に強い――だが少しでも時間を稼げば……活路が見いだせるかもしれないと思っていたからだ。

覚眠
「ええ――筍魂さんは素晴らしい実力者ですよ?まぁ……その大本の道場は私が壊滅させましたがね」

クックックと笑う覚眠――それは悪魔のようにも思える。
闇に浮かぶその声の不気味さに、オレの体温が下がるような感覚がある。

乙海
「かい、めつ……?」

覚眠
「ああ、戦闘術魂って今や弟子も少ないとか言われてますね?あれは私が原因なんですよ」

オレの、絞り出すような言葉に、覚眠はよどみなくすらすらと答えた。


357 名前:Route:A-15 thug:2020/09/27(日) 20:42:01.837 ID:x75UFPYM0
覚眠
「それから、あなたのお父上ですが……なに、昔すこし顔を合わせてただけです
 まぁ……ルミナス・マネイジメントに在籍しているのは予想通りですが、
 ご結婚なさるのは予想外でした」

感慨深げにそう言い切ると、覚眠はぐっとこぶしに力を込めた。

覚眠
「さぁ……来なさい
 私は貴女を撃退させてもらいますよ――」

そして、一瞬で真剣な表情に切り替えた。それは殺し屋の目だった。
つい最近に相対した嵐のメンバーとか違う、意思を込めた目。

358 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:43:56.702 ID:x75UFPYM0
乙海
「くっ……」

オレの問いの答えは返り、疑問は解けても……この男から逃げる手段は思いつかなかった。
その飄々とした立ち振る舞いからは対照的に……隙が一切存在しなかったのだ。

オレは、ディアナの引き金に指をかけながら覚眠の様子を伺う。

覚眠
「ああ、そうそう――私は動きませんよ?それぐらい常套手段ですよ」

……しかし、覚眠は構えたまま一切の動きを見せなかった。

乙海
「…………」

引き金を引こうとしても――覚眠に当たるビジョンが見えない。
それは戦闘術魂の鍛錬を経て、オレは相手の動きをある程度予測できるようになったはずだが……。

だが――。
覚眠の動きは、何も見えない……。心の眼をもってしても……。
どう照準を合わせても……弾丸を回避される、そんな未来しか思い浮かばないのだ。


359 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:46:23.793 ID:x75UFPYM0
覚眠
「……やたらめったらと突っかからないだけ、やはり才能があるようだ
 女性でここまでの原石を持つものだから、実に惜しいが――まぁ、仕方がないでしょう」

そう言うと、覚眠の方から突っ込んできた。

覚眠
「戦闘術魂――叩き落とす」

神速の突き……そのモーションは、目で追えないほど速く……オレは、引き金を引くことなくディアナを弾き飛ばされていた。

乙海
「はっ……!」

スローモーションがかかったかのように――ディアナが手から落ちる。
濡れた砂に突き刺さるように、ディアナが地面に落ちた。
気が付くと、覚眠は元居た場所に戻り……また、構え直して待機していた。

覚眠
「――しかし、あなたはまだ未熟です
 さらに鍛えれば、この打撃も回避できたでしょうが……」

残念そうに、オレを見る覚眠……オレは、その動きを全く読めていなかった。
得物を失ったオレは、覚眠と同じ素手……ライフルは、今持っていない……。

覚眠
「戦闘術魂を学んでいるなら、ここから抵抗してみてください」

そして、再び覚眠はオレに飛び掛かってきた!


360 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:49:24.813 ID:x75UFPYM0
乙海
「ぐっ!」

覚眠のストレートをどうにかかわす。しかし、それもどうにかという程度。
さらに覚眠の蹴りが飛んできて、オレは思いっきり太ももを蹴られながら吹っ飛ばされてしまった。

乙海
「がはぁっ!」

思いっきり地面に叩きつけられる……地面が柔らかい砂浜だからか、衝撃がいくらか散ったのが幸いだった。
それでも……じんじんと足が痛み、立ち上がることができそうにない。

覚眠
「まだ未熟ですが突きの受け方もいい
 ――女性で強い武術家はもっと生まれてほしいんですよね」

嬉しそうにオレを見下す覚眠――悪魔の微笑みにしか見えない。
だがその口から紡がれるその言葉からは嘘を感じ取れない……本心で言っているようにも思える。

乙海
「どういう……ことだ……」

覚眠
「誰がどうしようとしても――たった一人の天使の存在で世界の在り方は確定している
 この世を制するのは女性なんです……貴女のような人がもっと増えてくれば、私としては面白い限りですからね」

……嵐のメンバー、ということはそれが嵐の目的に関わるのか?
――しかし、オレの疑問は言葉にはならなかった。覚眠に気圧されて、それすらも発せられなかったのだ。


361 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:54:55.938 ID:x75UFPYM0
覚眠
「しかし、惜しむらくは……【計画】の妨げになるという可能性だけで行動しないといけないことですねぇ」

相変わらず、底の見えない素振りで矛盾したようなことを呟く覚眠。
計画とはなんだ……オレの頭の中は混乱によってぐちゃぐちゃになる……。

覚眠
「仕方がない――戦闘不能になってもらいましょう――
 戦闘術魂――エアスラッシュ」

――不可視の攻撃が放たれた。
空気を切り裂く音と、僅かに歪んだ光でオレはその正体に気が付いたが――。

乙海
「―――」

その正体――空気の刃を回避することはできなかった。

乙海
「ぐぁあああああああっ!」

ひどい痛みに、オレは思わず叫んでいた。
両腕の血管が切れ、ダラダラと鮮血を流していた。
オレの着ていた黒い上着は、赤で染まり――不気味なコントラストを描いていた。

どうやら、刃は下腹部で止まったらしいが……、内臓まで傷は届いたらしく外から中から燃えるような痛みがオレを襲っていた。

362 名前:Route:A-15 defeat:2020/09/27(日) 20:58:29.684 ID:x75UFPYM0
乙海
「――っ……ぐ……が……」

そして……視界が濁った。
力が抜ける。耐えようとしても、焼けつく痛みとずっしりとした重みに身体が全く動いてくれない。

筍魂
「何をやっている!」

ふと……遠くで……筍魂の声が聞こえたような気がした。
しかしオレには、もはやそれが現実かどうかもわからなかった……。

覚眠
「おや――久しぶりですね――
 ここでは筍魂さんと呼んだほうがよかったですかね?」

筍魂
「名前なんてどうだっていい、なんでお前がここにいるッ!」

怒気を孕んだその声は、今まで聞いたことのない筍魂の感情の発露だった。
オレを――助けに来たのか――?

覚眠
「―なるほど、あなたからの技は、――していた――――――……
 面白い……あなたが―――――を願いましょ―…」

瞬間、覚眠がオレの首根っこを掴んだかと思うと、勢いよく海に投げ飛ばされた。
オレは抵抗することもできずに、まるで赤子の手を捻るかのように、為すがまま海に叩きつけられた。
血しぶきが空に軌跡を描くのを他人事のように見ながら……オレは、水面に浮かぶことなく……もがくことなく、沈んだ。

363 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:02:08.522 ID:x75UFPYM0
筍魂
「お前は――――か……」

覚眠
「ええ――」

筍魂
「――」

覚眠
「―」

遠くで、筍魂と覚眠の声が聞こえるが……それもはっきりとは聞き取れない。
あるのは、切り裂かれた痛みと……奴に敗北したという事実……。

乙海
(っ……ぐっ……)

声にならない声。何かを発しようとするたびにあぶくだけがごぼりと漏れ、海水がオレの中に入る。

その時、敗北の悔しさを、オレは初めて覚えていた。
大戦では味わったことのない感覚――そこで、オレは改めて気が付く。

オレは集団ではなく個人としての勝利を求めていたことに……。



364 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:04:18.133 ID:x75UFPYM0
もはや水面の様子も分からない。
筍魂と覚眠――二人のその後は勿論、これからの世界の流れも……。

オレは、今置かれている様子を現実味のない光景だと感じ取りながら……黒い闇に沈んでいく……。
まるで、第三者が俯瞰するような、不思議な感覚だった。

闇の中にオレは沈む……。
オレが瞑想した時に見た世界とは違う、真っ暗闇……光が一筋もない世界……。

はるか天空には星の明かりが瞬いているが……オレはそれを掴むことはできない。
オレは個と化していた。世界の構成要素のひとつに……。

ごぼごぼとあぶくが空に浮かぶ……対するオレは、重力に引っ張られ底へ沈む……。

なにかを掴もうとする腕は水中をするりとすり抜けるだけ……紅の煙がオレから漏れ、空に昇る……。

乙海
「――――」

声を上げようとしても、やはり音にならず……代わりにあぶくとなって空へと消える。
オレは、抵抗もすることなく……その底へと沈んでゆく。


365 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:05:23.517 ID:x75UFPYM0
闇へ、オレは飲まれる。
もはや――オレは闇そのものになろうとしている。

18年生きたオレという存在は――心と体は、魂魄は虚無に還ろうとしていた。

その意識でオレが見たもの――それは夢だった。
幼い日の思い出。人魚の少女との出会い……。

彼女は足を怪我していた。それをオレが手当てして……。
そして彼女はオレに感謝の言葉を伝えて海へと還った。

……その出来事をどうしてこのタイミングで思い出すのだろうか。
それは走馬灯、なのかもしれないとオレは思った。


366 名前:Route:A-15 puella aeterna:2020/09/27(日) 21:08:16.270 ID:x75UFPYM0
ごぼりと泡が空に浮かんでゆく。それは掴むこともできがに空へと昇ってゆく。
狼煙のように……泡は希薄になって天へ……一方で、オレは底まで堕ちてゆく……。

オレはぎゅっと瞼を下ろし目を瞑った。
それは痛みから逃れるためなのかもしれないし、あるいは闇を理解しようとするための行動かもしれない……。

少なくとも……オレの視界は暗黒に染まった。
痛みでチカチカと光る何かがその暗黒にあったが、オレはきつく瞼を閉じた。

……オレが視界を開けることはなかった。
次第に、オレの中には水がゴボゴボと入り始める。
それらは口に、鼻に、肺に、消化器に……原始の溶液が染み渡るのだろう。
やがてオレは……水の一部に……海の一部に……溶けて散るのだろう。

視界の果てに、何かがはためいた気がするが……オレはもはや溶け切って……。

367 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:09:28.942 ID:x75UFPYM0
……海水に溶けあい希薄になるオレの意識は、ひとつの事象を思い返していた。

それは、幼い日の思い出。
砂浜で出会った少女との、たった一日限りの――それでいて、決して忘れることのない思い出。

乙海
「……!?」

オレは、何者かの気配を覚えていた……。
瞼を触れる指の感覚。その指に瞼が持ち上げられ、目を見開かされた。

すると暗黒の海中の世界に、何者かがいた。
オレは、その光景に……呆然としていた。

乙海
(きみ……は……)

――オレの思い出は……記憶の風景は……今、オレの目の前にあったのだ。

人魚
(…………)

エメラルド・グリーンの瞳。マリンブルーの髪。
あの頃よりも成長して女性らしくなっているが……その姿かたちは間違いなく、あの時の少女と同一だった。
彼女は、そこにゆらゆらと佇んでいたのだ。

368 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:11:50.157 ID:x75UFPYM0
着物をゆらゆらと揺らせながら、彼女は心配そうにオレを見つめていた……。
オレらのように呼吸に悩む必要なく、まるで自分のフィールドのように海を漂っている。

ああ――彼女は確かに、人魚なのだ。オレは希薄な意識でそう思っていた。

人魚
(…………)

そして、彼女はオレの身体を、ぎゅっと抱きかかえた。
まるで、母が子を抱き上げるかのように……それは神秘的な行動でもあった……。

オレよりも身長は低いが、水中ならそれも関係はないだろう。
……冷静に思考できている。どうしてだろうか。彼女がここに現れたからだろうか?

人魚
(私は――弘原海細波(わだつみさざなみ)――)

あの時とは違い――彼女は口を動かした。
同時に、聴いたことのない彼女の声が、オレの中に響き渡っていた。

それはとても透き通る可愛らしい声で――それにより、オレは彼女の名前を――細波であることを知った。

369 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:12:32.213 ID:x75UFPYM0
細波
(だい、じょうぶ?)

彼女の問いにいいや、違う――という意思を込めてオレは首を振った。
今もオレの身体からは血が止まらない……痛みも周りにまとわりついている。

細波
(……今から、地上に上がってもあなたを助けられない)

細波
(でも――私たちの住処ならば、あなたを助けられるかもしれない)

オレは彼女の言葉に頷いた。
……もう、オレにとっては生も死も、どうでもよかった。

オレにとって、敗北という概念すらも必要ではなかった。
今のオレは……彼女に出会えたという奇跡だけで満足だった。


370 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:13:06.429 ID:x75UFPYM0
細波
(!)

オレの答えに、彼女は驚き――そして、口元を緩ませた。

細波
(よかった――あなたと出会えたのに、このまま死に別れにならなくて)

乙海
(……)

オレは、歯を食いしばりながら無理に笑ってみせた。

細波
(大丈夫――必ず、送り届けるから――今は、休んでいて――)

どこに……?
それは黄泉の世界なのか、あるいは……。

いや、もうそれを考えるのはいい。

……彼女の言葉に、オレは目を閉じた。もはや沈むことに抵抗はない。
どこどこまでも、オレは彼女に導かれていこう……そう思っていた。


371 名前:Route:A-15 dream essence:2020/09/27(日) 21:14:15.927 ID:x75UFPYM0
ごぼりというあぶくの音が耳に響いた。
これは死が近づく身体が見せた幻覚なのか、あるいは――現実なのか。
もはや、それすらもオレにとってはどうでもよかつた。

希望。オレが初めて知った世界の概念。
――戦闘術魂からこの世の真理の一つを垣間見てから、改めて希望を五感すべてで実感した。

陰陽入り混じる世界の中で――敗北という陰から、再開という陽へと……
移ろう流れを、肌で感じ取ることができたのだ。

だから――オレは――。
目を瞑って、沈む感覚だけに集中しながら……海底へと、深淵へと向かった……。

372 名前:Route:A Ending:2020/09/27(日) 21:26:47.657 ID:x75UFPYM0
――Revealed the chariot card.

But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.

          ―――Route:A Fin.


373 名前:SNO:2020/09/27(日) 21:27:20.674 ID:x75UFPYM0
ようやく1ルートが終わった

374 名前:きのこ軍:2020/09/27(日) 21:45:06.336 ID:GfS/g8hQo
最後急展開ですごいおもしろかった。
描写表現すごくよきですね。
2ルート目以降も期待。

375 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/10/04(日) 22:56:34.864 ID:5RIE3OKQ0

The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
                                            ――Genesis 6:13

376 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/10/04(日) 22:57:39.794 ID:5RIE3OKQ0
月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。

純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。

……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。

いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。

世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。

絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。

まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。

……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)


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