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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

377 名前:Route:B:2020/10/04(日) 23:00:19.390 ID:5RIE3OKQ0
――絶望を胸に地に伏す小柄な少女だった。

378 名前:Route:B:2020/10/04(日) 23:00:48.553 ID:5RIE3OKQ0
Route:B


                   Chapter0

379 名前:Route:B-0 コンシールメント:2020/10/04(日) 23:02:49.914 ID:5RIE3OKQ0
……わたしは、夢を見ていた。

それは、幼い日の出来事だった。
世の中が綺麗だと信じ切っていた純粋な時期の――忘れようとしても忘れられない、トラウマ。

???
「ひっく、ひっく……」

???
「泣いてても終わらないぞぉ?さぁ、さっさと先生の言う事を聞くんだ……」

嗚咽を漏らすわたしに対するあいつの表情は、まるで死体に集る蛆虫のように醜く……
その奥から漏れ出る腐臭を纏った肉欲を隠さんともしない目が、眼鏡の奥で鈍く光っていた。


380 名前:Route:B-0 コンシールメント:2020/10/04(日) 23:04:38.939 ID:5RIE3OKQ0
がしりと、あいつに肩を掴まれた。
大人の大きな掌に支配されること。それは、世界を知らない子供にとっては恐怖そのものでしかない。
その時のわたしは、逃げ場もないところに追い詰められていたのだから、猶更。

ふたり以外は、誰もいない人気のない部屋。
窓から射す夕陽は、わたしの身も心を焦がし、焼き尽くさんとばかりに、強く強く室内を照らしていた。
対照的に、わたしの表情は、鉛のように重々しく――わたしの心は、深海の底の底よりも暗く――。

あいつの、大きな手がわたしの身体をなぞった。
恐怖。一秒が無限のように思える、地獄。

成長し、世の中の汚さを知るたび、この絶望を思い出し、心がぐちゃぐちゃになる。

所詮、この世の中は、どれだけ上っ面で取り繕うとも、心の奥底に在る汚らしい本能が恐ろしいのだから。


381 名前:Route:B-0 コンシールメント:2020/10/04(日) 23:05:30.817 ID:5RIE3OKQ0
わたしは、子供心に……まだ何もかもを認識するには未熟でも、
【その事実】を知ったのだ。そう―――――


              希 望 な ど 存 在 し な い ま や か し な の だ と 。



382 名前:たけのこ軍:2020/10/04(日) 23:05:52.662 ID:5RIE3OKQ0
Route:B始動しました

383 名前:きのこ軍:2020/10/04(日) 23:08:26.277 ID:m5ISCwiAo
今回は闇深そう

384 名前:Route:B-1:2020/10/10(土) 20:46:36.114 ID:UGEA0.t.0
Route:B

                 2013/4/1(Mon)
                   月齢:20.3
                    Chapter1

385 名前:Route:B-1:2020/10/10(土) 20:47:59.930 ID:UGEA0.t.0
――――――。

???
「――っ!」

わたしは、全身をぐっしょりと汗で濡らして目覚めた。
カーテン越しに、月明かりが部屋を照らしている。

……快適な目覚めでないことは明らかだ。

???
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

まるで全力疾走でもしたかのような息切れと、激しい動悸が身体を駆け巡る。
脈打つ心拍の音を聴きながら、首筋の血管に指を当てながら、落ち着こうと深く溜め息をついた。

???
「ふぅ…………」

少しずつ、それらは治まっていく。
それでも胸のあたりにつかえる気持ち悪さは変わりない……。


386 名前:Route:B-1 クリンジ:2020/10/10(土) 20:49:49.709 ID:UGEA0.t.0
???
「また、あの夢……吐きそう……」

震える身体をぎゅっと抱きしめながら、わたしは右手で口元を押さえて、ふらふらと脱衣所に向かって歩き出した。
鏡に映ったのは亡者のように青白い顔と、光を失ったうねる黒い髪と、丸い黒い瞳。
……生気のない、人形のような顔がそこにあった。

???
「うっ……げほ、げほ、げほっ……」

わたしは涙を流しながら嘔吐した。喉に走る熱い痛みも、鼻の中をつんと響く感覚もそのままに、ただ吐き続けた。
――記憶にこびりついた悪夢を、押し流すように……。

???
「………ぅ、気持ち悪い……」

胃の中のものを全てぶちまけて、わたしはようやく全身が汗だくなことを思い出す。

わたし
(服も全部着替えたい……でも、着替えを取りに行かなくちゃ……
 ああ、面倒、シャワーを浴びてから取りに行けばいいか……)

乱雑に服を脱ぎ捨て、わたしはよろよろとした足取りでシャワーを浴び始めた。
身体にへばりついた汗は、まるで悪夢が残っているかのようで、わたしは丹念に身体を洗っていた。
やがて、自分自身の胸を掴むと…少し、自己嫌悪に陥った。


387 名前:Route:B-1 クリンジ:2020/10/10(土) 20:51:12.474 ID:UGEA0.t.0
???
「なんで、こんなに大きくなったんだろう」

片手では包み切れないほどに育った胸は、魅力的な女性となった証と言えるかもしれない。
それでも、鏡に映ったわたしの表情は、苦虫を噛み潰したかのようで、なんとも痛々しい。
胸が大きい……そのことに、わたしは深い嫌悪感を覚えていたから。

???
「…………もう、考えるのはよそう」

わたしは、身体に残ったシャワーの雫をバスタオルで拭い、
生まれたままの姿でふらふらと自室に戻ると、手首をすっぽり覆う長袖のパーカーに身を包んだ。
それは、何もかもから自分を覆い隠したい……わたしのそういった心理を反映したような衣装でもあった。

???
「目が冴えちゃったな…………」

時計を見ると、時刻は午前4時……ベッドに身を投げ出しても、もう眠気は飛んでいた。
……仕方なく、近くのランプをつけて、本を読みふける事にした。

388 名前:Route:B-1 ダイアンサス:2020/10/10(土) 20:52:56.100 ID:UGEA0.t.0
本……それは小説ではなく、専門書だった。
工業技術――魔力技術――読む者によっては、読んでいるだけで眠気を催すかもしれないようなもの。
でも、わたしには――とても、楽しめるものだった。

人々の叡智が集まって構築された世界。それは、浪漫があった。
今、読んでいるのは【トニトルス・フェラム】という企業の開発した義肢について。
手足を失った者が、外見あるいは機能を補うために開発された技術。

生命の海――胎内で構築される手足を、胎外で作る。
なにものかの意思により構築された生物学的な現象を、別視点から生み出そうとする。
それは、とても難解で同時に神秘的に思えた。


389 名前:Route:B-1 ダイアンサス:2020/10/10(土) 20:53:43.367 ID:UGEA0.t.0
当然ながら、企業秘密の部分は分からない。
それでも、公表されている概要だけでも、色々な事が想像できて、わくわくする。

――そうしているうち、心は少しずつ落ち着いてくる。
悪夢で沈んだ気持ちは、少し浮上していった。

……とはいえ、これは不安定な安堵でもあった。
何かあると、また沈むかもしれない。だから、わたしはそれから目をそらすように、本を読みふけっていた……。

なんでも、【トニトルス・フェラム】の秘書も、この義肢の技術で失った箇所を補填しているらしい。
身体の部位を失う……それはどれほど辛いのだろうか、わたしには分からない。
わたしは心の一部が欠けてしまったけれど――肉体は欠けていないから――。

所詮は、他人の気持ちを完全に理解することはできない。
それでも、その気持ちに向き合う――その心意義で発展する技術は素晴らしいと思う。

それに、その技術は【大戦】で戦う際にも役立っている――と聞く。
身を守るために、全身を金属にすることもあるのだろうか?


390 名前:Route:B-1 ダイアンサス:2020/10/10(土) 20:54:02.202 ID:UGEA0.t.0
……本を読んでいると、わたしはいろいろなことを思い浮かべることが多い。

???
「……もし、全てを機械にしたら、魂魄は、どうなるんだろう?」

……全身を金属で置換すれば、思考の大元である脳も必然的にそうなる。
なら、心は――受け継がれるのだろうか。
意識は、脳の生み出す電気的な信号……そういった説があるが、
機械が生み出すそれは、今思考するわたしの意識と同じなのだろうか?

……考えても、結論は思い浮かばない。
ただ、一つだけ思うこと――それは、意識が継続していれば、それは自分自身なのではないか。ということ。

???
「――わたしが、この肉体を捨てても
 ……結局、肉体へのコンプレックスは変わらないかもしれない」

少し、自己嫌悪に陥る自分の身体を見つめながら、わたしはぼそっと呟いた。

391 名前:たけのこ軍:2020/10/10(土) 20:54:49.166 ID:UGEA0.t.0
名前はまだ出ていない。

392 名前:きのこ軍:2020/10/10(土) 21:49:25.771 ID:TukoEIz6o
不穏な出だし ブラックちゃんが関わってくるのかしらね?

393 名前:Route:B-1 ストロベリー:2020/10/11(日) 21:33:25.025 ID:iFLPb49Q0
――気が付くと、朝日が部屋に射していた。
鳥のさえずりも聞こえて、ああ、朝だ――とわたしは思った。

時計の時刻は既に7時を回っていて、わたしは本に集中していたらしい。

もっとも、厚めのカーテンに遮られて、太陽の光はわずか差し込むだけ。
わたしの部屋は、朝だというのに薄暗かった。

――それは、太陽の光が苦手だから……。

皮膚が弱いわけではないけれど、太陽の光――特に夕陽は、はわたしのトラウマを刺激されるから苦手だ。
光が、骨に関わる栄養素のひとつに関わっていることを知っていても……。

知識という理知的なものと、わたしの内面に在る感情は擦り合わせられなかった。

394 名前:Route:B-1 ストロベリー:2020/10/11(日) 21:35:45.581 ID:iFLPb49Q0
こん、こん――と、その時部屋のドアがノックされた。

わたしはそのドアを開けると、白い髪のツインテールの女の子――苺(まい)が、そこに居た。
紅いゴスロリ衣装。背中に生えた白い翼。彼女は人間ではなく、天狗なのだという――。
わたしにとっては、同居人であり、憧れのパートナーのような立ち位置にあるから、種族の違いを意識することは少ないけれど。

……この家に住んでいるのはわたしと苺だけなのだから、苺が居るのは当然なことだった。
苺は、両手にはめた淡い桃色の手袋を合わせながら、普段通りの柔らかな表情でわたしを見ていた。


「瞿麦(なでしこ)ちゃん、起きてたんだね
 洗濯籠に服が入ってたから、あれ?って思ったんだけど」

――丸くて大きい赤い瞳が、苺のチャームポイント。
可憐に首をかしげる姿は、憔悴しているわたしと比較すると……
ずっとずっと、可愛らしい。


395 名前:Route:B-1 ストロベリー:2020/10/11(日) 21:38:32.970 ID:iFLPb49Q0
瞿麦
「……そういえば、脱いだ服のことを忘れてた」


「まぁ、ぼくがやっておくからいいよ」

苺は、家事全般をてきぱきとこなす家庭的な女の子だから、こうしてわたしの身の周りの世話もしてくれている。
その献身的な立ち振る舞いは、こんなわたしにはもったいない――と思うときもある。


「それはそうと、朝ごはんできたから、ぼくと一緒に食べよう?」

瞿麦
「うん、食べよう」

苺の、元気な顔つき。
わたしと一緒にご飯が食べたい――そう顔に書いてあったのを、悟られたのかも……。

悪夢の蟠りを洗い流されたような感覚を覚えつつ、わたしはキッチンへ向かった。

396 名前:たけのこ軍:2020/10/11(日) 21:55:36.102 ID:iFLPb49Q0
主人公とヒロインの名前がでてきました

397 名前:きのこ軍:2020/10/12(月) 00:35:57.200 ID:ou/pLXcMo
苺ってみたら問答無用に雛苺が出てきちゃうのは桃種読者の悪い癖

398 名前:Route:B-1 リユニオン:2020/10/19(月) 20:07:31.609 ID:lAYI73BY0
食卓に着くと、すでに出来立ての朝食がテーブルクロスの上に並んでいた。
トースト、新鮮な野菜のサラダ、ベーコンエッグ、コーンスープ、オレンジジュース……。

これらはすべて、苺が作ってくれたもの。
わたしは料理が苦手だから、こうして作ってもらわないと生きていけない。

瞿麦
「ありがとう、苺ちゃん」

だから、毎日こうやって礼を言う。わたしを献身的に支えてくれているからこそ、こうやってわたしは生きていられるから。


「ありがとう、さっ、食べよう?」

瞿麦
「うん」

瞿麦・苺
「いただきます――」

わたしと苺は、二人で朝ごはんを食べ始めた。


399 名前:Route:B-1 リユニオン:2020/10/19(月) 20:09:03.990 ID:lAYI73BY0

「きょうは早く起きていたみたいだけど、お腹は空いてなかった?」

瞿麦
「ううん、本に夢中だったから……」


「そっか、今日は何の本だったの?」

瞿麦
「今日は、義肢についての本かなぁ……」

パリッとしたトーストや、温かいスープやベーコンエッグ……
新鮮で瑞々しいサラダとジュースは、わたしの鼻腔や舌をくすぐり、
苺の穏やかで優しい声が、心を潤わせる。ああ、この団らんは――悪夢で目覚めたことを忘れさせてくれて、うれしい。

瞿麦・苺
「ごちそうさまでした――」

わたしは使い終わった食器を、流し台に入れ、洗い物を始めた。
かちゃかちゃと鳴る皿の音。じゃばじゃばと跳ねる水の音。いつも通りの平穏な風景……。
料理は出来ないけれど、これぐらいの行動ならわたしにもできるから……。


400 名前:Route:B-1 リユニオン:2020/10/19(月) 20:10:42.730 ID:lAYI73BY0

「瞿麦ちゃん、ありがとう」

瞿麦
「ううん、わたしは料理できないから……苺の助けになればなって」

――蛇口から流れる水の冷たさが、わたしに平穏であることを実感させていた。


「じゃあ、お洗濯してくるから、何かあったらぼくに声をかけてね」

朝食を食べ終わったら、リビングで本を読むのが日課だ。

……わたしの年齢は16歳。けれども、学校には通っていない。

あの場所に行こうとすると、ひどい吐き気と動悸に襲われる。
それは3年前のトラウマが、今を尾を引いているから……。

もちろん、学生の本分である勉強はしている。
……教科書ではないけれど、参考書を読むことで知識を蓄えている。

これが正しい学習方式なのかは分からないけれど、学校……とりわけ教師とは接したくないから。
他者と接することで、知見が広がることは分かっていても……心が、受け付けられないから……。

401 名前:SNO:2020/10/19(月) 20:11:01.008 ID:lAYI73BY0
闇が見えるかも

402 名前:きのこ軍:2020/10/20(火) 09:30:44.973 ID:Q7094Dkk0
ほのぼのパートのぞむ。

403 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:07:31.563 ID:OJPsyr0g0
わたしは、文系と理系でいえば、理系分野のほうが好きだ。
作家が考える、多岐にわたる表現や世界観も面白いけれど、
人々の叡智が集まり、一つの結論が出ている――そういった点が、面白い。

……それに、ロジックを組み立てることも好きというのもある。
何も書かずとも、頭の中で、パズルを解くように組み合わせながら考えることは、すべてを忘れて熱中できる……。


「……ちゃん、瞿麦ちゃん」

……気が付くと、瞿麦に呼ばれていた。

瞿麦
「なに?」


「そろそろ、お昼時……もう12時半だけど、お昼ご飯にしない?」

瞿麦
「えっ?」

面食らったようなわたしは、周りの様子に思考を傾ける。
きょろきょろと視線を動かし、時計を見ると、苺の言った通りの時刻が目に入った。


404 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:08:17.572 ID:OJPsyr0g0
それを認識した途端、わたしのお腹の虫もぐぅと鳴き始め……。

瞿麦
「あ……」

……こういうことは、時々するけれど、やはり年齢を顧みると少し恥ずかしい。
気を許した苺相手でも、それは同じ。わたしの顔はかぁっと熱くなる。


「ふふ、瞿麦ちゃんは集中してて、気が付かなかったんだね」

そんなわたしを、苺は微笑ましげに見ていた。

お昼ご飯……苺特製のスパゲティと、野菜スープ、それから市販のミネラルウォーター。
わたしの日常は、お昼ご飯を食べながら、クリスタル・テレビジョン(CTV)でニュースを見ること。

新聞はとっていないから、情報を得る手段はCTVとなる。
本来ならば、幅広いメディアから見るべきなのだけれど……これにも、事情があるからしかたがない。

CTVは、水晶玉に魔力機構を入れ、魔力に乗せた情報を受信する装置だ。
これが発明されていない時は、メイジ以外が遠くの情報を瞬時に得るのは難しいと言われていた。

でも、現在は技術の発展に伴い、メイジではない存在でも、こうやって平等に情報を享受できる。
そのことも、わたしが理系分野が好きな理由のひとつだった。


405 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:09:59.063 ID:OJPsyr0g0
アナウンサー
「――さて、次のニュースです
 4月1日……今年も【会議所】のメンバーが入所しました
 事務員ほか、兵士として参加するメンバーもおり、【会議所】を運営するメンバーたちも……」

画面の向こうには、世界の中枢と呼ばれる【会議所】――
そして、軍服で新人を出迎える、運営に携わるメンバーたち……。
¢、集計班、黒砂糖、抹茶、B`Z、山本、加古川……献身的に運営に携わるメンバーは、世界にその名を知られている。

……そういえば、画面の向こうにはわたしの兄も居るんだっけ。
……そんなことも聞いたことがある。画面の向こうにはそれらしい姿は見えないけれど。

家族とは、死に別れたり、消息が分からなくなったり……色々なことがあった。
だから、今は……苺が、たったひとりのわたしの家族といえる。


406 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:10:14.885 ID:OJPsyr0g0
アナウンサー
「続いてのニュースです
 国際的テロリスト【嵐】が、ブルボン王朝でテロ行為を行い、重症者11名、軽傷者160名――」

……テロリスト。わたしにとって、遠い存在。
どうして破壊活動をするのだろう。そもそも、戦いたければ【大戦】をすればいいのではないか。
【会議所】には、強者がたくさんいると聞いたことがあるから。

ニュースに思いを馳せながら食事をしていると、かちゃりとスプーンと皿がぶつかる音がした。
気がつくと、わたしは食事を平らげていた。
苺の作った美味しい昼食を、気が付かない間に……なんだか、申し訳なくなって、苺に謝るジェスチャーをする。


「僕のことは、気にしなくてもいいのに
 ニュースを見ている時の瞿麦ちゃんの目は、真剣だから……好きなんだよ」

すこし照れつつもうれしそうに答える苺。その言葉に、わたしの顔はかぁっと熱くなる。
苺は、こうしてわたしを恥ずかしくさせる言葉を紡ぐことが多い。それに慣れないわたしも、わたしだけれど……。


407 名前:Route:B-1 オーディナリー:2020/10/20(火) 23:10:26.490 ID:OJPsyr0g0
瞿麦
「ぅ……」

顔を押さえてみると、指先に熱を感じる。顔に火がつくとは、こういうことなのかと納得してしまう。


「瞿麦ちゃん、お皿は僕が洗っておくから、休んでていいよ?」

瞿麦
「うん……」

恥ずかしくて、わたしは苺の言葉に頷くだけ頷いて、また本を読みにリビングへと戻って行った……。

408 名前:たけのこ軍:2020/10/20(火) 23:10:53.094 ID:OJPsyr0g0
カスの狂気さがないんよ平和なんよ

409 名前:きのこ軍:2020/10/21(水) 20:31:49.087 ID:5kIpooJEo
やっぱり時系列的にはAルートと同じなんだな。
細かなことだけど>>403
> 苺
> 「……ちゃん、瞿麦ちゃん」
>
> ……気が付くと、瞿麦に呼ばれていた。

ここは苺に呼ばれていた、が正しい?

410 名前:たけのこ軍:2020/10/21(水) 23:14:32.940 ID:jGp2O/hE0
>>409
本当ですね ありがたいんよ

411 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:15:11.534 ID:VklBH4xU0
瞿麦
「あっ」

本を読み終えたわたしが顔をあげると、部屋は夕焼けで赤く染まっていた。
……わたしは、夕焼けは嫌いだった。
閉まったカーテンをすり抜けて部屋を赤く染めるそれすらも……どうしても、苦手なのだ。
逃げるように本を机の上に置き、部屋の明かりをつける。

時計に目をやると8時半――もうすぐ、夕食の時間だろうか?
やることもなく、適当なCTV番組をぼーっと見ているうち、苺に呼ばれてキッチンへと足を向けた。

苺手作りのクロワッサンに、サーモンのムニエル、野菜たっぷりのポトフ。
苺の料理レパートリーの広さと、その味には頭が上がらない。

瞿麦
「これも、おいしい」


「ふふ、そう言われると作った甲斐があるなぁ」

なんとなく呟いた言葉で、苺はにっこりとほほ笑む。
その真っ赤な瞳と、桃色の頬は、白い肌によく映えて、わたしは見入っていた。



412 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:16:20.089 ID:VklBH4xU0

「瞿麦ちゃん、ほら、食べて食べて」

わたしの視線に、苺は少し恥ずかしげにわたしに催促した。
昼食の時とは逆。それでも、この平穏な風景はわたしにとって幸せだった。

ここが天国。旅人がいるならばこのような場所を目指すのだろう。
わたしは、意思を持ってここに目指したわけではないけれど……。

413 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:16:41.547 ID:VklBH4xU0
……夕食を終え、わたしはバスルームに入った。
わたしは、一人でシャワーを浴びることが常。それは思春期だからだろうか?
苺と一緒に入ろうとしても、恥ずかしがって入ってくれない。
悪夢を見た時、苺を呼ぼうと、一瞬だけ思ったけれど……眠っている彼女を起こして、恥ずかしがることを強要はしたくはなかった。
相手の状況も顧みようとすることが、二人で一緒に過ごせる理由……わたしはそう思っていた。

――ずきん。
そう納得した瞬間、わたしの頭に電流が走ったような気がする。
それは一瞬だけれど、何なのだろうか?
深く考えると、また悪夢を見た時に心がぶるぶると震えるかもしれないから、やめておこう。

瞿麦
「ふぅ……」

シャワーを浴び終え、長袖のパーカーを着ながら鏡を見ると、わたしの顔はほっとした表情をしていた。
目の下の隈は相変わらずだけれど……それでも、朝の亡者のような貌ではない。


414 名前:Route:B-1 レストフル:2020/10/23(金) 20:17:56.595 ID:VklBH4xU0
……今のわたしの生活は、恵まれている。好きな本で知識を得、平穏に暮らせている。
悪夢を見て、苦しむことははあるけれど……学校に通うという、一般的な道からは外れているけれど……。

それでも、まだ、致命的な境界から踏みとどまれていると思う。

瞿麦
「ふぁ……」

そうこうしているうちに、眠気を催していた……。
あくびが漏れ、とろんと視界が歪み、瞼もゆっくりと重くなった。

朝の4時に起きたからか、夜の9時なのにもう眠い。
わたしはベッドに身を投げ、仰向けになって、考えていた。

瞿麦
(この平穏が、永久に続けばいいのに……
 苺と一緒に、日常をいつまでも……)

そう思いながら、わたしの目蓋は重くなって……。

415 名前:SNO:2020/10/23(金) 20:18:08.489 ID:VklBH4xU0
フラグっぽい文面やめろ

416 名前:きのこ軍:2020/10/24(土) 12:51:01.599 ID:WwT86jJso
永久に続くよきっと()

417 名前:Route:B-2:2020/11/02(月) 20:58:40.712 ID:zQlNnmUI0
Route:B

                 2013/4/8(Mon)
                   月齢:27.3
                    Chapter2


418 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:02:18.929 ID:zQlNnmUI0
――――――。
わたしは、悪夢を見ていた。
それはやはりあいつが出てくる夢で、夕暮れの部屋でわたしはあいつに迫られている。

瞿麦
(いや――やめて――)

助けを求める声も手も誰にも届かない。ただ、欲望に顔をゆがませた醜い存在だけがそこに存在するのみ。
理性という殻が欲望という災厄があふれ出るのを防いでいるのだとしても――
あいつは、その理性そのものに殻がなかったのだ。

そして、愚かなるわたしはそれに気が付くことなく――
今まで、その手にかかった哀れな生贄のように――

瞿麦
「っ――」

――わたしは、また悪夢を見て、早朝と言うには早い時間に目覚めた。
ばくばくと鳴り響く鼓動と、ぐっしょりと溢れた寝汗……。
あまりの気分の悪さに、脳が眠る姿勢にも入っていない……。

わたしは、そのまま起きていることにした。

419 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:06:39.133 ID:zQlNnmUI0
……それが、一週間後の朝の始まりだった。
時間は7時19分……苺が珍しく寝坊をしていて、わたしは何となく玄関の郵便ポストを見に行った。

そこには一枚の手紙があった。
差出人は――アイローネ・フェルミ。

……その名前を見てぴくっ、と身体が一瞬震えた。

瞿麦
「兄さん……?」

そこには――わたしの兄の名前が記されていた。
とはいえ兄と顔を合したのはずいぶんの前のことで、手紙でのやりとりすらもなかった。

当然ながら、ここに住んでいることを伝えていなかった……。

瞿麦
「……どうして、わたしの住所を知っているの?」

ぽつりと、疑問をこぼしても、答えるものはいない。

びくびくしながら、きょろきょろと辺りを見回したけれど……そこにあるのは、辺り一面の森が広がるばかり。
木々のざわめきとさわやかな風と、鳥のさえずり――平穏な光景があるだけだった。

誰もいない……気配すらも感じられない。


420 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:13:29.557 ID:zQlNnmUI0
瞿麦
「どうしてわたし宛に手紙が……?」

ここにある手紙だけが、異物のようにも思える。
わたしは差出人の名前をじっと見ていた。

この家は、森の中にぽつんと立った隠れ家のようなものだ……。
食料などの日用品の調達は、静さんという知り合いの女性にしてもらっているけれど……。

そこで、ふと一つの仮説を思いついた。

瞿麦
「静さんのところを通じて、わたしに――?」

静さんの家は、鍛冶屋。知る人ぞ知る――そんな店ではあるものの、意外とさまざまな機関との交流はある。
世界の中枢樽【会議所】もその技術に感銘を受け、協力している。
仕事の過程で様々な情報も集まってくるとも聞いたことがあるから、その繋がりで……。

瞿麦
「待って、それだとわたしが静さんと関わりがある理由をどうして知ってるの?」

しかしわたしの導いた仮説は、振り出しに戻った。
静さんはこの家を隠れ家として用意してくれたのだ。
仮に兄が静さんと何らかの接点があったとして、その場所をあっさりと教えるだろうか。

彼女は、職人気質なところがあるけれど、約束事は守ってくれる人なのだ。

改めて、手紙を眺める。正体不明のそれはわたしを動揺させる存在そのものなことに違いはない。
そもそも、この手紙が本当に兄からのものかもわからない……。

421 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:15:10.827 ID:zQlNnmUI0
わたしは、この手紙をどうしよう……。

手紙をパーカーのポケットにしまい、しばらく廊下をうろうろして……。
結局、わたしは部屋に戻って、封筒を開け、手紙を読むことにした。

「瞿麦へ
 ――何年も、会えなくて申し訳なかった

 あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
 名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた

 それは、彼女を救う為でもあった」

瞿麦
「――っ!」

その文面を途中まで読んで、頭痛がわたしを襲った。
痛みに、思わず手紙を握りしめてしまい、整然と折りたたまれた手紙はくしゃりと潰れてしまった。

手紙の字は、確かに……見覚えのある兄の字だった。
いいや、差出人の字も同じなのだから、わたしはどこか頭で否定していたのかもしれない。

よく知るその字の連なり――ああ、これは兄からの手紙なのだと、否定することはできなくなったのだ。


422 名前:Route:B-2 フォービデン・レター:2020/11/02(月) 21:19:17.900 ID:zQlNnmUI0
瞿麦
「はぁ……」

納得していた、けれども……わたしはそこで立ち止まってしまった。
この先を読んで、わたしに何か利があるのだろうか。
否定したいものを、無理に読む必要があるのだろうか。

当然、そのあとの文面も、続いている――けれども、読む気にはなれない。
その手紙を読むと、今の平穏が崩れてしまうような気がしたから……。

丁度その時、こんこんと部屋のドアがノックされた。


「瞿麦ちゃん、ごめんね
 お寝坊して、今起きたの――簡単な朝ごはん作るから、起きてたら出てきてほしいな」

――苺が部屋を訪ねた。
時間は7時49分。
わたしにとって無限にも近かったけれど――それだけしか経っていなかった。

瞿麦
「すぅーー、はぁーーー」

深呼吸を一つ。わたしが今できること――それは――。

瞿麦
「うん、起きてる……今出るね」

くしゃくしゃになった手紙を机の中に放り込み、素知らぬ顔でドアを開けた。
そしてわたしは朝食を食べて、いつもの日常を過ごすのだ……。

423 名前:SNO:2020/11/02(月) 21:19:42.210 ID:zQlNnmUI0
いったい誰からの手紙なのだろう

424 名前:きのこ軍:2020/11/02(月) 21:25:44.690 ID:hwYNJ6rwo
謎が深まるーー。互いに想像するの楽しくていいですね

425 名前:Route:B-2 ヨーガ:2020/11/08(日) 21:45:58.419 ID:r/jg5VW60
苺の作ってくれたおいしい朝食を食べ終え、わたしは苺と運動をすることにした。


「少しは体動かさないと、将来、身体の色々なところにガタがきて困っちゃうよ?
 ……だから、一緒に運動しよう?少し運動するだけでも、気分転換にもなるよ?」

わたしと苺が一緒に住み始めてすぐのこと……。
部屋の中に閉じこもりがちだったわたしに、諭すように、苺がそう言ったことがあった。

その言葉が、わたしを心配してのことであるのはすぐにわかった。
気分転換になるのは間違いないし、運動ももともと嫌いではなかったから、わたしはその言葉をまっすぐに受け止めた。

……今回も、気分転換のために、運動をするのだ。
不安の種たる、わたし宛の手紙から離れるために……。


426 名前:Route:B-2 ヨーガ:2020/11/08(日) 21:48:23.236 ID:r/jg5VW60
庭は、こじんまりとしているが、わたしと苺の二人だけで考えれば、過分に十分ぐらいの広さだった。
二人でできる運動……と言っても、マットを敷いてヨーガ体操をするぐらいだけれど……。

瞿麦
「んーっ」


「うん、瞿麦ちゃん、いい感じだよ」

身体を伸ばしたり曲げるわたしを、教本を読みながら苺が見てくれている。
足をぴったりと伸ばしながら、身体を曲げようとすると、けっこう苦しい。

始めはあまりの痛さに逃げ出したくなったけれど、苺が献身的に支えてくれていたからか、なんとか続いている。
……閉じこもりがちで初めはがちがちに固まって動かなかった身体は、少しずつ柔軟にほぐれ、
今では第三者が見ても体が柔らかいというほどには改善されてきた。

それに……改めて思うと、わたしは運動神経がいいと褒められていた記憶があった。
だから、効果が大きく出ているのだろうか?

……昔は、楽しく運動もしていないような気がする。
もう過ぎ去った、世間をちっとも知らない愚かな昔――。
外敵を知らない獲物のころに――。

427 名前:Route:B-2 ヨーガ:2020/11/08(日) 21:51:30.709 ID:r/jg5VW60

「はい、お疲れ様!次は僕の番だね」

――どれぐらい、ヨーガ体操に取り組んでいただろうか。
ぱん、と手を叩く音と共に、苺の声が耳に届いた。
どうやら集中していたらしく、時間の経過も忘れていたらしい。

身体を動かしての疲労感はあまり感じ取れない。
これなら、休憩をしなくても苺の体操を手伝える。

瞿麦
「苺ちゃん、行くよ」


「うん、いつでもお願い」

空からは太陽がわたしたちを照らしていた。

……太陽の光は苦手だけれど、雲間に遮られているからなんとか大丈夫。
最も、こうやって運動する時以外では、あまり日光には当たらないのだけれど。

瞿麦
「右腕をもう少し、ぴんと張るように伸ばして――」


「んんんっ――いたっ、たっ」

苺が、わたしの指示に従って、身体を曲げたり、伸ばしたり。
苺はあまり運動が苦手ではなく、同じ時間こうして体操を続けているのに、わたしよりも体は柔らかくなっていなかった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

428 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 21:55:04.600 ID:r/jg5VW60
???
「おや――今日は、庭にいるのか」

わたしたちがヨーガ体操を終え、中庭の椅子に座って飲み物を飲んでいると……静さんが、わたしたちに声をかけた。


「おはよう――いつもの、買い出し分だ」

紙袋に入った食べ物や、洗剤や、石鹸などの日用品を、どっと玄関先に置く音が聞こえた。
わたしたちは、静さんのところへ駆け寄った。

静さんは、わたしの家に食べ物や日用品を持ってきてくれている女性だ。

身長は170cmを越え、苺のような白い髪と、苺とは違う漆黒の眼球と青白い瞳。
普段の鍛冶仕事で引き締まった身体をし、ツナギを着ていることからもクールさを感じさせる。


429 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 21:57:25.469 ID:r/jg5VW60
わたしに、色々なことがあって引き取ってもらってから、ずっとお世話になっている。


「あ、静さん!おはようございます 
 いつもいつも、ありがとうございます」

瞿麦
「どうも……ありがとう、ございます」

はきはきと答える苺と、対照的に少し詰まるわたし。
苺以外の相手には、あまり流暢に話すことができない……そのことも、苺に憧れる一因だった。


「私の店は、普段通りだ――
 君たちの方は、何か変わったことはあるか?」

瞿麦
(――!)

その言葉に、心当たりはあった。しかし……言いだしたくはない。
兄からの手紙。相談すれば楽になるかもしれないけれど、何故か隠し通してしまいたい。

わたしは、袖に隠れた手をひそかにぐっと握り、ごくりと固唾をのみながら、押し黙っていた。


430 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 22:49:07.818 ID:r/jg5VW60

「ええ、特にはありません……【嵐】が暴れているのがすこし怖いぐらいですかね?」

普段、静さんと会話するのは苺……わたしは、ときどき苺の言葉に追従するように頷くばかり。
――それで、いい。余計に何か口出しをしたら、隠していることが公になって、この平穏が崩れるかもしれないのだから。


「確かに――1週間前、ブルボン王朝でテロ行為というニュースもあったからね」


「この辺りは、辺境の地で何もないから……まず心配はいらないだろうけれど、
 私の店は武器の材料を取り扱っていることにもなるからね……」

静さんの店――【月輪堂】は、兵器のパーツや刀――そういったものを製作している小さな鍛冶屋だ。
私たちの住む家から、20分も歩いたところにある。
規模は小さくても、その鍛冶技術の高さは指折りのために高い評価を得ており、意外なところとも顔が利くという。


431 名前:Route:B-2 ダンデライオン:2020/11/08(日) 22:50:21.887 ID:r/jg5VW60

「また、2週間後にお願いしますね」


「ああ――君たちのことは、彼女からも承っているからな」

ぺこりとお辞儀をする苺……それにならって、わたしも深々と頭を下げる。
静さんは、軽く会釈をしながら、後ろで結んだ髪を揺らせながら、その場を立ち去って行った。

瞿麦
「……わたしとは大違いだな」

静さんの頼れる後ろ姿と比較して、わたしは自信を卑下していた。


「瞿麦ちゃんは、勉強家で、運動センスもある優しい子だよ……
 そんなに、自分を悪く言わないで」

慣れた口調で、わたしの背中を優しくさすりながら苺は答えた。
……わたしは、自分を卑下することが多い。手首やらなにやら……肉体を傷つけるまでには至らないけれど……。

……もしかしたら、わたしは苺に構ってほしいから、自分自身を蔑んでしまうのかもしれない。
早熟だったわたしの身体によって、人生が狂ったから……わたしはこうなってしまったのかな……。

そう思いながらも、わたしはいつもの日常に――本を読んで、苺と暮らす日々に戻った。

432 名前:SNO:2020/11/08(日) 22:50:40.606 ID:r/jg5VW60
魔王様にシトラスされないヨシ!

433 名前:きのこ軍:2020/11/08(日) 22:56:28.565 ID:JT93nRnIo
まだ平和ですね。

434 名前:Route:B-3:2020/11/10(火) 21:52:24.454 ID:24pHL/FI0
Route:B

                 2013/4/10(Wed)
                   月齢:29.3
                    Chapter3

435 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 21:55:25.764 ID:24pHL/FI0
――――――。

わたしは夢を見ていた……。

???
「服を脱いで見せてごらん……」

今にして思えば、欲望を隠さない醜く惨たらしい表情を、あいつはしていた……。

わたし
「はい」

……でも、当時のわたしはそれを見分ける審美眼を持っていなかった。
素直にその言葉に従ってしまったものだから、わたしは絶望の淵に立たされることになったのだ。

わたし
「……」

そして――わたしの意識はその光景から離れてゆく……。
それは夢の世界から逃れるため?

今見ている世界は、現在(いま)わたしの身の回りに起きていることとは異なる。
だから、この景色は遠ざかりさえすれば、これ以上何も思うこともなく……。

436 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 22:02:24.689 ID:24pHL/FI0
瞿麦
「……はっ」

幼いわたしの意識は、いつのまにか今のわたしに切り替わっていた。

現在の時間は7時21分……日付は4月10日、水曜日。

瞿麦
「今日は……第二水曜日」

カレンダーを見ながら、わたしは呟いていた。
隣では苺が朝食を準備してくれている。わたしは……悪夢のためか、本を読む気も起きず、
ただなんとなくカレンダーを眺めてみたり、苺を見守ったりしていた。


「今日も、静さんのところで頑張らなきゃね」

慣れた手つきでベーコンエッグを作りながら、苺が答える。

瞿麦
「うん」

そんな他愛もない会話が、悪夢で淀んだわたしの心を徐々に癒してくれる。
――平和だ。この生活は、ずっとずうっと……死ぬまで続けたいぐらい。

第2水曜と、第4水曜は、静さんの鍛冶屋でお手伝いをする日だ。
朝食を終え、一段落ついたわたしたちは、靴を履き、森を進み……目的の場所【月輪堂】へと向かう。

437 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 22:08:10.878 ID:24pHL/FI0
その場所はわたしたちの家から歩いて20分……苺と手をつないで、日傘を差して森の中を往く。
空から射す日差しは、日傘と木の葉に遮られ、わたしたちを少し照らすだけ。


「……瞿麦ちゃんの手は、いつもふわふわで温かいね」

瞿麦
「……そう、かな」


「うん、そうだよ……手袋越しにでも伝わるよ」

歩きながら、苺はそう言いながら少し顔を赤らめた。
その照れた表情は、可愛らしく……同時に、苺の言葉がわたしの心をどきりとさせる。

瞿麦
「そ、そうかな……」

恥ずかし気に、わたしに対して可愛らしく告げる苺を見ると、心が少しあわただしくなる。
慣れた苺相手でも、しどろもどろな答えになってしまう……。

わたしは、苺に……家族以外の感情を持っていた。
苺のことが、好きだと――それは、恋愛感情なのかもしれない……。

でも、それを苺には言えなかった。
それを告げることは、苺との距離感を変えることになってしまう。

――そして、いま享受している平穏が崩れてしまう。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

438 名前:Route:B-3 ホールド・ハンズ:2020/11/10(火) 22:11:16.561 ID:24pHL/FI0
瞿麦
「あ、着いた……」

しばらくして、月輪堂の前に辿り着いた。
瓦屋根の、木造の建物。月輪堂の立て看板も脇に置かれている。
何度も訪れた場所だから間違えることはない。

ここは、鍛冶工房だけではなく、接客カウンター、倉庫、それから数人が住まえる居住スペースと、意外と広い建物だったりもする。
最も、いま住んでいるのは2人だけれども……。

……それについて思いを馳せても、何もない。
わたしたちは、がらがらと引き戸を開け、店内へと入っていった……。

439 名前:Route:B-3 コスモス:2020/11/10(火) 22:13:24.439 ID:24pHL/FI0

「おはよう、二人とも」

可愛らしい声がわたしたちの耳に届いた。

静さんのように、白髪、黒眼、青白い瞳をしたおかっぱ頭の女性――
縁さんが、カウンターでわたしたちを出迎えてくれた。

にこりと笑うその天真爛漫な笑顔は、わたしや苺よりも小さな――というよりは、幼い体に似合った可憐なものだった。


「おはようございます、縁さん」

瞿麦
「おはよう、ございます」

もっとも……縁さんは、見た目が幼いだけで、わたしや苺よりもずっと年上。
だから、苺もわたしも、丁寧な言葉遣いであいさつをしている。


「ふふ、今日もあなたたちは仲が良くてうらやましい」

からかうような縁さんは、楽しげな表情を見せていた。
それは、その幼い外見に似合わず、ティーンエイジャーたちのやり取りに近いものがあった。


440 名前:Route:B-3 コスモス:2020/11/10(火) 22:16:24.928 ID:24pHL/FI0

「そんな、からかわないでくださいよ、もぉ」


「あたしと静だって、初めのころは似たような感じだったからねぇ」


「ふふ、その話は何度も聞かせてもらってますよ」


「ふふ、何度でも自慢したいからねぇ〜」

にこやかに返す苺と、楽しげに語らう縁さん。わたしは、そのやり取りを見守るだけ……。
――静さんや縁さんは、わたしたちに色々なものを与えてくれる恩人だけれど、それでも流暢にコミュニケーションはとれない。


「静さんとは、どんなデートを……」


「ふふ、静はあまり女の子女の子しない子だからねぇ、遊園地とかも苦手だし……
 あたしと一緒に出掛けるのは気に入ってるみたいなんだけどねぇ」

――わたしは、盛り上がる二人の中には入ることはできなかった。

441 名前:Route:B-3 コスモス:2020/11/10(火) 22:18:01.518 ID:24pHL/FI0
……いつの時だろう、わたしが他人と距離をとるようになったのは……。

それは、きっと……あの悪夢から。
世界の汚さを、欲望のおぞましさを小さな魂魄で知ったその日から……。

悪夢のことを思い出してしまい、身震いして両腕を握った。
――どうやら、会話に夢中になっているため、ふたりはわたしの震えに気が付いていないらしい。
余計に心配されたくないから、好都合かもしれないけど。


「瞿麦ちゃんは、いつもぼくのことを褒めてくれて……」


「それだけ、貴女が瞿麦に……」

――それから、数十分にわたる二人の会話を、わたしはただ置物のように聞いていた。

442 名前:SNO:2020/11/10(火) 22:18:33.884 ID:24pHL/FI0
シズフチ(まだ二人の会話がない)

443 名前:きのこ軍:2020/11/10(火) 22:50:41.573 ID:/aLX9FlEo
ぬるりと闇がきましたね。

444 名前:Route:B-3 ワーキング:2020/11/11(水) 21:04:21.260 ID:hBokkH.I0
会話もたけなわ……わたしたちは、指定の場所についていた。


「じゃあ、今日もいつもの作業をやってもらうわね」

そう言うと、縁さんは魔術の詠唱を始め、式神を召喚するための詠唱を始めた。
式神、それは魔術で生み出した人工的な生物のこと。使い魔と呼ぶものも居るが……。

なんにせよ、それを操るのは並みのメイジでは難しい――。
何しろ、一人で二人分の動作を行うことになるからだ。
――以前、メイジに関する本を読んだときに学んだ事柄の一つだ。

ぼうんと――煙が立ち、それが晴れた場所には……
わたしたちの前には、すっかり顔なじみな――縁さんよりも背の高い、ミノタウロスのような式神が現れた。

式神は部屋の向こうに行ったかと思うと、箱に入った袋詰めの部品をどかっと机の上に置いた。


「これに、それからこれに……」

縁さんが指を差し、式神を操るたびにさみるみるうちに箱の数が増えていった。
机の上は、あっという間に十数個のダンボール箱でいっぱいになった。


445 名前:Route:B-3 ワーキング:2020/11/11(水) 21:09:32.086 ID:hBokkH.I0

「今日の検品のお手伝い、お願いするわね」

そして、縁さんは納入先と部品のリストをわたしたちに渡した。
わたしたちは、仕分け作業のお手伝いをして、賃金を得ている。
実働時間は月に2日だけれど……それでも、日数に対しては貰い過ぎなぐらいには貰っている。


「トニトルス・フェラム、義肢用の部品……」

月輪堂は、シズさんとフチさんしかいない。だから、納入する商品を作るのにも時間がかかる。
それでも、その正確さや技術を見込む人が多い。
それだけ評価されているということなのだけど、わたしには実感がない……。

それでも、この作業はわたしの日々の一部として取り込まれている。


「きのたけ会議所、銃器のトリガー……」

……初めは慣れない作業だったけれど、続けているうちに、作業もすいすいと出来るようになってきて、
今では何も心配することはない。

苺の淡々と資料を読み上げる声を背景に、わたしは仕分け作業を続けた……。

瞿麦
(会議所――メイジ用ロッドの魔力増幅パーツ……)

部品を見ながら、わたしはメイジに思いを馳せていた……。
メイジ――魔術を操ることのできる存在で、生まれながらに魔力を蓄える才能を持っている。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

446 名前:Route:B-3 ワーキング:2020/11/11(水) 21:14:00.344 ID:hBokkH.I0

「縁さんの魔術って、ぼく感動してるんです
 大戦でも活躍できそうですね?」


「評価してくれるのはうれしいけれど――あたしは興味ないわ
 ――もともと、この幼い身体で、やいのやいの言われるのが嫌でね」


「あ……」


「いいのよ、あたしのことを子ども扱いしない方が、ずっと好感が持てるから
 それにね……あたしのこの技術は、護身術、兼日常生活のサポートに過ぎないから
 友達に、ずっと昔に教えてもらったにすぎないから――」

――その時の、縁さんの少し寂しそうな声は、印象深い出来事でもあった。

447 名前:Route:B-3 ワーキング:2020/11/11(水) 21:17:14.124 ID:hBokkH.I0
わたしには、何の才能があるのだろう。
……分からない。手を動かし、納品先と商品を合致していることを確認しながらも、思考はネガティブになり、沈んでいく。

苺は、毎日様々な料理をごちそうしてくれるから、料理の才能があるだろう。
静さんは、鍛冶師としての才能がある。
一人で、十数箱分の様々なものを作ることが出来るのは、機械の力があってもなお、経験と才能に依る部分が多いだろう。
縁さんは、メイジとしての才能がある。だからこそ、式神を召喚することが出来る……。


「――これで、終わり
 瞿麦ちゃんも、終わったね」

瞿麦
「あ――うんっ」

――気が付くと、作業はすべて終わっていた。
すっかり検品されきった部品が、出荷可能な状態になって部屋に並んでいる。

瞿麦
「すーっ、はぁーっ」


「ふーっ」

――わたしたちは一息ついた。
作業に集中していたから、全身に余計な力まで入っていたのだろう、
一呼吸するうちにその見えない力が霧散していくように思えた。

448 名前:Route:B-3 ワーキング:2020/11/11(水) 21:18:49.214 ID:hBokkH.I0

「――終わったようだね、有難う、二人とも」

その時、静さんが、わたしたちの前に現れ、軽く会釈をした。
彼女は、わたしたちが仕分けをしている間も、鍛冶に勤しんでいた。

だから、こうして作業が終わるまでは顔を合わすことはない。
いつも顔を合わすのは、このタイミングになる。


「二人とも、助かったわ
 いつも通り、ここでご飯を食べてから帰る?」

その隣で、にっこりと笑顔を浮かべた縁さんが、わたしたちに言葉をかける。
ふたりは、こうやってわたしたちのことを気遣ってくれている。
その一つが、わたしたちの食料と生活必需品の買い出しだ。

これほどまでに、手厚くわたしたちを助けてくれる……わたしは、このふたりのような素敵な女性になれるのだろうか。


「いえいえ、こちらこそ――
 お言葉に甘えて、いつも通り、ごちそうになります」

苺の円滑な会話を聞きながら、わたしは苺の後ろで頷いていた。

449 名前:Route:B-3 ディナー:2020/11/11(水) 21:28:02.045 ID:hBokkH.I0
――縁さんの手料理もまた、苺のように丁寧に作られた手料理。
ご飯に、焼き魚に、味噌汁に、大根の漬物に、野菜のおひたし――それから、淹れ立ての麦茶。

合掌をして、いただきます――の一言を交わし、四人で席を囲んで夕食を始めた。


「この時間は、4人で食べられるから、新鮮で好きよ、うふふ」


「食事の団欒が、あまりにも日常生活の一部になっているから、ついつい見過ごしてしまうけれど……
 改めて見返せばその通りだね」

軽口のやりとり――ふたりの間には、家庭を持ったパートナーの関係でもあった。
二人の間には、性別の壁というものはない。

それは、とても尊く、素敵な関係にも思えた。


450 名前:Route:B-3 ディナー:2020/11/11(水) 21:30:39.824 ID:hBokkH.I0

「縁さん、この焼き魚ってどのように――」


「ああ、これ?これはね……」

瞿麦
「………」

一方で、わたしは――会話に参加できずに、ただ黙々とご飯を食べるだけ。
苺以外には、コミュニケーションをとることが苦手だから……どうしても、能動的に会話に参加できない。


「瞿麦――調子はどうだい」

瞿麦
「あっ、はい――元気、です」


「前、会ったときは少し顔色が優れなかったようだけど――
 何か、あったかい?」

瞿麦
「……いいえ、いつもの、悪夢を見ただけです」

探るような静さんの質問に、たどたどしく、わたしは答えた。
……本当は別の理由があるけれども、それは話したくない。

でも、あの日も悪夢を見ていたのだから嘘にはなっていない。
だから、問題ない――と、わたしは自分を諭した。

451 名前:Route:B-3 ディナー:2020/11/11(水) 21:33:20.326 ID:hBokkH.I0


「……そうか、口出ししてすまないね」

静さんは、一瞬考えこんだが、すぐに納得したように頷いた。


「まぁ、何か気になることがあれば、私たちに相談して構わない
 ずっと溜め込むのも、心身ともによくない……程々で、肩の力を抜いて話してくれても問題はない」

わたしの様子を見て、気遣いながら微笑む静さんの表情に、わたしは少し安堵を覚える。
……とはいえ、多少はこの姿勢は改善すべきなのだろうけれど……。

静さんは、再び椀に入ったご飯を食べ始めた。


「……そういえば、このお味噌汁って……御出汁は……」


「ふふ、この味は静が好きだから……」


「ん?それは縁の好みだったような気が……」

三人の会話は弾み、わたしはその様子を眺めるだけ。
……それでもいい。わたしは、この団欒を見ているだけで、ほっとした気持ちになる。
少なくとも、自分の欠点ばかりを思い続けたり、トラウマをぶり返して心が沈むよりは健全だ。

……やがて、食事が終わり、わたしたちは帰路へ向かうことになった。


452 名前:Route:B-3 ディナー:2020/11/11(水) 21:35:02.849 ID:hBokkH.I0

「お疲れ様――また物資の方も適宜届けるよ」


「ふふ、また再来週ね」


「お世話になりました、また再来週もお願いします」

瞿麦
「お願いします……」

静さんと縁さんへの苺の言葉としぐさに、わたしも追従する。
……つくづく、わたしは自発的にはなれない。
一歩退いて、相手の出方を待ってしまう……。昔は、こうではなかったけれど……。

店を出て、空を見上げると――そこに、月は出ていなかった。
新月……完全に沈んだ朔――はじまりの月。

その夜闇の下を、わたしと苺は手をつないで、その後ろを静さんが見守りながら帰路についた。
また、明日からは……ふたりだけの日常が始まる。

瞿麦
(何事もなく、平穏に過ごせたらいいな)

心の中でそう思いながら、わたしたちは帰路を進んだ……。

453 名前:SNO:2020/11/11(水) 21:35:34.899 ID:hBokkH.I0
ようやくシズフチが揃ったので魔王様もニッコリだと思うんよ

454 名前:きのこ軍:2020/11/11(水) 21:46:33.103 ID:/1lMJAooo
負のオーラが出始めてるのは気のせいか。

455 名前:Route:B-4:2020/11/13(金) 20:34:32.389 ID:dInl3LVU0
Route:B

                 2013/4/13(Thu)
                   月齢:2.7
                    Chapter4

456 名前:Route:B-4:2020/11/13(金) 20:35:38.260 ID:dInl3LVU0
Route:B

                 2013/4/13(Sat)
                   月齢:2.7
                    Chapter4
>>455の曜日を間違えていたので訂正)

457 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:41:35.525 ID:dInl3LVU0
――――――。

わたしは夢を見ていた。

相変わらずあいつに迫られる夢。
そもそも、相談するにせよ……同性にすべきだったのだ。
どうしてわたしは考えが及ばなかったのだろう。

たとえ子供でも………。
それぐらいの結論に、たどり着くべきだったのに……。

後悔という感情が、この夢を見るわたしの中にあふれる。
決してやり直すことのできない事柄……。

吐き戻しそうなぐらいの息苦しさ……そして……。

458 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:45:13.830 ID:dInl3LVU0
鳥のさえずりで、わたしは目を覚ました。
――虫の知らせか、予感があってわたしはポストへと向かった。

瞿麦
「やっぱり……」

この場面に至ることを、わたしはなんとなく予期にしたのかもしれない。
……それはわたし宛の手紙だった。
差出人は、わたしの兄――アイローネ・フェルミ――。
一旦、その手紙を部屋に戻し……
苺と朝食をとった後、自室でわたしは手紙の取り扱いに頭を悩ませていた。

アイローネ……それは、灰色の身体を持つアオサギを意味する言葉。
灰色は、曖昧な境目を示す色でもある。

白黒どちらでもない、グレーゾーンがまさにその通りであるように……。

【会議所】は、グレーゾーン……わたしは、そう思っていた。

確かに、この世界の流れをコントロールする――そういった指針は、白と呼べるのかもしれない。
……けれども、そのコントロールの為に戦うことは、白なのだろうか。

戦いという行為は、歴史上必ず避けては通れないものだ。
しかし、血が流れ、悲劇を生むことも多い行為。

【大戦】は、参加者の死はあり得ない仕組みになっているが――
それでも、戦うという行為そのものが苦手だという人物もいる。

戦うという一つの事柄だけでも、意見が割れる。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

459 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:46:24.670 ID:dInl3LVU0
この手紙は、何故だか苺には見られたくない。
見られたら、都合が悪いから?それとも……開けてはいけないパンドラの箱だから……?
しかし、パンドラの箱ならば……絶望の果てに、最後に希望が残っているはずだけれど。

瞿麦
「どうしよう……」

わたしは、封筒から手紙を出してみる。
結局、前に貰った手紙は、くしゃくしゃにしてから先を読んではいない。

その手紙を読んだ方がいいのだろうか。それとも――
結局、わたしは手紙を読むことにした。

「瞿麦へ
 ――何年も、会えなくて申し訳なかった

 あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
 名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた

 それは、彼女を救う為でもあった」

瞿麦
「……!」

その文面に、ぎょっとした。
思わず、この前の手紙を取り出して……文面が一言一句違わず、同様であることを確認した。

460 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:48:44.622 ID:dInl3LVU0
瞿麦
「……嫌、見たくない」

砂を無理矢理飲ませられたように、わたしには息が詰まる感覚があった。

そのあとに続く文章から目を逸らし、手紙を封筒に入れて机の中に放り込んでしまった。
灰色の鳥が運んできた手紙……どうして、同じ文面をわたしに寄越すのか。

……彼女を救う……それって、どういうこと……。

瞿麦
「くぁっ!」

突然、頭痛がわたしを襲った。初めてこの手紙を読んだ時のように。
……わたしは、【彼女】について……考えたくない。

瞿麦
「はぁ、はぁ、はぁ……」

荒くなる息。じわりと滲む汗……。
わたしは、明らかにその手紙に対して強い警戒心を覚えている。

――それは、平穏の崩壊につながるから。
シンプルな結論だ。ならば、どうすればいいのか。それもわかっている。

461 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:49:55.647 ID:dInl3LVU0
瞿麦
「はぁ……はぁ……
 よし、手紙なんて来てない、手紙なんて来てない……」

結局、わたしはその手紙について考えることをやめた。
この気を紛らわすためにはどうしたらいいのだろう――そう思ってから、今日が土曜日……【大戦】の日であることに気が付いた。

瞿麦
「数時間後の、大戦を見て気を紛らわそうかな」

――【大戦】は、CTVでも生中継される。
気を紛らわす目的なら十分。毎回展開が違うのだから、それに注目するだけでも何かの刺激になるだろう。

わたしは、リビングで本を読みながら、【大戦】の刻を待つことにした。

462 名前:SNO:2020/11/13(金) 20:50:26.406 ID:dInl3LVU0
手紙は再び…

463 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 22:42:50.906 ID:dInl3LVU0
瞿麦
「うーん」

なんとなく、時計を見やった。
時刻は12時45分……。大戦開始時刻に近い時間。


「あっ、もうそろそろで大戦の時間だね」

苺もそれに気が付いたのか、CTVを点けた。
――前回の大戦は、本に夢中で見ていなかったからどんな内容だったのかは知らない……。


「前回は、きのこ軍の、新人さん――しかも、女の人が獅子奮迅の活躍を見せていたんだよ」

――そんなわたしの心を読んだのか、苺が補足してくれた。

瞿麦
「へぇ、そうなんだ」


「的確に相手を狙撃する姿が、かっこよかったんだよ」

嬉し気に語る苺に、わたしは少し嫉妬心を覚えた。

わたしは……メイジの才能もなくも武術の心得もないただの女……。
その人物と比べればはるかに差があるだろう……。


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

464 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 22:44:44.333 ID:dInl3LVU0
13時ちょうどが、【大戦】の始まる時間。
とはいえ、中継局はその30分前から大戦に関する放送を始めている。

どのチャンネルを回しても、大戦に関する内容の番組が流れていた。

アナウンサー
「4月13日の大戦は、今年度新しく入った兵士にとっては2戦目に……」

……4月1日――今年度の兵士が入所した映像が流れている。
わたしは、それを……ぼうっと見ていた。


「今年もいっぱい人がいるね……」

苺は興味深そうにその光景を見ていた。
……CTVの向こうでは兵士たちが集まり、大戦用のバッヂを受け取っている光景が映し出されている。

大戦場に浮かぶ魔力を動力源とする機械が、その様子を撮影し各放送局に送信している……。
様々な角度からの戦況の投影……俯瞰的な状況の把握……
わたしはその光景を、ただなんとなく……見つめていた。


465 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 22:49:55.431 ID:dInl3LVU0
集計班
「ファイエルッ!」

――そして、合図の声とともに、戦いが始まった。
実況や解説の声とともに、老若男女を問わず軍服を着た兵士が武器や魔術やらで戦いを始める。
荒野に広がる大戦場には砂ぼこりが舞っていた……。

戦況は、はじめはきのこ軍が優勢だったが、怒涛のたけのこ軍の攻勢に優位性がひっくり返っていた。
先手をとったきのこ軍兵士の爆撃攻撃も、たけのこ軍が倍返しを決め……わたしは、世の中のままならなさを覚えていた。

そんな中……先週の大戦でも活躍をしていたという新人兵士が、衛生兵として粘る立ち回りを見せていた。


「がんばれ、新人さん、がんばれっ」

その様子に、苺は両手に力を入れながら応援していた。
一方、わたしは――新人という立場なのに、他の新人兵士との立ち振る舞いの良さが違う……そんなことを思っていた。

――さて、件の新人兵士に対抗するたけのこ軍の銀髪の兵士がそこに居た。
名前は筍魂……。飄々としながらも、その堂々とした立ち振る舞いには底知れなさが、画面越しからも見て取れた。

466 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 23:00:50.859 ID:dInl3LVU0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍25%、たけのこ軍20%です」

そして、その新人兵士の粘りが活きたのか、優位は再びひっくり返った。

――映像越しに、新人兵士と筍魂は未だ拮抗している。
新人兵士は、筍魂が撃ち出した石の弾丸を咄嗟に撃ち落としていた――これだけでも、技量的にはとんでもないことだろう……。


「すごい、すごいっ……ほかのみんなも頑張って!」

全身でエールを送る苺……わたしは、そんな気持ちになれない。
どうしてだろう。わたしは大戦に興味がない?
……それでも、目の前の新人兵士の一挙手一投足は気分転換になるから、完全に興味がない――ということはないだろう。

集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍18%、たけのこ軍12%です」

しかし、その瞬間――映像は別の場所を映した。
そこではたけのこ軍の制圧兵長が再び獅子奮迅の活躍を見せていた。きのこ軍兵士はその勢いに飲み込まれ次々と崩れ落ちる。

それは一瞬の出来事だった。


「あーっ、大変、大変っ」

苺の慌てる声と仕草を横目に、
わたしは優位はもろくはかないものなのだと――分かったように悟っていた。


467 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 23:09:33.116 ID:dInl3LVU0
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍4%、たけのこ軍5%です」

そして優位は再びひっくり返った。
新人兵士と筍魂のふたりは互いにねめつける様に向かい合い――仕掛けた攻撃をうまく受け流しながら、対峙していた…。

いったい二人の行く末はどうなるのだろう。わたしの中に興味の炎が灯る。

集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は3%でした――」

だが、その瞬間に終戦のアナウンスが告げられた。
わたしの中にあった興味と言う名の火は、あっさりと消えてしまった。


「〜〜〜っ、惜しかったなぁ」

悔し気な苺の声。それほどまでに熱中できる――わたしはその様子が羨ましく思えた。
今、少しだけその種が見えたような気がしたけれど……それも泡沫の夢に過ぎなかった。

さて、たけのこ軍の連勝と――画面には表示されていた。
4月の勝利はこれで2度目ということになるそうだ。
画面越しでは、きのこ軍兵士は悔しそうに、たけのこ軍兵士は歓喜に打ち震える様子が流れていた。

……しかし、件の新人兵士はそのどちらでもない様子を見せていた。
顔は凛々しさを感じさせる。プラチナブロンドの髪とブルーの瞳。すらりと長いモデルのような身長。

名前は――竹内 乙海。
――だが、残念ながらそこで大戦場を映す中継が終わり……CTVの中では、実況や解説者が感想を言い合っていた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

468 名前:Route:B-4 パルピテーション:2020/11/13(金) 23:11:50.436 ID:dInl3LVU0
それから、わたしはいつものように本を読み……夕ご飯を食べて、シャワーを浴びる代り映えのないまま一日を過ごしていた。

しかし……なんとなくニュースを見ながら、寝るまでの時間を過ごしていると……。

アナウンサー
「速報です、果汁組刑務所に【嵐】が攻め入り、一部の囚人が脱走したとのことです」


「……瞿麦ちゃん、怖いね」

洗濯物を干し、背中を見せながら苺は言った。

果汁組刑務所はわたしたちの住む明治国の刑務所の一つ。
……わたしたちの住む家は、町から遠く、隠れ家のような立ち位置にあるから、刑務所近郊と比べれば安心だろうけど、不安は少し出てくる。

アナウンサー
「脱走した囚人については、既に指名手配がかけられ、顔写真が提示されています
 周辺住民の皆さんには、発見次第通報し、決して捕まえようと――」

画面には、脱走した囚人の顔写真がずらずらと並んでいた。
すべて、男……わたしは男が苦手だから、顔をしかめて目を逸らす。
……動悸も激しくなったような気がする。これ以上、見続けたら……心が……


469 名前:Route:B-4 パルピテーション:2020/11/13(金) 23:13:09.672 ID:dInl3LVU0
瞿麦
「――っ」

ずらずらと並ぶ男たちの顔は、厳つかったり、下劣だったり、汚らしかったり……こんなものを見たら、夢見が悪くなる。
というより、もうすでに気分が悪い。
すぐに、ぽちっと、CTVのリモコンを押し、電源を消した。

それでも、心臓の鼓動は治まらない。
どうしてだろう……やはり、鎖で繋がれた囚人が外界に解き放たれたことが、ショックなのだろうか。


「瞿麦ちゃん、怖かったの……?」

心配するような苺の声。振り向くと、わたしの横にいつの間にか立っていた。

瞿麦
「うん、少し……」

いつの間にか汗ばんでいた手を、ハンカチで拭いながらそう答える。


「瞿麦ちゃん、大丈夫……この家には誰も来ないから、ね?」

瞿麦
「あっ」

その時、ぎゅうっと、苺に抱きしめられて、背中を優しく撫でられた。
石鹸のいい匂い……やわらかくてふわふわした身体の感触……

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

470 名前:Route:B-4 パルピテーション:2020/11/13(金) 23:15:30.561 ID:dInl3LVU0

「瞿麦ちゃん……落ち着いた?」

密着して、苺の表情も見えない。
それでも……落ち着いたことに変わりはない。

瞿麦
「うん――もう、大丈夫」

小さな声で、わたしは頷いた。


「何か、怖いことがあったら……一緒に居てあげるから、ね?」

そして、苺は洗濯物を干しに戻った。
……そう、何も怖がり過ぎる必要はない。
ここは安全性も高く、苺も一緒に居てくれるのだから。

だから、気を張りすぎる必要はない。
言い聞かせるように、心の中でそう唱えながら、わたしは再びCTVを点けた。

アナウンサー
「……桜の花も散りつつありますが、今桜の咲いている地域が……」

もう、脱獄のニュースは終わったようだ。
心をかき乱す要因もない。もう、大丈夫……。確かに、大丈夫。

わたしは、寝るまでの時間、ずうっと、ぼーっとしながらニュースを眺めていた。

471 名前:SNO:2020/11/13(金) 23:15:44.200 ID:dInl3LVU0
禁断の1日2度投稿

472 名前:きのこ軍:2020/11/13(金) 23:46:01.466 ID:tGND5G2Ao
アイローネが誰だか気になりますね。

473 名前:Route:B-5:2020/11/14(土) 20:44:40.585 ID:vvIydI2Q0
Route:B

                 2013/4/14(Sun)
                   月齢:3.7
                    Chapter5

474 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:45:59.126 ID:vvIydI2Q0
――その朝、わたしは朝を寝過ごした。
……昨日の、囚人脱走事件がショックだったのだろうか。

それが、良くなかったのかもしれない。
今朝も……兄からの、アイローネ・フェルミからの手紙が来ていた。

――そしてその手紙は……わたしではなく、苺が回収していた。


「おはよう、瞿麦ちゃん――
 手紙が届いてるよ?」

瞿麦
「――!」

元気で、穏やかな苺の声にあるその単語……。
寝ぼけて希薄な意識は、手紙という単語を聞いたとたん突如鮮明になり、
口の中がからからに乾いた感触を覚えた。同時に、だらりとした冷や汗が背中を流れた。


475 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:48:16.985 ID:vvIydI2Q0
瞿麦
「それは……」

瞿麦
(駄目、その手紙を……見ないで)

手を伸ばそうとしても、手が動かない。
言葉にしようとしても、呂律が回らない。
あまりの不安さに、あまりの恐怖に――わたしの心身は凍り付いていた。


「瞿麦ちゃん、大丈夫……?」

不意に、苺が近づいた。
わたしの額に苺の額がくっつく。苺の体温が肌を通じて感じ取れる……。
それでも……わたしは、心ここにあらずだった。

今、わたしの意識は――不安材料である手紙に集中していた。


「……熱はないみたいだけれど、急に起きたから体調が悪いのかな?」

そう言って苺は手紙に目をやった。

――違う。そうじゃない。
わたしの叫びは言葉にならなかった。

476 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:50:52.453 ID:vvIydI2Q0

「確か……アイローネは、お兄ちゃんだったかな?
 瞿麦ちゃんのために、開けておくね」

――待って!そう声を出そうとしても、身体の中にセメントを流し込まれたかのように、一切の行動ができない。

そして、わたしが抵抗できないうちに……。


「瞿麦へ
 ――何年も、会えなくて申し訳なかった」


「あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
 名前と姿を変えて、会議所で兵士として過ごしてきた」


「それは、彼女を救う為でもあった」

相変らずの文面。わたしが目を逸らした先を、苺は躊躇なく読んでいた……。


「私がこの手紙を出すのも、三度目。
 恐らく――瞿麦がこの手紙を読むのは、何度かこの手紙を受け取ったころになるだろう」

瞿麦
「―――っ!」

兄はわたしが手紙を隠そうとすることも見通していた。
同時に、その文面は隠した手紙の存在を示唆する事にもなっていて……。


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