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S-N-O The upheaval of iteration
- 1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
- 数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。
初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。
――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。
【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。
これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。
目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。
ワタシガ 見ルノハ
真 偽 ト
虚 実 ノ
世 界
- 458 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:45:13.830 ID:dInl3LVU0
- 鳥のさえずりで、わたしは目を覚ました。
――虫の知らせか、予感があってわたしはポストへと向かった。
瞿麦
「やっぱり……」
この場面に至ることを、わたしはなんとなく予期にしたのかもしれない。
……それはわたし宛の手紙だった。
差出人は、わたしの兄――アイローネ・フェルミ――。
一旦、その手紙を部屋に戻し……
苺と朝食をとった後、自室でわたしは手紙の取り扱いに頭を悩ませていた。
アイローネ……それは、灰色の身体を持つアオサギを意味する言葉。
灰色は、曖昧な境目を示す色でもある。
白黒どちらでもない、グレーゾーンがまさにその通りであるように……。
【会議所】は、グレーゾーン……わたしは、そう思っていた。
確かに、この世界の流れをコントロールする――そういった指針は、白と呼べるのかもしれない。
……けれども、そのコントロールの為に戦うことは、白なのだろうか。
戦いという行為は、歴史上必ず避けては通れないものだ。
しかし、血が流れ、悲劇を生むことも多い行為。
【大戦】は、参加者の死はあり得ない仕組みになっているが――
それでも、戦うという行為そのものが苦手だという人物もいる。
戦うという一つの事柄だけでも、意見が割れる。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 459 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:46:24.670 ID:dInl3LVU0
- この手紙は、何故だか苺には見られたくない。
見られたら、都合が悪いから?それとも……開けてはいけないパンドラの箱だから……?
しかし、パンドラの箱ならば……絶望の果てに、最後に希望が残っているはずだけれど。
瞿麦
「どうしよう……」
わたしは、封筒から手紙を出してみる。
結局、前に貰った手紙は、くしゃくしゃにしてから先を読んではいない。
その手紙を読んだ方がいいのだろうか。それとも――
結局、わたしは手紙を読むことにした。
「瞿麦へ
――何年も、会えなくて申し訳なかった
あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた
それは、彼女を救う為でもあった」
瞿麦
「……!」
その文面に、ぎょっとした。
思わず、この前の手紙を取り出して……文面が一言一句違わず、同様であることを確認した。
- 460 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:48:44.622 ID:dInl3LVU0
- 瞿麦
「……嫌、見たくない」
砂を無理矢理飲ませられたように、わたしには息が詰まる感覚があった。
そのあとに続く文章から目を逸らし、手紙を封筒に入れて机の中に放り込んでしまった。
灰色の鳥が運んできた手紙……どうして、同じ文面をわたしに寄越すのか。
……彼女を救う……それって、どういうこと……。
瞿麦
「くぁっ!」
突然、頭痛がわたしを襲った。初めてこの手紙を読んだ時のように。
……わたしは、【彼女】について……考えたくない。
瞿麦
「はぁ、はぁ、はぁ……」
荒くなる息。じわりと滲む汗……。
わたしは、明らかにその手紙に対して強い警戒心を覚えている。
――それは、平穏の崩壊につながるから。
シンプルな結論だ。ならば、どうすればいいのか。それもわかっている。
- 461 名前:Route:B-4 カルセオラリア:2020/11/13(金) 20:49:55.647 ID:dInl3LVU0
- 瞿麦
「はぁ……はぁ……
よし、手紙なんて来てない、手紙なんて来てない……」
結局、わたしはその手紙について考えることをやめた。
この気を紛らわすためにはどうしたらいいのだろう――そう思ってから、今日が土曜日……【大戦】の日であることに気が付いた。
瞿麦
「数時間後の、大戦を見て気を紛らわそうかな」
――【大戦】は、CTVでも生中継される。
気を紛らわす目的なら十分。毎回展開が違うのだから、それに注目するだけでも何かの刺激になるだろう。
わたしは、リビングで本を読みながら、【大戦】の刻を待つことにした。
- 462 名前:SNO:2020/11/13(金) 20:50:26.406 ID:dInl3LVU0
- 手紙は再び…
- 463 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 22:42:50.906 ID:dInl3LVU0
- 瞿麦
「うーん」
なんとなく、時計を見やった。
時刻は12時45分……。大戦開始時刻に近い時間。
苺
「あっ、もうそろそろで大戦の時間だね」
苺もそれに気が付いたのか、CTVを点けた。
――前回の大戦は、本に夢中で見ていなかったからどんな内容だったのかは知らない……。
苺
「前回は、きのこ軍の、新人さん――しかも、女の人が獅子奮迅の活躍を見せていたんだよ」
――そんなわたしの心を読んだのか、苺が補足してくれた。
瞿麦
「へぇ、そうなんだ」
苺
「的確に相手を狙撃する姿が、かっこよかったんだよ」
嬉し気に語る苺に、わたしは少し嫉妬心を覚えた。
わたしは……メイジの才能もなくも武術の心得もないただの女……。
その人物と比べればはるかに差があるだろう……。
苺
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 464 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 22:44:44.333 ID:dInl3LVU0
- 13時ちょうどが、【大戦】の始まる時間。
とはいえ、中継局はその30分前から大戦に関する放送を始めている。
どのチャンネルを回しても、大戦に関する内容の番組が流れていた。
アナウンサー
「4月13日の大戦は、今年度新しく入った兵士にとっては2戦目に……」
……4月1日――今年度の兵士が入所した映像が流れている。
わたしは、それを……ぼうっと見ていた。
苺
「今年もいっぱい人がいるね……」
苺は興味深そうにその光景を見ていた。
……CTVの向こうでは兵士たちが集まり、大戦用のバッヂを受け取っている光景が映し出されている。
大戦場に浮かぶ魔力を動力源とする機械が、その様子を撮影し各放送局に送信している……。
様々な角度からの戦況の投影……俯瞰的な状況の把握……
わたしはその光景を、ただなんとなく……見つめていた。
- 465 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 22:49:55.431 ID:dInl3LVU0
- 集計班
「ファイエルッ!」
――そして、合図の声とともに、戦いが始まった。
実況や解説の声とともに、老若男女を問わず軍服を着た兵士が武器や魔術やらで戦いを始める。
荒野に広がる大戦場には砂ぼこりが舞っていた……。
戦況は、はじめはきのこ軍が優勢だったが、怒涛のたけのこ軍の攻勢に優位性がひっくり返っていた。
先手をとったきのこ軍兵士の爆撃攻撃も、たけのこ軍が倍返しを決め……わたしは、世の中のままならなさを覚えていた。
そんな中……先週の大戦でも活躍をしていたという新人兵士が、衛生兵として粘る立ち回りを見せていた。
苺
「がんばれ、新人さん、がんばれっ」
その様子に、苺は両手に力を入れながら応援していた。
一方、わたしは――新人という立場なのに、他の新人兵士との立ち振る舞いの良さが違う……そんなことを思っていた。
――さて、件の新人兵士に対抗するたけのこ軍の銀髪の兵士がそこに居た。
名前は筍魂……。飄々としながらも、その堂々とした立ち振る舞いには底知れなさが、画面越しからも見て取れた。
- 466 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 23:00:50.859 ID:dInl3LVU0
- 集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍25%、たけのこ軍20%です」
そして、その新人兵士の粘りが活きたのか、優位は再びひっくり返った。
――映像越しに、新人兵士と筍魂は未だ拮抗している。
新人兵士は、筍魂が撃ち出した石の弾丸を咄嗟に撃ち落としていた――これだけでも、技量的にはとんでもないことだろう……。
苺
「すごい、すごいっ……ほかのみんなも頑張って!」
全身でエールを送る苺……わたしは、そんな気持ちになれない。
どうしてだろう。わたしは大戦に興味がない?
……それでも、目の前の新人兵士の一挙手一投足は気分転換になるから、完全に興味がない――ということはないだろう。
集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍18%、たけのこ軍12%です」
しかし、その瞬間――映像は別の場所を映した。
そこではたけのこ軍の制圧兵長が再び獅子奮迅の活躍を見せていた。きのこ軍兵士はその勢いに飲み込まれ次々と崩れ落ちる。
それは一瞬の出来事だった。
苺
「あーっ、大変、大変っ」
苺の慌てる声と仕草を横目に、
わたしは優位はもろくはかないものなのだと――分かったように悟っていた。
- 467 名前:Route:B-4 ウォッキング・ウォー:2020/11/13(金) 23:09:33.116 ID:dInl3LVU0
- 集計班
「ただいまの戦力差は、きのこ軍4%、たけのこ軍5%です」
そして優位は再びひっくり返った。
新人兵士と筍魂のふたりは互いにねめつける様に向かい合い――仕掛けた攻撃をうまく受け流しながら、対峙していた…。
いったい二人の行く末はどうなるのだろう。わたしの中に興味の炎が灯る。
集計班
「きのこ軍の兵力が0%となったので、終戦となります――たけのこ軍の残兵力は3%でした――」
だが、その瞬間に終戦のアナウンスが告げられた。
わたしの中にあった興味と言う名の火は、あっさりと消えてしまった。
苺
「~~~っ、惜しかったなぁ」
悔し気な苺の声。それほどまでに熱中できる――わたしはその様子が羨ましく思えた。
今、少しだけその種が見えたような気がしたけれど……それも泡沫の夢に過ぎなかった。
さて、たけのこ軍の連勝と――画面には表示されていた。
4月の勝利はこれで2度目ということになるそうだ。
画面越しでは、きのこ軍兵士は悔しそうに、たけのこ軍兵士は歓喜に打ち震える様子が流れていた。
……しかし、件の新人兵士はそのどちらでもない様子を見せていた。
顔は凛々しさを感じさせる。プラチナブロンドの髪とブルーの瞳。すらりと長いモデルのような身長。
名前は――竹内 乙海。
――だが、残念ながらそこで大戦場を映す中継が終わり……CTVの中では、実況や解説者が感想を言い合っていた。
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- 468 名前:Route:B-4 パルピテーション:2020/11/13(金) 23:11:50.436 ID:dInl3LVU0
- それから、わたしはいつものように本を読み……夕ご飯を食べて、シャワーを浴びる代り映えのないまま一日を過ごしていた。
しかし……なんとなくニュースを見ながら、寝るまでの時間を過ごしていると……。
アナウンサー
「速報です、果汁組刑務所に【嵐】が攻め入り、一部の囚人が脱走したとのことです」
苺
「……瞿麦ちゃん、怖いね」
洗濯物を干し、背中を見せながら苺は言った。
果汁組刑務所はわたしたちの住む明治国の刑務所の一つ。
……わたしたちの住む家は、町から遠く、隠れ家のような立ち位置にあるから、刑務所近郊と比べれば安心だろうけど、不安は少し出てくる。
アナウンサー
「脱走した囚人については、既に指名手配がかけられ、顔写真が提示されています
周辺住民の皆さんには、発見次第通報し、決して捕まえようと――」
画面には、脱走した囚人の顔写真がずらずらと並んでいた。
すべて、男……わたしは男が苦手だから、顔をしかめて目を逸らす。
……動悸も激しくなったような気がする。これ以上、見続けたら……心が……
- 469 名前:Route:B-4 パルピテーション:2020/11/13(金) 23:13:09.672 ID:dInl3LVU0
- 瞿麦
「――っ」
ずらずらと並ぶ男たちの顔は、厳つかったり、下劣だったり、汚らしかったり……こんなものを見たら、夢見が悪くなる。
というより、もうすでに気分が悪い。
すぐに、ぽちっと、CTVのリモコンを押し、電源を消した。
それでも、心臓の鼓動は治まらない。
どうしてだろう……やはり、鎖で繋がれた囚人が外界に解き放たれたことが、ショックなのだろうか。
苺
「瞿麦ちゃん、怖かったの……?」
心配するような苺の声。振り向くと、わたしの横にいつの間にか立っていた。
瞿麦
「うん、少し……」
いつの間にか汗ばんでいた手を、ハンカチで拭いながらそう答える。
苺
「瞿麦ちゃん、大丈夫……この家には誰も来ないから、ね?」
瞿麦
「あっ」
その時、ぎゅうっと、苺に抱きしめられて、背中を優しく撫でられた。
石鹸のいい匂い……やわらかくてふわふわした身体の感触……
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- 470 名前:Route:B-4 パルピテーション:2020/11/13(金) 23:15:30.561 ID:dInl3LVU0
- 苺
「瞿麦ちゃん……落ち着いた?」
密着して、苺の表情も見えない。
それでも……落ち着いたことに変わりはない。
瞿麦
「うん――もう、大丈夫」
小さな声で、わたしは頷いた。
苺
「何か、怖いことがあったら……一緒に居てあげるから、ね?」
そして、苺は洗濯物を干しに戻った。
……そう、何も怖がり過ぎる必要はない。
ここは安全性も高く、苺も一緒に居てくれるのだから。
だから、気を張りすぎる必要はない。
言い聞かせるように、心の中でそう唱えながら、わたしは再びCTVを点けた。
アナウンサー
「……桜の花も散りつつありますが、今桜の咲いている地域が……」
もう、脱獄のニュースは終わったようだ。
心をかき乱す要因もない。もう、大丈夫……。確かに、大丈夫。
わたしは、寝るまでの時間、ずうっと、ぼーっとしながらニュースを眺めていた。
- 471 名前:SNO:2020/11/13(金) 23:15:44.200 ID:dInl3LVU0
- 禁断の1日2度投稿
- 472 名前:きのこ軍:2020/11/13(金) 23:46:01.466 ID:tGND5G2Ao
- アイローネが誰だか気になりますね。
- 473 名前:Route:B-5:2020/11/14(土) 20:44:40.585 ID:vvIydI2Q0
- Route:B
2013/4/14(Sun)
月齢:3.7
Chapter5
- 474 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:45:59.126 ID:vvIydI2Q0
- ――その朝、わたしは朝を寝過ごした。
……昨日の、囚人脱走事件がショックだったのだろうか。
それが、良くなかったのかもしれない。
今朝も……兄からの、アイローネ・フェルミからの手紙が来ていた。
――そしてその手紙は……わたしではなく、苺が回収していた。
苺
「おはよう、瞿麦ちゃん――
手紙が届いてるよ?」
瞿麦
「――!」
元気で、穏やかな苺の声にあるその単語……。
寝ぼけて希薄な意識は、手紙という単語を聞いたとたん突如鮮明になり、
口の中がからからに乾いた感触を覚えた。同時に、だらりとした冷や汗が背中を流れた。
- 475 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:48:16.985 ID:vvIydI2Q0
- 瞿麦
「それは……」
瞿麦
(駄目、その手紙を……見ないで)
手を伸ばそうとしても、手が動かない。
言葉にしようとしても、呂律が回らない。
あまりの不安さに、あまりの恐怖に――わたしの心身は凍り付いていた。
苺
「瞿麦ちゃん、大丈夫……?」
不意に、苺が近づいた。
わたしの額に苺の額がくっつく。苺の体温が肌を通じて感じ取れる……。
それでも……わたしは、心ここにあらずだった。
今、わたしの意識は――不安材料である手紙に集中していた。
苺
「……熱はないみたいだけれど、急に起きたから体調が悪いのかな?」
そう言って苺は手紙に目をやった。
――違う。そうじゃない。
わたしの叫びは言葉にならなかった。
- 476 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:50:52.453 ID:vvIydI2Q0
- 苺
「確か……アイローネは、お兄ちゃんだったかな?
瞿麦ちゃんのために、開けておくね」
――待って!そう声を出そうとしても、身体の中にセメントを流し込まれたかのように、一切の行動ができない。
そして、わたしが抵抗できないうちに……。
苺
「瞿麦へ
――何年も、会えなくて申し訳なかった」
苺
「あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
名前と姿を変えて、会議所で兵士として過ごしてきた」
苺
「それは、彼女を救う為でもあった」
相変らずの文面。わたしが目を逸らした先を、苺は躊躇なく読んでいた……。
苺
「私がこの手紙を出すのも、三度目。
恐らく――瞿麦がこの手紙を読むのは、何度かこの手紙を受け取ったころになるだろう」
瞿麦
「―――っ!」
兄はわたしが手紙を隠そうとすることも見通していた。
同時に、その文面は隠した手紙の存在を示唆する事にもなっていて……。
- 477 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:52:48.872 ID:vvIydI2Q0
- 苺
「瞿麦ちゃん……そんな手紙来てたの?」
素朴な疑問を浮かべた苺は、わたしに、きょとんとした顔で尋ねた。
苺にとっては些細な質問なのかもしれないけれど……わたしにはまるで罪状を詰問されているようにも思えた。
瞿麦
「……」
その言葉に何も答えられないでいると、苺は心配そうにわたしを見つめる……。
その目は、優しい。けれども、今のわたしにとっては鋭い矢のように、バジリスクの瞳のように……わたしに突き刺さる。
苺
「瞿麦ちゃん……?」
瞿麦
「ぅ……」
わたしの態度に、苺は心配する素振りを見せる。
苺と目を合わせたくない……そんな意識が、見なくてもいいのに手紙の隠し場所に目線をやってしまった。
苺
「……?」
そして苺は、わたしの目線の方を向いて、手紙を隠した机の引出しを開けた……。
なすすべなく、くしゃくしゃの手紙や封筒に入ったままの手紙が取り出された。
彼女の手にはそれらが収まっている。
白い手に収まったそれはわたしにとって凶賊の持つ得物に見えた。
- 478 名前:Route:B-5 ディスカバード:2020/11/14(土) 20:58:12.932 ID:vvIydI2Q0
- 苺
「…………」
それを、苺は見ていた。
背中越しで、表情は分からない……けれども、少なくともわたしに対して肯定的な態度ではないように見えた。
瞿麦
「……いや、いやだ、いやだ」
……わたしは、堪えきれずに……ひどく身勝手で、独りよがりに、拒絶する言葉を漏らした。
瞿麦
「いや、いや、いや……見ないで……
見ないで、見ないで、見ないで、見ないで」
心のままに、漏れる言葉。
凍り付いた身体が、この期に及んでようやく動き出した。
このわたし全てが、恨めしいとまで思った。
どうして――平穏を崩すことをさせたがるの?
どうして――どうして――。
- 479 名前:Route:B-5 デザーディング:2020/11/14(土) 21:01:22.741 ID:vvIydI2Q0
- 苺
「瞿麦ちゃん……」
心配そうに、わたしの顔を覗きこむ苺。
それは心配?同情?軽蔑?わからない。わたしには苺が今なにを考えているのかわからない。
その場の空気に耐えきれなくなる。
わたしは、苺に、いま心にある感情をぶつけた。
瞿麦
「その手紙を、見ないで――お願い――
見たら、苺ちゃんとふたりきりの、ささやかな幸せがなくなりそうだから――」
苺
「……瞿麦ちゃん」
わたしは、泣いていた。
心は割れた窓ガラスのように負の感情が散らばっているように思える。
瞿麦
「嫌だ、いやだ――もう、わたしは平穏な日常のまま、ずっとずっと居たいの……」
逃げるように……わたしは毛布に身をくるみ、ベッドの上でがたがたと震えた。
甲羅に首を引っ込めた亀のように。
……平穏 が 崩れ て し ま っ た。
わたしのせいで。わたしがもう少し早く起きれば。
果汁組のニュースを見なければ。こんなことには、ならなかった、のに……。
- 480 名前:Route:B-5 デザーディング:2020/11/14(土) 21:07:06.753 ID:vvIydI2Q0
- 苺
「……ごめんね、瞿麦ちゃん
隠し事はよくないって思って手紙を漁ってしまったけれど、それは僕の価値観であって……
他者に押し付けるべきではないのに、瞿麦ちゃんに押し付けちゃった」
悲しげに苺の謝罪する声が聞こえた。
……わたしは、なんてことを言ってしまったの?
わたしのほうが自分勝手で、苺の気持ちを考慮していない……
それを心の中では分かっているのに、口から本音が漏れてしまった……。
平穏を崩す愚かしい行為を……。
苺
「……また、来るね」
沈んだ苺の声とともに、ぱたんと、部屋の扉が閉じる音がして、それからは物音ひとつなかった。
わたしは一人、孤独に部屋の中に居た。
瞿麦
「……どうして?どうしてこんなことに……」
瞿麦
「どうして……」
わたしは、ベッドの上で、さなぎのようにただ縮こまりながら、泣いていた。
毛布という名の、柔らかい殻。
わたしは、その殻に包まれた兄からの手紙から逃げている存在……。
- 481 名前:Route:B-5 デザーディング:2020/11/14(土) 21:08:46.847 ID:vvIydI2Q0
- わたしは、溜め息をつき、とりとめのない考えを浮かべていた。
――どうして、こんなにも意固地になって、苺といさかいを起こしたの?
――そもそも、どうしてわたしは手紙を読みたくないの……?
――わたしは、色々な事から目をそらして、この生活を選んでいるの?
瞿麦
「……わたしは、同じ過ちを繰り返してしまった」
言葉が漏れる。こうして何かを呟いて、わたしは何かを吐き出そうとしているの?
――でも、そうしていてもわたしの心には澱が溜まり、濁った感覚になって……自己嫌悪に陥っている。
瞿麦
「なんで、どうして……」
ただ……同じ言葉を漏らすばかり。思考は出口のない袋小路に迷い込んだように、きっぱりとした答えを導き出せない。
瞿麦
「っ……っ……」
自然と涙が漏れ出た。
それは悔しさからか、あるいはただ悲愴な感情によるものか。
……わからないし、わかりたくもない。
ただわたしは、その場で泣き続けていた。
- 482 名前:Route:B-5 デザーディング:2020/11/14(土) 21:11:01.630 ID:vvIydI2Q0
- ……どれだけ、時間が経ったのだろう。いつしか、夕陽が部屋に射していた。
わたしは、よろよろと、ベッドから這い出た。
ただ身体をベッドの中に包ませるだけでも、辛くなったから……。
その時……こん、こんとノックの音が聞こえた。
苺
「……瞿麦ちゃん、きっと今、はぼくと顔を合わせない方がいいと思う
心が落ち着くまで――ぼくは待ってるから」
苺
「瞿麦ちゃんのご飯は、床に置いておくから……
食べ終わったら、部屋の前に置いてくれたらいいからね」
そして、かちゃりと食器とお盆が置かれる音が聞こえ、苺が立ち去って行く音が続いた……。
……わたしは、全てから逃げて……ただ、最低限生存だけしている。
前にも、そんなことがあったような気もするが……思考に靄がかかって、それももう分からない。
わたしは、気配がないことをのを確認してドアを開けた。
……床に置かれた苺の作った手料理。こんな状況でも、心を込めた素晴らしい食べ物であることに違いはない。
なんて、いい子なんだ。
どうしてこんなわたしにも優しくしてくれるの?
――わたしは、どうしようもない、卑屈なサナギにすぎないのに。
部屋に食事を持ち込んで、わたしはそれを口にした……。
苺の気持ちが入っているはずなのに、わたしは何も味を感じることなく……
――ただ、咀嚼して飲み込むだけしかできなかった。
- 483 名前:SNO:2020/11/14(土) 21:11:15.891 ID:vvIydI2Q0
- 平穏とはいったい・・・
- 484 名前:きのこ軍:2020/11/14(土) 21:22:06.173 ID:Nga8Pd86o
- ふさぎ込みがち。
- 485 名前:Route:B-6:2020/11/15(日) 13:02:18.685 ID:4pI0uKSU0
- Route:B
2013/4/17(Wed)
月齢:6.7
Chapter6
- 486 名前:Route:B-6 ナイトメア:2020/11/15(日) 13:04:36.683 ID:4pI0uKSU0
- ――――――。
わたしは、夢を見ていた。
視線の先で、一人の少女が小学校の制服を着て楽し気に部屋を跳ねまわっていた。
???
「パパ、学校はまだ?まだかな?」
ふわりとした金色の髪が揺れる……その横で、同じく金髪の……わたしの父がにっこりと少女に微笑んだ。
父
「まだ2月だからね……もうちょっと我慢だ」
パパと呼んでいるのなら、少女は……わたしの妹、なのだろうか。
???
「小学校――楽しみだなぁ、どんな場所なんだろうなぁ」
無邪気にはしゃぐ少女は、制服を着て、部屋の中をぐるぐると回っていた。
- 487 名前:Route:B-6 ナイトメア:2020/11/15(日) 13:11:39.495 ID:4pI0uKSU0
- 父
「似合っているね」
父さんは、あの子の制服姿をやさしい笑顔で褒めた。
――わたしは、置物のように、ただその光景を見ていた。
???
「おねえちゃん、どお?」
にこっとした笑顔で、少女はわたしに話を振った。
おねえちゃん――その言い回しなら、その少女はわたしの妹?
――でも、学校……その言葉を聞くだけで、わたしの心はぞわぞわとした感触になる。
気分が悪い。吐き戻しそうだ。わたしはこの先の光景を見たくない。
夢の中なのに、わたしは必死で目を瞑り、眼前の景色から逃れようとする。
暗黒が視界を包む。
その向こうではどす黒いしぶきが視界に張り付いていた。
そのしぶきは弾けてはまた張り付くことを繰り返していた。
- 488 名前:Route:B-6 ナイトメア:2020/11/15(日) 13:15:07.340 ID:4pI0uKSU0
- 瞿麦
「うるさいっ、話しかけないで!学校なんて、楽しくないの!」
――しかし、それでも、音は消すことはできなかった。
激高するわたしの声と――。
???
「う……ぅ……うああああぁぁぁっ……」
泣き叫ぶ少女の声――。
その二つの声で、わたしは跳び起きた。
瞿麦
「はっ、はっ、はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ――」
ひどい息切れ。汗もひどい。
心臓が末期的なぐらいに跳ねる。猛り狂うような焦燥感が全身をがくがくと震えさせる。
瞿麦
「っ……うっ……あぁ……」
わたしは、泣いていた。
それは、夢のせい?……思い出したくないものを見たから……?
今は――いつだろう。
それすらも分からない。……時間の感覚はぐちゃぐちゃで、夜というだけしかわからない。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 489 名前:SNO:2020/11/15(日) 13:15:19.114 ID:4pI0uKSU0
- 不穏は続く
- 490 名前:きのこ軍:2020/11/15(日) 13:22:19.840 ID:YpaUy5SQo
- 悲しき過去あり。
- 491 名前:Route:B-7:2020/11/15(日) 22:11:25.462 ID:4pI0uKSU0
- Route:B
2013/4/24(Wed)
月齢:13.7
Chapter7
- 492 名前:Route:B-7 ガーデニア:2020/11/15(日) 22:18:03.285 ID:4pI0uKSU0
- ――――――。
それから……どれだけ経ったのだろう。
【大戦】の日が途中にあったけれど、わたしはそれを見る事もなく……ほぼ、部屋に閉じこもっていた。
部屋から出るのは、トイレと、シャワーと……それから、喉が渇いた時ぐらい。
それも、苺に見つからないように……こっそりと、影に隠れながらで、知らず知らずに神経をすり減らしていた。
……今日もまた、眠れない。
前々から、睡眠のリズムがおかしくなっていた。寝る時間が遅くなり、起きる時間が遅くなる。
その悪循環が続いていた。
そのため、五感もボロボロになり、苺のご飯も、味を感じられない……ただ温度だけがわかるだけ。
まるで死人のような生活をしていたからか、身体に錆が出たように……歩く度に、がくがくと足が震えるまでになった。
- 493 名前:Route:B-7 ガーデニア:2020/11/15(日) 22:27:54.540 ID:4pI0uKSU0
- 瞿麦
「……はぁ、はぁ」
息苦しさを抱えたまま、わたしはこの数日間生活していた。
それは、肉体的だけではなく、精神的なもの……この家で暮らすことも、息苦しい。
あの手紙が来てから……平穏だと思っていた日常は、あっけなく消えた。
……わたしは、どうすべきだったのだろうか。
――そういえば、明日……いいや、今日は第四水曜日……【月輪堂】へ行く日だった気がする……どうすればいいんだろう。
様々な悩みが頭を包み、どうにも思考がまとまらない。
一度、外に出て気分を変えてみる事にした。
中庭から見上げる月は、まだ満ちてはいない。けれども……数日のうちに、じきに満ちそうな月が空に浮かんでいた。
月光を浴びていると、わたしの中にたまる何かをすこし洗い流してくれる感覚がある。
その月をしばらく見ていると、不意に物音が聞こえた。
- 494 名前:Route:B-7 ガーデニア:2020/11/15(日) 22:34:10.894 ID:4pI0uKSU0
- 瞿麦
「?」
わたしは、きょろきょろと辺りを見回してみる……が、誰も居ないし、何もない。
気のせいなの?……精神的な息苦しさに疲れていて、幻聴を覚えたの?
当然、家の中にも苺以外に誰もいない。
わたしは、月を見上げるために、再び中庭の方向を向くと――。
???
「…………」
そこには――白髪の人物が、佇んでいた。
その表情は、長い髪に隠れて見えない。右側でサイドテールが揺れているけれど、性別すらも分からない……。
黒い服に黒い手袋をしているから――まるで、影のような人物、そう思えた。
瞿麦
「――――っ!?」
何時の間に?そもそも、誰なの?……どうして、此処に!?
混乱するわたしに、白髪の人物は、わたしの傍に歩み寄り……。
???
「――まやかしの平穏は、泡沫のように儚く
――まことの不穏は、闇のように永久に」
――中性的な声で、語りかけられた。
まるで、わたしに謎かけをしているかのようにも思える。
- 495 名前:Route:B-7 ガーデニア:2020/11/15(日) 22:36:32.818 ID:4pI0uKSU0
- ???
「……目を背けたい、忘却したい――すなわち、己が逃げようと考える記憶は、たいてい、2つに分かれる
己に過失があるか、ないか――」
???
「後者の場合は、思い出さなければいい――客観的に見て、自分に非がないと判断できるものであれば――
しかし、前者の場合は――たとえ苦しくても、逃げてはいけない」
一言一言が、鉛のように重々しくわたしに紡がれた。
まるで諭すような言葉にも思えた。
???
「貴女は、曲がりなりにも女神の血を引く存在――
今の貴女は眠り姫かもしれない――けれども、逃げないで立ち向かう意思は深層にあるはず――」
空を見上げながら、白髪の人物は一方的に続けた。
わたしの態度など、何一つとして観察していないかのように……。
瞿麦
「……あなたは……だれ?」
一方的に試されるかのような言葉を受けて、わたしの思考は追いつかない。
ようやく出た言葉は、名前を聞くだけだった。
それが、紡ぐことのできた精いっぱいの言葉だった……。
- 496 名前:Route:B-7 ガーデニア:2020/11/15(日) 22:39:03.883 ID:4pI0uKSU0
- 燕虎
「朔燕虎(シャオ・イェンフー)――」
意外にも……答えは返ってきた。
答えは返ってこないと想定していたのに……わたしと対話するだけの感情は持っているということ?
燕虎
「……逃げる行為が必ずしも間違いではない
しかし逃げるべき対象は間違えてはいけない――それを忘れてはいけない」
しかし、燕虎はそれだけ言うと、ふっと消えてしまった。
瞿麦
「……え?」
影も形もなかったかのように……わたしが見たのは、幻影だったかのように……そこには、中庭が広がるばかり。
それでも、わたしは、燕虎の言葉が耳に残っていた。
燕虎
「……逃げる行為が必ずしも間違いではない
しかし逃げるべき対象は間違えてはいけない――それを忘れてはいけない」
朔燕虎……わたしに、何を伝えたかったの?
この家に現れた理由も気になるけれど、なぜかその言葉の方が気になって、しかたがなかった……。
- 497 名前:SNO:2020/11/15(日) 22:39:46.596 ID:4pI0uKSU0
- 物語が動き始める……?
- 498 名前:きのこ軍:2020/11/15(日) 22:51:43.299 ID:YpaUy5SQo
- 無口さんじゃん。外出られたのか。
- 499 名前:Route:B-7 コンフェッション:2020/11/16(月) 22:12:32.353 ID:wi6NAtM.0
- そのまま寝つけず、朝になって……わたしは、何故だか苺の顔が見たくて仕方がなかった。
どうして、だろうか。いや、理由は分かっている。燕虎の言葉だ。
わたしは、何かから逃げている……?
……いや、その何かは兄からの手紙。それが原因で、苺といさかいを起こしてしまった。
……では、どうして手紙から逃げているの?
単なる安否の確認だけなら、逃げる必要はない。わたしは兄さんのことが嫌いということ?
瞿麦
「いや、……違う
あの手紙を初めて見たとき……わたしはびっくりしたけれど、逃げる理由にはならないような」
…ゆっくりと、くしゃくしゃにした手紙を取り出し、手紙を読み進めた。
瞿麦
「瞿麦へ
――何年も、会えなくて申し訳なかった」
苺
「あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた」
瞿麦
「――それは、彼女を救う為でもあった」
彼女――その文面を見た途端、わたしの中に頭痛が走った。
- 500 名前:Route:B-7 コンフェッション:2020/11/16(月) 22:13:36.626 ID:wi6NAtM.0
- 瞿麦
「――うぁっ!」
……ずきずきと、頭が痛む。
わたしがぶるぶると震えるのは……この彼女という文面にあるのではないか?
瞿麦
「……この、彼女を、わたしは思い出したくないから……」
そして――納得する。わたしは、この【彼女】に立ち向かうことを恐れている。
それでも……燕虎の言葉を借りるなら、それこそが……立ち向かわなければいけない記憶なのかもしれない。
瞿麦
「……客観的に、見なきゃ」
……いくら考えても、わたしの心がブロックするのならばそれは分からない。
だから、第三者に相談することが重要なのだけれど……この家の第三者は、苺しかいない。
だから、わたしは苺にすべてを話そう――と決めた。
少し、気まずさで心がざわつくかもしれないけれど……
きっと、それもまた立ち向かわなくてはならないものなのだ。
- 501 名前:Route:B-7 コンフェッション:2020/11/16(月) 22:16:49.045 ID:wi6NAtM.0
- 瞿麦
「ま、苺ちゃん……起きてる?」
勇気を出して、わたしは苺の部屋の扉をノックした。
苺
「瞿麦ちゃん……?」
心配そうな表情をした苺が、すぐにドアを開けた。
……その顔と声色はわたしの心にちくちくと痛みを与えた。
でも……これは、わたしが起こしてしまったことなのだから……頑張って耐えなきゃ。立ち向かわなきゃ。
瞿麦
「ま、苺ちゃん……その、ずーっと迷惑をかけて……ごめんなさい」
わたしは、少し震えながら、苺に謝罪の意思を伝えた。
苺の顔を見ると……ほっとしたような、優しい微笑みを浮かべていた。
苺
「……よかった、瞿麦ちゃんがぼくのことを嫌いにならなくて」
そう言うと、すこし目に涙を浮かべてわたしの手をぎゅっと握った。
温かくて柔らかい感触を感じ取り、わたしの心身も温かくなる感覚があった。
わたしの五感もまた、立ち向かおうとしているから戻ってきているのかもしれない。
- 502 名前:Route:B-7 コンフェッション:2020/11/16(月) 22:18:33.571 ID:wi6NAtM.0
- 苺
「……また、瞿麦ちゃんが心を閉ざしてしまうかと思って、ぼく、ずっと怖かったの」
瞿麦
「……心配かけて、ごめんね」
苺
「ううん……ぼくも、無神経だったかも――
瞿麦ちゃんと話さなくなってから、ずっとそう思っていたの」
そう言うと、苺はわたしの腰に手を回した。
瞿麦
「あっ」
くすぐったさに、思わず声が漏れる。
苺
「……でも、こうしてごめんねって謝って……また、普段通りになるかと思うと……
今までの寂しかった分、埋めて貰いたくなって……」
苺の肌が、わたしの身体に密着していた。
どうしてだろう……どきどきが止まらない。体温も心なしか上がっている気がする。
もしかしたら肌も赤く染まっているかもしれない。くらくらとした感覚もある。
それは久しぶりに顔を見たから、和解したから……そういった理由ではない気がする。
- 503 名前:Route:B-7 コンフェッション:2020/11/16(月) 22:25:00.042 ID:wi6NAtM.0
- でも、不快ではない。むしろ……苺に、わたしも溶け合いたい。そう思ってしまう。
この10日間、一人で閉じこもり続けていたから?
……そういえば、読んだことのある小説の中に、女の子どうしがキスをしている場面があったような気がする。
……その場面も、すれ違いを経ての仲直りという経緯があった気がする。
どうしよう……そう思ったけれど、考える前に身体が動いていた。
瞿麦
「んっ」
苺
「――っ?!」
思わず――苺の柔らかい唇に、口づけをしていた。
とても……恥ずかしいことをしている。そう思ったけれど、もう止める事が出来ない。
そうだ――きっと、わたしは苺が好きなのだ。
数年、一緒に過ごして……家族のように思っていたけれど……
実際は、少し違った形で好いているのだと、その時悟った。
苺
「んんっ――」
わたしが、気まずさに離れようとしても、苺もまたわたしをしっかりと抱きしめていた。
柔らかな唇の感覚……密着する肌の温度……。
身体と心ふたつが、融合しているようにも思える、温かな時間。
今、わたしたちは、それらを共有しあっている……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 504 名前:SNO:2020/11/16(月) 22:25:20.641 ID:wi6NAtM.0
- やっと百合SSっぽくなったんじゃね?
- 505 名前:きのこ軍:2020/11/17(火) 07:00:27.953 ID:yq8QQeFso
- ずっといちごちゃんだと思って読んでた。
- 506 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:12:19.417 ID:UP8OcPNo0
- ……それから、どれだけ経っただろう?
わたしたちは手を繋ぎながらキッチンまで歩き、向かい合って椅子に座った。
瞿麦
「……苺ちゃん、聞いてほしいの」
苺
「なあに?」
瞿麦
「……わたし、兄さんからの手紙を読んで、ひどく動揺したの」
少しおどおどしながらも、わたしは答える。
苺
「……なんとなく、分かってたよ」
その答えに、苺はどこか悟ったような優しい声色で返してくれた。
瞿麦
「……今でも、この先が読めないの」
そう言うと、わたしはくしゃくしゃにした手紙を苺に渡した。
- 507 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:17:36.412 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「いいよ、瞿麦ちゃん」
くしゃくしゃの手紙を丁寧に広げ、苺は手紙を読み始めた……。
苺
「瞿麦へ
――何年も、会えなくて申し訳なかった」
苺
「あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた」
苺
「それは、彼女を救う為でもあった」
――わたしは、その文面で頭痛を覚える。
瞿麦
「――っ」
苺
「だ、大丈夫っ?瞿麦ちゃん?」
痛みに顔をしかめるわたしに、心配そうに告げる苺。
しかし、わたしはこの痛みに耐えなくてはいけない。
瞿麦
「大丈夫――だから、続けた」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 508 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:21:58.646 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「……彼女――澄鴒(すみれ)は、生きている
目覚めの時を待ちながら、永い眠りについている」
苺
「澄鴒を目覚めさせるには――ユリガミを探してほしい
行方の知らないユリガミを顕現させることが、彼女の目覚めに繋がる――」
苺
「……アイローネ・フェルミ」
苺
「……これで、終わりだよ」
わたしの表情を伺いながら、苺は首を傾けて答えた。
瞿麦
「……ありがとう」
ぺこりと、頭を下げる。
わたしの心が嫌がった、手紙の続き――要約すれば、
【彼女】――澄鴒を目覚めさせるために、ユリガミを探してほしい――そういう内容だった。
そんな短い文章が、わたしがいさかいを起こしてまで隠したかった内容だったの……?
瞿麦
「っ……あははは」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 509 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:25:12.573 ID:UP8OcPNo0
- 苺に背中をさすられているうち、気分も少し戻ってきた。
瞿麦
「……うん、大丈夫
ありがとう、苺ちゃん」
苺は、ほっとしたようにわたしに頷いた。
わたしの妹――その名は澄鴒=フェルミ。
同時に、兄さんにとっての妹……。
……でも、名前しか思い出すことはできない。
彼女が何処にいるのか?それは、わからない。そもそもどうして居ないのか、それもわからない。
わたしがここまで動揺してるのには澄鴒と何かがあったからに違いないのだ。
瞿麦
「ぁ……」
――目覚めの時を待っているという文面について考えようとする。
でも、ずきずきと頭が痛むだけで、なにも思い浮かばなかった。
苺
「――思い出せないの?
でも、無理に思い出してはだめだよ――ゆっくりと、焦らずにいこう」
どこまでも、苺は……わたしに、寄り添ってくれていた。
- 510 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:28:08.140 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「……でも、瞿麦ちゃんが立ち向かうのなら、ぼくは協力するよ
辛い時は、ぼくが横にいるからね」
ぎゅうっと、僕の手を握る苺の顔は、柔和な微笑で……
わたしの中から欠損した何かを埋め合わせてくれる感覚があった。
瞿麦
「うん」
だから、わたしは頷くとともに、ある気持ちを心に灯した。
【彼女】に――わたしの妹に――澄鴒について――わたしは立ち向かい、思い出すことが出来るようにしよう――と。
そう思うと、どこかすっきりした感覚がある。
同時に――わたしの中に、自信が生まれた。
苺
「それはそうと、今日は【月輪堂】に行く日だね
瞿麦ちゃんは、大丈夫?」
瞿麦
「うん、大丈夫
一緒に行こう、苺ちゃん」
わたしは、力強く頷いた。
- 511 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:32:35.697 ID:UP8OcPNo0
- ――【月輪堂】では、少し心配した顔の縁さんが出迎えてくれた。
縁
「こんにちは――色々トラブルがあったって苺から聞いていたけれど、大丈夫だったの?」
苺
「はい、もう大丈夫です
ご心配をおかけしました――」
……わたしは、頷くだけ。立ち向かう――そう決めても、すぐに行動が変えられるわけでもない。
それでも、少しでも変わるために……わたしはなんとか会話に参加する。
瞿麦
「わたしの、妹のことで……少し、トラブルがあったんです」
――自信が生まれても、まだ苺以外と話すのには苦手意識がある。
それでもこうして積極的に会話できている。大丈夫……この調子でいこう。
縁
「そっか……」
――縁さんは、腕を組み、指をトントンと叩かせて何かを考える様子を見せて……。
縁
「あたしたちの方でも、協力できそうなことは協力するわ」
しばらくしてから、そう言葉を続けた。
- 512 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:34:42.970 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「その前に、今日の作業をやってから考えましょう」
瞿麦・苺
「はい」
見慣れた、縁さんの式神が、いつも通りに部品を運ぶ。
そして手渡される検品リスト……何度も繰り返したから、この工程ももう慣れている。
……それから、わたしたちはいつものように作業をこなし、晩御飯をごちそうしてもらった。
- 513 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:37:10.349 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「前にも言ったけれど――顧客からいろいろ情報を聞くこともあるから、情報を集めることもできるの」
瞿麦
「はい」
縁
「ええ――納入の時に、世間話をするんだけどね……」
静
「私よりも、縁の方が詳しいかな……
ある程度なら答えられると思うが……」
縁
「確かに、あたしの方がお客さんと話すからねぇ、でも静に助けてもらうことだって多いよ?
まぁ……それは置いておいて、いろいろとお話ししてるからいろいろな情報も集まるの
まぁ精査できてないから、完全に信じてはいけないよぉ?」
静さんと縁さんは、お互いを補い合っていることは、この会話の節々からも分かる。
……わたしと苺も、そうなれるのだろうか?
今の間は、わたしが、苺に助けられている割合の方が多いけれど……。
- 514 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:37:56.100 ID:UP8OcPNo0
- ――そして、わたしは兄からの手紙について、その内容を伝えた。
縁
「――ユリガミを探せ、ねぇ
あなたのお兄さんも随分無茶を言うのね」
少し呆れたように、縁さんは言った。
その口ぶりからは、何かを知っているようにも見える。
瞿麦
「……ユリガミを、知っているんですか?」
――驚くぐらい、積極的に質問をできた。
わたしが向き合うべき問題だから、できたのかな?
内面は、少しずつ変わっているのかもしれない。
縁
「ふふ、貴女にこうやってストレートに話しかけられるのは珍しいわね
――それはそうと、ユリガミについて……まぁ、色々と知ってはいるわ」
- 515 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:40:10.779 ID:UP8OcPNo0
- ――ユリガミ。
その言葉には、何故か聞き覚えがある。……どこで聞いたのかは、さっぱりと思い出せないけれど。
苺
「ユリガミ――って、いったいどんな存在なんですか?」
縁
「――昔から、この明治国をさすらう黒髪の乙女……
困った人――主に女の子だけど、男も助けるって噂されているわね」
――なぜかは分からないけれど、その噂は本当のように思えた。
縁
「そして、めっぽう強い太刀の達人で、古武術も同じぐらい強いとか――」
苺
「【会議所】にも、強い兵士は多いって聞きますけど……それと比べるとどうなんですか?」
苺は、大戦を見て、素晴らしい動きをした兵士を大喜びで褒めることも多々ある。
わたしと違って、大戦観戦に熱中する苺らしい質問でもあった。
縁
「ユリガミの方が強いんじゃないかしら?
【会議所】にも、古武術の――確か、戦闘術魂、だったかしら?ともかく、達人がいると聞くけれど、
彼でも敵わないでしょうね……まぁ、あの子なら行けると思うけど」
目を瞑り、思いを馳せながら縁さんは語った。
- 516 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:41:22.321 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「なんだか、神話で語り継がれていたり……都市伝説の中にいたり――そんな感じですね」
苺は、お茶をすすりながら答えた。
瞿麦
「……女の子の味方で、とても強い――ユリガミは、どこにいるんですか?」
わたしは、食いつくように訊ねた。
縁
「積極的になってきたのね……いいことね
――ユリガミは、あくまでも、噂よ?
どこにいるかは分からない――それこそ、実在したとして、近くに居るかもしれないし、遠くに居るかもしれない」
両手を広げ、おどけたように縁さんは答えた。
瞿麦
「わたしは、ユリガミは居ると思います」
――わたしは、ユリガミは実在すると思っていた。
それはわたしの奥底でそうだと言える自信があった。
直感のようなもので理知的なものではなかったけれど、確かにそうだと心が結論づけていたのだ。
- 517 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:44:59.564 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「……まぁ、信じるのは大事ね
信じるとは――人が言の葉を紡ぐと書く……すなわち、言葉を紡ぐこと自体が、行動に繋がっているもの」
わたしの言葉に、縁さんはふふっと微笑みながらそう答えた。
苺
「……少なくとも、今の手がかりはユリガミ、って人?みたいだから
僕も瞿麦ちゃんの意見に賛成です」
――苺もわたしの言葉に肯定的だった。
それが、わたしが立ち向かおうとする気持ちをさらに高めてくれる。
瞿麦
「どうやったら、ユリガミに辿り着けると思いますか?」
静
「……ここでも、ある程度の情報は集まるが
やはり、様々な情報が集積されているとすれば――【会議所】ではないだろうか」
――【会議所】。静さんの発言は、的を射ているように思える。
世界の中枢として呼ばれており、wiki図書館と呼ばれる巨大な図書館も設けている。
様々な国から、住民も流入し、様々な企業の協力もある。情報量としては最大の規模を誇るだろう。
縁
「まぁ、あたしの意見も静に同じだけど――さっき言ったみたいに、どっちが真で偽なのか、判断しないとだめよね
自分の望みどおりの情報を、頭でっかちに信じ続けるのは危ないでしょうから」
静
「あの場所に居る兵士は、名前や性別や経歴を偽っているかもしれないしね」
- 518 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:50:33.754 ID:UP8OcPNo0
- 瞿麦
「……なるほど」
――ふたりの意見も、最もだ。
わたしは――情報を取捨選別して、真実――すなわちユリガミに辿り着けるのかな?
……そんなことを考えていると、顔が強張っていた。
静
「瞿麦――難しい顔をしているところ、すまないが
きみなら、きっとたどり着けると思う」
縁
「そうね……ここでの仕分け作業を見ててもそうだけど、
瞿麦にはそれだけの能力は備わっていると思うわ」
苺
「うん、僕もそう思うよ、瞿麦ちゃん
毎日本を読んでるのあるよね?」
――そんなわたしに、三人が励ましてくれた。
瞿麦
「ありがとう――ありがとうございます」
わたしは感謝の言葉を伝えた。三人の言葉は決意の手助けへと昇華されたから。
澄鴒を、助け出す為に動く――その決意への後押しになった、お礼の言葉。
その言葉を紡いでいる間にも、わたしの中で前向きに進む明かりが灯った気がした。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 519 名前:SNO:2020/11/17(火) 21:50:49.457 ID:UP8OcPNo0
- 大きく動き出したかも?
- 520 名前:きのこ軍:2020/11/18(水) 09:25:52.187 ID:F296qGuso
- こんなに早くユリガミ様が出てくるとは意外ですぜ。
- 521 名前:Route:B-8:2020/11/18(水) 23:06:27.152 ID:1eea.BLg0
- Route:B
2013/4/26(Fri)
月齢:15.7
Chapter8
- 522 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:09:08.674 ID:1eea.BLg0
- ――――――。
わたしは、あれから、会議所で何を調べるのか。
どうしたいのか……そんなことを、ノートに書き連ねたりしていた。
やはり会議所への足は誰かの手伝いがあった方がいいだろうか?
調べるにしても、どのような観点から調べるか?
準備もなく行くのは、愚行であることは言うまでもないから。
瞿麦
「……明日の、【大戦】が、中止?」
そして今日……CTVを付けたわたしの耳に飛び込んできたのは、そんな情報だった。
【大戦】は諸事情で休戦する場合もある。だが、そうそう休戦するものでもない。
これは珍しい事態だ。
アナウンサー
「【嵐】のテロ予告により、大戦場に【嵐】の兵士たちが来る可能性もあり……」
アナウンサー
「【会議所】ではその対応に追われ……」
苺
「……今、【嵐】のターゲットにされているんだね」
沈んだ様子で、苺は呟いた。
……確かに、【会議所】でユリガミの手がかりをつかもうとする――
そんなタイミングで、【会議所】を標的にしたテロ行為が起きたのだ。そうなるのも無理はない。
- 523 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:12:36.767 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「……」
映像には、【大戦】の舞台――大戦場で暴れまわる【嵐】のメンバーたち。
――すべて、男。銃を撃ち、魔術を唱え、辺りの地形をえぐり、対応する兵士たちを挑発している。
瞿麦
「……!?」
わたしは――その映像を見て、心臓が凍りついたような衝撃を受けた。
苺
「っ!」
わたしの様子に疑問を呈した苺も、映像を見て――はたと気が付いた。
そこには――あいつが居た。
悪夢の中で、わたしに襲い掛かった、あいつが……。
- 524 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:13:24.690 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「……うぅ」
……どうして、あいつが居るの?
逮捕されたはず――なのに、どうして、どうして――。
瞿麦
「うぅ、ぅぅぅ、ううぅぅぅぅ……」
苦しみに呻くわたし……。
胃の奥から込み上げるものを感じ、わたしは洗面所へと駆け込んだ。
瞿麦
「げほっ、げほっ、げほっ……」
胃液の酸っぱい匂い――喉が焼ける感覚――そして、鏡に映る青白い顔――。
その後ろで、苺が心配そうな顔でわたしを見ていた。
苺
「瞿麦ちゃん……大丈夫……じゃないよね」
瞿麦
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
苺に背中をさすられながら、酷く息が切らすわたし。
わたしは満足に答えることもできないほどに衝撃を受けていた。
- 525 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:16:27.036 ID:1eea.BLg0
- あいつは、捕まったのに……どうして?
ふと、ある日のニュースを思い出す。
アナウンサー
「速報です、果汁組刑務所に【嵐】が攻め入り、一部の囚人が脱走したとのことです」
……あいつに襲われたのも、今の私の住処も……
果汁組刑務所がある場所も、会議所も……同じ国。
すなわち、あいつを含む脱獄した囚人は、テロ組織に身を移し、会議所を襲ったということになる。
瞿麦
「あいつは――【嵐】のメンバーとして、解き放たれたんだ」
ぼそりと――仮説を呟いて、わたしは恐怖を覚える。
がたがたと震え……歯の根が合わさり、かちかちと音が鳴った。
苺
「瞿麦ちゃん、ぼくが――いっしょにいるから……ね……」
恐慌状態にあるわたしを、苺が後ろから抱きしめてくれた。
けれども、その声は空元気のように思える声色。
わたしの不安な心が移ってしまったのかもしれない。
- 526 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:18:17.585 ID:1eea.BLg0
- そこで、そうか―と、気が付いた。囚人が脱獄したニュースを聞いたとき、わたしは奴の顔を見ていたことに。
――けれども、わたしは……深層心理が見ることを拒絶し、そのまま……忘れ去ろうとしていたのだ。
―でも、それは精神を楽にするだけの逃げに過ぎない。
脱獄というとんでもないことをしでかした奴に対し、
忘却して逃げる――その行動は、あまりにも無防備だ。少なくとも、警戒心は必要なのだ。
――怖い。とても、とても怖い。
それでも……前へと向かわなくてはいけない。それは身の安全を保障するためでもある。
そう思うと、思わずこぶしに力が入った。
- 527 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:20:35.456 ID:1eea.BLg0
- ……わたしの、封印された記憶が、漏れ出ていく。
心をふさぎ、糊塗し、目をそらしてきた記憶が……
……どうして、わたしは目をふさいでいたのだろう……。
どうして、わたしは……今の今まで、逃げていたのだろう。
それは、一時の幸せにすぎないのに。
奴が脱獄した――それを認識したとたん、恐怖とともに、不思議と立ち向かう気力が湧いてきた。
ユリガミを探す目的ができたからかもしれない。
ともかく――わたしは、自分自身が隠してきた記憶を認識したのだ。
電流がほとばしる。わたしの中に情報のエネルギーが神経全てを一瞬で走り抜けてゆく。
- 528 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:22:28.847 ID:1eea.BLg0
- わたしは――身体の成長が早い少女だった。
わたしの脳下垂体から生まれたホルモンは、余計なことだが、乳房やら、子宮やらを成熟させていった。
――その、お節介な指令のために……わたしは、必要以上に思い悩んでしまったのだ。
11歳のとき――すでに、母さんは居なかった。
海に沈んで行方不明になった――と父さんからは聞かされていた。
……ともかく、わたしには成熟した身体について、相談できる身内がいなかった。
苺と出会ったのはその時以降だったから、そもそも存在する考慮すらできない。
――そして妹の澄鴒とは、5つも年が離れていたから、当然相談できない。
――せめて、父か兄に相談すればよかったのかもしれない。
……でも、心配させたくなくて、言えなかった。
幼いわたしが取った選択肢――それは、ひどく安直で、愚かで、どうしようもない再悪手だった。
……幼いわたしにとって、学校は楽しい場所だった。
その頃は、太陽の下で遊ぶことも心の底から楽しめ、さらに勉強もできる……
それを支える先生たちは、とても頼れる存在。
そんな環境で過ごせる――それだけで、天国のようにも思えた。
- 529 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:23:11.937 ID:1eea.BLg0
- ――でも、わたしは……担任だった、グローリー・カヴルに相談してしまった。
グローリー
「先生に身体を見せてみなさい――」
今思えば、あいつにとっては千載一遇のチャンスだったのだろう。
わたしが相談する――その行為こそが、飛んで火にいる夏の虫。愚かな獲物そのものだった。
瞿麦
「はい――」
そして――わたしにとって、教師という存在は……頼ることのできる大人なのだと、信じ込んでいた。
そんなことはありえないのに。職業がどうであれ、その薄皮一枚から這い出る感情が、清廉潔白なわけがない。
……それを理解できない子供だからこそ、そうなったのかもしれない。
やがて――わたしは、何かがおかしいと気が付いた。
小児性愛者だった奴に、わたしは体の写真を撮られ――下劣で、にやついた口調で体を触られた。
……下着も下ろされたこともある。わたしは、初めてそうされたとき、そういうものだ――と納得していた。
……何回か奴にそうされて、わたしは疑いを持つようになった。
――その時は、もう引き返せない地獄の中にわたしは居たのだ……。
- 530 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:25:11.010 ID:1eea.BLg0
- ……追想したわたしの心には怒りの感情が芽生えていた。
――がたがたと震えていた感情は、どこかに飛んでしまった。
瞿麦
(どうして――欲望を満たすだけの下劣な人間に、わたしは苦しまないといけないの)
瞿麦
(夢の中で、何度も見る吐き気を催す存在――わたしは、奴によっていろいろなものを狂わされたような気がする)
……そうだ、わたしが今ここで生活している理由。
それは――奴を遠因としている。そんな予感があった。
わたしは――どうするべき?
いいや、どうするかは極めてシンプル……兄の手紙の通りに、ユリガミを探すことだ。
――今のわたしには、立ち向かおうとする意志がある。
もう、目を伏せない。まだ思い出せない事柄はあるけれど、それでも一歩一歩進めている。
そのために――わたしは――。
- 531 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:26:57.219 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「わたし、【会議所】に向かうよ」
――わたしは、その結論に至っていた。
わたしはユリガミが信頼できる存在であると知っていた。
だから信頼できる存在を――澄鴒を救う為に必要とされる彼女を探すために、その場所へ向かわなければならない。
苺
「……ぼく個人としては、引き留めたいけれど
瞿麦ちゃん、今の表情……やる気に満ち溢れてる気がするから、止められないな
――こんな瞿麦ちゃんを見てると、なんだか、ぼくも勇気づけられるな」
苺は、不安げにも、少しうれしそうにも見えるようにわたしに言った。
瞿麦
「……ごめんね、今まで……閉じこもり続けて」
苺
「いいの――瞿麦ちゃんは、いろいろな悪意に巻き込まれてしまったから――
ぼくは、ただ寄り添うしかできなかった」
そう言うと、ぎゅっとわたしの腕に絡みつき、愛おしそうにわたしの腕を抱いた。
- 532 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:28:06.318 ID:1eea.BLg0
- 苺
「……ぼくも、ついていこうか?」
瞿麦
「……ううん、これは、わたしが立ち向かわないといけないことだから」
正直に言えば……苺と一緒に行きたい気持ちはある。
それでも、わたしはその選択を取らない……。首を振ってその意思を示す。その理由は、単純明快だった。
苺
「……そっか、そうだよね
僕は――瞿麦ちゃんを支えはしても、その心の中までは、その背景まではわからないから」
瞿麦
「うん……ごめんね」
――そう。苺の言った通り、結局、これはわたしの問題なのだ。
苺は、わたしが経験した出来事を、すべてで知覚はしていない……。
わたしにとってたいせつなそんざいでも、わたし自身ではないから。
苺
「いいんだよ、瞿麦ちゃん
でも、このことは静さんや縁さんにも伝えたほうがいいよね」
瞿麦
「…うん、ここから【会議所】は遠しいし……移動手段をどうにかしないと」
……ややあって、わたしは【月輪堂】に連絡を取ることにした。
- 533 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:29:52.326 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「もしもし……瞿麦です」
縁
「あら、瞿麦が電話なんて珍しい――どうかしたの?」
瞿麦
「わたし、ユリガミを探すために【会議所】に向かおうと思うんです
――どうやって向かうか、今考えていて」
縁
「そっか、【会議所】に―」
少し心配げな縁さんの声……電話の向こうでどんな表情をしているのだろうか?
縁
「でも、貴女が真実に向かおうとするのなら……できり限りの協力はするわ
きっと、その心持が……これからの人生には必要だから」
それでも、続く縁さんの言葉は、わたしの決意の後押しをしてくれていた。
縁
「それで……足のことだけれど、静にお願いしようかしら?
行きと帰りの足ぐらいはできると思うし」
瞿麦
「はい、それでお願いします」
――とんとん拍子に、話が進んでいった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 534 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:31:59.159 ID:1eea.BLg0
- 最も、過去を惜しんでも意味はない……今は、できることに向かうだけだけど。
縁
「静に電話を変わるわね――ちょっとだけ、待ってね」
がちゃりという音がしてすぐに電話の相手は変わった。
静
「私だ――話は、聞いていた」
淡々と、短い言葉――それでも、声色からは肯定する様子がうかがえた。
静
「それで――【会議所】へ行く話だが、今は【嵐】の対応で面倒事もあるだろうから、1週間ほど後の5月4日はどうだろうか」
静
「この時勢のためか、納入先が追加されてね……そのついでになるけれど」
瞿麦
「はい、お願いします」
- 535 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:33:48.123 ID:1eea.BLg0
- 静
「では、5月の3日――18時ぐらいに、【月輪堂】に来てもらえたら――と思う」
瞿麦
「はい、よろしくお願いします」
静
「では、また今度」
がちゃりと、電話が切れる。
瞿麦
「苺ちゃん……話、聞いてた……?」
苺
「うん、5月3日だね――じゃあ、荷物とか準備しないとね」
献身的に、苺は荷物の準備に取り掛かろうとしていた。
瞿麦
「うん、わたしと一緒にやろう」
そしてわたしも……1週間後に向けて、出発に必要な準備を始めた。
- 536 名前:SNO:2020/11/18(水) 23:34:49.910 ID:1eea.BLg0
- >>534の5/4は5/3の間違えなので気にしないで。
- 537 名前:きのこ軍:2020/11/18(水) 23:43:32.717 ID:oFRzQ.fUo
- 会議所にいくとか胸アツktkr
- 538 名前:Route:B-9:2020/11/19(木) 22:12:17.052 ID:QXT2JAQM0
- Route:B
2013/5/3(Fri)
月齢:22.7
Chapter9
- 539 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:14:14.955 ID:QXT2JAQM0
- ――――――。
――ついに、出発の時が来た。
荷物はOK。調べることも、メモにまとめてある。大丈夫、問題ない……。
瞿麦
「いってきます、苺ちゃん、縁さん」
苺
「……気を付けてね、瞿麦ちゃん
静さんも、お気をつけて」
静
「心得ている」
縁
「とりあえず、前も言ったかもしれないけれど……
目にしたものすべてが真実ではないわ
都合のいいものだけが真実ではない――それを心に留めておいて」
瞿麦
「はい」
わたしは、力強く答えた。
――手紙に立ち向かう意思を見せてから、わたしは少しずつではあるが、静さんや縁さんとも円滑に話せるようになった。
数年越しの成長といったところだろうか。
- 540 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:15:18.270 ID:QXT2JAQM0
- 瞿麦
「とりあえず、1週間は滞在するって予定ですけど――早くなったり、遅くなったりする場合は……」
静
「まぁ、時間に差異はできるかもしれないが、連絡をくれれば私が迎えに行くよ」
瞿麦
「すみません――」
縁
「気にしなくていいの、若者は年上の手助けに甘んじなさい」
縁さんは、小さな身体を思いっきり張って、わたしたちにアピールをした。
その仕草が、わたしの心を緩ませる――少し気を張りすぎた心に対して、ちょうどいい按排になる。
……わたしにとって、静さんと縁さんの支援がありがたかった。
苺
「……二人が、本当に頼もしくて、僕もほっとして瞿麦ちゃんを見送れます」
縁
「そうね、貴女は瞿麦と出会ってから、ずっとべったりだったものね」
苺
「縁さん、もう……やめてくださいよぉ」
からかうような縁さんの言葉に、苺は顔を赤くした。
その反応は、わたしにとっても顔面をかあっと熱くさせるもので、思わず両手を頬に当ててしまった……。
- 541 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:19:59.594 ID:QXT2JAQM0
- 縁
「やっぱり、貴女たちも仲良しさんね
――静、事故とか起こしたら怒るからね」
静
「もちろんだ、縁――」
【会議所】に行くと決意したはいいものの、このまま辿り着いても夜になることは確実だ。
そのため、たけのこ軍居住地のホテルに宿をとる手筈になっていた。
そのお金は、静さんたちが出してくれている。本当に、二人には感謝してもしきれないほどに支援を受けている。
瞿麦
「……何から何まで、すみません」
ちっぽけなわたしのために、肉親でもないわたしのために――二人は、返さなくてもいいと言った。
ありがたいけれど、申し訳なさも少し残る。
静
「なに……気にしなくていい
それに、きみが何か返すとするならば――それは、きみが真実にたどり着く、それに勝るものはないさ」
瞿麦
「はい」
そんな会話をしながら、わたしたちはトラックに乗り込んだ。
静
「では、行ってくる」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 542 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:24:44.135 ID:QXT2JAQM0
- ……揺れる、揺れる、トラックは揺れる。
過ぎ去る景色を見ながら、静さんが話しかけた。
静
「瞿麦――きみに伝え忘れていたことがある」
静さんの横顔は、凛々しく……わたしは、こうなれるのだろうか――と思いながら、頷く。
瞿麦
「なんですか?」
静
「君の身の保障のことだ……
ボディーガードをつけることにしている――もちろん、信頼のおける人物に」
瞿麦
「そう……なんですか?」
静
「ああ――わたしの信頼する人物に依頼し、信頼できる人材を選択してもらったから、問題はない――」
瞿麦
「………」
突然の話題に、わたしは沈黙することしかできなかった。
静
「きみにとっては知らない人物かもしれないから、不安かもしれないが……
――どうか、信頼してほしい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 543 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:26:02.917 ID:QXT2JAQM0
- 瞿麦
「あ――着いたんだ」
静
「……とりあえず、到着した
何かあったら、連絡してくれ――仕事にとりかかっているかもしれないから、縁が出るかもしれないが」
瞿麦
「はい、お願いします」
わたしは、静さんに一礼をして、ホテルへと向かった。
背後でトラックが走り去る音が聞こえる――それは、わたしが一人で真実に向かう始まりでもある。
不安は、ある。
それでも――澄鴒のために、わたしはユリガミの手がかりを探さないといけない。
おそらく、兄さんは――わたしが立ち向かうために、手紙を寄越したのだろう。
結果的にはわたしが行動していることを考えると、兄さんの計算力には感服するばかり。
……大丈夫。わたしには、ボディーガードもいる。だから――とりあえず、ホテルで休もう。
チェックインを済ませ、荷物を部屋に置いて――わたしは、部屋の中で1日を終えた。
- 544 名前:SNO:2020/11/19(木) 22:26:23.406 ID:QXT2JAQM0
- 近付いてくる……
- 545 名前:きのこ軍:2020/11/19(木) 22:40:10.138 ID:a3Glqny2o
- 苺ちゃんもついてくればいいのに。
- 546 名前:Route:B-10:2020/11/21(土) 01:38:42.295 ID:uukUlyIg0
- Route:B
2013/5/4(Sat)
月齢:23.7
Chapter10
- 547 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:39:36.559 ID:uukUlyIg0
- ――――――。
次の朝。
ルームサービスで取り寄せた朝食を食べ終えたわたしは、【会議所】に向かおう――そう考えていた。
……が、その瞬間、外で轟音が鳴り響いた。
ホテルのカーテンをめくり、窓の下の様子を見る。
そこには――青い軍服を着た男たちが、街中で魔術を唱えて、あちこちの公共物を攻撃していた。
瞿麦
「!まさか、【嵐】?」
男
「うおおおおおっ!!」
男
「【会議所】反対だ!【会議所】などなくとも理論は通じる!」
男
「ウォオオオオーーー!」
デモクラシー?いいや、これはテロリズム……。
CTV越しではない、実際の戦い――その光景を見ると、震えが出てくる。
大戦を経験したものなら、この事態にも冷静でいられるのかな……。
- 548 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:41:32.032 ID:uukUlyIg0
- 瞿麦
「大丈夫……わたしは、こんな奴らに負けない」
外から音に、わたしは――テロリストの標的にされている場所に行くのだと、改めて思い知らされる……。
実際にその光景を直に見ると、その決意が揺らぎそうになるが……わたしはぐっと拳を握って決意を固めた。
強引に、恐怖を捻じ伏せる。あいつが居るかもしれない。それでも……わたしは、向かわなくてはならない。
誰かが連絡したのか――それから数分後、【会議所】の兵士たちが駆け付けた。
兵士
「居住区での破壊活動は禁止されている!直ちに降伏しなさい!」
男
「おっと、逃げろ!退却だ!」
男
「イェエエエイ!」
兵士が力強い発言すると、まるで想定されていたかのように、男たちは叫びながら蜘蛛の子を散らしたように散り散りになっていった。
こんなに、すぐに退却するなんて……一体、奴らは何を企んでいるのだろうか。
らちが明かずに、部屋に置いてあるCTVをつけようとしたとき……ホテルのアナウンスが聞こえた。
- 549 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:44:50.668 ID:uukUlyIg0
- アナウンス
「只今、【会議所】からの通告がありました
市内での【嵐】の工作活動による外出規制のため、ホテルにお泊りの皆さんは待機していただく――そういった形となりました
まことに申し訳ありません――なお、予定滞在日数を超過する場合の手続きなどは、当ホテルが――」
そんな――せっかく、【会議所】に近づいたのに。
不安になって、わたしは【月輪堂】に電話をかけた。
瞿麦
「もしもし――」
静
「ああ、瞿麦か――ニュースは見ていたが、まさか朝っぱらから【嵐】が来るとは――」
瞿麦
「はい、ホテルが室内待機を命じて、出られない状況下になってます
わたし――【会議所】に行くまで、時間がかかるかもしれないんです――」
静
「それは仕方ない――予定が延期しても、金の方はこっちが持つから安心してほしい
それから【会議所】へ行くのは待機宣言が解かれてからにしたほうがいいだろう――」
瞿麦
「はい」
静
「勝手に外に出ていくと、目立つ可能性もある
とりあえずは、向こうの指示を待ってほしい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 550 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:55:53.855 ID:uukUlyIg0
- 瞿麦
「わかりました――あの、ボディーガードの人は?」
……そこで、素朴な疑問が一つ浮かんだ。
静
「ああ――それについては、心配しなくていいだろう
どんな事態だろうと、きみを守ってくれる」
瞿麦
「うーん………それらしい人は、居ないような」
そう言いながら、わたしはきょろきょろとあたりを見回す――けれども、一人しかいない室内と荷物がそこにあるだけだった。
静
「私と知己であり、かつ戦闘能力の高い人物――その条件で、先方にリクエストしている……
先方の都合もあるから、誰が来るかまでは私の存じ上げるところではない」
静
「しかし……その条件に合致する人物は、すべてきみに不利益をもたらさない
それだけは伝えておく」
――件のボディーガードに姿が見えないことに、やや、不安はある。
けれども、静さんの信頼を込めた言葉は、頷くだけの説得力がある。
瞿麦
「わかりました」
わたしは、大きく頷いた。
- 551 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:56:28.540 ID:uukUlyIg0
- 静
「何か、聞きたいことがあったらまた連絡してほしい」
瞿麦
「はい、わかりました、ありがとうございました」
静
「ああ――では、また」
がちゃりと、電話が切れる音が聞こえた。
静
「ふぅ――」
わたしは、ため息を一つついて――ベッドの上に身体を投げ出し、ただぼうっと天井を見ていた。
- 552 名前:SNO:2020/11/21(土) 01:56:59.846 ID:uukUlyIg0
- Route:Aと繋がりが……?
- 553 名前:きのこ軍:2020/11/21(土) 11:08:03.985 ID:x8dCU0Ygo
- ボディガード誰だろう
- 554 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:11:17.649 ID:uukUlyIg0
- ……天井を見ながら、わたしはとある記憶を思い出していた。
苺と出会う前の記憶を……。
――それは、ある朝のことだった。
あいつに、日々、日々迫られる、ぐずくずに腐った日々のこと……。
わたしは、誰にも相談できず……かといって逃げることもできず、公園のベンチで座っていた。
瞿麦
(こわい――先生が、こわい――
いやだ、いやだ、いやだ……でも、誰にも――言えない
友達にも、父さんにも兄さんにも――)
鎖で雁字搦めにされたように、わたしには何一つとして道が見えなかった。
――あるいは、視界が狭まりすぎて、その道を認識することさえできなかったのかもしれない。
- 555 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:21:34.681 ID:uukUlyIg0
- ……ふと、わたしに影が落ちた。
思わず、顔を見上げる――そこには、とても髪の長い巫女装束の女性がいた。
その顔はこの世のものとは思えないほど綺麗で――
わたしと同じ黒い髪と黒い瞳は、わたしと違って黒曜石のように輝いていて見えて――
腰に下げた太刀もまた、綺麗な白百合で飾られて見惚れるほどで……
何より、そのたたずまいは、神々しく、まるで女神のように思えた。
???
「――どうしたの?とても表情が重いし、体が震えている」
女性は――神々しさもあったけれど、それ以上に姉のように思えた。
わたしにとっては……その人は、おねえさま、と呼ぶべき人物だった。
瞿麦
「あっ………」
わたしは無意識のうちに、おねえさまの差し出した手を握っていた。
- 556 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:29:46.638 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「……心がぐちゃぐちゃに壊れそうで、身体がなんとかそれを繋ぎとめている――そうなのね」
おねえさまの瞳は、まるでブラックホールのようにわたしを吸い込んだ。
その瞳の前では、何一つとして嘘はつけない。
――その時、わたしは、母さんも、そんな吸い込まれるような瞳をしていたと思った。
わたしはおねえさまの質問に、こくりと頷いた。
おねえさま
「――どうしてそうなっているのか、わたしに教えて」
おねえさまの声は、とても神々しく、神秘的で……わたしは、ああ、やっと助かるんだと思い、自然と泣いていた。
おねえさま
「大丈夫……?わたしが、あなたを怖がらせてしまったかしら」
困惑したおねえさまの言葉に、わたしはふるふると首を振った。
おねえさま
「なら、よかった――」
ほっとしたおねえさまの表情は、とてもきれいで――その神々しい雰囲気とか裏腹に人間味があるようにも見えた。
瞿麦
「……じつは」
わたしは――事の顛末を、ゆっくりと、ゆっくりと――おねえさまに話した。
- 557 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:34:13.995 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「――そうだったのね
つらい話を、よく話してくれたわ」
おねえさまの表情は、慈しみにあふれた、やさしい表情だった。
おねえさま
「……ごめんね、つらい話をさせて」
そしてわたしをぎゅっと抱きしめ、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
おねえさまの柔らかな感触と、やさしい香りがわたしの心を洗い流してくれた。
おねえさま
「……あなたがこれからどうするかは分からないけれど
わたしは、さっさと逃げ出したほうがいいと思うわ」
――おねえさまの意見はもっともだった。
でも、もうわたしには――そうできないほどに、心の余裕がなかった。だから首を振ると――。
おねえさま
「……そっか
ならば、せめて――あなたに害なす者を追い払ってみせましょう
――わたしが、必ず……」
そういうと、おねえさまはその場から、霞のように消えてしまった。
一人取り残されたわたしは――結局、重い足取りで、学校に向かっていた。
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