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S-N-O The upheaval of iteration
- 1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
- 数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。
初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。
――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。
【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。
これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。
目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。
ワタシガ 見ルノハ
真 偽 ト
虚 実 ノ
世 界
- 503 名前:Route:B-7 コンフェッション:2020/11/16(月) 22:25:00.042 ID:wi6NAtM.0
- でも、不快ではない。むしろ……苺に、わたしも溶け合いたい。そう思ってしまう。
この10日間、一人で閉じこもり続けていたから?
……そういえば、読んだことのある小説の中に、女の子どうしがキスをしている場面があったような気がする。
……その場面も、すれ違いを経ての仲直りという経緯があった気がする。
どうしよう……そう思ったけれど、考える前に身体が動いていた。
瞿麦
「んっ」
苺
「――っ?!」
思わず――苺の柔らかい唇に、口づけをしていた。
とても……恥ずかしいことをしている。そう思ったけれど、もう止める事が出来ない。
そうだ――きっと、わたしは苺が好きなのだ。
数年、一緒に過ごして……家族のように思っていたけれど……
実際は、少し違った形で好いているのだと、その時悟った。
苺
「んんっ――」
わたしが、気まずさに離れようとしても、苺もまたわたしをしっかりと抱きしめていた。
柔らかな唇の感覚……密着する肌の温度……。
身体と心ふたつが、融合しているようにも思える、温かな時間。
今、わたしたちは、それらを共有しあっている……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 504 名前:SNO:2020/11/16(月) 22:25:20.641 ID:wi6NAtM.0
- やっと百合SSっぽくなったんじゃね?
- 505 名前:きのこ軍:2020/11/17(火) 07:00:27.953 ID:yq8QQeFso
- ずっといちごちゃんだと思って読んでた。
- 506 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:12:19.417 ID:UP8OcPNo0
- ……それから、どれだけ経っただろう?
わたしたちは手を繋ぎながらキッチンまで歩き、向かい合って椅子に座った。
瞿麦
「……苺ちゃん、聞いてほしいの」
苺
「なあに?」
瞿麦
「……わたし、兄さんからの手紙を読んで、ひどく動揺したの」
少しおどおどしながらも、わたしは答える。
苺
「……なんとなく、分かってたよ」
その答えに、苺はどこか悟ったような優しい声色で返してくれた。
瞿麦
「……今でも、この先が読めないの」
そう言うと、わたしはくしゃくしゃにした手紙を苺に渡した。
- 507 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:17:36.412 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「いいよ、瞿麦ちゃん」
くしゃくしゃの手紙を丁寧に広げ、苺は手紙を読み始めた……。
苺
「瞿麦へ
――何年も、会えなくて申し訳なかった」
苺
「あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた」
苺
「それは、彼女を救う為でもあった」
――わたしは、その文面で頭痛を覚える。
瞿麦
「――っ」
苺
「だ、大丈夫っ?瞿麦ちゃん?」
痛みに顔をしかめるわたしに、心配そうに告げる苺。
しかし、わたしはこの痛みに耐えなくてはいけない。
瞿麦
「大丈夫――だから、続けた」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 508 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:21:58.646 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「……彼女――澄鴒(すみれ)は、生きている
目覚めの時を待ちながら、永い眠りについている」
苺
「澄鴒を目覚めさせるには――ユリガミを探してほしい
行方の知らないユリガミを顕現させることが、彼女の目覚めに繋がる――」
苺
「……アイローネ・フェルミ」
苺
「……これで、終わりだよ」
わたしの表情を伺いながら、苺は首を傾けて答えた。
瞿麦
「……ありがとう」
ぺこりと、頭を下げる。
わたしの心が嫌がった、手紙の続き――要約すれば、
【彼女】――澄鴒を目覚めさせるために、ユリガミを探してほしい――そういう内容だった。
そんな短い文章が、わたしがいさかいを起こしてまで隠したかった内容だったの……?
瞿麦
「っ……あははは」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 509 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:25:12.573 ID:UP8OcPNo0
- 苺に背中をさすられているうち、気分も少し戻ってきた。
瞿麦
「……うん、大丈夫
ありがとう、苺ちゃん」
苺は、ほっとしたようにわたしに頷いた。
わたしの妹――その名は澄鴒=フェルミ。
同時に、兄さんにとっての妹……。
……でも、名前しか思い出すことはできない。
彼女が何処にいるのか?それは、わからない。そもそもどうして居ないのか、それもわからない。
わたしがここまで動揺してるのには澄鴒と何かがあったからに違いないのだ。
瞿麦
「ぁ……」
――目覚めの時を待っているという文面について考えようとする。
でも、ずきずきと頭が痛むだけで、なにも思い浮かばなかった。
苺
「――思い出せないの?
でも、無理に思い出してはだめだよ――ゆっくりと、焦らずにいこう」
どこまでも、苺は……わたしに、寄り添ってくれていた。
- 510 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:28:08.140 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「……でも、瞿麦ちゃんが立ち向かうのなら、ぼくは協力するよ
辛い時は、ぼくが横にいるからね」
ぎゅうっと、僕の手を握る苺の顔は、柔和な微笑で……
わたしの中から欠損した何かを埋め合わせてくれる感覚があった。
瞿麦
「うん」
だから、わたしは頷くとともに、ある気持ちを心に灯した。
【彼女】に――わたしの妹に――澄鴒について――わたしは立ち向かい、思い出すことが出来るようにしよう――と。
そう思うと、どこかすっきりした感覚がある。
同時に――わたしの中に、自信が生まれた。
苺
「それはそうと、今日は【月輪堂】に行く日だね
瞿麦ちゃんは、大丈夫?」
瞿麦
「うん、大丈夫
一緒に行こう、苺ちゃん」
わたしは、力強く頷いた。
- 511 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:32:35.697 ID:UP8OcPNo0
- ――【月輪堂】では、少し心配した顔の縁さんが出迎えてくれた。
縁
「こんにちは――色々トラブルがあったって苺から聞いていたけれど、大丈夫だったの?」
苺
「はい、もう大丈夫です
ご心配をおかけしました――」
……わたしは、頷くだけ。立ち向かう――そう決めても、すぐに行動が変えられるわけでもない。
それでも、少しでも変わるために……わたしはなんとか会話に参加する。
瞿麦
「わたしの、妹のことで……少し、トラブルがあったんです」
――自信が生まれても、まだ苺以外と話すのには苦手意識がある。
それでもこうして積極的に会話できている。大丈夫……この調子でいこう。
縁
「そっか……」
――縁さんは、腕を組み、指をトントンと叩かせて何かを考える様子を見せて……。
縁
「あたしたちの方でも、協力できそうなことは協力するわ」
しばらくしてから、そう言葉を続けた。
- 512 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:34:42.970 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「その前に、今日の作業をやってから考えましょう」
瞿麦・苺
「はい」
見慣れた、縁さんの式神が、いつも通りに部品を運ぶ。
そして手渡される検品リスト……何度も繰り返したから、この工程ももう慣れている。
……それから、わたしたちはいつものように作業をこなし、晩御飯をごちそうしてもらった。
- 513 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:37:10.349 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「前にも言ったけれど――顧客からいろいろ情報を聞くこともあるから、情報を集めることもできるの」
瞿麦
「はい」
縁
「ええ――納入の時に、世間話をするんだけどね……」
静
「私よりも、縁の方が詳しいかな……
ある程度なら答えられると思うが……」
縁
「確かに、あたしの方がお客さんと話すからねぇ、でも静に助けてもらうことだって多いよ?
まぁ……それは置いておいて、いろいろとお話ししてるからいろいろな情報も集まるの
まぁ精査できてないから、完全に信じてはいけないよぉ?」
静さんと縁さんは、お互いを補い合っていることは、この会話の節々からも分かる。
……わたしと苺も、そうなれるのだろうか?
今の間は、わたしが、苺に助けられている割合の方が多いけれど……。
- 514 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:37:56.100 ID:UP8OcPNo0
- ――そして、わたしは兄からの手紙について、その内容を伝えた。
縁
「――ユリガミを探せ、ねぇ
あなたのお兄さんも随分無茶を言うのね」
少し呆れたように、縁さんは言った。
その口ぶりからは、何かを知っているようにも見える。
瞿麦
「……ユリガミを、知っているんですか?」
――驚くぐらい、積極的に質問をできた。
わたしが向き合うべき問題だから、できたのかな?
内面は、少しずつ変わっているのかもしれない。
縁
「ふふ、貴女にこうやってストレートに話しかけられるのは珍しいわね
――それはそうと、ユリガミについて……まぁ、色々と知ってはいるわ」
- 515 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:40:10.779 ID:UP8OcPNo0
- ――ユリガミ。
その言葉には、何故か聞き覚えがある。……どこで聞いたのかは、さっぱりと思い出せないけれど。
苺
「ユリガミ――って、いったいどんな存在なんですか?」
縁
「――昔から、この明治国をさすらう黒髪の乙女……
困った人――主に女の子だけど、男も助けるって噂されているわね」
――なぜかは分からないけれど、その噂は本当のように思えた。
縁
「そして、めっぽう強い太刀の達人で、古武術も同じぐらい強いとか――」
苺
「【会議所】にも、強い兵士は多いって聞きますけど……それと比べるとどうなんですか?」
苺は、大戦を見て、素晴らしい動きをした兵士を大喜びで褒めることも多々ある。
わたしと違って、大戦観戦に熱中する苺らしい質問でもあった。
縁
「ユリガミの方が強いんじゃないかしら?
【会議所】にも、古武術の――確か、戦闘術魂、だったかしら?ともかく、達人がいると聞くけれど、
彼でも敵わないでしょうね……まぁ、あの子なら行けると思うけど」
目を瞑り、思いを馳せながら縁さんは語った。
- 516 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:41:22.321 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「なんだか、神話で語り継がれていたり……都市伝説の中にいたり――そんな感じですね」
苺は、お茶をすすりながら答えた。
瞿麦
「……女の子の味方で、とても強い――ユリガミは、どこにいるんですか?」
わたしは、食いつくように訊ねた。
縁
「積極的になってきたのね……いいことね
――ユリガミは、あくまでも、噂よ?
どこにいるかは分からない――それこそ、実在したとして、近くに居るかもしれないし、遠くに居るかもしれない」
両手を広げ、おどけたように縁さんは答えた。
瞿麦
「わたしは、ユリガミは居ると思います」
――わたしは、ユリガミは実在すると思っていた。
それはわたしの奥底でそうだと言える自信があった。
直感のようなもので理知的なものではなかったけれど、確かにそうだと心が結論づけていたのだ。
- 517 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:44:59.564 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「……まぁ、信じるのは大事ね
信じるとは――人が言の葉を紡ぐと書く……すなわち、言葉を紡ぐこと自体が、行動に繋がっているもの」
わたしの言葉に、縁さんはふふっと微笑みながらそう答えた。
苺
「……少なくとも、今の手がかりはユリガミ、って人?みたいだから
僕も瞿麦ちゃんの意見に賛成です」
――苺もわたしの言葉に肯定的だった。
それが、わたしが立ち向かおうとする気持ちをさらに高めてくれる。
瞿麦
「どうやったら、ユリガミに辿り着けると思いますか?」
静
「……ここでも、ある程度の情報は集まるが
やはり、様々な情報が集積されているとすれば――【会議所】ではないだろうか」
――【会議所】。静さんの発言は、的を射ているように思える。
世界の中枢として呼ばれており、wiki図書館と呼ばれる巨大な図書館も設けている。
様々な国から、住民も流入し、様々な企業の協力もある。情報量としては最大の規模を誇るだろう。
縁
「まぁ、あたしの意見も静に同じだけど――さっき言ったみたいに、どっちが真で偽なのか、判断しないとだめよね
自分の望みどおりの情報を、頭でっかちに信じ続けるのは危ないでしょうから」
静
「あの場所に居る兵士は、名前や性別や経歴を偽っているかもしれないしね」
- 518 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:50:33.754 ID:UP8OcPNo0
- 瞿麦
「……なるほど」
――ふたりの意見も、最もだ。
わたしは――情報を取捨選別して、真実――すなわちユリガミに辿り着けるのかな?
……そんなことを考えていると、顔が強張っていた。
静
「瞿麦――難しい顔をしているところ、すまないが
きみなら、きっとたどり着けると思う」
縁
「そうね……ここでの仕分け作業を見ててもそうだけど、
瞿麦にはそれだけの能力は備わっていると思うわ」
苺
「うん、僕もそう思うよ、瞿麦ちゃん
毎日本を読んでるのあるよね?」
――そんなわたしに、三人が励ましてくれた。
瞿麦
「ありがとう――ありがとうございます」
わたしは感謝の言葉を伝えた。三人の言葉は決意の手助けへと昇華されたから。
澄鴒を、助け出す為に動く――その決意への後押しになった、お礼の言葉。
その言葉を紡いでいる間にも、わたしの中で前向きに進む明かりが灯った気がした。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 519 名前:SNO:2020/11/17(火) 21:50:49.457 ID:UP8OcPNo0
- 大きく動き出したかも?
- 520 名前:きのこ軍:2020/11/18(水) 09:25:52.187 ID:F296qGuso
- こんなに早くユリガミ様が出てくるとは意外ですぜ。
- 521 名前:Route:B-8:2020/11/18(水) 23:06:27.152 ID:1eea.BLg0
- Route:B
2013/4/26(Fri)
月齢:15.7
Chapter8
- 522 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:09:08.674 ID:1eea.BLg0
- ――――――。
わたしは、あれから、会議所で何を調べるのか。
どうしたいのか……そんなことを、ノートに書き連ねたりしていた。
やはり会議所への足は誰かの手伝いがあった方がいいだろうか?
調べるにしても、どのような観点から調べるか?
準備もなく行くのは、愚行であることは言うまでもないから。
瞿麦
「……明日の、【大戦】が、中止?」
そして今日……CTVを付けたわたしの耳に飛び込んできたのは、そんな情報だった。
【大戦】は諸事情で休戦する場合もある。だが、そうそう休戦するものでもない。
これは珍しい事態だ。
アナウンサー
「【嵐】のテロ予告により、大戦場に【嵐】の兵士たちが来る可能性もあり……」
アナウンサー
「【会議所】ではその対応に追われ……」
苺
「……今、【嵐】のターゲットにされているんだね」
沈んだ様子で、苺は呟いた。
……確かに、【会議所】でユリガミの手がかりをつかもうとする――
そんなタイミングで、【会議所】を標的にしたテロ行為が起きたのだ。そうなるのも無理はない。
- 523 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:12:36.767 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「……」
映像には、【大戦】の舞台――大戦場で暴れまわる【嵐】のメンバーたち。
――すべて、男。銃を撃ち、魔術を唱え、辺りの地形をえぐり、対応する兵士たちを挑発している。
瞿麦
「……!?」
わたしは――その映像を見て、心臓が凍りついたような衝撃を受けた。
苺
「っ!」
わたしの様子に疑問を呈した苺も、映像を見て――はたと気が付いた。
そこには――あいつが居た。
悪夢の中で、わたしに襲い掛かった、あいつが……。
- 524 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:13:24.690 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「……うぅ」
……どうして、あいつが居るの?
逮捕されたはず――なのに、どうして、どうして――。
瞿麦
「うぅ、ぅぅぅ、ううぅぅぅぅ……」
苦しみに呻くわたし……。
胃の奥から込み上げるものを感じ、わたしは洗面所へと駆け込んだ。
瞿麦
「げほっ、げほっ、げほっ……」
胃液の酸っぱい匂い――喉が焼ける感覚――そして、鏡に映る青白い顔――。
その後ろで、苺が心配そうな顔でわたしを見ていた。
苺
「瞿麦ちゃん……大丈夫……じゃないよね」
瞿麦
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
苺に背中をさすられながら、酷く息が切らすわたし。
わたしは満足に答えることもできないほどに衝撃を受けていた。
- 525 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:16:27.036 ID:1eea.BLg0
- あいつは、捕まったのに……どうして?
ふと、ある日のニュースを思い出す。
アナウンサー
「速報です、果汁組刑務所に【嵐】が攻め入り、一部の囚人が脱走したとのことです」
……あいつに襲われたのも、今の私の住処も……
果汁組刑務所がある場所も、会議所も……同じ国。
すなわち、あいつを含む脱獄した囚人は、テロ組織に身を移し、会議所を襲ったということになる。
瞿麦
「あいつは――【嵐】のメンバーとして、解き放たれたんだ」
ぼそりと――仮説を呟いて、わたしは恐怖を覚える。
がたがたと震え……歯の根が合わさり、かちかちと音が鳴った。
苺
「瞿麦ちゃん、ぼくが――いっしょにいるから……ね……」
恐慌状態にあるわたしを、苺が後ろから抱きしめてくれた。
けれども、その声は空元気のように思える声色。
わたしの不安な心が移ってしまったのかもしれない。
- 526 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:18:17.585 ID:1eea.BLg0
- そこで、そうか―と、気が付いた。囚人が脱獄したニュースを聞いたとき、わたしは奴の顔を見ていたことに。
――けれども、わたしは……深層心理が見ることを拒絶し、そのまま……忘れ去ろうとしていたのだ。
―でも、それは精神を楽にするだけの逃げに過ぎない。
脱獄というとんでもないことをしでかした奴に対し、
忘却して逃げる――その行動は、あまりにも無防備だ。少なくとも、警戒心は必要なのだ。
――怖い。とても、とても怖い。
それでも……前へと向かわなくてはいけない。それは身の安全を保障するためでもある。
そう思うと、思わずこぶしに力が入った。
- 527 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:20:35.456 ID:1eea.BLg0
- ……わたしの、封印された記憶が、漏れ出ていく。
心をふさぎ、糊塗し、目をそらしてきた記憶が……
……どうして、わたしは目をふさいでいたのだろう……。
どうして、わたしは……今の今まで、逃げていたのだろう。
それは、一時の幸せにすぎないのに。
奴が脱獄した――それを認識したとたん、恐怖とともに、不思議と立ち向かう気力が湧いてきた。
ユリガミを探す目的ができたからかもしれない。
ともかく――わたしは、自分自身が隠してきた記憶を認識したのだ。
電流がほとばしる。わたしの中に情報のエネルギーが神経全てを一瞬で走り抜けてゆく。
- 528 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:22:28.847 ID:1eea.BLg0
- わたしは――身体の成長が早い少女だった。
わたしの脳下垂体から生まれたホルモンは、余計なことだが、乳房やら、子宮やらを成熟させていった。
――その、お節介な指令のために……わたしは、必要以上に思い悩んでしまったのだ。
11歳のとき――すでに、母さんは居なかった。
海に沈んで行方不明になった――と父さんからは聞かされていた。
……ともかく、わたしには成熟した身体について、相談できる身内がいなかった。
苺と出会ったのはその時以降だったから、そもそも存在する考慮すらできない。
――そして妹の澄鴒とは、5つも年が離れていたから、当然相談できない。
――せめて、父か兄に相談すればよかったのかもしれない。
……でも、心配させたくなくて、言えなかった。
幼いわたしが取った選択肢――それは、ひどく安直で、愚かで、どうしようもない再悪手だった。
……幼いわたしにとって、学校は楽しい場所だった。
その頃は、太陽の下で遊ぶことも心の底から楽しめ、さらに勉強もできる……
それを支える先生たちは、とても頼れる存在。
そんな環境で過ごせる――それだけで、天国のようにも思えた。
- 529 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:23:11.937 ID:1eea.BLg0
- ――でも、わたしは……担任だった、グローリー・カヴルに相談してしまった。
グローリー
「先生に身体を見せてみなさい――」
今思えば、あいつにとっては千載一遇のチャンスだったのだろう。
わたしが相談する――その行為こそが、飛んで火にいる夏の虫。愚かな獲物そのものだった。
瞿麦
「はい――」
そして――わたしにとって、教師という存在は……頼ることのできる大人なのだと、信じ込んでいた。
そんなことはありえないのに。職業がどうであれ、その薄皮一枚から這い出る感情が、清廉潔白なわけがない。
……それを理解できない子供だからこそ、そうなったのかもしれない。
やがて――わたしは、何かがおかしいと気が付いた。
小児性愛者だった奴に、わたしは体の写真を撮られ――下劣で、にやついた口調で体を触られた。
……下着も下ろされたこともある。わたしは、初めてそうされたとき、そういうものだ――と納得していた。
……何回か奴にそうされて、わたしは疑いを持つようになった。
――その時は、もう引き返せない地獄の中にわたしは居たのだ……。
- 530 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:25:11.010 ID:1eea.BLg0
- ……追想したわたしの心には怒りの感情が芽生えていた。
――がたがたと震えていた感情は、どこかに飛んでしまった。
瞿麦
(どうして――欲望を満たすだけの下劣な人間に、わたしは苦しまないといけないの)
瞿麦
(夢の中で、何度も見る吐き気を催す存在――わたしは、奴によっていろいろなものを狂わされたような気がする)
……そうだ、わたしが今ここで生活している理由。
それは――奴を遠因としている。そんな予感があった。
わたしは――どうするべき?
いいや、どうするかは極めてシンプル……兄の手紙の通りに、ユリガミを探すことだ。
――今のわたしには、立ち向かおうとする意志がある。
もう、目を伏せない。まだ思い出せない事柄はあるけれど、それでも一歩一歩進めている。
そのために――わたしは――。
- 531 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:26:57.219 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「わたし、【会議所】に向かうよ」
――わたしは、その結論に至っていた。
わたしはユリガミが信頼できる存在であると知っていた。
だから信頼できる存在を――澄鴒を救う為に必要とされる彼女を探すために、その場所へ向かわなければならない。
苺
「……ぼく個人としては、引き留めたいけれど
瞿麦ちゃん、今の表情……やる気に満ち溢れてる気がするから、止められないな
――こんな瞿麦ちゃんを見てると、なんだか、ぼくも勇気づけられるな」
苺は、不安げにも、少しうれしそうにも見えるようにわたしに言った。
瞿麦
「……ごめんね、今まで……閉じこもり続けて」
苺
「いいの――瞿麦ちゃんは、いろいろな悪意に巻き込まれてしまったから――
ぼくは、ただ寄り添うしかできなかった」
そう言うと、ぎゅっとわたしの腕に絡みつき、愛おしそうにわたしの腕を抱いた。
- 532 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:28:06.318 ID:1eea.BLg0
- 苺
「……ぼくも、ついていこうか?」
瞿麦
「……ううん、これは、わたしが立ち向かわないといけないことだから」
正直に言えば……苺と一緒に行きたい気持ちはある。
それでも、わたしはその選択を取らない……。首を振ってその意思を示す。その理由は、単純明快だった。
苺
「……そっか、そうだよね
僕は――瞿麦ちゃんを支えはしても、その心の中までは、その背景まではわからないから」
瞿麦
「うん……ごめんね」
――そう。苺の言った通り、結局、これはわたしの問題なのだ。
苺は、わたしが経験した出来事を、すべてで知覚はしていない……。
わたしにとってたいせつなそんざいでも、わたし自身ではないから。
苺
「いいんだよ、瞿麦ちゃん
でも、このことは静さんや縁さんにも伝えたほうがいいよね」
瞿麦
「…うん、ここから【会議所】は遠しいし……移動手段をどうにかしないと」
……ややあって、わたしは【月輪堂】に連絡を取ることにした。
- 533 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:29:52.326 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「もしもし……瞿麦です」
縁
「あら、瞿麦が電話なんて珍しい――どうかしたの?」
瞿麦
「わたし、ユリガミを探すために【会議所】に向かおうと思うんです
――どうやって向かうか、今考えていて」
縁
「そっか、【会議所】に―」
少し心配げな縁さんの声……電話の向こうでどんな表情をしているのだろうか?
縁
「でも、貴女が真実に向かおうとするのなら……できり限りの協力はするわ
きっと、その心持が……これからの人生には必要だから」
それでも、続く縁さんの言葉は、わたしの決意の後押しをしてくれていた。
縁
「それで……足のことだけれど、静にお願いしようかしら?
行きと帰りの足ぐらいはできると思うし」
瞿麦
「はい、それでお願いします」
――とんとん拍子に、話が進んでいった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 534 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:31:59.159 ID:1eea.BLg0
- 最も、過去を惜しんでも意味はない……今は、できることに向かうだけだけど。
縁
「静に電話を変わるわね――ちょっとだけ、待ってね」
がちゃりという音がしてすぐに電話の相手は変わった。
静
「私だ――話は、聞いていた」
淡々と、短い言葉――それでも、声色からは肯定する様子がうかがえた。
静
「それで――【会議所】へ行く話だが、今は【嵐】の対応で面倒事もあるだろうから、1週間ほど後の5月4日はどうだろうか」
静
「この時勢のためか、納入先が追加されてね……そのついでになるけれど」
瞿麦
「はい、お願いします」
- 535 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:33:48.123 ID:1eea.BLg0
- 静
「では、5月の3日――18時ぐらいに、【月輪堂】に来てもらえたら――と思う」
瞿麦
「はい、よろしくお願いします」
静
「では、また今度」
がちゃりと、電話が切れる。
瞿麦
「苺ちゃん……話、聞いてた……?」
苺
「うん、5月3日だね――じゃあ、荷物とか準備しないとね」
献身的に、苺は荷物の準備に取り掛かろうとしていた。
瞿麦
「うん、わたしと一緒にやろう」
そしてわたしも……1週間後に向けて、出発に必要な準備を始めた。
- 536 名前:SNO:2020/11/18(水) 23:34:49.910 ID:1eea.BLg0
- >>534の5/4は5/3の間違えなので気にしないで。
- 537 名前:きのこ軍:2020/11/18(水) 23:43:32.717 ID:oFRzQ.fUo
- 会議所にいくとか胸アツktkr
- 538 名前:Route:B-9:2020/11/19(木) 22:12:17.052 ID:QXT2JAQM0
- Route:B
2013/5/3(Fri)
月齢:22.7
Chapter9
- 539 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:14:14.955 ID:QXT2JAQM0
- ――――――。
――ついに、出発の時が来た。
荷物はOK。調べることも、メモにまとめてある。大丈夫、問題ない……。
瞿麦
「いってきます、苺ちゃん、縁さん」
苺
「……気を付けてね、瞿麦ちゃん
静さんも、お気をつけて」
静
「心得ている」
縁
「とりあえず、前も言ったかもしれないけれど……
目にしたものすべてが真実ではないわ
都合のいいものだけが真実ではない――それを心に留めておいて」
瞿麦
「はい」
わたしは、力強く答えた。
――手紙に立ち向かう意思を見せてから、わたしは少しずつではあるが、静さんや縁さんとも円滑に話せるようになった。
数年越しの成長といったところだろうか。
- 540 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:15:18.270 ID:QXT2JAQM0
- 瞿麦
「とりあえず、1週間は滞在するって予定ですけど――早くなったり、遅くなったりする場合は……」
静
「まぁ、時間に差異はできるかもしれないが、連絡をくれれば私が迎えに行くよ」
瞿麦
「すみません――」
縁
「気にしなくていいの、若者は年上の手助けに甘んじなさい」
縁さんは、小さな身体を思いっきり張って、わたしたちにアピールをした。
その仕草が、わたしの心を緩ませる――少し気を張りすぎた心に対して、ちょうどいい按排になる。
……わたしにとって、静さんと縁さんの支援がありがたかった。
苺
「……二人が、本当に頼もしくて、僕もほっとして瞿麦ちゃんを見送れます」
縁
「そうね、貴女は瞿麦と出会ってから、ずっとべったりだったものね」
苺
「縁さん、もう……やめてくださいよぉ」
からかうような縁さんの言葉に、苺は顔を赤くした。
その反応は、わたしにとっても顔面をかあっと熱くさせるもので、思わず両手を頬に当ててしまった……。
- 541 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:19:59.594 ID:QXT2JAQM0
- 縁
「やっぱり、貴女たちも仲良しさんね
――静、事故とか起こしたら怒るからね」
静
「もちろんだ、縁――」
【会議所】に行くと決意したはいいものの、このまま辿り着いても夜になることは確実だ。
そのため、たけのこ軍居住地のホテルに宿をとる手筈になっていた。
そのお金は、静さんたちが出してくれている。本当に、二人には感謝してもしきれないほどに支援を受けている。
瞿麦
「……何から何まで、すみません」
ちっぽけなわたしのために、肉親でもないわたしのために――二人は、返さなくてもいいと言った。
ありがたいけれど、申し訳なさも少し残る。
静
「なに……気にしなくていい
それに、きみが何か返すとするならば――それは、きみが真実にたどり着く、それに勝るものはないさ」
瞿麦
「はい」
そんな会話をしながら、わたしたちはトラックに乗り込んだ。
静
「では、行ってくる」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 542 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:24:44.135 ID:QXT2JAQM0
- ……揺れる、揺れる、トラックは揺れる。
過ぎ去る景色を見ながら、静さんが話しかけた。
静
「瞿麦――きみに伝え忘れていたことがある」
静さんの横顔は、凛々しく……わたしは、こうなれるのだろうか――と思いながら、頷く。
瞿麦
「なんですか?」
静
「君の身の保障のことだ……
ボディーガードをつけることにしている――もちろん、信頼のおける人物に」
瞿麦
「そう……なんですか?」
静
「ああ――わたしの信頼する人物に依頼し、信頼できる人材を選択してもらったから、問題はない――」
瞿麦
「………」
突然の話題に、わたしは沈黙することしかできなかった。
静
「きみにとっては知らない人物かもしれないから、不安かもしれないが……
――どうか、信頼してほしい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 543 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:26:02.917 ID:QXT2JAQM0
- 瞿麦
「あ――着いたんだ」
静
「……とりあえず、到着した
何かあったら、連絡してくれ――仕事にとりかかっているかもしれないから、縁が出るかもしれないが」
瞿麦
「はい、お願いします」
わたしは、静さんに一礼をして、ホテルへと向かった。
背後でトラックが走り去る音が聞こえる――それは、わたしが一人で真実に向かう始まりでもある。
不安は、ある。
それでも――澄鴒のために、わたしはユリガミの手がかりを探さないといけない。
おそらく、兄さんは――わたしが立ち向かうために、手紙を寄越したのだろう。
結果的にはわたしが行動していることを考えると、兄さんの計算力には感服するばかり。
……大丈夫。わたしには、ボディーガードもいる。だから――とりあえず、ホテルで休もう。
チェックインを済ませ、荷物を部屋に置いて――わたしは、部屋の中で1日を終えた。
- 544 名前:SNO:2020/11/19(木) 22:26:23.406 ID:QXT2JAQM0
- 近付いてくる……
- 545 名前:きのこ軍:2020/11/19(木) 22:40:10.138 ID:a3Glqny2o
- 苺ちゃんもついてくればいいのに。
- 546 名前:Route:B-10:2020/11/21(土) 01:38:42.295 ID:uukUlyIg0
- Route:B
2013/5/4(Sat)
月齢:23.7
Chapter10
- 547 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:39:36.559 ID:uukUlyIg0
- ――――――。
次の朝。
ルームサービスで取り寄せた朝食を食べ終えたわたしは、【会議所】に向かおう――そう考えていた。
……が、その瞬間、外で轟音が鳴り響いた。
ホテルのカーテンをめくり、窓の下の様子を見る。
そこには――青い軍服を着た男たちが、街中で魔術を唱えて、あちこちの公共物を攻撃していた。
瞿麦
「!まさか、【嵐】?」
男
「うおおおおおっ!!」
男
「【会議所】反対だ!【会議所】などなくとも理論は通じる!」
男
「ウォオオオオーーー!」
デモクラシー?いいや、これはテロリズム……。
CTV越しではない、実際の戦い――その光景を見ると、震えが出てくる。
大戦を経験したものなら、この事態にも冷静でいられるのかな……。
- 548 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:41:32.032 ID:uukUlyIg0
- 瞿麦
「大丈夫……わたしは、こんな奴らに負けない」
外から音に、わたしは――テロリストの標的にされている場所に行くのだと、改めて思い知らされる……。
実際にその光景を直に見ると、その決意が揺らぎそうになるが……わたしはぐっと拳を握って決意を固めた。
強引に、恐怖を捻じ伏せる。あいつが居るかもしれない。それでも……わたしは、向かわなくてはならない。
誰かが連絡したのか――それから数分後、【会議所】の兵士たちが駆け付けた。
兵士
「居住区での破壊活動は禁止されている!直ちに降伏しなさい!」
男
「おっと、逃げろ!退却だ!」
男
「イェエエエイ!」
兵士が力強い発言すると、まるで想定されていたかのように、男たちは叫びながら蜘蛛の子を散らしたように散り散りになっていった。
こんなに、すぐに退却するなんて……一体、奴らは何を企んでいるのだろうか。
らちが明かずに、部屋に置いてあるCTVをつけようとしたとき……ホテルのアナウンスが聞こえた。
- 549 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:44:50.668 ID:uukUlyIg0
- アナウンス
「只今、【会議所】からの通告がありました
市内での【嵐】の工作活動による外出規制のため、ホテルにお泊りの皆さんは待機していただく――そういった形となりました
まことに申し訳ありません――なお、予定滞在日数を超過する場合の手続きなどは、当ホテルが――」
そんな――せっかく、【会議所】に近づいたのに。
不安になって、わたしは【月輪堂】に電話をかけた。
瞿麦
「もしもし――」
静
「ああ、瞿麦か――ニュースは見ていたが、まさか朝っぱらから【嵐】が来るとは――」
瞿麦
「はい、ホテルが室内待機を命じて、出られない状況下になってます
わたし――【会議所】に行くまで、時間がかかるかもしれないんです――」
静
「それは仕方ない――予定が延期しても、金の方はこっちが持つから安心してほしい
それから【会議所】へ行くのは待機宣言が解かれてからにしたほうがいいだろう――」
瞿麦
「はい」
静
「勝手に外に出ていくと、目立つ可能性もある
とりあえずは、向こうの指示を待ってほしい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 550 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:55:53.855 ID:uukUlyIg0
- 瞿麦
「わかりました――あの、ボディーガードの人は?」
……そこで、素朴な疑問が一つ浮かんだ。
静
「ああ――それについては、心配しなくていいだろう
どんな事態だろうと、きみを守ってくれる」
瞿麦
「うーん………それらしい人は、居ないような」
そう言いながら、わたしはきょろきょろとあたりを見回す――けれども、一人しかいない室内と荷物がそこにあるだけだった。
静
「私と知己であり、かつ戦闘能力の高い人物――その条件で、先方にリクエストしている……
先方の都合もあるから、誰が来るかまでは私の存じ上げるところではない」
静
「しかし……その条件に合致する人物は、すべてきみに不利益をもたらさない
それだけは伝えておく」
――件のボディーガードに姿が見えないことに、やや、不安はある。
けれども、静さんの信頼を込めた言葉は、頷くだけの説得力がある。
瞿麦
「わかりました」
わたしは、大きく頷いた。
- 551 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:56:28.540 ID:uukUlyIg0
- 静
「何か、聞きたいことがあったらまた連絡してほしい」
瞿麦
「はい、わかりました、ありがとうございました」
静
「ああ――では、また」
がちゃりと、電話が切れる音が聞こえた。
静
「ふぅ――」
わたしは、ため息を一つついて――ベッドの上に身体を投げ出し、ただぼうっと天井を見ていた。
- 552 名前:SNO:2020/11/21(土) 01:56:59.846 ID:uukUlyIg0
- Route:Aと繋がりが……?
- 553 名前:きのこ軍:2020/11/21(土) 11:08:03.985 ID:x8dCU0Ygo
- ボディガード誰だろう
- 554 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:11:17.649 ID:uukUlyIg0
- ……天井を見ながら、わたしはとある記憶を思い出していた。
苺と出会う前の記憶を……。
――それは、ある朝のことだった。
あいつに、日々、日々迫られる、ぐずくずに腐った日々のこと……。
わたしは、誰にも相談できず……かといって逃げることもできず、公園のベンチで座っていた。
瞿麦
(こわい――先生が、こわい――
いやだ、いやだ、いやだ……でも、誰にも――言えない
友達にも、父さんにも兄さんにも――)
鎖で雁字搦めにされたように、わたしには何一つとして道が見えなかった。
――あるいは、視界が狭まりすぎて、その道を認識することさえできなかったのかもしれない。
- 555 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:21:34.681 ID:uukUlyIg0
- ……ふと、わたしに影が落ちた。
思わず、顔を見上げる――そこには、とても髪の長い巫女装束の女性がいた。
その顔はこの世のものとは思えないほど綺麗で――
わたしと同じ黒い髪と黒い瞳は、わたしと違って黒曜石のように輝いていて見えて――
腰に下げた太刀もまた、綺麗な白百合で飾られて見惚れるほどで……
何より、そのたたずまいは、神々しく、まるで女神のように思えた。
???
「――どうしたの?とても表情が重いし、体が震えている」
女性は――神々しさもあったけれど、それ以上に姉のように思えた。
わたしにとっては……その人は、おねえさま、と呼ぶべき人物だった。
瞿麦
「あっ………」
わたしは無意識のうちに、おねえさまの差し出した手を握っていた。
- 556 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:29:46.638 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「……心がぐちゃぐちゃに壊れそうで、身体がなんとかそれを繋ぎとめている――そうなのね」
おねえさまの瞳は、まるでブラックホールのようにわたしを吸い込んだ。
その瞳の前では、何一つとして嘘はつけない。
――その時、わたしは、母さんも、そんな吸い込まれるような瞳をしていたと思った。
わたしはおねえさまの質問に、こくりと頷いた。
おねえさま
「――どうしてそうなっているのか、わたしに教えて」
おねえさまの声は、とても神々しく、神秘的で……わたしは、ああ、やっと助かるんだと思い、自然と泣いていた。
おねえさま
「大丈夫……?わたしが、あなたを怖がらせてしまったかしら」
困惑したおねえさまの言葉に、わたしはふるふると首を振った。
おねえさま
「なら、よかった――」
ほっとしたおねえさまの表情は、とてもきれいで――その神々しい雰囲気とか裏腹に人間味があるようにも見えた。
瞿麦
「……じつは」
わたしは――事の顛末を、ゆっくりと、ゆっくりと――おねえさまに話した。
- 557 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:34:13.995 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「――そうだったのね
つらい話を、よく話してくれたわ」
おねえさまの表情は、慈しみにあふれた、やさしい表情だった。
おねえさま
「……ごめんね、つらい話をさせて」
そしてわたしをぎゅっと抱きしめ、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
おねえさまの柔らかな感触と、やさしい香りがわたしの心を洗い流してくれた。
おねえさま
「……あなたがこれからどうするかは分からないけれど
わたしは、さっさと逃げ出したほうがいいと思うわ」
――おねえさまの意見はもっともだった。
でも、もうわたしには――そうできないほどに、心の余裕がなかった。だから首を振ると――。
おねえさま
「……そっか
ならば、せめて――あなたに害なす者を追い払ってみせましょう
――わたしが、必ず……」
そういうと、おねえさまはその場から、霞のように消えてしまった。
一人取り残されたわたしは――結局、重い足取りで、学校に向かっていた。
- 558 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:36:31.738 ID:uukUlyIg0
- ……その頃は、授業が終わってから、呼び出されて――身体検査という名目で、奴にセクハラを受けるのが、日常になっていた。
――本当に、吐き気を催す――汚らわしく、疎ましく、蔑まれるべき出来事。
瞿麦
「ひっく、ひっく……」
グローリー
「泣いてても終わらないぞぉ?さぁ、さっさと先生の言う事を聞くんだ……」
ただ、ただ嗚咽を漏らすわたしに対するあいつの表情は、まるで死体に集る蛆虫のように醜く歪み、その奥から漏れ出る腐臭を纏った肉欲を示していた。
がしりと、あいつに肩を掴まれた。
大人の大きな掌に支配されること。それは、世界を知らない子供にとっては恐怖そのものでしかない。
ふたり以外は、誰もいない人気のない部屋。
窓から射す夕陽は、わたしの心を焦がし、焼き尽くさんとばかりに、強く強く室内を照らしていた。
対照的に、わたしの表情は、鉛のように重々しく――わたしの心は、深海の底の底よりも暗く――。
あいつの、大きな手がわたしの身体をなぞる。
恐怖。一秒が無限のように思える、地獄。
- 559 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:39:31.880 ID:uukUlyIg0
- 所詮、この世の中は、どれだけ知性で取り繕うとも、心の奥底に在る汚らしい本能が恐ろしいのだ。
そう思っていると――。
窓ガラスの外に、おねえさまが立っていた。
ちょっとした手すりもない、窓の縁のわずかな足場に、バランスを崩すことなく綺麗な姿勢で立っていた。
夕陽を隠すように、おねえさまの影が部屋を包み――あいつは、そっちに振り向いた。
グローリー
「なんだ、お前はぁ!なんでそんなところに居る!?邪魔する気かッ!!」
指を指し、激高するグローリー……これが、あいつの本性だと、初めから気が付いていればよかったのに。
おねえさま
「………」
おねえさまは、その質問にも答えず、無言で太刀で窓を切り裂き、部屋に侵入した。
- 560 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:44:15.980 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「――お前は、年端もいかない乙女に……抵抗できない弱い存在に、
欲望をぶつけることしかできない、知性のひとかけらもないけだもの」
氷のように冷たく、研いだ刃物のように鋭い言葉を、あいつにぶつけるおねえさま。
その言葉には怒りが感じられ、たった一度出会ったわたしの境遇を、真剣に考えてくれている――そう感じ取った。
グローリー
「な、いつの間に目の前に!?」
そして、おねえさまは――わたしが瞬きをしない一瞬のうちに、あいつの傍に詰め寄っていた。
おねえさま
「本来なら――お前のような唾棄すべき、存在価値の見出せないけだものは、
死なない程度に八つ裂きにして、欲望という名の腐臭にまみれた臓器を一つ一つ潰してやって、
苦しめて苦しめて苦しめて消滅させないといけないけれど――」
おねえさま
「あいにく、地獄を見た女の子の前で、そんな凄惨な光景を見せるわけにはいけない」
淡々と、呟いた、おねえさまの声は、ぞくりとするぐらいに怖かった。
――そしておねえさまは語りながら、太刀の鞘であいつに足払いをかけ、
バランスを崩したわずかなタイミングで、床に落ちていたロープであいつの両腕を縛り上げた。
それは……わずか、数秒の出来事だった。
- 561 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:46:17.969 ID:uukUlyIg0
- わたしが呆然としている間に、おねえさまは室内を探り始め、
わたしや――わたし以外の被害者の写真を取り出し、机の上に置くと、扉の向こうを見やった。
おねえさま
「……じきに、助けは来るわ
わたしにできるのは、ここまで
さようなら――」
寂しそうな顔をすると、おねえさまは窓から去っていった。
わたしが呆然としているあいだに、他の先生が騒ぎを聞きつけやってきてた。
教師
「――グローリー先生、この騒ぎは一体……なっ!なんだその姿は!?」
教師
「この写真は……どういうことですか!仮にも教職に就くものが……いや、それ以前の問題だ!」
教師
「警察を呼んでください!瞿麦ちゃん、もう大丈夫だから――」
やがて――あいつの所業が明るみになった。
それでも――わたしが明るくなることはない。
すでに――心は、希望という存在を受け付けなくなっていた……。
- 562 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/21(土) 23:51:54.586 ID:uukUlyIg0
- ……あいつは、裁判でその悪辣さによって、15年の有罪判決を受けた。
わたし以外にも――わたし以上の被害を受けていた女の子もいたらしい。
そんな、おぞましい存在が……たった、15年で世の中に放り出される。
それでも――もはや、抗議の声をあげる気力もなかった。
……わたしは、マスコミの目に晒されることはなかった。
――無茶苦茶な取材しようとする記者が、悉く何者かによって妨害されたのだと、そういう噂を聞いた。
おそらくは……おねえさまが手を回してくれたのだろう。
――同様の被害を受けた女の子の周りでも、そういった出来事があったらしい。
……それから、わたしは家族と距離を置くようになった。
父さんとも、会話をしなくなった。
まるで苺から避けていた時のように……わたし自身から……。
兄は、そのころすでに大学に在籍し、一人暮らしをしていたから――会うことすらなかった。
心配して、わざわざ駆けつけてきてくれたけれど――わたしが拒んだから、顔を合わせることはなかった。
- 563 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:01:07.339 ID:QFi5KiEY0
- …………そして、わたしの妹……。
……澄鴒は、心に陰を落としたわたしを心配して、時々一緒に居ることもあった。
事件に巻き込まれた被害者から――そんなこともあって、どうしてもわたしは他人からそのような眼で見られていた。
父さんも、兄さんも……立場を考えれば当然だし、顔や態度には出さなかっただろうけれど、心にはどうしてもそういった感情があることはうかがえた。
それでもあの子は……わたしをそういった目では見なかった。
まだ幼かったから、まだ事件について理解できていなかったのがよかったのかもしれない。
お風呂も一緒に入って、ただにこにことした笑顔を浮かべるだけ。
父さんに隠れて、こっそりとおやつを食べたこともあった。
――小学校にも入る前だったのに、あの子はとても賢く、やさしく――そして純粋だった。
それなのに、そのいびつな、それでもどうにか生きながらえる暮らしを――
――わたしは、わたしの手で捨ててしまった。
- 564 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:09:23.523 ID:QFi5KiEY0
- ……それは、あの子が小学校に入る前――まだ学期も終わっていない2月の話。
視線の先で、澄鴒が小学校の制服を着て楽し気に部屋を跳ねまわっていた。
???
「パパ、学校はまだ?まだかな?」
ふわりとした金色の髪が揺れる……その横でわたしの父がにっこりと少女に微笑んだ。
父
「まだ2月だからね……もうちょっと我慢だ」
同じく、金色の髪をした父さんが微笑まし気にそう答えた。
???
「小学校――楽しみだなぁ、どんな場所なんだろうなぁ」
無邪気にはしゃぐ澄鴒は、制服を着て、部屋の中をぐるぐると回っていた。
回転するスカートの軌道が、印象深い。
父
「似合っているね」
父さんは、あの子の制服姿をやさしい笑顔で褒めた。
――わたしは、置物のように、ただその光景を見ていた。
- 565 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:10:39.852 ID:QFi5KiEY0
- ???
「おねえちゃん、どお?」
にこっとした笑顔で、澄鴒はわたしに話を振った。
青い瞳と、金色のふわふわした髪……きれいな人形のような印象を受ける見た目……。
誰もが、気分のいい答えをするかわいい声は、天使のように見えるかもしれない。
けれども、わたしは――その言葉に、トラウマを想起させてしまった。
ただ、その単語に関する……それだけで――澄鴒が、悪魔のように見えた。
澄鴒が通う学校は、わたしの通ったところとは違うのに……。
そもそもあいつは捕まっていて、澄鴒があいつと出会うことはなくて……。
それなのに、制服、ただそれだけの単語で、心がかき乱されて……。
瞿麦
「うるさいっ、話しかけないで!学校なんて、楽しくないの!」
わたしは思わず激高して、澄鴒に言ってしまった。
- 566 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:11:59.722 ID:QFi5KiEY0
- 澄鴒
「う……ぅ……うああああぁぁぁっ……」
澄鴒はそのまるい両目に涙を浮かべて……部屋に走り去った。
わたしは、そこで初めてしまったと思ったけれども、すでにそれは起きてしまったことだ。
取り戻すことはできない――その時、世界は崩壊したとも言えた。
父
「――!」
慌てた様子で、父さんは澄鴒の背中を追いかけた。
わたしは、呆然として、立ち尽くしていた。
家の中の空気は、鉛のように重く……わたしは、ふらふらと、中庭へと足を運んだ……。
- 567 名前:SNO:2020/11/22(日) 00:12:38.182 ID:QFi5KiEY0
- 一部人物名が???になってるミスあるけど澄鴒に置き換えて読んでください
- 568 名前:きのこ軍:2020/11/22(日) 17:23:33.130 ID:DzDwnMfAo
- 百合神さま初登場っぽいですね。たのしみたのしみ
- 569 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:42:24.928 ID:QFi5KiEY0
- わたしは、中庭の隅で膝を抱えて縮こまり、ただそうやって時間が過ぎるのを待っていた。
瞿麦
(なんで、あんなひどいことを――)
後悔する感情。あの子を――実の妹を――傷つけてしまったことが、茨が巻き付いたように心がずきずきと痛んだ。
瞿麦
(――――)
吐き戻しそうになるぐらい、わたしの心は暗雲に包まれていた。
瞿麦
(謝らなきゃ――)
わたしは、そう思いながらも、あの子と顔を合わせるのが怖くて、立ち上がれなかった。
その時――何者かの気配を覚えた。気配のした方向を、恐る恐る覗くと……。
玄関の前に、白に染まったモヒカンヘアーをした、見るからに柄の悪そうな男がいた。
隣には、亡者のような青白い肌の男たちがぞろぞろと付き添っていた。
十数人ほどの男たちはみなぎこちない歩き方をしていて、その見た目も相まって……まるでゾンビの群れのように思えた。
- 570 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:44:25.563 ID:QFi5KiEY0
- ???
「ここが、フェルミ家――【理論】に関する研究の第一人者の家――間違いなさそうだ」
そう言うと、男はひと蹴りで玄関のドアを蹴破った。
瞿麦
(っ!?)
――えっ!?どうしてドアを!?
わたしは縮こまった身をさらに縮こませて、ぶるぶると震えていた。
……そこから先、何があったか、わたしは知らない。分からない。
ただ、わたしがその時知っていることは……争う声や音が聞こえ、肉の潰れる嫌な音が響いたこと。
ぴしゃりと、何か液体が飛び散る音が聞こえたこと。そして……父さんの断末魔。ただ、それだけだった。
父
「ぐわァアアーーッ」
どしゃりと、重い何かが崩れ落ちる音。それは、まるでこの世で最も大きい音のように、わたしの中で何度も響いた。
わたしは、あまりの非日常な出来事に……何もできずに、ただ、ただ、泣いていた。
- 571 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:48:01.210 ID:QFi5KiEY0
- ???
「……娘だな、噂には聞いていたが、この雰囲気は、やはり…………の血を……」
……男の言葉が聞こえる。それは澄鴒に対する言葉だろう……。
でも、わたしは飛び出すこともできず怖くて震えるばかりだった。
……たとえ、出て行ったとしても、何も打つ手はないかもしれないけれど――。
???
「お前ら……を、探……」
男は、何かを探しているようだった。
しばらく、何かを漁る音、何かをひっくり返す音、ガラスが壊れる音――いろいろな破壊音が響いた。
???
「ちっ――アレはないのか!仕方がない、このガキを攫い、家は燃やしちまえ!」
――でも、目的の何かは見つからなかった様子で、男の激高した声が聞こえた。
その言葉通り――とくとくと、何かが注がれる音が聞こえた。
その後の出来事を想像するに、それは可燃性の液体だったのだろう。
瞿麦
(いや、やめて、やめて、やめて……)
ただ、震える子犬のように縮こまり、何かに縋りつく――そんな哀れな存在と化していた
――澄鴒が……モヒカンヘアーの男に攫われ、連れ去られていった……。
その影が遠くなるまで、わたしは呆然と、ただ座り込んでいて……。
無限にも思える絶望の果てに、背後を炎の赤が塗りつぶし、辺りに熱気が立ち込めた。
- 572 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:50:04.372 ID:QFi5KiEY0
- 生存本能のためか、わたしは振り向いた。
瞿麦
「っ!!」
視界の先では、わたしの過ごした家は、ごうごうと炎に包まれていた――。
故意に……何者かの悪意によって……わたしの過ごした時間も、わたしの家族も、ばらばらに引き裂かれてしまった。
父さんが殺され、澄鴒も連れ去られて…わたしは何もできなくて……。
その衝撃な出来事に動揺して、思わず腰を抜かせ、ばたりと中庭に転んでしまった。
……タイミングが悪いことに、その光景を、まだ残っていたらしい、男の仲間に見つかってしまった。
男
「ギヒ、まだ娘がいた――ようですぜ――」
あいつを想起させる下品な口癖と立ち振る舞い――わたしは、逃げ出したくても、身体ががちがちに固まって動けなかった。
男は、ぎこちない歩きで、わたしに迫ろうとする。
――わたしは、うなだれて、刑を執行される罪人のように、その迫る光景を見ていた。
もはや……逃げる気力すらもなかった。諦めていたのかもしれない。
- 573 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 20:54:35.357 ID:QFi5KiEY0
- その時――。
???
「――ひどい、なんてことなの」
突然、女性の声が聞こえた。
その声の方向を向く――すると、そこには紫のローブを着た、金色の角を生やした女性がいた。
その角から、人間ではないことは容易に想像できた。恐らくは、魔族だ――と、その時わたしは思っていた。
???
「……一足、遅かったのか
もう少し早く来ていれば……」
悔やむように、女性は炎に燃える家を見つめていた。
- 574 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 20:58:23.026 ID:QFi5KiEY0
- ???
「家を燃やすわ、誘拐するわ――そして震える女の子を取り囲む――
最低だね、本当に――
また、こんなのと関わり合いになるなんて思ってもなかったなぁ」
女性は、軽蔑した表情で男たちを見つめた。
それは五人ほどだっただろうか。やつらは皆わたしの周りに居て、逃げられないように取り囲んでいた。
男
「なんだ……邪魔スルナラ、殺すが……」
男
「その女も捕まえルダケダ……あっちに行け、女ぁ……」
男たちは、濁った、ぎこちない喋りで女性に告げた。
……わたしは、その急な出来事に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で、事態の推移を見ていた。
???
「この家を狙った、ということは……
さっちゃんの予想通り……ここには……」
女性は、男の言葉には答えずに、何か考え事をしていた。
男
「話が聞けないのなら、死んでもらうぜェ!」
瞿麦
「ひっ!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 575 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:06:18.337 ID:QFi5KiEY0
- 男
「あ……?」
しかし――続く光景は、困惑する男の声だった。
わたしが目を開けると……。
???
「………」
女性は、弾丸を摘み取ると、まるで粘土のようにぺらぺらに潰してぽいっとその場に投げ捨てた。
――銃弾のエネルギーを、指先だけで打ち消し、捻り潰し、怖がりもせず――淡々と切り抜ける。
その剛腕を見せた魔族の女性は、まるで救世主のように思えた。
そして――女性は、背中に翼を生やし、隼のように低空飛行したかと思うと、
わたしをかばうように、わたしの前に降り立った。
???
「私を――殺す?
何、言ってるの?何かの冗談かな?」
女性の背中からは、いつの間にか翼はなくなっていた。
後ろ手にわたしをかばいながら、男たちに投げかけた言葉は、地獄の鬼も恐れて逃げ出すほどに怖かった。
王者のような威圧感の陰に、わたしは女性に対する信頼感が芽生えていた。
- 576 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:10:49.901 ID:QFi5KiEY0
- ???
「シトラス」
――女性が、魔術を唱えた瞬間、レモン色の魔法弾が男たち目がけて飛んだ。
拳銃よりも――ライフル弾よりも速いスピードでその魔法弾は飛び交い、男たちの身体を次々と弾き飛ばした。
男
「ギャ!」
男
「ぐぼァッ?!」
男
「魔法を使ってくルゾ、マジックジャマーを使え!」
断末魔を上げた男を見て、生き残りの男が何やら機械を作動させた。
ぴりぴりと震えるような衝撃波が辺りに流れ出す。
その瞬間……。
???
「シトラ………
あぁ、不発かぁ」
女性が再びシトラスという名前の魔術が使おうとするが、魔法弾は出ることはなかった……。
彼女は、その事実に、やれやれと両手を広げて面倒くさそうに男たちを見ていた。
男
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 577 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:19:02.907 ID:QFi5KiEY0
- ???
「ハッ!」
男
「え?グワァァァッ!」
女性は、ため息を深く吐いたかと思うと思いっきり男の頬にビンタをかました。
その軌跡は目で追えないほど早く……そして、まるでバットで打ち返されたボールのように、男は数十メートル先まで吹っ飛んでいった。
???
「せいっ!」
さらに、女性は振り回す腕の遠心力を利用し、
ムチのように片腕を振るうと、残った男たちをすべて張り倒した。
男
「ギェエエッ!?」
???
「で……自慢げに、語ってたらしいメイジ封じの作戦は、私には無意味だよぉ♪
私は唯のメイジに非ずってさっちゃんも褒めてくれてたし~?」
女性は、楽し気に地に臥せた男たちに告げた。
???
「まぁ、こうなったのは……半ば自業自得だよね?
私にこうやって倒されることなんか、本当にそう……」
そして、餞の言葉のつもりか、男たちに再び怖い声でそう吐き捨てた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 578 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:33:45.392 ID:QFi5KiEY0
- ???
「とりあえず、消火しないと」
そう女性は呟くと、レモン色の濁流が家全体を包んだ。
それは瞬く間に炎を消し去り、焼けた家が眼前に広がった。
???
「この子を置いていくわけにはいけない……
でも、この中に連れて行くわけにも……」
続く女性の言葉は、考え込む言葉。
しかし、その疑問に答えが出たのか、すぐに頷くと……。
???
「よし」
ローブの裾から、タコのような、イカのような……無数の触手が現れた。
それらは家の窓から入り込み、何かを探るようにうねうねと蠢いていた、
瞿麦
「……」
わたしは、呆然としていると……。
???
「怖かったよね――でも、もう大丈夫、安心して」
ぎゅうっと、女性に抱きしめられた。
やわらかな感触。さわやかな檸檬の香りがわたしの鼻腔をくすぐる。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 579 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:35:19.843 ID:QFi5KiEY0
- ???
「――とりあえず、ここはとても危険だよ
追っ手がくるかもしれないから、私のことを信じて――わたしと一緒に来て」
続けて、素早く、わたしにそう告げた。
とても、顔が近い。眼前に広がるその紫の瞳は、アメジストのようにどこか魅力的で、蛇のようにどこか妖しく――それでいて、信頼できる瞳だった。
瞿麦
「――は、はい」
……もう、どうすればいいのかわからない。
この人が信頼できるか――それもわからないけれど、それでも、わたしを救ってくれた。
だからわたしは、こくりと頷いていた。
???
「ありがとう――私を信じてくれて」
そして、わたしは女性に抱かれて――その場を離れた。
視界の果てでは鎮火された家の残骸がある。
しかしそれもやがて遠ざかり、わたしは女性の腕の中で、流れる景色に身をゆだねていた。
- 580 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:38:35.926 ID:QFi5KiEY0
- ――女性に連れられて来たのは……その時は知りもしなかったけれど、今ではよく知った場所。
すなわち……【月輪堂】だった。
縁
「あら、なくちゃん……どうしたの、その子は……」
???
「フェルミ家の女の子――いろいろな事情があって、保護してきたの」
後で教えてもらったことだけど――女性は、いまや会議所で魔王の呼び名高い兵士でもある、魔族の女性――791さんだった。
791さんは縁さんと深刻な口調で会話しながら、わたしを地面にやさしく下ろしてくれた。
……とはいえ、わたしは戸惑うばかり。ここはどこなのかも知らなければ、目の前の人物が何者かもわからない。
あまつさえ――その人物が、当時のわたしよりも幼い外見で、白髪と黒い眼を持っているとなれば、なおさら……。
縁
「……緊急事態だったのはわかるけれど、この子、すごく困惑してない?」
冷めた目で、縁さんは791さんに軽口を発していた。
791
「そうだよね……それに、魔族の私が言うのもなんだけど……
ここ、月の民と天狗しかいないし……人間のこの子にとっては、びっくりすることが多いよね……」
縁さんと791さんは、旧知の仲のような、砕けた会話を広げていた。
内容は……わたしを気遣うたぐいのものだということは、なんとなく理解できていた。
- 581 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:40:54.991 ID:QFi5KiEY0
- 縁
「……とりあえず、この子にいろいろと説明しないと」
791
「あっ、そうだね――」
791
「ここは【月輪堂】――明治国の田舎の鍛冶屋
知る人ぞ知る――というか、ここの場所を知ってる人物なんて、まずいない」
瞿麦
「は、はぁ――」
――突然の出来事に、聞きなれない単語……天狗に、月の民――聞いたことのない種族。
わたしの頭には疑問符だらけで、話についていくのが精いっぱいだった……。
791
「――そして、あなたに謝らないといけないことが、ひとつ……
わたしがたどり着いたとき……誰かが攫われていたけれど、その人を助けることができなかった」
その言葉を聞いたとたんにわたしは気が付く。――その、誰か……それはおそらく澄鴒のことだ。
瞿麦
「それは、わたしの妹の――」
791
「――!妹ちゃん、だったのか……
なんとか、あなたを救うことはできたけれど……もう少し、フェルミ家に早くにたどり着いていれば――ごめんね」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 582 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:42:27.420 ID:QFi5KiEY0
- 791
「これは私の友達のさっちゃんの仮説なんだけど……
フェルミ家は、特別な宝物を持っていたって噂があるの――だから、あんな奴らが家に押し掛けたんだと思う
どうして、妹ちゃんが攫われたのかは、それははっきりとはわからないけれど――」
瞿麦
「…そんなの、わたし知らない……」
791
「知らなくても、狙うの――あいつらは、そういう奴らだから」
……あの子は、無事なの?
そもそも、喧嘩さえしなければ――未来は違っていたかもしれない。
瞿麦
「わたしが喧嘩しなければ……ひどいことを言わなければ……」
わたしは、思わず地面に膝をついて、涙をこぼした。
縁
「……大丈夫?」
そんなわたしを、その時は名前は知らなかったけれど――縁さんが、後ろから抱き留めてくれた。
わたしよりも小さな身体。澄鴒に近い体格の縁さんからは、まるで母親のような温かみを感じた。
- 583 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:45:23.512 ID:QFi5KiEY0
- 瞿麦
「……謝れなかった、澄鴒に、うっ、うぅ……」
縁
「たぶん、喧嘩別れと事件が重なったから、頭がぐちゃぐちゃになってるのね」
縁
「……どうして喧嘩したのか、それは聞かないわ
それでも、あなたはその事実に後悔して、挽回ができないことに怯えていることはわかる」
やさしく、そして核心を突く言葉……わたしは、縁さんにすがりついてただ泣くばかりだった。
縁
「でも、大丈夫……あたしたちが、助けてあげるから
少なくとも、あなたのことは、ここで面倒見てあげることができるから」
頭を撫でながら、縁さんは続けた。
791
「……」
縁
「――わたしの知り合いには、信頼できる強者がいる……
そこにいる、なくちゃん――じゃない、791って魔族の女の子も含めてね
だから、もう大丈夫……」
791
「ああ、うん……名乗り遅れたけれど、私は791で、隣のおかっぱ頭の子が月輪縁って名前だよ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 584 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:48:31.046 ID:QFi5KiEY0
- ふと、がたりと、物音が店の奥から聞こえた。
わたしが、店の奥に目をやると、静さんと苺が姿を現した。
――もっとも当時は、一人の女性と、一人の女の子としか捉えられなかったけれど。
縁
「それから――この鍛冶屋の鍛冶師、静
この住居の責任者みたいなものね」
静
「奥で話は聞いていたが……厄介事に巻き込まれたらしいね」
静さんは、女性にしては長身で、初めて見たときは威圧感を勝手に覚えていたような気がする。
静
「縁の言った通り――私もきみに協力するから、安心してほしい
口下手だから、怖がらせるかもしれないが……きみの身の保障は確保できるよう最大限務めるするつもりだ」
重々しい静さんの言葉。始めは、取っつきづらい人だと思っていたけれど、
……少しずつ接するにつれて、あまり活発的ではないけれど、やるべき仕事をきっちりとこなす人だということは、すぐに理解できた。
そして――苺。
縁
「それから、この子は、ここでお手伝いをしてもらっている苺
たぶん……あなたと同年代ぐらいだと思うわ」
苺
「は、はじめまして……ご紹介に預かった苺です」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 585 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:53:39.592 ID:QFi5KiEY0
- 瞿麦
「!」
思わず、その白い翼に目をやるわたし……すると、苺はわたしに駆け寄って、恥ずかしそうに告げた。
苺
「僕は……余り知られてない種族の――天狗、なんです……翼が生えてるから、不思議だよね
ても、翼をはためかせても、身体を持ち上げられないから、飛べないんだけどね……」
ぎゅっとわたしの手を握り、早口でわたしに答える苺。
白い髪、白い肌、白い翼、そして対照的な紅い眼は、わたしの心を一瞬で捉え――
可愛らしい表情と、わたしと仲良くしようとする純粋な心は、わたしの気持ちを一瞬で和らげ――
なにより、久々に出会う同年代の女の子ということが――わたしの心を貫いた。
瞿麦
「っ、ふふっ――」
それは気持ちが揺れ動いたからか。
あるいは、母さんも、白髪と紅い眼をしていたから、それを重ねたからなのか。
どちらにせよ、わたしは、苺を見て、思わず笑っていた。
- 586 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:55:11.080 ID:QFi5KiEY0
- 縁
「あら――あなた、表情がすごく沈んでいたけれど
苺のスキンシップで、すこしやわらいだみたいね」
縁さんの口元も、微笑みにゆるんでいた。
791
「あーよかった、ここに連れてきてよかった……
地理的にも安全で、できるだけ女の子が多くて、頼れる知り合いにも顔が利く――そういう条件で連れてきたんだけど
少し、あなたが落ち着いたようで――本当によかった」
791さんは、胸を撫で下ろしていた。
静
「そういえば、きみの名前を聞いていなかったが……」
瞿麦
「な、瞿麦・フェルミです
……その、助けてくれて、ありがとうございます」
苺との接触で少し落ち着いたわたしは、そこでようやく挨拶をした。
- 587 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:56:00.853 ID:QFi5KiEY0
- 苺
「瞿麦ちゃん、その……よ、よろしくね」
すこし顔を赤らめた苺……その純粋な笑顔に、わたしの心は溶かされるようにも思えた。
恐怖でがちがちに固まり凍り付いた心が、その温かみで解凍されたようにも思えた。
瞿麦
「う、うん……」
だから、わたしは――この【月輪堂】と、別荘での暮らしにスムーズに入ることができたのだ。
あの子に対する後悔と、父さんが死んでしまった――その二点を心に抱えながら……。
…………。
瞿麦
「ふぅ」
わたしは、追想を経て、ため息をついていた。
ああ――わたしは、あの頃と比べれば……真実に向かうために歩んでいる。
だから……必ずユリガミまでたどり着こうと、そう心に刻んだ。
- 588 名前:SNO:2020/11/22(日) 21:56:48.414 ID:QFi5KiEY0
- 色々と見えてきたかも。
- 589 名前:きのこ軍:2020/11/23(月) 16:18:39.688 ID:Yj4cfpNQo
- やっぱりお父さんは殺されていたか。
791さんかっこいい。
- 590 名前:Route:B-11:2020/11/23(月) 21:24:53.582 ID:bu1djGd60
- Route:B
2013/5/8(Wed)
月齢:23.7
Chapter11
- 591 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:29:36.033 ID:bu1djGd60
- ――――――。
あれから、4日経った。本来ならば【月輪堂】で手伝っている時間帯――
とはいえ、向こうの理解もあるからこそわたしはここにいるのだ。
アナウンス
「【会議所】での緊急会議の結果、今日から外出規制が解除される並びとなりました
テロの可能性などもありますが、自治体の兵士などによる警備の強化が……」
……お昼時を過ぎて、ようやく外に出られるようになった。
どうしようか。今から【会議所】に向かってもいいけれど、十分に調べられる時間が取れるだろうか?
少し悩んで、わたしは結論を下した。【会議所】に行こう。
会議所が有する図書館は、世界有数の大きさだと聞く。
たぶん、一朝一夕未満の、半日では目的の情報にたどり着くのは難しいだろう。
……慣れない場所ということもある。一度行ってみて、感覚をつかみつつ、数日かけて情報に辿り着く。
これが最良の選択だと、思う。
わたしは、【会議所】へ向かうバスに乗るために、ホテルを出た。
- 592 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:31:16.551 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「なにか…いる…?」
わたしがバス停に向かって歩いていると、なぜか視線を感じた。
……振り向いても、誰もいない。それでも気配を感じるような気がする。
瞿麦
「……まさか、ね」
――まさか、奴が脱走したとして、わたしをそうそう見つけられるだろうか。
……そんなはずはない。いくら【嵐】が【会議所】を標的にしているとしても……。
それでも不安の感情は少しずつあった。試しに、走ってみよう。
……けれど、閉じこもっている間に鈍ったわたしの身体はすぐに音をあげ、息を切らせた……。
瞿麦
「はっ、はっ、はっ、はっ――げほ、げほ、げほっ!」
近くのベンチで、むせ返るわたし。
目の前では、車が走り……通りゆく人々の目は、不思議なものを見るようなもので――なんだか恥ずかしかった。
- 593 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:32:18.010 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「わたし――なにやっているんだろう」
わたしはがっくりと肩を落とす。
【会議所】に行ってもいないのに、なんでこんなに疲れてるんだろう。
気を取り直して、バス停に向かおうとしたその時……嫌な視線を感じた。
瞿麦
「――え?」
それも――あいつのような、下劣な視線。
振り向いても、何もいない。それでも、視線のようなものは――あるような気がする。
ざっ、ざっ、ざっ――足音が聞こえる。
その方向をちらりと見やる――足早に、男が近づいているような気がする。
呆気にとられる私に近づく男が一人いた。
- 594 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:33:56.183 ID:bu1djGd60
- ……その顔は――
グローリー
「ヒヒヒ――」
汚く黄ばんだ歯を見せながら、近づいてくる男は――
紛れもなく、あいつだった。
瞿麦
「――!」
わたしは、足早に人ごみの中をかき分け、バス停とは逆の方向へと駆け出した。
逃げなきゃ。逃げなきゃ……あいつから、逃げなきゃ。
わたしは、前も見ず、ただ、適当な曲がり角を見つけては曲がり――適当な横道に逸れ――
気が付くと、どこかの路地裏に迷い込んでいた。
- 595 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:36:28.701 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「あれ――ここ、どこ――」
地図は持っていたけれど、夢中で逃げ出したからここが何処かなんてわからない。
そもそもこんな人通りの少ない道を彷徨うほうが、危ないのではないか?
焦燥感にかられる。心臓が早鐘を打つようにばくばくと唸りだす。
わたしは、路地裏から抜け出すために、身をかがめてただ走った。
瞿麦
「きゃ!」
前を見ずに走っているうち、わたしは何かにぶつかった。
尻もちをついて、思わず上を見上げると――厳つい顔の男が、わたしを見下ろしていた。
男
「こいつが――フェルミ家の娘か……?連絡しないと」
瞿麦
「いたっ、やめてっ!はなしてっ!」
そのごつい腕で、わたしの細い腕が掴まれる。
男は……わたしの抵抗など意に介せず、手元の通信機で何かを連絡しようとしていた。
- 596 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:38:59.383 ID:bu1djGd60
- ――その瞬間、黄金色の流れ星と、遅れて風切り音が耳元を掠った。
同時に、男の持っていた通信機はバラバラに砕け、破片が地面に散らばった。
そして爽やかなシトラスの香りが辺りに散らばってゆく……。
男
「なんだと?」
困惑する男は、不意の腕の力を抜いた。その機を逃さず、わたしは脱兎のごとく逃げ出す……。
男
「おい、待てッ!クソガキがッ……」
後ろから聞こえる怒号……地面を蹴り迫り来る足音。
しかし、再び風切り音が聞こえたかと思うと……。
男
「あがっ――」
再びの風切り音とともに、断末魔と、倒れこむ音……それから遅れて爽やかなシトラスの香り。
振り向くわけにはいかないけれど、先ほどの男がわたしを追いかけている様子はない。
すなわち、これは――ボディーガードが現れた、ということなのだろうか。
- 597 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:42:15.631 ID:bu1djGd60
- 男
「待て―このガキがぁ!」
足が棒になるのをこらえて必死に逃げるわたし――。その後ろから、追っ手らしき男たちの声が聞こえた。
男
「ぐわっ!」
男
「ぎゃぁっ!」
――しかし、これまた風切り音と断末魔とシトラスの香り。
やはり、これはボディーガードの人が助けてくれているのだろう。
とにかく、どうにか安全な場所まで逃げないと――。
疲れに音をあげそうになる身体に鞭打ちながらひたすら走っていると、じゅっという音が聞こえた。
まるで、虫眼鏡で太陽光を集めて燃やしたような、じゅっという音が聞こえた。
瞿麦
「きゃっ!」
その瞬間、わたしは地面に躓いて転んでしまった。
瞿麦
「いたた……」
擦りむいたりはしていないようだけれど、地面に打ち付けた痛みが腕にあった。
転んだ場所を見ると……アスファルトの地面が、微妙に陥没している……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 598 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:44:20.251 ID:bu1djGd60
- グローリー
「瞿麦ちゃあん――さんざん苦労をかけさけてくれたね
お仲間が、そこそこやられちゃったよ――」
瞿麦
「ひっ!」
――あの時同様の下劣な表情を見せたあいつがそこに……。
当時から比べれば顔は老け、髪も薄くはなっているが、魂自体は、その薄汚い心そのものは変化していなかった。
グローリー
「…あの頃から、ずいぶんと身体が成長しているらしいなぁ、フフフ――
先生に、見せてみてよ――」
あふれた涎も拭いながら、あいつは迫ってくる。
この本性に昔から気が付いていれば――。
瞿麦
「来ないで!わたしには、ボディーガードがいる」
グローリー
「ほー、なら呼んでみなよ……先生は、ボディーガードだろうと勝てる強さを手に入れたんだよ」
わたしの抵抗の言葉も意に介さず、あいつは手元の懐中電灯をつけたかと思うと、わたしの横の壁を照らした。
その瞬間――凝縮された光がわたしを横切り、じゅっという音とともに、壁に穴を開けた。
- 599 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:47:55.693 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「えっ――」
突然のことに、わたしはただ呆然とするだけ。
グローリー
「フフフ、人間に当てればどうなるだろうねぇ
まぁ瞿麦ちゃんにはやらないけどね、ボディーガードとやらには無意味だろうね」
自慢げににやにやと語るあいつの顔は、欲望がにじみ出た醜い本性であふれていた。
瞿麦
「!」
――どうして、こんな魔術を!?あいつはメイジでもなんでもなかったはず……。
わたしの口はからからに乾き、何も言えない――ぱくぱくと、陸に打ち上げられた魚のように口を動かすだけだった。
グローリー
「さぁ、時間をかけちゃったね……久しぶりに続きといこうじゃないか、ハァ、ハァハァ……」
カチャカチャとベルトを降ろす音が聞こえた。
いやっ、やめて――!そう叫ぼうとしても、あまりの恐怖で叫べない。
その時……。
檸檬色の魔法弾が、降り注ぎ、煙がもうもうと立ち込めた。
グローリー
「ん、なんだ!?」
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- 600 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:51:49.209 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「警告する――少女から離れろ」
そこには――燕虎が居た。
燕虎は、漆黒の棍を右手で掴み、あいつの方を見ていた。
……その表情は、長い前髪に隠れて読めない。口調からも感情は読み取れない。
――しかし、あいつへの嫌悪感がある。それだけは、わたしにも理解できた。
グローリー
「なんだ、お前――お前がボディーガードか?」
燕虎
「………」
あいつの質問に、燕虎は何も答えない。
――でも、こんなタイミングで現れたのだから、恐らくは燕虎がそうなのだろう。
グローリー
「無視か――まぁ消えてもらうけど」
余裕綽々にそう言うと――グローリーは懐中電灯を燕虎に向けた。
増幅された光のビームが、燕虎目がけて宙を駆ける。
瞿麦
「ひっ!」
わたしは――その後の光景を想像して、思わず目を瞑ってしまった。
壁に穴を開けるような威力の光を、生き物が受けたらどうなってしまうの!?
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- 601 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:00:43.213 ID:bu1djGd60
- ――続けて、じゅっという音と、破壊音が聞こえた。
恐る恐る、目を開くと……。
燕虎
「――あまねく飛道具は我が意思にありけり」
どういうわけか、何事もなく、燕虎はそこに立ったままで――その横の壁に穴が開いていた。
よく見れば右手は少し被弾したようで、わずかに煙が経っていたけれど――負傷というほどの怪我には見えない。
燕虎は――身をかがめながらあいつに向かって走り出し、その速度エネルギーごと棍であいつのどてっ腹を思いっきり突きにかかった!
グローリー
「な、なぜ跳ね返された!?くそ、もう一度だ!」
グローリーは再び燕虎に攻撃するために光を照らした。
だが、今度は燕虎に当たる寸前に、何事もなかったかのように消え去った。
グローリー
「あ?がはっ!」
そして、棍で突かれたあいつは呻き声とともに倒れ伏し、燕虎はわたしとあいつの間に割って入っていた。
それはわずか、数秒の出来事だった――。
- 602 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:05:28.645 ID:bu1djGd60
- グローリー
「……うぐ、うぐぐ、なぜ、なぜ効かない……」
吐瀉物をまき散らしながら、あいつは言葉をこぼす。
燕虎
「――すべては魔女の囁くがままに……これで満足?」
返す言葉は氷のように冷たく、周りの気温すらも下げるのではないかと思うほどだった。
燕虎
「……奴から才能を開花されたのだろうが
超能力を使えるだけでは……強いとはいえない……」
燕虎
「魔術のように、普遍的ではない――
たった一人だけしか操ることのできない才能だとしても――
そこに鍛錬を加えないようでは……無意味にすぎない」
グローリー
「グギャッ!」
続けて淡々と言葉を吐き捨てた燕虎は、それだけ言うと、鳩尾に思いっきり棍を振り下ろし、あいつを気絶させた。
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