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ユリガミノカナタニ

1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
??「―――――――。」


―――声が聞こえる。



これは、わたしの一番古い記憶?


何も、見えない。


そこは、暗闇の中―。

2 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:56:01.50 ID:XUiZ9x7c0
けれど、音は聞こえる。



―男と女が、いることが分かる。



男と女が何かを話している。



男「――――――」
女「――――――」
男「――――――」

3 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:56:50.53 ID:XUiZ9x7c0
ただ、何かを話しているようではあるけれど。

それは、わたしの中にある記憶の、一番底にあるもの?


何かを話している、というものはわかるのだけれど、何を話しているのかは分からない。





そして、その声はだんだん小さく――。

4 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:57:52.19 ID:XUiZ9x7c0
―――。

暗闇から光が―――。


夢の中の海―記憶の海から、浮かんでゆく。


光の射す水面へと浮かんでゆく。

5 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:02:39.46 ID:XUiZ9x7c0
??「鈴鶴(すずる)様、おはようございます」

ゆさゆさと身体を揺らし、わたしを呼ぶ声。


鈴鶴(すずる)とは、私の名前のことだ―。



鈴鶴「ああ、おはよう……」

わたしは、目をこすりながら、その声に答える。

6 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:04:26.17 ID:XUiZ9x7c0
わたしを起こしたのは、わたしの乳母(めのと)のような存在であり、わたしの姉のような存在の女性。


けれど、彼女は人に在らざるものである。


人にて人ならず、鳥にて鳥ならず、狗にて狗ならず、
足手かしらは人であり、左右に羽根はえ、飛び歩くもの―――。


つまり、天の狗―。

7 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:06:33.88 ID:XUiZ9x7c0
彼女の名前は、闇美(ヤミ)―。


わたしがこの世に生まれたときに、ここに命からがら逃げてきた天の狗。

妖殺しという集団に、仲間を皆殺しにされて、ここまで逃げてきた、と彼女は語っていた。


だから、身体中に傷跡がある。

そして、右目と、左手の中指の半分と、左手の薬指と小指を全て失っている。

8 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:09:31.27 ID:XUiZ9x7c0
ヤミ「鈴鶴様、寝覚めでも悪かったのですか?」

ぼーっとしていると、ヤミが声を掛けてくる。


鈴鶴「いいえ、ちょっと夢が気になるところで終わったから」


ヤミ「あら、それはお邪魔でした?」
ヤミが、わたしを見つめて言う。


鈴鶴「ううん、それほどでもないから」


ヤミ「では、布団から出ましょう」

9 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:10:47.84 ID:XUiZ9x7c0
わたしたちは、ただの庶民。
貴族でもなければ、王族でもない。

竹を取るり、それを様々なことに使うのが生業の、ただの人。


わたしの父と、ヤミと、わたしの三人で生きている。


わたしの母は、わたしが生まれたときに亡くなったのだそうだ。




―いつもの通り、作業をし終わる。

10 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:13:05.26 ID:XUiZ9x7c0
もう、空も赤く染まった―。


いつもの通り食事、禊を行って。


それが、終われば、もう月は海から浮かび上がる時刻になる。

11 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:15:48.99 ID:XUiZ9x7c0
もう、あとは眠るだけ―というわけではない。

わたしの父は、わたしの母の形見だという、太刀の稽古に行く。


その太刀の腕は、竹にも、動物にも、一発で切り落とす腕―。

それを、毎日の鍛錬で、限界に―あるいは、限界を超えるために鍛錬をしている。

12 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:16:58.17 ID:XUiZ9x7c0
父「では、稽古をしてくる」


父は、太刀を携え、山の中へと向かう。


住処の中には、わたしとヤミだけが―。

13 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:19:26.07 ID:XUiZ9x7c0
ふたり、寝床の中に佇む。

けれど、そのまま眠りにつくわけではなく―。


わたしとヤミは、寝床の中で互いを抱き合う。


着ている服をずらし、首筋をあらわにして。


互いの首筋に、その歯を立て、互いの身体に流れる血を吸い、飲む―。

14 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:21:53.59 ID:XUiZ9x7c0
もっとも、これには理由がある。

わたしが赤子の時の習慣が、今もなお続いてしまっているだけだ。


母が死んでしまい、母乳のあてがなかった。

そこで、ヤミが、自分の【血】で補ったことが、この行為の始まり。

けれど、【血】は、その中に特別な力を宿すものであり―。


その習慣は、いつしかヤミが、わたしの【血】を吸うほどになっただけなのである。

15 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:24:42.08 ID:XUiZ9x7c0
鈴鶴「ん……」


わたしは、ヤミの首筋に唇を合わせ、血を飲む。

いつもの習慣でも、やはりこれをするときは緊張する。

ヤミ「鈴鶴様、どうぞ」
ヤミは、やさしく私を見つめて、微笑んでわたしを見つめる。

まるで―といっても、実際その行為の代わりなのだけど―母が赤子を見つめるように。

16 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:26:55.58 ID:XUiZ9x7c0
鈴鶴「んくっ…くっ…くっ…」
粟、稗、獣、山菜……数々のものを食べてきても、やはりこの【血】の味は格別だ。
ついつい、夢中になって飲んでしまう。



ヤミ「ふふっ、鈴鶴様のこのお顔、ほんとうにかわいらしい」
そんなことを言われて、我に返って、わたしは赤面して――。


ああ、この人は。
なんて恥ずかしいことをすぱっと言うのか。
けれど、わたしはこの人とずっと一緒にいたいと思ってしまうのも事実であり―。

17 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:27:37.38 ID:XUiZ9x7c0
鈴鶴「ヤミ、わたしの血、吸っていいよ」
わたしも、血を捧げる。


ヤミは、やさしく歯を立てた。

18 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:28:36.93 ID:XUiZ9x7c0
ヤミ「鈴鶴様、だいじょうぶですか?」


わたしを気づかいながら、その血を吸い取ってゆく。
その息遣いは、甘く、そしてくすぐったい。


ヤミ「ん……はぁ、はぁ…」

わたしの身体に抱き込む力が強くなる。
そして、ヤミは舌で歯を立てたところを舐めて。


ヤミ「鈴鶴様、美味しゅうございました」
ヤミは、わたしの首筋から、唇を離した。

19 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:29:52.38 ID:XUiZ9x7c0
服の乱れもそのままに、わたしたちは二人抱き合って、寝床の中に―――。

ヤミ「鈴鶴様、ずっと、一緒にいましょうね」

抱き合いながら、ヤミは優しく―けれど、固い意志が含まれた言葉を囁いた。


いつしか、わたしたちは、眠りの海に――。

20 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 23:30:34.48 ID:XUiZ9x7c0
こうした日々が何日も、何月も、何年も過ぎる―――。


わたしの父に、太刀の使い方を習い、その稽古をするようになったり。


ヤミに抱っこされて、いろいろなものを見に行ったり。
あるいは、ヤミと天の狗のやっていた修行をやってみたり。



―月日は流れる。
川を流れ行く水のように、空を流れ行く雲のように―――。

21 名前:【アイキャッチ】:2014/10/26 23:41:48.42 ID:XUiZ9x7c0
人物・専門用語

鈴鶴(すずる)

・生年月日:792年10月12日
・髪色  :黒
・目の色 :黒
・血液型 :B型
・利き手 :両利き
・一人称 :わたし


ヤミ(闇美)

・生年月日:782年5月6日
・身長  :170cm
・体重  :60kg
・スリーサイズ:72-62-78
・髪色  :黒と白(ブラック・ジャックのような感じ)
・目の色 :青
・利き手 :右
・一人称 :わたくし


天の狗
羽を背中に持ち、風を操る人ではない存在。
寿命は200歳程度。成長期は15歳ぐらいまで。
老化が始まるのは100歳ごろから。

22 名前:【アイキャッチ】:2014/10/26 23:55:33.57 ID:XUiZ9x7c0
この話は、全四章構成―。
【アイキャッチ】が、章の終わりの合図である。

23 名前:きのこ軍:2014/10/27 00:07:34.08 ID:OcR59gcco
すごい続きが気になるゾ
791年誕生日の方は出てくるんですかね

24 名前:【アイキャッチ】:2014/10/27 00:25:44.65 ID:xxGduP7g0
修正
>>9
竹を取るり、それを様々なことに使うのが生業の、ただの人。
           ↓
竹を取り、それを様々なことに使うのが生業の、ただの庶民。

25 名前:【アイキャッチ】:2014/10/27 00:35:18.08 ID:xxGduP7g0
>>23
うーんいないよ。

26 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:12:38.37 ID:KRsyiv7Q0
――それは、わたしがこの世に生まれて、15の年が過ぎた時。



―夜。


わたしの父は、いつものように素振りには行こうとせず、わたしとヤミの前にどかと座った。

27 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:13:02.60 ID:KRsyiv7Q0
父「…もう、15年か。
  私は…そろそろ、話さねばならないことがある。」


重々しく、そう喋った。

28 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:15:32.23 ID:KRsyiv7Q0
ヤミ「ああ、もう…
   …そんなに年が経ったのですね…」
ヤミは、どこか寂しそうな顔つきになる。




父「――それは、鈴鶴の…母さんのことだ。」
父は、そう言った。



鈴鶴「わたしの…母上???」

わたしには、死んだとだけ聞かされていた、母親――。

29 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:16:35.95 ID:KRsyiv7Q0
父は、さらにあるともう一つ。


父「そして、…お前と……闇美のことだな」

30 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:21:07.69 ID:KRsyiv7Q0
父「率直に言おう。
  母さんは、人に在らざる―闇美のような存在だった」

それは、とても唐突すぎた。


  
父「母さんは、この国…いや、この星の存在ではなく…
  あの、夜空に浮かぶ月に住まう存在であった
  【月の民】と… そう言っていた」


天の狗――羽を生やした、人に在らざる者である、ヤミがいなければ、それは冗談かと思ったかもしれない。


けれど、ヤミという存在がいて。

―そして、父のその目は、表情は、声色は、決して嘘をついているものではなかった。

31 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:24:36.85 ID:KRsyiv7Q0
鈴鶴「え…?」

わたしは、戸惑う。

それは、つまり―――。


鈴鶴「わたしの血の半分は、その【月の民】の血が流れている……ということ?」


けれど、その戸惑いが頭を混乱させるよりも、それが事実なのだ、と受け止めた。

32 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:31:04.30 ID:KRsyiv7Q0
父「…そういうことになる」
父は、わたしの確認に、頷いた。



父「……母さんとの約束だった。
  鈴鶴が15か16になる頃には、どうかこのことを教えてくれと。」


月のほうに目をやり、寂しそうな表情を見せ―。


父「…この、私が振るっていた…今は鈴鶴も振るう太刀は、母さんの形見だな…」
父は、太刀を取り出した。

その太刀は、金色の柄であり、その柄頭と鞘に白い百合の花が拵えられた太刀―。
その刃は、錆びることなく、折れることなく、欠けることもなく、重々しい刃―。


わたしは、はじめてこの太刀に触れたときから、この太刀には特別な思いがあったけれど。
今まで―7年ほど手にしてきた太刀への特別な思いは、母の愛なのかもしれない、と感じた。

33 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:34:11.82 ID:KRsyiv7Q0
鈴鶴「そういえば、もう一本は?」

わたしと父は、ともに素振りをすることもあった。
そのときは、父は飾りのない、特色もない、普通の太刀を振るっていた。


父は、そのもう一本を見つめながら。

父「…この太刀は、出会いの象徴だろうか―
  まぁ、それほどのものでもないかもしれないけれど、な」

そう、思いをはせるように答えた。

34 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:36:56.48 ID:KRsyiv7Q0
ヤミ「お父様…
   わたくしのことも、そろそろよろしいでしょうか?」
ヤミが、わたしの父に訊ねる。


―そうだ。
父は、母のこと―。

そして、もう一つ。
わたしと、ヤミのことだ。


父「ああ、頼んだ」


そして、ヤミは語った。

35 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:42:27.61 ID:KRsyiv7Q0
ヤミ「わたくしがここに逃げ込んできたとき、わたくしは、生死の境を彷徨うほどでした」
   けれど、その時…鈴鶴様のお母様は、わたくしに…
   全ての生命を、捧げて…助けてくれました…そうです」

優しい―けれど、すこし寂しそうな、切なそうな目で語る。


ヤミ「鈴鶴様を産んで、弱った身であっても、わたくしのことを助けてくれたのです
   …もっとも、そのことは、わたくしがここに逃げ込んで、気が付いたときにお父様が教えてくれました
   逃げ込んで、倒れているところを、お父様が見つけたそうですから……
   お母様の顔は、見られていません―」

その寂しそうな目の光は、よりいっそう強まる。

36 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:43:33.68 ID:KRsyiv7Q0
鈴鶴「それでは、わたしの母上が死んだ、というのはは…」
つまり―――。


父「…そういうことだ。」
父は、硬い表情でうなずいた。


ヤミは、寂しそうな目で、うつむいている。


37 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:47:32.17 ID:KRsyiv7Q0
けれど、ヤミは、わたしをまっすぐ見つめて、告げる。
泣きそうな目で―。
けれど、はっきりと、告げる。


ヤミ「――わたくしは、鈴鶴様のお世話をしているのは、ひとつはこの感謝のためです
   けれど、それだけでは……」


―ゆっくりと、投げかけるように。
その左目には、涙が一筋―。

わたしを抱きしめながら、言う。

38 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 01:56:43.02 ID:KRsyiv7Q0
ヤミ「それだけでは、ないのです
   わたくしは、鈴鶴様をひとりの女性として
   一緒にいたいから…」


涙の一筋は、止め処なく―。


わたしは、そんなヤミの心を溶かすために―。

ヤミの腕を取り、顔を見合わせて、やさしく言う―。


鈴鶴「いろいろなことを聞いて、わたしはとても驚いている
   けれど、ヤミはヤミ―。 
   わたしは、ヤミと一緒にいたい
   ―ヤミというひとりの女の子と」


ヤミ「鈴鶴様、ありがとう―」


わたしたちの心は、混ざって、一緒に――。

39 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 02:01:54.14 ID:KRsyiv7Q0
しばらく、そうしていて―。
わたしたちの心が落ち着いたとき、父が言った―。


父「鈴鶴…おまえには、月の血が流れていると言ったが―」
  


父「月の血は、変若水の血――
  人より長く若く生き続け、それは千代をも越えるのだと―
  母さんは私に言った…」

40 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 02:03:02.16 ID:KRsyiv7Q0
父「そして、その生命を引き継いだ闇美にも…
  その月の血は、流れている
  だから……」



その時――。


ざぁ――
父がわたしたちに何か告げようとしたとき、風が強く吹いた。


空気が、どことなく淀んで感じた。

41 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/29 02:04:14.64 ID:KRsyiv7Q0
その空気に、いち早く感じたのは、ヤミ。


ヤミ「この気配…まさか――」





ざっ、ざっ―

草を、土を、踏み歩く音―。


わたしたちの目の前に、人影が現れた。

42 名前:【第二章 中断】:2014/10/29 02:05:17.86 ID:KRsyiv7Q0
今日はここまで

修正
>>36
鈴鶴「それでは、わたしの母上が死んだ、というのはは…」
          ↓
鈴鶴「それでは、わたしの母上が死んだ、というのは…」

43 名前:きのこ軍:2014/10/29 22:28:40.41 ID:u298LCDQ0
続きがきになる。

44 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:03:52.19 ID:Ns.N3duQ0
人影は、近付いてくる。

――声が聞こえる。


??「……見つけたぞ
   あの時殺し損ねた、天の狗の生き残りをな…」


それは、ヤミに向けられた言葉―。



ヤミ「この、声
   この、言葉……」
ヤミの身体は、がたがたと震えていた。




妖殺し――。


その声の存在は、ヤミのことを知っている。
殺し損ねた生き残り、そう言っているのだから――。


その声の存在は―。

45 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:05:24.20 ID:Ns.N3duQ0
そして、近付いてくる人影は、やがてその姿を見せる。


??「今までよく隠れていたと褒めてやりたいところだが…
   その隠居生活も、もう終わりだぜ」

――そう言いながら、男が現れた。


髪と肌は月のごとき白さを持ち―。
その目は闇夜のごとく黒く、瞳を青白く光らせる―。


ただの人ではない―恐らくは、人に在らざる存在であろう男が、現れた。

46 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:08:12.44 ID:Ns.N3duQ0
その後ろには、お供と思わしき男どもが見える。
見たところ、人間の男が、十人を越えるぐらいに――。


その澱んだ空気が、濃くなる。


父は、その男を、まるでそれが悪しき者ということを予め知っていたような目で見つめ―。
  
父「貴様は、誰だ?」
静かに―けれど、とてもとても重い、鈍い金属のごとき硬さを含む言葉で問う。

47 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:10:33.17 ID:Ns.N3duQ0
男「俺の名は、カショ…
  ――そこの天の狗を、殺しに―」


その男は、言葉を言いかけ、わたしのほうを見て。

鈴鶴「――っ!」



カショ「―ふ
    ――ふふふ
    ふはははははははは!
    殺し損ねた、天の狗だけじゃあなく―」
笑い声を発した。


それは、とても嬉しそうな笑い声―――。

48 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:12:39.57 ID:Ns.N3duQ0
ああ、何故こんなに恐ろしいのか。

この声は、わたしの心の臓を冷えた手で握り潰しがごとく、恐ろしい。
聞いたこともないのに、何故か恐ろしいと、分かっていた。


カショ「あのクソッタレなアマは、よくも…
    いや―――よくぞ、計画したものだ
    死体で見つかったと聞いて、その腹いせに、この組織を作ったが―」


わたしは、その恐ろしき気配に身体が震える。

ヤミはわたしを背中にかばいながらも、震えている。


49 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:14:18.16 ID:Ns.N3duQ0
カショ「まさか、殺し損ねたのともう一人、あのアマの子がいるとは――
    ふ、ふ、ふふふふふふ―
    この組織は、とてつもない大当たりを引いたっ!」


そして、父の方を向いて―。

カショ「今なら、お前の命だけは助けてやろう
    そこの二人の娘さえ差し出せば、俺たちはここには用はない

    さあ―寄越せ」


右手で、指差す。

50 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:15:02.98 ID:Ns.N3duQ0
父「………」



沈黙―。



けれど、それは、苦悩の沈黙ではなく―。

51 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:17:34.18 ID:Ns.N3duQ0
父「私は、貴様の言う、【そこの二人の娘】の親だ
  娘の鈴鶴を、義娘の闇美を守る使命がある―

  使命を破ってまで得る命に、価値なんて存在しない」


父は、静かな怒りを込めて、そう告げる。


カショ「…無駄な足掻きを」


カショは、面白いとばかりに、腰に携えていた太刀を構えた。

52 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:19:06.36 ID:Ns.N3duQ0
父「鈴鶴―
  母さんの太刀を、闇美を支えてくれ―」

父は、わたしに母の形見の太刀を渡し。


鈴鶴「父上…」




父「闇美―――
  鈴鶴のことを、宜しく頼む―」

父は、ヤミに深く礼をし。


ヤミ「お父様―」

53 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:21:06.95 ID:Ns.N3duQ0
そして、カショたちのほうを向いて。


父「鈴鶴、闇美――
  逃げろ
  
  逃げれば、その果てに
  生への路は、希望の路はある
  其れを信じて、逃げ続けろ」


振り向かず、わたしたちに、大きな背中を向け。
―太刀を抜き、カショの方へと歩み寄りながら、そう言った。


そして、力強い声で、カショに言葉を紡ぐ。


父「さあ、来い…!」

54 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:21:50.27 ID:Ns.N3duQ0
その言葉と同時に、父は鋭く素早く、カショに太刀を振りかぶる。

父「ふんっ!!」
カショ「おらぁッ!」


そして、ヤミはわたしを抱えて住処を飛び出し、外へと駆けた。


カショ「逃がすな!」

その大きな号令とともに、男どもが、追いかけて来た。

55 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:22:50.13 ID:Ns.N3duQ0
―遠くで、刀と刀がぶつかり合う音が聞こえる。
父とカショと―それに加勢する数人の男が、対峙する景色が遠ざかってゆく――。



父「――ヤの約束は…破らん!」

父が、そう力強く言う声が、遠ざかってゆく――。




―逃げる。
わたしは、ヤミに抱えられ逃げている―。


ヤミは地を駆けている―。


そして、十分な助走を取って、空へと駆けた―。


56 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:23:07.22 ID:Ns.N3duQ0
ヤミ「鈴鶴様、絶対に守りますから」
ヤミは、わたしに力強く意思を述べ。



鈴鶴「ヤミ、絶対に守ってね」
わたしは、母の形見の太刀を胸に抱きながら、それに頷いた。

57 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:24:07.55 ID:Ns.N3duQ0
逃げる、逃げる、逃げる―――。


わたしたちは、追っ手から逃げている。



空を駆け、何処かの山に入り、ふたり手を繋いで逃げる。


何処とも知れぬ山の中を、わたしたちは逃げている。


ヤミといっしょに、わたしたちは走っている。


追っ手はわたしたちを追いかける。

58 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:26:10.55 ID:Ns.N3duQ0
体力が尽きかけていても、ただ精神力のみで走っていた。




鈴鶴「あ…」

疲れからか、わたしの足がもつれる。
躓いて、身体があらぬ方向へ倒れようとする。



それは、地面ではなく、崖であり――。


ヤミ「鈴鶴様、危ないっ!」

ヤミがわたしを抱きかかえようとしたけれど――。


ヤミの身体も、崖に引きずられ―。



わたしたちは、崖から落ち、その底に待つ海へと落ちていく。

59 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/10/31 00:28:25.85 ID:Ns.N3duQ0
ばしゃぁあっ―――。
水飛沫とともに、わたしたちは海へ―。


わたしたちは、海の中に―――。




ああ、波に飲まれてしまう―。


嗚呼、せめて―ー。

わたしは、ヤミから離れないように、ヤミを抱き。
ヤミは、わたしを放さぬよう、わたしをがっちりと抱き。
母の形見の太刀が、私たちの胸と胸の隙間を埋めて。



目の前が海の色で、包まれる―――。






暗闇の中に落ちてゆく―――。

60 名前:【第二章 中断】:2014/10/31 00:28:51.95 ID:Ns.N3duQ0
今回はここまで

61 名前:きのこ軍:2014/10/31 18:40:47.50 ID:dv4llT..o
どきどき。

62 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:44:16.12 ID:gF0EJYl20
此処は、暗い暗い、闇の中――――――――。


――――――声が聞こえる。
男と二人の女性が、話している。

わたしは、その様子を見つめている―。


けれど、その姿は靄がかかったように、ぼやけていて、よく分からない―。

63 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:47:22.17 ID:gF0EJYl20
これも、わたしの、むかしのきおく?


それとも、だれかの夢――?


あるいは、とりとめのない、ただの夢なのか―。

64 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:48:00.47 ID:gF0EJYl20
ぼやけたわたしの視界が暗くなる―。

夢の世界が暗く――。


………。

その暗闇に、一筋の光――――――。

夢の水面へ―――。

65 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:48:50.14 ID:gF0EJYl20
気が付くと、わたしとヤミは、何処かの洞穴に居た。


ぱちぱちと、焚き火が燃えている。



ここはいったい――?

ふるふる、ふるふる、身体を震わせると、人影が見える。


そこには、ふたりの女性がいた。

66 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:51:37.79 ID:gF0EJYl20
けれど、それはただのふたりの女性ではなかった。


髪と肌は月のごとき白さを持ち―。
その目は闇夜のごとく黒く、瞳を青白く光らせる―。


―その容貌は、わたしたちを襲いにきた、妖殺しの、カショと同じで。


わたしは、反射的に、飛び退こうとして――。

滑って、その場にこけた。

67 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:53:18.26 ID:gF0EJYl20
その痛みを引き金に、わたしの目から、涙がこぼれた。


いつもなら、この程度の痛みは気にしないけれど。
恐怖と、心細さが、わたしに涙をこぼさせた。

68 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:55:07.84 ID:gF0EJYl20
ふたりの女性の片方――髪の長い、背の高い女性は、わたしに手を貸した。
女性「…大丈夫、かな」


女性「…わたしたちは、あなたがたを殺そうとする者ではない
   寧ろ、あなたたちを、守る者―といえば、いいかな」


―初めて出会う人なのに、その言葉にはどこか懐かしさや、安心感を感じて。

わたしは、涙ぐんだまま、その手に支えられ、体勢を立て直す。


69 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:57:21.06 ID:gF0EJYl20
もう一人の女性――わたしよりも背が低く、幼く―七歳ほどに見える女の子も、わたしのところに近付いて。

女の子「良かった、起きたのね」


女の子は、わたしの顔に手を当て、その黒い目と青白い瞳で見つめた。

70 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/01 23:59:16.41 ID:gF0EJYl20
女の子「―ん
    あとは暖まれば大丈夫みたい、ね
    服は、ぐしょ濡れだったから、あたしたちの持ってた服を着せたわ
    服も、あなたと同じく、乾かしている最中よ」

にこっと笑うと、わたしの髪を、ぐしゃぐしゃ撫でた。


そして、はっと気がつく。

鈴鶴「………
   ヤミは!?ヤミは…」

わたしは、慌ててあたりを見回して―。

71 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:01:33.33 ID:nkbrFedE0
女性「…傷の目立つ、天の狗のことなら………そこで眠っているよ
   先ほど、起きたけれど……
   あなたの容態が大丈夫ということが分かったら、安心したのか眠りについた
   ほら、其処に」


ヤミは、すうすうと寝息を立てて、険のない表情で眠りについていた。


鈴鶴「ああ、よかった」

その様子を見て、わたしの身体も糸が切れたように崩れ落ちて。


女性「おっと、危ない」

女性に、支えられた。

72 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:02:07.36 ID:nkbrFedE0
女性「疲れただろう、もう一回寝ていてもかまわない……」

女の子「あたしたちが、見張りをしておくから、安心して寝ててね」





わたしは、再び眠りに付く。

73 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:02:51.15 ID:nkbrFedE0
今日は、いろいろとありすぎた――――――――――。

これは、夢なのか、それとも現実なのか――――――。



そんな思考も、眠りの渦に吸い込まれ――。


再び、夢を見る―。

74 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:04:29.07 ID:nkbrFedE0
これは、わたしのきおく?

あるいは、だれかの夢―?


わたしは、誰かに連れ去られている。


けれど、わたしは、腕に抱える何かを振るい――。



わたしの身体が、地面に投げ出される。


わたしは、地を駆け出して―。


そこで、夢の海に、光が射し込んで。
夢の水面へ浮かんでゆき。

わたしは、目覚めた。

75 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:05:21.62 ID:nkbrFedE0
鈴鶴「ん………」

ヤミ「鈴鶴様、おはようございます…
   …もう、逢魔が時ですけれどね」
目の前に、いつものヤミの顔。

先に目覚めていたらしいヤミが、わたしを起こした。


鈴鶴「ヤミ…あのふたり……は?」

わたしは、きょろきょろ見回そうとしたとき。

76 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:07:10.85 ID:nkbrFedE0
女性「……………」
女の子「おはよう、起きたのねー」

ふたりの女性は、座りながらこちらを向いた。


鈴鶴「その…、あの、助けてくれて…
   ありがとう…」

わたしは、ぺこりと頭を下げ。

ヤミ「鈴鶴様に同じく、感謝いたします」

ヤミも、丁寧に頭を下げた。

77 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:09:43.11 ID:nkbrFedE0
ヤミ「…そういえば、あなたがたの名は何と言うのでしょうか?
   わたくしは闇美と、こちらの娘は、鈴鶴と申します」


女の子「ああ、そういえば名乗ってなかったわね」

そして、ふたりの女性は互いの自己紹介をした。


女性「わたしは…シズという」
髪の長い、衣を羽織った格好の女性は、そう名乗り。


女の子「あたしは、フチ」
おかっぱ頭の、狩衣衣装の女の子は、そう名乗った。

78 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:13:42.69 ID:nkbrFedE0
わたしは、名前を聞いて、なんだか懐かしく――。
そして、今まで混乱していた頭の中も、元通り正常に戻っていき――。


わたしは、疑問をぶつけた。


鈴鶴「どうして、わたしたちを助けたの?
   …見ず知らずの―ふたり、でしょう」

79 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:15:50.60 ID:nkbrFedE0
シズ「わたしたちは…月に住まう、人とは違う生を生きる………【月の民】…」


そのことばには、聞き覚えがある。
わたしの母親は、そうだった―そう、父が言っていた。


だから―。
鈴鶴・ヤミ「月の、民…」

わたしとヤミは、ふたり同時に、驚いた声で呟く。

80 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:18:33.55 ID:nkbrFedE0
シズ「…あなたがたには、月の民の王族の、血が、命が流れているから
   鈴鶴……には、その【血】が
   ヤミ……には、その【生命】が」


鈴鶴「わたしの、母上の――」
ヤミ「鈴鶴様の、お母様の――」


再び、わたしとヤミは呟いて。


81 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:21:12.35 ID:nkbrFedE0
鈴鶴「けれど、王族……
   それは、どういうこと?
   それが、どうしてわたしたちを助けたことに?」



わたしは、次の疑問をぶつけた。


フチ「……それは、話せば長くなるけれど
   …話さなければ、納得しないでしょう?」

フチは、わたしににこりと微笑む。

わたしは、その問いに視線で答えて。

フチ「うふふ、そうよね
   まぁ、言わないと、教えないと、語らないといけないことなのだけど、ね」

子供らしい軽い口調で答えるものの、次に発せられる言葉は、重々しい口調になった。


82 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:21:53.40 ID:nkbrFedE0
フチ「………
   あなたたちが神という存在を信仰するように、あたしたち月の民も神を信仰しているのよ
   ――そのことが、今回のことに深く関わっているの」


そして、話は語られた。

83 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:25:50.11 ID:nkbrFedE0
―――月には、神剣と語り継がれる剣があった。

ある神を殺したと言われる、剣があった。



その剣には、ある話があった。

月の神―月の女神の話が。

ある神を殺し、その為に姉と永遠の縁を切られた―という伝承が。

84 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:27:16.86 ID:nkbrFedE0
永遠の縁を切られたあと。

月の女神は―。
自らの魂を、神を殺したその剣に封じ込め。
自らの魄を、月の民として切り分け、発現させ。


その姿を、この世から消した―。

そして、残されたその剣は、月の王族によって黄泉剣(よみのつるぎ)と名づけられた―。

そのような話が、伝承が――あった。

85 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:29:27.93 ID:nkbrFedE0
月の民。
【月の民】――。
変若水の血を持つ、長寿の民。

その中でも、月の神の血を濃く継ぐ者は、月の王族であり―。


その王族の者は、その剣を永久に封印し、月を治めていった―。

それが、この話の結末――。

86 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:29:58.61 ID:nkbrFedE0
それは、あくまでもただのお話として語り継がれてきたというだったそうなのだれけれど―。




ある日、月にとある男が、産まれた。

その男は、怪物であった。

――その名は、リュウシュ。

87 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:31:34.12 ID:nkbrFedE0
強さを求め、覇者という存在こそが正義という理念があった。

リュウシュは、人を惹きつけるだけの力を持ち、その男の正義に感銘を受けた民が集まり、集団が出来た。


そしてその集団は、神をも殺した剣ならば、覇者になれると考えた。

その集団は、いつしか神を殺したという剣を求め始め―。


その集団は、封じられた剣の封印を解くために動き―。




その剣の封じを、解いた。

88 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:33:33.26 ID:nkbrFedE0
月の王を生贄に、その剣の封じを解いた―。



その剣―黄泉剣は、ただの、神話の象徴として作られた剣などではなく。

神を一人殺すほどに値する、本当の神の剣であり。


潮の動きを操り、月を蝕む呪いの魔剣であり。



リュウシュは、その月の魔剣を操り、月を破壊していった。

89 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:37:31.11 ID:nkbrFedE0
そして、リュウシュは。


龍の首の鬼―そう自負し。


自分に逆らう月の民を片っ端から滅ぼしにかかった。


黄泉剣は、その刃で切られるだけで、月の民を消し去る。
それは、月の魔剣と呼べるほどに恐ろしい存在で。


黄泉へと送る剣―月の呪いの魔剣で、自分に逆らう民を虐殺した。

90 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:40:55.91 ID:nkbrFedE0
――場面は、月の王の宮殿へ。


月の王は殺された。

けれど、月の王には娘がいた。

月の女神の血を引く、王族の血を引く娘がいた。


フチはその娘―【姫】を世話する世話役。
そして、同時に【姫】を守る警護役。


シズは、フチの幼馴染―。

元は腕の立つ刀工だったが、刀の扱いも達人であった。

そのため、【姫】の刀の修行役ならびに、警護役に抜擢された。


シズ、フチ、そしてその他の同胞たちは、【姫】を守るため、この星―わたしたちの住む星―青き星へと逃げ―。


その男たちも、この青き星へと追い―。

91 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:42:50.40 ID:nkbrFedE0
決死の闘いの末、シズ、フチ、【姫】だけが生き残るほどの死闘の末―。


リュウシュを殺し、黄泉剣で消し去り―。


黄泉剣を海の底の底へと沈めた。





けれど、その【姫】は、満身創痍のシズとフチの隙をついて、男どもの生き残り―仏と自負したシャクハツという男に連れ去られた―。

92 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:43:59.68 ID:nkbrFedE0
ぱん――。

フチが、手を叩く。


フチ「―ここまでが、昔話ね」


その話は、わたしたちが暮らしていたのとは別の次元の話のように思えた。


けれど、それでは―。

その月の【姫】―わたしの母は、どうなったのか?
なぜ、父と出会ったのか?

93 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:44:47.13 ID:nkbrFedE0
わたしが思い悩んでいると。


フチ「……何故、【姫】様が、鈴鶴の母親なのか。
   それは、分からない
   …けれど」


フチは、わたしの問いの前に、その答えを出し―。



フチ「けれど、その一年ほど後。

   【姫】様と、出会ったときには、既に――」

94 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:46:30.07 ID:nkbrFedE0
――死んだと聞かされていた、母は。


フチ「…【姫】様は、何があったかは分からないけれど…
   鈴鶴の父親と出会った

   …そして、【姫】は鈴鶴を産み…」

――そして。

わたしが心の中で思っていた言葉を、ヤミが発する。


ヤミ「傷つき、空へ掻き消えそうだったわたくしの命を助け――」



フチ「【姫】様は、その命を、散らした」

95 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:49:45.46 ID:nkbrFedE0
シズ「【姫】が、…命を散らす寸前に…
   わたしたちは……【姫】に頼まれた」


フチ「鈴鶴と、ヤミのことを、月の女神の血を引く者として―守って欲しい、と」



シズ「だから……わたしたちはあなたがたを守るため、遠くから見守っていたけれど」

フチ「鈴鶴の父親に、月の民となりしあなたたちが、月の民が完成された身体となる、15年まで…
   見守り育てることをお願いしていて…

   ―そして、15年後、昨日、あたしたちが其処に行こうとしたとき」

96 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:50:49.95 ID:nkbrFedE0
鈴鶴「――奴らが、来た」


ヤミ「――わたしたちの一族を、皆殺しにした」


―妖殺し―カショが。


フチ「一足、遅かった」


シズ「そして…
   わたしたちは、あなたがたを守るため、追って―」


フチ「今に至る―というわけね」

97 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:51:22.00 ID:nkbrFedE0
鈴鶴「わたしの父上は…」

シズ「恐らくは、奴らに―」


鈴鶴「……
   …でも、わたしとヤミを―」


フチ「…生かし、逃がしてくれた。
   立派な、父親だったと思うわ」


鈴鶴「ええ」

ヤミ「鈴鶴様のお父様は、ほんとうにご立派でした―」

98 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:54:02.91 ID:nkbrFedE0
わたしとヤミは、衝撃を受けたけれど―。
その事実を、受け入れた。


鈴鶴「あなたたちは、わたしたちの家族―ということ…でいいのかな」
―今まで、見守ってくれていたふたり。


シズとフチは、その言葉に目を丸くしたけれど。

シズ「家族……
   …まあ、一蓮托生したことになるから…

   よろしく、頼む…」
すぐに表情を戻して、冷静に答えた―。


フチ「ふふふっ、家族―。
   ……まぁ、わたしたちは【姫】様の家族に近い存在ではあったからね

   鈴鶴、ヤミ、…改めて、よろしくね」
シズとは対称的に、にこりと笑顔で答えた。

99 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:55:06.82 ID:nkbrFedE0
いつしか、外は夜になっていた―。



わたしとヤミは、シズとフチと色々会話をする。


鈴鶴「ここは?」


シズ「たまたま、見つけた岩の洞穴だ
   わたしたちの住処は、…別のところにある」


ヤミ「明日ほどにはその住処へ、戻るのですか?」


フチ「…まぁ、そうなるわね
   …この国の、とある島の山の中
   ――結界を貼った、その中よ

   そこにあたしたちが、拠点としていた場所がある

   …まぁ、奴らに気づかれないように行かなきゃいけないけれど、ね」

100 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:56:37.49 ID:nkbrFedE0
こうして、時間が過ぎる――――――――。

―――――わたしたちは、色々な会話をした。

これまでの暮らしについて、それぞれの好みについて―。


シズ「…その太刀は……」

シズは、わたしが大事そうに持つ太刀について訊く。

鈴鶴「母上の、形見だと」


シズ「ふむ…」


シズは、わたしの太刀を懐かしそうに、見つめる。


シズ「……大切にしてくれていたんだ、ありがとう
   【姫】に贈った、わたしの作った太刀だから…
   【姫】の好きな花の、百合の飾りに一番苦労したのが…
   懐かしいよ」


そう言って、母の形見の太刀―シズの贈り物だという、それを撫でた。


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