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ユリガミノカナタニ
- 1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
- ??「―――――――。」
―――声が聞こえる。
これは、わたしの一番古い記憶?
何も、見えない。
そこは、暗闇の中―。
- 501 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/05 23:35:46.972 ID:CIQSLAik0
- 若草村・海岸の岩場―――。
誰も来ない海岸の岩場に、一人の少女は立っていた―――。
少女は、波のさざめく音を聞き、揺れ立つ波を見つめていた。
その名は鈴鶴―。
かつて百合神なる邪神と化し、封じられ、再び現世に顕現した存在。
そして、永遠に老いず、永遠に死なぬ肉体を持つ―――。
- 502 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/05 23:36:04.839 ID:CIQSLAik0
- 鈴鶴「……………」
鈴鶴は、少し曇った空を見つめながら、海を、海界まで見つめていた――。
鈴鶴「――ザンの棲む、海か」
そう呟くと、海水を手ですくった―――。
そして、その海水を人魚の姿を持つ式神へと変えた。
鈴鶴は、物質を媒介に式神を生み出す術を持っていた。
もともとはそのような力はなかったが、鈴鶴が百合神へ成ったときに得た力である。
- 503 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/05 23:37:55.127 ID:CIQSLAik0
- ―――憑きし月女神――ツクヨミの力を使うとき、その力を使うことができる。
自身の右目を青白く輝かせたときが、その力を使えることを表すしるし―――。
鈴鶴にとって、黄泉の国へ逝ったたいせつなひとの、四大元素を媒介に式神を生み出す力。
――今は、その特訓をしてさらにさまざまなものを媒介に式神を生み出せるようになっている。
鈴鶴「―海に潜りなさい」
式神は海へ放されると、鈴鶴はじっと潮騒を聞きながら水面を見つめていた…。
右目の青白い光が、水面に映る―――。
――時が流れる。
―――いつしか太陽は海に沈み、月が海から浮かび上がった。
- 504 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/05 23:39:36.357 ID:CIQSLAik0
- 月が昇って、しばらく経った刻―。
鈴鶴「……………」
鈴鶴は、式神を呼び戻すと、空へと還した。
人魚の式神は、その姿を霞のように薄めてゆき、あとにはただの海水が残った。
――そして、その海水は水面へ流れ、海へと漂ってゆく。
その姿を見た鈴鶴は、海岸近くにある森の中へと消えていった―――。
- 505 名前:社長:2015/07/05 23:39:56.451 ID:CIQSLAik0
- きのたけ兵士は次回登場するらしい。
- 506 名前:きのこ軍:2015/07/05 23:42:08.255 ID:KIK0jQlUo
- 更新おつ。題材がいいねえ。
- 507 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:52:41.124 ID:fLpcq8LM0
- 若草村―――。
きのこたけのこ会議所の兵士たちは、日々の骨休めとしてこの村を訪れた。
美味しい海鮮料理を楽しんだり、人魚祭りを見て英気を養うために。
参謀「いや〜…潮の香りが気持ちええな」
791「そうだねえ…うーん、早くおさかなが食べたいね」
社長「うみです」
集計班「そうですね…移動時間で結構使いましたし
夕食を食べに行きましょう」
¢「賛成なんよ」
―――きのたけ兵士たちが着いた時には、もうすでに夕方。
事前に予約していた飲食店に入り、座敷で海の幸をたらふく味わった。
- 508 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:53:00.564 ID:fLpcq8LM0
- 791「…ふー、おなか一杯!
―ああ、お刺身美味しかったねー」
筍魂「そうすねー」
そして海の幸の美しさを語り合いながら、旅館で休息をとった。
- 509 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:53:59.137 ID:fLpcq8LM0
- 夜―――。
社長は、寝付けず、砂浜まで行ってみようと考えた。
この村は、人魚伝説があふれている。時折、人魚を見た―などという噂もあがるほどだ。
最も、社長は潮風に当たれば眠気も湧いてくるだろう―そんな考えで海を見ていたが。
海は、空と同じく深い深い暗青に包まれていた。
それと同時に、金色の鈴のような、輝く月も空に昇っている。
- 510 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:54:33.651 ID:fLpcq8LM0
- 潮の流れる音、波のさざめき―――。
ざぁ、ざぁと流れるその景色を見ていると、月の下で何かが動いているように感じた。
社長「?」
社長は、その動く影が近くの岩場へ向かっているように思えた。
社長「今の見ました?」
その岩場へ、社長は向かって行った。
- 511 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:54:52.930 ID:fLpcq8LM0
- ―――だが。
社長「だれも、い ないわー」
そこには、ただ波が揺れているだけ。
ただの岩場、ただの海岸―――。
社長は、眠気を感じていたので宿へ戻っていった。
- 512 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:55:16.893 ID:fLpcq8LM0
- 海岸の岩場―――。
鈴鶴(……………)
鈴鶴は、去ってゆく社長の後姿を見ながら、隠れていた岩場から身を乗り出した。
鈴鶴には、特殊な能力(ちから)がある。
それは守護霊―――。鈴鶴の魂を媒体にした式神のようなものの力。
- 513 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:58:49.905 ID:fLpcq8LM0
- 鈴鶴の操を男が狙う場合―――。それは直接的なことではなく、男がそれで性的欲求を満足させられる行為ならなんだろうと――。
あるいは、その力を消し去ろうとする場合―――。
この世の全ての概念を乗り越えて反撃する、無意識に起こる力。
そして、百合神として―ツクヨミの力を使うとき―――。
鈴鶴の右目が青白く輝くとき―――。
その自身を無意識に守る力に、驚異的な肉弾戦を行える力と、掴み、念じたものをドロドロに溶かす、自分の意志で起こす力が加わる。
鈴鶴の鬼のごとき式神の力―――。
鈴鶴は、その力で自身をドロドロに溶かし、岩場の死角に隠れていた。
- 514 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/07 23:59:05.495 ID:fLpcq8LM0
- 鈴鶴(………また、奴か)
鈴鶴は、社長に二度出会ったことがある。
――そして、これが三度目…。
鈴鶴(…まぁ、目的が済めばさっさと帰るまで、ね)
鈴鶴は、因縁めいたものを感じながら、あっさりそれを流す。
鈴鶴は、海の中に潜らせていた人魚の式神を空へ還すと、再び森の中へと消えていった。
- 515 名前:社長:2015/07/07 23:59:36.904 ID:fLpcq8LM0
- 魔女の囁きは男相手なら無敵感与えちゃったかな
- 516 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:21:23.814 ID:jPm26BUM0
- 翌朝―――。
若草村の人魚祭りが始まった。
祭りは、祈りを捧げる感謝の部と、海の恵みを用いて楽しむ恵みの部に分かれている。
朝の部では、男たちが神輿を掲げ、海神への感謝を表し、
その後に巫女役の女性が、海神へ祈る祭事が執り行われる。
- 517 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:21:47.491 ID:jPm26BUM0
- そして、太陽が最高点を越えた頃―――。
巫女「――海神様、人魚様――
次の漁も、無事でありますよう―豊漁でありますよう―」
巫女が、締めの言葉を言い終わると、人魚伝説の若者を准えた人形を海へ捧げると、感謝の部が終わった。
きのたけ兵士たちは、その神秘的な光景に見とれ、またその荘厳さに感服していた。
- 518 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:21:59.225 ID:jPm26BUM0
- 次いで、休憩を挟んで恵みの部―――。
その名の通り、海の幸を豊富に使った料理、あるいは娯楽を大いに楽しむ場―。
先ほど、神に祈りを捧げていた男たちや、巫女役の女性も楽しんでいる。
ある者は歌い、ある者は踊り、ある兵士は食べ……。
海の幸せを、その恵みの部のあいだ感じていた―。
そして、祭りが終わり、兵士たちは宿へと泊った―――。
- 519 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:23:22.231 ID:jPm26BUM0
- 海岸の岩場―――。
鈴鶴は、祭りがあろうとも、それを気にせずその場所に居た。
最も、祭りの感謝の部では、万が一のことも考えて式神は召喚しなかったけれど。
- 520 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:23:44.439 ID:jPm26BUM0
- 鈴鶴(………さて)
鈴鶴は、ようやく式神を呼び出し、海へと放した。
鈴鶴「……祭りが終わったようだけれど、いまだ何もいないわねえ」
鈴鶴は、若草村の人魚伝説―その人魚の肉を狙う海賊がいるらしい―。という噂を聞いていた。
そのため、人魚の式神を呼び出し、その真偽を確かめているのだ。
- 521 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:24:49.584 ID:jPm26BUM0
- なぜ、態々そんなことをしているのか。
―それは、狙っているのが人魚の肉だからだ。
人魚の肉は、不老不死の妙薬―――。
鈴鶴は、それが本物の効果であると知っている。
鈴鶴「不老不死なんて―――
そんなものはずっと、誰の目の届かぬ場所に行くべきなのよ」
ふと、そう言葉が漏れた。
誰も聞くこともない言葉が、海へと漂い消えてゆく。
- 522 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:26:08.671 ID:jPm26BUM0
- 鈴鶴は、不老不死の肉体を持つ少女だからこそ、その愚かさを知っている―――。
鈴鶴(―――生きる者は、死があるからこそ生きる者
たとえどんなに長く生きていられようと、死という概念に出会えるから生きていること…)
だから、不老不死なんていう存在はわたし一人でいい
……そう、わたし一人で……)
―――だから、人魚の肉を狙う愚か者がいるならば、それを殺してでも追い返さねばならぬ。
そのために、ここで当てもなくその愚か者を待っている。
たとえ人魚が実在しなくとも、その愚か者を待っている。
- 523 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 02:27:29.239 ID:jPm26BUM0
- そして、空に昇る月が輝く、その刻――。
鈴鶴「………!」
遠くの方で、何かが動いていた―――。
- 524 名前:社長:2015/07/12 02:28:35.368 ID:jPm26BUM0
- ちなみに若草村はおかしの若草ともう一つどこぞの地名から取っている。
- 525 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:08:43.873 ID:jPm26BUM0
- 同時刻―――。
社長は、また眠れず砂浜で海を見に行くことにした。
すると、山本も海を見つめていた。
山本「おおっ、社長か
寝られないのか?」
社長「そうすね」
山本「私もだ……、何故だか眠れん
―――取り敢えず、この景色を見て落ち着こうとしているのだ
いや、しかし素晴らしい景色だな……」
ふたりは、海を並んで眺めていた―――。
- 526 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:10:36.539 ID:jPm26BUM0
- 山本「ん?」
ふと、山本が何かに気が付いた。
山本「なんだ、あれは…
船団………?」
双眼鏡で、その何かを注意深く見つめる。
社長「何だ ジジイ!?」
山本「漁船…に見えない船が、この時間帯に走っているんだ
いったいあれは………」
社長も、山本にならって向こうを見る。
社長「!」
その向こうには、不審船―しかも、一隻ではなく複数の船が海を漂っていた。
- 527 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:11:07.003 ID:jPm26BUM0
- 山本「…何かキナ臭いものを感じる
――社長、皆を連れてきてくれ、あと武器も頼む」
社長「いいぞ」
社長は、急いで宿へと走って行った………。
それと同時に、山本は手持ちの銃を構えながら、その様子を見ることにした。
- 528 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:12:31.295 ID:jPm26BUM0
- 海岸の岩場―――。
鈴鶴は、自身の右眼を、月光のように青白く輝かせ向こうの船団を【視】ていた。
鈴鶴の生み出した式神とは、視覚と聴覚を共有することが出来るのだ。
そして、その力を利用し人魚の式神から見えるその船団を、視ていた―――。
鈴鶴(………不審船にしては、数が多い…
どうみても、ただならぬ存在ね……)
そして、鈴鶴は式神を海の中へと潜らせた。
- 529 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:13:54.016 ID:jPm26BUM0
- それと同時に、鈴鶴は左腕に在る、【神剣】を呼び出した。
鈴鶴が百合神と呼ばれる所以―。
それは、鈴鶴の身体の中に―身体の一部となっている、この神剣の力に依ること――。
月女神が、或る神を殺した呪いの神剣。
そして、右手に太刀を、左手に神剣を構え、その船団の方を向いていた…。
―――その剣からは、凍える空気―恐ろしい悪寒が流れ出ていった…。
- 530 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:14:20.366 ID:jPm26BUM0
- 再び、砂浜―――。
山本は、突然、不審船団よりも、とてもとても恐ろしい悪寒に包まれていた。
山本「な、なんだこの気配は――?」
月が妖しく輝いている。
月が恐ろしく輝いている。
そして、空気が冷たい―。
潮風に乗って涼しいはずなのに、それよりも凍えるようなナニカ。
そして、それと同時に不審船が海界から、海岸の方へと向かっている。
- 531 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:14:34.171 ID:jPm26BUM0
- きのたけ兵士たちは、何が起こったのかも分からずで砂浜に集まった。
―――だが、不審船団がやってきている様子と、
その場に溢れる恐ろしい空気は、全員の目を覚ました。
加古川「…なんだ、この恐ろしい空気は!?」
抹茶「…あの船団といい、何かヤバいことの予兆ですよね?」
山本「周りを警戒するんだッ!そして、絶対に単独行動はするなッ!」
兵士たちは、己の戦闘手段の構えを取り、来る敵を待っていた。
- 532 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:15:00.796 ID:jPm26BUM0
- 海岸の岩肌―――。
鈴鶴は、式神の聞く音に耳を澄ませている。
船員「―――兄貴―――人魚―――」
船員「――そうか――――売れ―――金に―――」
そして、その声とともに式神に網が放たれた。
式神はその網を回避し、海の底へと潜ってゆく。
- 533 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:15:22.919 ID:jPm26BUM0
- 鈴鶴(有罪、ね…)
そして鈴鶴は、漆黒の斬撃を飛ばそうとした。
鈴鶴「!」
―だが、砂浜の方が妙に騒がしい。
鈴鶴は、岩から式神を造りだし、砂浜の様子を視た。
鈴鶴(……なるほど、不審船団を見て騒ぎになっているらしいわね
――しかも、大人数…
しかも、見知った顔がいるとは、ねぇ……)
鈴鶴は、めぐり合わせに苦笑しながら、どうしたものかと思考している。
- 534 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:16:55.537 ID:jPm26BUM0
- 砂浜―――。
その冷えた空気は、きのたけ兵士たちを緊張させるに値するものであり。
そんな中、不審船を見ていた参謀は気が付く。
参謀「あ、あのマークは!」
黒砂糖「知っているのか、参謀?」
参謀「海賊集団のマークなんや、しかも高いレベルの手配をかかってる、な……
こんな辺境の村に来た理由は分からんが、ここが狙われるかもしれん」
山本「何だと!
……何の用かは分からんが、何とかしないといけないということだな…
大戦と違って、しくじりは許されん
よし、皆、万全の対処をして、迎撃するのだッ!」
全員「イエッ、サー!」
兵士たちは、複数人行動を徹底しつつ、様々な場所に配置に着いた。
- 535 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:17:09.160 ID:jPm26BUM0
- ―だが、ふたりの兵士は海賊よりも気になるその事柄があった。
その冷えた空気―――。
この凍えるような、凍てつく月光を浴びたような空気――。
791「…社長、ねぇ、この空気を――どう思う?」
791は問う。
社長「…百合神」
社長は答える。
- 536 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/12 22:17:42.258 ID:jPm26BUM0
- そう。
ふたりは、以前この空気を見た―というよりは、その空気そのものと対峙したのだ。
791と、この空気のもと―鈴鶴は。
791「……あの海岸は、わたしたちが見張る―と山本さんに言ったよ
―何があるかは分からないけれど、危険かもしれないけれど、行こう」
社長「帰るウホ……」
――そして、791と社長は鈴鶴の居る―もっとも、ふたりはそのことを知らないが―岩場へと向かっていった。
- 537 名前:社長:2015/07/12 22:18:04.503 ID:jPm26BUM0
- 魔王様>山さん という設定を忘れないでくれよ!
- 538 名前:名無しのきのたけ兵士:2015/07/12 22:20:06.072 ID:f9SJtjjAo
- 791さんの強キャラ感、すごい。
- 539 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/20 01:00:40.955 ID:ka2OGKSY0
- そして、その様子を鈴鶴の式神は視ていた。
人魚の式神とは違う、岩から生み出した式神だ。
鈴鶴(………)
そして鈴鶴は、岩から生み出した式神を空へ還した。
―人魚の式神は、未だ海の底で様子を視ている。
- 540 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/20 01:00:59.299 ID:ka2OGKSY0
- ざ、ざ、ざっ――。
そして、791と社長が岩場へ辿り着いた。
鈴鶴は、ちらとふたりを一瞥した。
右目は青白く輝いているが、邪眼としての念は込めず、ふたりを見た。
- 541 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/20 01:02:51.544 ID:ka2OGKSY0
- 791「―――久しぶり、…鈴鶴、だったよね?」
791は、ああやはりと納得しながら問う。
鈴鶴「………また会うとは、何の因果かしら」
その言葉に対し、鈴鶴は淡々と答えた。
791「――ふふ…
それより、どうしてその…確か、ツクヨミ?だったかな…の力を使っているの?」
791は、その空気に押されず問い。
鈴鶴「……哀れな海賊退治、ということにしておきましょう」
鈴鶴は、含みのある言い方で不審船団を見つめて、そう答えた。
- 542 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/20 01:03:24.495 ID:ka2OGKSY0
- 791「…ふーん、…海賊退治か
わたしたちの組織―きのたけの仲間も、急きょそれをするつもりだけど…
――言いたいことは、分かるよね?」
鈴鶴「―――お互い対象が一緒なら、共同戦線…というわけね?」
- 543 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/20 01:04:55.271 ID:ka2OGKSY0
- 791「察しが良くて助かるよ、わたしはここから魔法弾で攻撃する
そして隣の社長は、このエリアの防衛にあたる
――鈴鶴は、もちろん…」
791は、杖を振り回しながら、言葉の続きを促して。
鈴鶴「…容赦なく、奴らを沈めましょう」
そして鈴鶴は、その言葉に乗った。
791「そう!それだ!」
791は、楽しそうに言った。
791「じゃあ、やろうか?」
鈴鶴「…そうね」
791と鈴鶴は、ぐっと拳を合わせた。
――社長は、その様子をただじっと見ているだけだ。
何しろ、このふたりは強大な力の持ち主。
――それを実際に見たため、そのふたりの間に割って入る事が出来ないのだ。
- 544 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/20 01:07:29.563 ID:ka2OGKSY0
- 二人の兵士は互いの得物を構え、魔法弾と斬撃を飛ばした。
シトラスの魔法弾と、鈴鶴の放つ漆黒の斬撃はひとつの船首に当たった。
数十、はたまた数百メートル先の船へと、ふたりの攻撃は命中する。
その一撃は、その一撃で、船のその装甲をボロボロに破壊した。
- 545 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/20 01:08:11.396 ID:ka2OGKSY0
- 791「やっぱり、その力はすごいねぇ
――でも、やっぱり神の力を使わないと、そうならないの?」
鈴鶴「…あなたのように、素のわたしでは術式は使えないの
普段は、剣術など片っ端の武術でなんとかするしかない―
――神の力、ツクヨミの力があるならば、どうにでもなるけれど」
791「―まぁ、鈴鶴は魔法使いじゃないしねぇ」
ふたりは、軽口を叩きながら攻撃を続けた。
- 546 名前:社長 【小吉】:2015/07/20 01:08:45.953 ID:ka2OGKSY0
- 社長クーソイーラナイ
- 547 名前:きのこ軍:2015/07/22 23:29:09.471 ID:W2GsgyHco
- 熱い共闘。いいぞ。
- 548 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/22 23:34:26.613 ID:/NqlqInM0
- 海上―――。
山本「むっ、攻撃が命中かっ!」
――山本・加古川・¢は、急いで用意した船に乗り込みながら、その攻撃に続いた。
加古川「続くぞッ!」
歴戦の強者は、その戦いの年季に負けぬ攻撃で不審船団に、乗組員に打撃を与えていく。
何年も大戦を続けてきた兵士は、大戦だけではなく、その他の戦いにおいてもなお強い。
そのため、統率のとれた、効率のよい作戦を展開している。
- 549 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/22 23:39:32.054 ID:/NqlqInM0
- 砂浜・海岸―――。
鈴鶴の居るところと、反対の海岸でも、兵士たちは攻撃を行う。
黒砂糖「――しかし、あのまま寝てたらやばかったですね」
黒砂糖は、自信の描いたレーザー砲を具現化し、太陽のごとき眩しいアポロソーラーレイを敵船に発射しながらそう言う。
無論、黒砂糖も歴戦の猛者だ。戦いで得たカンを、知識を活かして攻撃している。
- 550 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/22 23:48:17.705 ID:/NqlqInM0
- 参謀「そうや―山さんと社長が起きとらんかったら、どうなってたことやら」
参謀は、たまらず海に逃れ、此処に泳ぎ逃げた海賊を捕えながらそれに続く。
抹茶「恐ろしいですね…もしかしたらこの村に入っていたかも…
まぁともかく、この場をなんとかしましょう!」
抹茶は、湯呑の砲撃を船首に当てながら、鼓舞する―――。
―――歴戦の強者、きのたけ兵士。
そして、恐ろしき怪物―鈴鶴の攻撃によって、海賊は一時間経過する前に、完全に白旗を上げた。
海賊にとって、もともと待ち伏せしていた月女神はともかく―――歴戦の強者、きのたけ兵士がいたことは最大の不幸であった。
きのたけ兵士がいなくとも、海賊は片付けられていただろうが、きのたけ兵士がいたからこそ即座にこの戦闘は終わったのだ。
- 551 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/22 23:50:44.333 ID:/NqlqInM0
- 鈴鶴「……終わった、ようね?」
鈴鶴は、剣を身体の中へ取り込み戻した。
右目は、未だ青白く輝いている。
そんな鈴鶴を見ながら、791は言う。
791「……ねぇ、ここで待っていてくれないかな?」
鈴鶴「―――如何して?」
791「…どうして此処に居たのかが、気になるから」
社長「あっへほー」
―社長は三度、791は二度出会った相手であり、尚且つ鈴鶴の真の力を知っている。
だからこそ、ここにいた真の理由を、なぜ海賊退治をしていたのかが気になったのだ。
鈴鶴「……分かったわ、待ちましょう」
791「―絶対、待っていてね」
社長「魔王帰れ!」
791と社長は、砂浜の方へと歩いて行った。
- 552 名前:社長:2015/07/22 23:51:53.010 ID:/NqlqInM0
- 社長が蚊帳の外になってるすね 救急車やめてくださいよ
- 553 名前:きのこ軍 :2015/07/23 21:59:20.747 ID:sOyydQgg0
- 社長とかいうバグっているだけの人
- 554 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:47:44.607 ID:OZbrGpgI0
- 砂浜―――。
もう冷えた空気は消えている―――。
きのたけ兵士は―791と社長を除いて、海賊が要因と考え、そして思い思いに終戦の余韻に浸っていた。
山本「―死体の処理は私と加古川さんと¢でしておく
参謀・抹茶・黒砂糖・筍魂は残存している賊を連行してくれ
残りの者は休息をとってくれ
――とんだ休暇になってしまって、すまない」
山本は、申し訳なさそうに言った。
- 555 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:48:14.654 ID:OZbrGpgI0
- 加古川「いや、平和を護れたほうが大きいんじゃないのか?」
斑虎「そう、そう」
筍魂「うむ」
―だが、他の兵士はそれを苦と思わず。
それを見て、山本は気を取り戻し、それと同時に指示に従って兵士たちは動いて行った――。
791「………」
そして、791と社長は、海岸の岩肌の方へ戻っていった。
- 556 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:49:06.901 ID:OZbrGpgI0
- 海岸の岩肌―――。
鈴鶴は、式神を呼び戻した。
鈴鶴「……お疲れ様、貴女の役目はこれで終わりね
―――では、空へと還しましょう」
式神「――主様の力になれて、私は満足です」
鈴鶴「―さようなら」
式神「―――」
そして、人魚の式神を空へと還した。
媒介として使われた海水が海に溶け落ち、そして波に呑まれてゆく。
それと共に、ツクヨミの力を解き、右目を人の瞳へと戻した。
鈴鶴「………」
そして、再び現れしふたりを、見つめた。
- 557 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:49:19.097 ID:OZbrGpgI0
- 社長「やっほ^^」
791「素直に待ってたんだ」
791は、意外そうに鈴鶴に言った。
鈴鶴「…姿をくらませた方が良かった?」
791「…いや、なんか帰ってそうだなーって、思ったから…
―まぁいいや、どうして此処で海賊と戦ってたのかが聞きたいんだ」
791は、先ほどの発言を笑い飛ばし、そして本題を話す。
- 558 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:49:40.204 ID:OZbrGpgI0
- 鈴鶴「…それは、あなたたちの組織の総意?」
鈴鶴は、少し声の調子を低めて問う。
791「いや、単にわたしと社長の興味だよ?」
社長「えっ!オレ!?」
鈴鶴「―――そう」
だが、その答えを聞いて声の調子を戻した。
- 559 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:50:27.932 ID:OZbrGpgI0
- 鈴鶴は、人魚を狙う賊を何とかするため、此処に来たことを話した―。
791「…そっか、マーマンやマーメイドを狙ってたんだ
――でも、本当にいるのかな?」
791は、伝説上の生き物の存在に疑問を抱きながら、また問う。
鈴鶴「―――居るかどうかは分からないけれど、もし居たとして――
静かに、海の中で生きるべきだとわたしは思っているから」
―――それを護るため、禍なすものと真っ向にやり合おうとしたのだ。
鈴鶴「もっとも、あなたたちが来たのは想定外だけれどね」
鈴鶴は苦笑しながら、続けた。
- 560 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:50:40.051 ID:OZbrGpgI0
- 791「―――ねぇ、もしわたしたちが居なかったら一人で対処したの?」
鈴鶴「ええ、そうね―」
鈴鶴は、遠くの月を見上げながら、静かにそう答えた。
791「いくら鈴鶴が神の力を持っていても、無謀じゃ――ないか
あの漆黒の斬撃だけで、何とかなりそうだよね」
鈴鶴「――もともと、そのつもりだったから」
- 561 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:51:43.488 ID:OZbrGpgI0
- 791「でも、鈴鶴――
なんだって、神の力をわざわざ……」
鈴鶴「海の上にいる相手に、接近戦も重火器も対して期待できないわよ?」
791「…その、船を使うとか、泳いで潜入とかは?
鈴鶴は、そっちのほうが似合いそうだけれど
魔法よりも、肉体を用いた技のほうが…」
791は、太刀を振るジャスチャーを取りながら言う。
鈴鶴「……生憎だけれど、わたしは金槌なのよ?」
そんな791を見て、苦笑しながらそう言った。
791「―――えっ?」
ふたりは、目を見開いて驚いた。
鈴鶴には、弱点などないように見えていたからだ――。
- 562 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:52:09.739 ID:OZbrGpgI0
- 791「――もし、わたしが鈴鶴をどぼぉんって海に突き落としたら…やばいかな?」
恐る恐る、791は聞いてみる。
鈴鶴「ふふ、そうね…
海の藻屑に……なるかもしれないわね」
恐る恐る聞く791を見て、笑いながらそう答えた。
791「でも、どうして泳げないの?」
鈴鶴「――身体に合わない武術だった、唯のそれだけ
そう、それだけ………」
―――海は、静かに波音を奏でている――。
- 563 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:52:23.918 ID:OZbrGpgI0
- 791「……兎も角、鈴鶴は自分の信念で動いているんだねぇ
例えるなら―孤高の鷲?それとも一輪の百合の花?」
鈴鶴「……さあ、ね」
鈴鶴は、少し寂しそうな表情で答えた。
791「――そろそろ、わたしたちは帰るけれど
…鈴鶴は、どうするの?」
鈴鶴「…何処かへ消えるわ、何処かへ…ふふ」
鈴鶴は、月を見ながらそう答えた。
月光も、その言葉に応じているように寂しく光っている――。
- 564 名前:儒艮漂フ海界:2015/07/26 02:53:33.831 ID:OZbrGpgI0
- 791「そっか、じゃあね…」
社長「また あおう!!」
791と社長は、鈴鶴の寂しそうな目を見ながら、其の場を去って行った。
- 565 名前:社長:2015/07/26 02:53:44.858 ID:OZbrGpgI0
- まだ続く秘密
- 566 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:04:18.061 ID:xYK0/isc0
- 鈴鶴(………)
鈴鶴は、じっと月を見ていた。
鈴鶴「―――?」
月の下で、何かが動いたような気がした。
鈴鶴(気のせい―――?いや―――)
その影は、こちらへと向かってゆく。
- 567 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:04:44.326 ID:xYK0/isc0
- そして、その影は水面から姿を現した。
鈴鶴「………ザン」
―――そこに出てきたのは、人魚―。
この若草村の伝説として語られる、幻の存在。
その存在が、今ここに居た。
- 568 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:08:45.493 ID:xYK0/isc0
- 人魚「―――あなた方……?いや、あなた…だけ?
……ともかく、あなたは、我々に禍なすものを排除してくれたひとり―――」
―――か細い声で、人魚は語る。
その声は、水面に漂う海水の、透き通るような美しい声色―――。
鈴鶴「……そういうことになるわね」
- 569 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:12:56.327 ID:xYK0/isc0
- 人魚「…あなたは、我々の存在に驚かないの?」
―不思議そうに、首をかしげながら問う。
鈴鶴「…月の血を引き、千代の年を生きた少女が居るなら、あなたがたがいても、ね?」
鈴鶴は、笑いながらそう言った。
人魚「そう………
――その、我々が現れたのは、我々のことを助けてくれた礼に―
あなたを、波の下の都――海の果て――竜宮へと誘うため」
そんな鈴鶴を見ながら、人魚は用件を話した。
- 570 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:14:31.480 ID:xYK0/isc0
- 鈴鶴「………竜宮、か
生憎だけれど、わたしは竜宮に行くような存在じゃあないわ…
わたしの遠い遠い縁の子が、わたしのきょうだいの宝物と共に
竜宮へ旅立ったというのは聞いたことがあるけれど」
鈴鶴は、自身の左手を見ながら感慨深そうに、そう語った。
人魚「……あなたは、竜宮に興味はない?」
不思議そうに人魚は問う。
- 571 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:16:26.345 ID:xYK0/isc0
- 鈴鶴「―――残念ながら、海神の治める都には、ね
月神の治める都なら、往くかもしれないけれども」
人魚「月の血を引く存在だから?」
鈴鶴「ふふ、それに加えて金槌なら、尚更――」
鈴鶴は、笑いながらそう答えた。
人魚「―――残念」
- 572 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:19:41.567 ID:xYK0/isc0
- 鈴鶴「どこぞの漁師のように、海界に暮らし続けるのは私のサガではないわ」
人魚「―――!」
鈴鶴の一言に、人魚はぴくりと身体を跳ねさせた。
―――そう、それは、人魚の、たいせつな……。
鈴鶴「………永遠に愛する人と暮らせることは、とても、とても……羨ましい―
でも、その人に寂しい思いをさせぬよう、早く戻りなさい
浦の島子のように、戻らないし、戻れないわけじゃあないんでしょうから、ね?」
鈴鶴は、優しい声色でそう語った。
どことなく、その顔は寂しそうであったけれども――。
- 573 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:20:44.154 ID:xYK0/isc0
- 人魚「………わかった」
人魚は鈴鶴の寂しい表情を見ながら、海へ潜った。
鈴鶴「たいせつなひとと、永遠の離ればなれになることは
とてもつらいから…」
鈴鶴はそうつぶやきながら、人魚が海の底へ、海界へ消えるのを見送った。
もう、人魚は浮かびあがらない。
竜宮へ、海界へ戻って往ったのだ―――。
海水が水面を流れ、波を立て、静かに潮騒を響かせている。
- 574 名前:儒艮漂フ海界:2015/08/02 02:21:23.815 ID:xYK0/isc0
- 鈴鶴「太陽神よりも、海神を選んだ人間、か―――」
鈴鶴は、じっと海を―そして、夜空に浮かぶ月を見つめていた。
鈴鶴「―――もう会えない、たいせつなひと……
それに比べれば、それを引き裂く存在を消せたことは、本当に良かった」
月は寂しく輝いている―――――。
鈴鶴「……さて、もう終わった
―――また、どこかを彷徨うとしよう」
そして、月の下、海の果てを一瞥し、其の場を去って行った。
- 575 名前:社長:2015/08/02 02:21:44.202 ID:xYK0/isc0
- 儒艮漂フ海界 完
- 576 名前:きのこ軍 :2015/08/02 16:15:29.355 ID:tRMsECao0
- もつもつ。昔話とのコラボいいぞこれ。
- 577 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 03:23:47.152 ID:HWJhJRek0
- わたくしの魂は、どろどろの液体のように、水の中に―――。
ごぼごぼと流れていく意識の海に、わたくしは流れています。
それは激しく荒ぶる波ではなく、穏やかな川のように―――。
ゆらゆら、ゆらゆら、ゆっくりとそこを流れています。
- 578 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 03:26:43.638 ID:HWJhJRek0
- ―――わたくしは……。
わたくしは、たいせつな人と、もう、幸せに、しあわせに暮らせないのです。
その人の名前を、心で叫んでも、声にならない―――。
ただ、意識だけがそこにあるようなものです―――。
- 579 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 03:28:51.868 ID:HWJhJRek0
天 狗 ヶ 里 殺 人 事 件
- 580 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 03:30:42.366 ID:HWJhJRek0
- ――――わが名は闇美(ヤミ)。
天の狗(あまのきつね)という、人に非ざる存在―――。
人に非ず、自然の力を身に着けた、―――いわゆる、妖しき怪異。
- 581 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 03:32:56.122 ID:HWJhJRek0
- たいせつな人の名は鈴鶴(すずる)さま―――。
―そして、たいせつな鈴鶴さまを護ろうとして、
わたくしは相手の神に等しい力―神剣に敗れてしまいました。
鈴鶴さまを共に護った、月に生きし存在である月の民、
シズさまとフチさまと共に、わたしは月の神剣に喰われ、消滅してしまったのです。
- 582 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 03:47:27.236 ID:HWJhJRek0
- ――護るべき鈴鶴さまは、殺されはしなかったけれど、
月神の力に飲まれ、邪神へと化けてしまったのでございます。
百合神―――魔女―――さまざまな呼び名で呼ばれていましたが、
兎も角、絶望しきった鈴鶴さまは、邪神の力が暴走しているのもあって男を虐殺しました。
- 583 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 03:47:43.225 ID:HWJhJRek0
- ―――鈴鶴さまが邪神となってしまったのは、わたくしたちが敵どもの思考に及ばなかったから。
あのとき、鈴鶴さまの力で剣を封印し直さなければ、鈴鶴さまが闇へ落ちなかったのではないでしょうか。
――けれども、それも過ぎたことです。
過ぎてしまったことに、延々とくよくよしていても、どうもこうもないでしょう。
時は、決して戻すことなどできないでしょうから。
- 584 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 04:08:13.697 ID:HWJhJRek0
- ―――では、なぜわたくしはこう回想しているのか――?
それは、わたくしと、シズさまと、フチさまは剣に魂魄を喰らわれたけれども―――
その魂だけは、鈴鶴さまの魂に溶け込み、引っ付いているからでございます。
―――けれども、鈴鶴さまはそのことを知りません。
知らないけれど、無意識に、そうなさったのです。
――――わたくしたちのことを、とてもとてもたいせつにおもっていたから…。
- 585 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/29 04:08:38.248 ID:HWJhJRek0
- 鈴鶴さまは、あまえんぼうさんでさびしやがりやさんで、でも男に対しては絶対負けぬ心があって、
ふわふわできれいな、ながあい髪が美しくて、とても美しい顔立ちをしていて―
剣に天賦の才があって、他の武芸にも長けていて、けれども泳ぐことはできなくて―
ああ、言えば言うほど、素敵なところのたくさん在る―――そんな、かわいい妹のような存在でした。
それは恐らく、シズさまとフチさまにとっても。
―――――どうして、鈴鶴さまと出会ったのでしょうか?
それはきっと、運命だったのでしょう。
―その出会いとなった発端は、全て繋がっていたのですから。
- 586 名前:社長:2015/08/29 04:10:10.188 ID:HWJhJRek0
- というわけでヤミのお話。これ以外にあと3作ほど構想があるらしい。
- 587 名前:きのこ軍 :2015/08/30 15:10:42.219 ID:M1HhO17s0
- キリキリ書けよ
- 588 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/30 22:40:12.492 ID:3pp/RkdI0
- それは、わたくしが産まれた、天の狗の里で起きた、悲劇―――。
――――今から、遥か遥か――千代を越えるほどにむかし。
――――わたくしは、この世に生まれ、ヤミと名付けられました。
それは、新月の夜―、星ひとつも見えない夜に産まれたから。
美しき闇が覆う日に産まれたから、そう名付けられたのです。
- 589 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/30 22:40:30.746 ID:3pp/RkdI0
- ―――わたしの背中には空を飛ぶための翼が生えています。
それは、風を―自然の力を身体に溶け込ませて飛ぶための、触媒のようなもの。
また、指の中には、風の力を造り放す力が宿っています。
それを効果的に放すには、団扇が必要だけれど、それなしでも軽い風は起こせるのです。
- 590 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/30 22:40:49.826 ID:3pp/RkdI0
- ――兎も角、わたくしは天の狗として、自然に―特に、風と共に、仲間と暮らしていきました。
狩りをし、仲間と交流を深め、遥か遠くの昔話を聞き、天の狗の力を引き出す修行をし―――。
けれど、それは十の時に消え失せました。
風と共に生きる、天の狗の暮らしは消し飛びました。
- 591 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/30 22:41:27.824 ID:3pp/RkdI0
- ――なぜなら、妖殺しなる、妖しき怪異を狙って、快楽のために滅ぼす集団が居たから。
奴らは、わたくしの集落をも襲ってきました―――。
奴らの主格らしい男は、白い髪をした人に非ざる存在―――。
最も、奴らには、後の未来で復讐することができたから、もう後腐れも何もありません。
―――けれども、このわたくしの産まれた里は、虐殺を楽しむ下種野郎によって滅ぼされました。
- 592 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/08/30 22:41:41.173 ID:3pp/RkdI0
- その光景は、忘れることはできないでしょう。
おぞましく、そしてわたしの身体に刻み込まれているから。
それは、復讐が済んでも妖しき怪異なるものに異を示す存在が、いやになるほどに―――。
- 593 名前:社長:2015/08/30 22:42:07.798 ID:3pp/RkdI0
- 百合神様の出番はまだないらしい
- 594 名前:きのこ軍:2015/09/02 20:22:49.マオウ ID:4vmeYYQwo
- 怖いよお
- 595 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:15:23.882 ID:zqIj.cLI0
- 同胞1「ゴハ―ッ」
わたくしの同胞が、首をもがれたその音が、頭にこびりついています――――。
奴らは、いともたやすく、手に持つ刀が、斧が、槍が―――ありとあらゆる武器が
同胞の首を斬り飛ばし、皮膚を切り裂き、肉を骨を断ち切り――。
同房2「うがッ――」
昨日まで一緒に過ごしていた仲間は、鈍器で柘榴のように頭をカチ割られてゆき――。
弓矢で射られ、火花が飛び散り―――。
辺りには血溜り―辺りには肉片―。
そこは地獄絵図のようでした――――――。
- 596 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:17:53.686 ID:zqIj.cLI0
- ヤミ「――――え、……え?」
―――其処は惨状、そして転がる仲間の死体たちがあったのです。
―それは、女子供関係なく無差別に。
わたくしは、その光景にただ茫然とするばかりでした。
生まれて、たった10年で残虐な、醜い欲望を見せつけられたから――。
奴らは、自身の快楽のためにか―――あるいは、何かの腹いせかはよく覚えていません。
けれど、わたくしたちの里を襲ったのです。
- 597 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:18:41.581 ID:zqIj.cLI0
- 親「逃げろ、ヤミ!」
仲間「ここは、わたしたちが抑えるから!
―あなたは、まだ若いからっ!
この子たちも、頼むわよ!」
わたくしは、親と、隣に住む仲間に助けられて、里から山の中へと逃げ出しました。
わたしと同じ――わたしより年下の仲間と一緒に、木々の重なる緑の中へ――。
―――けれど、奴らは――――。
- 598 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:19:57.625 ID:zqIj.cLI0
- 奴ら「―――グフフ…追い詰めたぁあああああ!
死ねェーーーッ!!」
わたくしたちを、追いかけてきました。
そして、握る得物が、刀が私を薙ぐ音―。
そして、他の奴らが、幼い仲間を無残に、無慈悲に痛めつけていました。
- 599 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:21:23.689 ID:zqIj.cLI0
- ―――わたくしは抵抗することなどできませんでした。
たったの十の肉体では、奴らはあまりにも敵わなく―そして、恐怖が思考を奪っていったから。
そして、幼子をいともたやすく、えげつなく痛めつける行為に、心を押しつぶされたから。
そして、わたくしの顔に刃が―――。
ヤミ「――っ―――ぐあっ!」
とっさに、左手でそれを防いだけれど、中指、薬指、小指が吹っ飛び――。
それに、左頬にも痛みが走り――。
指が落ちた痛み、切り傷の痛み――そして、それに苦しむわたくしを奴らは踏みつけて。
わたくしが苦しむ様子に、奴らはただ笑っているばかりだったのが、今でも今でも恐ろしく思います。
そして、トドメとばかりに、刀がわたしの右目を切り裂きました。
- 600 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:21:38.550 ID:zqIj.cLI0
- 視界が、黒く赤く爆ぜ―――。
そして、その衝撃でわたくしは崖から堕ちていきました。
奴らが、ちっ――と面白くなさそうに言い残すのを聞いて、下へ下へと堕ちていきました。
その堕ちるさなか、わたくしの棲んでいた、あの里が燃えているのを見ました。
―――もう、わたくしには帰るところも仲間も、何もかも亡くなった―――。
その絶望感が、身体中を、心を―――魂魄を包み込んだことをはっきりと覚えています。
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