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ユリガミノカナタニ
- 1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
- ??「―――――――。」
―――声が聞こえる。
これは、わたしの一番古い記憶?
何も、見えない。
そこは、暗闇の中―。
- 201 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:45:55.39 ID:CoZoQjvs0
- わたしとシズの顔は、その距離を縮めた。
シズ「わたしは、命をかけて、鈴鶴を、ヤミを、フチを守る―
ずっと、ずっと暮らしていきたい」
鈴鶴「永遠に、永久に?」
わたしは、その言葉がとても硬い意思だと分かっていたけれど、問う。
シズ「勿論、だ」
鈴鶴「約束、よ」
シズ「ああ」
互いに言葉を交し合う。
硬い約束。固い絆。
わたし、ヤミ、シズ、フチ――。
半年いっしょに過ごして、わたしたちは切れぬ絆で繋がれていった。
そして、またひとつ、絆の糸が結ばれる。
- 202 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:48:51.34 ID:CoZoQjvs0
- そして、わたしはそのシズの唇に唇を触れさせた。
シズ「んっ…」
鈴鶴「あなたの血と、わたしの血を、互いに――」
ヤミとしてきた儀式。
それは、乳飲みの一貫であったけれど、絆を深める儀式でもあった。
シズは、わたしの血は時々飲むけれど、シズの血を飲んだことはなかった。
だから、絆を結んだのだから、それをさらに深く深く―――。
- 203 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:51:16.93 ID:CoZoQjvs0
- 今日はここまで。
- 204 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:13:34.18 ID:zD39bk3w0
- シズ「鈴鶴……」
シズは、わたしに首筋を見せ、細長い指でそれをなぞった。
鈴鶴「…いただきます」
わたしは、歯をその首筋に入れて、唾液で濡らして。
シズ「ん――」
鈴鶴「ちゅ…はぁ、はぁ…」
その月の血を吸い取ってゆく。
- 205 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:18:09.28 ID:zD39bk3w0
- それは短い時間なのだろうけど、わたしには長く感じられた。
ひとさじもない血を吸い取って、ぼおっとしたまま大きなシズの胸に抱き着く。
シズ「あ…」
鈴鶴「………あ、やわらかくて、つい」
シズが驚く反応をして、わたしの目の前は明瞭に。
シズ「まぁ、いい」
けれど、シズはすぐ堅い瞳に戻って。
シズ「…では、いただく」
わたしの首筋に牙を立てた。
- 206 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:23:24.69 ID:zD39bk3w0
- 鈴鶴「ん……」
それはいつもの痛みと、いつもの感触。
シズ「……んっ、んっ」
わたしの中に流れる血を、わたしの細い首から吸ってゆく。
わたしをがっちり支えて、わたしの血を吸ってゆく。
わたしがシズの血を吸った時間よりも、それは長く感じられた。
抱きしめられて触れ合う胸の感触のせいか。
あるいは、その顔の距離のせいか。
- 207 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:27:31.91 ID:zD39bk3w0
- シズ「……鈴鶴、終わった」
気がつくと、シズはわたしの首筋から顔を離していた。
静かな一瞬――。
その静かな空気が心に沁みる。
その沈黙が心に沁みる。
鈴鶴「…シズの血も、おいしかった」
シズ「鈴鶴の血は、とてもおいしいよ」
ふたり同じ言葉を返した。
ああ、いつのまにか月は空高く昇っている。
シズ「では、帰るか」
鈴鶴「うん」
わたしたちは、折れた木刀を手に、住処へと帰った。
- 208 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:34:08.67 ID:zD39bk3w0
- 住処に戻ると、ヤミとフチが、向かい合いながら座っていた。
ヤミ「鈴鶴様、打ち合いはどうでしたか」
ヤミは、わたしに訊く。
鈴鶴「相打ち」
ヤミ「鈴鶴様、すごいですねっ」
笑顔で、わたしを抱きしめ、頭をくしゃくしゃ撫でる。
嬉しそうなヤミの表情を見ていると、わたしもうれしくなる。
フチ「相打ち…鈴鶴、あなた、シズと相打ちだなんて、とても強くなったのね
あの剣の達人の、シズと…
やっぱり、血は争えないものなのかしらね」
そんなわたしたちを見ながら、フチはそう言った。
鈴鶴「血―――」
ふと、父のことを思い出す。
そして、それと同時に攻め込んできた月の民を思い出し、もっと強くなりたいと拳をぐっと握った。
シズ「そっちは、どうなったんだ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 209 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:39:28.83 ID:zD39bk3w0
- 月日は過ぎる。
剣術を、風の術を鍛えたわたしたちだけれど。
ただ一つの技能だけではなく、複数の技能を身につけるために、色々な稽古に取り組む。
弓、槍、柔術―――。
また、封じのための術はまだ完成していない。
その稽古にも取り組んで。
あるいは、様々な知識を会得したりして。
わたしの中に宿る守護霊が、何を守るのかはまだ分からないけれど。
わたしたちは、いつしか出会って1年が過ぎていた。
いつものように、稽古に取り組み。
いつものように、血を吸いあう。
苦しいときもあれど、幸せな毎日を過ごした――。
- 210 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:41:45.51 ID:zD39bk3w0
- 今日はここまで
- 211 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:50:26.07 ID:8EnUresk0
- 朝―。
いつものように、わたしは目覚める。
今日のお天道様は、雨模様。
ざあざあ振る雨を見つめていた。
シズ「……今日は、外には出られないな」
残念そうに、シズは腕をぷらぷら振った。
- 212 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:51:48.12 ID:8EnUresk0
- 鈴鶴「まぁ、住処の中でもいろいろできるから」
シズ「そうだね」
雨の日は、何処からか手にいれた書物を読んだり、軽い特訓をこなす。
けれど、中で出来ることはそう多くない。
必然と、普通の暮らしを送るようになる。
- 213 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:56:27.05 ID:8EnUresk0
- いつしか、昼食の時間になる。
雨は降っているけれど、腹時計はきっちりとしていて。
食事は、住処のまわりで採れるもの。あるいは、住処の周りで育てているものからまかなう。
調理は、わたしやヤミやフチがして行う。
シズは、家庭的な行為が壊滅的に駄目だからだ。
シズのつくった料理を食べたことがあるが、あまり肯定できない美味しさ。
幼馴染のフチはそれを理解しているので、シズを黙って待機させている。
- 214 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:00:24.13 ID:8EnUresk0
- フチ「それにしても、鈴鶴の手さばきは魅入られる何かがあるわね」
フチは、料理するとき、ときどきこうやって褒める。
ヤミの手さばきも丁寧だが、わたしの手さばきはそれに芸術性が加わった何かなのだという。
食材を切り、煮て、それを皿に盛り付けて――。
稽古をしている関係上、4人で食事を囲むことが少ない。
時々しかないこの時間を、わたしは楽しむ。
ヤミ「鈴鶴様、うれしいですか」
鈴鶴「みんなと食べるのは、楽しいから」
和気藹々と食事の時間は過ぎる。
- 215 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:03:33.90 ID:8EnUresk0
- いつしか、昼食も終わり。
再び、簡易な稽古に取り組んで。
夜になると、すっかり雨は止んでいた。
鈴鶴「ふう、月がまぶしい」
空に輝く月。
それが満ちるまでは、指で数えるほどの日数ほどで。
そんな月の光が、わたしたちの住処を照らしていた。
- 216 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:08:05.84 ID:8EnUresk0
- そんな月を見ながら、フチは切り出した。
フチ「そろそろ、鈴鶴やヤミも様々な手段で戦えるようになったわ
鈴鶴の封じの術も、使えるようになった」
今日に至るまでに、いろいろなことを学び、そしてそれを会得した。
それは、ただ強くなるためではなく、目的のために行うことであった。
鈴鶴「そろそろ、行くの?」
シズ「そうだな
今の鈴鶴とヤミの力なら、やつらが来ても戦えるだろう」
ヤミ「……ああ、忘れもしないあの月の民
――それにも、決着をつけないといけませんね」
鈴鶴「そうね」
父の仇。ヤミの同属を殺戮した存在。
その仇討ちを、決着をつけなければならない。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 217 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:12:37.94 ID:8EnUresk0
- わたしたちは、住処から旅立ち―――。
シズとフチが死闘をしたという、海までたどり着いた。
その時刻は夜。
満ちた月が、暗黒の空にまたたいていた。
ぞくり。
わたしの身体が、何かの響きを感じた。
ヤミ「鈴鶴様、どうかしましたか?」
鈴鶴「ぞくりと気配を感じたの…
これが黄泉剣?」
シズ「恐らく」
フチ「月神の血を引くからこそ、感じ取れるのでしょう」
ヤミ「どうして、わたくしは感じないのでしょうか?」
フチ「あなたの場合は、元からあるものではなく、付け加えたものだから、でしょうね
鈴鶴と違って、あなたの命を助けるために【姫】様が力を与えたかせ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 218 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:16:09.79 ID:8EnUresk0
- そして、その闇の後ろから声が聞こえた。
声の主「やっと来たな、月神の血を引く娘と、そのお仲間どもよ―」
その声は、忘れもしない―。
鈴鶴・ヤミ「……カショ!」
わたしの父の仇であり、ヤミの仲間の仇であった。
- 219 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:20:14.03 ID:8EnUresk0
- その後ろには、もうひとりの月の民の男が佇んでいた。
鈴鶴「あなたは、仏のシャクハツというやつかしら」
男「…シャクハツは、首を刎ねられて死んでいた
あの女を捕らえたはいいが、残念なことだ」
シャクハツ―わたしの母、【姫】をさらった男。
どうやら、すでにそいつは故人だという。
鈴鶴「では、誰だ」
男「わしは、玉石のホーライ―
おぬしらを倒して、ここに沈みし黄泉剣を会得する
…カショが引継ぎし、リュウシュの望みを達成させる」
ざっ、ざっ…
その言葉が終わるとともに、その後ろから人間の男たちが集まってきた。
- 220 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:23:14.75 ID:8EnUresk0
- シズ「人海戦術か―
確かに、海が舞台だが」
冗談に聞こえない言葉をシズは云う。
ホーライ「ほっほ
まぁこれだけいれば何とかなるじゃろ…
この男らの原動力は富と女じゃからな」
フチ「吐き気がするような原動力ね」
カショ「フン、オレは何を使おうと覇者になるんでね」
しばらくの沈黙――。
そして。
ヤミ「鈴鶴様、行きましょう」
鈴鶴「そうね
こいつらを、倒さないと」
その沈黙を破って、戦いの火蓋は切って落とされた。
- 221 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:23:30.49 ID:8EnUresk0
- 今日はここまで。
- 222 名前:きのこ軍:2014/12/09 23:31:23.81 ID:TpICAZnso
- 緊迫した展開になってきた。おつだぞ。
- 223 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:37:47.74 ID:8EnUresk0
- カショ「フン、面白い…
かかってこい、あの男とあのアマの娘よ!」
カショは、太刀を抜き、わたしに向けた。
そして、その後ろには無数の男ども。
ヤミ「鈴鶴様、助太刀します」
ヤミも、わたしの後ろについてきた。
カショを倒すべきなのは、その仇討ちをしなければならないわたしたちなのだから。
シズとヤミは、ホーライと、残った男どもの相手に向かった。
- 224 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:43:53.48 ID:8EnUresk0
- 鈴鶴「てゃーっ!!」
カショ「せいっ!」
太刀のぶつかる音が聞こえる。
太刀筋を、体全体で避わすことができぬのだから、その太刀の刃で受けるしかない。
わたしの剣術は、刃がなくとも、刃を叩き切ることのできる秘剣を持つ。
父から、シズから学んだ、剣術。
シズは、この剣術を月影黄泉流(つきかげおうせんりゅう)と呼んでいた。
わたしはその月影黄泉流で、カショの太刀を受ける。
けれども、カショはそれほどで倒れるほどの猛者ではない。
わたしにこの剣術を教えたシズが唸るほどの、わたしの父を倒した男。
金属音が響く。
- 225 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:47:43.95 ID:8EnUresk0
- ヤミ「鈴鶴様の邪魔はさせませんっ!」
ヤミは、羽団扇を持ち、高下駄で飛びながら、わたしを狙う男に真空の刃を飛ばす。
男1「ぐぁ!」
男2「ぐべっ!」
男3「あがぁああっ」
真空の刃はわたしに近付く男は飛ばされてゆく。
けれど、その男たちは死なず。
月の血を引く月の民の男どもの同胞なのだから、ただの人間よりも丈夫であろうから。
ヤミ「鈴鶴様、今は耐えていて下さい」
ヤミの声を後ろに、わたしは太刀と太刀をぶつけあう。
- 226 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:50:29.44 ID:8EnUresk0
- カショ「そらそらそら!
ちぇーっ!」
鈴鶴「っ―」
カショの太刀がわたしの肌を少しずつ斬る。
けれど、これしきの痛みで負けてたまるものか。
わたしは負けず、浅くとも一撃をぶつける。
ホーライの相手をしているシズとフチも、苦戦しているようで。
フチが海の水から、砂浜の砂から式神を多数呼んでいるにも関わらず。
その男どもの量は尋常ではないほどで、その丈夫さも尋常ではなかった。
- 227 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:54:37.29 ID:8EnUresk0
- カショ「ぬぅ!」
わたしの剣筋がカショの太刀を捉える。
月の太刀は、この国にある太刀よりも硬く、欠けない強靭さを持っている。
けれど、わたしの一太刀が、カショの太刀の刃を吹っ飛ばした。
あの修行で会得した技のように。
わたしの太刀の姫百合が、そよそよと揺れる。
鈴鶴「とりゃぁーーっ!」
カショ「…ち
あの女がいるから使いたくはなかったが、仕方ねえっ!!」
鈴鶴「…熱ッ!!」
わたしの手の甲に、熱さを感じた。
その痛みが、太刀筋をそらさせる。
首狙いの太刀筋は、虚空を切った。
- 228 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:00:09.01 ID:SGwMn2D20
- カショ「危ない危ない…
オレは、火鼠という通り名を持っていてな…」
鈴鶴「くっ、手に火をつけたな」
カショ「あのアマに火を使われるとまずいから、すぐ消したがな…」
そしてカショは、火を織り交ぜながらわたしの太刀と対抗する。
フチ「くっ、あれもなんとかしたいけれど…
こっちを何とかしないと、ね!」
シズ「鈴鶴とヤミを信じるしかないっ」
シズとフチは、ホーライと男どもと戦っている。
シズが男の首を跳ね飛ばし、フチが式神で援護をする。
ホーライの通り名は玉石―
その石のごとき堅固なる硬さで、身を守っている。
それをおびただしい数の男が護っているのだから、手を出せない。
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- 229 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:01:48.98 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴「ぐっ、炎が邪魔だっ!」
フチの邪魔はないと踏んだカショが、わたしに炎を寄り合わせた剣で切りかかる。
この剣では打ち合いすらままならない。
わたしは、防戦一方になっていた。
カショ「そこだっ!」
鈴鶴「しまっ……!」
わたしの胴体めがけて、炎の剣が飛んでくる。
- 230 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:06:29.22 ID:SGwMn2D20
- ヤミ「鈴鶴様ァァァーーーッ!!」
ヤミが、そこめがけて小さな嵐を飛ばした。
カショ「な…くそっ、貴様全滅させたな!」
ヤミ「いくらやつらが硬かろうと、首を連続して飛ばせば一撃ですから」
カショ「己ェーーーッ!」
カショは、邪魔な風のほうへ、体を折り曲げ。
その一瞬――。
その一瞬を、わたしは見逃さず。
手首を切り裂く。
カショ「な―」
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- 231 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:07:49.65 ID:SGwMn2D20
- そしてシズとフチのほうも。
男どもは、あらかた片付いていた。
ホーライ「カショ――!」
その一瞬の目を、シズとフチは逃さず。
ホーライ「がは―――!」
首を刎ね、胴体を握りつぶした。
- 232 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:10:14.87 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴「―倒した、かしら」
あたりには一面の死体。
月の民だろうと、ここまでやれば死は免れぬ。
ヤミ「―みたい、ですね」
シズ「―そう…だな」
フチ「ちょっと、休もう――」
わたしたちは、近くの森で少し休むことにした。
死体の山の砂浜で休むのは、流石に休めないと感じたからだ。
戦いに集中し、気がつかなかったが、わたしたちは相当に疲弊している。
少しの休息がないと、黄泉剣の封印はままならないだろう。
- 233 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:12:38.42 ID:SGwMn2D20
- がさっ。
草の揺れる音がした。
突然、わたしの後ろの草陰から、生き残りの男がわたしを掴んだ。
ヤミ「鈴鶴様!!」
鈴鶴「!」
男「よくも、カショやホーライや仲間をぉ!
オレを攻撃すれば、この女を殺すぜ」
その男は、短刀をわたしの首に近づける」
シズ「ぬ…」
フチ「しまった、うかつだった」
- 234 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:14:56.47 ID:SGwMn2D20
- 男「ほーう、この女は鈴鶴というのか
なかなかの上玉だ―」
男は舌なめずりをして、次の言葉を告げた。
男「フハハハ、この女の身体をもらう!
少しでも動いてみろ、この女は殺すぞ!!」
ヤミ「卑怯な…」
ヤミは、ぐっと拳を握り、その男を睨む。
けれど、わたしの命が賭けられてしまっている。
そして、わたしたちの身体は疲弊しきっている。
ああ――。
そして、男がわたしの衣に手をかけ―。
- 235 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:19:29.77 ID:SGwMn2D20
- ずばっ。
男「な!?」
その男は首と胴体がもげながら、吹き飛んだ。
鈴鶴「え、え?」
わたしは何が起こったかわからない。
いったい、何が―。
フチ「鈴鶴、あなたの―」
ああ―。
わたしには、もうひとりなかまがいた。
それは、仲間というよりは、守護霊である鬼である。
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- 236 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:20:26.74 ID:SGwMn2D20
- 月はまだ空にある。
わたしたちは船を組み、海の上を漂い、漂って―。
- 237 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:21:10.79 ID:SGwMn2D20
- ごぼっ、ごぼっ。
わたしの身体が、一瞬沸騰する感覚に陥る。
左手が、熱されたように熱く感じ―。
左手が、ぶるぶる震えて。
海が、ごぼごぼと、徐々に大きく音を、泡を立てー。
ばしゃあっ―。
黄泉剣が、わたしの左手に、引き揚げられた。
- 238 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:23:08.82 ID:SGwMn2D20
- 黄泉剣は、その鍔に瞳のような宝玉がつき、その柄には紐で結ばれた勾玉のつく、月のような青白い剣だった。
持っている感覚は、神が宿っているという剣だからなのか、とても恐ろしく感じた。
鈴鶴「その、これを、封印すれば、いいのね…?
すごく、持っているだけで、嫌な感じがする
けれど、何処に?」
その場所は、いったい何処に―。
- 239 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:25:23.92 ID:SGwMn2D20
- シズ「…元は、月の海に沈められていた、と聞いたことがある
この海に、再び沈める」
鈴鶴「それじゃあ、元の木阿弥じゃないかしら?」
わたしは、この恐ろしい剣を持って、そんな安直にしていいのかと訊く。
いくら、封印があるからといって―。
フチ「大丈夫…
神の血を伴った封印で、尚且つ易々と手を出せない場所に封じ込めるの
そうなれば、見つけることは難しいし、仮に見つかったとして、月神の血がないと封印は破れないからね
また、分かる場所ならば、まずないけれど引き揚げられてもそれに対処しやすいから」
ヤミ「なら、大丈夫ですね
では、鈴鶴様、封じを―」
ヤミはわたしの胸に、指の足りない―けれど、それが当たり前の左手を指し、頷いた。
- 240 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:29:53.50 ID:SGwMn2D20
- わたしは、フチに習ったとおりに、剣に念を、術を、文言を、祈りを、血を込める。
鈴鶴「我は月神の血を引く、月神の末裔なり
黄泉剣よ、月神の欠片よ、再び此の海に沈み給え!
二度と何者が手にとらぬように!」
いくばくかの時が過ぎ――――――――――。
黄泉剣は、海に引きずりこまれてゆく。
黄泉剣が、誰かに引きずり出されないように、わたしの血の封じが働いていることを実感しながら、それを見つめる―。
黄泉剣は、海の中に沈んでいった。
海の底に、誰も見ることができないように、その姿を消していった。
- 241 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:31:21.24 ID:SGwMn2D20
- わたしたちの、成すべきことは終わった―。
ああ、なにもかも―。
鈴鶴「終わった…」
ヤミ「仇も討ち、黄泉剣も封じましたね」
シズ「―さて、住処に帰ろうか」
フチ「やつらの残党がいるかもしれないから、注意しながら、ね」
- 242 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:33:29.46 ID:SGwMn2D20
- 海岸に戻ったときには、すでに日の出であり。
鈴鶴「もう、朝か…」
ヤミ「あっというまでしたね」
そう呟きながら、家路へ向かう。
道中、なにごともなく。
家路へ辿り着いた。
これからどうするかは、ただこの生をずっと享受し、4人で生きていこうと決めた。
月日は流れる。年月は過ぎる―――。
- 243 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:51:22.37 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴の太刀
http://dl6.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/530/c05.jpg
【姫】(鈴鶴の母)と鈴鶴が扱いやすい大きさの太刀。
生半なことでは折れない強度であり、切れ味は最高であり、錆びない。
黄泉剣
http://dl6.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/531/c06.jpg
鍔に眼球のような宝玉がはまった、月の女神の剣。
それに振れたものは、おかしくなるという噂あり。
また、これの刃には、月の民が触れると、その剣に食われてしまうようだ。
この剣は、海の干満を操ったり、斬撃の刃を飛ばしたりできるらしい。
また、柄についている勾玉からは、不思議な力を感じるとか。
これにまともに触った者はいないので、どんなものかははっきりとは分からない。
- 244 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:53:50.70 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴の鬼
鈴鶴を守る守護霊。
鈴鶴が男の手により、強姦など、性的暴行行為などを受けそうになると神速でその対象を殺す。
鈴鶴の意思ではできない。また、性的暴行ではない行為(鈴鶴をただ普通に殺す場合)には守らない。
また、女相手では無効。
その力強さや早さは、とてつもない強大な力である。
- 245 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:55:56.13 ID:SGwMn2D20
- 仏のシャクハツ
【姫】をさらったが、よくわからないうちに死んでいた。
玉石のホーライ
硬化能力を持っていたが、カショの死に動揺した隙に死んだ。
火鼠のカショ
火を操る能力、ならびに剣の達人。
鈴鶴とヤミと戦い、死亡。
龍の首のリュウシュ
月を壊滅させた張本人。
すでにシズとフチが殺している。
- 246 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:58:39.29 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴たちの衣装について
ヤミがそれを繕ったりしている。
裁縫は鍛冶はできるが家事が出来ないシズ以外ができるが、ヤミのそれがいちばん上手い。
破れたところを、丁寧に直している。
鈴鶴は他に術を使えるか?
―使えない。ただし、前述した守護霊の鬼が存在する。
- 247 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:59:08.63 ID:SGwMn2D20
- 次回の四章が最終章である。
- 248 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:28:02.24 ID:WYPh5sKc0
- わたしたちは、やるべきことを果たした。
わたしたちは、永久に死ぬ事なき変若水の血のおかげで、ずっとずっと生きている。
わたしたちは、いろいろなものを見てきた。
わたしたちは、いろいろなものに触れてきた。
- 249 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:34:15.67 ID:WYPh5sKc0
- 此の国の世の流れは、わたしたちの生よりもずっと慌しく。
支配者は移り変わり、世の空気も移り変わり。
わたしたちは、住処にいたり、ときには野宿したりしてその浮世を見つめる。
其処に介入はしない。
わたしとヤミは、月の民の血と力を受け継ぎし者。
シズとフチは、月の民。
太陽の民―この青き星の、此の国の民とは、できるだけ関わらないように。
悪鬼によって、人が襲われるなら、こっそり助けるけれど。
- 250 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:36:23.78 ID:WYPh5sKc0
- わたしたちは、いろいろな事柄を会得した。
知識であったり、武術であったり―。
毎日の稽古は欠かさず。
それが、わたしたちの日常なのだから。
- 251 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:41:10.49 ID:WYPh5sKc0
- 年月は過ぎる。
わたしたちが出会ったときから、十の年。
わたしたちが出会ったときから、百の年。
そして、千代の年が過ぎてゆく。
この国も、外つ国に混ざりあい。
重なる戦禍、焼け、燃える国。
それすら越えて、50の年を越して―。
- 252 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:42:51.86 ID:WYPh5sKc0
- そんな、あるとき――。
それは、満月の夜―。
わたしの身体に、ぞくりとくる何かの感覚が走る。
そしてそれは、他の三人も感じたことであった。
鈴鶴「何…この感覚…
左手が、凍るような、燃やされるような…」
シズ「な…」
フチ「…そんな、まさか…」
シズとフチは、驚いた表情で、震え―。
ヤミ「―」
ヤミも、息を殺してその気配を見つめ。
その答えは―。
- 253 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:43:42.66 ID:WYPh5sKc0
- シズ「黄泉剣の封印が―」
フチ「解かれようと―――」
わたしが封じた、あの剣の封印が―?
けれど、永久に解けないと―。
シズ「何故なのかは、わからないが…
早く行かないと、不味いことになる!」
- 254 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:45:33.19 ID:WYPh5sKc0
- ヤミ「行きましょう、一刻も早く!」
鈴鶴「ええ」
わたしたちは、あの剣を封じた、あの場所まで―。
悪寒に耐えながら、その場所まで―。
技術が発展し、足となる車が出来ていたのが救いだった。
わたしたちが、あの砂浜に辿り着いたとき。
そして、そこにいたのは―。
わたしの、わたしたちの目を疑うような―。
- 255 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:47:24.84 ID:WYPh5sKc0
- 今日はここまで。
- 256 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:32:12.47 ID:M5Zgnwdc0
- その剣は、再びこの世に姿を現した。
その剣は、封じを破って、姿を現した。
そして、その剣を持っていたのは――。
鈴鶴「え…?」
ヤミ「…どういうこと、ですか?」
わたしの父が、あの日と変わらぬ姿で、黄泉剣を持ち、其処に居た。
そして、その傍らには、白髪白肌の男が―。
- 257 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:35:52.94 ID:M5Zgnwdc0
- シズ「そうか、そういうことか……
確かに、わたしたちは其の死体を見ていない―」
そう。
あくまで、それはわたしたちが思っていたこと。
あの場、奴等は敵であり、カショとわたしの父は戦った。
そして、カショは遥か昔に、わたしとヤミで殺した。
つまり、わたしの父はカショに敗北し、死んだものだと思っていた。
けれど。
フチ「…あなたの父を、殺さず―
あなたが封印すると先を読んで、鬼として眠らせていたのね」
わたしが封印した剣は、わたしの血を込めて、封じた。
わたしは、月の女神の血を引く。
その女神の血でもって、その封じを破ることが出来る。
ただ一つの例外。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 258 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:39:46.71 ID:M5Zgnwdc0
- 父「貴様…
これは、どういうことだ
この剣で、鈴鶴たちが封じられているから、引き揚げろ―と」
わたしの父が、黄泉剣を持ちながら男に訊く。
男「わたしの同胞の悲願を達成するためならば、貴様を回収した…
おまえを月の血を持つまでに、千代を越えるほどかかったが…
その努力は今報われた」
父「貴様ッ!」
父がその黄泉剣で斬りかかる。
―――。
わたしの目の前が、白黒に反転した。
- 259 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:41:32.78 ID:M5Zgnwdc0
- 空も、海も、ヤミも、シズも、フチも、わたしの父も固まっている。
鈴鶴「え――」
男「悪いが、用済みだ」
男は、黄泉剣を固まったままの父から奪い取り、そして―。
男「はっ!」
その心臓を一突き―。
そしてその時、目の前の景色が再び色を取り戻した。
- 260 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:44:28.48 ID:M5Zgnwdc0
- 父「ぐふっ―」
父は、その場に倒れた。
赤い血が砂の上を染めた。
ヤミ「――!?」
シズ「どういうことだっ!?」
フチ「一瞬で、動いた―!?」
わたし以外の三人は、その白黒の世界を認識していないようで―。
鈴鶴「そんな…」
そして、わたしも、突然の事態でそれをただ見つめていた。
そして。
男が、わたし達のほうを向いた。
- 261 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:48:32.49 ID:M5Zgnwdc0
- 男「わたしは、燕のショウアン…」
ショウアン「月の女神の血を引きし娘―
そして、その同胞―
死んでもらう」
そして、ショウアンがわたしたちへと近付いてきた。
シズ「くっ、倒さねばならないか」
フチ「黄泉剣持ちの狂い人、くっ―」
ヤミ「兎に角、あの素早さに負けないだけの量で攻撃しないと―」
目の前にはとてもとても恐ろしい存在がいる。
月の神―月の女神の欠片を持つ男がひとり―。
- 262 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:50:28.18 ID:M5Zgnwdc0
- ヤミ「鈴鶴様、奴の動きで何か気になったことは」
ヤミがわたしに問う。
そして、白黒の世界のことを話した。
シズ「ちっ、わたしたちを止めるということか―」
フチ「強引に、数と気力でどうにかするしかないわね」
わたしたちは、迫り来るそのショウアンへ武器を構える。
ここで倒さなければ、いけない。
- 263 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:51:53.54 ID:M5Zgnwdc0
- わたしたちは覚悟を決めた―。
太刀が振るわれ。
嵐と式神が吹きすさび―。
けれど、それをショウアンは、黄泉剣での攻めでいなす。
- 264 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:53:09.74 ID:M5Zgnwdc0
- 四対一であるのに、互角の戦いで―。
ショウアンは、黄泉剣に念ずる。
剣が、潮の満ち引きを荒ぶらせ―。
そして、その力を持ってして、男は斬りこんで来る。
それでも、フチの水の式神が、それを阻む。
わたしの父の身体は、とうに海へと流れていった。
- 265 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:56:20.96 ID:M5Zgnwdc0
- そして―。
ショウアン「そこの月女神の娘は知っているようだな…
まあ、夜の世界を操る神だから、な―
まあ、見えたところでどうしようも、ないが…」
ショウアンが、高波をわたしにぶつける。
その衝撃で、私の身体はショウアンから離れるように飛んで行き―。
そして。
再び、世界が白黒の世界に染まった。
- 266 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:01:51.91 ID:M5Zgnwdc0
- どういうわけか、わたしはその白黒の停止する影響を受けない。
そして、ショウアンが―――。
鈴鶴「いやぁぁぁああああああああああああああああああああっ!!」
フチの胴体を黄泉剣で斬り飛ばした。
シズの首を黄泉剣で刎ね飛ばした。
ヤミの羽ごと、その身を二つに分けた。
そして、黄泉剣に三人の身体は喰われた。
それは、遠ざかる中で見えた景色。
その吹き飛ばされる力に、抗っていたときに見えた景色。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 267 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:07:23.77 ID:M5Zgnwdc0
- 再び、世界は色を取り戻す。
そして、わたしの目の前はなぜだか滲んでいた。
その目の前に。
ショウアンがいた。
ショウアン「残り一人だ
いくらわたしの能力が効かずとも―
逆に、それが見えているからこそ、おまえに効く」
ショウアンが、わたしに黄泉剣を振りかぶった。
わたしは、涙溢れる視界で。
ああ、せめて。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 268 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:09:26.49 ID:M5Zgnwdc0
- ショウアン「何故、食い込―」
ショウアンの首は飛んでいく。
そして、首と胴を離し、その場に倒れた。
わたしも―。
いや、わたしの首に刺さった黄泉剣は、なんともない。
血が溢れず。
わたしは、喰われず。
そして、左手で引き抜いても、別段何も起こる気配はなかった。
- 269 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:11:55.31 ID:M5Zgnwdc0
- ああ、わたしは守ることが出来なかった。
ああ、わたしはあいするひとをぜんいん―。
わたしの手元には黄泉剣が一振り、残っているだけ。
黄泉剣は、わたし以外を食い殺した。
ああ、もう、わたしはどうすればいいのか―――。
ああ、せめて死んでしまいたい。
せめて、この黄泉剣だけはなんとかしないと―。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 270 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:13:01.10 ID:M5Zgnwdc0
- ――わたしは、目覚めた。
何故か、あの砂浜に再び流れ着いた。
わたしは黄泉剣でわたしをめちゃくちゃに刺す。
けれど、その剣はわたしを殺さず。
逆に、何か得体の知れない何かが、わたしの中に流れてゆく。
- 271 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:13:33.70 ID:M5Zgnwdc0
- ああ、わたしも喰らわれれば良かったのに。
どうして、わたしだけ、喰らわれなかったのだろうか。
此処に残りしは、ヤミが編んだわたしの装束が。
此処に残りしは、シズが作った百合の太刀が。
此処に残りしは、フチが教えた守護霊が。
ああ、もう、形見だけしか残っていない―。
その悲しさが、後悔が、怨念が、溢れ込む力がさらに身体の中をぐるぐると回る、廻る。
- 272 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:14:09.61 ID:M5Zgnwdc0
- 頭痛――。
頭の中が、邪悪に邪悪に包まれる。
心の中が、なにかに染まってゆく。
左手が、はじめて触れたときのようにかたかた震え――。
わたしの目に映る景色は、反転した。
- 273 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:14:48.61 ID:M5Zgnwdc0
- 鈴鶴「あ―――」
わたしの身体に、神の剣―呪いの魔剣――黄泉剣の力が身体に流れ込む。
そして、力だけではなく――。
鈴鶴「ぐ…ぅああああああっ!」
黄泉剣は、わたしの左腕に飲み込まれた。
勾玉が、わたしの右目に飲み込まれた。
- 274 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:15:10.82 ID:M5Zgnwdc0
- 力が身体中に流れ込む。
月の女神の力が。
剣に飲み込まれた名も知らぬ月の民の力が。
そして、わたしの愛するたいせつなひとの力が――。
すべてをぐちゃぐちゃにどろどろにかき混ぜた力が、身体の隅まで埋め尽くす。
その力は、わたしはもう決して死ぬことが出来ないのだと実感させるほどで――。
- 275 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:16:29.34 ID:M5Zgnwdc0
- わたしはふらふら歩きだした。
わたしはふらふら町へ歩きだした。
闇から逃げるために。
町の明るさならば、このおかしい身体を何とかできるのかもしれないと、其処へと歩き出す。
此処にある、月を海を見たくないために。
- 276 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:17:46.22 ID:M5Zgnwdc0
- 溢れ込む力が気持ち悪い。
ふらふら、路地裏へと身体をあずけ、にじり歩く。
この身体に纏わり付く力は、疲れを感じさせないほどに強大で。
けれど、その強大さに飲まれてはならない。
飲まれれば、月を滅ぼした存在の如く――。
わたしは、その気持ち悪さに必死で耐えていた。
- 277 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:18:11.25 ID:M5Zgnwdc0
- その時――。
男どもの声が聞こえた。
その声の雰囲気は、何故だか嫌な予感を感じる声であり。
その声の在り処はすぐ近くだと、其処に向かう。
そこには。
ふたりの少女が、男たちに取り囲まれていた。
男どもが、私に気が付く。
男A「……んっ?」
男B「ちっ―
いいところで邪魔が…
いや、待て
この女、かなりの……」
男C「そうだな、この女も……」
- 278 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:19:36.30 ID:M5Zgnwdc0
- その言葉は、何の意味を持つ言葉なのか。
それはわからず。
けれどもそれは、とてもとても不快になる響きで。
鈴鶴「貴様ら……
ああ、憎い、憎いなァ……」
その光景は、わたしの憎しみを増した。
男D「あ?女など俺たちの…」
その言葉は続かず―――。
わたしの振るう太刀が、その男どもの首を刎ね飛ばした。
何人いたのだろうか。
その人数差など知らず、わたしはただその男どもの首を刎ね飛ばした。
- 279 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:20:35.08 ID:M5Zgnwdc0
- それは一瞬。
剣に流れ込む力のせいか、その一瞬すら鍛え上げた一瞬より速く、男どもの首を刎ね飛ばした。
少女A「え……」
少女B「ひ……」
少女たちは恐怖の目でわたしを見つめる。
鈴鶴「……どこかに行きなさい
どこかに行きなさいっ!」
けれどわたしは、その少女たちを追い払った。
ああ、人を殺した――。
どくん――。
- 280 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:21:21.69 ID:M5Zgnwdc0
- わたしの心が、なにかに蝕まれる。
どくん、どくん、どくん―。
鼓動が増す―。
わたしの心から、鬼――守護霊は飛び出した。
わたしの守護霊は、近くの死体をひっつかみ、ドロドロに溶かしてゴミ箱に叩き込んだ。
ああ、さっき憎しみを持ってしまったから――。
その剣の力は、わたしを守る守護霊の力も変容させた。
わたしを守るだけだった鬼は、触れるものを溶かすようになった。
わたしの意志で動かせるようになった。
ああ、この力があれば愛する人も守れたのに。
ふらふら路地裏から出る。
- 281 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:23:44.26 ID:M5Zgnwdc0
- 其処から六尺離れたあと、ゴミ箱が壊れる音が聞こえたけれど、それすら気にならない。
ああ、なんでこうなったんだろう?
――ああ、殺されてしまったんだ。男に。
――――――。
- 282 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:25:39.51 ID:M5Zgnwdc0
- ――――――。
ああ、男がいたからなんだ。
ああ、男なぞ滅びてしまえばいいんだ。
思考はすでに平常であろうとすることを離れだし。
それで未来が閉ざされようと、別に構わない―。
ああ、滅ぼしてしまえ―。
黄泉剣の力が、わたしの心を堕とした。
わたしの意識は、すでに飲まれてしまった。
わたしがわたしではなくなってしまった―。
- 283 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 01:25:52.15 ID:M5Zgnwdc0
- 今日はここまで。
- 284 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:01:25.98 ID:hWYwm.1U0
- 黄泉剣の、眼球のごとき宝玉が、完全に開いた感覚を覚えた。
すでに左腕に呑まれて、それを見ることはできないけれど。
――――――。
―――――――――。
わたしは、何も思わず、ただあてもなく歩き続けた。
- 285 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:06:49.24 ID:hWYwm.1U0
- ああ、わたしのこの思考をいらいらさせる男がいる。
わたし「はあああああ――――っ!」
わたし「死ねっ、死ねっ、死ねええええっ!!」
男を、男どもを、わたしは殺した。
右手に構える太刀でそれを切り刻む。
左手からは、すべてをかき混ぜたどす黒い斬撃が飛ばされる。
海の潮の満ち引きは荒ぶる―。
空に輝く月の輝きが、わたしを妖しくきらめつかせた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 286 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:08:15.49 ID:hWYwm.1U0
- 剣に飲まれたフチの力が、シズの力が、ヤミの力がわたしのなかに流れ込む。
あるいは、それよりも前に剣に喰われた月の民の力が、流れ込む。
それらは合わさり、ぐちゃぐちゃに混ざりゆく。
わたし「あ…ははは…」
わたし「あははははははははっ…!」
少女の見た目をした式神が呼び寄せられ、男どもを掴み、引きちぎる。
剣の振りはさらに早く、隼のごとく男を切り裂く―。
呼び寄せた風は嵐となりて、何もかもを吹き飛ばす。
わたしの知る余地もない、だれかの力が男どもを殺し続ける。
- 287 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:10:50.16 ID:hWYwm.1U0
- 時を操る者が、わたしの前に立ち塞がる。
けれど、その時の呪縛すら、わたしは打ち破った。
月女神は夜という時を支配するのだから。
支配という行為は、それより上を支配できるものには敵わぬのだから。
ああ、あいつも時を操っていたんだ―。
けれど、それも、もうどうだっていい。
―多数の兵器がわたしを襲う。
其れが、わたしを傷つけても、わたしの身体は再生する。
わたしのたいせつな太刀も、服も、守護霊もわたしの意思とは無関係に再生する。
涙はとうに涸れつくし。
- 288 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:11:20.77 ID:hWYwm.1U0
- 心はとうにあるべき形を持たぬ。
何をしようとも、何も感じぬこの身となり。
――いつしか、わたしは、時代錯誤のようであるけれど―【魔女】として、追われはじめた。
- 289 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:13:02.24 ID:hWYwm.1U0
- その【魔女】の囁きが、守護霊を操る。
そいつは、触れるものを溶かすようになる。
―その力を持ってして、隠れ、逃げる男をも殺した。
その【魔女】が持つ太刀に咲くは、百合の花―。
そしてその【魔女】は百合のごとき威厳さを持ち、百合のごとき純潔な雰囲気であり、そして無垢なる邪のモノ―神の力を受け継ぎし、真なる神であった。
そして、【魔女】は、邪神は、真なる神は―――。
―――【百合神】と呼ばれた。
- 290 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:15:00.73 ID:hWYwm.1U0
- 【百合神】は、災禍となり、男を滅ぼすが如く動く。
それは、この青き星すべてを殺すがごとく、その手でひとりひとり殺す。
いくつもの時間が過ぎる―。
いくつもの月が沈み、浮かぶ―。
- 291 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 00:15:46.31 ID:hWYwm.1U0
- 今日はここまで。
次回で終了予定
- 292 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:00:43.79 ID:hWYwm.1U0
- 【百合神】「ぐっ、はァーっ…はァーッ…」
けれど、遂には【百合神】は、追い詰められた。
【百合神】は、とても強大な存在―。
神の力を持ち、この世を破壊する邪神。
けれども。
【百合神】は、災厄となっても、男しか殺さなかった。
そして、そのただ一つのこだわりこそが弱点となり―。
神職の少女と、そのお供に追い詰められた。
- 293 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:01:46.92 ID:hWYwm.1U0
- その少女は、ちいさな鏡を構えていた。
【百合神】「ん?その鏡は…
いや、気の迷いか…
どいて―」
少女の構える鏡に、一瞬何かの既視感を覚えたが、それもただの一瞬―。
わたしは、邪悪なる目でその少女を見つめる。
- 294 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:02:34.48 ID:hWYwm.1U0
- 少女「本来、持ち出すべきものではないですけれど、
事態が急を要しますから」
少女は、その瞳に負けない。
そして、淡々とわたしに告げる。
少女「あなたは、邪悪なる鬼神…
何があってこうなったかは分かりません
けれど、あなたは―」
鏡を振りかざし、そこから【百合神】の姿を移した。
- 295 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:04:00.50 ID:hWYwm.1U0
- 光が流れ込む。
光が【百合神】を包み込む。
その光は、【百合神】の中のなにかを刺激し―。
そしてそれは、わたしの意識を引きずり出して。
少女「―この鏡の神の、実の―――」
わたし「…っ―――」
わたしは、薄れ行く意識のなか、少女の声を聞きながら、地面に倒れた。
- 296 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:05:01.11 ID:hWYwm.1U0
- 夢を見た。
その暗闇の中で、わたしは、夢を見た。
ゆめをみた―。
夢というよりは、わたしではないわたしを、わたしは第三者の視点でそれを眺めていた。
わたしは、連れ去られていた―。
わたしは、月の民の男に、連れ去られていた。
わたしは太刀をその身体に携えていた。
- 297 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:06:08.59 ID:hWYwm.1U0
- 太刀を携えたわたしは、連れ去られている。
その太刀は、百合の花が鞘に巻きつく――。
ああ、あの太刀は。
月の民の男「指定の場所まで届ける―前に…」
月の民の男が、わたしを乱暴に地面に叩き付けた。
月の民の男「ふふ、いただいておこう」
わたし「い……や…」
わたしに、その月の民の男は近づいてきた。
- 298 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:06:28.62 ID:hWYwm.1U0
- 後ずさりしようとしても、身体ががちがちに震えて動かない―。
ああ―。
ここは、竹林の中。
助けを呼ぼうにも、誰も来ない――。
追い詰められれた―。
- 299 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:06:58.33 ID:hWYwm.1U0
- 月の民の男「さあ―
おとなしく、諦めろ」
月の民の男は迫ってくる。
月の民の男「…月の【姫】よ、いい加減に諦めろ」
その顔には、怒りが見てとれる。
距離が詰められる―。
ああ、もう―。
- 300 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/13 19:07:37.41 ID:hWYwm.1U0
- ああ、もう―。
その時、後ろから、声が聞こえる―。
それは、人間の男の声ー。
その男は、切った竹を入れた籠を背負っていた。
若くは見えない、初老の男―。
初老の男「何をしている?」
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