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ユリガミノカナタニ

1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
??「―――――――。」


―――声が聞こえる。



これは、わたしの一番古い記憶?


何も、見えない。


そこは、暗闇の中―。

601 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:22:01.509 ID:zqIj.cLI0
――――わたくしは、崖から堕ちたけれど、運よく――あるいは、運悪く――生きていました。
ボロボロの身体で這いずり、無意識のうちに風を操る力で奴らから逃げました。


―――そこから先は、よく覚えていません。


―――気が付くと、美しき竹林を見つけていました。
わたくしは、そこで朽ち果てることを選んだのです。


――もう、身体に力が入らないから。それに、満ちる月、望の月が照る夜だったから。
新月ではないけれど、来世への望みを願うにはちょうどいい満月だから。


602 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/03 22:22:55.648 ID:zqIj.cLI0
―――――けれど、その竹林が、わたくしがわたくしとして存在する門であることを、わたくしは知りませんでした―。




―――ともかく、満月の月光に照らされ、わたくしの目の前は暗転しました。

ああ、せめて、せめて―――。
誰にも知られることなく、美しい竹林の中へ還りたい――――。

そう願いながら、目を瞑りそこに崩れ落ちました。

603 名前:社長:2015/09/03 22:23:48.408 ID:zqIj.cLI0
そろそろあの子とかが出てくるらしい。

604 名前:きのこ軍:2015/09/04 18:23:20.574 ID:H0KIQCLE0
哀しい物語

605 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:12:29.528 ID:0mWZ2ZTQ0
漆黒の世界――闇の世界―――。

――そこに一筋の光。




―――どういうわけか、目が覚めました。

わたくしは、ぼろぼろでぐちゃぐちゃの身体を手当てされ、ある住処に横たわっていたのです。


―そして、傍らにはひとりの男性が座っていました。
その男性は、若くはなく、老人でもなく―初老の雰囲気を漂わせた人で、傍らに赤ん坊を抱えていました。

606 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:15:20.787 ID:0mWZ2ZTQ0

―――――そして、その人はわたくしの方へと向き、わたくしの安否を問いました。


男性「……大丈夫だろうか?
   ―――ひどい怪我で、竹林の前に倒れていたから、ここまで運んできたが……」


そして、傷の痛みがないことを実感しながら、その人の問いに頷きました。


―――けれど。

左手で顔や腕を触ろうとしたとき、気が付きました―――。


左指の中指の中程と、薬指と小指全てと、わたくしの右目がないことに。
それは、わたくしが奴らに、吹っ飛ばされた部位。



607 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:19:41.243 ID:0mWZ2ZTQ0
わたしが、そこを抑えていると、その人は続けて言いました。

男性「一応は、君の身体は治っている……
   しかし、指と目と―身体に残った傷痕は、治し切ることはできなかった……

   もっとも―――君を治したのは、私ではない……
   君を責める―そういう意図ではないが、これから話すことはそれに近いことかもしれない

   だが、私は君を責めるためではなく―ただ、事実を受け取ってほしいために話す
   ―――命を引き換えにして、君を治したものがいるのだ」



ヤミ「………そのひとは、いったい?」
――そう答えたけれど、わたくしはうっすらと分かっていました。

赤子を抱いたのに、其処に居るべきであろう人がいないから。

608 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:20:05.608 ID:0mWZ2ZTQ0
男性「―――私の、……妻だ」

ヤミ「………やはり
   ひょっとして、その赤ちゃんを産んだ身体で……」


男性「―ああ、その通り
   しかし、妻も私も、君を助けることに迷いはなかった
   だが…君の命を救えるのは、妻しかいなかった

   ………つまりは、そういうことになる
   しかし、私は後悔はない
   もちろん、妻にだって………」

609 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:21:11.763 ID:0mWZ2ZTQ0
ヤミ「……その、わたくしは、人ではないの…ですけど…」
―そう言われても、わたくしは妖しき怪異なるもの。
そんな存在が、人より長く生きる天の狗が、人に助けられていいのだろうか、そう思ったのです。



男性「例え人に非ざるものであろうと、私は命を救うよ
   例えそれが自分にとって不利益でも、そうせねば心に後味の良くないものを残すから…
   ―――そもそも、私の妻もそうだったのだから、君を見て助けない躊躇などなかった」


ヤミ「え………?」

―――その言葉に少し疑問を持ちましたが、それは直ぐ掻き消えました。

610 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:21:37.514 ID:0mWZ2ZTQ0
赤子が、泣いたから―――。


男性「おっと―――積もる話もあるだろうが、それは一先ず、後だな……」


ヤミ「そうだ、その赤ちゃん、お腹が―――
   っ、でも、どうすれば………?」

そう、それを満たすアテが無かったのです。
わたくしは子を持っていないし、其処に居るべき母親もいない――。

611 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:22:00.465 ID:0mWZ2ZTQ0
男性「……心苦しいが、協力してくれないだろうか?」
―――男性が、言葉通り心苦しそうに言いました。

ヤミ「……どのように?」

男性「君の血を、乳代わりにする
   ――血は魂魄を支える、特別な液体だ……

   性別が等しい君のほうが、赤子に取っても飲みやすいであろうからな……

   もっとも、嫌なら私がやるから構わぬが…」
男性は、あくまでわたしの意志にゆだねました。

612 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/05 00:22:21.439 ID:0mWZ2ZTQ0
ヤミ「…え、血を………?」
迷いが一瞬―――。


けれど、命を救った御礼を、そして何より、わたくしが繋がれたいのちを新たに繋ぐために。


ヤミ「分かりました、血をこの子に捧げます」


―はっきりとそう言ったのです。


613 名前:社長:2015/09/05 00:22:44.959 ID:0mWZ2ZTQ0
遂にあの子が…

614 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:18:30.125 ID:3FmzA6P20
男性「分かった…
   ―身体を治したところ、悪いが…」
そう言いながら、その人はわたしの人差し指にちく―と針を差し、血をぷくりと出させました。


男性「それを飲ませてやってほしい―――」
そう言って、抱いている赤子の口を、わたくしの人差し指に近づけた。




ヤミ「分かりました」

615 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:18:52.130 ID:3FmzA6P20
わたくしのいのちを、赤子に捧げる行為―――。
わたくしは、たったの十―――まだまだ子供だけれど、母親のように赤子を抱いていました。

そして、赤子は乳を吸うように、わたしの指をちゅくちゅくと吸って――。

血の量はほんの少しだけれど、それで赤子は泣き止みました。

616 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:19:26.035 ID:3FmzA6P20
ヤミ「これだけでいいのでしょうか?」

男性「…うむ、これぐらいで問題はない………」


そして、赤子の柔らかな笑顔を見ていると、わたくしは何故だかほっとしたのです。

ヤミ「ふふ―――可愛いですね」

617 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:19:40.873 ID:3FmzA6P20
その赤ちゃんは女の子―。

恐らく、とても美しい風貌の女の子に育つのだろう―そう思いました。
なぜなら、身体中から溢れる、その美しい雰囲気と、確かな顔立ちがあったから。


そして、その雰囲気にほっとしていると、わたくしの目の前がくらっとなり――。

618 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:20:25.866 ID:3FmzA6P20
男性「………おっと、大丈夫かな
   いろいろ話すことはあるが、それは明日にするか?」

ヤミ「そうですね……そうしてくれると助かります」

男性「では、ここで眠ってくれ…私は少し為すべきことがあるので出ていくが、気にしなくていい」


そう言って寝床を指し、赤ちゃんを置いて外へと出て行きました。

ヤミ「分かりました、おやすみなさい―――」

わたくしは、赤ちゃんと共に眠りの海へと落ちていったのです――――。


619 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:20:47.175 ID:3FmzA6P20
―――次の日。
わたくしは、積もる話をさまざまにしていきました。

わたくしの名はヤミ――天の狗であり、その里は妖殺しなるものに滅ぼされてひとりぼっちということを。

その男性の名は讃岐造――かつてはある村を治める存在だったそうだけれど、今はしがない竹取ということを。

亡くなった彼の妻は、なんと月に住まう王族だったそうです。
月に住まう人は、千代を越える時を生きる、人に非ざる、妖しき怪異のような存在――。
天の狗はたった二百年ほどしか生きられないことを考えれば、果てしなき神秘的存在でしょう。


詳しいことは計り知れないけれど、月はある事件で崩壊し、王族―姫君はこの星まで逃げて―。
逃げた先で、その姫君の命を偶然助けたことがきっかけで、二人は結ばれたそうです。

620 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:23:34.578 ID:3FmzA6P20
――そして、月日が流れて産まれたのがその子―――。
なぜなら、姫君が子を残すことを望んだから。


人は百の年を生きることすらままならぬ存在。
わたしを助けた、その人――父親の面影を忘れぬために、残した子なのです―――。


けれど、皮肉にも、わたくしの登場で姫君の願いは果たされなかった――――。

姫君が死んでしまい、夫が生き残ってしまったから――。

621 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:25:42.251 ID:3FmzA6P20
―――けれど前述したとおり、そこに後悔がないと言われ、わたくしは少し救われた気分でした。


――――――赤ちゃんは、鈴鶴と名付けられていました。

子供ができているとわかり、それが女の子だとわかった時にそう決めたそうです。



鈴―桜花に生けとし生きるものを結ぶ輝き―――。
鶴―永久の美しさ―――。


太陽と月が合わさった、神秘的な象徴にふさわしい、美しき名前を―――。

622 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:26:12.763 ID:3FmzA6P20
そして、鈴鶴さまは人の血もあるけれど、月の血の方が濃いようで長生きするそうです。
そして、月の民の、高貴な血を持って生き返ったというわたくしも同じと言われました。

そう、わたくしと鈴鶴さまは不老長寿の肉体を得たのです。

月に住まう、月の民は、15年で身体が成熟する―と姫君―鈴鶴さまのお母様は言ったそうです。


讃岐造と名乗った鈴鶴さまのお父様は、15年後、わたくしに鈴鶴さまを全て任せると言いました。
そして、その時になれば鈴鶴に月の民のことを話す――と。

623 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/06 00:27:05.426 ID:3FmzA6P20
そして月日は流れていきました。

鈴鶴さまはすくすく育ち、普通に御飯も食べられる――ようになったかけれど
乳離れ―――いいや、血離れはできませんでした。


けれど、わたくしはそれで構いませんでした。

日に日に鈴鶴さまに接していくたび、鈴鶴さまのことを愛おしく想うようになったからです。

624 名前:社長:2015/09/06 00:27:50.980 ID:3FmzA6P20
ヤミと鈴鶴さまは10さい差。

625 名前:きのこ軍:2015/09/07 00:35:23.727 ID:wh2Sobtso
スピンオフいいぞ

626 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/07 00:37:54.361 ID:swZFropA0
――そして、ある夜。


ヤミ「鈴鶴さま………
   
   鈴鶴さまの血を飲んでも、よろしいでしょうか?」
わたくしの血を飲み終えた鈴鶴様に、そう言いました。
恥ずかしい気持ちを、ぐうっと押さえつけながら、勇気を出して。


鈴鶴「……?」

わたくしの心臓の鼓動が高まり、息が少し荒くなるその様子を、
鈴鶴さまは首を傾げて、見つめていました。

627 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/07 00:39:16.546 ID:swZFropA0
鈴鶴「……ヤミ、血を飲むの?」
けれど、無垢な瞳で見つめながら、問を返す鈴鶴さま。
わたくしはただうなづいて、鈴鶴様の問いに応えました。

鈴鶴「…いつも、ヤミから美味しい血をもらってるから、いいよ」


ヤミ「…あ、ありがとう、ございます……鈴鶴、さま……」

鈴鶴さまの優しい声が、わたくしを包み込み、わたしの顔を桜色に染めました。
傷痕の残る、客観的に見て避けられるのも仕方がない顔だけれど、
鈴鶴さまはただやさしくそこを撫でてくれた感触は、忘れられません。

ふわふわで、ちいさな、白いお手手で―――。

628 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/07 00:41:27.994 ID:swZFropA0
ヤミ「……ん、っ、ぺろ、ぺろ……」
鈴鶴さまの首筋に唾液を濡らし、痛くないように指で其処を撫でて。

ヤミ「はむっ……ん、くっ……ちゅ……」
ゆっくりとゆっくりと歯を立てて、鈴鶴さまのいのちを舌で舐めとりました。


鈴鶴「ん…あ…っ……」
鈴鶴さまの顔が、紅く染まったのが、見て取れてわかりました。

恥ずかしそうな表情で見つめられたせいか、
わたくしの心はぐしゃぐしゃに、めちゃくちゃに昂って―――。


わたくしはつい、鈴鶴さまを押し倒してしまいました。

629 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/07 00:43:56.672 ID:swZFropA0
――鈴鶴さまだけが成長するのではなく、わたくしの身体と精神も育っていました。
そして、それは大人へ近づいていくということ。


鈴鶴「ヤミ……?」
鈴鶴さまは、何が何だかわかってない様子で、じいっとわたしの顔を見つめました。

ヤミ「鈴鶴さま、あ、…あっ…
   その、ごめんなさい…………
   うっかり、姿勢を崩してしまって――――」

――わたくしは、鈴鶴さまの頭をやさしくなでながら、
鈴鶴さまと一緒に眠りの海に沈んで、その場をごまかしました。

630 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/07 00:44:29.057 ID:swZFropA0
――――わたくしは―――本来なら、非難されるべきかもしれないし、そうかもしれないでしょう。
実の妹のような存在に、恋するということは―――。


けれども、鈴鶴さまを愛おしく想う気持ちは――家族愛のようなものではなく――
恋人のように――異性ではなく、同性―――

女の子だけれども、確かに恋する気持ち、そんなものでした。


来る日も来る日も、鈴鶴さまと血と血を吸い合って、互いの身体を満たしてゆきました。
――それは、それはとてもとても、背徳的ななにか―――――。

631 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/07 00:45:08.991 ID:swZFropA0
ヤミ「鈴鶴さま……今日も、吸い合いましょう?」
わたくしの手が、鈴鶴さまの身体を撫で―――。

鈴鶴「うん、……今日も、撫でてね?」
鈴鶴さまも、わたしのことを撫で、心と心を繋げあわせました。


それは―――赤い糸なのか、それとも別の糸なのか?
――それは分からないけれども、切れない切れない糸ではあるでしょう―――。


わたくしは、死んでしまっているけれど、魂だけは鈴鶴さまの中にある。
―――そう、その糸は切れぬ糸なのです。

632 名前:社長:2015/09/07 00:46:10.448 ID:swZFropA0
殺人事件てタイトルだけどとっくに終わってね?てツッコミはやめてね

633 名前:きのこ軍:2015/09/07 22:30:15.691 ID:wh2Sobtso
乙だぞ

634 名前:791:2015/09/07 23:32:15.996 ID:b3UstPkso
そもそも殺「人」なのかってつっこみは?

635 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/08 00:09:21.469 ID:/UgK5Vdg0
―――月日は流れて、鈴鶴さまの身体も、すくすくと育っていきました。
女の子らしい身体つきに育ち、みどりの黒髪はたっぷりと伸びて―――。


時には鈴鶴さまがお父様と太刀の修行をしているのを見て、
時にはわたくしが天の狗としてやっていた修行や、ちょっとした旅に出かけて―――。


ちょっとした旅の最中、鈴鶴さまを抱っこして、山の中を駆け巡ったのは、今でも忘れられません。


わたくしの、この天の狗の力を、たいせつな、大好きな人に認めてもらえることが―――。



できるならば、今一度したいぐらいに―――。

636 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/08 00:20:56.861 ID:/UgK5Vdg0
山の中で、鈴鶴さまと一緒に座り込んで、鈴鶴さまを膝の上に座らせて―――。

鈴鶴「ふふ、ヤミってすごい……
   速くて、速くて―――ねぇ、ぎゅうっとしていい?」

ちいさな鈴鶴さまの、やわらかですべすべのお手手に衣を掴まれ、わたくしの心は嬉しさに満ち溢れました。

ヤミ「…もっと、ぎゅうってしてもいいですよ?」

鈴鶴様の頬に、軽く口づけをしながら鈴鶴さまを抱きしめて、鈴鶴さまの髪を撫でて―――。


素晴らしい時間であり、永遠に離したくない時間―――。
そう思いながら、鈴鶴さまのやわらかな身体の感触を味わっていました。

637 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/08 00:21:34.174 ID:/UgK5Vdg0
―――時間が経てば経つにつれて、鈴鶴さまの美しい髪は姫君のごとく、さらにさらに伸びていきました。
伸びる伸びる髪の毛は、前が見えるようにだけして、伸びるに任せて。

初めは肩まで――それが背中を、腰を、そして足に伸びるほどに――――。
地面に付いて、汚れるといけないから最低限髪を結えど、その長さはとてもとても長くなりました。

髪を洗うだけで、時間がとても経つほど―――。

気が付けば、結いでおさげ髪にしたものは、上から見れば正七角形になるほどに――。

638 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/08 00:22:12.389 ID:/UgK5Vdg0
―――その長い長い髪の毛は、とてもとても綺麗で。

鈴鶴「―――あっ、ヤミ……
   あ…そんな、だめ、だよ…?」


ヤミ「ん…はぁ、……っ…ぺろ、…ちゅっ…」
頬ずりをし、時には舌で嘗めて―――。

鈴鶴「もう、ヤミ――」
そして、そんなわたくしの頭を、鈴鶴さまのふわふわのお手手が撫でてくれて―――。


―――ずうっと、幸せに暮らしていました。

639 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/08 00:23:16.647 ID:/UgK5Vdg0
けれど、鈴鶴さまが15歳になった、その日――。
わたくしの、天の狗として運命が変わって15年―――――。


お父様が真実を話した直後、わたくしの里を滅茶苦茶にした妖殺しはそこに来たのです。
そしてその妖殺しは、鈴鶴さまを狙う月の民が率いた集団だったのです―――。


―――お父様はわたくしに鈴鶴さまを――鈴鶴さまにわたくしを託し、
わたくしたちを逃してくれました。

640 名前:社長:2015/09/08 00:24:01.971 ID:/UgK5Vdg0
ヤミはおさない女の子に何かいけないことをしている気がする。

641 名前:きのこ軍:2015/09/09 19:01:36.132 ID:w5DefbeQo
本編へ。

642 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/12 23:43:19.041 ID:VESLkmlE0
わたくしの翼が空を舞いあがった―――。
わたくしの腕が、鈴鶴さまを抱いていた―――。


鈴鶴さまとわたくしは、お父様の対峙する光景から遠ざかり、
心を押し潰されそうな気持ちに包まれながら、奴らから逃げてゆきました。


しかし、道中、ずうっと逃げてきた疲れで、わたくしと鈴鶴さまは海の中へと落ちてしまいました。
――けれども、鈴鶴さまは離さぬ一心で、ぎゅうとその身体を抱いていたことを覚えています。


643 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/12 23:45:42.715 ID:VESLkmlE0
しばらくして、目が覚めました。

そう――――わたくしたちはシズさまとフチさまに出会いました。
ふたりにいのちを救われたのです。


そして、ふたりに月の民について、月で起きた出来事について教えてもらい、
ふたりの住処へと行って、ふたりと共にわたくしたちは、敵に対抗するために修行を行うことになりました。
海に沈んだ月の神剣を引き上げるために、鈴鶴さまが狙われているから―――。

644 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/12 23:45:55.988 ID:VESLkmlE0
苦しいけれど、鈴鶴さまと一緒なら乗り越えられた―――。
それに、わたくしにとって妖殺しは天の狗の仇です。

その復讐のためなら、いくらだって頑張れました―――。

フチ「ほら、精神がまだまだ乱れてるわよ
   もう少し、風と心を同化させなさいっ」

とくに、フチさまに、天の狗の得意とする、風の術を鍛えてもらったことが、一番印象に残っています。

本来なら仲間に教えてもらうそのコツを、親のように教えてくれたから――。

厳しい修行の中で、精神力を用いて発動させる術を、徹底的に伸ばされました。

645 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/12 23:46:18.072 ID:VESLkmlE0
――――月日は経ち、いつしか鈴鶴さまのことをシズさまやフチさまも愛するようになり。

鈴鶴さまとわたくしは、何とか奴らに対抗するための武力を得ることが出来ました。

風の術だけではなく、格闘術も。
わたくしの左手は、あまり使い物にならないので、それを補える技術を。

それは空を飛ぶ技術であり、相手に反撃する技術であり、接近戦を可能とする技術であり。




そして、わたくしの里を襲った存在でもある妖殺しへの復讐を果たし、月の神剣を封じ込めました―――。
何はともあれ、もう、忌まわしき因縁からは逃れられ、鈴鶴さま、シズさま、フチさまと共に日々を過ごしました。

646 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/12 23:46:54.164 ID:VESLkmlE0
けれども―――。


けれども、それから千代を越えたある時―――。

――月の神剣を狙った、その残党が、月の神剣を引っ張り上げたのです。
黄泉返したかは分からないけれど、鈴鶴さまのお父様を使い、そしてそのお父様をも斬り殺して―――。
残党たちは、月の神剣を得、彼らが成し遂げられなかったことを再び成そうとしていました。


そして、わたくしたちはそれに立ち向かったけれど――――
――――わたくしたちの命は途絶えました。

そう、黄泉剣に喰われたのです。
―――この剣は、月の民だけを喰らう―――そういう神剣―――なぜ、喰われたのか?
それは、わたしはもらい物ではあるけれど、その、月の民の血は身体に流れていたから――。

――切り裂かれる痛みは一瞬。喰われる痛みがないのが、ほんの温情でしょうか。
わたしの魂魄はぐちゃぐちゃに、剣の中に溶け込みました。

647 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/12 23:47:55.882 ID:VESLkmlE0
そして絶望しきった鈴鶴さまは、邪神――百合神へと堕ち、

暴走した後、闇の彼方へと封じられました。




二度と、光ある場所へ出られないように。

648 名前:社長:2015/09/12 23:48:37.541 ID:VESLkmlE0
まだ続くよ!
なんというキングクリムゾン展開なのか。

649 名前:きのこ軍:2015/09/13 00:37:15.612 ID:YOQPPN8go
悲しい。

650 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:26:50.122 ID:OJI9s7rs0
――――けれど、再び顕現してしまった。

何故かは分からないけれど、恐らくは何か意味がある事なのでしょう。


運命が、鈴鶴さまの復活を選んだことには。

651 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:27:16.303 ID:OJI9s7rs0
鈴鶴さまの身体には、月の神剣が宿っています。


そしてその中には、様々な喰らった者の力が宿っています。
それはわたくしの、天の狗としての力も――シズさま、フチさまの力も―――

あるいは、名も知らぬ誰かの力も―――。

652 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:42:50.239 ID:OJI9s7rs0
そして、鈴鶴さまは嘗て百合神(ユリガミ)という邪神と呼ばれたことを省みて―――
百合神(ツクヨミ)という、善の存在になろうとしていました。


フチさまの持っていた、式神をつくる力を用いて、神に仕えるような姿かたちの少女の式神を生み出し――

そして、その少女の式神を使い、迷える者の迷いを聞くことを―――。

―――その場所は神社。
最も、そこはこの世のどこにもない、闇の中、悩みを持つ者しか入れない結界の中にあります――。

653 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:47:24.868 ID:OJI9s7rs0
今宵も、悩みを聞くために、ひとりの男性が其処へ来ました―――。

さて。
鈴鶴さまが聞く悩みは、ひとつは恋愛相談―――。
適当なお賽銭を託し、そして恋の悩みを聞き、その解決法を考えてくれます。


そしてもうひとつ―――。


その男性は、札束を詰めたカバンを、賽銭代として、その場に置きました。

654 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:48:43.330 ID:OJI9s7rs0
式神「―――用件をどうぞ」
そのカバンの中の金を見て、偽物の金でないことを確認した式神は、願いが何であるを聞きました。
鈴鶴さまは、影でその様子を見ています。


男「うむ………
  ――御坊天山に住む、天狗の里を、滅ぼしてほしい!
  と言っても、天狗という存在から話した方がいいか?」

655 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:48:59.165 ID:OJI9s7rs0
式神「………いえ
   それで、なぜその願いを……?」

男「あ、ああ…
  私の、娘が……こいつ等に食い物にされたのだっ
  まだ10歳!10歳なのにッ!
  そして最期は無残な姿で見つかった……恐らくは、飽きて殺したのだと思われる

  ともかく、こんなのは酷いと思わないかっ!

  天狗という人にははかり知れない存在は、同じ神に頼むに尽きる!
  復讐だ!奴らを殺してくれっ!」

656 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:49:11.514 ID:OJI9s7rs0
式神「分かったわ、引き受けましょう
   だが、それが嘘だったなら…………」


男「う、嘘なんてついていない!」


式神「…………」


男「ともかく、宜しく頼むぞ……!」

―――男が立ち去るのを物陰で見届けた鈴鶴さまは、式神を空へ還し、神社の外へと出ていきました。

657 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:50:04.668 ID:OJI9s7rs0

そう、鈴鶴さまは、時折殺し屋としての願いを聞き入れるのです。


専ら誰かの復讐を―――。特に、誰かの操を奪いしものを―――。

658 名前:社長:2015/09/13 14:50:26.921 ID:OJI9s7rs0
百合神伝説の件もこのパターンらしい

659 名前:名無しのきのたけ兵士:2015/09/13 20:15:56.401 ID:RwNPcQxY0
人の願いを叶えていたのか。

660 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:55:39.635 ID:sigWRjo20
―――御坊天山。



鈴鶴「………」
鈴鶴さまは、白い絹を着た、黒髪の幼子の式神を――鈴鶴さまの髪の毛をヨリシロに生み出しました。

661 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:55:54.535 ID:sigWRjo20
鈴鶴さまは不老不死の存在―――。
切った髪の毛は、容易くくっ付き、元に戻すことができます。


けれどあえて、切ったまま式神のヨリシロにして、御坊天山の周りに式神を歩かせました。

662 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:56:52.998 ID:sigWRjo20
一日、二日、三日―――そうして、件の天狗は現れました。


天狗1「……………」
わたくしと同じような、羽の生えたからだを持つその存在。
その目は、汚らしくギラついていました。

式神「………?」
式神は首を傾げ、その様子をただじいっと見るだけ。


鈴鶴さまは、その様子を木陰からただじいっと見ています。

663 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:59:49.264 ID:sigWRjo20
天狗1「……ふふふ
    その白い肌…その幼いながら美しい顔…

    ぜひとも、子を孕ませたい、な………」

天狗は、式神へと襲いかかりました。
そして、乱暴にその白い絹を掴み、剥がそうとして―――。


鈴鶴・式神「魔女の囁き――――」


その式神の操を護る為、
鈴鶴様の操を護る守護霊【魔女の囁き】がその天狗を吹っ飛ばしました。

664 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 22:01:56.251 ID:sigWRjo20
天狗1「ぐぼぉッ?!」

鈴鶴さまを護る存在が、どうして式神をも護ったのでしょうか?
――それは、鈴鶴さまの髪の毛をヨリシロにした式神だから。

鈴鶴さまの魂魄を護る式神は、鈴鶴さまの髪の毛一本だろうと護るから――。

たとえちぎれた髪の毛でも、指でも、首でも、離れた魂でも、鈴鶴さまを護るから―――。


だからこそ、鈴鶴さまはこうして式神を囮に、標的を燻し出したのです。

665 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 22:03:05.687 ID:sigWRjo20
鈴鶴「………」
鈴鶴さまは、のびているその天狗の首をへし折り、そして引きずりながら山中を歩いていきました。


髪をヨリシロに呼び出した式神の少女を、複数連れて。

666 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 22:05:53.498 ID:sigWRjo20
道中、式神を捕まえようとした天狗がいたけれど、
【魔女の囁き】の力を利用し、返り討ちにしてゆきました。



鈴鶴(………どうやら、ここが里のようね)


そして、滅ぼせ、と願われた天狗の里へとたどり着きました。
鈴鶴さまは、死体を適当なところに固めて捨てて、式神を里へと入れました。

667 名前:社長:2015/09/14 22:09:49.500 ID:sigWRjo20
魔女の囁きは「百合神のすべて」を護るのだ…………
百合神であればどこでもいい。全ての男を吹き飛ばす!

百合神の「魔女の囁き」が完璧なのはそこなのだ!
身体を切れ離そうとも、男から操を護る!
細胞ひとつだろうと、止められる!

668 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:01:49.674 ID:rVt0U98k0
天狗2「しかし、奴ら帰ってくるのが遅……
   ん?なんだ、この女たちは……」

天狗3「迷子か?どちらにせよ、エサが大量に迷い込んできたようだな…
   ――――ふふふ、孕ませるか?」
―――天狗たちは、汚らしい、ドロドロした考えを持ってして
式神たちを迎え入れる態度を取りました。


鈴鶴「………」
鈴鶴さまは、式神と視覚を共有させ、その様子を見て―――。

鈴鶴(………鏖、ね)
―――その里の天狗を、鏖にすることを決めました。

皮肉なことに、愛する人、鈴鶴が―――
かつて妖殺しがやったように、天狗の住まう、その里を滅ぼすことを決めたのです。


けれども、そこに嫌悪感はありません。
このような集団をわたくしだって、シズさまだって、フチさまだって見過ごすことはしないでしょうから。

669 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:03:26.951 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「……………」
鈴鶴さまは式神を、元の鈴鶴さまの髪の毛へと戻し―――。


そして、引きずってきた死体を里の中へと放り込みました。

670 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:05:02.607 ID:rVt0U98k0
天狗2「な、なんだ!?消えたぞ……」

天狗3「お、オイ!あいつらの、死体じゃねえのか?」


そして、天狗たちがざわめいている、その中に―――。



鈴鶴さまは、堂々と、胸を張って、其処へ現れました。

671 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:15:48.934 ID:rVt0U98k0
中にいた、十数人の天狗の男たちは鈴鶴さまを見て、大層驚いていました。


天狗3「ぐ、お前らこの女を捕えるぞォッ!
    このような、カスみたいなアマを孕ませるぞォッ!」

そして一人の声で天狗の男たちは鈴鶴さまを捕えようと、鳥のように飛びかかりました。
けれど、鈴鶴さまは、その程度の力に負けるほどやわな子じゃありません。


その天狗たちの動きは、あくまで普通の人間を相手にするもの。

対する鈴鶴さまは、さまざまな鍛錬をした、普通ではないものを持っているから。

672 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:18:33.939 ID:rVt0U98k0

鈴鶴さまは、左腕に眠りし月の神剣の力を引き出しました。
鈴鶴さまの右目が、漆黒と青白へと変じました。

―――そして、月の神剣に眠っているわたくしの、天の狗の力を身体に纏わらせたのです。


鈴鶴「はっ!」
そして、飛び掛かる天狗よりも高く高く跳び、
それと同時に着地点にいた天狗に、風圧をこめたひと蹴りを加えました。


―地面にめり込みながら、そいつの首をへし折り、それと同時にまた別の天狗へと真空の刃を飛ばしていきました。

673 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:20:00.662 ID:rVt0U98k0
鈴鶴さまに翼はないから、ずうっと空を舞うことはできないけれど、
それでも天の狗の力は、人より高く跳ぶことはできます。


その力を使って、ハヤブサの如き素早さで、天狗たちをなぎ倒していきました。

674 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:25:03.347 ID:rVt0U98k0
天狗4「ひ、ひえ」
天狗5「う、う、うわあああッ!!!
   逃げるぞ!!!」

けれど、残ったひとりふたりは、その場から逃げようとしました。


鈴鶴「―――真空刃」
最も、鈴鶴さまは冷静に、天の狗の奥義である、その技で対処しました。
風を刃の如き、カミソリの如き鋭さにし、そしてそれを一直線に飛ばす、その技で。


辺りには、天狗の死体が十数人、首の折れた者や、刃で切り裂かれた者が転がっているのを、
鈴鶴さまはただじいっと眺めながら、その里にあった建物の中を探っていきました。


675 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:25:56.171 ID:rVt0U98k0
ひとつ、ひとつ。
生活空間らしい場所、倉庫らしい場所、そして―――。
奴らの、おぞましい性的欲望で塗り潰されていた場所―――。


そこには、数人の天狗の少女が――、奴らの性欲の捌け口になっていたであろう少女が居ました。
吐き気のする異臭、そして腹を膨らませた少女、赤子に乳をやっている少女が。


奴らが生きていた時は、生き地獄であったことが、容易に読み取れます。

676 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:26:28.300 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「…………」
鈴鶴さまは、その様子をただじいっと、けれど心を重くしながら見ていました。



少女1「あの………」
ひとりの少女が、鈴鶴さまへと声をかけました。

677 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:26:42.385 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「…………」


少女1「奴らが入ってこないのに、女性のあなたが入ってこれるていうことは
    …その、奴らを殺したのでしょうか?」

678 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:27:33.736 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「ええ………」

少女1「ならば、そのあなたにお願いがあります」

鈴鶴「―――用件は、なにかしら……」

少女1「その、わたしたちのことを、殺してくれませんか?」
少女が、涙を流しながらそう言いました。

679 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:29:04.360 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「………!」
鈴鶴さまの身体がぴくりと、その言葉に反応しました。


少女2「わたしたちは、あいつらのものとして、とてもとてもひどいことを…
    無理矢理女性たちを孕ませ、そして産まれた男はその仲間に、女は酷い扱いを―――」
それに続き、もうひとりのことば。

少女1「……あいつらが殺されたのは分かっています
    ――もう、この地獄から解放されたのだと


    でも、わたしたちは、もう、死んでしまいたいのです」
涙を流しながら悲痛な願いを話すのを、鈴鶴さまは、聞いていました。

その心情は果てしなく、怒り、空しさ、悲しさを交えたそれで――。

680 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:29:31.546 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「………分かったわ」
そして鈴鶴さまは、その願いを聞き入れました。


少女1「この里は、何事も無かったかのように、燃やしてくれませんか?
    こんな地獄のような里は、もうなかったことにしてほしいのです」

681 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:31:17.175 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「それも、引き受けるわ…
   …ほかに願うことは、ないかしら?」

少女3「あなたは、天狗の里をほかに知っていますか?」
心配そうに、赤子を抱く少女が言いました。

鈴鶴「ええ……信頼の置けるのを、知っているわ…」

少女3「ならば、ここにいる赤ん坊を、その里に……
   この子たちは、何の罪もない、何の被害もない子だから…」

鈴鶴「分かったわ、引き受けましょう」


少女3「ありがとう、ありがとう…」

682 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:32:28.781 ID:rVt0U98k0
鈴鶴さまは、赤ん坊を、ヒトゴロシのその場面を見せないようにしてから、
太刀の刃を、その鞘から―――。


天狗を倒すのには、一切使わなかったその刃を、鞘から抜きました。

683 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:35:38.396 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「貴女達を―
   痛みないように、一思いに―――」

少女1「お願いします………」


鈴鶴「月影黄泉流―――」


   ――――――姫百合」

鈴鶴さまの、最高級の剣術の、もっとも高みにあるその技は―――。


少女たちの首を、痛みすら気が付かない一瞬で落としました。


鈴鶴「………」

そして鈴鶴さまは、少し涙をこぼしながら、その地獄の部屋を後にしました。

684 名前:社長:2015/09/19 19:36:39.952 ID:rVt0U98k0
もうちょっと続くらしい。

685 名前:きのこ軍:2015/09/19 23:17:40.561 ID:QMaqHLcAo
儚くも美しい

686 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:45:00.589 ID:u5v1RfJ.0
そして、赤子を抱きながら、別の天狗の里へと向かいました。
鈴鶴さまが再び顕現し、様々なところを彷徨っていた時に見つけたそこへ。


天狗の長「…おお、鈴鶴か!
     また会うとは…何のようだ?」


鈴鶴「この子たちを、引き取ってもらいたいの…」
赤子たちを見せながら、長へと話しかけました。

687 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:45:46.091 ID:u5v1RfJ.0
天狗の長「む…?どういうことだ?」

鈴鶴「別の天狗の里で、無理やり子を孕まされてた末に産まれた子なの…
   女性を攫い、無理やり孕まさせていた里で産まれた、子…」


天狗の長「な、何ぃ!?
     そんな、下種なところがあったのか…」
深刻そうな表情をしながら、その赤子を見つめる長を、鈴鶴さまはじっと見ていました。


天狗の長「分かった、引き取ろう
     …産まれた子には罪はないかからな」
天狗の長は、そう言うと配下の天狗を呼び、そして赤子を引き取らせました。

688 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:48:00.090 ID:u5v1RfJ.0
天狗の長「………そんな里は、わしたちで滅ぼしたい…と思うが
     鈴鶴がわざわざ持ってきた、ってことはもう滅ぼした後だろうな」
天狗の長は、鈴鶴さまがどういう人なのかを分かっているため、そう納得しました。



鈴鶴「………」
その様子を、鈴鶴さまはただじいっと見ているだけ、
鈴鶴さまは、一緒に暮らす人以外とは、あんまり多く喋らないために。

けれど、わたしたちと暮らしていたあの頃より、口数は少なくなっています。
それはわたしたちが死んだ悲しみか、再び顕現したあとに見た様々な出来事に依るものか。


天狗の長「この子たちはよき天狗になるように育てる
     鈴鶴、もう行くのか?」

鈴鶴「ええ…やることがあるから…
   頼まれ事の、最後の一つを………」

689 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:50:50.403 ID:u5v1RfJ.0
天狗の長「うむ……
   あ、だが………一つ気になることを聞いたので伝えたいのだが」

鈴鶴「……なあに?」


天狗の長「いや、な……天狗の羽というものが、密かに闇の商店で並んでいると聞いたのだ」


鈴鶴「ふうむ、闇取引……」


天狗「だが、ま……当分は関係のないことかもしれん
   達者でな…」


鈴鶴「ええ………」
鈴鶴さまは、その声に会釈し、その場を去っていきました。


690 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:51:23.352 ID:u5v1RfJ.0
そして、件の、御坊天山の天狗の里へと戻り、死体転がるその場所を見回していました。

鈴鶴さまに託された、この里を消し去ることを。
わざわざ先にやらなかったのは、赤子を届けることを優先したから。
燃やしてから去らなかったのは、適当に火をかけて、辺りの木々に燃え移らないようにするため。


鈴鶴「……!」
鈴鶴さまは、何かの気配を察し、木陰へと隠れました。

691 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:52:54.041 ID:u5v1RfJ.0
…そこには、鈴鶴さまに願いを託した男が、部下のような男たちを引き連れてそこにいました。

男「…さすがは百合神だ…私の娘の仇をとってくれている!」

部下1「やりましたね……」

男「……よし、恨みを果たしたうえ…そしてついでに、この天狗のモノを頂けるのだ
  この文化品をまた、いつものように店に流すぞ…」

部下2「そうですな…」



鈴鶴「…………あぁ、世の中というのはなんて狭いものなのかしら」

―――その話を聞いた鈴鶴さまは、其処へ姿を現しました。

ゆっくりと、ゆっくりと―――。

凍てつくように、幽霊のように、おどろおどろしく言葉を発しながら。

692 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:57:08.829 ID:u5v1RfJ.0
男「!
  だ、誰だ……?」


鈴鶴「どこぞで、天狗の羽などを裏取引している団体があるという…………」
その問いには答えず、淡々とただ鈴鶴さまは語りました。


男「ま、まさか、百合神……」

鈴鶴「―――娘の復讐と、密売には何の接点もない……」

男「ま、待ってくれ!
  違う、それ混みでの恨みを…」


鈴鶴「此処以外にも、しているじゃない…?
   それも娘の復讐?いいや、違うわよね?
   
   あなたは、娘の復讐はこの御坊天山に限定している……」
鈴鶴さまはじりじりと、氷のような冷たい瞳で男たちへと近寄りました。

693 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:57:49.659 ID:u5v1RfJ.0
鈴鶴「月影黄泉流――――

   姫百合」


そして、その場にいた男たち、いともたやすく、あっさりと切り飛ばしました。

694 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:58:37.089 ID:u5v1RfJ.0
そして、その死体の山ある天狗の里に、鈴鶴さまは火をかけました。
燃える死体、燃える悪しき文化――。


そして、その里はただの燃えカスだけが残る、山の中の開けた空き地へとなりました―――。


鈴鶴「せめて、あの世で幸せに―――」
鈴鶴さまは、少女たちの死体へ祈りを捧げ、丁重に葬ってその場を立ち去っていました。


―――鈴鶴さまの背中は、とてもとても寂しそうでした。

わたくしが抱きしめてあげたいほどに。

いいや、シズさまも、フチさまも………。

695 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:58:51.603 ID:u5v1RfJ.0
天狗ヶ里殺人事件 完

696 名前:社長:2015/09/22 01:59:18.850 ID:u5v1RfJ.0
次回!は誰の話だろうね。

697 名前:791:2015/09/22 03:35:05.466 ID:XLf7kfJko
更新お疲れさま!
ちょっと寂しい話だったね
次は誰かな

698 名前:きのこ軍:2015/09/22 20:12:45.706 ID:KvPWvgEso
百合神さまは縛られ続ける。

699 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:57:16.305 ID:Xq8Lt4m.0
かぁん、かぁんと金属を叩く音が聞こえる。

――顔に汗を浮かべながら、少女は焼けた鉄を叩いている。


宙は永遠の暗黒、星々輝く暗黒に囲まれたその鍛冶場で、少女は武器を作っている。
在り合わせの素材を用いて、性能の良い武器を。

700 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:57:33.954 ID:Xq8Lt4m.0
宙は永遠の暗黒、星々輝く暗黒に囲まれたその鍛冶場で、少女は武器を作っている。
在り合わせの素材を用いて、性能の良い武器を。


少女の名は鈴鶴(すずる)。

静かに、何も言葉を発さず、鍛冶作業をしている。
刀を、銃を、斧を―――さまざまな武器を。


鈴鶴「………」
そして鈴鶴は、出来上がった武器の仕上がりを見て、気に入らないものを片付け、外へと出て行った。


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