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ユリガミノカナタニ

1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
??「―――――――。」


―――声が聞こえる。



これは、わたしの一番古い記憶?


何も、見えない。


そこは、暗闇の中―。

101 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 01:01:23.81 ID:nkbrFedE0
ヤミ「そういえば、わたくしたちを守るのは、【姫】君のお願いのためだけ、ですか?」


その言葉に、シズとフチはぴくと身体が反応し。


シズ「――正確には、もう一つ理由がある

   …黄泉剣を、封印しなくてはならない」


ヤミ「…王族が、封印したから、そのためですね?」
ヤミが問う。

そして、その問いに答えが返る。
フチ「そういうことね
   けれど、こっちの用件はついでに―近いわね
   剣をどうにかするためには、海の底へ剣を引き揚げないといけないから」

ヤミ「―黄泉剣は、大丈夫なのでしょうか?」

フチ「流石の【月の民】も、海の底に消えた黄泉剣は引き揚げられないし、ね
   ―王族の、女神の血を引く者になら、できるのだけれど、ね」

鈴鶴「―わたし?」

フチ「そう
   だけれど、今のあなたを連れてもただ狙われるだけだから」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

102 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 01:07:02.12 ID:nkbrFedE0
いつしか、話の種も切れて。


フチ「そろそろ、休もうかしら?
   すぐに出発して、あの島へ向かいたいし」
フチが、そう言って寝床に向かう。

ヤミ「そうですね」
ヤミも、その言葉に続いて、寝床に入って。

シズ「では、眠ろう…」

鈴鶴「では、おやすみなさい」



再び、仮眠を取って、眠りの渦の中へ。



――――今日見た夢は、何も特別なことのない夢で。




――わたしは、目覚めた。

103 名前:【第二章 中断】:2014/11/02 01:07:35.34 ID:nkbrFedE0
今日はここまで

104 名前:きのこ軍:2014/11/02 01:17:22.44 ID:JxX0TvSwo
乙乙
鈴鶴さんが持っている剣は黄泉剣ではないんだよね?

105 名前:【第二章 中断】:2014/11/02 01:25:20.44 ID:nkbrFedE0
黄泉剣は海の底の底に沈んでる。


鈴鶴さんの持ってる太刀は、
シズが【姫】に贈った太刀(=鈴鶴にとって母親の形見)。

106 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:01:44.39 ID:rYUXWeXc0
シズ「さて、行こうか」

鈴鶴「そうね」


わたしたちは、支度を整え、敵に見つからぬように気をつけながら、島へと向かった。

107 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:02:36.39 ID:rYUXWeXc0
数日かかる、旅だった。


てくてくてくてく、わたしたちは歩く。


敵に―妖殺しの存在も考慮しながら、わたしたちは歩く。


途中、野宿で休みながらも、その島目指して歩く。

108 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:06:43.36 ID:rYUXWeXc0
野宿の間も、会話をする。
ぱちぱち燃える焚き火の周りで、話をする。


鈴鶴「―そういえば、わたしたちのいた住処はどうなったの…?」
ふと、思いついたことを訊ねてみる。


シズ「…………
   ……わたしたちがたどり着いたときには、燃え盛る火炎が――」
―そして、その答えは、悲しき答え。

109 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:13:02.25 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴「そう、なのか…」
――その答えに、私は少し落ち込む。
ああ、恐らくわたしの父は――。

シズ「…確か、カショは火鼠とか名乗っていたはずだ…
   実際に、火を操ることもできたらしい…」
そう、シズが思い出したように言う。

ヤミ「火炎……わたくしのときも、住処が燃えていました…
   妖殺しとして、焼き尽くすことは……都合が良いのでしょうね」
ヤミも、ああと思い出すように。

フチ「……そうか、ヤミは――」

ああ、そうだ―。
ヤミが妖殺しに襲われたとき、そこで、何があったのかを知っている―。

ヤミ「…これで、二回目ですね…
   これはもう、運命なのでしょうね
   立ち向かわないといけない、という……」

ヤミは、すこし悲しそうに。
けれど、強い意思をこめた言葉で、言う。


会話は続く。

110 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:14:08.87 ID:rYUXWeXc0
ヤミ「そういえば、シズ様や、フチ様は…
   なにか、能力…というのでしょうか?そのようなものを、持っているのですか?」


ふと、ヤミが訊いた。

111 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:15:45.19 ID:rYUXWeXc0
シズ「……わたしは、別段そんなことは出来ないな
   ――まぁ、特技といえばこの太刀などを振るう、こと……かな
   そういうことなら、フチのほうが…」
飾りげのない太刀を持ちながら、シズはフチに目をやる。


フチ「あたしは、火水風土を触媒として式神として呼び出すことが出来る―
   簡単に言ったら、火や水や風や土から兵士を作り出す―というところね」
話を振られたフチは、すらすら淀みなく、はっきりと答えた。

112 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:18:35.53 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴「どういう、感じに?」
わたしは、少しわくわくして、お願いする。


その答えとしてフチは、得意げな顔でわたしとヤミを見て。
フチ「いいわよっ
   ん〜っ!!」

手に持つ小刀に念を送り、焚き火の火から式神を呼び出した。


それは鬼のような、亜人の見た目で―。


向こうの景色が少し見える、水のような質感の式神がそこにいた。

113 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:21:21.18 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴「わぁ…」
わたしは、それに感嘆した。
これほどのものを、簡単に呼び出せるなんて、すごい―。

そしてその感情は、わたしだけではなく、ヤミにもあって。

ヤミ「この式神は、どんな力を持っているのですか?」
ヤミは、興味深そうに訊いた。

114 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:22:09.54 ID:rYUXWeXc0
フチ「ん〜…」
フチは、少し悩んでいたが、それもほんの少しの時間で―。


フチ「そこの岩を、砕けるぐらいかなあ?」
フチは、フチの背ほどの―四尺ほどの大きさの岩を指差した。


フチ「さ、壊してみせて」
式神に、命ずる。


式神は、無言でその岩に拳を振り下ろし―。

ぐしゃ。
砂の塊を蹴散らすがごとく、岩を粉々に砕いた。

115 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:24:11.17 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴「…すごい」


フチ「まぁ他にも、味方を運んだり―補助が出来るわね
   ―さ、戻りなさい、お疲れ様」

フチが指をぱちんと鳴らすと、式神は焚き火へ歩み寄り、元通りの火へと戻った。



ヤミ「…こんなことができるとは、すごいですね」
ヤミは、丁寧ながらも、目を輝かせながらその様子を見ていた。


フチ「まぁ、わたしは、身体が小さいからね」
だからこそ、これほどまでの力をつけたのだ、と言った。

116 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:25:13.42 ID:rYUXWeXc0
――こうして夜は更ける。


私たちは、歩き、歩き―。


島の近くにたどり着いてからは、海を渡って―。


といっても、船ではなく、空を飛んで渡った。

わたしは、ときどきそうされていたように、ヤミに抱きかかえられて飛んでゆき、シズとフチは月の民が使えるという飛ぶ力で渡った。

117 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:26:54.75 ID:rYUXWeXc0
―わたしたちは、無事、島に辿り着いた。


そこからまた、山の中をてくてく歩いて―。
シズとフチの住処に、たどり着く。



わたしたちは、住処の中で腰を下ろした。

いつもやらないことをすると、疲れは溜まるもので…。

鈴鶴「…つかれた」


ヤミ「鈴鶴様、お疲れ様です」

わたしとヤミは、へとへとだった。
特にヤミは、わたしを抱えて飛んだのだ。けれど、疲れは顔に出さず。

わたしは、ヤミのようにならないと、と拳をぐっと握った。

118 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:27:52.27 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴「……シズとフチは、疲れていないの?」

シズ「わたしは、慣れているから…」

フチ「あたしも
   あなたたちのところに、15年も様子を見に行ってたしね」

けれど、シズとヤミは、わたしたちとは対称的に、元気に話していた。


やはり、15年わたしとヤミを見守っていただけある―。


119 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:30:11.57 ID:rYUXWeXc0
その元気そうなシズは、布団を引っ張り出した。

シズ「さて、休もうか
   ここなら、もう少し気持ちよく寝られるだろう」

―けれど。


ここまで来るときは、身体を禊ぐ機会が少なかったので、さすがに禊ぎをしたい。

鈴鶴「禊いでからで、いい?」


わたしの問いに、シズはああそうだと思い出したように。


シズ「そうだ…な、禊ぎは大切だ…
   …この住処には…湯がある―温泉とわたしたちは呼んでいるが、それが裏手に引いてある
   ……心地よいはずだろう」

鈴鶴「あたたかいみそぎ…」
とても魅力的な言葉に、わたしはぽけーっとしてしまう。

120 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:32:39.82 ID:rYUXWeXc0
ヤミ「鈴鶴様、楽しみですか?」
ヤミが、そんなわたしの顔を嬉しそうに見ながら、そう訊く。


鈴鶴「う、う、うん!そう!」
突然の質問に驚いて、動揺しながら肯定した。


けれど、それは第三者から見ると、とても不自然に見えるものなのか―。

フチ「…あらあら、そんなに楽しみなのね」
フチは、子供を微笑ましく見るような表情で、わたしを見つめた。


鈴鶴「あ……」

恥ずかしい。


かぁっと顔が赤く染まる。


そして、そんなわたしに、ヤミはにこっと笑って。

ヤミ「ふふっ、鈴鶴様、行きましょう」

ヤミが、わたしの頭を撫でて、ぎゅっと手を繋いで歩き出す。


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121 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:35:01.34 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴「ああ、あたたかい…」


あたたかい水は、わたしたちの疲れを取ってゆく。


ああ、とても気持ちいい――。


そう、ぽけーっとしていると。



フチ「鈴鶴って、胸大きいわね
   【姫】様の血は、こんなところまで継いでたのね…」



突然、こんなことを言われた。

122 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:36:37.64 ID:rYUXWeXc0
わたしの顔は、またかぁーっと熱くなる。

鈴鶴「え、ちょ、ちょっと…」


その様子を見て、ヤミは慌ててわたしの胸をむにと掴んだ。

そして―。
ヤミ「だ、だって鈴鶴様のここは…
   わたしが、こうやって………」

追い討ちの言葉。


ヤミは、わたしよりも動揺していた。

123 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:38:57.55 ID:rYUXWeXc0
フチ「それにしても、ヤミは…
   ―鈴鶴とは、大きく違うわねえ……」
にやにや、フチが見つめる。

うう、幼い見た目なのに、なんでこんなにいじわるなんだろう―。
それとも、幼い見た目だからいじわるなのだろうか?


ヤミ「もう、鈴鶴様と出来ったときは、こんな大きさでしたから」
―小さな胸を張って、はっきりと答える。
けれど、威厳は感じられない。

やはり、先ほどの動揺の与えた影響はそう消えない。



フチ「…それにしてもヤミは、わたしみたいな、幼い姿の頃に鈴鶴にもしていたの…
   ずいぶんと仲が良かったのねえ」
けれど、それに返した言葉は、的確で―。

ヤミ「う…」
ヤミは、言葉に詰まった。

フチ「図星だったんだ」
フチは、さらに、にやにやヤミを見つめる。

124 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:39:50.58 ID:rYUXWeXc0
フチ「―鈴鶴の大きさは、シズといい勝負ねぇ、うふふ」
そしてフチは、ヤミから視線を外してシズに目をやった。


シズ「………そうだな」
わたしよりも大きな胸に手をやりながら、硬く、冷静に答えた。


ああ、わたしもシズのように冷静に対応したい―。


風呂の湯気が、ゆらゆらと漂う中、そんなことを思って―。



―――こうして禊ぎの時間は過ぎていった。

125 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:40:54.49 ID:rYUXWeXc0
――月が昇り、夜が訪れ――。


わたしたちは、布団の中。
慣れない寝床で眠れないわたしとヤミとは対称的に、シズとフチはすやすやと眠っていた。


けれど、わたしたちは―。

鈴鶴「ヤミ…その……」
布団の中で、ヤミに呼びかける。

ヤミ「…あの…禊ぎのときは、その…ごめんなさい」
ヤミは、そんなわたしにぺこりと謝る。


そんなヤミを見ると、何故だか心が苦しい。
実際とても恥ずかしかったのだけれど、それよりもヤミが苦しむことが心に響く。

鈴鶴「……あの、そうじゃなくて…」



沈黙――。

126 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:42:13.35 ID:rYUXWeXc0
そして、わたしは―。
鈴鶴「血、吸い合おう……?」



首筋を、露にした。
わたしとヤミは、いつものように、互いの血を吸い合う―。

鈴鶴「…んっ、んっ…」

ヤミ「…はぁ、ん…っ…」

互いの首筋に、歯を、牙を、食い込ませ。
互いの身体は抱き合って。

シズとフチには気づかれないように、いつもより声を抑え目に―。


けれども漏れる小さな甘い喘ぎ、増す心拍数。



血を吸い合って、服を直して、布団の中でくっつきあって。




いつしか、眠りの海にわたしとヤミも沈み。

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127 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 01:49:42.30 ID:rYUXWeXc0
人物・専門用語
鈴鶴(すずる)

・生年月日:792年10月12日
・身長  :165cm
・体重  :45kg
・スリーサイズ:89-61-85
・髪色  :黒
・目の色 :黒
・血液型 :B型
・利き手 :両利き
・一人称 :わたし


ヤミ(闇美)

・生年月日:782年5月6日
・身長  :170cm
・体重  :60kg
・スリーサイズ:72-62-78
・髪色  :黒と白(ブラック・ジャックのような感じ)
・目の色 :青
・利き手 :右
・一人称 :わたくし
・背中に翼が生えている

シズ

・生年月日:はるか昔、フチと同じ年に生まれた。
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128 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 01:57:55.89 ID:rYUXWeXc0
【月の民】
月に生きた、長寿の民。
15才のときの姿が、成熟した姿であり、その姿で永く生きる。
(フチは7歳の少女ぐらいの姿であるが、これは単に彼女の成熟した姿がそうであるからである)

現在は、シズ・フチと、カショの同胞ぐらいしかいない。

人間よりも丈夫であるが、流石に首や心の臓をやられたら死ぬ。
また、病にかかることもある。
要するに、不老長寿の民である。

【妖殺し】
リュウシュの同胞、黄泉剣をめぐる戦いで生き残った月の民。
鈴鶴の母親(【姫】)が死体で見つかり、黄泉剣を探り当てられないと分かったので腹いせに作った組織。
その通り、妖怪を皆殺しにしていく集団。
現在は【姫】の子である鈴鶴がいると分かっているので、殺戮はしていないらしい。




社長作イメージ図(それほど期待をしてはいけない)
鈴鶴
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/459/c01.jpg
ヤミ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/460/c02.jpg
シズ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/461/c03.jpg
フチ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/462/c04.jpg

129 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 02:48:33.97 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴の後ろにいる何者かは、今後明かされる予定である。

130 名前:きのこ軍:2014/11/04 04:09:37.14 ID:pIOF81Qw0
投下乙。全員スタンドみたいなのいませんかね。

131 名前:きのこ軍:2014/11/04 04:10:32.09 ID:pIOF81Qw0
フチと鈴鶴さんだけだった。

132 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:28:47.17 ID:kmgKojgI0
朝が来た―。

鈴鶴「んーーっ」

わたしは、目覚めた。


外を見れば、日差しがまぶしい――。

鈴鶴「…んー」

久しぶりに、住まいから見る日差しは、わたしが今いるのは安全な日常なのだという証し。

133 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:29:31.33 ID:kmgKojgI0
鈴鶴「ヤミたちは…」

わたしは寝ぼけ眼をこすりながら、周りを見渡す。


わたしは、どうやら一番最初に起きたらしい。

他の三人は、すやすやと眠りについていた。

134 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:30:23.23 ID:kmgKojgI0
わたしは、やることもなく、みんなの寝顔を見ることにした。


ヤミは、わたしがいつも見ていた、きれいでやさしい寝顔。


シズは、身体を休息している時も気を引き締めているような、冷静な寝顔。


フチは、見た目相応の、幼い女の子のように、可愛い寝顔。

135 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:31:41.49 ID:kmgKojgI0
わたしがじろじろと寝顔を見ていると。

シズが、目を覚ました。


シズ「おはよう
   …何を、しているんだ?」


シズは布団の中から、冷静にわたしに問う。


鈴鶴「あ、あの………
   …………寝顔を、見てたの
   やることがないし、あはは…」

その冷静さに、わたしはしどろもどろになりながら答える。

ああ、前もシズのような冷静さを身につけたいと言ったのだけれど、またそう思ってしまう。

136 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:38:32.68 ID:kmgKojgI0
そんなわたしを見て、シズは硬い―けれど、やさしさを含んだ、ふしぎな硬さを表情に乗せて微笑んだ。

シズ「まぁ、月の民とはいえ…
   それほど、見た目は人とは変わりはないからね
   違うのは、髪や目や生きる年だ」

微笑みながら、布団から身を持ち上げた。


鈴鶴「そういえば、わたしやヤミの生きる年は、どれぐらいなの?」
ふと、わたしは問う。

わたしとヤミは、完全なる月の民ではないから。

シズ「【姫】の血を引き継ぐ鈴鶴も、生命を引き継ぐヤミも、わたしたちと同じだろう」

それを聞いて安心する。

わたしがヤミたちを置いていくのはいやだし、わたしがヤミたちに置いていかれるのもいやだから。

そんなわたしを、シズはやさしい目で見つめていた。

137 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:40:06.73 ID:kmgKojgI0
しばらく沈黙が続く。

ふと、シズが訊いた。

シズ「そういえば、鈴鶴は…
   その太刀、どれぐらい振ってきた…?」

そう、訊いた。


138 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:45:06.11 ID:kmgKojgI0
わたしは答える。

鈴鶴「父に、使い方を教わって…
   …7年間……、毎日ではなくてときどきだったけれど、ね」


その言葉を聞いて、シズは少し考えて。

シズ「……………
   わたしは、鈴鶴の父親に
   15年前から、稽古をつけていた」

稽古―。
父は、稽古に行っていた―。

ああ――。

鈴鶴「稽古……
   そうか、父がいつも行ってたのは―」


シズ「ええ…鈴鶴の父親に、剣術を教えていた」
シズは、懐かしそうに言う。

シズ「…7年前からは、その頻度は少し減ったけれどね
   さすがに、鈴鶴に会うのは、【姫】の約束に反することとなるから」

鈴鶴「そうだったんだ…」

139 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:47:34.05 ID:kmgKojgI0
わたしたちが話している間に、フチも目覚めた。

フチ「…おはよ、鈴鶴とシズはおきていたんだ」

眠そうに目を擦り、わたしとシズのところにやってくる。


140 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:48:38.66 ID:kmgKojgI0
フチ「何の、お話?」

鈴鶴「わたしの父に、シズが剣術を教えていた…」


フチは、狩衣に着替えながら、懐かしそうに。


フチ「…そうねぇ、懐かしいわね
   あたしは、その間は鈴鶴たちのことを遠くから見てたから、あんまりは知らないけれど
   …かなり、腕の立つ剣士だった、そういう印象は残っている」

141 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:52:33.51 ID:kmgKojgI0
鈴鶴「こうしてると、本当に、ふつうの人のような…」

そう、ほんとうに、ただの日常に思える―――。



そして、着替え終わったフチは、わたしの髪をぺたぺた触った。

鈴鶴「ひゃ!?」

ぼーっとしていたときに触られて、情けない声が漏れる。

けれど、フチはその反応を気にせずに、なおも触る。

フチ「鈴鶴、その髪きれいよねぇ
   長くて、黒くて―とても、美しいわ」

そして、わたしの髪を、魅入るように見つめて、そう言った。
わたしの背丈か、それを越えるほどの長さの髪を、ぺたぺた触ってそう言った。

142 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:53:22.39 ID:kmgKojgI0
鈴鶴「これも、母上に似ているの?」

シズ「【姫】よりも、さらに長いけれど…ね」

フチ「色は違えど、この美しさはそっくりよ…
   血は争えない…わね」

名も、顔も知らぬ母だけれど、わたしは母に、【姫】に、これほどそっくりなのか―。

143 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:53:39.64 ID:kmgKojgI0
そんなことを話しているうちに、ヤミも眠りから覚め―。


ヤミ「おはようございます、みなさま起きていらしたのですね」


―――みんなで、ありきたりな会話をして。

そのうち、これからのことを、話し合うこととなった。

144 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:56:54.88 ID:kmgKojgI0
話し合いの結果。

黄泉剣を見つけて、封印することが決まった。


沈んだ黄泉剣は、月の民でも見つけることは容易いことではない。
海の底にあるために、引き揚げるのは容易いことではない。

15年も引き揚げられないことが、それを証明している。

ただ、神の血を引く私なら、剣と引き合って引き揚げられるのだという。


それを行う過程で、敵が現れることを念頭に置いて、稽古に取り組む――。



つまり、まずは、稽古をする――。

そう、決まった。

145 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 01:05:13.83 ID:kmgKojgI0
シズはわたしの手を取り。

シズ「――太刀の腕を、さらに磨こうか
   あの人の血を引く鈴鶴なら、やりやすいだろう」

鈴鶴「うん」

フチ「まぁ、ずっとやってたことだし、問題ないんじゃない?」

そしてフチは、ヤミをじいっと見て。

フチ「…ヤミは、天の狗なんでしょう?
   ……なら、風の術は使える?
   確か、天の狗の得意とする技…とは聞いていたけれど」


ヤミ「まぁ、基本のことは…
   けれど、闘いに関することは…
   残念ながら、習えませんでした…」
ヤミは、すこし静かな沈んだ声色で。

フチ「ああ、そうだ…
   ごめんね、掘り返して…」
その原因に気づき、フチも沈んだ声色で。

ヤミ「けれど、大丈夫です
   わたくしは、これしきのことでへこたれませんから」
そう、自信を持って答えた。

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146 名前:【第三章 中断】:2014/11/12 01:06:05.22 ID:kmgKojgI0
今日はここまで。

147 名前:きのこ軍:2014/11/14 04:25:43.00 ID:7SLKzhkk0
平和パートいいぞ。

148 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:37:32.90 ID:yD1YVOZc0
わたしは太刀を振るう。
どこまで身についているかを、シズは、その振りを、構えを見る。



シズ「…これほどまでとは…驚いた
   わたしが鈴鶴の父に教えた通りだ…すばらしい」
太刀を振るなり、シズはわたしを褒めた。


鈴鶴「そんなに、いいの……?」
いきなり賞賛されて、わたしは戸惑った。

149 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:39:18.07 ID:yD1YVOZc0
シズ「ああ…
   鈴鶴の父は、うまく教えたようだな…」


鈴鶴「父上の教えは、それほどまでに―?」



シズ「鈴鶴の技は…まだまだ、細かなところを直すところはあるけれど、基本のことは出来ている」

意外な事実を聞きながら、わたしは稽古をつけてもらった。


150 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:43:46.14 ID:yD1YVOZc0
鈴鶴「はぁ、はぁ、はぁ―」


父との稽古よりも、厳しく―。
それよりも、長き時間を経たことが原因か。
わたしは、息を切らして、座り込んだ。


シズ「――さすがに、やりすぎたか
   わたしが、連れて行くよ」

鈴鶴「…お願い」

そう言って、わたしを抱っこして、住処へと連れて行った。

かつては、幼い頃、ヤミに抱っこしてもらった、あの感覚がふとよぎる。


鈴鶴「ん――」

ふと、声が漏れた。

シズ「……大丈夫、か?」

心配するシズの声。
疲労よりも深い何かを傷つけたのかと、心配しているのか。

けれど、それを見せまいと。
鈴鶴「大丈夫、疲れただけ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

151 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:46:50.56 ID:yD1YVOZc0
わたしが、床の上でゆったりと休み、しばらくして。

ヤミとフチも、帰ってきた。

ヤミの顔も、わたし同様すごく疲れていた。


ヤミ「鈴鶴様、お疲れみたいですね」
涼しげな、けれど疲れのある顔でわたしに言う。

鈴鶴「お互い様…」

ふたり、床の上で息を切らしながら、笑いあう。

152 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:52:34.30 ID:yD1YVOZc0
フチ「それにしても、あなたたちってすごいわね
   もともと太刀筋を教わってた鈴鶴はともかく、
   ヤミの風の術も伸びそうよ」
そんなわたしたちに、フチは言う。


鈴鶴「そう…かな?」

ヤミ「ありがとうございます」

わたしは、すこし照れくさく、頭をかく。
わたしの長い髪が、ふわっと揺れた。


シズ「鈴鶴、自信を持てばいい…
   フチの言うとおりだ」
けれど、そのふわふわした流れは、シズの硬い言葉でがちっと掴まれ。


鈴鶴「ありがとう」
わたしの気持ちは、自信を持つ方向へ進んだ。

153 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:54:21.77 ID:yD1YVOZc0
そんな短い時間を過ぎ。

まだ、その日々は終わっていないけれど。


ああ、これがこれからの日常なのだ―。


そう思いを馳せる。

154 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:54:44.95 ID:yD1YVOZc0
―いつものように禊ぎをして。




―シズとフチが寝ている間に、いつものように血を――。

鈴鶴「…ん、っ……」

ヤミ「はぁ、ん…はぁ…ん…」

互いの肌を重ね合わせ、その首筋から――。


ふたり、体温と鼓動の高まる肌を重ねていて、その余韻を味わっていると―。

155 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:59:02.01 ID:yD1YVOZc0
シズ「…何、やってるんだ」
呆れた視線のシズと。


フチ「なんとなーく、予感はしてたけど…
   やっぱり、そこまでの仲なのねぇ…」
にやにや見つめるフチが。

156 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:02:16.50 ID:yD1YVOZc0
かぁっと肌が赤くなる。

鈴鶴「な、なんで起きて…」

恥ずかしさで、胸が、頭が、ぐしゃぐしゃに包まれる。


シズ「何か、気になる気配がしたから…」

フチ「何かやらかすまで、隠れて見てたら…
   ああ、見てるこっちが恥ずかしくなるほどに激しい…」

157 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:05:39.36 ID:yD1YVOZc0
ヤミ「あ、あ、あの
   わたくしはただ、ただ血を…
   そんな、激しいことなんて、い、今…していないですよ?」

わたしより、ヤミのほうが慌てていた。

顔を真っ赤にして、その左目でわたしを見つめながら、そう言う。

けれど。

フチ「…なあに?昔はこれより激しい【こと】してたの?
   血を吸い合うことよりも…」

くすくす笑って、フチはからかった。

158 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:08:11.44 ID:yD1YVOZc0
鈴鶴「………」
ヤミ「う…そ、それは…」

ふたりとも、恥ずかしさで顔が真っ赤に―。

心当たりが大いにあってしまうほどの関係だから、その言葉はとてもとても心に響く。

フチ「あらあら、図星なんだぁ」

くすくす笑いながら、フチが見つめた。

フチはこういうとき、いじわるになる。

159 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:11:09.52 ID:yD1YVOZc0
シズ「まぁ…乳代わりに、赤子の鈴鶴に血を与えていたのだろうが
   …その癖が抜けずに、いつしか今もするまでに行ってしまった、ところだろう」
シズが、やれやれと息を吐き、見解を言うも。



フチ「…乳離れできてないってことじゃない
   ああ、そこまでの仲だったんだぁ…」


シズ「…確かに」
シズも、納得してしまった。

160 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:11:49.41 ID:yD1YVOZc0
体温も、心臓の鼓動も、高まっていくのを実感していると―。
フチ「でも、月女神の、濃い、その血は…
   甘美な味なんでしょうねぇ」

突然、フチがわたしの膝元にまで来て、そんなことを言う。

フチ「それを思うと、乳離れできなくても仕方ないわね
   ね、シズ?ねぇ?」
そして、シズに目線をやった。


シズ「……まぁ、確かに」

シズは、それを否定しなかった。


しばらく、静かな気まずい空気が流れる。

161 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:12:42.60 ID:yD1YVOZc0
しばらく時間が経ったころ、その空気をフチが打ち破った。


フチ「…鈴鶴、あたしにも血を頂戴?」
フチは、わたしの肩に顔を寄せ、そう甘くお願いした。

え―――!?
突然のことに、わたしの心臓はばくばくばくばく、ヤミと血を吸いあうよりも多く拍動した。


鈴鶴「あの、わたしは、その…
   えっと、その…」


どうしていいかわからずに、ヤミを、ちらと見た。

162 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:15:52.90 ID:yD1YVOZc0
ヤミ「わたくしは、鈴鶴様が宜しいのであれば、……構いません」
顔を赤らめながらも、はっきりと。



フチ「だって、鈴鶴」
じぃっと、わたしを見つめるフチ。


シズ「………」
シズは、無言でその様子を見ていた。

163 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:16:23.22 ID:yD1YVOZc0
フチ「シズ、欲しいんでしょう?
   …ほら、言ったら?」
そう、優しく背中を押した。

シズ「………ああ」
そしてシズは、閉じた口を開け、そう言った。



わたしも、この二人になら、あげても―。
わたしとヤミのことを、わたしたちが知らないときから、遠くから見つめ、守り、助けてくれた、ふたりになら―。

164 名前:【第三章 中断】:2014/11/18 01:16:45.68 ID:yD1YVOZc0
今日は此処まで

165 名前:791:2014/11/18 01:17:09.79 ID:OeIP8buoo
更新おつ!

166 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
DB様のお通りだ!

167 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:15:35.51 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「いいよ…」

わたしは、はだけた服から見える肌の、既に血を止まった首筋を指でなぞった。


シズ「…………」

フチ「いただきます」


ふたりは、初めて見せた、赤らむ顔で、わたしの体を抱きこんだ。



そして、わたしの首筋に。
ヤミがわたしに牙を立てる場所に―。


ふたりの牙が、食い込む。

168 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:21:52.08 ID:Vn.dFi4o0
じわりと痛みが走る――。
ふたりに牙を立てられるのは初めてなせいか、その痛みに戸惑ったけれど。

シズが、そんなわたしの頭を優しく撫でた。
ただ撫でられているだけでも、その戸惑いは薄れてゆく。


そして、ふたりが、わたしの腕に、互いに身体を押し付けながら、わたしの血を吸っていく。

フチ「あむ…はぁ、はぁ…」
フチは、幼子が乳を飲むかのように、その幼い見た目がよく似合う表情で、わたしの血を飲み。


シズ「ん…
   んっ、んっ」
シズは、やわらかな胸を押し付けながら、シズよりも激しく、わたしの血を吸う。
その片手は、依然わたしの頭を撫でていて、わたしの心はくすぐったい。

169 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:24:14.15 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「――っ」
わたしが、目を瞑ってその心のこそばゆさに耐えているうちに、ふたりの牙は離れた。

シズ「ごちそうに……なった」
そして、シズがわたしを撫でる手を離し。

フチ「鈴鶴の血、思っていたとおり……
   ああ、とても、おいしかった…」
フチは、満足そうな表情で口をぬぐった。

ふたりとも、熱を孕んだ目でわたしを見つめる。

その目が、またわたしを恥ずかしくする。
わたしは、血を吸われた後も、顔を赤くしてぼーっとしていた。

170 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:29:24.22 ID:Vn.dFi4o0
ヤミ「鈴鶴様の血は、美味しいでしょう」

ぼーっとするわたしを抱きしめて、ヤミは誇らしげに言う。

シズ「……
   甘さ、苦さ、口触り、思い―
   すべてが混ざり合って、とても美味しかった――」

フチ「あたしも、同じ
   これならあなたたちが、ずっとこんなことをやってるのも、頷けるわ」


赤みを帯びた顔で、二人は言う。

その言葉が、わたしの心の中を、赤く紅く恥ずかしさで染めていって。


鈴鶴「うぅ…もう寝る」

もう、まともに顔が見れない。

わたしは、顔を隠して、布団の中にもぐりこんだ。

171 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:33:32.52 ID:Vn.dFi4o0
―いくばくかの日が過ぎる。

いつものように、わたしは太刀を振るい、ヤミは術を鍛える。

いつものように、わたしはヤミと血を吸い合う。

けれど、そこにひとつだけ変わったことが。

わたしの血を、さらにシズとフチが吸うようになった。


わたしのこの血は、とてもとても魅力的だという。
毎日食べるご飯よりも、とてもとても魅力的だという。




―こうして、いくばくかの日が過ぎてゆく。

172 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:38:01.52 ID:Vn.dFi4o0
――ある朝。

今日は、わたしは封じの術をフチに教えてもらうことになり、シズはヤミに武術を教えることになった。

黄泉剣を引き揚げれば、それを封じなければならない。

もとは月の王族が封じた剣。

月の王族の血―月の女神の血を引くわたしが封じるのが、一番封じを貼るためには適切なのだ。


そのために、その術を使えるように、特訓が始まった。

173 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:45:01.03 ID:Vn.dFi4o0
フチ「………」
フチは、わたしの身体をじろじろと見つめる。



鈴鶴「な、なあに?」
その目線が、少し恥ずかしくて、わたしの声は焦りを含んで漏れる。


フチ「…鈴鶴って、守護霊が憑いているの?」

そう、不思議そうに言った。


174 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:46:28.52 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「守護…霊?」

聞いたこともない言葉に、首をかしげると。


フチ「…いや、あなたの後ろ…いや、心の中と言ったほうがいいのかしら?
   あなたの魂を、鬼が包んで、守っている―」



鈴鶴「鬼―?」
わたしを守る鬼―?


フチは、わたしの胸に手を当てた。


フチ「そう、あなたの中に――

   でも、それが何を守っているのかは、分からないわ」


そう言って、わたしの髪をぐしゃぐしゃ撫でると。


フチ「さ、頑張ろうっか」

特訓が、始まった―。

175 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:47:43.72 ID:Vn.dFi4o0
時間は気が付かない間に、夕暮れになって。

太刀の修行よりも、身体は疲れなかったけれど、その分精神を使う。
慣れれば、それほどでもないとフチは言ったけれど、それは慣れないもので―。


住処に帰ってきた後、わたしは、眠気に襲われて―。
フチに、頭を撫でられながら、眠りに落ちた。



目が覚めたときには、既に月が空に昇っていた。

いつの間にか、ヤミとシズは眠りについている。

フチは―。



わたしの枕元で、じーっとわたしを見ていた。


176 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:49:45.97 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「は―
   こんな時間まで、眠ってたの、わたし?」


フチ「そうよ
   ヤミとシズは、少し前に寝たわ」


わたしは、あわあわしながらフチを見つめる。

鈴鶴「…あ、あの
   わたしのこと、看ててくれたんだ
   その、ごめんね」

こんな時間まで寝ていたことに、わたしはうろたえながら謝った。

フチ「謝ることじゃないわ
   疲れてたし、しょうがない」

けれど、フチはそんなわたしを優しい瞳で見つめながら撫でてくれた。

177 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:50:26.74 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「その、ヤミは、何か言ってなかった?」
ヤミは、わたしを看ていると思ったのだけど。


フチ「あたしが、ヤミに休んでてと言ったの
   ヤミも、あなたのように疲れてたしね」


鈴鶴「そうなんだ…」


フチ「それよりも、あなた、禊いでいないでしょう?
   さ、行きましょう?」

鈴鶴「うん」

わたしの手を取り、温泉へ――。

178 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:56:11.90 ID:Vn.dFi4o0
禊ぎが終わる――。


そして、ふたり寝床に戻って、フチに血を吸わせた。


フチがわたしの血を舐め終わったあと、眠ろうとしたその時。


フチ「鈴鶴」

フチが、わたしを見つめる。


鈴鶴「なあに?」

フチ「…お願い、血を…吸って?」

駄々をこねる子供のような目で、わたしを見つめた。
その瞳は、吸い込まれるような、とてもきれいな瞳だった。

179 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:59:03.39 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「その………あの………いいけど、どうしたの?」
その目は、いつもとは特別に感じる、そんな目で―。
わたしは、訊いた。


フチ「鈴鶴のことが、…心から離れないの
   【姫】様の面影を持つあなたが――

   はじめてあなたが生まれたあの日から…
   育ちゆくあなたのその姿が、わたしの心をぐちゃぐちゃにかき混ぜていったの…

   ――前に、血をもらって…

   それから、血をもらって…
    
   今まで、耐えていたものが…」

言葉を言い終わらないうちに、フチは首筋を露わにさせる。

見た目相応の幼さの、儚い白い首筋が、わたしの前に。

180 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:01:51.78 ID:Vn.dFi4o0
フチ「して……?」


その、言葉が引き金となった。

わたしはフチの身体を抱きしめて。

鈴鶴「ん――っ」

フチのちいさな首筋に、ゆっくりと歯を立てた。


フチ「っ――」

フチの身体がこわばる。

だから、わたしはフチを離さぬ様に抱きしめて、血を吸う。


鈴鶴「ん………ちゅっ、ちゅ…」

その味は、ヤミのその血とは違う味。

けれど、その味は、わたしの心を熱く染める味。

181 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:07:46.65 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「んぐ、っ…んっ、んっ…」

そして、立てた歯を離して。

鈴鶴「はぁ――」
傷口をやさしく舐めて、わたしはフチの頭を撫でた。


フチ「――あ…」

そして、熱く染まった心で、フチをもう一度抱き寄せて。

鈴鶴「わたしのこと、見守ってくれてありがとう」



そう言って、わたしはその唇と唇を、舌と舌とを重ね合わせた。


その唾液と唾液が重なり合う。

互いの唾液を互いが受け取り、そして少しの静かな時間が過ぎて。

フチ「あたしも、わがまま聞いてくれて、ありがと……」


そう、フチはわたしに寄りかかった。


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

182 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:08:03.70 ID:Vn.dFi4o0
今日はここまで

183 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:18:45.67 ID:EiVoQOdk0
わたしは夢を見た。



ああ、これもむかしのきおくなのだろうか?


――――あたりはよる。

184 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:20:44.53 ID:EiVoQOdk0
わたしは海の上にいる。


いいや。



わたしではなく、あたし―。


あたしは何かと戦っている。

あたしはだれかと戦っている。


目の前の男は、まがまがしい妖気を放つ剣を手にし。



横には、太刀を構えた、背の高い女性――。


―あたしの相棒の、同胞のシズがいた。

185 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:22:15.36 ID:EiVoQOdk0
――ああ、これはフチの記憶なのか――。


後ろには、とても長い髪の毛を持つ、とても威厳に満ち溢れた月の民の女性が、百合の花の咲く太刀を抱えていた。



―――それは、その姿は――水面の鏡で見るわたしとよく似ていた。


ああ、あれは【姫】様であり、わたしの――。

186 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:25:50.77 ID:EiVoQOdk0
目の前の男が飛び上がる。


そしてその男はあたしを飛び越し、後ろの【姫】様に―。


そして、そのまがまがしい剣――黄泉剣を【姫】様に突き立て――。


あたしはそれ守ろうとして、間に合わなかった。

187 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:27:24.35 ID:EiVoQOdk0
――けれども。

【姫】様は黄泉剣に斬られず、喰われず。

傷一つない【姫】様に、その男が狼狽しているところを、あたしが海の水でこしらえた式神がそいつの足を引っつかんで。


その一瞬の間に、シズが太刀で男の首を刎ねた。

男の身体と、黄泉剣は海へ――。


いけない、これでは――。


けれど、すでに掴むことかなわず。



黄泉剣は、海の底へと―。

188 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:32:23.65 ID:EiVoQOdk0
そのとき。

シズの身体が、海の上に投げ飛ばされる。

水飛沫――。


ばしゃあと飛んだ飛沫の向こうで。


そして【姫】様が、突然現れた月の民の男にさらわれた。



追いかけようとして、迫る波がそれを阻み―。


ああ、【姫】様―――!!


――視界が暗くなる。

あたしは――。


いいや、わたしは、記憶の海から浮かび上がった。


189 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:33:41.97 ID:EiVoQOdk0
鈴鶴「………母、上――」

わたしは一筋の涙とともに目を覚ました。


たとえ夢だとしても、フチの記憶だとしても。


一度たりとも顔の見たことのない母親を見て、わたしの涙は溢れて。

190 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:36:55.17 ID:EiVoQOdk0
フチ「鈴鶴、おはよ……あら?」

フチが、心配そうにわたしの顔を見る。


フチ「……大丈夫…?」


鈴鶴「…ちょっと、大丈夫じゃないかな
   …フチとシズが、黄泉剣を持った男と戦う記憶の夢を見て」


フチ「…【姫】様のお顔を」

すぐに察したらしいフチが、わたしの顔を両手で包む。


鈴鶴「そう…はじめてみることのできた、母上――」


フチ「…ほら、涙、ぬぐって
   あたしたちが、ずっと一緒だから」


そう言って、やさしい瞳でわたしの頭をやさしく撫でた。

191 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:37:31.39 ID:EiVoQOdk0
朝日が昇り―。



月が昇り―。




日が、月が、朝が、夜が、重ねられていく。

192 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:38:12.63 ID:EiVoQOdk0
今日はここまで

>>186修正
最終行
あたしは【姫】様を守ろうとして、間に合わなかった。

193 名前:きのこ軍:2014/12/04 15:59:33.51 ID:I1mpT8do0
更新乙。日常パート継続 いいぞ。

194 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:25:59.22 ID:CoZoQjvs0
わたしがこの住処に来て、半年が経過した。


鈴鶴「はっ!」

シズ「ふんっ!」



わたしは、シズと戦っている―。
これも修行の一環。

わたしとシズは、互いに木刀を手に、剣戟を繰り広げる。

195 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:29:11.85 ID:CoZoQjvs0
シズ「はっ、そりゃ、おらっ!」

シズは、嵐の如き豪快さと、その素早さで斬り付ける。

剣に触れたことのない人間ならば、すぐにやられてしまうだろう。


けれど、わたしはその攻撃に喰らいつく。


鈴鶴「おりゃ!」

その嵐のような攻撃を、かわし、最小限に受け止める。

196 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:30:44.95 ID:CoZoQjvs0
この戦いは、日が登りはじめた朝に始まった。


日が昇る。

空の青さはさらに増す。

そして、青空が赤色に染まっても、剣戟は続く。

197 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:35:24.08 ID:CoZoQjvs0
そして、夕日が沈みかけた頃合―――。

シズ「ふっ!!」

鈴鶴「はっ!!」


互いの木刀がぶつかり合う。


からん――。

互いの木刀が、地面に落ちた。



わたしのその一撃は、刃なき刀での一撃であったにも関わらず、鋭利にシズの木刀を切り落とした。


そして、わたしの木刀も、シズの一撃で切り落とされた。

198 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:36:40.72 ID:CoZoQjvs0
シズ「相打ち、か…
   鈴鶴、さすがだな…」

折れた木刀を見て、シズがそう言う。



鈴鶴「…ぁ…ぐ…
   はぁ―、はぁ―
   ふふっ、やった―。」

わたしは、そこで身体を支えていた糸が切れたのか、地面に座り込んだ。

199 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:39:06.30 ID:CoZoQjvs0
シズ「もう、夜か……」
シズも座り込む。

そして、暗くなった空を見上げてそう言った。

鈴鶴「……そんなに、経ったんだ―」

わたしは、ぼうっと闇に染まる空を見つめていた。


ふたり、その場でしばらく座っていた。

200 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:42:03.07 ID:CoZoQjvs0
シズ「鈴鶴
   ずっと、こうやって、修行をしていて―」

ふと、沈黙を切り裂くようにシズが言葉を切り出した。


シズ「…あなたのことが、【姫】の命のために守る人と思えなくなった
   それは、初めからそんな気持ちだったのかもしれないけれど」

シズ「あなたのことが、ヤミやフチが感じているように
   ……かけがえのない存在に思えてきた」

そう、わたしをじっと見つめる。

その目は、硬いけれど、優しさに溢れた目だった。


鈴鶴「わたしも、みんなかけがえのない大切な存在に、思ってるよ」

わたしはその言葉に応える。
シズのその真っ直ぐな言葉に、応える。


シズ「ありがとう」

シズは、嬉しそうな顔でわたしを抱きしめた。


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