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S-N-O The upheaval of iteration

1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。

初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。

――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。

【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。

これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。

    目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
    様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
    交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。

ワタシガ               見ルノハ
    真 偽 ト
              虚 実 ノ
          世 界

852 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:42:36.855 ID:UCu58hcA0
……わたしは、【嵐】と戦いながら、失った記憶に苦しみながら、辿り着いた。
あの子を――この手を斬った理由を求める為に。

それは、わたしが納得するだけの自己満足かもしれない。
それでも――向かう必要がある。それが、あの時死ぬことができなかった意味なのだろうと感じた。

ユリガミ
「――っ!?」

足元に目をやろうとして、わたしは、反射的に目を閉じた。
それは何かから逃げる合図のようにも思えた。

眼前には暗黒の世界が広がり、びゅうう――っと風の音が耳を通り過ぎる。
わたしを呼び止めるかのように、風が吹いていた。

わたしの服の裾や、肩まで伸びた黒髪が風になびいて揺れている。
――わたしは、風で揺れる髪の毛を片手で抑えながら、ぐっともう片方の手に力を込める。


853 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:43:33.483 ID:UCu58hcA0
ユリガミ
「だめ――逃げてはいけない――」

――わたしは、真相に近付いている。そんな予感があった。
それなのに、どうしてこんなにも不安な気持ちになるの?逃げたくなるの?

……わたしは、自然と【勾玉】に手を寄せていた。

ユリガミ
「どうか、わたしが真実を見つけられますように――」

わたしは、胸元の【勾玉】を握りながら、祈った――それはわたし自身への願いでもあった。
……その祈りが届くのかは分からない。

――それでも、祈念することはわたしの心を落ち着ける一要因にもなった。
この気持ち――これが、人々がわたしに願いを託した時の気持ち?

854 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:45:32.946 ID:UCu58hcA0
――わたしはユリガミという女神として、願いを託される存在。
……恐らく、これまでも、そしてこれからも――わたしはそう呼ばれるのだろう。

――ある時では魔女と呼ばれるかもしれない。
でも――ここまでわたしが来れた理由。それはわたしが前に進むことを信じ続けてきたからだ。

その姿勢もまた、女神として称えられる要因のひとつだと、わたしは思っていた。
だから、わたしも祈ろう――わたし自身に。これから先、真実に辿り着けるように。

ユリガミ
「行こう――真実を見る為に」

――ようやく、目を開けることができた。
そしてわたしは前を見据える。広がる光景は【会議所】――茨の城壁――。

風にわたしは逆らう。意思は揺ぎ無いこと見せるために。
一歩、一歩――わたしは足を進め始めて……。

855 名前:SNO:2020/12/19(土) 17:46:05.627 ID:UCu58hcA0
茨の城壁と書いて茨城――書き込んでいるときに思いついた。

856 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 17:48:20.697 ID:nqgeZCUYo
納 豆 要 塞
それはさておき、会議所が最終決戦てことはもう陥落してますね…ほとんど生き残ってなさそう。

857 名前:Route:C-19:2020/12/19(土) 20:23:51.907 ID:UCu58hcA0
Route:C


                   Chapter19

858 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:26:59.934 ID:UCu58hcA0
――――――。
ここは、あの子を斬ったあの中庭のようだ。
茨の巻き付いた城壁の中――すなわち、ここが【会議所】ということ?

ユリガミ
「……あの子を斬ったのは、【会議所】だったのね……」

一人ごちったわたしは……ひどく、疲れ切っていた。
わたしの始まりは、わたしの終わりでもあった――そういうことなの?

わたしは【逃げた】場所へと戻ってきている――そういうことなの?

ふと――ぽたりと、液体が滴る音が聞こえた。
それはとても近く――わたしの腕から。

――はっ!

わたしはすぐに両手を挙げた。
――そして、すぐに気が付く。わたしは――再び、血にまみれていた。
赤く、金気臭い液体が、わたしの身体を染め上げていた。

ユリガミ
「え――どうして――」

ぽた――ぽた――っ。困惑するわたしをよそに、紅い液体は地面へと散らばる。
わたしの衣服の裾から、血の雫がぽたぽたと流れ落ちてゆく……。

どういう、こと、なの……?
わたしは、記憶を失っている間に誰かを斬ったの……?


859 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:28:34.051 ID:UCu58hcA0
どくん――どくん――
急に、心臓が早鐘を打つように脈打ち始める。
血に染まった事実が、胸をかき乱そうとしている。

いったい――何があったの……?
社長を殺害した男……【嵐】のメンバー……長身の男……醜いケダモノ……
彼らと相まみえたとき、わたしは返り血の一滴すらも浴びてはいない。

返り血を浴びたのは――
わたしが、血に染まったのは――

思い出そうとするだけで、身体が震える。
ぶるぶると――がたがたと――わたしは身震いする。

さあっと、体温が下がる感覚もあった。
凍てつく雪山の中に放り出されたかのように――。

横たわる少女の亡骸――あの子を斬った感覚は、覚えてはいない。
どうしてあの子と戦ったのか――それも、覚えてはいない。

それでも、あの紅い月と返り血は覚えていた。
……わたしは不安でたまらない。どうしようもない不穏な気配があった。

860 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:31:30.374 ID:UCu58hcA0
ふと、わたしは天を見上げた。
天上に広がる夜空には、星々が瞬いてはいるけれど、月はいない。
満ち欠けを永遠に繰り返す金色の鈴は、完全に欠けていた。

血染めのわたしと、満ちた――あるいは欠けた月――。
朔の夜と望の夜は、血染めのわたしを境に鏡合わせになっていた。

ユリガミ
「――わたしは、どうして……」

血に染まったことが、どうしてこれほどまでにわたしを動揺させるの?
あの子の出来事は、それほどまでに――わたしが畏怖するまでの記憶になっているの?

――その瞬間、何かの光景がわたしの中を駆け巡った。
それは戦いの光景――ふたりの人物の戦い――ああ、これは――。

ユリガミ
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

ひどく、わたしは動揺していた。
この先は――わたしのたどり着くべき場所のはずなのに――
真実に近づいているのに――どうして、一歩が踏み出せないの?

――逃げたい、そんな気持ちが心の中にあった。
わたしは……たまらなく、恐怖に打ちひしがれていたのだ。

わたしは――真実から目を逸らそうとしているの?
今、此処で起きていることから目を逸らそうとして、何も考えないようにしているの――?

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

861 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:38:40.773 ID:UCu58hcA0
……………。

それは、まるで赤子が乳を求めるかのように。
それは、とても原始的な行動だった。

……わたしの手は、滑らかに動き、胸元の【勾玉】を握った。

この【勾玉】はとてつもない【力】がある――。

――そうだ。それは、わたしが一番知っている。

――そうだ。だから、わたしは――。

ユリガミ
「どうか――わたしに真実に立ち向かうだけの【力】を、わたしにください」

【勾玉】に込めてぽつりとそう呟き、再び祈りを捧げた。
それは、わたしに願いを託した人々のように……。

ふと、目の前の景色が、歪んだ気がした。
ぐらりと、景色が変わる。ぐらりと、空気が変わる……。
――ああ、この感覚は、幾度となくわたしは味わってきた感覚だ……。

そして………………。

862 名前:SNO:2020/12/19(土) 20:39:05.855 ID:UCu58hcA0
これは秘密だけど次で終わるかもしれない みんなには秘密だよ

863 名前:たけのこ軍:2020/12/19(土) 22:58:15.389 ID:l8lRnlf60
ようやくおいついたぞ
RouteCは時間軸を追える物がないから今後の章が出たら読み直さないと謎が多いな…

864 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 23:09:59.049 ID:nqgeZCUYo
読みが当たりそう

865 名前:Route:C-20:2020/12/20(日) 00:06:05.511 ID:RKGgwQgI0
Route:C


                   Chapter20

866 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:08:48.329 ID:RKGgwQgI0
――――――。

わたしは――薄暗い部屋の中に居た。ここは、地下室なの――?
近くには、本が山積みになった机がある。灯り代わりのランプの向こうは、薄暗く見えない。

……ここは、【会議所】の、何処かなのだろう。それだけは確固たる事実だと言えた。
――失った記憶の中にその答えや理由があるのかもしれないけれど、もうどうだっていい。
わたしは真実に近づいていることは間違いはないのだから……。

この場所は、真実にたどり着くために、重要な場所……それを、心か、あるいは身体か――そのどこかで理解していた。

――わたしの視線の先には、白髪の人物が居た。
その人物は、梔子の飾りの入った功夫服を着て、同じく梔子の飾りで彩られた棍を持っていた。

その顔は見えない。
伸びた前髪は、目を、鼻を、口を覆い、表情を――そして、性別をも完全に隠している。

その人物に――わたしは見覚えがあった。
その人物の名前……それは……。


867 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:13:59.062 ID:RKGgwQgI0
わたしが考えようとしたその時……。
だれかが、そこに割り込んできた。

そこには――神父装束の人物が、居た。
黒衣をはためかせながら、靴音を響かせ、ゆっくりと、ゆっくりと歩いてくる。

神父
「――無口さん、行方不明になったと聞いたが……
 ――死んでは、いないようだ……どうして最近この辺りをうろついている?」

神父装束の人物は白髪の人物を無口と呼んだ。
――無口?いいや、違う……わたしが知っているのはその名前ではない……。

白髪の人物の名前……わたしの頭の中はひどく矛盾に混乱しているが、結局、思い出すことはできなかった……。
そうしている間にも――わたしのことを意に介せずに、二人は対峙していた。

無口
「……」

白髪の人物……無口は、神父装束の人物の答えに何も答えなかった。

――その無口という名前のように。
口をなくした花の――梔子で飾られた名前の通りに――。

868 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:16:11.182 ID:RKGgwQgI0
神父
「まぁ、あなたは知っているとは思うが……私は黒砂糖――
 疑わしきは――とのことだから、あなたを始末させてもらう」

神父装束の人物――黒砂糖が宣言すると同時に、紫の雷は無口へと放たれた。

無口
「……」

しかし……無口も同時に紫の雷を放ち、相殺させた。

黒砂糖
「――その腕は、いなくなる前から変わらず
 研鑽はしているようだけれど」

無口は、漆黒の棍を……黒砂糖は、懐から諸刃の剣を取り出し、二人は同時にぶつかった!

鋼の刃と、棍が織りなす金属音。ふたつの得物の軌道は、鏡合わせのようにそっくりだった。
それは、黒砂糖の操る剣術と、無口の操る棍術が、同じ水準にあるとも言えた。

――長身の男や筍魂と呼ばれていた男も一種の達人だった。
わたしもそれに準ずる技術を持っている――そう言われたこともある。

恐らくは……無口と黒砂糖も同じ類の人物なのだろうと、直感で悟った。

無口の人物は、わたしの攻め方と、守り方――それを完全に模倣しているようにも思えた。
……無口がわたしの技術を見たのか?あるいはわたしが無口の技術を見たのか――?

869 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:18:26.477 ID:RKGgwQgI0
少なくとも、わたしは無口に見覚えがあるから、恐らくはどちらかなのだろうが……それがどちらかまでは思い出せなかった。

無口と黒砂糖は互いに攻守の応酬を幾度もなく繰り返していた。
すなわち千日手……ふたりとも傷すら負っていなかった。
体力を極力使わない立ち回りをしているから、息の切れる音一つもない。

黒砂糖
「コパンミジン」

黒砂糖
「ブラックサンダー」

黒砂糖
「アポロソーラーレイ」

黒砂糖
「アスタフリスク」

炎に雷、光に闇――矢継ぎ早に魔術の連撃を加えながらも、剣で切りかかる。
淀みない動き。スキもなければ、無駄もない。完成された動きといってもいい。

最も、それは無口にも言えた。相手の突きを、大薙ぎを、逆袈裟懸けを、完璧に処理していた。

――わたしは、ただふたりの戦いぶりを見ているだけだった。
身体は前に出ようとしない。それは身を守るため――それともほかの理由があるのか――。

――どちらにせよ、この場に割りこむのは得策に思えない。
下手に動けない。迂闊なことをすると真実にたどり着けない。そんな予感があったから。


870 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:19:28.108 ID:RKGgwQgI0
相手を見て分かった違いは、得物の届く範囲。棍のほうが、剣よりも若干長い。
刃の有無によって、受ける傷の深さは異なるが、互いの持つ武術の技量の前では、そのような差は些末な事だった。

無口
「ブラックサンダー」

無口は、黒砂糖と全く魔術を唱えていた。
二人が操るのはフィンのものとは違う。これは魔力に依って作られた雷……魔力独特のぴりぴりとした感触を知覚しながら、わたしはそう思っていた。

――魔術もまた、技術の一つ。どわたしには才がないから扱えないが……。
その技術が拮抗しているならば、魔術のぶつかり合いもまた互角となった。

無口
「ガルボルガノン」

無口
「ホルンサイクロン」

無口
「ミールメイルストロム」

静かに放たれる詠唱。織りなす炎、風、水――その中に在る魔力を感じ取っているのか、黒砂糖は冷静に回避していた。
そこに剣の反撃を加えるが――無口もまた、冷静に受け流していた。


871 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:26:27.204 ID:RKGgwQgI0
魔術の攻撃は、辺りの本や机にぶつかり、それらを破壊してゆく。
それでも、ふたりの存在は、破壊されてはいない!

互いに相手、撃退するという意思はそこにあった。

――ふたりの戦いを見ながら、わたしは……。
無口という人物に対して、何かあったのではないか――そう感じ取っていた。

間違いなく、わたしは無口を知っている――
頭のどこかでそう告げている。――その具体的な内容までは思い出せないのに。

――ああ、そうだ……。

ユリガミ
「――っ」

電流が走った感覚――ふたりに悟られないように、出かけた声を殺しながら、わたしはゆっくりと頭を押さえる。

――そうだ、あの人は……。

無口
「……、強くならなくてはいけない」

わたしの名前を呼んで――語り掛けている。
――わたしはあの人を地上から見上げている。

わたしの中で、何かがはじけそうだった。
もつれあった何かがほどけそうな――そんな感覚を覚えていた。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

872 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:28:19.724 ID:RKGgwQgI0
一体、何が――わたしは顔を上げようとしたけれど、身体がひどく苦しい。
肺の中の空気が、奪われているような感覚があった。

これは魔術ではない――まるで、フィンの天候操作のような――そんな【力】。
――ふと、記憶の残滓が頭をよぎった。

恐怖で押さえつけられた子供――醜いケダモノのような男――【力】に屈する男女――

ユリガミ
(いったい――これは……?)

記憶の残滓に戸惑いながら……息苦しさに、わたしはぐらりと膝を突いた。

一方で、黒砂糖は……顔を少し歪めてはいたものの、その場に立っていた。
無口より遠い私がこの様なのだから、恐らくは――黒砂糖の方が苦しいはずなのに……。

黒砂糖
「無口さん――これは……超能力か?
 しかし……私にその能力は……効果的とは言えないな」

苦笑しながら、黒砂糖は空中に指を滑らせ、何かを描き出す……。
――途端、そこには黒砂糖の姿をした分身が現れた。

873 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:30:13.752 ID:RKGgwQgI0
黒砂糖
「――私は兎も角、こちらには無意味だろう」

――分身。それは空気など必要ない。そういう意味だろうか……。
それでも、黒砂糖本人には影響はあるはずなのに……。

この状況に、わたしは、どうすればいい――?
息が苦しい。酸素が奪われ、思考が徐々に鈍麻化していく……。

ぼやける眼前の果てで――
黒砂糖ともそして分身は剣を構え、無口を切り裂かんと空間を駆けた。
無口は――その攻撃を棍で打ち払う。金属音が鈍く響き渡る……。

……互いに全力を尽くした戦い。一対二の争い――。
やがて、二人の身体には傷が走り始めた。血しぶきがぽたぽたと地面に散らばってゆく……。

その紅い色は、暗い部屋の中だからはっきりとはわからない。
それでもランプの明かりの下には確かな紅があった。


874 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:32:53.952 ID:RKGgwQgI0
ユリガミ
「……どうしたらいい?」

不安と焦燥感の入り混じった感覚。
どうしたら……いいの……?

このままでは、二人のどちらかは――あるいは二人とも、命を落としてしまう。
どうにかして、わたしは二人を死なせてはいけない――そうしなければならないという使命感に駆られていた。

――すでに、前に進む力はない。
だから、わたしにできること――それは――。

首元に手を動かすことは、どうにかできた。
――大丈夫。信じよう。【勾玉】を。ユリガミを。

わたしは、【勾玉】を握りながら祈った。

ユリガミ
(どうか――どうかわたしに、この苦難の道を切り抜けるすべを――)


875 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:38:19.420 ID:RKGgwQgI0
その瞬間――。
わたしの心の中で――わたしのものとは違う女性の声が――響いていた。

???
「貴女にはやるべきことがある」

――神々しい、そしてどこか優しげな声が、はっきりと響いていた。

???
「それは――この戦いを止めること」

――真剣な口調で語られる言葉。
その言葉は、乾いた地面に水が吸い込まれるようにわたしの中に染み渡っていく。

???
「この戦いを止めることが――貴女が真に為すべきこと」

……その声に、わたしの身体は聞き覚えがあると言っている。
わたしの記憶には心当たりがないけれど――それでも、この声を無視してはいけない、そんな予兆があった。

わたしは……この声の言葉を信じるべきなのだろうか。
今までに出会ったことのない人物。――あるいは、どこかで出会ったかもしれない人物。
その言葉を……わたしはどう受け止めればいい?

ユリガミ
「…………」

ぼやける視界の向こうでふたりが戦う様子を見ながら………息苦しさに淀む思考の中でも考えを巡らせて、わたしはひとつの結論に至った。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

876 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:40:30.201 ID:RKGgwQgI0
???・ユリガミ
「戦いを、やめ、て――!」

頭の中で響く声に、続けて――
わたしは――その言葉とともに、二人の間に割って入った。
息苦しさも、強引に捻じ伏せて……わたしの為すべきことのために。

黒砂糖
「――!?」

無口
「…………!」

ふたりは……困惑したようにわたしを見ていた。
同時に、息苦しさは消滅し……。黒砂糖の分身含めた、三人の視線がわたしに集中した。

――もしかしたら、わたしも敵とみなされるかもしれない。
緊張のためか、わたしの背中にはじんわりと汗が滲んだ。

それでも、わたしは不思議と恐怖を覚えなかった。

きっと――わたしには、初めからここに辿り着くのだと、わかっていたのだと思う。

877 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:43:05.385 ID:RKGgwQgI0
???・ユリガミ
「あなたたちが争って得られることはない――
 今なすべきことではないことは、二人とも分かっているでしょう?」

頭の中で、諭すような声が響く。
わたしも、彼女と同じ口調で、諭すように一言一句同じ言葉を続けた。

黒砂糖
「……きみは誰だ
 太刀を腰にぶらさげたきみも……私にとっての敵なのか?」

黒砂糖は、分身に無口を任せ、わたしの目の前で剣の刃を向けた。
目の前にある鈍い金属の塊。わたしは血に塗れて命を落とすかもしれない――。
しかしその脅しはわたしにとって障害とはならなかった。

ここで命を捧げてもいい。それぐらい、わたしにとって――この行動が必要不可欠だったから。

878 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:44:36.516 ID:RKGgwQgI0
???・ユリガミ
「違う――わたしが為すべきことは――」

???・ユリガミ
「絶望の未来を回避する行動――」

黒砂糖への答え……それは声の主に言わされているかのように、
あるいはわたしの中で答えが決まっていたかのように、すらすらと口をついて出た。

無口
「……黒砂糖、退け」

わたしの言葉に何かを察したらしい無口は、初めて言葉らしい言葉を発した。
とても短く――そして強い口調で――あたりの空気を切り裂くような鋭い言葉を――。

無口
「彼女は――少なくとも、私や君の敵ではない」

黒砂糖
「……どうやら、そのようだ」

――無口の真剣な口調に、黒砂糖はわたしに向けた剣を離した。

879 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:46:26.343 ID:RKGgwQgI0
黒砂糖
「……私は、この少女に手を出せとは言われていない
 一旦は退かせてもらおう……」

黒砂糖は、不服そうにつぶやきながらも、その場を立ち去って行った。

その背中が遠くなるのを見つめながら……わたしはほっとしていた。

わたしは――この争いを、止めることができたのだ……。

???
「――それでいいの
 あとは貴女がすべてを……思い出すことができれば……」

わたしが呆然しているうち、ほっとしたような、満足したような謎の声が響き――

瞬間、わたしの中に悟りが広がった。
失われた記憶は急速に復旧し、わたしの中で不鮮明な部分が鮮明になっていった。

あまりにも急激すぎて、ばちばちと雷に打たれた感覚。
それでも――恐怖はなかった。痛みもない。むしろ、憑きものが落ちた感覚にも思えた。

880 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:49:50.421 ID:RKGgwQgI0
確かに――わたしはあの子を確かに斬ったことに間違いはない。
――しかし、あの子の命は失われてはいない。
あの子は、傷ついてはいるけれど、眠っている。

いつ覚めるかもわからない闇の中で、目覚めを待っている……。

そうだ……わたしは向かわなくてはいけない。
あの子に謝るために――あの子を救い出し、楽園に戻る為に。

――わたしの中に、あの子と過ごした記憶の一部が思い出された。

ユリガミ
「――貴女は、大人になったらどんな人間になりたいの?」

少女
「わたしは、おねえちゃんと結婚して、一緒に幸せにくらしたい!」

ユリガミ
「……わたしと?」

少女
「だっておねえちゃんは、とても綺麗、とっても頼りになって」

少女
「……憧れの、大好きなおねえちゃんだから」

――誇らしげに語るあの子は、言葉の終わりに、少し顔を背けてほほを染めていた。

ユリガミ
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

881 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:51:51.073 ID:RKGgwQgI0
あの子の仕草が、声が、姿が、心が――まるで昨日のように思い出せる。

――あの子と過ごした楽園の日々。
それはヤミの居た屋敷の一部屋での出来事だった……。

そうだ、あの場所はわたしの住処でもあったのだ。
わたしは、この幸せな光景を失い、絶望を抱えたまま、この世界を彷徨っていた。

行き場をなくし……永遠と彷徨うわたしに向けた誰かの言葉が、その世界に一筋の光明を見せた。
――わたしはあの幸せを取り戻すことが出来る。希望を取り戻すことが出来る。

だから、行こう。だから、征こう。
あの子を救い出すために、【彼女】の眠る場所へと、わたしは向かわなくてはいけないのだから……。

無口
「……私は、貴女の向かうべき場所へ、誘わなくてはいけない」

無口は、傷口を押さえながら、指を空中に指し示した。

わたしは、無言で頷く。大丈夫――わたしの意思はきちんと伝わっている。


882 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:53:57.866 ID:RKGgwQgI0
――続く無口の言葉に、わたしは耳を傾けようとした。

無口
「……ユリガミを取り戻すために」

――え?

今……なんて……言ったの……?

わたしを――取り戻す――?
何を言っているの?わたしは――わたしは――ここに――。

途端に不安が胸をかき乱した。

まるで世界が崩れ落ちたかのように――わたしの身体はわたしの思うままに動こうとはしない。
わたしの意識に反して、わたしの身体は――無口と名乗るその人物の後ろを追いかけはじめた。

わたしは他人事のようにその光景を見ていた。
――他人事のように、風景が流れ去っていった。


883 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:55:13.814 ID:RKGgwQgI0
――わたしはどこに向かっているの?
とても重要なように思えるけれど、わからない、わからない、わからない……。

無口
「……、………」

――何かを無口が言っている。

ユリガミ
「………………」

わたしも何かを呟いている――それなのに、分からない。

わたしの意思に反して言葉を発しているように思える。
まるで別の言語を話しているように、わたしはなにもかもを知覚できなくなっていた。

どういう……こと……なの……。

――もう、わたしには……なにもかもが、わからなかった。


884 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:56:20.592 ID:RKGgwQgI0

わたしには、何も聞こえない――
いや、それだけではない。見ることも、触れることも、嗅ぐことも、味わうことも。すべてがなくなっていた。

               ―― わ た し は ど こ に あ る の ?

              ――― わ た し は ど こ に い る の ?

   ―――そして、光が一瞬世界を覆いつくすように輝いたかと思うと……。

        わ た し の 世 界 か ら 色 が 失 わ れ て い っ た … … 。

885 名前:Route:C Ending:2020/12/20(日) 00:57:22.727 ID:RKGgwQgI0
――Revealed the moon card.

But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.

          ―――Route:C Fin.

886 名前:SNO:2020/12/20(日) 00:58:31.990 ID:RKGgwQgI0
なんか勢いに突っ走った更新速度だったけど、Route:C、終。

887 名前:きのこ軍:2020/12/20(日) 01:02:37.239 ID:hkt5gB0co
更新おつ次章に持ち越しかな

888 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/22(火) 19:58:21.160 ID:1BjummYA0

The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
                                            ――Genesis 6:13



889 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/22(火) 19:59:53.056 ID:1BjummYA0
月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。

純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。

……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。

いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。

世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。

絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。

まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。

……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

890 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:00:56.908 ID:1BjummYA0
――希望を祈念する白髪の女性だった。

891 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:01:37.131 ID:1BjummYA0
Route:D


                   Chapter0

892 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:04:22.380 ID:1BjummYA0
……私は、現を見ていた。

私は【鏡】を胸の中で抱き、そこに広がる現を、見つめていた。
そこに在る世界。【鏡】の中で広がる世界では……天空に浮かぶまあるい月。

いつの日か、月を見て、自分自身をこう思ったことがある――。
私欲の果てに、月のような存在と呪われた成り果てた――哀れなる乙女だと。

それは……一時の欲望に身をゆだねてしまった愚かな女の思いだ。
太陽が消え去って月と成り果てた……死を捨てた愚かな女の……。

ざんの肉を喰らった呪いは、私の中に永遠と刻み付けられているのだ。

――生きとし生けるものには、終わりがある。
しかし――私の中の呪いは……その終わりを良しとはしない。
これは、ある意味で滑稽な話だ……。私は、初めに望んでいたものは……死だったのだから……。


893 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:07:21.466 ID:1BjummYA0
それでも――。

それでも、私の見る月は、永遠と沈むことなく天空に浮かんでいた。
朝に姿を隠すはずの変若水の在る場所は、今や――永遠のものとなっていた。

それは私にとってひどく違和感のある場所でもあった――。
私のたどり着くべき場所ではない――そんな予兆が、身体のどこかで叫んでいるようでもあった。

世界を見渡せば、幸せそうに歩く女性たちが見える。
友人として――あるいは恋人として――。

それはとても素敵な世界に思えた。幸せそうに暮らす人々の生き様……そして、終わりを迎える……。
……けれども、私の中で大切な何かが失われているという予感はあった。

――今の私には、過去の記憶がなかった。
すべてが抜け落ちていた。私という器は、記憶という名の水を溜めることができず、すべてを洗い流してしまっていた。

894 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:09:39.711 ID:1BjummYA0
???
「―――」

ふと、私の中に――何かがよぎる感覚があった。
そうだ……私は……。

――この世界は、あってはならない。

その言葉が頭の中で響き渡った。
そうだ――この【鏡】の向こうはあってはならない世界。

私は――この世界から抜け出さなくてはいけない。
理由は分からない。けれども、その強迫観念にも思える感情は、
原始的な恐怖のようでもあった。

私は、今一度……【鏡】を力強く抱いた。
三つ足のカラスの骨をかたどった外装は、脆そうな見た目に反して、きしむ音ひとつ立てない。
カラスの立ち姿が、私にとって、とても力強く見えた。

――そのまま、私は祈るように目を瞑って……。

895 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:10:41.350 ID:1BjummYA0
4人目の主人公とはいったい誰だろう……

896 名前:きのこ軍:2020/12/22(火) 22:09:46.449 ID:wHdr1uW6o
更新おつ 儚い出だしですね

897 名前:Route:D-1:2020/12/23(水) 21:59:13.827 ID:xN/CTYgs0
Route:D


                   Chapter1


898 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:01:06.335 ID:xN/CTYgs0
――――――。

空に浮かぶは満ちた月。影に隠れることなく円い鈴がそこに存在している。
月下に照らされた大地の上には、龍しかり、キマイラしかり――空想上の生物が蔓延っていた。

その光景は、一見すれば夢の中で描かれる幻のようにも思える。
……だが、それは紛れもない現実であることを、私は理解していた。

やがて、巫女装束の女性が現れた。彼女の髪は黒く、腰よりも下まで伸びている。
横の髪は結わえているけれど、それでも胸まである長さだ――。

――黒髪の女性は、腰に携えた太刀を抜き、視線をある一点に向けた。
その視線の先には、赤いロリヰタ服を着た少女……。
彼女の手には漆黒の【剣】があった……。それを見ると、どくんと心臓が跳ねた。

女性と少女を見た私は、その光景を見るや否や、目を見開いて、ぎゅっと手を胸の前で握った。
祈るように……祈りを捧げる巫女のように……。


899 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:02:44.618 ID:xN/CTYgs0
女性には、面識はないはずなのに既視感を覚える。
……それがどうしてかは分からないけれど、私の身体は痺れるようなぴりぴりとした感覚があった。

そして……少女は――私にとって、たいせつなそんざい。自らを犠牲にしてでも守りたい存在でもあった。
それは理解していても……――どうして、たいせつなそんざいなのかは、分からない。
思い出すことができない。記憶が失われているから……。

それでも、ただ、心の奥で――
あるいは本能で――そう感じ取っているのだけはわかる。

……やがて、少女を中心として赤い薔薇の花びらが浮かんだ。
その赤い花びらの周りには、白い瘴気が纏わりついていた。

その光景が、私にとってひどく不吉なものに見えた。
まるで、羽を得た青年が天を目指し続けたが為に命を落とすような感覚を覚えたからだ。

……少女に呼応するかのように、女性も花びらを浮かべた。
それは少女とは対照的で、白百合の花びらで、周りには黒い瘴気が纏わりついていた。
赤と白――白と黒――それらの花びらと瘴気がぶつかり合いながら、二人は戦った。


900 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:05:08.012 ID:xN/CTYgs0
――どれほど、戦っていただろう。
どれほど、二人は戦っていたのだろう……。

???
「っ――――!」

切り裂く音が、耳に響いた。遅れて――血が滴り落ちる、とても嫌な音が耳を通り抜ける。

呆然と……私はその景色を見ていた。

少女はぐらりと、糸が切れたようにバランスを崩して仰向けに倒れ、
女性は、だらりと血の滴った太刀をぶらさげながら、立ち尽くしていた。
戦いの終わりを示すかのように、二人を纏った花びらは消え、少女の胸で渦巻く黒い瘴気と、地面に突き刺さった【剣】がそこに残っていた。

???
「あ――あああ―――っ」

その惨劇に、私は思わず号泣していた。
大粒の涙がぽろぽろと落ちる。拭う事もできず、呆然とその光景を見つめるばかり……。
その間も、眼から溢れる涙は尽きることなく流れ続けた。

ぽたりと、涙が鏡面に落ちる。
その向こうで滲んだ景色は……惨劇の光景を映し続けている……。


901 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:08:37.113 ID:xN/CTYgs0
黒髪の女性
「ごめんね、ごめんね―――――」

なぜか、女性は少女を抱き寄せ、返り血で衣服が汚れるのも厭わず、少女の為に泣き続けた。
どうして――?少女を殺すことは、彼女にとってそれほど苦痛だったということなの――?
自分で、斬ったというのに……?

――やがて、泣き切った女性は、魂が抜けたかのようにその場に立ち尽くしたかと思うと、
太刀で己を突き刺し、ぽたぽたと血の花を地面に咲かせた。
同時に、月が蝕まれ、血のように紅く染まり、彼女を中心として白い花びらと黒い瘴気が生まれてゆく……。

しかし……自らを刃で突き刺しているのに、女性に死の気配はなかった。
私はひどく恐怖の感情に苛まれる……。
まさか――彼女――も――。

呆然としているうち、女性は首に掛けた【勾玉】を呆然としたように握りしめていた。

立ち尽くしたような――それでいて、彫像のように綺麗な姿勢を保った女性と、
白と黒のコントラストは何度見ても忘れられないと思えるほどに印象的だった。

さらに花びらは増えてゆく。花吹雪のように……それはふわりふわりと空を舞っている。
ふわりと瘴気によって辺りを漂い、風か、あるいは何かの意思によって遥か遠く、天の頂から海の底まで舞い散った。

――天の紅い月は、まるで彼女の意思に呼応するかのように、世界すべてを埋め尽くすかのように輝いていた。


902 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:10:11.827 ID:xN/CTYgs0
ふと、私は気が付いた。
……これはとてつもない凶兆であることに。

止めなくてはいけない。目の前で起きた悲劇で心を締め付け、立ち止まっている場合ではない。
そう考えている間にも、私の周りに白い花びらや紅い光が見えた。

……同時に、私の下腹部に違和感があった。
それは己が性別の立ち位置を塗り替えるかのような、根源的な変化のようにも思えた。
必死に耐えようとしても、抗うことすらできない。ただただその超越的な流れに流されるだけだった。

???
「駄目――このまでは、世界は――」

身体を包む違和感で、心がおかしくなりそうだった。
それでも、私は歯を食いしばって、【鏡】を抱きしめて祈りを込めた。
その凶兆を、その悲劇を、食い止めるために――。

???
「願わくば――どうか――私に【力】を――」

天は砕け、辺りからは水しぶきが津波のように降り注ぐ。
白い花びらと黒い瘴気が、私を中心として押し流されてゆく。

やがて、彼女の【力】が全てを包み込むと同時に――

                     世 界 は 終 わ り を 迎 え た 。



903 名前:SNO:2020/12/23(水) 22:10:34.813 ID:xN/CTYgs0
世界終わっちゃった

904 名前:Route:D-2:2020/12/24(木) 19:24:21.418 ID:IpHWips20
Route:D


                   Chapter2

905 名前:Route:D-2 神鏡:2020/12/24(木) 19:25:57.436 ID:IpHWips20
――――――。

気が付くと、私は寝台の上で眠っていた。

???
「今の光景は――――夢――?」

髪をくしゃりと掴みながら……私は呆然と佇んでいた。

記憶の中には、斬られた少女の亡骸が焼き付いている。
その光景は、現実に起きた出来事だ。白百合の花びらが、自分自身の周りにも運ばれたのだから……。

だが、【鏡】の向こうに映る景色には、少女の亡骸も――
女性の引き起こした凶兆も……過ぎ去ったのかのように、
あるいは、初めから存在していなかったかのように――

……静寂だけが、そこにはあった。


906 名前:Route:D-2 神鏡:2020/12/24(木) 19:28:04.933 ID:IpHWips20
???
「…………」

私は、傍らに置かれていた【鏡】を手に取り、鏡面を見つめていた。
【鏡】からは、限りない神々しさを感じさせられる。まるで、雲一つない日に照る太陽のように……。

【鏡】は、周りは三本足の烏をモチーフにした飾りで彩られ、鏡面は、一点の曇りもない銀が広がっていた。
私は、【鏡】に映る自分自身の姿を覗き込んだ。

雪景色のように真っ白な髪と、透き通るような白い肌と、血のような赤い瞳――。
――色素を欠いたその姿は、確かに私なのだと認識できる。

その顔は、不安に満ちた沈んだ表情だ。
……それもそのはず、絶望の景色を見たのだから……。

……また、身に纏う服は夜闇のような黒装束で、白い身体をより際立たせていた。
この衣装も、私が私であると――自己の存在を証明しているのだとわかる。

……これは尼僧のものだ。私は比丘尼に属する存在ということなの……?
確信は持てなかった。
なぜなら――今の私に、記憶というものがまるで存在しなかったからだ。

私の中にある記憶、それは――凶兆の景色、ただそれだけ。


907 名前:Route:D-2 神鏡:2020/12/24(木) 19:28:58.652 ID:IpHWips20
だから――私の名前は分からない。
ここがどこなのか――この【鏡】がどういったものなのかもわからない――。
記憶を引き出そうとしても、思い出すことが出来ない。

少女が斬られたその光景――その景色がわたしにとってのすべて。

???
「これが、私なのか……
 でも、どうして私と、そう言い切れるの?」

ぽつりと、不安げにつぶやいた声は、誰にも聞こえることはない。
鏡の中で私は困惑した表情をしていた。これは……本当に私なの?

直感に頼ることすらもできない。その直感に必要な経験が今の私にはまるで存在していないから。

しばらくして、私は【鏡】を抱えながら、自分自身に想いを馳せているうち、思考の渦に全身を集中させ……。
祈るように、目を瞑って……深い処へと沈んでいった……。

908 名前:SNO:2020/12/24(木) 19:29:30.883 ID:IpHWips20
白髪多いって言われるんよ 否定はできないんよ

909 名前:きのこ軍:2020/12/24(木) 20:07:44.739 ID:GnS96FwIo
D-1の文章すごくよきですね。お上手になりましたね。。

910 名前:Route:D-3 :2020/12/24(木) 23:11:58.277 ID:IpHWips20
Route:D


                   Chapter3

911 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:16:53.781 ID:IpHWips20
――――――。

気が付くと、【鏡】の向こうでは……岩山に立つ男女が二人。
ひび割れ、茨が絡み付く城壁を見下ろしていた。
空に浮かぶ月は、完全な望月ではなかったものの、まもなく満ちようとしている形だ。

……二人は、白い髪と白い肌……まるで、私のように……
しかし彼らの白は私とは違う白にも思えた。
色素を欠いた私とは違う――そんな、白色。

それに、眼は私とは違う。彼らは黒い眼球に青白い瞳を持っていた。
………彼らは、何者なのだろうか。

二人とも、スーツを着込んでいる。――なにより女性は、その脚と右腕を鋼の義肢へと変えていた。
全身から醸し出す雰囲気は、一般人――ではあるまい。

少なくとも、上に立つ立場の存在に思える。
帝国の主……すべてを束ねる頂に居る存在に……。
私は、彼らからそれほどの威圧感を【鏡】越しに感じ取っていた。

912 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:43:38.461 ID:IpHWips20

「………もはや、これまでか」

男性は、タバコの煙をくゆらせ、達観したように呟いた。
その眼下には茨の城壁。これは彼らにとっての城なのだろうか……?


「……そうですわね、弦夜
 姫様を止めることが、不可能になってしまいましたわ」

弦夜と呼んだ男性に、腕を絡める女性。
その仕草は、上下関係を感じさせない――むしろ同等にあるように思えた。

弦夜
「……この分だと、俺の命も長くはもたんな――」


「そうですわね……
 まぁ、リーダーの不灰を始末できて、あの組織を崩壊させられたから……
 それだけは、救いですわね……」

二人は、月を見上げながらぽつりとつぶやいた。
何かを成し遂げた――それでいて、とても寂しい感覚があった。

私は、二人の姿にとても儚さを覚えていたのだ。

913 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:47:15.216 ID:IpHWips20
弦夜
「ああ……それより、彼女たちの方はどうだ?」


「ああ、あの子たちなら
 ブラック……いいや、闇美(ヤミ)に一任していますわ」

弦夜
「そうか……彼女ならば、問題はあるまい」

二人の言葉からは、死を覚悟している……そんな感情が読み取れた。
一体、二人には何があったのか……私には分からない。

二人には迫り来る死への恐怖は感じ取れない。受け容れようとする強い意志がそこにはあった。
それは決して揺るがすことのできない固く強い意志……。


「ねぇ、弦夜――
 今からでも、姫様を――鈴鶴(すずる)様を始末することは、敵いませんか?」

弦夜
「……彼女は既に、女神の【力】とその血でもって――常人を凌駕した存在となっている
 それに彼女は輝夜の娘――手出しは無用だ」

懇願するような女性の声を、弦夜は手で制す。
一体、何の話なのか――わたしにはわからない……。


「……そう
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

914 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:54:32.571 ID:IpHWips20
弦夜
「もう、それ以上は言うな……
 ――敗者は何も言わず立ち去る……それだけだ」


「わかりましたわ……
 では、弦夜……鈴鶴様が完全に目覚めたその時は、貴方のことを私が殺してあげます
 貴方の命を奪っていいのは、私だけしか、いないのだから……」

ぎらりと光る女性の眼は、私にも伝わるぐらいに震えていた。
彼女は――もしかしたら――弦夜と、心中するつもりなの――?

弦夜
「……昔から、君はそうだったな」


「――当り前ですわ
 【力】が目覚める前から――そして目覚めたときも、弦夜のことが好きだから
 ……お願いだから、私と……最期の時までを……」


「この崩れ落ちそうな世界でも――逢瀬も夜伽も――まだできる余地はあるでしょう?」

女性はすでに泣いていた。鋼の義肢を持つ姿にこぼれて光る涙は、
儚いガラス細工のように夜空を抜けていた。
……その仕草は、声色は、表情は……彼らが間もなく死の運命へ誘われることを示していた。

弦夜
「ああ……」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

915 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:57:20.215 ID:IpHWips20
私が目を開けたとき、【鏡】の中の景色は薄れ、
そこには――銀色の鏡面と、私の顔だけが映っていた。

……これは、どういうことなの?
あの悲劇を……二人は知っているの?

――分からない。わからない。ワカラナイ……。

彼らはも死を受け容れようとしている。まるで、寿命の終わりを悟ったかのように。
彼らの仕草は、声色は、表情は……彼らが間もなく死の運命へ誘われることを示していた。

……あの凶兆が、原因なのだろうか。

――私は、彼らの姿勢が、彼らにとっての幸福のようにも思えた。
同時に――それが間違っているようにも思えた。

この矛盾した、あやふやで、あいまいな感覚。その原因は何?
私はその意味も分からずに……ただ、【鏡】を抱きしめて……。

916 名前:SNO:2020/12/24(木) 23:58:01.839 ID:IpHWips20
夜伽の意味はググってしらべてみてね!

917 名前:きのこ軍:2020/12/25(金) 09:19:27.093 ID:fAyENffMo
わからないです!(純粋)
展開は前章と同じだな

918 名前:Route:D-4:2020/12/25(金) 20:16:11.307 ID:R3YSSkEw0
Route:D


                   Chapter4

919 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:18:00.268 ID:R3YSSkEw0
――――――。

気が付くと、私の隣には、ひとりの少女が座っていた。
後ろで束ねた紺碧色の髪と、翡翠色の瞳をした女性は、恐る恐る――といった表情で私の顔を覗いていた。

――女性についての記憶は曖昧で、名前もすぐには出てこない。
それでも、私の中には引っかかるものがあった。
記憶は欠落していても、身体は覚えている――ということだろうか。

???
「バラガミ、大丈夫?」

自然に話しかけてきた少女の様子から、彼女は自分自身の事を知っていると読み取れるが、
どういった関係性なのか……、それは私にはわからない。

――彼女はバラガミと私を呼んだ。それが私の名前なの?

バラガミ
「……ええ」

少女の出したバラガミという呼び名。
その呼び名に思い当たる節はないものの、欠けた破片がはまったように、
しっくりと受け止められ、流されるままにその名前に頷いた。


920 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:24:28.404 ID:R3YSSkEw0
バラガミ
「ええと……貴女は……?」

それでも、目の前の女性が何者かはわからない――。
……困惑しながらも、私は訊ねた。

???
「また、記憶の欠落があるのね――」

……特別、私の発言に疑問符を浮かべなかった女性の発言から、
彼女と私とは少なからず付き合いがあったことが伺えた。

悲劇的な光景から今に至るまでの過程を、思い出すことができない。
そして、自分自身の過去すらも思い出せない。

理由も知らないまま、【鏡】を通して世界を見る事で何かを感じただけ。
そんな私に、女性は優しく答えを返した。

細波
「じゃあ、もう一度伝えるわ
 私は細波(さざなみ)――」

細波。穏やかな波を意味する言葉は、静かな彼女の振る舞いと口調に相応しい名前だった。


921 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:29:33.429 ID:R3YSSkEw0
バラガミ
「……細波、色々と聞きたいことがあるのだけれど」

細波
「私が答えられる内容のものならいいけれど」

――不安が胸を過る。それでも私に訊ねなくてはいけない。

バラガミ
「……その、白い花びらを纏った花吹雪がこの辺りを舞ったことを覚えている?」

――あの、恐ろしい凶兆を……。思い返して、身体が少し震える。

細波
「……白い花びら……花吹雪……?
 ごめんなさい……ここに花びらなんて舞ってはいないわ……」

――しかし、私の感情とは裏腹にきょとんとした表情で、細波は答えた。

バラガミ
「……え?」

細波
「……貴女も女神の血を引いているから、予知夢を見たのかもしれないけれど
 ……少なくとも、私はここで花吹雪は見ていないわ……もちろん、夢の中でも」

きっぱりと断言した細波の言葉に、私は呆然としていた。
少女が斬られた場面は、脳裏に深く刻み込まれているし、あの紅い月は見たら忘れる事なんて出来ない。
それなのに……あの光景は、夢幻の世界での出来事だった――というの?

922 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:30:56.018 ID:R3YSSkEw0
細波
「……大丈夫?顔色が悪いけれど」

バラガミ
「……いえ、大丈夫」

心配そうに顔を覗き込む細波の言葉を、わたしは手で制した。
……あの出来事は、少なくとも私の中で留めておくべきだ、と感じたから。

細波
「なら、いいけれど……
 他に、私に訊きたいことはある?」

バラガミ
「――いいえ、大丈夫
 また、尋ねることはあるかもしれないけれど」

細波
「分かったわ……私は、いつもの場所に居るから……」

立ち去る細波の、後ろで結わえられた髪が揺れる様子を、私はぼうっと眺めていた。


923 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:40:43.303 ID:R3YSSkEw0
バラガミ
「……女神の血」

細波はそう言った。自分の中には女神の血が流れている――と。
正直なところ、身に覚えがないが、彼女に嘘を言っている気配は感じ取れなかった。
彼女の言葉を信じるならば、予知夢という結論になるが……。

どうしても、その答えは違うような気がする。
身体が感じ取った凶兆は、確実に現実の出来事だった。
花吹雪が自分自身の周りにも表れ、紅い光が見え、身体の変質を感じ取った記憶。これが夢であるはずはない。

バラガミ
「わからない……わからない……」

もし、凶行が現実に起こっていたのなら、細波も覚えているはずだ……。
――もしかしあら、あの悲劇は、【鏡】を通して見ていたから、私だけが知りうる事柄なのかもしれないけれど。
……だが、あの凶兆までを忘れるとは考え難い。それは、私の周囲にまで来ていたから。

矛盾した情報が、どう結び付くのか。
それを思い出そうと、目をつぶっているうち、私は自然と【鏡】を抱きしめていて――。

924 名前:SNO:2020/12/25(金) 20:41:16.263 ID:R3YSSkEw0
誰かの予想は当たったのかなぁ?

925 名前:きのこ軍:2020/12/26(土) 12:25:37.073 ID:ORB7yMpoo
バラガミ伝説が関わってくるという予想までは当っていた。

926 名前:Route:D-5:2020/12/26(土) 13:12:14.501 ID:vXvv.fQI0
Route:D


                   Chapter5

927 名前:Route:D-5 塔:2020/12/26(土) 13:13:29.029 ID:vXvv.fQI0
――――――。

私が祈っている間に、いつの間にか、【鏡】の向こうでは、どこかの荒野での戦いが写っていた。

バラガミ
「これは……?」

そこには、茸の傘のような頭頂部をした、浅黒い肌の醜悪な見た目の生物が、緑や黄色の軍服を着た兵士たちを薙ぎ倒していた。
その生物の胴と比べると極めて短い手足が虫のように地面を這いずり回るしぐさは、【鏡】の向こうから見ても気持ち悪さを覚えるほどだ。

バラガミ
「……そんな」

悲劇を食い止める祈りは通じなかったのか――私は、落胆した気持ちでその惨劇をただ見ていた。

兵士
「ひるむな、DBを倒すぞーーーッ!」

兵士たち
「了解です、山本さん…!ウォオオーーーーーッ!!」

リーダーと思わしき屈強な兵士――山本の表情は鉛のように重々しく、しかしどこか諦観の念も感じさせる表情をしていた。
それでも、その感情を声に出さないように活力を振り絞っており、軍人としての意地を感じられた。
その声を皮切りに、兵士たちは鼓舞しあい、辺りは大歓声で沸いた。

――まだ、希望は……あるの……?
わたしは、祈るようにその光景を見ていた。


928 名前:Route:D-5 塔:2020/12/26(土) 13:17:39.129 ID:vXvv.fQI0
だが、DBと呼ばれた生物は、どうやら身体から悪臭を放っているらしく、
近寄るだけで兵士たちの表情が苦悶に歪み、昏倒する者までいた。

DB
「ヴォーーーーーッ、大量撃破、大量撃破……」

DBのしわがれた老人のような声は、【鏡】の向こうからでも嫌悪感を覚える。
つまりは……DBは、徹底して不快感を与えさせる生物ということだろうか。

バラガミ
「……どうか、彼らに幾ばくかの加護を」

私はただ祈るだけだった。
それが直ぐに結びつかなくとも――祈り続けることが、自身の存在意義なのだと思えたから。

兵士
「グフフ……俺は強い方が好きだ!会議所なんていられるかっ!」

が……その祈りもむなしく、戦況は悪化するばかり。
兵士たちの攻撃は当たれど、致命傷になっていない……。

バラガミ
「あ……ぁあぁぁぁ……」

私の口からは、絶望に染まった声が漏れた。
そこにあるのは……DBによる、蹂躙だったから……。

929 名前:Route:D-5 塔:2020/12/26(土) 13:20:22.033 ID:vXvv.fQI0
それどころか、DBと対抗しているはずの兵士たち――恐らくは、【会議所】という場所に属するであろう兵士たち――
彼らが、洗脳されたかのように裏切り始めた。

残酷な現実――先程までの熱意はとうに消え、兵士はひとり――また一人と崩れ落ちてゆく。

DB
「コレデ、終戦だァアアアあアアアアア」

山本
「ぐあアアアーーーッ!!」

そして、最後まで立ち向かっていた兵士が朽ち果てる様子を見て――
DBと、死体の山の重なる荒野を見て――

バラガミ
「……っ」

私は、【鏡】を抱きしめながら、ふらりと地面に倒れ込んだ。
その悪夢のような光景――現実を、変える事すらできない悲しみに包まれながら……。

私は……ひどく悲しい気持ちになっていた。
私の無力さが浮き出るようにも思えた。それほどに……私の心はズタズタだった。

私は、不意にぎゅっと目を閉じた。その光景から逃れるために……。
あるいは、何かに祈りをささげるために……。

世界は暗黒に染まる。一つの光もない闇で私は――――

930 名前:SNO:2020/12/26(土) 13:20:57.097 ID:vXvv.fQI0
章題の意味するところとは……

931 名前:きのこ軍:2020/12/26(土) 22:11:43.839 ID:ORB7yMpoo
タロットか

932 名前:Route:D-6:2020/12/26(土) 22:41:20.951 ID:vXvv.fQI0
Route:D


                   Chapter6


933 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:05:13.100 ID:vXvv.fQI0
――――――。

気が付くと、私は、【鏡】の向こうで起きる出来事を見つめていた。
やはりその過程は分からない――だが、そのことすらも考えさせない光景が【鏡】の向こうに写っていた。

それは、またしても悲劇。
自分が出来ることは、【鏡】を通してその光景を見るだけで、その事実に介入することはできない。

???
「これで……残りは、ひとり……
 あはははは、それにしても、私はほんとうに愚かだねぇ、ほんとうに……あはははは……」

呆然と……心を失ったように、嗤う女性の声が聞こえた。
角を生やし、紫紺色のローブに包んだ彼女の手には……
片手に翡翠色に輝く三叉槍のような剣と、もう片方の手にレモン色の魔法弾があった。

剣からはぬめぬめと輝く血がどろどろにこびりついていた。
何人も斬ったのか……辺りにはバラバラにされた男たちの死体も転がっていた。


「ま、待ってくれ……た、たすけ……」

ブルブルと震える男が、腰を抜かして後ずさりながら女性を見ていた。
あまりの恐怖に失禁し、がたがたと歯を鳴らして震える様は、憐れにも思えるほどだった……。
その向こうでは、恐らくは店舗であったであろう家屋が、業火に包まれていた。

???
「は?何、冗談言ってるの?あははははっ、イラない存在だからまともに考えられないのかな?
 そっかぁ……エレガントでハッピーな二人の関係を破壊したのにそんなこと言えるんだぁ……
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

934 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:06:14.719 ID:vXvv.fQI0
その隣では――泣き叫ぶ少女の声があった。

女神の血を引いている――と細波は言ったが、それが何だと言うのだろうか。
ここにあるのは絶望だ……。私は、悔しさに唇を噛んでいた。

???
「シズ!シズーーーーっ!」

シズと呼ばれた長身の白髪の女性は、地面に崩れ落ちていた。
銃弾が胸を貫いたことが、致命傷になったらしい。すでに赤黒く変色した血は、時間の経過を思わせた。
シズの身体に、小柄な白髪の少女が縋りつき、泣き叫んでいた。

少女の悲愴な声が胸をきゅっと締め付ける。その光景は、紅い月の時のように、私の心を深くえぐった。

辺りにも死体が散らばっており、軍服を着た男たちが折り重なるように倒れ伏していた。
白い髪に黒い髪――金色の髪――さまざまな種族の者たちが崩れ落ちている。
シルクハットに、拳銃に、軍帽に……様々な装飾品も散らばっていた。


935 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:13:55.120 ID:vXvv.fQI0
そして……紫紺色のローブを着た女性は、先ほどとはうって変わって、
慈しみを浮かべた儚げな表情で、泣き叫ぶ少女を抱きしめていた。

少女
「……な、なく、ちゃん」

絞り出すような少女の声は、蚊の鳴くほどに小さかった。

なくちゃん
「――フチちゃん、守れなくて……ごめんね」

なくちゃん――と呼ばれた女性は、その場に広がる死体を見つめながら、口惜しそうにそう呟いた。

フチ
「なくちゃんは……謝らなくていい
 ……義兄さんも加勢してくれたけれど、多勢に無勢で――貴女が来てくれなかったら……あたしも……」

フチは折り重なる死体の一角に目線を動かし……再びなくちゃんと呼んだ女性を見た。

フチ
「……シズが死んじゃった
 シズが、シズが……」

フチにとってシズは大切な存在だったのだろう。その取り乱しようは、ヒビの入った硝子細工のようだった。
そして、耐えきれなくなったのか、魔族の女性の胸にすがりつき、泣きじゃくっていた。

なくちゃん
「……ごめんね
 私が、遅かったばかりに……【嵐】からふたりを守れなかった……」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

936 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:17:30.190 ID:vXvv.fQI0
二人はとても儚い存在に思えた。
同時に私の心はひどく衝撃を受けていた。悲しみが胸を包み、目頭が焼かれたように熱い。

フチ
「あ……ぁぁぁ……」

フチの涙が流れ落ちる。体が震える。

そして私もまた――涙をあふれさせていた。
心がずきずきと痛んだ。悲しみにむせぶ二人の姿が、私の心を押しつぶさんとしていた。

その、悲愴な光景を見ながら、私は――再び祈った。
この悲劇に巻き込まれた女性への救いを。この景色を観測している私にできることはそれしかないのだから。

私は、涙を浮かべながら……。

バラガミ
「私に、悲劇を食い止めるためのいくばくかの【力】を――」

【鏡】越しの景色に重なるように映った私の表情は真剣そのものだった。
涙に滲んだ視界に映る私の姿を見て、確かに私には女神の血が流れているのだと、客観的に感じ取っていた。

そして深く祈りを捧げる私の思考は、現から徐々に乖離し始めて……。

937 名前:SNO TIPS:2020/12/26(土) 23:26:27.439 ID:vXvv.fQI0
-愚者
タロットの大アルカナに属するカードの1枚。
カード番号は0や、あるいは無番号で表記される。

正位置は自由、無邪気、天真爛漫、天才
逆位置はわがまま、ネガティブ焦り、意気消沈などを示す。

無計画に旅を始めようとする足元の危機に気が付かぬ危うさはあれど――
……純真無垢で前へ進める自由な可能性を秘めた存在なのかもしれない。

938 名前:きのこ軍:2020/12/27(日) 09:34:06.394 ID:ReflaknAo
魔王が愚者だったかはえー 続々と明らかになっていくし悲しい

939 名前:Route:D-7:2020/12/27(日) 20:29:26.119 ID:eHtH7kKg0
Route:D


                   Chapter7

940 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:31:34.274 ID:eHtH7kKg0
――――――。

気が付くと、私は寝台の上で横たわっていた。

バラガミ
「――【鏡】、【鏡】はどこ?」

【鏡】は胸の中に――何事もなかったように治まっていた。
……まるで子供を撫でるように、私はほっとした表情で鏡を見つめていた。

バラガミ
「はぁーっ……」

そして、溜め息を一つ落とした。

死の運命に抗うことなく受け入れる男女の姿は――
先程のDBに蹂躙される兵士たちの光景は――
泣き叫ぶ少女の声は――

すべて、私の心を苦しめんと締め付け、私の表情に暗く陰を落とした。
透き通る白い肌に浮かぶ陰影は、まるで、つくりもののように綺麗で――そして、淋しく見えた。

……これは私なのだとわかっていても……いまだ、現実感はなかった。


941 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:40:06.962 ID:eHtH7kKg0
ふと、私は部屋を見渡した。
自分は何処にいるのだろうか。これまで【鏡】を通して絶望的な光景を目にしていたが、
自分自身やその周りを――もっとも近くにあるものを見ていないということに思い至ったからだ。

部屋の壁や床には、赤を起点とした豪華絢爛な飾りがされており、寝台もよく見れば高貴な者の使う特別なのものだ。
装飾は8つの首を持つ龍をあしらえたものだ。とても丁寧な、雲に囲まれるその姿は……
神を祀る――それほどまでに大きな存在なのだと、なぜだか感じ取っていた。

……私には記憶はなくても、その神々しさは本能で感じとったのかもしれない。

次に、窓の外に目をやった。
……しかしその世界は暗黒で包まれていた。夜――ということ?

――ふと、私の身体がぶるぶると震えた。不意にあの凶兆を思い出してしまったからだ。
……それでも、震える身体に鞭を打ち、壁にしがみつくように手をかけ、窓の向こうへと目を向けた。

その世界では……泡が立っては空へと消えていた。
ここは一体……。

バラガミ
「わからない……ここは……いったい」

ここも――夢幻の世界の一部なのだろうか?

バラガミ
「ここは――どこ――?」

呆然としながら、私は呟いていた。
行き場を失った声が部屋へと充満していく。空気は重く、私の心もそれに併せて重くなってゆく。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

942 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:42:33.305 ID:eHtH7kKg0
バラガミ
「さざ…なみ……そうだ、彼女に……」

そこで私は思い出す……細波は、近くにいるはずだ。
彼女を呼んで、身の回りのことを、聞いて……今の状況を判断しなくては!

――そう思ったが、考えようとした途端に頭痛が私を襲った。

バラガミ
「――っ!」

その痛みは、まるで周りのことを考えさせないようとばかりに、ずきずきと脳内に響いた。

バラガミ
「痛い――はぁ、はぁ、はぁ……」

考えることをやめる、息を荒くしながら寝台に身を投げた。

……すると途端に痛みが引いた。
まるで、考えないようにを指示されているかのように――。

バラガミ
「……この痛みは、意味のある痛みなのかもしれない」

――突然、閃きとともに私は一つの仮説に至った。
それは突拍子もないものだった。無から突然生まれたものでもあった。

943 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:48:19.823 ID:eHtH7kKg0
バラガミ
「理由は分からないけれど、私は、女神と呼ばれている」

――その事実だけは、嘘偽りではない。
確実に……私は女神なのだ。そう言えるだけの根拠は、ない。
しかし――私の何かが……それを認めていた。

バラガミ
「私が女神だというのなら、女神として、この苦難を受け容れる――」

……救われない悲劇に、周りのことが分からない。
私はまさに籠の中の鳥のように……何も知らない白鷺のようにまっしろな存在だった。

そして【鏡】越しの光景に心を痛め、白は黒に染まってゆく。
何も――私にできることはない。それでも……

バラガミ
「――私の周りに訪れた……あるいは訪れる苦難に、私は目を逸らさない」

私は、そう決意した。

バラガミ
「それが、絶望しか見えない今、私の出来る唯一の行動だから」

鼓舞するように、私は呟く。
鏡面に映る私の顔は真剣そのもので、赤い瞳は、まるで焔が宿ったかのように燃えていた。
そして、再び【鏡】を抱いて祈りを捧げ始めた……。

心は祈りというひとつの行動に集約されていた。
やがて、私の視る景色は揺れる水面のように流れて行って……。

944 名前:SNO:2020/12/27(日) 20:48:50.996 ID:eHtH7kKg0
表現むずいんよ。

945 名前:きのこ軍:2020/12/27(日) 21:22:19.976 ID:ReflaknAo
でも書きながら成長している感ある

946 名前:Route:D-8:2020/12/28(月) 18:38:31.871 ID:k8gQLupY0
Route:D


                   Chapter8

947 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:42:22.830 ID:k8gQLupY0
――――――。

【鏡】の向こうでは、再びどこかの景色が写っていた。
巨大な城の後ろにそびえる険しい山の頂上で、一人の天狗の女性が座っていた。

背中に生えた翼は、左は黒、右は白――髪も、正中線を境に左は黒、右は白と分かれていた。
その顔は、右目を縦に、と左頬を横に走る傷が刻まれ、さらに右目がつぶれていることも相まって、いやがおうにも威圧感を覚えさせる。
頬を撫でる左手も、中指は第一関節より上から――薬指と小指は、第二関節よりも上からを欠損していた。

天狗
「――あの人は、ひと月もしないうちに目覚めるでしょう」

寂しそうな天狗の声。
あの人とは誰のことなのだろうか――【鏡】越しに対話する事もできないから、私には分かりようもない。

天狗
「――わたくしに出来ることは、彼女を導くことだけ……」

ぽつりと零れた言葉は、苦難を受け容れようと決意した私のように、決意に溢れていた。

天狗の女性は、ばさりと翼を広げると、山頂から飛び立ち、城から少し離れた所に広がる荒野に降り立った。
孤独に佇む背中は、何かを背負っているような重さを感じられた。


948 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:44:44.423 ID:k8gQLupY0
その時、天狗の前に、屈強な数十人の兵士たちが武器を持って詰め寄った。

兵士
「ネエチャン、確か――ブラック……だったな?目障りなので仕留めてやるよ」

――ブラック。その名前には聞き覚えがあった。
……弦夜と一緒に居た女性が語っていた名前だ。

弦夜
「そうか……それより、彼女たちの方はどうだ?」


「ブラック……いいや、ヤミに一任していますわ」

――しかし、彼女の言い方からして、天狗の名前はヤミが正しいようだ。
少なくとも――彼らにとっては、天狗の名はブラック……そういうことなのだろうか。
……私には、ヤミという名前の方がしっくりと来た。

兵士
「待て待て……捕まえようぜ、仮にも天狗の女だぞぉ?初めて見る女じゃないか」

兵士
「確かに、天狗なんて見たこともないからなぁ……」

にやついた口元と、漏れる言葉は品性を感じられない。
下劣そのもので、吐き気を催しそうなぐらいに醜い。

腐臭に塗れた欲望という名の塊。
それらは大地をも汚さんとばかりに……辺りに浸食していた……。

949 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:46:18.770 ID:k8gQLupY0
ヤミ
「……お前らのような奴が、あの人を不快にさせる……
 蛆虫よりも醜い……生物とも物質とも認めたくない、悍ましい存在が……
 お前らのような存在が……あの人を……繭から目覚めさせた……」

天狗――ヤミは、冷たい言葉を吐き捨てた。
恨みが篭ったかのように、その目元は怒りでつり上がっているようにも見えた。

兵士
「ハン、生意気なアバズレがぁ!」

ヤミの言葉にいきり立った兵士たちは、剣や杖を構えて天狗に襲い掛かった。
その勢いはまるで吹きすさぶ嵐のよう。彼女はそれに耐えることができるのか……じわりと汗が流れるのを感じていた。

ヤミ
「すぅうううう――――――っ」

……一方の天狗は、ただ一呼吸してその場に立ち尽くすばかり。

バラガミ
「――――!」

この後に起こる光景――それは、再び絶望なのだろうか。目を覆いたくなるような惨劇なのか。
私は、ぎゅっと目を瞑りながら、天狗の無事を祈った。

ヤミ
「――はっ」

私の祈りが通じたのか――あるいは、天狗の実力なのか。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

950 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:48:29.122 ID:k8gQLupY0
兵士たち
「うぐぁああーッ!」

断末魔と血しぶきをあげ、兵士たちはその場で倒れた。

兵士
「く、くそっ!マジックジャマーだ!起動しろ!」

遅れて、標的ではなかった兵士が何やら機械を弄り始めた。
――その瞬間、辺りには空気を震わす波のようなものが渦巻いていた。

兵士
「……よし、お前のそのよくわからん魔術は封じ込めた!
 消させてもらうッ!」

ヤミ
「………」

――ヤミは、風の刃を続けて放とうとはしなかった。
まさか……これは……彼女の攻撃を封じた、ということ……?

これから……彼女は一体……。
私の心は不安に浸食される。しかし続くヤミの言葉は……

ヤミ
「思考が汚らしいから、実力もそれと同じ……
 あの人なら、もっときれいに処分してくれることでしょうに……
 わたくしは――やっぱり、あの人には敵わないですね」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

951 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:49:27.223 ID:k8gQLupY0
――ヤミは、いともたやすく……男たちを消し去った。
……さらに、追い打ちのように、あるいは蘇らないように、風の刃で兵士たちの死体をバラバラにした。
彼女は、もはや肉塊と化した兵士たちには目もくれず、その場を立ち去っていった……。

バラガミ
「……数十人も居たのに、たった一人で切り抜けた?」

その光景はこれまで見た絶望的な風景ではなく、希望と言ってもよかった。

バラガミ
「……まだ、世界は絶望で包まれていないの?」

少なくとも、今この瞬間は、希望はある。
私は、なにか報われたようなものを感じた……。

バラガミ
「……ならば、私は祈ってみせる
 希望が見えるようになる、その時まで……たとえ、希望がこの一瞬だったとしても……」

私が選んだ道――苦難に立ち向かうという決意は、さらに固まった。私は、再び【鏡】を抱いて祈り始める。
まるで母が赤子を守るかのように――まるで愛しい子供を抱きしめるかのように……
私は、【鏡】に自分全てを捧げるかのように、祈りを捧げた……。


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