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ユリガミノカナタニ

1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
??「―――――――。」


―――声が聞こえる。



これは、わたしの一番古い記憶?


何も、見えない。


そこは、暗闇の中―。

651 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:27:16.303 ID:OJI9s7rs0
鈴鶴さまの身体には、月の神剣が宿っています。


そしてその中には、様々な喰らった者の力が宿っています。
それはわたくしの、天の狗としての力も――シズさま、フチさまの力も―――

あるいは、名も知らぬ誰かの力も―――。

652 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:42:50.239 ID:OJI9s7rs0
そして、鈴鶴さまは嘗て百合神(ユリガミ)という邪神と呼ばれたことを省みて―――
百合神(ツクヨミ)という、善の存在になろうとしていました。


フチさまの持っていた、式神をつくる力を用いて、神に仕えるような姿かたちの少女の式神を生み出し――

そして、その少女の式神を使い、迷える者の迷いを聞くことを―――。

―――その場所は神社。
最も、そこはこの世のどこにもない、闇の中、悩みを持つ者しか入れない結界の中にあります――。

653 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:47:24.868 ID:OJI9s7rs0
今宵も、悩みを聞くために、ひとりの男性が其処へ来ました―――。

さて。
鈴鶴さまが聞く悩みは、ひとつは恋愛相談―――。
適当なお賽銭を託し、そして恋の悩みを聞き、その解決法を考えてくれます。


そしてもうひとつ―――。


その男性は、札束を詰めたカバンを、賽銭代として、その場に置きました。

654 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:48:43.330 ID:OJI9s7rs0
式神「―――用件をどうぞ」
そのカバンの中の金を見て、偽物の金でないことを確認した式神は、願いが何であるを聞きました。
鈴鶴さまは、影でその様子を見ています。


男「うむ………
  ――御坊天山に住む、天狗の里を、滅ぼしてほしい!
  と言っても、天狗という存在から話した方がいいか?」

655 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:48:59.165 ID:OJI9s7rs0
式神「………いえ
   それで、なぜその願いを……?」

男「あ、ああ…
  私の、娘が……こいつ等に食い物にされたのだっ
  まだ10歳!10歳なのにッ!
  そして最期は無残な姿で見つかった……恐らくは、飽きて殺したのだと思われる

  ともかく、こんなのは酷いと思わないかっ!

  天狗という人にははかり知れない存在は、同じ神に頼むに尽きる!
  復讐だ!奴らを殺してくれっ!」

656 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:49:11.514 ID:OJI9s7rs0
式神「分かったわ、引き受けましょう
   だが、それが嘘だったなら…………」


男「う、嘘なんてついていない!」


式神「…………」


男「ともかく、宜しく頼むぞ……!」

―――男が立ち去るのを物陰で見届けた鈴鶴さまは、式神を空へ還し、神社の外へと出ていきました。

657 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/13 14:50:04.668 ID:OJI9s7rs0

そう、鈴鶴さまは、時折殺し屋としての願いを聞き入れるのです。


専ら誰かの復讐を―――。特に、誰かの操を奪いしものを―――。

658 名前:社長:2015/09/13 14:50:26.921 ID:OJI9s7rs0
百合神伝説の件もこのパターンらしい

659 名前:名無しのきのたけ兵士:2015/09/13 20:15:56.401 ID:RwNPcQxY0
人の願いを叶えていたのか。

660 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:55:39.635 ID:sigWRjo20
―――御坊天山。



鈴鶴「………」
鈴鶴さまは、白い絹を着た、黒髪の幼子の式神を――鈴鶴さまの髪の毛をヨリシロに生み出しました。

661 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:55:54.535 ID:sigWRjo20
鈴鶴さまは不老不死の存在―――。
切った髪の毛は、容易くくっ付き、元に戻すことができます。


けれどあえて、切ったまま式神のヨリシロにして、御坊天山の周りに式神を歩かせました。

662 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:56:52.998 ID:sigWRjo20
一日、二日、三日―――そうして、件の天狗は現れました。


天狗1「……………」
わたくしと同じような、羽の生えたからだを持つその存在。
その目は、汚らしくギラついていました。

式神「………?」
式神は首を傾げ、その様子をただじいっと見るだけ。


鈴鶴さまは、その様子を木陰からただじいっと見ています。

663 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 21:59:49.264 ID:sigWRjo20
天狗1「……ふふふ
    その白い肌…その幼いながら美しい顔…

    ぜひとも、子を孕ませたい、な………」

天狗は、式神へと襲いかかりました。
そして、乱暴にその白い絹を掴み、剥がそうとして―――。


鈴鶴・式神「魔女の囁き――――」


その式神の操を護る為、
鈴鶴様の操を護る守護霊【魔女の囁き】がその天狗を吹っ飛ばしました。

664 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 22:01:56.251 ID:sigWRjo20
天狗1「ぐぼぉッ?!」

鈴鶴さまを護る存在が、どうして式神をも護ったのでしょうか?
――それは、鈴鶴さまの髪の毛をヨリシロにした式神だから。

鈴鶴さまの魂魄を護る式神は、鈴鶴さまの髪の毛一本だろうと護るから――。

たとえちぎれた髪の毛でも、指でも、首でも、離れた魂でも、鈴鶴さまを護るから―――。


だからこそ、鈴鶴さまはこうして式神を囮に、標的を燻し出したのです。

665 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 22:03:05.687 ID:sigWRjo20
鈴鶴「………」
鈴鶴さまは、のびているその天狗の首をへし折り、そして引きずりながら山中を歩いていきました。


髪をヨリシロに呼び出した式神の少女を、複数連れて。

666 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/14 22:05:53.498 ID:sigWRjo20
道中、式神を捕まえようとした天狗がいたけれど、
【魔女の囁き】の力を利用し、返り討ちにしてゆきました。



鈴鶴(………どうやら、ここが里のようね)


そして、滅ぼせ、と願われた天狗の里へとたどり着きました。
鈴鶴さまは、死体を適当なところに固めて捨てて、式神を里へと入れました。

667 名前:社長:2015/09/14 22:09:49.500 ID:sigWRjo20
魔女の囁きは「百合神のすべて」を護るのだ…………
百合神であればどこでもいい。全ての男を吹き飛ばす!

百合神の「魔女の囁き」が完璧なのはそこなのだ!
身体を切れ離そうとも、男から操を護る!
細胞ひとつだろうと、止められる!

668 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:01:49.674 ID:rVt0U98k0
天狗2「しかし、奴ら帰ってくるのが遅……
   ん?なんだ、この女たちは……」

天狗3「迷子か?どちらにせよ、エサが大量に迷い込んできたようだな…
   ――――ふふふ、孕ませるか?」
―――天狗たちは、汚らしい、ドロドロした考えを持ってして
式神たちを迎え入れる態度を取りました。


鈴鶴「………」
鈴鶴さまは、式神と視覚を共有させ、その様子を見て―――。

鈴鶴(………鏖、ね)
―――その里の天狗を、鏖にすることを決めました。

皮肉なことに、愛する人、鈴鶴が―――
かつて妖殺しがやったように、天狗の住まう、その里を滅ぼすことを決めたのです。


けれども、そこに嫌悪感はありません。
このような集団をわたくしだって、シズさまだって、フチさまだって見過ごすことはしないでしょうから。

669 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:03:26.951 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「……………」
鈴鶴さまは式神を、元の鈴鶴さまの髪の毛へと戻し―――。


そして、引きずってきた死体を里の中へと放り込みました。

670 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:05:02.607 ID:rVt0U98k0
天狗2「な、なんだ!?消えたぞ……」

天狗3「お、オイ!あいつらの、死体じゃねえのか?」


そして、天狗たちがざわめいている、その中に―――。



鈴鶴さまは、堂々と、胸を張って、其処へ現れました。

671 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:15:48.934 ID:rVt0U98k0
中にいた、十数人の天狗の男たちは鈴鶴さまを見て、大層驚いていました。


天狗3「ぐ、お前らこの女を捕えるぞォッ!
    このような、カスみたいなアマを孕ませるぞォッ!」

そして一人の声で天狗の男たちは鈴鶴さまを捕えようと、鳥のように飛びかかりました。
けれど、鈴鶴さまは、その程度の力に負けるほどやわな子じゃありません。


その天狗たちの動きは、あくまで普通の人間を相手にするもの。

対する鈴鶴さまは、さまざまな鍛錬をした、普通ではないものを持っているから。

672 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:18:33.939 ID:rVt0U98k0

鈴鶴さまは、左腕に眠りし月の神剣の力を引き出しました。
鈴鶴さまの右目が、漆黒と青白へと変じました。

―――そして、月の神剣に眠っているわたくしの、天の狗の力を身体に纏わらせたのです。


鈴鶴「はっ!」
そして、飛び掛かる天狗よりも高く高く跳び、
それと同時に着地点にいた天狗に、風圧をこめたひと蹴りを加えました。


―地面にめり込みながら、そいつの首をへし折り、それと同時にまた別の天狗へと真空の刃を飛ばしていきました。

673 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:20:00.662 ID:rVt0U98k0
鈴鶴さまに翼はないから、ずうっと空を舞うことはできないけれど、
それでも天の狗の力は、人より高く跳ぶことはできます。


その力を使って、ハヤブサの如き素早さで、天狗たちをなぎ倒していきました。

674 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:25:03.347 ID:rVt0U98k0
天狗4「ひ、ひえ」
天狗5「う、う、うわあああッ!!!
   逃げるぞ!!!」

けれど、残ったひとりふたりは、その場から逃げようとしました。


鈴鶴「―――真空刃」
最も、鈴鶴さまは冷静に、天の狗の奥義である、その技で対処しました。
風を刃の如き、カミソリの如き鋭さにし、そしてそれを一直線に飛ばす、その技で。


辺りには、天狗の死体が十数人、首の折れた者や、刃で切り裂かれた者が転がっているのを、
鈴鶴さまはただじいっと眺めながら、その里にあった建物の中を探っていきました。


675 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:25:56.171 ID:rVt0U98k0
ひとつ、ひとつ。
生活空間らしい場所、倉庫らしい場所、そして―――。
奴らの、おぞましい性的欲望で塗り潰されていた場所―――。


そこには、数人の天狗の少女が――、奴らの性欲の捌け口になっていたであろう少女が居ました。
吐き気のする異臭、そして腹を膨らませた少女、赤子に乳をやっている少女が。


奴らが生きていた時は、生き地獄であったことが、容易に読み取れます。

676 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:26:28.300 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「…………」
鈴鶴さまは、その様子をただじいっと、けれど心を重くしながら見ていました。



少女1「あの………」
ひとりの少女が、鈴鶴さまへと声をかけました。

677 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:26:42.385 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「…………」


少女1「奴らが入ってこないのに、女性のあなたが入ってこれるていうことは
    …その、奴らを殺したのでしょうか?」

678 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:27:33.736 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「ええ………」

少女1「ならば、そのあなたにお願いがあります」

鈴鶴「―――用件は、なにかしら……」

少女1「その、わたしたちのことを、殺してくれませんか?」
少女が、涙を流しながらそう言いました。

679 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:29:04.360 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「………!」
鈴鶴さまの身体がぴくりと、その言葉に反応しました。


少女2「わたしたちは、あいつらのものとして、とてもとてもひどいことを…
    無理矢理女性たちを孕ませ、そして産まれた男はその仲間に、女は酷い扱いを―――」
それに続き、もうひとりのことば。

少女1「……あいつらが殺されたのは分かっています
    ――もう、この地獄から解放されたのだと


    でも、わたしたちは、もう、死んでしまいたいのです」
涙を流しながら悲痛な願いを話すのを、鈴鶴さまは、聞いていました。

その心情は果てしなく、怒り、空しさ、悲しさを交えたそれで――。

680 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:29:31.546 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「………分かったわ」
そして鈴鶴さまは、その願いを聞き入れました。


少女1「この里は、何事も無かったかのように、燃やしてくれませんか?
    こんな地獄のような里は、もうなかったことにしてほしいのです」

681 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:31:17.175 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「それも、引き受けるわ…
   …ほかに願うことは、ないかしら?」

少女3「あなたは、天狗の里をほかに知っていますか?」
心配そうに、赤子を抱く少女が言いました。

鈴鶴「ええ……信頼の置けるのを、知っているわ…」

少女3「ならば、ここにいる赤ん坊を、その里に……
   この子たちは、何の罪もない、何の被害もない子だから…」

鈴鶴「分かったわ、引き受けましょう」


少女3「ありがとう、ありがとう…」

682 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:32:28.781 ID:rVt0U98k0
鈴鶴さまは、赤ん坊を、ヒトゴロシのその場面を見せないようにしてから、
太刀の刃を、その鞘から―――。


天狗を倒すのには、一切使わなかったその刃を、鞘から抜きました。

683 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/19 19:35:38.396 ID:rVt0U98k0
鈴鶴「貴女達を―
   痛みないように、一思いに―――」

少女1「お願いします………」


鈴鶴「月影黄泉流―――」


   ――――――姫百合」

鈴鶴さまの、最高級の剣術の、もっとも高みにあるその技は―――。


少女たちの首を、痛みすら気が付かない一瞬で落としました。


鈴鶴「………」

そして鈴鶴さまは、少し涙をこぼしながら、その地獄の部屋を後にしました。

684 名前:社長:2015/09/19 19:36:39.952 ID:rVt0U98k0
もうちょっと続くらしい。

685 名前:きのこ軍:2015/09/19 23:17:40.561 ID:QMaqHLcAo
儚くも美しい

686 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:45:00.589 ID:u5v1RfJ.0
そして、赤子を抱きながら、別の天狗の里へと向かいました。
鈴鶴さまが再び顕現し、様々なところを彷徨っていた時に見つけたそこへ。


天狗の長「…おお、鈴鶴か!
     また会うとは…何のようだ?」


鈴鶴「この子たちを、引き取ってもらいたいの…」
赤子たちを見せながら、長へと話しかけました。

687 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:45:46.091 ID:u5v1RfJ.0
天狗の長「む…?どういうことだ?」

鈴鶴「別の天狗の里で、無理やり子を孕まされてた末に産まれた子なの…
   女性を攫い、無理やり孕まさせていた里で産まれた、子…」


天狗の長「な、何ぃ!?
     そんな、下種なところがあったのか…」
深刻そうな表情をしながら、その赤子を見つめる長を、鈴鶴さまはじっと見ていました。


天狗の長「分かった、引き取ろう
     …産まれた子には罪はないかからな」
天狗の長は、そう言うと配下の天狗を呼び、そして赤子を引き取らせました。

688 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:48:00.090 ID:u5v1RfJ.0
天狗の長「………そんな里は、わしたちで滅ぼしたい…と思うが
     鈴鶴がわざわざ持ってきた、ってことはもう滅ぼした後だろうな」
天狗の長は、鈴鶴さまがどういう人なのかを分かっているため、そう納得しました。



鈴鶴「………」
その様子を、鈴鶴さまはただじいっと見ているだけ、
鈴鶴さまは、一緒に暮らす人以外とは、あんまり多く喋らないために。

けれど、わたしたちと暮らしていたあの頃より、口数は少なくなっています。
それはわたしたちが死んだ悲しみか、再び顕現したあとに見た様々な出来事に依るものか。


天狗の長「この子たちはよき天狗になるように育てる
     鈴鶴、もう行くのか?」

鈴鶴「ええ…やることがあるから…
   頼まれ事の、最後の一つを………」

689 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:50:50.403 ID:u5v1RfJ.0
天狗の長「うむ……
   あ、だが………一つ気になることを聞いたので伝えたいのだが」

鈴鶴「……なあに?」


天狗の長「いや、な……天狗の羽というものが、密かに闇の商店で並んでいると聞いたのだ」


鈴鶴「ふうむ、闇取引……」


天狗「だが、ま……当分は関係のないことかもしれん
   達者でな…」


鈴鶴「ええ………」
鈴鶴さまは、その声に会釈し、その場を去っていきました。


690 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:51:23.352 ID:u5v1RfJ.0
そして、件の、御坊天山の天狗の里へと戻り、死体転がるその場所を見回していました。

鈴鶴さまに託された、この里を消し去ることを。
わざわざ先にやらなかったのは、赤子を届けることを優先したから。
燃やしてから去らなかったのは、適当に火をかけて、辺りの木々に燃え移らないようにするため。


鈴鶴「……!」
鈴鶴さまは、何かの気配を察し、木陰へと隠れました。

691 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:52:54.041 ID:u5v1RfJ.0
…そこには、鈴鶴さまに願いを託した男が、部下のような男たちを引き連れてそこにいました。

男「…さすがは百合神だ…私の娘の仇をとってくれている!」

部下1「やりましたね……」

男「……よし、恨みを果たしたうえ…そしてついでに、この天狗のモノを頂けるのだ
  この文化品をまた、いつものように店に流すぞ…」

部下2「そうですな…」



鈴鶴「…………あぁ、世の中というのはなんて狭いものなのかしら」

―――その話を聞いた鈴鶴さまは、其処へ姿を現しました。

ゆっくりと、ゆっくりと―――。

凍てつくように、幽霊のように、おどろおどろしく言葉を発しながら。

692 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:57:08.829 ID:u5v1RfJ.0
男「!
  だ、誰だ……?」


鈴鶴「どこぞで、天狗の羽などを裏取引している団体があるという…………」
その問いには答えず、淡々とただ鈴鶴さまは語りました。


男「ま、まさか、百合神……」

鈴鶴「―――娘の復讐と、密売には何の接点もない……」

男「ま、待ってくれ!
  違う、それ混みでの恨みを…」


鈴鶴「此処以外にも、しているじゃない…?
   それも娘の復讐?いいや、違うわよね?
   
   あなたは、娘の復讐はこの御坊天山に限定している……」
鈴鶴さまはじりじりと、氷のような冷たい瞳で男たちへと近寄りました。

693 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:57:49.659 ID:u5v1RfJ.0
鈴鶴「月影黄泉流――――

   姫百合」


そして、その場にいた男たち、いともたやすく、あっさりと切り飛ばしました。

694 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:58:37.089 ID:u5v1RfJ.0
そして、その死体の山ある天狗の里に、鈴鶴さまは火をかけました。
燃える死体、燃える悪しき文化――。


そして、その里はただの燃えカスだけが残る、山の中の開けた空き地へとなりました―――。


鈴鶴「せめて、あの世で幸せに―――」
鈴鶴さまは、少女たちの死体へ祈りを捧げ、丁重に葬ってその場を立ち去っていました。


―――鈴鶴さまの背中は、とてもとても寂しそうでした。

わたくしが抱きしめてあげたいほどに。

いいや、シズさまも、フチさまも………。

695 名前:天狗ヶ里殺人事件:2015/09/22 01:58:51.603 ID:u5v1RfJ.0
天狗ヶ里殺人事件 完

696 名前:社長:2015/09/22 01:59:18.850 ID:u5v1RfJ.0
次回!は誰の話だろうね。

697 名前:791:2015/09/22 03:35:05.466 ID:XLf7kfJko
更新お疲れさま!
ちょっと寂しい話だったね
次は誰かな

698 名前:きのこ軍:2015/09/22 20:12:45.706 ID:KvPWvgEso
百合神さまは縛られ続ける。

699 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:57:16.305 ID:Xq8Lt4m.0
かぁん、かぁんと金属を叩く音が聞こえる。

――顔に汗を浮かべながら、少女は焼けた鉄を叩いている。


宙は永遠の暗黒、星々輝く暗黒に囲まれたその鍛冶場で、少女は武器を作っている。
在り合わせの素材を用いて、性能の良い武器を。

700 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:57:33.954 ID:Xq8Lt4m.0
宙は永遠の暗黒、星々輝く暗黒に囲まれたその鍛冶場で、少女は武器を作っている。
在り合わせの素材を用いて、性能の良い武器を。


少女の名は鈴鶴(すずる)。

静かに、何も言葉を発さず、鍛冶作業をしている。
刀を、銃を、斧を―――さまざまな武器を。


鈴鶴「………」
そして鈴鶴は、出来上がった武器の仕上がりを見て、気に入らないものを片付け、外へと出て行った。

701 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:58:02.303 ID:Xq8Lt4m.0




       鍛 冶 屋 衛 兵 伝 説






702 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:58:16.873 ID:Xq8Lt4m.0
――――水の中のような、前後左右、上下も分からぬところを、わたしの意識が漂っている。



ここは、鈴鶴の意識の中。
鈴鶴が、わたしの意識が鈴鶴のそれにあることきは気が付くことはないだろう。


―――けれど、わたしの愛する人、鈴鶴をただ見るだけでいい。

703 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:58:33.383 ID:Xq8Lt4m.0
魄のない、死んだその身では、それだけで満足できる。

いいや、本当のことを言えばそれは嘘になる。

けれども、それは叶わぬ望み―――。

704 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:59:13.293 ID:Xq8Lt4m.0
鈴鶴は、武器を漆黒の高機動車に乗せ、車に道路を走らせている。
時折、後ろの様子を探りながら、目的の場所へと向かって往く―――。



静かな、石造りの建物へと車を停め、武器を抱えその裏口へと歩いて行った。
扉の中から、その来訪者を確認した男は、扉を開け、鈴鶴を出迎えた。

705 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/05 23:59:36.900 ID:Xq8Lt4m.0
男「持ってきた武器を、見せてくれ………」


鈴鶴「……………」
鈴鶴は、無言で武器を包んだ布を机の上に置いた。


男「………ふむ、ふむ
  いつみても、お前のその腕には驚かされる」
そして男は、それらを軽く検品し、賛辞の言葉を述べた。

706 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/06 00:00:01.901 ID:2xseXwZ20
男「お前の武器は、素晴らしいものだ…
  上客の、きのたけ会議所も、お前の武器が入ると喜んでいるしな……」


鈴鶴「そう……」
鈴鶴は、その賛辞には興味がなく、ただ壁に背を預けてじいっと話を聞いていた。


男「何しろ、他の武器と比べて軽く、使いやすい…
  それに、職人の技術が惜しみなく使われていて、評判がいい………

  本職の俺でも、お前に勝つのは難しそうだ、ははは……
  もっとも、あんたは違う意味での、【武器屋】だが……ふふふ…」

707 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/06 00:00:15.858 ID:2xseXwZ20
鈴鶴「…………」
鈴鶴は、時折この武器屋へと、自身の製造した武器を売っている。
どうしてこの武器屋なのか?

それは、この武器屋は鈴鶴が信頼している武器屋だからだ。
口が堅く、尚且つ武器の知識に富み、きちんとした態度で商いをしている。
その上、鍛冶技術も整えた、その道のプロなのだ。

鈴鶴は、男は嫌いだが、その全てを否定しているわけではない。
あくまで、性に関わることが嫌いなのであり、技術・人生といったことは認めているからだ。
それにこの男は、鈴鶴と同じサガを持っている人間であり、鈴鶴も無駄話を聞いている。

708 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/06 00:00:29.868 ID:2xseXwZ20
男「それはともかく、代金だ………
  しかし、最近はハイテクな機械がブームで、
  こういうアナログな武器は需要が減っているのが悩みだな……

  もっとも、俺も鍛冶屋だから、そのパァツの制作依頼を受けている、のだがな……」

男は、代金を渡しながら話を続けた。

709 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/06 00:01:23.909 ID:2xseXwZ20
鈴鶴「………そう
   貴方の担当する、その武器の部品は?」
だからこそ、鈴鶴はこうして無駄口に付き合う。
世の中の流れを知るためにも。


男「うむ、最近武器界隈を賑わしているのは、巨人だ……
  飴細工を用いたもので、魔力を増幅させる機能のついた戦闘用の巨人だ……」

男は、該当する新聞の記事を取り出し、鈴鶴へと見せた。

710 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/06 00:01:41.628 ID:2xseXwZ20
鈴鶴「全長10〜25m、高位スキルの発動可、簡単な操作で動く……………
   一人乗りながらも、完璧な大戦をサポート………
   これを見る限りは、軍事用の乗り物、といったところね………」

男「ああ………そいつのパァツの制作依頼だ……
  こいつの外装などは硬質飴細工だが、内部は複雑な機構が組まれているのだ
  魔力を増幅させるために必要な、宝石の加工を頼まれた……
  巨人の腕・足に効率よく魔力を送れるようにするための、中枢部分の、な……」

711 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/06 00:01:57.388 ID:2xseXwZ20
鈴鶴「………
   けれど、誰でも術を扱えるためにはそれなりのものが必要だと思うけれど……
   そんなに、ブツはあるの?

   高性能なものになると、色々と面倒臭いんじゃない?」

男「ああ…実際のところ、天然品は2つぐらいしか用意できなかったらしい
  残りは、人工の奴だ、な……

  ま、本来は天然品が一番増幅力があるのだが、まぁ人工品でも大体は変わらんからな…」

712 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/06 00:04:32.705 ID:2xseXwZ20
男「ああ……だが、ま…限界ギリギリまで魂を込める必要はあるがな…
  おっと、それはお前は既にわかってることだったな」
――いろいろと話をして、男はふとじっと鈴鶴を見た。


男「……そうだ、お前も手伝ってくれないか?金は当然出す……
  材料がコイツで、これが求められている仕様だ、お前は信頼できるからこそ頼みたい……」
男は、鈴鶴へと、願いを言った。


鈴鶴「………分かったわ、引き受けましょう」
――そして、鈴鶴はその言葉に承諾した。

713 名前:社長:2015/10/06 00:04:53.711 ID:2xseXwZ20
巨人とはいったい何なんだろうね。

714 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:05:42.736 ID:Scimt2.60
男「うむ、ありがたい………
  道具も用意してあるから、今すぐ頼む…」




鈴鶴「ふむ………」
鈴鶴は、仕様表を見ながら、宝石の加工を行った。
その手捌きは、丁寧で、てきぱきとしたものだ。
鈴鶴は静かに――そして、男も静かに、用意された宝石を指定の形に加工していった。

715 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:06:25.529 ID:Scimt2.60
鈴鶴「………」
その瞳に写る宝石の光は、黒い瞳の闇の中へと消えるほどに、眼差しは真剣だった。

指定された加工品は、巨人の全身に魔力を送るために、多数の導線と絡み合える形だ。
宝石が美しく見えるものではなく、それよりも遥かに困難な加工を、鈴鶴は、男は熟(こな)していく。


人工品の宝石を多数加工し、仕様通りの品はそこに並べられてゆく。

そして、天然品の、価値の高いそれも、漆黒の瞳に呑まれながら、指示された形へと変わっていった

716 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:07:24.917 ID:Scimt2.60
――数時間後、完成したそれらをそこに置いて、鈴鶴と男は検品していた。

鈴鶴「ふぅ………指定通りにできたわね
   しかし、やはり貴方も相当な腕前ね……寧ろ、鍛冶屋じゃあないわたしにとって
   本職の貴方に、敬意を表すわ……」

男「……あんたにそう言われると、喜ばしいな…
  しかし、あんたも本職じゃあないにも関わらず、よくやるよ、本当に」


鈴鶴「いいや、わたしは、まだまだよ……
   永遠に、ね………」

―――それは謙遜というよりは、恐らく、わたしを忘れていないがための発言だろう。
鈴鶴はそう言って、代金を受け取り棲家へと帰って行った。

717 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:07:47.200 ID:Scimt2.60
そして、棲家で武術の鍛錬を繰り返した。

鈴鶴「はっ!はっ!はっ!」
素振りを幾度も繰り返し。

鈴鶴「…………」
飛び道具を用いた訓練を、納得がいくまで繰り返し。

鈴鶴「てやぁーっ!てやぁーっ!」
藁人形を相手に、格闘術の訓練を重ねていった。

718 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:08:16.945 ID:Scimt2.60
剣術といった武器を扱う戦闘技術、格闘術といった肉体を武器とした戦闘技術……。
鈴鶴の剣術の腕は、神と言うべきものだが、その他の戦闘技術もかなり高い。

鈴鶴の、その優れた鍛冶技術。
鈴鶴の、その優れた戦闘技術。

それは、鈴鶴の天稟であるということも大きいけれど、
鈴鶴が経験したことがなければ、身に着いてすらいなかっただろう。

そう、鈴鶴のこれまでの思ひ出が今へと繋がっているのだ。

719 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:08:39.728 ID:Scimt2.60
わたしの名前はシズ。
月に住まう、月の民―――。

同じ月の民であるフチと、月の民ではないけれど、
人に非ざる存在、天の狗であるヤミと共に、鈴鶴を護り、鈴鶴を愛してきた。
けれども、みな鈴鶴を護ろうとして、死んでしまった。

為すべきことを為し、幸せに、千代の時を過ごしていたところで。

月に在った神剣、黄泉剣に喰われて、この世から消滅してしまったのだ。

720 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:08:59.332 ID:Scimt2.60
……ただ、厳密にいえばそうではない。
その魂は、どういうわけか鈴鶴の魂に混じっているのだ。
フチとヤミの魂も、同じく。

鈴鶴は、そのことには気づいていない。

恐らく鈴鶴が無意識に、わたしたちの魂を、自身の魂に溶け込ましたのだ、としか思えない。
鈴鶴は、わたしを、フチを、ヤミを愛していたから………。

721 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/12 01:09:43.781 ID:Scimt2.60
―――鈴鶴は、わたしたちが殺された悲しみで、
黄泉剣の力に飲まれ、百合神なる、不老不死の邪神へと成り果ててしまった。
そして、その果てに、闇の中へと、ずうっと、ずうっと封じられることになってしまった。


―――けれども、何故だか、如何してか、鈴鶴は再び顕現した。

………。
鈴鶴の姿を見つめていると、どうして鈴鶴と出会ったのかが不思議になる。
運命の流れといえばそれまでだが、其れは偶然なのか必然なのか。


答えの出ないことを考えながら、わたしはただ、鈴鶴の其の姿をじいっと見ていた。
そして、わたしのこれまでの人生を思い返していた。

722 名前:社長:2015/10/12 01:10:36.642 ID:Scimt2.60
シズのお話。あんまり掘り下がらない予定

723 名前:きのこ軍:2015/10/12 13:27:52.744 ID:oi8wdvFAo
乙。本編より過去の話か

724 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/17 01:10:07.417 ID:yLFPQjb60
―――わたしは、鍛冶工房の親方のひとり娘として産まれた。

月の戦士に供給する、武具をつくる様子を、幼いころから見続けていた―――。


そして、物心ついたころには、実親や工房で働く鍛冶師に技術を仕込まれ、
15になるころには一人前の鍛冶技術を身に着けた。
彼らは、わたしについて、呑み込みが早く、鍛冶技術に関しては天才だ―――とよく話していた。

725 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/17 01:11:57.673 ID:yLFPQjb60
最も、そこには楽だけではなく、苦もあった。
―――その苦境は、幼馴染のフチと一緒に乗り越えた。

フチの方は、月の王族の世話役という道を選んだ。

最も、それには楽なる道はない。
―――さまざまな試験を突破し、護衛技術を身に着けるのはそう容易いことではないからだ。


互いが進む道への苦難を、互いで励まし合い、時には遊び、時には喧嘩をしながら、乗り越えていった。

726 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/17 01:13:52.585 ID:yLFPQjb60
―――最も、フチが世話役になってからは、親交は少し遠くなってしまった。
何しろ、世話役は忙しいからだ。しかも、フチは王の娘―――カグヤの世話役となったらしい。


ただの鍛冶屋から見れば、雲の上のような存在だった。



フチは、月の姫君――月女神の血を引く存在を、
丁寧に丁寧に―――繊細な硝子細工を扱うように、世話をしていたようだ。


一方のわたしは、来る日も来る日も鍛冶作業に打ち込んだ。
そして、いつしかわたしは自前の工房を持つ、親方となっていた。

727 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/17 01:15:41.521 ID:yLFPQjb60
時々、同胞が口説こうとしたりするが、わたしは何も思わずただ鍛冶に打ち込んだ。
―――どうも、そういうことには興味が持てなかったから。


けれど、それでも手の空いた時間はどうにもこうにもしようがない。
いつもならフチと一緒に居るけれども、フチとの時間が合わず、暇つぶしに武芸に取り組むことにした。


剣術、体術………さまざまなものに取り組んだ。

728 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/17 01:16:07.163 ID:yLFPQjb60
武器の扱いには、武器に触れているものとして当然慣れているが、
鍛冶で培った肉体の動きはどうやら予想以上に武芸に活かされ、いつしか工房一の腕っ節となっていた。

特に剣術は―――月に伝わる剣術、月影黄泉流は身体に一番馴染む――自分の天稟を発揮できるものだった。

その剣術は、得物を選ばず、一太刀の一瞬で勝負をかけるもの―――。
笹百合、車百合―――さまざまな百合の名を示す技があり、最後に編み出す技は姫百合――。


姫百合の美しき強さ―――それに准えた最後の奥義。
刃なき剣であろうと、刃ある剣であろうと関係なく、獲物を一刀両断する奥義―――。


わたしは、その最後の奥義まで、他者よりも早く辿り着き、見事その剣術をものにした。

729 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/17 01:17:32.205 ID:yLFPQjb60
―――そんなときだ、工房に技術を持ち逃げしようとする輩が存在した。
その曲者は、予想以上に荒々しく、中々に武芸の鍛錬を積んだ者であった。

―けれども、わたしは工房の面子がやられる中、そいつを打ち破った。

―――その噂は、いつしか王族の耳にも届いていたようで、臨時の近衛兵になるよう―――そう誘われた。
月影黄泉流をものにできる者は少ないため、貴重な人材だと誘われたのだ。

730 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/17 01:17:51.426 ID:yLFPQjb60
わたしは、フチと一緒に居られる機会が増えることを選び、鍛冶仕事をしながら時々近衛兵として活動してきた。


フチと久々に再開し、フチと一緒に居る機会をまた作って――――。



――――けれど、その日々は―。
平和だと思っていた、その日々は―――。

あっという間に、別物へと変じていった。

731 名前:社長:2015/10/17 01:19:04.041 ID:yLFPQjb60
淡々とした過去語り。

732 名前:きのこ軍:2015/10/20 23:38:33.704 ID:gWhnk41wo
おつおつ

733 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:18:20.858 ID:iY9N/ft.0
あるとき、わたしは、フチに頼まれ月の姫君、カグヤのために美しい太刀を作ってほしいと頼まれた。
姫君に贈る太刀とはいえ、わたしは武器に必要なものは実用性である――。
そう考えているため、最高の素材、複雑で精密な製造技術を駆使し、指定された美しい太刀を作った。

月影黄泉流に准え、姫百合を飾りにした、殺傷力と扱いに富む太刀―――姫百合(ヒメヒャクゴウ)を。



さて――――。
いつ、どこで産まれたかは知らぬが、
月に封印されている、月の神剣―黄泉剣を持ちだした、愚か者が存在していた。
彼らは、月の王の命を贄に、黄泉剣を持ち出し、月を滅ぼそうと計画したのだ。

734 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:20:35.466 ID:iY9N/ft.0
そして、わたしが姫百合をカグヤに手渡したその時ちょうど、彼らは月の神剣を持ち出した。

月女神の血を濃く引く、王の命を贄に。



月に住まう、生けとし生きるものを喰らい、殺し、そしてその魂魄を投げ捨て―――
その、力のみを剣の中に、どんどんどんどん溜めこんでいった。

その滅亡への惨劇は月中すべてに広がっていっ。

姫君の住まう宮殿で、美しき月が、ただの岩の塊へとなる様を見せつけられたのだ。

735 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:24:40.688 ID:iY9N/ft.0
そして、極限状態の中で考えられたこと。
それは、カグヤを護る為一旦蒼き星へと往き、そこで敵たちを迎え撃つ作戦を取った。


そして、敵を討ち取った後は、蒼き星で一生を過ごすことを決めた。


―――リュウシュの持つ黄泉剣からは、漆黒の斬撃を飛び道具として飛ばし、わたしたちを苦しめた。
しかし、わたしたちはリュウシュが戦いの素人であることを…
肉体的には強けれど、技術に長けていない隙を突き、リュウシュに手痛い打撃を与えることができた。
だが、わたしとフチ以外は、全滅するほどの犠牲が出たし、逆にリュウシュ側も引き連れた仲間を皆殺しにされていた。


736 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:25:02.969 ID:iY9N/ft.0
そして、リュウシュと対峙していた時、リュウシュは黄泉剣の力を使い、飛行距離を強引に伸ばして
わたしとフチを飛び越えてカグヤに黄泉剣を突き立てた。

――それは、わたしとフチの心を絶望に染め上げ、胆を凍てつかせた。
不幸中の幸いか、どうしてかカグヤの身体を剣が突き抜けただけで、喰われずに済んだ隙に、
フチと協力して、リュウシュを殺すことができた。


……だが、わたしとフチの隙を突いて、カグヤは攫われてしまった。
最後の最後、爪の甘さを読まれて、近衛兵として、世話役としての役割を失ってしまったのだ。

737 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:29:56.714 ID:iY9N/ft.0
わたしたちは、後悔と絶望に包まれながら1年ほどカグヤを探した。
そして、ある竹林の中にある家でカグヤを見つけた。


…しかし、カグヤは息を引き取る寸前のところであり、その傍らには男と、赤ん坊と、天の狗がいた。

カグヤは、わたしたちにその赤ん坊と天の狗を託し、
月の民の完成された体になる15年後に迎えに来てほしいと言い残し、亡くなった。

738 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:32:42.734 ID:iY9N/ft.0
わたしはそこにいた男、ミヤツコに事情を聞くと、
襲われそうであったカグヤを救ったのち、恋仲となったこと。
カグヤとの間に子を授かり、そしてその弱った体で天の狗を治療したために死んでしまったことを聞いた。

赤子の名は、鈴鶴。天の狗の名は、ヤミ。

739 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:33:45.430 ID:iY9N/ft.0
わたしたちは、15年間、鈴鶴とヤミを遠くから見つめ、護り続けた。
それと同時に、15年の間、守ることができるようにミヤツコに月影黄泉流の技を教えた。

彼の剣術に関する才能は素晴らしく、あっという間にその技術を吸収した。
そして鈴鶴が7歳になった時、ミヤツコは鈴鶴に月影黄泉流を教えるようになった。

わたしは遠くからそれを見ていたが、ミヤツコの血を引くだけあって、鈴鶴の剣術の腕も素晴らしかった。
最も、子供の肉体であるため、戦闘術―というものではなく、あくまで振り方程度の簡単なものではあったが。


740 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:40:33.151 ID:iY9N/ft.0
その幼き日の思い出は、鈴鶴が武術の鍛錬を続けるハジマリの出来事――――。



鈴鶴が、今でも、黙々と訓練に取り組んでいるのは―――
寂しさに耐えるため、なのかもしれない。

741 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:44:36.588 ID:iY9N/ft.0
鈴鶴「はぁーっ、はぁーっ……
   はぁ、はぁ、はぁ…」
胸を抑え、鈴鶴は呼吸を乱して、そこに崩れ落ちていた。

鈴鶴を抱きしめてあげたい。
鈴鶴の頭を撫でて、鈴鶴の頬に口づけして、………。


けれど、魂しかない存在にとって、それはできぬこと。
そのもどかしさが、よけいに辛い。

鈴鶴は胸を押さえ、目を閉じながら、天井を見上げている。
鈴鶴の長い睫が瞼を覆い、とても寂しそうにその眼を隠している。

742 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/24 00:44:53.139 ID:iY9N/ft.0
悲しみに満ちた目を。
たいせつなひとを失う辛さで、氷のように冷たい瞳を。

鈴鶴は、眠りの世界へと落ちていった。


鈴鶴は思い出を、夢の中で反芻している。
決して戻ることのできない過去の夢を、心の中で―魂で、涙を流しながら。

743 名前:社長:2015/10/24 00:50:03.587 ID:iY9N/ft.0
鈴鶴の修行はある意味強くなることからは遠ざかっているのかもしれない。

744 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/31 00:14:43.481 ID:BUd2Q8820
―――鈴鶴が産まれた15年後、わたしたちは追っ手に見つかり、それを片付けていた。
フチと二手に分かれ、フチは鈴鶴の住まう場所へと向かっていった。



――そして、予想していた最悪の事態が起きた。
それと同時に、鈴鶴の住まう場所も襲われていたのだ。

745 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/31 00:16:32.806 ID:BUd2Q8820
わたしが辿り着いた時には、そこは火の手の上がる惨状と化していた。
一方のフチは別行動を取り、どうにか鈴鶴とヤミの後を追いかけることができていた。



うまく合流したわたしたちは、鈴鶴とヤミを追いかけたが、ふたりは海の中へと落ちてしまった。
わたしとフチは、空を飛ぶ力を用いながらふたりを引き上げ、適当な場所にあった洞窟で暖をとらせた。


その時は、心臓が凍りつくほどに、取り返しのつかないことになったと思ったのが、今でも忘れられない。


そして出会った二人に事情を話し、わたしたちが事前に用意した隠れ家へと連れて行った。

海に浮かぶ島の山中に用意した、棲家へと。

746 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/31 00:18:26.384 ID:BUd2Q8820
隠れ家では、鈴鶴とヤミに様々な戦闘術を教えた。


剣術は勿論、短剣術、弓術、槍術などを――――。
月の衛兵で必須のものは、教えられるだけ鈴鶴に教えていった。

ヤミには、フチが主に術の扱いを教え、時折わたしが戦闘術を教えていった。


鈴鶴はいろいろな戦闘術をうまく飲み込み、接近戦に長けた存在となった。
一方、ヤミは、術に長けた、天の狗として屈指の強さを持つ存在へと育っていった。


一年ほどの、短い修行期間だったが、驚くほどに素晴らしい成長を遂げたのだ。

747 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/31 00:19:41.649 ID:BUd2Q8820
そして、黄泉剣を狙った残党どもを打倒し、黄泉剣を封印した。
為すべきことを為し遂げたわたしたちは、幸せに、千代を越えるときを生き続けた。


――――流れるような、たった一年の、密度の濃い出来事を、鈴鶴はその眠りの世界で見つめている。
そして、その後の、わたしたちと幸せに過ごした、千代を越える刻の夢を、鈴鶴は抱きしめるように見ている。


鈴鶴は、一見御淑やかな、優しい顔立ちで、長い睫を閉じ、長い長い髪を散らして眠っている。

748 名前:鍛冶屋衛兵伝説:2015/10/31 00:20:02.555 ID:BUd2Q8820
けれども、その閉じた瞼の奥にある瞳だけは、
氷のように、闇に包まれたように、凍てつく、血の通わぬ人形のようだった。

悲しいことを見続けてしまったから、その美しき瞳は、何者をも寄せ付けぬような闇色へと染まった。

わたしたちが、死んでしまったから。

そして再び顕現した後も、悲しいことに触れてきたから。

749 名前:社長:2015/10/31 00:21:23.793 ID:BUd2Q8820
鈴鶴は再び幸せになれるのだろうか。

750 名前:791:2015/10/31 00:33:07.043 ID:9jnfAPU2o
幸せになって欲しいな


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