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ユリガミノカナタニ
- 1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
- ??「―――――――。」
―――声が聞こえる。
これは、わたしの一番古い記憶?
何も、見えない。
そこは、暗闇の中―。
- 81 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:21:12.35 ID:nkbrFedE0
- 鈴鶴「けれど、王族……
それは、どういうこと?
それが、どうしてわたしたちを助けたことに?」
わたしは、次の疑問をぶつけた。
フチ「……それは、話せば長くなるけれど
…話さなければ、納得しないでしょう?」
フチは、わたしににこりと微笑む。
わたしは、その問いに視線で答えて。
フチ「うふふ、そうよね
まぁ、言わないと、教えないと、語らないといけないことなのだけど、ね」
子供らしい軽い口調で答えるものの、次に発せられる言葉は、重々しい口調になった。
- 82 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:21:53.40 ID:nkbrFedE0
- フチ「………
あなたたちが神という存在を信仰するように、あたしたち月の民も神を信仰しているのよ
――そのことが、今回のことに深く関わっているの」
そして、話は語られた。
- 83 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:25:50.11 ID:nkbrFedE0
- ―――月には、神剣と語り継がれる剣があった。
ある神を殺したと言われる、剣があった。
その剣には、ある話があった。
月の神―月の女神の話が。
ある神を殺し、その為に姉と永遠の縁を切られた―という伝承が。
- 84 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:27:16.86 ID:nkbrFedE0
- 永遠の縁を切られたあと。
月の女神は―。
自らの魂を、神を殺したその剣に封じ込め。
自らの魄を、月の民として切り分け、発現させ。
その姿を、この世から消した―。
そして、残されたその剣は、月の王族によって黄泉剣(よみのつるぎ)と名づけられた―。
そのような話が、伝承が――あった。
- 85 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:29:27.93 ID:nkbrFedE0
- 月の民。
【月の民】――。
変若水の血を持つ、長寿の民。
その中でも、月の神の血を濃く継ぐ者は、月の王族であり―。
その王族の者は、その剣を永久に封印し、月を治めていった―。
それが、この話の結末――。
- 86 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:29:58.61 ID:nkbrFedE0
- それは、あくまでもただのお話として語り継がれてきたというだったそうなのだれけれど―。
ある日、月にとある男が、産まれた。
その男は、怪物であった。
――その名は、リュウシュ。
- 87 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:31:34.12 ID:nkbrFedE0
- 強さを求め、覇者という存在こそが正義という理念があった。
リュウシュは、人を惹きつけるだけの力を持ち、その男の正義に感銘を受けた民が集まり、集団が出来た。
そしてその集団は、神をも殺した剣ならば、覇者になれると考えた。
その集団は、いつしか神を殺したという剣を求め始め―。
その集団は、封じられた剣の封印を解くために動き―。
その剣の封じを、解いた。
- 88 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:33:33.26 ID:nkbrFedE0
- 月の王を生贄に、その剣の封じを解いた―。
その剣―黄泉剣は、ただの、神話の象徴として作られた剣などではなく。
神を一人殺すほどに値する、本当の神の剣であり。
潮の動きを操り、月を蝕む呪いの魔剣であり。
リュウシュは、その月の魔剣を操り、月を破壊していった。
- 89 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:37:31.11 ID:nkbrFedE0
- そして、リュウシュは。
龍の首の鬼―そう自負し。
自分に逆らう月の民を片っ端から滅ぼしにかかった。
黄泉剣は、その刃で切られるだけで、月の民を消し去る。
それは、月の魔剣と呼べるほどに恐ろしい存在で。
黄泉へと送る剣―月の呪いの魔剣で、自分に逆らう民を虐殺した。
- 90 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:40:55.91 ID:nkbrFedE0
- ――場面は、月の王の宮殿へ。
月の王は殺された。
けれど、月の王には娘がいた。
月の女神の血を引く、王族の血を引く娘がいた。
フチはその娘―【姫】を世話する世話役。
そして、同時に【姫】を守る警護役。
シズは、フチの幼馴染―。
元は腕の立つ刀工だったが、刀の扱いも達人であった。
そのため、【姫】の刀の修行役ならびに、警護役に抜擢された。
シズ、フチ、そしてその他の同胞たちは、【姫】を守るため、この星―わたしたちの住む星―青き星へと逃げ―。
その男たちも、この青き星へと追い―。
- 91 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:42:50.40 ID:nkbrFedE0
- 決死の闘いの末、シズ、フチ、【姫】だけが生き残るほどの死闘の末―。
リュウシュを殺し、黄泉剣で消し去り―。
黄泉剣を海の底の底へと沈めた。
けれど、その【姫】は、満身創痍のシズとフチの隙をついて、男どもの生き残り―仏と自負したシャクハツという男に連れ去られた―。
- 92 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:43:59.68 ID:nkbrFedE0
- ぱん――。
フチが、手を叩く。
フチ「―ここまでが、昔話ね」
その話は、わたしたちが暮らしていたのとは別の次元の話のように思えた。
けれど、それでは―。
その月の【姫】―わたしの母は、どうなったのか?
なぜ、父と出会ったのか?
- 93 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:44:47.13 ID:nkbrFedE0
- わたしが思い悩んでいると。
フチ「……何故、【姫】様が、鈴鶴の母親なのか。
それは、分からない
…けれど」
フチは、わたしの問いの前に、その答えを出し―。
フチ「けれど、その一年ほど後。
【姫】様と、出会ったときには、既に――」
- 94 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:46:30.07 ID:nkbrFedE0
- ――死んだと聞かされていた、母は。
フチ「…【姫】様は、何があったかは分からないけれど…
鈴鶴の父親と出会った
…そして、【姫】は鈴鶴を産み…」
――そして。
わたしが心の中で思っていた言葉を、ヤミが発する。
ヤミ「傷つき、空へ掻き消えそうだったわたくしの命を助け――」
フチ「【姫】様は、その命を、散らした」
- 95 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:49:45.46 ID:nkbrFedE0
- シズ「【姫】が、…命を散らす寸前に…
わたしたちは……【姫】に頼まれた」
フチ「鈴鶴と、ヤミのことを、月の女神の血を引く者として―守って欲しい、と」
シズ「だから……わたしたちはあなたがたを守るため、遠くから見守っていたけれど」
フチ「鈴鶴の父親に、月の民となりしあなたたちが、月の民が完成された身体となる、15年まで…
見守り育てることをお願いしていて…
―そして、15年後、昨日、あたしたちが其処に行こうとしたとき」
- 96 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:50:49.95 ID:nkbrFedE0
- 鈴鶴「――奴らが、来た」
ヤミ「――わたしたちの一族を、皆殺しにした」
―妖殺し―カショが。
フチ「一足、遅かった」
シズ「そして…
わたしたちは、あなたがたを守るため、追って―」
フチ「今に至る―というわけね」
- 97 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:51:22.00 ID:nkbrFedE0
- 鈴鶴「わたしの父上は…」
シズ「恐らくは、奴らに―」
鈴鶴「……
…でも、わたしとヤミを―」
フチ「…生かし、逃がしてくれた。
立派な、父親だったと思うわ」
鈴鶴「ええ」
ヤミ「鈴鶴様のお父様は、ほんとうにご立派でした―」
- 98 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:54:02.91 ID:nkbrFedE0
- わたしとヤミは、衝撃を受けたけれど―。
その事実を、受け入れた。
鈴鶴「あなたたちは、わたしたちの家族―ということ…でいいのかな」
―今まで、見守ってくれていたふたり。
シズとフチは、その言葉に目を丸くしたけれど。
シズ「家族……
…まあ、一蓮托生したことになるから…
よろしく、頼む…」
すぐに表情を戻して、冷静に答えた―。
フチ「ふふふっ、家族―。
……まぁ、わたしたちは【姫】様の家族に近い存在ではあったからね
鈴鶴、ヤミ、…改めて、よろしくね」
シズとは対称的に、にこりと笑顔で答えた。
- 99 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:55:06.82 ID:nkbrFedE0
- いつしか、外は夜になっていた―。
わたしとヤミは、シズとフチと色々会話をする。
鈴鶴「ここは?」
シズ「たまたま、見つけた岩の洞穴だ
わたしたちの住処は、…別のところにある」
ヤミ「明日ほどにはその住処へ、戻るのですか?」
フチ「…まぁ、そうなるわね
…この国の、とある島の山の中
――結界を貼った、その中よ
そこにあたしたちが、拠点としていた場所がある
…まぁ、奴らに気づかれないように行かなきゃいけないけれど、ね」
- 100 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 00:56:37.49 ID:nkbrFedE0
- こうして、時間が過ぎる――――――――。
―――――わたしたちは、色々な会話をした。
これまでの暮らしについて、それぞれの好みについて―。
シズ「…その太刀は……」
シズは、わたしが大事そうに持つ太刀について訊く。
鈴鶴「母上の、形見だと」
シズ「ふむ…」
シズは、わたしの太刀を懐かしそうに、見つめる。
シズ「……大切にしてくれていたんだ、ありがとう
【姫】に贈った、わたしの作った太刀だから…
【姫】の好きな花の、百合の飾りに一番苦労したのが…
懐かしいよ」
そう言って、母の形見の太刀―シズの贈り物だという、それを撫でた。
- 101 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 01:01:23.81 ID:nkbrFedE0
- ヤミ「そういえば、わたくしたちを守るのは、【姫】君のお願いのためだけ、ですか?」
その言葉に、シズとフチはぴくと身体が反応し。
シズ「――正確には、もう一つ理由がある
…黄泉剣を、封印しなくてはならない」
ヤミ「…王族が、封印したから、そのためですね?」
ヤミが問う。
そして、その問いに答えが返る。
フチ「そういうことね
けれど、こっちの用件はついでに―近いわね
剣をどうにかするためには、海の底へ剣を引き揚げないといけないから」
ヤミ「―黄泉剣は、大丈夫なのでしょうか?」
フチ「流石の【月の民】も、海の底に消えた黄泉剣は引き揚げられないし、ね
―王族の、女神の血を引く者になら、できるのだけれど、ね」
鈴鶴「―わたし?」
フチ「そう
だけれど、今のあなたを連れてもただ狙われるだけだから」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 102 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/02 01:07:02.12 ID:nkbrFedE0
- いつしか、話の種も切れて。
フチ「そろそろ、休もうかしら?
すぐに出発して、あの島へ向かいたいし」
フチが、そう言って寝床に向かう。
ヤミ「そうですね」
ヤミも、その言葉に続いて、寝床に入って。
シズ「では、眠ろう…」
鈴鶴「では、おやすみなさい」
再び、仮眠を取って、眠りの渦の中へ。
――――今日見た夢は、何も特別なことのない夢で。
――わたしは、目覚めた。
- 103 名前:【第二章 中断】:2014/11/02 01:07:35.34 ID:nkbrFedE0
- 今日はここまで
- 104 名前:きのこ軍:2014/11/02 01:17:22.44 ID:JxX0TvSwo
- 乙乙
鈴鶴さんが持っている剣は黄泉剣ではないんだよね?
- 105 名前:【第二章 中断】:2014/11/02 01:25:20.44 ID:nkbrFedE0
- 黄泉剣は海の底の底に沈んでる。
鈴鶴さんの持ってる太刀は、
シズが【姫】に贈った太刀(=鈴鶴にとって母親の形見)。
- 106 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:01:44.39 ID:rYUXWeXc0
- シズ「さて、行こうか」
鈴鶴「そうね」
わたしたちは、支度を整え、敵に見つからぬように気をつけながら、島へと向かった。
- 107 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:02:36.39 ID:rYUXWeXc0
- 数日かかる、旅だった。
てくてくてくてく、わたしたちは歩く。
敵に―妖殺しの存在も考慮しながら、わたしたちは歩く。
途中、野宿で休みながらも、その島目指して歩く。
- 108 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:06:43.36 ID:rYUXWeXc0
- 野宿の間も、会話をする。
ぱちぱち燃える焚き火の周りで、話をする。
鈴鶴「―そういえば、わたしたちのいた住処はどうなったの…?」
ふと、思いついたことを訊ねてみる。
シズ「…………
……わたしたちがたどり着いたときには、燃え盛る火炎が――」
―そして、その答えは、悲しき答え。
- 109 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:13:02.25 ID:rYUXWeXc0
- 鈴鶴「そう、なのか…」
――その答えに、私は少し落ち込む。
ああ、恐らくわたしの父は――。
シズ「…確か、カショは火鼠とか名乗っていたはずだ…
実際に、火を操ることもできたらしい…」
そう、シズが思い出したように言う。
ヤミ「火炎……わたくしのときも、住処が燃えていました…
妖殺しとして、焼き尽くすことは……都合が良いのでしょうね」
ヤミも、ああと思い出すように。
フチ「……そうか、ヤミは――」
ああ、そうだ―。
ヤミが妖殺しに襲われたとき、そこで、何があったのかを知っている―。
ヤミ「…これで、二回目ですね…
これはもう、運命なのでしょうね
立ち向かわないといけない、という……」
ヤミは、すこし悲しそうに。
けれど、強い意思をこめた言葉で、言う。
会話は続く。
- 110 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:14:08.87 ID:rYUXWeXc0
- ヤミ「そういえば、シズ様や、フチ様は…
なにか、能力…というのでしょうか?そのようなものを、持っているのですか?」
ふと、ヤミが訊いた。
- 111 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:15:45.19 ID:rYUXWeXc0
- シズ「……わたしは、別段そんなことは出来ないな
――まぁ、特技といえばこの太刀などを振るう、こと……かな
そういうことなら、フチのほうが…」
飾りげのない太刀を持ちながら、シズはフチに目をやる。
フチ「あたしは、火水風土を触媒として式神として呼び出すことが出来る―
簡単に言ったら、火や水や風や土から兵士を作り出す―というところね」
話を振られたフチは、すらすら淀みなく、はっきりと答えた。
- 112 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:18:35.53 ID:rYUXWeXc0
- 鈴鶴「どういう、感じに?」
わたしは、少しわくわくして、お願いする。
その答えとしてフチは、得意げな顔でわたしとヤミを見て。
フチ「いいわよっ
ん〜っ!!」
手に持つ小刀に念を送り、焚き火の火から式神を呼び出した。
それは鬼のような、亜人の見た目で―。
向こうの景色が少し見える、水のような質感の式神がそこにいた。
- 113 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:21:21.18 ID:rYUXWeXc0
- 鈴鶴「わぁ…」
わたしは、それに感嘆した。
これほどのものを、簡単に呼び出せるなんて、すごい―。
そしてその感情は、わたしだけではなく、ヤミにもあって。
ヤミ「この式神は、どんな力を持っているのですか?」
ヤミは、興味深そうに訊いた。
- 114 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:22:09.54 ID:rYUXWeXc0
- フチ「ん〜…」
フチは、少し悩んでいたが、それもほんの少しの時間で―。
フチ「そこの岩を、砕けるぐらいかなあ?」
フチは、フチの背ほどの―四尺ほどの大きさの岩を指差した。
フチ「さ、壊してみせて」
式神に、命ずる。
式神は、無言でその岩に拳を振り下ろし―。
ぐしゃ。
砂の塊を蹴散らすがごとく、岩を粉々に砕いた。
- 115 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:24:11.17 ID:rYUXWeXc0
- 鈴鶴「…すごい」
フチ「まぁ他にも、味方を運んだり―補助が出来るわね
―さ、戻りなさい、お疲れ様」
フチが指をぱちんと鳴らすと、式神は焚き火へ歩み寄り、元通りの火へと戻った。
ヤミ「…こんなことができるとは、すごいですね」
ヤミは、丁寧ながらも、目を輝かせながらその様子を見ていた。
フチ「まぁ、わたしは、身体が小さいからね」
だからこそ、これほどまでの力をつけたのだ、と言った。
- 116 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:25:13.42 ID:rYUXWeXc0
- ――こうして夜は更ける。
私たちは、歩き、歩き―。
島の近くにたどり着いてからは、海を渡って―。
といっても、船ではなく、空を飛んで渡った。
わたしは、ときどきそうされていたように、ヤミに抱きかかえられて飛んでゆき、シズとフチは月の民が使えるという飛ぶ力で渡った。
- 117 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:26:54.75 ID:rYUXWeXc0
- ―わたしたちは、無事、島に辿り着いた。
そこからまた、山の中をてくてく歩いて―。
シズとフチの住処に、たどり着く。
わたしたちは、住処の中で腰を下ろした。
いつもやらないことをすると、疲れは溜まるもので…。
鈴鶴「…つかれた」
ヤミ「鈴鶴様、お疲れ様です」
わたしとヤミは、へとへとだった。
特にヤミは、わたしを抱えて飛んだのだ。けれど、疲れは顔に出さず。
わたしは、ヤミのようにならないと、と拳をぐっと握った。
- 118 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:27:52.27 ID:rYUXWeXc0
- 鈴鶴「……シズとフチは、疲れていないの?」
シズ「わたしは、慣れているから…」
フチ「あたしも
あなたたちのところに、15年も様子を見に行ってたしね」
けれど、シズとヤミは、わたしたちとは対称的に、元気に話していた。
やはり、15年わたしとヤミを見守っていただけある―。
- 119 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:30:11.57 ID:rYUXWeXc0
- その元気そうなシズは、布団を引っ張り出した。
シズ「さて、休もうか
ここなら、もう少し気持ちよく寝られるだろう」
―けれど。
ここまで来るときは、身体を禊ぐ機会が少なかったので、さすがに禊ぎをしたい。
鈴鶴「禊いでからで、いい?」
わたしの問いに、シズはああそうだと思い出したように。
シズ「そうだ…な、禊ぎは大切だ…
…この住処には…湯がある―温泉とわたしたちは呼んでいるが、それが裏手に引いてある
……心地よいはずだろう」
鈴鶴「あたたかいみそぎ…」
とても魅力的な言葉に、わたしはぽけーっとしてしまう。
- 120 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:32:39.82 ID:rYUXWeXc0
- ヤミ「鈴鶴様、楽しみですか?」
ヤミが、そんなわたしの顔を嬉しそうに見ながら、そう訊く。
鈴鶴「う、う、うん!そう!」
突然の質問に驚いて、動揺しながら肯定した。
けれど、それは第三者から見ると、とても不自然に見えるものなのか―。
フチ「…あらあら、そんなに楽しみなのね」
フチは、子供を微笑ましく見るような表情で、わたしを見つめた。
鈴鶴「あ……」
恥ずかしい。
かぁっと顔が赤く染まる。
そして、そんなわたしに、ヤミはにこっと笑って。
ヤミ「ふふっ、鈴鶴様、行きましょう」
ヤミが、わたしの頭を撫でて、ぎゅっと手を繋いで歩き出す。
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- 121 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:35:01.34 ID:rYUXWeXc0
- 鈴鶴「ああ、あたたかい…」
あたたかい水は、わたしたちの疲れを取ってゆく。
ああ、とても気持ちいい――。
そう、ぽけーっとしていると。
フチ「鈴鶴って、胸大きいわね
【姫】様の血は、こんなところまで継いでたのね…」
突然、こんなことを言われた。
- 122 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:36:37.64 ID:rYUXWeXc0
- わたしの顔は、またかぁーっと熱くなる。
鈴鶴「え、ちょ、ちょっと…」
その様子を見て、ヤミは慌ててわたしの胸をむにと掴んだ。
そして―。
ヤミ「だ、だって鈴鶴様のここは…
わたしが、こうやって………」
追い討ちの言葉。
ヤミは、わたしよりも動揺していた。
- 123 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:38:57.55 ID:rYUXWeXc0
- フチ「それにしても、ヤミは…
―鈴鶴とは、大きく違うわねえ……」
にやにや、フチが見つめる。
うう、幼い見た目なのに、なんでこんなにいじわるなんだろう―。
それとも、幼い見た目だからいじわるなのだろうか?
ヤミ「もう、鈴鶴様と出来ったときは、こんな大きさでしたから」
―小さな胸を張って、はっきりと答える。
けれど、威厳は感じられない。
やはり、先ほどの動揺の与えた影響はそう消えない。
フチ「…それにしてもヤミは、わたしみたいな、幼い姿の頃に鈴鶴にもしていたの…
ずいぶんと仲が良かったのねえ」
けれど、それに返した言葉は、的確で―。
ヤミ「う…」
ヤミは、言葉に詰まった。
フチ「図星だったんだ」
フチは、さらに、にやにやヤミを見つめる。
- 124 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:39:50.58 ID:rYUXWeXc0
- フチ「―鈴鶴の大きさは、シズといい勝負ねぇ、うふふ」
そしてフチは、ヤミから視線を外してシズに目をやった。
シズ「………そうだな」
わたしよりも大きな胸に手をやりながら、硬く、冷静に答えた。
ああ、わたしもシズのように冷静に対応したい―。
風呂の湯気が、ゆらゆらと漂う中、そんなことを思って―。
―――こうして禊ぎの時間は過ぎていった。
- 125 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:40:54.49 ID:rYUXWeXc0
- ――月が昇り、夜が訪れ――。
わたしたちは、布団の中。
慣れない寝床で眠れないわたしとヤミとは対称的に、シズとフチはすやすやと眠っていた。
けれど、わたしたちは―。
鈴鶴「ヤミ…その……」
布団の中で、ヤミに呼びかける。
ヤミ「…あの…禊ぎのときは、その…ごめんなさい」
ヤミは、そんなわたしにぺこりと謝る。
そんなヤミを見ると、何故だか心が苦しい。
実際とても恥ずかしかったのだけれど、それよりもヤミが苦しむことが心に響く。
鈴鶴「……あの、そうじゃなくて…」
沈黙――。
- 126 名前:【第二章 人捨てし夜】:2014/11/03 01:42:13.35 ID:rYUXWeXc0
- そして、わたしは―。
鈴鶴「血、吸い合おう……?」
首筋を、露にした。
わたしとヤミは、いつものように、互いの血を吸い合う―。
鈴鶴「…んっ、んっ…」
ヤミ「…はぁ、ん…っ…」
互いの首筋に、歯を、牙を、食い込ませ。
互いの身体は抱き合って。
シズとフチには気づかれないように、いつもより声を抑え目に―。
けれども漏れる小さな甘い喘ぎ、増す心拍数。
血を吸い合って、服を直して、布団の中でくっつきあって。
いつしか、眠りの海にわたしとヤミも沈み。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 127 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 01:49:42.30 ID:rYUXWeXc0
- 人物・専門用語
鈴鶴(すずる)
・生年月日:792年10月12日
・身長 :165cm
・体重 :45kg
・スリーサイズ:89-61-85
・髪色 :黒
・目の色 :黒
・血液型 :B型
・利き手 :両利き
・一人称 :わたし
ヤミ(闇美)
・生年月日:782年5月6日
・身長 :170cm
・体重 :60kg
・スリーサイズ:72-62-78
・髪色 :黒と白(ブラック・ジャックのような感じ)
・目の色 :青
・利き手 :右
・一人称 :わたくし
・背中に翼が生えている
シズ
・生年月日:はるか昔、フチと同じ年に生まれた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 128 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 01:57:55.89 ID:rYUXWeXc0
- 【月の民】
月に生きた、長寿の民。
15才のときの姿が、成熟した姿であり、その姿で永く生きる。
(フチは7歳の少女ぐらいの姿であるが、これは単に彼女の成熟した姿がそうであるからである)
現在は、シズ・フチと、カショの同胞ぐらいしかいない。
人間よりも丈夫であるが、流石に首や心の臓をやられたら死ぬ。
また、病にかかることもある。
要するに、不老長寿の民である。
【妖殺し】
リュウシュの同胞、黄泉剣をめぐる戦いで生き残った月の民。
鈴鶴の母親(【姫】)が死体で見つかり、黄泉剣を探り当てられないと分かったので腹いせに作った組織。
その通り、妖怪を皆殺しにしていく集団。
現在は【姫】の子である鈴鶴がいると分かっているので、殺戮はしていないらしい。
社長作イメージ図(それほど期待をしてはいけない)
鈴鶴
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/459/c01.jpg
ヤミ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/460/c02.jpg
シズ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/461/c03.jpg
フチ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/462/c04.jpg
- 129 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 02:48:33.97 ID:rYUXWeXc0
- 鈴鶴の後ろにいる何者かは、今後明かされる予定である。
- 130 名前:きのこ軍:2014/11/04 04:09:37.14 ID:pIOF81Qw0
- 投下乙。全員スタンドみたいなのいませんかね。
- 131 名前:きのこ軍:2014/11/04 04:10:32.09 ID:pIOF81Qw0
- フチと鈴鶴さんだけだった。
- 132 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:28:47.17 ID:kmgKojgI0
- 朝が来た―。
鈴鶴「んーーっ」
わたしは、目覚めた。
外を見れば、日差しがまぶしい――。
鈴鶴「…んー」
久しぶりに、住まいから見る日差しは、わたしが今いるのは安全な日常なのだという証し。
- 133 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:29:31.33 ID:kmgKojgI0
- 鈴鶴「ヤミたちは…」
わたしは寝ぼけ眼をこすりながら、周りを見渡す。
わたしは、どうやら一番最初に起きたらしい。
他の三人は、すやすやと眠りについていた。
- 134 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:30:23.23 ID:kmgKojgI0
- わたしは、やることもなく、みんなの寝顔を見ることにした。
ヤミは、わたしがいつも見ていた、きれいでやさしい寝顔。
シズは、身体を休息している時も気を引き締めているような、冷静な寝顔。
フチは、見た目相応の、幼い女の子のように、可愛い寝顔。
- 135 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:31:41.49 ID:kmgKojgI0
- わたしがじろじろと寝顔を見ていると。
シズが、目を覚ました。
シズ「おはよう
…何を、しているんだ?」
シズは布団の中から、冷静にわたしに問う。
鈴鶴「あ、あの………
…………寝顔を、見てたの
やることがないし、あはは…」
その冷静さに、わたしはしどろもどろになりながら答える。
ああ、前もシズのような冷静さを身につけたいと言ったのだけれど、またそう思ってしまう。
- 136 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:38:32.68 ID:kmgKojgI0
- そんなわたしを見て、シズは硬い―けれど、やさしさを含んだ、ふしぎな硬さを表情に乗せて微笑んだ。
シズ「まぁ、月の民とはいえ…
それほど、見た目は人とは変わりはないからね
違うのは、髪や目や生きる年だ」
微笑みながら、布団から身を持ち上げた。
鈴鶴「そういえば、わたしやヤミの生きる年は、どれぐらいなの?」
ふと、わたしは問う。
わたしとヤミは、完全なる月の民ではないから。
シズ「【姫】の血を引き継ぐ鈴鶴も、生命を引き継ぐヤミも、わたしたちと同じだろう」
それを聞いて安心する。
わたしがヤミたちを置いていくのはいやだし、わたしがヤミたちに置いていかれるのもいやだから。
そんなわたしを、シズはやさしい目で見つめていた。
- 137 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:40:06.73 ID:kmgKojgI0
- しばらく沈黙が続く。
ふと、シズが訊いた。
シズ「そういえば、鈴鶴は…
その太刀、どれぐらい振ってきた…?」
そう、訊いた。
- 138 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:45:06.11 ID:kmgKojgI0
- わたしは答える。
鈴鶴「父に、使い方を教わって…
…7年間……、毎日ではなくてときどきだったけれど、ね」
その言葉を聞いて、シズは少し考えて。
シズ「……………
わたしは、鈴鶴の父親に
15年前から、稽古をつけていた」
稽古―。
父は、稽古に行っていた―。
ああ――。
鈴鶴「稽古……
そうか、父がいつも行ってたのは―」
シズ「ええ…鈴鶴の父親に、剣術を教えていた」
シズは、懐かしそうに言う。
シズ「…7年前からは、その頻度は少し減ったけれどね
さすがに、鈴鶴に会うのは、【姫】の約束に反することとなるから」
鈴鶴「そうだったんだ…」
- 139 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:47:34.05 ID:kmgKojgI0
- わたしたちが話している間に、フチも目覚めた。
フチ「…おはよ、鈴鶴とシズはおきていたんだ」
眠そうに目を擦り、わたしとシズのところにやってくる。
- 140 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:48:38.66 ID:kmgKojgI0
- フチ「何の、お話?」
鈴鶴「わたしの父に、シズが剣術を教えていた…」
フチは、狩衣に着替えながら、懐かしそうに。
フチ「…そうねぇ、懐かしいわね
あたしは、その間は鈴鶴たちのことを遠くから見てたから、あんまりは知らないけれど
…かなり、腕の立つ剣士だった、そういう印象は残っている」
- 141 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:52:33.51 ID:kmgKojgI0
- 鈴鶴「こうしてると、本当に、ふつうの人のような…」
そう、ほんとうに、ただの日常に思える―――。
そして、着替え終わったフチは、わたしの髪をぺたぺた触った。
鈴鶴「ひゃ!?」
ぼーっとしていたときに触られて、情けない声が漏れる。
けれど、フチはその反応を気にせずに、なおも触る。
フチ「鈴鶴、その髪きれいよねぇ
長くて、黒くて―とても、美しいわ」
そして、わたしの髪を、魅入るように見つめて、そう言った。
わたしの背丈か、それを越えるほどの長さの髪を、ぺたぺた触ってそう言った。
- 142 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:53:22.39 ID:kmgKojgI0
- 鈴鶴「これも、母上に似ているの?」
シズ「【姫】よりも、さらに長いけれど…ね」
フチ「色は違えど、この美しさはそっくりよ…
血は争えない…わね」
名も、顔も知らぬ母だけれど、わたしは母に、【姫】に、これほどそっくりなのか―。
- 143 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:53:39.64 ID:kmgKojgI0
- そんなことを話しているうちに、ヤミも眠りから覚め―。
ヤミ「おはようございます、みなさま起きていらしたのですね」
―――みんなで、ありきたりな会話をして。
そのうち、これからのことを、話し合うこととなった。
- 144 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:56:54.88 ID:kmgKojgI0
- 話し合いの結果。
黄泉剣を見つけて、封印することが決まった。
沈んだ黄泉剣は、月の民でも見つけることは容易いことではない。
海の底にあるために、引き揚げるのは容易いことではない。
15年も引き揚げられないことが、それを証明している。
ただ、神の血を引く私なら、剣と引き合って引き揚げられるのだという。
それを行う過程で、敵が現れることを念頭に置いて、稽古に取り組む――。
つまり、まずは、稽古をする――。
そう、決まった。
- 145 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 01:05:13.83 ID:kmgKojgI0
- シズはわたしの手を取り。
シズ「――太刀の腕を、さらに磨こうか
あの人の血を引く鈴鶴なら、やりやすいだろう」
鈴鶴「うん」
フチ「まぁ、ずっとやってたことだし、問題ないんじゃない?」
そしてフチは、ヤミをじいっと見て。
フチ「…ヤミは、天の狗なんでしょう?
……なら、風の術は使える?
確か、天の狗の得意とする技…とは聞いていたけれど」
ヤミ「まぁ、基本のことは…
けれど、闘いに関することは…
残念ながら、習えませんでした…」
ヤミは、すこし静かな沈んだ声色で。
フチ「ああ、そうだ…
ごめんね、掘り返して…」
その原因に気づき、フチも沈んだ声色で。
ヤミ「けれど、大丈夫です
わたくしは、これしきのことでへこたれませんから」
そう、自信を持って答えた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 146 名前:【第三章 中断】:2014/11/12 01:06:05.22 ID:kmgKojgI0
- 今日はここまで。
- 147 名前:きのこ軍:2014/11/14 04:25:43.00 ID:7SLKzhkk0
- 平和パートいいぞ。
- 148 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:37:32.90 ID:yD1YVOZc0
- わたしは太刀を振るう。
どこまで身についているかを、シズは、その振りを、構えを見る。
シズ「…これほどまでとは…驚いた
わたしが鈴鶴の父に教えた通りだ…すばらしい」
太刀を振るなり、シズはわたしを褒めた。
鈴鶴「そんなに、いいの……?」
いきなり賞賛されて、わたしは戸惑った。
- 149 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:39:18.07 ID:yD1YVOZc0
- シズ「ああ…
鈴鶴の父は、うまく教えたようだな…」
鈴鶴「父上の教えは、それほどまでに―?」
シズ「鈴鶴の技は…まだまだ、細かなところを直すところはあるけれど、基本のことは出来ている」
意外な事実を聞きながら、わたしは稽古をつけてもらった。
- 150 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:43:46.14 ID:yD1YVOZc0
- 鈴鶴「はぁ、はぁ、はぁ―」
父との稽古よりも、厳しく―。
それよりも、長き時間を経たことが原因か。
わたしは、息を切らして、座り込んだ。
シズ「――さすがに、やりすぎたか
わたしが、連れて行くよ」
鈴鶴「…お願い」
そう言って、わたしを抱っこして、住処へと連れて行った。
かつては、幼い頃、ヤミに抱っこしてもらった、あの感覚がふとよぎる。
鈴鶴「ん――」
ふと、声が漏れた。
シズ「……大丈夫、か?」
心配するシズの声。
疲労よりも深い何かを傷つけたのかと、心配しているのか。
けれど、それを見せまいと。
鈴鶴「大丈夫、疲れただけ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 151 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:46:50.56 ID:yD1YVOZc0
- わたしが、床の上でゆったりと休み、しばらくして。
ヤミとフチも、帰ってきた。
ヤミの顔も、わたし同様すごく疲れていた。
ヤミ「鈴鶴様、お疲れみたいですね」
涼しげな、けれど疲れのある顔でわたしに言う。
鈴鶴「お互い様…」
ふたり、床の上で息を切らしながら、笑いあう。
- 152 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:52:34.30 ID:yD1YVOZc0
- フチ「それにしても、あなたたちってすごいわね
もともと太刀筋を教わってた鈴鶴はともかく、
ヤミの風の術も伸びそうよ」
そんなわたしたちに、フチは言う。
鈴鶴「そう…かな?」
ヤミ「ありがとうございます」
わたしは、すこし照れくさく、頭をかく。
わたしの長い髪が、ふわっと揺れた。
シズ「鈴鶴、自信を持てばいい…
フチの言うとおりだ」
けれど、そのふわふわした流れは、シズの硬い言葉でがちっと掴まれ。
鈴鶴「ありがとう」
わたしの気持ちは、自信を持つ方向へ進んだ。
- 153 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:54:21.77 ID:yD1YVOZc0
- そんな短い時間を過ぎ。
まだ、その日々は終わっていないけれど。
ああ、これがこれからの日常なのだ―。
そう思いを馳せる。
- 154 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:54:44.95 ID:yD1YVOZc0
- ―いつものように禊ぎをして。
―シズとフチが寝ている間に、いつものように血を――。
鈴鶴「…ん、っ……」
ヤミ「はぁ、ん…はぁ…ん…」
互いの肌を重ね合わせ、その首筋から――。
ふたり、体温と鼓動の高まる肌を重ねていて、その余韻を味わっていると―。
- 155 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:59:02.01 ID:yD1YVOZc0
- シズ「…何、やってるんだ」
呆れた視線のシズと。
フチ「なんとなーく、予感はしてたけど…
やっぱり、そこまでの仲なのねぇ…」
にやにや見つめるフチが。
- 156 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:02:16.50 ID:yD1YVOZc0
- かぁっと肌が赤くなる。
鈴鶴「な、なんで起きて…」
恥ずかしさで、胸が、頭が、ぐしゃぐしゃに包まれる。
シズ「何か、気になる気配がしたから…」
フチ「何かやらかすまで、隠れて見てたら…
ああ、見てるこっちが恥ずかしくなるほどに激しい…」
- 157 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:05:39.36 ID:yD1YVOZc0
- ヤミ「あ、あ、あの
わたくしはただ、ただ血を…
そんな、激しいことなんて、い、今…していないですよ?」
わたしより、ヤミのほうが慌てていた。
顔を真っ赤にして、その左目でわたしを見つめながら、そう言う。
けれど。
フチ「…なあに?昔はこれより激しい【こと】してたの?
血を吸い合うことよりも…」
くすくす笑って、フチはからかった。
- 158 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:08:11.44 ID:yD1YVOZc0
- 鈴鶴「………」
ヤミ「う…そ、それは…」
ふたりとも、恥ずかしさで顔が真っ赤に―。
心当たりが大いにあってしまうほどの関係だから、その言葉はとてもとても心に響く。
フチ「あらあら、図星なんだぁ」
くすくす笑いながら、フチが見つめた。
フチはこういうとき、いじわるになる。
- 159 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:11:09.52 ID:yD1YVOZc0
- シズ「まぁ…乳代わりに、赤子の鈴鶴に血を与えていたのだろうが
…その癖が抜けずに、いつしか今もするまでに行ってしまった、ところだろう」
シズが、やれやれと息を吐き、見解を言うも。
フチ「…乳離れできてないってことじゃない
ああ、そこまでの仲だったんだぁ…」
シズ「…確かに」
シズも、納得してしまった。
- 160 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:11:49.41 ID:yD1YVOZc0
- 体温も、心臓の鼓動も、高まっていくのを実感していると―。
フチ「でも、月女神の、濃い、その血は…
甘美な味なんでしょうねぇ」
突然、フチがわたしの膝元にまで来て、そんなことを言う。
フチ「それを思うと、乳離れできなくても仕方ないわね
ね、シズ?ねぇ?」
そして、シズに目線をやった。
シズ「……まぁ、確かに」
シズは、それを否定しなかった。
しばらく、静かな気まずい空気が流れる。
- 161 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:12:42.60 ID:yD1YVOZc0
- しばらく時間が経ったころ、その空気をフチが打ち破った。
フチ「…鈴鶴、あたしにも血を頂戴?」
フチは、わたしの肩に顔を寄せ、そう甘くお願いした。
え―――!?
突然のことに、わたしの心臓はばくばくばくばく、ヤミと血を吸いあうよりも多く拍動した。
鈴鶴「あの、わたしは、その…
えっと、その…」
どうしていいかわからずに、ヤミを、ちらと見た。
- 162 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:15:52.90 ID:yD1YVOZc0
- ヤミ「わたくしは、鈴鶴様が宜しいのであれば、……構いません」
顔を赤らめながらも、はっきりと。
フチ「だって、鈴鶴」
じぃっと、わたしを見つめるフチ。
シズ「………」
シズは、無言でその様子を見ていた。
- 163 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:16:23.22 ID:yD1YVOZc0
- フチ「シズ、欲しいんでしょう?
…ほら、言ったら?」
そう、優しく背中を押した。
シズ「………ああ」
そしてシズは、閉じた口を開け、そう言った。
わたしも、この二人になら、あげても―。
わたしとヤミのことを、わたしたちが知らないときから、遠くから見つめ、守り、助けてくれた、ふたりになら―。
- 164 名前:【第三章 中断】:2014/11/18 01:16:45.68 ID:yD1YVOZc0
- 今日は此処まで
- 165 名前:791:2014/11/18 01:17:09.79 ID:OeIP8buoo
- 更新おつ!
- 166 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
- DB様のお通りだ!
- 167 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:15:35.51 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「いいよ…」
わたしは、はだけた服から見える肌の、既に血を止まった首筋を指でなぞった。
シズ「…………」
フチ「いただきます」
ふたりは、初めて見せた、赤らむ顔で、わたしの体を抱きこんだ。
そして、わたしの首筋に。
ヤミがわたしに牙を立てる場所に―。
ふたりの牙が、食い込む。
- 168 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:21:52.08 ID:Vn.dFi4o0
- じわりと痛みが走る――。
ふたりに牙を立てられるのは初めてなせいか、その痛みに戸惑ったけれど。
シズが、そんなわたしの頭を優しく撫でた。
ただ撫でられているだけでも、その戸惑いは薄れてゆく。
そして、ふたりが、わたしの腕に、互いに身体を押し付けながら、わたしの血を吸っていく。
フチ「あむ…はぁ、はぁ…」
フチは、幼子が乳を飲むかのように、その幼い見た目がよく似合う表情で、わたしの血を飲み。
シズ「ん…
んっ、んっ」
シズは、やわらかな胸を押し付けながら、シズよりも激しく、わたしの血を吸う。
その片手は、依然わたしの頭を撫でていて、わたしの心はくすぐったい。
- 169 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:24:14.15 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「――っ」
わたしが、目を瞑ってその心のこそばゆさに耐えているうちに、ふたりの牙は離れた。
シズ「ごちそうに……なった」
そして、シズがわたしを撫でる手を離し。
フチ「鈴鶴の血、思っていたとおり……
ああ、とても、おいしかった…」
フチは、満足そうな表情で口をぬぐった。
ふたりとも、熱を孕んだ目でわたしを見つめる。
その目が、またわたしを恥ずかしくする。
わたしは、血を吸われた後も、顔を赤くしてぼーっとしていた。
- 170 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:29:24.22 ID:Vn.dFi4o0
- ヤミ「鈴鶴様の血は、美味しいでしょう」
ぼーっとするわたしを抱きしめて、ヤミは誇らしげに言う。
シズ「……
甘さ、苦さ、口触り、思い―
すべてが混ざり合って、とても美味しかった――」
フチ「あたしも、同じ
これならあなたたちが、ずっとこんなことをやってるのも、頷けるわ」
赤みを帯びた顔で、二人は言う。
その言葉が、わたしの心の中を、赤く紅く恥ずかしさで染めていって。
鈴鶴「うぅ…もう寝る」
もう、まともに顔が見れない。
わたしは、顔を隠して、布団の中にもぐりこんだ。
- 171 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:33:32.52 ID:Vn.dFi4o0
- ―いくばくかの日が過ぎる。
いつものように、わたしは太刀を振るい、ヤミは術を鍛える。
いつものように、わたしはヤミと血を吸い合う。
けれど、そこにひとつだけ変わったことが。
わたしの血を、さらにシズとフチが吸うようになった。
わたしのこの血は、とてもとても魅力的だという。
毎日食べるご飯よりも、とてもとても魅力的だという。
―こうして、いくばくかの日が過ぎてゆく。
- 172 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:38:01.52 ID:Vn.dFi4o0
- ――ある朝。
今日は、わたしは封じの術をフチに教えてもらうことになり、シズはヤミに武術を教えることになった。
黄泉剣を引き揚げれば、それを封じなければならない。
もとは月の王族が封じた剣。
月の王族の血―月の女神の血を引くわたしが封じるのが、一番封じを貼るためには適切なのだ。
そのために、その術を使えるように、特訓が始まった。
- 173 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:45:01.03 ID:Vn.dFi4o0
- フチ「………」
フチは、わたしの身体をじろじろと見つめる。
鈴鶴「な、なあに?」
その目線が、少し恥ずかしくて、わたしの声は焦りを含んで漏れる。
フチ「…鈴鶴って、守護霊が憑いているの?」
そう、不思議そうに言った。
- 174 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:46:28.52 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「守護…霊?」
聞いたこともない言葉に、首をかしげると。
フチ「…いや、あなたの後ろ…いや、心の中と言ったほうがいいのかしら?
あなたの魂を、鬼が包んで、守っている―」
鈴鶴「鬼―?」
わたしを守る鬼―?
フチは、わたしの胸に手を当てた。
フチ「そう、あなたの中に――
でも、それが何を守っているのかは、分からないわ」
そう言って、わたしの髪をぐしゃぐしゃ撫でると。
フチ「さ、頑張ろうっか」
特訓が、始まった―。
- 175 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:47:43.72 ID:Vn.dFi4o0
- 時間は気が付かない間に、夕暮れになって。
太刀の修行よりも、身体は疲れなかったけれど、その分精神を使う。
慣れれば、それほどでもないとフチは言ったけれど、それは慣れないもので―。
住処に帰ってきた後、わたしは、眠気に襲われて―。
フチに、頭を撫でられながら、眠りに落ちた。
目が覚めたときには、既に月が空に昇っていた。
いつの間にか、ヤミとシズは眠りについている。
フチは―。
わたしの枕元で、じーっとわたしを見ていた。
- 176 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:49:45.97 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「は―
こんな時間まで、眠ってたの、わたし?」
フチ「そうよ
ヤミとシズは、少し前に寝たわ」
わたしは、あわあわしながらフチを見つめる。
鈴鶴「…あ、あの
わたしのこと、看ててくれたんだ
その、ごめんね」
こんな時間まで寝ていたことに、わたしはうろたえながら謝った。
フチ「謝ることじゃないわ
疲れてたし、しょうがない」
けれど、フチはそんなわたしを優しい瞳で見つめながら撫でてくれた。
- 177 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:50:26.74 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「その、ヤミは、何か言ってなかった?」
ヤミは、わたしを看ていると思ったのだけど。
フチ「あたしが、ヤミに休んでてと言ったの
ヤミも、あなたのように疲れてたしね」
鈴鶴「そうなんだ…」
フチ「それよりも、あなた、禊いでいないでしょう?
さ、行きましょう?」
鈴鶴「うん」
わたしの手を取り、温泉へ――。
- 178 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:56:11.90 ID:Vn.dFi4o0
- 禊ぎが終わる――。
そして、ふたり寝床に戻って、フチに血を吸わせた。
フチがわたしの血を舐め終わったあと、眠ろうとしたその時。
フチ「鈴鶴」
フチが、わたしを見つめる。
鈴鶴「なあに?」
フチ「…お願い、血を…吸って?」
駄々をこねる子供のような目で、わたしを見つめた。
その瞳は、吸い込まれるような、とてもきれいな瞳だった。
- 179 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:59:03.39 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「その………あの………いいけど、どうしたの?」
その目は、いつもとは特別に感じる、そんな目で―。
わたしは、訊いた。
フチ「鈴鶴のことが、…心から離れないの
【姫】様の面影を持つあなたが――
はじめてあなたが生まれたあの日から…
育ちゆくあなたのその姿が、わたしの心をぐちゃぐちゃにかき混ぜていったの…
――前に、血をもらって…
それから、血をもらって…
今まで、耐えていたものが…」
言葉を言い終わらないうちに、フチは首筋を露わにさせる。
見た目相応の幼さの、儚い白い首筋が、わたしの前に。
- 180 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:01:51.78 ID:Vn.dFi4o0
- フチ「して……?」
その、言葉が引き金となった。
わたしはフチの身体を抱きしめて。
鈴鶴「ん――っ」
フチのちいさな首筋に、ゆっくりと歯を立てた。
フチ「っ――」
フチの身体がこわばる。
だから、わたしはフチを離さぬ様に抱きしめて、血を吸う。
鈴鶴「ん………ちゅっ、ちゅ…」
その味は、ヤミのその血とは違う味。
けれど、その味は、わたしの心を熱く染める味。
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