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きのたけWARS ss風スレッド

1 名前:きのこ軍 @移転作業中:2014/03/24 00:18:40.76 ID:L0nBYOkw
きのこ軍とたけのこ軍で"大戦"をすることで、時代が進むフシギな世界―
              ―きのこたけのこワールド―
最盛期は頻繁に大戦が行われ、お互いを憎みあい、お互いを意識し、撃破しあうことで、
兵士たちは情熱とやる気を保ち、世界は発展していった。

そんな栄光の時代も、今は昔。数多くの戦闘を経て、兵士たちはかつての大戦への熱気を失いつつあった。
大戦への希望と熱気で包まれていたかつての"大戦の歴史"は、
干満で怠惰が支配するものへと塗りかえられつつあった。

舞台は K.N.C歴175年。
ある日、大戦運営を管理する大戦会議所のもとに、記憶を失った
きのこ軍兵士とたけのこ軍兵士が流れ着く。
二人の兵士の登場を機に、大戦は徐々に熱気を取り戻し始める。

しかし、突然世界は意図せず"歴史"を塗り替え始める。
今現在の歴史だけではなく、過去の栄光までも無かったことにして、歴史を喰らう異型の存在――

                 ― “DB” が世界の前に立ちはだかった―


DBを討伐するため。大戦の"歴史"を取り戻すため。
そして自分たちの"存在意義"を知るため…
様々な想いを抱きながら、二人の兵士を始めとした会議所兵士たちは、
時空を越え、過去を取り戻す旅をする…
 

                    『きのたけWARS 〜DB討伐〜』


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

288 名前::2014/07/12 11:46:23.07 ID:8g2EyaoYo

いやああああああDBいやああああああああ

289 名前:たけのこ軍 社長:2014/07/12 21:36:26.68 ID:52nOBk.w0
ついに…

290 名前:きのこ軍 滝本:2014/07/13 13:32:36.96 ID:D/8hvJd20
忘れていた残りの人物紹介その1

・791
たけのこ軍兵士。
希代の大魔法使いとしてたいへん著名な兵士。両軍から恐れられているが、本人は
自分はフツウの兵士だと主張し周りを戦慄させている。
大戦の参加歴は古参兵と比べると浅いが、会議所への
貢献度では引けをとらない。
オニロの師匠であり、オニロを攻撃タイプ型魔法使いへ極める張本人。
本編でコーヒーを飲んでいるシーンがあったが、それはメロンソーダへと脳内変換してください。

・山本
たけのこ軍兵士。本名ペーペー山本。
新米兵士の教官として、指導者として日々汗を流す。一部からは鬼教官と呼ばれるほど。激しいシゴキが有名。
K.N.C175年の、鉄のカーテン<ペティコート>作戦発案でたけのこ軍を勝利へ導いており、
戦術家としての一面ものぞかせる。
そんな大戦の裏方から戦闘までを支える山本であるが、裏の顔は宗教家。
「乙牌教」の教祖として、乙牌に異常なほどの熱意を見せている。
乙牌チェックはもはやライフワークとなっており、時には愛弟子を見捨ててまでも
乙牌に情熱を燃やす。
アイムの最初の師匠。だが、途中で愛想をつかされてしまい、アイムの成長は筍魂に託すことになる。

残りはまたいつか。



291 名前:791:2014/07/13 14:00:41.93 ID:w7xfZJYQo
更新おつ!

クリームソーダ飲みたくなってきたな
>>290
フツウの兵士だよ?

292 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
DB様のお通りだ!

293 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
DB様のお通りだ!

294 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
DB様のお通りだ!

295 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
DB様のお通りだ!

296 名前:791:2014/07/16 23:46:10.71 ID:Fk/2a0loo
削除がいっぱいあって、ストーリー中逃げ出したはずのDBが、その辺歩き回ってるみたいで面白い

297 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/08/19 20:03:58.08 ID:QuPwy//Yo
1ヶ月も更新がないだって?ハハッワロスワロス

298 名前:791:2014/08/19 21:21:16.90 ID:z4cZzf7wo
首を長ーーーーくして待ってます!

299 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/08/30 01:53:20.60 ID:PIM5.dsYo

〜簡単なあらすじ〜
会議所「過疎で苦しんでるぞ〜誰か助けて〜」
占い師社長「そのうち救世主くるぞ」
きのこ軍 アイム&たけのこ軍 オニロ「記憶喪失でなんだかわからんけどたどり着いたぜ」
会議所「救世主やん!こいつらスターにして大戦に活気を取り戻すぞ!」
と思ったら、勝手に歴史が変わっちゃいまいた(テヘペロ ←いまここ

300 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その1:2014/08/30 01:55:51.53 ID:PIM5.dsYo
DB<ダイヴォー>
きのこたけのこ大戦の負の象徴として君臨し続ける、きのこたけのこ大戦史上最凶の兵器である。
その姿を見る者、声を聞く者全てに不快感と嘔吐感を与える恐怖の大王は、
K.N.C28年に何の前触れもなく、兵士たちの前に姿を現した。
語ることすら憚れるような歪で醜穢な外見、鼻がひん曲がるような体臭。ひとたび口を開ければ、
まるで毎日生ゴミしか口にしていないんじゃないかと疑うほどの悪臭。

DBはきのこ軍・たけのこ軍兵士たちにとって正に「不幸」そのものだった。
DBの侵略を食い止めるべく、お互いを憎悪していた両軍が一時同盟を締結し、討伐戦を行い見事撃退したほどだ。
その後DBは度々大戦の合間を狙っては兵士たちの前に現れ、その度に討伐戦が発生し、
きのたけ連合軍に撃退されるようになった。

301 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その2:2014/08/30 01:58:02.05 ID:PIM5.dsYo
たけのこ軍 埼玉「DBが逃げ出したということは大変な事態たま」

たけのこ軍 椿「最後のDB討伐戦が行われたのはいつでしたっけ」

たけのこ軍 オニロ「年表ではK.N.C132年に最新のDB討伐戦が行われて、それ以後DBに関する記述はありません」

きのこ軍 黒砂糖「…DBはその討伐戦の時に、会議所が捕まえた。そして、スクリプトと同じように地下に幽閉したんだ」

たけのこ軍 加古川「しかしスクリプトとDBが同時に逃げ出したということは、両者が手を組んでいるということは十分に考えられるな」

たけのこ軍 社長「DB君どこですか〜^^」

ただでさえ近年は大戦の関心度・士気が下がっている中で、DBが人里に出現したとなれば、
人々の不安は煽られ、より一層の大戦離れが起こりかねない。
それだけは大戦を運営する会議所からしたら、なんとしても避けたい事態だった。
すぐに、人里にDB捜索隊&救援隊を派遣する。
参謀はいの一番にそう主張し、ほとんどの兵士が賛同したが、ただ一人集計班だけはその案に異を唱えた。

302 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その3:2014/08/30 02:00:49.84 ID:PIM5.dsYo
きのこ軍 集計班「…連絡は少し待ったほうがいいとおもいます」

きのこ軍 アイム「…」

たけのこ軍 社長「アイム君 誰でもいい!!はいってくれ!!」

きのこ軍 参謀「なんでや。DBとスクリプトが逃げ出したていうんは、会議所や大戦にとって非常事態を指す。
早急に対処しないと大変なことになるで」

きのこ軍 集計班「我々会議所兵士の役目は“大戦の遂行”。
いま兵士の皆さんたちに事の次第を説明すれば、無用な混乱を招くだけでしょう」

きのこ軍 参謀「つまり周りには黙って、ワイらだけで事態の対処に当たるちゅうことか?それはおかしいでシューさん」

きのこ軍 アイム「…」

たけのこ軍「アイム!わかっているのか!おい!」

それまで呆然としていたアイムは社長の言葉に驚き咄嗟に立ち上がってしまった。全員の視線がアイムに集中する。
アイムは頭をフル回転させ、最適な言い訳を考えた。

きのこ軍 アイム「…ちょっと新種のスクワットを試そうと思って」

たけのこ軍 筍魂「おっ、そうだな」

赤面しながらおずおずと席に座るアイム。
もちろん、元凶となった社長を睨むのは忘れない。
しかし、バグった顔の社長にはそもそもどこに眼や鼻がついているのかもわからない。
仕方なくアイムは社長の眼がついていると思わしき顔の中央部、とりわけモザイクが多くかかった箇所を睨み続けた。

303 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その3:2014/08/30 02:05:30.38 ID:PIM5.dsYo
DB<ダイヴォー>という言葉を耳にした瞬間、アイムはまるで金縛りのように硬直したまま動けなくなってしまった。
DBという存在自体を今初めて知った。そんな単語すら聞いたこともない。
アイムは自らの記憶を探り、そう結論付ける。しかし、身体は“覚えている”。

今の自分が知りえなくても、過去の自分は覚えている。
自分の心と身体が相反している状況に、アイムは背筋が寒くなった。
咄嗟に同じ記憶喪失仲間のオニロを見やる。
オニロはアイムのように金縛りにあったりはしていないようだったが、
いつもの柔和な笑顔はなりを潜め、目を細めて思案しているようだった。

アイムの奇行で、場の雰囲気が乱れてしまい長い沈黙となって襲いかかる。
誰も喋り出せずにいるこの状況に罪悪感を覚えたのかはたまた耐え切れなくなったのか、
アイムが自分で会議を再開することにした。

きのこ軍 アイム「…DBとスクリプトってのが手を組んでるとして、オレたちだけで対処可能な敵なのかそれは?」

きのこ軍 集計班「可能です」

たけのこ軍 社長「ちなみにまあ嘘だけどね^^」

社長の言葉をいつも通り無視して集計班は語り始めた。
DB討伐複数小隊の結成。
詰まるところ、集計班の主張はこうだった。
きのこの山、たけのこの里、大戦世界に広がる未開の地、そして会議所。
この4方面にそれぞれDB討伐隊を派遣して、DB・スクリプトの捜索及び捕獲を行うというのだ。
そして、この作戦は会議に集まっている会議所兵士だけで行われるべきで、
一般兵士に無用な心配をかけさせないための配慮だというのだ。

304 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その3:2014/08/30 02:10:47.62 ID:PIM5.dsYo
きのこ軍 参謀「シューさんの考えは分かったが…隊を無駄に分けすぎちゃうんか?
確かに捜索には多方面同時進行作戦が一番やと思うが」
腑に落ちないでいる参謀を始めとした兵士たち。

きのこ軍 集計班「結局、会議所に駐留する以外の小隊については、
DB・スクリプトが見つかるまでの斥候と思っていただければ幸いです。
目標を捉えた時点で、残りの部隊も合流して叩けばいいのです」

たけのこ軍 ビギナー「DBを捕獲する、と言っていたけど斃さないの?」

きのこ軍 集計班「DBは狡猾で逃げ足がとにかく早い。幾度となくヤツと対峙しましたが、
瀕死の重傷を負わせることは出来れども、あと一歩のところでとどめを刺そうとすると逃げてしまう。
そんなヤツなのです」

DBのしぶとさは過去の歴史が既に証明している。討伐戦全てで、会議所側はDBに勝利し撃退こそすれど
討伐は叶わなかったのだ。
最後の討伐戦でようやく捕獲した時も、会議所側が想定していたよりも酷く時間がかかった。
捕獲こそ可能であれど、討伐にはさらなる時間と人員を要する。
そのような手間は欠けられないと集計班は暗に語っているのである。

305 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その6:2014/08/30 02:16:14.95 ID:PIM5.dsYo
たけのこ軍 加古川「だが、捉えたとしても今みたいにまた逃げ出してしまうリスクが有るんじゃないのか。
ならば、もういっそ討伐してしまったほうが…」

加古川の意見ももっともである。結局、DBやスクリプトが脱走した原因は未だに突き止められていない。
そのような状況下で捕獲して幽閉したとしても、再び脱走するだけではないか。
加古川の言葉に多くの兵士が賛同しようとしたその時――

きのこ軍 ¢「いや、捕獲するべきだ」

それまで終始黙っていた¢が静かにそう告げると、部屋はシンと静まり返った。
¢の言葉には、常人には表現できないような使命感とそれをも上回る焦燥感が入り交じっていた。
そしてその言葉に込められたいずれの思いも、他の兵士には理解できないものだった。
あるいは数人は彼の思いを理解していたのかもしれない。その一人が集計班だった。

集計班がチラと¢に目配りをする。二人の視線が一瞬交差する。
アイムは二人のなんでもない所作が気になった。

きのこ軍 集計班「DBは討伐せずに捕獲するようにしましょうか。余裕があれば討伐ということで。
まあまずは発見が先ですがね。いったいどこにいるのやら…」



緊急会議はその場で一時閉会した。
DB討伐隊は参謀指揮の下、すぐさま各小隊が編成され出発した。
アイムも、きのこの山方面部隊の一員として加わっていた。
一方、オニロは会議所部隊として大戦年表編纂室の「留守番」を言いつけられた。

306 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その7:2014/08/30 02:18:46.91 ID:PIM5.dsYo
きのこ軍 参謀『誰かが必ず編纂室に残っていなきゃいかんやろ。
全員がこの部屋を出払ったら、誰が歴史の改変を認識できるねん』

参謀はオニロにそう言い残し、部屋を去っていった。
オニロと集計班以外の会議所兵士は編纂室から続く階段を上がり、地上に戻っていった。

地上の彼らは、何者かによって行われている歴史改変を知る由もなく動き回る。
唯一その改変を知りえるのは、編纂室でじっとしている地下部隊だけ。
そして、編纂室で開かれる会議で地下部隊が、前回の会議から今回までに発生した
歴史改変の事実を伝えることで、初めて全員で情報を共有し合えるのである。

つまり地下部隊は、「歴史の生き証人」「一連の事件の監視者」として重要なポジションを担っているのだ。
思いの外重要な役職についてしまったとオニロが気づいた時には、
既にほぼ全員が地上に戻ってしまった後のことだった。

たけのこ軍 オニロ「もしかして…すごく重要な役職を任されてしまったんでしょうか?」

きのこ軍 集計班「まあ押し付けられたともいいますね」

集計班とオニロは苦笑して、これから幾度も味わうであろう脳シェイクに辟易とした。

307 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB討伐し隊編その7:2014/08/30 02:19:30.86 ID:PIM5.dsYo
更新終わり

これから、オニロ君はジメジメとした地下で脳シェイクを味わい続けるニートと化します。

308 名前:社長:2014/08/30 02:20:28.86 ID:DqpsOhiQ0
もつだぞ

アア、オワッタ………!!

309 名前:791:2014/08/30 02:24:23.70 ID:7Uhk.AVoo
お疲れ様!
社長どんな顔してるんだろう…

310 名前:社長:2014/08/30 02:33:15.64 ID:DqpsOhiQ0
非常に気持ち悪いにしきがお説

311 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB捜索会議編その1:2014/08/31 01:06:27.74 ID:8UdQd0uUo
【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

前回の緊急会議招集から数日経った後、
各部隊の定例報告を目的に再び会議所兵士たちは編纂室に集結した。

きのこ軍 集計班「では…会議を始めましょう」

掠れた声で集計班がそう宣言し、会議は始まった。
既にオニロと集計班はここ数日で少なくとも5回は歴史改変による脳シェイクを味わっている。

きのこ軍 参謀「DBとスクリプトは依然行方不明や。両軍の人里でも密かに捜索を続けたが、
DBたちが現れた形跡がない」

きのこ軍 アイム「つまり、DBたちは『未開の地』に逃げ込んだ可能性が高いってことか」

たけのこ軍 791「でも、もし『未開の地』に逃げ込んだとしたら、すごく厄介なことになるよね」

きのこたけのこ大戦世界では、会議所を中心とした時、
西部方面にはきのこの山が、東部方面にはたけのこの里が広がり、
そこにそれぞれの軍の兵士の一大集落を構え生活している。
会議所から見て、北方方面は険しい山々が構える山岳地帯であり、辺り一帯は樹海が広がっている。
北方方面一帯は『未開の地』とされ、大戦が続けられる中でいわば「タブー」とされてきた土地である。

312 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB捜索会議編その2:2014/08/31 01:09:17.87 ID:8UdQd0uUo
未開の地に逃げ込んでいるという可能性は、多くの兵士が懸念している事態ではあったが、
その事実が明るみになったことで、兵士たちの焦りの色はより一層濃くなった。

しかし、ただ一人、オニロだけはその話を聞き、興奮げに事態を打開する一言を述べた。

たけのこ軍 オニロ「DBたちの居所がわかったかもしれません!」

きのこ軍 参謀「ほんまかいな」

DB討伐隊長の参謀は目を丸くして続きを促した。
オニロは円卓テーブル上に、すっと一冊の本を置いた。
『きのたけ見聞録』と書かれた古びた本である。

たけのこ軍 オニロ「少しでも手がかりはないかと思って、編纂室の書物を読み漁ったんです」

たけのこ軍 抹茶「内容は…冒険書ですか?」

きのたけ見聞録。
KNC暦初期に書かれたこの本は、きのこたけのこ大戦世界上の各地を一人の冒険者が
見聞したものが編纂された旅行記である。
きのこの山、たけのこの里、会議所は勿論のこと、
当時未踏の地であった極寒のシベリア地方(両軍の兵士を罰するために送られていた流刑地 現在は観光地)や、
いま兵士たちが情報を欲している未開の地に関してまでもが詳細に記されている。

313 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB捜索会議編その2:2014/08/31 01:13:11.89 ID:8UdQd0uUo
たけのこ軍 抹茶「すごい本じゃないですか…でもそんな本の名前、聞いたこともなかった」

きのこ軍 集計班「誰も地図上の歴史に興味を示さなかったために
本の存在価値が薄れてしまっていたことが一つ。
なにより、当時の識者たちがこの本を丸っきりの出鱈目が書かれた書物だとして、
端から評価の対象にしていなかった」

きのこ軍 きのきの「え、どうして?」

きのこ軍 集計班「…単純な歴史書物とは評価し難い『重大な欠陥」があったからですよ」

きのこ軍 アイム「欠陥?落丁とかか?」

オニロは静かに首を振り、ボロボロになった本のページを大事そうにめくる。

314 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB捜索会議編その4:2014/08/31 01:16:35.66 ID:8UdQd0uUo
冒険書の保存状況は酷いものだった。四隅についている銀の留め具は原型を留めないほどに溶けて形を変え
本にこびりつき、金で刻印されていただろう表紙の文字・ロゴはススや埃ですっかりと隠れてしまっている。

きのこ軍 アイム「なんでそんな汚えんだよ…」

たけのこ軍 加古川「留め具や金箔が溶けているしススばかりだし、
過去に火災にでも見舞われた本なのかね?」

たけのこ軍 オニロ「ありました。このページです」

多くの兵士がオニロの下に集まり、冒険書を覗きこむ。
ヨレヨレになったページには、「未開の地」というタイトルの下に、鉛筆で簡単な風景画が描かれていた。
生い茂っている森に、明らかに人工と思わしき鳥居が森の奥まで列をなして立ち並んでいるという、
自然の中に人工物が混ざり合う奇妙な風景画だ。

315 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB捜索会議編その5:2014/08/31 01:17:35.31 ID:8UdQd0uUo
きのこ軍 ¢「鳥居…?」

たけのこ軍 オニロ「該当部分の記述を読み上げますね。」

『「未開の地」に関して興味深い話を耳にした。
とんがり帽子のような山々が連なる群峰の麓に広大な樹海が広がっていることは既に前項で述べたが、
その一角に【彷徨いの森】と近隣住民が呼んでいる森林地帯がある。森の内部には無数の道が存在し、
ある道を進んでいくとまた無数の道に分岐、進んだらまた分岐…と言った具合に正に天然の迷路となっている』

きのこ軍 アイム「それがどうしたってんだ」

たけのこ軍 筍魂「アイムはせっかち」

たけのこ軍 オニロ「続き、読みますね」

316 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB捜索会議編その6:2014/08/31 01:20:25.22 ID:8UdQd0uUo
『さて、入ったら二度と出て来られないと言われる彷徨いの森だが、
先祖代々森の近くに住んでいるご老人から伺った話によると、
どうやらある法則に従って分岐される道を進んでいくと森の【出口】に辿り着くというのだ。

その法則に従って最後の道を進んでいくと、木々で覆われていた森を抜けて、突然開けた場所に出る。
その場所には、今まで聞こえなかった小鳥のさえずりも、今まで森に隠されていたお日様をいっぱいに浴びて
花を咲かせる草木も茂る、楽園のような場所だ。
さらにその楽園を奥に進んでいくと、大量の鳥居が我々冒険者を出迎える。
鳥居はまるで道案内のように綺麗に立ち並び、冒険者を【宝の山】まで案内する。』

『鳥居に導かれて、目の前にある扉を開けると、
そこには過去と現在を自由に行き来することができる
タイムマシンフロア――宝の山――が広がってるというのだ。』

きのこ軍 参謀「!!タイムマシン、やと…!」

たけのこ軍 抹茶「なんと…」

317 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 DB捜索会議編その7:2014/08/31 01:24:46.43 ID:8UdQd0uUo
たけのこ軍 オニロ「
『宝の山とはタイムマシンのことだ。
なぜ、このような場所にタイムマシンが存在するのかはわからないが。
タイムマシンで現在と過去を自由に行き来できるということは、つまり過去の歴史を好き勝手に弄れるということだ。
私には過去改変による歴史の整合性や、倫理観などには専門家のようにとうとうと意見を述べることはできないが、
単純にタイムマシン自体には冒険家としての興味を惹かれる。

タイムマシンフロアがあるという話は、聞く者にとってはただの法螺話に聞こえるかもしれないが、
私はご老人の話してくれた内容を信じたい。
いつか、彷徨いの森を抜けて宝の山を見つけ出すことが私の夢であり冒険家としての終着点でもある。

タイムマシンフロアといちいち呼称するのは、どうも夢がない。
この際、この場を借りて、私自身がこの宝の山の名称を決めたいと思う。

私が夢を追い求める時間は限られている。その限られた時間の中で私は必ずや探しだしてみせる。


―――― 【時限の境界】


自身の決意を込める意味で、
魔法のタイムマシンフロアを以後こう呼びたいと思う。』

318 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/08/31 01:27:07.81 ID:8UdQd0uUo
更新してから、社長の台詞を入れ忘れてしまったと気づく。書きやすいと思ったわけだ(棒
ついに会議編は終わり、冒険がスタートする!?

319 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/08/31 01:28:41.59 ID:8UdQd0uUo
誤字だらけだなあ直したいけどもういいや

320 名前:791:2014/08/31 19:48:16.41 ID:HKw8Mxt6o
更新お疲れ様!

321 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その1:2014/09/10 20:15:32.14 ID:qehF/lNwo
【K.N.C 180年 北方方面『未開の地』】

きのこ軍 アイム「ここが誰も足を踏み入れたことのない場所か…」

数時間かけて辿り着いた鬱蒼とした山林地帯を前にして、アイムは止めどなく流れだす汗を腕で拭い取った。

きのこ軍 参謀「『きのたけ見聞録』によると、この森を北方方面にさらに数時間進むと、
件の『彷徨いの森』があるらしい」

手元にある見聞録を大事そうに眺めながら、参謀は森のなかを指さした。

アイム「森のなかにさらに森があるのかよ…」

たけのこ軍 ジン「そこに、『時限の境界』だったっけ?があるんすよね?」

きのこ軍 ¢「疲れたんよ。こんなに歩いたのは久しぶりなんよ。お家が恋しいんよ」

新生DB討伐部隊は、未開の地突入を前に小休止を取っていた。
DB討伐部隊の設立には、少し時間を遡る必要がある。


322 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その2:2014/09/10 20:18:41.57 ID:qehF/lNwo
━━━━
━━

【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

きのこ軍 参謀「一連の不可解な歴史改変、示し合わせたかのようなDBとスクリプトの逃亡、
そしてタイムマシンフロアを言われる『時限の境界』の存在。
これは、DBたちが『時限の境界』を見つけて、そこで歴史改変を行っているということに
他ならないちゅーことやないか?」

たけのこ軍 791「でも、『時限の境界』が存在する保証なんてあるの?」

たけのこ軍 社長「ゴクウの とほほほほ」

きのこ軍 アイム「この本には『重大な欠陥』がある。シューさんはそう言った。
つまり、まるでお伽話のような眉唾ものの『時限の境界』を、
さも存在するかのように語ってしまっていることで、
この本の歴史的書物としての価値は著しく下がっているってことだろう?
つまり、少なくとも当時の兵士たちは『時限の境界』なんて信じてなかったってことさ」

きのこ軍 集計班「アイム君の言うとおりです。
事実、この本の発表当時から識者の間では物議を醸し、結果として著者は表舞台から姿を消しています」

たけのこ軍 社長「時の流れは速い。ガムテープみたいにな」

たけのこ軍 オニロ「あるかもわからないタイムマシンフロア目指して、命がけで探す覚悟があるか…」

社長を除いて、編纂室は再び長く重い沈黙に包まれた。

323 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その3:2014/09/10 20:21:07.46 ID:qehF/lNwo
きのこ軍 参謀「どちらにしろ!」

参謀は立ち上がり、気落ち気味の周りを見回す。

きのこ軍 参謀「会議所は何者からの攻撃を受けている!
そして封印したはずのDBとスクリプトがその直前で逃亡している!
偶然と考えるにしても出来過ぎや!」

拳を振り上げて、周りを鼓舞するように参謀は力説する。

きのこ軍 参謀「ワイらの目的は『会議所の平穏を脅かす脅威を取り除くこと』!
そのために、DB・スクリプトを始め、ありとあらゆる敵対勢力を対峙する必要があるんや!
そして、この手で必ず脅威を抹殺する!!」

全員「うおおおおお!」

参謀の演説に共感した多くの兵士が、同じように拳を振り上げ、敵と立ち向かう覚悟を決めた。
ここに、新生“DB討伐部隊”の設立が宣言されたのだ。


324 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その4:2014/09/10 20:22:40.95 ID:qehF/lNwo
━━
━━━━

【K.N.C 180年 北方方面『未開の地』】

そしていま、未開の地へ足を踏み入れて数時間、
DB討伐部隊は早速森のなかを彷徨っていた。

¢「うぅ…僕らはもうここで死ぬんよ」

アイム「なに弱気なこと言ってるんだ。いくらあんたとはいえ怒るぞ」

¢「びえええええええええええええええええええん」

第一次DB討伐部隊は合計4名の兵士から構成されている。
隊長格のきのこ軍 参謀、会議所古参筆頭のきのこ軍 ¢、
たけのこ軍 ジンそしてきのこ軍 アイムである。
きのこ軍3名、たけのこ軍1名。一見すると、その人選には偏りがあるように見えてならないが、
パーティバランスは図られている。

前衛として『突撃兵タイプ』の¢とアイム、後衛には『防衛兵タイプ』の参謀と『衛生兵タイプ(魔法)』のジン。
前衛二人が火力を集中させ、後衛のビギナーが支援魔法で援護する。
防衛兵の参謀は随所に前衛と後衛をサポートする役割に徹するという布陣だ。
PT選考に関しては、本人の意思を最大限尊重し、志願者の中から参謀が選考した。


325 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その5:2014/09/10 20:24:18.59 ID:qehF/lNwo
ジン「薄暗くてジメジメした編纂室に居るよりも、まだ体を動かせている今のほうが絶対にいいすよ」

力強い言葉とは裏腹に、その声色は弱々しい。彷徨いの森の到着以前に、
既に森のなかを彷徨っている現状を鑑みると、不安になるのは当然だ。

参謀「編纂室はシューさんとオニロが頑張って守っているんや。ワイらも頑張ろう」

アイム「けッ…」

相変わらずアイムはオニロのことが気に入らない。
それは元々の二人の性格の違いが、水と油のように相反して交わらないことも関係するが、
オニロがヌクヌクと編纂室で自分の帰りを待っている現状にも、アイムは気に入らない。

326 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その6:2014/09/10 20:27:08.21 ID:qehF/lNwo
『わあすごいね、アイム!討伐隊に選出されるなんて!頑張ってきてね!』

PTメンバーが発表された際、オニロは諸手を上げてアイムのPT選出を喜んだが、
一方で馴れ馴れしく近寄るオニロにアイムはいらだちを募らせていた。

『ありがとよ。そちらも編纂室での“お留守番”、ガンバレヨ』

アイムは吐き捨てるようにオニロに言葉を投げかけた。
アイムを含む地上の討伐部隊は命を賭して、DB・スクリプトであろう敵と対峙する。
一方で、オニロを含む地下の編纂室部隊は、多少の脳シェイクを耐えながら
ただ歴史改変の観測に徹するだけ。

―――地上部隊と地下部隊では背負っている“責任”が違う。

たかが地下部隊風情が、地上部隊と同じ目線で言葉を投げかけてくることを許せない。
地下部隊としてのオニロの激励の言葉が、アイムの気に触ったのだ。

『うん、わかった頑張るね!ありがとうアイムッ!』

しかし、天真爛漫さを地で行くようなオニロの前ではアイムの皮肉も無効化されてしまった。
笑顔で返答するオニロに、アイムは怒鳴り散らしたい思いをぐっとこらえ、
口をヘの字に曲げて応対するだけだった。


327 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その7:2014/09/10 20:29:22.85 ID:qehF/lNwo
討伐部隊が未開の地に突入してから、数時間が経過した。
空は既に夕暮れ。未だ彷徨いの森どころか方角も見失った面々は、
目の前の樹海が刻一刻と漆黒の色を帯びてきていることに、焦りを感じていた。

¢「夜の行軍は非常に危険だ。どこか野宿できるような場所を探して、明日に備えたほうがいい」

参謀「せやな。では、ここをキャンプ地とする!」

アイム「おい…あれはなんだ?」

アイムが指をさす遠くの方向に、微かではあるが一点の光が闇の中で浮かび上がっていた。

ジン「あれは…家かな?もしかして」

参謀「敵の罠かもしれん。慎重にいくで」

歩いて行った先には、一軒の民家が、煌々と明かりを放ちながら、
ぽつねんと暗い森のなかでその存在を主張していた。

328 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その8:2014/09/10 20:31:56.50 ID:qehF/lNwo
参謀「こんなところに人が住んでるんか?」

アイム「人がいるなんて、『未開』でもなんでもねえじゃねえか」

¢「調査され尽くしてないという意味では未開だろ」

ジン「煙突から煙が出続けている。誰かが生活しているんだ」

と、家の扉が唐突に開け放たれる。4人は思わず臨戦態勢を取り、
扉を開けた目の前の人物に目を凝らした。


??「家の前がうるさいと思ったら、いったい誰だ…ん?」

家主はDBでもスクリプトでもなかった。
顔に刻まれたしわは、家内からの明かりに当たり濃淡を作り、よりくっきりと見えた。
男は年齢以上に年老いて見えた。
怪訝な顔をして討伐隊を見回す男だったが、
参謀と¢の姿を視界に捉えると、一瞬眉間にしわを寄せ、すぐに目を丸くした。

??「もしかして、参謀と¢か…?」

声をかけられた二人は、眩い光に目を背けつつも男の顔を捉えると、同様に目を丸くした。

329 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その9:2014/09/10 20:34:02.25 ID:qehF/lNwo
¢「まさか…こんなところで会えるなんて」

参謀「ひっさしぶりやなあ。これを奇跡というんか…いやまあ必然ちゅうべきやな」

??「俺からすると、お二人に会えたのが正に奇跡さ」

3人でワイワイと盛り上がる中、
ジンとアイムは目の前の出来事をただ見つめることしかできなかった。

アイム「お、おい。あんたら知り合いなのか?」

参謀「ん?ああ、勝手にワイらだけで盛り上がっとったな。この人は…」

??「おや、その本は…また随分と懐かしいな」

アイムが手に持つ『きのたけ見聞録』を見て、男は感慨深げにそう呟いた。

??「そんな本をまだ持っている人がいるなんて、作者として冥利に尽きるな」

アイム「…まさか、あんたは」

参謀「そうや。この人こそ、『きのたけ見聞録』の著者であり、冒険家でもある…」


??「元・たけのこ軍兵士のスリッパだ。どうぞよろしく」

冒険家スリッパは落ち着き払った様子で静かに手を差し出した。

330 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その9:2014/09/10 20:41:14.85 ID:qehF/lNwo
設定段階よりだいぶスリッパさんが老けている…ごめんなさいお許しください。

つばさくん、今日のカードメモよ
『参謀の知恵』 - 2012/03/24 作成
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/431/card-14.jpg

当時からプロットが少し変わっているので、あまりフレーバーテキストに意味はありません。

331 名前:社長:2014/09/11 17:20:01.41 ID:64ShRK160
つばさくんもつだぞ。

332 名前:誰か:2014/09/11 23:32:24.24 ID:lDiawbZA0
参謀てこんな方言キャラだっけ。
ともあれ更新おつ

333 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 未開の地突入編その9:2014/09/11 23:52:52.18 ID:3YIFTwtEo
参謀が方言キャラとしても書きづらいのは公然の秘密だよ〜
よくわからんのじゃ!

334 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 最後の謎二人の会話編その1:2014/09/14 00:45:58.39 ID:TPgFvQZAo
━━
━━━━

【K.N.C 180年 会議所 大戦年表編纂室】

編纂室で生活する地下部隊兵士は数えるほどしかいない。
多くの会議所兵士が編纂室に留まってしまえば、地上の業務は放置され続け、
事情を知らない兵士に多大な不安を与える。
少しでも不安にさせないためにも、大部分の兵士は地上に戻らなくてはいけない。
そしていつも通りの業務につき、恒久の平和を演出するのだ。

だから私たちは地上に戻らなくてはいけないんです。
と、表向き立派な理由を語るが、大方の兵士は地下での脳シェイクを金輪際味わいたくないというのが
本音である。地上に戻る兵士たちは仏頂面でいかにも“本当は戻りたくないのだが仕方なく”
といった顔を貼り付けて戻っていったが、地下に残された兵士はそれを知ってか知らずか、
嘆息して仮面の表情を貼り付けた彼らを見送るのだった。

丑三つ刻。地下の大戦年表編纂室は、上空に飛び回る本や筆記ペンたちの動作音を抜きにすれば、
今日も耳鳴りがする程に静まりかえっている。
地下部隊のほとんどの兵士は巨大本棚の背後に設置してあるベッドで寝息を立てている。
オニロも死んだように眠っている。昼夜問わず繰り返される歴史改変に少しやつれ気味だ。
静かに休めるこの一時を噛み締めながら、布団にくるまっている。


335 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 最後の謎二人の会話編その2:2014/09/14 00:49:35.88 ID:yhiyNT8go
そんな丑三つ刻。
灯りが落ちた暗闇の中で、ある一人の兵士は床につくことなく、静かにロッキングチェアを揺らしていた。
一定リズムで、木々がこすれる音がシンとした部屋に響く。
考えに耽る時、物事に集中する時。身体を知らず知らずのうちに揺らしてしまうのがその兵士の癖となっていた。
それは座って作業をする場合でも同じ。知らず知らずのうちに身体の揺れが椅子に伝わってしまう。

少し前までは、いくら音を出しても怒られることもなく―そもそも怒る人もいなかったのだが―
つい最近ではオニロに「うるさいです」とジト目で注意されて以来控えていた。
しかし、こんな夜中でかつオニロが寝ている間くらいは許されるだろう、と
兵士は長年この部屋で使い倒してきた椅子に腰掛け、思う存分身体を揺らしていた。

「少し響きますよ」

闇夜の中でかけられた声に、揺らしていた椅子が前のめりになってしまう。

「なんだあなたでしたか…驚いて心臓が止まるかと思いましたよ」

すぐに声の主に気がついた兵士は、暗闇の中で浮かび上がってきた別の兵士の姿を捉え、胸をなでおろした。あなたは普段と容姿・態度なにからなにまでが違うから一瞬誰だかわからなくなりますね。
そう文句を垂れながらも、声の主に目の前の椅子を勧める。


336 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 最後の謎二人の会話編その3:2014/09/14 00:51:53.15 ID:yhiyNT8go
「もう一度、計画の確認をしておきたくて」

椅子に腰掛けながら、囁くような声で、既に腰掛けていた兵士に語りかける。

「今のところ、一連の事態は『預言書』に書かれた内容通りに進んでいます」

「そのようですね」

飲料用抹茶を口に含み、椅子を微かに前後に揺らしながら先を促す。

「救世主の一人は“計画通りに”編纂室で本の虫となった。
編纂室で歴史改変がおこなわれているという事実を確認した。
DB討伐部隊が編成されて、救世主の一人を含む数人は未開の地へ出発した。ここまで手筈通りです」

しかし、と兵士は顔を曇らせる。暗闇の中のため、その表情の変化は伝わらなかったが。

「いくらきのたけ世界の“滅亡”を防ぐためとはいえ、このような…
『預言書』に書かれた内容通りに事を運ぶのは、私としては少し気が引けます」

「二人の救世主が世界を存亡の危機から救うのです。十分なシナリオじゃないですか」

「しかし、しかし…世界の存続と引き換えに 
―― 『二人の救世主が命を落としてしまう』というのは、いくらシナリオ通りとはいえ…」


337 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 最後の謎二人の会話編その4:2014/09/14 00:54:23.02 ID:yhiyNT8go
「あの二人に情でも移りましたか?」

鋭い言葉に、うっ、と兵士は言葉を詰まらせる。

「そういう事ではありませんが…シューさん。
いくら何でもこんな結末はあんまりです。救世主として周りが持て囃して、勝手に持ち上げて、
利用するだけ利用して。そして、その役目が終わったら、あっさりと死ぬなんて…」

シューと呼ばれた兵士は、その兵士の言葉を手で遮る。
暗闇の中でぬっと出てきた手のひらに、思わず仰け反りたい気分になるがぐっと堪えた。

「“私”と“あなた”はいままで、『預言書』の通りに歴史を進めてきた。
どんな出来事・事件であってもです。きのたけ世界のため、会議所のため…違いますか?」

集計班の言葉に、兵士はゆっくりと頷く。意味をよく理解するように。

「その不文律を、あなたはいまさら破ろうというのですか?」

「い、いえ。そんなわけではありません」

集計班の言葉に、兵士は慌てて何度か首を振る。その言葉に、そうですか。と、
言葉とは裏腹に到底納得しない表情で、集計班は椅子にもたれかかる。
微かに椅子から悲鳴のような音が漏れる。


338 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 最後の謎二人の会話編その5:2014/09/14 00:57:30.71 ID:yhiyNT8go
「わかればいいんです。『預言書』の内容通りに事を進める私たちの使命は、変わることはないでしょう」

もっとも。その後に続いた集計班の言葉に、兵士は自分の耳を疑った。

「――そんな紙切れ同然の『預言書』に頼りすぎても、頭が固くなるだけですがね」

常日頃、『預言書』の通りに動けと、口を酸っぱくする程に説明していた、
杓子定規な集計班の言葉とは思えない。
兵士は思わず聞き返そうとしたが、

「話は終わりです。こんな時にオニロ君あたりが起きてきたら、なんと説明したらいいやら」

話は切り上げられてしまった。真っ暗の虚空を見上げたまま動かない集計班を見つめ、
これ以上の話はできないと判断し、兵士は立ち上がる。
そのまま、とぼとぼと編纂室を出ようとする兵士に、少し待ってください。
と、集計班は先程とはうって変わって優しい声色で最後に語りかけた。

「計画は順調です。ですが…たとえ、順調に立ち回らなかったとしても、
それはあなたの“責任”じゃない。
私が保証します。
なにか問題が発生した時。慌てないことです。
私に頼ろうとせず、まずは自分で事態の本質を見極めることです」

集計班の真意は図りかねたが、兵士はその言葉にひとまず頷き、編纂室を後にした。

339 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 最後の謎二人の会話編その6:2014/09/14 00:59:11.13 ID:yhiyNT8go
兵士が出て行った扉をじっと見つめ、暫く立った後に集計班は視線を落とす。
自らの手に握られている、隠し持っていた封筒。
あの兵士が来た時に、テーブルに置いてあったものを急いで隠したのだ。

自らが自らの意志で、歴史を変える。

――『預言書』を白紙に戻す。

集計班の言葉どおり、
この封筒には、二人が呼んでいる『預言書』をただの白紙に戻すだけの十分な効力が備わっている。

340 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 最後の謎二人の会話編その7:2014/09/14 01:00:36.59 ID:yhiyNT8go
結局、当初の予定とは異なり、参謀に封筒を渡す暇はなかった。
葛藤による葛藤が判断を鈍らせたのだ、と集計班は自身の優柔不断さを悔いる。
仕方がないので、明日にでも誰かに頼んで地上の郵便受けに投函してもらおうか。
今更ながら、編纂室に幽閉されてしまうことになった自身の境遇に頭を掻いた。

この封筒を目的の人物に渡すことによって生じる効果を、集計班自身は推測することしかできない。
その効果を“確認”するだけの時間が、彼にはもう残されていない。


しばらくして、いつものように椅子を揺らし始める。規則正しく。一定のリズムで。
暗闇の中、思いの丈を声に出してつぶやく。
誰もいない部屋で、自らの罪が誰かに赦免されることを願うように。

「…本当にごめんなさい」

弱々しい謝罪は、椅子の音とかぶさり、闇夜に消えていった。


341 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 :2014/09/14 01:02:18.55 ID:yhiyNT8go
更新終わり
約束の時が刻一刻と迫っております。

342 名前:社長:2014/09/15 00:02:11.75 ID:3OTCUq5I0
いいぞ。

343 名前:791:2014/09/15 07:42:25.38 ID:REOI4nNwo
更新おつ!

344 名前:きのこ軍:2014/10/11 11:58:40.07 ID:SNmceNPE0
唐突なミニ設定のコーナー。

・大戦年表編纂室
wiki図書館直下に存在する秘密基地的存在。
きのたけワールドの"歴史改変"を無効化できる場所として、
きのたけ兵士の最終防衛ラインとして活躍中。
ここを破壊されると、誰も歴史改変を知覚できなくなって詰むらしい。
部屋には筆記ペンや古紙たちが生物のように動き回っているが、
全ては魔法の仕業。大戦場と同じく、編纂室にも
巨大魔法陣が展開されて、その魔法動力で動いている。
実はきのたけの"歴史"を秘密裏に吸収しているという裏設定がある。これ結構重要な設定。
きのたけワールドの"歴史"(書物等)を人々から
知らず知らずのうちに奪い、
歴史を喰らうことで編纂室は編纂室のままでありで続ける。
歴史書物が編纂室にたくさん置いてあるのはその象徴ともいえる。
まだまだ謎が多い編纂室。乞うご期待。




345 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/10/19 13:30:14.65 ID:gxtMcDpYo
来週更新予定

346 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 スリッパの復活その1:2014/10/26 21:34:44.43 ID:MRV7iwe6o
【K.N.C 180年 未開の地 スリッパ邸】

スリッパ「しかし驚いた。まさかお前たちがこんなところまで来るなんて」

スリッパは目の前の“旧友”たちを前に目尻を下げて懐かしんだ。

参謀「俺らも驚いたわ。会議所から去って学者になったのは知ってたんやがな」

¢「ぼくらもつい先日見聞録を読んで、スリッパのその後を知ったんよ」

アイム「あんた達知り合いだったんだな」

カップに注がれたスープを手に取る。温かい。

参謀「大戦初期の英雄的存在やからな、スリッパは」

¢「スリッパの活躍は、当時の多くの兵士に感動とやる気を与えたんよ」

スリッパ「…」

スリッパは二人の言葉には答えず、暖炉の中に薪をくべた。
木々のはぜる音が小気味よく室内に響き渡る。

347 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 スリッパの復活その2:2014/10/26 22:08:16.77 ID:MRV7iwe6o
スリッパ「『時限の境界』を探しているんだったな」

話は本題に進んだ。

アイム「そうだ。タイムマシンフロアなんだろ、そこは?」

スリッパ「そうだと思う」

アイム「思う?なんだか自信が無い言い方だな」

スリッパは苦笑した。

スリッパ「何しろあの見聞録を書き上げたのは随分前だ。記憶も若干薄れているし、
何より私は其の事で学会から酷い目にあったからね。自信が無くなってしまうのも仕方ないというものだ」

人目から隠れるように暮らしているのも、それが原因さ。スリッパは手狭な室内を見渡した。
スリッパ邸は、正に未開の地の中心に位置している。木造のウェアハウスはスリッパが自分で建てたものだという。

スリッパ「私は人里離れたこの僻地で、メイドのサラと一緒に余生を過ごしてきた。
きのこたけのこ大戦や会議所関係の世俗から切り離された、この未開の地でね」

スリッパの傍に立つメイドロボ・サラは無言でスリッパの話をじっと聞いている。

スリッパ「申し訳ないが、お前たちの役には立てそうにないよ」

スリッパは寂しく笑いかけた。暖炉の焚き木のはぜる音がよく響いた。
一瞬の沈黙の後。

アイム「それはどうかな」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

348 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 スリッパの復活その2:2014/10/26 22:10:18.91 ID:MRV7iwe6o
アイム「少なくとも、あんたが書いた『きのたけ見聞録』は、希望と自身に満ち溢れた文章だった。
嘘か本当かもわからない宝の山を見つける。文章の中からその思いがひしひしと伝わってきた」

あんたが冒険家としての矜持を失っていなければ、とアイムは続ける。

アイム「今も冒険家スリッパは枯れ果てることなく生き続けているはずだ」

アイムの言葉に参謀も同調する。

参謀「アイムの言うとおりや。それに、人里離れた僻地に住居を構えたと言っているが、
人の目につかない場所はこの『未開の地』以外にも数多く点在する。
わざわざここに住んでるちゅうことは、宝の山たる『時限の境界』に少なからず未練があるってことやないか?」

二人の言葉に、スリッパは目を閉じて少しの間何かを考えているような素振りを見せた。
一瞬の沈黙の後、徐ろに目を開き後ろに控えるサラに声をかけた。

スリッパ「なあサラ。俺は冒険家だったよな。今も昔も夢を追い続けてきた。それを忘れていたようなんだ。
俺はもう一度、あの頃に戻ってもいいんだよな?」

サラは無表情のままで答えない。しかし、サラの態度はスリッパの言葉に肯定するような、
温かみのあるものであった。少なくともスリッパにはそう感じられた。
二人は常に言葉を介さずにお互いの気持を理解しあってきた仲だった。

スリッパ「アイム、参謀。それにみんな、ありがとう。俺は冒険家スリッパだ。忘れていたよ」

スリッパは立ち上がった。先ほどまでのゆったりとして諸動作はそこにはない。

スリッパ「明朝、出発しよう。私もまだ『時限の境界』に辿り着けているわけではないが、
何らかのヒントは与えられるはずだ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

349 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 スリッパの復活その4:2014/10/26 22:24:50.14 ID:MRV7iwe6o
明朝。スリッパ邸を出た一行は『時限の境界』が存在すると言われる彷徨いの森の入り口へと戻ってきた。

スリッパ「見聞録にも書いてあったかもしれないが、彷徨いの森の内部は幾多の道が分岐して、正に天然の迷路だ。
俺とサラも何度か入ってみたことはあるが、すぐに来た道がわからなくなった。帰って来られたのは幸運だった」

ジン「ということは、ただ闇雲に探そうとしても見つからないどころか生きて帰れないなんてことも…」

ジンは顔を青ざめた。

参謀「なんか手がかりはないんか?ある法則に従って進んでいけばたどり着けるんやろ?」

スリッパ「森の内部は、それぞれ分岐点毎に開けた場所が用意されている感じだ。
来た道も含めて東西南北の4つの方角に道が伸びている。
それぞれの分岐点毎に、4つの道から一つ選んでまた次の分岐点に向かっていく」

350 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 スリッパの復活その5:2014/10/26 22:27:23.10 ID:MRV7iwe6o
¢「道を進んでいくとその分岐点エリアにたどり着いて、また…といった感じで同じ光景が広がっているのか?」

¢の質問にスリッパは自嘲気味に答えた。

スリッパ「正にその通りだ。分岐点毎の風景は全く同じ。
何か違いはないかと周りをグルグル見回してみたが、全く違いはなかった。
目が回って気持ち悪くなったくらいだ」

その時、これまでただ話を聞いていただけのアイムは、スリッパの言葉に何か違和感を覚えた。

目が回る。気持ち悪い。

この言葉に、既視感を感じたのだ。つい最近、自分自身がこの言葉に似たような体験をした。なんだったか。
記憶喪失と判って以来、自分の記憶を呼び戻すということに若干の抵抗があるアイムだったが、
必死に自分の記憶を探る。

―― 集…班「今から、ある部屋で歴史のお勉強を…てもらい…す」
―― オニ…「気持ち悪いよおアイ…」
―― ア…ム「オレに向かって吐いた……おかないからな」
―― 集計班「宛先不明の置き手…で、私はこの部屋の存…に気がつき…した」

――― 集計班「『大量の書物の前で“←←←←←…←←…← そして最後に祈れ”
           これは困難を打破する魔法の呪文なり。さすれば道は開かれる』とね」


アイム「…思い出した」

記憶喪失となって以来、初めてアイムは自らの記憶を呼び覚ますことに成功した。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

351 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 スリッパの復活その6:2014/10/26 22:28:56.18 ID:MRV7iwe6o
アイム「大戦年表編纂室の行き方ともしかして同じなんじゃないか。
シューさん曰く『同じ場所をひたすらグルグルと回り続けて、最後に祈ると道は開かれる』」

スリッパ「つまり、彷徨いの森の奥に『時限の境界』があるというのは単なる我々の想像で、
実際はすぐ傍に存在しているということか?」

アイム「それはわからない。だけど、シューさんが誰かわからない野郎から貰った手紙には
『困難を打破する魔法の呪文』として、その行き方が掲載されていた」

彷徨いの森の攻略手順も、編纂室と一緒なんじゃないか。
アイムはそう言っているのである。

¢「アイムの言うことは一理ある。だが、それはあくまで可能性の一つだ。そのまま突入するのは危険だと思うんよ」

アイム「だが、それ以外に選択肢はあるか?冒険家スリッパは長年未開の地にいて、
未だ彷徨いの森突破の糸口を掴めていない。ならば、少しでも可能性が高いほうに賭けるのは当然じゃないか?」

¢「賭けに失敗してみんな帰れなかったら意味が無いんよ」

¢はあくまで慎重論を貫く。元来、用心深い性格で数多くの窮地を救ってきた兵士だ。

352 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 スリッパの復活その7:2014/10/26 22:30:54.85 ID:MRV7iwe6o
ジン「どうなんでしょう。集計さんが貰った手紙の主が誰だかわかりませんが、
存在するかわからない時限の境界と編纂室をつくった人物が同一だと考えてみるとどうでしょう」

参謀「編纂室には巨大な魔法陣が展開されているんやったか。
編纂室の運用方法や仕組みもまだ解明されておらんし、ジンさんの言うとおり、
編纂室と時限の境界で攻略手順が一緒であるという可能性はあるな」

アイム「討伐隊が14日以内に会議所に戻らなかった場合は行方不明として、
別の討伐隊を組むように決めてある。たとえ俺たちがここから戻れなかったとしても、
誰かが俺たちの遺志を継いでくれる」

¢「ぐぬぬ」

議論は決した。討伐隊は誰しもが自らの生命を賭けて任務遂行に当たる覚悟を持っている。
それは今更言うまでもないことだった。

スリッパ「話は終わったようだな。ではそのように進む手筈でいいのかな?」

アイム「あんたはいいのか。なにも俺たちに付き合わなくてもいい。危険な旅だ」

何をいまさら、とスリッパはニヤリと笑った。

スリッパ「冒険家が自分の生命の一つや二つ、怖がっていてはやっていられない。
寧ろ、お前らには感謝してるんだ。ここで最期を迎えられたら、それはそれで本望だ」

なあサラ。問いかけられたサラは、わずかに首を縦に振りスリッパに応えた。

参謀「じゃあ決まりやな。彷徨いの森に突入するぞ」

DB討伐隊とスリッパ一行は、光が当たらない暗闇の森へと歩みを進めていった。

353 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 彷徨いの森編その1:2014/10/26 22:32:13.32 ID:MRV7iwe6o
【K.N.C 180年 未開の地 彷徨いの森】

彷徨いの森は、映える木々は不格好な背格好で兵士を迎え、小鳥さえ囀らない不気味な空間だ。
森全体の薄暗さは兵士たちを暗澹たる気持ちにさせる。

アイム「ひたすら左に曲がっていって、グルグルと回り続けるぞ」

参謀「何周すればいいんや?ワイらにはわからん」

編纂室が会議所兵士に周知されて以来、大魔法使いの791によって編纂室とwiki図書館は
自由に出入りできるようなワープエリアがつくられていた。

アイム「それは忘れた…」

¢「アイム 無能」

354 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 彷徨いの森編その2:2014/10/26 22:35:16.39 ID:MRV7iwe6o
森に突入してから数時間。一行はひたすら周辺の場所を回って歩いていた。
何十周目に入り、森もより鬱蒼とし薄暗く不気味になってきていた。

アイム「なんだか似たような体験をしたことがあるような…」

編纂室へ向かう途中、だんだんと図書館が薄暗く不気味になっていった状況と似ている。

スリッパ「おい…なんだあれは」

スリッパが指差す方向には、巨大な石像が道を塞ぐようにそびえ立っていた。
きのこる先生とたけのこる先生の彫像だ。代わり映えのなかった風景に突如として現れた。

ジン「なんでしょうこれは…こんなもの当然先ほどまでは無かったものですし…」

参謀「道を完全に塞いどるな。迂回して進むか?」

アイム「いや。これがきっと最後の関門なんだ」

『最後に祈れ』

集計班が言っていた、最後の攻略手順だ。
この彫像に祈りを捧げれば、道は開かれるのではないか。
アイムは半ば確信に近い思いでいた。

アイム「みんな頼む。この像に向かって、祈ってくれないか」

手を合わせて全員は必死に祈る。頼む、頼むから時限の境界に連れてってくれ。
目を閉じ、一行はきのたけ像に向かって祈り続ける。困難な現状を打破するために。
その思いに応えるように、一瞬の後、彫像は何らかの力に引っ張られるように脇に退いた。
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355 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 彷徨いの森編その3:2014/10/26 22:39:53.08 ID:MRV7iwe6o
心地よいそよ風。サンサン降りそそぐ陽を目一杯浴びながらすくすくと育っている草花。
嬉しそうに飛び回る小鳥たち。
先ほどまでとは何一つ違う光景に、討伐隊一行は口をあんぐりと開けて驚きを見せた。

参謀「ここが、見聞録に書かれていた時限の境界なんか」

見聞録に書かれているように、そこは楽園のような場所だった。
鬱蒼としていた木々は参謀たちの背中に位置している。そよ風に草原の草花が気持ちよさそうにゆれている。
まるできのたけ山の牧場のようだ。むしろ牧場よりもはるかに風景は彩り豊かだ。

スリッパ「タイムマシンフロア自体はこの先にある筈だ。先を急ごう」

スリッパとサラは先に進んでしまった。

アイム「あ、おい!待てってば!…ん?」

新緑に芽吹く草原の中に、クレーターのように地面がえぐれ土肌が丸見えとなっている箇所が点在していることに
アイムは気がついた。何か奇妙に感じられた。

アイム「モグラが掘り返したのか?いや、だけど…」

参謀「おいアイム、置いてくぞ」

アイム「今いくよ」

後ろ髪を引かれる思いながら、アイムは一行を追いかけるべくかけ出した。

356 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 彷徨いの森編その4:2014/10/26 22:41:14.71 ID:MRV7iwe6o
小高い丘を登ると、眼前には目がちらつくほどの朱塗りの鳥居が一直線上に敷き詰められている。
異次元に吸い込まれそうな鳥居群は、この場所には明らかに異様な存在だ。

スリッパ「まるでこの世の場所とは思えない。幻想的だな」

うっとりとする冒険家を尻目に、討伐隊は先を急ぐよう促す。
一行は鳥居をくぐり、奥に進んでいく。
所狭しと並ぶ鳥居に隠され、外の状況を確認することはできない。
まるで世界とは切り離されたような異次元に迷い込んだようにアイムには感じられた。

357 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 彷徨いの森編その5:2014/10/26 22:43:26.95 ID:MRV7iwe6o
意外にも鳥居の出口はすぐだった。

スリッパ「あれが…時限の境界のタイムマシンフロアか」

そびえ立つ石壁が鳥居を遮り、鳥居の切れ目つまり最後の鳥居の先には、扉がちょこんと建っているだけだ。

アイム「あの扉の先がタイムマシンフロアてことか?意外と呆気無いな。
もっとどでかい宮殿みたいなダンジョンを予想してたんだけどな」

¢「扉の奥がもっとどでかいダンジョンなのかもしれないんよ」

参謀「ここまで来てなんやが、時限の境界ちゅうんはどんな場所なんや?」

スリッパ「俺にもよくわからない部分が多いが…タイムマシンフロアであるとは聞いている。
自分が来た扉を『K.N.C180年の扉』とすると、他のフロアにある扉は『各年の扉』として存在しているらしい」

ジン「つまり、各フロアの扉を開ければその年代に行くことができるってことですか?」

スリッパ「そういうことになるが…」

アイム「ごちゃごちゃ言ってないで、とっとと行こうぜ。こうやって時間を使っている間にも、
大戦の歴史は書き換えられているかもしれないんだ」

¢「せやな。でも慎重に行くんよ。歴史を書き換えた犯人と鉢合わせするかもしれない」

¢の言葉に頷き、アイムは静かに、目の前の扉を開けた。
時限の境界。大戦の歴史を書き換える犯人が潜んでいるだろう場所。
各年代に行き来できるという夢のようなタイムマシンフロアにて、潜んでいるだろうDBたちを討伐すればいい。
討伐隊の思惑はまさに単純至極だ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

358 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/10/26 22:46:03.70 ID:MRV7iwe6o
更新終わり。ようやく本題の時限の境界へ突入した。
長かったゾ

時限の境界の元プロット
『時代錯誤の境界』 - 2012/03/10 作成
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/451/card-12.jpg

次回からタイムマシン使って時をかけ始めるぞ。

359 名前:社長:2014/10/26 22:47:22.53 ID:XUiZ9x7c0
乙。ときのはぐるまさえ あれば…

360 名前:791:2014/10/26 22:52:33.29 ID:n30uBEAgo
更新乙!
次の更新も来週かあ

361 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その1:2014/11/01 23:36:25.19 ID:mwuzjAiIo
【K.N.C 180年 時限の境界】
扉を開けて入った先には、薄暗い吹き抜けの広間が広がっていた。

スリッパ「ここが…時限の境界か」

眼前に広がる“宝の山”を長年追い続けてきたスリッパだが、その反応は意外と冷静だった。
メイドのサラも無表情のまま、スリッパのすぐ後ろに控えている。興味を持つ持たないというよりかは、
感情を持ち合わせていないかのような態度だ。

スリッパ「時限の境界の内部はこのような作りになっていたのか…なるほど、うんうん」

ブツブツと独り言のように呟き、スリッパは何度も辺りを見回す。
千本鳥居で一行を出迎えた和風の外観とは打って変わって、内観は西洋風の造りそのものだ。
薄暗くジメジメとした室内は、教会がもつ神聖さと、埃が舞う薄汚い穢れさをどちらも併せ持っている。

参謀「しかし、扉ばっかりやな。あの扉一つ一つが各年代に移動できるワープ装置ちゅうことか」

広間を取り囲むように10枚の扉が円状に並べられている。
扉にはそれぞれ0から9の番号が割り振られているようで、アイムたちが入ってきた扉には
「0」が刻印されていた。

362 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その2:2014/11/01 23:39:34.73 ID:mwuzjAiIo
アイム「オレたちが入ってきた扉がK.N.C180年の【基点の扉】というわけかッ…ん!?」

自分たちが入ってきた扉、つまり【0の扉】を開けようとアイムはドアノブを回したがビクトモしない。
つまり、アイムたちは時限の境界に閉じ込められてしまった。

アイム「おいおい閉じ込められたぞ。どうやって出ればいいんだ」

¢「すごく嫌な予感がするんよ…僕の予想が外れることを願うんよ」

スリッパ「どこかに出口はないのか」

ジン「見てください。扉の間に通路がありますね」

北・東・西にそれぞれ通路が開かれている。先に進めるようだ。

スリッパ「ふむふむ。なるほど、つまりこの扉に付いている数字はつまり各年の一桁台の数字が…
これは実に興味深い…」

アイム「お楽しみのところ悪いが、先に進むぞ冒険家さん」

討伐隊の目的はあくまで、時限の境界に潜んでいるだろうDBたちの捕獲・討伐。
名残惜しそうにしながらも同行するスリッパは討伐隊と同じく、奥の通路に歩みを進めた。
けしかけたスリッパが歩き出すのを見届け、アイムも先を急ごうと歩き出し――

アイム「…おい?なんか聞こえないか?」
立ち止まった。

ジン「いえ、なにも聞こえないですよ」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

363 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その3:2014/11/01 23:46:25.53 ID:mwuzjAiIo
どの通路を進んでも、その先には入り口と全く同じ広間が広がっているだけだった。
彷徨いの森と同じく、まったく同じ光景が広がるという現実に一行は多少なりともゲンナリした気分になった。

スリッパ「違いといえば、広間の柱に振られた番号か」

広間の端にある巨大な柱には番号が振られている。
スリッパたちが今いる広間は【17】。最初に入った広間は【18】だった。

スリッパ「よし、ここまでの探索結果をまとめてみよう」

〜時限の境界で判明した情報〜
・複数の広間が通路によって繋がっている。各広間はに10枚の扉が置かれている。
・各広間の扉には【0】〜【9】までの番号が振られている。最初に入ってきた扉は【0】
・広間にもそれぞれ番号が振られている。最初に入った広間は【18】
・広間【18】の左右には広間【17】【16】が位置している。【18】の前方には【15】が位置し、その左右には【14】【13】といった具合に連続している。
 つまり、横3つの広間が連続した番号である。

364 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その4:2014/11/01 23:48:21.36 ID:mwuzjAiIo
参謀「つまり、ワイらが突入した広間は【18】番目、入ってきた扉は【0】ちゅうことか」

アイム「ははあ。なるほど、読めたぞ。広間の番号が『年号の上二桁の数字を表して』いて、
扉の番号が『下一桁を表して』いるんじゃないか?」

ジン「ぼくたちのいる時代はK.N.C180年。広間の番号【18】と扉の番号【0】…
本当だ、組み合わせればいまの元号と一致しますね!」

スリッパ「なるほど。この仕組みさえわかれば、希望の時代にタイムワープできるということなのか…」

スリッパはそう言ったきり、押し黙った。深刻な表情で目をつむり、額に手を当てている。
あまりにも真剣な表情に、周りは一瞬言葉を失うほどだった。

アイム「おい、大丈夫か…?」

心配したアイムが声をかけると、スリッパはその言葉に驚き跳ねるように反応した。

スリッパ「あ、すまんすまん。少し考え事をしていたようだ」

アハハと声を上げて笑うスリッパだったが、その目は笑っていない。
後ろに立つサラも無表情で事の次第を見守るのみだ。若干の得体のしれない不気味さをアイムは感じた。

――時計の針は刻一刻と進む。

365 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その5:2014/11/01 23:55:55.56 ID:mwuzjAiIo
参謀「まだ奥まで探索し終えていない。このまま進んで、その後に扉を調べるぞ」

先程のスリッパの一件を経て、アイムは居心地にくい思いをしていた。
一行には奇妙な緊張感が張り詰めている。討伐隊長の参謀が抱く緊張感は至極当然のものとして、
¢はそれとは違う別の緊張感を放っているようだ。使命感からくる緊張感ではない。何かに怯えている。

スリッパの態度も少しおかしい。念願の宝の山たる時限の境界を見つけた時の反応は予想外に淡白なものだった。
だが時限の境界の奥に進むにつれ、緊張で顔がこわばってきている。
時限の境界を発見すること自体が目的ではないということなのだろうか。アイムにはわからない。
例えるならば、獲物の小動物が罠にかかるのをひたすら待っている獰猛な獣のような感じなのだ。

アイム自身もおかしい。相変わらず時計の針の音が聞こえ続けているのだ。
寧ろ、音は大きくなり針は早く鳴ってきている。

アイム「なあ本当に針の音は聞こえないのか?」

同じ新人で気兼ねなく話せる相手となったジンに話しかける。たけのこ軍兵士だが、この際仕方ない。

ジン「聞こえませんね。疲れているんじゃないですか、耳鳴りとか」

アイム「そんなヤワじゃないはずなんだけど――」


参謀「ふせるんや!!!」


突如参謀の怒号が広間に響き渡り、咄嗟に全員はその場に伏せた。
それに続くように、広間に爆発音とともに轟音が鳴り響いた。

366 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その6:2014/11/02 00:01:43.91 ID:JxX0TvSwo
アイム「なんだなんだ!」

腰に差していた剣を抜く。アイムの眼前にいる“それ”は、全身を機械で固めた巨大生物だった。
今まで大戦に姿を現したスクリプトとは大きさが一回りも二回りも違う。

¢「スクリプト…なのか?とてつもなくデカイが」

とりあえず、と¢はすぐさま二丁拳銃を構え目の前の敵に向かって発射した。
しかし、スクリプトの装甲の前に、銃弾は跳ね返ってしまった。

¢「堅いな…どこかに弱点があるはずだが――」

アイム「¢!危ないッ!!」

¢の脇に位置している通路から、二体目のスクリプトが現れるとともに、
間髪入れずに¢に向かって光弾を発射した。

¢「ぐッ――」

歴戦の勇者¢は相手の速攻にも、咄嗟に銃で防御態勢を整えたが、
光弾をまともに喰らいふっ飛ばされてしまった。

367 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その7:2014/11/02 00:19:24.41 ID:JxX0TvSwo
ジン「¢さん!『キュンキュア』!!」

¢のもとに駆け寄り傷を癒やす。魔法の香りは少しジンジャーエール臭い。

参謀「くッ、この態勢はまずい。一旦退くッ!!総員、西の通路に向けて走れッ!!」

スリッパ「了解ッ!サラ、頼む」

サラは頷き、初めて自分の意志で一行の前に出た。そして、どこから取り出したのかガトリングガンを両手で構え、
合図もなくスクリプトたちに向かって発射し始めた。

スリッパ「急ごう!サラが時間を稼いでいる間に!」

一行は通路を抜け別の広間へと走る。

スリッパ「サラ、もうOKだ!」

その言葉を聞き、サラは躊躇なくガトリングガンを投げ捨てスリッパたちの後を追う。
遅れてスクリプトたちもその後を追うが、次の広間に到達した時には討伐隊は姿をくらませていた。

――時計の針は刻一刻と進む。

368 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その8:2014/11/02 00:26:08.34 ID:JxX0TvSwo
巨大生物スクリプトは二体だけではなかった。
スクリプトは数を減らすどころか逆に数を増やす勢いで一行に襲いかかった。
始めのうちは、各個撃破で何体かのスクリプトの破壊には成功したものの、
次第にスクリプトに包囲される機会が増え、今や討伐隊一行は各広間を走り回り、
スクリプトの追手を逃れるほど切迫した状況に追い込まれていた。

参謀「ハァハァ…大丈夫かみんな。クソ、なんて数やッ」

何十回目かとなるスクリプトの追手を巻き、広間の片隅で一行は息を切らしていた。状況は最悪といってもいい。

ジン「みなさんこれ飲んで回復してください。『ジンジャーエール』!!」

魔法で用意したジンジャーエールを全員に配る。アイムは貰ったジンジャーエール缶を必死に口つけた。
炭酸はあまり得意ではない。さらに運動直後の炭酸摂取は身体に良くないが、四の五の言っていられない。

369 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その9:2014/11/02 00:33:24.41 ID:JxX0TvSwo
¢「このまま…逃げまわっても…ハァハァ…状況は…ハァハァ好転…しないんよ」

¢は今にも倒れそうだ。訓練を怠っていたのかそれともまともに外に出ていなかったためか、
スタミナが誰よりも無かった。

参謀「確かにこのまま逃げまわっても埒が明かん。部隊を二手に分けて、陽動作戦をとるか」

ジン「この際、もうタイムワープをしてもいいんじゃないでしょうか」

¢「反対。もしタイムワープして万が一帰れない状況になったらそれこそ無駄死なんよ」

スリッパ「陽動なら、私とサラに任せてくれ。スクリプトを引きつける」

今後の作戦について話し合っている中、アイムだけに聞こえる針の音は、
まるで早鐘を打つようにひっきりなしに鳴っている。
その音の大きさは、今や周りの会話が聞こえないまでになっていた。

アイム「おいみんな!聞いてくれ――」

アイムがいい加減事の次第を説明しようとした正にその時。


―――『時間切れ』


アイム「は?」

頭のなかに響いた声とともに、針の音は止む。次の瞬間――

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

370 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時限の境界突入編その10:2014/11/02 00:36:36.26 ID:JxX0TvSwo
¢「あの扉に吸い寄せられるぞッ!!」

ジン「う、うわッ!」

扉に一番近かったジンが真っ先に吸い込まれそうになるが、咄嗟にアイムが手をつかむ。

アイム「全員、互いに掴んだ手を離すなよッ!」

全員が互いの手を掴み、必死に見えない力に抵抗する。しかし―

スリッパ「なんて強い力なんだ…」

¢「うぅ…もう限界なんよ」

全員の身体は浮かび上がり、一直線上に扉に向かって飛んで行く。


参謀「全員、衝撃に備えろッ!!」

アイム「ッ!!」

扉に吸い込まれる直前。走馬灯のように景色がフラッシュバックする中、アイムは思い出していた。
自身の境遇、自分の本当の名前、そして――自身に課せられた“真の役割”。
全てを思い出して、そしてすぐ後にやってきた衝撃で再び全てを忘れてしまった。

こうしてDB討伐隊一行は時空の潮流に乗り、時を跳んだ。

371 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/11/02 00:38:08.15 ID:JxX0TvSwo
投下終了
時をかけるきのたけ

巨大スクリプトの元プロット
『狭間の門番』 - 2012/08/01 作成
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/456/card-29.jpg

おそらく初公開?

372 名前:社長:2014/11/02 01:30:45.08 ID:nkbrFedE0
もつだぞ。ついにきたでういでこすな

373 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その1:2014/11/11 01:10:45.27 ID:6muhTgmMo
   ―― 夢を見ている ――
   ―― 自分の意識がふわふわと。まるで宙を舞うような感覚。これは夢なんだ ――


「長かった。長年…ついにやっとここまでこれた……」

―― 誰かの囁くような声を聞いて。ゆっくりと、夢の中で瞼を開ける ――

「…のオーラが結集して……貴様を、この場で俺様が…掌握ッ…完全に会議所を掌握するッ」

―― 意識が定まらない、うすぼんやりとした感覚が身体を支配する ――

「貴様を消し去ること…会議所の希望…全て断ちきる」

―― どこか見覚えのある光景、覚醒しない脳を働かせようとする ――

「貴様はッここで………消える…」

―― 思い出すのは、暗い室内 ――

「…わるく思うな…これも全て俺様…ため…会議所の歴史を……ため」

―― 思い出すのは、異様なまでに冷えた部屋の空気 ――

「覚悟しろ、…逃げること……………なッ!…自ら…そんな馬鹿なッ…」

―― 思い出すのは、ふわふわ浮いているような不思議な心地良い感触と ――

「なぜだッ!!!なぜ!!!!なぜだーーーーーーーーッ!!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

374 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その1:2014/11/11 01:12:30.01 ID:6muhTgmMo
   ―― 夢を見ている ――
   ―― 自分の意識がふわふわと。まるで宙を舞うような感覚。これは夢なんだ ――


「長かった。長年…ついにやっとここまでこれた……」

―― 誰かの囁くような声を聞いて。ゆっくりと、夢の中で瞼を開ける ――

「…のオーラが結集して……貴様を、この場で俺様が…掌握ッ…完全に会議所を掌握するッ」

―― 意識が定まらない、うすぼんやりとした感覚が身体を支配する ――

「貴様を消し去ること…会議所の希望…全て断ちきる」

―― どこか見覚えのある光景、覚醒しない脳を働かせようとする ――

「貴様はッここで………消える…」

―― 思い出すのは、暗い室内 ――

「…わるく思うな…これも全て俺様…ため…会議所の歴史を……ため」

―― 思い出すのは、異様なまでに冷えた部屋の空気 ――

「覚悟しろ、…逃げること……………なッ!…自ら…そんな馬鹿なッ…」

―― 思い出すのは、ふわふわ浮いているような不思議な心地良い感触と ――

「なぜだッ!!!なぜ!!!!なぜだーーーーーーーーッ!!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

375 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その2:2014/11/11 01:15:30.39 ID:6muhTgmMo
━━━━━━━━
━━━━
━━

【K.N.C 180⇒??年 時限の境界】
参謀「ア…ム、起きろ…起き…んや!!」

途切れ途切れに参謀の声が聞こえてきたのは、アイムは意識を取り戻した。
少し寒気がするが、指先に血が巡っていくのがわかり、感覚はだいぶはっきりとしてきた。

アイム「痛え…」

体の各所が痛む中、起き上がる。アイム以外のメンバーも同じように体を起こして辺りを見回している。

アイム「扉に吸い寄せられて…その後どうなったんだ?」

頭痛が酷い中、必死に自身の記憶を手繰り寄せる。
しかし思い出せない。

376 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その3:2014/11/11 01:21:42.55 ID:6muhTgmMo
参謀「どうやら外に放り出されたみたいやな。さっきの入り口とは違う場所みたいやが」

外にいる、という表現は半分正しく半分は誤りだった。上空からは日が差しているが、参謀たちの左右には
背の高い石壁が位置して、参謀たちを囲っている。
目の前には、朱塗りの鳥居が数本立ち並び小さな神社がぽつんと建っている。
神殿前の賽銭箱が置かれているだろう場所にはぽっかりと大きな穴が空いている。

アイム「タイムワープしたってわけじゃないのか?とりあえず中の状況はどうなって―」

アイムたちの背に位置する、放り出された扉のドアノブを掴み回そうとする。
びくともしない。アイムたちはまたも閉じ込められた。

¢「また閉じ込められた…か」

スリッパ「もし私の予想通りだとすると最悪の展開になりそうだが…外れることを祈ろう。
あの穴に入ってみるしかないよ」

全員は底の見えない穴に飛び込んだ。

377 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その4:2014/11/11 01:26:35.77 ID:6muhTgmMo
【K.N.C??年 大戦場】
荒涼とした砂地の塹壕に投げ出されたアイムたちは、そこが兵士たちにとって
第二の故郷でもある大戦場だとすぐに気がついた。

アイム「イテテ…乱暴に放り出されたが、どうして大戦場なんかに。
てかいま大戦なんかやっている余裕なんてあったか?」

激しい爆音。断続的に響く銃撃音。きのことたけのこが焦げたような臭い。
間違いなく大戦場、それも大戦の真っ最中である。
アイムたちが飛び込んだ穴は、大戦場のとある塹壕内に繋がっていた。
穴から出たアイムが様子を窺おうと塹壕から顔を出そうとした瞬間。

きのこ軍95黒 神官兵卍≪治療≫「おい君ッ!こんなところで何をしているッ!所属部隊はどこだッ!!」

突然の怒号とともに、塹壕に入り込んできた兵士にアイムは目をパチクリとさせた。

アイム「は?え、えーと…その」

¢「びええええん。穴に勢い良く入ったら尻が痛いんよ」

と、アイムの隣で尻餅をついていた¢を見るや、95黒神官兵は目を丸くした。

きのこ軍95黒 卍神官兵「あれ、¢さんじゃないですか。どうしてこんなところに?
さっき前線部隊率いて敵陣に突入していったんじゃなかったんですか」

¢「ん?」

378 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その5:2014/11/11 01:29:24.41 ID:6muhTgmMo
ジン「えーと、いったいどうしたんですか?…」

穴から顔をひょっこり出し、ジンは騒がしい外に気をかける。

95黒 神官兵卍≪治療≫「なッ!お前はたけのこ軍ッ!どうやって我軍の陣地内に侵入したんだッ!」

たけのこ軍服を纏うジンを見るや否や、95黒は烈火の如く怒り出した。

ジン「え、え?」

参謀「なんやなんやどうしたんや」

つかえていた穴から続々と討伐隊メンバーが顔を出す。

95黒 神官兵卍≪治療≫「参謀までどうしてここに…?いまは本部で指揮を取っていたはずじゃ?」

スリッパ「なにかおかしいな…おい、今次大戦は第何次戦役だったか覚えているか?」

95黒 神官兵卍≪治療≫「なッ!お前もたけのこ軍兵士。しかし、あなた。どこかで見た顔だな…」

参謀「頼む、95黒さん。答えてくれや」

真剣な口調の参謀に気圧されるように、95黒は困惑気に答える。

95黒 神官兵卍≪治療≫「はぁ…いまは『第102次大戦』ですが」

379 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その6:2014/11/11 01:31:42.19 ID:6muhTgmMo
全員に衝撃が走った。95黒の言葉を信じるならば、いまアイムたちはK.N.C102年にいる。

参謀「…ご苦労。ちなみにこの二人は、たけのこ軍服を着てはいるが隠密部隊や。
今からたけのこ軍陣地に潜入してもらう手筈となっているんや」

咄嗟の参謀の演技に、ジンとスリッパは急いで同調した。

95黒 神官兵卍≪治療≫「ははぁ、そうだったんですか。敵の攻撃はいまが一番激しいから、
まさに起死回生の策ですね――」

95黒の言葉が終わらないうちに、アイムたちの近くですさまじい爆音と火柱が上がった。

95黒「なんだッ!!どうしたッ!!」

無線『スクリプトです!!スクリプトが大戦場に襲来しましたッ!すさまじい勢いで我軍に攻めかかってきていますッ!』

95黒「くそッまたか!!すぐ応援に向かうッ!」

95黒はこちらを振り返りもせずに走って行ってしまった。


参謀「どうやらここは本当に過去の世界みたいやな…」

スリッパ「私が既に引退済の兵士で、ジンがこの時代に参戦していない新規兵士でよかったな。
もし向こうに顔が割れていたらめんどうなことになっていた」

380 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その7:2014/11/11 01:36:33.59 ID:6muhTgmMo
¢「過去の時代に来たはいいが、いったいどうやったら俺たちは元の時代に戻れるんだ」

アイム「わからねえよ。だが、さっきあの兵士の無線で言っていた言葉――」

――スクリプトが大戦場に襲来しました

アイム「参謀や¢さんは第102次大戦にも参加していたんだろう。この大戦を覚えているのか?」

参謀「第102次…第2回クリスマス聖戦が終わってすぐの大戦だったか。確かにスクリプトに襲われた覚えはあるが…」

¢「ぼくは覚えているんよ。最初はたけのこ軍が怒涛の攻めを見せていたけど、
スクリプトの襲来でそれどころじゃなくて大戦は中止になったんよ。結局スクリプトに太刀打ちできなかったんよ」

自信満々に語る¢。その口ぶりは、編纂室で以前おなじ質問をされた時に答えていた時と変わらない。
しかし、アイムは同時に、編纂室で聞いた集計班の語りを思い出していた。


―― 確かにスクリプトの襲来は何度か受けましたが、
    荒らしが原因で中止になった大戦はただの一度だけです。

―― K.N.C86年の第86次大戦。中止になった大戦はただ一度だけだと記憶しています。


もし集計班の言葉が正しいとすれば、¢の記憶は歴史年表とともに上書きされていることになる。

381 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 時空潮流編その8:2014/11/11 01:37:36.14 ID:6muhTgmMo
アイム「シューさん曰く、スクリプトによって中止に追い込まれた大戦はこの年じゃない。
¢さんのいうように、この年度の大戦が中止に追い込まれているんだったら、
それは【歴史改変によって塗り替えられた歴史】だ」

¢「なんだと…」

スリッパ「つまり、本当は大戦中止に追い込まれたわけではないのか?」

アイム「おそらくな。よくわかんねえけど、時限の境界にいたスクリプトがこの時代に来て
歴史改変をしているのかもしれないな」

スリッパ「なるほど…」

382 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/11/11 01:42:47.32 ID:6muhTgmMo
とりあえずここまで。
ちなみに第102次きのこたけのこ大戦は、現実でもスクリプトの襲来を受けています。


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[参照]
・きのこたけのこ大戦 睦月戦役 第二戦 2012/01/21(土) 22:32:19.16 (※第102次きのこたけのこ大戦)
きのこたけのこ大戦(スクリプト埋め立て)
きのこたけのこ大戦(スクリプト埋め立て)
きのこたけのこ大戦
※緊急戦闘場★2は>>514まで使用

きのこ軍:たけのこ軍=54:0 きのこ軍の兵力アド:10
・まーたスクリプトか。
・前半はきのこ軍がメタメタにされていたものの後半は打って変わっての猛攻撃。
・大差をつけられていたのが大差をつけての勝利となった。
・きのこ軍は必殺技の女神の加護でも受けたのか。それともデスブログのたけのこ軍への呪いか・・・

・途中でバーボンを喰らった集計の代わりに集計を担当した抹茶兵士には感謝の意を述べたい。

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実は第100次・第101次ともにスクリプトの襲来を受けているので、最初は第100次にしようと思ったんですが
まあそこはね。とりあえず次の更新時にでも。

383 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その1:2014/12/09 23:03:25.23 ID:TpICAZnso
・ここまでのあらすじ

会議所「DBとスクリプト脱走した」

集計班「なんかきのたけの歴史がどんどん書き換わっているんですが」

参謀「原因探るわ。時限の境界っていうダンジョンに行けばええんやろ?」
スリッパ「参加するぞ」

アイム「えっなんか知らない間に勝手にタイムワープしたんだけど」
¢「気がついたらK.N.C102年にいたンゴ」 ←いまここ

384 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その1:2014/12/09 23:05:39.39 ID:TpICAZnso
兵士の叫び声と、スクリプトが発する不快な機械音が戦場にこだまする。
空を見上げると、まるで群れをなす鳥のように大量の小型スクリプトが飛び回っている。

アイム「とりあえずなんだっていいッ!目の前のスクリプトをぶっ壊すぞッ!」

スリッパ「待てッ!」

今にも飛び出さんとはやるアイムを静止するように、スリッパはアイムの腕をつかんだ。

スリッパ「スクリプトを倒すということは、今度は私たちが歴史改変をする立場になってしまう」

とても危険を伴う行為だ。スリッパはそう力説する。

スリッパ「歴史改変は、目の前の出来事を書き換えるだけではない。
大戦に関わる多くの兵士の歴史も一緒に書き換えることになる。
今から起こそうとしている歴史改変が、この大戦に参加していた兵士から直接関係ない兵士までの
現在や未来に影響を少なからず影響を与えることになるんだ」

ジン「そう聞くと…確かに深刻だ」

アイム「だからといって目の前の歴史改変をただ見ているだけだというのかよッ!!
そもそもオレたちは閉じ込められているんだ。第102次きのこたけのこ大戦という、このでかい檻になッ!!
オレたちが戻らなければ、歴史は書き換えられ続けて、あんたのいう犠牲者が増えるだけだッ!!」

アイムたちは元いた時代に帰ることはおろか時限の境界に戻ることすら叶わない。
牢獄に閉じ込められいると等しい状況なのだ。

385 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その2:2014/12/09 23:08:42.66 ID:TpICAZnso
参謀「アイムの言うとおりや。スリッパの言うことも一理ある。だが、現代に帰ることができないワイらにできることは、
【書き換えられた歴史を元に戻す】ことや」

¢「こう考えるとどうだろう。正史ではスクリプトの襲来を受けながらも、その脅威を跳ね除けて大戦を続行した。
今の虚構の歴史をその正史に戻すだけだ、と」

三人の言葉にスリッパはしばし沈黙し、渋々と言った呈で納得した。

スリッパ「わかった。だが、時間はない。さっさとスクリプトを破壊しよう」

アイム「よしきた!みんな行こうぜッ!」

スリッパ「いや、待てッ!」

身を乗り出して塹壕の外に出ようとするアイムを、スリッパは首根っこを掴んで静止させた。

アイム「ぐえっ、まだなにかあるのかよ」

スリッパ「最小限の歴史改変に留めるべきだと思う。¢が言ったように、【正しい歴史に戻そう】とした場合、
正史にはない余計な歴史改変は混乱を招くだろう」

参謀「なにが言いたいんや」

スリッパ「『タイムパラドックス』。聞いたことはあるだろう?」

タイムパラドックス―― 時間の逆説。
時間旅行者が過去にタイムトラベルした時、歴史改変を行うことで過去と未来の整合が取れなくなる
時間の矛盾を指す。

386 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その3:2014/12/09 23:11:58.83 ID:TpICAZnso
参謀「聞いたことあるな。有名なやつやと『親殺しのパラドックス』とかか?」

スリッパ「そうだ。時間旅行者である私たちが無用な歴史改変を引き起こすと、
現代において多大な混乱を招くことがある。たとえば、過去と未来の二人の同一人物が同じ時間帯で
ばったり出会ってしまうとかね」

¢「言いたいことは分かった。つまり、僕と参謀はこの時間・この大戦場内で戦っている“過去”の俺たちと、
そして少し前に“タイムトラベルしてきた”俺たち、二人ずついるということなんだな。
この過去の僕たちと僕たち自身が鉢合わせになるのは非常にまずい、と」

アイム「なるほど。だとしたら、参謀と¢さんは本人たちに見つからないように姿を隠したほうがいいってことか」

スリッパは頷き、¢と参謀からきのこ軍軍服を借り、ジンとともに着替える。

ジン「きのこ軍陣地内に発生しているスクリプトを中心に叩きのめすしかないだろう」

参謀「急いだほうがいい。大戦が続行不可能に追い込まれたと集計係が判断したら、
その時点で歴史改変の余地を失うことになる」

¢「巧遅は拙速に如かず、だな。時間との勝負だ」

アイム「了解。目にも留まらぬ速さで片付けてやるよッ!」

アイムはニヤリと笑い、ジン、スリッパそしてサラとともに塹壕を飛び出した。

387 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その4:2014/12/09 23:13:38.66 ID:TpICAZnso
【K.N.C102年 大戦場】

『ぶお〜〜〜現在の兵力は…えと、5+3+2で…えーと…現在の兵力は68:27で…あ、計算間違えた。
現在の兵力は68:25できのこ軍が有利です』

アイム「あの声は…シューさんか」

現代での集計公表の落ち着きぶりと比べると、えらい慌てようだ。

スリッパ「今でこそ【集計ツール】で自動集計しているが、昔は全て集計係の目視・手計算で集計していた。
戦況が熾烈になればなるほど戦いの勢いは上がり、集計係は苦しんでいくというわけさ」

アイム「なんだか不憫な役回りだな」

アイムはほんの少しだけ集計班に同情した。

ジン「目の前の上空を見てください。スクリプトの群れが、きのこ軍部隊を襲撃しています!」

アイムは自身の頭巾を紐解き、口と鼻を覆うように巻きつける。スリッパやジンも同じように顔を隠す。

アイム「よっしゃ、行くぞッ!」

388 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その5:2014/12/09 23:18:12.32 ID:TpICAZnso
アイム「おらおらあ!助けに参上したぜ」

腰に差してある投げナイフを取り出し、上空のスクリプトめがけて勢い良く投擲する。

ジン「『炭酸スプラッシュ』!」

スリッパ「サラ。頼む」

どこから取り出したのか地対空ミサイルを肩に構えたサラは、間髪入れること無くスクリプト群めがけて放射しはじめる。
見事、スクリプトの群れを撃墜した。

??「素晴らしい!どの部隊の所属だ!」

襲撃されていた部隊の隊長と思わしき人物が、アイムたちに近寄ってきた。

きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「なんてカオスな面子だ。しかし、おお!スクリプトが一掃されたぞ!」

アイム「あれ¢さん、どうしてここに…って、そうか。これは別人か」

"過去”の¢は優雅な動作で二丁拳銃をホルダーに戻した。今よりも凛々しく、精悍な顔つきをしている。
口調も今のような弱々しいものではなく、自信に満ち溢れた言い方だ。
年月とはここまで人を変えてしまうものなのか、とアイムは目の前の¢と先ほどまで一緒にいた¢を思い浮かべ、
心のなかで嘆息した。

きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「君たちが援軍か、ありがとう礼を言う」

顔を見せない目の前の恩人たちに若干の疑問は抱きつつも、¢は新たな質問をぶつけた。

きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「ところで、お前たち。≪作戦コマンド≫はどうした?」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

389 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その6:2014/12/09 23:19:30.48 ID:TpICAZnso

きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「おいおい頼むぜ…俺が考案したルールの中では特に自信があるんだからな」

きのこ軍 爆撃兵☆≪運試≫「でも隊長〜。これいちいちバッジ付けて戦うのめんどうくさいっすよ〜」

きのこ軍 工作兵]≪特務≫「確かに。しかも自分の戦果確認する際にいちいち計算めんどうなんだよなあ」

きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「なッ!そんなことはない!いや確かに、少しだけ面倒くさいかもしれんが、
それを上回る充足感と得難い満足感がだな…」

きのこ軍兵士「ブーブー」

相次いで内部から出る不平不満に反論する¢を尻目に、アイムたちは残りのスクリプトを追ってかけ出す。

きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「あッ、おい待てッ!そっちは敵軍陣地だぞッ!部隊長の俺の指示にだな…」

アイム「すまないな隊長さん。俺たちには時間がないんだッ!」

きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「あークソッ!命令無視は軍法会議ものだぞッ!」

390 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その7:2014/12/09 23:21:18.39 ID:TpICAZnso
【K.N.C102年 大戦場 たけのこ軍陣地】
『ぶお〜〜〜えと、シューさんが過労で倒れられたので私、抹茶が集計を代行します。
現在の兵力は58:11で依然きのこ軍が有利です。でもすごいスクリプトの数だ…このまま大戦続行してもいいのかな?』

アイム「クソッ、いくら倒しても次から次へとスクリプトが湧いてきやがる」

スリッパ「まるで小蝿のように集っては兵士のやる気を削いでいるな」

スクリプトは束となり、まるで虻のように羽音を震わせながら両軍の軍団に襲いかかっていた。
スクリプトの出処は未だ掴めない。

アイム「このままじゃ大戦が中止になっちまうッ!急がなくちゃならねえのにッ!」

己の不甲斐なさに、アイムはその場に剣を投げ捨てる。すると―

スリッパ「なんだ!?地鳴りか!?」

アイム「下から来るぞ 気をつけろッ!!」

アイムたちの足元から砂を巻き上げながら、例の巨大スクリプトが這って姿を現した。
甲殻類のように4本足を広げながらアイムたちに近づいていく。

スリッパ「おい!アレを見ろッ!」

巨大スクリプトは足を止め、奇声を発しながら身体を震わせる。と、その腹部付近から大量の小蝿スクリプトが外へ飛び出し、空へ飛び立っていった。

アイム「つまり、こいつがスクリプトの親玉てことだなッ!おもしろい!
さっさとかたをつけて参謀たちのところに戻ろうぜッ!」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

391 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その8:2014/12/09 23:23:00.75 ID:TpICAZnso
サラのロケットランチャーが巨大スクリプトに直撃し、スクリプトは機械部品を周りにぶち撒けながら四散した。
と、巨大スクリプトが破壊されたと同時に上空を飛び回っていた小蝿スクリプトも、
息絶えたように地面へ墜落し始めた。どうやら巨大スクリプトが小蝿スクリプトの動力源となっていたようだ。

ジン「これでいいんでしょうか?」

スリッパ「¢の言うように【書き換えられた歴史を元に戻す】ことができたはずだ」


『ぶお〜〜〜たけのこ軍が降伏しました。よって第102次きのこたけのこ大戦は、きのこ軍の勝利となりました。
最終兵力は54:0…あっ、集計さん。いまさら復活されても遅いですよ…』


スリッパ「よし、これで【第102次大戦がスクリプトの襲来によって中止に追い込まれた】という歴史は書き換えられたはずだ。参謀たちの下に戻ろう」



参謀「みんな無事か!」

アイム「なんとかな。あんたらも他の兵士に見つからなかったか?」

¢「なんとか隠れきることができたんよ!」

アイム「…」

¢「なんなん?そんなに見つめられると恥ずかしんよ」

アイム「…いやなんでもねえよ。年月の経過ってのは残酷だな」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

392 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その9:2014/12/09 23:24:54.49 ID:TpICAZnso
【時限の境界 神社前】

アイム「戻ってきたはいいが、これからどうするんだ?時限の境界フロアに戻ろうとしても扉は開かなかっただろう」

スリッパ「俺たちがこの神社の前に放り出された時は、な。だが今は…」

スリッパが扉のドアノブに手をかける。

スリッパ「開くはずだ」

ガチャリ。
重厚そうな音とともに、閉ざされていた扉はいとも簡単に開かれた。扉の先は眩い光に包まれている。

アイム「なッ!」

スリッパ「さあ戻ろう」

ジン「ちょ、ちょっと待った!いま戻っても、また先ほどと同じように巨大スクリプトと追いかけっこをする羽目になるんじゃ」

¢「慎重になるべきだと思うんよ」

参謀「俺たちはいま第102次大戦の現場にいる。これは紛れもない事実や。K.N.C102年にいるんや」

K.N.C102年。現代のK.N.C180年とはあまりに時間がかけ離れている。

参謀「ここに居続けてもおそらく事態は好転しないやろな。
K.N.C180年まで各時代の俺たちに見つからないようにこうやって隠れ続けて待つちゅう選択肢もあるがな」

アイム「待てば海路の日和ありと言うけど、いつまでも待っていたら¢みたく心までジジイ化しちゃうな」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

393 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 歴史修正編その10:2014/12/09 23:26:56.55 ID:TpICAZnso
【??年 時限の境界】

アイム「ダーーーーッ!かかってきやがれ化け物野郎ッ!」

目の前で待ち構えているだろうスクリプト向けて威勢よく扉を抜けたアイムだが。

アイム「ここは…フロア内じゃない?」

ジン「時限の境界の入り口じゃないですか、ここ」

アイムたちの目の前には巨大なスクリプトたちも、薄暗いフロアも無かった。
広々とした草原と一帯を占める朱、朱、朱の鳥居。
扉を抜けると、そこは時限の境界の入口前だった。

参謀「時限の境界から出られたということか」

アイムたちの背後には巨大なくすんだ色の石壁。時限の境界フロアがそびえ立っている。

アイム「つまり、これで会議所に戻れるってわけか!やったぜ」

参謀「第一の目標であるDB討伐はならんかったが、得られた収穫は大きい。帰って報告しようや」

一行は足早に時限の境界を後にした。
会議所に戻ることはできたが、果たしてアイムたちは現代に戻って来られたのか。
結局K.N.C102年から抜け出せていないのではないか。時代跳躍の変化の術を知る由もない一行からすれば、
その心配はある種当然のものと言えた。
しかし、結果としてその心配は杞憂に終わった。途中で立ち寄った村落で話を聞けば、確かにアイムたちがいる時代はK.N.C180年。
つまり現代に戻っていたのだ。突拍子もない質問に首を傾げる村落の住人を尻目に、DB討伐隊一行は現代帰還の喜びを噛み締めたのだった。

394 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 :2014/12/09 23:27:36.01 ID:TpICAZnso
更新終わり。
一回目のタイムワープを終え、会議所に帰還した兵士たち。そろそろ特訓パートが始まりますぞよ。

395 名前:レタス社長:2014/12/10 01:04:16.26 ID:SGwMn2D20


396 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 原因究明編その1:2014/12/30 13:37:43.51 ID:RRc6QDeUo
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

きのこ軍 集計班「つまり…貴方方は【時限の境界】から【K.N.C102年】へタイムワープして、
偽りの歴史を【正史】に書き換えて、現代に戻ってきたと?」

DB討伐隊一行の報告が終わり、緊急会議を招集した集計班は開口一番にそう尋ねた。

きのこ軍 参謀「そういうことやな。編纂室でも歴史の書き換えは確認できたんか?」

たけのこ軍 社長「これは秘密だけど、百合神様はごくフツウの女の子だよ。みんなには秘密だよ〜」

集計班はオニロに視線を配り、オニロにある用紙を持ってこさせた。
オニロの顔からは生気が消えており、編纂室で起こり続けている歴史改変による脳シェイク(会議所側呼称)の壮絶さを伺わせる。

397 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 原因究明編その2:2014/12/30 13:40:01.51 ID:RRc6QDeUo
きのこ軍 集計班「頻繁に歴史改変が起きていまして、その度に記録は取っています。
第102次大戦の歴史改変が記録されたのは…」

たけのこ軍 社長「・・あとは忘れちまった」

たけのこ軍 オニロ「ええと。用意した改変記録を見ると、第102次大戦の改変は2日前に行われています」

きのこ軍 アイム「2日前だと?それはおかしいな。時限の境界に突入してからここに帰ってくるまでに、
オレたちの体感時間でまだ1日は経ってないはずだぜ」

たけのこ軍 社長「アイム!何をそんなに あせっ」

スリッパ「時限の境界内の時間の流れが周りと異なっている可能性が高いな」

たけのこ軍 社長「ないわー」

きのこ軍 アイム「いい加減にうるせえ叩き斬るぞ」

たけのこ軍 社長「ぎゃああーーーありがとうーっ!」

社長のバグった姿勢にスリッパは奇妙な安堵を覚えた。当時スリッパがいた会議所でも、今とは少し違うベクトルではあったが、
同じように社長は奇妙な言動・行動で会議所を幻惑し続けた。あの頃の光景と今の光景を重ねて、
スリッパはほんの僅かな間、感慨に浸っていた。最初期に自らも在籍していた会議所に、いま自分は居る。
二度と帰ってくるはずはないと思っていた会議所に。
後ろで会議の動向を見守っているサラに流し目で視線を送る。
私は本当にここに来てよかったのだろうか。スリッパの目はそう尋ねている。
サラは表情一つ変えずにスリッパを見つめ返す。数秒間の沈黙。しかし二人にはそれで十分だった。
スリッパは何かを確認したように、サラへ向かって頷き、再び会議に意識を戻した。

398 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 原因究明編その3:2014/12/30 13:42:22.50 ID:RRc6QDeUo
たけのこ軍 オニロ「えと、スリッパさん…でしたっけ。話を聞く限り、スリッパさんは時限の境界の仕組みについて
何かお気づきになられた点があるように見受けられます。何かご存知なんじゃないでしょうか?」

一同の視線がスリッパに注がれる。やれやれ、昔を振り返る暇もないな。スリッパはそう苦笑すると、朗々と説明を始めた。

スリッパ「今回、時限の境界に突入してみて幾つか気がついたことがある。
経験は最良の教師であるが、授業料が高すぎる。今回私たちは高い授業料を払ってまで時限の境界に教えを乞うた」

今から私が話す内容はあくまで憶測にすぎない。そう前置きした上で、スリッパは語り始める。

スリッパ「私はかつて自らの本にて時限の境界を『宝の山』だと表現した。確かに、好きな年代にタイムワープできる
場所は聞いた限りでは夢のような空間だ。だが――」

スリッパ「時限の境界は無料でそのような夢のひと時を提供してはくれない。
使用する上で恐ろしい【制約】が存在する、悪魔との契約なんだ」

会議所はそこで初めて知ることになる。時限の境界に隠された【制約】を。

399 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/12/30 13:44:42.01 ID:RRc6QDeUo
更新終わり。年内にもう一回更新したい。

400 名前:791:2014/12/30 18:15:23.71 ID:UGtVSG5wo
更新乙!
楽しみ楽しみ

401 名前:社長:2014/12/30 20:10:44.65 ID:w8xPNuhQ0
年内(明日まで)

相変わらず社長うざいな死ねよ。

402 名前:誰か:2014/12/31 00:09:54.33 ID:IvTXHau20
乙〜

403 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/12/31 14:58:35.05 ID:Bkzcex/wo
更新更新。全然推敲してないのでいつもよりもいろいろとおかしい可能性大。

404 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その1:2014/12/31 15:04:55.05 ID:Bkzcex/wo
スリッパ「まず、時限の境界突入から順に討伐隊一行の行動を振り返っていこう」

――DB討伐隊一行は、時限の境界内の柱と扉に記された番号からある法則性を導き出した。

たけのこ軍 オニロ「広間の番号と扉の番号を組み合わせることで、その年代に通じる『扉』になるっていう話だったよね。
例えば、K.N.C180年なら広間【18】の扉【0】番。K.N.C102年なら広間【10】の扉【2】番といった具合に」

スリッパ「そうだ。そう考えると広間は【0】〜【18】、全部で19個あることになる。
広間【18】には私たちが入ってきた扉、つまりK.N.C180年の扉しか無かった。
おそらく年を経る広間【18】には扉が生成されていくんだろうな」

きのこ軍 someone「扉、えと会議所は【年代の扉】て呼んでいましたか。
この扉をくぐることによって過去の年代に行けるということなんだよね」


――DB討伐隊一行は、巨大スクリプトの襲撃にあった。

巨大スクリプトは今まで見かけていたスクリプトの上位種であることから、
会議所はこの巨大スクリプトを【NEXT】と名付けることにした。

たけのこ軍 791「この【NEXT】は、やっぱりDBの一味で討伐隊一行を待ち構えていたということでいいのかな?」

たけのこ軍 社長「どこへいくんですか^^」

たけのこ軍 加古川「まずその結論で間違いないでしょうな。DBとスクリプトは手を組み、時限の境界を支配している」

たけのこ軍 社長「ゲロストバフィア提督」

きのこ軍 黒砂糖「時限の境界を支配することで、自由に歴史を書き換えられるようになることになる」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

405 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その2:2014/12/31 15:08:18.13 ID:Bkzcex/wo
――DB討伐隊一行は、突如謎の力でK.N.C102年の【年代の扉】に吸い寄せられた。

きのこ軍 参謀「ここが最大の謎やな。引力のように身体ごと扉に吸い寄せられたんや」

たけのこ軍 社長「ふわ〜っ」

きのこ軍 集計班「どこいくねーん」

きのこ軍 アイム「あの時、扉に吸い寄せられる前に声が聞こえてきたんだ。
『時間切れ』っ聞こえてきたか。その直後に、扉へGOだ。皆には聞こえてなかったみたいだけどな」

スリッパ「それは本当か?ふむ…ふむ、やはりそうか…私の予想は間違ってなかったのか」

アイムの言葉に、スリッパは仕切りに頷き独りごちた。

たけのこ軍 オニロ「あ、あのー…そろそろ話してもらえると」

スリッパ「ああ、すまない。独りで考え事をしてしまうのが私の悪い癖」

たけのこ軍 社長「スマナイ林田」

スリッパ「アイムの聴いた声が何者かは知らないが、その言葉を聞くとあながち私の予想も的外れではないようだな。
つまり、時限の境界に留まり続けることはできない。タイムリミットが存在するんじゃないか、とね」

たけのこ軍 抹茶「タイムリミット?まさか、扉に吸い寄せられたというのは…」

406 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その3:2014/12/31 15:11:07.04 ID:Bkzcex/wo
スリッパ「流石は抹茶、察しが良い。そう、時限の境界は―――」


――時限の境界フロア内に、一定時間以上留まり続けることはできない。


たけのこ軍 加古川「なるほど。参謀たちは時限の境界に突入してから一定時間経過で、
フロアに留まれなくなり、近場の扉に吸い寄せられた。そういうことか?」

社長「あワお〜〜」

きのこ軍 アイム「オレたちが扉に吸い寄せられたのはペナルティてわけか。随分と粋なことをしてくれるじゃねえか」

スリッパ「時限の境界に突入してから強制的に扉へ吸い込まれるまでの時間。
正確にはわからないが、体感的にはおよそ60分から90分程度」

きのこ軍 ¢「時限の境界の入り口から外に出ることはできなかった。
つまり、必ずどの時代かの『年代の扉』に入らないといけないということか」

きのこ軍 参謀「時限の境界に足を踏み入れた時、もうそいつが過去にタイムワープするのは確定事項ちゅうわけか」

スリッパ「あくまで仮説だ。だが、この仮説に基づいて考えを進めていけば色々と納得できる」


時限の境界には制約が存在する。


――【制約T.】時限の境界フロア内に一定時間以上留まり続けることはできない。
         ある制限時間を超えると、強制的にどこかの『年代の扉』に送り込まれてしまう。

407 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その3:2014/12/31 15:14:17.23 ID:Bkzcex/wo
きのこ軍 アイム「オレたちはスリッパさんの言う時限の境界の【制約】に抵触して、強制的にK.N.C102年へ送られた」

スリッパ「その後の状況を思い出して欲しい」

たけのこ軍 ジン「えっと。その後はたしか…」

『年代の扉』をくぐった討伐隊一行は、入ってきた場所とは異なる外の場所へ放り出された。
年代の扉から時限の境界へ戻ろうとするも、案の定扉はビクトもしない。
仕方なく、一行は目の前の神社風の建物の中にある横穴へと飛び込んだ。

横穴はK.N.C102年の戦場へと通じていた。その戦場で、正史では現れなかったはずのNEXTを母体としたスクリプト群を斃し、
先程まではビクトもしなかったはずの『年代の扉』を開け、無事、時限の境界の外へと出ることができたのだった。

スリッパ「ここで重要なのは、K.N.C102年に放り出された直後には『開かなかった年代の扉』が、
スクリプトを撃破した後にあっさりと開いたことだ」

たけのこ軍 埼玉「これも先の制約と同じで、時間経過で開くようになったんじゃないかタマ?」

たけのこ軍 社長「今日の目標、枠調整しない!」

スリッパ「それも考えられる。だが、別の場合も考えられる。まず――」

――正史にはいなかったスクリプトはどこから来たのか。

408 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その3:2014/12/31 15:24:19.77 ID:Bkzcex/wo
たけのこ軍 筍魂「もしかして、スクリプトは人の心に巣食う化け物で今まで目に見えていないだけだった…?」

きのこ軍 アイム「もしかして、オレたちが戦ったスクリプトてのも、元を辿れば『時限の境界にいた奴ら』なんじゃないか?」

きのこ軍 参謀「なるほど!そういうことかッ!俺らがフロアで交戦したNEXTたちもまた、
時限の境界の【制約 T】によって【年代の扉】に放り込まれた奴らだったってことか!」

時限の境界の広間で参謀たちを突然襲ったスクリプト群。
NEXTたちも参謀たちと同じように【制約】による強制移動か、はたまた自らの意志か、
【年代の扉】を超えて過去の大戦へと現れたのだ。

たけのこ軍 筍魂「ワイは最初から全部わかっとったで」

409 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その5:2014/12/31 15:29:29.47 ID:Bkzcex/wo
たけのこ軍 オニロ「過去に飛ばされたスクリプトたちはその年代の大戦を荒らし回り、
結果として現在進行形で歴史が書き換えられ続けています。
歴史の書き換え部分はほとんどが『スクリプトによる荒らしで大戦続行不可能になった』という記述ばかりです」

スリッパ「おそらく巨大スクリプトたちが次々に他年代に跳んで大戦を荒らしまわっている。

ここで一つの仮説を立てることができる。
NEXTは【歴史を書き換えて】から【時限の境界】へと戻っているのではないか。
私たちが広間で出会ったNEXTも【既に何度か過去の年代で歴史を荒らしまわっていた】スクリプト
なのではないか、とね」

¢を負傷させる襲撃をしたNEXTたち。そのNEXTももう既に時限の境界で何度もタイムワープをおこなっているのではないか。
歴史改変を行いその度に現代に戻り、時限の境界へ突入するDB討伐隊一行を待ち続ける傍ら、歴史改変を
繰り返しおこなっているのではないか。スリッパはそう言っているのである。

スリッパ「私たちも『スクリプトによって大戦中止に追い込まれた』という偽りの歴史のK.N.C102年の
【歴史を再度書き換えて】から【時限の境界】へと戻ることができた。何もしないと扉は開かなかった」

編纂室がにわかにざわつく。スリッパがその先に言うだろう【第二の制約】がわかってしまったのだ。

きのこ軍 集計班「なるほど。つまり、時限の境界の2つ目の制約というのは――」

スリッパ「そう。それは――」



――【制約U.】過去の時代へとタイムワープした場合、その時代の歴史改変を行わない限り、
         現代へ戻ることはできない。

410 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その6:2014/12/31 16:23:23.37 ID:Bkzcex/wo
【K.N.C180年 会議所 教練所 中庭】

運命の会議から一夜明け、アイムは教練所の中庭に向かって歩を進めていた。
日課の昼寝のためではない、自主訓練のためでもなかった。
会いたくない時にはよく顔を合わせる、しかし会いたいと思った時には会えない。そんな兵士を探していた。
この状況に、まるでその兵士におちょくられているかのようにさえ思い、アイムは一人理不尽な怒りを溜め込んでいた。

たどり着いた中庭には、渦中の兵士が芝生の上に立っていた。陽射しを一身に浴びながら一歩たりとも動かない
その姿はまるで仁王像のようだ。
ゆっくりと歩を進めその兵士に近づく。アイムに気がついていないのか、兵士はアイムに背を向けたまま
一歩たりとも動かない。

アイム「やっぱりここに居たんだな、あんた…」

筍魂「いつもは俺がお前を探す側なのに、今日は真逆だな」

太陽に顔を向けたまま、目を合わせようともせず、筍魂はアイムに応じた。

アイム「あんた、いつか言っていたな。『オレのスランプを克服できる』、『オニロを超えられる力が身につく』術が
【戦闘術魂】にある、と」

筍魂「言ったかもしれんなあ」

興味なさそうな声色で筍魂は答える。

アイム「その言葉、ウソ偽りはないんだな?」

筍魂「そうかもしれん」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

411 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その7:2014/12/31 16:24:53.82 ID:Bkzcex/wo
アイム「オレはセッカチな兵士なんだ。気が変わらないうちに答えたほうがいい」

筍魂「要件を言え」

アイムはそこでハッとした。鋭い声。筍魂が初めてアイムに気を向けた。殺意に似た気を。
見たこともないオーラに気圧されている。後ずさりたくなる思いを必死でこらえ、アイムは奥歯を噛み締めて耐えた。
いつも道化のようにアイムにまとわりついていた筍魂だが、今は冷酷な表情を貼り付け、
アイムをまるで道端の石ころ程度にしか気にかけていない態度で接している。
アイムはそこで初めて、会話、場の空気、威圧感すべての主導権を筍魂が掌握していることに気がついた。
辛抱するようにアイムはやっとのことで口を開いた。

アイム「オレを…あんたの弟子にしてほしい。【戦闘術魂】を修得したいんだ」

長い沈黙だった。アイムには数分の沈黙がまるで数時間も続いているように感じられた。

412 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 続・原因究明編その8:2014/12/31 16:26:02.20 ID:Bkzcex/wo
アイム「オレを…あんたの弟子にしてほしい。【戦闘術魂】を修得したいんだ」

長い沈黙だった。アイムにとって数分の沈黙がまるで数時間も続いているように感じられた。

筍魂「ええんやで」

アイムはホッとした。と、そこで筍魂は――

筍魂「一つ言い忘れたが――」

そこで初めて、筍魂はアイムと向き合った。
口角を釣り上げ、満面の笑みでアイムに向かって笑いかける。

筍魂「――俺はお前以上にせっかちな兵士だゾ」

超短期間による、【戦闘術魂】伝承のための地獄の特訓が始まりを告げた。

413 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2014/12/31 16:27:00.04 ID:Bkzcex/wo
魂はせっかち。そして漂う強キャラの臭い。
普段は猛虎弁だけど、シリアスパートだと真面目口調。やったね魂!これで出番が増えるよ!

そんなわけでよいお年を。

414 名前:社長:2014/12/31 16:28:16.82 ID:JzFKSD4M0
^乙^

415 名前::2014/12/31 17:32:32.62 ID:jERoTF6wo
ポンコツコンビ臭がしてワクワクする
おつ

416 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2015/01/12 12:18:55.61 ID:5B4KxXSEo
warsまとめ
http://seesaawiki.jp/kinotakelejend/d/wars%a4%DE%A4%C8%A4%e1

wikiのほうでものんびり更新しているのでよかったらどうぞどうぞ。

417 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2015/02/15 18:52:58.73 ID:hKhB2Zjco
今週中の更新を目指します。

418 名前:791:2015/02/15 19:25:00.87 ID:yritQCaYo
今日更新なのか!

419 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2015/02/20 23:38:11.87 ID:Uv1/0Gnco
これまでのあらすじ

記憶喪失の主人公きのこ軍アイムとたけのこ軍オニロは、期待の新人として会議所に育てられてきた。
そんなある日、会議所にとって宿敵であるDBとスクリプトがともに会議所から脱走していることが発覚、
間もなく大戦の歴史を塗り替えようと暗躍していることを知る。
栄光の大戦の歴史が、敗北の歴史に塗り替えられることを防ぐため、会議所はDB討伐隊を派遣。
時限の境界なるタイムマシンフロアへ潜入するが、知られざる制約に苦しめられDBに会うことすらできない。
そんな最中、自らの力量に限界を感じていたアイムは筍魂の元へと赴き弟子にしてほしいと頼むのだが…?

420 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 強キャラ筍魂編その1:2015/02/20 23:42:48.32 ID:Uv1/0Gnco
【K.N.C180年 会議所 教練所 中庭】

筍魂「『ストーン・エッジ』」

アイム「ぐえッ」

筍魂「『オーバー・ヒート』」

アイム「ぐッ!!」

筍魂「『しねしねこうせん』」

アイム「―――ッ」

途方もない回数、アイムは筍魂に戦闘を挑み、その度にアイムは地面に投げ飛ばされ傷を増やしていた。
頭から地面に突っ込み、その勢いで中庭の草木がごっそりと禿げる。禿げた部分の土が顔に当たり、ひんやりとアイムの気持ちを幾分か楽なものにする。
地面の中で暮らす生物たちが羨ましいとアイムは一瞬感じたほどだが、顔にできた擦傷や切傷が地面の冷気に呼応するように痛み出し、すぐに否応なく現実に戻される。

筍魂「はやく起きろ。時間がないと言ったはずだ」

筍魂は無表情でアイムに指図する。傍目から見ても、ボロ雑巾のようになっているアイムに純粋な戦闘力は殆ど残っていないのはわかりきっている。
しかし、アイムは戦闘力こそ残っていなかったが、純粋な“闘争心”は依然として心に燃やし続けたままだった。
表情には出さずとも、筍魂は自らの眼力が正しかったことに独り愉悦した。

421 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 強キャラ筍魂編その2:2015/02/20 23:45:16.81 ID:Uv1/0Gnco
アイム「今にテメエの吠え面を欠かせてやるからな…」

筍魂「…言ってろ」

筍魂が自らの身体を沈み込ませ、深い姿勢を取る。
まただ。アイムは心のなかで舌打ちする。アイムは筍魂の攻撃を一切追えていない。
今も、目の前で攻撃態勢を整える筍魂に一つも対処策が浮かんでこない。自らの戦闘力の強さを“思考力”で頼りきっていたアイムにとって、
目の前で起きている不測の事態は彼を必要以上に焦らせ、彼のペースを乱した。

筍魂「こちらから行くぞ」

周りの草木が呼応するようにザワザワとさざめき、筍魂の下に草木が螺旋の渦を描くように集まり、一つの輪を形成する。
アイムは、そんな光景を一歩も足を動かすことができず、ただじっと見ていた。
流れるような動作、手捌き、姿勢。どれを取っても美しいとさえ感じた。

筍魂「『リーフ・ストーム』」

凶器となる大量の草木がアイムに向かって飛んでくる。眼前を緑一色に覆われ、そこでアイムは先日の時限の境界を思い出した。
楽園と言われても納得するほどの色彩豊かで生物が共存しあう野原、不釣り合いなほどに紅色を放つ千本鳥居、そして自分が見つけた、クレーターのように地面にポッカリと開いていた穴。
自らの記憶を手繰り寄せ、そして得られようとする一つの結論。しかし非情にも持ち前の思考力は筍魂の攻撃によって途切れてしまい、振り出しに戻ってしまうのだった。

422 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 強キャラ筍魂編その3:2015/02/20 23:47:48.08 ID:Uv1/0Gnco
【K.N.C180年 会議所 教練所】

アイム「………ハッ!!ここはッ!」

意識を取り戻したアイムは、急いで起き上がる。そこは鬼教官山本にしごかれた教練所で、
ある意味で見慣れた場所だった。

筍魂「起きたか。死んだかと思って心配したわ」

アイムの額に乗せる新しい手拭いを手に取り、筍魂は部屋に戻ってきた。

アイム「て、テメエ!まだ勝負は終わっちゃいない!もう一度勝負だッ!」

筍魂「あれだけコテンパンにされたのに、俺に恐怖心を抱かないどころかなおさら対峙しようとするとは。
やっぱりお前はすげーな。そんな原石を発掘した俺のほうがすごいけどな」

しかし、俺は暫くお前とは勝負しない。そうアイムに告げ、よっこらしょういちという古臭い言葉とともに椅子に座る。
アイムは若干引いた。

筍魂「俺とお前には歴然とした力の差がある。それはお前自身、よくわかっているはずだ。
そんな状態でまた戦っても、結果は目に見えているし、お前に無用な怪我が増えるだけだ」

グッ、とアイムは反論しようと言いかけた言葉を飲み込んだ。
筍魂の言うとおり、アイムには目の前の“師”に対抗するだけの術はないのである。

423 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 強キャラ筍魂編その4:2015/02/20 23:49:46.69 ID:Uv1/0Gnco
アイム「アンタが言っている【戦闘術魂】を修得しているかいないか。その差が俺とアンタの力の差に直結している。そう言いたいんだろ?」

筍魂「話の飲み込みが早くて助かるよ。そのために、俺はお前を弟子に欲しがったし、お前は俺を欲した」

アイム「だったらさっさと稽古でもなんでもつけてくれ。時間がないんだろ?オレの身体ならもう大丈夫だ」

筍魂「アイムはせっかち。落ち着け、お前に稽古をつけるのは俺じゃない」

アイム「は?じゃあ、誰なんだよ」

筍魂「それは――」



【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

オニロ「よろしくねアイム!」

アイム「…」

筍魂「じゃあそういうわけで3日後にまた来るから。それまで逃げるんじゃあないぞ」

二人の足首に嵌められた足輪を満足気に眺めながら、筍魂は愛弟子の肩を軽くぽんと叩いた。
ゲンナリとしながらアイムは先程の筍魂との会話を思い出す。目の前の師は、確かこう言っていた。

424 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 強キャラ筍魂編その5:2015/02/20 23:52:07.08 ID:Uv1/0Gnco
━━
━━━━

筍魂『お前に稽古を付けるのは俺ではない。オニロだ』

『少し荒療治だが、これから3日間、お前は編纂室でオニロと始終行動をともにしてもらう』

『なにもただ3日間一緒に過ごせと言うわけでない。一つ課題を出す。それを定められた期間内で探しだせ』


         【無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】
この言葉の意味を、お前は3日間のうちに理解しなくてはいけない。これが俺からの課題だ。』

『いやあ〜正直、自分で鍛錬つけようと思ってたのめんどくさかったからオニロ君がいてちょうどよかっ…あっ、なんでもないっす』

━━━━
━━


アイム「どうしてこいつとなんだよ…」

筍魂「嫌よ嫌よも好きのうちって言うし、まあ多少はね?」

オニロ「そうそう!」

筍魂「じゃあそういうわけでバイビー。あ、シューさん。すいません、ご迷惑おかけします」

集計班「大丈夫ですよ。どうせ私はそこらへんで寝転がってますから、修行の邪魔にはならないと思います」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

425 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2015/02/20 23:52:38.61 ID:Uv1/0Gnco
あともう少しで第二章が終わります。今月中にはなんとしても。

426 名前:たけのこ軍 社長:2015/02/20 23:54:44.44 ID:eB7ZAYX.0
一瞬(うほ。展開に見えましたごめんなさい

427 名前:¢きのこ軍:2015/02/20 23:56:28.99 ID:ZZOue1.go
二人は幸せなキスをして終了

428 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2015/02/20 23:57:15.09 ID:Uv1/0Gnco
 【無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】
これ重要ワードです。でもこの謎は次の更新の時に解けます(唐突

429 名前:名無しのきのたけ兵士:2015/02/20 23:57:15.16 ID:Qvi.aIuoo
魂はアイムからホモ臭さを感じたからオニロに渡したらしい

430 名前:たけのこ軍 社長:2015/02/21 00:00:05.28 ID:hrDKcs4.0
マジかよ薔薇展開はいいぞ

431 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 共同生活修行編その1:2015/02/24 23:34:56.50 ID:t.StFK.so
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 一日目】

オニロ「いやあ、筍魂さんの鍛錬?とやらには驚かされるねアイム!でも、ボクはまたこうしてアイムとお話することができて嬉しいよ!」

アイム「わかったから声のボリュームをもう少し下げてくれ…横でキンキン騒がれたらたまらん」

オニロ「あっ、ごめん。面と向かって人と話すのも久しぶりだから、つい嬉しくなっちゃって」

アイムの師である筍魂が命じた訓練とは『オニロと3日間、行動を共にすること』だった。
二人の足首には足輪が紐を介して互いに繋がれ、彼らは寝食まで行動を共にしなければならなかった。

鍛錬自体に不可思議さは残るものの、アイムは概ね訓練内容に不満はない。元よりどれだけ理不尽な鍛錬でもアイムは耐えるつもりでいた。
ただ。ただ、なぜパートナーがよりにもよってオニロなのか。会議所連中のなかでも特に忌み嫌い、一番顔を会わせたくない存在であるオニロと
どうして3日間も同一行動を取らなければいけないのは、アイムにとっては苦痛以外の何物でもなかった。

432 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 共同生活修行編その2:2015/02/24 23:36:14.82 ID:t.StFK.so
オニロ「じゃあ早速、毎日の日課になってる部屋の掃除を…」

アイム「は?ふざけんな。オレは書庫のほうに行くぞ」

オニロ「え。でも部屋がグチャグチャになってるから綺麗にしたほうがいいよ…主にシューさんのせいだけど」

アイム「ゴミの山に沈めておけよ。そのうち苦しくなって出てくるって」

二人がそれぞれ反対の方向に歩き出そうとするので、紐で繋がれた足輪は互いの足をキツく締め合う。
ちなみに足輪は大魔法使い791お手製のもので、そう易易とは外れない仕組みになっている。

アイム「オレには時間がないんだよ!書庫のほうに行かせろってんだッ!」

オニロ「ム。日々の生活習慣が大事なんだよッ!それに、部屋を掃除したら後で書庫の棚の整理に行くからそれまで待ってればいいじゃないかッ!」

アイム「掃除、整理って…お前は家政婦か何かか!そんなんだからお前はアマちゃんなんだよッ!」

オニロ「アマちゃんって…この間大戦で戦った時はボクがアイムに勝利したじゃないかッ!」


集計班「…あのー。煩くて眠れません。もっと声のボリュームを下げてください」

433 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 共同生活修行編その3:2015/02/24 23:44:04.65 ID:t.StFK.so
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 二日目】

何も進展がないまま、二日目の夜が過ぎようとしていた。アイムには焦りしかない。しかし、行動をともにするオニロとの関係は悪化の一途を辿るばかり。
始めの方はアイムに同情して色々と話しを振ったりしてコミュニケーションを図ったオニロだが、
アイムのあまりのツッケンドンな態度に流石の温厚なオニロも業を煮やし、次第にオニロの態度も硬化し始めた。
二日目の朝からはお互いに一言も喋らず、オニロが黙々と書庫整理をする中、アイムは書物で筍魂からの課題について調べる。
しかし、普段録に本に読んでいないことが災いしてか、碌な手がかりを得られず今に至る。

アイムはこの期に及んでも気がつかない。横で寝ているそりが合わないパートナーと協力をすることが、
筍魂の課題を解決する一番の近道であり唯一の解決法であるということを。
ただ、自分さえ良ければいいという独りよがりの考えは、自らの首を締めるだけのものだと。しかし、アイムはオニロに頼れない。
それは勿論オニロが気に食わないということも理由の一端としてはあるが、一番の理由は他人への頼り方を知らないアイムの内面自体にあった。
人に頼ることを知らずに、自らの幸福を第一に追求して来た彼は、周りと協力する方法を知らない。
スタンドプレイでは異色の力を発揮してきた彼だが、ことチームプレイになると赤子も同然なのだ。

アイム「…」

灯りも落とされ、本棚の裏手にあるベッドにアイムとオニロは横たわっている。
最近は、歴史改変による時空震も少なくなり睡眠を妨げられることは少なくなったというが、ベッドで安らかに眠るオニロの目には深いクマができている。
こいつはこいつで苦労しているんだな、とその時になってアイムは初めてパートナーの顔をまじまじと見つめる。
しかしすぐに顔を目の前の書物の山に向ける。ベッドの脇に置かれている微かな灯篭の光を頼りに、アイムは必死に筍魂からの課題を解こうと躍起になっていた。

434 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 共同生活修行編その4:2015/02/24 23:47:07.35 ID:t.StFK.so
―― 【“生命力の流れ”は“世界の理”と同一のものである】
     この言葉の意味を、お前は3日間のうちに理解しなくてはいけない。

生命力の流れ、とは何を指すのか。そもそも生命力自身が世界とどう関係してくるのか。

焦りからか、本のページを捲る手が震える。
明日の朝には筍魂が来る。その時に、どう答えればいいのか。答えを今から自分なりに捻り出すか、しかし筍魂の前では通用するはずがない。
オレに向いてない鍛錬ではなかったんじゃないのか。仮にそうだとしても、あの時点で引き受けたオレに非があるのは明白だ。
そもそも、どんな理不尽な内容でも立ち向かうと決めたのはオレ自身じゃないか。オレはオレ自身に嘘をつかなくちゃいけないということなのか。そんなことは許されない…

オニロ「…ねえ、アイム」

アイムが自らの思考の迷路に入り込んでいた時、横からそっと声がかけられる。
アイムが無言でオニロに顔を向けると、半身起き上がったオニロと目が合う。灯篭の光に当てられ、オニロの薄白い肌が際立った。
互いに会話をするのは昨日の夜に寝る前の挨拶をして以来だ、とアイムは至極どうでもいいことを考えた。

オニロ「少し、話をしない?」

435 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 共同生活修行編その5:2015/02/24 23:49:46.70 ID:t.StFK.so
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 二日目】

パタパタと静かに部屋の上部へとはためている大戦年表を二人は眺めていた。座っている床には紙面の切れ端や紙くずが散乱している。
今朝、この付近はオニロが懸命に掃除していたはずだが、どうやら一瞬で集計班が汚して回ったらしい。オニロの苦労も耐えないな、と隣に座るパートナーに少し同情した。

オニロ「こうして喋るのも久し振りだね」

照れくさそうにポツリと声をだすオニロ。二人の視線はあくまで目の前の大戦年表を向いたまま。目を合わせようとはしない。
暫くの沈黙の後、意を決したようにオニロはアイムに話しかけた。

オニロ「アイムはさ、筍魂さんにボクと3日間この編纂室で過ごすように指示されたんだよね?」

アイム「…そうだな」

オニロ「本当にボクと一緒に過ごすだけが訓練の内容だって伝えられたの?」

アイム「…そうだ」

アイムはオニロに筍魂から出された課題については一言も伝えてはいなかったし、伝える必要もないと考えていた。

オニロ「…そうなんだ。でも、それが本当なら――」


――どうしてそんなに焦っているの?


部屋の上部から僅かにカリカリと筆記ペンの動作音が、アイムの気持ちをはやらせる。

436 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 共同生活修行編その6:2015/02/24 23:52:10.30 ID:t.StFK.so
オニロ「キミが嫌いなボクと3日間過ごすだけなら、この無味乾燥とした周りと時間の流れの違う部屋にいるキミは半ば自暴自棄気味に過ごしてもおかしくない。
それ程、キミにとっては退屈な部屋だろうからね」

――でも、キミはこの部屋で何かに抗おうとしている。

オニロ「怠けもせず書庫で必死に本でナニカを探そうとしているアイムを見て、
『アイムはボクと3日間過ごすことだけが目的じゃない。何か別の目的があるんだな』って思ったよ」

さすがのボクも何かおかしいなて気がつくよ。そう呟き、オニロはアイムに向き直る。

オニロ「アイム、キミが抱えている真の訓練の内容をボクに教えて欲しいんだ。アイムの力になりたいんだ」

アイム「…逆にオレから一つ聞いてもいいか」

オニロ「勿論いいよ」

アイム「どうして、オレにそこまで構うんだ」

オニロ「アイムがボクのことを嫌っているのは知ってるよ。ボクも昨日から今日にかけて、アイムにはほとほと愛想が尽きたと思ったよ。でも。でもさ、――」


――ボクらは仲間じゃないか。


オニロ「仲間は助けあうもの、そうじゃない?」

それに、嫌々ながらボクの掃除に付き合ってくれるアイムが悪い人だとは到底思えないよ。
そう語り、オニロはアイムに笑いかけた。

437 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 共同生活修行編その7:2015/02/24 23:57:15.66 ID:t.StFK.so
アイムはオニロの言葉を理解するように暫くの間、頭のなかで反芻した。
いつか、筍魂がアイムに言っていた。『オニロとアイムとの差はチームプレイかスタンドプレイにある』という言葉を思い出す。
昔なら一蹴していたが、今なら師の言葉もすんなりを受け入れられる気がする。長い時間、たっぷりとかけアイムは考え、考えぬいた末の結論を出す。
不思議と清々しい気分になる。目の前の漆黒の室内も、灯篭に照らされたように明るく見える。
息を一回深く吸い、深く吐く。心の準備はできた。

アイム「筍魂の野郎に、課題を出されたんだ――」

たどたどしくはあるが、アイムはオニロに語り始める。ポツリ、ポツリと語りながら、支離滅裂に話している内容にも、
懸命に相槌をうつオニロが印象的だと、アイムは感じた。
その日、アイムは初めて“仲間に頼る”術を知った。

438 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者:2015/02/24 23:57:36.77 ID:t.StFK.so
なげえよハゲ。でもまだもう少しだけ続くんじゃ。

439 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その1:2015/02/24 23:58:48.55 ID:t.StFK.so
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 二日目】

オニロ「うーん、“生命力の流れ”かあ。聞いたこと無いなあ」

アイム「過去に読んだ文献や書籍にそれらしい事は書いてなかったのか?」

オニロ「う、うーん。ボクが覚えている限りは。記憶力には自信があるほうなんだけどね、ごめんね」

アイム「…使えねえな」

アイムの毒づきに思わずオニロは苦笑する。二人は書庫に移動して、関連する文献がないか夜通しで調べていた。
棚から本を取り出しては、二人して少しでも関連した記述が無いかを探し出す。読み終えた本は周辺に置き、再度書庫棚から書物を取り出す。
足元に積み上がっていく本を見ながら、これじゃシューさんを叱れないな、とオニロは思った。

アイム「あークソ、これでもないか」

オニロ「…アイム。『ユリガミサマノカナタ二』なんて本からじゃ見つからないと思うよ」

アイム「うるせえ!何か手がかりがあるかも知れないだろッ!あーでも、この物語いいな…」

手がかりは未だ一向に掴めない。

440 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その2:2015/02/25 00:01:04.45 ID:sa5SyBRAo
オニロ「無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する、か…」

アイム「あーもう、ゴチャゴチャしててわかりにくいんだよ。そもそも秩序てなんだよ、生命力てなんだよ、世界の理てなんなんだよ」

オニロ「なんにもわからないねえ」

アイム「よくもそんな呑気なことを…あと数時間もすれば、オレは筍魂の野郎と会う。
その時に、『答えは見つからなかった』と素直に頭を下げるしかないんだ。ふざけるな、もうオシマイだ」

オニロ「物事をマイナスに考えちゃいけないよアイム」

アイム「クソッ、屈辱的だ。お前に勝負で負けて慰められた時以来の屈辱だ」

オニロ「あはは、それをボクに言うんだ…」

と、オニロはそこで、ほうと一息ついて隣のアイムから見えない天井に視線を向ける。
螺旋状に年表は天高く、暗闇の天井へと伸び続けている。

オニロ「ねえアイム、ボクたちは。“会議所にいるボクたちは”今を生きているんだよね?」

アイム「は?当たり前だろ」

何をおかしなことを言っているんだという目をオニロに向ける。しかし、オニロは視線を年表に向けながら話を続ける。

オニロ「ボクたちは今を生きている。そして、大戦世界で過ごしてきた多くの人たちは過去を“生きて”、
今を“生きて”、そしてこれからも未来に向かって“生き続ける”」

441 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その3:2015/02/25 00:02:57.26 ID:sa5SyBRAo
オニロ「ボクはね、アイム。この編纂室に来てから多くの書物を読んできたけど、大戦年表ほど惹かれる書物はなかったんだ。
これまでの大戦や会議所の歴史が詳細に記されている大戦年表。
過去の先人たちがどうやって大戦での戦いでどう振る舞ってきたか、大戦の繁栄を願ってどう行動してきたのか、すごく気になったし勉強になったんだ」

歴史に興味が薄いアイムにはわかりづらいかもしれないね。そう屈託ない笑みで気遣う話し方にカチンときたアイムだが、
今はオニロに話しの先を促すために黙っておくことにした。

オニロ「ボクは今まで大戦年表を“時代の流れ”を記録した歴史書だと思ってばかりいた。でも、いま思ったんだ。
大戦年表は、兵士の活力、いや、“生命力の流れ”を示しているものなんじゃないかって」

目を丸くしてアイムはオニロを見返す。

アイム「お前は、大戦年表にこそオレたちの探す答えが記してあると。そう言うのか?」

オニロ「それはボクにもわからない。でも、大戦年表に記されている時代の流れは、その時代にいる兵士たち一人ひとりの力や勇気といった
“兵士たちの生命力”が作り上げてきたものなんだ。ボクもまだ全て年表を読み終えていないけど、確信をもってそう言える」

オニロの真剣な眼差しに、アイムは暫く逡巡した後、わかったと頷く。

アイム「見てみよう。大戦年表を。時代の歴史を」

そう言い終わるや否や、勢い良く立ち上がり書庫を出ようとする。

オニロ「うわっアイム!痛ッ!痛い痛い!足輪が食い込んでるから!ボクまだ起き上がってないから!
ていうか、年表の側に行かなくても、年表読むことできるからッ!」

442 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その4:2015/02/25 00:05:25.28 ID:sa5SyBRAo
その後、二人は自らの身体を巻き付くように纏わりつく大戦年表に悪戦苦闘しながら大戦の歴史を紐解き始めた。
夜明けまでもう幾ばくの時間も残されていない。しかし、二人はまるで何かに取りつかれたかのように年表に描かれた時代の流れを、
兵士たちの“生命力の流れ”を追い続けた。

オニロ「K.N.C21年頃には、大戦内での撃破数不正が発覚して会議所から波及した騒ぎは大騒動へと発展する。
直後に¢さんは【階級制のルールを変更する】ということで不正騒動への対策を取って、大戦の“負”の流れを断ち切った」

アイム「K.N.C71年辺りでは、集計班さんが体調不良で集計係を長い期間休み、その影響で集計係が不足。
大戦開催が何度も見送られるといった事態にまで発展した。そんな危機を、抹茶や斑虎さんを始めとした一部の兵士が集計係を代替したり、
負担軽減のために複数集計体制を取ろうとするなどして、“正”の流れが大戦の勢いを取り戻した」

オニロ「他方で順調に兵士を増やしていたK.N.C170年頃では、集計班さんの一存で強行された新ルールが一部に不評で、
その“負”の流れが会議所にまで伝わって参加人数の低下を招いた…」

そして、二人は読み進めていくうちにある一つの法則に気がつく。大戦世界が創造されて間もない黎明期から、
大戦の歴史は様々な兵士たちの“正”と“負”の感情・思いによって創りあげられてきているものだと。

443 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その5:2015/02/25 00:08:08.75 ID:sa5SyBRAo
アイム「時代の変化のターニングポイントでは、必ず誰かが“正”か“負”の思いを持って行動に起こす。
たとえば集計の負担を軽減したいと考えた抹茶は集計ツールを開発するという“正”の思いで行動に起こし会議所が盛り上がり、
オレたちの敵であるスクリプトは大戦をメチャクチャに荒らしたいという“負”の思いを持ってかつての大戦を荒らし回り、
その結果として会議所は停滞した」

兵士個人の“正”や“負”の感情は巡り巡って世界を突き動かす流れとなる。

オニロ「兵士たちが持つポジティブな感情やマイナスの感情、即ち平面上に存在する“正”の流れと“負”の流れは
世界の変化で容易に“正”の方向に振れるし、“負”の方向にも振れる。兵士はそうやって生きている。
それこそが【生命力の流れ】…」

アイム「兵士たちの“正”や“負”の流れは、結果として大戦世界の変化の元になる“理”となる。
それこそが【世界の理】であり、同時に【生命力の流れ】でもある」

個々人の兵士たちが持つ“正”や“負”の感情から引き起こされる思想・行動は、結果として大多数の兵士たちをその方向に揺り動かす。
世界はメトロノームの両端にある“正”と“負”に向かって常に揺れ動いているようなもので、誰かがメトロノームの針をちょいと摘んでしまえば、
世界の流れはすぐに変化してしまう。


――【“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】


アイムとオニロは、筍魂の語った言葉を、きのこたけのこ大戦の歴史から理解したのだ。

444 名前:社長:2015/02/25 00:09:18.64 ID:p.Q7KfEY0
これは秘密だけどユリガミノカナタニなのは秘密だよ

445 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その6:2015/02/25 00:10:28.10 ID:sa5SyBRAo
アイム「生命力の流れ云々はわかった。ただ、その前の【無秩序の全は一に帰し】ていう文はどういう意味だ?」

オニロ「無秩序…そう言えば、前に読んだ本で『自然のエネルギー則というものは秩序から無秩序の方向に進む』て書いてあったような」

アイム「なんだそりゃ…」

オニロ「えと、たとえば部屋がきれいな状態を秩序、部屋が汚い状態を無秩序とすれば、
必ず部屋は汚くなっていく方向に進んでいく、ていうことかな」

アイム「それが万物の法則だっていうのか?ますますわけわかんねえな」

必ず部屋を汚す主犯格である集計班がそのエネルギー則のエネルギー量とでも言うのだろうか。
それ以上の考えは自らの頭を混乱させるだけなので、アイムは考えを遮断させる。
と、そこでアイムは一つの考えに辿り着く。

アイム「目に見えない大きな流れがあるということか。部屋の中の小さな誇りも、いま部屋の中にいるこの自分も、
ちっぽけな存在である“一”に変わりはない。その小さな一が集まって、全てが存在する」

目に見えない世界の流れ。
そこにいるそれぞれの兵士はそれぞれちっぽけな“一”であり、同時に“全”でもある。

ありとあらゆる全ては同じ一つの存在である。その“一”から生まれる“正”や“負”の流れは即ち“全”の流れ と同化する。
“一”は“全”、“全”は“一”。
それこそが世界の理。戦闘術魂の真理。

446 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その7:2015/02/25 00:12:25.52 ID:sa5SyBRAo
アイム「繋がった…繋がったぞッ!あいつの言っていることを、理解できた…」

オニロ「やったねアイム!これで修行はクリアできるねッ!」

アイム「つ、疲れた…なんか一気に疲れが」

オニロ「ホントだよ。でも起きたらまたシューさんの机の周りを掃除しないと、はぁ」

アイム「だからお前は家政婦かっての。ケッ、そんなんがたけのこ軍期待の星とは笑わせるな」

オニロ「なッ…アイムはシューさんの机周りを一人で掃除してみてご覧よ!あそこは魔境だよ!」

空が白み始めた頃、二人は世界の理を理解した。緊張の糸が切れたのか軽口を叩き合うようになった二人の様子を集計班は物陰で静かに確認して、そして独り頷いてベッドに戻っていった。

447 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その8:2015/02/25 00:14:15.87 ID:sa5SyBRAo
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 三日目】

筍魂「時間だ。【無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】この答えを聞こう」

アイム「【無秩序の全】は世界、【一】はオレ。【一】が【全】の“正”・“負”を支配し、逆もまた然り。それが――」

オニロ「――それが【生命力の流れ】で【世界の理】の一部」

アイム「なッ」

筍魂「…正解だ」

アイム「おい!せっかく良いところだったのに、どうしてお前が言うんだッ!」

オニロ「いやあ。なんかつい言いたくなっちゃって。ほらチームプレイて言うじゃない?連携を取って筍魂さんに説明したてことだよ」

アイム「ハン!この修行はオレだけに出された課題だぞ。解答するのはオレだけだ!
それを出しゃばるとは、お前も個人プレーが過ぎるな」

オニロ「それをアイムには言われたくないよ…」


集計班「修行はクリア、ということですかね?」

筍魂「そうですね。『二つ』の課題をクリアしましたからね、彼は。いや、彼らか」

集計班「戦闘術魂の真理と、アイム君の精神的内面を同時に鍛える。さすがですね…まあ彼らはまだまだ未熟ですが」

ギャアギャアと騒ぐ二人を尻目に、集計班と筍魂は肩をすくめる。

448 名前:社長:2015/02/25 00:14:48.48 ID:p.Q7KfEY0
はまだ まだ未熟だぞ わかってるのか おい!!

449 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その9:2015/02/25 00:16:53.48 ID:sa5SyBRAo
791「随分と楽しそうだね。私も混ぜてよ」

気がつけば、オニロのすぐ横には大魔法使い791が立っていた。

オニロ「師匠!移動魔法使ったなら言ってください、吃驚します」

791「アハハ、ごめんごめん。アイム君も、オニロ君も修行お疲れさま」

アイム「おい791師匠様よお。弟子の指導は考えなおしたほうがいいぜ。
なんで一日三食ネギを弟子に徹底させてるんだ。お陰でネギを嫌いになりかけたぜ」

791「ネギは貴重な魔力補給源だから仕方ないよ」

パチンと指を鳴らすと、二人の足輪は音もなく消え去った。

筍魂「おめでとう。この修行は終わりだ。
負の考え方をすれば、世界は、負の流れになる。また、正の考え方をすれば、正の流れにもなる。
世界の理を、世界の大きな流れをお前は理解したということだ」

筍魂「私は世界そのものであり、世界は私そのものである。ありとあらゆる【全て】は同じ【一つ】の存在。
それを理解することことが【戦闘術魂】の基礎となる」

【戦闘術魂】は純粋な戦闘力を底上げする小手先の技を教えるものだけではない。
術者の精神を鍛え、目に見えない大きな流れに身を任せて同化する。それこそが【戦闘術魂】の真理。

アイム「よっしゃ!これでオレも【戦闘術魂】を修得したてわけだな!フフフ、筍魂、いや師<せんせい>、
三日前の再戦を願おう。泣きべそをかくまで傷めつけてやるよッ!!!」

450 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その10:2015/02/25 00:18:14.40 ID:sa5SyBRAo
【K.N.C180年 会議所 教練所 中庭】

筍魂「『ウッドハンマー』」

アイム「ぐえッ」

筍魂「『りゅうせいぐん』」

アイム「ぐッ!!」

筍魂「『アネ゙デパミ゙』」

社長「バグ技 きた!?」

アイム「な、なんでじゃあああああああ」


筍魂「たった三日で【戦闘術魂】を修得できるはずがないんだよなあ。
お前が学んだのは【戦闘術魂】の真理であって、これからの本修行で修得していくんやで(ニッコリ)」

筍魂「いい忘れた。ワイの“本気の”鍛錬は厳しいゾ」

アイム「ふ、ふざけるミ!」

社長「伝  染」

451 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 真理編その10:2015/02/25 00:19:15.23 ID:sa5SyBRAo
>>444
ああああああああああああああああああミスった。すまぬ。wiki掲載時には直します。

次の更新で二章終わります。アイム君とオニロ君は青春できたねよかったね的ストーリースタイル。

452 名前:社長:2015/02/25 00:20:10.72 ID:p.Q7KfEY0
社長ウゼェ

453 名前:社長:2015/02/25 00:26:23.35 ID:p.Q7KfEY0
てかアイム君ユリガミノカナタニに興味示してるすね

454 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その1:2015/02/28 01:54:24.82 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 会議】
きのこ軍 集計班「ここ数日。目に見えて会議所周辺の兵士の“士気”が下がっています」

編纂室の円卓テーブルに全員が着席するや否や、集計班はそう切り出した。

たけのこ軍 加古川「地上の事務棟の方では人気がない。何人かの事務員はここ数日無断欠勤していて、
連絡を取ると『仕事をする気力が無い』という返答ばかり」

たけのこ軍 社長「いつもの」

たけのこ軍 埼玉「たけのこの里の方もヒドイものだたま。少し前までは大通りに活気があったけど、
最近では兵士っ子一人も歩いてないたま」

たけのこ軍 社長「俺の名前は前田停学……」

きのこ軍 黒砂糖「きのこの山も概ね同じ現象が起きている。住民の多くが大戦へのヤル気、意欲を失いつつある」

たけのこ軍 社長「ひきこもりブルース」

たけのこ軍 抹茶「この現象が発生した時期を調べてみると、ちょうどこの部屋で最初に時空震が発生した日と一致します」

たけのこ軍 社長「かぁー!原因は!どこじゃー!」

455 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その2:2015/02/28 01:57:37.58 ID:GzBIaz3wo
冒険家 スリッパ「つまり…度重なる歴史改変が現代の兵士の士気に影響を与えているということか?」

スリッパの言葉に集計班は神妙に頷く。

きのこ軍 集計班「おそらく大戦の歴史がスクリプトによる“敗北”の歴史に書き換えられていくに連れ、
現代の兵士たちの大戦への求心力は弱まっているものと考えられます」

きのこ軍 ¢「もしこのまま歴史改変を許せば…大戦続行は不可能となるということか」

集計班と¢の言葉に、アイムとオニロは先日の筍魂の言葉を思い出した。

兵士たちが持つ“負”の感情が増幅されれば、それは世界全体を動かす“負”の流れとなる。
度重なる歴史改変により、きのたけの歴史は“スクリプトに敗北する”ものとなった。何も知らない兵士たちに植え付けられるのは大戦への“負”の感情なのだ。
たけのこ軍 791「正直、私たちも周りの兵士程ではないけど歴史改変の影響は受けていると思うよ。ここにいる兵士たちはまだ編纂室で歴史の真実を知ることができるから影響は小さいけど…」
たけのこ軍 社長「僕が社長だって?違うよ 違わないよ」

きのこ軍 アイム「つまり、このままじゃマズイてことだよな?」

重苦しくなった雰囲気を払拭するように、アイムは力強く拳を握る。

きのこ軍 アイム「原因究明はできている。だとしたら、方法は一つじゃないか?」

たけのこ軍 オニロ「【時限の境界】への再突入…」

オニロの言葉にアイムは同調するように頷く。しかし、加古川はアイムの言葉に首を振る。

たけのこ軍 加古川「私は反対だ。前回の突入で【時限の境界】に二つの【制約】の存在は確認した。
しかし、全ての制約を発見できたとは限らない。無闇に突入して、異なる制約に抵触すれば
今度は帰ってこられないということもある」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

456 名前:社長:2015/02/28 01:59:04.62 ID:yb2xdde20
はまだ 編集室で歴史の真実を知ることができるのだ わかってるのかおい!

457 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その3:2015/02/28 02:00:50.36 ID:GzBIaz3wo
きのこ軍 アイム「じゃあ他に解決法はあるって言うのか?」

スリッパが手を挙げる。

冒険家 スリッパ「今の発言に関連するかどうかわからないが、『スクリプト生産工場』と思わしき跡地を発見した」

たけのこ軍 社長「よし と?」

きのこ軍 アイム「待て。なんだその『スクリプト生産工場』ってのは」

きのこ軍 集計班「実はスリッパさんやサラさん、それに何人かの兵士に協力を依頼して、
歴史を跋扈する多くのスクリプト群が一体どこから生まれてきたのかを突き止めるようにお願いしたんです」

きのこ軍 集計班「スクリプトが宇宙から隕石のように降って湧いて出たなんて事じゃない限り、
スクリプトはDBの手でこの大戦世界の何処かで必ず生産され、増殖しているはずなのです」

たけのこ軍 社長「さすが シューさんは ちがうぜー」

たけのこ軍 スリッパ「シューさんの言うとおりさ。大戦世界の果てに『スクリプト生産工場』だと思われる跡地を発見した。
ただ、大分前に取り壊したのか跡形もなく風化してしまっていて痕跡らしい痕跡は見つからなかった」

きのこ軍 アイム「つまり、DBは過去の大戦世界でスクリプト生産工場を創って、
そこで大量のスクリプトを造った後に、工場ごと破棄したてことか?」

458 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その4:2015/02/28 02:02:22.89 ID:GzBIaz3wo
きのこ軍 集計班「恐らくはそうなるでしょう。我々に自分の痕跡を見せたくなかった」

つまり、DBは捕らわれていた会議所を秘密裏にスクリプトと一緒に抜けだした後、
【時限の境界】で遥か昔の大戦世界にワープ。そこでスクリプト生産工場を作り、スクリプトを大量生産したということになる。

たけのこ軍 社長「な 何の話だったの?」

きのこ軍 ¢「歴史に蔓延るスクリプトは全てDBたちによる勝手な過去の遺産。
俺たちが【時限の境界】を利用してタイムワープして、稼働している時点での【スクリプト工場】を破壊する」

たけのこ軍 オニロ「そうすれば、工場から生まれたスクリプトは存在しないことになり、
一連の歴史改変騒動は収まる…」

歴史改変を引き起こしているスクリプトの存在そのものを消してしまえば、必然的に歴史改変は発生しなかったということになる。

きのこ軍 集計班「流石は¢さんですね。ということで、ここに第二次DB討伐部隊を編成し、
DB討伐とともに『スクリプト工場の状況を確認する』という任務を同時遂行してもらいます」

459 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その5:2015/02/28 02:03:33.47 ID:GzBIaz3wo
きのこ軍 アイム「あれ、そういえば参謀は?」

DB討伐隊の隊長として陣頭指揮を取るはずの参謀の姿がない。

きのこ軍 集計班「ああ。参謀には…私がある頼み事をしたので、今ここには居ません」

珍しく言葉を詰まらせながら、集計班はアイムの質問に答える。
その態度には僅かばかりの逡巡が見られた。

社長「あっへほー!!」

きのこ軍 アイム「うるせえ大声挙げんな斬るぞ」

きのこ軍 集計班「ハハ、社長は変わらないなあ。勝手ながら、今回は参謀の代わりに私が討伐隊を編成いたします…メンバーは――」

460 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その6:2015/02/28 02:05:56.02 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

791「はい完成。この魔方陣の上に乗ると、時限の境界までの転移魔法が発動するよ。
ただ、転移したらこちらには戻って来れないから注意してね」

791は編纂室の端に魔法陣を作り上げ、満足気に会議所兵士に説明する。

筍魂「ちょっと転移魔法用意し終わるの早すぎませんかね…」

791「私は魔力使いきったから暫く休むよ。討伐隊のみんなは頑張ってね(ニッコリ」


オニロ「ねえアイム」

兵士たちが続々と地上に引き上げていく。アイムも、第二次討伐隊のメンバーとして地上に戻り準備を整えなければいけなかった。

アイム「なんだ」

オニロ「今度の【時限の境界】を利用したタイムワープは、初めから行く年代が決まっているんだよね?」

前回は【時限の境界】の【制約】を知らずに、一定時間経過後に無造作に近くの扉へと吸い寄せられた。
その反省を生かし、今回は自らの意志で【K.N.C55年】にワープし、正史にはいなかったスクリプトの撃退とスクリプト工場の確認。
この二つを目的として討伐隊は行動する。

オニロ「K.N.C55年。アイムはどんな年か知っておいたほうがいいんじゃない?」

アイムの表情を窺うように顔を覗き込むオニロは心配そうに語りかける。
いままでのアイムなら彼の提案など一蹴するか無視を決め込むかどちらかだっただろう。
ただ、今の彼は歴史の重要性を深く理解している。なにより――仲間の大切さを理解し始めている。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

461 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その7:2015/02/28 02:12:53.06 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C180年 時限の境界】

抹茶「それじゃあ時限の境界に突入します。アイム君、道案内をお願いね」

アイム「任せとけって。時限の境界内部に突入したら恐らく巨大スクリプトNEXTは次々にオレたちに襲いかかってくる。
構わず目的の扉<K.N.C55年の扉>まで急ぐぞッ」

討伐隊全員が頷き、時限の境界に進入する――



【K.N.C180年 大戦年表編纂室】

集計班「討伐隊も今頃は時限の境界に進入した頃でしょうかね」

オニロ「そうですねえ。はい、お茶です」

集計班「ありがとうございます。オニロ君、今日は疲れたでしょう。もうそろそろ寝ましょうか」

オニロ「そうですね。やっぱり会議は頭を使うからその分体力の浪費も激しいですね」

たははと笑うオニロを集計班は朗らかな笑顔で返し、奥の大戦年表に目線を移す。
大戦年表を中心に広がる薄暗くて物が散らかるだだっ広い部屋で、集計班は人生の大部分を過ごしてきた。
どこか名残惜しそうに、目を細め集計班は部屋を一度ぐるりと見回した。

オニロ「シューさん…?」

集計班「ん?ああ、なんでもないですよ。ほら、もう今日は寝ましょう。
今日こそは夜中に時空震が起きないといいですね。また夕飯を吐いちゃいますよ」
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462 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その8:2015/02/28 02:15:26.17 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C180年 時限の境界】

アイム「奴らに構うなッ!!一目散に走れッ!!」

時限の境界内部には、予想通り巨大スクリプトNEXTがアイムたちを待ち構えていた。
頭のなかで構築された地図を便りに、アイムたちは最短経路でK.N.C55年の扉に向かって走る。

someone「見えた!あそこが目的の扉ですね―――」

斑虎「よしッ!突撃―――」

someoneたちが目的の扉があるフロアへと足を踏み入れた瞬間。
フロアの天井に張り付き待ち伏せていた一体のNEXTが直下に走りこんできた斑虎とsomeoneに向けて猛烈な射撃を行い、二人の自由を奪った。

抹茶「二人ともッ!クソッ!『湯のみスロー』!!」

直上のスクリプトに全力で投げた湯のみは、NEXTの目の前で弾け中に詰まった茶葉が煙幕として機能した。

アイム「おい抹茶ッ!今のうちにお前はsomeoneさんと斑虎さん連れて先に扉をくぐれッ!!」

抹茶「で、でも二人に回復魔法をかけないと…」

アイム「バカヤロウッ!いまここで回復している暇なんてないッ!お前は二人を引きずってでも扉の中まで連れていくんだッ!」

視界が開けたNEXTはアイムたちの目の前に飛び降り、臨戦態勢を取る。

アイム「ここはオレが食い止める!はやく行けッ」

抹茶「わかったッ!!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

463 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その9:2015/02/28 02:18:29.22 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C180年 会議所 大廊下】

久々に素肌で感じる外の風は気持ちよくも少し肌寒いほどだと集計班は実感した。
集計班とオニロの二人は地下部隊として歴史の改変をひたすら追わなければいけない。
そのため、一歩たりとも地上へ出ることはできない。

難儀な役回りに付いてしまったものだ。そう呟くと、集計班は自らのこれまでを振り返り自嘲するように頬を引き攣らせた。
自分の仕事は全て終わった。後は周りに任せておけばいい。現在の状況も、全て集計班の想定の範疇にある。

ただ一つ気がかりなのはアイムとオニロの二人。集計班は心から彼らに同情していた。元を辿れば“元凶”ともいえる二人の存在だが、
彼らがこの世界を訪れた事自体は何の罪もない。せめてもの願いは、“希望の星”である彼らが、“欠けたピース”の二人が、幸せな結末を迎えられること。
集計班はそれだけを願ってやまない。

集計班「…あー。そういえばもう一人いたな」

いつも目の前のような暗闇の中で集計班の話に付き合ってくれた人物。集計班の“共犯”ともいえる人物。
彼はこれから独りで生きていけるのだろうか――

―― コツ

誰もいない廊下に、突然足音が響く。正確にはその音が集計班の頭の中で“響き渡った”。

464 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その10 入れ忘れた:2015/02/28 02:20:46.87 ID:GzBIaz3wo
集計班「もう来たんですか。まあそろそろだとは思ったんですが」

招かれざる客を、集計班は素直に迎え入れる。

465 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その11:2015/02/28 02:21:27.70 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C55年 大戦場】

抹茶「よしッ!無事、スクリプトも撃退して【スクリプト生産工場】の証拠も突き止めた。後は現代に帰るだけだ!」

somone「ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」

斑虎「今度あのスクリプトに会ったらただじゃおかねえぞ」

アイム「まあそれだけ減らず口を叩けるんならもう大丈夫だな…」

4人は任務を追え、時限の境界の扉の前に立つ。

抹茶「じゃあ帰りましょう」

抹茶、someone、斑虎の順に開かれた扉をくぐっていく。

アイム「やれやれ。まあ【時限の境界】も制約がわかれば過去に跳ぶなんてお手のものだな」

そう言いながら、アイムも3人の後を追おうとするが――



アイム「…ん?あれ?」

466 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その12:2015/02/28 02:25:22.78 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C180年 会議所 大廊下】

―― コツ

―― コツ コツ

その足音は徐々に集計班に近づくように音が次第に強く反響していく。姿は見えず、足音だけが鳴り響く。
そんな事態に動じること無く、集計班はこの“招かれざる客”の正体を知っていた。

きのこ軍 集計班「いつかシッペ返しが来るとは思っていましたが、まさか今日とはねえ」

誰もいない廊下で、集計班は誰かに話しかけるように独り語り始める。

きのこ軍 集計班「まあ最期にアイムとオニロの成長を見られたのが唯一の救いかな」

―― コツ コツ
足音は止むことなく一定のリズムで響いている。

きのこ軍 集計班「私一人の手で、『預言書』のシナリオは崩れ去った。あなたたちがそのシナリオを書き換え終わった時には“全てが”終わっている。
いい加減決められたシナリオ道理に進行するのには飽々していたところでして。私からすれば、してやったりです」

―― コツ コツ

きのこ軍 集計班「これからは、私もあなたたちも傍観者です」

―― コツ 
足音が、止まる。


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

467 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その13:2015/02/28 02:26:36.19 ID:GzBIaz3wo
【K.N.C55年 大戦場】

アイム「扉を…くぐれない」

つい先刻に抹茶たちがくぐっていった時代の扉。元を辿れば時限の境界からこの時代にワープするためにくぐってきた時代の扉。
扉の先に広がる暗闇に進もうとするも、見えない“壁”のようなものに遮られその進入を拒まれる。

アイム「そんな…馬鹿な」

予想し得ない事態。


【制約T】時限の境界フロア内に一定時間以上留まり続けることはできない。制限時間を超えると、強制的にどこかの『年代の扉』に吸い寄せられてしまう。

【制約U.】過去の時代へとタイムワープした場合、その時代の歴史を塗り替えるための行動を起こさない限り、現代へは戻れない。


会議所が知り得た【時限の境界】の【制約】はこの二つ。いずれも、討伐隊に予想外の事態が発生した時、
それは目に見えない【制約】として各々の前に現れる。

468 名前:Chapter2.悪しき時空の潮流者 再突入への会議編その14:2015/02/28 02:27:39.00 ID:GzBIaz3wo

先日の会議の場での加古川の言葉を思い出す。

― 【時限の境界】に潜む二つの【制約】の存在は確認した。しかし、全ての制約を発見できたとは限らない。
無闇に突入して、異なる制約に抵触すれば今度は帰ってこられないということもある


いま、まさにアイムは予想し得ない危機に直面していた。それは即ち――



アイム「新たな…【制約】」



加古川の予想は最悪の形となって的中した。

アイムは新たな制約に抵触し、そして過去の時代に、独り取り残された。

そして不幸なことに、その制約の内容を、まだ誰も知らない。

469 名前:きのこ軍:2015/02/28 02:29:16.19 ID:GzBIaz3wo
chapter2完。長えよハゲ。次からはもっと短くします。
去る集計。そしてアイム。

470 名前:社長:2015/02/28 02:31:25.25 ID:yb2xdde20
もつだぞ。誰だ…謎の男は…

471 名前:名無しのきのたけ兵士:2015/04/05 21:45:06.66 ID:CNyKB9YQo
更新再開は5月始めくらいを予定している。それまで冬眠してますね。

472 名前:791:2015/04/05 22:33:52.77 ID:nhZqtZy.o
楽しみにしてます!

473 名前:きのこ軍:2015/04/29 01:11:22.065 ID:unimfom.o
・これまでのあらすじ

“大戦”を運営する『会議所』は、日に日に増大する大戦参加者の士気・意欲低下に頭を悩ませていた。その最中、会議所に流れ着いたアイムとオニロは、
社長の【占い】により、『大戦の希望』として鍛えられる。(Chapter1まで)

そんなある日、捕らえていたはずの世界の宿敵【DB】、【スクリプト】が脱走している事実が明らかになる。同時に、歴史改変の時空震を確認し、
会議所はDB一味が故意に歴史を改変していると推測。
参謀を隊長とするDB討伐隊は、歴史改変の根源を、DB一味の潜む『時限の境界』であることを突き止める。すぐさま『時限の境界』に突入するも、
内部に潜むスクリプトや、時限の境界の【制約】の前に悪戦苦闘。
結局、DBの姿すら確認できずに、半ば追い出される形になってしまう。(Chapter2 中盤まで)

第一次突入後、自身の不甲斐なさを悔い、討伐隊一員のアイムは戦闘術魂の伝承者・筍魂に弟子入りを志願。オニロとの絆を深め、
師から『“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』の教えを理解したアイムは、討伐隊員とともに再び時限の境界へと突入する。

しかし、見えざる【第三の制約】により、アイムは独り、タイムワープ先のK.N.C55年に置き去りにされてしまう。
時を同じくして、会議所の中心的存在だった集計班も姿を消してしまう。まさに絶体絶命――――

Chapter3. 無秩序な追跡者たち へとつづく。

474 名前:きのこ軍:2015/04/29 01:14:07.037 ID:unimfom.o
3章のタイトル変更

『時限の境界』⇒『無秩序な追跡者たち』

頑張ってサクサク進めていきたいです。

475 名前:791:2015/04/29 01:51:22.612 ID:LTwIl4uEo
正座で待機

476 名前:メテオ隊:2015/04/29 22:53:38.973 ID:jvoFxEoso
キター!

477 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち プロローグその1:2015/04/30 00:27:32.719 ID:ZLviXuD2o
きのたけWARS 〜DB討伐〜
Chpater3. 無秩序な追跡者たち

━━━━━━
━━━━

【K.N.C180年 某所】


『…
大戦に“や”まだかつてない危機が訪れようとしている。
かつてともに混迷の会議所を乗り越えた貴方の力を、
今一度会議所は必要としている。会議所への復帰を、検討していただけないだろうか。

会議所より
きのこ軍 集計班』



参謀「シューさんからの手紙入り封筒や。確かに渡したで」

手紙の兵士「…」

参謀から手渡された封筒から手紙を取り出す。読み終えると、手紙の宛名の兵士は、ほう、と一息ついた。

手紙の兵士「…もう私は隠居の身だ」

参謀「最近同じことを言っとった奴をもう一人知っとるわ。そいつはあんたよりも古株やが」


478 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち プロローグその2:2015/04/30 00:31:04.504 ID:ZLviXuD2o
手紙の兵士「いまさら私に何を求めるんだ」

参謀「さあ、それはシューさんに聞いてみんとわからん。ただ、今は詳しく話せんが、会議所は…
いや、『きのこたけのこワールド』は未曾有の危機に瀕している。これだけは確かや」

頬を撫でるような風が吹く。身に纏う黒いマントのはためく音を耳で感じながら、手紙の兵士は暫く逡巡するような面持ちをしていた。
その後、参謀に向かって大きく頷いてみせた。

手紙の兵士「大方の事情はわかった。行くよ。この老体が少しでも皆の役に立つというのなら、それに勝る喜びはない」

参謀「そうこなくちゃな。すぐに乗ってくれ。時間がないんや」

背後でチョコ色のエンジンをふかしているバイクに参謀は飛び乗った。
きのこ軍カラーであるエヴァーグリーンが日光に反射して、輝いて見える。

手紙の兵士「とりあえず、会議所に着いたら言いたいことがある」

参謀「なんや?」

手紙の兵士は手に持ったポンポンと貰った手紙を叩いた。

手紙の兵士「『シューさん、あなた相変わらず誤字脱字がヒドイですね』てな」

手紙の兵士も参謀に続き飛び乗ると、二人を乗せたバイクは嬉しそうな雄叫びを上げながら会議所へ向け発進した。

479 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち プロローグその3:2015/04/30 00:32:52.709 ID:ZLviXuD2o
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

集計班の失踪はすぐに会議所中に知れ渡ることとなった。

たけのこ軍 791「シューさんがいないてのは本当なの!?」

たけのこ軍 オニロ「は、はい。どこを探しても見当たらないんです…てっきり本の山に埋もれているものとばかり…」

きのこ軍 ゴダン「一体どこにいるんだ…」

地下部隊に所属している兵士は、基本的に“地上”に出ることを許されない。歴史改変を知覚できるのは地下の編纂室のみ。
誰かが地下に残り続け、“歴史の傍観者”となり続けなければならない。
その地下部隊に所属していた兵士が、集計班とオニロだった。つまり、集計班は地上に出てはいけない兵士なのである。

たけのこ軍 加古川「残った事務職員をかき集めて会議所中を捜索させているが、手掛かりなしだな」

スリッパ「討伐隊が時限の境界に突入している大事な時期に…なんということだ」

サラ「…」

きのこ軍 黒砂糖「まずいですよ」


480 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち プロローグその4:2015/04/30 00:45:28.177 ID:ZLviXuD2o
集計班の喪失は会議所全体にとっても大きな痛手だった。
集計係を長年務め、会議所では議長として全ての議案に関わってきた。裏方として常に大戦と会議所をまとめ、支えてきた大黒柱が、
事一大事のタイミングで忽然と姿を消してしまったのである。
失踪を無責任と捉え怒りを覚える者。一時的な失踪だとたかをくくりそれほど心配していない者。逆に、不安に駆られる者。
冷静に今後の動向について考えを巡らせる者。事件への捉え方は人それぞれ異なる。

ただ、オニロは、目の前の兵士だけは間違いなく“不安”を――いや、不安を通り越した“絶望”を誰よりも強く感じていると、
そう確信せずにはいられなかった。

たけのこ軍 オニロ「あの……社長……ですよね?大丈夫ですか?」

社長と呼ばれた兵士は、肩をビクッと震わせ、声のした方向へ顔を振り向いた。
オニロが目の前の兵士を社長であると断言できなかったのには理由がある。

社長の存在がバグっていないのである。いつもは、顔だけでなく全身バグまみれの社長が、
今はまるで獲物に狙われた子鹿のように全身を震わせ、悲しみ、際限ないほどに“恐怖”している。

たけのこ軍 オニロ「あの―――」

たけのこ軍 社長「……あっへほー!あっへほー!あっへほー!!!!!」

たけのこ軍 ビギナー「うるさいよお!少しは静かにしろ!」

たけのこ軍 社長「あ、はい」

たけのこ軍 ビギナー「ったく、シューさんがいなくなって一大事だってのに…社長は脳天気だなあ」

一瞬の間の後、社長は“全身バグ兵士”に戻った。その姿はいつもと変わりない。
しかし、オニロはハッキリと先程の社長の素面を見てしまっている。
それでも、社長の鬼気迫るバグ姿に気圧され、遂にオニロは尋ねることはできなかった。

481 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち プロローグその5:2015/04/30 00:46:14.553 ID:ZLviXuD2o
きのこ軍 ¢「参謀はどこにいったん?ボクだけじゃこの場を収拾できないんよ、びええええええん」

きのこ軍 黒砂糖「参謀はシューさんの頼み事とやらで、今朝たけのこの里に向けて出発したとか…」

たけのこ軍 埼玉「どうすればいいたま…」

スリッパ「経過時間からすると、そろそろ討伐隊員が帰ってきてもよさそうなものだが…」


たけのこ軍 抹茶「第二次討伐隊!ただいま帰還しました!」

編纂室の端にある魔法陣から、討伐隊員たちが次々に到着する。

きのこ軍 ¢「お帰りなんよ!怪我はなかったか!」

たけのこ軍 抹茶「斑虎さんとsomeoneさんの傷の手当をお願いします。
途中、NEXT(巨大スクリプト)に襲われ応急手当はしたんですが…」

たけのこ軍 山本「俺が医療室へ連れて行くッ!何人か手を貸してくれ」

編纂室の喧騒が激しくなり、数人が二人を抱え、地上へ出て行った。


482 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち プロローグその6:2015/04/30 00:48:05.430 ID:ZLviXuD2o
スリッパ「ご苦労だった。成果はあったのか?」

たけのこ軍 抹茶「え、ええ。とりあえず、目標としていた『スクリプト工場の跡地』を発見しました」

たけのこ軍 筍魂「これマジ?やったぜ。」

たけのこ軍 抹茶「は、はい。ですが、大変な事に――――」

たけのこ軍 オニロ「ちょっと待って。アイムは、アイムはどこにいるんですか?」

どこにも姿を見せないアイムを探し、視線を彷徨わせるオニロ。
抹茶はそんなオニロを沈痛そうな面持ちで見つめ、そして周りをさらなる絶望へ追いやる一言を言い放った。


たけのこ軍 抹茶「アイム君は――僕たちと一緒ではありません。
KNC.55年から帰還することができず、【時限の境界】に閉じ込められてしまいました……」

483 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち プロローグその7:2015/04/30 00:51:37.496 ID:ZLviXuD2o
【K.N.C55年 大戦場】

アイム「さて、どうするかな…」

つい先刻に抹茶たちがくぐっていった時代の扉。元を辿れば時限の境界からこの時代にワープするためにくぐってきた時代の扉。
扉の先に広がる暗闇に進もうとするも、見えない“壁”のようなものに遮られその進入を拒まれる。
予想だにしない事態だった。

アイム「これも、【制約】とやらの影響かな」

ポリポリと困ったように頭をかく。抹茶たちは先に現代に帰ってしまった。アイムは過去に取り残された形になる。

アイム「予想外に大変な状況だな」

言葉ほど、アイムは焦燥感を抱いてない。危機感に煽られ自らの冷静さを失い、的確な判断を誤ってしまえば、愚の骨頂。
危機的状況に陥っても平静さを保てるのが、アイムの強さの源である。
アイムは、自らの置かれた状況と、これまでの時限の境界の制約条件を照らしあわせ、考察する。今後自分が何をしなければならないのか。


・ 過去→現代への帰還は、【時限の境界】の制約U:『歴史改変の実施』が必要である。
・ 既に討伐隊(抹茶、アイムたち含む)は、スクリプトの退治で制約Uをクリアしている。
・ 抹茶たちは現代へ戻れた。アイムだけ戻れなかった。
・ 何らかの要因(原因不明)により、アイムだけ制約Uを履行できていない?
・ 過去へ戻る可能性を高めるためには、まず、制約Uの再履行が妥当。


・ 即ち、アイム自身の手で“再度”大戦の歴史改変を行わなければいけない。


アイム「…マジ?」

484 名前:きのこ軍:2015/04/30 00:53:40.702 ID:ZLviXuD2o
グッバイ集計係。あの世でも元気に暮らせよ。
果たして過去から現代へ帰還できるか。私は過去に帰ったまま戻りたくない。

485 名前:社長:2015/04/30 01:15:14.226 ID:uo9MT2og0
集計班さんと謎の会話をしていた人物はやっぱ社長を感じます。

486 名前:791:2015/04/30 01:44:26.712 ID:n0stEHH.o
更新おつ!

私は¢さんだと予想
ついでにたけのこの里から来た人はきっと竹内さん

487 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 諦めるのはまだ早いぞ編その1:2015/05/05 01:00:02.162 ID:8JJ93x5Yo
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

スリッパ「…つまり、アイムは新たな【制約】により、現代に戻れなくなった可能性が高いと?」

たけのこ軍 抹茶「多分、そうだと思います…」

たけのこ軍 オニロ「そんな…」

集計班の失踪に続き、アイムの実質的な喪失は、会議所に図りない衝撃を与えた。

きのこ軍 黒砂糖「【制約】の内容がわからない限り、我々に助ける術はない。寧ろ、明らかになったところで我々に何かできることはあるのか…?」

たけのこ軍 社長「時の流れは速い。ガムテープみたいにな。」

たけのこ軍 筍魂「…」

たけのこ軍 オニロ「アイム…」



488 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 諦めるのはまだ早いぞ編その2:2015/05/05 01:02:13.370 ID:8JJ93x5Yo
【K.N.C55年 大戦場】

アイム「…」

アイムは深く葛藤していた。現代へと帰らなくてはいけない。しかし、帰るためにはおそらく歴史改変が必須。
自らの手で、もう一度歴史改変を行わなければいけない。
あくまで可能性の一つにすぎないが、歴史改変はアイムの身に重大な重荷としてのしかかっていた。


― スリッパ『最小限の歴史改変に留めるべきだ』


K.N.C102年にタイムワープした際に、スリッパが放った言葉。
今回抹茶たち討伐隊が行った歴史改変は、“史実”には存在しないスクリプトの排除であり、書き換えられた歴史を元に戻すための正当手段だった。
その結果、スクリプトは排除され、今アイムがいる時間軸は、現代の大戦年表に記載されていた“史実”そのものである。
しかし、これより先にアイムが行う歴史改変は、完全な“歴史の塗り替え”であり、見方を変えればDB一味と同じ穴の狢になってしまうのだ。


489 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 諦めるのはまだ早いぞ編その3:2015/05/05 01:06:20.127 ID:8JJ93x5Yo
史実との改変の“幅”が広がるほど、現代への歴史に多大な影響を与える可能性がある。
例えば、K.N.C55年の【大戦の勝敗結果】を改変することで、個々のきのこ軍兵士の士気が下がり連敗するようになり、結果として多くのきのこ軍兵士が大戦から姿を消す。
その時点での歴史の変化の振幅が、まるで波の波紋のように、時間の経過と共に増大していく。

『バタフライ効果』
スリッパはタイムパラドックスの整合性を理解した上で、周りに注意喚起を促したのである。


一向にどうするべきか決断できない自らの思い切りの悪さに、アイムは思わず顔を顰めた。
少し前の自分なら、躊躇なく周りの影響など鑑みずに歴史改変を行ったことだろう。
【大戦の勝敗結果】の変更は容易でないが、不可能ではない。K.N.C55年の最終結果は0:1でたけのこ軍の勝利に終わっている。
ギリギリの攻防だっただけに、アイム一人の加入できのこ軍が形勢を立て直し、逆転勝利となる可能性は高い。

だが、勝敗結果の改変により、現代へ多大な悪影響を及ぼす可能性は0ではない。それ程までに、改変の幅が大きいのだ。
現代で奮闘する兵士たち。自分の成長に力を貸してくれた兵士。その思いを踏みにじる行為だけはできなかった。


490 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 諦めるのはまだ早いぞ編その4:2015/05/05 01:15:13.253 ID:8JJ93x5Yo
近くで轟音が鳴り響く。アイムがいる防空壕の周りでは、スクリプトが消えた後でも、引っ切り無しに銃撃音、怒号、悲鳴が響いていた。
防空壕の奥深くに隠れていたアイムは、自身と戦場で駆ける兵士とを対比させ、ますます身を縮こませた。

アイム「はぁ…いっそ、オレ一人がここで消えれば周りに迷惑かけないで済むんじゃねえか」

自嘲気味に笑う。今の自分は、歴史の潮流からすると邪魔者でしかない。この場で、綺麗さっぱり自身が“消滅”してしまえば、
この時点での戦場の兵士たちに、そして現代の会議所兵士たちに迷惑をかけないで済む。

アイム「ハハッ…」

少し前の自分なら、自滅の道を選ぶことなど、考えられなかった。仲間を盾にしてでも、独りで生き残る。


― 筍魂『“スタンドプレイ”か“チームプレイ”』


過去に、筍魂が語った言葉を思い出す。今のアイムは、仲間のために、戦友のために“死”を選ぼうとしている。
その行為の是非は置いとくにしても、今この時点で、間違いなく彼は会議所というチームのために行動しようとしている。
アイムは、大の字で横に寝転がった。戦場の各地から上がる硝煙がわき上がり、頭上の空は仄暗い。


491 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 諦めるのはまだ早いぞ編その5:2015/05/05 01:18:26.259 ID:8JJ93x5Yo
アイム「それでは最期に、これまでの自分の短い人生でも振り返るかね…」

アイムの脳裏に、走馬灯のように過去の思い出が駆け巡る。
記憶を失って、大戦に流れ着いたこと。同じ境遇で流れ着いたオニロ他さまざまな兵士との出会い。オニロがいけ好かない野郎だったこと。
初めての大戦で、そのオニロに惨敗したこと。
DB討伐騒動に巻き込まれもした。初めての時限の境界への突入。
そして、その後、筍魂へ弟子入りを志願し、オニロと突然の泊まり込みの鍛錬――

アイム「…ん?」

ほんの少しの違和感に、アイムは思わず眉を顰めた。なにか大事なことを忘れていないか。


―― “生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する。

―― 兵士個人の“正”や“負”の感情は、結果として大戦世界の変化の元になる“理”となる。それこそが『世界の理』であり、同時に『生命力の流れ』でもある



492 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 諦めるのはまだ早いぞ編その6:2015/05/05 01:22:26.439 ID:8JJ93x5Yo
アイム「!!」

鍛錬の中で得た教えを頭のなかで反芻し、アイムは急いで身を起こした。
最後に、ドヤ顔で語っていた師・筍魂の言葉をよく思い出す。

―― 筍魂『私は世界そのものであり、世界は私そのものである。ありとあらゆる【全て】は同じ【一つ】の存在。それを思い出すことが【戦闘術魂】の基礎となる』

アイムは、筍魂の言葉を全て理解できたわけではない。3日間の鍛錬では、オニロと協力し与えられた課題を、きのたけの歴史に当てはめ、あくまでその意味を解明しただけに過ぎない。

アイム「オレの気分が暗くなったら、オレが見えている世界そのものまで暗くなっちまう。見えるモノも見えなくなり、終いには目の前に落ちているヒントでさえ消え去ってしまう。そういうことだろう?」

それでも、今のアイムにとって現状を改善するには十分だった。
この場に居ない師に向かって悪態をつくように。アイムは小悪党のように口角をつり上げ、拳を握る。

アイム「あのクソ師匠が…ちっとは役に立つこと言うじゃねえか」


493 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 諦めるのはまだ早いぞ編その7:2015/05/05 01:34:42.336 ID:8JJ93x5Yo
負の感情に支配されていたアイムに、少しずつ活力が戻り始める。先程までとは打って変わって、アイムの顔には生気がみなぎっている。

アイム「よく考えろ。“思いだせ”…オレが得た情報で、この場を脱出するのに最も適したものはなにか」

記憶を辿る。現状を打破する打開策を、過去の記憶から呼び覚ます。

―― someone『あれが集計ツールと呼ばれるもので、今はあの機械が戦況を瞬時に把握しているようです』
現代と過去の違いを表す決定的な違い。だが、今回の脱出劇において役に立つだろうか?

―― きのこ軍¢部隊長 狙撃兵香瘰i化≫「俺たちが帰るときは、斃されバーボン送りになる時か敵陣地に我軍の旗を立てるときだけだッ!」
兵士は大戦中に斃れると、【バーボン墓場】に自動転送される。重要な情報だ。

―― 社長『まさか ソン・ウか!?』
うるせえ頭のなかに出てくるな、叩き斬るぞ。


さまざまな記憶を辿りながら、アイムは少しずつ必要な情報を整理していく。


―― オニロ「K.N.C55年。アイムはどんな年か知っておいたほうがいいんじゃない?」
―― アイム「…ハン。さっさとK.N.C55年についての情報とやらを教えろよ」


そして、遂に“核”となる情報を思い出した。

494 名前:きのこ軍:2015/05/05 01:36:04.105 ID:8JJ93x5Yo
頑張って、現代に戻るぞオー。
私の頭の中の社長はこんな感じ。


495 名前:社長:2015/05/05 02:32:53.475 ID:aQx5t7r20
我が名は大神官バロウジーニン!!パリメラ鉱山は生きてはかえさん!

496 名前:きのこ軍:2015/06/09 23:22:13.022 ID:HHeln1REo
野球も終わったので、近々更新を再開したいと思ってます。
まずはシナリオのまとめをしないとね。

497 名前:【中吉】【Rank⇒大尉‡ 】【Type⇒百合兵♀-♀】:2015/06/11 23:52:18.803 ID:ErL6itr.0
更新…待ってます

498 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/06/17 22:58:14.792 ID:AGc/Dpx.o
・これまでのあらすじ

“大戦”を運営する『会議所』は、日に日に増大する大戦参加者の士気・意欲低下に頭を悩ませていた。その最中、会議所に流れ着いたアイムとオニロは、
社長の【占い】により、『大戦の希望』として鍛えられる。(Chapter1まで)

そんなある日、捕らえていたはずの世界の宿敵【DB】、【スクリプト】が脱走している事実が明らかになる。同時に、歴史改変の時空震を確認し、
会議所はDB一味が故意に歴史を改変していると推測。
参謀を隊長とするDB討伐隊は、歴史改変の根源を、DB一味の潜む『時限の境界』であることを突き止める。すぐさま『時限の境界』に突入するも、
内部に潜むスクリプトや、時限の境界の【制約】の前に悪戦苦闘。
結局、DBの姿すら確認できずに、半ば追い出される形になってしまう。(Chapter2 中盤まで)

第一次突入後、自身の不甲斐なさを悔い、討伐隊一員のアイムは戦闘術魂の伝承者・筍魂に弟子入りを志願。オニロとの絆を深め、
師から『“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する』の教えを理解したアイムは、スクリプト生産工場の手がかりを探るため
討伐隊員とともに再び時限の境界へと突入する。

しかし、見えざる【第三の制約】により、アイムは独り、タイムワープ先のK.N.C55年に置き去りにされてしまう。
時を同じくして、会議所の中心的存在だった集計班も姿を消してしまう。まさに絶体絶命――――


Chapter3. 無秩序な追跡者たち

499 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代での会議編その1:2015/06/17 23:00:14.935 ID:AGc/Dpx.o
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

アイムの行方について、参加者の各々は真剣な面持ちで話し合っている最中だった。

スリッパ「仮に、アイムが時限の境界の【新たなる制約】に触れ、現代へ戻れないとした場合…」

スリッパ「アイムには二通りの未来がある」

たけのこ軍 オニロ「二通り…?」

こくりと頷き、スリッパは、スリッパは、真っ白な模造紙をサラに用意させると、時系列の整理を始めた。



 K.N.C55年 −−−−−−−−−−− K.N.C180年(現代) [→年代 ↓時系列]
【歴史改変】−−−−−−−−−→× 『時空震』
【歴史改変】←−−−【ワープ】−−  ●第二次討伐隊
●抹茶たち −−−−【ワープ】−→ ●抹茶、斑虎、someone 
 ●アイム 
  ↓    −−−−−【経過】−−−→  ??
【新制約突破?】−−−−【ワープ】−−→ アイム

500 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代での会議編その2:2015/06/17 23:03:20.111 ID:AGc/Dpx.o
スリッパ「まず、K.N.C55年でDB一味により歴史改変が発生し、そのサインが時空震として現代の編纂室に伝わった」

スリッパ「アイムたち4人の討伐隊は時限の境界を経由し、K.N.C55年へとワープし、スクリプトを撃破し再度歴史改変を実施した」

スリッパ「その時点で抹茶、斑虎、someoneの三人は現代へ帰還した。ここまではいいな?」

その場にいる全員がスリッパの言葉に同意する。

スリッパ「アイムはこの時点でなおK.N.C55年に留まっている。もし、K.N.C50年に留まり続けるという選択をした場合…」

−−−−−【経過】−−−→ という部分の線を指さすスリッパ。

スリッパ「アイムはその後、K.N.C56年からK.N.C180年までを過ごし現在に至るということになる」

たけのこ軍 社長「百合の季節」

きのこ軍 ¢「アイム自身が『親殺しのパラドックス』を始めとした歴史改変の原因を引き起こさずにK.N.C180年まで過ごしていれば可能ということか」

たけのこ軍 791「当然、その間にアイム自身は誰にも正体を知られてはいけない…
なぜなら“今の”私たちが最初にアイムと出会ったのはK.N.C175年だという“記憶”があるから…」

時代の違う同一人物どうしがばったりと顔を合わせただけで予想の付かない歴史改変が発生する恐れがある。
また、K.N.C175年以前の会議所メンバーの誰かにでも“アイム”の存在を悟られれば、その時点で“歴史改変”が起こり、
今までの歴史は無くなる。K.N.C175年以前のアイムの登場は、即ち時間移動の存在を肯定するものである。

アイムの存在が会議所に伝わった時点で、今までひた隠しにしていた編纂室の存在意義も無くなり、誰も予測がつかない歴史改変が発生する。
アイムがK.N.C55年から大戦世界に留まり続けるためには自身の存在を誰にも知られてはいけないのである。

501 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代での会議編その3:2015/06/17 23:12:21.999 ID:AGc/Dpx.o
たけのこ軍 オニロ「それなら、アイムは今この時点で現代に居るということなんですか?
だって、今この時点でも激しい時空震を確認できてないですよね!アイムはうまく今の時代まで存在を隠し通せていることになる!」

たけのこ軍 社長「へぇーいいね!」

ぱあと顔を明るくするオニロに、スリッパは厳しい表情で首を横に振った。

スリッパ「それなら、なぜ今この場に“姿を現さない”?」

この時点で元々いたアイムがタイムワープにより、この時代から姿を消したことを一番知るのはアイム本人である。
アイム自身は既に姿を隠し続ける必要性はない。寧ろ、喫緊の騒動解決のために一刻も早く皆の前に姿を見せるのが道理である。
スリッパはそう指摘している。

きのこ軍 きのきの「た、確かに…」

スリッパ「姿を見せない原因は複数考えられるが…
1. 大戦世界に潜伏していたが某かの事情で、姿を見せられなくなった。
2. そもそもK.N.C55年の時点で大戦世界に留まり続けるという選択をしていない。
このいずれかじゃないかな」

たけのこ軍 オニロ「某かの事情…それはもしかしてアイム本人に不幸な出来事が起きているとでも…」

スリッパ「当然、その可能性も考慮するべきだ。およそ100年以上の時を過ごす中で、別の異変に巻き込まれることも考えられなくない」

オニロの顔が青ざめていく中、スリッパは淡々と説明する。残酷ともいえる宣告に、アイム以外の会議所メンバーの表情も皆一様に暗い。
しかし、一連の会話の中で、スリッパの背後に控えているサラの表情にも微妙な変化が生じていたことに、誰が気づいただろうか。
苦悶、逡巡、慈愛。
普段のサラはアンドロイドロボよろしく感情の起伏が無いに等しい。
しかし今のサラの表情はまるで万華鏡のように、見る者の判断でコロコロと変化する。サラの秘めたる思いに気がつけるのは主たるスリッパただ一人。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

502 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代での会議編その4:2015/06/17 23:14:46.956 ID:AGc/Dpx.o
たけのこ軍 抹茶「僕たちが会議所に帰還してから幾ばくの時間が経過した今でも、アイム君がこの場に“いない”。
だから、アイム君がK.N.C55年に留まり続けているという可能性は低い、と。
なるほど、それではもう一つの選択肢というのは…?」

そこで初めて、スリッパはニヤリとした表情で人差し指を立てた。

スリッパ「もう一つの選択肢は…アイム自身が【見えざる制約】を破り、無事現代へと帰還することさ」


【K.N.C55年 大戦場】

アイム「さて、と。やりますか」

口と鼻を覆うように深緑のバンダナを巻きつけ、アイムは立ち上がった。
自身の、そして会議所にとっての“最善の選択”のために、しんしんと積もる雪の中、彼は行動を開始した。

503 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代での会議編その4:2015/06/17 23:15:49.910 ID:AGc/Dpx.o
おしまい テスト的に投稿。くっそわかりにくいチャート図作成、恥ずかしくないの?

504 名前:【もみ吉】【Rank⇒軍曹¶】【Type⇒前線兵】【階級制】:2015/06/17 23:17:04.709 ID:PqIL.w2o0
へぇーいいね!もつだぞ

505 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/07/12 01:06:30.465 ID:f9SJtjjAo
tes

506 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/07/12 01:07:03.004 ID:f9SJtjjAo
第三章の簡単なあらすじ

・アイム君だけ過去の時代に取り残されてるよ!
・アイム君だけ過去の時代の歴史改変しないと現代に戻れないよ!
・社長「あワお〜っ!」


507 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その1:2015/07/12 01:09:37.831 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍兵士「撃て撃てーッ!!」
たけのこ軍兵士「きのこの野郎どもを一人足りとも通すんじゃないッ!」

戦場は、まるでスクリプトによる妨害など最初から無かったように、“平穏”を取り戻した。
両軍兵士は、敵軍陣地に突撃し防衛する。気を抜けばすぐに戦局はひっくり返る。
これぞ大戦の醍醐味である。

大戦場の端に、一際高く盛り上がった砂丘がある。物見山と呼ばれるその砂丘は大戦内で唯一の戦闘中立地帯であり、
その頂からは大戦場を一望できる風景が眼前に広がる。
大戦の観測者たる集計係は、物見山の頂から始終大戦の様子を観察している。大戦の醍醐味を独り占めできる絶好のポジションでもある。


508 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その2:2015/07/12 01:19:19.083 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 集計班「きのこ軍が一人退場…ああ、あそこではたけのこ軍がまた一人…」

ブツブツと独り言を呟きながら、今日も集計班は物見山の頂で集計を続けていた。
双眼鏡を構え、片手では二つの数取器を器用に持ちながら、カウントを進めている。

きのこ軍 集計班「最近は肩が凝るなあ。また湿布しなくちゃ…」

集計係といえど、この時代においては、集計班の他に集計活動を行える兵士はほとんどいなかった。
集計班は係の役職と同じ「集計」という名前で呼ばれ、物見山の上には常に集計班が居た。
集計は過酷な業務。そうしたイメージが付きまとい、結果として集計係の拡充ができない原因でもあった。

きのこ軍 集計班「スクリプトの襲来もいつの間にか収まって、もう終戦間際。早いものだなあ。あ、たけのこ軍兵士一人退場。
しかし、これが終わったら“例のブツ”にありつけると思うと…フフフ。今から笑いが止まらないなあ」

双眼鏡を構えニヤつく姿はあらぬ誤解を与えかねない。しかし、陽が照り雨風吹き付ける中でも、集計係は戦況をリアルタイムに把握し報告する義務がある。
双眼鏡で戦場に目を凝らし、豆粒のような兵士の戦況を把握し迅速に集計を公表する。本人が思っている以上に過酷な仕事である。
終戦後の楽しみを想像し顔がほころぶことぐらいは許されてもしかたがないだろう。

集計ツールが開発される前までは、集計には苛酷さが伴う重労働であったのである。

509 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その3:2015/07/12 01:20:56.195 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 集計班「…ん?なんだ、あれは?」

集計班は戦場のたけのこ軍陣地辺りを見やった。現在、たけのこ軍は苦戦を強いられているものの、未だきのこ軍からの本格的な拠点侵入を阻んでいる。
そんな中、一人のきのこ軍兵士が猛烈な速度で敵陣地に向かっているのが見えた。戦という熱に浮かされ、あるいは武勲にはやり、闇雲に突撃する兵士の数は少なくない。
しかし、双眼鏡に映るきのこ軍兵士は武器も持たない、まるで丸腰だった。攻撃する意思もないのか、たけのこ軍陣地の周りをただ走り回っている。
まるで、撃ってくれといわんばかり。

きのこ軍 集計班「…まあそうなるだろうな」

案の定、すぐに陣地を防衛しているたけのこ軍兵士に見つかり、複数の銃弾を浴びせられ、きのこ軍兵士は倒れた。
挑発するかのような行動を取っていたためか、随分と至近距離で撃たれたようだ。魔法の治癒力をもってしても傷痕が暫く残りそうだ。
大戦場で斃れた兵士は、実際には死ぬわけではない。大戦場に展開された魔法陣の力で、瞬時に傷が治癒し、
大戦場の横に併設されているバーボン墓場へ送られ、終戦まで待機することとなる。

きのこ軍 集計班「…きのこ軍兵士、一人退場っと…」

何やら得体のしれない気味悪さを感じながらも、職業病からか片手でカウントを進めることは忘れない集計班だった。


510 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その4:2015/07/12 01:23:41.310 ID:f9SJtjjAo
【K.N.C55年 バーボン墓場】

きのこ軍 アイム「…アイタタタ。くそッ、たけのこの奴らめ。近くで撃ちやがって…」

うつ伏せのまま墓地に転送されたアイムは、ムクリと起き上がった。
目の前には、十字の形をした墓標が、秩序をもった等間隔で整然と並んでいる。砂塵が舞い上がりながらも、墓標群は新品同然の艶、光沢を保ち続けている。

初見ではほとんどの兵士が、この場所に薄気味悪さと恐怖を感じる。アイムも始めは同じだった。
しかし、墓標はただの飾りに過ぎず初見兵士を驚かすための趣向の一つであること、負けた軍の兵士が墓標を綺麗に磨き上げる義務を背負う等の
裏事情がわかっていくにつれ、新米の兵士は新参を卒業し、そして新たな新米を驚かせるために“仕掛け側”に周る。
3回目の大戦で初めてバーボン墓場へ送られ静かに恐怖するアイムに対し、御機嫌に説明してくれた際の抹茶のしたり顔は今も忘れられない。
それ以降、バーボン墓場への恐怖は消え失せ、胸糞悪さだけが残るようになった。


511 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その5:2015/07/12 01:26:09.687 ID:f9SJtjjAo
たけのこ軍 Ω「やぁやぁ兄弟、お前も“バーボン送り”にあったか、お疲れさん」

たけのこ軍兵士Ωは、両手にシャンパンボトルを持ちながら、陽気にアイムに話しかけた。

きのこ軍 アイム「まぁそんなところだな。そいつはなんだ?」

銃撃の痕が残る臀部をさすりながら、アイムはΩの手元を指さした。

たけのこ軍 Ω「これは“シャンメリー”さ。どうやら今日の終戦後に会議所側から参加者に配る品だったみたいだけどよ。バーボン墓場では、一足先に頂いているてワケさ」

もう飲むことぐらいしかやることないからな、と語りボトルに口をつける。頬が赤らんでいるところを見ると、どうやら幾分か酔いが回っているらしい。
周りを見ると、バーボン送りの兵士たちは、そこらかしこでシャンパンボトルを空け、盛り上がっている。

たけのこ軍 Ω「お前も飲むかい?まだまだ数はある」

ぐいっと突き出されるボトルを受け取り、アイムはボトルの口に鼻を近づける。やはり酒臭い。シャンメリーとは名ばかりの、ただのシャンパンである。
誰がこのシャンパンをシャンメリーと呼んだのか。下戸が知らずに飲んだら倒れること間違いなしである。

512 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その6:2015/07/12 01:29:02.618 ID:f9SJtjjAo
たけのこ軍 Ω「では、きのこたけのこ大戦に――」

きのこ軍 アイム「…きのこたけのこ大戦に――」

Ωの掛け声で、慌ててアイムは自身のボトルをΩのボトルに近づける。カン、と乾いたガラスの音が鳴り、直後やけに下手な大法螺の音が鳴り響いてきた。


『ぷぶお〜〜ぷお〜〜 現在の兵力は20:13できのこ軍が有利です』

集計の合図を皮切りに、バーボン墓場ではヒューヒューと両軍兵士から囃し立てるような歓声が上がった。

「きのこ軍いけるじゃねーか!そのまま押し切れ押し切れッ!」

「おいおい集計!いい加減、笛うまく吹けるようになれよなッ!耳鳴りかと思って耳塞いじまって、結果を聞き逃しちまったよッ!」

ドッと墓場が笑いに沸く。K.N.C180年に聞いた時でさえド下手だと思っていたが、あれでも練習して上手くなったんだな、とアイムは変なところで感慨深くなった。


513 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その7:2015/07/12 01:34:01.378 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 アイム「…随分とうまいシャンメリーだな。どこで調達してきたんだ?」

ボトルに口をつける振りをしながら、逸る気持ちを抑えてアイムはΩに話しかけた。

たけのこ軍 Ω「たけのこ軍に調達係がいるのさ。大戦後に配るボトルを保管して、墓場でずっと待機していたようなんだが。
寂しがっていたんで、みんなで先にいただくことにしたのさ」

グイッとボトルを傾けるΩ。酔いが回っているからか、普段よりも口がよく回る。良い飲みっぷりだ、とアイムは賞賛し、その調達係の所在を訊ねた。

たけのこ軍 Ω「入り口の辺りにボトル積んだバイクと一緒に居るよ。ただ、もう酔いつぶれているかもわからんけどな」

きのこ軍 アイム「…そうか。ソイツからおかわりをもらってくるよ。もう空だろう?」

たけのこ軍 Ω「おお、ありがたい。きのこ軍にも気が利く奴がいたんだなッ!」

カラカラと笑うΩを尻目に、アイムは“調達係”の元へと向かう。勿論、もうこの場に戻ることはない。

514 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その8:2015/07/12 01:36:04.422 ID:f9SJtjjAo
Ωの話していた調達係はすぐに見つかった。バイクの横にある墓標に寄りかかるように、一人のたけのこ軍兵士が鼻歌を歌っていた。

きのこ軍 アイム「随分とご陽気だね。あんたが調達係さんかい?」

たけのこ軍 食糧班「そうさッ!チャーハンからシャンメリーまでなんでも用意するよッ!兵士の幸せを運ぶ食糧班とは僕のことさッ!」

不必要に大声で返答する食糧班は随分と酔いが回っているようだ。アイムにとっては好都合でしかない。

きのこ軍 アイム「そいつは良かった。あんたみたいな他人の幸せも願えるような兵士が、きのこ軍にも居てくれたらいいんだけどね」

たけのこ軍 食糧班「そうだろう、そうだろう!なんたって、僕ぁは、会議所の料理番も担当しているんだからねッ!」

アイムにとって面識のない兵士だが、この時代では会議所に関わっていた兵士の一人のようだ。
食糧班の横にはどでかい中華鍋が置かれている。これでいつも料理を振る舞っているのだろうか。


515 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 想定の範囲内編その9:2015/07/12 01:39:06.252 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 アイム「あんたの幸せをもっと多くの兵士に届けてあげたいんだ。たとえば…戦場で必死に戦う同胞とかに、な?」

たけのこ軍 食糧班「それはいい考えだねッ!ぜひともやろうじゃないかッ!」

シャンメリーは、終戦まで保管していないといけない代物である。本来、大戦中に配ることなどあってはいけない。
しかし、アイムの言葉をわかっているのかいないのか、食糧班は手を叩いて喜び、墓標にさらにもたれかかった。

きのこ軍 アイム「それじゃあ行ってくる。バイク、借りるな?」

食糧班の返答を待たずに、アイムは大量のボトルを載せたバイクを発進させた。
勿論、この場に戻ることはもうない。


516 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/07/12 01:40:23.442 ID:f9SJtjjAo
懐かしい人がちらほらと。ちなみにK.N.C55年は、2010年度クリスマス聖戦の日です。

517 名前:社長:2015/07/12 02:20:17.472 ID:jPm26BUM0
アイムくんキリキリ頑張れよ

518 名前:社長:2015/07/12 02:38:03.670 ID:jPm26BUM0
ちなみに魔の百合聖戦は今アイム君がいるところよりもうちっと先

519 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編1:2015/07/12 21:26:17.458 ID:f9SJtjjAo
専用の魔導エンジンと特殊な魔法技術を搭載したバイクは、バーボン墓場から戦場への再移動を可能とさせた。
無言でバイクの速度を上げるアイム。目的はきのこ軍陣地。最初から決まっている。
全て、計画通りだった。敢えてたけのこ軍兵士に撃たれバーボン送りとなることも、バーボン墓場にいる調達係と接触しバイクを奪うことも。
予めアイムは理解していたのだ。今次大戦でどちらの軍が勝利し、何が起こるか。小憎たらしい“相棒”から、今次大戦の全容を聞かされていた。


―― オニロ『K.N.C55年。アイムはどんな年か知っておいたほうがいいんじゃない?』

―― オニロ『まず、この戦いではたけのこ軍が勝利するんだ。途中まできのこ軍が優位に戦局を展開させていたんだけど、終盤にたけのこ軍の猛攻にあって逆転負けを喫する。
まるでいつものきのこ軍だね…アイタッ!殴ることはないじゃないかッ!』

―― オニロ『また、この日は世間一般で言うところのクリスマス。会議所側では、終戦後に、シャンメリーのボトルを参加者に一本ずつ配布する予定だったらしいんだけど。
調達係が、バーボン墓場にいる兵士たちにシャンメリーを振る舞いすぎて、用意されていたボトルは終戦後にはほとんどスッカラカンだったらしいよ』

―― オニロ『担当係曰く「悔いはない。でも、バーボン兵士に全部配るぐらいだったら、大戦中の兵士にも幸せを運べればよかった」と、
反省の弁を述べていた、と記載してあるね』

―― オニロ『シャンメリーてお酒のないシャンパンみたいなものだよね?そんなに美味しかったのかなあ』


520 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編2:2015/07/12 21:27:45.007 ID:f9SJtjjAo
アイムはきのこ軍陣地に向けてバイクを走らせる。歴史の大幅な改変は現代に多大な影響を及ぼす可能性がある。
あくまで歴史改変は、史実ベースに沿わなければならない。

アイム「…だからこそ、この大戦で“きのこ軍は負けなければいけない”」

アイムは今からきのこ軍を完全な敗北に追い込むための一手を打つ。
史実にはないアプローチの仕方で、愛してやまないきのこ軍を完膚なきまでに叩く。

521 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編3:2015/07/12 21:30:54.611 ID:f9SJtjjAo
【K.N.C55年 大戦場 きのこ軍前線拠点】

たけのこ軍陣地の程近くにきのこ軍の前線拠点が在ることを、アイムは先ほどの突撃の際に確認していた。
弾が当たらない最短ルートで拠点に辿り着くと、騒々しく慌ただしかった陣営は静まり、アイムただ一点に注目が集まった。

きのこ軍 黒砂糖大佐▽「誰だ貴様はッ!前線への支援を頼んだ覚えはないぞッ!」

天幕の中で作戦指揮を執っていた戦闘隊長の黒砂糖は、アイムを見つけるや否や怒鳴りつけるように声を荒らげた。

きのこ軍 黒砂糖大佐▽「本部の参謀大将Θに何度も伝えたはずだ。現有戦力で十分に戦えるとなッ!」

若き日の黒砂糖は今よりも幾分か猛っていた。闘士をむき出しにし、敵味方であろうと噛み付く姿勢は正に剛健。
黒砂糖の威圧に負けず、アイムは綺麗な敬礼ポーズを構え腹から声を出す。自らが敵でないことを証明する。

522 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編4:2015/07/12 21:39:34.213 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 アイム「大佐殿!我軍は現在、敵軍の最終防衛ラインに肉薄するほどの攻勢を仕掛けておりますッ!
状況は俄然我軍に有利ッ!援軍を検討していた参謀大将Θも黒砂糖隊の働きを十分に評価しております!ッ」

きのこ軍 黒砂糖大佐▽「それは本当か。ようやく参謀も我が隊の実力を認めたか。だから言っているのだ、我が黒隊が敵を蹂躙するとな」

アイムの偽報に、満足気に頷く黒砂糖。参謀の懸念は決して間違いではない。
たけのこ軍の防衛戦術に一日の長があること、敵軍精鋭たちの組織的反抗戦を理解していた参謀は再三、黒砂糖へ増援を提案していた。
しかし、この案を黒砂糖は一蹴。自らの隊に信用が無いと誤解した黒砂糖は、頑なに増援を拒んでいた。
史実でも、この慢心が結果として敵軍に付け入る隙を与え敗北することになるが、アイムとしては知ったことではない。

きのこ軍 アイム「このシャンメリーは、本部から“祝の品”として黒砂糖隊に贈呈されたものです。 “勝利を記念して贈る”という参謀大将Θの言葉も請け賜っております」

アイムの言葉に、周りのきのこ軍兵から感嘆の声が上がった。現時点で祝の品が届けば、本部は勝利を確信している。
即ち、黒砂糖隊の力を十二分に評価していることへの表れ。

きのこ軍 黒砂糖大佐▽「これはめでたいッ!すぐに前線で戦っている同胞にも届けよう。士気がますます高まり、我らきのこ軍の敗北はなくなるぞッ!」

きのこ軍兵士から大歓声が上がり、すぐにシャンメリーがせっせと運ばれていった。
単純だなあ、とまるでアイムは他人事のように思い、これから目の前で繰り広げられるであろう酒の宴を想像すると少しゲンナリとした。


523 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編5:2015/07/12 21:43:22.955 ID:f9SJtjjAo

きのこ軍 黒砂糖大佐▽「うおおおおおおお!祝いじゃ祝いじゃ!もっと飲めえ!」

きのこ軍兵士「サーイエッサーッ!うひゃひゃひゃ!」

きのこ軍兵士「たけのこ軍がナンボのもんじゃいッ!!」

緊張感で張り詰められた戦闘拠点は、ものの5分で酒乱の場と化した。
気難しい顔をした兵士は、シャンメリーを片手に隣の兵士と肩を組み軍歌を歌う。
前線に物資を補給していたはずの補給兵は弾の代わりにシャンメリーを運び続ける。
指揮隊長の黒砂糖は特に酔いがまわっているのか、天幕の上によじ登り裸踊りを始める始末。
頑強な指揮官の姿は今はない。

きのこ軍 アイム「…確かに、この惨状を見せられちゃあオニロにあんな風に言われても仕方ないよな」

予想した通りに事が進んだとはいえ、予想を遥かに上回る総崩れプリを見せつけられたアイムは、一人がっくりと肩を落とした。
おそらく、数分もしないうちにたけのこ軍の軍勢がこの拠点を突破することだろう。さっさと逃げる算段を整えようとした瞬間――


―――『おめでとう。クリア』


以前、頭のなかに響いた声と同じ。透き通るような声でアイムに向かって突然語りかけた。

524 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編6:2015/07/12 21:45:05.292 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 アイム「…だから誰なんだよお前は」

どこかで聞いたこともあるような声。だが、その正体を探る時間はアイムに残されていない。
詳細は不明だが、今の声を聞き、アイムは再び歴史改変が実行されたと確信した。
即ち、時限の境界の第三の制約を破ったという事。

きのこ軍 アイム「うかうかしてられねえ。戻るぞッ!」

バイクに飛び乗り、アイムは急いで時限の境界に通じている塹壕の横穴に向けて発進する。


525 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編7:2015/07/12 21:47:00.979 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 アイム「ハハッ!やったッ、やったぞ。なんだ、案外チョロいものじゃねえか」

風を切り、アイムは勝利の道を爆走する。現時点では断定できないが、おそらく現代では歴史改変が実施されたはずだ。

K.N.C55年の歴史改変を実行しようとした際。アイムは『大戦の勝敗結果』を改変することだけは絶対に避けなければならない、と心に決めていた。
大戦の勝敗変更は、総合結果の勝敗数を書き換えるだけでなく、その時点で活躍するはずだった兵士の“武勇伝”の取り消しにも繋がる。
たとえば、現代で戦い続けているたけのこ軍兵士のモチベーションが、K.N.C55年の活躍にあるとしたら。
デビュー戦だから。あまりにも見事な逆転勝ちで大戦に惹きつけられていったから。そんな兵士の大戦意欲すらも、一回の勝敗改変は打ち消してしまう。

あまりにも余波が大きい。
玉突き事故のように、一回の改変は複数の改変を共鳴させてしまう恐れを孕んでいることを、アイムは重々承知していた。

526 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編8:2015/07/12 21:48:22.917 ID:f9SJtjjAo

―― オニロ『また、この日は世間一般で言うところのクリスマス。会議所側では、終戦後に、シャンメリーのボトルを参加者に一本ずつ配布する予定だったらしいんだけど。
調達係が、バーボン墓場にいる兵士たちにシャンメリーを振る舞いすぎて、用意されていたボトルは終戦後にはほとんどスッカラカンだったらしいよ』

だからこそ、アイムはオニロの語った『シャンメリー配布』という情報に注目した。
大戦とは直接関係のない出来事。だからこそ、アイムは“きのこ軍が敗北する”という事実に沿うように、“シャンメリー配布”に関連する歴史だけを改変した。
結果だけを確定し、その結果へのアプローチの仕方だけ改変したのである。
歴史改変による余波は最低限に食い留められ、結果として、本来は飲むことが叶わなかった一部の兵士にもシャンメリーが行き届く。
ある意味で慈善活動も兼ねているのだ。
歴史改変に気乗りでなかったアイムの気も少しは晴れるというものだろう。きのこ軍の単純プリには少し落胆したが。

527 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編9:2015/07/12 21:50:03.770 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 アイム「…しかし、何か忘れているような気がするんだよなあ」

アイムは言葉で言い表せない胸騒ぎを覚えた。トントン拍子の物事が運んでいく事態を決して楽観していたわけではない。
始終、誰かに見られているような違和感があった。まるで、誰かに後をつけられているような。


― 視線を感じていた。


きのこ軍 アイム「あの謎の声の野郎か?オレの行動をずっと監視できる奴なんているわけなんて…まさかッ―――」

アイムが何かに気が付き驚きの声を上げると同時。
ヒュッと短い風切り音がアイムの耳に届き、直後に乗っていたバイクが爆発炎上、四散した。


528 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 歴史改変の実行編10:2015/07/12 21:57:01.336 ID:f9SJtjjAo
きのこ軍 アイム「ッ!!!――」

地面に叩きつけられ声にならない悲鳴をあげるアイム。頭に降り注ぐバイクの部品を浴びながら、アイムは事の次第を理解した。
何と自分は愚かだったのか。アイムは自らの浅はかな行動を悔いる。
全て思い通りの筈だった。大戦内できのこ軍であるという自分の立場を生かし、きのこ軍内に自然と入り込み、歴史改変を実施したはずだった。


―― 集計係の目を欺くことさえ忘れなければ。


物見山の頂で、アイムに向けて弓を射た集計班は、静かにその弦を下ろす。
雪は降り止み、雲の隙間から微かに陽が顔を覗かせる。集計班の背に向かって降り注ぐ陽は、後光のように集計班を照らしアイムは思わず目を細めた。
失念していた。集計係の存在を。大戦の“目”ともいえる、観測者たる集計が始終見届けていたことを。
遠くにいる集計班と目が合う。その目は、いつもの穏やかな蒼とは違う、ただ純粋な敵意を向けた紅に染まっていた。
後悔しても遅いが、アイムは小さく舌打ちした。

時限の境界の横穴までは後少し。集計係の“目”を、アイムは掻い潜り、突破しなければならない。

529 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/07/12 21:58:00.546 ID:f9SJtjjAo
すんなりと終わるはずが…まだもうちょっとだけ続くんじゃ。

530 名前:社長:2015/07/12 22:00:31.075 ID:jPm26BUM0
黒ちゃんはしたなーい

531 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/07/12 22:14:21.840 ID:f9SJtjjAo
今日のカードよ。

http://dl6.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/674/card-4.jpg

一昔前はVIPにバーボン送りなんて機能がありましてなあ。
短時間で連投すると書き込めなくなる(バーボン送り)なんてことがザラでしたなあ。

532 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その1:2015/07/22 23:12:49.735 ID:W2GsgyHco
【K.N.C55年 大戦場】

きのこ軍 集計班「…」

きのこ軍 アイム「…」

爆音、咆哮、そして悲鳴。普通なら戦場で終始聞こえてくる雑音は、この二人の耳には全くといっていいほど聞こえてこない。
集計班の目は紅蓮に染まり、近づく者を今にも射抜かんとしている。チラリと、アイムはきのこ軍前線拠点の方を見やる。まだ動きはないようだ。

きのこ軍 集計班「…ッ!」

きのこ軍 アイム「うおッ!」

睨み合いに痺れを切らしたのか、集計班から放たれた一本の矢が高速でアイムに向かう。
余所に気を取られていたアイムだが、修業の成果で、空気の震えから矢の動きを感知し瞬時に避ける。


533 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その2:2015/07/22 23:14:14.902 ID:W2GsgyHco
きのこ軍 アイム「なッ!」

しかし。放物線を描いていた矢尻は、空中でポンと乾いた音とともにさまざまな方向に散らばると。それぞれの矢尻は巨大な錨に変化。
互いの錨同士が太くキツイ網で繋がれた巨大な引網として、アイムに襲い掛かった。
まさか、一本の矢が自身を覆うほどの手繰網に変化するとは思いもよらなかったアイムは、漁師の仕掛けに引っ掛かるかのごとく、すっぽりと網にキャプチャーされてしまった。

きのこ軍 アイム「うおッ!離せ!」

きのこ軍 集計班「無駄です。私の魔法で、その網を破ることはできませんよ」

活きのイイ魚のように網の中で暴れるアイムを見て、片手にメガホン拡声器を構えた集計班は余裕しゃくしゃくといった表情で答えてみせた。
アイムが暴れれば暴れるほど、網の重しとなっている錨は砂に沈み込みアイムの身動きは取れなくなる。
終いに、網の自重によりアイムは地面にうつ伏せの状態のまま動けなくなってしまった。


534 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その3:2015/07/22 23:15:33.081 ID:W2GsgyHco
きのこ軍 集計班「さて…あなたの動きはずっと見させてもらいました。バーボン墓場に転送されてから見失っていましたが、まさか“シャンメリー”を自軍内に配るとはねえ…」

きのこ軍 集計班「あなたは “シャンメリー”の正体を知っていたはずだ。黒砂糖さんが酒に弱いことも把握していたかどうかはさておいて、前線拠点はあっという間にあの有り様。
善意なのか、それとも故意なのか、それを問わねばならない――」

アイムはただ、じっと地面の“鼓動”に耳を済ませていた。まだだ。まだ、聞こえてこない。

きのこ軍 集計班「スクリプトと同じく大戦を滅茶苦茶にする愉快犯ならば、いくら同軍の戦友だとしても看過することはできない」

きのこ軍 アイム「愉快犯?ハッ、違うね。オレはきのこ軍のために動いていた。きのこ軍の勝利のためにね」

きのこ軍 集計班「面白い冗談だ。わざと敵軍に討たれ、バーボン墓場から酒を調達して戦場にバラ撒くのもただの善意だというのかい?」

きのこ軍 アイム「そうさ。オレの行動は全くといいほど善意に満ちている。きのこ軍兵士も、調達係の食糧班さんもオレに感謝していたよ。心が荒んでいるあんたには理解できないやしれないがね」

ド…ド…ド。まだ大地の鼓動は弱い。もう少しだけ待たねばならない。


535 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その4:2015/07/22 23:16:52.656 ID:W2GsgyHco
きのこ軍 集計班「愚か者と犯罪者は皆そう言う。自分の正義を振りかざし、他人への迷惑を顧みない。表面的なことしか考えられず、内面的なことまで気が及ばない頭が堅い野郎だ」

きのこ軍 アイム「おいおい、随分と語るじゃないか。でもそれって、あんた自身のことじゃないのか?」

きのこ軍 集計班「笑止ッ!」

ドドドドド。徐々に鼓動が強まっていく。大地の震動が、アイムの身体に直に伝わってくる。時は来た。

きのこ軍 集計班「…ていうか、私が楽しみにしていたシャンメリーを先に飲みやがって…聞いているのか!おい!」

きのこ軍 アイム「…なあ」

きのこ軍 集計班「…おうなんだよ」

アイムの遮った声は、嵐の前の静けさと言わんばかりにやけに集計班の耳にはっきりと届いた。同時に、集計班はそこで初めて、やけに周りが喧騒としていることに気がつく。
大地の生命の波は、正にアイムたちに近づかんとしていた。


きのこ軍 アイム「…集計活動、怠っちゃいかんよなあ?」


きのこ軍 集計班「なにを…まさかッ!」


たけのこ軍 抹茶『う、うおおおおおおおおおお!僕に続けええええええ!きのこ軍を蹴散らせええええ!』

たけのこ軍兵士『うおおおおおおおおおお!』


536 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その5:2015/07/22 23:18:43.626 ID:W2GsgyHco
きのこ軍 集計班「げえ!あれは抹茶ァ!」

戦闘不能となったきのこ軍前線拠点を壊滅させたたけのこ軍決死部隊の咆哮、足音は、大地に轟音の波としてアイムの耳に伝わってきていた。
普段の集計班なら、たけのこ軍団の接近は自らの“目”をもってすれば容易に把握できた。
しかし、ウロチョロと動き回る目の前の“小蝿”に気を取られるあまり、彼の視野は狭まり、結果として軍団の発見がほんの少しだけ遅れた。そこを、アイムは見逃さなかった。

たけのこ軍 抹茶「敵軍の兵は全員寝てたし、よくわかんないけど千載一遇!進め進めええええええッ!」

きのこ軍 集計班「ま、まずい…ヤツを避難させないと一段に轢かれてしまうッ!」

たけのこ軍団の経路上には、身動きの取れないアイムが横たわっている。
不幸なことに興奮状態のたけのこ軍兵士は、アイムの存在に気づいている様子がない。

きのこ軍 集計班「ま、まずい避難させなくちゃ。えと、空間転移呪文をッ!
『ウィンガーディアム・カレービオーサ』!
し、しまったッ!これはカレーを増殖させる魔法だったッ!」

カレーまみれになった集計班がパニックとなっている隙に、アイムは目を閉じ精神を集中させる。
思い出す。筍魂の訓えを。


537 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その6:2015/07/22 23:19:49.511 ID:W2GsgyHco
きのこ軍 アイム「…“生命力の流れ”は即ち――」

大量の足音が近づいてくる。普通ならば鼓膜が破れるほどの轟音。
しかし、アイムは顔を顰めることもせずに、目の前の状況を“受け入れる”。大地の、生命の鼓動を受け入れる。

きのこ軍 アイム「―― “世界の理”と同化する」

カッと目を見開く。瞬間、身体の前面にあった大地の砂が音もなく削り取られたかのように消え去る。
大地と同化したアイムは、自らの意思で身体に触れていた大地を意図的に消し去り、地面に潜り込んだのだ。

きのこ軍 集計班「う、うわあああ!轢かれる!たけのこの鬼!悪魔!チョコたっぷり!…っと、あれ?」

為す術もなく、たけのこ軍団の通過を目撃するしか無かった集計班は、軍団が去ってからアイムの姿が跡形もないことに気がついた。
地引網の錨は地面に食い込んだままだが、綺麗にアイムの姿だけが消え去ってしまっていたのだ。摩訶不思議。


538 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その7:2015/07/22 23:23:00.015 ID:W2GsgyHco
きのこ軍 集計班「…さて、と」

もう逃げたし、いいかな。打って変わって驚くほど冷たい声で呟いた後、集計班は座っていた椅子に身体を預けた。
その目は、先程の真紅とは程遠い、どこまでも透き通る蒼、蒼、蒼。

きのこ軍 集計班「“アレ”が“希望の星”ねえ…」

手元に並べられていたカレー皿を手に取り、掬い、口へ運ぶ。

きのこ軍 集計班「なかなかどうしてキレ者じゃないか。あの分なら“向こうでも”、特にこちらから動くことも無さそうなんじゃないか。まぁ…未熟だけど」

気丈に振る舞っていた“小蝿”も、内心では焦っていたのだろう。アイムの顔を覆っていた深緑のバンダナが、網の上にはらりと落ちていた。

きのこ軍 集計班「ツメが甘いが、まあこんなところだろう。向こうの私によろしくね…“未来人”さん」

魔法で深緑のバンダナを一瞬で消し去る。100年以上先の未来に思いを馳せ、集計班は静かにくつくつと笑い声を漏らすのだった。


539 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 現代への帰還編その8:2015/07/22 23:24:57.388 ID:W2GsgyHco
【K.N.C55年 大戦場】

アイム「……だぁッ!」

時限の境界に通じる横穴近くの地面から、アイムはからくもといった様子で這い出た。

アイム「ペッ、ペッ。口に砂が混じってらあ。…げえ、バンダナも無くしちまった。砂の中で落としたのか?」

自身を拘束していた網を掻い潜り地面へと素潜りする形になったアイム。張り巡らされた大地と一瞬で同化し、横穴近くの地面を探し当て、必死に泳いできた。
息が切れる心配はなかったが途中で焦り。最後には耳に、鼻に、口に大量の砂が入り込むというあまり締りのない結末になってしまった。

アイム「そんなことはどうでもいい…頼むから、開いてくれよ」

横穴をくぐり、時限の境界の【扉】の前に立ったアイムは、縋るような思いでドアノブに手を触れる。
アイムの行ってきた行動は全て、もう一度時限の境界を通れる布石でしかない。見えない新たな【制約】はわからず、あくまで予想でしかない。この時点でも尚、時限の境界を通れないのならば。
アイムは再度K.N.C55年の大戦世界に再び身を投じ【制約】の内容を洗いなおさなければいけない。もしくは、誰にも見つからずK.N.C180年まで留まり続けなければいけないのだ。

アイム「頼む…頼むッ!」


勢い良く、ドアノブを回し。

ガチャリ。


小気味良い絡繰りの音とともにドアは開かれ。
アイムはようやく現代へと戻ることができたのだった。


540 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/07/22 23:26:46.140 ID:W2GsgyHco
ようやく現代へと戻れた主人公。しかし、さらなる不幸がアイムを襲うッ!

541 名前:社長 【小吉】:2015/07/22 23:31:20.014 ID:/NqlqInM0
アイム君 復活おめでとう

542 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 役者が揃ったよ編その1:2015/08/09 23:22:24.151 ID:ET.H3hVoo
【K.N.C180年 会議所 wiki図書館】

アイム「ようやく戻ってこれたが…本当にここは現代なのか?誰もいねえじゃねえか」

アイム「とりあえず編纂室に戻らねえと。でも、あの部屋へ行くと気持ち悪くなるんだよなあ」

とりあえず顔見せないとみんな心配するだろうな、と言いながら編纂室がある場所に向かおうとすると。
ドン。

アイム「アッ…痛ゥ。おい、どこ見て歩いてるんだッ!」

??「すまんすまん。ここに来るのは久々でね、つい迷ってしまった」

紳士然とした兵士は、被っていたシルクハットのツバを触り、謝罪の意思を見せた。


543 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 役者が揃ったよ編その2:2015/08/09 23:26:37.042 ID:ET.H3hVoo
アイム「まあいいけどよ。どこに行きたいのか知らねえが、あんまり無茶すんなよオジサン。もう若くねえんだから」

??「ハハハ、そうだな」

アイム「んじゃあ元気でな、場所わからねえなら事務方の兵士に聞けよな」

あ、でも今は誰もいないな、まあ知ったこっちゃないか。そんなことを思いながら編纂室に向かおうとすると。

??「もし、そこの若者よ。案内してもらってもいいかな?――――大戦年表編纂室に」

アイム「……テメエ何者だジジイ」

大戦年表編纂室。限られた会議所兵士しか知らない部屋の存在を、どうしてこの老紳士が知っているのか。
アイムが腰にある短刀に手をかけようとすると――


参謀「おーい、ここにおったんか。バイク止めてる間に居なくなったから心配したでッ!」

??「はは、すまんすまん」

参謀「あれ程待ってろと言ったのに…お、アイム!戻ってきたんか!」

アイム「…どういうことだってばよ?」


544 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 役者が揃ったよ編その4:2015/08/09 23:28:09.832 ID:ET.H3hVoo
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

加古川「シューさんは消え、アイムは帰ってこない…状況としては最悪だな」

791「参謀はいつ帰ってくるの?」

黒砂糖「もうそろそろ帰ってくると思うんだが…」

スリッパ「…」

社長「アーオーフゥ!」

筍魂「アイム…折角の弟子を…戦闘術『魂』の伝承者を…」

オニロ「アイム…そんな…」


545 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 役者が揃ったよ編その4:2015/08/09 23:28:59.521 ID:ET.H3hVoo
バタン。勢い良く扉が開かれると。

アイム「辛気臭い顔してるなお前ら」

オニロ「アイム!?帰ってこれたの!?」

アイム「勿論だ。オレぐらいになれば実力でよ。それとオニロ…ありがとな」

オニロ「なんのはなし?」

社長「クセエ」

筍魂「ワイは最初からアイムの帰還を信じてたで!(テノヒラクルー」

スリッパ「アイム、よく戻ってきてくれた…これで参謀とシューさんが戻ってきてくれればとりあえずは…」


546 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 役者が揃ったよ編その5:2015/08/09 23:31:40.066 ID:ET.H3hVoo
参謀「俺は戻ってきたぞ」

??「ほう、ここが編纂室か」

¢「参謀ッ!と、横にいるのは…まさか、あなたは」

加古川「お前は…」

社長「!!」

筍魂「あなたはッ!すいません誰ですか」


参謀「魂さんとは時期的に入れ替わりやったな。この人は―――たけのこ軍兵士 コンバット竹内。元・会議所兵士や」

竹内「どうも皆さんお久しぶり――かくいう私はもう隠居した身でね」


集計班が去り、引退したはずの竹内が戻る。そして物語は動き出す。


547 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 役者が揃ったよ編その5:2015/08/09 23:32:28.796 ID:ET.H3hVoo
今日のカード更新よ。というわけで謎の黒マント野郎は竹内さんでした。

http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/683/card-23.jpg

548 名前:社長:2015/08/10 00:24:08.370 ID:T1URvvEI0
まあ予想通り

549 名前:たけのこ軍 一等兵 昇1:2015/08/10 17:32:42.158 ID:CMAzFzYko
更新乙です
改めて全部読んでみて、集さんが暗闇で話してるのは社長だと思った
過去の自分と意見が違ってしまった…

550 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 悲しみの会議編その1:2015/08/11 22:54:25.408 ID:gOOLcBf2o
きのこ軍 参謀「竹内さんの下へ向かうように指示してきたのはシューさんや。
“一生のお願いだから頼む”と置き手紙に書いてありゃ、行かないわけにはいかんしな」

参謀、竹内、そしてアイムが集合した編纂室では情報を整理するために円卓テーブルを囲むように会議が開かれた。
アイムが現代に戻るまでの経緯、そして竹内が連れてこられた経緯などが滔々と話されていった。
その会議の中心にいたはずの集計班の姿はない。

冒険家 スリッパ「つまり、シューさんの置き土産が竹内さんということになるのか…」

たけのこ軍 オニロ「スリッパさん…そんな言い方は、まるでシューさんが二度と戻ってこないかのような…」

たけのこ軍 社長「みんな!いやだよね!」

きのこ軍 アイム「戻ってきたらシューさんがいなかったのはショックだな。なあ、もしかしてオレがムリヤリ過去の歴史を改変したから、シューさんが消えたんじゃないか?」

たけのこ軍 オニロ「それはないと思うよアイム。ボクたちは、アイムが現代に戻るために起こしたであろう歴史改変の“波”を体感した。
その時点で、シューさんの姿はもう無かったんだ」

たけのこ軍 社長「ちなみに百合神さまは時を超えられる」

きのこ軍 ¢「…こんな時に落ち込ませるようなこと言うのは悪いけど、もうシューさんは帰ってこない。そんな気がするんよ」

たけのこ軍 社長「ふざけてんだべ?」


551 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 悲しみの会議編その2:2015/08/11 22:55:21.970 ID:gOOLcBf2o
冒険家 スリッパ「いや、¢くんの言うとおり、最悪の事態は常に想定しないといけない。
シューさんの無事が一番だが、もう戻ってこないと想定した上で今後の対策を練ったほうがいいだろう」

長い間、編纂室に沈黙が訪れた。集計班の失踪は、会議所の実務的な損失よりも、各々の心の支えを失った精神的な損失のほうが遥かに大きかった。
良くも悪くも、集計班は常に会議所に“居た”。だからこそ、兵士たちは集計班を頼り困ったことや面倒事を全て押し付けることもできたのである。
久々にほぼ全員が集まった会議は、まるで通夜のように全員が押し黙り、深い沈黙に包まれていた。


552 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 悲しみの会議編その3:2015/08/11 22:56:20.883 ID:gOOLcBf2o
きのこ軍 アイム「…おいテメエ、“アレ”はやらないのか?」

たけのこ軍 社長「オニロ君、キミだね?」

きのこ軍 アイム「いや、お前だよお前」

たけのこ軍 社長「えっ!? オレ!?」

たけのこ軍 オニロ「もしかして、社長の占いのこと?」

きのこ軍 アイム「そうだよ。何時だって、流れの転換点にはアイツの占いがあった」

たけのこ軍 社長「え」

きのこ軍 参謀「そういえばそうや…」

竹内「昔から社長は変人だったな。昔とはまたベクトルが違うがな」

たけのこ軍 社長「ちょ、ちょっと待ってくれアイム君。百合本5冊で手を打とう」

きのこ軍 アイム「誰も意味なんて理解できやしないが、会議とアイツの占いは切っても切れないモノなんだろ。それはオレも認めてやる。さあ占いを出しやがれ」

たけのこ軍 筍魂「申し訳ないがきのこ軍兵士のツンデレはNG」

たけのこ軍 社長「…」

社長は顔を伏せ、一言も言葉を発す素振りはない。
それどころか、小刻みに身体を震わせ始めた。身体も全体的に青ざめバグっぽい。


553 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 悲しみの会議編その4:2015/08/11 22:57:19.267 ID:gOOLcBf2o
きのこ軍 ¢「しゃ、社長の様子がいつもと違うんよ」

たけのこ軍 加古川「いつもはシューさんにフラれると間髪入れずに預言してたような」

たけのこ軍 斑虎「無理に占わせようとしているからおかしくなったんじゃ」

たけのこ軍 オニロ「いや、でもよく考えたらおかしいのはいつものことじゃあ…」


たけのこ軍 社長『おきのどくです!!!!!』


全員「!?」

社長の突然叫びに全員は目を見開いて、社長の方を見つめた。
社長は立ち上がり、血色の良いバグを全面に貼り付けた様相で、占いを始める。


554 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 悲しみの会議編その5:2015/08/11 22:58:16.557 ID:gOOLcBf2o
たけのこ軍 社長『ふねもでていったし、あんたたちのおかげだよ!』

そう告げ、周りに座っている全員を見回す。
社長の視線が、一瞬、空白の集計班の席で止まったかのようにオニロには見えたが、占いは続く。


たけのこ軍 社長『預言?しらね^^』


きのこ軍 アイム「はぁ?お前、なに自分の存在を否定してるんだよ」


たけのこ軍 社長『皆食べようぜ〜☆』


たけのこ軍 社長『アア オワッタ・・・・・・・・!』


ストンと社長は自分の席に着く。占いは終わったらしい。


555 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 悲しみの会議編その6:2015/08/11 22:59:48.087 ID:gOOLcBf2o
きのこ軍 参謀「えーと、占いの内容は
『おきのどくです!ふねもでていったし、あんたたちのおかげだよ! 預言?しらね^^ 皆食べようぜ〜☆ アア オワッタ・・・・・・・・!』
やな」

きのこ軍 アイム「相変わらず意味不明だな。おい、要訳しやがれ」

たけのこ軍 社長「ダクソして寝よ」

きのこ軍 アイム「プッツン。殺すッ!」

たけのこ軍 斑虎「タンマ!アイム、タンマ!」

竹内「ハハッ。見ない間に、随分と賑やかになったものだな」

冒険家 スリッパ「ふふ、本当にな」


へんてこな占いが、初めて会議を正しい方向に導いた。会議の沈黙を打破したのだ。
こうして社長の占いで、兵士たちは再び少しだけ活気を取り戻したのだった。


556 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/08/11 23:00:10.659 ID:gOOLcBf2o
少しずつでも更新していくスタイル

557 名前:社長:2015/08/11 23:05:15.091 ID:xpuHfegQ0
タネフフっぽい

558 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 生産工場とは編その1:2015/08/22 23:48:16.915 ID:4S8Gc2Yoo
冒険家 スリッパ「聞きたいことは山ほどあるが…まず、本来の『目的』について話してもらってもいいか」

たけのこ軍 抹茶「『過去の時代で、スクリプト工場の跡地を見つける』ことですね。はい、確かに工場の跡地をK.N.C55年でも見つけました」

時限の境界に居座り続ける膨大な数のスクリプト。会議所の地下に幽閉されていたスクリプトの数から明らかに増加している。さらに今まで誰も目撃したことがなかった巨大スクリプト『NEXT』の登場。
DB主導で『スクリプト生産工場』を現代、過去のいずれかの時代で建設し、スクリプトを生産した作成した事実に他ならない。スリッパや集計班を始めとした兵士は、予てより生産工場の痕跡を追っていたのである。

そして、アイムが筍魂に訓練をつけてもらっている頃、調査班は現代にて風化した生産工場らしき跡地を発見。
上記の仮説のもと、会議所は適当な時代に目星をつけ、第二次討伐隊を過去の時代に送り込んだ。

生産工場の痕跡を追跡するため――
あまつさえDBを発見し捕獲するため――


559 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 生産工場とは編その2:2015/08/22 23:52:00.056 ID:4S8Gc2Yoo
たけのこ軍 抹茶「工場はK.N.C55年時にも同じく破壊されていましたが、破壊されてからまだ日は浅いものと見られました」

きのこ軍 someone「おそらく破壊されてから4、5年ぐらいて感じだったかな」

たけのこ軍 社長「百合神様は全てを破壊できる能力を持っているらしい」

きのこ軍 参謀「ふむ。なら、スクリプト工場建設年代を特定するのは思っていたよりも容易いかもしれんな」

たけのこ軍 斑虎「それが…そう、うまくはいかないかもしれないんだ」

きのこ軍 ¢「どういうことだ?」

たけのこ軍 社長「ふざけてんだべ?」

たけのこ軍 抹茶「スクリプト工場の規模から考えて、時限の境界に跋扈しているスクリプトの数と生産数とで整合性が取れない気がするんです…つまり――」

たけのこ軍 オニロ「――スクリプト工場は“複数”ある?」

オニロの言葉に神妙な面持ちで頷く抹茶。

きのこ軍 黒砂糖「…そういえば、今回の騒動中にDBを見た者は誰も居ないことに少し前に気がついたんだ。それで、ここにいる兵士と、DBの行動について話し合っていたんだが――」


560 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 生産工場とは編その3:2015/08/22 23:58:17.470 ID:4S8Gc2Yoo
DB討伐隊は、今回の騒動の主犯格であるDB捜索を第一の目的として設立された軍団だ。

――しかし、未だにDBの姿すら捉えられていない。

冒険家 スリッパ「…DBの現在の行動パターンとして、大きく分けて二通り」

DBの所在の推理は以下の通り。
1. DBは現代[K.N.C185年]に留まっており、今もどこかに姿を隠し続けている。DBが本騒動の主犯であることは間違いないだろうが、現在の歴史改変は主にスクリプトが自主的に行っている。

2. DBはスクリプトと同じく、時限の境界に留まり続けている。時限の境界の制約T【時限の境界に一定時間以上留まり続けられない】を利用し、ランダムな年代に跳び、スクリプトと同じように歴史改変を実行。
  その際に、新たなスクリプト工場を作成し、その場で破壊するか、数年後に破壊するかして、スクリプトを無尽蔵に増やし続けている。
  歴史改変を行うと制約U【その時代の歴史改変を行わない限り、現代へ戻ることはできない】の内容を履行することになり、再び時限の境界に戻り、またランダムな年代に跳び…と、無限にリピートする。


きのこ軍 きのきの「選択肢2の方が、現実味があるな。時限の境界で籠城を続けているスクリプトたちと行動ルーチンは同じことになるな」

たけのこ軍 社長「北斗「貴方は同じ事を繰り返すでしょう」」

たけのこ軍 オニロ「極端な案だけど、例えば選択肢2の通りDBが行動しているとして。過去の年代へループしてワープしているとしても、限りはありますよね。
過去は有限。無限じゃない。つまり、DBが過去の時代を全て跳び終わり、これ以上時限の境界を利用できない時を狙って捕獲、もしくは討伐するっていうのはどうなんでしょう?」

たけのこ軍 筍魂「根気よく待つ作戦か。悪くないな」

たけのこ軍 加古川「それが…どうも長く待っていられないみたいなんだ」

たけのこ軍 筍魂「そんな長い時間、用意されているわけ無いだろッ!!(テノヒラクルー)」

老眼鏡を外し、目頭を抑えている加古川の姿は、いつもよりも酷くくたびれて見えた。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

561 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 生産工場とは編その4:2015/08/22 23:59:43.731 ID:4S8Gc2Yoo
【K.N.C??年 ???】

???「フハ、フハハハハハハ!!」

歓喜に満ちた笑い声。気色悪いガラガラ声が、ガランとしたフロア内によく響いた。

???「感じますねぇ、この瞬間もッ。オレ樣の元に【世界の力】が集結しているのがッ。“実感”できるゥ」

舌を突き出し、まるで尻尾を振る犬のように声の主は興奮状態に包まれている。両の手の拳を握りしめ、自らがより強大な存在になりつつあるこの瞬間に感銘を受ける。
声の主の身体からは、僅かではあるが薄ぼんやりとした光が放たれている。この瞬間こそが至福で愉悦な時間。

“全世界の兵士から奪った力”を吸収し続け成長を続ける自身の現状に、笑いをこらえることができない。


???「兵士の気力を、精神力を、魂を奪い“喰らうッ”!!これ程までに楽しいことがあるだろうかッ!愉快、愉快ッ!!!」

会議所が歴史改変に手をこまねいている間にも、異型の存在は強大化し続ける―――


562 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/08/23 00:00:01.634 ID:sh12dLiwo
ラスボスが出てこないことで有名なssです

563 名前:社長:2015/08/23 02:01:10.730 ID:87lDBqGs0
更新乙

564 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 改変と歴史の関係編その1:2015/08/30 23:25:00.526 ID:qhQJv00go
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

たけのこ軍 加古川「最新の統計で明らかになったことだが。
きのこの山、たけのこの里、両方で以前に比べて大戦にやる気を見せる兵士が激減している」

『街角アンケート〜あなたは大戦にどれくらい興味を持っていますか?〜』という、
ポップな字体で書かれたアンケート用紙を見せる加古川。しかし、結果はなかなかおぞましいことになっていた。

たけのこ軍 加古川「騒動前は、『大戦に参加する』と答えた兵士が93%だったのに対し、最近は22%にまで低下。
しかも現在も、刻一刻とその数は減り続けている」

たけのこ軍 社長「参加ダウンの原因はトイレじゃないの」

たけのこ軍 791「つまり、歴史改変の多さと大戦兵士のやる気には少なからず相関がある。そう言いたいんだね?」

たけのこ軍 加古川「ああ、そのとおりだ。これはあくまで私の所感だが、スクリプトがきのたけを敗北の歴史に塗り替えられる度、
現代の兵士の士気が落ちている。歴史改変の修正を受けた一般兵士たちは、大戦を
『スクリプトに妨害され続け終戦まで戦える機会が少ない』戦いだと認識するようになり、やる気を無くしているのだろう」

たけのこ軍 社長「大戦○、たけのこ○、改変×」

きのこ軍 ¢「このままじゃあ大戦を開こうとしても、参加する兵士が少なすぎて大戦を遂行できない。
大戦ができなければ“歴史は前に進まない”。
僕たちの時間は一生止まったままになってしまうんよ、びえええええええええええええええん」

たけのこ軍 山本「待ち続けるのは得策じゃ無さそうだな」


565 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 改変と歴史の関係編その2:2015/08/30 23:30:22.911 ID:qhQJv00go
冒険家 スリッパ「もし、DBの行動パターンが選択肢2の場合。今この時も、スクリプトは数を増やし続けている。
これを阻止するためには、過去に行われた歴史改変を全て元の歴史に書き直し、結果的にスクリプトを全滅させる方法がひとつ。
まあ、歴史改変を完全に知覚できているのは、現在オニロだけだが…

あるいは、スクリプト工場を発見することに力を注ぎ、討伐隊の手で随時破壊。
スクリプト工場を破壊さえすれば、歴史を荒らしていたスクリプトは存在しない事になり、
結果として複数同時の歴史が基に書き直されることになる」

きのこ軍 アイム「もしくは両者の意見を取ったハイブリッド案はどうだ?
歴史改変を行った年代に跳びスクリプトを破壊しながら、スクリプト工場を捜索し破壊する。これならどうだ?」

たけのこ軍 社長「いいぜ。」

きのこ軍 参謀「なるほど。歴史再改変の片手間で、スクリプト工場を発見し破壊すれば一石二鳥となるわけや」


566 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 改変と歴史の関係編その3:2015/08/30 23:31:08.375 ID:qhQJv00go
冒険家 スリッパ「いい案だ。オニロにはキツイ仕事になるが、今から歴史改変されたままの時代を全て探してもらい、
地上部隊の兵士を手当たり次第、時限の境界に送り込もう」

たけのこ軍 オニロ「…はい(ゲッソリ)」

たけのこ軍 加古川「これが社畜だ」

冒険家 スリッパ「…後は、時限の境界の仕組みさえわかればいいのだが…」

きのこ軍 アイム「そこで、オレの話になるわけだな。オレが抹茶や斑虎さん、someoneさんと違い、
過去の時代に取り残されたのはもう皆知ってるよな?」

たけのこ軍 オニロ「よく帰ってこれたねアイム!本当にすごいや、さすがアイム!」

きのこ軍 アイム「…それはテメエのおかげでもある。ありがとな」

思わぬお礼の言葉に、キョトンとするオニロ。

たけのこ軍 筍魂「申し訳ないが、きのこ軍のツンデレはNG」


567 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/08/30 23:31:31.278 ID:qhQJv00go
短いですがここまで。次回、ようやく新たな制約の内容が明らかに。

568 名前:社長:2015/08/31 01:26:15.937 ID:G.zWVLss0
制約ははじめ複数人で境界に入らないといけないかと思ってたらしい。
でも違うのかなー

569 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その1:2015/09/07 00:07:45.895 ID:wh2Sobtso
アイムは全員に、これまでの経緯を改めて説明した。
時限の境界に突入してからのスクリプトとの戦闘。過去の時代への跳躍、過去の大戦での行動。そして、独りだけ過去の時代での幽閉。
今回の第二次討伐隊の行動だけでなく、前回の第一次討伐隊の際のアイムの行動も周りに話し。比較することにした。

きのこ軍 ¢「アイムが他の3人と違い現代に戻れなかったてことは。他の3人と違う行動を取っている可能性が高いと思うんよ」

たけのこ軍 抹茶「確かにそうですね。ですが、K.N.C55年の大戦中は始終私達と行動をともにしていて、特に変わった行動も見られませんでした」

きのこ軍 ゴダン「つまり、アイムくんと3人の行動に違いがあるとしたら――」

全員「――時限の境界内(ガキどもの美肉?)」

たけのこ軍 ビギナー「時限の境界内の突入から、もう一回話を聞いたほうが良くない?」

もう一度時限の境界突入から説明するアイム。

たけのこ軍 791「うーん、わからないなあ。アイム君と他の3人の違い…頭にバンダナを巻いているか巻いてないか、とか?」

たけのこ軍 社長「(人間?)」


570 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その2:2015/09/07 00:12:27.752 ID:wh2Sobtso
きのこ軍 someone「…それなら、第一次討伐隊の時もアイムは取り残されたはずじゃないかな?」

第一次討伐隊突入の際も、アイムはバンダナを巻いていた。

たけのこ軍 791「ああ、そっかあ…抹茶にシトラス」

たけのこ軍 抹茶「え!?」


たけのこ軍 ジン「時限の境界内でスクリプトに攻撃した回数が一番多いとかはどうでしょう?」

たけのこ軍 社長「北斗「いいぞォ兄貴ィ!!」」

たけのこ軍 抹茶「今回の戦闘ではアイム君は専らアシストだったので、攻撃回数としては僕のほうが多いと思います」

たけのこ軍 ジン「そうですか…」

たけのこ軍 791「抹茶にシトラス」

たけのこ軍 抹茶「これ僕が悪いんですかね?…」

きのこ軍 黒砂糖「だあああ、わからないなあ」


571 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その3:2015/09/07 00:14:46.898 ID:wh2Sobtso
たけのこ軍 筍魂「こんな周りに迷惑をかけるデキの悪い弟子をもった覚えはないゾ」

きのこ軍 アイム「随分とヒドイいわれようじゃねえか…」

たけのこ軍 オニロ「ま、まあまあ。アイムもそう怒らずに。えーと、えーと。
アイムはスクリプトからの攻撃を受けてないよね。スクリプトからの攻撃を受けているか、受けていないで制約が決まる、とかはどうでしょう?」

きのこ軍 参謀「確かにアイムはスクリプトから攻撃を受けてないが、それなら抹茶も攻撃は受けてないやん。
まあ、抹茶は負傷したsomeoneと斑虎を抱えていたから攻撃を防いでいたのは専らアイムだが――」

そこで、参謀は何かに気がついたように言葉を止め、瞬時に思考を巡らせた。

きのこ軍 アイム「おいどうした、わかったのか参謀」

たけのこ軍 社長「これマジ?」

きのこ軍 参謀「ちょっと黙ってろや、いま分かりそうなんや」

アイムはなぜ今回だけ取り残されたのか。

第一次討伐隊と第二次討伐隊の違い。
突入の経緯。
扉への突入。


572 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その3:2015/09/07 00:17:31.412 ID:wh2Sobtso

第一次討伐隊時
――扉に一番近かったジンが真っ先に吸い込まれそうになるが、咄嗟にアイムが……つかむ。
――アイム「全…、互いに……手を……なよッ!」
――全員が……の…掴み、必死に見えない力に抵抗する。

第二次討伐隊時
――アイムの背後で、負傷するsomeoneと斑虎を抱え抹茶は扉に向かって一目散に走りだす。
そして、抹茶は……ら、扉に飛び込んだ。
――NEXTの動きが一瞬止まった瞬間にアイムはすぐさま背後の扉に……で飛び込んだ。

冒険家 スリッパ「まさか…そういうことなのか」

きのこ軍 参謀「ああ、そのまさかやな。わかったぞ、【新たな制約】がッ!!」


573 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その5:2015/09/07 00:19:38.535 ID:wh2Sobtso
きのこ軍 参謀「まず、今回の【新たな制約】は第二次討伐隊突入時にアイムにだけ降りかかったもので。
それは即ち、アイムが他の隊員とは違う【行動】を取り、それが結果として制約に抵触してしまったということや」

たけのこ軍 オニロ「でも、話を聞いても別段アイムが特異な行動を取っているとは思えなかったです…」

きのこ軍 参謀「第一次と第二次を比べても、アイムの行動のおかしさは無いように思える。
しかし、一つだけあるんや…決定的な違いが」


―― 【時限の扉】の通過時


574 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その6:2015/09/07 00:22:59.017 ID:wh2Sobtso
きのこ軍 参謀「時限の扉を通る時。第一次討伐隊での行動は以下のとおりだ」


――扉に一番近かったジンが真っ先に吸い込まれそうになるが、咄嗟にアイムが【手をつかむ】。
――アイム「全員、互いに掴んだ手を離すなよッ!」
――全員が【互いの手を掴み】、必死に見えない力に抵抗する。


きのこ軍 参謀「続いて第二次討伐隊」


――アイムの背後で、負傷するsomeoneと斑虎を抱え抹茶は扉に向かって一目散に走りだす。
そして、抹茶は【二人を抱きかかえながら】扉に飛び込んだ。
――NEXTの動きが一瞬止まった瞬間にアイムはすぐさま背後の扉に【単独で】飛び込んだ。


たけのこ軍 オニロ「??これに違いがあるんですか?」

きのこ軍 アイム「…!!そうか、わかったぞ。『共有動作』だなッ!」

無言で頷く参謀。


575 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その7:2015/09/07 00:27:27.172 ID:wh2Sobtso
第一次討伐隊。
制約Tにより、アイムたち討伐隊は、近くに位置する時限の扉に吸い寄せられることになった。
その際、吸引力に少しでも抵抗しようと、全員はお互いの手を握り合い、 “触れていた”。


第二次討伐隊。
今度は自らの意志で時限の扉をくぐることに成功したものの。
スクリプトの攻撃により斑虎とsomeoneは負傷。抹茶は二人を抱えながら、時限の扉を通る。
三人は“繋がっていた”。
一方で、アイムは三人の突入を確認してから単独で突入。誰とも“繋がっていない”。


全員が身体の一部に触れていた状態で時限の扉を通り、誰かが歴史改変のトリガーを引いた場合
―つまり、直接的な歴史改変者になった場合―制約Uは、他の隊員にも“間接的”に共有される。

しかし、複数の隊員が誰とも触れ合っていない状態のまま時限の扉を通った場合。
隊員Aが歴史改変を実施したとしても、制約Uの履行は【残りの隊員には共有されない】。
隊員Bは、別の歴史改変を実施しない限り制約Uは履行されず、現代へ戻ることはできない。

参謀の推理は、【時限の扉を通る際、各員が身体に触れ合うことによる“共有”動作を行うことで、
一人の歴史改変行為は全員に“共有”される】ということなのだ。


576 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 制約V編その8:2015/09/07 00:29:20.220 ID:wh2Sobtso
冒険家 スリッパ「時限の境界に関する制約という観点からすれば、
時限の境界内における制約、時間跳躍した時代での制約、そして――時間跳躍する際の制約。
制約の分類としては、何らおかしいことではないな」

たけのこ軍 オニロ「これ、もしかしてたまたま全員が触れ合わずに突入していた場合は、
4人とも別々に歴史改変をしなくちゃいけなかったてことですよね…」

たけのこ軍 加古川「考えただけでもゾッとするな…」



――【制約V】 時限の境界で複数が時限跳躍をする際、身体の一部分でも触れたまま時限の扉を通れば、
残りの時限の境界に関する制約状況が複数員同士で、“共有”される。


577 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち :2015/09/07 00:30:10.460 ID:wh2Sobtso
時間制限、歴史改変、共有。
制約の内容って難しい。

578 名前:社長:2015/09/07 00:33:21.730 ID:swZFropA0
なるほど同じ行動か…

579 名前:名無しのきのたけ兵士:2015/09/13 20:16:25.536 ID:RwNPcQxY0
今週の更新はお休みくさい。また来週

580 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 疑念と決意編その1:2015/09/14 22:39:56.546 ID:Dl16hwNgo
きのこ軍 参謀「時限の境界に関する制約は大分明らかにされてきたな。
アイムの言っていたハイブリッド案(スクリプトに荒らされている時代で歴史再改変&工場発見)を推していくべきやな」

きのこ軍 ¢「いや、僕は反対なんよ。現状で明らかにされている制約だけが全てとは思えない。
アイム君はなんとか帰ってこられたけど、今後ふとした拍子で未帰還者が出ることも考えられなくはないんよ」

たけのこ軍 791「でも、私たちが行動を起こさないと、会議所や大戦世界は、活力を失い終いには崩壊に追い込まれる。
それを黙って見過ごせって言うの?」

きのこ軍 ¢「それでも反対なんよ。そもそも791さんの言うように、大戦世界がすぐに崩壊すると決まったとわけではない。
皆がわざわざ時限の境界に飛び込もうとしなくても、何か解決策があるかもしれないんよ」

きのこ軍 黒砂糖「そんな悠長なことは言ってられないのでは…」

581 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 疑念と決意編その2:2015/09/14 22:41:20.291 ID:Dl16hwNgo
きのこ軍 ¢「そうは思わないんよ。今までだって、僕たちはみんなで額を寄せあって、話し合いで喫緊の事態に対処してきた。
今度もきっとそうだ。今こそ全員が一致団結して会議をすることでこの騒動に対する名案が生まれ、
そして結果として兵士の安全も確保されるんよ!」

たけのこ軍 オニロ「確かにそうかもしれません…しかし、このまま現代に留まり続けてもDBは見つけられません。
ボクたちはDBを必ず見つけ、討伐しなければいけないんです」

きのこ軍 ¢「だからッ!“討伐”ではなくて“捕獲”だと言っているだろ。
集計さんもいた以前の会議で捕獲をメインに据えることは決定されていたはずだ!何度言えばわかるんだッ」

¢が苛ついたように声を荒げオニロに反論した。
珍しいな、と遠巻きに傍観に徹していたアイムは、¢の違和感に誰よりも早く気がついた。


582 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 疑念と決意編その3:2015/09/14 22:44:38.481 ID:Dl16hwNgo
¢は会議所内で一番の現実主義者であり、理知的で客観的視点を持つ兵士だ。
集計班が理想主義者だったということもあってか、度々繰り出される集計班の突拍子もない意見に、
¢がたしなめるという会議の流れが常態化していた。

今回も会議に参加しているメンバーのほとんどが、過去に跋扈するスクリプトやDBの討伐に躍起とする中、
¢だけが声高に討伐隊派遣に反対を表明している。

熱に浮かされた兵士たちを自制させる意味で、¢は会議内で重要な役職を担っている。
常に会議兵士の考え方からは一歩引いた思考は、その主張が正しい、誤りに限らず。全員の逸る気持ちを一度抑え、
全員が冷静になる場面を¢から与えられ、そして全員を成長させる。

しかし、アイムには、今日の¢の主張は現実論とは程遠い、時限の境界突入反対に固執しすぎているように思えた。
冷静な¢が声を荒げていることが、¢自身に焦りが生じていることへの表れだ。
非常事態だからしょうがないとも言えるが、果たしてそれだけなのだろうか。

本当に会議所の兵士の安全を守るためだけに主張しているのか。
激しい意見が飛び交う議論の中、アイムは独り訝しむ。


583 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 疑念と決意編その4:2015/09/14 22:46:44.943 ID:Dl16hwNgo
なぜ、¢は討伐隊派遣を頑なまでに反対するのか。アイムは考える。


―― 時限の境界の制約内容が全て明らかにされてない可能性があるから? ―― 

一理ある。これに関して¢の主張は最もだ。時限の境界に係る制約の総数は明らかになっていない。
3つの制約こそ見つかれど、この制約が時限の境界に係る全てだとは到底断言できない。
つまり、これからも、討伐隊は目に見えない制約に気をつけながら行動をしなくてはいけない。


―― 現代に留まることで解決策が生まれるかもしれない? ―― 

一理ない。現代に留まり続け捜索を続くてもDBを見つける術がない事は以前に証明されている。
さらに、現代には地下部隊(現在はオニロのみだが)が留まり続け、本丸の編纂室は情報の最前戦として機能している。
現代にいる兵士の役割は、あくまで過去へ跳ぶ兵士たちの補佐に過ぎない。
全員が現代に留まり続けることは、寧ろ悪化の一途を辿りかねない。
それは¢もよく理解しているはずだ。


584 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 疑念と決意編その5:2015/09/14 22:48:44.852 ID:Dl16hwNgo
兵士の安全を殊更に主張し、その主張の“副産物”として、現代に留まり続けることが必要だという主張が
生まれるのならばまだ分かる。
ただ、今の¢はこの二論を同列に語ってしまっている。意見の軸がぶれているのだ。
兵士の安全を守りたいのか、留まり続けたいのか。どちらかはっきりしない。

彼の中ではっきりとした軸は“DBを撃破せずに捕獲する”という信念、ただひとつだ。


――では、なぜ¢はDBを“討伐”したがらないのか? ――


アイム「…まさかッ…!」

短時間で辿り着いた自身の答えに、さすがのアイムも驚愕し咄嗟に否定の意味で首を振る。

あの¢が、そんなことはありえない。だが、しかし――


585 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 疑念と決意編その6:2015/09/14 22:50:40.426 ID:Dl16hwNgo

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━━━━

きのこ軍 ¢「いや、捕獲するべきだ」
それまで終始黙っていた¢が静かにそう告げると、部屋はシンと静まり返った。
¢の言葉には、常人には表現できないような使命感とそれをも上回る焦燥感が入り交じっていた。
集計班がチラと¢に目配りをする。二人の視線が一瞬交差する。アイムは二人のなんでもない所作が気になった。

きのこ軍 集計班「DBは討伐せずに捕獲することにしましょう。まあまずは発見が先ですがね。いったいどこにいるのやら…」

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━━━━


以前の会議での¢の発言。DB討伐論が主流を占めていた中、¢の鬼気迫る発言に会議の決着は180度方向転換した。
集計班が¢の発言を認めた意図はわからない。それでも、もし今の¢の主張を許してしまえば。

きのこ軍 ¢「このままでは埒が明かない。兵士の危険が考慮される以上、討伐隊派遣は見送るべきだ」

会議所の動きは止まり、無為な時間が流れ。
そして、大戦世界は崩壊の一途をたどる。


586 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 疑念と決意編その7:2015/09/14 22:54:41.074 ID:Dl16hwNgo
きのこ軍 アイム「そうかい。オレはあんたの“尻拭い”をさせられるってことか、シューさん…」

まさか、大戦の未来をオレが案じる日が来るなんてな。そう心のなかで自嘲気味に笑ったアイムは、
先程まで聞く気のなかった会議に意識を向かわせた。
先程まで騒がしかった編纂室は、議論は平行線をたどっているのか、次第に静けさを取り戻しつつあった。

アイムは覚悟を決めた。
目の前に居る兵士たちに、自分自身が説かなければならない。

¢の主張を覆せるほどの論を、アイムが述べなければいけない。
危険を乗り越えてでも大戦世界を守る意思を。覚悟を。







――たとえ、目の前に居る兵士の中に“敵”が潜んでいたとしても。


587 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/09/14 22:56:11.577 ID:Dl16hwNgo
小さな疑念はやがて大きな確信へと変わる。
三章も中盤に差し掛かったと思わせ、まだもうちょい続くらしい。

588 名前:社長:2015/09/14 22:57:45.806 ID:sigWRjo20
ついに中枢に近づいてゆくのか…
オニロ君の出番はまだまだ。

589 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/09/23 21:14:49.579 ID:cNKrK7qYo
今週はシルバーウィークがあったからお休みだぞ(鼻くそホジホジ)

590 名前:791:2015/09/23 22:34:05.735 ID:GMUkgOpco
え?シルバーウィーク中に更新があるって聞いてたんだけど…

591 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/10/14 00:17:34.941 ID:i8mQOukQo
とりあえず明日更新します

592 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その1:2015/10/15 23:07:46.197 ID:oMRm09hso
きのこ軍 参謀「そこまで強く言うとはなあ。確かに¢の言うことも一理ある。
ここは少し休憩を取って、後に会議を再開ということで――」

きのこ軍 アイム「いや、その必要はないぜ参謀」

鬱屈とした空気が蔓延する中、静寂を切り裂いて、一人のきのこ軍兵士が鋭い声を発した。
希望の星。きのこ軍新参、アイムである。

きのこ軍 アイム「思い違いをしているな。全員ここに留まり続けても、オレたちには百害あって一利もない」

きのこ軍 ¢「そんなことはないんよ。きっと打開策は生まれるんよ」

きのこ軍 アイム「その逆だよ¢さん。待てば待つほど、事態は悪化する」

たけのこ軍 オニロ「どういうこと、アイム?」

オニロなら食いついてくると思ったとばかりに口角を釣り上げ、アイムはとうとうと説明し始めた。


593 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その2:2015/10/15 23:09:57.475 ID:oMRm09hso
きのこ軍 アイム「加古川さん。あんたはさっき『敗北の歴史に塗り替えられる度に、現代に居る大戦兵士の士気が下がっている』。
こう言ったな?」

たけのこ軍 社長「いえてる‥‥‥」

たけのこ軍 加古川「確かにそう言った」

たけのこ軍 オニロ「つまり、多くの兵士は士気を“失いつつある”ということだよね」

きのこ軍 ¢「仮に士気が下がっているとしても、現代に居る僕らには皆を盛り上げる策を講じることはいくらでもできる!
まずは王様制とスキルMT制を復活させて兵士の期待に応え――」

きのこ軍 アイム「その一度失った“士気”てのは、いったいどこへ“向かう”んだろうな?」

¢の言葉を遮り、鋭く相手に切りこむようにアイムは周りにそう問いかけた。

たけのこ軍 社長「よのなかどうなっとるんかのう。」

きのこ軍 someone「向かう?どういうこと?」

たけのこ軍 筍魂「おもしろい、続けてみろ(王者の貫禄)」


594 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その3:2015/10/15 23:15:54.139 ID:oMRm09hso
きのこ軍 アイム「オレは師であるクソ筍魂から二つの教訓を受けた。その内の一つが、【無秩序の全は一に帰す】という訓えだ」

【無秩序の全は一に帰す】
【“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】

難解とも取れる筍魂から残された言葉の意味を、オニロと探しだした際の訓えの一つである。
オニロは【秩序】と【無秩序】を部屋の汚さに喩え、こう表現した。

オニロ『えと、たとえば部屋がきれいな状態を秩序、部屋が汚い状態を無秩序とすれば、
必ず部屋は汚くなっていく方向に進んでいく、ていうことかな』

全ての万物は、秩序から必ず無秩序に向かって変化していく。
無秩序の要員をたどれば、それは一つの秩序から発生したものなのである。

たけのこ軍 筍魂「クソは余計だゾ」

たけのこ軍 斑虎「兵士の士気消失と、【無秩序の全は一に帰す】てのは、どう繋がるんだ?」

595 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その4:2015/10/15 23:19:43.405 ID:oMRm09hso
きのこ軍 アイム「たとえば、そうだな」

ここでアイムは席を立ち、手近な本棚から本を数冊手に持ちまた席に戻ってきた。

きのこ軍 アイム「オレは、一人の兵士の心の中には、こうした何冊もの『心の本』が存在していると思っている」

きのこ軍 参謀「なんやそれ素敵やん」

きのこ軍 アイム「兵士の関心事はさまざまだ。¢さんなら自動ツール・引きこもり、参謀ならバイク・お笑いに、
抹茶ならお茶・おしっこに関心があるといったように――」

たけのこ軍 抹茶「おい待て」

きのこ軍 アイム「兵士は、関心事をそれぞれまとめた『心の本』を数冊、数十冊も胸の内に宿している。
心の本には自身の出来事、関心事が日々連々と書き加えられている。
千の兵士がいれば万とも億とも心の本は存在するかもしれない。しかし、中でも全ての兵士が持っている“共通の”本が一冊ある。
それは――」

たけのこ軍 オニロ「『大戦に関する本』」

スリッパ「なるほどッ」


596 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その5:2015/10/15 23:26:16.418 ID:oMRm09hso
きのこ軍 アイム「兵士は誰しも『大戦の本』を心の中に宿している。古参であればあるほどその本のページ数は
膨大なものになっていることだろう。また、新参である兵士も大戦に胸を躍らせているうちは、
心の本には次々に大戦関連の内容が書き加えられていっていることだろう」

ちょうど、あのオリバーのようにな。と、アイムは、年表近くの空中で眠りこけているかのように静止する自動筆記ペンを一瞥した。

たけのこ軍 オニロ「素敵な話だね、アイム。
つまり心の本の一頁、一頁が『兵士の士気、情熱、やる気』そのものってことだよね!さすがはアイムッ!わかりやすい!」

たけのこ軍 社長「さすが 希望の星は 違うぜーー」

きのこ軍 アイム「おまえ…折角のオレの決め台詞をッ」


心の本。

兵士が持つ関心事だけ存在するこの本は、決して最後の頁まで書き切ることはない。
頁は無限、果てなき探求心と好奇心さえあれば、その兵士における心の本は膨大な頁数で満たされ続けることになる。

本の内容はほとんどが至極些細なものだ。その折に、自らが見聞きしたモノ・コト、感じたコトなどが雑多に、
しかし一切漏れることなく連々と今この瞬間も書き加えられていっているのである。

時折、兵士は自らの過去を心の本をそっと開くことで回想し在りし日の栄華に思いを馳せ、胸を躍らせる。
また、他人の熱き思いに充てられた時などは、元気のなかった自分も「今こそ!」という気分になり、
同時に、本の執筆に取り掛かっている心の筆は激烈な速度となる。

詰まる所、自らが積み重ねてきた本の一頁一頁が、当該の関心事への士気であり、やる気であり即ち情熱なのである。


597 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その6 :2015/10/15 23:29:49.182 ID:oMRm09hso
たけのこ軍 山本「でも、それじゃあ。古参であればあるほど心の本の頁数が多くなるというのは必然。
頁数が多いほど士気も断然高まるということになるのでは?」

きのこ軍 アイム「ところがそうはならないよ山本さん。
言った筈だ、万物事象は必ず【秩序】から【無秩序】に変化していく、と」

本は手入れをしなければ劣化していく。否、手入れをしてもいつか必ず劣化していく。

書物で劣化が始まるのは硬い表紙部ではなく、紙でできた頁本体である。
時間が経てば経つほど、紙やそこに書かれた文字は色褪せていく。紙は染み、埃が飛び、カビが生え、蜘蛛の巣を貼る。

目を凝らさないと読めない程度の視認度までに落ちた頁に対する興味は減り、頁をめくる回数は次第に減少していく。
兵士の関心事への情熱は低下していく。そして、完全に心の本の文字が色褪せ、中身が風化してしまった時、
兵士は一切のやる気を喪失するのである。


たけのこ軍 社長「か  い  め  つ」

たけのこ軍 オニロ「心の本の手入れを怠れば―すなわち関心事へ注目を払っていなければ―、
心の本は朽ちていく。兵士は士気を失う」

きのこ軍 ゴダン「なるほどなあ。日々失われつつある士気を、必死につなぎとめているのが会議所の役目でもあるわけか」

兵士のやる気の有無は、心の本の“読むことができる”頁数の多さに左右される。
アイムはそう語っている。

598 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その7 :2015/10/15 23:31:44.181 ID:oMRm09hso
たけのこ軍 791「うん、よくわかったよ。でも、その失われた士気とアイムが言わんとしていることの関係がまだよくわからないな」

きのこ軍 アイム「万物事象が【秩序】から【無秩序】へと向かうのは抗うことのできない自然則だ。

しかし、もしその変化の速度を急激に早めている“邪魔者”がいたとしたら、どうする?」

その“邪魔者”は平時から、人々の心に巣食うゴミやチリといった穢れをこよなく愛する生物だった。

たけのこ軍 オニロ「【秩序】から【無秩序】への急激な変化。有り余る士気から、士気の消失。
つまり、兵士の士気を急激に低下させている…」

たけのこ軍 791「世界から消えてしまったはずの兵士の“士気”を…邪魔者が掻き集めようとしている?」

たけのこ軍 オニロ「そして…そんなことをしようとする奴は唯一…」


全員「――DBッ!!(ジジイ!)』


599 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その8:2015/10/15 23:58:37.214 ID:oMRm09hso
アイムは全員の声に呼応するように、手に持った本を開き、勢い良く手に掛けた頁ごと引きちぎった。

たけのこ軍 オニロ「なにをするんだアイム!貴重な本なのに!
あっ、ていうかそれボクが密かに書いていた小説本じゃないかッ!ヒドイよッ!」

きのこ軍 アイム「士気は、情熱は、正しく心の本の“頁(ページ)”だと、オニロは言った。
こうして引きちぎられた頁はその兵士から失われ、結果的にそいつ自身の士気は低下する。
その頁を、【手当たり次第DBが喰らっている】と考えたらどうだ?」

スリッパ「手当たり次第、DBは兵士の心の本の頁を喰らい続けている。度重なる歴史改変がその行為を可能とさせる。
兵士の士気が、あいつにとっての“餌”だというんだな?
だから平時よりも大幅に士気が下がり、その分DBが増長する」


600 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その9:2015/10/16 00:01:11.710 ID:n5SAhc92o
たけのこ軍 埼玉「だとしたら、DBは、現代で失われた筈の兵士たちの士気をどこかで喰らい続け、
この瞬間も強大化し続けているということたま?」

たけのこ軍 オニロ「あぁ…折角中編まで書いてたのに…」

きのこ軍 黒砂糖「加古川さんが言っていたように、歴史改変と現代兵士の士気喪失は一定の相関があるのは明白」

たけのこ軍 ビギナー「つまり、こちらが時限の境界を使わずに現代に留まれば留まるほど、
歴史改変は行われDBは強大化し続ける…そして強大化したDBは現代に帰還し世界を乗っ取る。それが奴の狙いか…」

きのこ軍 アイム「そういうことだ」

悲観にくれる会議所勢。待てば待つほど、世界の大勢は悪化の一途を辿る。
そうした気持ちを予め見越していたうえで、アイムは逆転策を語る。

きのこ軍 アイム「ただ、失われた頁を貯めこんで成長を続ける醜悪な“掃除機”も――」

いつの間にかテーブルに置かれていた抹茶人形をぶっ叩くと、人形の下敷きになっていた紙は衝撃で俄に宙に浮いた。
その紙をアイムは力を込めてしっかりと掴む。

きのこ軍 アイム「本体をぶっ叩けば、頁を吐き出し元の所有者に戻る。
つまり、失われた士気は元通りになる、てことだ」

アイムは言葉を切り、ぐるりと全員を見回す。大勢は決した。
¢の慎重案支持から一転、会議所は、無茶をしてでもDBの企てを阻止しないといけないという立場を明確にした。


601 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その10:2015/10/16 00:04:23.147 ID:n5SAhc92o
やりきった思いでアイムが頬を緩めようとしたその時――


??『まさか、加古川の発言からDB騒動の企てを看破するだけでなく、慎重案を破棄するまでに至るとは。
末恐ろしい兵士だ、この世界の『秘密』を暴く一歩手前までたどり着いた推測力は、記憶を失っていても流石の一言。だが――』


瞬間、アイムは何処からか向けられる鋭い視線を感じ、背筋を寒くした。


慈愛。悲愴。冷淡。

全てを見透かしたかのようにアイムに突き刺さる“複雑な感情”を伴った其れは、
会議所の反応を見て浮かれかかっていたアイムの心を瞬く間に冷静にした。


602 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その11:2015/10/16 00:10:04.361 ID:n5SAhc92o
瞬時に視線の出処を探す。円卓テーブル内で、ほとんどの兵士は他者の意見に耳を傾け時折口を出し、
アイムを気にかけているものなどいない。
ほとんど居ないはず―――


きのこ軍 ¢と目が合うことさえなければ、アイムは先の視線をまやかしだと思い込んでいただろう。


¢とアイムの視線は交錯したまま、両者ともに離れない。
¢は言葉を発さず、ただアイムをじっと見つめている。

きのこ軍 アイム「――どうやら話し合いは終わったようだな。
¢さん、オレの提案していたハイブリッド案―時限の境界を利用しスクリプトを破壊しながら、スクリプト工場も捜索し破壊する―でいいか?」

編纂室内は静まり、皆の視線が¢に注がれる。
長い間を置いて、¢は表情を変えないまま一回だけ頷いた。

きのこ軍 ¢「――僕はそれでいいんよ」

会議所はこの日、DB討伐に向けて大きな“賭け”へと打って出た。


小さな猜疑心はやがて大きな疑念へと変わる。
アイムは未だ¢を真の敵と見なしていない。だが、一度盛り始めた疑惑の種たる篝火はなかなか鎮火しない。
少しでも疑い始めた相手は完全な味方には成り得ない。これが世間の常識であるし、アイムにとっての常識でもあった。

DBへの打開策を見つけ熱意に燃える会議所兵士勢とは裏腹に、小さな疑念がアイムの中で燃え盛りつつあった。


603 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情熱編その12:2015/10/16 00:11:54.499 ID:n5SAhc92o
ちなみに。


たけのこ軍 オニロ「竹内さんは滝本さんに呼ばれたということですけど、どうしてここに?」

竹内「それがワシにもさっぱりとわからん!ハハハッ」

たけのこ軍 社長「わんわんわしわん」

きのこ軍 黒砂糖「見ないうちに、すっかりと老けこんだな竹内さん。まだあの頃の動きは健在かい?」

竹内「もう身体を動かさなくなって久しいのお。老いぼれの日課といったら朝の散歩と昼過ぎのティータイムよ」

たけのこ軍 抹茶「…その腰に携えた長剣は」

竹内「もう何十年も抜刀してないのお。おそらく錆びて鞘から抜くこともできんじゃろ。腰の重りとしてはよう役立ってるな。ハハハッ!」

きのこ軍 アイム「おい、どうすんだよこの老いぼれ」


604 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/10/16 00:12:48.573 ID:n5SAhc92o
DBの目的がようやく公になってきた。
次からけっこう動きます。


605 名前:社長:2015/10/16 00:13:54.190 ID:xpK5m/Ns0
遂に敵の動きが。

606 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 導入編1:2015/10/20 23:51:34.288 ID:gWhnk41wo
【K.N.C180年 会議所】

たけのこ軍斑虎を擁する討伐隊は前回の工場跡地発見からまもなく、K.N.C53年に稼働中のスクリプト工場を発見した。
元々、大戦年表ではスクリプト工場の建造、破壊日時などの情報は一切示されない。
大戦に関し、さらにあくまで表向きの情報しか大戦年表は記載しないのだ、とスリッパたちは結論づけた。
その様をオニロは「オリバーも気まぐれだなあ」と、自動筆記ペンのせいにした。

そのため、半ば人海戦術のようなもので工場の破壊に当たらなくてはいけないので、気力との戦いでもあった。
その中で、幸先良く斑虎たちは一回目で工場を発見した。


工場は完全に無人で稼働していた。幾多の小型スクリプトが、巨大スクリプトを製造し続ける無機物の饗宴を目の前にして、
斑虎たちは大きな衝撃を覚えたものの、迅速にかつ的確に破壊した。


607 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 導入編2:2015/10/20 23:53:17.678 ID:gWhnk41wo
スクリプト工場の破壊は、すぐさま“時空震”として編纂室に歴史改変が通知される。
スクリプト工場を破壊したための改変通知ではない。

過去の討伐隊が“討伐した筈の”スクリプトたちが、今回の工場破壊によって謂わば未然に破壊されてしまった。
つまり、件のスクリプトは、過去の年代で大戦を中止させる悪行を働く前に破壊されたという歴史に“上書き”される。

アイムたち討伐隊が破壊したという歴史も無くなるため、その帳尻合わせのための時空震が発生するのである。

608 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 導入編3:2015/10/20 23:57:54.376 ID:gWhnk41wo
過去に参加した討伐隊全員は、歴史の流れから身を守るシェルターでもある編纂室で過ごす機会が必然的に増加した。
徒に外に出て改変の煽りを受けると、歴史再構築の流れによっては、自身の存在に危険を及ぼす可能性があるためである。
編纂室で地震に関する歴史改変の瞬間を迎えてしまえば、その後に地上に出ても自らの身に変化はない。
過去の経験から証明されている。


実働メンバーは、前述のことから、基本的に編纂室から外出することはなくなった。
そのため、ただでさえ人気のない会議所に拍車がかかり、遂には“過疎所”と一部の兵士たちから揶揄されるようになってしまうのだが。
それはまた別の話。


609 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 導入編4:2015/10/21 00:03:37.434 ID:bVkP.1Nco
また、スリッパを始めとした幾人かの兵士の予想通り、スクリプト工場は一拠点だけではなかった。
幾多のそれぞれの歴史の時代に、スクリプト工場を作っては破棄し、また作っては破棄するを繰り返していた。

同じ場所のK.N.C53年にスクリプト工場が建造、破棄されたら、残党はK.N.C100年に移動し、同じスクリプト工場を建造し
一定数のスクリプトを生産したらすぐに破棄する。ひたすら繰り返す。時限の境界にスクリプトが存在し続ける限り。
時限の境界に留まり続けるスクリプトたちは、自分と姿が同じ物言わぬ同士をそのような手段で急速に拡充していった。


そのような状況が徐々に明らかになる中で、アイム発案によるハイブリッド作戦
――時限の境界を利用しスクリプト&スクリプト工場の捜索、破壊の同時進行―は、会議所兵士の士気の高さも相まって、
徐々に効果を出し始めていた。

アイムのように見えざる制約に触れること無く、討伐隊は時限の境界を使って任務を遂行し続けた。
隊員たちは必ず前もって改変する年代を決めてから時限の境界へ突入し、時限の扉をくぐる際は隊員通しで必ず手を繋いだ。

討伐隊員が時限の境界を恐れず、歴史の波にのまれ続けていることも大きかった。
慎重論派の筆頭であった¢も、一度会議で方針が決まってからというもの、一度も不平不満を漏らさず寧ろ進んで討伐隊に参加した。
彼の真摯で寡黙な態度が、会議所勢の士気をさらに向上させたことは疑いしれない。

アイムも¢の行動に深く感銘を受けた一方で、先日の一件から彼を完全に信用しきれない思いがあることもまた事実だった。


610 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 導入編5:2015/10/21 00:10:58.941 ID:bVkP.1Nco
工場を次々に破壊し、歴史を修正し人々の心の本の“ページ”を修復していく。
長く行われなかった大戦に対して声を上げる気力すら失っていた民衆は、俄に会議所に対して不平不満を語り始めた。
それは一般兵士に徐々に活気が戻りつつあるという証拠に他ならない。

だが、その士気は意外な方向性に向けられた。
一部民衆の声は、歴史修正を行うほどに大きくなり、今では集落内で会議所デモを起こすほどには復活した。
兵士たちは口々に会議所に向かって思いの丈をぶつけ始める。

「大戦を指揮しない会議所はどうかしているいッ!」
「神に祈りお願いし続けた!しかしその縋る神などいなかったッ!信じられるものなどないんだッ!」
「出てこい会議所勢ッ!お前らの顔を見せろッ!」

定例会議でその様子を報告した加古川は、苦笑しながら次のように締めくくった。

加古川「まあ両軍問わず、大戦の開催を望む者は徐々にではあるが増えてきている。熱気があるのはいいことだな。
…その熱意が別のものに向けられなければ、の話だがな」

兵士たちからの意外な罵倒に、思わずアイムとオニロはお互いを見やり不思議な気分に陥った。

オニロ「神などいない…か」

アイム「まあオレは無宗教だからいいがな」

社長「百合神さまの強さはガチ」

しかし、こうした兵士の声はほんの一部であり、未だ大衆は大戦への意欲を失い続けたままである。
スクリプトの完全撲滅、加えてDBの捕獲・討伐を果たさないかぎりは、以前のように活気に満ち溢れた世界には戻らない。
会議所は戦い続ける。兵士の熱意を取り戻すために。たとえその兵士たちから非難されようとも。

611 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 導入編6:2015/10/21 00:13:04.901 ID:bVkP.1Nco
四季は移り変わる。それでも年度は進まない。

オニロは如何なる時も編纂室で地下部隊の要として、大戦年表とともに歴史の傍観者で在り続けた。
目の前でアイムたちが命を賭して戦うのをオニロは地下から待ち続けることしかできない。
一緒に戦えない無念さはいかようなものか。討伐隊を送り出す以外に、オニロの顔は終始暗いものだった。
そんなある夜。

791「やあ浮かない顔だね」

オニロ「師匠ッ!部屋で寝ていなくていいんですか」

791「オニロこそ寝なくていいのかな?」

オニロ「ボクは…歴史を観測する必要がありますから。みんなが頑張っている時に、一人寝ていることなんてできません…」

791「アイムは筍魂さんから『戦闘術・魂』を伝承したらしいよ。すごいね」

オニロ「はい、やっぱりアイムはすごいですね…」

791「…強くなりたいかい?」

オニロ「強くなっても使う機会がなければ意味がないです…強くなんてなりたく――」

791「私はね。嘘つきと意気地なしが何より嫌いなんだ。わかっているだろう?」

791「思い出せ。あの時の訓練を」

オニロ「…ボクが間違っていました。お願いします、師匠」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

612 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/10/21 00:13:26.850 ID:bVkP.1Nco
この辺の話はいずれ外伝としてかけたらいいですね。

613 名前:791:2015/10/21 21:38:25.278 ID:BgX9UIbUo
>>595
たけのこ軍 抹茶「おい待て」
抹茶さんは、この後おしっことお漏らしの違いについて語りたかったに違いない

>>612
魔王791が愛弟子を一人前に育て上げる、愛と感動のストーリーに違いない

614 名前:社長:2015/10/22 00:35:50.356 ID:vPw9oc.E0
魔王様の最強キャラ感。

魔王様が関わる話はこっちも構想中なおいろいろとお話終わらせよと突っ込みやめて。

615 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 慟哭編その1:2015/11/02 00:02:34.846 ID:72l30Wboo
【K.N.C??年 ???】

???「何かがおかしいですよなァ」

薄暗いホールの中央に居座る巨大で醜悪なる異形のモノは、ぽつりとそう疑問を投げかけた。
刻一刻と変貌しつつある状況の変化に、困惑を隠すことができていない面持ちである。

???「なぜ、奴らは“工場の在処”を把握しているんだッ」

怒気をはらんだ不快な音波は、伽藍堂としたホールによく反響した。怒りとも嘆きともとれるその声に、しかしさしたる反応はない。
彼の側に居たスクリプトは軒並み消えてしまった。過去に点在した工場をDB討伐隊が破壊する度にスクリプトたちは消えてしまった。

討伐隊に直接、手を下されてずに消えたものも数多い。
歴史の整合性のために、世界は、工場生産のスクリプトを一体、また一体この騒乱の中で消え失せているのだった。

616 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 慟哭編その2:2015/11/02 00:04:21.190 ID:72l30Wboo
討伐隊が工場の存在を突き止めることは、異型のモノにとっては想定内だった。スクリプトの増加を鑑みるに、会議所がスクリプト工場に辿り着くのは時間の問題だ。
だからこそ、工場を数多の時代に点在させた。スクリプトに一任させ、スクリプトがスクリプトを生産させる無限サイクルを作り上げた。

数多の時代に点在するうちの一つが破壊されたところで大した打撃ではない。たまたま討伐隊が工場1箇所を見つけられたとしても、その間にもスクリプトたちは工場を増産しスクリプトを量産する。
そして、大戦の歴史をスクリプト敗北のものに書き換え、兵士の士気を完全に吸収する。

計画はおおまかにこのようなものだった。計画の始動時点で、彼とスクリプトは勝利を確信さえした。
最初の頃は高笑いが止まらず、感情がないはずのスクリプトさえ、その時はもんどりをうって喜びを前面に押し出していたように思えた。


617 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 慟哭編その3:2015/11/02 00:07:20.899 ID:72l30Wboo
しかし、討伐隊はまるでその余裕を嘲るかのように、迅速すぎる程に各年代の工場を発見、破壊していった。

数多の工場を個々に特定していくのは、工場稼働の一年代を特定してないといけないという条件上、不可能といっていい。
また、時限の境界を使用する際に避けては通れない【制約】を考えると、総当りで過去の年代へ突入するといった大胆な行動は制限される筈である。

過去の改変で現在の会議所兵士に多大な影響を与える可能性もある。
それこそ、会議所に情報を漏らす内通者がいるか、会議所が“魔法”でも使わないかぎり、工場特定は不可能なのだ。

???「…まさかッ」

ハッとしたように口を半開きにする。開け放たれた口内から、毒々しい吐息が静かに霧消していく。

???「会議所内にも存在するんですかねェ…“ここ”と同じような場所がッ」

自らの居る場所を指し示すかのように、異型のモノは脚を二度、三度踏み鳴らした。


―――


彼は、時限の境界の【制約】を全て把握していた。

否、スクリプトとともに“事前に”知らされていた。


―――

618 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 慟哭編その4:2015/11/02 00:10:55.291 ID:72l30Wboo
━━
━━━━

最早、彼にとって遠い過去のように思える、運命を分けたその日。彼とスクリプトを閉じ込めていた牢は何者かによって突如として開け放たれた。
大戦中で会議所内の兵士が全てで払っている中、びくびくとしながら牢を飛び出し、急いで会議所を脱出した彼は。
その傍らにいるスクリプトとともに、突如頭の中に響いてくる【声】を聴いた。


――『君たちは、いまからとある場所を目指さないといけない』

――『【時限の境界】。そこは、過去へ時間跳躍できる力を持つ場所だ。また、時限の境界内は【歴史改変の影響を受けない】、いわば歴史の波から君たちを守るシェルターだ。有効に使うと良い』

――『安心してほしい。会議所の、きのたけ兵士たちには、今から話す内容を決して口外したりはしないよ。君たちだけのものだ』


???「な、なぜオレ様たちにそこまで教える。怪しいですなァ」

【声】は冷静に、彼を諭した。


――『君たちは、この牢から逃亡するという選択を選んだ。即ち、会議所との全面対決に他ならない。我々はその選択を大いに歓迎するよ』

――『いつの日か、君たちの行方を追跡するために、会議所から討伐隊が結成されるだろう。その時において、【時限の境界】は重要な意味をもってくる』


???「な、なるほどォ!フハハハッ、オレ様とスクリプトはその時限の境界に逃げ込み、会議所勢を迎え撃てばいいわけだなッ!痛快ッ!愉快ッ!愉悦ッ!」


619 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 慟哭編その5:2015/11/02 00:16:12.102 ID:72l30Wboo
――『ただ、時限の境界には【制約】が存在する。この【制約】を理解しない者には然るべき罰が与えられる。今から、君たちには、その制約の全てを訓えよう…』

━━━━
━━

時限の境界は、“歴史改変の影響を受けない空間”である。
始めに【声】から受けた説明だ。

仮に、同胞のスクリプトが、世界を創り変えるほどの歴史改変を過去にて行い、自身の存在が危ぶまれたとしても、時限の境界内にいればその影響は一切受けない。
たとえば、過去の時代において自分が存在を消されてしまったとする。その歴史改変を、時限の境界内で過ごしていれば、自分という存在は残る。
時限の境界で歴史改変の瞬間をやり過ごしてさえしまえば、自らの身は保証される。
この事実は、彼に多大な安心を与えた。

とはいえ、時限の境界の【制約】により、時限の境界内に長時間留まり続けることはできない。
跳躍先の過去においては、時限の境界(シェルター)から出てしまうため歴史改変の影響を受けてしまう。その行動には細心の注意を払わなければいけない。
そして、彼の元から消え去ったスクリプトたちは、跳躍先の過去で討伐隊による再改変の影響を受け、次々とその存在ごと抹消されているのだった。


620 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 慟哭編その6:2015/11/02 00:17:49.083 ID:72l30Wboo
???「時限の境界と同等の機能を有した場所が存在する筈だ。いや、寧ろそれ以上だァ。たとえば、“大戦歴史を逐一確認できる場所”とかなァ…」

彼は、【大戦の歴史を変えないと現代に戻れない】という時限の境界の制約を知っている。
これ程までに正確に工場を破壊してくる様は、会議所側に歴史を逐一閲覧できるシステムが存在してもおかしくない。そう考えた。

彼の読みは概ね正しかった。ただ一つの読み違えたとすれば、会議所側もスクリプト工場設立の時代を正確に把握しているわけではないということだった。
そのため、会議所側は半ば総当りに近い工場捜索作戦を実施している。
ただ、スリッパ発案によりある程度の年代絞り込みがあった上でのことだが、当の異型のモノは知る由もない。

621 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 慟哭編その7:2015/11/02 00:25:08.775 ID:72l30Wboo
???「オレ樣自身で動かなくてはいけないのか…いや、しかしィ今ここで動くわけにも…」

一時期自身の元に集まっていた兵士の“士気”も、討伐隊の歴史再改変により、今は彼の手を離れ元の兵士の下に戻りつつある。
彼は悩んでいた。兵士の士気を喰らうことが必要だった。
ただ、今ここで崩壊一歩手前のまま外に姿を見せるのは会議所側の思惑通りといっていい。即ち、敗北の二文字。

そして、悩んでいる間にも時限の境界は彼をまた次の過去へと引きずり込むべく彼の脚を見えない力で掴む。
同時に、謎の吸引力を感じながら、彼は手近に居たスクリプトの脚を掴み、歴史改変の行動共有を取るための準備を整える。

会議所側と同じく、彼にもまた十分に思案するだけの時間は残されていない。
ふわりと宙に浮く感触を得ながら、思考を張り巡らせる。そして、扉をくぐる直前に、彼は閉じていた両の瞳をかっと見開いた。
どうやら最善手の行動を発見したようだが、時間跳躍の衝撃でその閃きを維持できたかどうかは定かでない。

時限の境界が微かに揺れる。時代跳躍を行う際、時限の境界は微かに空間全体が微弱に震動する。
両陣営を翻弄してやまないこの空間も、彼らの時間跳躍が済めば、束の間の休息に入る。
長い間、震動するその揺れは、まるで近く訪れるであろう決戦を予期させた武者震いのように、時限の境界は両陣営の動きを観戦者として見守り続ける。

622 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2015/11/02 00:26:05.523 ID:72l30Wboo
徐々に明らかになっていく裏側。謎の【声】さん万能説。

623 名前:社長:2015/11/02 00:30:52.819 ID:YK2TJf/s0
何故声の主はDBと協力するのだろう?声の主も世界崩壊でも目指してるんだろうか

624 名前:社長:2015/11/17 17:43:50.803 ID:TJ1iY9R20
てかマテや >>603の滝本さんって誰だよ。

625 名前:きのこ軍:2015/11/19 18:39:34.293 ID:qOWLVtxs0
>>624
きれぼし脳は誤字脱字に厳しい。

正しくは
滝本→シューさん
どうして間違えてしまったんだろうか…

なんとか今月中の更新を目指します。

626 名前:たけのこ軍:2015/12/05 23:27:52.116 ID:M3Ohlnhk0
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/765/wars1.png
アイム

http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/766/wars2.png
オニロ

まあクオリテーは期待しないで。あとオニロ君の性別がどっちなのか感がする。。。

627 名前:きのこ軍 :2015/12/06 16:03:48.876 ID:XeND0tuM0
>>626
感謝感謝なお感謝
オニロ君長髪ポニーテールは採用させてもらおうそうしよう。
やったぜ。

628 名前:きのこ軍 :2015/12/06 16:11:09.408 ID:XeND0tuM0
更新しなくちゃ(焦燥感)

629 名前:たけのこ軍 援護兵 Lv1:2015/12/06 16:31:38.242 ID:07wBGBBYo
>>626
2人とも性格のイメージがちゃんと表現されてるね!

>>628
これは更新宣言

630 名前:きのこ軍:2015/12/31 18:18:31.869 ID:Bkzcex/wo
結局今月は忙しくて更新できませんでした、すみませぬ…
来年中の完結目指します!

631 名前:きのこ軍:2016/02/14 22:53:59.272 ID:BAYhqydco
今週中には更新できると思います。頑張ります。

632 名前:きのこ軍:2016/02/21 11:35:27.564 ID:gMmpaUS.o
よくわからないあらすじ

・これまでのあらすじ

“大戦”を運営する『会議所』は、日に日に増大する大戦参加者の士気・意欲低下に頭を悩ませていた。
その最中、会議所に流れ着いたアイムとオニロは、社長の【占い】により、『大戦の希望』として鍛えられる。(Chapter1まで)

そんなある日、会議所で捕らえていたはずの世界の宿敵【DB】、【スクリプト】が脱走していたことが判明。同時に、DB一味は、禁忌のマップ『時限の境界』で、故意に会議所不利の歴史に改変していることも明らかになる。
世界の危機を救うため、参謀を隊長とするDB討伐隊は、すぐさま『時限の境界』に突入するも、内部に潜むスクリプトや、時限の境界の【制約】の前に悪戦苦闘。結局、DBの姿すら確認できずに、撤退を余儀なくされる。
自身の不甲斐なさを悔い、アイムは戦闘術魂の伝承者・筍魂に弟子入りを志願。オニロとの絆を深め、師からの教えを理解したアイムは、再び時限の境界へと突入する。
しかし、新たな【制約】により、アイムは独り過去の時代に閉じ込められてしまう(Chapter2まで)

それでも持ち前の機転と戦闘術魂を利用し無事現代に帰還したアイムは、会議所の中心的存在だった集計班が突如として姿を消したことを知る。悲観に暮れる間もなく、竹内の加入を経て、
会議所は遂にスクリプト大量増殖の問題に触れることとなる。それは、過去のあちこちにスクリプトたちが【スクリプト工場】を製造し、過去の時代に送り込んでいるという、ネズミ講のような恐ろしい実態だった。
すぐさま、時限の境界に潜んでいるDBの捕獲及び工場破壊の『ハイブリッド作戦』が開始されたのであった――――



633 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その1:2016/02/21 11:37:28.198 ID:gMmpaUS.o
【K.N.C180年 時限の境界 入口前】

スリッパ「段々と、ここに来るのがライフワークになってきたな」

筍魂「わかる(真顔)」

額の汗を拭い、スリッパはサラから渡された水筒の中身を一気に飲み干した。
炎天下の下、転移魔法陣から下りた討伐隊一行は時限の境界に向かって歩を進める。

朱の鳥居群の隙間から差し込む陽がアイムの目に刺さる。橙と朱の代る代るのコントラストは、視界だけでなく思考をも狂わせる不思議な空間になっていた。
狂った思考といえば―――アイムは先頭を歩くスリッパの背中をじっと見る。背後にいるサラが、主人を守る猫のようにアイムを見てくるが、気にしない。
アイムには今のスリッパを信じきることができないのである。原因は、先日の会話の一幕に因るものだった。


634 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その2:2016/02/21 11:39:06.602 ID:gMmpaUS.o
━━━━
━━
スリッパ「なぜDBは歴史改変を続けるのか、考えたことはあるかい?サラ、紅茶を頼む」

今日も慌ただしく討伐隊が出立した後、すっかり会議所の一員となったスリッパは静かに問いかけた。

オニロ「ボクも気になっていました。DBはどうしてこんな面倒くさい手段で襲撃しているのかなって…」

アイム「どうしてって…歴史改変で兵士の士気を“奪って”、会議所を支配するのが目的だろう」

非番のアイムは紙の山に寝そべる。ふわりと柔らかい感触は、無き集計班の置き土産としては上出来だ。オニロは不満気ではあるが。

スリッパ「会議所を支配したいのなら、そう歴史を書き換えればいい。『DBが会議所を支配する』と改変し、現代に戻ってきたらその瞬間、覇者だ」

アイム「それができたら奴も苦労しないだろう」

スリッパ「その通り。DBには【できない】。大量のスクリプトを従えて、過去の時代の警備が手薄な時代の会議所に乗り込んでしまえば、それで終わりだというのに」

二人の話を横で聞いていたオニロは、ひらめいたようにポンと手をついた。

オニロ「そうか、DBは【恐れている】んですね」

スリッパは大きく頷く。テーブルに置かれているクッキーを齧る。

スリッパ「恐らく、奴は過度な歴史改変に因る修正を恐れている」

竹内「おーいアイムや、飯はまだかの」

アイム「うるせえ爺さん寝てろ」


635 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その3:2016/02/21 11:40:30.065 ID:gMmpaUS.o
アイム「過去の大幅な歴史改変は、自分の身を危うくする。若しくは奴自身もどのような副作用が起こるか予想し得えていない。だから迂闊に手を出せないのか」

スリッパ「ひたすら大戦の歴史改変に拘り続けているのは兵士の士気を奪う意外にも、奴なりの安全策ということだろう。
その結果、“宝の山”たる時限の境界に、あんな醜悪な化物が篭もりきりになったことは皮肉だけどね」

スリッパの“宝の山”という表現に、アイムはどこか気味悪さを覚えた。

アイム「おいスリッパさんよ。職業柄、あんたが時限の境界に憧れるのはわからなくもないが。あそこは宝の山でも楽園でもないだろ」

オニロ「ボクは目にしたことがないけど、確かにみんなを苦しめているだけの場所のような…」

アイム「過去へのタイムワープなんて弊害しか生まないさ。過去は覗き見できるかもしれないが、本来は修正なんてできるわけない。【過去なんて本来変えるべきものではないんだ】。
過去の経験、記憶を蓄積させたものが今の自分であって、それを真っ白にしてしまえば、それは死んだも同じ――」

スリッパ「そんなことはないッ!!」

突然の剣幕に、アイムは驚いて二の句を継げなくなった。


636 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その4:2016/02/21 11:42:09.972 ID:gMmpaUS.o
スリッパ「DB達は使い方を間違えているだけだ、正しい運用方法で時限の境界は素晴らしいタイムワープ装置となり得るんだッ!」

勢い良く立ち上がり、まくし立てて喋るスリッパを前にアイムとオニロは閉口した。気味が悪い。二人は純粋にそう感じた。

スリッパ「君たちにはわからないのか、あの時限の境界の素晴らしさがッ!望んだ時代へ往来できる高い利便性、何度でも使える簡易性だッ!」

スリッパ「今の自分を殺してしまう?確かに、客観的に見ればそうかもしれない。ただ、記憶は残る。そう、過去はやり直せるんだ!そうだ、あの時だってッ時限の境界を利用さえすればッ――」

コツン。

スリッパの背後から、サラが静かにティーカップを置く。しかし、その音は目の前が見えていないスリッパの中に瞬く間に響き渡り、彼を冷静にした。
瀟洒なメイドサラの主人への意思表示を、二人は初めて見た気がした。

スリッパ「――すまない。熱くなりすぎた」

脱力したように着席し、一口紅茶をすする。後には、居心地の悪い静寂が残った。

━━━━
━━


637 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その5:2016/02/21 11:43:28.549 ID:gMmpaUS.o
スリッパは時限の境界を識者として評価しているのか、それとも過去に戻りたいから、あのように激昂したのだろうか。
アイムにはわからない。
ただ、¢はDBに、そしてスリッパは過去に固執している。¢に続き、またも仲間に疑いの目線を向けてしまっている。
自身の冷淡さにうんざりしてしまう。

筍魂「おい愛弟子よ」

アイム「なんだよバカ師匠」

前を歩いていたはずの筍魂は、いつの間にかアイムの横にぴったりと付いていた。時折、こうして気配を殺して筍魂はアイムを吃驚させることがある。
気配を操るから当然の事だと本人は語るが、ただ単に存在感がないだけではないかとアイムは勘ぐっている。

筍魂「気を抑えろ、お前の不安、疑念をひしひしと感じるぞ。感情をコントロールしきれないことが、お前の欠点であり長所でもあるが…これでは一人前の魂・伝承者にはなれないな」

アイム「いや、元よりなる気はないんだが」

ただ、と筍魂は途端に声を潜める。

筍魂「俺にもなにか良くないことが起こる“予感”はある。粘りつくような風が吹きつけているのがその証拠だ。このまま、無事帰ってこられればいいがな」

アイムは顔を上げる。朱の鳥居を抜けると、そこには毒々しく禍々しい、辟易とするほど真紅の鉄扉が見えてきた。


638 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その6:2016/02/21 11:46:53.216 ID:gMmpaUS.o
【K.N.C180年 時限の境界】

ビギナー「さて、今回は何年にいけばいいんだっけか」

スリッパ「K.N.C125年だ。この近辺の年で比較的新しいスクリプト工場の痕跡があるのは確認済みだ。もしかしたらスクリプト工場が見つかるかもしれない」

年代が記されたメモを見ながら、一行は時限の境界を歩いて行く。スリッパを中心に、ビギナー、筍魂、アイムそしてサラが円形陣で防衛している布陣だ。

―――『いよいよだね』

アイムの頭のなかで、いつもの通り謎の声が語りかけてくる。
はいはいそうだな、とおざなりな対応でアイムは先に進んでいく。



暗い。時限の境界の内部は、底なし沼のようにどこまでも暗い。その暗黒の中を、ひたひたと一定のリズムの足音で徘徊する者がいる。
彼は急いでいた。未だ策敵しない強大な敵集団から逃れるべく、今日も時限の境界内を移動し続ける。

??「ハッ、ハァハァ…」

彼は同胞達を探していた。
孤独はもう御免だ。地下で収監されていた頃の生活を思い出し、額の汗を拭う。
彼は好んで暗闇で暮らしたが、元来の小心ぷりからか、独りでいることに恐怖感を覚える性質だった。歩く速度が早まる。
スクリプトが隣にいた頃は、母親の胎内のように居心地の良さを感じた。だが、その同胞も今は数えるほどしか残っておらず、
それを嘲笑うかのように、その暗闇は底なし沼のように彼を暗い未来へと引きずり込もうとしていた。
未来は確定されていない。そう、目の前の空間があれば過去は、そして未来は変えられるのだ。自身の雑念を振り払うかのように、歩を早める。

恐怖に慄く彼は、目の前の異変に気が付いていない。
いつもの彼なら聴き逃さない、複数の足音が彼の下に、刻一刻と近づいてきていることを。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

639 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その7:2016/02/21 11:48:47.207 ID:gMmpaUS.o
スリッパ「次のホールを抜ければK.N.C125年の扉に辿り着くぞ」

何度となく読み返されてきた時限の境界マップを手に、スリッパは先を急ぐ。

ビギナー「しかし、スクリプトが全然見当たらないな」

筍魂「最近はフロア内に居るスクリプトもめっきり数を減らしてるな。この勢いじゃあ、DBを見つけるのも時間の問題かもしれないな」

アイム「そう簡単にいけばいいんだけ―――」











その時は、突然訪れた。





ホールに足を踏み入れた一行は、中心で蠢く、どす黒い“異型のモノ”と目があった。


640 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 運命編その8:2016/02/21 11:51:27.504 ID:gMmpaUS.o
心臓が早鐘を打つ―― 
     呼吸を忘れるほど、口をあんぐりと開けたまま―― 

俺たちは悟る―― 
     俺様は理解する―― 

彼こそが――               
     彼らこそが――

血眼に探していた会議所の宿敵であり――  
     追撃から振り切らなければいけなかった宿敵であり―― 

一連の騒動を引き起こした元凶でもある――  
     俺様を狂わせた元凶でもある―― 

絶対に出会わなければいけなかった存在である―― 
     絶対に出会ってはいけなかった存在である―― 

その名は――
     その名は――





アイム「DBォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

DB「会議所一味ィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッ!!!」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

641 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/02/21 11:53:08.565 ID:gMmpaUS.o
投稿を開始してから2年半、ようやく会議所がラスボスと出会いました(白目)
全体で見ればそろそろ佳境です頑張ります。

642 名前:社長:2016/02/21 17:41:17.936 ID:F7k9y9fw0
ついに現れたDB。ただまだ1章分あるてことはまだひと波乱ありそう。

643 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会敵編その1:2016/02/27 23:22:29.016 ID:3t.Kr4Eso
両者ともに呆気にとられ、一歩も動けない。だが、最初にたじろいだのは討伐隊員だった。

スリッパ「予想していたとはいえすさまじい腐臭だ…」

彼の身体から放たれる刺激臭は、2〜3m離れた位置でも臭うほど自己主張が強い。

ビギナー「なんてグロテスクな外見なんだ…」

筍魂「一理ある」

DB「……」

常人の二倍ほどの縦横幅はある図体は、存在自体が醜悪だ。身体の形状こそきのこに似ているが、笠となっている頭頂部は不自然に尖り、腹は中年兵士のように膨らみダボついている。
また、何度も時間跳躍を繰り返し、砂埃にまみれた身体は不気味な黒光りを放っている。
胴体からおまけのようにちょこんと生えた手足が間抜けさを誘う。しかし、一足動けば、車輪のように高速で足を動かすさまは、古来より忌み嫌われてきた害虫を連想させる。

討伐隊の面々が思わず顔を背ける程の状況の中、ただ一人、アイムは目の前の異型のモノを直視したまま動かなかった。

アイム「…お前が、DBか」

アイムの中の既視感。この感触は、大戦年表編纂室を初めて訪れた時と同じ。
初めてなのに初めてでない。
自分のことなのに自分がわからない。記憶を失う前、DBと会敵したことがあるというのか。


644 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会敵編その2:2016/02/27 23:25:25.298 ID:3t.Kr4Eso
DB「…アァ」

討伐隊員と同じく、未だ混乱しているDBだったが、目の前のアイムを見て思わず声が漏れる。
パニック状態に陥っても仕方ない状況下の中で、DBは瞬時に策を巡らせ、自身の未来を決め、不敵にニヤつく。
這いつくばってでも諦めず生き延びる術を探しだす。これこそがDBの強みだった。

DB「――なんだ。“君”、一人だけかァ」

アイム「なんだと…?」

ニタニタとDBが口角をつり上げる。

DB「“相棒”に伝えておけ、『すぐに迎えに行く』とねェ…」

DBの舐め回すような視線に、思わずアイムの背筋にゾクリと悪寒が走る。
この視線は初めてではない、身体がそう告げている。

アイム「うる…せえッ!!」

風切り音とともに、アイムの手から放たれた短刀がDBの頬を掠める。


645 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会敵編その3:2016/02/28 00:12:23.130 ID:HqJ60wngo
DB「ひ、ヒイイイィィィ!」

思わず耳をふさぐような金切り音がホール内に木霊する。アイム以外の討伐隊員が途端に意識を戻す。

スリッパ「…サラ、頼むッ!」

スリッパの背後に構えていたサラが流れるような所作で、用意したクラスター銃で大量のベビークラスターを放つ。

筍魂「よくやったぞ弟子!捕獲だッ!DBを捕獲するッ!『いわなだれ』!」

ビギナー「うおおおおおおおおおお」

それに続き、筍魂がDBの頭上から石塊を降らせ、鉤爪を研いだビギナーがDBを捉えに走りだす。連携は完璧だった。

DB「た、助けてくれェェェェェェ!」

喚き散らしながら、DBは両の手を地面に付いた。そして、四本足で走る獣のように、また部屋を動きまわる害虫のように、
縦横無尽にホール内の天井を駆け回り連携の取れた攻撃を交わした。

スリッパ「サラ、次弾装填を急げッ!筍魂さん、敵をホールから逃がすなッ!」

筍魂「かしこまりッ!いでよ、リフレク――チッ!!」

ホールの四方に壁を貼りDBを閉じ込めようと目論んだ筍魂だったが、その四方から登場したスクリプトたちを前に詠唱を中断し、防戦態勢を取った。
一転、筍魂たちは追い詰められてしまった。

DB「ふは、フハハハハ!形勢逆転だな、ではさらばだ君たち!」

アイム「逃げるぞ、追えッ!どうせ奴は時限の境界からは逃げられない!」


646 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会敵編その4:2016/02/28 00:26:29.749 ID:HqJ60wngo
DBは逃げ続け、アイム達は追い続けた。時代のホールをひたすら走り抜けるDBを、スクリプトの残党が足止めといわんばかりの抵抗をする。
果てもないイタチごっこを繰り返し、そろそろ頃合いだと睨んだDBは、“ある扉”の前で立ち止まった。

DB「それではさらばだ諸君。スクリプト君、“しっかり”と頼んだよ」

間髪をいれずに、DBは扉をくぐり過去の時代へワープする。それを見届けたスクリプトたちが、行方を追うアイムたちの妨害をする。

アイム「そこをどけッ!ビギナーさん、DBはどの扉に入ったッ!?」

ビギナー「【8の扉】だッ!ただ、ここが何年のホールかはもうわからないッ!」

スクリプトの猛攻を凌ぎながら、ビギナーは大声でアイムに答える。

時限の境界は、ホール毎に存在する扉に【0】から【9】の数字が割り振られている。
一つのホールごとに10年ずつ時が進んでいるので、K.N.C60年台のホールの【5】の扉をくぐれば、扉の先はK.N.C65年となる。
アイム達はDBがXX8年の時代に飛び込んだのはわかったが、正確な年代までは特定できていないのだ。

スリッパ「スクリプトたちめ、最期の勢いとばかりに攻勢を強めてやがるッ!このままじゃあ、ホールから押し出されるぞッ!」

筍魂「走り回って体力も奪われつつあるな、ぜえぜえ。これじゃ¢さんを笑えないな」

ビギナー「ひとまず戻るか、待てば海路の日和ありだッ!」


647 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会敵編その5:2016/02/28 00:28:53.530 ID:HqJ60wngo
―――『時間切れ』

アイムの頭のなかで響く針の音がカチリと止まる。それは時限の境界内での移動のタイムリミットを意味する。

アイム「…どうやらそうはいかないらしい。【時間切れの制約】で、近くの扉に吸い寄せられるぞッ!」

スリッパ「なんだとッ!DBめ、時間をかけて逃げ回っていたのは、この時のためかッ!」

アイム「みんな、力を貸してくれッ!なんとかして目の前のスクリプト群を突破して、DBの入った扉に辿り着くぞッ!!」

ビギナー「承知ッ!ビギナーズラックの申し子、ビギナー!いざ推して参るッ!!」

スリッパ「サラ、ビギナーさんの援護を頼むッ!みんな、二人の後に続けッ!」

ゆらりとした豹の構えからビギナーが決死の力でスクリプトへの突破口を開くため突進する。
ビギナーの後ろからは、サラが、両手に構えた大筒からアイスの実弾を次々に発射しスクリプトを怯ませていく。

筍魂「ぜぇぜぇ。弟子よ、最早私はこれまで…会議所に戻ったらきのこ軍に伝えてくれ、“やはりきのこの山は不味い”とな」

アイム「てめえ、¢さんみたいに少しでもその場でヘタってみろッ!尻を蹴飛ばしてでも這い上がらせてやるからなッ!」

スリッパの後をバテ気味の筍魂、殿をアイムが続く。巨大スクリプトNEXTの足元をすり抜け、ホールの中盤へ一行は進んでいく。
すると――


648 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会敵編その6:2016/02/28 00:31:48.265 ID:HqJ60wngo
ビギナー「うお、身体が勝手に宙にッ…!」

スリッパ「時間切れかッ!しかし目論見通り、全員【8】の扉に吸い寄せられていくぞッ!」

アイム「よっしゃッ!これで【制約】もクリアし…た…し」


――【制約V】 時限の境界で複数人が時限跳躍をする際。
互いに身体の一部分でも触れたまま全員が一緒に時限の扉を通れば、時限の境界に関する制約状況は互いに、“共有”される。


今の状況では全員がバラバラに扉に吸い寄せられていっている。つまり、歴史改変の情報を互いに“共有”できない。
一人ひとり、別の歴史改変が必要になる。
アイムの頭の中を、K.N.C55年に閉じ込められた時の記憶が掠める。このままではあの時の二の舞いになってしまう。

アイム「まずいッ!みんな、互いの服でも掴みあって――」


649 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会敵編その7:2016/02/28 00:33:45.098 ID:HqJ60wngo
瞬間、鋭い風切り音とともに、緑色の触手がアイムの身体に巻き付く。
残りの隊員も一様に、宙に浮きながら謎の触手に巻き付かれている。触手の出処を辿ると――

筍魂「『つるのムチ』、これで【制約】は問題ないだろう?」

アイム「――やればできるじゃねえか、バカ師匠ッ!追うぞ、DBをッ!」

全員はひとまとまりになったまま、開け放たれた扉をくぐる。
DBを追いかけるために幾度と無く繰り返された過去の時代へのワープを行うのだった。

650 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/02/28 00:36:41.218 ID:HqJ60wngo
きゃー魂かっこいい(黄色い声援)そしてビギナーさんかっこいい。
今日のカード更新。遂にラスボス登場です。

http://dl6.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/782/card-26.jpg

651 名前:たけのこ軍:2016/02/28 01:35:28.881 ID:kRuAvnE20
さすが魂

652 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その1:2016/03/06 23:32:22.358 ID:3p9ZTm1.o
【K.N.C28年 会議所】

??「…いッ…お…、オイッ!大丈夫かッ!」

アイム「!!」

兵士の呼びかけで意識を取り戻したアイムは、勢い良く顔を上げた。
うおっ、とアイムから飛び散った泥を避けるために、腰に携えた長剣を鳴らしながら声の主は後ろに飛び退いた。

スリッパ「無事でよかったなアイムッ」

兵士の隣に立っていたスリッパたちが、アイムの手を取り起き上がらせた。

アイム「イテテ、頭を打ったな…というか、なんでみんな泥だらけなんだ?」

四人の顔は、一様に泥だらけだ。

筍魂「安心しろ、お前もだゾ」

??「みんな、この小庭園の水溜りに顔突っ伏して倒れていたんだ。息ができなくなる前に見つけられてよかったよ」

若い兵士は豪快に、しかし屈託ない笑顔で討伐隊員を迎える。よく見ると、純白のシルクハットにゆったりとした袴を身に着けている、
このアンバランスで奇妙な出で立ちを、アイムには覚えがある。

??「丁度、【討伐戦】が始まるところだったんだ。みんなも、そのために来たんだろう?こっちだ、案内するよ」

??「申し遅れた。俺の名前はコンバット竹内、会議所に来てまだ日は浅いが、よろしくな」

ハツラツとした青年の自己紹介を聞き、アイム達は無事、過去の時代へ跳躍できたことを知った。


653 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その2:2016/03/06 23:35:19.590 ID:3p9ZTm1.o
アイム「若竹内さんが言っていた【討伐戦】てなんだよ」

スリッパ「わからない。だが、この頃、私はもう会議所を離れていたからな…詳しい内容は覚えていないよ」

ビギナー「この時代に生まれてないからわからない」

筍魂「同じく」

先頭を歩く竹内の後ろで、アイム達は額を寄せあい小声で話し合う。

ビギナー「でも、幸いにして全員。顔面が泥パック状態だから、正体はバレずにすむね」

筍魂「まあ現代の竹内さんはただのボケ老人だから、どの道なんとかなったかもしれないが…」

竹内「おーい、そろそろ着くぞ!」


一行は見慣れた中庭に到着した。中庭には見たことのない規模で、人だかりが出来ていた。

??「ほう・・・君たち・・・まさかこの大戦の愛らしいマスコットキャラクターである私に自分を・・・いや、勝負を売るつもりかね・・・」

たけのこ軍 ドライヴィング「奴を倒すぞ…!」

たけのこ軍 抹茶「これは訓練ではない…!本番だ!」

きのこ軍 黒砂糖「仕方があるまい」

アイム「あれは、DBじゃねえかッ!」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

654 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その3:2016/03/06 23:42:24.721 ID:3p9ZTm1.o
コンバット竹内「おっもう始まっているな、【討伐戦】が」

竹内の呟きなど露知らず、いきり立ったアイムがDBに怒号を浴びせる。

アイム「てめえッ!よくもノコノコと過去の時代に姿を現せたものだなッ!この場でその存在ごと消し去ってやるッ!」

スリッパ「ちょ、ちょっと待つんだアイム…この【討伐戦】てもしかしたら…」

制止するスリッパの手を振りほどき、アイムは中庭の中心に居るDBにぐんぐんと向かっていく。

きのこ軍 黒砂糖「おっ威勢がいいねえ、入隊希望者か」

たけのこ軍 ペーペー山本「期待のきのこ軍新人じゃないか。でも、なんで泥だらけなんだ?」

DB「よろしい、ならば戦争だ。こっちが勝ったらDBはきのこ軍のマスコットキャラだ。さて・・・この戦い・・・呑むか?」

目の前のDBはアイムのことなど気にせず、予定調和のように淡々と目の前の兵士たちに宣戦布告を告げる。

アイム「まだ白を切り通すかッ!」

筍魂「待てアイム、なにか様子が変だ。周りを見てみろ」

筍魂の言葉に、アイムは周囲を見渡しハッとした。両軍兵士が混在する中、誰も啀み合っていない。
寧ろ互いに協力しあうように、ジリジリとDBとの間合いを詰めにかかっている。
その様子はどこか楽し気で、自らの武器でDBに一太刀浴びせんという流行る気持ちを必死に抑えているように見えた。

コンバット竹内「いよいよ始まったな、【DB討伐戦】が」


655 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その4:2016/03/06 23:43:34.558 ID:3p9ZTm1.o
―― DB討伐戦


オニロ『過去には、会議所では【DB討伐戦】というものが数度開かれていたんだってさ。
その度に会議所はDBに勝利したんだ。討伐や捕獲こそできないまでも、兵士の士気を保っていたんだよ』


竹内の言葉に、過去にオニロが語っていた与太話を思い出す。
DB討伐戦は過去に開催されていたイベント戦の一種である。つまり、アイムの目の前にいるDBは、K.N.C28年に初めて会議所に姿を表した、過去のDBなのだ。

過去DB「大量撃破の産声が聴こえる・・・」

言われてみればと、アイムはもう一度目の前のDBを見返す。
先程まで見ていたDBよりも血色がよく黒光りしていない。声色もしわがれてはいるものの、どこか若々しさを感じさせる。

過去DB「ハハハ、かかってきたまえ」

きのこ軍 参謀「そこの泥んこ共ッ!手を貸してくれッ!DBを討伐するッ!」

スリッパ「今は流れに身を任せるしかない。史実では、DB討伐戦に勝利しているはず、その大元の歴史を再現するんだ。後は戦っている内に考えよう」

今よりもモミアゲが濃くて長い参謀の号令の下、アイムたちは過去のDB討伐のために闘うことになった。


656 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その5:2016/03/06 23:45:59.006 ID:3p9ZTm1.o
スリッパ「みんな、この戦い。過去のDBを絶対に“討伐”してはいけないぞ」

戦いが激化する中、スリッパは密かに現代討伐隊員に向かってそう囁いた。

ビギナー「どうしてだい。この場でDBを討ち取れば、現代で続いているDB討伐戦争は綺麗さっぱり無くなり、収まるじゃないか」

スリッパ「DB討伐戦争という歴史が消失すると、DBはともかく、その戦争に巻き込まれている会議所兵士たちは一体どうなる。
竹内、集計班、そして私。本来DB討伐戦争がなければ居ない、または居続けた兵士たちのイレギュラー要素が、“歴史を大きく狂わせる”要因ともなっているんだ。
安易な歴史改変によって、会議所を取り巻く環境が変貌し、予想だにしない事態になることも否定出来ない」

アイム「つまり、DB討伐戦争という“歴史”事体を無かった事にしてはいけない。オレたちは【現代のDB】のみ討伐できるイレギュラーな存在、ということだな?」

神妙に頷くスリッパ。なんたる歯がゆさ、とアイムは爪を噛んだ。目の前に瓜二つの宿敵がいるというのに、止めを刺せない。
沈黙する討伐隊員、彼らの様子は織り込み済みといった体で、スリッパは驚くべき策を提案する。

スリッパ「とは言いつつもだ。過去DBの討伐は現代DBの【死】を意味する、その意味を最もよく理解しているのは、討伐隊員以外に誰がいるのか…?
よく考えてみろ、“奴”は【私たちよりも前にこの年代にワープした】。つまり、“奴”は必ずこの会議所のどこかに居るはずだ。
そして、これから、奴を誘き出すために一つ芝居を打つッ…」


657 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その6:2016/03/06 23:48:01.698 ID:3p9ZTm1.o
DB「ハァハァ…」

間一髪だった。あと少しで、過去のDBと現代のDBの鉢合わせが実現してしまうところだった。

時限の境界を通る者によって、ワープする先の時間帯が異なることは、事前に『謎の声』より知らされていた。
しかし、まさか降り立った地の目と鼻の先で第一次DB討伐戦の準備をしていようとは、さしものDBも予想していなかった。懐かしさを感じる前に、本能的に身体が逃げる選択をした。

逃げ込んだ建物の柱の影から、中庭の討伐戦の行方を伺うDBには、一つ気がかりな事がある。
目の前で開かれている戦いにはさしたる関心を持たない。過去の自分は、勝負に負けこそするものの、討伐されずに逃げきれる。
途中どのような経緯になれど、【そのような手筈になっている】。自身の経験であるDBが一番理解している。

DB「…あいつらァッ!」

気が気でならないのは、討伐隊に参加しているアイム一行の動向である。
もしも誤って、その場で過去DBをアイムたちが討伐してしまえば。その瞬間、DBという存在は歴史の波から消し飛ぶ。

より正確に言えば、K.N.C28年に時代跳躍をしてきたDB自身が消えることはない。大戦年表編纂室と同じく、過去に時代跳躍中の兵士は歴史改変の影響を受けることはないためだ。
ただし、元の時代に戻ったとしても、歴史に爪痕を残してきたDBの存在を、誰も感知することはない。つまり、自身という存在は【歴史改変によって死滅してしまう】のだ。

自己顕示欲の強すぎるDBにとって、誰からも認知されなくなってしまうことは、恐怖以外の何者でもない。
アイムの気の短さを知っているだけに、DBとしては自身の思惑通りに事が進むかどうか、息ができないほどに心配している。


658 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その7:2016/03/06 23:50:49.685 ID:3p9ZTm1.o
筍魂「ほい、『サイコキネシス』」

過去DB「アッー!」

たけのこ軍 ドライヴィング「トンファーキック!!」

過去DB「アッー!」

たけのこ軍 抹茶「う、うおおおおおおお」

過去DB「ンギノッゴイイ!!」

コンバット竹内「おいおい今年の新人は有望だなッ!俺の出番なんて無さそうだなッ!」

筍魂が念力を起こしDBを怯ませれば、トライヴィングがトンファーを持ってDBに一蹴り浴びせ、若き抹茶が勇猛果敢にマシンガンを撃ちこむ。
急造チームの割に、連携は完璧だった。

DB「ま、まずい押されてる…」

史実に比べ戦闘経験豊富な人員が増え、過去DBは史実よりも大分早く劣勢に転じた。
この分では直に捕縛されてしまうと、その先の結末も想像し、現代のDBは背筋を凍らせた。

アイム「大分弱っているなッ!おい黒さんッ!DBを吊るしあげることはできるかッ!?」

きのこ軍 黒砂糖「どこの誰かは知らないが、やってみよう」

キャンパスに描かれた投げ縄が、活きのいい魚のように過去DBに跳びかかった。息も絶え絶えのDBは縄を振りほどく力も残っておらず、
これまた黒砂糖お手製の絞首台に吊るしあげられてしまった。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

659 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その8:2016/03/07 00:00:56.469 ID:MMdSeg6Eo
アイムがライフルの銃口をDBの眉間に目掛けて構える。
過去のDBは、もう疲れきってしまったのか抵抗する意思を見せずに、静かに項垂れている。執行を待つ死刑囚のようなものだ。

現代のDBの柱を掴む力が強くなる。
このままでは討伐されてしまう。アイムの行動により、これまでの努力が。苦労が。計画が全て破綻する。

討伐されてしまう。指を咥え見ているままで良いのか。

敵の暴挙を、許して良いのか。


―――― マズイ!


銃声音よりも刹那に早く、DBの身体は反応していた。ライフル発射よりもコンマ秒分だけ早く、DBは短刀を投げていた。
放たれた刀は、過去DBを縛っている縄を目掛けて一直線に飛び、小気味良い音とともに、縄をぶった切った。

直後に乾いた銃声音が響く。

助かった、これで阿呆で短気な敵の手で無秩序な歴史修正は免れた。DBはホッと胸を撫で下ろし、次の瞬間――

討伐隊のスリッパと『目があった』。

ゾクリと背筋を悪寒が走るDBは、瞬時に、一連の行動がアイム達によって仕組まれた策であることを悟った。

過去DBの眉間の位置には、銃痕など残っていなかった。会議所内には、無情にも銃口の先から奏でられた空砲音だけが木霊していた。
それは、現代の討伐隊員と現代のDBの死闘の再開を告げるゴングだった。


660 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その9:2016/03/07 00:03:41.006 ID:MMdSeg6Eo
スリッパ「短刀の出処及び“本体”を視認!バルコニー2階、教練室付近からだッ!」

スリッパが鋭い声で冷静に状況を報告する。図られた、と頭で理解するより前に、DBは会議所の外へ向かって走りだした。

スリッパ「サラ、頼むッ!DBは裏階段から会議所の外へ出る気だッ!」

御意と云わんばかりに、サラは風切り音を残して快速をもってDBを追跡し始める。

ビギナー「サラに続いて先行するッ!」

ビギナー、スリッパ、筍魂が相次いで中庭から去っていった。残ったアイムはぽかんとする一同に向かってにやりと笑い、指をパチンと鳴らすと、DBの転がり落ちた地面にぽっかりと大きな穴があいた。

アイム「落とし穴です、これで捕獲する準備は整った。なにもいま討伐しなくても、後で煮るなり焼くなりすればいいでしょう」

そう言い残し、アイムもくるりと踵を返し去っていった。
続いて、どこから出てきたのか、間髪いれずに¢はDBの大穴に向けて捕獲網を投げ入れた。
そして、見たことのない満面の笑みで周りにこう告げた。

きのこ軍 ¢「みなさんお疲れさまでした。私は諸事情で参加出来ませんでしたが、DB討伐戦は会議所側の大勝利に終わりましたね。
謎の存在たるDBはすぐさま会議所側で身柄を確保し、“然るべき”タイミングで“適切な処置”を取ります。後は私に任せてください、お疲れさま」


661 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その10:2016/03/07 01:17:28.250 ID:MMdSeg6Eo
―――『おめでとう。クリア』


アイムの頭のなかに謎の声が響く。つまり、歴史の改変に成功したという証。
討伐戦こそ勝利するもののDBの逃亡を許した史実に比べ、勝利し捕獲まで果たした輝かしい歴史に塗り替えられたのだ。

アイム「おそらく歴史は改変された。オレたちはいつでも現代に戻れるッ!」

筍魂「がははは、グッドだ〜!後はこのK.N.C28年で、現代のDBを捕獲すれば、全てはハッピーエンドだ」

スリッパ「サラ、DBの姿を見失うなよッ!」

DB「ハァハァ…なんて、足の速いメイドだァ。さすがの俺様でも逃げきれないぞ」

いつまで経ってもしつこく追いかけてくるメイドに辟易としながら、DBはようやく辿り着いた時限の境界の出口で立ち止まる。

DB「仕方がない…使いたくないが、俺様の力を一部解放しないと乗りきれないなァ」

そう呟くや否や、DBの周りを黒い霧が覆った。


662 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 討伐戦編その11:2016/03/07 01:22:03.678 ID:MMdSeg6Eo
スリッパ「うお、霧で視界が見えないぞッ!」

討伐隊員の視界はすぐに黒の世界で覆われた。

アイム「うわっ、なんだこれ毒霧じゃねえかクセエ!」

スリッパ「アイム、止まれッ!目の前は時限の境界の出口だッ!」

先行するスリッパの声を頼りに、アイムは足を止めしきりに目をこする。

アイム「クソッ、目に染みる!てかゴミみたいな臭さだッ!」

スリッパ「大丈夫かいアイム君。ほら、このハンカチ使いなよォ」

アイムの“背後”にいるスリッパからハンカチを渡され、一心不乱にアイムは顔を拭き取った。

――背後?

霧が晴れると同時に、アイムの眼前には、スリッパを含む四人が飛び込んでくる。
時限の境界に通じる扉の前で静止してDBを必死に捜している様子だ。
では背後にいるスリッパは何者なのか。

恐る恐るアイムが背後を振り返ると――

DB「やァ、アイム君」

スリッパの声色を喉から出しながら、DBが立っていた。

アイム「ダイヴォッ――」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

663 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/03/07 01:22:21.953 ID:MMdSeg6Eo
更新終わり
逃げ足に定評のあるラスボス


664 名前:きのこ軍:2016/03/07 19:57:42.385 ID:3htL7.Cw0
歴史のお勉強
【兵士急募】きのこたけのこ大戦 戦闘場&会議所★18【職歴不問】
(2010.08.14~2010.08.20)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1281755474/

【話題は】きのこたけのこ大戦 戦闘場&会議所★19【自由だ】
(2010.08.20~2010.08.24) 
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1282313300/

実際に、DB討伐戦は行われていました。もう5年も前の話になります。
★18の>>750あたりから。DB VS 会議所メンツ(討伐隊員)で突発紛争が行われています。
この後、断続的にDB討伐戦は行われますが、2012年8月頃を最後に、討伐戦は行われなくなり現在まで至ります。
warsでは、最後の討伐戦でDBが遂に捕獲され牢屋に放り込まれたという設定で、物語を構成しています。

どこからDBが出てきたのか、そして何故¢さんが参加していないのか。謎は深まるばかり。

665 名前:たけのこ:2016/03/07 19:59:00.352 ID:OnAnuYjYo
更新おつ!
気になることばかり

666 名前:きのこ軍:2016/03/07 20:18:25.611 ID:3htL7.Cw0
頑張って週一更新を目指します。

667 名前:社長:2016/03/07 20:38:08.551 ID:MuNNbt0k0
DB地味にこえ真似とかヤヴァス

668 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その1:2016/03/26 23:51:25.781 ID:x3Oks6oUo
【K.N.C28年 会議所】

DB「ハッ、ハッ、ハッ」

荒野のなかを独り、DBは激走する。
既に限界を迎えているはずの身体から悲鳴が上がることはなかった。アドレナリンが苦しさを打ち消しているのだ。
DBは極度の興奮状態にあった。思い出すは先程までのアイム達との死闘。

あの時、スリッパたちは現代のDBを誘き出すために、過去DBを囮にして現代のDBを討伐隊の前に引きずりだした。
討伐隊の完璧な作戦勝ちに見えたが、同時にDBはその作戦を“利用していた”。

知性の高い兵士は、その敏さ故に、物事を見通す力が他の兵士よりも抜きん出ている。その多くは作戦参謀や指揮官といった要職に付く。
そして、自らが持つ賢さを、自分のためから他人を助けるために昇華させ使う。その過程で、兵士は内面の上でも飛躍的に成長するのである。

DBも元は知性の高い兵士の一人だった。ただDBは天涯孤独であり、生まれた時より世界から【忌み嫌われた】存在であった。
他人を導くために持ち前の力を使用するはずもなく、DBは常に自分のために使い続けた。
そのため、どの兵士よりも知力や感性は冴え渡り、同時に誰よりも狡猾となった。

スリッパの策にハマったのはDB自身が生んだ油断からだった。その時点ではスリッパたちが優位に立った。
しかし、メイドからの追跡に逃げきれないフリをしながら、DBは討伐隊員をうまく時限の境界まで誘い込み、そして討伐隊員だけを現代に還した。
中庭で討伐隊の策にハマる中で、瞬時の判断能力が生んだ、狡猾さゆえの良案だった。


669 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その2:2016/03/26 23:52:42.944 ID:x3Oks6oUo
狂喜の中に居たDBだが、次第に走る力は衰え、終いには息を切らして倒れこんでしまった。
元来、兵士の“心の本の頁(ページ)”を餌にして生きてきたDBである。歴史改変で兵士たちの余った“心の本”を喰らい、肥大化してきた。

しかし、一度、討伐隊が歴史修正に繰り出せば、手に入れた筈の力は、元の所有者に戻ってしまう。
元々の計画では“下手な歴史修正には手を出さず、兵士の心の本を食べ続け現代の会議所を支配する”ことだったが、ここにきてDBは計画修正の岐路に立たされていた。

DB「しかしィ…過去への過大な干渉は、自らの身も滅ぼしてしまう…」

――『でも何か策を打たないと、討伐隊は君のことを絶対に見つけるよ?』

仰向けのまま肩で息をするDBに、久方ぶりに謎の【声】が語りかけてきた。

DB「ッ、そんなことはわかっている。スクリプトももう期待できない、このままでは俺様の世界支配計画が――」

――『君には“力”があるじゃないか、忘れたのかい?』

DB「!!ッ。そうだった、俺様には兵士の負の力を取り込んで手に入れた“力”がある。そうか、それを利用すれば…ハハ、ギャハッ、ゲハハハハハハハハッ!!!」

けたたましい奇声を上げ、DBは独りで高笑いする。
思いついた、思いついてしまった。
重要な歴史修正を伴わずに、簡単に会議所を支配する方法を。


670 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その3:2016/03/26 23:56:40.249 ID:x3Oks6oUo
【K.N.C28年 会議所 裏庭】

¢「よしよし痛かったろう、ゆっくりと休め。次の戦いは近いからな」

縛られたDBの縄を解きながら、¢は子を見守る親のように在りし日のDBを労った。

過去DB「びええええええええん」

泣き喚きながら過去DBは人里離れた奥地へと逃げ去っていく。過去の光景を物陰からじっと見つめていたDBは、何も言わずに静かにその場を立ち去った。
会議所兵士の中でも当時の¢はDBの唯一の理解者だった。それも今は昔、今のDBには選択肢がない。¢には恩義を感じている、だが会議所にいる以上、対決は避けられない。
なにより、自身がこの先生き残るためには自分以外の全員を敵に回さないといけないのだ。その覚悟はとうの昔にできている。
昔の自分と決別を付け、DBは恐考えた計画を実行に移す。


671 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その4:2016/03/26 23:58:54.237 ID:x3Oks6oUo
黒砂糖「お、お前はッ!」

DB「やあやあ黒砂糖君。時間がないからさっさと催眠にかかってくれたまえ。
ようこそ、我が【DB教】へ」

廊下を歩いていた黒砂糖を捕まえ、全身全霊を込めた臭い息を吹きかけ、黒砂糖を失神させる。

DB「さて、黒砂糖くん。お前はァ、今日から【DB教】の一員だ」

黒砂糖「……はい」

DB「DB様のためならなんでもするよな?」

黒砂糖「……はい」

目を虚ろにし、催眠状態にかかった黒砂糖はDBの言葉に次々と同意していく。

DB「しかしィ。この時代から黒砂糖くんが【DB教】の一員であることがバレるといろいろとマズイ。どうしてだかわかるかね?」

黒砂糖「…はい。愚かな私が過去から暴れてしまうことで、予知できない歴史改変が起こり、DB様の崇高な計画が崩れしまいます…」

DB「そうだ。だからァ、君には【制約の魔法】を施そう。これから俺様が口にする『キーワード』を耳にした瞬間、君ィは【DB教員】であることを思い出し、俺様のために尽くす。
それまで君はただの善良な会議所兵士を演じるんだ。いいね?」

黒砂糖「……はい」

DB「さて、そのキーワードはァ―――」



672 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その5:2016/03/27 00:03:03.545 ID:SQHz6Ouso
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

きのこ軍 アイム「クソっ、DBの野郎に嵌められたッ!!」

たけのこ軍 社長「なに そん」

きのこ軍 参謀「気にすることはない。DBは確実に追い詰められている」

なおもアイムは机に拳を叩きつけ、悔しさを露わにする。

たけのこ軍 オニロ「アイム達の歴史改変を確認して以降、時空震は発生していない。ということは、まだDBがK.N.C28年に残っていることになるね」

たけのこ軍 社長「詰みです でなおしてまいれ」

きのこ軍 黒砂糖「次に時空震が発生したら、すぐさま時限の境界に急行して、DBを捕獲すればいいな」

たけのこ軍 社長「いまさら逃げても無駄にいい事を教えてやろう。」


673 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その6:2016/03/27 00:16:27.688 ID:SQHz6Ouso
大きな音に続き。
オニロは意識を失ったように椅子から転がり落ちた。


きのこ軍 アイム「おい、どうしたッ!!」

たけのこ軍 オニロ「あ、あああああああああああああァアアアアアアッ!!な、なんだこれはッ…頭のなかに記憶が、記憶が流れてくるッ!!」

頭を抱え嗚咽を漏らすオニロにアイムを始め、多くの兵士が彼に駆け寄る。



 ―― 安心しろよォ。ここを離れようとすぐあんたを“迎えに行く”からよォ、***もそれを望んでいるだろ。


                                    ―― 行っただろう、“迎えに行く”となァ。さァ、***へ帰ろう。


               ―― “迎えに行く”よ、約束するさ、必ず。だから二人で帰ろう***に。



決壊したダムから溢れ出る水の如く、容量外の記憶がオニロに襲いかかる。
オニロはただ身を縮こまらせ、いまこの時が過ぎ去るのを待つしかなかった。

頭のなかに反芻する幾多の会話。その会話に共通する単語が、オニロの頭のなかを次第に占有するようになっていた。
だから、頭のなかから振り払うように。弱々しく、ポツリとオニロはその単語を声に出してみた。


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

674 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その7:2016/03/27 00:18:05.316 ID:SQHz6Ouso
たけのこ軍 社長「な 何の話だったの?」

きのこ軍 黒砂糖「ッ!!!」

オニロの言葉に、不可思議なまでに身を震わせ反応した兵士が一人いた。しかし、会議所兵士が黒砂糖の異変に気がつくことはなかった。
なぜなら、同時にDBの歴史改変による時空震が編纂室を襲ったためである。

たけのこ軍 加古川「ぐおおおおおッ!こんな大事な時にいいい!」

きのこ軍 参謀「みんなしっかり耐えるんやッ!この時空震は会議所に訪れた好機ッ!DB捕獲のための最後のチャンスやッ!」

会議所兵士が頭を抱え必死に揺れに耐える中、淡々と自動筆記ペン オリバーは、大戦年表に改変された歴史を記載していく。

DBの歴史改変を編纂室が捉えた。つまり、DBはアイム達を現代に送り戻したK.N.C28年で歴史改変を行い、現代へ帰還する手筈を整えた。
DBが編纂室の存在を知らない限り、会議所は時限の境界にてDBを待ち伏せすればいい。
やがて数十秒続いた時空震はピタリと止まった。

たけのこ軍 791「大戦年表にはなんて書かれているの!?」

たけのこ軍 社長「さっ白い」

きのこ軍 アイム「追加された歴史は…【第一次DB討伐戦に敗れ捉えられたはずのDBは、隙を突いて脱走。
すぐさまDB討伐戦が再開されたものの討伐隊の働きですぐさま終戦。DBは涙目で敗走した。】
クソっ。あいつ、過去のDBを偽ってDB討伐戦の続きを開きやがったッ!」


675 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 誘い罠編その8:2016/03/27 00:20:12.618 ID:SQHz6Ouso
たけのこ軍 791「ただ、これでDBの歴史改変が確定した。今から急いで時限の境界前に移動してDBを捕えよう」

きのこ軍 参謀「DBは時限の境界の外に戻ってくるはずや。時限の境界に入らせるよりも前に捕えるしかないやろうな」

きのこ軍 ¢「ぼくを行かせて欲しいんよ」

きのこ軍 someone「同じく、きっと役に立つはずです」

たけのこ軍 加古川「私も」

きのこ軍 黒砂糖「…俺も」

たけのこ軍 オニロ「…ボクも、行かせてください」

次々と兵士が呼応する中、力なく倒れていたオニロからも声が上がる。

きのこ軍 アイム「テメエ、休んでろ。それにお前は編纂室部隊で地下に留まっていないと…」

たけのこ軍 オニロ「DBと決着を付けなくちゃいけない…それに、ボクもみんなと一緒に戦いたいんだ」

たけのこ軍 791「私がオニロの代わりに地下に残る。歴史はオニロ以外でも確認することができる。オニロ、行っておいで」

たけのこ軍 オニロ「師匠ッ!」

きのこ軍 アイム「…ッチ。足手まといにはなるんじゃあねえぞッ!少しでもヘバッたら尻を蹴りあげてでも起き上がらせてやる」

こうしてかつてない規模で、大所帯の討伐隊はDBを捕えるべく時限の境界へと急いだ。


それが、巧妙に張り巡らされたDBの罠だとも誰も知らずに。

676 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/03/27 00:20:27.910 ID:SQHz6Ouso
オニロ、遂に参戦確定

677 名前:たけのこ軍:2016/03/27 00:21:28.766 ID:ha93.1z60
後催眠やめろ!!

預言のアイムオニロの死はどう吹き飛ばされるんだろう

678 名前:たけのこ軍:2016/03/27 00:22:16.163 ID:ha93.1z60
そして¢君の過去がちょっと明らかになったすね

679 名前:きのこ軍:2016/04/21 01:07:01.464 ID:ytMPNuj.0
リアルの都合で更新はもうちょっと先になりそう。ちなみにもう3章後半です。

680 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/05/23 00:42:33.249 ID:dsHugUWUo
今月も更新できそうにありません。6月中にはなんとか。

681 名前:たけのこ軍 791:2016/05/23 12:45:16.186 ID:Jv1Rg9AQo
無理せず頑張れ
待ってる

682 名前:社長:2016/05/23 17:36:53.000 ID:3exyDMeY0
無理はするな

683 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/07/24 22:38:08.937 ID:B2xggK/2o
・これまでのあらすじ

“大戦”を運営する『会議所』は、日に日に増大する大戦参加者の士気・意欲低下に頭を悩ませていた。その最中、会議所に流れ着いたアイムとオニロは、社長の【占い】により、『大戦の希望』として鍛えられる。(Chapter1まで)

そんなある日、会議所で捕らえていたはずの世界の宿敵【DB】、【スクリプト】が脱走していたことが判明。同時に、DB一味は、禁忌のマップ『時限の境界』で、故意に会議所不利の歴史に改変していることも明らかになる。
世界の危機を救うため、参謀を隊長とするDB討伐隊は、すぐさま『時限の境界』に突入するも、内部に潜むスクリプトや、時限の境界の【制約】の前に悪戦苦闘。結局、DBの姿すら確認できずに、撤退を余儀なくされる。
自身の不甲斐なさを悔い、アイムは戦闘術魂の伝承者・筍魂に弟子入りを志願。オニロとの絆を深め、師からの教えを理解したアイムは、再び時限の境界へと突入する。
しかし、新たな【制約】により、アイムは独り過去の時代に閉じ込められてしまう(Chapter2まで)

それでも持ち前の機転と戦闘術魂を利用し無事現代に帰還したアイムは、会議所の中心的存在だった集計班が突如として姿を消したことを知る。
悲観に暮れる間もなく、竹内の加入を経て、過去のあちこちにスクリプトたちが【スクリプト工場】を製造し過去改変を行うというネズミ講のような恐ろしい事実を目のあたりにする。
すぐさま、時限の境界に潜んでいるDBの捕獲及び工場破壊の『ハイブリッド作戦』が開始された。

順調に工場を破壊する中で、追い詰められていたDBとアイム達討伐隊は、時限の境界内で遂に運命の邂逅を果たす。
万事休すと思われたDBだが、自らの危機を逆手に取り、アイム達から逃れるだけでなく過去の時代で黒砂糖を洗脳。自らの内通者として仕立てあげ、計略を張り巡らしはじめる。
一方、会議所はDBを捕えるべく、前例のない人数で時限の境界に向かうのだが――――


684 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その1:2016/07/24 22:40:38.147 ID:B2xggK/2o
【K.N.C180年 時限の境界 入口】

アイム「さあ逃げ場はねえぞ、化物野郎ッ!!」

社長「勝ちますよきのたけは」

会議所からの転移を終えた、開口一番のアイムの怒号は、静かな時限の境界入口によく響いた。
風になびく草花のざわめきは、場にそぐわない無礼者に静かに怒っている表れにも思えた。

オニロ「ここが…時限の境界。なんて幻想的で、そして禍々しいんだ」
社長「アオし」

手で日差しをよけながら、オニロは目を細めた。穏やかな空の蒼と草原の翠が同居する空間の中で、時限の境界へと続く千本鳥居は毒々しいまでに紅く。
長い間地下に居たオニロの青白い肌は、朱の鳥居と比較すると病的なまでに映えた。

アイム「おい…あまり無茶するなよ。お前は地上に出たばかりの”病み上がり”なんだからよ」

オニロ「うん、ありがとう」

社長「美美美美美ち良かったね。」

放っておけばオニロはそのままこの空間内に溶けてしまうのではないか。なぜだか自分自身のように、アイムは心配した。

¢「感慨に浸っている時間はないんよ。DBは時限の境界を一度脱出し、もしかしたらこの付近に潜伏している可能性がある。探しだすんよ」

参謀「手分けして捜索やッ!時限の境界に入る時は一斉に突入やぞ」

685 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その2:2016/07/24 22:42:14.196 ID:B2xggK/2o
鬱蒼とした未開の地の中にポツンと存在するこの一帯は、まるで隕石が落ちたかのように、ぽっかりと木々が抜け落ちた草原になっている。
丘を降りた先に広がる、兵士の腰程度まで伸びきった草原は、丘の上からの明快な眺めと比較し、暗然たる隠れ蓑になっていた。
総勢十数名近い討伐隊員の多くは、丘を降り、方方でDBの捜索を始めた。

斑虎「うえっぷ…隊員の身長くらいまで伸びてるじゃねえか、もしDBを討伐したらここを会議所の庭園にしよう。手入れしないとな」

オニロ「だったら、今すぐに”手入れ”しますか?」

杖を構えるオニロに、斑虎は冗談ぽく肩をすくめた。

斑虎「そいつはいい。だが、その方法は、できれば俺たちが丘を下りきる前に言ってもらいたかったな」

草をかき分ける度に擦れあう音、枯れ草を踏みしめ進む音が響く。高台から眼下を臨む参謀も、揺れ動く草から隊員の無事を確認するだけだ。

黒砂糖「……」

人目を避けて何か企てを働こうとする者にとって、これほど絶好の機会はない。
この時、討伐隊員達は誰一人、黒砂糖の動きを感知できなかった。


686 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その3:2016/07/24 22:43:55.043 ID:B2xggK/2o
参謀「何名かはまだ捜索に当たってくれ、残りは丘に戻って別地点での捜索も敢行する」

時間をかけ捜索にあたったものの、DBは見つからないままだった。

アイム「既に、DBは時限の境界に戻っちまってる、なんてことはないよな…」

意外と傾斜のある丘を登り終わり、アイムは額の汗を拭った。視線の先には毒々しい朱鳥居と土壁がそびえ立っている。

someone「これまでの経験から推測するに、大戦年表― オリバーが歴史改変を告げるタイミングは『歴史が正に書き換えられた』時だ。
つまり、DBはまだ改変先の過去の時代に留まっている可能性が非常に高い」

竹内「つまり、どういうことかのう」

アイム「爺さん、あんた付いてきていたのか。寝てろって言っただろ。ほら、これ水筒だ。日射病になるんじゃねえぞ」

社長「やっほ^^」

参謀「竹内さんはシューさん最後の希望やからな。連れていかないわけにはいかんやろ」

スリッパ「目を離すと勝手に出歩くから監視が必要だけどな…介護の資格でも取るかな」

数十分経てど、DBが潜伏しているような形跡は見つからなかった。
DBが元の時代に戻るまで待つべきか、と多くの隊員が思う中、突如として―――


687 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その4:2016/07/24 22:45:11.956 ID:B2xggK/2o
DB「ひいいいいいいいいいいいいいぃぃ」

耳をつんざく金切り音。声の方向へ全員が振り返ると、そこには鳥居の前で立ちすくむDBの姿があった。

アイム「飛んで火に入る夏の虫とはこのことだな、DB!!」

参謀「各員、目標は『DBの捕獲』ッ!急げッ!!」

DB「ひいいいいぃぃぃ」

参謀の命令よりも早く、DBは千本鳥居へ駆け出した。

¢「DBォ!僕だ、¢だ!止まってくれッ!」

¢の声は届かない。

黒砂糖「私と抹茶はここに残って後方支援に回るッ!!抹茶、いいな!?」

抹茶「う、うん!わかりましたッ!」

688 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その5:2016/07/24 22:46:23.819 ID:B2xggK/2o
DBの悲鳴を遮るように、討伐隊から銃器の轟音、魔法の攻撃音が響き渡る。
しかし、DBは、時に鳥居を盾に銃器や魔法からの攻撃を防ぎ、時には鳥居をよじ登り、時限の境界へと急いだ。
いかに手慣れの兵士たちといえど、逃げ足だけは一級品だと評されるDBの動きに翻弄されていた。

DB「ハァハァ…ひいいいいいいいい!!」

いの一番に、入口まで辿り着いたDBは、躊躇うことなく扉を開け放ち、時限の境界へと逃げて行った。

参謀「これより時限の境界に突入するッ!怖気づいたものは、すぐさま引き返せ!黒砂糖や抹茶に連れて帰ってもらうッ!」

引き返す者はいなかった。全員が全員、覚悟を決めた表情をしている。

参謀「…わかった、ならば俺に続けッ!」

こうして十名近くの討伐隊員達は一斉に時限の境界へと飛び込んでいった。


689 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その6:2016/07/24 23:02:37.084 ID:B2xggK/2o
抹茶「はぁ…みんな大丈夫かなあ。とりあえずは、会議所に戻って残留組に現状を報告ですかね?」

黒砂糖「…」

隣に佇む黒砂糖から返答がないことに、抹茶は訝しんだ。

抹茶「黒砂糖さん?どうかしまし――」

ヒュッという風切り音とともに、抹茶は声を発することなく仰向けに倒れた。

黒砂糖「みぞおちだ、すまんな抹茶。でも気がつけば、お前もすぐに“目覚める”さ」

倒れている抹茶を一瞥した後、黒砂糖は丘の上から先程の草むらに向かって呼びかけた。

黒砂糖「…DB樣、私めです。準備は整ってございます」

ヌッと、異型の怪物は草むらから頭だけを覗かせ、静かに口角を釣り上げた。


690 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その7:2016/07/24 23:04:58.746 ID:B2xggK/2o
DB「ご苦労、黒砂糖君。
いや、君には我が【DB教】の信者として、洗礼名を与えよう。神父黒飴、それが今日からの君の名前だ」

黒砂糖「ありがたき幸せです、DB樣」

黒砂糖は丘を登り切ったDBに向かって、まるで目の前に神がいるかのように頭を垂れるとともに膝を折り、従順の証を見せた。

DB「くくく…やはり過去の時代での洗脳は未だ効力を失っていなかった。うまくいったようだな、なんて賢い俺様なんだ…」

黒砂糖「討伐隊は、DB様が創りだした【幻影】を誰も偽物だと気づかずに追っていきました」

DB「どうだ、よくでてきていてだろう。俺様の力の一部をあの【幻影―人形―】につぎ込んだのだ。似てもらわなきゃ困る」

黒砂糖「はい、愚かにも討伐隊はDB様の幻影を追って、時限の境界へと突入していきました」

DB「【幻影】は撒き餌ァ。時限の境界という罠に、うまく討伐隊を放り込むことができたァ。
もし、そこで討伐隊が居なくなってくれれば俺様にとっては万々歳ィ、万が一生還したとしても…時既に遅しィ」

黒砂糖「貴方様の思い通りに事は進みます。しかし、ここに来た時は驚きました、すぐに私が草むらを具現化して擬態したからよかったものの…」

DB「君ィへの信頼の証ということさ。それも計略のうちよ」

討伐隊が訪れるほんの僅か前に、DBは時限の境界を抜けだしていた。
咄嗟に丘の斜面に横穴を掘り、そこに身を隠した。しかし、DBの歩いた跡は草花すら残らない。
枯れ果てた草花がDBの歩いていた道筋を示していた。黒砂糖は、時限の境界に到着してから、瞬時にその部分を自らの絵画能力で隠したのだ。


691 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 既に計略始まってる編その8:2016/07/24 23:05:58.061 ID:B2xggK/2o
DB「まァそれは置いといて…さて、黒飴君。私がこれから何をしたいかわかるかな?」

黒砂糖「勿論でございます、DB樣。貴方様を一方的に迫害した会議所を、正しい道に【導いて】やらねばなりません」

DB「その通りだァ。誰がこの世界を統べる者か、教えてやらなければならないなァ。
しかし、いいのかね?君は討伐隊に身を置く兵士の筈。立場としては、俺様の考えに背く者ではないか?」

黒砂糖「…私は今やDB教の神父として、DB様の素晴らしさを説いて回らねばならぬ立場です。たとえ会議所が私にとってかけがえのない空間だとしても…

DB様に楯突こうする者には、血の涙を流しても、訓えに背く者を裁くでしょう。私の全てはDB樣とともにあります」

DB「Goodだァ黒飴くん。それでは、DB様の会議所への凱旋としゃれこもうじゃないかァ。その緑色の兵士も持って行きなさい。
そうだ、忘れていた。どうして、会議所はあんなに時限の境界に詳しいのか。
まあその辺りは、道中にて、詳しく聞かせてもらおゥ。ハハ、ギャハッ、ゲハハハハハハハハッ!!!」

そして、DBと一人の神父は会議所に向かって歩き出した。後には草花すら残らず、一迅の黒い風が舞うのみだった。


692 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/07/24 23:08:13.753 ID:B2xggK/2o
http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/807/card-10.jpg
純粋な絵描き兵士は、神父に成り果てた。
既に決戦は始まっている。

あと、DBは幻影とかを操れる能力とかで落ち着きそうです。

693 名前:社長:2016/07/28 00:53:23.230 ID:YDXj/Jq60
魔王様なんとかしてくれー!

694 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その1:2016/08/28 23:06:14.901 ID:y6C4AGoco
【K.N.C180年 時限の境界】

幻影のDB「ひいいいいいいいいいいいいいい!」

加古川「悲鳴のする方向だ!急げッ!」

数多のホールを駆け抜け、DBへ向かって走り続けるが、討伐隊は未だその姿を捉えることができずにいた。

斑虎「声の方向はあっちだ!」

someone「いや、真逆の方からも聞こえたぞ!」

スリッパ「奴の移動の速さ、それにホール内で声が反響しているから、特定し辛いな…」

オニロ「二手に分かれて捜索したほうがいいですかね?」

¢「人数を分散すると、それだけ歴史改変を多くするリスクが高まる。僕は反対なん――」

¢が言い終わらない内に、慟哭とともに巨大スクリプトNEXTたちは討伐隊の前に姿を現した。


695 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その2:2016/08/28 23:08:54.765 ID:y6C4AGoco
アイム「みんなッ!避けろッ!」

数体のスクリプトがアイム達の元へ跳躍し、轟音を唸らせながらその巨体を地面へぶつけた。金属の擦れる耳障りな音に、何人かは顔をしかめ動きを止める。
その間に、十数名いた討伐隊員たちは巨大スクリプトによって、隊が分断されてしまった。

アイム「くッ!砂煙が目に入っちまった…みんな、無事かッ!!」

ホール内に反響し続けるスクリプトの慟哭に負けないくらいの大声で、アイムは周囲の状況を確認しようとした。
アイムが滲む目を擦り辺りを見回すと、分断されたアイム側には、オニロを含め数人居るようだった。

オニロ「大丈夫だよアイムッ!!けど、なんて耳障りな音なんだッ!『ネギトロ爆弾』!!」

詠唱と同時にオニロは勢いに任せて杖を振りかざした。
すると、杖の先から液状の緑色の球体がスクリプトに当たりそして弾け、強烈な刺激臭と毒により、スクリプトの自由を奪った。

アイム「よくやったぞアイムッ!てかなんだよそのネーミングは…」

オニロ「『ネギにちなんだネーミングにすれば、集計さんの手向けになる』って師匠が言ってたから…」

スリッパ「軽口は後だ。どうやら団体さんのお出ましだ」

竹内「ホッホ。こりゃまた、図ったようにわらわら湧いてくるのお」

社長「アッアアッヤバイ」

残党の勢揃いといった具合に、討伐隊がいるホールに四方から巨大スクリプトが押し寄せてきた。

696 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その3:2016/08/28 23:10:41.468 ID:y6C4AGoco
アイム「ちくしょう、時間がねえってのに――」

スリッパ「おいッ!あそこにDBがッ!!」

アイム「なんだとッ!」

目を凝らすとアイム達から見て西方に、ホールを走るDBの姿が遠目でも確認できた。

オニロ「ここで逃すと、もう捕まえられないかもしれないよッ!」

スリッパ「だが、分断されている¢たちとの合流を待たないと…」

¢??「オレらのことなら大丈夫なんよ!先に行って、DBを討伐して欲しいんよ!」

悩んでいるオニロたちの耳に、スクリプトにより離れ離れになったはずの¢の言葉が届いた。
雑音で近くの兵士同士の声すら聞きにくい状況の中で、¢の言葉はオニロとスリッパの耳に不可思議なほど明瞭に届いた。

アイム「どうしたッ!¢さんたちと連絡は取れたかッ!?」

オニロ「¢さん達は先に行っていてくれってッ!!」

アイム「ん?よく聞こえねえぞ!てか、うるせえぞテメエッ黙ってろッッ!」

身をかがめつつアイムは短刀を横投げすると。意志を持ったように同心円状に回転しながら移動した刀は、瞬く間に、スクリプトの四肢を切り取ってしまった。

社長「あワお〜〜流石っすねアイム君」

アイム「見たか、これが鍛え上げた戦闘術の実力だッ!」

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697 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その4:2016/08/28 23:11:30.759 ID:y6C4AGoco
¢「ん?」

背後にそびえるスクリプトの残骸の山に振り返るも、向う側に居るはずのアイムたちの声は聞こえてこない。

参謀「どうしたんや¢!」

目の前のスクリプトを薙ぎ払いながら、戦友の違和感に真っ先に気がついた。

¢「いや、アイム君たちの声が聞こえた気がしたんよ。だけど、気のせいか」

加古川「¢さん、もっと腹に力を込めて大声で話してくれッ!全然、聞こえないぞ!」

¢「びえええええええん」

someone「しかし、奴らは狙い澄ましたかのように我々の中腹を攻めて、そこになだれ込んできましたね。
お陰で、斃れているこいつらを動かすのにもう少しだけ時間がかかりそうです」

斑虎「まあ向こうも戦い続けていることだろう。¢さんの合流するまで動かないっていう指示に従っているだろうよ!」

筍魂「…いやな予感がするな…」


698 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その5:2016/08/28 23:14:12.523 ID:y6C4AGoco
オニロ「くそお!どこだDBォ!!」

怒りを発散するかのように、ポイフルバーストの光弾を散らせながらオニロは先頭を走り続けていた。
火花がバチバチと散りながら、彼方で炸裂した光弾の反響音が伝わってくる。

アイム「お、おい止めろオニロ。これじゃあ自分の居場所を相手に教えているようなもんだ!少しは落ち着け」

オニロ「ああ、そうだね。ありがとうオニロ」

スリッパ「オニロは随分と激情型だな…」

社長「戦闘になると先が見えなくなるって奴すかね」

アイム「しかし、DBをまた見失っちまったか…竹内の爺さんもいるから速くは走れねえし…」

竹内「ホッホッホ、今夜の夕飯はなんじゃろう」

スリッパ「安心しろ、もう既にサラを周りに走らせてある。DBを発見したら知らせをよこすはずだ」

社長「段々忍者みたいになってきたっすね」

その時、近くのホールから短い炸裂音と同時に化物の悲鳴が響いてきた。

スリッパ「サラが見つけたッ!こっちだッ!」

699 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その6:2016/08/28 23:16:39.239 ID:y6C4AGoco
サラのいるホールに駆けつけると、ワイヤーガンを構えたサラの目の前に、フック付きワイヤーにがんじがらめにされているDBが藻掻いていた。
地べたに腹をつけ手足だけをばたつかせるDBと、それを見下ろすサラ。勝敗は歴然だった。

スリッパ「よくやったぞサラ!」

社長「もうあの子だけで いいんじゃないかな」

オニロ「すごいよサラさん!DBを捕まえた!」

サラは照れる素振り一つ見せずに、流れるような所作でスリッパの背後に移った。

アイム「すぐさま¢さんたちと合流して、DBを捕獲した旨を伝えよう」


社長「そんな時間あるかなあ?」



―――『時間切れ』



社長の声と、謎の声がアイムに届いたのはほぼ同タイミングだった。
ふわりと全員の身体が静かに浮かび上がった。

スリッパ「くっ、こんな時に時間切れなんて…」

幻影のDB「ひいいいいいいいいいいいいい」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

700 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その7:2016/08/28 23:27:57.034 ID:y6C4AGoco
アイムたちの眼前にある過去の扉が勢い良く開け放たれた。
時限の境界によって、自動的に放り込まれる年代が決まったようだ。

幻影のDB「ひいいいいいいいいいいい」

アイム「うるせえ!黙ってろッ!」

幻影のDB「ひいい…ひひひ…イヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」

アイム「!!」

突如笑い出したDBにギョッとするアイム。すると――

幻影のDB「ヒヒヒヒヒイッヒヒヒヒ」

DBの身体から、眩い光が発せられる。否、光源はDBの奥にある開け放たれた扉の光が漏れたものだった。
DBの身体が徐々に透けているのだ。

アイム「DB、テメエは――」

幻影のDBと目が合う。
”また、ダマサれた”
偽物の器の眼は、確かにアイム達をそう嘲笑するように嗤っていた。

扉に吸い込まれる直前に、オニロは一連のDBの仕組まれた行動に合点がいった。しかし初めての時間跳躍に困惑し、推測した制約を元に、アイムと社長の手を絶対に離さないように心がけた。
社長も平常時のバグ様子で、ただオニロと竹内の手を握ったままだった。
竹内も動揺せずにじっと時が流れるのを待った。それは老練の経験からくるものか、それとも単にボケているのか。事前の話を元に、社長とスリッパの手は最後まで離さなかった。
スリッパは、DBの策略に再度ハマったことに下唇を噛んだ。感情を表に出す様は、大戦黎明期に見られた若かりし“英雄・スリッパ”を彷彿とさせた。
その後ろで、サラはじっとスリッパの背中を見つめている。その瞳から特定の感情は読み取れない。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

701 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 情動編その7:2016/08/28 23:28:35.022 ID:y6C4AGoco
アイム、オニロ、社長、竹内、スリッパ
役者は揃った、さあ旅だ旅だァ

702 名前:社長:2016/08/29 03:26:15.743 ID:e/8l8.Hg0
足取り軽く旅に出ようよ 重いわ

703 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その1:2016/09/04 00:03:16.203 ID:3CVJ9V6wo
【K.N.C47年 会議所】

オニロが意識を取り戻し勢い良く起き上がると、その眼前には、見慣れた会議所正門とそれを取り巻く石壁が延々と広がっていた。

オニロ「皆さん、無事ですかッ!」

アイム「オニロ…お前、まんまとDBに騙されたな」

同じく起き上がったアイムが、時間跳躍時にぶつけたであろう後頭部をさすりながら溜息を付いた。
DBが¢の声色を使い偽の司令を出し錯乱させたことを、自身も同じ手口で欺かれたことを引き合いに、アイムは他の5名に説明した。

スリッパ「そもそも声の小さい¢さんの声が、あんな環境下できこえるはずがない、か…盲点だったな」

社長「よくもわしを、だましおったな〜っ!!」

オニロ「た、確かに…」

アイム「討伐隊の分断はDBの目論見通りだ。【幻影】と【幻想】を操る奴の能力の前に、翻弄されっぱなしだな」

オニロ「捕まえたはずのDBが偽物だとすると…もしかして、時限の境界で発見したはずの奴も最初から【幻影】だったのかもしれない」

スリッパ「討伐隊本隊を引き付けることが陽動だとしたら、奴の真の狙いは…」

竹内「昼飯を食うことかのう?」

社長「原因は!かぁー!どこじゃー!」

オニロ「そうかッ!【手薄になった会議所の襲撃】ッ!」


704 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その2:2016/09/04 00:04:27.498 ID:3CVJ9V6wo
本隊は自らの分身で時限の境界に引きつけ、その間に会議所に襲撃をしかける。DBのプランは単純ながら明快だった。

スリッパ「なるほど、DBからしたらこれ程の名案はないだろう。ただ、時限の境界の外には黒砂糖さんと抹茶さんが残っている」

オニロ「会議所には師匠も残っているし、問題なしだね。逆にこれが決定打となって追いつめられたりしてね」

とにかくオレたちは早く帰ろうと述べ、アイムはすっくと立ち上がり辺りを見回した。とうに陽が落ちているのか、一帯はすっかり闇に覆われている。
K.N.C180年頃には正門の両脇には灯籠が立ち会議所を照らしていたが、この時代には灯籠はおろか道も舗装されていなかった。
相当前の時代に来たのではないかと、オニロは直感した。

オニロ「しかし人の気配がないですね…みんな、大戦中でしょうか」

スリッパ「ともかく会議所内に入ってみよう」


705 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その3:2016/09/04 00:06:21.278 ID:3CVJ9V6wo
会議所内を歩けど明かりは落ち、辺りは静まり返っていた。建物は現代と比べて随所に小綺麗さを感じる。
今ではすっかり色褪せてしまった会議所受付も、この時代では光沢を放つテーブル、椅子がオニロとアイムにとっては新鮮だった。

月は雲に隠れ、月明かりすら頼りにならない中、討伐隊6名は会議所中心に位置する中庭からwiki図書館に向けて歩いていた。
未だ、この時代の兵士一人もすれ違っていない。
就寝時刻をとうに過ぎた夜半に飛ばされたのではないか、と一行は壁伝いに歩きながら薄々そう感じはじめていた。

スリッパ「明かりが灯ってない。どこか懐かしい感じがするな…」

アイム「…そういえばスリッパさんは何時頃まで大戦にいたんだ?あまりその辺の話を聞けていなかったな」

スリッパ「それは…」

オニロ「スリッパさんは凄いんだよッ!大戦黎明期における英雄的存在なんだッ!」

言葉に詰まるスリッパを押しのけるように、オニロは目を輝かせた。
大戦年表編纂室で読書にふけるしか無かった彼は、ここぞとばかりに読書で得た知識を披露し始めた。


706 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その4:2016/09/04 00:07:57.555 ID:3CVJ9V6wo
オニロ「まだ会議所ができる前の話さ…戦いをしない限り世界に進展がないと兵士たちの間で判明して間もない頃。一人の英雄が戦いを終結に導いたんだ」

当時の複数の文献には、その英雄について、みな一様に次のように記している。

“きのこたけのこ世界が創造されて数年。動乱が続いていた中で、その世界が真の産声を上げたのは、英雄スリッパが第二次大戦を終結させたその時である”

兵士たちは生を受け世界へ降り立ったその時から、生きることに必死だった。
生きるためには、その世界に留まり続ける必要があり、その世界は兵士たちの戦いのエネルギーを糧とし維持する材料とした。

皆、余裕は無かった。戦いは生きるために必要であるという、兵士たちは謂わば義務感に駆られ戦いを続けていた。
そんな第二次大戦中、生気のない顔で兵士たちが戦闘を続けていた正にその時だった。
ある一人のたけのこ軍兵士が突然、隊列から独り離れ、軍団の前に出た。周りがギョッとする中、その兵士は茶目っ気たっぷりな表情で辺りを見回した。

『みんな、キノコ狩りに興味はないか?』

当時、兵士に名前はなく互いを個として認識していなかった時分、その兵士は自らをスリッパと名乗り周囲を煽動した。
スリッパの熱にあてられ、たけのこ軍は戦いにノリと酔狂を見出し、勢いのまま進撃を続けた。
そして、きのこ軍を追い詰めた際、後年まで語り続けられることとなる名言とともに、軍団長スリッパはきのこ軍を壊滅させた。



『突き進む!そのさきが闇だったとしても!!』



707 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その5:2016/09/04 00:09:10.169 ID:3CVJ9V6wo
オニロ「――ということがあって以来、兵士たちはスリッパさんのお陰で大戦の醍醐味、おもしろさを理解することができたっていうわけさ」

社長「(さすが、スリッパは違うぜーー」

竹内「ほう、それはいい話じゃのう」

アイム「大戦世界発展の第一人者というわけか。そりゃあ各所で神格化されるわな。そんなあんたが、どうしてすぐに大戦をやめたんだ?」

スリッパ「…理由なんてないさ。いや、強いて言えば……【理由を知りたくなったんだ】」

オニロ「理由?なんのですか?」

スリッパはオニロの問いには答えずに、ただ淋しげに微笑むだけだった。英雄の儚げな笑みに、どのような背景が隠されているのか。
アイムとオニロはまだその理由を知らない。
サラだけがスリッパに向けて憐れみの視線を送っていたが、不幸か幸いに、誰も気がつくことはなかった。


708 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その6:2016/09/04 00:11:59.941 ID:3CVJ9V6wo
社長「しかし、兵士の姿が見えないあひゃよ」

竹内「腹が減ってきたのう。香ばしい焼き魚の匂いもただよってきた」

アイム「爺さん、飯ならさっき食ったから素直に寝てろ。…ん?ただ、確かに何か臭うな」

図書館に向けて歩みを進めていると焦げた臭いがアイムたちの鼻をつくようになった。
屋外でバーベキューでもやっているのだろうかと、食い意地の悪いオニロは考えた。

オニロ「この方向は…wiki図書館のほうだね。行ってみようか」

??「そこをどいてくれッ!」

突然、一人の兵士が通路から飛び出してきて、オニロと肩をぶつけた。オニロはよろけ、その兵士も壁に背を付ける形になった。
その兵士は額に大粒の汗を浮かべ、肩で息をするほどに呼吸が乱れていた。

オニロ「あ、すみませ……」

アイム「なッ!!」

社長「うっっ!!」

709 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その7:2016/09/04 01:06:23.451 ID:3CVJ9V6wo
その兵士は、シルクハットに蒼いケープを着用していたが、なんと顔が社長と瓜二つだった。
正確には、現代の社長の顔には常にモザイクがかかっているため、顔のシルエット像が社長と酷似していた。

??「どうした。俺の顔になにか付いてるか?」

オニロ「いや、あの、その…」

社長「 」

兵士の問いに、オニロは返答につまりアイムは口をあんぐりと開け絶句している。社長は全身がバグまみれのためなにがなんだかわからない。

スリッパ「…久しいな、タッピー社長。いや、アンチきのこマシンと呼ぶべきかな」

紅茶淹れエスパータッピー社長「ん?スリッパさんじゃん。圧倒的再会…!…なんか老けた?」

スリッパ「これだけ苦労すればな。まぁお前から見たら、さしずめ私は浦島太郎といったところかな」

紅茶淹れエスパータッピー社長「?ん、おいそこのあなた、もしかして――」

タッピー社長が社長を指差すと、いまの社長とは似つかないツカツカとした確かな足取りで、本人に近づいた。

710 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その8:2016/09/04 01:08:30.595 ID:3CVJ9V6wo
社長「アッアアッヤバイ。。あ、あ、あワお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!あヅファイヤ〜〜!!」

アイム「うるせえ真っ二つに斬り伏せるぞ」

紅茶淹れエスパータッピー社長「なんだなんだおかしな兵士だ。そうだッ!こうしてはいられないッ!図書館が大変なんだッ!」

タッピー社長は社長本人たちには目もくれず、再び走りだした。

紅茶淹れエスパータッピー社長「すぐに消火…!迅速な消火…!そして無事に鎮火させたら、蒼星石に踏まれたい!!!」

タッピー社長は風のように現れ、風のように去っていった。

竹内「あれが過去の社長か。懐かしいのう」

アイム「お前にもバグってない時期なんてあったんだなあ。『どうした、俺の顔になにか付いてるか?』だってよ!」

社長「やめてね。」

アイムはここぞとばかりにニヤニヤ笑いながらバカにする。
当の社長は全身を縮こまらせ、バグの海と同化した。

711 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その9:2016/09/04 01:13:24.464 ID:3CVJ9V6wo
場の空気が二人のやり取りで緩む中、オニロは周りから離れ独り思案していた。
タッピー社長の顔を見るのは初めてではない。重ねあわせていたのだ。集計班が失踪した直後の社長の顔と――


―― たけのこ軍 オニロ「あの……社長……ですよね?大丈夫ですか?」
―― 社長の存在がバグっていないのである。いつもは、顔だけでなく全身バグまみれの社長が、
―― 今はまるで獲物に狙われた子鹿のように全身を震わせ、悲しみ、際限ないほどに“恐怖”している。


バグっていない顔が、タッピー社長と全く同じだった。やはりタッピー社長は現代の社長と同一人物であることは間違いないと、オニロは確信した。
同時にふとした疑問が湧き上がる。では、なぜ今の彼はバグっているのだろうか。

彼がバグに虜になったから?
蒼星石よりもバグを選んだからバグろうとしている?


それとも、【何かを隠すために】敢えてバグっているとしたら?


バグの特徴はその難解さと理解者の少なさにある。バグれば誰からも相手にしてもらえなくなる。
もし、敢えて誰からも相手にされないために、【疑われないために】、社長がバグるという選択をしているとしたら――

スリッパ「それよりも、タッピー社長の後を追うぞ。wiki図書館の方向で何か異変が起きているようだ」

アイム「『消火』なんて言葉を使ってたな、嫌な予感がする。急ごうッ」

スリッパの一言に、オニロは急激に意識を現実に戻した。社長もいつもの調子を取り戻したのか多種多様なバグの表情を見せている。
考えすぎだったのだろうか、とオニロは自らの懸念を半ば払拭させた。こうして6名はすぐにwiki図書館に急いだのだった。


712 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その10:2016/09/04 01:19:46.084 ID:3CVJ9V6wo
【K.N.C47年 wiki図書館付近】

図書館があるべき場所には、烈火の如く燃える炎が居座り、オニロ達を出迎えた。
澄んだ夜空に、建物を飲み込む赤い炎はよく映えた。

この時代のwiki図書館はオニロ達が思っている以上に会議所に隣接していた。
そもそも図書館の位置する場所が現代とは異なっていた。初代wiki図書館は、木造の建屋で存在感を放っていた。
ただ、その端然たる図書館は、口を大きく開けた獄炎に為す術なく、無残にも激しく燃え盛っていた。

アイム「こ、これは火事なんてレベルじゃあねえぞッ!」

竹内「ほほう、ここでBBQ大会をぉ」

オニロ「まさか…これが…ここが、【K.N.C47年】!?」

オニロは過去の会話、そして自らが読み漁った大戦年表を記憶の隅から引っ張った。

━━━━
━━

―― 冒険書の保存状況は酷いものだった。四隅についている銀の留め具は原型を留めないほどに溶けて形を変え
―― 本にこびりつき、金で刻印されていただろう表紙の文字・ロゴはススや埃ですっかりと隠れてしまっている。

―― きのこ軍 アイム「なんでそんな汚えんだよ…」

―― たけのこ軍 加古川「留め具や金箔が溶けているしススばかりだし、過去に火災にでも見舞われた本なのかね?」

━━
━━━━
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713 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その11:2016/09/04 01:22:03.039 ID:3CVJ9V6wo
オニロは、編纂室で読んだ大戦年表のK.N.C47年の項を思い出し、他の5名にすぐさま事実を伝えた。

アイム「それが本当だとすると、ここにいたら危険じゃねえか?」

オニロ「危険どころの話じゃないよ!すぐに火の手を消さないとッ!」

アイム「待て。ここでオレたちがすぐに火を消して全焼を防いだら、K.N.C180年にある二代目図書館はどうなる?
重大な歴史改変で周りの兵士を多く巻き込んじまうぞ」

オニロ「だったら、この状況を見過ごせっていうの!」

社長「ふたりとも、あぶないあひゃよ!!」

突如、図書館を包んでいた炎の一部が龍の頭を司り、オニロとアイムに襲いかかってきた。
すんでのところで二人は後ろに下がり難を避けたものの、龍の炎は再び図書館を飲み込まんと戻っていった。

スリッパ「これは一体どういうことだ!」

オニロ「この炎の形、まさか、炎の流れからして…みんな、ついてきてッ!気になることがあるんだッ!」

アイム「お、おい!ったく、オニロの野郎、普段と違ってこういう時はやけに強引だな」

頭を掻きながら、オニロとアイムたちは図書館の奥――二代目図書館の位置する場所――へと急いだ。


714 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その12:2016/09/04 01:26:05.501 ID:3CVJ9V6wo
【K.N.C47年 初代wiki図書館付近】

オニロ「やっぱり…これ、魔法の炎だよ。それも、すごく強力なね」

図書館の裏手に回るとそこには、光を放つ魔法陣が描かれていた。
そして、その魔法陣からは大量の炎渦が創られては図書館へと向かっていっていたのである。

オニロ「前に師匠が教えてくれたんだ。欺瞞としての魔法がある、と。龍の炎が襲いかかってきたのはおそらく近づけさせたくないための防衛行動だろう。
すごい魔法力だよ」

社長「ああ、なんて憂鬱なんだろう」

アイム「これじゃあ誰かが人為的に図書館を燃やしたってことじゃねえかッ!」

スリッパ「wiki図書館は自然発生の火災で消失していたと聞いていたが。大きな間違いだったようだな」


  ―― コツッ

オニロ「すぐに消そうッ!みんな、下がっててッ!この魔方陣を消すよ」

アイム「だから待てと言ってるだろう。ここで火を消したら、重大な歴史改変をしちまうかもしれないんだぞ」

  ―― コツッ


715 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その13:2016/09/04 01:29:19.382 ID:3CVJ9V6wo
オニロ「目の前で刻々と起こっている悪意の連鎖を、アイムは見逃せっていうのかい!?」

アイム「悔しいが、そのとおりだ。もし仮に初代wiki図書館消失という歴史を改変すれば、二代目wiki図書館は存在意義を失う。
そうなるとどうなる?重大な歴史改変には手を下さない、それが、【観測者】たるオレたちの務めだ」

 ―― コツッ

スリッパ「二人とも落ち着け。オニロ君、これがDBやスクリプトの仕業であるという保証はあるか?」

社長「ジ→す」

オニロ「DBの歴史改変の前に、wiki図書館が全焼したという文献は読みました。
目の前で起きていることは史実通りです。図書館消失に際し、初代図書館長も姿を消し――」


                    ―― コツッ


その瞬間、オニロたちの周りの全ての時間が静止した。
燃え盛る業火音、朽ちる木々の擦れる音。
決して4名の耳に届くはずのない兵士の刻む足音が、まるでゆっくりと心臓のビートと連動するように、全員の頭のなかに“響き渡った”。



     ―― コツッ


                    ―― コツッ 

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716 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 必然編その14:2016/09/04 01:37:02.937 ID:3CVJ9V6wo
オニロたちの背後で、静かに足音が止まった。全員が背後の音の主へ向かい振り返る。
兵士はすらりとした全身を紅い炎に包んでいたが、まるでベールを脱ぐように、炎は消え失せその姿が次第に顕となった。
一目見ても、その兵士が目の前の火災に関わりがあるだろうことは容易に想像できた。

オニロは集計班とのやり取りを思い出した。


―― オニロ「そういえば、参謀と山本さんの前の初代図書館長は一体誰なんでしょうか?」

―― 集計班「…彼は最後まで沈黙であり続けた」

―― オニロ「え?」

―― 集計班「我々はその沈黙から多くを学び―」




          ―― 同時に重大なものを失った ――




その名は――



オニロ「あなたは、無口さんッ、ですねッ!!」

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717 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/09/04 01:38:46.953 ID:3CVJ9V6wo
今日のカード更新よ。つよそう。

http://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/833/card-27.jpg

他にもいろいろと書きたいところですが、とりあえずはこんなところで。

718 名前:社長:2016/09/04 01:41:40.305 ID:PNG5mMkE0
無口さん意外と物理系!てか勝てるんすか

719 名前:たけのこ軍 791の人:2016/09/04 01:51:31.328 ID:wPO589KM0
頑張れみんな!

720 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その1:2016/12/25 23:51:19.592 ID:pQoUtWgco
火炎をまとった鎧の兵士は、燃え盛るwiki図書館を背に、オニロたちを迎えていた。

その兵士の名は無口。

きのこたけのこ大戦世界の礎を築き、wiki図書館を創設した傑物である。
両軍を言葉少なくまとめあげる力と、戦闘中では静かに敵を薙ぎ払うその姿は、【静】と【動】を兼ね備えた兵士として、かつて多くの歴史書には
必ずと言ってもいいほどその名が記録されていた。

しかし、今では無口の名を記した歴史書のほとんどは消失し、その名を知る者はもう数少ない。
全て、目の前の初代wiki図書館消失が原因である。

自ら創り上げた書物の激しく燃え上がる様を、なぜ無口は静観していられるのか。
今や貴重な歴史家となったオニロには、不思議でならなかった。

オニロ「無口さん。どうしてwiki図書館の火を消そうとしないのですかッ!ここはあなたが創り上げた空間のはずだッ!これじゃあ、まるで――」

――あなたが、火災の”犯人”みたいじゃないですかッ!

無口にそうあってほしくないという否定した感情と、目の前で書物が焼かれることへの悲壮感。
会議所兵士と歴史家の二面の顔を持つオニロならではの葛藤だった。


721 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その2:2016/12/25 23:54:13.400 ID:pQoUtWgco
しかし、全ての言葉を紡ぎ終える前に、オニロの身体は宙を舞った。
一瞬の斬撃。
オニロが立っていた場所には、既に無口が居た。
しかし無口の移動を、剣が振るわれた速さを誰も追うことができなかった。

アイム「オニロッ!」

オニロ「ぐッ!大丈夫だよッ!『わたパチガード』」

事前に展開していた『スーパーカップバリア』のお陰で、オニロは空中へ飛ばされたものの外的な傷はほとんどなかった。
そして、わたパチに包まれ、何かが弾けるような小さな炸裂音とともに、オニロは夜の空に溶けて消えてしまった。

無口「…」

そんなオニロは気にもせずに、無口がアイムたちの方へ顔を向ける。
言葉がなくても、アイムたちには無口の言葉が理解できた。

――次はお前たちだ、と。

アイムは咄嗟に口を開き、口汚い言葉で無口に揺さぶりをかけようとした。
だがしかし、無口がゆっくりと剣を振り上げた瞬間、アイムは肌で無口のオーラを感じた。
無口は確実にこの場を無言で支配していた。

722 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その3:2016/12/25 23:56:27.792 ID:pQoUtWgco
スリッパ「くそッ、奴は語る言葉を持たない。二発目がくるぞ、サラッ!」

スリッパの言葉に呼応し、背後に控えていたサラが一行の前に移動し防護壁を張る。

無口が剣を振るう。
空間を斬るように、大地が震えるほどの風切り音をアイムは聞いた。
いともたやすく防護壁は破られ、全員は地面に叩きつけられた。

スリッパ「まさか、サラの魔法が破られるなんて…」

無口は、地面に転がる一行を気にすることなく、眼前のwiki図書館に目を向けた。
木造の建物はよく燃える。ただ、無口はじっと燃え盛る炎を見つめていた。

アイム「どうしてアンタ、ただ見ているだけなんだッ!あんたがこの図書館を創り上げたんじゃないのかよッ!」

無口は答えず、ただwiki図書館一点だけを見つめていた。
鎧に隠れて表情は窺い知れない。しかし、その様子に儚げなものはない。
どこか飄々としている。まるで業務のように観察する彼の冷徹さを、アイムは感じ取った。

アイム「このまま終わってたまるかッ!社長、援護しろッ!」

アイムはすっくと立ち上がった。同じように、社長も立ち上がる。

社長「いいぜ。」

スリッパ「待てッ!ここで無口さんを倒したら歴史はどうなるんだッ!」


723 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その4:2016/12/25 23:59:15.338 ID:pQoUtWgco
アイム「安心しろ、ちょっと痛めつけてその後に消火活動に参加させてやるんだよ」

アイムの言葉に、倒れ伏したままのスリッパはやれやれと呟いた。

アイム「おい無口さんッ!あんたが放火魔だろうが、そんなことは関係ない。オレたちをコケにしたツケ、払ってもらうぜッ!」

社長「『おっと 社長が ぶんれいね。』」

社長はその場で詠唱を始めた。途端に、彼の周りに数字の0が表れ出す。社長特有の魔法陣だ。
そして、その場で飛び上がったアイムの周りに呼応するように、瞬く間におびただしい数のバグった社長が現れた。

社長1「あワお〜」

社長2「さあ、吹くわよ!」

社長3「スピード感与えちゃったかな。」

社長4「まけたらバツゲームですよ!」

社長5「だいじょうぶでーす。」


スリッパ「地獄絵図だな…」

あっという間に空を埋め尽くした数千体の社長とその中に埋もれたアイムが、一斉に無口へ向かって一様に突撃を始めた。


724 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その5:2016/12/26 00:03:22.312 ID:mmb/Z5VIo
無口「…」

量産型社長「ループを勝ち抜くぞ!」

量産型社長「しねばいいんでしょう?」

量産型社長「ンッンッン ひさしぶりだミ」

何体もの社長が突撃しては、見事な無口の剣さばきで斬り伏せられ消滅していく。
空中に浮遊したままの社長群はその数の多さからか、順番待ちをしながら無口に突撃する始末。
異様な緊張感のはずなのに、どこか締りがなかった。
さらに社長たちのバグ音声がうるさすぎて、まるで無口の周りは祭の縁日のような賑わいっぷりとなってしまっている。

社長「やはり16×16のドットアイコン群では、無口さんには立ち向かえないのか…」

遠くから事態の推移を見つめる社長は、この瞬間もドット絵アイコン社長を召喚し続けていた。

スリッパ「というか、あの中にアイムが混じってるんだよな?
全部、ダミーアイコンをアイムにしておかないとすぐに無口さんにバレるんじゃないのか?」

社長「あっ」

スリッパ「おめえはよお、考えが甘いんだよ!」


725 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その6:2016/12/26 00:17:25.033 ID:mmb/Z5VIo
アイム「おらァ!無口さん、覚悟ッ!」

社長の中に混じったアイムの見極めは、無口にとって容易いことだった。
一人だけ異色を放つ緑のバンダナを巻いていたら、ピンクまみれの社長アイコンの中では嫌でも目立つものである。

無口「…」

無口は流れるような所作でアイムの剣を払った。

アイム「クソッ、戦闘術・魂奥義『ストーンエッジ』!!」

アイムから放たれる鋭利な石弾も難なく無口は避け、そしてアイムの一瞬の隙を逃さず――無慈悲にも一突きした。

アイム「ガッッッ!!」

社長「アイムッ!!」


726 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その7:2016/12/26 00:33:47.760 ID:mmb/Z5VIo
アイムの腹部を、無口の大剣が貫通していた。
アイムの身体は無口の大剣に無残にも支えられ、宙に浮いている。
苦痛の表情に歪むアイム。無口は静かに見つめている。

だらりとアイムの身体が伸びる。

無口は大剣を振り払おうと、ゆっくりと腕を動かそうとした。
大剣でアイムを薙ぎ払えば、その瞬間にアイムの生命も断ち切ることとなる。


―― いざという時に、俺はまた何の力にもなれないのか。

アイムの様子を間近で見ていたその兵士は、消え行くアイムの生命を見ながら、ただ立ちすくむことしかできなかった。

―― 預言書通りにはさせない。あの人から、そう使命を受けたはずなのにこれでは…これでは。

震える膝をむち打ち、一歩。また一歩と無口とアイムの下へ歩き始めるも、とても遅く。
一歩一歩がアイムの拍動と連動するように、その足取りは次第に止まる程遅くなって、再びその兵士は立ち尽くしてしまった。

―― 違う、預言書など関係ない。俺は…俺は目の前の友人すら救えないというのか。
    これではあの時と同じじゃないか。

―― こんなことなら、あの人と一緒に消えてしまったほうがよかった…

死は一瞬で訪れる。
重要で受け止めきれないほどの事実の前に、全員は呆然と無口の死への乱舞を見届けることしかできなかった。
周りにいる誰もがアイムの死を予感した。


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727 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 突発戦闘編その8:2016/12/26 00:40:48.652 ID:mmb/Z5VIo
全員「!!」

頭を垂れていたはずのアイムは、勢い良く両手で大剣を掴んだ。
そして、脂汗と涙にまみれた顔を無口に向け、口角をくっとつり上げた。

アイム「――ようやく捕まえたッ」

無口「!」

瞬間、無口の足元から生えた蔦が腕と身体に勢い良く巻き付き、彼の自由を奪った。


アイム「誰がオレを“本命”だと言った?“頼む、やれッ”!!!」


無口の背後で、ポンとワタパチの弾ける音が響いた。

オニロ「秘策は最後まで隠し持っておくことさ。

     『ネギ流星群』ッ!!!!」

無口の頭上から火を吹いた大量のネギが降り注ぎ、勢い良く爆ぜた。

師である791から教わった窮地を打開する必殺技が、手加減無用の威力で発せられたのである。

爆炎、爆風、そしてそれらによって起こる砂煙はまるで生命の咆哮だといわんばかりに、一瞬で無口を、そしてアイムたちを包み込んだ。

728 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2016/12/26 00:41:03.475 ID:mmb/Z5VIo
年内にもう一度くらい更新します…おそらく

729 名前:社長:2016/12/26 00:44:14.948 ID:u79B.57.0
乙。そして予想通りSKさんの片割れはたぶん私ですね・・・

730 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その1:2017/01/09 01:00:12.243 ID:Lh4qoWnwo
強烈な爆風がスリッパたちを襲った。先程まで無口が立っていた場所は激しい爆炎が巻き起こり、その様子は窺い知れない。

社長「やるねえ!」

スリッパ「それはフラグじゃないのか…」

オニロ「アイムッ!アイムは無事なのッ!」

アイム「あまり耳元で騒ぐんじゃねえ…傷口が広がるだろ」

オニロの足元でアイムは蹲って転がっていた。喋るたびに激痛を伴うのか、息は上がり苦しそうな声色だ。
ネギ流星群が展開される寸前、アイムは自らを貫いていた剣先を瞬時に切断し、後方へ退避し、ネギ流星群を避けていたのである。

アイム「“チームプレイ”…ようやくわかった気がするぜ、魂」

オニロ「喋っちゃダメだ。傷口を塞がないと…」

スリッパ「しかし、お前の師匠譲りとはいえ、ネギ流星群はやりすぎじゃないのか。これじゃあ無口さんもろとも…」

オニロ「いや。あの人が――」

アイム「――この程度でくたばるわけないだろう?」


731 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その2:2017/01/09 01:19:04.988 ID:Lh4qoWnwo
――コツ
――コツ

足音が響く。

無口「…」

スリッパ「正真正銘の化物だな。あの魔法を喰らって、まだ元気でいられるなんてな」

オニロ「まずい…もう魔法力が残ってないよ…」

アイム「お前の師匠はネギ連発できるんだろう。真似してみせろよ」

オニロ「ボクをあんなバケモ…ゴホッ、英傑と一緒にしないでよ」

無口は腰を深く沈め、大剣を地上と水平になるように、右手を前に突き出すような突きの構えを取った。
その無口の動きに呼応するように、大剣の剣先が機械的に変形し、マスケット銃のような大きな銃口へ変わった。

スリッパ「サラ!」

社長「もうおしまいだあ!」

サラが再び防護壁を貼ろうとするも、無口の剣先の銃口から放たれた白い光束は社長、スリッパそしてサラに一直線に向かい、三人の身体は遠くに投げ飛ばされた。

オニロ「みんなッ!」

スリッパ「立てないが大丈夫だ…だが肋は何本か折れたな…」

竹内「ワシに任せろ!」
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732 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その3:2017/01/09 01:22:23.761 ID:Lh4qoWnwo
――コツ

無口は倒れ伏したままのアイムとオニロの前まで来ると、歩みを止めた。
物音一つ出さずに、市場で見つけた骨董品を物色するように、好奇な視線を二人に向けている。

アイム「狙いはオレたちか」

無口は答えない。アイムは覚悟を決めたように、目を閉じた。

アイム「…ヤるならオレ一人にしてくれ。隣のポンコツ魔法使いには手を出すんじゃねえぞ」

オニロ「アイムッ!なに馬鹿なことを言って――」

無口「――これは余興」

鎧の中から発せられた無口の声は、くぐもることなく、透き通るほど全員の耳に届いた。

オニロ「え!?」

パチンと一度、無口が指を鳴らすと、アイムたちの受けた傷はたちまち癒えてしまった。

無口「初めからお前たちを始末するつもりなどない。ただ【確認】しにきた」

アイム「なんだと?」

無口「この世界に堕ちた【救世主】たちを――」

それに、と無口は遠くにいたサラへ視線を向けた。

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733 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その4:2017/01/09 01:25:24.167 ID:Lh4qoWnwo
数十秒、あるいは数分も経ったのだろうか。
これ以上の会話は無用と思ったのか、無口はその場で踵を返し、再び燃え上がる図書館に向かい歩き始めた。

スリッパ「待て」

無口「…」

足を止めた無口に、スリッパは隠し事をせずに腹を割って話すことを決めた。

スリッパ「シワは増えたが、知らない顔ではないだろう。この際だから聞こう。この火事は、お前が仕組んだのか?」

無口は困ったように肩をすくめた。スリッパの問いにイエスとも、ノーとも取れるものだった。

無口「“犠牲は超時間的な、超感覚的な、無制限なものと結びついている。それは、たとえ『無駄』であろうと、『無意味』ではない。”」

スリッパ「どこかのきのたけ哲学者の引用か。自身の行為を正当化できるとでも?」

またもスリッパの問いには答えず、無口はオニロたちの方へ逆に問いかけた。

無口「『メルティカース』という魔法を知っているか」

オニロ「…本で読んだことがある。一度詠唱してしまえば、たとえ術者がいなくなっても、半永久的に自律的に起動し続ける永続補助魔法。
師匠でも詠唱には苦労するって」

無口「そうだ。その『メルティカース』はいま、起動の準備段階にある。魔法陣は…図書館の遥か下、地下階層に仕込んである」

アイム「まさか…大戦年表編纂室を創っているんですか!?」


734 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その5:2017/01/09 01:29:51.904 ID:Lh4qoWnwo
大戦年表編纂室がなぜ歴史改変の影響を受けない部屋なのか。
それは、編纂室自体がメルティカースにより生み出された魔法シェルターに他ならないからである。

歴史改変を受けず、時空の潮流に飲み込まれない唯一つの空間。
いまこの時より無口は編纂室をメルティカースにより召喚し続けていたのである。
そして、この図書館の大火の中で、無口は編纂室の召喚の準備を淡々と進めていた。

メルティカースは超高度魔法ゆえ、一度起動に失敗してしまえば詠唱に必要なエネルギーがそのまま術者に跳ね返ってくる。
即ち、周囲にある図書館ごと飲み込み、消え爆ぜてしまうリスクがある。
無口が用意した図書館の大火は、編纂室をメルティカースで創り上げる上で、兵士を図書館に寄せ付けないための策であった。

オニロ「そうだとしても…残った書物が一緒に燃えてしまうなんて、あんまりだ…」

無口「図書の犠牲は無駄であろうと、今後のことを考えると無意味にはならない。それはお前たちが一番よく知っている」

アイム「あんた…まるでオレたちの正体まで知っているようだが。まさか、化けたDBってことはないよなッ」

無口は答えない代わりに肩をすくめた。ナンセンスだ、と答えているようにアイムには感じられた。

735 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その6:2017/01/09 01:33:12.246 ID:Lh4qoWnwo
アイム「おい。あんたにだから言うが、オレたちは未来からきた。当然、あんたの結末は知っている。
包み隠さずに言おう。この図書館の大火であんたは歴史から消えちまうんだよ」

オニロ「ちょ、ちょっとアイム!まずいよ、未来の事を言うのは!」

アイム「どうせ消える兵士の方だ。ここで歴史改変が起きなければ、無口さんが消えるという事実は変わらない。そうだろう?」

いつもアイムの頭のなかに囁いてくる謎の声は聞こえてこない。
つまり、無口が歴史の表舞台から消えてしまう事実は不変だということの証明だった。

無口「――還りたいか?」

アイム「正確には、帰らなければいけないだな」

無口は暫しの沈黙の後、それならばと語った。

無口「…直に消火活動部隊が正面入口前に到着する。だが、奴らはことの事態に動揺し、力を発揮できん寄せ集め。
【消火活動を手伝い、少しでも書物を残す努力をしろ】。そうすれば、現代に帰れる」

社長「…」

スリッパ「なぜだ。あなたは間違いなく大戦年表編纂室の創設に関わり、未来で起きる騒動も予見している。時限の境界の事も知っている」

ならば俺達がなぜ過去に来ているのかも知っているかも、と続けた上でスリッパは核心をついた。

スリッパ「なぜ、こんな回りくどいことをさせるんだ」

無口「全ては『預言書』にしたがったまで。理由については、そうだな。そいつにでも聞いたらどうだ」

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736 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その7:2017/01/09 01:34:44.182 ID:Lh4qoWnwo
無口「――時間だ」

再び踵を返し、無口は歩き出した。

アイム「編纂室の準備が完了したってことか。どうやら、あんただけの意志では無さそうだが、後ろには誰が控えているんだ?」

無口は答えずに図書館へ還っていく。

アイム「まあいい。それで、あんたはこのまま消えるのか。随分と無責任じゃないか、消えた後は天から見守るとでもいうのかい」

そこで初めて無口は立ち止まり、静かに肩を震わせた。
笑っている。あの無口が。

無口「【天】か。なるほど、言い得て妙だな。そうか。それじゃあ“俺たち”は【天の上から】事の推移を見守るとしよう」


――大戦に幸あれ


消え入るような声で最期にそう呟いた後、無口の姿は夜の闇に溶けていった。
あとには静寂と、煌々と燃える図書館だけがアイムとオニロたちの前に残った。

737 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その8:2017/01/09 02:01:19.151 ID:Lh4qoWnwo
【K.N.C180年 会議所正門前】

オニロたちは無事、現代の会議所へ帰還した。
無口が消えた後、オニロたちは無口の遺した言葉通り、消火活動に参加した。迅速な消火活動の末、図書館の火は驚くほど早く消し止められた。
あるいは、早い段階で炎魔法の効力を失うように、無口がコントロールしていたのかもしれない。
結果的に、迅速な消火活動が【歴史改変】と認められ、オニロたちは時限の境界を経て現代へ帰還することができた。

結局は無口により、オニロたちは最初から踊らされていたのである。

無口との邂逅を経て各人がさまざま葛藤する中、DB襲撃の危惧からオニロたちは急ぎ会議所の前まで戻ってきた。

―― 【救世主】は生き残った。

オニロ「…長ッ!」

―― やはり、あの人の予見通り、預言書はただの紙クズと化したのか。

オニロ「社長ッ!」

何やら思案気に顔をバグらせていた社長は、オニロの言葉にハッとした様子で顔を上げた。

オニロ「社長。無口さんが最後に言っていた言葉の意味。あなたなら、何か知っていますよね」

社長「(そうでもないけど)」

オニロ「編纂室に戻ったら教えてください。話せる内容までで結構ですから」

社長「…はいよ」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

738 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その9:2017/01/09 02:03:14.016 ID:Lh4qoWnwo
竹内「すまんのう。ワシはおしっこ行ってくる」

会議所に着いたと同時に、竹内はフラフラとした様子でどこかへ行ってしまった。
その竹内に誰も言葉をかけない辺り、今回の時間旅行で何度同じ場面があったか想像するに難くない。

アイム「しかし、やけに静かだな…」

会議所の受付は昼間だというのに明かりが消えている。ただでさえ古びた受付が薄暗く肝試しに出てきそうな程に寂れて見えてしまっている。
静寂を通り越し生気がないのだ。そして、どこからか立ち込めている生臭い臭いが、先程からアイムたちの鼻をついていた。

加古川「おかえりィ」

ぬっと暗闇の中から出てきた加古川が、満面の笑みでオニロたちを出迎えた。

オニロ「加古川さん、戻っていたんですねッ!DBはまだ襲撃していませんかッ!」

オニロは不思議な違和感を覚えた。
いつもくたびれたような面持ちで皆を迎えていた加古川が、今日はやけに張り切っているように見えたからである。
そして、その目はどこか焦点があっていなかった。

加古川「予想より時間がかかったなァ。拘束ゥ」

オニロ「何を言って――」

なにか様子がおかしい。オニロたちが疑問を抱くよりも前に、加古川の命令はくだされた。
柱の陰に隠れていたsomeoneの放った麻痺魔法は、アイムたちに悲鳴を上げる暇すら与えず、身体の自由を奪った。
全員の身体は硬直し、直立したアイムたちはその場に倒れ伏した。


739 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 会話編その10:2017/01/09 02:06:55.435 ID:Lh4qoWnwo
someone「ヒュー。プッカライトニングが決まると気持ちいいなァ。拘束完了ゥ」

同じく身を潜めていた抹茶も姿を現し、倒れる一行を面白そうに眺めていた。

抹茶「おやァ。一人、兵士が足りないようですがァ」

黒砂糖「あの老人は放っておけェ。単体では何もできんよォ」

アイム「ッ!!」

somoneの麻痺魔法を少しでも破ろうと、必至の努力で顔だけ上げたアイムは、正面から現れた黒砂糖と目があった。
暗闇と同化するほどに真黒な祭服を着込んだ黒砂糖は、驚愕にまみれたアイムたちの顔を一瞥すると、口角をつりあげニタニタと笑いだした。
その笑い方は、まるでアイムたちが追っていた宿敵そのもので――

黒砂糖「それでは“あの方”の下にこいつらをお連れしろォ。
お前たちの帰りを今か今かと待っておられたのだ、【その身】で非礼を詫びるんだぞォ」


740 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2017/01/09 02:07:56.801 ID:Lh4qoWnwo
長かった第三章。次回最終。遂に物語はクライマックス第四章へ。
そして明かされるアイムとオニロの秘密、そして集計班の協力者。

741 名前:社長:2017/01/09 02:09:17.373 ID:c.vMjwHo0
更新乙。やばいよやばいよ・・・

742 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2017/01/09 02:26:01.235 ID:Lh4qoWnwo
第四章は第三章ほど文量はない(予定)ので、サクサクっといくぜ!

743 名前:791:2017/01/09 02:27:50.189 ID:abst9aJ20
ふおおお!
一体何が!?
続きを楽しみにしてます

744 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その1:2017/03/27 01:08:15.092 ID:JxG3Or5ko
【K.N.C180年 会議所地下 大戦開発室】

身動きの取れないアイムたちに縄をくくりつけ、黒砂糖は大廊下の端からのびる階段で地下へと下り始めた。
アイムにはその薄汚れた階段の入り口に見覚えがあった。
会議所に来たばかりのアイムが、埼玉と抹茶に案内を受けていた際に見つけた隠し階段と同一のものだったのだ。

誰かに抱えられながらアイムたちは階段を下っていった。アイムたちは身体を動かすことができないため、知る由もない。
階段はすぐに途切れた。大戦年表編纂室のように構造自体に魔法が施されているわけでもなく、そこには純粋な地下室が用意されているようだった。

着くやいなや、アイムたちは部屋に投げ出された。打ち身を気にする暇もなく、アイムたちの鼻を腐敗臭が襲った。
生臭さとも刺激臭とも取れる独特の臭いに、アイムとオニロは覚えがあった。

オニロ「お前は…DBッ!」

DB「おや久しぶりだねェ“君ィ”」

まるで玉座と言わんばかりに目の前で椅子に座りふんぞり返るDBを、アイムとオニロたちは苦々しそうな表情で見上げた。

745 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その2:2017/03/27 01:10:52.698 ID:JxG3Or5ko
漆黒の司祭服を羽織った黒砂糖は、当然のようにDBの横に付いた。
その左右にもオニロたちの見知った会議所兵士たちが、DBに忠誠を誓うかのように整然と並んでいる。
先刻までオニロやアイムと額を寄せ合い話し合い、DB討伐のために立ち上がった兵士たちだ。
DBの異臭に気にも留めず皆一様に下品な笑みを浮かべる兵士たちの姿は、彼らがDBの魔の手に落ちたことを瞬時に確信させた。

アイム「おかしいな。オレたちはDB討伐に湧くK.N.C180年に戻ってきたはずだが、こいつはどういう理由かな」

スリッパ「抹茶、黒砂糖、山本。目を覚ませッ!目の前にDBがいるんだぞッ!」

つい先刻まで同胞だった会議所兵士たちが、明確な敵意を以て相対す姿はスリッパたちにとって混乱よりも寧ろ畏怖を招いた。

抹茶「スリッパさん。まだそんな馬鹿げた事を言っているんですかァ」

加古川「俺たちは間違っていた。DB様の素晴らしさに触れェ、DB様の支配を助けようと思い直したんだよォ」

山本「アイムゥ。はやくお前も“こっち”に来いよォ。さもなければ…な?」

焦点が合わず人形のように歯をカタカタと鳴らしながら喋る兵士たちに、思わずアイムは見ていられないとばかりに目を逸らした。

オニロ「強力な洗脳魔法がかけられている…歴戦の兵士でも逃れられない」

しかしオニロはその言葉とは裏腹に一つの希望を持っていた。オニロたちの前に並ぶ兵士たちの中に、師匠791の姿が無い。
791は今もまだ編纂室で健在か、もしくは人知れず交戦の機会を探っているのではないか。オニロは791の強さを誰よりも肌で感じ絶大な信頼感を持っていた。

746 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その3:2017/03/27 01:12:46.189 ID:JxG3Or5ko
DB「その通りィ。兵士の“希望-心の本-”を喰らい今の俺様はなんだってできる。洗脳、破壊、支配――そう、あの大魔法使いですら今の俺様にとっては敵ではない」

オニロ「ッ!!まさか、師匠をッ!」

DBは溜息を一つついたのち、オニロの様子を見て鼻で笑った。
足を挫いてもなお悪足掻きをする獲物に憐憫の情を抱く肉食動物のように、DBは落ち着いていた。

DB「大戦年表編纂室――貴様らも考えたものだなァ。道理で、俺様とスクリプトの動きが読まれるわけだ。お陰で俺様の考えは看破され壊滅一歩手前だったァ」

DB「お前の師匠、大魔法使い791といったか。かなりの強者だったァ、かつての討伐戦の後に来た人材でェ俺様もデータはなかった。
ナメてかかれば今ここには居なかっただろう…だが幸いなことに俺様には優秀な片腕がいてなァ」

黒砂糖「大魔法使い791が強力魔法を使うゆえ、魔力消費が他の兵士より早いことをお伝えしたのだ」

――魔力切れを誘発し、一先ず早く寝てもらったわ。

黒砂糖はDBの賞賛に感銘を受けたように深々と頭を下げた。

社長「黒ちゃん…あんたって人は」

オニロ「ふ、ふざけるなッ!!!師匠の優しさに漬け込み、あなたはッ!!!信じていたんだぞッ!それを、それを踏みにじるように…」


747 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その4:2017/03/27 01:13:48.554 ID:JxG3Or5ko
アイム「抑えろ。黒砂糖さんも洗脳されているだけだ。寧ろ、791さんがこの場に居ないことは救いだ。オレたちはまだ運に見放されたわけじゃない」

激昂しかかる社長とオニロをアイムは冷静に諭した。DBはその様子が気に食わなかった。

DB「今の状況を理解しているのかァ?お前たち以外の討伐隊員は全て俺様のォ支配下に入った。そしてお前たちはまな板の上の鯉だァ。
俺様が一度、ふっと口から息を吐けばァ洗脳されるんだぞォ」

アイム「見かけ上はそうかもしれない。ただ、オレたちを操り人形にできたとしても、それからどうだ?
いつ切れるかわからない洗脳を頼りに怯えながら砂上の楼閣の王として暮らすか?本当の兵士の心までをお前は掴めない」

オニロ「掴めるはずがないよ、お前はボクたちを使って人形遊びをしているだけだから。そんなまやかしの世界を手に入れて、お前は何が楽しいんだ?」

途端、DBは椅子を転がすほどに勢い良く立ち上がり激昂した。


748 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その5:2017/03/27 01:17:00.762 ID:JxG3Or5ko
DB「貴様らに何がわかるッ!!兵士の士気高揚のためだけに生み出され、討伐、そして幽閉。
たまに大戦への参加意欲が下がると外に出されまた討伐される。
俺様は貴様らの欲望の捌け口として生まれてきた、見世物小屋の動物みたいなものなのだ。
檻の中の動物が、唾を吐く見物人に牙を剥いて、何が悪いと言うのかッ!!!」

一気にまくし立てたDBは肩で呼吸をするように荒々しく息を吐いた。

アイム「それでお前は――」

オニロ「――【満足】できたのか?」


              ――それでお前は満足できるのかい?

DBの脳裏には、いつか誰かから発せられた同じ言葉が蘇った。

DB「【同じ】だ、あの時と…貴様らは、否。“貴様”はまたも俺様を愚弄するのか…」

アイムとオニロの一言に、DBはよろめきながらブツブツと独り言を呟いた。

DB「貴様は…そうして“希望”を振りまき…俺様をまた闇へと追いやろうと…」

部屋の奥にある巨大な空調機のような機械から出る忙しない光が、広々とした部屋を薄ぼんやりと照らしていた。

オニロ「ねえ社長。どうしてDBはあんな狼狽えているの?」

社長「…さあ、ワシにはさっぱり。」

未だ麻痺魔法で身動きの取れないオニロたちだったが、目の前のDBから放出される目に見えない“自信”は、オニロたちに希望を与えた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

749 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その6:2017/03/27 01:19:26.954 ID:JxG3Or5ko
DB「貴様ァ。ここがァどこかわかるか?」

アイム「さあな、初めて来た」

DB「嘘だァ、前にも俺様と一緒にここに来ただろうゥ?」

誰に向けられた話しなのかわからず、またDBの自信に満ちた返答に、一瞬アイムは困惑し言葉に詰まった。

アイム「気でも触れたか?オレとお前が一緒に行動なんてするわけないだろ」

DB「いやァ。確かに、“貴様”はあの時俺様とこうして対面していた」

アイムは違和感を覚えた。先程からDBと会話しているはずなのに、DBが自分に向けて話していると思いにくいのだ。
どこか会話がすれ違う。

アイム「だから違うと言っているだろッ遂に頭まで腐っちまったか」

DB「もう少し、足りない部分を使ってみれば“貴様”も思い出すはずだ」

アイムは困惑したようにオニロに助けの視線を送った。

オニロ「おい化物ッ。アイムは違うと言っているんだ、独りよがりはやめろ」

DB「“貴様”の答えをまだ完全に聞いていない。教えてくれ」

オニロ「ボクにきいているのか?それならば、アイムと同じだ。お前と一緒だったことなど無い」

アイムは違和感の正体に気がついた。DBは二人と話をする時に、決してアイムとオニロに視線を合わさないのだ。
必ず二人の間にある何もない空虚な空間を見て話す。ただ虚ろな視線を送っているのか。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

750 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その7:2017/03/27 01:21:03.521 ID:JxG3Or5ko
DB「ここは俺様が生み出された始まりの地でもあり、“貴様”の終わりの地でもあるゥ」

DBの背後で、¢の開発した【圧縮装置】から漏れ出した光がDBを照らしていた。

アイム「貴様、貴様とさっきからお前はオレとオニロのどちらに話しかけているんだ?」

いい加減にアイムは痺れを切らした。オニロも続いた。

オニロ「混乱させようとしてもそうはいかないぞッ」

DBは初めて口角を釣り上げ嘲笑した。

DB「何を言っているんだ。俺様は最初から“貴様”と会話していたぞォ」

アイム「だから、それがどちらだと――」

DB「思い出さないかァ?」

DBの一言に、アイムは口を開けたまま一瞬静止した。
オニロも何かを考え込むように、辺りを見回す。

先ほど見覚えのなかったはずの風景。

そこに。アイムとオニロの頭のなかに、同時に【例の夢】の光景が流れてきた。


751 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その8:2017/03/27 01:22:48.289 ID:JxG3Or5ko
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「…かった。…長年…ついに……やっと……」
―― 囁くような声を聞いて。ゆっくりと、夢の中で瞼を開ける ――

「…オー…結集……貴様を………掌握ッ………会議所を……」
―― 意識が定まらない、うすぼんやりとした感覚が身体を支配する ――

「貴様を……会議所の…全て断ち……」
―― どこか見覚えのある光景、覚醒しない脳を働かせようとする ――

「…ッここで………消える…」
―― 思い出すのは、暗い室内 ――

「………るく思うな…これも…全て……ため…歴史を……ため」
―― 思い出すのは、異様なまでに冷えた部屋の空気 ――

「覚悟……逃げること……………なッ!…自ら……馬鹿なッ…」
―― 思い出すのは、ふわふわ浮いているような不思議な心地良い感触と ――

「なぜだッ!!!なぜ!!!!なぜだーーーーーーーーッ!!」


          ―― 頭を鈍器で殴られたような酷く重たい感触 ――
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(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

752 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その9:2017/03/27 01:29:34.706 ID:JxG3Or5ko
スリッパ「ど、どうしたんだふたりともッ!」

社長「アイムッ!オニロッ!戻ってこいッ!!思い出してはDBの思う壺だッ!」

DB「もう遅い…」

二人の悲鳴を最良の馳走とばかりにDBは舌なめずりをして見ていた。

DB「思い出したなァ。そう俺様は“貴様”と以前に、ここで対面している。否、それではない。それよりも以前からずっと、ずっと――」

社長「もう止めろDBォ!!!止めてくれッ!!」

アイム「オレたちに何をしたッ!」

オニロ「ボクたちに何をしたんだッ!」

アイムとオニロは満身創痍の中、目の前の邪悪な怪物に精一杯の虚勢をもって問いかけた。
社長の静止はDBにも、そして二人にも届くことはない。
いまこの瞬間、預言に無い運命は暴走を始めたのだ。

玉座に座るDBは待ちわびたとばかりに愉悦気に答えたのだった。

753 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち 地下室編その10:2017/03/27 01:33:51.809 ID:JxG3Or5ko
DB「そうか、今はアイムとオニロという名前になっていたのか。

         “貴様ら”は互いに欠けたピースゥ。


              元は一つの形だったァ。


何をしたか?その問いに答えよう。


            俺様は“貴様”を手に掛けた。
          その結果、出来たのが“貴様ら”だ。


分からないか?俺様は創り出した。
               

               アイムとオニロ。“貴様ら”二人を。



ここに“貴様”を招いたのもこの俺様。

そして、そこで不意打ちに“貴様”を討ち取ったのもこの俺様。

元々一つの存在であった“貴様”の魂が二つに分かれたのもこの俺様のせい。

つまり、つまりィ。ゴミのように転がっている“貴様ら”二人の生みの親は、この俺様ってことだよォッ!!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

754 名前:きのこ軍:2017/03/27 01:37:04.940 ID:JxG3Or5ko
Chapter4.大戦に愛を へとつづく。

色々と反省しかありませんが、最終章へ向けて邁進するのみのみ。

755 名前:社長:2017/03/27 01:39:53.116 ID:6QMucJns0
ついにアイムとオニロの秘密が!乙。

756 名前:Chapter3.無秩序な追跡者たち:2017/05/07 23:44:27.343 ID:90JAJ7Q6o
社長のssに胸をうたれ、更新再開にむけて努力します。がんばるぞい。



757 名前:きのこ軍:2017/05/20 01:37:54.363 ID:7NMTxnUEo
・これまでのあらすじ(ロングバージョン)

★Chapter1. 欠けたものたち
―― 「オレの名前はアイム、記憶喪失らしい。好きな食べ物はきのこ。この世で一番嫌いな食べ物はたけのこだ。所属はきのこ軍」
    ―― 「ボクの名前はオニロ、同じく記憶喪失みたいです。たけのこ軍所属ですけど、きのこも好きです」
―― 社長『こうして森部拳は 永遠にその姿を消した……』
    ―― 「二人はパズルのピースのようなものです。お互いに欠けたピースなんだ」

“大戦”を運営する『会議所』は、日に日に増大する大戦参加者の士気・意欲低下に頭を悩ませていた。
その最中、会議所に流れ着いたアイムとオニロは、社長の【占い】により、『大戦の希望』として鍛えられる。

758 名前:きのこ軍:2017/05/20 01:39:03.672 ID:7NMTxnUEo
★Chapter2. 悪しき時空の潮流者
―― 集計班「私の予測が正しければ、編纂室にいれば『歴史改変の影響を受けない』。」
    ―― ¢「堅牢な檻から獰猛な動物が二匹解き離れた。1匹目は愉快犯 スクリプト、そしてもう1匹は…邪悪の権化 DB<ダイヴォー>」
――  『【時限の境界】 自身の決意を込める意味で、魔法のタイムマシンフロアを以後こう呼びたいと思う。』
    ―― 筍魂「【無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】」
―― アイム「【無秩序の全】は世界、【一】はオレ。【一】が【全】の“正”・“負”を支配し、逆もまた然り」オニロ「――それが【生命力の流れ】で【世界の理】の一部」

ある日、会議所で捕らえていたはずの世界の宿敵【DB】、【スクリプト】が脱走していたことが判明。
同時に、DB一味は、禁忌のマップ『時限の境界』で、故意に会議所不利の歴史に改変していることも明らかになる。
世界の危機を救うため、参謀を隊長とするDB討伐隊は、すぐさま『時限の境界』に突入するも、内部に潜むスクリプトや、時限の境界の【制約】の前に悪戦苦闘。
結局、DBの姿すら確認できずに、撤退を余儀なくされる。

自身の不甲斐なさを悔い、アイムは戦闘術魂の伝承者・筍魂に弟子入りを志願。
オニロとの絆を深め、師からの教えを理解したアイムは、再び時限の境界へと突入する。
しかし、新たな【制約】により、アイムは独り過去の時代に閉じ込められてしまう。

759 名前:きのこ軍:2017/05/20 01:41:27.826 ID:7NMTxnUEo
★Chapter3. 無秩序な追跡者たち
―― 竹内「どうも皆さんお久しぶり――かくいう私はもう隠居した身でね」
    ―― たけのこ軍 社長『ふねもでていったし、あんたたちのおかげだよ!』『預言?しらね^^』『アア オワッタ・・・・・・・・!』
―― きのこ軍 アイム「兵士は誰しも『大戦の本』を心の中に宿している
    ―― DB「“相棒”に伝えておけ、『すぐに迎えに行く』とねェ…」
―― 無口「【天】か。なるほど、言い得て妙だな。そうか。それじゃあ“俺たち”は【天の上から】事の推移を見守るとしよう」
    ―― オニロ「ボクたちに何をしたんだッ!」
―― DB「つまり、つまりィ。ゴミのように転がっている“貴様ら”二人の生みの親は、この俺様ってことだよォッ!!」

持ち前の機転と戦闘術魂を利用し無事現代に帰還したアイムは、会議所の中心的存在だった集計班が突如として姿を消したことを知る。
悲観に暮れる間もなく、竹内の加入を経て、スクリプトたちが【スクリプト工場】を過去の時代に製造し過去改変を行うという恐ろしい事実を目のあたりにする。
そして順調に工場を破壊する中で、追い詰められていたDBと討伐隊は、時限の境界内で遂に運命の邂逅を果たす。

万事休すと思われたDBだが、自らの危機を逆手に取り、過去の時代で黒砂糖を洗脳。会議所の内通者として仕立てあげ、会議所を洗脳し制圧する。
一方、アイムとオニロはK.N.C47年で初代wiki館長無口と出会い、真実の糸を手繰り寄せるも。
現代の会議所で捕らえられたアイムとオニロはDBから恐ろしい真実を告げられるのだった――――


760 名前:きのこ軍:2017/05/20 01:57:39.486 ID:7NMTxnUEo
本編投下

761 名前:Chapter4.大戦に愛を オープニング編その1:2017/05/20 02:04:26.270 ID:7NMTxnUEo
目を覚ました時、自分は何もない飴色の空間を所在無げにふわふわと浮いていた。
思い出そうとしても意識が朦朧としている。自分が誰なのか記憶を手繰り寄せようにも記憶がない。

完全に覚醒していない意識の中で直感する。
そうか、これは夢なのだと。

1秒かはたまた100年か。
時間の概念を忘れる程にその空間に漂い続けていると、不意に仄かな光が自身を徐々に包み、やがて一面が真白となった。
とても目を開けていられず、思わず腕で顔を覆った。まばゆい光が自分にはとても場違いな空間のように思え身を固くした。
だが暖かな光は自身を包み込むように体を芯から温め、その感触がこそばゆかったものの、次第に嫌ではなくなった。

暫く経つとまるで長い間自身が此処にいたようにくつろぐようになった。時間の概念がないので、こちらも1秒あるいは100年過ごしたかはわからない。
居心地がよく、夢のような空間だとさえ感じた。今、自身のいる空間が夢であるというのにおかしな話だと笑った。
まばゆい光に目は未だ慣れず顔を腕で覆い続けながらも、確かな幸せを感じていた。


762 名前:Chapter4.大戦に愛を オープニング編その2:2017/05/20 02:07:27.035 ID:7NMTxnUEo
至福の時間を過ごした空間に身を置きすぎ、だから気を許しすぎていたのだろう。
気が付かなかったのだ。

いつの間にか光の空間から叩き落され、自身が底知れぬ闇へ向かっていることに。
目を開けた時には、一面はうってかわり真暗の闇で覆われていた。
怯える。夢だとわかってはいても、底なし闇に堕ちていく自身の精神は二度と現実に戻れないのではないかという予感があった。

恐怖に打ち克つように、自身の両拳をぎゅっと握った。
目は瞑ったままで、力強く。

763 名前:Chapter4.大戦に愛を オープニング編その3:2017/05/20 02:10:21.983 ID:7NMTxnUEo

「長かった。長年かけて、ついにやっとここまでこれたァ」
― 囁くような声を聞いて。ゆっくりと、夢の中で瞼を開ける ―

「正のオーラで結集してできた貴様を、この場で俺様が戴くことで掌握ッ。完全に会議所を掌握する」
― 意識が定まらない、うすぼんやりとした感覚が身体を支配する ―

「貴様を消し去ることで、俺様は会議所の希望を全て断ち切る」
― どこか見覚えのある光景、覚醒しない脳を働かせる ―

「貴様はッここで俺様に喰われて消える」
― 思い出すのは、暗い室内 ―

「悔しいか?悪く思うなよ。これも全て俺様のため。会議所の歴史を変えるため」
― 思い出すのは、異様なまでに冷えた部屋の空気 ―

「覚悟しろ、逃げることなど なッ!自ら四散しただと。そんな馬鹿なッ!!」
― 思い出すのは、ふわふわ浮いているような不思議な心地良い感触と ―

「ふざけるなッ!!幾ばくもの月日をかけて今日を待っていた!貴様を喰らうことのみ考えて今日を生きてきた!なのに、なぜッ」

「なぜだッ!!!なぜッ!!!!なぜだーーーーーーーーッ!!」


          ―― 頭を鈍器で殴られたような酷く重たい感触 ――


夢から、覚めた。

764 名前:Chapter4.大戦に愛を オープニング編その4:2017/05/20 02:11:24.151 ID:7NMTxnUEo
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きのたけWARS 〜DB討伐〜
Chpater4. 大戦に愛を

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765 名前:Chapter4.大戦に愛を オープニング編その5:2017/05/20 02:15:12.368 ID:7NMTxnUEo
信じがたいことに、かつてきのこたけのこ大戦世界には【神】が存在した。
兵士たちが【神】という存在を忘れて久しい。
だが、大戦世界には数多もの【神】が存在した。

農家では、畑から収穫したきのことたけのこを出荷前に【農耕の神】へ供え、家庭で振る舞われる際には【食事の神】へ祈りを捧げ、
子供が夜更かしをしていると親は【幽霊神】の伝説を語り、やんちゃな童たちを震え上がらせた。

伝聞が伝聞を呼び、大戦世界黎明期の兵士たちは【神】の存在を認知するようになった。
日常生活のなかでどうにも自分たちの力で解決できない事象があると、兵士たちはまるで猿の一つ覚えのように【神】に縋るようになった。
時には居もしない【神】をその場で創り出して縋り、その願いに応える形で【神】は生まれてきた。兵士たち自身が【神】を創り上げてきたのだ。

もし世界を天の上から見守る管理者がいたら、当時の下界の兵士たちの様子にはだいぶ呆れたかもしれない。
それ程までに一時の大戦世界は兵士たちの懇願で溢れかえった。仕方なく、管理者たちは粘土をこねるように次々と【神】を造形し生み出していった。


766 名前:Chapter4.大戦に愛を オープニング編その6:2017/05/20 02:17:42.188 ID:7NMTxnUEo
暫く経ち、とりわけ大戦場ではいつからか【戦の神】への信仰が爆発的に強まり始めた。
初出は窮地のきのこ軍兵士が、居もしない【戦の神】をやけくそ気味に叫んだことが始まりと言われているが今となっては知る由もない。
その戦いはきのこ軍が大逆転勝利を収めた。

かくして、いつの間にか絶体絶命時に【戦の神】へ祈りを捧げると大逆転勝利できるという伝説が、まことしやかに囁かれ始めるようになった。
時代が進み文化的にも成熟した大戦世界では、一時の神信仰は鳴りを潜めつつあった。
代わりに神といえば【戦の神】と皆が認識するように、武運をまとった神を兵士たちは想起した。



兵士たちは、畏怖と敬意そしてほんの僅かの親しみをこめ、その神を【軍神<アーミーゴッド>】と名付けた。


767 名前:Chapter4.大戦に愛を オープニング編その7:2017/05/20 02:27:56.361 ID:7NMTxnUEo
軍神<アーミーゴッド>は大戦世界に生まれた。
そして常に戦場では先頭で兵士たちを鼓舞し続ける存在となった。
兵士たちが軍神<アーミーゴッド>に縋れば、たまに大逆転が起きる。
勝利の立役者を階級を超えた軍神Åとして表彰する動きも一時は盛んとなった。

かつて確かにきのこたけのこ大戦世界には【神】が存在した。
しかし兵士が大戦への興味を失うにつれ、軍神<アーミーゴッド>は兵士たちの心の拠り所では無くなり現世へ留まる必要が無くなった。
軍神<アーミーゴッド>は名残惜しつつも、現世から姿を消し天の上へと戻った。いつか兵士が“希望-心の本-”に胸を膨らませ、自身の存在を必要とされるまで世界を見守ることとした。

そして、現在。
歴史の歩みを止めたK.N.C180年で、思わぬ形で【神】は復活した。
その【神】は今。会議所の地下、冷たい地べたにその身を投げ飛ばされ、かつての栄華はどこにもなく、ただただ恥辱の神に見下されていた。

DB「久しぶりだなァ軍神<アーミーゴッド>。目覚めた気分はどうだィ?」

オニロ「DB…」

アイム「貴様という奴は…」

その【神】は自身の魂を二つの器に分けていたため不完全だった。
それ故、歴史を変えるほどの窮地に追い込まれていた。

768 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/05/20 02:31:00.393 ID:7NMTxnUEo
本当は軍神の訳だとゴッドオブウォーとかマーズとからしいけど、そんなことしるか直訳じゃ!



769 名前:社長:2017/05/20 02:33:31.004 ID:fvhsgqo20
その展開は予想していなかった。なるほど軍神!

770 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その1:2017/06/25 01:20:43.207 ID:YcJ1wk56o
【K.N.C??年 避難所の避難所】
きのこたけのこ大戦世界のはるか雲の上、高度な魔法で厳格に存在を秘匿される環境下に【避難所の避難所】は存在した。
【避難所の避難所】は大戦世界を正しく導くための管理所として、世界の始祖まいうが創造した。

黎明期は限られたメンバーだけしか利用していないことから別の世界に存在していたが、いつか地上から帰還した中心メンバーの一人である無口が
『今日からここは【天の上】となる』と無表情ながら茶目っ気ぽく語った時から、【避難所の避難所】は雲の上に移動し下界を見守る管理区域と化した。

冗談が過ぎる、と軍神はメンバーの一人として内心苛立ちを感じていた。ただ、この負の感情が正当なものかはたまたつい最近の自身への冷遇から出るものなのか、
どちらに因るものか自信を持てず、表立って不平を言うことはなかった。

771 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その2:2017/06/25 01:27:04.914 ID:YcJ1wk56o
白を基調とした広大な談話室の中心で、軍神は独り物思いにふけていた。

DB「おやおやァ。これはこれはァ軍神<アーミーゴッド>様ではないですか」

【恥辱の神】DBの声のした方向に首を向けると、それまで物憂げだった軍神は露骨に顔をしかめた。

軍神「久々に討伐戦に駆り出される予定だと今日の定例会議で言っていただろう。その醜い姿をひっさげてさっさと地上に降りたらどうだ」

DB「ツレないねェ。俺様と貴様の仲じゃないか、俺様の無事を祈っていてくれよなァ」

軍神「ああ祈っているよ、会議所が今度こそ貴様を捕えることを切にな」

短く言葉を切ると、軍神は中央に鎮座されている巨大な水晶に視線を移した。
透き通るほど澄んだ水晶は兵士を数十人は飲み込めるほど巨大でありながら、綺羅びやかに光を放ち続けていた。
軍神の視線を追うように水晶の中身を眺めていたDBだが、水晶の中に映し出されていた光景に下卑た笑いを浮かべた。

DB「連中も噛み合わないねェ。【スキル制】ルールなんてうまくいくわけないだろうにィ」

水晶の中には、大戦場で戦い続ける兵士たちの姿が映っていた。

軍神「哀れなオツムだと否定することしか出来ないのか。きっと上手くいく」

DB「いや、すぐに内外から紛糾してルール中止に追い込まれるさァ。俺様は“ネガティブ”な話題には人一倍に敏感だからわかるんだよ。『預言書』に書かれてなくても予測できるゥ」

水晶の中では、先程まで軍神たちと同じく会議に出席していた集計班が疲れ切った表情で集計作業にあたっていた。


772 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その3:2017/06/25 01:29:01.127 ID:YcJ1wk56o
DB「ところでェ。聞いたぜ、帰還命令が出て【避難所の避難所】に幽閉されるんだってな。かわいそうにィ。兵士たちに忘れられた武運の神様は、天の上から指を咥え下界を見ているしかない。
一方で悪役の俺様は強烈な存在感で忘れられずに近々また地上へ降りられる」

いわずともDBが軍神のことを語っていることは、軍神自身がよく理解していた。

軍神「今は新ルール運用等も含め、兵士たちの心に余裕がないからしかたがない。いつか再び大戦の人気が頂点を迎える時、我がまた姿を現せばいい」

DB「果たしてそれが叶うかなァ?」

DBの下賤な目線に応えることなく、軍神はただ水晶に映し出された大戦を眺め続けていた。

DB「また戻りたいだろゥ?懐かしいんだろゥ?」

軍神「…当たり前だ。だが、ここのメンバーはそう思っていないだろ。戦の神様をお役御免とでも思っているんじゃないのか」

DB「…あんたの願い、叶えてやろうかァ?」

思いがけない言葉に、軍神は思わず眉をひそめ初めて水晶から視線を外した。

軍神「君がか?馬鹿も休みも言え。それに誰が信じるんだッ」

DBの提案を一笑に付す軍神に、下品な笑みを絶やさず恥辱の神は言葉を続けたのだった。

DB「安心しろよォ。ここを離れようとすぐあんたを“迎えに行く”からよォ、【避難所の避難所】もそれを望んでいるだろ」


773 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その4:2017/06/25 01:32:32.650 ID:YcJ1wk56o
━━━━
━━━━━━
【K.N.C180年 会議所地下 大戦開発室】

DB「“あの時”の言葉どおり、俺様は“貴様”を再び地上へ連れ戻してやった。さあ感謝しろォ」

アイム「ふざけるなッ!混乱に乗じてオレたちをここに呼び出して――」

オニロ「ボクたちを消滅させて、全ての負のエネルギーを吸収しようとしただろうッ!」

DB「だってェ軍神<アーミーゴッド>がいる限りは、大戦世界には“希望”が振りまかれる。希望ってのは俺様の大嫌いなものなんだよォ。
つまり、“希望”の塊である貴様は俺様にとって天敵というわけだァ!!」

DBが指をパチンと鳴らすと、虚ろな意識でいた操り兵士たちは糸でひかれたようにすっくと背筋を伸ばした。

スリッパ「なんだ、何が起きているッ!?」

オニロ「事情は後で話しますッ!麻痺魔法は解除しましたので起ち上がってくださいッ!」

社長「この会議所荒らす 龍の穴」

操られた兵士たちは、まるでゾンビのようにヨロヨロとアイムたちに近づいていた。

加古川「おーいアイムゥ。残業のない世界は最高だぞォ」

抹茶「そうですよォ。特殊な性癖をもっていても非難されないんですゥ」

埼玉「もう一歩も外へ出なくてもいいたまァ」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

774 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その5:2017/06/25 01:36:23.508 ID:YcJ1wk56o
スリッパ「仲間と戦うのか、冗談がきついな…」

社長「ぼくら かんきんされとるんやで。」

アイム「全員おかしな夢を見ているんだ。だから、ちょっと頭を小突いて目を覚ましてやろうぜッ!」

オニロ「そうだよ。それにボクたちはあの無口さんにも一泡吹かせたんだ。DBがかけた操り如きに負けるボクたちじゃないよ」

アイムとオニロの自信に満ちた鼓舞は社長とスリッパ、そしてサラを目に見えて勇気づけた。事実、数は多くとも操り兵士たちはDBの急ぎかけた術ゆえ不完全で、今のアイムたちの敵ではなかった。
4人の前に操り兵士たちは一人、また一人と意識を失っていくのだった。

DB「バカなァ…」

アイム「ツメが甘いなあ。オレたちは皆の戦いをよく知ってるんだ、弱点もよく知ってるってことだろうが」

アイム「この場に791さんや筍魂<バカ師匠>を呼んでたらどうなってたかわからないが。オレたちほどあの野郎、スタミナ切れてまたどこかで寝てるんだろうな」

オニロ「師匠との修行に比べたら、こんな戦いへっちゃらだよッ!」

スリッパ「二人と戦っていると私まで勇気が湧いてくるな。サラッ!さっさと皆の目を覚ましてやろう!」

社長「いいぞ」

気がつけば、4人の周りには数名の操り兵士がかろうじて立ち向かうばかりになっていた。


775 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その6:2017/06/25 01:38:05.593 ID:YcJ1wk56o
DB「――もういい」

DBが椅子から立ち上がると、操り兵士たちは糸が切れたようにその場に全員倒れた。

アイム「もう降参か?」

オニロ「相変わらず堪え性がないね。だから【避難所の避難所】の忠告も無視し、長いこと会議所に捕えられるのさ」

二人の言葉に耳を一切貸さず、支配者は自分だとばかりの態度でDBは4人に向かい手をたたき賞賛した。

DB「負のオーラの兵士に、自身の希望 ―正のオーラ― を与えて相殺したな。見事な解決法だ、さすがは軍神<アーミーゴッド>」

そこでパタリと叩いていた手を下ろす。


DB「――だが、不完全な貴様が今の俺様に敵うと思うのか?」


瞬間、DBの体の周りを覆っていたどす黒いオーラが、勢い良く四方に放たれた。

スリッパ「ぐあああああああ」

社長「しねばいいんでしょう?」

アイム「くッ!!みんな、しっかりしろッ!!」

オニロ「ダメだアイムッ!身体が言うことを…きかないッ!」

意識を失うほどの刺激臭と腐敗臭が兵士の鼻をつき、一人また一人とその場で崩れ落ちていった。


776 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その7:2017/06/25 01:46:35.606 ID:YcJ1wk56o
スリッパ「も、もうダメだ…二人だけでも先に逃げるんだ」

アイム「そんなこと、できるわけねえだろッ!起き上がって…くっ足が動かねえ」

DB「いい顔になった、俺好みの苦しんでる顔だァ。最後の仕上げだッ」

再びDBがパチンと指を鳴らすと、暗闇の中からぬっと二人の兵士が姿を現した。
それはアイムとオニロの最も会いたくない兵士で、会議所内でも最強に属する兵士だった。

アイム「バカ師匠…!」

オニロ「師匠!」

791と筍魂は顔を伏せながら、怖気づく二人の前までゆらゆらと近づいていった。

DB「ゲハハハハハハッ!愉悦愉悦ゥ!感じるぞォ、追い詰められた貴様らの絶望!恐怖!なんて馳走だァ!」

その場で舌舐めずりをし歓喜に打ち震えるDBと対象的に、アイムとオニロは困惑し自らの師匠から逃げるようにジリジリと後退した。
希望に満ちた状況から一変し、起こり得るはずないと高をくくっていた事実が目の前に突きつけられ、出来すぎなまでのストーリーだった。
791と筍魂に囲まれる形で背中合わせになった二人はただ絶句した。

777 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その8:2017/06/25 01:55:17.597 ID:YcJ1wk56o
DB「あァ…うまい、なんてうまいんだ。これが“負のオーラ”。もう諦めろ軍神<アーミーゴッド>。
いやァ諦めるな。諦める前にもっと、も〜っと絶望しろォ。そして最期に希望を完全に失う瞬間が、俺様にとってメインディッシュとなるのだァ!!!!」

アイム「…ここまでか」

オニロは背中越しに、アイムが戦闘の構えを説いたことを察した。

オニロ「アイム…師匠に楯突くことを気にしているのかい?操られてるんだからノーカンだよ」

アイム「そりゃあテメエらの師弟関係じゃ…そうだな。お前の言うとおりだ。でもな。悔しいことにもう足が動かないんだ…先に言っておく、すまねえオニロ」

無口戦から精神的に溜まっていた疲労も極地に達し、遂にアイムは膝をついた。

オニロ「…次、また同じ弱音を吐いたらアイムでも容赦しないよ」

オニロは手に握る杖に力を込めた。
そしてアイムを護るように、オニロは二人の師匠の前に立ちはだかった。

オニロ「絶対にアイムをここから救い出して、後で笑い話にするんだ。『あの時、もうダメだ〜てアイムはボクに泣きついてきたんだ』てね」

アイム「やめろ、ムダな体力を使うな。お前は直感で行動しすぎだ、もっと考えろ生き残る道を」

オニロ「思い出すんだアイム。ボクたちは“希望の星”だろ?
希望を持つんだアイム。底なしの願いでも、希望を持つことをヤメてしまえば何も生まれないッ!」





(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

778 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶望と希望編その9:2017/06/25 01:59:18.914 ID:YcJ1wk56o
オニロ「!?」

一閃。
アイムとオニロの頬を撫でるように吹いた一陣の風は、数秒の沈黙の後、瞬撃の太刀筋として斬撃音とともに遅れて表れた。
太刀筋の中にいた791と筍魂は衝撃で吹っ飛ばされ、玉座に居たDBも巻き込み壁に叩きつけられた。

??「叶いっこない願い、大いに結構ッ!兵士はただ自身が描いた“夢”に向かい邁進する。それを叶えてあげる手助けとなるのが“希望”。正に底なしの“希望”よ!」

金属と金属が擦れあう音とともに、どこからか攻撃をした兵士は長剣を納刀した。

DB「ぐああああああッ!誰だあ貴様ッ!俺様の負のオーラを食らって動けるはずがないッ!!」

闇の中から現れたその兵士は、いつもの癖でシルクハットのツバに手をかけ不敵な笑みを浮かべた。

??「紹介がおくれたな。俺の名前はコンバット竹内。元・たけのこ軍兵士で、きのたけ“最後の希望”だ」


779 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/06/25 02:02:17.941 ID:YcJ1wk56o
サンキュー真打
そして>>547につながる。

780 名前:社長:2017/06/25 02:04:17.712 ID:zs9yol3k0
ジジイ(?)キャラがかっこいいところを見せる展開いいぞ。

781 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/06/25 02:05:54.972 ID:YcJ1wk56o
ミス
>>778
俺⇒ワシ だったわんわんワシわん

782 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/09/18 12:32:13.487 ID:4fe4A8w20
小ネタこーなー

・【大戦年表編纂室】 その2
超高度魔法『メルティカース』により、大戦世界から隔離された部屋。wiki図書館のはるか地下階層に存在し、外部からの歴史改変を受けない。
術者は無口兵士だが、無口自身はK.N.C47年に消失しているため、いまなお術者無しに自律的に編纂室は動き続けている。
部屋の中に誰かいる限りは、正史と改変後の歴史を知覚できるが、ひとたび全員が外界に出てしまうと歴史がいつ変わったのかわからなくなる。
そのため、DB騒動時には常に編纂室に人を立てなければならないという苦肉の策を取っていた(集計班、オニロ)


・【避難所の避難所】
大戦世界のどこかにあるといわれる、会議所とは別の運営詰め所。
会議所が大戦運営に従事しているのに対し、避難所の避難所は大戦世界全体を監視している。
昔は地上のどこかにあったが、無口兵士の気まぐれによりいつからか空中要塞となった。秘密結社的イメージ。
存在を知る者は極僅かで、メンバーとなっている者はいずれも地上からは消失してしまった者がほとんどを占める。集計班は地上にいる兵士でその存在を知る数少ない兵士だった。
DB、軍神といった現人神もかつては所属メンバーだったがいずれも物語開始時には既に追放されている。

・【神】
最初期の大戦世界の兵士たちが創造し、いつの間にか忘れ去られてしまった存在。
超常的な現象や人知を超えた事態に対し、兵士たちが縋り付くための存在として生み出され担ぎ上げられた。
最盛期には数百もの神が大戦世界に点在したと言われるが、物語開始時にはほぼ全ての神が忘れ去られ消失してしまっている。人々の活力、情熱が年を経るにしたがって失われていき、信仰が薄れていったためである。
高い信仰心や多くの兵士の関心を集める神は偶像崇拝等を経て具現化することがある。軍神や恥辱の神 DBが代表例。
大戦への情熱も失われていった結果、いつからか階級制には【軍神】階級が消えてしまっていた。


近いうちに更新しまーす。




783 名前:791:2017/09/18 13:49:08.743 ID:DOH3S10ko
>>782
乙!
こういう設定読むの好き

更新楽しみ!

784 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その1:2017/09/20 00:42:36.912 ID:6O1.YhIko
【K.N.C180年 会議所地下 大戦開発室】

アイム「爺さん…あんたなのか?」

竹内「ハハッ。年寄りもたまには身体を動かさねばな。ボケてしまう」

刀の切っ先に付いたチョコを軽快に払うその姿は、K.N.C28年での青年竹内を彷彿とさせる軽快さだった。

DB「貴様らァ、俺様を無視するなッ!どうして“負のオーラ”を浴びながら、平然と立っていられるッ!」

竹内「負だかふ菓子だか知らんが、ワシはただ後進の兵士のために、この老体に鞭打つだけよ」

喋りながらも、竹内は襲いかかってきた筍魂と791を難なく一振りで斬り伏せた。
地面に倒れた二人は、沸騰音を出しながら劇薬が蒸発したかのように消えてしまった。
アイムとオニロはそこで初めて、二人の師匠がDBの創り出した幻影だったと気がついた。

DB「俺様の力を使って創り出した“分身”がァ…これでまた、“負のオーラ”を集めなくてはいけなくなったァ」

二人の幻影の後からゆらゆらと上空へ向かう暗紅色の霧を見て、DBはそれを目で追いながら悲しげにつぶやいた。
その霧が“負のオーラ”そのものであることは明らかで、元々のDBの身体に戻らず霧散してしまっては弱体化してしまうのだ。
だがDBは続いてアイムとオニロをじろりと睨んだ。

DB「ちょうどいたなァ。“希望”を身にまとった、正義の味方サマがよォ」


785 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その2:2017/09/20 00:42:55.756 ID:6O1.YhIko
オニロ「くっ…竹内さん下がってください。かくなる上は、私が師匠から教わった“秘技”で…」

衰えても未だDBが強大な力を有しているのは、軍神<アーミーゴッド>の力を有すオニロには痛いほど理解できた。
通常の兵士が立ち向かえる強さでない。まるで地球が宇宙に挑むようなもので、竹内の一撃は暖簾に腕押しのようにオニロには思えた。

竹内「敵もろとも自爆するとでも?バカを言うな、老人を残して若い兵士(もの)が死んだら顔向けできんだろ――」

竹内「――古い友人にな」

竹内はハッと独り気を吐き、目にも留まらぬ速さで跳んだ。流れるような所作に一瞬呆気に取られたDBだったが、すぐに竹内へ臭い息を吐き出したのは歴戦の兵士としての第六感がそうさせたのだ。
しかし、通常の兵士なら気を失う上に吹き飛ばされる威力の噴流も、いともたやすく竹内は袈裟斬りで払い、肩を突き出しながらDBに突進した。
竹内ごと再び壁に叩きつけられたDBは、苦悶の表情を浮かべ口からチョコの代わりに暗紅色の霧を吐出した。

DBは困惑していた。軍神<アーミーゴッド>以外にまともに攻撃の通る相手など、想像もしていなかったためだ。
その後も竹内の攻撃の手は緩むことなく、自ら溜め込んでいる“負のオーラ”を吐き出していることも気づかず、DBは防戦一方になっていた。


786 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その3:2017/09/20 00:50:59.342 ID:6O1.YhIko
オニロ「すごい。竹内さんの動きはいつもとは別人だ。それに若返っているような気が…」

アイム「DBの元である“負のオーラ”を直に浴びて立っていられる兵士はいないと思っていたが…竹内さんは例外中の例外というわけか。シューさんも呼び戻したわけだ」

竹内は初代DB討伐隊隊長 黒砂糖の後を次いで、長年に渡りDBを追い続けてきた第一線級兵士である。
DBと事あるごとに対峙する度、竹内の身体は変化を帯びてきた。その結果、通常では数秒も経たないうちに事切れてしまうDBの臭気に対する耐性ができてしまった。
陰陽師が異変を解決せんがために悪鬼に近づきすぎたがゆえに、結局は怪異と同等の存在になってしまった例と同じである。
参謀は竹内のことを“最後の希望”と紹介した。図らずとも、”希望の星”であるアイムとオニロが砕け散る寸前になった今、DBに立ち向かえる兵士は“最後の希望”しかいなかった。

竹内「どうしたDB!昔を思い出すなッ!また吊るし上げられたいか?あぁ!?」

DB「はァはァ…貴様はいつも俺様の邪魔ばかりしやがる。折角、俺様の手で憎っくき“玩具”を潰せると思っていたところにィ!またしても、またしてもォ!!」

竹内に足蹴にされうつ伏せに倒れたDBは、アイムとオニロを地面から睨み上げ、拳を強く握りしめた。


787 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/09/20 00:55:07.263 ID:6O1.YhIko
とりあえず眠いのでここまで。またすぐ更新します。
当初、竹内さんはDBの臭気にあてられると若返る設定にしていました。だけど、ダンディおじいちゃん兵士の活躍かっこいいなあてユリガミss見て思ったので変更しますた。
791さんと筍魂さんは操られてませんでした、よかったよかった。

788 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その4:2017/09/23 19:30:20.816 ID:vbUhPLDko
オニロ「竹内さんッ!そいつは危険な存在ですッ!今この場で処断しないと後々どんな大災害を引き起こすかわかりませんッ!」

竹内「わかっておる。おいDB、昔を思い出すな。昔は黒砂糖さんがお前を抑えつけた。その後、ワシだけがお前を長年追い続けた。ずっとだ。そのカシをいま返してやる」

DB「転がしてやる。転がしてやる。転がしてやる。転がしてやる」

DBの怨嗟を含んだ繰り返される独り言に、オニロとアイムは背筋がゾッとした。竹内に身体を抑えつけられながら、二人を見つめるDBの目は諦めの色を見せるどころか、異様なまでにギラついていたからだ。
恨み、怒り、快楽、様々な要素を包括した歪んだ生命力を彷彿とさせる色をその眼は見せていた。

オニロ「竹内さん、はやくッ!」

DB「遅いッ!」

オニロの叫び声と同時に、DBは握りしめていた拳の中の砂を背中越しの竹内に向かって開き投げつけた。竹内が一瞬怯んだスキを、DBは逃さなかった。


789 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その4:2017/09/23 19:33:16.199 ID:vbUhPLDko
DB「ゲゲゲッゲハハハハハハッ」

短時間で吐き出したDBの息は瞬く間に紫煙の煙幕となり、部屋全体を妙な色で包みこんだ。

アイム「しまったッ!奴は出口から外に出る気だッ!オニロ、竹内さんを援護するんだッ!」

オニロ「わかってるよッ!『キシリフレッシュ』!これで煙幕が晴れますッ!」

竹内「くッ、ワシとしたことがッ!」

煙幕により方向感覚を失う中、退路を断つために部屋の唯一の出口へ向かったオニロと竹内の前に、倒れていたはずの兵士たち<操り人形>が対峙した。

オニロ「こんな時にDBの野郎、ボクたちの仲間を使って許さないッ!竹内さん、離れていてくださいッ!『アポロソーラ・レイ』!」

オニロの杖先から閃光が発せられ、放たれた熱光線が兵士たちを貫いた。兵士たちは身体から暗紅色の煙霧を出しながら倒れていった。

竹内「DBはッ!」

気絶した兵士たちを跨ぎながら、二人は外に出たがDBの姿は既になかった。
兵士たちが足止めをしている間に、まんまとDBは会議所を脱出してしまったのだった。

790 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その6:2017/09/23 19:44:24.859 ID:vbUhPLDko
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

その後の捜索でも結局DBは見つからず、オニロと竹内は負傷していたアイムに加え、倒れていた会議所兵士たちを集め、編纂室へ連れて行った。
殆どの会議所兵士たちが集結した編纂室は、未だにアイムを含む数名の兵士の手当が行われており、さながら野戦病院のような体をなしていた。

someone「ごごめんなさいッ!みんなにプッカライトニングを射つだなんてどうかしていた…」

アイム「someoneさんの責任じゃない。みんなDBに操られていただけさ」

someoneとジンはお詫びとばかりに、簡易ベッドの上で横になっているアイムに回復魔法を乱発している。

¢「うぅ…DBが会議所であやっていたなんて」

加古川「会議所に帰ってきてから記憶がない…不覚だ」

操られていた兵士たちはすぐに意識を取り戻した。外傷のある兵士たちも、オニロたちに気絶させられた際にできたものであり程度はすぐ済むものだった。
しかし、全員が復帰できたわけではなかった。

抹茶「黒砂糖さんと一緒に警護任務に就いていたはずなのに、いつの間にか気絶していたんです…多分、時限の境界近くにDBが潜んでいて連れて行ってしまったんだ…」

操られていた兵士の中で、唯一黒砂糖の姿が消えていた。DBの人質として連れ去られたのではないか、という見方が大勢だった。
抹茶は同僚の危機に、顔を緑ざめている。

791 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その7:2017/09/23 19:46:43.322 ID:vbUhPLDko
参謀「DBはどこに逃げたと思う。大方の予想では時限の境界だと思うが」

参謀の問いに、スリッパが唸った。

スリッパ「その可能性もある。ただ、奴とスクリプトの目論見<歴史改変による負のオーラ集め>が看破された今、再び同じ作戦を取るとも考えにくい」

アイム「同感だ。オレなら敢えてこの時代に潜伏して、会議所乗っ取りの機会を再び狙うな」

791「なるほどね。DBの狙いはあくまで現代<この時代>の支配。無闇に過去の時代へ跳ぶのはDBにもリスクが高いね」

編纂室の入口から、話を聞いていた791は筍魂を担ぎながら会議に参加した。

オニロ「師匠!お身体は大丈夫なんですか」

791「まだ完全には程遠いな。とりあえずクリームソーダを常時補給してるわ」

791は米俵のように筍魂をその辺りに放り、仕事終わりの一杯とばかりにソーダ缶を手に取った。

筍魂「おお、我が弟子よ…なんと情けない姿だ」

アイム「お前ほどじゃねえよ、まず自分の足で歩け」

筍魂はスタミナ切れで中庭にて一歩も動けなくなっていたところを、791に拾われていた。


792 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その8:2017/09/23 19:49:33.018 ID:vbUhPLDko
参謀「話は戻るが、DBは人里に紛れ込んでいる可能性があるということか…黒ちゃんの安否も心配や。誰か里に見張りを立てておきたいが…」

山本「俺とゴダンさんが行こう。ゴダンさんがきのこの山、俺がたけのこの里を見張っておく。危険を感じたらすぐに戻るさ。おっぱい神の加護があらんことを!」

山本はゴダンを引き連れ、いの一番に立ち上がった。外に出る前に、十字架をきる要領でオッパイの輪郭をなぞるように手で線を引くと、さっそうと外に出ていった。
一陣の風のように去っていった山本たちを見て、加古川はポツリと不安を口にした。

加古川「もっさんが一番、DBの洗脳を受けやすい体質に思えてならないんだが」

ビギナー「どうにかなるっしょ」


793 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その9:2017/09/23 19:51:44.581 ID:vbUhPLDko
参謀「さて、DBが捕まるのも時間の問題や。その前に一つハッキリさせておきたいことがある――」

参謀は一度言葉を切り、オニロとアイムに人差し指を突き指した。

参謀「――お前らの記憶についてだ。おそらく、その落ち着き様を見ると、二人とも思いだしたんやな」

アイムとオニロは同時に頷く。

アイム「オレの記憶は、大戦の歴史に直結する――」

オニロ「ボクの記憶は、DB騒動の根幹に繋がる――」

加古川「話してくれ、お前たちが知っていることを」

¢「うぅ怖いんよ。でも、僕たちは知らなければならない」

抹茶「少しでもDB討伐の手がかりになるなら、僥倖です」

アイムとオニロは静かに皆に向かって頷き、同時に黙りこくったままでいる一人の兵士を見つめた。

アイム「オレたちが何者であるかを明かす前に。一人の兵士から今回の真相を話してもらいたい。
一連の騒動がどのように引き起こされたか、そろそろみんなで共有してもいい時だ」

オニロ「前にも言いましたよね。もう話す時じゃないですか――」

オニロ「――社長」

全員の視線は、部屋の端で俯向いたままの社長に集中した。


794 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その10:2017/09/23 19:55:29.822 ID:vbUhPLDko
社長「…」

アイム「オレは――いや“オレたち”は全てを思い出した。オレたちが話してもいいが、それは完全じゃない。
今回の騒動の主役は、おそらく“あんたたち”だろう」

オニロ「怖いのはわかります。ですが、社長の口から説明するべきだと思うんです。貴方の働きを闇に葬り去ることは、“彼”の頑張りを無下にすることと同じ。そうじゃないですか?」

社長「…」

なおも社長は無言を貫いていたが、チラッと一瞬横にあるロッキングチェアを見つめた。
在りし日に持ち主が好んで使っていたロッキングチェアは、今の主人不在の事態をどう見ているだろう。

オニロ「もし“彼”と同じ結末を辿ることに恐怖を感じているのであれば、安心してください。“ボクたち”が全力で貴方を守ると誓いましょう」

アイム「既に【裁き】とやらは終わった。ここはあくまで地上の【大戦世界】であり、【避難所の避難所】ではない。一地上の兵士が【天上世界】の奴らに、何を配慮することがある?」

全員が息を呑んで社長と二人を見つめている。

795 名前:Chapter4.大戦に愛を 希望VS絶望編その11:2017/09/23 20:03:35.704 ID:vbUhPLDko
社長「だけど、私のせいであの人は――」

オニロ「誰も悪くないんです。ボクもアイムも、みんなも、さらにいえばDBも。みんな【決められた通り】に動いていただけ」

アイム「それを正そうとしていたあんたたちの判断は間違っていなかった。結果として、混乱を招いたとしても――」

オニロ「――あなたの“責任”じゃない」

━━
━━━━

「計画は順調です。ですが…たとえ、順調に立ち回らなかったとしても、
それはあなたの“責任”じゃない。
私が保証します。
なにか問題が発生した時。慌てないことです。
私に頼ろうとせず、まずは自分で事態の本質を見極めることです」

━━━━
━━

社長はハッとしたように二人に向かい顔を上げた。オニロの言葉に唐突に記憶がフラッシュバックしのただ。
最後に同じ編纂室で彼と会話を交わした時、たしかに彼は“見極めろ”と社長にそう告げた。今まで誰かを頼りながら生きてきた社長にとって容易ではなかった。
しかし、忠実にその言葉を守り動いてきた。マラソンランナーのように、周りを振り返らず彼が消えてからは突っ走ってきたのだ。

―― もう、話してもいいのかもしれない。

走ることを止めたランナーは、周りを見渡してみると多くの仲間が心配していることに気がついた。
頼ってもいいのだろうか。居もしない兵士に決断を縋るように、社長は不安げに再びロッキングチェアを見た。
不安げな社長を笑うように、チェアはゆらゆらと愉快げに揺れている気がした。妙な安心感を覚え、社長は遂に決心した。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

796 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/09/23 20:06:01.769 ID:vbUhPLDko
ここにきてようやく言えますが、この物語のキーマンは社長です。実はまだもうふたりいますが、それはまた今度。

797 名前:社長:2017/09/24 02:14:55.088 ID:GBvzXfaY0
どのシーンで竹内さんの設定が変わったんだろう?更新乙

798 名前:791:2017/09/24 10:50:27.566 ID:rW0AVfB2o
更新乙
おお、いよいよ社長の話が聞ける
気になる

799 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編その1:2017/10/01 01:35:31.285 ID:o
初めて社長が大戦に参加したのはK.N.C2年だった。

スリッパ『突き進む!突き進む!そのさきが闇だったとしても!!』

多くの兵士が試行錯誤していた時期、銃の使い方さえ覚束ないような兵士たちの戦いの中で、スリッパの一挙手一投足は一際輝いていた。
追い詰められたきのこ軍兵士を大量撃破で鮮やかに終戦させた英雄スリッパの一連の行動は、多くの兵士にその掛け声とともに強烈な印象を残した。
一時はスリッパによる英雄ブームが巻き起こり、不安定な大戦の恒久的な継続を決定づけた。目の前で英雄の活躍を見ていた若き社長も、彼に刺激と感銘を受けた兵士の一人だった。

社長「あの時は感動した…」

感慨深げに語る社長と罰が悪そうに押し黙っているスリッパの姿が、アイムには対称的に映った。


800 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編その1:2017/10/01 01:36:07.628 ID:o
>>799
訂正
スリッパ『突き進む!突き進む!そのさきが闇だったとしても!!』

スリッパ『突き進む!そのさきが闇だったとしても!!』

801 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編その2:2017/10/01 01:40:18.614 ID:o
以来、社長は最古参兵として会議所設立からK.N.C180年まで一部の期間を除きずっと大戦に関わってきた。
会議所に留まる最古参兵士はK.N.C180年時点で4人しかいなかった。知の参謀、発の¢、静の集計班、そしてバグの社長の4人である。
社長は本来大戦の重鎮として会議所を突き動かす兵士になるはずだった。

アイム「社長は重鎮っていう感じでもないだろう」

オニロ「こ、こらアイム。失礼なことを…」

アイムの率直な意見に、そうだな、と社長は素直に認めた。
ある時を境に社長は会議で意見を出さなくなった。否、意見を出すことができなくなった。

社長「あの日、あの時から私の運命は変わったのだ」

全員が、言葉を発さずに社長の説明を聞いている。
その奇異に満ちた行動から社長は“バグ兵士”としてばかりクローズアップされ、会議所設立の中心メンバーであることを理解している兵士はほんの一握りだった。
会議所の生き字引だった兵士が、いつから色物兵士へと転換したのか。そもそもなぜ転換したのか。



きっかけは、一つの【お告げ】だった。



802 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編その3:2017/10/01 01:57:18.772 ID:o
社長「【お告げ】があった。ある日突然、百合神様から…」

社長は兼ねてより【百合神】という創造神に縋っていた。多くの兵士は社長のバグ発言の一環だろうと取り合っていなかったが、アイムたちの前で語る社長の顔は常に真剣そのものだった。
この場で再びその神の名前が出て突拍子のなさに全員が驚いたが、社長は構わず続きを話し続けた。

ある日、社長の夢の中で現れた【百合神】は、“大戦世界に関する秘密”を社長に語ったのだという。

―― 大戦世界には【避難所の避難所】という別の運営拠点がある。その観測所には過去にいなくなった重鎮兵士たちが集い、秘密裏に大戦を操っている。
―― そして、全ての過去現在未来の歴史は【預言書】と呼ばれる古ぼけた本の通りにするべく暗躍している。そのためなら、たけのこが不利に負けようが、きのこが惨めに負けようが構わない。

初めは社長も驚いたが、【百合神】の真剣な口調のトーンに圧倒されつつも、最終的には信じざるを得なかった。
始祖まいう、図書館館長の無口、きのこ軍のエースアルカリ。気がつけば大戦世界創世記にいた兵士たちは姿を消してしまい、誰しも口には出さずともそこに奇妙な違和感を持っていた。
もし彼女の話の通りそうした兵士たちが本当は【避難所の避難所】に移り、世界を監視しているとしたら空恐ろしいと社長は感じた。
亡者が実は生きていたという感動よりも、大戦世界に巣食う暗部を垣間見た気がして、今までの日常が保てなくなってしまうのではないかという恐怖がはるかに上回っていたのである。

朝目が覚めると、彼は真っ先に集計班に相談した。
会議所に係る問題は、当時から会議を束ねていた彼に相談するのが全兵士の暗黙の了解となっていた。
集計班ならば親身に相談に乗ってくれるだろう、もしくは突拍子もない話を笑い飛ばしてくれるのではないか。
どちらでもよいという思いを持って、社長は図書館に駆け込んだ。自身の気持ちを他者へ共有したかっただけなのだ。


社長の希望は、直後にコナゴナに粉砕されることになった。

803 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編その4:2017/10/01 02:11:36.835 ID:o
静かに社長のトンデモ話を聞いていた集計班は、社長が話し終わると長い間考え込んでいたが、その後静かに問いかけた。

集計班「どこで、その話を?」

社長「いや、だから【百合神】様が――」

思わず社長は二の句が継げなくなった。集計班の明らかな異常な睨みに、社長の身体は硬直した。蛇に睨まれた蛙とは正に今の自身だと直感した。
乱暴なまでに野性的に濁った紅の瞳を向けられた社長は、そこで初めて集計班も件の観測所のメンバーなのだと悟った。

集計班が嘆息し椅子から立ち上がっても、社長は集計班から視線を外すことさえできず、自らの生命がここで尽きるのではないかと怯えていた。
彼はずいっと社長に向かい顔を突き出した。いつもの穏やかな表情を殺し無表情を顔にはりつけ、次のように語った。

集計班「あなたは【知る必要のない】情報を手に入れてしまった。いや、この際どうやって手に入れたかは重要ではないのです。ただ、貴方はもう逃げられません。
生きるか無くなるかなんて陳腐な選択肢も用意しません。貴方には事の最後まで付き合ってもらおう」

集計班の口調はあくまで冷徹で事務的だった。
見えない刃を首に突きつけられたかのように怯えていた社長だったが、気力を振り絞り微かに首を縦に一度振り微かに応えた。


804 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編その5:2017/10/01 02:22:11.163 ID:o
『バグトラダムスの預言書』

大戦世界が一つの古ぼけた預言書通りに進められていると話され、誰が信じるだろうか。
その預言書にはK.N.C1年から遙か先の未来までの歴史が事細かに書かれているのだという。
識者はその預言書に従い、【避難所の避難所】を造り、混迷に満ちていた世界を預言書通りに修正するように務めるようにした。
預言書に従えば、遙か先でも大戦の継続は保証され、大戦世界は反映し続けるからである。

集計班「私は【避難所の避難所】から、大戦世界が預言書に書いている通り、“世界にとって”正しい方向に進むように監視役を申し付けられています。
関係者曰く『バグトラダムスの預言書』には大戦世界を良くするための未来が全て書かれているとか」

集計班曰く監視の役目はトップシークレットであり、大戦世界では本人以外に誰も知らないという。
なぜ、『バグトラダムスの預言書』に大戦世界の過去、現在、未来が全て予言されているのか。誰が書いた書なのか当時も今も社長にもわからない。
ただ、はた迷惑な物があったものだ、と当時の社長は自分の置かれた立場を置いてそう感じた。

通常であれば正体を知られた時点で始末しないといけませんが――と、集計班は前置きした上で、次のように語った。

集計班「貴方の命運は私が握りました。ちょうどいい、一人じゃ“仕事”が回らなかったんです。今後は、私のお手伝いをしてもらいましょう」

最悪を超える未来が社長の脳裏に浮かんだ。希望から絶望への突き落としに思わず乾いた嗤いが出てしまいそうになるのを集計班に覚られないように口を抑えた。
いっそこの時点で狂ってでもしまえば楽になれたのかもしれない。しかし、最も信頼していた兵士に目の前で裏切られてもなお、社長は現実を直視し運命に身を委ねた。
この場で狂人になれるほど弱い兵士ではなかったのである。


805 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/10/01 02:23:16.306 ID:o
ひとまずここまで。
本物の社長はしっかり重鎮兵士なのでご安心を。バグトラダムスの預言書、一冊ください!

806 名前:社長:2017/10/01 12:56:12.417 ID:0
ついに終盤へ・・・

807 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編2その1:2017/10/15 15:51:37.198 ID:hcxs5DM2o
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

抹茶「この世界は預言書に管理された世界ってことか…?」

参謀「そんな阿呆な。信じられん。シューさんの行動もそうやし、【避難所の避難所】なんて知らん」

¢「せっかく僕が作った多くのルールが無くなってしまったのも預言書通りってことか。びええええええん」

社長の話を聞いていた兵士たちは全員が驚愕の思いを隠しきれない様子だった。特に古参組の反応が顕著だった。

アイム「気持ちはわかる。誰か¢さんにちり紙を用意してやってくれ」

オニロ「ひとまず話の続きを聞いてみようよ」

オニロの視線に社長は頷き、続きを語り始めた。



━━
━━━━

社長「内容については異論ありません。ですが、少し一人にさせてください」

急転直下の展開に頭がついていかず、気持ちを整理するための時間がほしい。社長の恐る恐るといった頼みを、その考えは最もだと集計班は二つ返事で了承した。
てっきり渋られると思っていた社長は、集計班のあっさりとした様子に戸惑った。
だが、どうせ自分が会議所の暗部から逃げられるはずもなく、また集計班も自身を逃がすつもりもないことを見越されているのだと思うと、社長は暗澹たる気持ちになった。


808 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編2その2:2017/10/15 15:55:06.050 ID:hcxs5DM2o
それから暫く、社長はたけのこの里から離れた山中で大戦とは無縁の生活を送った。あまりにも大きな世界の闇を目の当たりにし、彼の心は平穏でいられなかった。
大戦と会議所は当時の兵士たちが全て0から苦労して創り上げた上の産物で、当時の一員だった社長自身も誇りを持っていた。

それが、何処にあるかもわからない【避難所の避難所】の思惑通りに造られた物だと気がついたら、彼には途端に目の前の世界が空虚に映った。
これまでの行動が、あまりにも虚しく思えてしまったのだ。

味方だと思っていた兵士に裏切られたことも彼の喪失感を増大させていた。
特に睨まれた集計班の紅い瞳は、夢の中で何度も出てきては社長をすくみあがらせた。

眼前に広がる晴れ晴れとした青空さえまやかしではないかと疑心暗鬼に陥った。
心配して彼の下を訪れた兵士に対しても集計班の時の二の舞いを恐れるあまり心を開かない本人に対し、兵士たちは次第に社長を忘れ、社長も極力忘れるように努めた。


そんな少しずつ別の生活に慣れ大戦を忘れかけてきた頃、社長は再び夢の中で【お告げ】をきいた。


―― 自らの使命を思い出せ。苦しみに耐えることは死ぬよりも勇気がいる。
―― どんな困難な状況にあっても、解決策は必ずある。救いのない運命というものはない。
―― もし耐えることを諦めたら、その瞬間に地獄へ送る。

夢の中で百合神から半ば説教を食らい、目覚めたばかりの社長は顔面蒼白だったが、次第に意識が覚醒してからはすぐさま会議所帰還への支度を始めた。
今の生活は仮初めで自分自身は大戦から逃げられない運命であることを彼自身は理解していた。
百合神からの最後の一押しが彼自身を運命へ立ち向かう決断をさせた。
夢の中の神へ感謝と畏怖を感じながら、社長は小屋を離れ会議所へ復帰した。

809 名前:Chapter4.大戦に愛を 回想編2その3:2017/10/15 15:59:57.413 ID:hcxs5DM2o
集計班「お帰りなさい。“旅行”は楽しめましたか?」

会議所へ戻り、社長は早々に集計班に会った。編纂室でロッキングチェアをゆらゆらと揺らしながら、彼は余裕綽々といった面持ちで社長を迎えた。
自身の行動を予測されているようで思わず腹が立ったが、社長はぐっとこらえ百合神のお告げから考えた末に出した決意を述べた。

社長「私の命運は貴方が握ったと言いましたね。大いに結構です。ならば、私は預言書の通り、【世界の命運】を預かることにしましょう」

社長の言い回しに集計班は可笑しくなったのか声を出して笑った。

集計班「お元気になったようでなによりです。ですが大言壮語を吐く割に、貴方は怯えているように見える。それが少し滑稽に見えて笑ってしまったのです」

しかし、と集計班は続けた。

集計班「その度胸は武器になる。心得なさい、貴方は今日から大戦世界の安定のためにその身を私に預けました。
【避難所の避難所】に知られることなく、私は全力で貴方を守ることを誓いましょう。貴方は貴方で自身を守る術を身につけなさい」

これ以後、社長は【きれぼし語】という言語を用い、一方的な話しで周りを困惑させるようになった。
以前にも増して兵士たちは社長に変人のレッテルを貼り、その反応が増えるほど社長は流暢に【きれぼし語】を操りバグった姿を見せつけた。
その振る舞いが、他者からの翻弄を一切許さず預言書通りに【世界】を護らんとする社長の決意の現れだと、集計班を除いて誰も知る由はなかった。


810 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/10/15 16:01:16.592 ID:hcxs5DM2o
ひとまずここまで。近いうちに残りを投稿します。

811 名前:社長:2017/10/16 23:06:33.784 ID:88boJ95A0
あの人つよい!

812 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その1:2017/10/22 23:50:57.961 ID:ywvP1kCco
社長と集計班の【会合】は大抵、丑三つ時に人目の付かない場所で行われた。
集計班が持ってきた預言書が書かれた紙の切れ端を互いに目を通し、未来を正しい方向に導くための確認をするのだ。
会合は不定期で、集計班の思いつきで突然呼び出されることが多かった社長としては、内心穏やかではない日々が続いていた。

彼は預言書を丸ごと地上に持ち込むことはせず、なぜか決まって預言書の内容をコピーした紙の切れ端だけを社長の前に持参した。
その方がワクワクするでしょうと真顔でその理由を告げられた時には、睡眠不足だった社長は思わず目の前の集計係を殴ってやろうかと思ったほどだ。

人の気持ちがわからない兵士だと【会合】に加わってから都度、社長は心の中でパートナーを何度も毒づいた。預言の内容について彼に食いかかったことも数度だけではない。
【会合】に参加してからというものの、社長の集計班への評価は180度転換した。それほど彼と社長の馬は合わなかった。

この日も、二人は夜中に人気のない場所で話をしていた。

集計班「王様制のルール凍結は預言書通り、これで実行完了しました」

社長「¢さんの頑張りが報われませんね。あれだけルール作成に躍起になっていたのに」

社長の皮肉に、彼は一切動じることはなかった。

集計班「仕方がないことです」

他人行儀な集計班の言動に、社長はカチンときた。


813 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その2:2017/10/22 23:55:26.963 ID:ywvP1kCco
社長「仕方がない?貴方は定着しつつあった王様制を、会議所内部から反対意見を出させて潰したんです。少しは責任を感じないのですか?」

集計班「仕事ですから」

意に介さず集計班は涼しい顔をして、ただ――と言葉を続ける。

集計班「この王様制に関する議論が今後の大戦繁栄のためには不可欠。預言書にはそう書かれているので」

社長「預言書、預言書と。本当に預言書通りに進めば世界は安定するんですか?私には未だに信じられない事が多い」

集計班「…あなたはただ監視していればいい」

唐突に集計班は読み終わった預言書の切れ端を跡形もなく燃やして立ち去っていった。
それがいつも一方的な終了の合図だった。

814 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その3:2017/10/23 00:03:29.971 ID:o4m7nuLYo
彼は平時とは違い監視役の仕事に関しては一切の私情を持ち込まない主義のようだった。
表での彼の姿を知っていただけに、当初は社長も彼の裏の顔に面食らった。

会議所では仲間とともに運営のために各地を奔走し時には心を痛める顔をしながら、裏では一連の首謀者として躊躇なく全てを切り捨てる決断を下す。
会議所の内乱を表では鎮圧しながら、裏では焚き付ける工作活動をする。
社長の目には、集計班という兵士が預言書を体現するための悪魔の化身にさえ映った。
目の前で蒼い瞳を宿す兵士の真の姿を見て、狂っているとさえ思ったことも少なくない。

社長自身も、自身をバグで狂わせていなければ良心の呵責に苛まれとうに発狂していただろう。
淡々と与えられた任務をこなす非道な彼の精神状態を、社長はある種の尊敬を抱きながらも、それを大きく上回る恐怖感と嫌悪感を持っていた。

そして、幾度の歴史が流れた。
最初は工作活動に反抗的で何度も反発していた社長も、自らの生命を集計班に握られている立場上、嫌々ながらも活動に従事してきた。
すると次第に感覚は麻痺して、ある程度感情を圧し殺すこともできるようになってしまった。

自らが嫌う相棒と同じ姿に変化しつつあった社長はふとこれまでを立ち返ったときに自己嫌悪に陥るも、
心の底では【工作活動】にある種楽しみを見出すようになっていた。


そんな時、一つの預言が二人の運命をこれまで以上に変えていくことになった。

815 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その4:2017/10/23 00:09:00.959 ID:o4m7nuLYo
その日、珍しく集計班は【会合】に遅れて到着した。
彼曰く【避難所の避難所】の会議が長引き、預言書の内容を地上に持ち出すのに時間がかかったという。
彼自身もまだ預言の内容を見られていないというのだから、まるでおみくじの結果を開けて待つような、社長はどこか生の預言を見ることへの奇妙な連帯感と高揚感に支配されていた。

―― 集計班「私は【避難所の避難所】ではペーペーですから預言を見せてくれないんですよ」

かつてどうして数年毎の預言しか持ってこないのかという問いに、彼が社長にそう語ったことがある。
未だに避難所の避難所のメンバーが誰なのか把握しておらず、特段知りたくもなかった社長だが、彼が下座に位置する会議とは一体どれ程の規模なのか想像もつかなかった。

集計班「DBが地下牢から逃げ出したことは知っていますね」

社長「ええ。まさか本当に預言書通りになるとは。てっきり私が檻を解き放つ役目だと思っていましたよ」

改めて預言書の正確性に驚く社長に、何をいまさら――と集計班は呆れながら言葉を続ける。

集計班「近々、DBが暴走し世界を巻き込む大騒動が起きます」

社長「本当ですか」


816 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その5:2017/10/23 00:14:04.458 ID:o4m7nuLYo
集計班「DBが兵士の【負のオーラ】を集め強大化して、会議所を制圧しようとするのです。DBから活力を吸われた世界は衰退し、暫くの大戦休止に追い込まれる。世界の危機を迎えます」

まるで朗読の一説のように感情を込めず、集計班は預言書の切れ端を読み上げていった。

社長「このままではDBにやられてしまいます」

それに対し、社長もひどく無機質な相槌をうった。
その問いに対し、急いで文字を追いながら集計班は続きを読み上げた。

集計班「安心なさい。直に、窮地を救う“希望の星”が会議所に到着します。その英雄とDBを戦わせるのです」

社長「それならば安心だ。して、その正体は?」

話の内容は現実離れしているのに、不思議と社長は冷静になりつつあった。

集計班「軍神<アーミーゴッド>の生まれ変わりです。覚えていますか?」

彼の口から出るまで、社長は軍神<アーミーゴッド>の存在を忘れていた。そんな社長の様子に、“彼”も寂しがるでしょうに、と集計班は漏らした上で預言書の続きを読み始めた。

集計班「DBはまず自身と対極に位置する軍神<アーミーゴッド>を壊しに行きます。その際に危険を察知した軍神が、自らの魂を宿した器を大戦世界へ投げ込む。
それが“希望の星”の正体です。私たちがその器を回収し一人前の兵士に育てあげます」


817 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その6:2017/10/23 00:15:58.817 ID:o4m7nuLYo
途方もない話だが、かつてこうした突拍子もないことを幾多もやり遂げてきた二人にはすんなりと腑に落ちた。

社長「久方ぶりに会議所にもニューホープの登場ですね。DBを倒し英雄になった彼は正に【軍神】として今後も会議所を引っ張り続けるでしょう」

集計班「ええ。――いや」

社長の言葉に頷きながら預言書の切れ端を読んでいた集計班の動きが止まった。
その様子に訝しんで彼の顔を覗き込んだ社長は、そこで初めて戸惑いと苦悶の表情を浮かべる彼の顔を見た。

集計班「英雄<希望の星>はDBと相打ちになります。預言書にそう書かれている」

社長「え?」

集計班「私たちは赤子同然の新参兵士を育て我々の代わりにDBと戦わせ、そして役目が終わればその場で消失させると。そう書いてあります…」

言い終えるや否や、集計班は切れ端を強く握りつぶし手のひらの中で消し炭にしてしまった。
彼の背中は怒りで小刻みに揺れていた。

社長は唖然とした気分になった。
係る未来の悲惨さに唖然としたのではない。目の前で憤る相棒に対し、他人を慮るほどの一人前の人情があったのか、と社長は真っ先に衝撃を受けたのだった。


818 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その7:2017/10/23 00:17:21.860 ID:o4m7nuLYo
加古川「アイムとオニロは、軍神<アーミーゴッド>の生まれ変わりだって…?」

¢「軍神<アーミーゴッド>、久しく聞いてなかった言葉なんよ。階級制でずっと使っていた制度のはずなのに、いつの間にか無くなっていた…」

軍神制度を形にした立役者のはずの¢も、軍神という存在を忘れていたようだった。

アイム「昔は軍神制度により大味な展開で、逆転に次ぐ逆転、先の読めない展開に大戦は大いに盛り上がった。
だが、いつしか兵士たちはマンネリを感じるようになり、兵士たちからの支持を失った軍神も消えてしまった」

オニロ「ボクたちが――ええっと便宜上、軍神<アーミーゴッド>と呼ぶね――軍神<アーミーゴッド>は【避難所の避難所】に事実上幽閉されてしまったんです。
兵士の願いがなければ、彼は世界に姿を現せられない」

アイム「そんな鬱屈とした日々を避難所の避難所で過ごす中、“アイツ”が悪魔のような囁きで軍神<アーミーゴッド>に語りかけてきた」


―― 行っただろう、“迎えに行く”となァ。さァ、大戦に帰ろう。


819 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その8:2017/10/23 00:19:16.727 ID:o4m7nuLYo
>>818
書き忘れました。>>818では現代に話が戻ってます。一時回想中断中

820 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その8:2017/10/23 00:19:37.061 ID:o4m7nuLYo
会議所に幽閉されていたはずのDBからの突然の連絡に、不審感を抱きつつも忘れられない大戦への憧れから、軍神<アーミーゴッド>は結果的にDBの提案を受け入れてしまった。
その結果、彼は地下の大戦開発室へと誘い込まれDBの策略により瀕死寸前まで追い詰められた。

アイム「そこで軍神<アーミーゴッド>は、近くにあった【圧縮装置】を使い自らの魂を分けることにした」

参謀「【圧縮装置】って¢さんが作った機械か。確か大戦の長期化に対応するために、でかすぎる大戦場の大きさを狭める次元装置だったか」

¢「そんな大それたものじゃないけど。実際は黎明期に誰かが魔法で作った大戦場の区域を制限するトリガーをつけただけなんだ。
例えるならサッカーコートをフットサルコートの大きさに変える装置みたいなもんだな」

オニロ「そうです。軍神<アーミーゴッド>はその機能を逆手に取り、自らの魂を圧縮しその結果、魂は四散したんです。」

筍魂「なんとまあギャンブルを…」

社長「いま正に二人が語った内容は、K.N.C174年に起こった出来事です。アイム君とオニロ君が来る1年前の出来事でした。そして先の預言について、私とあの人はある決意を固めます――」

━━
━━━━

821 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その9:2017/10/23 00:26:58.331 ID:o4m7nuLYo
【K.N.C??年 会議所 大戦年表編纂室】

社長「どうでしたか?【上申】は」

集計班「…ダメでした。預言書の内容は変更できない、と突き返されるばかりで」

拳をテーブルに叩き集計班は珍しく悔しさを露わにした。先日の希望の星の預言から彼はひどく感情的になり、明らかに工作活動に私情を挟んでいるように社長には見えていた。
この日、集計班は預言書の内容の変更を訴えるべく【避難所の避難所】へ直談判をしに行った。
未だ現れていない“希望の星”をDB騒動後も生かすように、歴史を修正したいと申し出たのだ。

集計班「なぜ、彼らが犠牲にならないといけないんだ…」

社長「…」

預言の内容に食い下がる彼と、酷く冷静な自分自身。一時とは立場が真逆だな、と社長は奇妙な違和感を持った。
彼が熱くなれば熱くなるほど、社長の心は急激に冷めていった。

工作活動で誰かを殺めたことはないにせよ、いつも預言で世界の発展を促すときには他方で立場の弱い何らかを虐げてきた。
進化とは成長の裏で悲劇が起こり得るものなのだと社長は既に納得していた。
自分は誰かに不幸を植え付ける死神だ、と社長は自身の役割を認知していた。

そのもう一人の死神が、なぜかとある兵士の不幸に哭いている。
愚かだ、と社長は彼を憐れんだ。
“たかが兵士の死”ぐらいで、なにをそこまで叫んでいるんだと軽蔑に似た感情を目の前の集計係に向けた。

822 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その9:2017/10/23 00:27:37.500 ID:o4m7nuLYo
>>821
修正

集計班「なぜ、彼らが犠牲にならないといけないんだ…」

集計班「なぜ、彼が犠牲にならないといけないんだ…」

この時点では希望の星が二人になることを知らないので修正

823 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その10:2017/10/23 00:29:41.392 ID:o4m7nuLYo
社長「貴方は、今までどんな汚い仕事でもこなしてきた…教えてください、なにが今の貴方をそこまで突き動かすんですか」

彼を突き放すような冷めた自身の声に、社長は内心で驚いた。

集計班「…私たちの目的はなんですか?」

質問を質問で返され、面食らいながらも社長は当然のように答えた。

社長「『預言書通り』に大戦世界を構築し、維持し続けることです」

集計班は静かに頭を振った。

集計班「違いますよ。私たちの目的はあくまで『大戦世界』の繁栄と発展を支え続けること。預言書はそれを達成するための一つの手段にすぎないんです」

頭をガツンと殴られたような衝撃を社長は受けた。


824 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その11:2017/10/23 00:44:13.831 ID:o4m7nuLYo
その夜、久々に夢に現れた神に社長は事の次第を話しすと、百合神は彼を張り手、貫手、正拳突き、目突、あらゆる手段で彼をふっ飛ばし、後は自分で考えろと早々に去ってしまった。

独り残された暗い夢の空間で、起き上がれずに仰向けに転がりながら、夢の中で社長は考え始めた。

集計班という兵士は、自身が工作活動に協力するようになってから残忍で冷徹な面ばかりが映った。
間近で彼の仕事ぶりを見れば彼への拒否感が増し、その度に社長自身は彼を反面教師として、工作活動にも人情だけは持ち続けなければいけないと思っていた。
ルールをお蔵入りにされ、大戦は一時休止に追い込まれ、クリスマス聖戦では結婚ルールという摩訶不思議ルールで大戦は混迷し、多くの兵士が苦しんできた。

全て預言の内容に沿うために、社長は仕方なく裏工作に勤しんだ。だがその度に、社長は常に未来で苦しむことになる兵士に心のなかで謝罪をしながら、
常に贖罪を背負っている気持ちで今日までを過ごしてきた。一方で彼を見ていると、そのような事を微塵も感じてないような振る舞いをする。
社長自身は常に預言書の内容を疑い、彼の預言書への傾倒具合と行動姿勢に真っ向から対立することで、自身の存在価値の重要性を確認してきた。
確認してきたはずだった。

――“たかが兵士の死”ぐらいで、なにをそこまで叫んでいるんだ。

そこで社長は、今日自身が抱いた思いを振り返り、背筋を凍らせた。

―― いつからだろう、工作活動を強制ではなく自発的に行うようになったのは。
少し前までは嫌々行っていたはずの作業を、何の躊躇いもなく実行できるようになったのは。

変わっていないと信じていたはずの自身の思考が、いつの間にか“慣れ”という毒蟲に感覚を蝕まれ、いつしか自身から人情を破壊し非情さだけを増大させていた。
社長は思わず怖くなり声を上げて叫んだ。叫び、叫び、叫び続けたが、叫んでも心のなかに在る自身の残忍な部分が口から外に出ていくわけでもなく、そのうち気分が悪くなり嗚咽混じりに小さくうずくまった。

825 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その12:2017/10/23 00:54:17.336 ID:o4m7nuLYo
―― 私たちの目的はあくまで『大戦世界』の繁栄と発展を支え続けること。預言書はそれを達成するための一つの手段にすぎないんです。

彼の発した言葉が、社長の頭のなかに繰り返しこだました。

頭痛がひどくなる中、彼を理解しようと百合神の教え通り社長は考えた。
てっきり彼は預言書の内容が絶対だと思いこんでいるものばかりだと思っていた。しかし、彼は常に預言書の書かれた未来と、大戦世界の繁栄を願う自身の信念を天秤にかけていたのではないか。
今までは預言書の未来が世界の繁栄へ繋がると信じていたから、何の疑問も持たずに工作活動を実行してきた。

しかし、今回ばかりは預言書の内容を信じきれなくなったのではないか。
彼の真意が次第にわかってきた。

自らが作り出したDB騒動劇を、新参兵士が相打ちになりながらも沈める。描かれる未来は世界を救う英雄の崇拝だ。
会議所はDB討伐により英雄を奉り、それに触発された多くの兵士が大戦へ一時復帰するかもしれない。

だが、軍神を失ってしまったことへの喪失感は戻ってくることはない。
いくら兵士たちの感情が正負で表され、DBの持つ“負のオーラ”が解放されたとしても、同時に“正のオーラ”を創り出す軍神も居なくなっては意味がない。
恒久的に続く大戦を考えると軍神の存在が不可欠であると、彼は結論付けのではないか。

否、寧ろそのような複雑な事情を抜きに“新参兵士を生贄にすることへのやるせなさ”が、彼を預言修正へと突き動かしているのかもしれない。
それでもいいかもしれない、社長からしたらどちらでもよかった。
どちらも真理だと思った。

社長「ずっと変わってないのは彼のほうじゃないか…」

夢の中でポツリと呟いた言葉はどこにも反響すること無く、泡のように闇の中に溶けて消えていった。
頭痛は収まった。心のなかにあったチクチクした思いもいつの間にか消えてしまった。
どうすればいいか再び社長は考える。自身が取る最善の行動とはいったい何か――


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

826 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その13:2017/10/23 00:57:31.624 ID:o4m7nuLYo
集計班「『預言書』の内容には従わず、私で新たな未来をつくります」

突拍子のない集計班の発言にも、夢の中で考え抜いた末の社長にはその内容が胸にストンと落ちた。

社長「ご一緒しますよ」

以前では考えられないほど、社長は自然に同調できた。
てっきりいつものように突き放されるものだとばかり思っていたのか、声高に宣言したはずの彼はなぜか面食らう格好となった。

集計班「これは危険な賭けです。【避難所の避難所】に気づかれないように、新たな未来の道筋をつくらないといけない。
バレればおじゃんだ、私ひとりでやります」

彼の言葉に、さすがに社長は嗤った。

社長「いまさらそんな言葉は止めてください。事に巻き込んだ張本人じゃないですか」

それに私が否定しても付き合わせる気でしたでしょう、との社長の言葉に集計班は言葉をつまらせた。

社長「それに、私も見てみたくなったんです。【預言に縛られない未来】というやつをね」

集計班「…ですが」


827 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その14:2017/10/23 01:39:59.512 ID:o4m7nuLYo
なおも煮え切らない集計班に、社長は予てより恐れて口に出せなかった自身の思いを伝えてみることにした。

社長「この際だからはっきり言います。

私は貴方が嫌いです。
私を変えたすべての元凶は貴方であり、貴方には私を変えたことへの重い責任がある。
純粋に大戦を楽しめなくなった事への責任、会議で予定調和の発言しかできず皆への贖罪で胸を痛めた事への責任、それに私をバグらせた事への責任。
この他にも挙げればごまんとあります。その全ての責任を貴方は背負っている。

そもそも貴方の非道っぷりも虫酸が走ります。
その度に私は心を痛めてきた。

さらに貴方はいつも唐突だ。
貴方の一挙手一同に付き合わされる私の身にもなってください。何度尻拭いの役割に徹したか、数え切れません。

貴方と付き合えば付き合うほど、預言書という存在を恨んだし世界を恨んだりもした。
その中で、私は工作活動のせいで貴方の性格が豹変したと勝手に決めつけ、貴方をこき下ろし蔑むことで自身の自我を保ってきたんです。
貴方を見る度に自分自身は絶対に貴方みたいにならない、なってはいけないと。この思いだけは絶やさないようにしてきたつもりだった」

集計班「…」

社長の独白に、集計班は目を閉じて俯向いた。その姿を一瞥しながら社長は、ですが、と続けた。

社長「変わったのは私の方だった。
いつからか私は工作活動の内容に疑問を持たず流れ作業のように活動を続けるようになってしまった。
そこに、大戦を良くしようという感情は一切なかった。

変わっていないのは貴方のほうだった。貴方は常に預言書の内容が大戦への繁栄に繋がるかどうかを考え、決断を下していた。
貴方はずっと大戦の事を考えていた。誤っていたのは私の方だったと気づきました」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

828 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その15:2017/10/23 01:45:32.134 ID:o4m7nuLYo
社長「いつか私は、世界の命運を握っていると言いましたね。その気持ちは今も変わらない」

頭を上げると鳩が豆鉄砲を食ったように慌てている彼と目があった。間抜けな面だ、と素直に社長は思った。
こんな奴に今まで指図を受けていたのか、という感情がふつふつと湧いてきたが今は抑えることにした。目の前の小事より大事に目を向けた。

社長「繰り返しますが私は貴方が嫌いです。
貴方は卑怯だ。
私が逆らえないことをいいことに、最後は自分の意見を押し通す。そうやって先程から否定していても、最後は貴方の思い通りになるべく私は付き合うしかない。
これまで何度も何度も経験してきた。もういい加減うんざりだ。


だから、今度ばかりは私が決断します。
自分の判断で、自分の意志で、貴方の考えに同調し付き従うことを約束します。


貴方の片腕となりましょう。
大戦世界を恒久的な繁栄継続に導くため。なにより“希望の星”を救うため。
どんな危険も覚悟の上です」

集計班「いや、だから…貴方は参加する必要はない。今日はお別れの挨拶なんです、今までご苦労様でした」

これほどまでに慌てふためく兵士を翻弄するのは楽しいものだ、と社長は愉悦気に笑った。
特に今までやり込められていた存在を出し抜いた時の充足感は何事もにも代え難い嬉しさだ、と社長は感じた。

これこそが自身の目指す道だと社長はその場で直感した。


829 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その16:2017/10/23 01:54:03.921 ID:o4m7nuLYo
社長「貴方の驚く顔を見れて、これほど“してやったり”と思える時が来るなんて不思議ですね。
考えてみれば貴方も、預言書というどこの馬の骨とも知れない奴が書いた未来予想図に付き合わされて、内心腹立たしかったでしょう」

集計班「…私は――」

社長「【避難所の避難所】が全て悪いとは言いません。ですが地上と天空との板挟みにされた貴方にも同情の余地はある」

社長は晴れ晴れとした気持ちだった。明快な一本の道筋が見えたのだ。

社長「未来は、預言書なんてカビの生えた本に決められるほど単純なモノじゃない。
貴方が一番よく理解してるはずだ。

やってやりましょう。
【避難所の避難所】を出し抜いて、後塵へ希望を託しましょう」

すっと社長は集計班に向かって手を差し出した。
彼は意味が分からず暫くじっと差し出された社長の手を見つめていたが、すぐに全てを理解しホウと一息つき頭を垂れた。

集計班「全てを許してくれとはとても言えません。ただ、私は貴方を信じきれなかったのかもしれない。もっと早くこの考えに至れば良かった――」

そうして、再び集計班が顔を上げた時。社長は彼の蒼い瞳が熱意に燃えていることを悟った。
彼は社長の手をがっちりと掴み、不敵に笑った。

集計班「一世一代の大勝負ですよ」

社長「もとより覚悟の上です」

二人は声を出して笑いあった。【会合】で二人がこうして心から意思を通わせたのは初めてだった。


830 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その17:2017/10/23 02:10:18.272 ID:o4m7nuLYo
社長「私が手伝えることといえば、誰にも気づかれず皆を誘導することぐらいしかできない。ただし、それも私はバグっているため正攻法ではないでしょう。
時間がない今回の預言破棄に関して、私の直接的な行動は役に立たないかもしれません。

それでは、私は敢えて道化師となりましょう」

集計班「道化師?」

ニヤリとして社長は頷いた。先程、社長が彼を出し抜いた時、もし彼ではなく【避難所の避難所】を出し抜けるとしたら、どれほど可笑しいか。
恐ろしい事を想像してしまったのだ。

社長「私が貴方の信念を皆に伝える水先案内人となりましょう。
そうですね、【占い師】なんてどうですか。私は今このときより【占い師】となりましょう。きれぼし語で預言書通りの内容を占うんです。
怪しくて胡散臭くて、とても中身がなく根拠のない役割に見える。

ただそれは仮初めの姿にすぎない。
誰しもが安心して気がつかない中、貴方が変えたいと思う未来を秘密裏に導く。そのために私が矢面に立ち皆の注目を逸らせ、時には呆れさせ、笑わせ続けるのです。
皆に誰も知らない未来を前もって案内するための先導も兼ねて」

831 名前:Chapter4.大戦に愛を 対立編その18:2017/10/23 02:13:30.095 ID:o4m7nuLYo
集計班「それはあまりにも危険だ。貴方のこれまでの行動は【避難所の避難所】に認知されていないんです。わざわざ危険に身を置く必要はないのでは」

社長「危険に身を置いたピエロは虚言を織り交ぜながら可笑しなショーを続ける。一際輝きますよ。
【避難所の避難所】は始めこそ私を疑うかもしれないが、そのうち害がないとわかれば放置をする。
見方を変えれば、世界に忠誠を誓っているピエロでもあるのです。そうすると、私の振る舞いを知らず知らずのうちに【避難所の避難所】は黙認するというわけです。

だからこそ、こちらが預言を破棄したと奴らが気がついたときには、既に預言の未来などどこへやら。取り返しの付かないことになる。
これほど痛快なことはないでしょう?

私の行動はただの自己満足に過ぎません、ただ貴方と私の決意の表れを形に残したいんです。
この狂った世界で踊り続けた私たち二人の勇姿を、そしてこれから世界に産み落とされる悲しき英雄にエールを贈りたいのです。

大戦世界という大舞台で私は見事に道化師を演じてみせましょう。

道化師はなにも人を笑わせるだけでなく奇術も行うものです。
奇術というものは皆を心底驚かせて初めて成功なんです。


失われるはずの生命を救う。


全てが変わった時、貴方と私の一世一代のショーは終焉を迎えカーテンコールに応えるというわけです。いかがですか?」

ぼうと呆けていたままの集計班は、“可笑しな話だ”と笑った。
その後の決意に満ちた瞳を見て、言葉に出さずともその時から二人は真の同士となった。

832 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/10/23 02:16:37.519 ID:o4m7nuLYo
長かったですが、社長回想編は以上です。
当初正体のしれなかった二人は、明確な意志があって行動してたんですねってお話でした。
社長のキャラがかなり踏み込んでいますが、お許しください〜 最初からこう描きたかったんです

833 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/10/23 02:17:25.028 ID:o4m7nuLYo
社長の占いも次回の更新でようやくご紹介できます。3年ぶりに日の目を浴びます。

834 名前:社長:2017/10/23 16:20:10.807 ID:/wucmrI20
更新乙。色々と明らかになる感じがいいすね

835 名前:社長:2017/11/03 23:15:30.246 ID:0
アイム/オニロ
https://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/954/wars01.jpg

軍神/DB
https://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/955/wars02.jpg

オニロ君は中性的なイメージがあるけどどうも女の子っぽくなってしまう・・・
DBは本編描写では人間よりでかいって描いてるにも関わらず軍神よりちっちゃくなってるけどそこは遠近法みたなものだと・・・

836 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/11/04 01:08:42.642 ID:o
>>835
おいおい神か
オニロ君は元々そんなイメージで書いたキャラなんでイメージ通りだと思います。アホ毛は正義。
アイムくんは思ったより凛々しくてかっこいいでつね。
DB死すべし

837 名前:社長:2017/11/05 00:05:53.614 ID:0
魔王791/筍魂
https://dl1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/956/wars03.jpg

魔王様は閉眼キャラって感じに。開眼したら強い感じだけど、魔王様に限っては開眼しなくても強いよね…。あと服装は参謀の書いた奴とほぼ一緒。(魔王っぽい)
魂さんはフィリピン・パブ店長っぽい感じに。ポーズはアイム君といっしょ。(戦闘術魂の構え?)


838 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/11/05 01:08:07.396 ID:o
>>837
うおおおおおおおおおお
魂さんがあやしい感じになってていいね!魔王はくそつよそう

839 名前:名無しのきのたけ兵士:2017/11/05 01:18:31.441 ID:o
>>835
可愛い弟子を持ったなぁ

840 名前:Chapter4.大戦に愛を バトンリレー編その1:2017/11/06 00:26:45.172 ID:o
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

社長の独白が終わり、編纂室は暫く静寂に包まれた。
アイムとオニロの正体、大戦世界を監視する側の目論見、そして集計班と社長の叛逆とその結末。
殆どの会議所兵士は一度に流し込まれた大量の情報を整理するためか、沈黙するしかなかった。

その中で、事の次第を“思い出した”アイムとオニロだけが、社長を気遣うように心配そうな視線を彼に送った。
まるで走り終えた後のように肩で息をしていた社長が二人の視線に気が付いたのか、ぎこちなく口角を上げ笑みを浮かべた。


841 名前:Chapter4.大戦に愛を バトンリレー編その2:2017/11/06 00:32:17.559 ID:o
参謀「色々あったということか」

一言で片付けられず率直であやふやな感想を述べた参謀の言葉にも意味は幾らかあった。
多くの兵士が意識を現実に戻し再び社長とアイムたちに注目した。

参謀「アイムとオニロ、お前たちの正体にも驚かされたが。まさか社長が【占い師】に突然なったのは、そういう経緯があったとはな」

社長「これまで大戦世界に関する4度の占いをしました。
1度目は英雄登場の占いを、2度目はDB襲来とオニロ君・アイム君が相打ちとなってしまう占い。3度目は時限の境界の予告の占いをしました」

アイム「全く気づかなかったぞ…」

全く意味がない占いだと思っていた、と言外に含んだニュアンスの言葉をアイムが発したことで、その場の空気は幾分か和らいだ。

スリッパ「4度目は?」

社長「…本当は預言書の未来から外れた瞬間に占いを出して奴らを欺いてやろうとシューさんと企んでいた。
私たちは溜飲を下げたかった。何よりアイム君とオニロ君を救いたかった。
そして、目論見通りシューさんは引退していた竹内さんを独自に呼び戻した」

竹内「ワシに白羽の矢が立ったというわけじゃな」

結構なことだ、と好々爺は声を上げて笑った。


842 名前:Chapter4.大戦に愛を バトンリレー編その3:2017/11/06 00:35:14.029 ID:o
社長「預言書には竹内さんの存在について一切書かれていなかった。
シューさんと私は、竹内さんの存在こそが今回の騒動のキープレイヤーであると確信していた。
DBの腐臭に唯一抵抗を持つ【第二の希望】を招集することで、DB討伐隊は預言書が示す戦力内容から大幅に増強されることになり、
その時点で本来の預言<DBと軍神の相打ち>は打ち消されたはずだ。未来は不確定となった。ただ…」

アイム「それと引き換えにシューさんは既にいなくなっていた、か…」

アイムの言葉に、社長は唇を噛み締めた。

社長「覚悟はしていたはずだ。竹内さん招集の暴挙を奴らが見逃すはずもなかった」

筍魂「こうなることを予期して、シューさんは社長の存在を隠し続けていたんだろうな」

¢「いつまでも不器用な兵士だ…」

社長はふうと深く息を吐いた。憑き物が落ちたように、全てを語り終えた社長は晴れ晴れとした顔だ。

美しい。

オニロは社長の姿を見て素直にそう感じた。
葛藤を乗り越えた純粋で澄んだ兵士の心は、本来その極地に達しているはずの軍神<アーミーゴッド>の魂を受け継ぐオニロでさえ眩しく見えた。
バグという抜け殻を破った本来の社長の姿は、まるで雨上がりにかかる虹のように軍神の二人には眩く映った。


843 名前:Chapter4.大戦に愛を バトンリレー編その4:2017/11/06 00:47:03.123 ID:o
社長の勇姿を見届けたアイムとオニロは、顔を見合わせ互いに頷いた。

―― 社長は自分の戦いを今終えた。次はボクたちの番だよ。

言葉を発さずとも、オニロの決意をアイムはすぐに察知した。
もとより同じ存在であるがゆえ、ここにきて互いの考えはすぐに分かるようになっていた。
だが、ここまで心が通じ合えるのは、筍魂が与えたあの戦闘術・魂の試練があったからだ、とアイムは感じた。

―― ここからはオレたちの仕事だ。社長が、集計班が必死に繋いだバトンのリレーを受け取って走らないといけない。
    軍神<アーミーゴッド>として皆を鼓舞し、無き兵士が救ってくれた生命を最大限活用する場がきた。

軍神としての第一声はアイムから発せられた。

アイム「社長、いままで辛かっただろう。ありがとう。そしてごめんな」

アイムは社長に深々と頭を下げた。
今まで叩くだの斬るだの言われていた当の本人は、幾らアイムが自身の存在を思い出したとはいえ予想をかけ離れた行動を目の前に慌ててしまった。

社長「あ、頭を上げるあひゃよッ!あっ」

きれぼし語が自然と出てしまい、社長は思わず口を抑えた。

途端にアイムは顔を上げた。
先程までの真面目な顔はどこへやら、アイムはニヤニヤと笑っていた。
してやったり、という悪戯っ子の顔を社長に向けている。

アイム「あんたはやっぱりバグってる姿のほうが向いてるよ。そんなシューさん2号みたいな慇懃無礼な口調は調子が狂っちまうぜ。
まあ今までが狂わされてなかったと言ったら嘘になるけどな」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

844 名前:Chapter4.大戦に愛を バトンリレー編その5:2017/11/06 00:58:57.023 ID:o
オニロ「ボクたちは命の恩人である会議所の皆さんを見て育ちました。
今ここに忠誠を誓います。ボクたちを育ててくれた師匠を含めた恩人たち、そして自らの危険を顧みず全てを語ってくれた社長。
全員を守ることをここに誓います」

オニロは一度言葉を切り、兵士全員の顔を見回した。
自身に満ちたオニロの表情に、全員の表情が引き締まったものになっていく。
最後に、オニロは空席になったままのロッキングチェアをじっと見つめた。

オニロ「ボクたちの生命を救ってくれた存在を忘れることはありません。
そして自らの存在を賭してまでボクたちに託した使命を…恥辱の神DBの討伐を、成し遂げてみせます」

アイム「DBはいま、兵士たちから奪った心の頁<士気>を食いつないで必死に生き長らえている。
討伐隊の活躍で溜め込んでいた士気を放出し、奴の存在は風前の灯だ。とはいえ、奴は負のオーラの権化。
いくら皆の活躍で弱体化に追い込んでも、すぐに心の頁<士気>を奪って奴は肥大化する。
まだまだ強敵だ。
それに、いくら厳しい訓練に耐えたからといってオレたちもまだまだヒヨッコだ」

二人の師匠はアイムの言葉に苦笑した。

オニロ「お願いします。討伐には、皆さんの力が必要なんです。
皆さんの力を、勇気をかしてください。
新しい歴史を、皆さんで創っていきましょうッ!!」

オニロの叫びに、その場に居た全員が深く頷き何名かは呼応するように雄叫びを上げた。

兵士たちの心の本に再び頁<士気>が戻っていく様子を、アイムは目を細めて見つめていた。
失われていた兵士たちの頁は、過去の大戦の中で自然に兵士自身が放出し雲散霧消してしまったモノだ。
兵士たちはそれをマンネリ、飽きと呼んでいた。
それをアイムたちが再びかき集め、元々あった場所に戻したのだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

845 名前:Chapter4.大戦に愛を バトンリレー編その6:2017/11/06 01:00:16.106 ID:o
【K.N.C180年 会議所 ??】

DB「待っていろよォ会議所」

遠くにそびえ立つ会議所を睨み、急速に傷を癒やしていたDBは独り舌舐めずりをした。

DB「時は一刻を争う。すぐに始めるぞォ」

背後に控えていた黒砂糖と山本は御意とばかりに片膝をついたのだった。


846 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/11/06 01:06:53.620 ID:o
3年越しに設定公開です。
社長の占いの意味を公開しまーす。実は秘密裏に、社長に占いへの変換を依頼していました。

第一の占い <<アイムとオニロの登場を予言した占い>>
『アァー!(甲高い喘ぎ) 下から突いてくるなんて思っていなかったもの//
 チョ!チョーク!(甲高い喘ぎ) なかっそこち崎哲夫 テイルアタックきた!?』

⇒ 意味:会議所は想定し得ないミスを犯す。それを帳消しにするために、窮地を救う英雄が舞い降りる
★社長的ポイント: ちなみにアァー!からチョークまでは失敗した時の喘ぎ声
             テイルアタックきたはバグメモよりの引用


第二の占い <<DB襲撃と英雄消滅を予言した占い>>
『だが、あるひ… ゆうしょうこんらんです。みごとライアンはかちのこった!
そしてこの納豆美味しいよね〜←※大勢の兵士に向かって 
う〜ん、どうかなぁ?←※アイムとオニロに向かって
こうして森部拳は 永遠にその姿を消した……』
⇒意味:会議所は近々、誰も想定していないような動乱(悪しき時空の潮流者による襲撃)が起きる。
      大戦の救世主たちは時空に囚われ二度と戻ってこない
★社長的ポイント: 納豆をみんなの前に並べておいてこの納豆美味しいよね〜と言うと謎度が深まるんじゃないかな

847 名前:Chapter4.大戦に愛を:2017/11/06 01:10:36.124 ID:o
第三の占い <<過去と未来を跳躍できる時限の境界発見を喜び予言した占い>>
『ピッコロだいまおうとのせいぜつ
ちかづいてくる…まさか!ソン・ゴクウか!?
ちかづいてくる…
ちかづいてくる… まさか!ソン・ゴクウか!?
ちかづいてくる… まさか!ソン・ゴク
ちかづいてくる… まさか!ソン・ウか!?
むすこ ジョンである。 うれもし、カンっキィー!』

⇒意味:もうそろそろだね。そろそろ現在と過去を行き来できるようになるよ。やったぜ。
★社長的ポイント:もうそろそろだね=ちかづいてくる…!
             過去と未来=ターミネーター→むすこ ジョン
             やったぜ=うれもし

第四の占い <<ハッピーエンドを予想した占い>>
『おきのどくです!!!!!
ふねもでていったし、あんたたちのおかげだよ!
預言?しらね^^
皆食べようぜ〜☆
アア オワッタ・・・・・・・・!』

⇒意味:預言は打ち消され。外部の予想を覆し、大戦の救世主たちはここに集結した。
      会議所と彼の者たちは、必ずや幸せな結末を迎える。


そろそろ決戦です。

848 名前:社長:2017/11/06 01:11:15.337 ID:0
山本さんもう捕まってるじゃねーか。

849 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その1:2017/12/31 00:01:57.876 ID:OwfCxvgko
【K.N.C180年 きのこの山】
その日、仕事を終えたじゃがバター兵士は鬱屈とした思いで帰路に就こうとしていた。
目に刺さる夕陽を嫌うように手で日除けを作りながら、じゃがバターは陽の方向にある古ぼけた建物のある一点を見つめていた。

かつて、あの建物<会議所>の中に自分がいたことが今でも不思議だと、じゃがバターは思っている。
大戦初期、自分自身は会議所の中心に居た。集計班の代わりとして大戦の集計係まで務めたこともある。
あの日あの時、大戦に対する情熱は誰よりも強かった。
しかし、ある時を境に自分の心の中から大戦への情熱の火がふっと消えてしまい、気がつけば会議所はおろか大戦場へ立ち寄ることすらなくなっていた。

感慨に耽っていた時間を取り戻すように、じゃがバターは早足で自宅へ歩を進めた。
じゃがバターの周りにも大戦への興味が無くなってしまった者は多い。そうした者は大戦への参加すらも敬遠することが殆どだが、全く生活と縁がなくなるかといわれればそうではない。
きのこの山の住民の多くは大戦関連の産業で生計を立てている。じゃがバターも勿論その例外ではなく、大戦で使用される銃器の生産工場で働いていた。

一時は残業をしても生産数が追いつかないほど大戦の特需に湧いた武器界隈だが、今は閑古鳥が鳴く不況具合だ。それもその筈、大戦自体が暫く開催されていないためだ。
時間通りに帰れることの安心はあるものの、手取りが減ってしまったため日々の生活は苦しい。

大戦に参加するほどのやる気はもう無い、しかし大戦が開催されないと困ってしまう。
やり場のない怒りをどこにぶつけていいかわからず、じゃがバターは暗澹たる思いで広場を通りかかった。


850 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その2:2017/12/31 00:03:04.907 ID:OwfCxvgko
??「…私たちは今まで信じれば救われると信じてきた。信じた結果、どうなったッ!!」

じゃがバターの耳にある兵士の演説が聞こえてきた時、彼は興味本位で広場の集会で行われている奇妙な集会に近寄ってみた。
広場の中心で喋る一人の兵士の姿とそれを取り巻く兵士たちから奇妙な熱気を感じたのだ。
中心の兵士は身振り手振りを交え、熱心に何かを訴えているようだった。

??「大地は荒れ果てェ文化と生活は荒廃し、兵士たちは考えることを止め生活は貧しくなったッ!この間、“夜のきのこ”きのこ軍は一体何をやっていたのかッ!
“常勝”たけのこ軍もだ!私たちはァ猛省しないといけない!」

壇上に立つ兵士の熱心な演説に、周りの兵士たちはたまらず拍手と歓声を浴びせた。よく見ると、山の殆どの住民が彼の演説を聞き入っていた。
さらに、群衆の中にはたけのこ軍兵士も多く混ざっていた。どうやらたけのこの里で既に同じ演説を行い、支援者を引き連れきのこの山へ乗り込んできたらしい。


851 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その3:2017/12/31 00:04:41.648 ID:OwfCxvgko
??「貴方達は覚えているかァ!かつて大戦世界には数多の神が存在したことをッ!その中に軍神<アーミーゴッド>という現人神が大戦に居たことをッ!」

群衆の多くはハッとしたように息を呑んだ。じゃがバターも兵士の言葉で、初めて軍神<アーミーゴッド>の存在を思い出した。
あれ程戦場を賑やかした存在のはずなのに、今ではその存在に靄がかかったように思い出せない。じゃがバターは途端に不安になった。
壇上の兵士は戸惑う兵士たちを導くように、力強く演説を続ける。

??「久しく軍神<アーミーゴッド>を忘れていた者も多いだろゥ。それもその筈、奴は大戦をインフレへと引き上げバランスをめちゃくちゃにした暗黒の象徴なのだァ!」

突拍子もない話だ。決して軍神<アーミーゴッド>は目の前の兵士の語るような存在でないはずなのに、他方で話の通りとんでもない大悪党であると確信する思いも持っている。
じゃがバターは自身の相反する思いが交錯していることにたちまち不安が増大された。

??「貴方達はいま知られざる軍神<アーミーゴッド>の正体をきき、混乱しているだろゥ。無理もない、光の象徴 軍神<アーミーゴッド>の姿は奴が捏造して洗脳してつくりあげた存在。
貴方達は必死に抵抗しようと、今まで軍神<アーミーゴッド>の存在を記憶から封印してきたのだ」

おかしな話だが、たしかに辻褄は合うかもしれない。
先ほどと打って変わって優しげに語りかけてくる兵士の言葉が、じゃがバターの葛藤する胸中にストンと落ちた。


852 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その4:2017/12/31 00:06:45.434 ID:OwfCxvgko
??「貴方達は今まで邪悪の化身である軍神<アーミーゴッド>から必死に身を守ってきたのだ。忘れていたのは恥ではない、誇りだ。
そして今、その誇りを勇気へと変える時が来た。軍神<アーミーゴッド>が再び現世に復活したのだァ」

群衆の多くから悲鳴とも取れる叫び声があがった。兵士は両手を群衆に向け落ち着かせる仕草を取った。

??「会議所が軍神<アーミーゴッド>を匿っている。奴を使い、会議所は貴方達を再び洗脳し世界を支配しようとしているゥ」

会議所というフレーズにじゃがバターを含め、全員が息を呑んだ。大戦世界を支える運営所たる会議所は、山里の住民にとって感謝こそすれど批判の的にはできない聖域だったのだ。
そんな群衆の態度を見越し、壇上の兵士は囁くように話を続けた。

??「怖がるゥ気持ちはわかる。だが、これは真実だ。

考えてもみろ、会議所は君たちになにを与えた?

どうして私達の生活はここまで苦しいんだ?それは大戦が開かれないからだ。そもそも大戦はどうして開かれない?

私達の努力不足もある、だがそれ以上に会議所の怠慢が原因だァ…」

嘆きから怒りへ、群衆の表情が一斉に切り変わったのを壇上の兵士は見逃さなかった。畳み掛けるように兵士は声を荒げ力説する。

??「会議所は【意図的に】大戦を開催していない。わざと私達を苦しめているゥ!!

なぜか?

会議所に力を集約させ、私達を奴隷みたいに指図するためだッ!

こんな蛮行を許しておけるのかッ?」

群衆から怒りにも似た声が次々に上がった。明らかに会議所に対する拒絶の声だった。


853 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その5:2017/12/31 00:08:50.144 ID:OwfCxvgko
??「こんな生活に誰がしたッ?誰が悪いんだッ!!」

群衆「会議所だッ!!」

全員は声を揃え、兵士の呼びかけに呼応した。

??「この現状を生み出した諸悪の根源はなんだッ?」

群衆「軍神<アーミーゴッド>だッ!!」

??「軍神<アーミーゴッド>を匿う会議所に、我々はどう立ち向かう?」

群衆「襲撃だッ!!」

耳をつんざくほどの大声で全員は答えた。

??「襲撃だけでいいのか?」

群衆「軍神<アーミーゴッド>を引きずり出して、その場で処刑だ!」

壇上の兵士は満足するように一度うなずき、握りこぶしを振りかざした。

??「民衆よ、チョコと槍を取れ。今こそ両軍の垣根を超え、真の敵へと立ち向かうときだッ!
進めェ!
この日が暮れるまで一人でも多くの賛同者とともに真の自由を取り戻す戦いをするのだッ!」

854 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その6:2017/12/31 00:10:30.168 ID:OwfCxvgko
「戦え!」「進め!」「根絶やしだ!」

群衆は鼻息荒く、壇上から下りた兵士を先頭に輪はうねりとなり、会議所まで行進を始めた。
興奮したじゃがバターもその場で鞄を放り出し、神父の格好をした兵士から支給されたチョコ剣を手に取り輪に加わった。
洗脳されたじゃがバターの耳に、微かに他の兵士の声も聞こえてきていたがもう彼の理性には届かなかった。

山本「我々が信じていた神は死んだ!今こそ民衆よ!
疫病神・軍神<アーミーゴッド>を打ち倒し真の平和を取り戻せッ!
日暮れまでに少しでも多くの同志をかき集め会議所へ討ち入りだッ!
この【きのこ軍 真参謀 B’L様】が我々をお救いなされる!
心配は無用だ!進め!進め!進め!」

B’L「終わりだ、軍神<アーミーゴッド>ォ」

先頭に居たB’Lは卑しい笑みを隠しきれないように口角を釣り上げ、勝利を確信したように歩を進めた。


855 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その6:2017/12/31 00:10:51.035 ID:OwfCxvgko
じゃあ来週から最終決戦ぽいのはじまりまーす。良いお年を

856 名前:社長:2017/12/31 00:12:53.502 ID:MfcE4qxs0
こわいよお

857 名前:Chapter4.大戦に愛を:2020/02/02 03:26:44.030 ID:xXkcYgXko
warsまとめ
https://seesaawiki.jp/kinotakelejend/d/wars%a4%de%a4%c8%a4%e1

近々更新を再開できる見込みなので、まとめてみました。

858 名前:791:2020/02/03 16:31:05.103 ID:vT6dWXqIo
>>857
まとめお疲れさまです!
予言の解説とか内容改めて面白かった!続きが楽しみ

859 名前:Chapter4.大戦に愛を:2020/02/10 11:37:48.174 ID:xXkcYgXko
本当にお久しぶりです。というわけでさっさと更新していきます。
信じられないぐらい長いのでこれまでの簡単なあらすじは>>757-759>>857のwikiを見るといいんじゃないかな。ここからも結構長いので飽きたら寝ましょう。

860 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神は一人の兵士を救えるのか編その1:2020/02/10 11:42:48.025 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

オニロの言葉で改めて一致団結した会議所では、DBを偵察しに出かけた山本が未だに戻らないことに対する対応策とDBの今後の行動に対する検討をしていた。

791「山本さんはあの最低な乙牌教の教祖ということもあって、煩悩に人一倍に弱い。洗脳されていると考えたほうが自然じゃないかな?」

筍魂「あの山本さんがDBに洗脳されているなんて!…ありえるな」

抹茶「DBの目的は大戦世界の“負のオーラ”を集めて自身を強大にすることですよね。そのためにスクリプトを使い過去大戦の歴史を改変していたけど、それもできない」

オニロ「だから現代に留まるしかないDBは、いま”負のオーラ“集めをするしかない。そうすると各地で厭戦感情を高める行動や暴動を起こすか…」

――さもなくば、DBと対極の位置にいる“正のオーラ”を持つ軍神<アーミーゴッド>を破壊して人々を絶望させるか。

皆の混乱を抑えるため、オニロは敢えて口には出さなかったがDBの真の狙いは軍神<アーミーゴッド>の消滅であることを軍神の二人は本能的に理解していた。


861 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神は一人の兵士を救えるのか編その2:2020/02/10 11:44:29.559 ID:xXkcYgXko
そして開いた口をぎゅっと結び、オニロは横にいるアイムをチラリと見やった。

互いの性格は真反対、さらに最初は彼から”自分のような甘ちゃんなど大嫌い“と明言され、オニロ自身も彼の傍若無人な態度に何度も嫌気がさしてきた。
それ程までに真逆だった二人が実は同じ一人の人物と―正確には神だが―わかった瞬間に、オニロは隣りにいたアイムがまるで実の兄弟なように懐かしくなり、不可思議な事態にもすぐに腑に落ちたのだ。

オニロが持つ慈愛、優柔不断さとアイムが持つ冷徹さと自信過剰は全て同じ軍神<アーミーゴッド>が持つ個性が分裂したもので、
それぞれの個性の強さに大小の違いはあれ、オニロから見たもうひとりの片割れを兄弟のように愛おしく思う気持ちが強まった。

アイムは周りの兵士たちと会議所の今後の対応について話している最中だった。アイムも横目でチラリとオニロを見て視線があったのが気恥ずかしかったのか、すぐにふいと視線を外した。
そんな様子が可笑しく、オニロは結んでいた口元を緩め柔らかに笑った。


862 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神は一人の兵士を救えるのか編その3:2020/02/10 11:47:42.700 ID:xXkcYgXko

皆がオニロの言葉に鼓舞され士気を高めていた中、きのこ軍兵士¢は周りから相反するように円卓テーブルの端で独り震えていた。
自らの行いを独り悔い、それでも皆と同じような希望に足を踏み出せずにいる自らの意志の薄弱さに心のなかで泣いていたのだ。

  集計班『とびきり邪悪な怪物をつくっていただけませんか。それを会議所で討伐するんですよ、どうですか楽しいと思いません?』

若かりし頃の¢は当時の集計班の言葉にしたがい、圧縮装置で負のオーラを集め邪悪な怪物DBをつくりあげたが、その事実を知る者は実は殆どいない。
¢の発明品の中でも自我を持ち想定外の動きを頻発するDBはとりわけ”優秀“だった。
会議所の古参としてよりも開発者としての矜持を忘れられなかった¢は、K.N.C28年での初の討伐戦で討伐予定だったDBを秘密裏に解放し世に解き放った。
¢は悩み苦しんでいる。DBの生みの親である自身が皆を苦しめているという事態に、それを公表できない心の弱さに、そして――

アイム「¢さん。少しだけ時間いいか?」

本来であれば気がつける筈のアイムの気配にも気づけないほど、歴戦のエース¢は周りへの罪悪感と自らのDBに対する愛憎が入り混じり極限にまで追い込まれていた。

アイム「会議所の行動についてあんたの確認を取りたかった。加古川さんとも話していたが山本さんの野郎は十中八九DBに捕まっている。
罠も考慮し市井の様子を探りに何人か偵察に行かせてもいいよな?」

¢「ぼくはそれで異論ないんよ…」

目を合わせず¢はポツリとつぶやいた。自らの意思など気にせず続けてくれと言わんばかりの弱々しさだった。

アイムはそんな彼の様子を数秒ほど見ていたが――

アイム「¢さん。いままで悪かった」

突然¢に頭を下げた。¢は吃驚して顔を上げた。

863 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神は一人の兵士を救えるのか編その4:2020/02/10 11:49:45.099 ID:xXkcYgXko

¢「ど、どうしたんよいきなり」

アイム「オレはあんたを疑っていた。DBの一味なんじゃないかと思っていた」

¢「…」

アイム「でもそれは誤りだった。あんたはあんたなりの信念で動いていたんだな。それを理解できなかった、だから謝る。ごめん」

軍神<アーミーゴッド>の頃の記憶が戻り、¢が葛藤していた様子も気がついたのかもしれない。アイムの真っ直ぐな気持ちに圧され、¢も本音で返さざるをえなかった。

¢「信念なんてそんな大層なものじゃない。俺は弱い兵士なんだ」

アイム「弱さと強さは両立する。
確かにあんたの言うように固執する心は周りが見えなくなり弱くなるかもしれない。
でも、それがあんたを強くしている原動力でもあるんだ。少なくともオレは¢さんの強さを知っている」

アイムは頭を上げた。キザな悪戯っ子のように口元をつりあげて笑っている。

864 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神は一人の兵士を救えるのか編その5:2020/02/10 11:50:57.219 ID:xXkcYgXko
アイム「気持ちを圧し殺すんじゃない。”認める“んだ。そのうえで何が正しいか、その時々で判断すればいい。オレはそう学んだ」

¢「…それは軍神<アーミーゴッド>としてか、それともアイム自身の意見か?」

アイム「前者さ…と言いたいところだが、そんな御高説たれるほどできた兵士じゃないよ、オレは。いまのはどちらかというと後者からの意見さ」

アイムは背後にいるオニロと筍魂をチラリと見やり、視線を再び¢に戻した。

¢「社長のときと同じで兵士を立ち直らせるのがうまいんよ、アイムは。さすがは軍神<アーミーゴッド>の化身といったところか」

アイム「暗いところでウジウジしてないで¢さんもこいよ。オレも一人のほうが好きだが、たけのこ軍のやつらとバカをやるのも、まあたまにはわるくない」

アイムはすっと¢に手を差し伸べた。¢から見てもアイムは変わったと思う。本来の性格はそのままに、兵士たちを導いていく力が目に見えて増した実感がある。
軍神<アーミーゴッド>のオーラが戻っただけなく、これまでの経験がアイムをここまで強くしたのだ。

― これがアイムの言う乗り越えた力か。

自分もいつか乗り越えることができるだろうか。
未だ不安を残したまま前進をしようと、¢がアイムの手をつかみかけた正にその瞬間、突然、最終決戦の合図は告げられた。
編纂室の扉が勢いよく放たれ、ビギナーが息も絶え絶えながら叫んだ。

ビギナー「大変だッ!!!会議所の周りを大勢のデモ隊が取り囲んでいるッ!軍神<アーミーゴッド>を出せと民衆が血眼になって会議所に押し寄せてきているぞッ!!」


865 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神帰還編その1:2020/02/10 11:52:28.133 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 wiki図書館】

普段は静寂を保っているwiki図書館にもデモ隊の騒動は伝わってきた。
地上に戻ってきたアイムとオニロたちを地上兵士たちが待ち構えていた。

抹茶「これはいったい何事ですかッ!?」

ゴダン「ふと外が騒がしいと思って会議所から覗いてみたら、きのこの山とたけのこの里の方から大量の住民がこちらに向かってくるのが見えて…」

埼玉「慌てて会議所の門を閉めたんだたまッ!でもそれもいつまで持つか…」

図書館から外の様子を窺い知ることはできないが、取り囲んでいるデモ隊はおそらくきのこの山とたけのこの里のほぼ全住民ではないかと、埼玉は付け加えた。

参謀「こちらから偵察を送る手間が省けたな。デモ隊の要望はなんや?」

「会議所は軍神<アーミーゴッド>を匿っているッ!俺たちの生活をめちゃくちゃにした軍神<アーミーゴッド>を出せッ!!」

拡声器か魔法で増大された怒りの声がwiki図書館にも届いた。


866 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神帰還編その2:2020/02/10 11:54:54.135 ID:xXkcYgXko
791「軍神<アーミーゴッド>を標的にしたデモとはこのタイミングで不自然だよね」

¢「そもそもぼくたちも含めてみんな軍神<アーミーゴッド>のことを忘れていたのに、突然軍神<アーミーゴッド>のデモを起こすなんておかしいんよ」

社長「それは一理ありますね。」

オニロ「DBの仕業ということだね」

誰もが疑念を抱いていた言葉をオニロが最初に口にした。

アイム「DBの洗脳能力を使い、山本さんや黒砂糖さんに加えて全世界の住民を巻き込んだというわけか」

抹茶「全世界…今までとは規模が違いすぎる。これがDBの本気なのか」


867 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神帰還編その3:2020/02/10 11:56:11.262 ID:xXkcYgXko

抹茶の言葉に全員が言葉を飲んだ。これまで数人単位での洗脳が瞬く間に数千、数万倍ベースで一般兵士にされDB勢力になったのだ。予備兵の会議所兵士たちをあわせても兵力の差は歴然だった。
そんな皆の不安を他所に、アイムは気にすること無いとばかりにポンと一度手を叩いた。

アイム「怯えることはないよ抹茶さん。ヤツもそれだけ本気ということだけど、その分力は使っている。あいつは自分で集めた負のオーラを消耗することで洗脳しているんだ」

オニロ「ということは、今回の洗脳はだいぶDB自身を弱体化させているんだ。正にこの戦いに賭けているというわけだね」

アイムの言葉にオニロが補足して付け加えた。

抹茶「なるほど。逆にDBも追い詰められているということですね。なんか勇気わいてきた…かも?」

¢「ただ依然として兵力の差は圧倒的なんよ。会議所で籠城しても勝ち目があるかどうか…」

オニロ「その話だけど、ボクとアイムにいい案がある。そうだよねアイム?」

オニロの言葉にアイムは深く頷いた。

アイム「¢さん、頼みがある」

アイムとオニロは¢に向き直り深々と頭を下げた。


868 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神帰還編その4:2020/02/10 11:57:35.694 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 地下室】

薄暗い地下室でぼうと光る圧縮装置の前で、アイムとオニロは決意に満ちた表情で地下から上がってきた会議所兵士たちと相対していた。

¢「本当にいいんだな?」

アイム「ああ、頼む」

オニロ「DBに勝つためにはこれしかないよ」

― オレたちを軍神<アーミーゴッド>に戻してほしい。

アイムの頼みは周りを大いに驚愕させた。
DBが負のオーラを結集させ過去最悪の力を手に入れているとするならば、正のオーラを纏う軍神<アーミーゴッド>で対抗し、民衆の目を覚ますことができれば形勢は一気に逆転する。
アイムとオニロの“欠けたピース”のままではDBとの完全決戦に挑むのはどうしても不完全なのだ。

ただしDBに扇動されている民衆は軍神<アーミーゴッド>に対し強い敵意を抱いているため、ひと度軍神<アーミーゴッド>が民衆の前に表れれば標的にされ何が起きるかわからない。
圧縮装置での軍神<アーミーゴッド>の復帰はDB討伐戦を会議所勝利の終結に導くか、さもなくば歴史がDBの手に落ちるか究極の二択を迫られる危険な賭けでもあった。


869 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神帰還編その5:2020/02/10 11:59:38.206 ID:xXkcYgXko
¢は一瞬、逡巡した後に装置のボタンを一度だけ押した。
圧縮装置がおもむろに機械音を発し始めたと同時に、二人の身体が白く光り始めた。

抹茶「もう二人には会えないんですか?」

アイム「バカだな抹茶さん。姿形は変わったとしても心は同じ、オレとオニロ。生きている」

アイムはそう言って、自らの胸を拳で二度叩いた。

オニロ「ボクとアイムがご迷惑をおかけしました、これからは軍神として皆さんを導きます」

アイム「おいオレを巻き込むんじゃねえ」

二人の変わらない掛け合いに周りの兵士たちからは思わず笑みがこぼれた。当人たちも軽口を言い合いながら互いに顔を見合わせた。
当初は誰にも馴染まず一匹狼を貫いた冷静沈着なアイムと、柔和ながら芯の強さを秘め歴史家としての才能を開花させた温厚で直情的なオニロ。
性格が真反対なきのたけの“希望の星”は、軍神<アーミーゴッド>の性格を分け与えられた“欠けたピース”ながら、それぞれが会議所で成長しともに師を持ち世界を大いに盛り上げた。


オニロは、窮地に追い込まれながらも不思議と心地の良い気持ちに、目を瞑りその時を待った。
アイムは、来る最後の戦いへの興奮と早る気持ちを抑えるために、目を瞑りその時を待った。




              そして、救世主が現れた。




870 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神帰還編その5:2020/02/10 12:01:23.104 ID:xXkcYgXko
まばゆい光が徐々に消え去り、アイムとオニロが立っていた場に一人の長身の兵士が現れた。
黒を貴重としたマントを羽織り、両軍服のモチーフカラーをあしらった専用の軍服はシワひとつなく清潔感を与える。
幼さの残る顔立ちの割に立ち振舞いに威厳があり、穏やかながら人を貫かんとする意志の強い目はアイムとオニロの名残を感じさせる。
紛れもない軍神<アーミーゴッド>、その兵士だった。

軍神「皆、待たせてすまなかった」

軍神<アーミーゴッド>の第一声に、止まっていた時間が動き出したように会議所兵士たちは慌ててピンと背を張った。

軍神「時間がもうない。すぐに我は外に出るぞ、付いてこい」

優しげな声色の内に秘めた強烈な力強さは、会議所兵士たちを鼓舞するには十二分だった。


871 名前:Chapter4.大戦に愛を 軍神帰還編その7:2020/02/10 12:02:52.768 ID:xXkcYgXko
参謀「よっしゃあ!いくぞッ!ほぼ全ての会議所兵士を会議所防衛に投入する。会議所への侵入を試みるデモ隊を軍神が食い止める。そして、デモ隊の中心にいると思われるDBを発見し討伐するッ!
ただ、DBを含めその周りにいる黒砂糖さんと山本さんは特に強力や。個別に対応する兵士をつけたほうがいい」

軍神<アーミーゴッド>の声に反応したように、討伐隊隊長の参謀は矢継ぎ早に指示を出し皆に意見を仰いだ。会議所が徐々に団結していく。

791「黒砂糖さんの対応は私に任せてもらってもいいかな?前回、魔法の使いすぎで先に寝て負けちゃったから今回はおまけで抹茶も引き連れていくよ」

抹茶「えっ」

指名された抹茶はただでさえ緑がかった顔色をさらに真緑にした。

筍魂「山本さんは俺で引き受けるゾ」

参謀「決まりやな。黒砂糖さんには791さんと抹茶で、山本さんには筍魂が相対しDBから引き離す。常人が近づけない対DBには竹内さんの存在が必要不可欠や。
まだ地下で茶でも飲んでるだろうから連れてきてくれ。負けられない戦いになるなッ!」

ビギナー「報告。いま入った情報によると、DBはきのこ軍 真参謀 B’Lと、参謀に似た名前を騙ってデモ隊の中に化けているらしい」

参謀「訂正じゃ…この戦い、死んでも負けるんじゃねえぞッ!!DBの野郎を討伐やッ!!!」

威勢のいい声とともに湿った地下は途端に大戦場のような熱気を帯びた。
最後の戦いの火蓋がここに切って落とされた。


872 名前:Chapter4.大戦に愛を:2020/02/10 12:04:31.684 ID:xXkcYgXko
軍神の設定は>>835で社長が描いてくれたものを逆輸入しました。マジサンクスです。

873 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その1:2020/02/10 12:06:06.195 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所】

「会議所の中に入れろッ!どうなっているんだッ!」

「俺たちの生活を返せッ会議所ッ!!」

「軍神<アーミーゴッド>を出せッ!!」

会議所を取り巻くとてつもない規模の民衆からの声は広がり重なりながらも反射し増幅された怨嗟の地鳴りとなり会議所に届いていた。
デモ隊から必死に門を抑えている会議所の地上兵士たちは、その地鳴りに耐えるには限界だった。

そのデモ隊たる民衆の中心に首謀者は居た。

黒砂糖「DB様…おっと失礼しました、真参謀 B’L殿。この様子ならばァ、会議所への突入も時間の問題と思われます」

きのこ軍兵士に化けたDBに、黒砂糖はそっと耳打ちした。

DB「それは僥倖ゥ。籠城などさせぬ、民衆が黙ってはおらぬからなァ!ゲゲッゲゲハハハッ」

端正な顔立ちからは似つかない下卑た笑いは民衆の声にすぐかき消された。

山本「ほぼ全住民が参加しておりますゥ、いかに籠城しようといつか門は破られましょう」

同じくDBの傍に立つ山本も乙牌を見つけた時と同じように眼光をギラつかせ嗤っている。


874 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その2:2020/02/10 12:08:04.412 ID:xXkcYgXko
DBは勝利の前に自らの人生を振り返った。
彼はこの世界に生まれ落ちてから、兵士の士気向上のためにと幾多にも会議所に私利私欲目的で戦いと捕縛を続けられた。
大戦世界から戦の士気が無くなるや否や幽閉され長い年月を会議所の地下で過ごすこととなった。本来、“負のオーラ”はDBにとって何よりの馳走なのにそれを喰らうことのできない苛立ち、
喰らっても暴れることのできないもどかしさが会議所への恨みをより一層強くした。

そして時がきたら、“計画通り”に隣りにいたスクリプトを引き連れ檻を脱出し、“謎の声”の指示通りに時限の境界を用いた歴史改変を決行した。
心地よく大戦世界に厭戦気分が広がり、“希望-心の本-”を喰らいDBは生き繋いだ。しかし、会議所にすぐ作戦を看破され相棒だったスクリプトは姿を消し、DB自身も窮地に追い込まれた。
それでも策を巡らせ過去に巻いた種を回収するように、黒砂糖を洗脳しアイムとオニロをあと一歩まで追い詰めた。
竹内というイレギュラーな存在により軍神破壊はならなかったが、再突入間近でいま正に会議所の灯は消えようとしている。

目に見えない負のオーラの増大を実感し、食べられもしないのにDBは馳走をくらうように空に向かって大口をあけた。
DBの力は過去最高にみなぎっていた。

山本「DB様ッ!ご覧くださいッ!!」

悦に浸っていたDBを引き戻したのは、山本の叫び声に加え驚嘆した民衆の息を呑む声だった。


875 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その3:2020/02/10 12:10:05.446 ID:xXkcYgXko
軍神が会議所のバルコニーに立ち眼下の民衆と相対す形となると、あれ程煩かった民衆は水を打ったように静まり返った。
軍神がそれ程までに威厳を放っていたためである。

軍神「諸君、我は軍神<アーミーゴッド>だ。君たちが待ち焦がれた軍神<アーミーゴッド>そのものだ」

静かに語り始めた軍神の声は不思議とよく通った。

軍神「今回のこのような事態に一重に胸を痛めている。現状を鑑み、非常の措置をもって時局の収拾にあたるべく、これより善良なる両軍兵士に告ぐ」

誰も声を発すことができなかった。軍神の一挙手一投足にDBも含めた全員が釘付けとなった。

軍神「一刻も早くこの集会を解散せよ。映えあるきのこたけのこ大戦世界に暮らす勇猛果敢な兵士諸君は某かの不幸を願うためにその力を使うのではなく、大戦場で戦ってこそのものである」

「ふ、ふざけるなッ!その大戦を開かないのはお前達だろうがッ!ま、貧しい暮らしに喘ぐ俺たちの気持ちがわかるのかッ!」

誰もが口を開けない中、民衆の最前列にいた一人の兵士が勇敢にも軍神<アーミーゴッド>に意見した。
途端に啖呵を切ったように同調勢力が広がり、再び会議所前は怒りの喧騒に包まれた。

「そうだそうだッ!」

「軍神<アーミーゴッド>が意図的に大戦を延期させているに違いないッ!やっちまえッ!」

「軍神<アーミーゴッド>と会議所をただで許しておくなッ!処刑だッ!」

軍神「静まれいッ!!!」

一通り無言で聴衆の声を聴いていた軍神の一喝は、再び民衆を瞬時に黙らせた。


876 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その4:2020/02/10 12:13:28.419 ID:xXkcYgXko
最初に声を上げた兵士に軍神が鋭い目線を送り、顔を向けた。見つめられた兵士は途端に威勢さを失い怯えるように肩を震わせた。
すると、瞬時に軍神はニカッと微笑った。

軍神「剛毅果断な兵士だッ!素晴らしい、君のような兵士が大戦で誰よりも活躍するんだッ!」

すぐにキッと顔を上げ、拳を振り上げ軍神は民衆に語りかけた。

軍神「会議所とは大戦世界を生きながらえさせる生命の拍動そのものであるッ!兵士諸君が大戦を開催したいと強く願えば、会議所は直ちに君たちの願いを叶えるだろう」

軍神「会議所は兵士諸君の力と意思と情熱で成り立っているッ!時局を読み、何より君たちの意慾を組み大戦開催の判断を行っている」

軍神「なぜ大戦が開催されていないか。意図的にか?はたまた会議所の権力を集中させるため焦らしているのか?ふざけるのもいい加減にしろッ!全てが馬鹿げた戯言だッ!!」

軍神の叫びに、徐々に民衆がざわつき始めた。しかしそれは先程のような怨嗟の声ではなく、ただただ戸惑い迷う民衆の声だった。

軍神「果たしてどれ程大戦復帰を願う者がいたか。答えは我自身が示しているッ!皆が両軍への怒りを忘れ、仮初の平穏を望み戦いから目を背けたことで軍神<アーミーゴッド>は一度大戦世界から消滅したッ!
それが諸君らの大戦への取り組みの意志表示だッ!それが答えだッ!!」

話を続けながら軍神は、民衆たちの失われた心の本の頁<士気>が漠然と眼前に広がりつつあるように見えた。


877 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その4:2020/02/10 12:16:05.078 ID:xXkcYgXko
軍神「だが、我がいまここに存在しているという事実が、また別の解を示している。善良なる両軍兵士が如何のような形であれ大戦復活を切に望んでいるッ!
両軍共栄の楽を共にするため、軍神<アーミーゴッド>は此処に復活したッ!会議所は必ずや諸君らの声を聞き行動に起こすだろう」

民衆の上空でキラキラと薄い膜のように漂っていた本の頁<士気>が、徐々に形を帯びてくる。

軍神「君たちの内なる魂に、情熱の灯を、消えかけた情熱の灯を再び灯すのだッ!大戦世界の心臓部として拍動を続けんとあがく会議所に、君たちが血となり後押しをするのだッ!」

軍神の叫びに、その本の頁<士気>は持ち主に還っていくように―

軍神「感じろッ!大戦で得たあの高揚感と充足感をッ!」

一人、また一人へ―

軍神「目を覚ませッ!勇猛果敢なきのこ軍兵士よッ!百戦錬磨のたけのこ軍兵士よッ!」

その数は瞬く間に広がり―

軍神「思い出せッ!185回にも続く大戦の偉大なる軌跡をッ!!」

パァンと空一面に広がった本の頁<士気>が弾ける音を軍神だけが聴いた。次の瞬間、洗脳が解け本の頁<士気>が戻った兵士たちは一斉にその場で倒れていった。
その数は民衆の大多数を占めた。
軍神が民衆の士気を急激に取り戻した瞬間だった。



その光景を誰よりも許せない兵士がいた。

DB「アアアアアアァァァァアミイイイイイイイイィィィゴッドオオオオオオオオオォォォォッッッ!!」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

878 名前:Chapter4.大戦に愛を 演説編その6:2020/02/10 12:18:37.956 ID:xXkcYgXko
DBは力を振り絞り禍々しいオーラを発散した。瞬く間に倒れていた兵士たちの中から選りすぐりの者がカクンと人形のように起き上がった。

DB「黒飴くゥゥゥゥん。プランを変更だァ。俺様に相応しい最高の“舞台”に、あの哀れな英雄<ヒーロー>を招待しろォ。
二度仕留め損ねたが、最後に悪は勝つということを歴史に魅せつけてやろゥ」

黒砂糖「御意」

DBと幹部の黒砂糖と山本、そして数は減ったにせよ未だ洗脳された多くの兵士を引き連れ、黒い渦たるDB集団は会議所の正門へ向かい愚直に走り出した。

軍神「『ポイフルバースト』」

軍神の突き出した利き手から幾多の光弾が発せられ、DB隊に向かって勢いよく飛んでいった。オニロとアイムの力が合わさり、光弾は烈火の如く連射された。

山本「いくぞッ神父黒飴ッ!」

黒砂糖「任せろッ!」

集団から山本と黒砂糖が飛び出し光弾に相対した。
山本は自然な体捌きと自らの拳で次々と光弾をはたき落とし、黒砂糖は対抗呪文で次々と軍神のポイフルバーストを撃ち落とした。
熟練の兵士二人が相対すことで軍神の力と互角になり、ポイフルバーストを打ち消したのだった。

DB「悪意に満ちた悪がどれ程強大かということを、その身をもって教えてやるよォォッ!」

軍神「敵が来るぞッ!全員構えろッ!」

咆哮と悪意を撒き散らしながら、DBたちは会議所の正門に激突し破壊した。


879 名前:Chapter4.大戦に愛を:2020/02/10 12:20:18.086 ID:xXkcYgXko
ここから最終決戦。

880 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その1:2020/02/10 12:22:24.732 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所】

雪崩のようにDB隊は会議所の中に飛び込んだものの、巨大な正門を抜けた先は誰もおらずもぬけの殻だった。

加古川「やれッ!」

DB隊全員が入り込んだと同時に正門は閉ざされDB隊は閉じ込められた。
そして、加古川の命令が下されると正門の見張り塔に隠れていた兵士たちが次々と姿を現し、矢を放った。

DB「チッ!各自散開して軍神<アーミーゴッド>を討ち取れェ!」

黒砂糖「DB様ッ!御声を出してはバレてしまいますッ!」

中心で号令を発した兵士をDBと発見した会議所兵士の攻撃は激しさを増した。
すぐに散り散りとなったDB隊たちの中で、DBと思わしき兵士は黒砂糖に護衛されながら中庭に向かって走り去っていった。

791「黒砂糖とおそらくDBは中庭に移動ッ!行くよ二人ともッ!」

見張り塔から見ていた抹茶と竹内は頷き、二人の後を追った。


881 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その2:2020/02/10 12:25:03.786 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 大廊下】

軍神はバルコニーから移動し大廊下にさしかかったところで二人の兵士に出くわした。

じゃがバター「いたなァ軍神<アーミーゴッド>」

リコーズ「お前の首をとりDBォ様に届けるのだ」

過去、会議所に参加し歴戦の兵士に数えられたきのこ軍 じゃがバターと、たけのこ軍 リコーズの二人が軍神に向かい舌なめずりするように口角をつりあげ嗤った。

軍神「歴戦の過去兵士も操られているとは、DBの力は存外強すぎるな…」

軍神の正のオーラを持ってもなお二人は動じてないことから、DBの洗脳の強さに二人の地力の強さがあわさっていることが伺えた。
軍神はマントをひらりとはためかせた。

リコーズ「いくぞォォォォ」

それが合図になったのか、リコーズは手にもった巨大なバズーカ砲を構えると間髪入れず発射した。

同時に軍神は音もなく姿を消し、目にも留まらぬ速さで次の瞬間、リコーズの背後に現れた。

リコーズ「なんだとッ…」

軍神「戦闘術・魂『きあいパンチ』」

リコーズの鳩尾をトンと拳で一度軽く突くと、リコーズは意識を失いはたとその場に倒れた。

882 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その3:2020/02/10 12:26:34.273 ID:xXkcYgXko
じゃがバター「なんという力だァ…」

過去に撃破王に輝いたことのあるリコーズがものの数秒で倒れたことに、じゃがバターは恐怖で逃げ出したくなったが既のところで耐えた。
この逆境を自らの力に変えるのが歴戦の会議所兵士と一般兵士の違いなのだ。

じゃがバター「次は俺だ、うおおォ!!!」

じゃがバターは手に持ったククリ刀で軍神に斬りかかった。軍神もすぐさま抜刀し応じる。
刀の擦れた金属音が通路に響き渡った。ジリジリとじゃがバターが押し、軍神は冷静に少し後退した。
後退する中でカチッと軍神の足元でなにか音を発した。シメたとばかりに、じゃがバターはすぐに半歩後ろへ跳んだ。

じゃがバター「かかったなッ!俺を突撃兵だと思ったか?」

じゃがバターは用意した起動スイッチを押すと、軍神の足元にある地雷爆弾が起動し轟音とともに通路の壁を破壊するほど激しい爆発を引き起こした。

パラパラと壁が四散し崩れ落ちる。粉塵でじゃがバターの眼前は曇ったが、今の爆発に軍神は巻き込まれたことは確実と勝利を疑わなかった。


883 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その4:2020/02/10 12:28:41.768 ID:xXkcYgXko
じゃがバター「現役時代もこの爆撃兵スタイルで撃破を量産した。戦から遠のいた軍神<アーミーゴッド>がこの奇襲に耐えられるはずがァ―」

じゃがバターのは絶句した。煙が晴れ無傷で立っている軍神を視認したからだ。

軍神は抜身の刀で呆気にとられたじゃがバターに切りかかると、彼が回避行動を取る前に一瞬で斬り伏せた。

軍神「戦から遠のいたのはどちらだろうな?」

悲鳴を上げる間もなくじゃがバターは地面に突っ伏し倒れた。
ホワイトチョコでコーティングされた刀を鞘に納めると、早足で軍神は歩みを再開した。

すると、すぐに二人の兵士が目の前の通路から走ってきた。その出で立ちから会議所兵士のようだった。

「報告いたします軍神<アーミーゴッド>様ッ!」

「DBらしき兵士を見かけました!wiki図書館の隠し階段を地下に下っていた姿が目撃されていますッ!案内いたしますッ!」

軍神「…承知した」

若干の不可思議さを覚えながらも神妙に軍神は頷いた。


884 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その5:2020/02/10 12:31:37.388 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 中庭】

黒砂糖「はァはァ…しつこいぞ手前らッ!」

DBと思わしききのこ軍兵士を庇いながら追手から逃げていた黒砂糖だが、いよいよ諦めたのか中庭に付くと見えない追手を罵った。
それに呼応するように791、抹茶に加え竹内が姿を現した。

791「黒砂糖さんにはこの間の貸しがあるしね」

先日の死闘では黒砂糖との戦いで大魔法を誘発され魔力切れで先に791の体力が尽きてしまったのだ。

抹茶「黒砂糖さん、目を覚ましてください…私は同期のあなたと戦いたくありません」

黒砂糖「俺の名前はァ神父 黒飴。抹茶ァ、また裏切られに来たとはお前も哀れなやつだ」

黒砂糖は挑発的に語りかけると途端に黒砂糖とDBの間に魔法の防護壁を作り上げた。


885 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その6:2020/02/10 12:34:20.695 ID:xXkcYgXko

黒砂糖「今ですDB様ッ!お逃げくださいィィッ!」

竹内「ホッホッホッ。逃さぬぞ」

占めたとばかりに黒砂糖の後ろに居たDBが逃げ出すと、瞬時に反応したのは竹内だった。

戦いの中で老兵は老体を感じさぬ機敏な動きで瞬時に走り出しDBと思わしき兵士の後を追い、姿を消した。

抹茶「僕たちも竹内さんの後を―」

黒砂糖「おっと逃さんぞ!」

三人の周りに巨大な火壁が地面から伸び、ぐるりと彼らを囲むように覆いつくした。黒砂糖はその身を挺し、二人の足止めに成功したのだ。
黒砂糖と791、抹茶は相対すこととなった。

791「抹茶、気をつけろ。黒砂糖さんは、元々は超・優秀な工作兵(補助魔法タイプ)だけど、突撃兵の心得もある厄介な兵士だよッ!」

抹茶「黒砂糖さんの強さを僕は誰よりも知っています…心してかかりましょう」

黒砂糖「敵に不足なし。久々に血湧くなァ!!」

黒衣を身に纏った黒砂糖はただ強者に出会った喜びからか、肩を震わせ感激に打ち震えた。


886 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その7:2020/02/10 12:35:43.220 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 教練棟】

山本は軍神を探しに一人教練棟に入ると、そこには先約が居た。

筍魂「よお、元気にしてたか」

椅子に腰掛けていた筍魂の存在に気がつくと、山本は露骨に顔をしかめた。

山本「強敵にィ会いたくはなかったが…致し方ない。やるかッ」

両の拳を上げ、山本は静かにファイティングポーズを取った。

筍魂「強敵と認められるとは嬉しいねぇ鬼教官。共に同じ弟子を持った師として負けられんなあ」

ゆらりと気だるそうに筍魂は立ち上がると瞬時に腰を低くし跳んだ。

山本「させるかッ!」

対して山本は自らの拳で目の前の机を砕き、障害を作った。
ここに二人の激闘が始まった。


887 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その8:2020/02/10 12:38:11.188 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

「こちらでございます軍神<アーミーゴッド>様ッ!」

軍神「…ご苦労」

二人の兵士に案内を受け軍神が大戦年表編纂室に到着すると、一人の兵士が興味深げに周囲を見渡していた。
その傍には編纂室で待機していた斑虎ときのきのが倒れていた。

??「大戦年表編纂室とはここかァ。随分といい部屋を誂えたものだなァ会議所は」

軍神「汚い手で書物に触るな、DB<ダイヴォー>」

DBは手に持った歴史書を閉じると無造作に放り捨てた。そして、指をパチンと鳴らすと軍神を案内した二人の兵士たる幻影は跡形もなく消え去った。


888 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その9:2020/02/10 12:39:23.700 ID:xXkcYgXko

DB「先程の蛮行は見事だったなァ軍神<アーミーゴッド>。お陰で俺様の兵隊が大分減らされてしまった」

見事だ、と兵士の変装を解いたDBは、持ち前の下卑た笑いで軍神と相対した。

軍神「貴様が此処にいるということは分かっていた」

DB「のこのこ一人で来てくれるとはありがたい。黒飴くんも“予定通り”戦い始めたはずだ。事態はここまで俺様の思ったどおりに進んでいる」

DBは途端に笑みを消し般若のような形相になった。

DB「後は貴様を消すだけだ、軍神<アーミーゴッド>ォ!!」

軍神「それはこちらの台詞だ。これで最後の戦いにしよう」


両雄が、激突した。



889 名前:Chapter4.大戦に愛を それぞれの戦い編その9:2020/02/10 12:41:19.158 ID:xXkcYgXko
黒砂糖 VS 791、抹茶
山本 VS 筍魂
DB VS 軍神<アーミーゴッド>

はてさて結果は?

890 名前:Chapter4.大戦に愛を :2020/02/10 12:42:43.112 ID:xXkcYgXko
少し休憩

891 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その1:2020/02/10 18:36:26.085 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 中庭】

黒砂糖「作戦は成功した。あとはこちらで時間をかせぐだけだァ」

791「『チョコベビークラスター』」

黒砂糖の上空からチョコ型のクラスター爆弾が襲いかかるも、黒砂糖は巧みな身のこなしで攻撃を避け続ける。

抹茶「くらえっ『出来たてツールV1.40』ッ!!」

未完成品の集計ツールを投げつけるも黒砂糖に叩かれてツールは粉々に砕け散った。

黒砂糖「まだまだァ!こちらから行くぞォ『バーナーショット』ッ!」

791「『スーパーカップバリア』ッ!」

魔法で出した銃火器の火炎放射を791と魔法は防壁で守るも、戦いは黒砂糖の鬼神の如き活躍に劣勢になりつつあった。

肩で息をする二人に対し、黒砂糖はまだまだ余裕ありといった体で肩を回して次の攻撃に備えている。


892 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その2:2020/02/10 18:38:47.935 ID:xXkcYgXko

抹茶「黒砂糖さん…なんて力だ。同期として誇らしい限りだよ」

791「彼の狙いは私のMPを枯らすことだ。抹茶、私の盾になって死んでね」

抹茶「えぇ…」

黒砂糖「喋っている暇があるかなァ!?」

二人の背後の炎壁から火炎玉が飛び出し、既のところで二人は避けた。
続いて間髪入れずに黒砂糖は手に用意した大太刀で二人に斬りかかる。抹茶が791の前に立ち、湯呑みで太刀を防ぎきった。

抹茶「黒砂糖さん、目を覚ましてください。昔はあれほど二人でDBを討伐しようと息巻いていたじゃないですかッ!」

鍔迫り合いの中、抹茶は悲痛な面持ちで黒砂糖に訴えかけた。二人は会議所の同期で軍の垣根を超えた親友だった。
抹茶の悲痛な叫びに黒砂糖の顔は一瞬曇ったが、その後すぐにDB教信者特有の不穏な笑みを戻した。


893 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その3:2020/02/10 18:40:18.243 ID:xXkcYgXko
黒砂糖「『トールディレイ』ッ!」

抹茶の頭上から激しい雷が打ち付ける。避けようとしたがまともに雷を喰らい、抹茶はその場で倒れた。

791「抹茶ッ!」

抹茶「大丈夫ですよ。こんなのかすり傷です…」

腰に携えた携帯ポン酢を飲み干し抹茶は体力を回復した。
黒砂糖は悠然と抹茶を見下ろしている。

791「親友の呼びかけにも応じないどころか騙し討ちなんて、私はちょっと許せないな」

抹茶「待ってください791さん。黒砂糖さんは一瞬ですが迷いを見せました。彼も完全には洗脳にかかっていない、そこが勝機です」

黒砂糖「いくらでも時間はかけていい…あのお方が軍神<アーミーゴッド>を直々に成敗してくれるゥ」


894 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その4:2020/02/10 18:45:51.742 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

同時刻に編纂室でも激戦が繰り広げられていた。

軍神「『アポロソーラ・レイ』ッ!」

軍神の手から放たれた熱光線がDBに向かうもDBはひらりと避けた。熱光線はそのまま奥の書棚にあたり、そのまま熱で溶けてしまった。

軍神「ッ!」

軍神は顔をしかめた。オニロの歴史家としての記憶を軍神は勿論覚えている。
編纂室で過ごした過去を、目の前の宝物を自らの手で無くしてしまった後悔をしてしまった。

DB「どうした軍神<アーミーゴッド>ォ!こちらからいくぞォォォ!」

DBは高く跳び上がり、自らの毒素で創り上げた手裏剣を投げた。
軍神は抜刀し弾くも、弾かれた手裏剣はその場で四散し毒を撒き散らした。

軍神「ッ!」

顔を伏せながら後退する軍神に、けたたましい笑いを上げながら浮遊したままのDBが追い打ちのように雛あられ形のホーミングミサイルを次々に打ち込んだ。
軍神は疾走る。追尾を振り切られたホーミングミサイルは次々にその場で爆発していく。最初に円卓のテーブルが、続いて書棚が木っ端微塵になっていった。

軍神「くッ!」

皆で額を寄せ合って会議をした空間が、思い出の場所が壊れていく。


895 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その5:2020/02/10 18:51:25.333 ID:xXkcYgXko

軍神「戦闘術・魂『くさむすび』ッ」

DBの周りに巨大な樹木が現れ、伸びた枝葉が彼を捕らえようとするがDBの毒素で彼に辿り着く前に次々と枯れてしまった。

DB「ゲハハハハッ!!どうした軍神<アーミーゴッド>ォ!随分と精細をかいているな!ええッ!?」

DBは手に持ったでんでん太鼓をけたたましく鳴らし、音波の真空波を繰り出した。
しかしでんでん太鼓の音で逆に幾分か冷静になった軍神は、その攻撃を逆手に取るように真空波に“乗り”、跳躍を利用し空であぐらをかいたDBの眼前まで跳んだ。

DB「なにッ!」

手に持った刀で払い、軍神はDBを地面に叩き落とした。

DB「やるなァ。それでこそ狩り甲斐があるというとものだァ」

DBは地面に打ち付けられ口からチョコを吐き出したが、不敵な笑みは崩さない。
今の軍神は、戦闘術・魂を会得し敵の攻撃をも利用しようとする細かな攻撃型のアイムと、791の教えで魔法使いとしての力量を最高にまで引き伸ばした大味の攻撃型のオニロのどちらの特性も引き継いでいる。
器用な援護兵タイプの完全上位互換である明治兵タイプに昇華し、いまや攻守に隙がないのだ。

いくらDBでも構わない存在にまで会議所が彼の化身を育て上げた。
だがその事実を知ってもなお、DBは自らの勝利を揺るがなく確信していた。

軍神に致命的な弱点があることを知っていたからである。


896 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その6:2020/02/10 18:53:45.597 ID:xXkcYgXko
DBはすくっと立ち上がり、地面に降りた軍神には目もくれず、眼前の書物棚に狙いを定めた。

DB「これから新たな歴史を築き上げる俺様の前に、古い過去の遺産など一切不要ッ!」

幻影の術によりDBは瞬く間に増殖し、一様に書棚に狙いを定め攻撃の準備に移った。

軍神「やめろッ!『ビッグサンダー』」

横方向に放たれた雷撃が幻影のDBたちに直撃し吹っ飛ぶも、みな一様に書棚にぶつかり、ある棚は木っ端微塵に粉砕し、
ある棚は轟音を立てて他の棚を巻き込みながら横倒しになって倒壊していった。

軍神「なんてことだッ!」

明らかに軍神には焦りが見えた。軍神の中にあるオニロの歴史家としての感情が、歴史書と編纂室を守らねばならないという使命感を抱かせ、それが却って彼の行動を大きく制限させていた。

DB「守ってみろォ!守ってみろよォ!」

そうした間にもDBはまた幻影で数を増やし、軍神には目もくれず歴史を破壊し始めた。
爆裂音、書棚の倒壊音、書物の破れる音。
その全てが編纂室の悲鳴に聞こえ、軍神は全てのDBを瞬時に片付けるためその場で跳び状況を確認しようとした。

その行動が大きな悪手だった。


897 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その7:2020/02/10 18:56:26.511 ID:xXkcYgXko
DB「―君は本当に馬鹿だな」

軍神の背後から本物のDBの囁き声が聴こえてきたとき、DBの飛び膝蹴りで彼の身体は既に空中でねじ曲っていた。

軍神「ぐはッ!!」

DB「馬鹿めッ!馬鹿めッ!馬鹿めェッ!!貴様が受け継いだのは何も戦闘力だけじゃないッ!アイムとオニロの不完全な性格、心の弱さも受け継いでいるんだよォォ!!」

次々と空中で幻影のDBが現れて軍神を殴打しタコ殴りにしていく。猛烈な速攻にさしもの軍神も防ぎようがなく、次第にその身は終わりの見えない天井に放られていった。

DB「悪腫『裏切りの妖怪けむり』ッ!」

粘着性のある糸からできた蜘蛛の巣が霧の粒を宿して空中に姿を現し、その中心に軍神は捕らわれた。

DB「ゲハハハッ!再三、俺様との戦いに敗れるとは軍神<アーミーゴッド>の名折れだなァ!?」

軍神「誰が負けたと言った?戦いは終戦まで分からない、大戦の鉄則だろう。長い幽閉で元から弱い知能がさらに低下してしまったのか?」

両の手足ともに蜘蛛の糸にがんじがらめにされ、なお軍神は気落ちすることなく挑発的にDBを上空から憐れんだ。

DBはその言葉に一瞬顔を歪ませたが、すぐに自らの絶対的優位を再確認しニタニタと笑い出した。

DB「この間の地下室では貴様を破壊することに急ぎすぎたから失敗した。だが今回はどうだ。
俺様が用意した最高の舞台だァ。これから行われる貴様の処刑は、演出にも気を使ったんだァ」


898 名前:Chapter4.大戦に愛を 絶体絶命の激闘編その8:2020/02/10 18:58:35.845 ID:xXkcYgXko

得意げに喋り続けるDBを虎視眈々と狙っている者がまだいた。

DB「この場で貴様を処刑しそれを会議所内外にアピールすることで貴様を端とした正のオーラは完全に消滅するッ。
これからは俺様の時代が始まるというわけだァ――なにをするッ!」

軍神「おい、やめろッ!」

未だ部屋に残っていた天高くうねる大戦年表紙が突如揺らめく動きを止め、瞬時にDBに向かったと思うと彼の胴体に蛇のように巻き付きはじめた。
自らの意思でDBを窒息させ暴漢を排除しようとしたのだ。
とてつもない速さで大戦年表はDBの身体に何重にも何重にも巻き付いていく。しかし、今の強大なDBには何ら脅威のない攻撃だった。

DB「グアアアアアアッ!この、小癪なァァァァァァ」

DBは自らの身に貼り付いていた大戦年表紙を真っ二つに引き裂いた。
悲鳴にも似た激しい紙面の破れる音とともに、大戦年表紙は息を引き取るようにその場にハラリと落ちていった。
続くように自動筆記ペン『オリバー』も仇を取らんとする勢いで自らの切っ先をDBに向け突進していったが―

DB「ふんッ小賢しい魔法の器具がッ!!」

いとも容易くDBに振り払われ、オリバーは壁に打ち付けられ静止した。

DB「ゲハハハハハハッ!もう終わりだな軍神<アーミーゴッド>!」

編纂室は大戦場でも見ない程、荒廃の様相を呈していた。
粉砕された家具、倒壊する書棚、燃え盛る炎、そして編纂室の象徴だった大戦年表紙は破られ他の書物に折り重なるようにその身を地に投げていた。


大戦世界の歴史が、終わろうとしていた。
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899 名前:Chapter4.大戦に愛を:2020/02/10 18:59:39.101 ID:xXkcYgXko
DB、強い。

900 名前:Chapter4.大戦に愛を 鉄人編その1:2020/02/10 19:01:44.332 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 中庭】

791「『トッポレールガン』」

抹茶「『おっとっとカイザー』ッ!!」

791が後方から雷の魔法を放ち、間髪入れずに抹茶が接近攻撃をしかけるも慌てることなく黒砂糖はまず抹茶をいなしてから791の魔法を自身の魔法で無力化した。

791「私の魔法まできかないなんて、黒砂糖さんすごいね。本来以上の力を発揮しているねッ」

黒砂糖「791さんと互角で戦えているなんて、後世に誇れるなッ!」

791「フフフ。それは私に勝ってからにしなよ?抹茶、下がってッ!」

791の足元に強大な魔法陣が展開される。

791「『シトラス』ッ!!」

黒砂糖の頭上に幾多ものレモンが降りかかり、大爆発を巻き起こした。
砂埃による嵐が巻き起こり791と抹茶に襲いかかった。

抹茶「791さんの大魔法をくらって生き残る兵士はいないはず…」

791「ハァ…さすがに一回のMPの消費量が激しすぎるなぁ。加減したからまだ生きているとは思うけど、ちょっと目眩がするよ」

砂嵐が晴れると黒砂糖が立っていた場所には巨大なクレーターが空いていた。だが黒砂糖の姿はない。


901 名前:Chapter4.大戦に愛を 鉄人編その2:2020/02/10 19:03:21.972 ID:xXkcYgXko
791「黒砂糖さんがいない…まさか、やりすぎてしまッ――」

瞬間、791の背後の炎の壁からヌッと黒砂糖が姿を現した。

黒砂糖「大魔法使い791、覚悟ッッ!」

791は枯渇気味のMP回復を図っていたため若干の隙が生まれていた。黒砂糖は手にした大太刀で791の背後から奇襲を狙った。その狙いは成功した。
振り返った791が黒砂糖の存在に気づいてもなお、791には次の詠唱までの時間が無く防衛の手段がなかったのである。

抹茶「『完成ツールkinotake total tool Ver0.10』ッ!!」

絶体絶命の窮地を救ったのは咄嗟の抹茶の反応だった。
抹茶の投げた完成集計ツールは黒砂糖の前でパチパチとワタアメのように弾け、黒砂糖は不意をつかれ動きを止めた。

791「『コエダバースト』ッ!」

すぐに詠唱し終えた791が間髪入れずに黒砂糖に向かい攻撃魔法を放った。大量の小枝が矢のように放たれ、まともに全てを受けた黒砂糖は吹っ飛ばされた。

791「助かったよ抹茶。私の奴隷としては申し分ない働きだね」

抹茶「うん、それは喜んでいいのかな?」

黒砂糖が地面に膝を付いた。見ると、黒衣はボロボロになりむき出しになった肌からは血が滴っている。

黒砂糖「魔法の炎壁に身を忍ばせたまではよかったが、シトラスの威力の高さと抹茶の存在が予定外だったな…」

自らの戦いを考察するように、頭を垂れた黒砂糖は悔しげに地面に向かいつぶやいた。


902 名前:Chapter4.大戦に愛を 鉄人編その3:2020/02/10 19:05:29.374 ID:xXkcYgXko

抹茶「黒砂糖さん、いい加減目を覚ましてくださいッ!初代・討伐隊隊長のあなたが、なぜDBの手に落ちたのですかッ!」

黒砂糖「力が欲しかったのさ。その油断が甘さを生みDBに洗脳された」

黒砂糖は顔を上げず淡々と答えた。

抹茶「それが分かっているのならば洗脳は振り払えるはずッ!親友としてのお願いです、正気に戻ってくださいッ!」

791「いや、抹茶。黒砂糖さんはもう正気に戻っている。そうだよね?」

抹茶は驚きの顔で黒砂糖を見た。黒砂糖はなおも顔を上げようとしない。

791「恐らく先程の攻撃かその少し前からもう黒砂糖さんは洗脳を振り払って正気に戻っているよ。オーラで分かる」

黒砂糖は自虐的に嘲笑い、791さんには敵わないなぁ、とつぶやいた。

抹茶「黒砂糖さんッ!今すぐ炎壁の魔法を解いてください。竹内さんがDBと交戦しているから助けに行かないとッ!」

黒砂糖「竹内さん?ああ、竹内さんが追ったDBは偽物だ。俺が具現の魔法で、とある兵士にDBの顔を描いて変装させたんだ。竹内さんの力を恐れたDBの命で彼を遠ざけた。
本物は別の場所で、恐らく軍神<アーミーゴッド>と戦っている」

抹茶「なんですってッ!?」

黒砂糖「…なあ抹茶、791さん。一つ頼みがある。俺はとんでもない大馬鹿野郎だ。会議所を一度だけでなく二度も窮地に追い込んだ。その責任を取りたい。だから―」


―俺を討伐してくれ

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903 名前:Chapter4.大戦に愛を 鉄人編その4:2020/02/10 19:08:02.641 ID:xXkcYgXko
791「黒砂糖さんはそれでいいの?」

黒砂糖「…俺は洗脳が解けた今でも力を欲している。周りは俺を“画家”やら“絵師”と持て囃すが、その前に俺は一人の兵士なんだッ!
自らの拳で、力で強敵を打ち破りたい。それが喩え仲間であったとしても」

“鉄人”黒砂糖はふらりと立ち上がった。その目は笑っている。

黒砂糖「洗脳が解けた今でも、俺は最後までDB側に付く。軍神<アーミーゴッド>を救いたかったら俺を倒していけ。
俺なりの道義だ。
それが討伐の根拠だ。分かってくれ抹茶」

黒砂糖は落ちていた大太刀を拾い静かに構え直した。そんな黒砂糖に抹茶はほうと溜息を付いた。

抹茶「…黒砂糖さんは大バカヤロウです。この戦いが終わったら黒砂糖さんには僕の作った新作ゲームのテスターになってもらいますよ」

黒砂糖「悪くないなッ―」

儚げに黒砂糖は嗤い、喋り終わると同時に大太刀を振るった。抹茶は片手に持つ湯呑みで斬撃を受け、もう片手で目潰しのために茶葉を投げつけた。

黒砂糖「『ミールメイルストロム』」

半歩下がり攻撃を避けた黒砂糖は、二人に溶解したミルクキャラメルの大波を浴びせた。

791「『ファイアジュール』ッ!」

炎の魔法で、二人に襲いかかったキャラメルの波は溶けて消えてしまった。
抹茶は後ろを振り返り791と目をあわせ一度だけ頷く。作戦が定まった。


904 名前:Chapter4.大戦に愛を 鉄人編その5:2020/02/10 19:12:25.652 ID:xXkcYgXko
抹茶「『超高速湯呑みスロー』」

黒砂糖は屈んで攻撃を避けた。彼の背後でパリンと湯呑みの割れる音が響いた。

黒砂糖「遅い!くらえッ!」

半身のままの黒砂糖が目の前の親友を仕留めるべく再度大太刀を振るった。

791「抹茶ッ!翔べッ!」

詠唱の終わった791の具現化魔法で抹茶の背に羽が生え、勢いよく抹茶が飛翔した。
上空に逃れた抹茶は黒砂糖の攻撃を寸前で避けた。
その姿は、以前黒砂糖自身がアイムとオニロに描いた絵に酷似していた。

黒砂糖「あれは、“羽抹茶”…相変わらず羽のシワの部分がよく描けているな」

上空に浮かぶ彼に見惚れていたその一瞬が、勝敗の分かれ目となった。

791「『ヨーグセット』ON!」

ガチャリいう撃鉄の音。黒砂糖が意識を戻すと、791の目の前には漆黒の禍々しい魔法の大筒が表れ、巨大な砲弾が独りでにセットされていた。
黒砂糖はこの魔法を知っていた。急いで疾走ろうとするも―

黒砂糖「足が、動か、ないッ!」

抹茶「さっきの湯呑みの中に強力なしびれ粉を入れていましてね。いかに“鉄人”黒砂糖さんでも吸引した数秒間は動けませんよ」

強烈な痺れに手足が硬直する中、黒砂糖は数秒後に訪れるだろう敗北を噛み締めるべく目を閉じた。

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905 名前:Chapter4.大戦に愛を :2020/02/10 19:13:47.726 ID:xXkcYgXko
鉄人、散る。

906 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その1:2020/02/10 19:18:59.195 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

DB「邪魔が入ったが、これより軍神<アーミーゴッド>の処刑を行うゥ。目撃者は歴史の観測所たる編纂室だァ。
とはいっても、歴史そのものはもう破壊されてしまったがなァ!!」

下卑た笑いでDBは高笑いし、捕らわれたままの軍神に向き直った。

DB「なにか後世に言い残すことはあるか、軍神<アーミーゴッド>?」

軍神「歴史は“死んでなどいない”。我が消えたとしても戦いの記録は消えやしない。誰かが意志を継ぐ限り、戦いは終結しない」

DB「ほざけェ!」

DBは指でピストルの形を作った。指先に光が溜まる。

DB「あばよォ軍神<アーミーゴッド>!理想を胸に抱えながら息絶え、俺様の作る新たな世界を見ているがいいッ!!」

光が充填され、軍神を射抜かんとした正にその刻――



??「待ってほしいんよッ!!」



編纂室の扉が勢いよく放たれ、一人の兵士が叫んだ。ギョッとした面持ちでDBは顔を向けたが、その兵士の顔を見て途端に安堵した。

DB「なんだァ¢くんじゃないかァ、ビックリさせないでくれたまえよォ」

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907 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その2:2020/02/10 19:22:50.438 ID:xXkcYgXko
DB「その物騒な銃を仕舞ってくれよォ。頼むよォ」

途端に猫なで声で懇願するDB。しかし、¢は動じない。

¢「DB<ダイヴォー>。俺が間違っていた。お前を生み出したのは紛れもなくこの俺だがッ!お前を野放しにさせすぎたッ!」

¢の構える銃を持つ手が強くなり、途端にわざとらしくDBは悲鳴を上げた。

DB「そんなひどィ!ぼくが活躍するたびに諸手を挙げて喜んでいたのは¢くん!きみ自身じゃァないかッ!」

DBは人知れず負のオーラを放出する。誰にも気付かれないように静かに、そして狡猾に。

DB「あの頃、討伐戦が終わるたびに、捕えられたぼくを秘密裏に放してくれていたのは¢くんだろォ!
ぼくの活躍をきみ自身の“最大の発明品”の活躍と重ね合わせて見ていた。そうだよね?」

¢がビクリと肩を震わせた。DBは心の中で舌なめずりした。

DB「だから討伐戦で活躍できるように、きみはぼくを逃し続けた。そうだろう?」


908 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その3:2020/02/10 19:25:42.797 ID:xXkcYgXko
¢「ちがう…ちがうんよ」

DB「違わないよォ。結局、幽閉された後も君はぼくとスクリプトの様子を確かめに人知れず何度も檻の前に足を運んでいたよね?
そのときに自分でも気づかないうちに、脱走の手引をしていた。だからぼくとスクリプトが檻を抜け出せた。それに負い目を感じているんだよねェ?」

¢「違う、違うッ!!」

DBの言葉には語弊がある。¢がDBとスクリプトを気にかけて檻を訪れていたのは本当だが、¢の弱さを知るDBは彼に気づかれぬように小さい洗脳を繰り返し施していた。
そして、K.N.C174年に檻の鍵を持ってこさせ、スクリプトとともに脱走したのだ。
¢は当然この事実に気がついていないが、自らが逃してしまったのではないかと人知れず悩んでいた。

DB「でも、ぼくがきみの“最大で最高の発明品”であることに変わらないから、この窮地に追い込まれてもきみはぼくの討伐を決心できなかった。
そうだよねェ?“親”が“子”を想うのは当たり前だもんねェ?」


―― たけのこ軍 オニロ「…しかし、このまま現代に留まり続けてもDBは見つけられません。
ボクたちはDBを必ず見つけ、討伐しなければいけないんです」

―― きのこ軍 ¢「だからッ!“討伐”ではなくて“捕獲”だと言っているだろ。
集計さんもいた以前の会議で捕獲をメインに据えることは決定されていたはずだ!何度言えばわかるんだッ」



909 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その4:2020/02/10 19:28:57.010 ID:xXkcYgXko

K.N.C180年にて周囲が討伐を主張した際も、¢は頑なに討伐を拒否した。
頭の中では討伐が正しいと分かっていたが、DBが奇行と悪行を重ねるほどに自らの開発品の完成度の高さを実感し、¢は自らの叡智の結集体であるDBに誇らしさを持つようにもなってしまった。
そんな気持ちを逆手に取り、子が親を裏では馬鹿にし利用されていたとしても¢はそれでいいと諦観した。
それは誰が見ても明らかな、歪な愛だった。

¢は事実から逃げるようにDBから目を背けた。
DBは勝利を確信した。¢を負のオーラで包み込み、洗脳もきき、敵が居なくなったことを確信した。

DB「わかる、わかるよォ¢くん。ぼくはそんなきみがかわいくて大ァァァイ好きなんだァ。だから、いまこの瞬間が子の一番の晴れ舞台だからさァ。

親はァァ黙って見ていてよねェェェェ!」

再び指先に貯めた光の充填が完了した。
顔を伏せたままの¢を蔑むような視線で一瞥し、DBは黙ったままの軍神にニタニタと笑う。


DB「あばよォ軍神<アーミーゴッド>ォォ―――」










 ―― パァンッ
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910 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その5:2020/02/10 19:30:41.527 ID:xXkcYgXko

乾いた銃声音が部屋に響き渡り、構えていたはずのDBの手は吹き飛んだ。
痛みを感じるよりも早く、DBは信じられないといった面持ちで銃口を向けた兵士に驚愕の目を向けた。

¢「“親”だから、“子”の不始末にはケジメをつけるんだッ」

¢は凛とした眼でDBを射抜き、すぐさま撃鉄を引いた。

¢「俺は勘違いしていた。DB、俺は確かに愛情を抱いていた」

間髪入れずに二発の銃を発射する。流石のDBも今度は弾を受けること無く避けた。

DB「¢ォォォォォ貴様ァァァァァァ!!」


911 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その5:2020/02/10 19:33:05.870 ID:xXkcYgXko

DBは負のオーラで結集した二本の触手を地から伸ばした。急ぎガードした¢だが、触手の攻撃で両の手に持つ銃を弾かれ武器を失ってしまった。

¢「お前の言う通りだッ、俺は愚かな兵士だ。
自分の功績を誇るためにお前を生かし続けた。心の拠り所だった。


でも違うッ!


俺が本当に愛していたのはお前じゃない――」

DB「死ねェェ¢ォォ!!」

¢の独白を聞くこともなく、DBは丸腰の¢に向かい鋼鉄の触手を向かわせた。¢は構うことなく喋り続けた。

¢「俺が本当に愛していたのは――――







――――― きのこたけのこ大戦なんだッ!!」




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912 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その7:2020/02/10 19:36:06.459 ID:xXkcYgXko
¢の頭上から彼を称える声が届いたかと思うと、次の瞬間DBは大量の書物の渦に巻き込まれ吹っ飛ばされていた。¢を襲う触手も直前で消え去った。

DB「グハァッ!!」

軍神「君はきのこ軍兵士古参として、大戦世界の継続と会議所の発展を強く願い、皆と一致団結するべく仮想の敵DB<ダイヴォー>を創り上げた。
君が本当に守りたかったのはDBじゃない、大戦世界そのものだ。



それこそが【大戦への愛】だ」


拘束の解けた軍神が壊れかけのテーブルの上にひらりと舞い降りた。

DB「なにが起こっているゥ!ふざけるなァァァ!」

憎しみの怨嗟を撒き散らすDBに軍神は見下ろしながら相対した。

軍神「貴様は決戦の地にこの編纂室を選んだ。その目論見は分かった。だが、同時に貴様はとんでもない阿呆だ。なぜ敵のホームグラウンドを決戦の地に選んだ?」


―――オニロ「天井近くにある本はどうやって取ればいいんですか?」

―――集計班「祈れば勝手に本が来てくれます」

―――そう答え、集計班は両の手を組んで目を閉じた。
―――すると、天井近くのはるか遠くの本棚から、するすると一冊の本がアイムたちに向かって飛んできた。

―――集計班「ね、簡単でしょ?」
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913 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その8:2020/02/10 19:39:01.633 ID:xXkcYgXko
軍神「オニロはこの編纂室にある本をほとんど読み切り、全ての本の名前を把握している。心のなかで呼べば本はすぐに付いてくる」

軍神の周りにすぐに数十冊の書物が浮遊した。自分たちも戦いとばかりにそれぞれの本がカタカタと震えている。

軍神「同時にアイムの会得した戦闘術・魂も我を救った。会議所での【我々】の行動は全て無駄ではない。今に繋がっている」

DB「ふざけるなァ、ふざけるなァ、ふざけるなァァァァァァ――」

先程のリプレーを見ているかのように、DBは次々に軍神に招集された書物たちの突進にあいタコ殴りにされていった。
口からチョコを放出し、同時に負のオーラも吐き出していく。DBの力が弱まり、地上にいたDB隊の兵士たちの洗脳も徐々に解けていった。

軍神「『ユリガミノカナタニ』『百合ノ季節』『儒艮漂フ海界』『邪神スピリットJ』『すべて陰陽のもの』『chocolate market』、来いッ!」

呼ばれた書物はすぐに集まり回転しながら、よろめくほど弱っているDBの身体に当たり彼をふっとばした。


914 名前:Chapter4.大戦に愛を 愛の決着編その9:2020/02/10 19:40:57.285 ID:xXkcYgXko
DB「グアアアアアアッ!!」

軍神「歴史が死んだ?大嘘を付くなッ。見ろッ!この通り歴史は生きている。貴様が戦っている相手が、正に我々の【歴史】だッ!!」

軍神の願いとともに全ての書物が宙に浮く。
天井を覆い尽くすほどの大量の書物は目を細めてみるとまるで夜空に浮かぶ星々のように輝いて見えた。
軍神は戦場に出たときの指揮官と同じように、優雅に片手を振り上げた。


DB「やめろォ…やめてくれェ!!!」



軍神「終わりだ。『きのたけ流星群』ッ!!」



上げた手を振り下ろすと、数え切れないほど大量の書物はすさまじい勢いで上空から龍のようにDBを飲み込み牙を剥いた。

DB「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

大量の書物がDBに当たり、DBは泡を食いながら事切れた。



悪しき時空の潮流者は歴史に飲まれ、戦いの幕は閉じられた。




915 名前:Chapter4.大戦に愛を :2020/02/10 19:44:40.487 ID:xXkcYgXko
すみませんまだもうちょっとだけ続くのじゃ。

916 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その1:2020/02/10 19:47:34.674 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

参謀「戦いはどうなったッ!?軍神<アーミーゴッド>は無事か!?」

DBが事切れたことでDB隊の洗脳が解け、戦いは会議所の勝利に終わった。参謀を始めとする会議所兵士たちは急ぎ編纂室に向かい、崩壊した室内を見て愕然とした。

¢「大丈夫なんよ。軍神<アーミーゴッド>がDBをやっつけた」

壁に背を預け身体を休めていた¢が事の次第を告げ、同時に軍神が皆に親指を突き立て笑った時、会議所は勝利の歓喜に湧いた。

加古川「うおおおおおおッ!やったッ!」

someone「成し遂げましたねッ!やったね零歌!」

竹内「フォフォフォッフォ。最後に正義は勝つとな」

抹茶「やったッ!黒砂糖さん起きてくださいッ!あ、疲れて寝てるか…」

皆は武器を捨て、お互いに抱き合い歓喜した。

791と筍魂は軍神に近づき握手した。

791「オニロ…いや、軍神<アーミーゴッド>さん。最高の兵士に育ってくれて嬉しいよ」

筍魂「アイムこと軍神<アーミーゴッド>よ。俺も嬉しいぞ、特別に筍魂<バンブースピリット>様と呼ぶことを許す。そこで寝てる山本さんも嬉しいに違いない」

軍神「よしてください791師匠。こんな姿になっても心はオニロの時のままなんです。あ、筍魂。テメーはダメだ」

筍魂「心の中のアイム、ダダ漏れだぞ」
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917 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その2:2020/02/10 19:51:41.919 ID:xXkcYgXko

皆が勝利に酔いしれる中、冒険家スリッパとサラは室内の少し離れた所からその様子を眺めていた。

スリッパ「終わったな…これでよかったんだ」

スリッパは独り淋しげに呟いた。討伐隊の目的は達成されもう時限の境界に向かうこともないだろう。
最後まで自らを取り巻く【謎】は残ったが、それは些細な問題だ。
悪用を防ぐためにも時限の境界の今後の使用を禁じなくてはいけないし研究課題は増えるだろう。未開の地の調査もまた再開しなくてはいけない。

大戦を引退して冒険家に成りたてだったあの頃のように新たな目的ができ意気高揚する場面で、だがなぜかスリッパは気乗りしなかった。
理由はわかっていたものの、彼は敢えて理解していないふりをした。

スリッパ「また冒険に行かないとな、サラッ!これからまた忙しくなるぞッ」

気を紛らすために背後のサラに声をかけた。
思えばサラとの付き合いも長い。
冒険家に成り立ての頃、家に戻るとどこかで捨てられたのか家の前にサラが置いてあった。以来、スリッパはサラを全ての冒険に連れ出し、サラも無言で主人を守るために付いてきた。
謂わば二人は一心同体。言葉が無くても二人は意思を疎通できるし、互いの考えていることが分かる。

そう思っていた。

いつもならば二つ返事で頷くメイドロボのサラは、この時ばかりは彼の言葉に逡巡する様子を見せ、一瞬の間を置いて静かに首を横に振った。

スリッパ「どういうことだサラ?――」

彼の言葉は突如として発生した背後の轟音とともに遮られた。DBが埋まっていた書物群が突如間欠泉が湧いたように上空に巻き上がったのだ。


918 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その3:2020/02/10 19:54:09.538 ID:xXkcYgXko
DB「コワシテヤルコワシテヤルコワシテヤルコワシテヤルコワシテヤル…スベテスベテコワシテヤルゥ」

DBは書物から勢いよく抜け出し、その身が半壊の状態ながら必死の形相で疾走った。

軍神「往生際の悪い奴めッ!」

とどめを刺そうと軍神が構えるも、DBは歓喜に湧く会議所兵士たちの中に紛れて走り容易に狙いが定められなかった。
会議所兵士たちが一様に集まっているのも災いした。全員が武器を捨てていたため一瞬の隙を付かれ、咄嗟に攻撃に移るのに時間がかかった。

DB「ユルサナイユルサナイユルサナイィィィ」

DBは未だ残っていた入口前の転移魔法陣に飛び乗り、時限の境界フィールドへワープした。
歴戦の兵士がこれほどいながらの逃走劇は、残ったDBの最後の力を見せ付けたといっていいほど鮮やかなものだった。

椿「まずいですよ!DBが時限の境界へいけば再度歴史改変が繰り返されますッ!」

参謀「慌てるなッ!こんなこともあろうかと時限の境界前には社長をはじめとした会議所兵士たちを配置しているッ!
DBはもう虫の息だッ!
そのまま放っておいても斃れるだろうが時限の境界に入れるのはあかんッ!俺たちもすぐに部隊を再編し時限の境界前でDBを討ち取るぞッ!」

参謀は会議所兵士たちを落ち着け、部隊を再編しようと動き出した。


919 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その4:2020/02/10 19:58:02.656 ID:xXkcYgXko

その光景を見ながら、スリッパは迷った。
願ってもない機会に早まる胸の鼓動を必死に落ち着かせる。

ただ、仮にもう一度時限の境界に行けたとしてもどうしたらいいのか分からない。

そもそも、あの場に自分は居なかったはずなのに何故か自分が英雄として崇められた。
ただその理由を知りたいだけなのにリスクの高い時限の境界で過去に行く必要があるのか。


何をすればいい。分からない、分からない――


迷う彼の肩に手を置いたのはサラだった。
スリッパは目を見開きサラの顔をまじまじと見つめる。
彼の命令以外にサラが自発的に動いたことはこれまで無かったからだ。


サラ「スリッパ、全てはこの時のためにあった。君の目的を今の討伐隊の目的と重ねるんだ」



優しげな声色が彼の耳に届く。サラは確かに、ハッキリと彼にそう告げた。

途端、スリッパの頭の中の靄が晴れた。点と点が全て繋がったのだ。

そういうことか、と彼は呟いた。
第二次大戦から今まで彼は目に見えない時間の鎖に縛られていた。その鎖の正体がわかったのだ。

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920 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その5:2020/02/10 19:59:44.860 ID:xXkcYgXko
参謀「それでは発表するッ。これよりフィールドへ向かってもらうのは――」

スリッパ「ちょっと待ったぁッ!」

参謀の声をかき消すようにスリッパが制止し、全員の視線が彼へ向いた。
スリッパはこれから起こる出来事を想像し心のなかで微笑った。誰も想像し得ない長きに渡る旅が始まるのだ。

スリッパ「みんなきいてくれ。長い間、DBとの戦いご苦労だった。みんなが英雄級の活躍をした」

スリッパ「だがしかし!英雄は複数もいらない!今次討伐戦にふさわしい英雄は一体誰だ?」

スリッパは親指を自らの胸につけた。

スリッパ「そうだ!英雄にふさわしいのは初代英雄の 元・たけのこ軍兵士、現冒険家のスリッパ。この俺だッ!」

皆は呆気にとられ言葉を発せずにいる。スリッパはその様子が可笑しくてますます微笑ってしまった。


921 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その6:2020/02/10 20:01:29.039 ID:xXkcYgXko
スリッパ「俺は今日この時のために討伐隊に参加してきた。予想はしていなかったがここからが俺の【役割】だといま気がついたんだ。
歴史を変えずに歪んだ時間の流れを“元に戻す”ためにはこれしかない」

スリッパは転移魔法陣の前に移動し改めて皆を見渡した。この面子とも暫くお別れだと思うと物悲しさも人一倍増す。
悲しさを振り切るように、彼はさらに声を張り上げた。

スリッパ「時限の境界に向かうのはこの俺、ただ一人だ。
向こうにいる社長と協力しDBを【時限の境界へ招き入れて】俺だけが【時限の境界へと入る】。そこで俺がDBを討伐するッ!」

参謀「ま、待ってくれッ!まるでわけがわからんッ!」

¢「そうなんよッ!突然どうしたスリッパさんッ!」

軍神も説得しようと前に出たが、サラがスリッパと軍神の間に入り込んだ。

サラ「すまない。わかってくれないか」

軍神「!!」

サラの声に軍神は目を見開き、直後に全てを察した。

軍神「…スリッパさん、貴方は会議所の、大戦世界の誇りです。軍神の名のもとに命ず。


【DBを討伐】せよ」

スリッパ「承知ッ!後を頼んだぞ…サラ」

サラはスリッパに向かい一度頷き、それを見た彼は転移魔法で時限の境界へと向かい姿を消した。
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922 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その7:2020/02/10 20:10:59.812 ID:xXkcYgXko
参謀「なんでスリッパさんを行かせたんや軍神<アーミーゴッド>!」

抹茶「あの話しぶりだとスリッパさんはDBと時限の境界に入ります。DBはその場で討伐できたとしても、スリッパさんは何らかの歴史改変をしないと現代に帰ってこられないということですよね?」

軍神「いや、スリッパさんは歴史改変を【行わない】。この時代には【もう戻ってこない】」

皆は一様に驚いた。

加古川「それじゃあスリッパさんはどうなるんだッ!?」

軍神はサラに目を向けた。サラはスリッパが消えた転移魔法陣の前で静かに佇んでいる。





軍神「事の真相はそこのサラが――いや、【スリッパさん】が話すだろう」


皆はさらに驚いた。



923 名前:Chapter4.大戦に愛を 或る一人の兵士編その8:2020/02/10 20:13:35.356 ID:xXkcYgXko
サラ「長かったな、ここまで」

サラは指をパチンと一回鳴らした。自らの身体が光り始め、メイドロボの装飾がボロボロと剥がれ始めた。
漏れ出る光の中から現れたのは紛れもないスリッパ、まさしくその人だった。

軍神以外、驚きで誰も声を発せない中、791が思った疑問を口にした。

791「サラは本当のメイドロボというわけではなく、スリッパさんが魔法で変装した姿だったということ?
でもそうしたら、ついさっきのスリッパさんは偽物ということ?」

スリッパ「偽物ではない。【今の時代】を生きていたスリッパ本人さ。私は事情があって今の時代を【二度】生きていた」

先程のスリッパよりさらに老けたように見えるが、スリッパは元気そうに髪をかきあげた。

スリッパ「安心してほしい。過去改変が起きていないこと、あくまで私が今も現代に存在し続けていることがDBを無事討伐できたことへの裏返しになる」

筍魂「勿体ぶらずにそろそろ教えてもらえないか。いったい何が合ったのかを」




スリッパ「そうだな。正確には、【これから何が起こる】のか、だが。全てを語ろう」





老兵は皆の前で語り始めた。或る一人のたけのこ軍兵士の英雄譚を。

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924 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その1:2020/02/10 20:17:36.739 ID:xXkcYgXko

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スリッパが大戦世界に生まれ落ちた時、数多くの兵士と同じように彼には名前がなかった。

名前とは他者を識別する大事な符号であり、名前がない限り彼もその他多くの兵士と同じく、ただ敵軍との戦いに身を投じることでしか自身を輝かすことができなかった。

一人のたけのこ軍兵士がきのこ軍に宣戦布告をし、突如として世界の創造とともに始まった第一次大戦。
その大戦もたけのこ軍の勝利に終わり、世界は束の間の休息に入るはずだった。
しかし、今とは違い血気盛んで加減を知らない兵士たちは時期を置かずに連続で戦いを始めてしまった。


第二次大戦の始まりである。


若きスリッパは丁度その時、第一次大戦を終え自らの家に戻り休息を取っている最中だった。
逸る気持ちを抑えベッドで横になった。次の大戦ではより多くの戦果を上げようと誓い、いつの間にか眠りこけてしまった。
彼が眠っている間に第二次大戦は始まり、終戦した。




彼は第二次大戦には参加していなかった。





925 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その2:2020/02/10 20:20:23.317 ID:xXkcYgXko
翌朝、ねぼけたまま外に出てみると周りの住民から自らを取り巻く環境が一変していた。
第二次大戦の終結と、参加してもいないその戦いで自らが大戦を終結させた英雄なのだと皆口々に語り、スリッパはすぐに目が覚めた。
さらに終戦時に名乗った自身の名前がスリッパであるとその時に初めて周りに聞かされた。

彼は戦意など消え失せ、途端に怖くなった。

人違いだと何度説明しても周りは納得しない。
“きのこ軍をあの一言で葬り去った横顔は忘れない”だの“窮地に追いやられたたけのこ軍を救った英雄はお前しかいない”だの、人々は彼を勝手に英雄に祭り上げた。


純粋に戦いに参加し武功を上げたかっただけなのに、どうして。


スリッパの叫びは誰の耳にも届くことはなかった。

数多くの取材を受け、その度に話をせがまれた。
彼の影響で多くの兵士が名前の重要性に気が付き、名を付け始めたのだと誇らしげに語られた。全て違うと彼は説明したが誰も信じる者はいなかった。


926 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その3:2020/02/10 20:22:04.395 ID:xXkcYgXko

そんな出来事を忘れようと、彼は何度も出撃した。

しかし、彼の名は世界に轟きすぎていた。
一度出撃すれば周りのたけのこ軍兵士からは羨望の的となり、きのこ軍兵士からは目の敵にされ落ち着いて武功など全然立てられなかった。

我慢の限界を悟り、第二十二次大戦をもって、彼は大戦を引退した。
一人の兵士は知らない間に誰かの手により英雄に仕立て上げられ、その存在だけを利用されたのである。



―― アイム「大戦世界発展の第一人者というわけか。そりゃあ各所で神格化されるわな。そんなあんたが、どうしてすぐに大戦をやめたんだ?」

―― スリッパ「…理由なんてないさ。いや、強いて言えば……【理由を知りたくなったんだ】」




927 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その4:2020/02/10 20:23:07.675 ID:xXkcYgXko
スリッパは引退後、冒険家へと転身した。

大戦への未練を捨て去り、ある日家の前に捨てられていたメイドロボ・サラとともに各地を旅した。
自らが見て聞いた体験に彼は心底胸を踊らせた。冒険の手記も貯まり、知名度も手伝ってか冒険譚を書いてほしいとの声も多く上がった。
彼もその気になり、過去を忘れるように熱心に各地を旅して回った。


そんな時に、【時限の境界】の噂を耳にした。

普段であれば笑い飛ばしていたような眉唾ものの噂話に、スリッパは忘れていたはずの過去の記憶を重ね合わせた。
過去をやり直せるタイムマシンフロアという響きに執着し、いつの間にか時限の境界探しのみに没頭する日々が続いた。


928 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その5:2020/02/10 20:24:36.957 ID:xXkcYgXko
かくしてスリッパ著の【きのたけ見聞録】は出版された。

そして事実のみを記すはずの冒険譚の中に、時限の境界という“デタラメ”を執拗に多く盛り込んだことからスリッパは学会から追放され、公の舞台から姿を消した。
周りからも “スリッパは終わった兵士”との烙印を下され、次第に人々の記憶からも消えていった。



――たけのこ軍 抹茶「すごい本じゃないですか…でもそんな本の名前、聞いたこともなかった」

――きのこ軍 集計班「誰も地図上の歴史に興味を示さなかったために
本の存在価値が薄れてしまっていたことが一つ。
なにより、当時の識者たちがこの本を丸っきりの出鱈目が書かれた書物だとして、
端から評価の対象にしていなかった」

―― きのこ軍 きのきの「え、どうして?」

―― きのこ軍 集計班「…単純な歴史書物とは評価し難い『重大な欠陥」があったからですよ」




929 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その6:2020/02/10 20:26:19.610 ID:xXkcYgXko
冒険家としての意欲も消え、人里離れた未開の地で彼はサラと二人で隠遁の生活を始めた。
【時限の境界】がある未開の地を敢えて選んだのは、こんな状況に陥っても少しでも【時限の境界】に近づきたいという自身の潜在意識の現れではないかと、スリッパは夜な夜な思い返しては苦しんだ。
だが、それでも未開の地を離れることはできなかった。


止まったはずのスリッパの歯車が動き出したのはK.N.C180年、討伐隊の面子がスリッパの家を訪ねてきた頃からだった。
そしてひょんなことから、一行は【時限の境界】を発見する。



―― スリッパ「なあサラ。俺は冒険家だったよな。今も昔も夢を追い続けてきた。それを忘れていたようなんだ。
俺はもう一度、あの頃に戻ってもいいんだよな?」



逸る気持ちをスリッパは必死に抑えつけた。終わりかけていた自らの情熱の炎が再度灯り始めた瞬間だった。


930 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その7:2020/02/10 20:27:55.448 ID:xXkcYgXko


―― スリッパの態度も少しおかしい。念願の宝の山たる時限の境界を見つけた時の反応は予想外に淡白なものだった。
だが時限の境界の奥に進むにつれ、緊張で顔がこわばってきている。
時限の境界を発見すること自体が目的ではないということなのだろうか。アイムにはわからない。
例えるならば、獲物の小動物が罠にかかるのをひたすら待っている獰猛な獣のような感じなのだ。



そして今、DBは軍神によって成敗され真の最終戦が時限の境界を経て始まろうとしている。
サラからかけられた言葉にスリッパは確信した。


第二次大戦の真相を、自らがこれから長きに渡る歴史の観測者を務めなくてはいけないということを。




931 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その8:2020/02/10 20:30:41.861 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 時限の境界前】

スリッパは転移魔法でのワープを終え、時限の境界の入口前に走った。
そこでは社長を始めとした数人の兵士が、疲弊しきったDBを相手に善戦している最中だった。
社長はスリッパを見つけるとホッと胸をなでおろした。

社長「スリッパさんッ!DBの野郎、時限の境界に入ろうとしてるんですがここで食い止めていますッ!スリッパさんが止めを…」

スリッパ「社長、いままでご苦労。あとは俺に任せて皆は会議所に戻ってよしッ!これは軍神の命であるッ!」

呆気にとられた社長の脇を、瀕死のDBが死にものぐるいですり抜け、時限の境界へと入っていった。
スリッパがそのあとに続く。

社長「あワお〜っ!!どうしたらいいんだ!」

遠くに木霊する社長の慌てふためく声に微笑いながら、“あとはしっかりやれよ”とスリッパは一人呟き扉をパタリと閉めた。


932 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その9:2020/02/10 20:32:25.572 ID:xXkcYgXko
【K.N.C180年 会議所 時限の境界】

DBの生命の灯はもうすぐ消えようとしている。
だが、走る速さだけは衰えない。その原動力は激しい憎しみ、そして怨嗟。
巨大な悪だけが生命尽きようとしている彼を突き動かしている。

DB「ニクイニクイ…会議所ニクイィ、大戦がニクイ」

DBはうわ言のように恨みつらみを口にしながら疾走る。
向かう場所はK.N.C1年。第一次大戦をめちゃくちゃにして大戦の基礎の礎が出来る前に兵士の士気を根こそぎ削いで大戦世界を根本から破壊する。
世界が自分のものにならなければ破壊してしまえばいい。
DBの極端な思考と行動は、僅かではあるが大戦世界に危機をもたらしていた。

スリッパ「どこへ行くつもりだDB?」

DBが息を切らしながらもK.N.C1年の扉があるフロアについた時、既にスリッパは先回りし待ち構えていた。

DB「貴様は…たしか…」

スリッパ「俺が誰かなんてどうだっていいことだ。お前が向かう場所はもう決まっているッ!」

スリッパは失われていないDBの片手を掴むと、既に開け放っていたK.N.C2年の扉へDBを投げ入れた。

抗う気力もなくDBはK.N.C2年へ吸い込まれていく。それを確認してから、スリッパも扉の前に立った。

ほんの少し、僅かではあるがK.N.C180年への名残を感じながら、彼もすぐさまK.N.C2年へと向かった。


933 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その10:2020/02/10 20:34:12.501 ID:xXkcYgXko
【K.N.C2年 第二次きのこたけのこ大戦】

大戦は既に終盤を迎えていた。
大戦場は今とは違い、喧騒に包まれていた。集計係もいるが現代のように確固として確率された仕組みではなく、有志が行っていた。


「ほらほら現在は5:23でたけのこ軍が有利だよ。きのこ、負けんじゃねえぞ!!」


戦場の中央付近で銅鑼をしきりに鳴らしながら、集計結果を叫んでいるきのこ軍兵士の名は確かアルカリという名前だったはずだ。
ただ、この時代にはまだ彼にも名前はない。第二次大戦を期に【スリッパの活躍で】皆が名乗り始めるのだ。

「アンチきのこマシンが作動している!ウィーン・・・キノコキノコキノコキノコオラオラオラオラオラオラオラ!」

社長はいつの時代になっても変わらないなあと、先程別れを告げたはずの兵士が好き勝手に戦っているさまを見てスリッパは少し安心した。

この時代に兵の統率など無いに等しく、各々が個人の戦果のために戦っていたのだ。


―― 歴史を変えてはいけない。過去改変を起こさずに、大戦年表に書かれている通りの内容を起こし世界を持続させる。


強い決意を胸に時限の境界から大戦上に到着したスリッパは、この時代の彼自身になりきる必要があった。

934 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その11:2020/02/10 20:37:30.822 ID:xXkcYgXko
スリッパ「みんな、キノコ狩りに興味はないか?」

たけのこ軍兵士たちはキョトンとした表情でスリッパを見た。
スリッパはポケットに入っていた大尉のバッジをあわてて付けた。

スリッパ 大尉‡「皆の衆ご苦労ッ!一旦、手を止め聞いてくれッ!敵軍の前線に大将格の兵士がいるとの情報が入ったッ!」

スリッパ 大尉‡「我軍の勝利は近いが敵の息の根を完全に止めなければ意味がないッ!
これより単身で乗り込み大将格を討ち取ってくるッ!」

一瞬の間を置いて、途端にたけのこ軍は色めき立った。


「お気をつけて大尉!」

「うおおお、負けねえぞきのこの野郎!」

「アンチきのこマシンが作動している!ウィーン・・アンチきのこマシンが作動している!ウィーンウィーン・・」


スリッパの鼓舞に当てられたか、たけのこ軍は俄然勢いに乗った。

彼もすぐに歩みを進めようとするが、おっと忘れていた、と足を止めスリッパは皆にきこえるように叫んだ。

スリッパ 大尉‡「皆の者、よく覚えておけ。俺たちの軍を勝利に導く兵士の名をッ!
俺の名はスリッパ大尉ッ!大戦が終わったら皆も名前をつけろよ!存外悪くないものだぞッ!」



935 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その12:2020/02/10 20:39:40.935 ID:xXkcYgXko
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DBは命からがら時限の境界を離れ、大戦場にやってきた。

どこかで傷の手当をしたいが目の前の混戦の中だと休める場所はない。
何よりもスリッパに追われている身だ、まずは隠れないといけない。

DB「俺様の力をなめるなよ…まずはこの大戦をめちゃくちゃにして、その後は大戦世界を破壊してやるゥ」

DBは最後の力を振り絞り再びきのこ軍兵士に化けた。
きのこ軍陣内に行き、近くの高台に飛び移り、DBは周りの兵士の前で高々と宣言した。

DB「おいみんなァ!実は集計係はきのこ軍ではなくたけのこ軍のスパイだァ!あいつの言う情報はめちゃくちゃだッ!まずはあいつを始末してたけのこ軍を始末しようッ!」

「なんだと!?それは本当か!」

「ふざけるなッ!俺の集計にケチをつけるのはどこのどいつだッ!」

騒然とするきのこ軍陣内の様子にDBは満足げに頷く。力こそ奪われても、他者を利用して自らの思い通りに動かす力は彼の天賦の才だ。
それさえ失わなければ自分は消えることなど絶対に無い。

DBは自らの才能に受けた傷も忘れ一人高笑いをした。







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936 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その13:2020/02/10 20:41:56.334 ID:xXkcYgXko
「みろ!たけのこ軍だ!」

「げ、迎撃の準備をしろ!」

慌てふためくきのこ軍を尻目に、スリッパは詠唱を始めた。

DB「ま、待てスリッパ。俺様が悪かった。見逃してくれェ…」


虚しいDBの懇願はもうスリッパの耳には届かない。


スリッパは大魔法を唱えるべく、空中へ跳び上がった。
こういう時はインパクトを与えるほうがいい結果を生む。過去の歴史が証明している。

詠唱の最中、チラリと、かつて自身が住んでいたたけのこの里の方を見やる。
当時の自分は何も知らずにスヤスヤと寝ているんだろう。
きっと明日から事態は一変し、終いには嫌気が差し大戦から逃げ出してしまうことだろう。



だから、自分がサラというメイドロボになり若き自分を支えて上げよう。全ては今日この時を迎えるために。



これから頑張れよ、とスリッパははるか遠くにいる自分に届きもしないエールを送った。



937 名前:Chapter4.大戦に愛を 英雄譚編その13:2020/02/10 20:46:59.814 ID:xXkcYgXko





スリッパ「突き進む!そのさきが闇だったとしても!!」







DB「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!」








スリッパの上空から放たれた巨大な火炎玉は瞬く間に脂ののったDBを飲み込み燃やし尽くした。
割れんばかりの大歓声が上がる中、創り上げた巨大な火炎柱と獄炎は、どこまでも青く澄んだ空に一際よく映えた。





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938 名前:Epilogue. :2020/02/10 20:48:11.954 ID:xXkcYgXko





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きのたけWARS 〜DB討伐〜
Epilogue.

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939 名前:Epilogue. その1:2020/02/10 20:53:11.844 ID:xXkcYgXko

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頬をなでるようなそよ風がこそばゆく、アイムは静かに目を覚ました。

自分の隣で立派に咲き並んでいた草花が風になびき、起きなさい、と囁いているように聞こえたのだ。
気のせいかもしれない。最近、ロマンティックな表現が頭に多く浮かぶようになったのはオニロにオススメの小説を多く借りすぎてるせいだな、と気恥ずかしさを隠すようにアイムは人のせいにした。

寝ぼけ眼で半身を起こすと、少し離れた丘の上からでも会議所はハッキリと視認でき、復興の様子が進んでいることが分かった。

以前のDB隊の突入により会議所は隅々まで破壊され、当初その復興には多大な時間がかかると予想された。
しかし、会議所兵士だけでなく両軍の一般兵士の力も進んで加わり手を貸すことで復興は着実に進んでいた。
一般兵士の中には元・会議所兵士も多く居て、皆との久々の再会を経て、次は戦場での再会だ、と約束した者までいると聞く。

建材の運ばれる運搬器材の作業音と、釘を打ち付けるコンコンという小気味良い音が響き渡る。アイムはその音を聞くのが好きだった。
活気あふれる会議所を象徴する調音を耳にしながら、アイムはもう一眠りつこうかと目を閉じた。



――『やあ、久しぶりだね』


アイム「久々という程、オレとそんなに面識はないだろあんたは」

アイムの頭の中に響いてきた【謎の声】は、今次討伐戦の中で時限の境界の【制約】をアイムに唯一告げてきた声と同じだった。


940 名前:Epilogue. その2:2020/02/10 20:54:12.412 ID:xXkcYgXko

――『そういえばそうだね。というか軍神<アーミーゴッド>のままじゃなくて、またアイムとオニロに戻っちゃったんだ?』

あっけらかんとした口調で声は続ける。アイムも大して気にせず、フンと一息ついて寝返りをうった。

アイム「あれから軍神<アーミーゴッド>の中でオニロとも話し合ったが、こうしたほうがそれぞれの軍の【希望の星】として、大戦を引っ張っていけるんじゃないかって思ってさ」

討伐戦後、軍神は¢に再度頼み込み圧縮装置でアイムとオニロに戻った。
今は二人ともきのこ軍、たけのこ軍に戻りそれぞれ希望の星として会議所になくてはならない存在となっている。


941 名前:Epilogue. その3:2020/02/10 20:55:42.666 ID:xXkcYgXko
――『そうなんだ。まあ何はともあれうまくいって良かったよ』

どこまでも他人事のような声に、アイムは少し黙っていたが意を決して口を開いた。


アイム「なぁ。オレからも質問していいか?」

一陣の風がアイムの頬を再び撫でた。先程とは違い少し警告するように強くだ。

――『なんだい?』




アイム「【預言書】を書いたのはお前だな?」

――『そうだよ』

あっさりと声は認めた。



942 名前:Epilogue. その4:2020/02/10 20:57:57.513 ID:xXkcYgXko

――『うまいストーリーだと思ったんだけどなあ。DBの存在は目に余っていたし、軍神<アーミーゴッド>も皆から忘れられてしょぼくれていたし。
お互い最期に活躍させるにはうってつけの機会だと思ったんだけどねえ』

アイムが軍神の“欠けたピース”でも構わず、声は自身の考えを述べた。

アイム「シューさんの行動はお前でも予想外だったんだな」

――『そうだねえ。あの兵士にも困ったもんだよ。地上と【避難所の避難所】という重要な連絡役を任せていたのに、こっちの予定外の動きをされちゃあ困っちゃうよねえ』

アイム「それでもシューさんを消すまでしなくても良かったんじゃないのか?」

――『あれは無口さんが強行したことだけど、まあどの道彼の動きを封じなくてはいけなかったから遅かれ早かれではあったけどね。
まあまた【策】は練らないとだけどね』

君たちがきてから全てめちゃくちゃだよ。謎の声はそういいからからと笑った。
怒りはなく、ただ本当におもしろがっているだけのようだ。


943 名前:Epilogue. その5:2020/02/10 20:59:41.326 ID:xXkcYgXko
アイム「編纂室もめちゃくちゃになったが、幸い大戦年表は無事だったようだ。テープで紙同士をつなぎ合わせているからちょっとみすぼらしいけどな」

アイムは喉の渇きを感じ、持ってきたチョコを口に含んだ。

――『時限の境界も編纂室もこの戦いの後にまだ使う予定があったけど、預言書が使えなくなっちゃったからね。まあ好きに使ってよ』

アイム「編纂室はともかく、時限の境界はもう使わねえよ、あんなところ。懲り懲りだ…」

アイムは再び草むらにその身を落とした。
木陰から零れる木漏れ陽を浴びながら、筍魂程ではないが最近はひなたぼっこの良さを分かってきた、これも戦闘術・魂の教えかな、と見当違いの冗談をアイムは考えた。
こんなくだらない考えができるようになったのも、目の前の謎の声とも平気で話していられるのも、全て平和が戻ってきたからだと実感した。


944 名前:Epilogue. その6:2020/02/10 21:02:06.313 ID:xXkcYgXko


アイム「なあ、これだけは一つ言っておく」

――『なんだい?』

アイムは暫く陽を浴びながら黙っていたが再び口を開いた。
謎の声は興味津々とばかりに聞き返してきた。

アイム「兵士にもよるだろうが、会議所の中にはあんたらを許してない兵士も多い」

――『まあそうだろうねえ』

DBと軍神<アーミーゴッド>を相打ちさせて世界を操っているなんて、いかにも悪の親玉みたいだものねえ。
屈託ない笑い声を上げながら謎の声は同調した。

アイム「だけど少なくともオレとオニロはあんたらのことを嫌ってはいない」

――『へえ。君たちを消そうとした張本人なのにかい?』

アイム「やり方に違いはあれど、テメエも大戦世界の継続、発展を願っているんだろう?皆と考えに違いはない、同士さ」

――『…』

初めて声は押し黙った。押し黙ったように聞こえただけかもしれないが、アイムは構わず続けた。


945 名前:Epilogue. その7:2020/02/10 21:02:59.847 ID:xXkcYgXko
アイム「オレとオニロはこれからも軍神の“欠けたピース”として、会議所を率いていく。
テメエらが裏で世界をより良くするようにこれまで通りコソコソ動き回るのは別にいい。
だけど、もし会議所で起こそうとしている案とテメエらの案が相反して、自分たちの案を押し通そうと騒乱を起こそうというのなら―」






― その時は世界の創始者であろうが容赦なく叩き斬るからな。








946 名前:Epilogue. その8:2020/02/10 21:05:44.769 ID:xXkcYgXko

アイムの最後の言葉に、謎の声こと大戦世界の創始者・たけのこ軍 まいうは少し黙った後、実に愉快そうに笑い始めた。


――『あはははは。やはり君たちはおもしろいねえ。見ていて飽きない。君たちに任せていれば会議所も大戦世界も安泰だッ。
そう考えると預言書を破棄して君たちを生き残らせた会議所の判断は間違ってなかったのかな』

アイム「あんたもたまには遊びに来いよ」


――『ふふ、考えておくよ。さて、そろそろお別れだ。こちらはこちらで忙しいんだよ。じゃあねアイム』


アイム「じゃあな、まいうさん」



――『大戦に幸あれ』



947 名前:Epilogue. その9:2020/02/10 21:07:23.884 ID:xXkcYgXko

声は途絶え、辺りには再び静けさが戻った。
さてと、と一人息を吐き、アイムは日課の昼寝に戻ろうとした。

すると、間髪入れずに丘を登ってくる一人のたけのこ軍兵士の姿が見えた。オニロだ。
オニロが走ってきた。何やら少し怒っている。

オニロ「やっぱりここにいたねアイムッ!定例会議の時間はもうすぐだっていうのに、サボって昼寝してッ!」

アイム「ゲッ。なんで此処が分かった、誰にも言ってなかったのにッ」

オニロ「ボクはアイムと同じ軍神<アーミーゴッド>の片割れだからね。アイムの考えることくらいお見通しさッ!」

アイム「気色の悪いことを言うな…眠気がふっとんだじゃねえか」


948 名前:Epilogue. その10:2020/02/10 21:10:14.207 ID:xXkcYgXko

オニロ「ほら戻るよ、アイムッ!今日は今度開かれる大戦に向けた新ルールの策定と、復興に向けた新プランを改めて考えないと」

アイムは渋々といった様子で起き上がる。

アイム「へいへい。段々、議長っぷりが板に付いてきたな。どっかにいるシューさんも浮かばれるなこりゃ」

オニロ「なんかシューさんの怠け癖をアイムが引き継いでいる気がするけどね…ほら、さっさと行くよッ!」



アイムとオニロの二人は会議所へ戻っていく。




二人のいた場所に再び、さあとそよ風が吹いた。
咲いていた草花が、二人を見送るようにゆらゆらと揺れていた。





Fin.


949 名前:きのこ軍 wars完結しました:2020/02/10 21:12:54.350 ID:xXkcYgXko
2014/01/11の投稿開始からなんとほぼ6年。
待ってくれていた方には大変申し訳無いと思いつつ、なんとか完結いたしました。
本当にありがとうございます。詳しい裏設定はこれよりwikiの方で公開したいと思いますが。

まずは、本当にありがとうございました。

950 名前:たけのこ軍:2020/02/10 21:18:28.075 ID:Ionp5xOk0
長年の投稿乙。
謎の声の正体、残ってそうなところから考えたけどまぁ順当?
ユリガミサマの外伝はあるのかなぁ?

951 名前:きのこ軍 wars完結しました:2020/02/10 21:39:52.538 ID:xXkcYgXko
>>950
ありがとうございます。ユリガミサマを昨日改めて読み返しましたが快作ですね、あれは。
最後の投稿を大いにアシストしました。ありがとうございます。お待ちしています。

ということで設定資料集を公開します。
結構盛りだくさんにしてみたのでお時間ある時にみてください。

wars設定(ネタバレ)
https://seesaawiki.jp/kinotakelejend/d/wars%c0%df%c4%ea%a1%ca%a5%cd%a5%bf%a5%d0%a5%ec%a1%cb#history



952 名前:きのこ軍 wars完結しました:2020/02/10 21:40:22.518 ID:xXkcYgXko
>>951
すみませんURLはこちらのほうがいいかも。
https://seesaawiki.jp/kinotakelejend/d/wars%c0%df%c4%ea%a1%ca%a5%cd%a5%bf%a5%d0%a5%ec%a1%cb


953 名前:きのこ軍 wars完結しました:2020/02/10 23:22:18.156 ID:xXkcYgXko
warsまとめ
https://seesaawiki.jp/kinotakelejend/d/wars%a4%de%a4%c8%a4%e1

wikiにも投下終わりました。
まだサイドストーリーとか書きたいものはあるけどとりあえずまずは一区切り。

954 名前:791:2020/03/12 23:06:03.020 ID:mSt92ZoMo
ss本当に本当にお疲れさまでした!!!
すごく面白かった!

955 名前:きのこ軍 wars完結しました:2020/03/15 23:25:15.111 ID:MbDkBLmQo
>>954
うれしい。ありがとうございます。791さんの応援もあり最後までがんばれました。

次回作も予定していますのでよかったらみてね。warsよりは短くします。
きのたけカスケード ss風スレッド
http://kinohinan4.s601.xrea.com/test/read.cgi/prayforkinotake/1584282254/


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