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ユリガミノカナタニ

1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
??「―――――――。」


―――声が聞こえる。



これは、わたしの一番古い記憶?


何も、見えない。


そこは、暗闇の中―。

128 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 01:57:55.89 ID:rYUXWeXc0
【月の民】
月に生きた、長寿の民。
15才のときの姿が、成熟した姿であり、その姿で永く生きる。
(フチは7歳の少女ぐらいの姿であるが、これは単に彼女の成熟した姿がそうであるからである)

現在は、シズ・フチと、カショの同胞ぐらいしかいない。

人間よりも丈夫であるが、流石に首や心の臓をやられたら死ぬ。
また、病にかかることもある。
要するに、不老長寿の民である。

【妖殺し】
リュウシュの同胞、黄泉剣をめぐる戦いで生き残った月の民。
鈴鶴の母親(【姫】)が死体で見つかり、黄泉剣を探り当てられないと分かったので腹いせに作った組織。
その通り、妖怪を皆殺しにしていく集団。
現在は【姫】の子である鈴鶴がいると分かっているので、殺戮はしていないらしい。




社長作イメージ図(それほど期待をしてはいけない)
鈴鶴
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/459/c01.jpg
ヤミ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/460/c02.jpg
シズ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/461/c03.jpg
フチ
http://download1.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/462/c04.jpg

129 名前:【アイキャッチ】:2014/11/03 02:48:33.97 ID:rYUXWeXc0
鈴鶴の後ろにいる何者かは、今後明かされる予定である。

130 名前:きのこ軍:2014/11/04 04:09:37.14 ID:pIOF81Qw0
投下乙。全員スタンドみたいなのいませんかね。

131 名前:きのこ軍:2014/11/04 04:10:32.09 ID:pIOF81Qw0
フチと鈴鶴さんだけだった。

132 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:28:47.17 ID:kmgKojgI0
朝が来た―。

鈴鶴「んーーっ」

わたしは、目覚めた。


外を見れば、日差しがまぶしい――。

鈴鶴「…んー」

久しぶりに、住まいから見る日差しは、わたしが今いるのは安全な日常なのだという証し。

133 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:29:31.33 ID:kmgKojgI0
鈴鶴「ヤミたちは…」

わたしは寝ぼけ眼をこすりながら、周りを見渡す。


わたしは、どうやら一番最初に起きたらしい。

他の三人は、すやすやと眠りについていた。

134 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:30:23.23 ID:kmgKojgI0
わたしは、やることもなく、みんなの寝顔を見ることにした。


ヤミは、わたしがいつも見ていた、きれいでやさしい寝顔。


シズは、身体を休息している時も気を引き締めているような、冷静な寝顔。


フチは、見た目相応の、幼い女の子のように、可愛い寝顔。

135 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:31:41.49 ID:kmgKojgI0
わたしがじろじろと寝顔を見ていると。

シズが、目を覚ました。


シズ「おはよう
   …何を、しているんだ?」


シズは布団の中から、冷静にわたしに問う。


鈴鶴「あ、あの………
   …………寝顔を、見てたの
   やることがないし、あはは…」

その冷静さに、わたしはしどろもどろになりながら答える。

ああ、前もシズのような冷静さを身につけたいと言ったのだけれど、またそう思ってしまう。

136 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:38:32.68 ID:kmgKojgI0
そんなわたしを見て、シズは硬い―けれど、やさしさを含んだ、ふしぎな硬さを表情に乗せて微笑んだ。

シズ「まぁ、月の民とはいえ…
   それほど、見た目は人とは変わりはないからね
   違うのは、髪や目や生きる年だ」

微笑みながら、布団から身を持ち上げた。


鈴鶴「そういえば、わたしやヤミの生きる年は、どれぐらいなの?」
ふと、わたしは問う。

わたしとヤミは、完全なる月の民ではないから。

シズ「【姫】の血を引き継ぐ鈴鶴も、生命を引き継ぐヤミも、わたしたちと同じだろう」

それを聞いて安心する。

わたしがヤミたちを置いていくのはいやだし、わたしがヤミたちに置いていかれるのもいやだから。

そんなわたしを、シズはやさしい目で見つめていた。

137 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:40:06.73 ID:kmgKojgI0
しばらく沈黙が続く。

ふと、シズが訊いた。

シズ「そういえば、鈴鶴は…
   その太刀、どれぐらい振ってきた…?」

そう、訊いた。


138 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:45:06.11 ID:kmgKojgI0
わたしは答える。

鈴鶴「父に、使い方を教わって…
   …7年間……、毎日ではなくてときどきだったけれど、ね」


その言葉を聞いて、シズは少し考えて。

シズ「……………
   わたしは、鈴鶴の父親に
   15年前から、稽古をつけていた」

稽古―。
父は、稽古に行っていた―。

ああ――。

鈴鶴「稽古……
   そうか、父がいつも行ってたのは―」


シズ「ええ…鈴鶴の父親に、剣術を教えていた」
シズは、懐かしそうに言う。

シズ「…7年前からは、その頻度は少し減ったけれどね
   さすがに、鈴鶴に会うのは、【姫】の約束に反することとなるから」

鈴鶴「そうだったんだ…」

139 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:47:34.05 ID:kmgKojgI0
わたしたちが話している間に、フチも目覚めた。

フチ「…おはよ、鈴鶴とシズはおきていたんだ」

眠そうに目を擦り、わたしとシズのところにやってくる。


140 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:48:38.66 ID:kmgKojgI0
フチ「何の、お話?」

鈴鶴「わたしの父に、シズが剣術を教えていた…」


フチは、狩衣に着替えながら、懐かしそうに。


フチ「…そうねぇ、懐かしいわね
   あたしは、その間は鈴鶴たちのことを遠くから見てたから、あんまりは知らないけれど
   …かなり、腕の立つ剣士だった、そういう印象は残っている」

141 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:52:33.51 ID:kmgKojgI0
鈴鶴「こうしてると、本当に、ふつうの人のような…」

そう、ほんとうに、ただの日常に思える―――。



そして、着替え終わったフチは、わたしの髪をぺたぺた触った。

鈴鶴「ひゃ!?」

ぼーっとしていたときに触られて、情けない声が漏れる。

けれど、フチはその反応を気にせずに、なおも触る。

フチ「鈴鶴、その髪きれいよねぇ
   長くて、黒くて―とても、美しいわ」

そして、わたしの髪を、魅入るように見つめて、そう言った。
わたしの背丈か、それを越えるほどの長さの髪を、ぺたぺた触ってそう言った。

142 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:53:22.39 ID:kmgKojgI0
鈴鶴「これも、母上に似ているの?」

シズ「【姫】よりも、さらに長いけれど…ね」

フチ「色は違えど、この美しさはそっくりよ…
   血は争えない…わね」

名も、顔も知らぬ母だけれど、わたしは母に、【姫】に、これほどそっくりなのか―。

143 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:53:39.64 ID:kmgKojgI0
そんなことを話しているうちに、ヤミも眠りから覚め―。


ヤミ「おはようございます、みなさま起きていらしたのですね」


―――みんなで、ありきたりな会話をして。

そのうち、これからのことを、話し合うこととなった。

144 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 00:56:54.88 ID:kmgKojgI0
話し合いの結果。

黄泉剣を見つけて、封印することが決まった。


沈んだ黄泉剣は、月の民でも見つけることは容易いことではない。
海の底にあるために、引き揚げるのは容易いことではない。

15年も引き揚げられないことが、それを証明している。

ただ、神の血を引く私なら、剣と引き合って引き揚げられるのだという。


それを行う過程で、敵が現れることを念頭に置いて、稽古に取り組む――。



つまり、まずは、稽古をする――。

そう、決まった。

145 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/12 01:05:13.83 ID:kmgKojgI0
シズはわたしの手を取り。

シズ「――太刀の腕を、さらに磨こうか
   あの人の血を引く鈴鶴なら、やりやすいだろう」

鈴鶴「うん」

フチ「まぁ、ずっとやってたことだし、問題ないんじゃない?」

そしてフチは、ヤミをじいっと見て。

フチ「…ヤミは、天の狗なんでしょう?
   ……なら、風の術は使える?
   確か、天の狗の得意とする技…とは聞いていたけれど」


ヤミ「まぁ、基本のことは…
   けれど、闘いに関することは…
   残念ながら、習えませんでした…」
ヤミは、すこし静かな沈んだ声色で。

フチ「ああ、そうだ…
   ごめんね、掘り返して…」
その原因に気づき、フチも沈んだ声色で。

ヤミ「けれど、大丈夫です
   わたくしは、これしきのことでへこたれませんから」
そう、自信を持って答えた。

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

146 名前:【第三章 中断】:2014/11/12 01:06:05.22 ID:kmgKojgI0
今日はここまで。

147 名前:きのこ軍:2014/11/14 04:25:43.00 ID:7SLKzhkk0
平和パートいいぞ。

148 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:37:32.90 ID:yD1YVOZc0
わたしは太刀を振るう。
どこまで身についているかを、シズは、その振りを、構えを見る。



シズ「…これほどまでとは…驚いた
   わたしが鈴鶴の父に教えた通りだ…すばらしい」
太刀を振るなり、シズはわたしを褒めた。


鈴鶴「そんなに、いいの……?」
いきなり賞賛されて、わたしは戸惑った。

149 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:39:18.07 ID:yD1YVOZc0
シズ「ああ…
   鈴鶴の父は、うまく教えたようだな…」


鈴鶴「父上の教えは、それほどまでに―?」



シズ「鈴鶴の技は…まだまだ、細かなところを直すところはあるけれど、基本のことは出来ている」

意外な事実を聞きながら、わたしは稽古をつけてもらった。


150 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:43:46.14 ID:yD1YVOZc0
鈴鶴「はぁ、はぁ、はぁ―」


父との稽古よりも、厳しく―。
それよりも、長き時間を経たことが原因か。
わたしは、息を切らして、座り込んだ。


シズ「――さすがに、やりすぎたか
   わたしが、連れて行くよ」

鈴鶴「…お願い」

そう言って、わたしを抱っこして、住処へと連れて行った。

かつては、幼い頃、ヤミに抱っこしてもらった、あの感覚がふとよぎる。


鈴鶴「ん――」

ふと、声が漏れた。

シズ「……大丈夫、か?」

心配するシズの声。
疲労よりも深い何かを傷つけたのかと、心配しているのか。

けれど、それを見せまいと。
鈴鶴「大丈夫、疲れただけ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

151 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:46:50.56 ID:yD1YVOZc0
わたしが、床の上でゆったりと休み、しばらくして。

ヤミとフチも、帰ってきた。

ヤミの顔も、わたし同様すごく疲れていた。


ヤミ「鈴鶴様、お疲れみたいですね」
涼しげな、けれど疲れのある顔でわたしに言う。

鈴鶴「お互い様…」

ふたり、床の上で息を切らしながら、笑いあう。

152 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:52:34.30 ID:yD1YVOZc0
フチ「それにしても、あなたたちってすごいわね
   もともと太刀筋を教わってた鈴鶴はともかく、
   ヤミの風の術も伸びそうよ」
そんなわたしたちに、フチは言う。


鈴鶴「そう…かな?」

ヤミ「ありがとうございます」

わたしは、すこし照れくさく、頭をかく。
わたしの長い髪が、ふわっと揺れた。


シズ「鈴鶴、自信を持てばいい…
   フチの言うとおりだ」
けれど、そのふわふわした流れは、シズの硬い言葉でがちっと掴まれ。


鈴鶴「ありがとう」
わたしの気持ちは、自信を持つ方向へ進んだ。

153 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:54:21.77 ID:yD1YVOZc0
そんな短い時間を過ぎ。

まだ、その日々は終わっていないけれど。


ああ、これがこれからの日常なのだ―。


そう思いを馳せる。

154 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:54:44.95 ID:yD1YVOZc0
―いつものように禊ぎをして。




―シズとフチが寝ている間に、いつものように血を――。

鈴鶴「…ん、っ……」

ヤミ「はぁ、ん…はぁ…ん…」

互いの肌を重ね合わせ、その首筋から――。


ふたり、体温と鼓動の高まる肌を重ねていて、その余韻を味わっていると―。

155 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 00:59:02.01 ID:yD1YVOZc0
シズ「…何、やってるんだ」
呆れた視線のシズと。


フチ「なんとなーく、予感はしてたけど…
   やっぱり、そこまでの仲なのねぇ…」
にやにや見つめるフチが。

156 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:02:16.50 ID:yD1YVOZc0
かぁっと肌が赤くなる。

鈴鶴「な、なんで起きて…」

恥ずかしさで、胸が、頭が、ぐしゃぐしゃに包まれる。


シズ「何か、気になる気配がしたから…」

フチ「何かやらかすまで、隠れて見てたら…
   ああ、見てるこっちが恥ずかしくなるほどに激しい…」

157 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:05:39.36 ID:yD1YVOZc0
ヤミ「あ、あ、あの
   わたくしはただ、ただ血を…
   そんな、激しいことなんて、い、今…していないですよ?」

わたしより、ヤミのほうが慌てていた。

顔を真っ赤にして、その左目でわたしを見つめながら、そう言う。

けれど。

フチ「…なあに?昔はこれより激しい【こと】してたの?
   血を吸い合うことよりも…」

くすくす笑って、フチはからかった。

158 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:08:11.44 ID:yD1YVOZc0
鈴鶴「………」
ヤミ「う…そ、それは…」

ふたりとも、恥ずかしさで顔が真っ赤に―。

心当たりが大いにあってしまうほどの関係だから、その言葉はとてもとても心に響く。

フチ「あらあら、図星なんだぁ」

くすくす笑いながら、フチが見つめた。

フチはこういうとき、いじわるになる。

159 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:11:09.52 ID:yD1YVOZc0
シズ「まぁ…乳代わりに、赤子の鈴鶴に血を与えていたのだろうが
   …その癖が抜けずに、いつしか今もするまでに行ってしまった、ところだろう」
シズが、やれやれと息を吐き、見解を言うも。



フチ「…乳離れできてないってことじゃない
   ああ、そこまでの仲だったんだぁ…」


シズ「…確かに」
シズも、納得してしまった。

160 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:11:49.41 ID:yD1YVOZc0
体温も、心臓の鼓動も、高まっていくのを実感していると―。
フチ「でも、月女神の、濃い、その血は…
   甘美な味なんでしょうねぇ」

突然、フチがわたしの膝元にまで来て、そんなことを言う。

フチ「それを思うと、乳離れできなくても仕方ないわね
   ね、シズ?ねぇ?」
そして、シズに目線をやった。


シズ「……まぁ、確かに」

シズは、それを否定しなかった。


しばらく、静かな気まずい空気が流れる。

161 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:12:42.60 ID:yD1YVOZc0
しばらく時間が経ったころ、その空気をフチが打ち破った。


フチ「…鈴鶴、あたしにも血を頂戴?」
フチは、わたしの肩に顔を寄せ、そう甘くお願いした。

え―――!?
突然のことに、わたしの心臓はばくばくばくばく、ヤミと血を吸いあうよりも多く拍動した。


鈴鶴「あの、わたしは、その…
   えっと、その…」


どうしていいかわからずに、ヤミを、ちらと見た。

162 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:15:52.90 ID:yD1YVOZc0
ヤミ「わたくしは、鈴鶴様が宜しいのであれば、……構いません」
顔を赤らめながらも、はっきりと。



フチ「だって、鈴鶴」
じぃっと、わたしを見つめるフチ。


シズ「………」
シズは、無言でその様子を見ていた。

163 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/18 01:16:23.22 ID:yD1YVOZc0
フチ「シズ、欲しいんでしょう?
   …ほら、言ったら?」
そう、優しく背中を押した。

シズ「………ああ」
そしてシズは、閉じた口を開け、そう言った。



わたしも、この二人になら、あげても―。
わたしとヤミのことを、わたしたちが知らないときから、遠くから見つめ、守り、助けてくれた、ふたりになら―。

164 名前:【第三章 中断】:2014/11/18 01:16:45.68 ID:yD1YVOZc0
今日は此処まで

165 名前:791:2014/11/18 01:17:09.79 ID:OeIP8buoo
更新おつ!

166 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
DB様のお通りだ!

167 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:15:35.51 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「いいよ…」

わたしは、はだけた服から見える肌の、既に血を止まった首筋を指でなぞった。


シズ「…………」

フチ「いただきます」


ふたりは、初めて見せた、赤らむ顔で、わたしの体を抱きこんだ。



そして、わたしの首筋に。
ヤミがわたしに牙を立てる場所に―。


ふたりの牙が、食い込む。

168 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:21:52.08 ID:Vn.dFi4o0
じわりと痛みが走る――。
ふたりに牙を立てられるのは初めてなせいか、その痛みに戸惑ったけれど。

シズが、そんなわたしの頭を優しく撫でた。
ただ撫でられているだけでも、その戸惑いは薄れてゆく。


そして、ふたりが、わたしの腕に、互いに身体を押し付けながら、わたしの血を吸っていく。

フチ「あむ…はぁ、はぁ…」
フチは、幼子が乳を飲むかのように、その幼い見た目がよく似合う表情で、わたしの血を飲み。


シズ「ん…
   んっ、んっ」
シズは、やわらかな胸を押し付けながら、シズよりも激しく、わたしの血を吸う。
その片手は、依然わたしの頭を撫でていて、わたしの心はくすぐったい。

169 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:24:14.15 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「――っ」
わたしが、目を瞑ってその心のこそばゆさに耐えているうちに、ふたりの牙は離れた。

シズ「ごちそうに……なった」
そして、シズがわたしを撫でる手を離し。

フチ「鈴鶴の血、思っていたとおり……
   ああ、とても、おいしかった…」
フチは、満足そうな表情で口をぬぐった。

ふたりとも、熱を孕んだ目でわたしを見つめる。

その目が、またわたしを恥ずかしくする。
わたしは、血を吸われた後も、顔を赤くしてぼーっとしていた。

170 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:29:24.22 ID:Vn.dFi4o0
ヤミ「鈴鶴様の血は、美味しいでしょう」

ぼーっとするわたしを抱きしめて、ヤミは誇らしげに言う。

シズ「……
   甘さ、苦さ、口触り、思い―
   すべてが混ざり合って、とても美味しかった――」

フチ「あたしも、同じ
   これならあなたたちが、ずっとこんなことをやってるのも、頷けるわ」


赤みを帯びた顔で、二人は言う。

その言葉が、わたしの心の中を、赤く紅く恥ずかしさで染めていって。


鈴鶴「うぅ…もう寝る」

もう、まともに顔が見れない。

わたしは、顔を隠して、布団の中にもぐりこんだ。

171 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:33:32.52 ID:Vn.dFi4o0
―いくばくかの日が過ぎる。

いつものように、わたしは太刀を振るい、ヤミは術を鍛える。

いつものように、わたしはヤミと血を吸い合う。

けれど、そこにひとつだけ変わったことが。

わたしの血を、さらにシズとフチが吸うようになった。


わたしのこの血は、とてもとても魅力的だという。
毎日食べるご飯よりも、とてもとても魅力的だという。




―こうして、いくばくかの日が過ぎてゆく。

172 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:38:01.52 ID:Vn.dFi4o0
――ある朝。

今日は、わたしは封じの術をフチに教えてもらうことになり、シズはヤミに武術を教えることになった。

黄泉剣を引き揚げれば、それを封じなければならない。

もとは月の王族が封じた剣。

月の王族の血―月の女神の血を引くわたしが封じるのが、一番封じを貼るためには適切なのだ。


そのために、その術を使えるように、特訓が始まった。

173 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:45:01.03 ID:Vn.dFi4o0
フチ「………」
フチは、わたしの身体をじろじろと見つめる。



鈴鶴「な、なあに?」
その目線が、少し恥ずかしくて、わたしの声は焦りを含んで漏れる。


フチ「…鈴鶴って、守護霊が憑いているの?」

そう、不思議そうに言った。


174 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:46:28.52 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「守護…霊?」

聞いたこともない言葉に、首をかしげると。


フチ「…いや、あなたの後ろ…いや、心の中と言ったほうがいいのかしら?
   あなたの魂を、鬼が包んで、守っている―」



鈴鶴「鬼―?」
わたしを守る鬼―?


フチは、わたしの胸に手を当てた。


フチ「そう、あなたの中に――

   でも、それが何を守っているのかは、分からないわ」


そう言って、わたしの髪をぐしゃぐしゃ撫でると。


フチ「さ、頑張ろうっか」

特訓が、始まった―。

175 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:47:43.72 ID:Vn.dFi4o0
時間は気が付かない間に、夕暮れになって。

太刀の修行よりも、身体は疲れなかったけれど、その分精神を使う。
慣れれば、それほどでもないとフチは言ったけれど、それは慣れないもので―。


住処に帰ってきた後、わたしは、眠気に襲われて―。
フチに、頭を撫でられながら、眠りに落ちた。



目が覚めたときには、既に月が空に昇っていた。

いつの間にか、ヤミとシズは眠りについている。

フチは―。



わたしの枕元で、じーっとわたしを見ていた。


176 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:49:45.97 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「は―
   こんな時間まで、眠ってたの、わたし?」


フチ「そうよ
   ヤミとシズは、少し前に寝たわ」


わたしは、あわあわしながらフチを見つめる。

鈴鶴「…あ、あの
   わたしのこと、看ててくれたんだ
   その、ごめんね」

こんな時間まで寝ていたことに、わたしはうろたえながら謝った。

フチ「謝ることじゃないわ
   疲れてたし、しょうがない」

けれど、フチはそんなわたしを優しい瞳で見つめながら撫でてくれた。

177 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:50:26.74 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「その、ヤミは、何か言ってなかった?」
ヤミは、わたしを看ていると思ったのだけど。


フチ「あたしが、ヤミに休んでてと言ったの
   ヤミも、あなたのように疲れてたしね」


鈴鶴「そうなんだ…」


フチ「それよりも、あなた、禊いでいないでしょう?
   さ、行きましょう?」

鈴鶴「うん」

わたしの手を取り、温泉へ――。

178 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:56:11.90 ID:Vn.dFi4o0
禊ぎが終わる――。


そして、ふたり寝床に戻って、フチに血を吸わせた。


フチがわたしの血を舐め終わったあと、眠ろうとしたその時。


フチ「鈴鶴」

フチが、わたしを見つめる。


鈴鶴「なあに?」

フチ「…お願い、血を…吸って?」

駄々をこねる子供のような目で、わたしを見つめた。
その瞳は、吸い込まれるような、とてもきれいな瞳だった。

179 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:59:03.39 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「その………あの………いいけど、どうしたの?」
その目は、いつもとは特別に感じる、そんな目で―。
わたしは、訊いた。


フチ「鈴鶴のことが、…心から離れないの
   【姫】様の面影を持つあなたが――

   はじめてあなたが生まれたあの日から…
   育ちゆくあなたのその姿が、わたしの心をぐちゃぐちゃにかき混ぜていったの…

   ――前に、血をもらって…

   それから、血をもらって…
    
   今まで、耐えていたものが…」

言葉を言い終わらないうちに、フチは首筋を露わにさせる。

見た目相応の幼さの、儚い白い首筋が、わたしの前に。

180 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:01:51.78 ID:Vn.dFi4o0
フチ「して……?」


その、言葉が引き金となった。

わたしはフチの身体を抱きしめて。

鈴鶴「ん――っ」

フチのちいさな首筋に、ゆっくりと歯を立てた。


フチ「っ――」

フチの身体がこわばる。

だから、わたしはフチを離さぬ様に抱きしめて、血を吸う。


鈴鶴「ん………ちゅっ、ちゅ…」

その味は、ヤミのその血とは違う味。

けれど、その味は、わたしの心を熱く染める味。

181 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:07:46.65 ID:Vn.dFi4o0
鈴鶴「んぐ、っ…んっ、んっ…」

そして、立てた歯を離して。

鈴鶴「はぁ――」
傷口をやさしく舐めて、わたしはフチの頭を撫でた。


フチ「――あ…」

そして、熱く染まった心で、フチをもう一度抱き寄せて。

鈴鶴「わたしのこと、見守ってくれてありがとう」



そう言って、わたしはその唇と唇を、舌と舌とを重ね合わせた。


その唾液と唾液が重なり合う。

互いの唾液を互いが受け取り、そして少しの静かな時間が過ぎて。

フチ「あたしも、わがまま聞いてくれて、ありがと……」


そう、フチはわたしに寄りかかった。


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

182 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:08:03.70 ID:Vn.dFi4o0
今日はここまで

183 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:18:45.67 ID:EiVoQOdk0
わたしは夢を見た。



ああ、これもむかしのきおくなのだろうか?


――――あたりはよる。

184 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:20:44.53 ID:EiVoQOdk0
わたしは海の上にいる。


いいや。



わたしではなく、あたし―。


あたしは何かと戦っている。

あたしはだれかと戦っている。


目の前の男は、まがまがしい妖気を放つ剣を手にし。



横には、太刀を構えた、背の高い女性――。


―あたしの相棒の、同胞のシズがいた。

185 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:22:15.36 ID:EiVoQOdk0
――ああ、これはフチの記憶なのか――。


後ろには、とても長い髪の毛を持つ、とても威厳に満ち溢れた月の民の女性が、百合の花の咲く太刀を抱えていた。



―――それは、その姿は――水面の鏡で見るわたしとよく似ていた。


ああ、あれは【姫】様であり、わたしの――。

186 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:25:50.77 ID:EiVoQOdk0
目の前の男が飛び上がる。


そしてその男はあたしを飛び越し、後ろの【姫】様に―。


そして、そのまがまがしい剣――黄泉剣を【姫】様に突き立て――。


あたしはそれ守ろうとして、間に合わなかった。

187 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:27:24.35 ID:EiVoQOdk0
――けれども。

【姫】様は黄泉剣に斬られず、喰われず。

傷一つない【姫】様に、その男が狼狽しているところを、あたしが海の水でこしらえた式神がそいつの足を引っつかんで。


その一瞬の間に、シズが太刀で男の首を刎ねた。

男の身体と、黄泉剣は海へ――。


いけない、これでは――。


けれど、すでに掴むことかなわず。



黄泉剣は、海の底へと―。

188 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:32:23.65 ID:EiVoQOdk0
そのとき。

シズの身体が、海の上に投げ飛ばされる。

水飛沫――。


ばしゃあと飛んだ飛沫の向こうで。


そして【姫】様が、突然現れた月の民の男にさらわれた。



追いかけようとして、迫る波がそれを阻み―。


ああ、【姫】様―――!!


――視界が暗くなる。

あたしは――。


いいや、わたしは、記憶の海から浮かび上がった。


189 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:33:41.97 ID:EiVoQOdk0
鈴鶴「………母、上――」

わたしは一筋の涙とともに目を覚ました。


たとえ夢だとしても、フチの記憶だとしても。


一度たりとも顔の見たことのない母親を見て、わたしの涙は溢れて。

190 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:36:55.17 ID:EiVoQOdk0
フチ「鈴鶴、おはよ……あら?」

フチが、心配そうにわたしの顔を見る。


フチ「……大丈夫…?」


鈴鶴「…ちょっと、大丈夫じゃないかな
   …フチとシズが、黄泉剣を持った男と戦う記憶の夢を見て」


フチ「…【姫】様のお顔を」

すぐに察したらしいフチが、わたしの顔を両手で包む。


鈴鶴「そう…はじめてみることのできた、母上――」


フチ「…ほら、涙、ぬぐって
   あたしたちが、ずっと一緒だから」


そう言って、やさしい瞳でわたしの頭をやさしく撫でた。

191 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:37:31.39 ID:EiVoQOdk0
朝日が昇り―。



月が昇り―。




日が、月が、朝が、夜が、重ねられていく。

192 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:38:12.63 ID:EiVoQOdk0
今日はここまで

>>186修正
最終行
あたしは【姫】様を守ろうとして、間に合わなかった。

193 名前:きのこ軍:2014/12/04 15:59:33.51 ID:I1mpT8do0
更新乙。日常パート継続 いいぞ。

194 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:25:59.22 ID:CoZoQjvs0
わたしがこの住処に来て、半年が経過した。


鈴鶴「はっ!」

シズ「ふんっ!」



わたしは、シズと戦っている―。
これも修行の一環。

わたしとシズは、互いに木刀を手に、剣戟を繰り広げる。

195 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:29:11.85 ID:CoZoQjvs0
シズ「はっ、そりゃ、おらっ!」

シズは、嵐の如き豪快さと、その素早さで斬り付ける。

剣に触れたことのない人間ならば、すぐにやられてしまうだろう。


けれど、わたしはその攻撃に喰らいつく。


鈴鶴「おりゃ!」

その嵐のような攻撃を、かわし、最小限に受け止める。

196 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:30:44.95 ID:CoZoQjvs0
この戦いは、日が登りはじめた朝に始まった。


日が昇る。

空の青さはさらに増す。

そして、青空が赤色に染まっても、剣戟は続く。

197 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:35:24.08 ID:CoZoQjvs0
そして、夕日が沈みかけた頃合―――。

シズ「ふっ!!」

鈴鶴「はっ!!」


互いの木刀がぶつかり合う。


からん――。

互いの木刀が、地面に落ちた。



わたしのその一撃は、刃なき刀での一撃であったにも関わらず、鋭利にシズの木刀を切り落とした。


そして、わたしの木刀も、シズの一撃で切り落とされた。

198 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:36:40.72 ID:CoZoQjvs0
シズ「相打ち、か…
   鈴鶴、さすがだな…」

折れた木刀を見て、シズがそう言う。



鈴鶴「…ぁ…ぐ…
   はぁ―、はぁ―
   ふふっ、やった―。」

わたしは、そこで身体を支えていた糸が切れたのか、地面に座り込んだ。

199 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:39:06.30 ID:CoZoQjvs0
シズ「もう、夜か……」
シズも座り込む。

そして、暗くなった空を見上げてそう言った。

鈴鶴「……そんなに、経ったんだ―」

わたしは、ぼうっと闇に染まる空を見つめていた。


ふたり、その場でしばらく座っていた。

200 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:42:03.07 ID:CoZoQjvs0
シズ「鈴鶴
   ずっと、こうやって、修行をしていて―」

ふと、沈黙を切り裂くようにシズが言葉を切り出した。


シズ「…あなたのことが、【姫】の命のために守る人と思えなくなった
   それは、初めからそんな気持ちだったのかもしれないけれど」

シズ「あなたのことが、ヤミやフチが感じているように
   ……かけがえのない存在に思えてきた」

そう、わたしをじっと見つめる。

その目は、硬いけれど、優しさに溢れた目だった。


鈴鶴「わたしも、みんなかけがえのない大切な存在に、思ってるよ」

わたしはその言葉に応える。
シズのその真っ直ぐな言葉に、応える。


シズ「ありがとう」

シズは、嬉しそうな顔でわたしを抱きしめた。

201 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:45:55.39 ID:CoZoQjvs0
わたしとシズの顔は、その距離を縮めた。

シズ「わたしは、命をかけて、鈴鶴を、ヤミを、フチを守る―
   ずっと、ずっと暮らしていきたい」

鈴鶴「永遠に、永久に?」

わたしは、その言葉がとても硬い意思だと分かっていたけれど、問う。

シズ「勿論、だ」

鈴鶴「約束、よ」

シズ「ああ」

互いに言葉を交し合う。

硬い約束。固い絆。

わたし、ヤミ、シズ、フチ――。
半年いっしょに過ごして、わたしたちは切れぬ絆で繋がれていった。


そして、またひとつ、絆の糸が結ばれる。

202 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:48:51.34 ID:CoZoQjvs0
そして、わたしはそのシズの唇に唇を触れさせた。


シズ「んっ…」


鈴鶴「あなたの血と、わたしの血を、互いに――」

ヤミとしてきた儀式。
それは、乳飲みの一貫であったけれど、絆を深める儀式でもあった。

シズは、わたしの血は時々飲むけれど、シズの血を飲んだことはなかった。

だから、絆を結んだのだから、それをさらに深く深く―――。

203 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:51:16.93 ID:CoZoQjvs0
今日はここまで。

204 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:13:34.18 ID:zD39bk3w0
シズ「鈴鶴……」

シズは、わたしに首筋を見せ、細長い指でそれをなぞった。


鈴鶴「…いただきます」

わたしは、歯をその首筋に入れて、唾液で濡らして。

シズ「ん――」

鈴鶴「ちゅ…はぁ、はぁ…」


その月の血を吸い取ってゆく。


205 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:18:09.28 ID:zD39bk3w0
それは短い時間なのだろうけど、わたしには長く感じられた。

ひとさじもない血を吸い取って、ぼおっとしたまま大きなシズの胸に抱き着く。


シズ「あ…」

鈴鶴「………あ、やわらかくて、つい」

シズが驚く反応をして、わたしの目の前は明瞭に。

シズ「まぁ、いい」

けれど、シズはすぐ堅い瞳に戻って。


シズ「…では、いただく」


わたしの首筋に牙を立てた。

206 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:23:24.69 ID:zD39bk3w0
鈴鶴「ん……」

それはいつもの痛みと、いつもの感触。

シズ「……んっ、んっ」

わたしの中に流れる血を、わたしの細い首から吸ってゆく。

わたしをがっちり支えて、わたしの血を吸ってゆく。


わたしがシズの血を吸った時間よりも、それは長く感じられた。


抱きしめられて触れ合う胸の感触のせいか。
あるいは、その顔の距離のせいか。

207 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:27:31.91 ID:zD39bk3w0
シズ「……鈴鶴、終わった」

気がつくと、シズはわたしの首筋から顔を離していた。

静かな一瞬――。

その静かな空気が心に沁みる。
その沈黙が心に沁みる。

鈴鶴「…シズの血も、おいしかった」


シズ「鈴鶴の血は、とてもおいしいよ」


ふたり同じ言葉を返した。

ああ、いつのまにか月は空高く昇っている。


シズ「では、帰るか」

鈴鶴「うん」


わたしたちは、折れた木刀を手に、住処へと帰った。

208 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:34:08.67 ID:zD39bk3w0
住処に戻ると、ヤミとフチが、向かい合いながら座っていた。


ヤミ「鈴鶴様、打ち合いはどうでしたか」
ヤミは、わたしに訊く。

鈴鶴「相打ち」

ヤミ「鈴鶴様、すごいですねっ」
笑顔で、わたしを抱きしめ、頭をくしゃくしゃ撫でる。

嬉しそうなヤミの表情を見ていると、わたしもうれしくなる。



フチ「相打ち…鈴鶴、あなた、シズと相打ちだなんて、とても強くなったのね
   あの剣の達人の、シズと…
   やっぱり、血は争えないものなのかしらね」

そんなわたしたちを見ながら、フチはそう言った。

鈴鶴「血―――」

ふと、父のことを思い出す。

そして、それと同時に攻め込んできた月の民を思い出し、もっと強くなりたいと拳をぐっと握った。


シズ「そっちは、どうなったんだ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

209 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:39:28.83 ID:zD39bk3w0
月日は過ぎる。

剣術を、風の術を鍛えたわたしたちだけれど。

ただ一つの技能だけではなく、複数の技能を身につけるために、色々な稽古に取り組む。


弓、槍、柔術―――。


また、封じのための術はまだ完成していない。

その稽古にも取り組んで。


あるいは、様々な知識を会得したりして。


わたしの中に宿る守護霊が、何を守るのかはまだ分からないけれど。


わたしたちは、いつしか出会って1年が過ぎていた。

いつものように、稽古に取り組み。
いつものように、血を吸いあう。


苦しいときもあれど、幸せな毎日を過ごした――。

210 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:41:45.51 ID:zD39bk3w0
今日はここまで

211 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:50:26.07 ID:8EnUresk0
朝―。


いつものように、わたしは目覚める。


今日のお天道様は、雨模様。

ざあざあ振る雨を見つめていた。


シズ「……今日は、外には出られないな」

残念そうに、シズは腕をぷらぷら振った。


212 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:51:48.12 ID:8EnUresk0
鈴鶴「まぁ、住処の中でもいろいろできるから」

シズ「そうだね」


雨の日は、何処からか手にいれた書物を読んだり、軽い特訓をこなす。


けれど、中で出来ることはそう多くない。


必然と、普通の暮らしを送るようになる。

213 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:56:27.05 ID:8EnUresk0
いつしか、昼食の時間になる。

雨は降っているけれど、腹時計はきっちりとしていて。



食事は、住処のまわりで採れるもの。あるいは、住処の周りで育てているものからまかなう。


調理は、わたしやヤミやフチがして行う。

シズは、家庭的な行為が壊滅的に駄目だからだ。


シズのつくった料理を食べたことがあるが、あまり肯定できない美味しさ。


幼馴染のフチはそれを理解しているので、シズを黙って待機させている。


214 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:00:24.13 ID:8EnUresk0
フチ「それにしても、鈴鶴の手さばきは魅入られる何かがあるわね」

フチは、料理するとき、ときどきこうやって褒める。

ヤミの手さばきも丁寧だが、わたしの手さばきはそれに芸術性が加わった何かなのだという。



食材を切り、煮て、それを皿に盛り付けて――。


稽古をしている関係上、4人で食事を囲むことが少ない。
時々しかないこの時間を、わたしは楽しむ。


ヤミ「鈴鶴様、うれしいですか」

鈴鶴「みんなと食べるのは、楽しいから」


和気藹々と食事の時間は過ぎる。


215 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:03:33.90 ID:8EnUresk0
いつしか、昼食も終わり。

再び、簡易な稽古に取り組んで。


夜になると、すっかり雨は止んでいた。


鈴鶴「ふう、月がまぶしい」

空に輝く月。
それが満ちるまでは、指で数えるほどの日数ほどで。


そんな月の光が、わたしたちの住処を照らしていた。

216 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:08:05.84 ID:8EnUresk0
そんな月を見ながら、フチは切り出した。


フチ「そろそろ、鈴鶴やヤミも様々な手段で戦えるようになったわ
   鈴鶴の封じの術も、使えるようになった」


今日に至るまでに、いろいろなことを学び、そしてそれを会得した。


それは、ただ強くなるためではなく、目的のために行うことであった。


鈴鶴「そろそろ、行くの?」


シズ「そうだな
   今の鈴鶴とヤミの力なら、やつらが来ても戦えるだろう」


ヤミ「……ああ、忘れもしないあの月の民
   ――それにも、決着をつけないといけませんね」

鈴鶴「そうね」
父の仇。ヤミの同属を殺戮した存在。

その仇討ちを、決着をつけなければならない。


(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

217 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:12:37.94 ID:8EnUresk0
わたしたちは、住処から旅立ち―――。

シズとフチが死闘をしたという、海までたどり着いた。


その時刻は夜。
満ちた月が、暗黒の空にまたたいていた。


ぞくり。

わたしの身体が、何かの響きを感じた。

ヤミ「鈴鶴様、どうかしましたか?」

鈴鶴「ぞくりと気配を感じたの…
   これが黄泉剣?」

シズ「恐らく」

フチ「月神の血を引くからこそ、感じ取れるのでしょう」


ヤミ「どうして、わたくしは感じないのでしょうか?」


フチ「あなたの場合は、元からあるものではなく、付け加えたものだから、でしょうね
   鈴鶴と違って、あなたの命を助けるために【姫】様が力を与えたかせ」

(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)

218 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:16:09.79 ID:8EnUresk0
そして、その闇の後ろから声が聞こえた。


声の主「やっと来たな、月神の血を引く娘と、そのお仲間どもよ―」


その声は、忘れもしない―。


鈴鶴・ヤミ「……カショ!」


わたしの父の仇であり、ヤミの仲間の仇であった。


219 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:20:14.03 ID:8EnUresk0
その後ろには、もうひとりの月の民の男が佇んでいた。
鈴鶴「あなたは、仏のシャクハツというやつかしら」


男「…シャクハツは、首を刎ねられて死んでいた
  あの女を捕らえたはいいが、残念なことだ」


シャクハツ―わたしの母、【姫】をさらった男。
どうやら、すでにそいつは故人だという。

鈴鶴「では、誰だ」


男「わしは、玉石のホーライ―
  おぬしらを倒して、ここに沈みし黄泉剣を会得する
  …カショが引継ぎし、リュウシュの望みを達成させる」


ざっ、ざっ…

その言葉が終わるとともに、その後ろから人間の男たちが集まってきた。

220 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:23:14.75 ID:8EnUresk0
シズ「人海戦術か―
   確かに、海が舞台だが」

冗談に聞こえない言葉をシズは云う。


ホーライ「ほっほ
     まぁこれだけいれば何とかなるじゃろ…
     この男らの原動力は富と女じゃからな」

フチ「吐き気がするような原動力ね」


カショ「フン、オレは何を使おうと覇者になるんでね」


しばらくの沈黙――。

そして。


ヤミ「鈴鶴様、行きましょう」


鈴鶴「そうね
   こいつらを、倒さないと」


その沈黙を破って、戦いの火蓋は切って落とされた。

221 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:23:30.49 ID:8EnUresk0
今日はここまで。

222 名前:きのこ軍:2014/12/09 23:31:23.81 ID:TpICAZnso
緊迫した展開になってきた。おつだぞ。

223 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:37:47.74 ID:8EnUresk0
カショ「フン、面白い…
    かかってこい、あの男とあのアマの娘よ!」


カショは、太刀を抜き、わたしに向けた。
そして、その後ろには無数の男ども。

ヤミ「鈴鶴様、助太刀します」
ヤミも、わたしの後ろについてきた。


カショを倒すべきなのは、その仇討ちをしなければならないわたしたちなのだから。


シズとヤミは、ホーライと、残った男どもの相手に向かった。


224 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:43:53.48 ID:8EnUresk0
鈴鶴「てゃーっ!!」


カショ「せいっ!」


太刀のぶつかる音が聞こえる。


太刀筋を、体全体で避わすことができぬのだから、その太刀の刃で受けるしかない。


わたしの剣術は、刃がなくとも、刃を叩き切ることのできる秘剣を持つ。

父から、シズから学んだ、剣術。

シズは、この剣術を月影黄泉流(つきかげおうせんりゅう)と呼んでいた。


わたしはその月影黄泉流で、カショの太刀を受ける。


けれども、カショはそれほどで倒れるほどの猛者ではない。

わたしにこの剣術を教えたシズが唸るほどの、わたしの父を倒した男。

金属音が響く。

225 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:47:43.95 ID:8EnUresk0
ヤミ「鈴鶴様の邪魔はさせませんっ!」


ヤミは、羽団扇を持ち、高下駄で飛びながら、わたしを狙う男に真空の刃を飛ばす。


男1「ぐぁ!」
男2「ぐべっ!」
男3「あがぁああっ」

真空の刃はわたしに近付く男は飛ばされてゆく。


けれど、その男たちは死なず。

月の血を引く月の民の男どもの同胞なのだから、ただの人間よりも丈夫であろうから。

ヤミ「鈴鶴様、今は耐えていて下さい」


ヤミの声を後ろに、わたしは太刀と太刀をぶつけあう。

226 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:50:29.44 ID:8EnUresk0
カショ「そらそらそら!
    ちぇーっ!」

鈴鶴「っ―」

カショの太刀がわたしの肌を少しずつ斬る。

けれど、これしきの痛みで負けてたまるものか。

わたしは負けず、浅くとも一撃をぶつける。




ホーライの相手をしているシズとフチも、苦戦しているようで。

フチが海の水から、砂浜の砂から式神を多数呼んでいるにも関わらず。
その男どもの量は尋常ではないほどで、その丈夫さも尋常ではなかった。


227 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:54:37.29 ID:8EnUresk0
カショ「ぬぅ!」


わたしの剣筋がカショの太刀を捉える。


月の太刀は、この国にある太刀よりも硬く、欠けない強靭さを持っている。

けれど、わたしの一太刀が、カショの太刀の刃を吹っ飛ばした。

あの修行で会得した技のように。

わたしの太刀の姫百合が、そよそよと揺れる。


鈴鶴「とりゃぁーーっ!」


カショ「…ち
    あの女がいるから使いたくはなかったが、仕方ねえっ!!」


鈴鶴「…熱ッ!!」

わたしの手の甲に、熱さを感じた。

その痛みが、太刀筋をそらさせる。

首狙いの太刀筋は、虚空を切った。


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