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ユリガミノカナタニ
- 1 名前:【第一章 人生きし昼】:2014/10/26 22:54:48.03 ID:XUiZ9x7c0
- ??「―――――――。」
―――声が聞こえる。
これは、わたしの一番古い記憶?
何も、見えない。
そこは、暗闇の中―。
- 166 名前:DB様のお通りだ!:DB様のお通りだ!
- DB様のお通りだ!
- 167 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:15:35.51 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「いいよ…」
わたしは、はだけた服から見える肌の、既に血を止まった首筋を指でなぞった。
シズ「…………」
フチ「いただきます」
ふたりは、初めて見せた、赤らむ顔で、わたしの体を抱きこんだ。
そして、わたしの首筋に。
ヤミがわたしに牙を立てる場所に―。
ふたりの牙が、食い込む。
- 168 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:21:52.08 ID:Vn.dFi4o0
- じわりと痛みが走る――。
ふたりに牙を立てられるのは初めてなせいか、その痛みに戸惑ったけれど。
シズが、そんなわたしの頭を優しく撫でた。
ただ撫でられているだけでも、その戸惑いは薄れてゆく。
そして、ふたりが、わたしの腕に、互いに身体を押し付けながら、わたしの血を吸っていく。
フチ「あむ…はぁ、はぁ…」
フチは、幼子が乳を飲むかのように、その幼い見た目がよく似合う表情で、わたしの血を飲み。
シズ「ん…
んっ、んっ」
シズは、やわらかな胸を押し付けながら、シズよりも激しく、わたしの血を吸う。
その片手は、依然わたしの頭を撫でていて、わたしの心はくすぐったい。
- 169 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:24:14.15 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「――っ」
わたしが、目を瞑ってその心のこそばゆさに耐えているうちに、ふたりの牙は離れた。
シズ「ごちそうに……なった」
そして、シズがわたしを撫でる手を離し。
フチ「鈴鶴の血、思っていたとおり……
ああ、とても、おいしかった…」
フチは、満足そうな表情で口をぬぐった。
ふたりとも、熱を孕んだ目でわたしを見つめる。
その目が、またわたしを恥ずかしくする。
わたしは、血を吸われた後も、顔を赤くしてぼーっとしていた。
- 170 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:29:24.22 ID:Vn.dFi4o0
- ヤミ「鈴鶴様の血は、美味しいでしょう」
ぼーっとするわたしを抱きしめて、ヤミは誇らしげに言う。
シズ「……
甘さ、苦さ、口触り、思い―
すべてが混ざり合って、とても美味しかった――」
フチ「あたしも、同じ
これならあなたたちが、ずっとこんなことをやってるのも、頷けるわ」
赤みを帯びた顔で、二人は言う。
その言葉が、わたしの心の中を、赤く紅く恥ずかしさで染めていって。
鈴鶴「うぅ…もう寝る」
もう、まともに顔が見れない。
わたしは、顔を隠して、布団の中にもぐりこんだ。
- 171 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:33:32.52 ID:Vn.dFi4o0
- ―いくばくかの日が過ぎる。
いつものように、わたしは太刀を振るい、ヤミは術を鍛える。
いつものように、わたしはヤミと血を吸い合う。
けれど、そこにひとつだけ変わったことが。
わたしの血を、さらにシズとフチが吸うようになった。
わたしのこの血は、とてもとても魅力的だという。
毎日食べるご飯よりも、とてもとても魅力的だという。
―こうして、いくばくかの日が過ぎてゆく。
- 172 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:38:01.52 ID:Vn.dFi4o0
- ――ある朝。
今日は、わたしは封じの術をフチに教えてもらうことになり、シズはヤミに武術を教えることになった。
黄泉剣を引き揚げれば、それを封じなければならない。
もとは月の王族が封じた剣。
月の王族の血―月の女神の血を引くわたしが封じるのが、一番封じを貼るためには適切なのだ。
そのために、その術を使えるように、特訓が始まった。
- 173 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:45:01.03 ID:Vn.dFi4o0
- フチ「………」
フチは、わたしの身体をじろじろと見つめる。
鈴鶴「な、なあに?」
その目線が、少し恥ずかしくて、わたしの声は焦りを含んで漏れる。
フチ「…鈴鶴って、守護霊が憑いているの?」
そう、不思議そうに言った。
- 174 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:46:28.52 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「守護…霊?」
聞いたこともない言葉に、首をかしげると。
フチ「…いや、あなたの後ろ…いや、心の中と言ったほうがいいのかしら?
あなたの魂を、鬼が包んで、守っている―」
鈴鶴「鬼―?」
わたしを守る鬼―?
フチは、わたしの胸に手を当てた。
フチ「そう、あなたの中に――
でも、それが何を守っているのかは、分からないわ」
そう言って、わたしの髪をぐしゃぐしゃ撫でると。
フチ「さ、頑張ろうっか」
特訓が、始まった―。
- 175 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:47:43.72 ID:Vn.dFi4o0
- 時間は気が付かない間に、夕暮れになって。
太刀の修行よりも、身体は疲れなかったけれど、その分精神を使う。
慣れれば、それほどでもないとフチは言ったけれど、それは慣れないもので―。
住処に帰ってきた後、わたしは、眠気に襲われて―。
フチに、頭を撫でられながら、眠りに落ちた。
目が覚めたときには、既に月が空に昇っていた。
いつの間にか、ヤミとシズは眠りについている。
フチは―。
わたしの枕元で、じーっとわたしを見ていた。
- 176 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:49:45.97 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「は―
こんな時間まで、眠ってたの、わたし?」
フチ「そうよ
ヤミとシズは、少し前に寝たわ」
わたしは、あわあわしながらフチを見つめる。
鈴鶴「…あ、あの
わたしのこと、看ててくれたんだ
その、ごめんね」
こんな時間まで寝ていたことに、わたしはうろたえながら謝った。
フチ「謝ることじゃないわ
疲れてたし、しょうがない」
けれど、フチはそんなわたしを優しい瞳で見つめながら撫でてくれた。
- 177 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:50:26.74 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「その、ヤミは、何か言ってなかった?」
ヤミは、わたしを看ていると思ったのだけど。
フチ「あたしが、ヤミに休んでてと言ったの
ヤミも、あなたのように疲れてたしね」
鈴鶴「そうなんだ…」
フチ「それよりも、あなた、禊いでいないでしょう?
さ、行きましょう?」
鈴鶴「うん」
わたしの手を取り、温泉へ――。
- 178 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:56:11.90 ID:Vn.dFi4o0
- 禊ぎが終わる――。
そして、ふたり寝床に戻って、フチに血を吸わせた。
フチがわたしの血を舐め終わったあと、眠ろうとしたその時。
フチ「鈴鶴」
フチが、わたしを見つめる。
鈴鶴「なあに?」
フチ「…お願い、血を…吸って?」
駄々をこねる子供のような目で、わたしを見つめた。
その瞳は、吸い込まれるような、とてもきれいな瞳だった。
- 179 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 01:59:03.39 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「その………あの………いいけど、どうしたの?」
その目は、いつもとは特別に感じる、そんな目で―。
わたしは、訊いた。
フチ「鈴鶴のことが、…心から離れないの
【姫】様の面影を持つあなたが――
はじめてあなたが生まれたあの日から…
育ちゆくあなたのその姿が、わたしの心をぐちゃぐちゃにかき混ぜていったの…
――前に、血をもらって…
それから、血をもらって…
今まで、耐えていたものが…」
言葉を言い終わらないうちに、フチは首筋を露わにさせる。
見た目相応の幼さの、儚い白い首筋が、わたしの前に。
- 180 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:01:51.78 ID:Vn.dFi4o0
- フチ「して……?」
その、言葉が引き金となった。
わたしはフチの身体を抱きしめて。
鈴鶴「ん――っ」
フチのちいさな首筋に、ゆっくりと歯を立てた。
フチ「っ――」
フチの身体がこわばる。
だから、わたしはフチを離さぬ様に抱きしめて、血を吸う。
鈴鶴「ん………ちゅっ、ちゅ…」
その味は、ヤミのその血とは違う味。
けれど、その味は、わたしの心を熱く染める味。
- 181 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:07:46.65 ID:Vn.dFi4o0
- 鈴鶴「んぐ、っ…んっ、んっ…」
そして、立てた歯を離して。
鈴鶴「はぁ――」
傷口をやさしく舐めて、わたしはフチの頭を撫でた。
フチ「――あ…」
そして、熱く染まった心で、フチをもう一度抱き寄せて。
鈴鶴「わたしのこと、見守ってくれてありがとう」
そう言って、わたしはその唇と唇を、舌と舌とを重ね合わせた。
その唾液と唾液が重なり合う。
互いの唾液を互いが受け取り、そして少しの静かな時間が過ぎて。
フチ「あたしも、わがまま聞いてくれて、ありがと……」
そう、フチはわたしに寄りかかった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 182 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/11/27 02:08:03.70 ID:Vn.dFi4o0
- 今日はここまで
- 183 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:18:45.67 ID:EiVoQOdk0
- わたしは夢を見た。
ああ、これもむかしのきおくなのだろうか?
――――あたりはよる。
- 184 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:20:44.53 ID:EiVoQOdk0
- わたしは海の上にいる。
いいや。
わたしではなく、あたし―。
あたしは何かと戦っている。
あたしはだれかと戦っている。
目の前の男は、まがまがしい妖気を放つ剣を手にし。
横には、太刀を構えた、背の高い女性――。
―あたしの相棒の、同胞のシズがいた。
- 185 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:22:15.36 ID:EiVoQOdk0
- ――ああ、これはフチの記憶なのか――。
後ろには、とても長い髪の毛を持つ、とても威厳に満ち溢れた月の民の女性が、百合の花の咲く太刀を抱えていた。
―――それは、その姿は――水面の鏡で見るわたしとよく似ていた。
ああ、あれは【姫】様であり、わたしの――。
- 186 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:25:50.77 ID:EiVoQOdk0
- 目の前の男が飛び上がる。
そしてその男はあたしを飛び越し、後ろの【姫】様に―。
そして、そのまがまがしい剣――黄泉剣を【姫】様に突き立て――。
あたしはそれ守ろうとして、間に合わなかった。
- 187 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:27:24.35 ID:EiVoQOdk0
- ――けれども。
【姫】様は黄泉剣に斬られず、喰われず。
傷一つない【姫】様に、その男が狼狽しているところを、あたしが海の水でこしらえた式神がそいつの足を引っつかんで。
その一瞬の間に、シズが太刀で男の首を刎ねた。
男の身体と、黄泉剣は海へ――。
いけない、これでは――。
けれど、すでに掴むことかなわず。
黄泉剣は、海の底へと―。
- 188 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:32:23.65 ID:EiVoQOdk0
- そのとき。
シズの身体が、海の上に投げ飛ばされる。
水飛沫――。
ばしゃあと飛んだ飛沫の向こうで。
そして【姫】様が、突然現れた月の民の男にさらわれた。
追いかけようとして、迫る波がそれを阻み―。
ああ、【姫】様―――!!
――視界が暗くなる。
あたしは――。
いいや、わたしは、記憶の海から浮かび上がった。
- 189 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:33:41.97 ID:EiVoQOdk0
- 鈴鶴「………母、上――」
わたしは一筋の涙とともに目を覚ました。
たとえ夢だとしても、フチの記憶だとしても。
一度たりとも顔の見たことのない母親を見て、わたしの涙は溢れて。
- 190 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:36:55.17 ID:EiVoQOdk0
- フチ「鈴鶴、おはよ……あら?」
フチが、心配そうにわたしの顔を見る。
フチ「……大丈夫…?」
鈴鶴「…ちょっと、大丈夫じゃないかな
…フチとシズが、黄泉剣を持った男と戦う記憶の夢を見て」
フチ「…【姫】様のお顔を」
すぐに察したらしいフチが、わたしの顔を両手で包む。
鈴鶴「そう…はじめてみることのできた、母上――」
フチ「…ほら、涙、ぬぐって
あたしたちが、ずっと一緒だから」
そう言って、やさしい瞳でわたしの頭をやさしく撫でた。
- 191 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:37:31.39 ID:EiVoQOdk0
- 朝日が昇り―。
月が昇り―。
日が、月が、朝が、夜が、重ねられていく。
- 192 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/02 00:38:12.63 ID:EiVoQOdk0
- 今日はここまで
>>186修正
最終行
あたしは【姫】様を守ろうとして、間に合わなかった。
- 193 名前:きのこ軍:2014/12/04 15:59:33.51 ID:I1mpT8do0
- 更新乙。日常パート継続 いいぞ。
- 194 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:25:59.22 ID:CoZoQjvs0
- わたしがこの住処に来て、半年が経過した。
鈴鶴「はっ!」
シズ「ふんっ!」
わたしは、シズと戦っている―。
これも修行の一環。
わたしとシズは、互いに木刀を手に、剣戟を繰り広げる。
- 195 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:29:11.85 ID:CoZoQjvs0
- シズ「はっ、そりゃ、おらっ!」
シズは、嵐の如き豪快さと、その素早さで斬り付ける。
剣に触れたことのない人間ならば、すぐにやられてしまうだろう。
けれど、わたしはその攻撃に喰らいつく。
鈴鶴「おりゃ!」
その嵐のような攻撃を、かわし、最小限に受け止める。
- 196 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:30:44.95 ID:CoZoQjvs0
- この戦いは、日が登りはじめた朝に始まった。
日が昇る。
空の青さはさらに増す。
そして、青空が赤色に染まっても、剣戟は続く。
- 197 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:35:24.08 ID:CoZoQjvs0
- そして、夕日が沈みかけた頃合―――。
シズ「ふっ!!」
鈴鶴「はっ!!」
互いの木刀がぶつかり合う。
からん――。
互いの木刀が、地面に落ちた。
わたしのその一撃は、刃なき刀での一撃であったにも関わらず、鋭利にシズの木刀を切り落とした。
そして、わたしの木刀も、シズの一撃で切り落とされた。
- 198 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:36:40.72 ID:CoZoQjvs0
- シズ「相打ち、か…
鈴鶴、さすがだな…」
折れた木刀を見て、シズがそう言う。
鈴鶴「…ぁ…ぐ…
はぁ―、はぁ―
ふふっ、やった―。」
わたしは、そこで身体を支えていた糸が切れたのか、地面に座り込んだ。
- 199 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:39:06.30 ID:CoZoQjvs0
- シズ「もう、夜か……」
シズも座り込む。
そして、暗くなった空を見上げてそう言った。
鈴鶴「……そんなに、経ったんだ―」
わたしは、ぼうっと闇に染まる空を見つめていた。
ふたり、その場でしばらく座っていた。
- 200 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:42:03.07 ID:CoZoQjvs0
- シズ「鈴鶴
ずっと、こうやって、修行をしていて―」
ふと、沈黙を切り裂くようにシズが言葉を切り出した。
シズ「…あなたのことが、【姫】の命のために守る人と思えなくなった
それは、初めからそんな気持ちだったのかもしれないけれど」
シズ「あなたのことが、ヤミやフチが感じているように
……かけがえのない存在に思えてきた」
そう、わたしをじっと見つめる。
その目は、硬いけれど、優しさに溢れた目だった。
鈴鶴「わたしも、みんなかけがえのない大切な存在に、思ってるよ」
わたしはその言葉に応える。
シズのその真っ直ぐな言葉に、応える。
シズ「ありがとう」
シズは、嬉しそうな顔でわたしを抱きしめた。
- 201 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:45:55.39 ID:CoZoQjvs0
- わたしとシズの顔は、その距離を縮めた。
シズ「わたしは、命をかけて、鈴鶴を、ヤミを、フチを守る―
ずっと、ずっと暮らしていきたい」
鈴鶴「永遠に、永久に?」
わたしは、その言葉がとても硬い意思だと分かっていたけれど、問う。
シズ「勿論、だ」
鈴鶴「約束、よ」
シズ「ああ」
互いに言葉を交し合う。
硬い約束。固い絆。
わたし、ヤミ、シズ、フチ――。
半年いっしょに過ごして、わたしたちは切れぬ絆で繋がれていった。
そして、またひとつ、絆の糸が結ばれる。
- 202 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:48:51.34 ID:CoZoQjvs0
- そして、わたしはそのシズの唇に唇を触れさせた。
シズ「んっ…」
鈴鶴「あなたの血と、わたしの血を、互いに――」
ヤミとしてきた儀式。
それは、乳飲みの一貫であったけれど、絆を深める儀式でもあった。
シズは、わたしの血は時々飲むけれど、シズの血を飲んだことはなかった。
だから、絆を結んだのだから、それをさらに深く深く―――。
- 203 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/05 01:51:16.93 ID:CoZoQjvs0
- 今日はここまで。
- 204 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:13:34.18 ID:zD39bk3w0
- シズ「鈴鶴……」
シズは、わたしに首筋を見せ、細長い指でそれをなぞった。
鈴鶴「…いただきます」
わたしは、歯をその首筋に入れて、唾液で濡らして。
シズ「ん――」
鈴鶴「ちゅ…はぁ、はぁ…」
その月の血を吸い取ってゆく。
- 205 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:18:09.28 ID:zD39bk3w0
- それは短い時間なのだろうけど、わたしには長く感じられた。
ひとさじもない血を吸い取って、ぼおっとしたまま大きなシズの胸に抱き着く。
シズ「あ…」
鈴鶴「………あ、やわらかくて、つい」
シズが驚く反応をして、わたしの目の前は明瞭に。
シズ「まぁ、いい」
けれど、シズはすぐ堅い瞳に戻って。
シズ「…では、いただく」
わたしの首筋に牙を立てた。
- 206 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:23:24.69 ID:zD39bk3w0
- 鈴鶴「ん……」
それはいつもの痛みと、いつもの感触。
シズ「……んっ、んっ」
わたしの中に流れる血を、わたしの細い首から吸ってゆく。
わたしをがっちり支えて、わたしの血を吸ってゆく。
わたしがシズの血を吸った時間よりも、それは長く感じられた。
抱きしめられて触れ合う胸の感触のせいか。
あるいは、その顔の距離のせいか。
- 207 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:27:31.91 ID:zD39bk3w0
- シズ「……鈴鶴、終わった」
気がつくと、シズはわたしの首筋から顔を離していた。
静かな一瞬――。
その静かな空気が心に沁みる。
その沈黙が心に沁みる。
鈴鶴「…シズの血も、おいしかった」
シズ「鈴鶴の血は、とてもおいしいよ」
ふたり同じ言葉を返した。
ああ、いつのまにか月は空高く昇っている。
シズ「では、帰るか」
鈴鶴「うん」
わたしたちは、折れた木刀を手に、住処へと帰った。
- 208 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:34:08.67 ID:zD39bk3w0
- 住処に戻ると、ヤミとフチが、向かい合いながら座っていた。
ヤミ「鈴鶴様、打ち合いはどうでしたか」
ヤミは、わたしに訊く。
鈴鶴「相打ち」
ヤミ「鈴鶴様、すごいですねっ」
笑顔で、わたしを抱きしめ、頭をくしゃくしゃ撫でる。
嬉しそうなヤミの表情を見ていると、わたしもうれしくなる。
フチ「相打ち…鈴鶴、あなた、シズと相打ちだなんて、とても強くなったのね
あの剣の達人の、シズと…
やっぱり、血は争えないものなのかしらね」
そんなわたしたちを見ながら、フチはそう言った。
鈴鶴「血―――」
ふと、父のことを思い出す。
そして、それと同時に攻め込んできた月の民を思い出し、もっと強くなりたいと拳をぐっと握った。
シズ「そっちは、どうなったんだ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 209 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:39:28.83 ID:zD39bk3w0
- 月日は過ぎる。
剣術を、風の術を鍛えたわたしたちだけれど。
ただ一つの技能だけではなく、複数の技能を身につけるために、色々な稽古に取り組む。
弓、槍、柔術―――。
また、封じのための術はまだ完成していない。
その稽古にも取り組んで。
あるいは、様々な知識を会得したりして。
わたしの中に宿る守護霊が、何を守るのかはまだ分からないけれど。
わたしたちは、いつしか出会って1年が過ぎていた。
いつものように、稽古に取り組み。
いつものように、血を吸いあう。
苦しいときもあれど、幸せな毎日を過ごした――。
- 210 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/08 01:41:45.51 ID:zD39bk3w0
- 今日はここまで
- 211 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:50:26.07 ID:8EnUresk0
- 朝―。
いつものように、わたしは目覚める。
今日のお天道様は、雨模様。
ざあざあ振る雨を見つめていた。
シズ「……今日は、外には出られないな」
残念そうに、シズは腕をぷらぷら振った。
- 212 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:51:48.12 ID:8EnUresk0
- 鈴鶴「まぁ、住処の中でもいろいろできるから」
シズ「そうだね」
雨の日は、何処からか手にいれた書物を読んだり、軽い特訓をこなす。
けれど、中で出来ることはそう多くない。
必然と、普通の暮らしを送るようになる。
- 213 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 00:56:27.05 ID:8EnUresk0
- いつしか、昼食の時間になる。
雨は降っているけれど、腹時計はきっちりとしていて。
食事は、住処のまわりで採れるもの。あるいは、住処の周りで育てているものからまかなう。
調理は、わたしやヤミやフチがして行う。
シズは、家庭的な行為が壊滅的に駄目だからだ。
シズのつくった料理を食べたことがあるが、あまり肯定できない美味しさ。
幼馴染のフチはそれを理解しているので、シズを黙って待機させている。
- 214 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:00:24.13 ID:8EnUresk0
- フチ「それにしても、鈴鶴の手さばきは魅入られる何かがあるわね」
フチは、料理するとき、ときどきこうやって褒める。
ヤミの手さばきも丁寧だが、わたしの手さばきはそれに芸術性が加わった何かなのだという。
食材を切り、煮て、それを皿に盛り付けて――。
稽古をしている関係上、4人で食事を囲むことが少ない。
時々しかないこの時間を、わたしは楽しむ。
ヤミ「鈴鶴様、うれしいですか」
鈴鶴「みんなと食べるのは、楽しいから」
和気藹々と食事の時間は過ぎる。
- 215 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:03:33.90 ID:8EnUresk0
- いつしか、昼食も終わり。
再び、簡易な稽古に取り組んで。
夜になると、すっかり雨は止んでいた。
鈴鶴「ふう、月がまぶしい」
空に輝く月。
それが満ちるまでは、指で数えるほどの日数ほどで。
そんな月の光が、わたしたちの住処を照らしていた。
- 216 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:08:05.84 ID:8EnUresk0
- そんな月を見ながら、フチは切り出した。
フチ「そろそろ、鈴鶴やヤミも様々な手段で戦えるようになったわ
鈴鶴の封じの術も、使えるようになった」
今日に至るまでに、いろいろなことを学び、そしてそれを会得した。
それは、ただ強くなるためではなく、目的のために行うことであった。
鈴鶴「そろそろ、行くの?」
シズ「そうだな
今の鈴鶴とヤミの力なら、やつらが来ても戦えるだろう」
ヤミ「……ああ、忘れもしないあの月の民
――それにも、決着をつけないといけませんね」
鈴鶴「そうね」
父の仇。ヤミの同属を殺戮した存在。
その仇討ちを、決着をつけなければならない。
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- 217 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:12:37.94 ID:8EnUresk0
- わたしたちは、住処から旅立ち―――。
シズとフチが死闘をしたという、海までたどり着いた。
その時刻は夜。
満ちた月が、暗黒の空にまたたいていた。
ぞくり。
わたしの身体が、何かの響きを感じた。
ヤミ「鈴鶴様、どうかしましたか?」
鈴鶴「ぞくりと気配を感じたの…
これが黄泉剣?」
シズ「恐らく」
フチ「月神の血を引くからこそ、感じ取れるのでしょう」
ヤミ「どうして、わたくしは感じないのでしょうか?」
フチ「あなたの場合は、元からあるものではなく、付け加えたものだから、でしょうね
鈴鶴と違って、あなたの命を助けるために【姫】様が力を与えたかせ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 218 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:16:09.79 ID:8EnUresk0
- そして、その闇の後ろから声が聞こえた。
声の主「やっと来たな、月神の血を引く娘と、そのお仲間どもよ―」
その声は、忘れもしない―。
鈴鶴・ヤミ「……カショ!」
わたしの父の仇であり、ヤミの仲間の仇であった。
- 219 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:20:14.03 ID:8EnUresk0
- その後ろには、もうひとりの月の民の男が佇んでいた。
鈴鶴「あなたは、仏のシャクハツというやつかしら」
男「…シャクハツは、首を刎ねられて死んでいた
あの女を捕らえたはいいが、残念なことだ」
シャクハツ―わたしの母、【姫】をさらった男。
どうやら、すでにそいつは故人だという。
鈴鶴「では、誰だ」
男「わしは、玉石のホーライ―
おぬしらを倒して、ここに沈みし黄泉剣を会得する
…カショが引継ぎし、リュウシュの望みを達成させる」
ざっ、ざっ…
その言葉が終わるとともに、その後ろから人間の男たちが集まってきた。
- 220 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:23:14.75 ID:8EnUresk0
- シズ「人海戦術か―
確かに、海が舞台だが」
冗談に聞こえない言葉をシズは云う。
ホーライ「ほっほ
まぁこれだけいれば何とかなるじゃろ…
この男らの原動力は富と女じゃからな」
フチ「吐き気がするような原動力ね」
カショ「フン、オレは何を使おうと覇者になるんでね」
しばらくの沈黙――。
そして。
ヤミ「鈴鶴様、行きましょう」
鈴鶴「そうね
こいつらを、倒さないと」
その沈黙を破って、戦いの火蓋は切って落とされた。
- 221 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 01:23:30.49 ID:8EnUresk0
- 今日はここまで。
- 222 名前:きのこ軍:2014/12/09 23:31:23.81 ID:TpICAZnso
- 緊迫した展開になってきた。おつだぞ。
- 223 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:37:47.74 ID:8EnUresk0
- カショ「フン、面白い…
かかってこい、あの男とあのアマの娘よ!」
カショは、太刀を抜き、わたしに向けた。
そして、その後ろには無数の男ども。
ヤミ「鈴鶴様、助太刀します」
ヤミも、わたしの後ろについてきた。
カショを倒すべきなのは、その仇討ちをしなければならないわたしたちなのだから。
シズとヤミは、ホーライと、残った男どもの相手に向かった。
- 224 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:43:53.48 ID:8EnUresk0
- 鈴鶴「てゃーっ!!」
カショ「せいっ!」
太刀のぶつかる音が聞こえる。
太刀筋を、体全体で避わすことができぬのだから、その太刀の刃で受けるしかない。
わたしの剣術は、刃がなくとも、刃を叩き切ることのできる秘剣を持つ。
父から、シズから学んだ、剣術。
シズは、この剣術を月影黄泉流(つきかげおうせんりゅう)と呼んでいた。
わたしはその月影黄泉流で、カショの太刀を受ける。
けれども、カショはそれほどで倒れるほどの猛者ではない。
わたしにこの剣術を教えたシズが唸るほどの、わたしの父を倒した男。
金属音が響く。
- 225 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:47:43.95 ID:8EnUresk0
- ヤミ「鈴鶴様の邪魔はさせませんっ!」
ヤミは、羽団扇を持ち、高下駄で飛びながら、わたしを狙う男に真空の刃を飛ばす。
男1「ぐぁ!」
男2「ぐべっ!」
男3「あがぁああっ」
真空の刃はわたしに近付く男は飛ばされてゆく。
けれど、その男たちは死なず。
月の血を引く月の民の男どもの同胞なのだから、ただの人間よりも丈夫であろうから。
ヤミ「鈴鶴様、今は耐えていて下さい」
ヤミの声を後ろに、わたしは太刀と太刀をぶつけあう。
- 226 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:50:29.44 ID:8EnUresk0
- カショ「そらそらそら!
ちぇーっ!」
鈴鶴「っ―」
カショの太刀がわたしの肌を少しずつ斬る。
けれど、これしきの痛みで負けてたまるものか。
わたしは負けず、浅くとも一撃をぶつける。
ホーライの相手をしているシズとフチも、苦戦しているようで。
フチが海の水から、砂浜の砂から式神を多数呼んでいるにも関わらず。
その男どもの量は尋常ではないほどで、その丈夫さも尋常ではなかった。
- 227 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/09 23:54:37.29 ID:8EnUresk0
- カショ「ぬぅ!」
わたしの剣筋がカショの太刀を捉える。
月の太刀は、この国にある太刀よりも硬く、欠けない強靭さを持っている。
けれど、わたしの一太刀が、カショの太刀の刃を吹っ飛ばした。
あの修行で会得した技のように。
わたしの太刀の姫百合が、そよそよと揺れる。
鈴鶴「とりゃぁーーっ!」
カショ「…ち
あの女がいるから使いたくはなかったが、仕方ねえっ!!」
鈴鶴「…熱ッ!!」
わたしの手の甲に、熱さを感じた。
その痛みが、太刀筋をそらさせる。
首狙いの太刀筋は、虚空を切った。
- 228 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:00:09.01 ID:SGwMn2D20
- カショ「危ない危ない…
オレは、火鼠という通り名を持っていてな…」
鈴鶴「くっ、手に火をつけたな」
カショ「あのアマに火を使われるとまずいから、すぐ消したがな…」
そしてカショは、火を織り交ぜながらわたしの太刀と対抗する。
フチ「くっ、あれもなんとかしたいけれど…
こっちを何とかしないと、ね!」
シズ「鈴鶴とヤミを信じるしかないっ」
シズとフチは、ホーライと男どもと戦っている。
シズが男の首を跳ね飛ばし、フチが式神で援護をする。
ホーライの通り名は玉石―
その石のごとき堅固なる硬さで、身を守っている。
それをおびただしい数の男が護っているのだから、手を出せない。
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- 229 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:01:48.98 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴「ぐっ、炎が邪魔だっ!」
フチの邪魔はないと踏んだカショが、わたしに炎を寄り合わせた剣で切りかかる。
この剣では打ち合いすらままならない。
わたしは、防戦一方になっていた。
カショ「そこだっ!」
鈴鶴「しまっ……!」
わたしの胴体めがけて、炎の剣が飛んでくる。
- 230 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:06:29.22 ID:SGwMn2D20
- ヤミ「鈴鶴様ァァァーーーッ!!」
ヤミが、そこめがけて小さな嵐を飛ばした。
カショ「な…くそっ、貴様全滅させたな!」
ヤミ「いくらやつらが硬かろうと、首を連続して飛ばせば一撃ですから」
カショ「己ェーーーッ!」
カショは、邪魔な風のほうへ、体を折り曲げ。
その一瞬――。
その一瞬を、わたしは見逃さず。
手首を切り裂く。
カショ「な―」
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- 231 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:07:49.65 ID:SGwMn2D20
- そしてシズとフチのほうも。
男どもは、あらかた片付いていた。
ホーライ「カショ――!」
その一瞬の目を、シズとフチは逃さず。
ホーライ「がは―――!」
首を刎ね、胴体を握りつぶした。
- 232 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:10:14.87 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴「―倒した、かしら」
あたりには一面の死体。
月の民だろうと、ここまでやれば死は免れぬ。
ヤミ「―みたい、ですね」
シズ「―そう…だな」
フチ「ちょっと、休もう――」
わたしたちは、近くの森で少し休むことにした。
死体の山の砂浜で休むのは、流石に休めないと感じたからだ。
戦いに集中し、気がつかなかったが、わたしたちは相当に疲弊している。
少しの休息がないと、黄泉剣の封印はままならないだろう。
- 233 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:12:38.42 ID:SGwMn2D20
- がさっ。
草の揺れる音がした。
突然、わたしの後ろの草陰から、生き残りの男がわたしを掴んだ。
ヤミ「鈴鶴様!!」
鈴鶴「!」
男「よくも、カショやホーライや仲間をぉ!
オレを攻撃すれば、この女を殺すぜ」
その男は、短刀をわたしの首に近づける」
シズ「ぬ…」
フチ「しまった、うかつだった」
- 234 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:14:56.47 ID:SGwMn2D20
- 男「ほーう、この女は鈴鶴というのか
なかなかの上玉だ―」
男は舌なめずりをして、次の言葉を告げた。
男「フハハハ、この女の身体をもらう!
少しでも動いてみろ、この女は殺すぞ!!」
ヤミ「卑怯な…」
ヤミは、ぐっと拳を握り、その男を睨む。
けれど、わたしの命が賭けられてしまっている。
そして、わたしたちの身体は疲弊しきっている。
ああ――。
そして、男がわたしの衣に手をかけ―。
- 235 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:19:29.77 ID:SGwMn2D20
- ずばっ。
男「な!?」
その男は首と胴体がもげながら、吹き飛んだ。
鈴鶴「え、え?」
わたしは何が起こったかわからない。
いったい、何が―。
フチ「鈴鶴、あなたの―」
ああ―。
わたしには、もうひとりなかまがいた。
それは、仲間というよりは、守護霊である鬼である。
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- 236 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:20:26.74 ID:SGwMn2D20
- 月はまだ空にある。
わたしたちは船を組み、海の上を漂い、漂って―。
- 237 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:21:10.79 ID:SGwMn2D20
- ごぼっ、ごぼっ。
わたしの身体が、一瞬沸騰する感覚に陥る。
左手が、熱されたように熱く感じ―。
左手が、ぶるぶる震えて。
海が、ごぼごぼと、徐々に大きく音を、泡を立てー。
ばしゃあっ―。
黄泉剣が、わたしの左手に、引き揚げられた。
- 238 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:23:08.82 ID:SGwMn2D20
- 黄泉剣は、その鍔に瞳のような宝玉がつき、その柄には紐で結ばれた勾玉のつく、月のような青白い剣だった。
持っている感覚は、神が宿っているという剣だからなのか、とても恐ろしく感じた。
鈴鶴「その、これを、封印すれば、いいのね…?
すごく、持っているだけで、嫌な感じがする
けれど、何処に?」
その場所は、いったい何処に―。
- 239 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:25:23.92 ID:SGwMn2D20
- シズ「…元は、月の海に沈められていた、と聞いたことがある
この海に、再び沈める」
鈴鶴「それじゃあ、元の木阿弥じゃないかしら?」
わたしは、この恐ろしい剣を持って、そんな安直にしていいのかと訊く。
いくら、封印があるからといって―。
フチ「大丈夫…
神の血を伴った封印で、尚且つ易々と手を出せない場所に封じ込めるの
そうなれば、見つけることは難しいし、仮に見つかったとして、月神の血がないと封印は破れないからね
また、分かる場所ならば、まずないけれど引き揚げられてもそれに対処しやすいから」
ヤミ「なら、大丈夫ですね
では、鈴鶴様、封じを―」
ヤミはわたしの胸に、指の足りない―けれど、それが当たり前の左手を指し、頷いた。
- 240 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:29:53.50 ID:SGwMn2D20
- わたしは、フチに習ったとおりに、剣に念を、術を、文言を、祈りを、血を込める。
鈴鶴「我は月神の血を引く、月神の末裔なり
黄泉剣よ、月神の欠片よ、再び此の海に沈み給え!
二度と何者が手にとらぬように!」
いくばくかの時が過ぎ――――――――――。
黄泉剣は、海に引きずりこまれてゆく。
黄泉剣が、誰かに引きずり出されないように、わたしの血の封じが働いていることを実感しながら、それを見つめる―。
黄泉剣は、海の中に沈んでいった。
海の底に、誰も見ることができないように、その姿を消していった。
- 241 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:31:21.24 ID:SGwMn2D20
- わたしたちの、成すべきことは終わった―。
ああ、なにもかも―。
鈴鶴「終わった…」
ヤミ「仇も討ち、黄泉剣も封じましたね」
シズ「―さて、住処に帰ろうか」
フチ「やつらの残党がいるかもしれないから、注意しながら、ね」
- 242 名前:【第三章 黄泉の彼方に】:2014/12/10 00:33:29.46 ID:SGwMn2D20
- 海岸に戻ったときには、すでに日の出であり。
鈴鶴「もう、朝か…」
ヤミ「あっというまでしたね」
そう呟きながら、家路へ向かう。
道中、なにごともなく。
家路へ辿り着いた。
これからどうするかは、ただこの生をずっと享受し、4人で生きていこうと決めた。
月日は流れる。年月は過ぎる―――。
- 243 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:51:22.37 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴の太刀
http://dl6.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/530/c05.jpg
【姫】(鈴鶴の母)と鈴鶴が扱いやすい大きさの太刀。
生半なことでは折れない強度であり、切れ味は最高であり、錆びない。
黄泉剣
http://dl6.getuploader.com/g/kinotakeuproloader/531/c06.jpg
鍔に眼球のような宝玉がはまった、月の女神の剣。
それに振れたものは、おかしくなるという噂あり。
また、これの刃には、月の民が触れると、その剣に食われてしまうようだ。
この剣は、海の干満を操ったり、斬撃の刃を飛ばしたりできるらしい。
また、柄についている勾玉からは、不思議な力を感じるとか。
これにまともに触った者はいないので、どんなものかははっきりとは分からない。
- 244 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:53:50.70 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴の鬼
鈴鶴を守る守護霊。
鈴鶴が男の手により、強姦など、性的暴行行為などを受けそうになると神速でその対象を殺す。
鈴鶴の意思ではできない。また、性的暴行ではない行為(鈴鶴をただ普通に殺す場合)には守らない。
また、女相手では無効。
その力強さや早さは、とてつもない強大な力である。
- 245 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:55:56.13 ID:SGwMn2D20
- 仏のシャクハツ
【姫】をさらったが、よくわからないうちに死んでいた。
玉石のホーライ
硬化能力を持っていたが、カショの死に動揺した隙に死んだ。
火鼠のカショ
火を操る能力、ならびに剣の達人。
鈴鶴とヤミと戦い、死亡。
龍の首のリュウシュ
月を壊滅させた張本人。
すでにシズとフチが殺している。
- 246 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:58:39.29 ID:SGwMn2D20
- 鈴鶴たちの衣装について
ヤミがそれを繕ったりしている。
裁縫は鍛冶はできるが家事が出来ないシズ以外ができるが、ヤミのそれがいちばん上手い。
破れたところを、丁寧に直している。
鈴鶴は他に術を使えるか?
―使えない。ただし、前述した守護霊の鬼が存在する。
- 247 名前:【アイキャッチ】:2014/12/10 00:59:08.63 ID:SGwMn2D20
- 次回の四章が最終章である。
- 248 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:28:02.24 ID:WYPh5sKc0
- わたしたちは、やるべきことを果たした。
わたしたちは、永久に死ぬ事なき変若水の血のおかげで、ずっとずっと生きている。
わたしたちは、いろいろなものを見てきた。
わたしたちは、いろいろなものに触れてきた。
- 249 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:34:15.67 ID:WYPh5sKc0
- 此の国の世の流れは、わたしたちの生よりもずっと慌しく。
支配者は移り変わり、世の空気も移り変わり。
わたしたちは、住処にいたり、ときには野宿したりしてその浮世を見つめる。
其処に介入はしない。
わたしとヤミは、月の民の血と力を受け継ぎし者。
シズとフチは、月の民。
太陽の民―この青き星の、此の国の民とは、できるだけ関わらないように。
悪鬼によって、人が襲われるなら、こっそり助けるけれど。
- 250 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:36:23.78 ID:WYPh5sKc0
- わたしたちは、いろいろな事柄を会得した。
知識であったり、武術であったり―。
毎日の稽古は欠かさず。
それが、わたしたちの日常なのだから。
- 251 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:41:10.49 ID:WYPh5sKc0
- 年月は過ぎる。
わたしたちが出会ったときから、十の年。
わたしたちが出会ったときから、百の年。
そして、千代の年が過ぎてゆく。
この国も、外つ国に混ざりあい。
重なる戦禍、焼け、燃える国。
それすら越えて、50の年を越して―。
- 252 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:42:51.86 ID:WYPh5sKc0
- そんな、あるとき――。
それは、満月の夜―。
わたしの身体に、ぞくりとくる何かの感覚が走る。
そしてそれは、他の三人も感じたことであった。
鈴鶴「何…この感覚…
左手が、凍るような、燃やされるような…」
シズ「な…」
フチ「…そんな、まさか…」
シズとフチは、驚いた表情で、震え―。
ヤミ「―」
ヤミも、息を殺してその気配を見つめ。
その答えは―。
- 253 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:43:42.66 ID:WYPh5sKc0
- シズ「黄泉剣の封印が―」
フチ「解かれようと―――」
わたしが封じた、あの剣の封印が―?
けれど、永久に解けないと―。
シズ「何故なのかは、わからないが…
早く行かないと、不味いことになる!」
- 254 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:45:33.19 ID:WYPh5sKc0
- ヤミ「行きましょう、一刻も早く!」
鈴鶴「ええ」
わたしたちは、あの剣を封じた、あの場所まで―。
悪寒に耐えながら、その場所まで―。
技術が発展し、足となる車が出来ていたのが救いだった。
わたしたちが、あの砂浜に辿り着いたとき。
そして、そこにいたのは―。
わたしの、わたしたちの目を疑うような―。
- 255 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/11 00:47:24.84 ID:WYPh5sKc0
- 今日はここまで。
- 256 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:32:12.47 ID:M5Zgnwdc0
- その剣は、再びこの世に姿を現した。
その剣は、封じを破って、姿を現した。
そして、その剣を持っていたのは――。
鈴鶴「え…?」
ヤミ「…どういうこと、ですか?」
わたしの父が、あの日と変わらぬ姿で、黄泉剣を持ち、其処に居た。
そして、その傍らには、白髪白肌の男が―。
- 257 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:35:52.94 ID:M5Zgnwdc0
- シズ「そうか、そういうことか……
確かに、わたしたちは其の死体を見ていない―」
そう。
あくまで、それはわたしたちが思っていたこと。
あの場、奴等は敵であり、カショとわたしの父は戦った。
そして、カショは遥か昔に、わたしとヤミで殺した。
つまり、わたしの父はカショに敗北し、死んだものだと思っていた。
けれど。
フチ「…あなたの父を、殺さず―
あなたが封印すると先を読んで、鬼として眠らせていたのね」
わたしが封印した剣は、わたしの血を込めて、封じた。
わたしは、月の女神の血を引く。
その女神の血でもって、その封じを破ることが出来る。
ただ一つの例外。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 258 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:39:46.71 ID:M5Zgnwdc0
- 父「貴様…
これは、どういうことだ
この剣で、鈴鶴たちが封じられているから、引き揚げろ―と」
わたしの父が、黄泉剣を持ちながら男に訊く。
男「わたしの同胞の悲願を達成するためならば、貴様を回収した…
おまえを月の血を持つまでに、千代を越えるほどかかったが…
その努力は今報われた」
父「貴様ッ!」
父がその黄泉剣で斬りかかる。
―――。
わたしの目の前が、白黒に反転した。
- 259 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:41:32.78 ID:M5Zgnwdc0
- 空も、海も、ヤミも、シズも、フチも、わたしの父も固まっている。
鈴鶴「え――」
男「悪いが、用済みだ」
男は、黄泉剣を固まったままの父から奪い取り、そして―。
男「はっ!」
その心臓を一突き―。
そしてその時、目の前の景色が再び色を取り戻した。
- 260 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:44:28.48 ID:M5Zgnwdc0
- 父「ぐふっ―」
父は、その場に倒れた。
赤い血が砂の上を染めた。
ヤミ「――!?」
シズ「どういうことだっ!?」
フチ「一瞬で、動いた―!?」
わたし以外の三人は、その白黒の世界を認識していないようで―。
鈴鶴「そんな…」
そして、わたしも、突然の事態でそれをただ見つめていた。
そして。
男が、わたし達のほうを向いた。
- 261 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:48:32.49 ID:M5Zgnwdc0
- 男「わたしは、燕のショウアン…」
ショウアン「月の女神の血を引きし娘―
そして、その同胞―
死んでもらう」
そして、ショウアンがわたしたちへと近付いてきた。
シズ「くっ、倒さねばならないか」
フチ「黄泉剣持ちの狂い人、くっ―」
ヤミ「兎に角、あの素早さに負けないだけの量で攻撃しないと―」
目の前にはとてもとても恐ろしい存在がいる。
月の神―月の女神の欠片を持つ男がひとり―。
- 262 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:50:28.18 ID:M5Zgnwdc0
- ヤミ「鈴鶴様、奴の動きで何か気になったことは」
ヤミがわたしに問う。
そして、白黒の世界のことを話した。
シズ「ちっ、わたしたちを止めるということか―」
フチ「強引に、数と気力でどうにかするしかないわね」
わたしたちは、迫り来るそのショウアンへ武器を構える。
ここで倒さなければ、いけない。
- 263 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:51:53.54 ID:M5Zgnwdc0
- わたしたちは覚悟を決めた―。
太刀が振るわれ。
嵐と式神が吹きすさび―。
けれど、それをショウアンは、黄泉剣での攻めでいなす。
- 264 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:53:09.74 ID:M5Zgnwdc0
- 四対一であるのに、互角の戦いで―。
ショウアンは、黄泉剣に念ずる。
剣が、潮の満ち引きを荒ぶらせ―。
そして、その力を持ってして、男は斬りこんで来る。
それでも、フチの水の式神が、それを阻む。
わたしの父の身体は、とうに海へと流れていった。
- 265 名前:【第四章 百合神の彼方に】:2014/12/12 00:56:20.96 ID:M5Zgnwdc0
- そして―。
ショウアン「そこの月女神の娘は知っているようだな…
まあ、夜の世界を操る神だから、な―
まあ、見えたところでどうしようも、ないが…」
ショウアンが、高波をわたしにぶつける。
その衝撃で、私の身体はショウアンから離れるように飛んで行き―。
そして。
再び、世界が白黒の世界に染まった。
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