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S-N-O The upheaval of iteration
- 1 名前:SNO:2020/08/14(金) 23:03:59.555 ID:nQ7ybU.E0
- 数多くの国が生み出す世界。
かつては個々の国が独自に作り上げた文化は、やがて国々が混じり合うことで発展と変容を遂げた。
やがて……世界の理は、とある研究者によって見出されることになる。
きのことたけのこのような、二つの陣営が争うことによって世界が発展する物理法則を……。
初めは懐疑的に見られていたその理論は、ある出来事を経て証明されることになり、
この物理法則は、世界を発展する礎となった。
――その法則をコントロールする組織は【会議所】と呼ばれ、
――その法則をコントロールする行事は【大戦】と呼ばれていた。
【大戦】では、人々が兵士となり日々戦いを続け…【会議所】では、さらなる世界の発展のための活動が行われていた。
――また、【大戦】の内外で、様々な思惑が働いていた。すべてを把握することができないほどに……。
これは、世界に翻弄されながらも、真実に向かう4人の女性の物語。
目覚めた乙女たちの見る世界は――光か、陰か、あるいはその狭間か。
様々な要素が複雑に織り成す世界で、彼女らが辿り着くのは実か虚か。
交差する陰陽の中で、今乙女たちが目覚める……。
ワタシガ 見ルノハ
真 偽 ト
虚 実 ノ
世 界
- 503 名前:Route:B-7 コンフェッション:2020/11/16(月) 22:25:00.042 ID:wi6NAtM.0
- でも、不快ではない。むしろ……苺に、わたしも溶け合いたい。そう思ってしまう。
この10日間、一人で閉じこもり続けていたから?
……そういえば、読んだことのある小説の中に、女の子どうしがキスをしている場面があったような気がする。
……その場面も、すれ違いを経ての仲直りという経緯があった気がする。
どうしよう……そう思ったけれど、考える前に身体が動いていた。
瞿麦
「んっ」
苺
「――っ?!」
思わず――苺の柔らかい唇に、口づけをしていた。
とても……恥ずかしいことをしている。そう思ったけれど、もう止める事が出来ない。
そうだ――きっと、わたしは苺が好きなのだ。
数年、一緒に過ごして……家族のように思っていたけれど……
実際は、少し違った形で好いているのだと、その時悟った。
苺
「んんっ――」
わたしが、気まずさに離れようとしても、苺もまたわたしをしっかりと抱きしめていた。
柔らかな唇の感覚……密着する肌の温度……。
身体と心ふたつが、融合しているようにも思える、温かな時間。
今、わたしたちは、それらを共有しあっている……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 504 名前:SNO:2020/11/16(月) 22:25:20.641 ID:wi6NAtM.0
- やっと百合SSっぽくなったんじゃね?
- 505 名前:きのこ軍:2020/11/17(火) 07:00:27.953 ID:yq8QQeFso
- ずっといちごちゃんだと思って読んでた。
- 506 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:12:19.417 ID:UP8OcPNo0
- ……それから、どれだけ経っただろう?
わたしたちは手を繋ぎながらキッチンまで歩き、向かい合って椅子に座った。
瞿麦
「……苺ちゃん、聞いてほしいの」
苺
「なあに?」
瞿麦
「……わたし、兄さんからの手紙を読んで、ひどく動揺したの」
少しおどおどしながらも、わたしは答える。
苺
「……なんとなく、分かってたよ」
その答えに、苺はどこか悟ったような優しい声色で返してくれた。
瞿麦
「……今でも、この先が読めないの」
そう言うと、わたしはくしゃくしゃにした手紙を苺に渡した。
- 507 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:17:36.412 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「いいよ、瞿麦ちゃん」
くしゃくしゃの手紙を丁寧に広げ、苺は手紙を読み始めた……。
苺
「瞿麦へ
――何年も、会えなくて申し訳なかった」
苺
「あの事件があってから、フェルミ家という理由で狙われる……そういった可能性もあり、
名前と姿を変え、会議所で兵士として過ごしてきた」
苺
「それは、彼女を救う為でもあった」
――わたしは、その文面で頭痛を覚える。
瞿麦
「――っ」
苺
「だ、大丈夫っ?瞿麦ちゃん?」
痛みに顔をしかめるわたしに、心配そうに告げる苺。
しかし、わたしはこの痛みに耐えなくてはいけない。
瞿麦
「大丈夫――だから、続けた」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 508 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:21:58.646 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「……彼女――澄鴒(すみれ)は、生きている
目覚めの時を待ちながら、永い眠りについている」
苺
「澄鴒を目覚めさせるには――ユリガミを探してほしい
行方の知らないユリガミを顕現させることが、彼女の目覚めに繋がる――」
苺
「……アイローネ・フェルミ」
苺
「……これで、終わりだよ」
わたしの表情を伺いながら、苺は首を傾けて答えた。
瞿麦
「……ありがとう」
ぺこりと、頭を下げる。
わたしの心が嫌がった、手紙の続き――要約すれば、
【彼女】――澄鴒を目覚めさせるために、ユリガミを探してほしい――そういう内容だった。
そんな短い文章が、わたしがいさかいを起こしてまで隠したかった内容だったの……?
瞿麦
「っ……あははは」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 509 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:25:12.573 ID:UP8OcPNo0
- 苺に背中をさすられているうち、気分も少し戻ってきた。
瞿麦
「……うん、大丈夫
ありがとう、苺ちゃん」
苺は、ほっとしたようにわたしに頷いた。
わたしの妹――その名は澄鴒=フェルミ。
同時に、兄さんにとっての妹……。
……でも、名前しか思い出すことはできない。
彼女が何処にいるのか?それは、わからない。そもそもどうして居ないのか、それもわからない。
わたしがここまで動揺してるのには澄鴒と何かがあったからに違いないのだ。
瞿麦
「ぁ……」
――目覚めの時を待っているという文面について考えようとする。
でも、ずきずきと頭が痛むだけで、なにも思い浮かばなかった。
苺
「――思い出せないの?
でも、無理に思い出してはだめだよ――ゆっくりと、焦らずにいこう」
どこまでも、苺は……わたしに、寄り添ってくれていた。
- 510 名前:Route:B-7 リライン:2020/11/17(火) 21:28:08.140 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「……でも、瞿麦ちゃんが立ち向かうのなら、ぼくは協力するよ
辛い時は、ぼくが横にいるからね」
ぎゅうっと、僕の手を握る苺の顔は、柔和な微笑で……
わたしの中から欠損した何かを埋め合わせてくれる感覚があった。
瞿麦
「うん」
だから、わたしは頷くとともに、ある気持ちを心に灯した。
【彼女】に――わたしの妹に――澄鴒について――わたしは立ち向かい、思い出すことが出来るようにしよう――と。
そう思うと、どこかすっきりした感覚がある。
同時に――わたしの中に、自信が生まれた。
苺
「それはそうと、今日は【月輪堂】に行く日だね
瞿麦ちゃんは、大丈夫?」
瞿麦
「うん、大丈夫
一緒に行こう、苺ちゃん」
わたしは、力強く頷いた。
- 511 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:32:35.697 ID:UP8OcPNo0
- ――【月輪堂】では、少し心配した顔の縁さんが出迎えてくれた。
縁
「こんにちは――色々トラブルがあったって苺から聞いていたけれど、大丈夫だったの?」
苺
「はい、もう大丈夫です
ご心配をおかけしました――」
……わたしは、頷くだけ。立ち向かう――そう決めても、すぐに行動が変えられるわけでもない。
それでも、少しでも変わるために……わたしはなんとか会話に参加する。
瞿麦
「わたしの、妹のことで……少し、トラブルがあったんです」
――自信が生まれても、まだ苺以外と話すのには苦手意識がある。
それでもこうして積極的に会話できている。大丈夫……この調子でいこう。
縁
「そっか……」
――縁さんは、腕を組み、指をトントンと叩かせて何かを考える様子を見せて……。
縁
「あたしたちの方でも、協力できそうなことは協力するわ」
しばらくしてから、そう言葉を続けた。
- 512 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:34:42.970 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「その前に、今日の作業をやってから考えましょう」
瞿麦・苺
「はい」
見慣れた、縁さんの式神が、いつも通りに部品を運ぶ。
そして手渡される検品リスト……何度も繰り返したから、この工程ももう慣れている。
……それから、わたしたちはいつものように作業をこなし、晩御飯をごちそうしてもらった。
- 513 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:37:10.349 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「前にも言ったけれど――顧客からいろいろ情報を聞くこともあるから、情報を集めることもできるの」
瞿麦
「はい」
縁
「ええ――納入の時に、世間話をするんだけどね……」
静
「私よりも、縁の方が詳しいかな……
ある程度なら答えられると思うが……」
縁
「確かに、あたしの方がお客さんと話すからねぇ、でも静に助けてもらうことだって多いよ?
まぁ……それは置いておいて、いろいろとお話ししてるからいろいろな情報も集まるの
まぁ精査できてないから、完全に信じてはいけないよぉ?」
静さんと縁さんは、お互いを補い合っていることは、この会話の節々からも分かる。
……わたしと苺も、そうなれるのだろうか?
今の間は、わたしが、苺に助けられている割合の方が多いけれど……。
- 514 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:37:56.100 ID:UP8OcPNo0
- ――そして、わたしは兄からの手紙について、その内容を伝えた。
縁
「――ユリガミを探せ、ねぇ
あなたのお兄さんも随分無茶を言うのね」
少し呆れたように、縁さんは言った。
その口ぶりからは、何かを知っているようにも見える。
瞿麦
「……ユリガミを、知っているんですか?」
――驚くぐらい、積極的に質問をできた。
わたしが向き合うべき問題だから、できたのかな?
内面は、少しずつ変わっているのかもしれない。
縁
「ふふ、貴女にこうやってストレートに話しかけられるのは珍しいわね
――それはそうと、ユリガミについて……まぁ、色々と知ってはいるわ」
- 515 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:40:10.779 ID:UP8OcPNo0
- ――ユリガミ。
その言葉には、何故か聞き覚えがある。……どこで聞いたのかは、さっぱりと思い出せないけれど。
苺
「ユリガミ――って、いったいどんな存在なんですか?」
縁
「――昔から、この明治国をさすらう黒髪の乙女……
困った人――主に女の子だけど、男も助けるって噂されているわね」
――なぜかは分からないけれど、その噂は本当のように思えた。
縁
「そして、めっぽう強い太刀の達人で、古武術も同じぐらい強いとか――」
苺
「【会議所】にも、強い兵士は多いって聞きますけど……それと比べるとどうなんですか?」
苺は、大戦を見て、素晴らしい動きをした兵士を大喜びで褒めることも多々ある。
わたしと違って、大戦観戦に熱中する苺らしい質問でもあった。
縁
「ユリガミの方が強いんじゃないかしら?
【会議所】にも、古武術の――確か、戦闘術魂、だったかしら?ともかく、達人がいると聞くけれど、
彼でも敵わないでしょうね……まぁ、あの子なら行けると思うけど」
目を瞑り、思いを馳せながら縁さんは語った。
- 516 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:41:22.321 ID:UP8OcPNo0
- 苺
「なんだか、神話で語り継がれていたり……都市伝説の中にいたり――そんな感じですね」
苺は、お茶をすすりながら答えた。
瞿麦
「……女の子の味方で、とても強い――ユリガミは、どこにいるんですか?」
わたしは、食いつくように訊ねた。
縁
「積極的になってきたのね……いいことね
――ユリガミは、あくまでも、噂よ?
どこにいるかは分からない――それこそ、実在したとして、近くに居るかもしれないし、遠くに居るかもしれない」
両手を広げ、おどけたように縁さんは答えた。
瞿麦
「わたしは、ユリガミは居ると思います」
――わたしは、ユリガミは実在すると思っていた。
それはわたしの奥底でそうだと言える自信があった。
直感のようなもので理知的なものではなかったけれど、確かにそうだと心が結論づけていたのだ。
- 517 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:44:59.564 ID:UP8OcPNo0
- 縁
「……まぁ、信じるのは大事ね
信じるとは――人が言の葉を紡ぐと書く……すなわち、言葉を紡ぐこと自体が、行動に繋がっているもの」
わたしの言葉に、縁さんはふふっと微笑みながらそう答えた。
苺
「……少なくとも、今の手がかりはユリガミ、って人?みたいだから
僕も瞿麦ちゃんの意見に賛成です」
――苺もわたしの言葉に肯定的だった。
それが、わたしが立ち向かおうとする気持ちをさらに高めてくれる。
瞿麦
「どうやったら、ユリガミに辿り着けると思いますか?」
静
「……ここでも、ある程度の情報は集まるが
やはり、様々な情報が集積されているとすれば――【会議所】ではないだろうか」
――【会議所】。静さんの発言は、的を射ているように思える。
世界の中枢として呼ばれており、wiki図書館と呼ばれる巨大な図書館も設けている。
様々な国から、住民も流入し、様々な企業の協力もある。情報量としては最大の規模を誇るだろう。
縁
「まぁ、あたしの意見も静に同じだけど――さっき言ったみたいに、どっちが真で偽なのか、判断しないとだめよね
自分の望みどおりの情報を、頭でっかちに信じ続けるのは危ないでしょうから」
静
「あの場所に居る兵士は、名前や性別や経歴を偽っているかもしれないしね」
- 518 名前:Route:B-7 ヒアセイ:2020/11/17(火) 21:50:33.754 ID:UP8OcPNo0
- 瞿麦
「……なるほど」
――ふたりの意見も、最もだ。
わたしは――情報を取捨選別して、真実――すなわちユリガミに辿り着けるのかな?
……そんなことを考えていると、顔が強張っていた。
静
「瞿麦――難しい顔をしているところ、すまないが
きみなら、きっとたどり着けると思う」
縁
「そうね……ここでの仕分け作業を見ててもそうだけど、
瞿麦にはそれだけの能力は備わっていると思うわ」
苺
「うん、僕もそう思うよ、瞿麦ちゃん
毎日本を読んでるのあるよね?」
――そんなわたしに、三人が励ましてくれた。
瞿麦
「ありがとう――ありがとうございます」
わたしは感謝の言葉を伝えた。三人の言葉は決意の手助けへと昇華されたから。
澄鴒を、助け出す為に動く――その決意への後押しになった、お礼の言葉。
その言葉を紡いでいる間にも、わたしの中で前向きに進む明かりが灯った気がした。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 519 名前:SNO:2020/11/17(火) 21:50:49.457 ID:UP8OcPNo0
- 大きく動き出したかも?
- 520 名前:きのこ軍:2020/11/18(水) 09:25:52.187 ID:F296qGuso
- こんなに早くユリガミ様が出てくるとは意外ですぜ。
- 521 名前:Route:B-8:2020/11/18(水) 23:06:27.152 ID:1eea.BLg0
- Route:B
2013/4/26(Fri)
月齢:15.7
Chapter8
- 522 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:09:08.674 ID:1eea.BLg0
- ――――――。
わたしは、あれから、会議所で何を調べるのか。
どうしたいのか……そんなことを、ノートに書き連ねたりしていた。
やはり会議所への足は誰かの手伝いがあった方がいいだろうか?
調べるにしても、どのような観点から調べるか?
準備もなく行くのは、愚行であることは言うまでもないから。
瞿麦
「……明日の、【大戦】が、中止?」
そして今日……CTVを付けたわたしの耳に飛び込んできたのは、そんな情報だった。
【大戦】は諸事情で休戦する場合もある。だが、そうそう休戦するものでもない。
これは珍しい事態だ。
アナウンサー
「【嵐】のテロ予告により、大戦場に【嵐】の兵士たちが来る可能性もあり……」
アナウンサー
「【会議所】ではその対応に追われ……」
苺
「……今、【嵐】のターゲットにされているんだね」
沈んだ様子で、苺は呟いた。
……確かに、【会議所】でユリガミの手がかりをつかもうとする――
そんなタイミングで、【会議所】を標的にしたテロ行為が起きたのだ。そうなるのも無理はない。
- 523 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:12:36.767 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「……」
映像には、【大戦】の舞台――大戦場で暴れまわる【嵐】のメンバーたち。
――すべて、男。銃を撃ち、魔術を唱え、辺りの地形をえぐり、対応する兵士たちを挑発している。
瞿麦
「……!?」
わたしは――その映像を見て、心臓が凍りついたような衝撃を受けた。
苺
「っ!」
わたしの様子に疑問を呈した苺も、映像を見て――はたと気が付いた。
そこには――あいつが居た。
悪夢の中で、わたしに襲い掛かった、あいつが……。
- 524 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:13:24.690 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「……うぅ」
……どうして、あいつが居るの?
逮捕されたはず――なのに、どうして、どうして――。
瞿麦
「うぅ、ぅぅぅ、ううぅぅぅぅ……」
苦しみに呻くわたし……。
胃の奥から込み上げるものを感じ、わたしは洗面所へと駆け込んだ。
瞿麦
「げほっ、げほっ、げほっ……」
胃液の酸っぱい匂い――喉が焼ける感覚――そして、鏡に映る青白い顔――。
その後ろで、苺が心配そうな顔でわたしを見ていた。
苺
「瞿麦ちゃん……大丈夫……じゃないよね」
瞿麦
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
苺に背中をさすられながら、酷く息が切らすわたし。
わたしは満足に答えることもできないほどに衝撃を受けていた。
- 525 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:16:27.036 ID:1eea.BLg0
- あいつは、捕まったのに……どうして?
ふと、ある日のニュースを思い出す。
アナウンサー
「速報です、果汁組刑務所に【嵐】が攻め入り、一部の囚人が脱走したとのことです」
……あいつに襲われたのも、今の私の住処も……
果汁組刑務所がある場所も、会議所も……同じ国。
すなわち、あいつを含む脱獄した囚人は、テロ組織に身を移し、会議所を襲ったということになる。
瞿麦
「あいつは――【嵐】のメンバーとして、解き放たれたんだ」
ぼそりと――仮説を呟いて、わたしは恐怖を覚える。
がたがたと震え……歯の根が合わさり、かちかちと音が鳴った。
苺
「瞿麦ちゃん、ぼくが――いっしょにいるから……ね……」
恐慌状態にあるわたしを、苺が後ろから抱きしめてくれた。
けれども、その声は空元気のように思える声色。
わたしの不安な心が移ってしまったのかもしれない。
- 526 名前:Route:B-8 トラウマ:2020/11/18(水) 23:18:17.585 ID:1eea.BLg0
- そこで、そうか―と、気が付いた。囚人が脱獄したニュースを聞いたとき、わたしは奴の顔を見ていたことに。
――けれども、わたしは……深層心理が見ることを拒絶し、そのまま……忘れ去ろうとしていたのだ。
―でも、それは精神を楽にするだけの逃げに過ぎない。
脱獄というとんでもないことをしでかした奴に対し、
忘却して逃げる――その行動は、あまりにも無防備だ。少なくとも、警戒心は必要なのだ。
――怖い。とても、とても怖い。
それでも……前へと向かわなくてはいけない。それは身の安全を保障するためでもある。
そう思うと、思わずこぶしに力が入った。
- 527 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:20:35.456 ID:1eea.BLg0
- ……わたしの、封印された記憶が、漏れ出ていく。
心をふさぎ、糊塗し、目をそらしてきた記憶が……
……どうして、わたしは目をふさいでいたのだろう……。
どうして、わたしは……今の今まで、逃げていたのだろう。
それは、一時の幸せにすぎないのに。
奴が脱獄した――それを認識したとたん、恐怖とともに、不思議と立ち向かう気力が湧いてきた。
ユリガミを探す目的ができたからかもしれない。
ともかく――わたしは、自分自身が隠してきた記憶を認識したのだ。
電流がほとばしる。わたしの中に情報のエネルギーが神経全てを一瞬で走り抜けてゆく。
- 528 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:22:28.847 ID:1eea.BLg0
- わたしは――身体の成長が早い少女だった。
わたしの脳下垂体から生まれたホルモンは、余計なことだが、乳房やら、子宮やらを成熟させていった。
――その、お節介な指令のために……わたしは、必要以上に思い悩んでしまったのだ。
11歳のとき――すでに、母さんは居なかった。
海に沈んで行方不明になった――と父さんからは聞かされていた。
……ともかく、わたしには成熟した身体について、相談できる身内がいなかった。
苺と出会ったのはその時以降だったから、そもそも存在する考慮すらできない。
――そして妹の澄鴒とは、5つも年が離れていたから、当然相談できない。
――せめて、父か兄に相談すればよかったのかもしれない。
……でも、心配させたくなくて、言えなかった。
幼いわたしが取った選択肢――それは、ひどく安直で、愚かで、どうしようもない再悪手だった。
……幼いわたしにとって、学校は楽しい場所だった。
その頃は、太陽の下で遊ぶことも心の底から楽しめ、さらに勉強もできる……
それを支える先生たちは、とても頼れる存在。
そんな環境で過ごせる――それだけで、天国のようにも思えた。
- 529 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:23:11.937 ID:1eea.BLg0
- ――でも、わたしは……担任だった、グローリー・カヴルに相談してしまった。
グローリー
「先生に身体を見せてみなさい――」
今思えば、あいつにとっては千載一遇のチャンスだったのだろう。
わたしが相談する――その行為こそが、飛んで火にいる夏の虫。愚かな獲物そのものだった。
瞿麦
「はい――」
そして――わたしにとって、教師という存在は……頼ることのできる大人なのだと、信じ込んでいた。
そんなことはありえないのに。職業がどうであれ、その薄皮一枚から這い出る感情が、清廉潔白なわけがない。
……それを理解できない子供だからこそ、そうなったのかもしれない。
やがて――わたしは、何かがおかしいと気が付いた。
小児性愛者だった奴に、わたしは体の写真を撮られ――下劣で、にやついた口調で体を触られた。
……下着も下ろされたこともある。わたしは、初めてそうされたとき、そういうものだ――と納得していた。
……何回か奴にそうされて、わたしは疑いを持つようになった。
――その時は、もう引き返せない地獄の中にわたしは居たのだ……。
- 530 名前:Route:B-8 シールド・メモリー:2020/11/18(水) 23:25:11.010 ID:1eea.BLg0
- ……追想したわたしの心には怒りの感情が芽生えていた。
――がたがたと震えていた感情は、どこかに飛んでしまった。
瞿麦
(どうして――欲望を満たすだけの下劣な人間に、わたしは苦しまないといけないの)
瞿麦
(夢の中で、何度も見る吐き気を催す存在――わたしは、奴によっていろいろなものを狂わされたような気がする)
……そうだ、わたしが今ここで生活している理由。
それは――奴を遠因としている。そんな予感があった。
わたしは――どうするべき?
いいや、どうするかは極めてシンプル……兄の手紙の通りに、ユリガミを探すことだ。
――今のわたしには、立ち向かおうとする意志がある。
もう、目を伏せない。まだ思い出せない事柄はあるけれど、それでも一歩一歩進めている。
そのために――わたしは――。
- 531 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:26:57.219 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「わたし、【会議所】に向かうよ」
――わたしは、その結論に至っていた。
わたしはユリガミが信頼できる存在であると知っていた。
だから信頼できる存在を――澄鴒を救う為に必要とされる彼女を探すために、その場所へ向かわなければならない。
苺
「……ぼく個人としては、引き留めたいけれど
瞿麦ちゃん、今の表情……やる気に満ち溢れてる気がするから、止められないな
――こんな瞿麦ちゃんを見てると、なんだか、ぼくも勇気づけられるな」
苺は、不安げにも、少しうれしそうにも見えるようにわたしに言った。
瞿麦
「……ごめんね、今まで……閉じこもり続けて」
苺
「いいの――瞿麦ちゃんは、いろいろな悪意に巻き込まれてしまったから――
ぼくは、ただ寄り添うしかできなかった」
そう言うと、ぎゅっとわたしの腕に絡みつき、愛おしそうにわたしの腕を抱いた。
- 532 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:28:06.318 ID:1eea.BLg0
- 苺
「……ぼくも、ついていこうか?」
瞿麦
「……ううん、これは、わたしが立ち向かわないといけないことだから」
正直に言えば……苺と一緒に行きたい気持ちはある。
それでも、わたしはその選択を取らない……。首を振ってその意思を示す。その理由は、単純明快だった。
苺
「……そっか、そうだよね
僕は――瞿麦ちゃんを支えはしても、その心の中までは、その背景まではわからないから」
瞿麦
「うん……ごめんね」
――そう。苺の言った通り、結局、これはわたしの問題なのだ。
苺は、わたしが経験した出来事を、すべてで知覚はしていない……。
わたしにとってたいせつなそんざいでも、わたし自身ではないから。
苺
「いいんだよ、瞿麦ちゃん
でも、このことは静さんや縁さんにも伝えたほうがいいよね」
瞿麦
「…うん、ここから【会議所】は遠しいし……移動手段をどうにかしないと」
……ややあって、わたしは【月輪堂】に連絡を取ることにした。
- 533 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:29:52.326 ID:1eea.BLg0
- 瞿麦
「もしもし……瞿麦です」
縁
「あら、瞿麦が電話なんて珍しい――どうかしたの?」
瞿麦
「わたし、ユリガミを探すために【会議所】に向かおうと思うんです
――どうやって向かうか、今考えていて」
縁
「そっか、【会議所】に―」
少し心配げな縁さんの声……電話の向こうでどんな表情をしているのだろうか?
縁
「でも、貴女が真実に向かおうとするのなら……できり限りの協力はするわ
きっと、その心持が……これからの人生には必要だから」
それでも、続く縁さんの言葉は、わたしの決意の後押しをしてくれていた。
縁
「それで……足のことだけれど、静にお願いしようかしら?
行きと帰りの足ぐらいはできると思うし」
瞿麦
「はい、それでお願いします」
――とんとん拍子に、話が進んでいった。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 534 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:31:59.159 ID:1eea.BLg0
- 最も、過去を惜しんでも意味はない……今は、できることに向かうだけだけど。
縁
「静に電話を変わるわね――ちょっとだけ、待ってね」
がちゃりという音がしてすぐに電話の相手は変わった。
静
「私だ――話は、聞いていた」
淡々と、短い言葉――それでも、声色からは肯定する様子がうかがえた。
静
「それで――【会議所】へ行く話だが、今は【嵐】の対応で面倒事もあるだろうから、1週間ほど後の5月4日はどうだろうか」
静
「この時勢のためか、納入先が追加されてね……そのついでになるけれど」
瞿麦
「はい、お願いします」
- 535 名前:Route:B-8 デターミネーション:2020/11/18(水) 23:33:48.123 ID:1eea.BLg0
- 静
「では、5月の3日――18時ぐらいに、【月輪堂】に来てもらえたら――と思う」
瞿麦
「はい、よろしくお願いします」
静
「では、また今度」
がちゃりと、電話が切れる。
瞿麦
「苺ちゃん……話、聞いてた……?」
苺
「うん、5月3日だね――じゃあ、荷物とか準備しないとね」
献身的に、苺は荷物の準備に取り掛かろうとしていた。
瞿麦
「うん、わたしと一緒にやろう」
そしてわたしも……1週間後に向けて、出発に必要な準備を始めた。
- 536 名前:SNO:2020/11/18(水) 23:34:49.910 ID:1eea.BLg0
- >>534の5/4は5/3の間違えなので気にしないで。
- 537 名前:きのこ軍:2020/11/18(水) 23:43:32.717 ID:oFRzQ.fUo
- 会議所にいくとか胸アツktkr
- 538 名前:Route:B-9:2020/11/19(木) 22:12:17.052 ID:QXT2JAQM0
- Route:B
2013/5/3(Fri)
月齢:22.7
Chapter9
- 539 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:14:14.955 ID:QXT2JAQM0
- ――――――。
――ついに、出発の時が来た。
荷物はOK。調べることも、メモにまとめてある。大丈夫、問題ない……。
瞿麦
「いってきます、苺ちゃん、縁さん」
苺
「……気を付けてね、瞿麦ちゃん
静さんも、お気をつけて」
静
「心得ている」
縁
「とりあえず、前も言ったかもしれないけれど……
目にしたものすべてが真実ではないわ
都合のいいものだけが真実ではない――それを心に留めておいて」
瞿麦
「はい」
わたしは、力強く答えた。
――手紙に立ち向かう意思を見せてから、わたしは少しずつではあるが、静さんや縁さんとも円滑に話せるようになった。
数年越しの成長といったところだろうか。
- 540 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:15:18.270 ID:QXT2JAQM0
- 瞿麦
「とりあえず、1週間は滞在するって予定ですけど――早くなったり、遅くなったりする場合は……」
静
「まぁ、時間に差異はできるかもしれないが、連絡をくれれば私が迎えに行くよ」
瞿麦
「すみません――」
縁
「気にしなくていいの、若者は年上の手助けに甘んじなさい」
縁さんは、小さな身体を思いっきり張って、わたしたちにアピールをした。
その仕草が、わたしの心を緩ませる――少し気を張りすぎた心に対して、ちょうどいい按排になる。
……わたしにとって、静さんと縁さんの支援がありがたかった。
苺
「……二人が、本当に頼もしくて、僕もほっとして瞿麦ちゃんを見送れます」
縁
「そうね、貴女は瞿麦と出会ってから、ずっとべったりだったものね」
苺
「縁さん、もう……やめてくださいよぉ」
からかうような縁さんの言葉に、苺は顔を赤くした。
その反応は、わたしにとっても顔面をかあっと熱くさせるもので、思わず両手を頬に当ててしまった……。
- 541 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:19:59.594 ID:QXT2JAQM0
- 縁
「やっぱり、貴女たちも仲良しさんね
――静、事故とか起こしたら怒るからね」
静
「もちろんだ、縁――」
【会議所】に行くと決意したはいいものの、このまま辿り着いても夜になることは確実だ。
そのため、たけのこ軍居住地のホテルに宿をとる手筈になっていた。
そのお金は、静さんたちが出してくれている。本当に、二人には感謝してもしきれないほどに支援を受けている。
瞿麦
「……何から何まで、すみません」
ちっぽけなわたしのために、肉親でもないわたしのために――二人は、返さなくてもいいと言った。
ありがたいけれど、申し訳なさも少し残る。
静
「なに……気にしなくていい
それに、きみが何か返すとするならば――それは、きみが真実にたどり着く、それに勝るものはないさ」
瞿麦
「はい」
そんな会話をしながら、わたしたちはトラックに乗り込んだ。
静
「では、行ってくる」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 542 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:24:44.135 ID:QXT2JAQM0
- ……揺れる、揺れる、トラックは揺れる。
過ぎ去る景色を見ながら、静さんが話しかけた。
静
「瞿麦――きみに伝え忘れていたことがある」
静さんの横顔は、凛々しく……わたしは、こうなれるのだろうか――と思いながら、頷く。
瞿麦
「なんですか?」
静
「君の身の保障のことだ……
ボディーガードをつけることにしている――もちろん、信頼のおける人物に」
瞿麦
「そう……なんですか?」
静
「ああ――わたしの信頼する人物に依頼し、信頼できる人材を選択してもらったから、問題はない――」
瞿麦
「………」
突然の話題に、わたしは沈黙することしかできなかった。
静
「きみにとっては知らない人物かもしれないから、不安かもしれないが……
――どうか、信頼してほしい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 543 名前:Route:B-9 デパ―チャー:2020/11/19(木) 22:26:02.917 ID:QXT2JAQM0
- 瞿麦
「あ――着いたんだ」
静
「……とりあえず、到着した
何かあったら、連絡してくれ――仕事にとりかかっているかもしれないから、縁が出るかもしれないが」
瞿麦
「はい、お願いします」
わたしは、静さんに一礼をして、ホテルへと向かった。
背後でトラックが走り去る音が聞こえる――それは、わたしが一人で真実に向かう始まりでもある。
不安は、ある。
それでも――澄鴒のために、わたしはユリガミの手がかりを探さないといけない。
おそらく、兄さんは――わたしが立ち向かうために、手紙を寄越したのだろう。
結果的にはわたしが行動していることを考えると、兄さんの計算力には感服するばかり。
……大丈夫。わたしには、ボディーガードもいる。だから――とりあえず、ホテルで休もう。
チェックインを済ませ、荷物を部屋に置いて――わたしは、部屋の中で1日を終えた。
- 544 名前:SNO:2020/11/19(木) 22:26:23.406 ID:QXT2JAQM0
- 近付いてくる……
- 545 名前:きのこ軍:2020/11/19(木) 22:40:10.138 ID:a3Glqny2o
- 苺ちゃんもついてくればいいのに。
- 546 名前:Route:B-10:2020/11/21(土) 01:38:42.295 ID:uukUlyIg0
- Route:B
2013/5/4(Sat)
月齢:23.7
Chapter10
- 547 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:39:36.559 ID:uukUlyIg0
- ――――――。
次の朝。
ルームサービスで取り寄せた朝食を食べ終えたわたしは、【会議所】に向かおう――そう考えていた。
……が、その瞬間、外で轟音が鳴り響いた。
ホテルのカーテンをめくり、窓の下の様子を見る。
そこには――青い軍服を着た男たちが、街中で魔術を唱えて、あちこちの公共物を攻撃していた。
瞿麦
「!まさか、【嵐】?」
男
「うおおおおおっ!!」
男
「【会議所】反対だ!【会議所】などなくとも理論は通じる!」
男
「ウォオオオオーーー!」
デモクラシー?いいや、これはテロリズム……。
CTV越しではない、実際の戦い――その光景を見ると、震えが出てくる。
大戦を経験したものなら、この事態にも冷静でいられるのかな……。
- 548 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:41:32.032 ID:uukUlyIg0
- 瞿麦
「大丈夫……わたしは、こんな奴らに負けない」
外から音に、わたしは――テロリストの標的にされている場所に行くのだと、改めて思い知らされる……。
実際にその光景を直に見ると、その決意が揺らぎそうになるが……わたしはぐっと拳を握って決意を固めた。
強引に、恐怖を捻じ伏せる。あいつが居るかもしれない。それでも……わたしは、向かわなくてはならない。
誰かが連絡したのか――それから数分後、【会議所】の兵士たちが駆け付けた。
兵士
「居住区での破壊活動は禁止されている!直ちに降伏しなさい!」
男
「おっと、逃げろ!退却だ!」
男
「イェエエエイ!」
兵士が力強い発言すると、まるで想定されていたかのように、男たちは叫びながら蜘蛛の子を散らしたように散り散りになっていった。
こんなに、すぐに退却するなんて……一体、奴らは何を企んでいるのだろうか。
らちが明かずに、部屋に置いてあるCTVをつけようとしたとき……ホテルのアナウンスが聞こえた。
- 549 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:44:50.668 ID:uukUlyIg0
- アナウンス
「只今、【会議所】からの通告がありました
市内での【嵐】の工作活動による外出規制のため、ホテルにお泊りの皆さんは待機していただく――そういった形となりました
まことに申し訳ありません――なお、予定滞在日数を超過する場合の手続きなどは、当ホテルが――」
そんな――せっかく、【会議所】に近づいたのに。
不安になって、わたしは【月輪堂】に電話をかけた。
瞿麦
「もしもし――」
静
「ああ、瞿麦か――ニュースは見ていたが、まさか朝っぱらから【嵐】が来るとは――」
瞿麦
「はい、ホテルが室内待機を命じて、出られない状況下になってます
わたし――【会議所】に行くまで、時間がかかるかもしれないんです――」
静
「それは仕方ない――予定が延期しても、金の方はこっちが持つから安心してほしい
それから【会議所】へ行くのは待機宣言が解かれてからにしたほうがいいだろう――」
瞿麦
「はい」
静
「勝手に外に出ていくと、目立つ可能性もある
とりあえずは、向こうの指示を待ってほしい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 550 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:55:53.855 ID:uukUlyIg0
- 瞿麦
「わかりました――あの、ボディーガードの人は?」
……そこで、素朴な疑問が一つ浮かんだ。
静
「ああ――それについては、心配しなくていいだろう
どんな事態だろうと、きみを守ってくれる」
瞿麦
「うーん………それらしい人は、居ないような」
そう言いながら、わたしはきょろきょろとあたりを見回す――けれども、一人しかいない室内と荷物がそこにあるだけだった。
静
「私と知己であり、かつ戦闘能力の高い人物――その条件で、先方にリクエストしている……
先方の都合もあるから、誰が来るかまでは私の存じ上げるところではない」
静
「しかし……その条件に合致する人物は、すべてきみに不利益をもたらさない
それだけは伝えておく」
――件のボディーガードに姿が見えないことに、やや、不安はある。
けれども、静さんの信頼を込めた言葉は、頷くだけの説得力がある。
瞿麦
「わかりました」
わたしは、大きく頷いた。
- 551 名前:Route:B-10 コンヴィクト:2020/11/21(土) 01:56:28.540 ID:uukUlyIg0
- 静
「何か、聞きたいことがあったらまた連絡してほしい」
瞿麦
「はい、わかりました、ありがとうございました」
静
「ああ――では、また」
がちゃりと、電話が切れる音が聞こえた。
静
「ふぅ――」
わたしは、ため息を一つついて――ベッドの上に身体を投げ出し、ただぼうっと天井を見ていた。
- 552 名前:SNO:2020/11/21(土) 01:56:59.846 ID:uukUlyIg0
- Route:Aと繋がりが……?
- 553 名前:きのこ軍:2020/11/21(土) 11:08:03.985 ID:x8dCU0Ygo
- ボディガード誰だろう
- 554 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:11:17.649 ID:uukUlyIg0
- ……天井を見ながら、わたしはとある記憶を思い出していた。
苺と出会う前の記憶を……。
――それは、ある朝のことだった。
あいつに、日々、日々迫られる、ぐずくずに腐った日々のこと……。
わたしは、誰にも相談できず……かといって逃げることもできず、公園のベンチで座っていた。
瞿麦
(こわい――先生が、こわい――
いやだ、いやだ、いやだ……でも、誰にも――言えない
友達にも、父さんにも兄さんにも――)
鎖で雁字搦めにされたように、わたしには何一つとして道が見えなかった。
――あるいは、視界が狭まりすぎて、その道を認識することさえできなかったのかもしれない。
- 555 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:21:34.681 ID:uukUlyIg0
- ……ふと、わたしに影が落ちた。
思わず、顔を見上げる――そこには、とても髪の長い巫女装束の女性がいた。
その顔はこの世のものとは思えないほど綺麗で――
わたしと同じ黒い髪と黒い瞳は、わたしと違って黒曜石のように輝いていて見えて――
腰に下げた太刀もまた、綺麗な白百合で飾られて見惚れるほどで……
何より、そのたたずまいは、神々しく、まるで女神のように思えた。
???
「――どうしたの?とても表情が重いし、体が震えている」
女性は――神々しさもあったけれど、それ以上に姉のように思えた。
わたしにとっては……その人は、おねえさま、と呼ぶべき人物だった。
瞿麦
「あっ………」
わたしは無意識のうちに、おねえさまの差し出した手を握っていた。
- 556 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:29:46.638 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「……心がぐちゃぐちゃに壊れそうで、身体がなんとかそれを繋ぎとめている――そうなのね」
おねえさまの瞳は、まるでブラックホールのようにわたしを吸い込んだ。
その瞳の前では、何一つとして嘘はつけない。
――その時、わたしは、母さんも、そんな吸い込まれるような瞳をしていたと思った。
わたしはおねえさまの質問に、こくりと頷いた。
おねえさま
「――どうしてそうなっているのか、わたしに教えて」
おねえさまの声は、とても神々しく、神秘的で……わたしは、ああ、やっと助かるんだと思い、自然と泣いていた。
おねえさま
「大丈夫……?わたしが、あなたを怖がらせてしまったかしら」
困惑したおねえさまの言葉に、わたしはふるふると首を振った。
おねえさま
「なら、よかった――」
ほっとしたおねえさまの表情は、とてもきれいで――その神々しい雰囲気とか裏腹に人間味があるようにも見えた。
瞿麦
「……じつは」
わたしは――事の顛末を、ゆっくりと、ゆっくりと――おねえさまに話した。
- 557 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:34:13.995 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「――そうだったのね
つらい話を、よく話してくれたわ」
おねえさまの表情は、慈しみにあふれた、やさしい表情だった。
おねえさま
「……ごめんね、つらい話をさせて」
そしてわたしをぎゅっと抱きしめ、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
おねえさまの柔らかな感触と、やさしい香りがわたしの心を洗い流してくれた。
おねえさま
「……あなたがこれからどうするかは分からないけれど
わたしは、さっさと逃げ出したほうがいいと思うわ」
――おねえさまの意見はもっともだった。
でも、もうわたしには――そうできないほどに、心の余裕がなかった。だから首を振ると――。
おねえさま
「……そっか
ならば、せめて――あなたに害なす者を追い払ってみせましょう
――わたしが、必ず……」
そういうと、おねえさまはその場から、霞のように消えてしまった。
一人取り残されたわたしは――結局、重い足取りで、学校に向かっていた。
- 558 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:36:31.738 ID:uukUlyIg0
- ……その頃は、授業が終わってから、呼び出されて――身体検査という名目で、奴にセクハラを受けるのが、日常になっていた。
――本当に、吐き気を催す――汚らわしく、疎ましく、蔑まれるべき出来事。
瞿麦
「ひっく、ひっく……」
グローリー
「泣いてても終わらないぞぉ?さぁ、さっさと先生の言う事を聞くんだ……」
ただ、ただ嗚咽を漏らすわたしに対するあいつの表情は、まるで死体に集る蛆虫のように醜く歪み、その奥から漏れ出る腐臭を纏った肉欲を示していた。
がしりと、あいつに肩を掴まれた。
大人の大きな掌に支配されること。それは、世界を知らない子供にとっては恐怖そのものでしかない。
ふたり以外は、誰もいない人気のない部屋。
窓から射す夕陽は、わたしの心を焦がし、焼き尽くさんとばかりに、強く強く室内を照らしていた。
対照的に、わたしの表情は、鉛のように重々しく――わたしの心は、深海の底の底よりも暗く――。
あいつの、大きな手がわたしの身体をなぞる。
恐怖。一秒が無限のように思える、地獄。
- 559 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:39:31.880 ID:uukUlyIg0
- 所詮、この世の中は、どれだけ知性で取り繕うとも、心の奥底に在る汚らしい本能が恐ろしいのだ。
そう思っていると――。
窓ガラスの外に、おねえさまが立っていた。
ちょっとした手すりもない、窓の縁のわずかな足場に、バランスを崩すことなく綺麗な姿勢で立っていた。
夕陽を隠すように、おねえさまの影が部屋を包み――あいつは、そっちに振り向いた。
グローリー
「なんだ、お前はぁ!なんでそんなところに居る!?邪魔する気かッ!!」
指を指し、激高するグローリー……これが、あいつの本性だと、初めから気が付いていればよかったのに。
おねえさま
「………」
おねえさまは、その質問にも答えず、無言で太刀で窓を切り裂き、部屋に侵入した。
- 560 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:44:15.980 ID:uukUlyIg0
- おねえさま
「――お前は、年端もいかない乙女に……抵抗できない弱い存在に、
欲望をぶつけることしかできない、知性のひとかけらもないけだもの」
氷のように冷たく、研いだ刃物のように鋭い言葉を、あいつにぶつけるおねえさま。
その言葉には怒りが感じられ、たった一度出会ったわたしの境遇を、真剣に考えてくれている――そう感じ取った。
グローリー
「な、いつの間に目の前に!?」
そして、おねえさまは――わたしが瞬きをしない一瞬のうちに、あいつの傍に詰め寄っていた。
おねえさま
「本来なら――お前のような唾棄すべき、存在価値の見出せないけだものは、
死なない程度に八つ裂きにして、欲望という名の腐臭にまみれた臓器を一つ一つ潰してやって、
苦しめて苦しめて苦しめて消滅させないといけないけれど――」
おねえさま
「あいにく、地獄を見た女の子の前で、そんな凄惨な光景を見せるわけにはいけない」
淡々と、呟いた、おねえさまの声は、ぞくりとするぐらいに怖かった。
――そしておねえさまは語りながら、太刀の鞘であいつに足払いをかけ、
バランスを崩したわずかなタイミングで、床に落ちていたロープであいつの両腕を縛り上げた。
それは……わずか、数秒の出来事だった。
- 561 名前:Route:B-10 ゴッデス:2020/11/21(土) 23:46:17.969 ID:uukUlyIg0
- わたしが呆然としている間に、おねえさまは室内を探り始め、
わたしや――わたし以外の被害者の写真を取り出し、机の上に置くと、扉の向こうを見やった。
おねえさま
「……じきに、助けは来るわ
わたしにできるのは、ここまで
さようなら――」
寂しそうな顔をすると、おねえさまは窓から去っていった。
わたしが呆然としているあいだに、他の先生が騒ぎを聞きつけやってきてた。
教師
「――グローリー先生、この騒ぎは一体……なっ!なんだその姿は!?」
教師
「この写真は……どういうことですか!仮にも教職に就くものが……いや、それ以前の問題だ!」
教師
「警察を呼んでください!瞿麦ちゃん、もう大丈夫だから――」
やがて――あいつの所業が明るみになった。
それでも――わたしが明るくなることはない。
すでに――心は、希望という存在を受け付けなくなっていた……。
- 562 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/21(土) 23:51:54.586 ID:uukUlyIg0
- ……あいつは、裁判でその悪辣さによって、15年の有罪判決を受けた。
わたし以外にも――わたし以上の被害を受けていた女の子もいたらしい。
そんな、おぞましい存在が……たった、15年で世の中に放り出される。
それでも――もはや、抗議の声をあげる気力もなかった。
……わたしは、マスコミの目に晒されることはなかった。
――無茶苦茶な取材しようとする記者が、悉く何者かによって妨害されたのだと、そういう噂を聞いた。
おそらくは……おねえさまが手を回してくれたのだろう。
――同様の被害を受けた女の子の周りでも、そういった出来事があったらしい。
……それから、わたしは家族と距離を置くようになった。
父さんとも、会話をしなくなった。
まるで苺から避けていた時のように……わたし自身から……。
兄は、そのころすでに大学に在籍し、一人暮らしをしていたから――会うことすらなかった。
心配して、わざわざ駆けつけてきてくれたけれど――わたしが拒んだから、顔を合わせることはなかった。
- 563 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:01:07.339 ID:QFi5KiEY0
- …………そして、わたしの妹……。
……澄鴒は、心に陰を落としたわたしを心配して、時々一緒に居ることもあった。
事件に巻き込まれた被害者から――そんなこともあって、どうしてもわたしは他人からそのような眼で見られていた。
父さんも、兄さんも……立場を考えれば当然だし、顔や態度には出さなかっただろうけれど、心にはどうしてもそういった感情があることはうかがえた。
それでもあの子は……わたしをそういった目では見なかった。
まだ幼かったから、まだ事件について理解できていなかったのがよかったのかもしれない。
お風呂も一緒に入って、ただにこにことした笑顔を浮かべるだけ。
父さんに隠れて、こっそりとおやつを食べたこともあった。
――小学校にも入る前だったのに、あの子はとても賢く、やさしく――そして純粋だった。
それなのに、そのいびつな、それでもどうにか生きながらえる暮らしを――
――わたしは、わたしの手で捨ててしまった。
- 564 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:09:23.523 ID:QFi5KiEY0
- ……それは、あの子が小学校に入る前――まだ学期も終わっていない2月の話。
視線の先で、澄鴒が小学校の制服を着て楽し気に部屋を跳ねまわっていた。
???
「パパ、学校はまだ?まだかな?」
ふわりとした金色の髪が揺れる……その横でわたしの父がにっこりと少女に微笑んだ。
父
「まだ2月だからね……もうちょっと我慢だ」
同じく、金色の髪をした父さんが微笑まし気にそう答えた。
???
「小学校――楽しみだなぁ、どんな場所なんだろうなぁ」
無邪気にはしゃぐ澄鴒は、制服を着て、部屋の中をぐるぐると回っていた。
回転するスカートの軌道が、印象深い。
父
「似合っているね」
父さんは、あの子の制服姿をやさしい笑顔で褒めた。
――わたしは、置物のように、ただその光景を見ていた。
- 565 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:10:39.852 ID:QFi5KiEY0
- ???
「おねえちゃん、どお?」
にこっとした笑顔で、澄鴒はわたしに話を振った。
青い瞳と、金色のふわふわした髪……きれいな人形のような印象を受ける見た目……。
誰もが、気分のいい答えをするかわいい声は、天使のように見えるかもしれない。
けれども、わたしは――その言葉に、トラウマを想起させてしまった。
ただ、その単語に関する……それだけで――澄鴒が、悪魔のように見えた。
澄鴒が通う学校は、わたしの通ったところとは違うのに……。
そもそもあいつは捕まっていて、澄鴒があいつと出会うことはなくて……。
それなのに、制服、ただそれだけの単語で、心がかき乱されて……。
瞿麦
「うるさいっ、話しかけないで!学校なんて、楽しくないの!」
わたしは思わず激高して、澄鴒に言ってしまった。
- 566 名前:Route:B-10 クォラル:2020/11/22(日) 00:11:59.722 ID:QFi5KiEY0
- 澄鴒
「う……ぅ……うああああぁぁぁっ……」
澄鴒はそのまるい両目に涙を浮かべて……部屋に走り去った。
わたしは、そこで初めてしまったと思ったけれども、すでにそれは起きてしまったことだ。
取り戻すことはできない――その時、世界は崩壊したとも言えた。
父
「――!」
慌てた様子で、父さんは澄鴒の背中を追いかけた。
わたしは、呆然として、立ち尽くしていた。
家の中の空気は、鉛のように重く……わたしは、ふらふらと、中庭へと足を運んだ……。
- 567 名前:SNO:2020/11/22(日) 00:12:38.182 ID:QFi5KiEY0
- 一部人物名が???になってるミスあるけど澄鴒に置き換えて読んでください
- 568 名前:きのこ軍:2020/11/22(日) 17:23:33.130 ID:DzDwnMfAo
- 百合神さま初登場っぽいですね。たのしみたのしみ
- 569 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:42:24.928 ID:QFi5KiEY0
- わたしは、中庭の隅で膝を抱えて縮こまり、ただそうやって時間が過ぎるのを待っていた。
瞿麦
(なんで、あんなひどいことを――)
後悔する感情。あの子を――実の妹を――傷つけてしまったことが、茨が巻き付いたように心がずきずきと痛んだ。
瞿麦
(――――)
吐き戻しそうになるぐらい、わたしの心は暗雲に包まれていた。
瞿麦
(謝らなきゃ――)
わたしは、そう思いながらも、あの子と顔を合わせるのが怖くて、立ち上がれなかった。
その時――何者かの気配を覚えた。気配のした方向を、恐る恐る覗くと……。
玄関の前に、白に染まったモヒカンヘアーをした、見るからに柄の悪そうな男がいた。
隣には、亡者のような青白い肌の男たちがぞろぞろと付き添っていた。
十数人ほどの男たちはみなぎこちない歩き方をしていて、その見た目も相まって……まるでゾンビの群れのように思えた。
- 570 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:44:25.563 ID:QFi5KiEY0
- ???
「ここが、フェルミ家――【理論】に関する研究の第一人者の家――間違いなさそうだ」
そう言うと、男はひと蹴りで玄関のドアを蹴破った。
瞿麦
(っ!?)
――えっ!?どうしてドアを!?
わたしは縮こまった身をさらに縮こませて、ぶるぶると震えていた。
……そこから先、何があったか、わたしは知らない。分からない。
ただ、わたしがその時知っていることは……争う声や音が聞こえ、肉の潰れる嫌な音が響いたこと。
ぴしゃりと、何か液体が飛び散る音が聞こえたこと。そして……父さんの断末魔。ただ、それだけだった。
父
「ぐわァアアーーッ」
どしゃりと、重い何かが崩れ落ちる音。それは、まるでこの世で最も大きい音のように、わたしの中で何度も響いた。
わたしは、あまりの非日常な出来事に……何もできずに、ただ、ただ、泣いていた。
- 571 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:48:01.210 ID:QFi5KiEY0
- ???
「……娘だな、噂には聞いていたが、この雰囲気は、やはり…………の血を……」
……男の言葉が聞こえる。それは澄鴒に対する言葉だろう……。
でも、わたしは飛び出すこともできず怖くて震えるばかりだった。
……たとえ、出て行ったとしても、何も打つ手はないかもしれないけれど――。
???
「お前ら……を、探……」
男は、何かを探しているようだった。
しばらく、何かを漁る音、何かをひっくり返す音、ガラスが壊れる音――いろいろな破壊音が響いた。
???
「ちっ――アレはないのか!仕方がない、このガキを攫い、家は燃やしちまえ!」
――でも、目的の何かは見つからなかった様子で、男の激高した声が聞こえた。
その言葉通り――とくとくと、何かが注がれる音が聞こえた。
その後の出来事を想像するに、それは可燃性の液体だったのだろう。
瞿麦
(いや、やめて、やめて、やめて……)
ただ、震える子犬のように縮こまり、何かに縋りつく――そんな哀れな存在と化していた
――澄鴒が……モヒカンヘアーの男に攫われ、連れ去られていった……。
その影が遠くなるまで、わたしは呆然と、ただ座り込んでいて……。
無限にも思える絶望の果てに、背後を炎の赤が塗りつぶし、辺りに熱気が立ち込めた。
- 572 名前:Route:B-10 コンフラグレイション:2020/11/22(日) 20:50:04.372 ID:QFi5KiEY0
- 生存本能のためか、わたしは振り向いた。
瞿麦
「っ!!」
視界の先では、わたしの過ごした家は、ごうごうと炎に包まれていた――。
故意に……何者かの悪意によって……わたしの過ごした時間も、わたしの家族も、ばらばらに引き裂かれてしまった。
父さんが殺され、澄鴒も連れ去られて…わたしは何もできなくて……。
その衝撃な出来事に動揺して、思わず腰を抜かせ、ばたりと中庭に転んでしまった。
……タイミングが悪いことに、その光景を、まだ残っていたらしい、男の仲間に見つかってしまった。
男
「ギヒ、まだ娘がいた――ようですぜ――」
あいつを想起させる下品な口癖と立ち振る舞い――わたしは、逃げ出したくても、身体ががちがちに固まって動けなかった。
男は、ぎこちない歩きで、わたしに迫ろうとする。
――わたしは、うなだれて、刑を執行される罪人のように、その迫る光景を見ていた。
もはや……逃げる気力すらもなかった。諦めていたのかもしれない。
- 573 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 20:54:35.357 ID:QFi5KiEY0
- その時――。
???
「――ひどい、なんてことなの」
突然、女性の声が聞こえた。
その声の方向を向く――すると、そこには紫のローブを着た、金色の角を生やした女性がいた。
その角から、人間ではないことは容易に想像できた。恐らくは、魔族だ――と、その時わたしは思っていた。
???
「……一足、遅かったのか
もう少し早く来ていれば……」
悔やむように、女性は炎に燃える家を見つめていた。
- 574 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 20:58:23.026 ID:QFi5KiEY0
- ???
「家を燃やすわ、誘拐するわ――そして震える女の子を取り囲む――
最低だね、本当に――
また、こんなのと関わり合いになるなんて思ってもなかったなぁ」
女性は、軽蔑した表情で男たちを見つめた。
それは五人ほどだっただろうか。やつらは皆わたしの周りに居て、逃げられないように取り囲んでいた。
男
「なんだ……邪魔スルナラ、殺すが……」
男
「その女も捕まえルダケダ……あっちに行け、女ぁ……」
男たちは、濁った、ぎこちない喋りで女性に告げた。
……わたしは、その急な出来事に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で、事態の推移を見ていた。
???
「この家を狙った、ということは……
さっちゃんの予想通り……ここには……」
女性は、男の言葉には答えずに、何か考え事をしていた。
男
「話が聞けないのなら、死んでもらうぜェ!」
瞿麦
「ひっ!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 575 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:06:18.337 ID:QFi5KiEY0
- 男
「あ……?」
しかし――続く光景は、困惑する男の声だった。
わたしが目を開けると……。
???
「………」
女性は、弾丸を摘み取ると、まるで粘土のようにぺらぺらに潰してぽいっとその場に投げ捨てた。
――銃弾のエネルギーを、指先だけで打ち消し、捻り潰し、怖がりもせず――淡々と切り抜ける。
その剛腕を見せた魔族の女性は、まるで救世主のように思えた。
そして――女性は、背中に翼を生やし、隼のように低空飛行したかと思うと、
わたしをかばうように、わたしの前に降り立った。
???
「私を――殺す?
何、言ってるの?何かの冗談かな?」
女性の背中からは、いつの間にか翼はなくなっていた。
後ろ手にわたしをかばいながら、男たちに投げかけた言葉は、地獄の鬼も恐れて逃げ出すほどに怖かった。
王者のような威圧感の陰に、わたしは女性に対する信頼感が芽生えていた。
- 576 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:10:49.901 ID:QFi5KiEY0
- ???
「シトラス」
――女性が、魔術を唱えた瞬間、レモン色の魔法弾が男たち目がけて飛んだ。
拳銃よりも――ライフル弾よりも速いスピードでその魔法弾は飛び交い、男たちの身体を次々と弾き飛ばした。
男
「ギャ!」
男
「ぐぼァッ?!」
男
「魔法を使ってくルゾ、マジックジャマーを使え!」
断末魔を上げた男を見て、生き残りの男が何やら機械を作動させた。
ぴりぴりと震えるような衝撃波が辺りに流れ出す。
その瞬間……。
???
「シトラ………
あぁ、不発かぁ」
女性が再びシトラスという名前の魔術が使おうとするが、魔法弾は出ることはなかった……。
彼女は、その事実に、やれやれと両手を広げて面倒くさそうに男たちを見ていた。
男
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 577 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:19:02.907 ID:QFi5KiEY0
- ???
「ハッ!」
男
「え?グワァァァッ!」
女性は、ため息を深く吐いたかと思うと思いっきり男の頬にビンタをかました。
その軌跡は目で追えないほど早く……そして、まるでバットで打ち返されたボールのように、男は数十メートル先まで吹っ飛んでいった。
???
「せいっ!」
さらに、女性は振り回す腕の遠心力を利用し、
ムチのように片腕を振るうと、残った男たちをすべて張り倒した。
男
「ギェエエッ!?」
???
「で……自慢げに、語ってたらしいメイジ封じの作戦は、私には無意味だよぉ♪
私は唯のメイジに非ずってさっちゃんも褒めてくれてたし〜?」
女性は、楽し気に地に臥せた男たちに告げた。
???
「まぁ、こうなったのは……半ば自業自得だよね?
私にこうやって倒されることなんか、本当にそう……」
そして、餞の言葉のつもりか、男たちに再び怖い声でそう吐き捨てた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 578 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:33:45.392 ID:QFi5KiEY0
- ???
「とりあえず、消火しないと」
そう女性は呟くと、レモン色の濁流が家全体を包んだ。
それは瞬く間に炎を消し去り、焼けた家が眼前に広がった。
???
「この子を置いていくわけにはいけない……
でも、この中に連れて行くわけにも……」
続く女性の言葉は、考え込む言葉。
しかし、その疑問に答えが出たのか、すぐに頷くと……。
???
「よし」
ローブの裾から、タコのような、イカのような……無数の触手が現れた。
それらは家の窓から入り込み、何かを探るようにうねうねと蠢いていた、
瞿麦
「……」
わたしは、呆然としていると……。
???
「怖かったよね――でも、もう大丈夫、安心して」
ぎゅうっと、女性に抱きしめられた。
やわらかな感触。さわやかな檸檬の香りがわたしの鼻腔をくすぐる。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 579 名前:Route:B-10 セイバー:2020/11/22(日) 21:35:19.843 ID:QFi5KiEY0
- ???
「――とりあえず、ここはとても危険だよ
追っ手がくるかもしれないから、私のことを信じて――わたしと一緒に来て」
続けて、素早く、わたしにそう告げた。
とても、顔が近い。眼前に広がるその紫の瞳は、アメジストのようにどこか魅力的で、蛇のようにどこか妖しく――それでいて、信頼できる瞳だった。
瞿麦
「――は、はい」
……もう、どうすればいいのかわからない。
この人が信頼できるか――それもわからないけれど、それでも、わたしを救ってくれた。
だからわたしは、こくりと頷いていた。
???
「ありがとう――私を信じてくれて」
そして、わたしは女性に抱かれて――その場を離れた。
視界の果てでは鎮火された家の残骸がある。
しかしそれもやがて遠ざかり、わたしは女性の腕の中で、流れる景色に身をゆだねていた。
- 580 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:38:35.926 ID:QFi5KiEY0
- ――女性に連れられて来たのは……その時は知りもしなかったけれど、今ではよく知った場所。
すなわち……【月輪堂】だった。
縁
「あら、なくちゃん……どうしたの、その子は……」
???
「フェルミ家の女の子――いろいろな事情があって、保護してきたの」
後で教えてもらったことだけど――女性は、いまや会議所で魔王の呼び名高い兵士でもある、魔族の女性――791さんだった。
791さんは縁さんと深刻な口調で会話しながら、わたしを地面にやさしく下ろしてくれた。
……とはいえ、わたしは戸惑うばかり。ここはどこなのかも知らなければ、目の前の人物が何者かもわからない。
あまつさえ――その人物が、当時のわたしよりも幼い外見で、白髪と黒い眼を持っているとなれば、なおさら……。
縁
「……緊急事態だったのはわかるけれど、この子、すごく困惑してない?」
冷めた目で、縁さんは791さんに軽口を発していた。
791
「そうだよね……それに、魔族の私が言うのもなんだけど……
ここ、月の民と天狗しかいないし……人間のこの子にとっては、びっくりすることが多いよね……」
縁さんと791さんは、旧知の仲のような、砕けた会話を広げていた。
内容は……わたしを気遣うたぐいのものだということは、なんとなく理解できていた。
- 581 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:40:54.991 ID:QFi5KiEY0
- 縁
「……とりあえず、この子にいろいろと説明しないと」
791
「あっ、そうだね――」
791
「ここは【月輪堂】――明治国の田舎の鍛冶屋
知る人ぞ知る――というか、ここの場所を知ってる人物なんて、まずいない」
瞿麦
「は、はぁ――」
――突然の出来事に、聞きなれない単語……天狗に、月の民――聞いたことのない種族。
わたしの頭には疑問符だらけで、話についていくのが精いっぱいだった……。
791
「――そして、あなたに謝らないといけないことが、ひとつ……
わたしがたどり着いたとき……誰かが攫われていたけれど、その人を助けることができなかった」
その言葉を聞いたとたんにわたしは気が付く。――その、誰か……それはおそらく澄鴒のことだ。
瞿麦
「それは、わたしの妹の――」
791
「――!妹ちゃん、だったのか……
なんとか、あなたを救うことはできたけれど……もう少し、フェルミ家に早くにたどり着いていれば――ごめんね」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 582 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:42:27.420 ID:QFi5KiEY0
- 791
「これは私の友達のさっちゃんの仮説なんだけど……
フェルミ家は、特別な宝物を持っていたって噂があるの――だから、あんな奴らが家に押し掛けたんだと思う
どうして、妹ちゃんが攫われたのかは、それははっきりとはわからないけれど――」
瞿麦
「…そんなの、わたし知らない……」
791
「知らなくても、狙うの――あいつらは、そういう奴らだから」
……あの子は、無事なの?
そもそも、喧嘩さえしなければ――未来は違っていたかもしれない。
瞿麦
「わたしが喧嘩しなければ……ひどいことを言わなければ……」
わたしは、思わず地面に膝をついて、涙をこぼした。
縁
「……大丈夫?」
そんなわたしを、その時は名前は知らなかったけれど――縁さんが、後ろから抱き留めてくれた。
わたしよりも小さな身体。澄鴒に近い体格の縁さんからは、まるで母親のような温かみを感じた。
- 583 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:45:23.512 ID:QFi5KiEY0
- 瞿麦
「……謝れなかった、澄鴒に、うっ、うぅ……」
縁
「たぶん、喧嘩別れと事件が重なったから、頭がぐちゃぐちゃになってるのね」
縁
「……どうして喧嘩したのか、それは聞かないわ
それでも、あなたはその事実に後悔して、挽回ができないことに怯えていることはわかる」
やさしく、そして核心を突く言葉……わたしは、縁さんにすがりついてただ泣くばかりだった。
縁
「でも、大丈夫……あたしたちが、助けてあげるから
少なくとも、あなたのことは、ここで面倒見てあげることができるから」
頭を撫でながら、縁さんは続けた。
791
「……」
縁
「――わたしの知り合いには、信頼できる強者がいる……
そこにいる、なくちゃん――じゃない、791って魔族の女の子も含めてね
だから、もう大丈夫……」
791
「ああ、うん……名乗り遅れたけれど、私は791で、隣のおかっぱ頭の子が月輪縁って名前だよ」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 584 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:48:31.046 ID:QFi5KiEY0
- ふと、がたりと、物音が店の奥から聞こえた。
わたしが、店の奥に目をやると、静さんと苺が姿を現した。
――もっとも当時は、一人の女性と、一人の女の子としか捉えられなかったけれど。
縁
「それから――この鍛冶屋の鍛冶師、静
この住居の責任者みたいなものね」
静
「奥で話は聞いていたが……厄介事に巻き込まれたらしいね」
静さんは、女性にしては長身で、初めて見たときは威圧感を勝手に覚えていたような気がする。
静
「縁の言った通り――私もきみに協力するから、安心してほしい
口下手だから、怖がらせるかもしれないが……きみの身の保障は確保できるよう最大限務めるするつもりだ」
重々しい静さんの言葉。始めは、取っつきづらい人だと思っていたけれど、
……少しずつ接するにつれて、あまり活発的ではないけれど、やるべき仕事をきっちりとこなす人だということは、すぐに理解できた。
そして――苺。
縁
「それから、この子は、ここでお手伝いをしてもらっている苺
たぶん……あなたと同年代ぐらいだと思うわ」
苺
「は、はじめまして……ご紹介に預かった苺です」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 585 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:53:39.592 ID:QFi5KiEY0
- 瞿麦
「!」
思わず、その白い翼に目をやるわたし……すると、苺はわたしに駆け寄って、恥ずかしそうに告げた。
苺
「僕は……余り知られてない種族の――天狗、なんです……翼が生えてるから、不思議だよね
ても、翼をはためかせても、身体を持ち上げられないから、飛べないんだけどね……」
ぎゅっとわたしの手を握り、早口でわたしに答える苺。
白い髪、白い肌、白い翼、そして対照的な紅い眼は、わたしの心を一瞬で捉え――
可愛らしい表情と、わたしと仲良くしようとする純粋な心は、わたしの気持ちを一瞬で和らげ――
なにより、久々に出会う同年代の女の子ということが――わたしの心を貫いた。
瞿麦
「っ、ふふっ――」
それは気持ちが揺れ動いたからか。
あるいは、母さんも、白髪と紅い眼をしていたから、それを重ねたからなのか。
どちらにせよ、わたしは、苺を見て、思わず笑っていた。
- 586 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:55:11.080 ID:QFi5KiEY0
- 縁
「あら――あなた、表情がすごく沈んでいたけれど
苺のスキンシップで、すこしやわらいだみたいね」
縁さんの口元も、微笑みにゆるんでいた。
791
「あーよかった、ここに連れてきてよかった……
地理的にも安全で、できるだけ女の子が多くて、頼れる知り合いにも顔が利く――そういう条件で連れてきたんだけど
少し、あなたが落ち着いたようで――本当によかった」
791さんは、胸を撫で下ろしていた。
静
「そういえば、きみの名前を聞いていなかったが……」
瞿麦
「な、瞿麦・フェルミです
……その、助けてくれて、ありがとうございます」
苺との接触で少し落ち着いたわたしは、そこでようやく挨拶をした。
- 587 名前:Route:B-10 キャッチ・アット・ア・ストロベリー:2020/11/22(日) 21:56:00.853 ID:QFi5KiEY0
- 苺
「瞿麦ちゃん、その……よ、よろしくね」
すこし顔を赤らめた苺……その純粋な笑顔に、わたしの心は溶かされるようにも思えた。
恐怖でがちがちに固まり凍り付いた心が、その温かみで解凍されたようにも思えた。
瞿麦
「う、うん……」
だから、わたしは――この【月輪堂】と、別荘での暮らしにスムーズに入ることができたのだ。
あの子に対する後悔と、父さんが死んでしまった――その二点を心に抱えながら……。
…………。
瞿麦
「ふぅ」
わたしは、追想を経て、ため息をついていた。
ああ――わたしは、あの頃と比べれば……真実に向かうために歩んでいる。
だから……必ずユリガミまでたどり着こうと、そう心に刻んだ。
- 588 名前:SNO:2020/11/22(日) 21:56:48.414 ID:QFi5KiEY0
- 色々と見えてきたかも。
- 589 名前:きのこ軍:2020/11/23(月) 16:18:39.688 ID:Yj4cfpNQo
- やっぱりお父さんは殺されていたか。
791さんかっこいい。
- 590 名前:Route:B-11:2020/11/23(月) 21:24:53.582 ID:bu1djGd60
- Route:B
2013/5/8(Wed)
月齢:23.7
Chapter11
- 591 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:29:36.033 ID:bu1djGd60
- ――――――。
あれから、4日経った。本来ならば【月輪堂】で手伝っている時間帯――
とはいえ、向こうの理解もあるからこそわたしはここにいるのだ。
アナウンス
「【会議所】での緊急会議の結果、今日から外出規制が解除される並びとなりました
テロの可能性などもありますが、自治体の兵士などによる警備の強化が……」
……お昼時を過ぎて、ようやく外に出られるようになった。
どうしようか。今から【会議所】に向かってもいいけれど、十分に調べられる時間が取れるだろうか?
少し悩んで、わたしは結論を下した。【会議所】に行こう。
会議所が有する図書館は、世界有数の大きさだと聞く。
たぶん、一朝一夕未満の、半日では目的の情報にたどり着くのは難しいだろう。
……慣れない場所ということもある。一度行ってみて、感覚をつかみつつ、数日かけて情報に辿り着く。
これが最良の選択だと、思う。
わたしは、【会議所】へ向かうバスに乗るために、ホテルを出た。
- 592 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:31:16.551 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「なにか…いる…?」
わたしがバス停に向かって歩いていると、なぜか視線を感じた。
……振り向いても、誰もいない。それでも気配を感じるような気がする。
瞿麦
「……まさか、ね」
――まさか、奴が脱走したとして、わたしをそうそう見つけられるだろうか。
……そんなはずはない。いくら【嵐】が【会議所】を標的にしているとしても……。
それでも不安の感情は少しずつあった。試しに、走ってみよう。
……けれど、閉じこもっている間に鈍ったわたしの身体はすぐに音をあげ、息を切らせた……。
瞿麦
「はっ、はっ、はっ、はっ――げほ、げほ、げほっ!」
近くのベンチで、むせ返るわたし。
目の前では、車が走り……通りゆく人々の目は、不思議なものを見るようなもので――なんだか恥ずかしかった。
- 593 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:32:18.010 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「わたし――なにやっているんだろう」
わたしはがっくりと肩を落とす。
【会議所】に行ってもいないのに、なんでこんなに疲れてるんだろう。
気を取り直して、バス停に向かおうとしたその時……嫌な視線を感じた。
瞿麦
「――え?」
それも――あいつのような、下劣な視線。
振り向いても、何もいない。それでも、視線のようなものは――あるような気がする。
ざっ、ざっ、ざっ――足音が聞こえる。
その方向をちらりと見やる――足早に、男が近づいているような気がする。
呆気にとられる私に近づく男が一人いた。
- 594 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:33:56.183 ID:bu1djGd60
- ……その顔は――
グローリー
「ヒヒヒ――」
汚く黄ばんだ歯を見せながら、近づいてくる男は――
紛れもなく、あいつだった。
瞿麦
「――!」
わたしは、足早に人ごみの中をかき分け、バス停とは逆の方向へと駆け出した。
逃げなきゃ。逃げなきゃ……あいつから、逃げなきゃ。
わたしは、前も見ず、ただ、適当な曲がり角を見つけては曲がり――適当な横道に逸れ――
気が付くと、どこかの路地裏に迷い込んでいた。
- 595 名前:Route:B-11 ストーカー:2020/11/23(月) 21:36:28.701 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「あれ――ここ、どこ――」
地図は持っていたけれど、夢中で逃げ出したからここが何処かなんてわからない。
そもそもこんな人通りの少ない道を彷徨うほうが、危ないのではないか?
焦燥感にかられる。心臓が早鐘を打つようにばくばくと唸りだす。
わたしは、路地裏から抜け出すために、身をかがめてただ走った。
瞿麦
「きゃ!」
前を見ずに走っているうち、わたしは何かにぶつかった。
尻もちをついて、思わず上を見上げると――厳つい顔の男が、わたしを見下ろしていた。
男
「こいつが――フェルミ家の娘か……?連絡しないと」
瞿麦
「いたっ、やめてっ!はなしてっ!」
そのごつい腕で、わたしの細い腕が掴まれる。
男は……わたしの抵抗など意に介せず、手元の通信機で何かを連絡しようとしていた。
- 596 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:38:59.383 ID:bu1djGd60
- ――その瞬間、黄金色の流れ星と、遅れて風切り音が耳元を掠った。
同時に、男の持っていた通信機はバラバラに砕け、破片が地面に散らばった。
そして爽やかなシトラスの香りが辺りに散らばってゆく……。
男
「なんだと?」
困惑する男は、不意の腕の力を抜いた。その機を逃さず、わたしは脱兎のごとく逃げ出す……。
男
「おい、待てッ!クソガキがッ……」
後ろから聞こえる怒号……地面を蹴り迫り来る足音。
しかし、再び風切り音が聞こえたかと思うと……。
男
「あがっ――」
再びの風切り音とともに、断末魔と、倒れこむ音……それから遅れて爽やかなシトラスの香り。
振り向くわけにはいかないけれど、先ほどの男がわたしを追いかけている様子はない。
すなわち、これは――ボディーガードが現れた、ということなのだろうか。
- 597 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:42:15.631 ID:bu1djGd60
- 男
「待て―このガキがぁ!」
足が棒になるのをこらえて必死に逃げるわたし――。その後ろから、追っ手らしき男たちの声が聞こえた。
男
「ぐわっ!」
男
「ぎゃぁっ!」
――しかし、これまた風切り音と断末魔とシトラスの香り。
やはり、これはボディーガードの人が助けてくれているのだろう。
とにかく、どうにか安全な場所まで逃げないと――。
疲れに音をあげそうになる身体に鞭打ちながらひたすら走っていると、じゅっという音が聞こえた。
まるで、虫眼鏡で太陽光を集めて燃やしたような、じゅっという音が聞こえた。
瞿麦
「きゃっ!」
その瞬間、わたしは地面に躓いて転んでしまった。
瞿麦
「いたた……」
擦りむいたりはしていないようだけれど、地面に打ち付けた痛みが腕にあった。
転んだ場所を見ると……アスファルトの地面が、微妙に陥没している……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 598 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:44:20.251 ID:bu1djGd60
- グローリー
「瞿麦ちゃあん――さんざん苦労をかけさけてくれたね
お仲間が、そこそこやられちゃったよ――」
瞿麦
「ひっ!」
――あの時同様の下劣な表情を見せたあいつがそこに……。
当時から比べれば顔は老け、髪も薄くはなっているが、魂自体は、その薄汚い心そのものは変化していなかった。
グローリー
「…あの頃から、ずいぶんと身体が成長しているらしいなぁ、フフフ――
先生に、見せてみてよ――」
あふれた涎も拭いながら、あいつは迫ってくる。
この本性に昔から気が付いていれば――。
瞿麦
「来ないで!わたしには、ボディーガードがいる」
グローリー
「ほー、なら呼んでみなよ……先生は、ボディーガードだろうと勝てる強さを手に入れたんだよ」
わたしの抵抗の言葉も意に介さず、あいつは手元の懐中電灯をつけたかと思うと、わたしの横の壁を照らした。
その瞬間――凝縮された光がわたしを横切り、じゅっという音とともに、壁に穴を開けた。
- 599 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:47:55.693 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「えっ――」
突然のことに、わたしはただ呆然とするだけ。
グローリー
「フフフ、人間に当てればどうなるだろうねぇ
まぁ瞿麦ちゃんにはやらないけどね、ボディーガードとやらには無意味だろうね」
自慢げににやにやと語るあいつの顔は、欲望がにじみ出た醜い本性であふれていた。
瞿麦
「!」
――どうして、こんな魔術を!?あいつはメイジでもなんでもなかったはず……。
わたしの口はからからに乾き、何も言えない――ぱくぱくと、陸に打ち上げられた魚のように口を動かすだけだった。
グローリー
「さぁ、時間をかけちゃったね……久しぶりに続きといこうじゃないか、ハァ、ハァハァ……」
カチャカチャとベルトを降ろす音が聞こえた。
いやっ、やめて――!そう叫ぼうとしても、あまりの恐怖で叫べない。
その時……。
檸檬色の魔法弾が、降り注ぎ、煙がもうもうと立ち込めた。
グローリー
「ん、なんだ!?」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 600 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 21:51:49.209 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「警告する――少女から離れろ」
そこには――燕虎が居た。
燕虎は、漆黒の棍を右手で掴み、あいつの方を見ていた。
……その表情は、長い前髪に隠れて読めない。口調からも感情は読み取れない。
――しかし、あいつへの嫌悪感がある。それだけは、わたしにも理解できた。
グローリー
「なんだ、お前――お前がボディーガードか?」
燕虎
「………」
あいつの質問に、燕虎は何も答えない。
――でも、こんなタイミングで現れたのだから、恐らくは燕虎がそうなのだろう。
グローリー
「無視か――まぁ消えてもらうけど」
余裕綽々にそう言うと――グローリーは懐中電灯を燕虎に向けた。
増幅された光のビームが、燕虎目がけて宙を駆ける。
瞿麦
「ひっ!」
わたしは――その後の光景を想像して、思わず目を瞑ってしまった。
壁に穴を開けるような威力の光を、生き物が受けたらどうなってしまうの!?
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 601 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:00:43.213 ID:bu1djGd60
- ――続けて、じゅっという音と、破壊音が聞こえた。
恐る恐る、目を開くと……。
燕虎
「――あまねく飛道具は我が意思にありけり」
どういうわけか、何事もなく、燕虎はそこに立ったままで――その横の壁に穴が開いていた。
よく見れば右手は少し被弾したようで、わずかに煙が経っていたけれど――負傷というほどの怪我には見えない。
燕虎は――身をかがめながらあいつに向かって走り出し、その速度エネルギーごと棍であいつのどてっ腹を思いっきり突きにかかった!
グローリー
「な、なぜ跳ね返された!?くそ、もう一度だ!」
グローリーは再び燕虎に攻撃するために光を照らした。
だが、今度は燕虎に当たる寸前に、何事もなかったかのように消え去った。
グローリー
「あ?がはっ!」
そして、棍で突かれたあいつは呻き声とともに倒れ伏し、燕虎はわたしとあいつの間に割って入っていた。
それはわずか、数秒の出来事だった――。
- 602 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:05:28.645 ID:bu1djGd60
- グローリー
「……うぐ、うぐぐ、なぜ、なぜ効かない……」
吐瀉物をまき散らしながら、あいつは言葉をこぼす。
燕虎
「――すべては魔女の囁くがままに……これで満足?」
返す言葉は氷のように冷たく、周りの気温すらも下げるのではないかと思うほどだった。
燕虎
「……奴から才能を開花されたのだろうが
超能力を使えるだけでは……強いとはいえない……」
燕虎
「魔術のように、普遍的ではない――
たった一人だけしか操ることのできない才能だとしても――
そこに鍛錬を加えないようでは……無意味にすぎない」
グローリー
「グギャッ!」
続けて淡々と言葉を吐き捨てた燕虎は、それだけ言うと、鳩尾に思いっきり棍を振り下ろし、あいつを気絶させた。
- 603 名前:Route:B-11 レスキュー:2020/11/23(月) 22:08:52.992 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「さて――」
燕虎はわたしに振り向いた。
恐らくはボディーガードだと思うけど、確信はない。
瞿麦
「あ、ありが、とう……ございます……」
固唾を飲みながら、恐る恐る感謝の言葉を述べると――。
瞿麦
「この場からは、さっさと逃げる必要があるだろう
今の間は、私を信じてほしい――」
瞿麦
「え?きゃっ!」
わたしの言葉になにも返すことなく、燕虎はわたしを抱きかかえて駆け出した。
燕虎
「――あなたの行くべき場所に、私が導く
その間、あなたは休んでいればいい――」
――淡々とした燕虎の言葉は、僅かながら気遣いを感じ取れるような気がした。
安心。この人は、信頼できる。そう思うと、一気に張り詰めていたものが身体から抜け落ちる。
わたしは、燕虎の腕に揺られながら――いつの間にか、眠りについていて……。
- 604 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:10:59.666 ID:bu1djGd60
- ――――――。
わたしは、夢を見ていた。
それは……苺との初めて暮らした時の記憶でもあった。
苺
「――その、ぼくは、静さんや縁さん、791さんから……
瞿麦ちゃんと一緒に過ごすよう頼まれたんだ」
瞿麦
「…………うん」
苺
「僕の趣味は、料理かな…【月輪堂】でも、時々料理を作ってたの
縁さんも料理が上手で……縁さんに教えてもらったんだ」
瞿麦
「………うん」
色々なことがありすぎて、このころのわたしは言葉を発するのも億劫だった。
――あの頃と比べれば、日々が過ぎ去って……わたしの心は軟化したように思える。
けれども、この時期は……わたしは、短く小さな返事を繰り返すだけの機械のようになっていた。
- 605 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:11:44.702 ID:bu1djGd60
- 苺
「ぼくは――天狗、らしいんだけど……
空を飛べないし、魔術も使えない……静さんと縁さんの話によると、僕は川に流されてたんだって」
瞿麦
「…………そう、なんだ」
苺
「……僕は、物心ついたころから、【月輪堂】でずっと暮らしてきたけれど
静さんと縁さんから比べると、ずっと歳が違うから……瞿麦ちゃんと会えて、なんだか新鮮なんだ」
瞿麦
「何歳、なの?」
苺は、一方的にわたしにいろいろなことを教えてくれた。
……今思えば、苺も寂しかったのかもしれない。
その時に投げかけた質問――それは心に浮かんだ素朴な疑問でもあった。
- 606 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:13:59.108 ID:bu1djGd60
- 苺
「12歳だよ」
瞿麦
「わたしより、1歳年上なんだ」
苺
「そうだったんだ……ぼくと同じぐらいだね?」
瞿麦
「…そういえば、自分のことを【ぼく】って呼ぶんだね」
苺の純粋な紅い瞳と、やさしい声色で返される答え……
それは、自然と凍り付いたわたしの心を溶かしてくれたのかもしれない。
徐々に、わたしは浮かんだ疑問を苺に投げかけ始めた。
苺
「その、瞿麦ちゃん……へん、かな?」
瞿麦
「ううん……わたしは、いいと思う」
苺
「よかった――静さんや縁さんは、珍しいけれどアイデンティティは失わないで――って、かっこいい言葉を言ってくれたんだけど
やっぱり……近い年の女の子に言われると、うれしいな」
ぎゅっと、手を握る苺。そのぱあっと明るい表情は、咲き誇る苺のように綺麗だった……と、その時わたしは感じた。
- 607 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:15:32.518 ID:bu1djGd60
- それから、いつもの暮らしが始まったのだ。
時折あいつの悪夢を見てはいたけれど、それでもどうにか生活できていた。
それは――苺のおかげであることは言うまでもない。
また、静さんや縁さんとも触れ合いも、その理由の一つだと思う。
縁
「別に、男に媚びる必要なんてないんだよ
自分が好きだと思えるなら、性別も種族も関係なく――その人に好かれるような形を目指せばいいの」
縁さんのほうは、見た目はわたしよりも幼かったけれど、心はずっと大人で……母性を小さい体に収めた、まさに大人の女性といえる人だった。
静
「……私が子供のころは、教育機関もなかった
当然、縁も……それでも、鍛冶屋として生きていけるまでなっている
だから、私たちの背中も見ていてほしい……これぐらいしか、私は言えないかな」
静さんのほうは、不器用でも、しっかりとわたしを気遣ってくれる――まるで父性を纏った、かっこいい人だった。
- 608 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:17:33.126 ID:bu1djGd60
- 791
「瞿麦ちゃん、そのふわふわした髪が可愛らしいねぇ」
瞿麦
「……そ、そうですか?」
791
「私、こんなにかわいい髪形をして街を練り歩きたいなぁ♪」
791さんとも、短い間だけど、一緒に過ごしていた。
その天真爛漫さや、頼れる背中――それは偉大な統治者のように思えた。
791
「私は強いけど――強いだけじゃ面白くないからね、一緒に遊べる友達、腹を割って話せる友達――そういう存在も大事だよ」
瞿麦
「……791さんには、いるんですか?」
791
「うん――今、ここにはいないけれど、私のライバルで、一番の友達がいるよ
あの子は私と違って、とてもかっこいい子だからね」
- 609 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:18:25.135 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……わたしにも、そんな子ができるんでしょうか」
791
「苺ちゃんという女の子が、もういるじゃないか」
瞿麦
「あっ――」
791
「もう、友達を超えて、家族として思っていたんだね」
791さんの発言は、的を射ていた。
苺と一緒に、ふたりで過ごすにつれ、関係が深まっていたのだ。
それも、そう言われるまで気が付かないぐらいに。
けれども、791さんはいつの日か、【会議所】へと行ってしまった。
そのころには、私が居なくても安全が保たれる――そういうことを言っていた気がする。
- 610 名前:Route:B-11 インタラクティブ:2020/11/23(月) 22:19:24.957 ID:bu1djGd60
- ――はっ。
わたしが目を開けると、ベンチの上だった。
寝ぼけ眼であたりの風景を見る――そこには、燕虎が足を組んで座っていた。
燕虎
「覚醒したか」
瞿麦
「ふぁ、はい……」
思わず、あくびをしようとしてしまい、抑えながら答えるわたし。
瞿麦
「その、いろいろと……ありがとうございます」
そして、ぺこりと頭を下げ、再び感謝の意を伝えた。
燕虎
「………」
燕虎は、わたしの言葉に肯定も否定もせず、無言のままだった。
- 611 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:21:23.722 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「ここが【会議所】――貴女が向かおうとしていた場所」
わたしがベンチから起き上がると――いつの間にか、【会議所】の敷地内に居た。
本やCTVでも見た光景だけど、実際に見るとなると、その大きさに圧巻される。
城壁は天まで届かんとばかりに積み重なり、中核である城の高さも同等に高い。
この城の中だけで、一つの集落の住民ぐらいは余裕で入れそうなぐらいだ。
燕虎
「今は日付を過ぎる寸前の深夜23時57分……今なら、出歩く兵士も少ない」
ふと空を見上げる……月は、わずかに見えるだけ。
もう少しで新月になるのだろうか。まるで、今のわたしの心を反映させたかのような月にも思えた。
燕虎
「……wiki図書館は、この時間、通常利用――すなわち、図書の貸出は不可能――
ただし、会議所の兵士ならば、本を読むことは許可されている――」
そして、燕虎は私についてこい――といわんばかりに、指を指し示してわたしを導いた。
瞿麦
「は、はい――」
風景に気を取られたわたしは、焦りながら答えた。
足音すら聞こえない、ぶれのない燕虎の足取り――その後ろを、わたしは幼鳥のように何とかついていった。
- 612 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:24:32.956 ID:bu1djGd60
- 燕虎
「あれがwiki図書館……警備員はいない代わりに、専用の魔法陣で警備している
賊が居れば、一瞬で会議所にそのことが伝わる仕組みになっている――」
wiki図書館は、わたしの目覚めたベンチからすぐだった。
燕虎は……わたしを気遣ってくれている……のだろうか。いろいろと情報を教えてくれた。
それでも、燕虎について何もかもが読めなから、ただ頷くしかできなかった。
燕虎
「――賊と間違わないために、私に掴まっていろ」
燕虎
「はっ!」
瞿麦
「わっ!」
ひょいと、燕虎はわたしを抱きかかえると、一足飛びで図書館の中に入った。
一瞬光がわたしたちに向かったような気がしたけれど――跳ね返っただけで、何も起こりはしなかった。
――夜の図書館は、ランプの明かりだけが灯る、やや不気味な空間だった。
人の気配も、ない。それでも、闇の中から「なにものか」が這い出てきそうな……そんな雰囲気もある。
- 613 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:24:52.362 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……わたしの探す情報は、どのあたりを探せばいいんですか」
……その恐怖が、逆にわたしを落ち着けた。
燕虎
「………」
燕虎は、わたしの質問には答えず……ついてくるように、指でジェスチャーを作った。
誘うような燕虎の足取りは、やはりぶれのない足取り……。
わたしは、燕虎の無言の圧力に、何も答えられないままついていくだけ。
本棚の間を、延々と歩き続けている。
それどころか、同じ場所をぐるぐるとぐるぐると、ずうっと回り続けているような……。
- 614 名前:Route:B-11 ライブラリ:2020/11/23(月) 22:25:49.122 ID:bu1djGd60
- 瞿麦
「……あれっ?」
――気が付くと、周りの風景が変わっていた。
地下に降りる螺旋階段の入り口が、目の前にはあった。
後ろは、本棚で挟まれた通路。ここは一体――どこなの?
燕虎は、すでに螺旋階段に足を掛けていた。
わたしは困惑しながらも、すぐにその後に続いた。
- 615 名前:SNO:2020/11/23(月) 22:26:11.879 ID:bu1djGd60
- 演出と展開WARSをパクってますね・・・
- 616 名前:Route:B-12:2020/11/24(火) 20:03:53.670 ID:z8PnalhE0
- Route:B
2013/5/9(Thu)
月齢:28.7
Chapter12
- 617 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:06:00.577 ID:z8PnalhE0
- 螺旋階段は、まるで地獄へ垂らされた蜘蛛の糸のように、底まで続いていた。
こつん――こつん――硬質な音が響く。
かつん――かつん――その階段は、無限に続くようにも思える。
蜷局を巻く大蛇のように……わたしは、その背を伝っている。
あるいは、これは龍の背なのかもしれない。
ともかく――その長い階段を、燕虎は、そしてわたしは下ってゆく。
途中、部屋につながる通路があったけれど――燕虎はそれに目もくれない。
燕虎は、いったいどこへわたしを導こうとしているの?
瞿麦
「あれ……」
――通路に、レポートのようなものが落ちていた。
思わず駆け寄って拾い上げる。内容は――超能力についての考察……著者は、コルヴォ・フェルミーー。
瞿麦
「え――父さんの――」
思わず、わたしはそう呟いていた。
が、燕虎はそれを気にすることなく、下へと降りていく……。
咄嗟にレポートをパーカーの中にしまい、慌てて燕虎に続いて階段を降りる。
- 618 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:06:53.308 ID:z8PnalhE0
- こつん――こつん――足音が響く。
金属でできた階段。なのに不思議と足になじんで、疲れを感じさせない。
どれほど歩いただろう。気が付くと、終点までたどり着いていた。
天を見上げる――その天辺は、まるで月のように遠くにあるようにも思えた。
正面には、分厚い鉄板の扉。入り口には魔術で制御した鍵がかかっているらしい。
燕虎が何やら魔術を詠唱すると、すぐにその扉が開いた。
ゴゴゴ――ッ、と重々しい音が鳴り響く。一体、この向こうに何があるのだろう。
燕虎
「……」
中は、エメラルド・グリーンのライトが光っていた。しかし灯りはそれだけで、全体的に暗い部屋。
……しかし、この部屋は外界とは切り離された異質な雰囲気がある。
その感覚は、肌にぴりぴりと響くよう。
瞿麦
「……えっ?」
近くに、服がハンガーで吊られていた。
赤い、ゴスロリ服――それは、まぎれもなく、あの子の……。
- 619 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:08:22.505 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……この服は、なんでここに」
――じわりと、冷や汗が背中を伝った。
それは、生存本能?それても第六感が何かを訴えている?
部屋の奥には、一つのポッドがあった。
燕虎は、それを見下ろしている。
わたしは――そのポッドを、恐る恐る覗く。すると……。
瞿麦
「!」
そこには……澄鴒が、そこに眠っていた。
生まれたままの姿で、胸の上で手を組み――羊水のような液体に沈んで眠っていた。
彼女の横には、諸刃の【剣】が底に沈んでいる……。それはこの世のものとは思えない不気味な感覚があった。
- 620 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:10:55.436 ID:z8PnalhE0
- 燕虎
「貴女が探し求めるその人物――どうして、彼女を探す必要があるのか――
それは――眠り姫を目覚めさせるため」
瞿麦
「………」
燕虎の言葉に、わたしは息を呑むだけだった。
ともかく、一つの結論にわたしはたどり着いた。
ユリガミを探す理由――それは、澄鴒を目覚めさせるためだ!
でも――どうしてユリガミが必要なのだろうか――それが分からない。
瞿麦
「……この子を目覚めさせるのには、わたしでは駄目なんですか」
浮かんだ疑問を、わたしは燕虎にぶつけた。
燕虎
「彼女の体の中で、傷がいまだ残っている
このポッドの中で眠りながら癒してはいるが――
完全に癒すためには、彼女が必要――」
淡々と、燕虎はその答えを告げた。
――ユリガミは、あの子を目覚めさせる鍵と、いうことか。
- 621 名前:Route:B-12 ヴァイオレット:2020/11/24(火) 20:12:06.925 ID:z8PnalhE0
- 燕虎
「……ここに連れてきた理由は、貴女の意思を強くさせるため」
――うすうす感づいてはいたけれど、どうやら燕虎はわたしの事情を把握しているらしい。
燕虎は、何者なんだろうか。同じ髪の色をしていることからすると……
もしかしたら、静さんや縁さんとも関わりがあるのかもしれない。
瞿麦
「それでは、ユリガミは?」
でも、今はそれどころじゃない。
わたしがやるべきこと。それはユリガミを探すことなのだから。
燕虎
「………」
燕虎は、再びついてくるように指を指し、踵を返して部屋を出た。わたしもその後を追いかける。
背後で、ゴゴゴ――ッと扉が閉まる音が聞こえた。
……おそらく、こうやって厳重な仕掛けがあるから、澄鴒の身柄は安全なのだろう……そう納得しながら、わたしは燕虎に続いた。
- 622 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:13:20.284 ID:z8PnalhE0
- 再度、わたしは抱きかかえられて図書館を出たのち、【会議所】の中へと連れられた。
……燕虎は、ひたすら【会議所】の中を歩き続けた。
正面玄関を通り、本部棟の廊下を通り、会議室を横切り――。
とても広い城の中は、静まり返り、わずかな月明りとランプだけが室内を照らす。
不気味で、静寂で、そしてどこか神秘的な――そんな不思議な空間を、わたしは横切った。
……燕虎は、兵士たちの生活区域へと入っていった。
恐らく、燕虎は見つからない工夫をしているだろうけれど……少し不安に思いながら、わたしはその後をついていった。
ぴたり――と、急に燕虎の動きが止まった。
瞿麦
「わ、わわっ」
思わず急ブレーキを踏んだものだから、わたしは躓いて転びそうになる。
燕虎
「……」
燕虎は、その手を、掴んで引き起こしてくれた。
- 623 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:14:36.550 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……あ、ありがとう、ございます」
わたしが感謝の意を示しても、燕虎は何も返さなかった。
しかし、部屋の表札に指を指していた。見ろ――ということ?
そこには――「791」と書いてあった。
791さんの部屋?どうしてここにわたしを導いたの?
瞿麦
「あの、どうしてここに」
わたしが質問をしようと振り返ると、すでに燕虎は居なかった。
一体どこに行ってしまったの……?わたし一人で、どうすれば――。
視界の果てには夜の会議所……暗い廊下に、僅かなランプの灯火と星明りだけがある光景が広がっていた。
瞿麦
「……っ」
視界の果てには闇が広がるばかり。……一人で置いて行かれた孤独に不安を覚えた。
しかし、もう引くことなんてできない。わたしは、意を決してドアをノックした。
- 624 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:15:37.252 ID:z8PnalhE0
- 791
「誰?こんな夜中に――」
寝ぼけた様子の791さんが、少し不機嫌そうにドアを開け――。
791
「え?瞿麦ちゃん、どうして……」
わたしの顔を見たとたん、目を丸くして驚いたのも一瞬、すぐに優しげな口調に変わった。
……わたしの表情を見て、何かを察したらしい。
791
「……とりあえず、中に入って
話を聞くから」
791さんはわたしの背中を押して、部屋に入れてくれた。
部屋の中は綺麗に整頓され、レモンのアロマオイルが漂う素敵な部屋だった。
- 625 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:18:15.854 ID:z8PnalhE0
- 791
「……それにしても、どうしてまた私のところに?
久しぶりに顔を見にきたってことはないよね?あの場所とここの距離を考えると――
まぁ、仮にその理由でも、瞿麦ちゃんが色々立ち直ってると解釈はできるけどさ」
瞿麦
「……その、笑わないで聞いてくれますか
わたし、ユリガミを探しているんです」
悩みながらわたしを見る791さんに、わたしは単刀直入に切り込んだ。
791
「!
……どうして、私のところに?」
791さんは、驚いたようにかっと目を開いた。
アメジストのような瞳がわたしを捉える……わたしは、その視線から目を背けずに続けた。
瞿麦
「――ユリガミを探していたら、
朔燕虎って人がここに導いてくれたんです」
791
「…………」
791さんは、わたしの答えを聞いて腕を組みながら考え事を始めた。
突拍子もないことに思われて、怪しまれているのだろうか。
- 626 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:19:23.376 ID:z8PnalhE0
- しかし、791はさんはわたしの言葉を信じてくれたらしい。
うんっ、と一回頷くと――。
791
「確かに、私はユリガミの場所を知っている――知ってはいるけれど」
791さんは、思わせぶりに答えた。その表情は、真剣そのものだった。
791
「……どうして、ユリガミを探しているのか、教えて」
わたしの顔面間近に顔を接近させ、彼女は訊いた。
791さんの全身を包む威圧感のようなものが、とても近くにあって、怖い。
それでも――わたしは、目的のために立ち向かう必要がある。だから……。
瞿麦
「妹の、澄鴒を助ける、ためです」
しどろもどろに詰まりながらも、わたしは答えた。
- 627 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:22:02.322 ID:z8PnalhE0
- 791
「……そう、妹ちゃんを」
791さんは、窓の外を見て憧憬に耽りながら、考え込んで……。
791
「なら、私は案内するしかないね
――ユリガミの袂に……
あの時、私は瞿麦ちゃんしか助けられなかったから……」
そう、言い切った。
きっぱりと答えるその姿は、王者のように貴く見え――改めて、魔王と呼ばれるだけはあると思っていた。
瞿麦
「ありがとう、ございます」
ぺこりと頭を下げ、上げたときには791さんの表情は普段の柔和なものに戻っていた。
791
「でも、私は明日……というよりは、今日の日中、用事があるから――今すぐには行けないかな
――午後7時ぐらいになるかもだけど、それでもいいかな」
瞿麦
「はい、それでも構いません」
- 628 名前:Route:B-12 カメリア:2020/11/24(火) 20:26:01.348 ID:z8PnalhE0
- 791
「わかった――今日は、私の部屋に泊まって
――恐らく、そのために……燕虎という人物は、ここに連れてきたんだろうから
明日も、この部屋の中でずっと居ればいいからね」
瞿麦
「はい」
791
「……しかし、この部屋はベッドが1個しか置いてないから――どうしようかな」
きょろきょろと、791さんは部屋を見渡した。……と思いきや、すぐにわたしに向き直り……。
791
「――ソファーで寝ようかと思ったけど面倒だし、それに女の子同士だし――
一緒のベッドで寝ようか?」
ばっと、ベッドのシーツを叩いた。別に、信頼のおける人だからいいけれど――それでも、不思議な感覚があった。
わたしにとっては、とても大きく、対等ではない存在と思っていたから――そのどこか子供っぽい発言が、とても不思議だったのだ。
瞿麦
「は、はいっ」
――それでも、わたしは頷いた。
ふかふかのベッドが身体をぴったりと包み込む。
その感覚に沈みながら、わたしは考える。
色々なことがあった……澄鴒との再会。ユリガミを探す目的。そして――謎の人物、燕虎。
そんなことを考えているうち、身体は、自然に微睡んで……。わたしは夢の海へと沈んでいった。
- 629 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:32:04.366 ID:z8PnalhE0
- ――――――。
わたしは、夢を見ていた。
それは――苺との生活。平穏で緩慢な死を迎える日常。
苺
「瞿麦ちゃん、手をつないでもいい?」
瞿麦
「うん」
――苺のおかげか、わたしの精神は徐々に明るさを取り戻していった。
相変わらず、悪夢に苦しめられたりはしたけれど、その当時から比べればかなり改善されていた。
それから、苺のスキンシップが少し――深まったような気がする。
わたしのことをどう思っているのだろうか……それは、結局、訊けなかった。
本で、同性愛者についての記述を見たことがある。もしかしたら――とも思った。
でも、苺がそうだったとして、わたしに恋愛感情を抱いていたとして――わたしは嫌なのだろうか。
……いいや、むしろそっちのほうがいいのかもしれない。
苺と過ごす日々はとても平穏で素晴らしいものだった。喧嘩もめったにしない天国のような場所。
- 630 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:33:11.040 ID:z8PnalhE0
- ――そう思いながらも、結局わたしは苺に特別なことを言うことはなかった。
それは苺も同じ……告白に近い発言はしていないと思う。
もし、色々な面倒事が片付いたら――わたしは苺に話を切り出したほうがいいのかもしれない……そう感じていた。
かつては平穏を崩すことを恐れていたけれど――
ユリガミを探すために、色々なことに立ち向かうようになって――心境が変化していた。
やがてその思考も記憶の海に溶けていき、いつのまにかわたしは目を覚ましていた。
7
91さんは……すでに部屋を出ていた。
わたしはベッドからのそのそと起き上がる……机の上には、箱に入れられたサンドイッチが置いてあった。
隣には791さんのメモ―― 「おなかがすいたら、食べてね♡ 791より」、と書いてある。
瞿麦
「ありがとう……」
わたしは、本人には届かないけれど、感謝の気持ちを伝えてサンドイッチを食べた。
- 631 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:35:40.465 ID:z8PnalhE0
- ……さて、これからどうしよう。
そう思いながらパーカーに触れて、かさかさとした紙の感触があることに気が付いた。
そうだ……そういえば……wiki図書館で拾ったレポートを、うっかり持って帰ってしまったんだ……。
……この部屋を出るわけにもいかない。とりあえず、これを読んで時間を潰そう……と思った。
父さんが書いた論文……超能力についての考察……。
わたしはそれを読み始めた。
『超能力――それは魔術に似た――しかし魔力を伴わない力。
魔術を操る存在をメイジ、それ以外をファイターと便宜上呼び、今後戦いを行う上での選別に反映させたいが、
その二つとは異なる存在……エスパーと呼ばれる存在をどうするか……これが今後の課題かもしれない。』
『……魔力を伴わない、魔術といえばいいのだろうか。
私の友人の姉もまた、超能力を持っているという……』
『今はもうこの手を離れた私の妻――彼女も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
彼女が【力】を使った際、魔力センサーを使ったことがあるが、
その力に対し、魔力は検知されなかったからだ。』
『……超能力は、まだオカルトめいた、理論もはっきりとしない概念である。
微弱魔力による影響の可能性も考えられるが、誰でも起こすことのできる可能性のあるきのたけ理論と異なり検証も難しい。
しかし、きのたけ理論と同じく興味深い現象だ……。』
- 632 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:39:54.759 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「超能力――」
ぽつりと、わたしは呟いた。
……そんな概念は今まで聞いたことはない。
しかし……母さんが不思議な力を使っていたのは確かだった。
その時、母さんについての記憶が、濁流のようにわたしの中を流れ込んだ。母さんがいなくなる前の出来事を……。
ある日――わたしは、転んでけがをした。
瞿麦
「っ、うぇええーーんっ、っ、っ……」
まだそのころは幼かったから、痛みにわたしは泣きじゃくるばかり。
そんなわたしに――母さんは、ケガをした膝にやさしく手を当てた……。
母
「痛いの、痛いの、飛んでいけ」
すると、その手が傷を負った膝を包むやいなや、まるではじめから怪我がなかったかのようにきれいさっぱり治っていたのだ。
瞿麦
「お母さん、ありがとう」
母
「――」
わたしが明るく返すと、母もうれしそうに微笑んだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 633 名前:Route:B-12 レポート:2020/11/24(火) 20:40:48.385 ID:z8PnalhE0
- ――そこで、わたしは思い出した。
あいつの光の攻撃――それに対して、燕虎は超能力と言っていなかったか?
燕虎
「魔術のように、普遍的ではない――
たった一人だけが操ることのできない才能だとしても――
そこに鍛錬を加えないようでは……無意味にすぎない」
――あいつに吐き捨てたときに、そう言っていた。
……これは何かの宿命とでもいうの?
わたしは……わたしに引き寄せられる因縁に、すこし身体を震わせていた。
- 634 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:41:16.533 ID:z8PnalhE0
- 791
「ただいま、瞿麦ちゃんっ♪」
……どうやら、所定の時間になったらしく、791さんが部屋に帰ってくるなり、私の手を握った。
791
「今からユリガミの住処に行くけれど、準備は大丈夫?」
瞿麦
「――あっ、少し待ってください……」
791
「どうしたの?」
瞿麦
「ホテルに、荷物を置いていて――もうユリガミのところに行くのなら、チェックアウトしないと……」
……いろいろなことがあって、すっかり頭の中から追いやられていたけれど、いざ、行く時になって思い出した。
お金は静さん持ちだけど、このまま忘れてしまうと迷惑になってしまう。
- 635 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:41:49.886 ID:z8PnalhE0
- 791
「……それって、どこのホテル?」
瞿麦
「たけのこ軍の居住区の――」
791
「ああ、あそこか――なら、私が後で話をつけておこうか?」
瞿麦
「えっ……いいんですか?」
791
「うん、だって多分お金は【月輪堂】持ちでしょ?
だから、私に任せなさいっ」
胸をぽんと叩いて、自信満々に791さんは答えた。
同時に――わたしの境遇まで読むなんて。
確かに、事情を知っていれば予想できる範囲ではあるけれど、そこまでできるなんて……。
瞿麦
「……お願いします」
わたしは、少し涙ぐみそうになって、それをこらえながらおじぎをした。
- 636 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:44:05.520 ID:z8PnalhE0
- 791
「さて、その問題は私が何とかするとして――
今は夜の19時7分、いい頃合だね――
瞿麦ちゃんはこっそりここに来たみたいだから、こっそりと出ましょう」
そう言うと791さんは、わたしをローブの中に入れて、抱っこした。
瞿麦
「ふぇ!?」
791
「息苦しいかもしれないけれど、ちょっとだけ……我慢していてね」
瞿麦
「ひゃ、ひゃい……」
わたしは、カンガルーの赤子のように、791さんに連れられて会議所を出た。
どれだけそうしていただろう……わたしは、ローブの中で必死に掴まっていると……。
- 637 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:45:17.542 ID:z8PnalhE0
- 791
「はい、息苦しかったでしょう」
瞿麦
「ぷはっ――ふぅ、ふぅ……」
ようやく791さんの懐から出られたわたしは、息苦しさから解放されて……大きく深呼吸をした。
791
「ユリガミの住処は、貴女の住処と同じく僻地にある――知っているのは、限られた者だけ」
わたしを連れ出すときはおどけた態度の791さんは、真剣な表情に変わっていた。
ユリガミを目指す――あの子を助ける――その目的を、791さんは真摯に手伝おうとしている。
だから、わたしも――頑張らないと。
791
「とはいえ――あの長い距離を歩くのは、瞿麦ちゃんではちょっと厳しいかな」
791さんは、わたしを見ながらそう言った。
- 638 名前:Route:B-12 インヴァイト:2020/11/24(火) 20:49:14.116 ID:z8PnalhE0
- 瞿麦
「……その通りです」
その言葉は図星。少し落ち込んでいると……
791
「まぁ、大丈夫――私がなんとかするから♪
落ち込まない、落ち込まない」
そう言いながら、背中をぽんぽんと叩くやいなや、
791さんはわたしを腕に抱き抱え、そのまま地を駆けだした。
瞿麦
「わぁっ?!」
いきなりのことに、素っ頓狂な声をあげるわたし……まるで、燕虎にされた時と一緒だ。
わたしは女で、体重もそう重くはないからできるのかもしれないけれど――。
そういえば――初めて791さんと出会ったとき、【月輪堂】へと向かうときもこうされたっけ。
わたしは懐かしさを覚えながら、流れる景色を目で追っていた。
空を駆け、野を超え、山を潜り――森を抜け――
どれほど時間が経ったのだろう。どこまで移動したのだろう。
もはやそれはどうだっていいかもしれない。
ともかく、一つ言えること――目の前に、屋敷がそびえていた。
- 639 名前:SNO:2020/11/24(火) 20:50:13.329 ID:z8PnalhE0
- 魔王様大活躍!
- 640 名前:きのこ軍:2020/11/24(火) 22:20:56.023 ID:P0MW6/Zko
- 更新おつ。無口さんの立ち位置が気になりますね。
あと時間おいて真名が出てくるときは一度フリガナふってくれるとうれしいかも。
私はメモってるから知ってるんですけどね。
- 641 名前:Route:B-13:2020/11/25(水) 21:47:56.460 ID:BmIsXKQc0
- Route:B
2013/5/10(Fri)
月齢:0.1
Chapter13
- 642 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:49:15.972 ID:BmIsXKQc0
- 791
「よっ――と」
791さんは、丁寧にわたしを地面に下ろした。
791
「あれが――ユリガミの住処」
瓦屋根、木造りの外観。その庭園は自然に溢れ、向こうには花畑も見える。
――それは神の御許に近づく神聖な場所というよりは、なにもかもが平和に過ごす楽園のように見えた。
――空に月はない。完全な朔の夜。
――星が夜空に瞬くだけの闇が広がっている。
その下で、灯りの灯る屋敷は、とても幻想的な風景だった。
……その時、雰囲気に不似合いな携帯電話の音が鳴り響いた。
わたしは電話を持ってきていないから、必然的に、791さん充ての電話だろう。
- 643 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:50:36.655 ID:BmIsXKQc0
- 791
「はい、こちら、791……
魂さん?今、とても大事な用事があるから、手早く……」
791
「はぁ?……それ本当なの?わかったよ……
ただ……私の用事は、本当に外せないの……それが済んだらでいい?」
791
「うん、うん……それじゃあ」
深刻そうな顔つきで、791さんは電話を終えた。
瞿麦
「そ、その……大変そうなことでも、あったんですか……?
その、ここにいて大丈夫ですか?」
思わず、わたしは心配になってそう呟いた。
791
「大丈夫――気にしなくていいから
あなたの身の保障の方が大事だから、安心して」
791
「じゃあ、行こう」
瞿麦
「は、はい」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 644 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:52:07.766 ID:BmIsXKQc0
- 果たして――ユリガミは本当にわたしを助けてくれるだろうか。
そう思いながら境内に入ると……。
???
「こんばんは――」
瞿麦
「!」
綺麗なハスキーボイスが、わたしの耳に響いた。
――見上げると、右目に大きな刀傷の走った、隻眼の女性が縁側に腰かけていた。
左は黒、右は白に分かれた髪色に、背には翼が生えている。翼の色も、髪の色の分け方と同じ。
――もしかして、苺のように彼女は天狗なのだろうか。
その衣装も時代がかった黒の修験道の衣装だから、その可能性は高い気がする。
791
「……いきなり現れるのはいいけれど、この子、驚いてるよ」
???
「791様……確かに、彼女を驚かせてしまったようですね……申し訳ありません
貴女のお名前を、申し上げてください――」
791さんの軽口にも丁寧に対応しながら、隻眼の女性はわたしにゆっくりと尋ねた。
その立ち振る舞いはとても凛々しく、かっこいい――と思った。
- 645 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:54:38.278 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「な、瞿麦……瞿麦=フェルミです」
なんとか、女性の問いに答える。
汗がわたしの身体を流れ、その冷たさを感じる……そうだ、わたしは今、とても、緊張しているのだ。
女性は、翼で羽ばたくことはなく、自分の足でわたしに近付いて、わたしを全身を見ながら何か考え事をしていた。
???
「瞿麦=フェルミ――」
左手はよく見れば、中指から小指まで欠損していた。
……この女性は、どこかで見覚えがある。どこで見たのだろうか。
- 646 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:54:56.331 ID:BmIsXKQc0
- ???
「なるほど――
791様が、彼女を守ったというわけですね」
791
「まぁ、そうなるかな?」
――納得したように、女性は頷く。
791さんの口調だからして、この人は知り合い――。
はっ――そこで気が付く。
この人は、トニトラス・フェラムの秘書だ。なんで、義肢をつけていないのかはわからないが、
その特徴的な隻眼と翼はそうに違いない!
???
「承知しました――貴女は嘘をついていない
ならば、少なくとも敵ではないでしょう」
――そんなことを思っていると、彼女はわたしのことを信用してくれたらしい。
791さんの協力もあったけれど、門前払いされなくて、よかった。
- 647 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:56:36.472 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「その――ひとつ、いいですか」
???
「なんでしょう?」
瞿麦
「その……貴女は、ブラックさん、ですよね
どうしてここに?」
不躾な質問かもしれないけれど、訊かずにはいられなかった。
791
「瞿麦ちゃん、あまり女の子のプライベートには……」
???
「791様、構いません……ブラックは、云わばあの場所での仮初の姿
わたくしの真名(まな)をお伝えしましょう」
――791さんの言葉を手で制し、淡々と、彼女は答えた。
ブラックという名前に、思い入れが感じられないようにも思えた。
闇美
「わたくしの名前は闇美(ヤミ)――ここで女中のようなことをしている天狗です」
瞿麦
「天狗――」
やはり、彼女は天狗だった。苺と同じ種族だったのだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 648 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:57:09.258 ID:BmIsXKQc0
- 791
「……まぁ、これ以上は深くは追及しないであげて」
瞿麦
「あっ……闇美さん、不躾な質問、ごめんなさい」
闇美
「いいえ――わたくしは、特に気にしていませんから」
窘める791さんの言葉と、それをフォローする闇美さんの言葉。
791さんと闇美さんの間にも、見えない絆があるのだろうか。
闇美
「瞿麦様――貴女はユリガミサマに御用があるのでしょう?」
瞿麦
「は、はいっ」
そこで、話題は本題へと移った。考え事をしていて、呆気に取られてしまったけれど、わたしはなんとか答える……。
791
「………」
791さんは、そんなわたしを見ながら、うんうんと頷いていた。
- 649 名前:Route:B-13 ハニーサークル:2020/11/25(水) 21:57:51.525 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――承知しました
それでは、わたくしの後をついて来てください――」
くるりとヤミさんは背を向け、屋敷の中に歩き始めた。
慌てて、わたしもついていく。791さんも、マイペース気味に後ろを歩いていた。
――ついに、ユリガミに会えるのか。
どくどくと、心臓が鳴る。口が、乾いたような感覚。汗で体がにじむ。
とても緊張している。
――それは、女神と呼ばれる存在に会うから?
それとも、自分の過去に向き合い、変える切っ掛けがきたから?
そんなことを思いながら、わたしたちは屋敷の中へと入った……。
- 650 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 21:59:24.613 ID:BmIsXKQc0
- ……屋敷の中は、木でできた廊下が縁側に設けられていた。
部屋の敷居としては障子が使われて、部屋の中に置かれたものの影が見える。
闇美さんは、導くようにわたしの前を歩いていた。
無限に続くような廊下を、ヤミさんの白黒の羽に誘われながら、わたしは進んでゆく……。その後を、791さんが続く形だ。
不意に、闇美さんが立ち止まり、こちらへと振り向いた。
闇美
「――女神の御許に近付かんとする覚悟は、ありますか」
闇美
「貴女の望みを叶えられるかは、確約はできない――それでも、構いませんか」
瞿麦
「……はい!」
――脅すような闇美さんの口調。でも、力強く頷くことができた。
闇美
「――立ち向かう覚悟は見えるようですね」
791
「当たり前だよ、瞿麦ちゃんは前へ向かうために頑張ってるからね」
闇美
「なるほど」
791さんの元気いっぱいのフォローに、
闇美さんは、淡々とそれだけ言って、再び歩き始めた。
- 651 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:00:40.060 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――ひとつ、おとぎ話をしましょう」
――しばらく歩いたのち、歩きながら闇美さんはひとつの話を語ってくれた。
――昔、傷ついた人魚を助けた若者が居た。
その人魚は、お礼に人魚の住処へと案内をし、若者はもてなしを受け、人魚と恋仲になった。
――しばらく経って、若者はふと、地上が恋しくなった。
けれども人魚はそれを良しとはしなかった。
議論の末、最終的には、若者が地上に戻ることになったが――その時、ひとつの宝物を手渡された。
ひもで縛られた宝箱。決しては開けてはいけないと忠告された宝箱を――。
かくして、若者は地上に戻ったが、見知った人物は居なかった。
近くの人間に訊ねても、若者を知るものは居ない。
若者が人魚と過ごした間に、時は驚くほど過ぎ去り家も、風土も、伝統も――すべて過去の遺物としてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれた若者は、やけになってその箱を開けると――若者は急激に老衰してしまった。
- 652 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:01:47.052 ID:BmIsXKQc0
- ――それは、訊いたことのあるおとぎ話だった。
いったいどこで――そうだ、母さんから聞いた。内容は違う点もある気がするけど……今すぐに思い出すことまではできない。
まぁ、おとぎ話だから、そういうものなのだろうけれど。
瞿麦
「その――どうして、そんな話を?」
――でも、突然のことにわたしは戸惑った。
闇美さんは、わたしに何かを伝えたいのだろうか?それでも、その意図が分からない。
闇美
「――貴女がユリガミサマと接触することで、世界が変わるかもしれないでしょう
見える景色も時間も、変わるやもしれません」
わたしは、忠告する闇美さんの話に、固唾を飲みつつ集中した。
- 653 名前:Route:B-13 ニァラー・マイ・ゴッデス・トゥ・ジィ:2020/11/25(水) 22:03:31.313 ID:BmIsXKQc0
- 闇美
「――それでも、かの若者のように、絶望して、癇癪を起してはいけない
自分が自分で在り続けることを、意識してください」
――自分が自分で在り続ける。コギトエルゴスム。我思う、ゆえに我あり……。
自分の意思で、ユリガミまでたどり着けたけれど、これからも、わたしは前へ向けるのかな?
不安で、少し緊張して、手に汗が滲む。……その時、791さんが、ぽん、と肩に手を置いた。
791
「まぁ、ユリガミって不老不死って言われてるからね〜
既存の概念で捉えられない部分もあるんだよねぇ
だから、よくわからないことがあっても、惑わずに行こうってことでいいよね?闇美?」
闇美
「――そうですね」
791さんの意訳は、合っているかわからないけれど――
闇美さんがわたしへ伝えた言葉は、闇美さんなりの激励の言葉なのかもしれない。
瞿麦
「はい、がんばります――」
わたしは、ふたりに改めて意思表示をした。
- 654 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:04:59.878 ID:BmIsXKQc0
- ―――――。
どれだけ、歩いたのだろう。
どれだけ、時間が経ったのだろう――。
不意に、風が外でざわめいた。
――同時に、さわやかな花の香りと、心地よい草の揺れる音。
それが、わたしの心を何故だか落着けてくれる。
瞿麦
「……あれ?」
気が付くと、闇美さんと791さんは消えていた。
瞿麦
「あれっ、791さん?闇美さん?どこに――?」
不思議に思い、横に首を振るけれど、まるで、最初から人っ子一人いなかったかのように、あたりは静寂に包まれていた。
- 655 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:09:27.546 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「………ひとりぼっちか」
思わず、一人ごちる。
瞿麦
「ううん、大丈夫、大丈夫なんだ」
少し不穏な気持ちが心をよぎったけれど、強引にそれを振り払おうと、首を振った。
――よし、行ける。大丈夫。突然の事態があっても、わたしには進む意思が消えていないじゃないか。
わたしは意を決してとにかく前へと進んだ……。
前後ともに、無限に続く廊下。まるで夢幻の世界のようにも思える。
――しばらく、わたしは歩いていた。
ふと脇に目をやると、一歩先の部屋の障子がわずかに開いていた。
……ここに、入れということ?
明らかにその場所はわたしを誘っている。
ならば、そこに行ってみよう。わたしは障子を引き、部屋に入った。
- 656 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:11:21.474 ID:BmIsXKQc0
- ――そこには、シンプルな木造りの祭壇があった。
その上には白い【勾玉】があった。真珠のように美しさに目を奪われそうになるけれど、どことなく白骨のような薄気味悪さも感じる。
その横には太刀――百合の花びらの飾りを鞘と柄に施した、恐らくは素晴らしい鍛冶師が作ったであろう得物が置かれていた。
瞿麦
「?!」
瞬間――わたしの目の前には目を閉じた女性の姿があった。
しかしその姿は半透明だった――幽霊なのか、あるいは映し出された像なのか……。
闇美さんが言っていた、世界が変わるという言葉――それはこのことを示唆していたのかもしれない。
その女性は、整った顔立ちと、長い睫と、腰ほどある黒い髪が重なり合い、芸術品のように美しかった。
- 657 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:13:02.709 ID:BmIsXKQc0
- そしてこの女性にはわたしは見覚えがあった。
そうだ――この女性は――
わたしの中で――様々な記憶の景色が流れては消えてゆく。
あいつに追い詰められたわたしに――家族に何も言えなかったわたしに手を差し伸べてくれたひと――。
おねえさま。――おねえさまが、そこに佇んでいた。
父さんにも、兄さんにも、顔見知りの大人にも……、わたしは「助けて」の一言が言えなかった。
それほどまでに、絶望で視界が狭まったのわたしを、おねえさまは救い上げてくれた。
おねえさまは、あいつに襲われかけたわたしの下に現れて、助けてくれた。
――おねえさまが、わたしの探すべき存在――ユリガミだったのだ。
何も知らなかったあのときのわたしが、おねえさまと感じたのは……女神そのものだったからなの?
- 658 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:15:25.299 ID:BmIsXKQc0
- おねえさまの身体の周りは、白い靄で満ちていた。その靄がおねえさまを投影しているようにも思えた。
この現象は、科学や魔術の見地では説明のつかない、超越的な現象なのかもしれない。
最も、わたしにとって、もはやそれはどうでもいいことだった。
瞿麦
「おねえさま――」
――感慨に耽るわたしは、思わず声に出してそう言っていた。
わたしにとって、彼女は――ユリガミは――まさに、頼れるおねえさまだったから。
おねえさま
「――――」
わたしが話しかけると、おねえさまは目を開けた。
ふたつの漆黒の瞳は、あの時見たように、吸い込まれそうなほどに綺麗だった。
おねえさま
「――貴女は、かつて公園で出会った……あの子ね」
瞿麦
「……っ」
感慨深そうに語るおねえさま……わたしのことを覚えてくれていたのだ。
――神々しさを覚える雰囲気に、わたしは畏怖の感情に包まれる。
でもそれは、おねえさまのことを女神と認識したからだ。
声色は、あの時と変わりなく、やさしいまま。わたしが勝手に畏怖しているだけだ。
- 659 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:17:54.124 ID:BmIsXKQc0
- わたしは、嬉しさに、涙ぐみそうになる。
おねえさま
「それで、どうしてここに――」
おねえさまの言葉で、はっとする。そうじゃない。
わたしが来たのは、再開の感動を分かち合うためではない。――わたしは言わなくてはいけない言葉がある!
瞿麦
「お願いします――わたしの妹を、助けてください」
ぎゅっと、拳を握りながら……どきどきする鼓動を噛み締めて耐えながら……わたしは、おねえさまに言葉を告げた。
おねえさま
「……貴女の、妹を……?」
感情を読み取れないおねえさまの声――まるで、彫像が言葉を発するかのように、氷のように冷え切った声。
それは、困惑しているからなのか、あるいは――興味がないのかはわからない。
――それでも、わたしはこのことを伝えなくてはいけない。
それこそが、わたしが前に進むために必要なことだから。
- 660 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:19:10.616 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「わたしは、大切な妹と喧嘩をして――謝ることが出来ないまま、離ればなれになってしまいました
そして、その妹を助けるためには――おねえさまが――必要――なんです」
勇気を振り絞って――こらえきれずに、少し涙を流してしまっても、構わず……。
瞿麦
「……わたしは、妹に……謝りたいんです
妹は、静かに復活の刻を待ちながら眠り続けていて、その眠りを覚ますのはおねえさまが必要なんです――」
おねえさま
「…………」
必死で感情をぶつけるわたしを見たおねえさまの表情は、複雑そうな顔つきに変わった。
わたしの悔恨の気持ちが、おねえさまの心を揺さぶったのだろうか?
瞿麦
「わたしの、妹を救い出すために、どうか――おねえさ――ユリガミサマの、力を、貸してください」
ぎゅっと両手を重ね、おねえさま――ユリガミサマに跪いて願いを伝えた。
声は涙で詰まり、たどたどしくなる。それでも――わたしはユリガミサマに伝えなくてはいけない。
ぽたり――と涙が畳の上に落ちる。ぷるぷると身体が震える。気持ちが伝わったか、不安になる。
- 661 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:21:35.800 ID:BmIsXKQc0
- わたしは、ゆっくりと顔をあげてみる……。
すると、ユリガミサマは慈しみの表情でわたしを見ていた。
ユリガミ
「――貴女は、ここまで来ることを選んだ
いろいろな人との協力もあったかもしれない――それでも、最終的にここへ来る決断をしたのは貴女」
続けて、ユリガミサマは、ゆっくりとつぶやき始めた。
瞿麦
「えっ……」
ユリガミ
「貴女は――明確な意思を持って、前に歩き出した素敵な乙女ね
――あの時から、紆余曲折はあったかもしれない
それでも――己を、意思を取り戻すことができたのね」
その表情は――あの時のおねえさまと同じ頼れる表情だった。
ユリガミ
「わたしのように――大切な人を斬り、挙句の果てに眠り続ける羽目になったわたしとは違う――」
そこで、自嘲するように、ユリガミサマは顔を落とした。
- 662 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:22:43.687 ID:BmIsXKQc0
- ユリガミ
「贖罪のためにも――目覚めのためにも――
貴女がやり直すためにここまで訪れる意思を汲み取らなければいけない」
ユリガミ
「……貴女の願いを受け容れましょう――貴女の後悔を乗り越える助けになるために」
その姿からは、記憶の中に、わずかだけ残っている母のような信頼感を覚えた。
瞿麦
「……お願いします」
ユリガミ
「しかし――わたしはこの身体を目覚めさせるには――鍵がいる」
鍵――?
呆然とするわたしに、ユリガミサマは言った。
ユリガミ
「――わたしの身体は、眠ってもなお回復しない……だから――貴女の力を貸してほしい」
瞿麦
「あ――」
ユリガミサマは、――白く、細く、長い指を伸ばした綺麗な手をわたしに差し出した。
- 663 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:24:59.834 ID:BmIsXKQc0
- その手がわたしに重なると同時に、ユリガミサマの身体の周りの白い靄は、
わたしを包み込んで纏い始めて――わたしの心が、ふわふわとしたあいまいな感覚になる。
そのあやふやな感覚の中で、ああ――そうか――と思う。
存在しないまやかしのように思えた希望――
それは、わたしに包まれた――あるいは、わたしが包んだ絶望で見えなかったのだと。
絶望は、確かに存在する概念だ。
でも、わたしは絶望だけが世界に存在するかのように思っていた。
……それは誤りだった。希望は、個々人が思わなければ生まれない。とても当たり前の概念だった。
今までのわたしは、希望から目をそらしていた。
けれども、兄からの手紙を切っ掛けに、
希望を求めるために、見えない絶望を振り払い――前へ進んで――
そして今、希望たる――ユリガミサマ――おねえさま――に辿り着くことが出来たのだ。
- 664 名前:Route:B-13 テオファニー:2020/11/25(水) 22:27:51.848 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦
「はい―――」
わたしは、ユリガミサマの手を強く握った。
感触はない。それでも……手と手は重なり合っていた。
今、心もユリガミサマとつながっているはずだ。
……ユリガミサマに、すべてを託そう。
そして、その果てに――わたしは澄鴒を――。
――わたしは、目を瞑って、手の感覚に集中しながら……
意識の奥へと、深層へと向かった……。
- 665 名前:Route:B Ending:2020/11/25(水) 22:30:35.709 ID:BmIsXKQc0
- ――Revealed the high priestess card.
But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.
―――Route:B Fin.
- 666 名前:SNO:2020/11/25(水) 22:31:07.507 ID:BmIsXKQc0
- なんか一気に投下した感あったけけどRoute:B、完。
- 667 名前:SNO TIPS:2020/11/25(水) 22:40:00.155 ID:BmIsXKQc0
- 瞿麦=フェルミ
Route:B 主人公。
異常性愛者であるグローリー・カヴルのセクハラを受けた被害者の一人。
絶望の悪夢を見ながら、かりそめの平穏を過ごしていた少女。
――しかし、兄であるアイローネ・フェルミの手紙によって、彼女の心は変わることとなる。
苺たちの、一般的な16歳の少女の生活とは異なる暮らしをしているため、
意外かもしれないが、地頭もよく、運動神経もいいため、
順当に学校に通っていれば、文武両道の美少女として、あこがれの的になっていたかもしれない。
――とはいえ、それはもしもの話。
これから、向かうべきものに立ち向かった彼女の行く末は、少なくとも絶望ではないだろう。
- 668 名前:きのこ軍:2020/11/26(木) 22:28:51.329 ID:INEErJ/Qo
- いいひきですね。感慨に浸りました。
- 669 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:32:19.718 ID:Zyvl.xYI0
The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
――Genesis 6:13
- 670 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:30.607 ID:Zyvl.xYI0
- 月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。
純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。
……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。
いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。
世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。
絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。
まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。
……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
カードを表に返すと同時に、水晶玉の中の人物がはっきりと映し出された。
- 671 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/05(土) 22:33:44.281 ID:Zyvl.xYI0
- その人物とは――
- 672 名前:Route:C:2020/12/05(土) 22:34:53.073 ID:Zyvl.xYI0
- ――絶望に立ち向かう黒髪の女性だった。
- 673 名前:Route:C-0:2020/12/05(土) 22:35:05.801 ID:Zyvl.xYI0
- Route:C
Chapter0
- 674 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:40:53.441 ID:Zyvl.xYI0
- ……わたしは、現を見ていた。
天空には月が浮かんでいた。
天に浮かぶ月――太陰は、金色の光を照らしている。
――昔話の一説には、こうある。
月の都の人は、とても清らかで美しく、老いることもなく――物思いに耽ることもない、と。
だが、それは……月を夢見る人々の記した言葉だ。
月に都があるかなんて、月に民がいるなんて、示すことなんてできないだろう。
それでも、不死の国という幻想は、かつてより人間を魅了していた。
――人間には寿命がある。ほかの種族にも、長さの差異はあれど、最期が存在する。
いずれ来る死に怯えるからこそ、そういった伝説に思いを馳せ、あるいは乗り越える方法を探そうとする。
- 675 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:44:47.100 ID:Zyvl.xYI0
- それでも――。
それでも、わたしの見る月は、永遠と沈むことなく天空に浮かんでいた。
夜にしか姿を見せぬ天空の鈴は、今や――永遠のものとなったのだ。
わたしの周りで、白百合の花びらが舞った。
それはまるで雪のようにとても綺麗で、世界にそよいでいる。
この世界こそが、わたしのたどり着くべき場所――。
わたしの心が望んだ世界そのもの――。
世界を見渡せば、幸せそうに歩く女性たちが見える。
友人として――あるいは恋人として――。
それはとても素敵な世界だった。
それにしても、わたしは、どうしてここに居るのだろう?
思い出すことはできない。
わたしの中には、過去の記憶がなかった。
- 676 名前:Route:C-0 つくよみの かなたに:2020/12/05(土) 22:49:09.039 ID:Zyvl.xYI0
- それでも。
それでも――。
この世界がわたしにとって、心地よい世界であることはわかる。
???
「―――」
ふと、わたしの中に――何かがよぎる感覚があった。
一体どうしてだろうか……。
焦燥感に駆られる。何かをわたしは忘れているような気がする。
――その何かは……何だっただろうか。
世界の中心で、わたしは祈るように目を瞑って……。
- 677 名前:Route:C:2020/12/05(土) 22:50:29.091 ID:Zyvl.xYI0
- Route:C始動。
- 678 名前:きのこ軍:2020/12/05(土) 22:53:34.148 ID:I0oyd7coo
- 更新おつついにきましたね
- 679 名前:Route:C-1:2020/12/06(日) 14:31:17.527 ID:XDLbaKnA0
- Route:C
Chapter1
- 680 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:32:09.377 ID:XDLbaKnA0
- ――――。
変わらず、空には満月が輝いていた。
月光に照らされながら、どこかの中庭でわたしは立ち尽くしていた。
ぼうっと……わたしは、与えられた情報を飲み込んでいた。
ここは……いったい……?
片手には、姫百合の飾りで彩られた一振りの太刀。
その鈍い光を放つ刃は、紅色の生命の水で濡れ、ぽたぽたと雫を垂らしていた。
いや、刃だけではない……わたしの着る白衣も紅く染まっていた。
わたしの着ている巫女装束は、腰まで伸びた黒髪と共に、風に揺られて靡いた。
- 681 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:33:14.041 ID:XDLbaKnA0
- 同時に、わたしの中に五感が入り込む感覚があった。
――情報を、視て、嗅いで、味わって、聴いて、触れることができるようになった。
……まずは、身体と太刀に紅い液体を浴びていることがわかった。
その金気臭い匂いが、わたしの鼻をつんと刺激した。
焦燥感に駆られ――わたしはすぐに足元に目をやった。
その目線の先には、ひとりの少女が目を閉じて倒れていた。
地面に広がるふわりとした金色の髪と、赤を基調とした、これまたふわりとした衣装。
――この子は……いったい……。
- 682 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:37:56.018 ID:XDLbaKnA0
- その少女の胸には、黒い瘴気がぐるぐると蠢いていた。
蠢く瘴気の下では、紅色の液体がだらだらと流れ出ている。
地面には漆黒の【剣】が突き刺さっていた。
――少女は既にこと切れていた。
わたしは、紅に濡れた太刀を不意に地面に落とし、彼女をゆっくりと抱き寄せた。
わたし
「…………」
わたしは無言で少女を抱き寄せ、うなだれていた。
……垂れた私の髪は少女を覆い隠す。
それでも、なお……この子が誰かは、わからない。
- 683 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:39:43.393 ID:XDLbaKnA0
- それでも――わたしの中では、ひとつの結論があった。
涙腺から流れる涙が少女の衣装を濡らし、染みをつくる。
わたし
「ごめんね、ごめんね―――――」
わたしは、拭うこともなく、少女のために、涙を涸れるまで流し続けた。
顔を上げた表情は、喜怒哀楽すべてを失った虚無に包まれていることだろう。
もう、わたしの中に――希望は存在しないのだから。
その時――わたしの中に、一つの記憶が泡を立てて引き出される。
この子は、わたしにとって希望でもあった。
だが、それは一振りの太刀によって――自らの手により失われてしまったのだ、と。
- 684 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:41:07.857 ID:XDLbaKnA0
- わたしの心からは、光が失われていくように思えた。闇がわたしの心の中を蝕んでゆく……。
ややあって、わたしは己の心臓に太刀の刃を突き刺した。
わたし
「げぼっ――かはっ――」
紅の花が地面や服を染め――わたしは苦悶の表情に顔を歪める。
…自刃で己の身に始末をつけるために、肋骨の間に刃を滑らせて、肉を突き刺し、心臓をえぐった。
が、どうしても――どれだけ急所を傷つけても、意識が薄れない。
わたし
「どうして――
どうして、死なないの――」
ひどく熱い感覚が胸にある。息苦しさがある。視界は紅に染まる。
それなのに……わたしの身体は、崩れ落ちない。
痛みはあれど、決定的な――致命的な部分が残っている。
- 685 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:41:47.937 ID:XDLbaKnA0
- わたし
「どうして、死ねないの?」
そして――深く突き刺したはずの太刀は、血に濡れた刀身を晒して地面に投げ出された。
わたしの心は絶望で満ち始めて、それを反映するように、空に浮かぶ月も闇に蝕まれ始め……
やがて、月は紅く染まった。
同時に――わたしの首に掛けられた白い【勾玉】が、どろりとした黒い光を生み出したように――思えた。
わたし
「――――――」
わたしは、ぐっと【勾玉】を握り、わたしの中に在る意識を世界全てに溶け込ませた。
逃げ出すため?それとも……
――感覚は、あやふやで、わたしが今ここに存在しているのかどうかも分からない。
- 686 名前:Route:C-1 くれなひの もちづき:2020/12/06(日) 14:42:09.724 ID:XDLbaKnA0
- 同時に、わたしを中心として白い花びらと黒い瘴気が生まれた。
花びらは、ふわりと瘴気によって辺りを漂い、わたしの意思通りに遥か遠く、地平の向こうまで舞い散った。
紅い月は、まるでわたしの意思に呼応するかのように、永遠に空で輝いていた。
その光景を、わたしは幾度も見たような気がする……。
だが、それに想いを馳せる前に――
白百合の花吹雪がすべてを包むとともに――
世 界 は 在 り 方 を 変 え た 。
- 687 名前:SNO:2020/12/06(日) 14:42:32.626 ID:XDLbaKnA0
- これはもしや・・・誰かが求めていた展開かぁ・・・?
- 688 名前:きのこ軍:2020/12/06(日) 18:17:01.608 ID:0hn0GjB2o
- 予想していた展開と違うな。
ちなみに私の好きなエンドはメリーバッドエンドだからな。ただのバッドとは違う。
- 689 名前:Route:C-2:2020/12/06(日) 19:35:31.632 ID:XDLbaKnA0
- Route:C
Chapter2
- 690 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:39:47.799 ID:XDLbaKnA0
- ――――。
わたしの目の前の景色は、満月でもなければ、血に塗れた紅い月でもなく――わずかに欠けた月だった。
月が欠けるほどに、時が経っていたようだ……。
その間の記憶はわたしにはないけれど……。
それどころか、あの子の亡骸も、傷つけた己の傷も、返り血も――
まるで初めから存在してなかったかのように、綺麗さっぱりなくなっていた。
抜いた太刀はいつの間にか、鞘に納められ、
白い【勾玉】は何事もなくわたしの首元に収まっている。
- 691 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:41:08.174 ID:XDLbaKnA0
- わたし
「……っ」
それでも、ひどい倦怠感は全身を覆い尽くしていた。
それは、単に肉体的なものではなく、精神的な重圧によるものも合わさっている。その理由は――
わたし
「――あの子をこの手で斬ったから……」
両手を見ても、そこには赤い花の散らない白い手があるだけ。
まるであれが夢幻の光景でもあったかのように、血の匂いのひとかけらすらもない。
斬ったのは確かなのに、その手ごたえすらも思い出せない……。
顔を上げると、遥か遠くにそびえる城があった。
後ろにそびえる岩山と同じぐらいの高さの城壁。
囲う面積は、あまたの人間を収容できるほどに広い。
それを見て、わたしの中に電流が走った。
- 692 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:46:13.739 ID:XDLbaKnA0
- わたし
「……確か、あの場所は、わたしの向かうべき場所だったはず」
頭を押さえながら、呟く。
確証はないが、なぜだかそうなのだと確信を持つことができた。
記憶の海の中にその答えがあるのか……あるいは、直感によるものかは分からない。
だが、その理由はどうしても思い出すことが出来ない。
思い出そうとすると、頭ががんがんと痛みだし、思考すらも出来なくなるからだ。
いや、城へ向かう理由だけではない。わたしに関する情報は、名前すらも全く思い出すことが出来ない――。
しかし、どうにか――今の季節だけは知りうることができた。
今は、春あたりだろう。辺りに咲く花は撫子。
それに、空にはばたく紋白蝶も、その紋様が薄い――夏ではない。
手元に確認できるものはないけれども、それはわたしの中に刻み込まれた経験則でもあった。
もっとも、あの子の名前を……
わたしが斬ったあの子の名前を……思い出すことはできない。
- 693 名前:Route:C-2 げっかの をとめ:2020/12/06(日) 19:49:06.927 ID:XDLbaKnA0
- 思い出そうとするたびに、頭痛が蝕み、思考を鈍くさせてしまう。
わたし
「………わたしは、どうしてあの子を殺さなければならなかったのか………
その理由を探すことが、わたしのやるべきこと――そう思えてくる」
わたしは、頭痛を強引に耐えながら、遥か向こうの城を見据えた。
――あの場所へ向かうこと。
それがすべてを失ったわたしに、唯一残された目的だから。
わたし
「そのためならば、わたしは死すら厭わないだろう
――あの時死ぬことが出来なかったのは、このためかもしれない」
言い聞かせるように、呟いた。
今、目の前に在ることを――それだけに注力すれば、いい。
――欠落している記憶のことは、そのあと考えればいい。
わたし
「そのためならば、絶望が待ち受けていてもわたしは向かうだろう」
わたしの瞳に宿る光は、不死の月のように尽きることなく輝いていた。
決意を胸に、城への方向へと足を進め……。
- 694 名前:SNO:2020/12/06(日) 19:49:51.939 ID:XDLbaKnA0
- これは秘密だけどはじめは和歌から引用しようかなーと思ってたけど探すのがめんどうなのでやめたらしい。
- 695 名前:きのこ軍:2020/12/06(日) 22:45:21.207 ID:r33lW6Owo
- こうしんおつ
- 696 名前:Route:C-3:2020/12/09(水) 23:10:55.013 ID:5/Kb0Hqo0
- Route:C
Chapter3
- 697 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:15:19.497 ID:5/Kb0Hqo0
- ――――――。
???
「フフフ……
ユリガミが、現れたか――」
わたしの前に、突然、男が現れ、わたしに話しかけた。
――いや、現れたというよりは……男の居る場所に、わたしが現れたという方が正しいだろうか。
身長はゆうに六尺六寸を越えている。その分厚い唇と、スキンヘッド……そして、針のように細い目。
眼球が黒く、その目は青白く――わたしはその特徴な眼を知っているようで、頭のどこかで何かが引っかかる感触があった。
――しかし、それは思い出せない。
月明かりに照らされる男の表情は鬼か、悪魔か、あるいは――魑魅魍魎といったところか。
その巨躯も相まって、わたしはひどくちっぽけな存在にも思える。
- 698 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:22:12.249 ID:5/Kb0Hqo0
- ……それはそうと、ユリガミとわたしの名前を呼んだ?わたしの名前がそうなの?
わたし
「……わたしは、ユリガミ」
確認するように、繰り返す。
???
「おや、あなた……記憶でも失っているんですか?
まぁ、そうであろうと……
確かに……確かに、貴女は間違いなく、私の知るユリガミだ――」
男は、わたしの全身を見てから頷いた。
わたしの名前はユリガミらしい。
……百合神……?わたしは祀られる存在ということ……?
???
「――いやはや、貴女がこうしてここに居ることは、私としてはうれしいですね
貴女の【力】を知っているから……なおのこと……」
???
「一時はどうなるかと思いましたが……
貴女に恐れをなす兵士は数知れず……もはや戦う気をなくす者もいる……
……私の目的は、果たせそうですね」
飄々と語る男は、一見無防備のようで、油断も隙もなく構えを取っていた。
――恐らくは、達人と呼ばれる類の人物なのだろう。
わたしの腰に下がる二尺三寸の太刀を持っていることを把握しているはず。
それなのに、男は素手で対峙しているということは……業物相手とも対等に戦えるが故の自信なのだろう。
- 699 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:25:24.137 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「それで――このわたし――ユリガミに、何の用?」
そして、わたしはユリガミであることを認めた。
理由は分からないが、それを認めるとぽっかり空いた何かが埋まる感覚があった。
――これはわたしが呼ばれていた名前であると、記憶の奥底で訴えかけている!
???
「ああ、なに…単純なことです、私は貴女と戦いに来た――ただそれだけです」
肩をすくめながら、その男は言った。
その表情はつねに笑っているため、不気味な印象を受ける――が、この男はただ不気味な存在ではない。
再度、男が何らかの武術の達人であることを肌でぴりぴりと感じ取る……。
ユリガミ
「どうして、わたしに?」
???
「はっはっは……貴女は剣の達人じゃないですか、それも忘れましたか?」
???
「それはともかく、貴女の剣術は世界一といっても過言ではない……
立場上、私はそういった達人を狩る役目ですのでねぇ
――まぁ、その役目もどうせあと少しでなくなるんでしょうがねぇ」
己を卑下するように、大げさに手を振ったも一瞬
男は、すぐに右手をこちらに向け、構えを取った。
- 700 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:29:16.401 ID:5/Kb0Hqo0
- ???
「まぁ、万が一が起きたら、私は大層困るんですが――
時が来るまでは、一応、貴女も始末しにいかなくてはいけないのでね……」
その口ぶりからは、完全な敵意はないようにも思える。
逃げることもできるかもしれない。
どうする――?
いや――わたしは、逃げてはいけない。
……おそらく、この男は真実に辿り着く障害だから。
だから、わたしのできることは―――
ユリガミ
「――」
太刀を抜き、切っ先を男に向けた
――すなわち、宣戦布告の合図だった。
わたしは、剣術の達人なの――?その記憶も当然ながらない。
しかし、身体には太刀の技が刻み込まれていたらしく、
相手に刃を向ける姿勢、視線、態勢――すべてが、自然とわたしの身体に現れていた。
- 701 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:30:49.355 ID:5/Kb0Hqo0
- ――本能なのか、あるいは認識していない記憶なのか。
ユリガミ
「ちぇーーっ!!」
隼のような神速の切払い。豪雨のような連続突き。わたしはいともたやすく相手に切りかかる。
それを繰り出すたび、これまでずっと鍛え続けてきたのだと――、そんな納得感を覚えていた。
確かにわたしは、剣術を修めているのだ――。
???
「フン――」
男は、わたしの斬撃を受け流し、合間合間で反撃を繰り出す――
素手?いいや違う……。
男が操っているのは、自然現象を武術と組み合わせた戦闘術だろう。
拳で生み出した風圧、足元に大量にある土……それを巧みに操っていた。
戦いは、完璧に互角だった。
わたしも、相手も――決定打を与えることなく、いいや、傷ひとつ与えることすらなく――
――膠着状態のまま、わたしは男と対峙していた。
- 702 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:33:19.088 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「自然現象を操る技術――一体、あなたは何の技術を修めているの」
――わたしは男から間合いを取り、ひとつの疑問を投げかけた。
男の考え方は、わたしには到底受け入れられない価値観だから……。
――価値観?わたしはどうしてそう考えているのだろう。
しかし、それを考えるのは今ではない。
???
「もうそれは、色々と……キマイラのように……
ですが……ベースは戦闘術【魂】――
見どころのある一人の男を除いて、師範ですらぽっと出の新人にやられるような、そんなつまらない武術です」
――わたしが流れてくる思考を吹き飛ばすと同時に
本当に、つまらなさそうに男は言った。
武術への信奉は感じられない……だが、極限まで鍛えられた技術であることは、立ち振る舞いから見ても間違いない。
ユリガミ
「あなたは武術を修めながら、全く持って敬意がない」
口をついて出た疑問――それは、ごく自然に発せられていた。
???
「ははは……当然でしょう?
これは私の持論ですが、いかなる武術を極めようと、それを押しつぶす【力】があれば無意味になりますからね」
――不気味に笑いながら男は答えた。
その口ぶりからは不思議な説得力がある。それほどまでに、男はその考えを支持しているようだった。
- 703 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:34:22.283 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「では、どうして――あなたの言うつまらない武術を、あなたは極めているの
【力】だけでいいと言うのなら、武術はいらないでしょう」
???
「ああ、なに……単純なことですよ
私のような、武術に対して不真面目な人間に――自分が積み重ねた技術が互角という事実を突きつけたうえで――
武術は【力】に無力ということを教えてあげたいからです」
ニヤリと、男は笑った。
ユリガミ
「……ああ、あなたは気でも違えてるのかしら」
???
「そんな、ひどい――私、貴女を見てから、ようやく生きるきっかけを見つけたんですよ?
最も、今の状況はつまらなくてしかたないですが……」
ユリガミ
「――とても、不愉快……わたしを、見ることすらも……」
あっけらかんとした態度で語る男に、ふつふつと、怒りが湧く。
わたしは、この男の欲望を果たす為だけに存在していた……?
- 704 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:37:08.804 ID:5/Kb0Hqo0
- ???
「ふん――」
その拳は、わたしの胸目掛け軌道を描き――わたしは、無意識のうちに衣の裾でその拳の軌道をそらし――。
突き出す拳の勢いを利用し男を投げ飛ばした。
???
「く――」
わたしに、ダメージはない。
男は、受け身をとりながらも、ニヤリと笑っていた。
???
「流石、彼女と同じく護身術もお手の物だ――
しかし、私が求めているのはそれではない――」
擦りむいたらしい拳を押さえながら、男は満足げに笑うやいなや――懐から注射器を取り出し、内部の液体を血管に注入した。
ユリガミ
「はっ――!」
――ぞくりとわたしの背中に冷や汗が流れた。
???
「ふんっっ!」
男が勢いよく注射針を刺した腕を掴むや否や、
男の筋肉ははち切れんばかりに膨らみ、顔の血管はぱんぱんに膨らんでむくんでいた。
- 705 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:38:01.168 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「【力】――そういうことなのね」
???
「ふふふ……ただの【力】を、技術でどうにかする貴女は、私好みの達人だ――
でも貴女に私が求めているのは、そんなものじゃない――」
その表情は、まさにケダモノのようにも思えた――。
ユリガミ
「……こんな奴に、わたしは負けない」
胸の中に溜まったひどい嫌悪感を、男に吐き捨てる。
そして、私は再び刀を構えた。
ユリガミ
「こんな醜いケダモノに、慕われる道理があるものか――」
怒りながらも、男を見る目は冷静に――奴を――斬る!
???
「そう――私はその顔が見たかった――
貴女は、それでこそ――魔女と恐れられる、最強の女神だっ!」
そして――再び、わたしと男は同時に飛び交った。
- 706 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:38:56.959 ID:5/Kb0Hqo0
- ユリガミ
「来い、ケダモノ――」
???
「ウォオオオオオオオーーーーッ!!」
男は、地面に思いきり着地し、衝撃波でわたしを揺らす。
それは無理矢理作り出した肉体で繰り出した攻撃だ……だが…問題はない。
大丈夫、対処できる――不安定な足場の上でも戦えるすべを、わたしは知っている。
???
「ウォ゛オ゛オ゛オ゛オオ゛オ゛ッ」
突然、男が口から何かを吐きだした。
異臭のするガス――毒!?
わたしは、後ろに転がりながらそれをかわす。ガスの残滓は、わたしの身体に触れる前に霧散していく――。
???
「やはり……
私の求めていた【力】だ――やはり貴女は最高だ――」
嬉しそうな、男の声――それを聞くだけで、心の底からわたしの中でどろりとした何かが生まれるような気がする。
- 707 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:40:47.631 ID:5/Kb0Hqo0
- なに――何が言いたいの――?
???
「もらった――」
――そして、その思考の隙を突いて、男が全力の拳を打ち出した。
それは神速の突き……意識よりも速く空間を切り裂く突き……。
それでも、その軌道をそらすために、被害を抑えるために、指1本で牽制しようとし――
拳と指がごくわずか掠った瞬間、男の拳は、なかったかのように消え去った。
???
「――――ク、クククッ」
その情景には、なぜか覚えがあった。
男は、さらに笑いながら消えた拳を押し付けようと血液とともに腕を突きつけたが、
わたしに触れる傍から、皮も、肉も、血も、骨も消滅していった。
まるで、熱に触れて溶ける氷のように……。
???
「ハハハハハハハハハハッ――」
やがて、男は笑いながら腕を引っ込め、さっと跳び、わたしから離れた。
- 708 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:43:03.167 ID:5/Kb0Hqo0
- ???
「やはり、貴女は最高だ――
ハハハ、ハハハ、ハハハハハハ――だからこそ、女神であり天使だった」
そう言うと、男は、満足げに笑いながら、血止めをしつつ、その場を走り去った。
ユリガミ
「なに――なんなの――」
男の腕を消滅させた――これは、明らかに武術ではない。それとは違う系統の【力】だ。
返り血すらもない。無意識に、発現した力……。
呆然と、わたしはその場に座り込んでいた。
既に男の姿は見えない。――戦いは終わりを告げていた。
ユリガミ
「――っ」
心当たりは、ある。しかし、それが明確に思い出せない――思い出そうとすると、がんがんと頭が痛む。
その場に膝を突き、その痛みに耐えながら目を瞑っていると――記憶の残滓が頭をよぎった。
- 709 名前:Route:C-3 たつじんの たたかひ:2020/12/09(水) 23:43:42.725 ID:5/Kb0Hqo0
- 恐怖で押さえつけられた子供――醜いケダモノのような男――酸欠状態に陥った男女――
ユリガミ
「――はぁ、はぁ、はぁ」
思い出せない、思い出せない、思い出せない、思い出せない――
いいや、違う――ここで【力】に考える事が間違いなのだ。
わたしがやるべきことから外れてはいけない。あの男はわたしを惑わせるために現れたのだろう。
わたしがやるべきこと。それは真実に辿り着くことなのだ。
だから、立ち上がり――向かわなくてはいけないのだ。その場所へ――。
よろよろと立ちあがり、わたしはゆっくりと歩き始め――。
- 710 名前:SNO:2020/12/09(水) 23:44:06.771 ID:5/Kb0Hqo0
- バトルシーンの描写むずい
- 711 名前:きのこ軍:2020/12/10(木) 22:40:13.065 ID:kC.YKhqoo
- スピード感出しながら書こうとするのはむずいよね。
- 712 名前:Route:C-4:2020/12/10(木) 23:52:50.157 ID:gzdccGE60
- Route:C
Chapter4
- 713 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/10(木) 23:56:35.877 ID:gzdccGE60
- ――――――。
気が付くと、わたしは――何処かの屋敷に居た。
山や野原や花畑といった、自然に囲まれた――世間からは切り離されたような場所。
先程の戦いも――男の腕を消滅させた【力】も、まるで夢だったかのように思えてくる。
空のよく見える縁側で、わたしは三日月を見上げていた。
――ここは、とても懐かしいはずなのに、何処かは思い出せない。
……なぜか、わたしの斬ったあの子の姿が視界をよぎった。
もちろんそれは幻。ただの、情景の再現……。
わたしはあの子と、この場所で出会っている。
???
「おねえちゃん……」
――可愛らしい声が、記憶を駆け巡る。
彼女は、妹のような存在……?そしてわたしは姉のように慕われていたの……?
その瞬間――
???
「――お姉ちゃん、許せない
わたしの方が、【力】を操れるんだからぁぁぁぁ!」
……あの子はわたしへ怒りをぶつけた。
いったい……どういうことなの……
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 714 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/10(木) 23:59:01.199 ID:gzdccGE60
――とぼとぼと歩いていると、灯りの灯った部屋を見つけた。
わたしは、その中を用心深くのぞき込む……すると……
???
「――貴女は!
……また、貴女に逢えましたね」
感極まった、聞き慣れた声が聞こえた。
……記憶のないわたしにとっては不可思議な表現だが、
確かに聞き慣れたハスキーボイスが、後ろから聞こえた。
目の前に隻眼の女性。
――背中に羽が生えているから、彼女は天狗だろうと、わたしは直ぐに判断していた。
……その姿に見覚えがあった。名前は確か――
???
「わたくしは、ヤミ――」
記憶の中で、幼い――けれども、既に右眼を失っていた彼女が名前を告げる情景が流れる。
ぽっかりと空いた穴が埋められる感覚があった。
- 715 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:00:43.341 ID:OGkBNIQ20
- 左手の指を、半分ほど欠損し――顔にも大きな傷がある。
その姿は、一度見たら印象に残るからだからだろうか、わたしは彼女の名前を思い出すことができた。
彼女がどういった立場にあたるかは、覚えていない……それでも彼女がヤミであることは、確固たる事実だ。
ヤミ
「貴女は――わたくしが引き留めても、あの場所へ――【会議所】へと行くのでしょうね」
ヤミは、わたしの後ろに抱き着いて、顔を寄せる。
少しさびしそうな顔は、少し私の心を揺らす。
――【会議所】、それは街宵月の夜に見たあの城のことなのだろう。
……わたしは、城に【会議所】へ真実を見つける為に存在している。
それだけが――わたしの存在する意味だから。
それでも、ヤミはわたしを抱きしめている。
名残惜しそうに。わたしの長い黒髪を、指ですくい取っていたりもしている。
――どうして、心が揺れるの?
あなたは――わたしにとって――どういったそんざいなの?
それを言おうとしても、どうしても声に出せない。
- 716 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:02:30.165 ID:OGkBNIQ20
- ――ややあって、ヤミはわたしから身体を離した。
ヤミ
「……けれども、貴女をこうして引き留めてはいけない
……貴女を抱きしめていたいけれど、貴女のすべてをもう少し味わいたいけれど……」
陰を落とした顔で、ヤミは呟く。
ヤミ
「貴女は――心に決めた事は、たとえ何があろうともやり遂げる――そういう人です
それが地獄の門だったとしても――貴女は、為すべきことのためならば、死すらも厭わないのですから
その意思の強さが、貴女の【力】の原動力でもあるのだから――」
続くヤミの言葉は、わたしの揺れる心に再び決意を与えた。
そうだ――今、ヤミのことを考えていても、真実には辿り着かない。
今わたしが為すべきこと――それは【会議所】に向かうことなのだ。
- 717 名前:Route:C-4 せきがんの てんぐ:2020/12/11(金) 00:06:25.418 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「そう――わたしは、【会議所】に向かうの
あの子のために――わたしは真実に向かい合う為に――」
ヤミ
「ふふ、それでこそ――わたくしの大好きな貴女です
ですから――どうか、良い結末になることを願っています」
わたしの決意に、ヤミは少し寂しそうな笑顔で答えた。
その仕草もまた、見覚えがある。きっと、わたしはヤミとは長い間親交があったのだろう。
ヤミ
「今やは、何から何まで滅ぼさんとばかりに、
世界すべてが面倒なことになっていますが……
わたくしに入っている状況から判断すれば……貴女の敵となりそうな存在は、ほぼ存在しないかと思われます」
ヤミ
「そして、貴女は心配かもしれませんが――
此の場所は、わたくしが必ず護ります――貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」
ヤミは、ちらりと襖の向こうを見つめた。心なしかその奥に影があるようにも見える。
――そこには、何かあるのだろうか。でも、それに思いを馳せるのは今ではない。
わたしは――【会議所】へ向かわなければならないのだから。
ユリガミ
「わかったわ――こちらは任せるわ」
ヤミ
「はい――あの場所のようにならぬように――確実に――」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 718 名前:SNO:2020/12/11(金) 00:07:34.494 ID:OGkBNIQ20
- 今更ですがこのRouteの主人公はあの人です。
- 719 名前:きのこ軍:2020/12/11(金) 07:36:22.772 ID:NDdxqdXMo
- ユリガミ様サイコー
- 720 名前:Route:C-5:2020/12/11(金) 22:42:10.029 ID:OGkBNIQ20
- Route:C
Chapter5
- 721 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:44:46.695 ID:OGkBNIQ20
- ――――――。
わたしは、どこかの荒野に居た。
あの屋敷から移動して――いつの間にか、ここに居たことになる。
……その道中の記憶はない。もう、道中の記憶といった些末なことを考える必要はないのかもしれない。
わたしは、失われた記憶の中で、失われた過程(道中)の中でも、真実に向かって歩いているはずだ。
わたしがそうしていると信じるのが重要であって、それ以外の出来事は些細なことと考えるしかない。
だから――今は、ただ目の前の出来事に集中するだけだ。
辺りの様子を確認する。
死屍累々――橙や緑の軍服を着た兵士たちが、崩れ落ちるように倒れ、折り重なっている地獄絵図だ。
ユリガミ
「……一体、何が起きているの?」
冷静に、状況を判断しながら、わたしは考えを巡らせる。
不思議と――動揺はない。わたしは屍の群れに慣れているのか、
あるいは記憶が完全ではないから、それに伴うように心も鈍麻しているのか。
- 722 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:45:29.999 ID:OGkBNIQ20
- ――目の前には、醜い見た目の化け物が居た。
生物ではあるようだ。茸の傘のような頭頂部。長い胴体とは対照的にひどく短い手足。
身体からは腐臭をまき散らし、辺りの雑草を枯らしている――。
その顔は――
ユリガミ
「――っ」
その化け物の、ただ欲望のみを考えた、理知的なところのひとかけらもない顔には、既視感がある。
――失われた記憶の何処かで、この顔への嫌悪感が或る。
化け物
「ヴォオオオーーーーーーッ」
劈くような低い声は、耳障りに辺りを揺らした――。
――その音にも聞き覚えがあり――ああ、なんて……どうしようもなく醜い音なのだろうと感じた。
その時――わたしの頭に稲妻が走ったような感覚があった。
- 723 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:47:23.557 ID:OGkBNIQ20
- ???
「――男は存在してはいけない
その汚らしい身体は誰であろうとも存在してはいけない
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
唐突に――わたしの中に呪詛のような子供の声がよぎった。
一体、この声は――だれの――声――なの――?
深く考えようとすると、今度はずきりと頭が痛み始めた。
駄目だ――今これについてどうこう考える必要はない。
なにしろ、化け物はわたしを敵として判断している。
――今やるべきことは、目の前にいるこの化け物をどうにかすること。
そうでなければ、真実にたどり着くことすらおぼつかないのだから。
- 724 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:50:01.398 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「来い――化け物」
わたしは太刀を抜き、その化け物にその刃を向けた。
闘志で無理矢理頭痛を捻じ伏せる……。そうしているうち、捻じ伏せなくとも頭痛は治まってきた。
化け物
「グチャグチャと、この俺様を化け物と言いやがって――この阿婆擦れが」
化け物は、わたしにそう吐き捨てながら巨大な振り鼓を振るった。
それはメイジにとっての杖のように、音波の真空波を繰り出した。
空気を操る力――それを認識した瞬間、全身の毛が逆立ったような感覚を覚えた。
わたしの根源にある何かが警報を鳴らしているような気がする。
それは記憶の奥底に依るものなのか……あるいは本能に依るものなのか……。
――わたしは、避けられないと観念してしまったのか?
- 725 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:50:48.702 ID:OGkBNIQ20
- ――いいや、違う!
化け物
「チーーよけやがるかァ」
わたしは、冷静にその攻撃を回避する。音速の波だろうと、わたしには冷静に対処できるだけの技術がある!
しかし、どうしてこの攻撃に恐怖を覚えているの?
――考えている場合ではない。
矢継ぎ早に、化け物は次の攻撃を繰り出してくる!
化け物
「ダースクエイク」
地面を分割させるほどの地震――
化け物
「ミールメイルストロム」
魔術で作った、大津波――
しかし、大丈夫。よけられる。嵐のような攻勢でもわたしは己を保ち、対処できる!
- 726 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:51:22.840 ID:OGkBNIQ20
- 化け物
「グーーちょこまかと、ゴキブリのようによけやがって――」
化け物
「死ねや、ブラックサンダー!」
再び、魔術による攻撃、今度は雷撃がわたしに襲い掛かってくる!
拡散する電流は、うねるようにわたしを包み込もうとする――。
ユリガミ
「せいっ!」
――大丈夫。この攻撃もかわせる。
わたしは、電流の合間を縫って飛び、その跳躍を活かして化け物の頭上から斬り込んだ。
化け物
「ウグァッ!」
ぐにょりとした、ひどく気持ち悪い感覚――完全に切り裂くことができない。
化け物は、頭頂部を振り、その遠心力で太刀ごとわたしを投げ飛ばした。
- 727 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:53:10.742 ID:OGkBNIQ20
- 化け物
「いデェーーッ……許さんぞ、この売女ァ、糞アマがァーーッ
てめェは、所詮下等な存在で――オレ様のような存在のエネルギー補給装置にすぎねぇんだ」
ユリガミ
「――っ」
咄嗟に受け身をとったから、負傷はない。
だが――男の吐き捨てる、品性のかけらのない一言一言が、わたしの神経をぴりぴりと逆なでする。
どうして、こんなに――この化け物の言葉は、わたしの心を揺さぶるの――?
何度も交戦して、こういったことを聞かされてきたの――?
???
「――男なんて存在してはいけない存在そんなどうしようもない生物以下の存在なんて全てこのわたしが消滅させてやる
何もかも滅ぼしてやる植物だろうと獣だろうと神だろうと例外なく魂魄すべてを殺してやるわたしの目の前から全て殺す
殺してやる殺してやるわたしの見えないところだろうと何処だろうとそれがこの世界の正しい形正しい在り方」
頭痛が激しくなる。こういった戦いの場では、一瞬の隙すらも与えてはならないのに――。
再び子供の呪詛のような言葉が、わたしの頭の中を巡る。
まるで、それが化け物への反論かのように……。
- 728 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:54:01.407 ID:OGkBNIQ20
- 化け物
「――貰った、クソ女がァー!」
わたしが頭を押さえた隙を突いて、その化け物は酷く短い腕を振り上げ、わたしに振り下ろそうとしていた。
だが――
ユリガミ
「お前のような存在に――わたしは倒れるわけがない」
意識もせず、その言葉が出て――同時に、わたしは太刀を振り上げて化け物の腕を斬り落とした。
化け物
「あ――?グギャァアアアアアッ!」
苦しみにもだえる化け物。その傷口からは、コールタールのようなどす黒い血液が、どろどろと溢れている。
太刀には一滴の血液もない。――そして、続けて化け物の片足を捩じ切る!
化け物
「ガァアアーーーーッ!」
骨の継ぎ目を斬り落とす。脆弱な部分を、相手の動きから予測して真っ二つに斬り飛ばした。
返り血がわたしに跳びかかろうとしているけれど、わたしにそんなものは通用しない!
わたしの予想通り……結界に阻まれたように、血液ははじけて霧散した。
- 729 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:55:15.271 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「――消滅しなさい」
バランスを崩した化け物の目を切り裂く。鼻を抉り取る。血を吐く口を削ぎ落す。
――わたしは、まるで自分が為せなかったこと成し遂げるような感覚があった。
どうして――?
ユリガミ
「お前の言う、下等な存在に、切り刻まれる方が――下等なのでしょう
――この世から、消えてなくなれ」
――吐き捨てるように、見下すように……わたしは化け物に語る。
そのまま、抵抗もままならない化け物の全身を、念入りにバラバラに切り刻み、絶命させた。
化け物
「グギャアアアアーーーーーーーーーーッ」
飛び散る血液。響き渡る断末魔――血液を浴びて、腐り落ちる荒野の草――小動物――。
それなのに、わたしに返り血は一切ない。――あの子の時は、白い衣を染めていたのに……どうしてなのだろう。
不気味なまでに――わたしは綺麗だった。
- 730 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:56:57.035 ID:OGkBNIQ20
- たとえ――兵士たちを殺した化け物を始末したのだとしても――
それはきれいごとでは片付けられないし――あの子を殺したのだから――
わたしは、黒に近い存在なはずなのに――どうして、こんなにも綺麗なの?
太刀を収め、わたしは近くの岩場に腰かけた。
腰かけた岩場に長い髪がぱさりと広がる。そしてわたしは胸に手を当てる……。
ユリガミ
「はぁ、はぁ、はぁ……」
――わたしがこんなに綺麗な理由。それをわたしは知っているはずだ。
何故か、わたしの求める真実に関わっているような気がする――。
けれども、それも思い出せない。同時に、動悸が激しくなる。
――これも、考えてはいけないの?
- 731 名前:Route:C-5 こうやの ばけもの:2020/12/11(金) 22:57:20.877 ID:OGkBNIQ20
- ユリガミ
「……落着け、落着け……」
ゆっくりと、深呼吸し、気分を落ち着かせる。
このことについて考えるのをやめると、動悸は治まり始めた。
ユリガミ
「――大丈夫、わたしが導いてくれるはず」
そして――少しでも、前向きに考えようと、わたしは呟いた。
考えてはいけないことを、体調の変化で知らせる。それこそが、わたしの信じられる感覚と思おう。
真実という本線から外れないように、わたしが止めてくれるのなら――わたしはそれに体を預けよう。
ユリガミ
「――だから、せめて……わたしが真実に辿り着けるように、わたしはわたしに祈ろう」
わたしは立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた……。
- 732 名前:SNO:2020/12/11(金) 22:57:36.629 ID:OGkBNIQ20
- みんな!強い主人公いいよね!
- 733 名前:きのこ軍:2020/12/11(金) 23:01:58.797 ID:NDdxqdXMo
- 最強!最強!
- 734 名前:Route:C-6:2020/12/12(土) 00:02:45.269 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter6
- 735 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:05.364 ID:pVacs5r60
- ――――――。
気が付くと、わたしは何処かの森の中に居た。
荒野からがらりと風景が変わる。それも、わたしにとっては一瞬の出来事だった。
ここはどこなのか――とも思ったけれど、もう、それについて考えるのはよそう。
どうせ、分からない。記憶を欠損しているわたしにとって、今やるべきことではない。
――月は、木の葉に遮られて見えない。月光も遮られていて、今の満ち欠けはわからない。
月は完全に欠けてしまっているのか……あるいは、ただ遮られているだけなのか。
月を見れないと――少し不安を胸が包んだ。
過程を見ずに辿り着く真実が、本当の真実なの?
大切なことを、見落としてしまうかもしれない――
そう思いながらも、わたしは歩いて……二人の人影を発見した。
- 736 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:06:44.624 ID:pVacs5r60
- ひとりは、金の角の生えた魔族の女性――もうひとりは、かむろ髪の、白髪の少女――。
途端に、わたしの中に記憶が流れ込んだ。
???
「へぇ、貴女がさっちゃんの……ねぇ
私は791、よろしくねっ!」
そうだ、魔族の女性の名前は791。人智を越えた魔力の持ち主で、腕力も規格外だったはず。
???
「あたしは、フチ――
貴女があの人の娘なのですね――
……最も、あの人は分け隔てなく話すようおっしゃられていたから、もう少し砕けてもいいかな?」
白髪の少女の名前は、フチ。幼い見た目ではあるけれど、精神は立派な淑女そのもの……。
ふたりとも、わたしの知り合いであることに間違いはない。
……そうなるいきさつまでは、未だ思い出せないけれど。
- 737 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:07:59.433 ID:pVacs5r60
- どうして、この二人がこんな森の中に?
ふたりは、倒木の上に座って、ぼんやりと辺りを見つめている。
恐る恐る、わたしはふたりのもとへと駆け寄った。
ユリガミ
「どうしたの、二人とも」
791
「――あなたは……」
791は、目を丸くして驚いた。
――それは、わたしの起こした悲劇を知っているからだろうか?
791
「なるほど、そういうことか……」
納得したように頷いた791。
彼女は、たしか魔王と呼ばれていた――はずだけれど……
今の彼女は、その単語とは裏腹に――酷く憔悴した表情をしていた。
- 738 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:09:22.525 ID:pVacs5r60
- フチ
「……」
フチは――ただ791の腕にくっついて、俯くばかり。
彼女は、とても天真爛漫で、その小さな身体では抑えられないほどに元気な女性だったはずなのに――。
それに――確か彼女には――。
791
「あなたも知っていると思うけれど……テロ組織の【嵐】は、全世界で大暴れ――
会議所はギリギリ持ちこたえてる――あとは、企業としてはルミナスマ・ネイジメントも頑張っているほうかな
でも、ヴァルトラングといった多くの大企業はもう、ダメダメ――当然、中小企業や住民も、言わずもがな……」
わたしが思考する前に、テロ組織の【嵐】――新しい情報が耳に入った。
一体全体、何なの……?世界が混乱していることだけはわかる。
もしかしたら、わたしと相まみえた男や化け物も、それに関係しているのだろうか。
- 739 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:10:47.799 ID:pVacs5r60
- 791
「――まぁ、前置きは置いておきましょう
私――いや、私たちはあなたに……そう、ユリガミとしてのあなたに、頼みごとがあるんだ」
ユリガミ
「頼みごと――」
何故か、幾度もそんなことを言われたような気がする。
ユリガミ――女神と呼ばれているのだから、それは当然なのかもしれないけれど……。
フチ
「――【嵐】、あの組織を消滅させて」
フチは、俯いたまま言った。
表情は見えない。けれども、その言葉の節々からは、怒りと、呪詛と、悲愴さとが入り混じっていることが伺える。
791
「本来なら、【会議所】の管轄なんだけど――
私は、フチちゃんを守らないといけない――
守れるのは、もう……私だけしかいないだから……お願い……」
【会議所】の関係者。791に問いただせば、真実はあっさりと分かるのかもしれないけれど……。
791は、俯いたままのフチの身体をぎゅっと抱き寄せていた。
それは、まるで母が子を守る仕草のようで、ガラス細工のように脆く儚く見えて
――何かを尋ねることは、ついには出来なかった。
- 740 名前:Route:C-6 まおうの ねがひ:2020/12/12(土) 00:11:54.208 ID:pVacs5r60
- 【嵐】――テロ組織――それはわたしの辿り着く真実と関係があるのか?
分からない。それでも――わたしの向かうべき場所である【会議所】にも影響が出ているのは確かだ。
ならば、わたしと敵対関係となるかもしれない。
あるいは、既になっていることも考えれる。
さらに言えば、【嵐】のせいで真実に辿りつけない可能性だってある。
だから――
ユリガミ
「わかったわ――貴女たちの願いを聞き入れましょう」
わたしは、胸元の【勾玉】を握りながら、願いを受け容れた。
それが、正しい事なのかはわからない。
【嵐】がどういった組織なのもさっぱりとわからない。
それでも、真実に辿り着くために。わたしの為すべき事のためには――必要なことだから。
- 741 名前:SNO:2020/12/12(土) 00:12:25.141 ID:pVacs5r60
- 不穏。
- 742 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 11:18:16.174 ID:nppr98lso
- よくわからねぇ〜
- 743 名前:Route:C:2020/12/12(土) 12:58:32.903 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter7
- 744 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:04:15.435 ID:pVacs5r60
- ――――――。
相変わらず……辺りの風景は一変していた。
――791もフチも森もここにはない。とはいえわたしは止まることはできない。
前へ前へ、歩き出した途端、再び敵に出くわした。
今度は男どもの集団。銃やら槍やら、物騒な武器を抱え、揃いも揃って、嫌悪感を覚える雰囲気の男たち。
男
「あの武器――あれはユリガミ……魔女だッ!」
男
「なに――しかし、いいんですかい?
殺してはまずいって……」
魔女――女神ではなく?
単に魔術を操る女性を表す単語なだけではなく、
悪魔と契約した災いなすものを魔女と呼んだはずだけど――。
- 745 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:07:09.983 ID:pVacs5r60
- 男
「ボスは、【嵐】の活動の邪魔になるなら、首だけでも持ってこいとのってことだぞ?忘れたのか?」
男
「ああ、そうだった……奴の執着が晴れてくれてる状況なら、別に構わねえのか」
男
「行くぞおおおおーーッ!」
よくわからない会話を繰り広げたかと思うと、わたしの前で男たちは円陣を組み、士気を高める……。
――それにしても、【嵐】……都合よく、わたしの前に現れたものだ。
フチ
「あの組織を、消滅させて」
フチが、わたしにそう願った。
791も、それに追従した。わたしの向かうべき【会議所】にも影響が出ている。
なら、【嵐】は真実へ向かう為の敵とみなしていい。
それに、すでに彼方此方に被害を出している組織だ。ここで撃退しないと、面倒なことになるのは目に見えている。
――わたしのことを、良くは思っていないことは、先程の会話の節々から判断できる。
ユリガミ
「――すぅぅ」
抜刀し、刃先を相手に向ける。
相手は集団。数十人は居るだろう……。
わたしは一人。そして得物は姫百合の装飾のある太刀一本。
- 746 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:10:15.797 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「――わたしにとりて、これぐらいの状況は縛めにあらず」
小さく、自分に言い聞かせるように呟く。
男
「いけェーーーッ!」
一人の声を呼び水に、男たちが武器を構えて左右から攻めてきた。
ユリガミ
「――すうっっ」
わたしは短く息を吸い込んで、、太刀を振るった。
わたしは、一人の首を飛ばし、返す刀でまたひとり、ふたり――その腕や胴を切り裂いた。
それも当然、彼らの動きは視えるのだ。どのように体を動かし、武器を振るのか――初めから終わりまで、全てが。
太刀の切り筋は、鬼をも切り裂く一閃の冥府となり――
男
「ぎゃァッ!」
男
「ごふ――」
男
「がハッ……」
ばたばたと、その命を刈り取った。
- 747 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:14.614 ID:pVacs5r60
- 男
「うおッ!一旦離れろ!」
男たちが飛び退くのを見ながら、わたしは考えていた……。
わたしに襲い掛かってきた長身の男。奴は、太刀を素手で捌く技量があった。
――本人の考えはともかく、技術の研鑽に努めてきたことは明らかな達人だった。
わたしに襲い掛かってきた化け物は、連続して魔術を唱え、抑え込もうという戦略があった。
そして、腐臭やその嫌悪感といった生物的な特性も持っていた。
彼らは、少なくとも――戦闘能力は高く、厄介な存在だった。
だが――この男たち――【嵐】はどうだ。
訓練はされているだろうが――連携に不完全さが見える。
人間か、あるいはオーガか、魔族か――ともかく、欲望だけで生きている――そんな感覚を覚える。
記憶はないけれど――わたしは剣術に身を捧げたことは、感覚的に分かっていた。
技術を長く研鑽してくれば、自ずと相手の動きも読む事が出来し、自分の動きを読ませないようにもできる。
欲望だけしか考えてない存在には――それは出来ない。
- 748 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:13:42.314 ID:pVacs5r60
- 男
「一斉射撃だ、誤射されんなよぉ!」
男の指示と共に、がちゃり――と重厚な金属音。銃に弾が込められ、引き金が引かれる音。
ユリガミ
「――すぅうう」
一呼吸置く。自分のリズムを作り、相手の動きに注目する。
近距離を相手にする太刀は、遠距離――すなわち飛び道具に対して弱い――そう言われることもある。
しかし――わたしの身体は知っている。
それは間違いであり、飛び道具に対抗する技術を身に付けていることを!
鉛玉が飛び交う。わたしを傷つけんと、空気を切り裂き、硝煙の匂いも辺りに散らばる。
ユリガミ
「はっ!」
問題はない。いくら距離をとっても、弾丸の速度が認識できるよりも速くても――
銃口と、相手の腕と、それから辺りの空気から、その軌道は完璧に読めるのだ。
- 749 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:14:58.235 ID:pVacs5r60
- わたしの背後にあった岩がハチの巣のように穴が開く。
彼らは、わたしの動きに追従するように銃弾を放つが――いずれも読み易い動き。
弾を充填するタイミングで、彼らを切り捨てる。
男
「う、うわァァァアッ!」
男
「まずい、このままだと全滅だ!あの魔女にやられちまう!」
――ただ、相手の動きを読んだだけ。これだけのことで、彼らは動揺し、恐慌状態に陥る。
あまりにも――醜い。わたしは、その表情すらも見たくない。
首や胴や腕や足――手当たり次第に斬り殺し、そこに居た男たち――【嵐】は、全て屍と化した。
ユリガミ
「片付いた――」
この戦いは、791とフチの救いになるだろうか。崩壊が願いだったから、これでは足りないかもしれない。
- 750 名前:Route:C-7 まじょの たたかひ:2020/12/12(土) 13:15:36.453 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「…………」
わたしの心は――氷のように冷え切り、何も感じていなかった。
数十人殺しても、何とも思わない。――あの子を斬った時は、あれほど悲しかったのに。
【勾玉】は、白いまま首元で揺れていた。
わたしは心が凍りついているのか――それとも、あの子には、特別な思い入れがあったのか。
一瞬、わたしの中に疑問が芽生えたが、すぐにそれは押し殺した。
ユリガミ
「――どちらでも、いい
わたしがやるべきことは、真実を見つけること」
そう。悩むことは必要だけど、主体を見失つてはいけない。
今のわたしに重要なことは、それなのだ。
それさえわかっていれば、大丈夫。わたしはその場所へ向かう必要があるのだから――。
- 751 名前:SNO:2020/12/12(土) 13:15:47.173 ID:pVacs5r60
- やっぱり強い!
- 752 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 18:42:08.547 ID:7nRg7TfQo
- 魔女って響きがキーワードぽいな。
- 753 名前:Route:C-8:2020/12/12(土) 19:28:59.955 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter8
- 754 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:33:29.840 ID:pVacs5r60
- ――――――。
わたしは、どこかの建物から出てきたところだった。
目の前にはたくさんの群衆……まるで、出迎えられているかのような感覚。
群衆
「おおおっ!黒い髪に、巫女装束に、太刀を携えている――
あれは間違いなくユリガミサマだ!」
群衆
「うおおおーー!」
――彼らや彼女らも敵?いいや、違う。敵ならもう少し敵意でも見せるはず……。
敵意を隠せる達人の可能性もあるけれど――そんな達人が、そういるものか。
それに――人々の顔は、とても疲弊しているし、子供や老人も居る。
包帯を巻いていたり、松葉杖をついていたり――ゴホゴホと咳き込む者もいる。
それすらも、演技――の可能性はあるけれども……。
群衆
「ユリガミサマ――ユリガミサマ――っ」
懇願するような人々の声。助けを攻ざわめきがこだまする。
それを聞くと、わたしの名前は――ユリガミのなのだ――と、改めて思えてくる。
それに、敵ならばわたしのことを魔女と呼ぶだろう。
そして決して覆すことのできない審判を下し……抹消にかかるだろうから。
- 755 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:35:09.144 ID:pVacs5r60
- 少年
「ぼくのパパ、【嵐】の化け物に殺されて……」
少女
「今、【嵐】が世界を滅茶苦茶にしてるの!助けて!おねえちゃ――じゃない、ユリガミサマ」
老人
「ワシの孫が、【嵐】のテロ行為に巻き込まれて……意識が今も戻らん」
……わたしは、人々に願いを託されていた。
そういえば――わたしは、791とフチから願いを託されていた。ユリガミは、人々の願いを叶える存在として認識されている?
???
「皆さん――落ち着いてください」
わたしに詰め寄るたくさんの人々は、ひとりの女性の凛とした声を聞いて、さっとわたしから距離を取った。
彼女が歩く道を、人々が作っていく。まるで海を割った奇跡のように。
ヤミ
「こんばんは、ユリガミサマ」
丁寧にあいさつした女性は、ヤミだった。
天狗装束とは違い、黒いメイド服に身を包んでいる。
それでも、彼女のその丁寧な立ち振る舞いは変わらない。
- 756 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:40:29.361 ID:pVacs5r60
- ヤミ
「ようやく、貴女を見つけることができましたね」
ヤミは、わたしの全身をちらと見やりながら、嬉しそうに頷いた。
ヤミ
「さて、貴女に伝えたいことがあります――
それは、【嵐】は今、世界中の人々を傷つけているということです
世界の中枢たる【会議所】では、【大戦】を一時休戦とし、被害を受けた人々の救済にまわっている状況です……」
真剣な表情で、わたしに語るヤミ。
【嵐】に苦しむ人々。自然現象よりも恐ろしい、人の悪意によって苦しむ人々……。
その語りは、屋敷で出会った時とは雰囲気が違う。恐らくは――人々の代表としてここにいるから。
ヤミ
「そして――わたくしは――この場の代表として――
貴女に願いを託したい――」
ヤミ
「今の貴女にとって、重荷になることは重々承知しています――
それでも、【嵐】に苦しむ人の救済を――どうか手伝ってほしいのです」
申し訳なさそうに深く礼をするヤミ……その背には、人々の様々な思いが込められていることに間違いはない。
- 757 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:42:10.641 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「わかったわ――貴女たちの願いを、聞き入れましょう――」
わたしは、【勾玉】を握りながら、はっきりと答えた。
それは、ヤミと――その背に居る人々の願いを聞き入れることが、ある種の救いになるから。
ユリガミ
(わたしは――【嵐】と戦わなければならないから……)
そして――もう一つ。791とフチが、わたしに願ったから。
彼女たちの願いを、他者も持っている――それほどまでに、【嵐】はこの現世に根深く蔓延っているらしい。
ヤミ
「ありがとうございます」
群衆
「うおおおーーっ!ユリガミサマ、ありがとうございます!ありがとうございます――」
ヤミの丁寧な礼の後、群衆は歓声で賑わっていた。
その様子を、わたしは――どこか、他人事のように見ていた。
- 758 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:46:23.146 ID:pVacs5r60
- ――その時、ヤミがわたしだけに聞こえる声で、言葉を続けた。
ヤミ
「貴女だけでは手に余ることは――わたくしが受け持ちます」
一体何のことだろうか。思い当たる節はない。
あるいは――これもまた、失った記憶の中に理由があるのかもしれない。
ユリガミ
「――ええ、ありがとう」
……それでも、わたしは頷いた。ヤミからかつて聞いた言葉を思い返しながら。
ヤミ
「此の場所は、わたくしが必ず護ります――貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」
ヤミは、わたしに対して少なからず、何らかの関係があったことは確かだ。
だからこそ……今もこうして、こっそりと言葉を告げたのだろう。
- 759 名前:Route:C-8 ひとびとの ねがひ:2020/12/12(土) 19:51:36.388 ID:pVacs5r60
- ヤミはわたしのことを知っている節があるから、わたしを頼るのも頷ける……。
けれども――人々もまた、わたしに願いを託した。
ユリガミとは、その名の通り、女神として――あるいは女神の使いとして動く存在なのだろうか。
苦しむ人々の為に奔走する……それは、目的を果たすためには必要な過程だから、ヤミと人々の願いを引き受けたことに問題はない。
……今も、こうやって、わたしは【嵐】と戦う道を選んでいるから、【嵐】はわたしを魔女と呼称しているのだろうか。
それでも――わたしの記憶は未だ不完全だ。
――わたしは、善の存在なのか?
善ととるか、悪ととるか――それは第三者の観測にすぎない。
【会議所】や、苦しみに喘ぐ人々――あるいは、【嵐】のように、立場が変わればすべては異なるから。
わたしは――どうなの?
少なくとも、あの子をこの手にかけた。その理由はいまだに思い出せない。
わたしが善悪かを判断するために、真実に向かっているのだろうか?
いいや――違う。
あの子を殺したこと自体そのものが、既にわたしの枷なのだ。
その枷は、ずっと背負わなくてはいけない業。
だから――その業を背負う理由を知り、納得するために、わたしは前へ向かっているのだ。
――あの時死ぬことが出来なかったのは、納得していなかったからだろう。
だから、わたしは――。
- 760 名前:SNO:2020/12/12(土) 19:52:27.978 ID:pVacs5r60
- ますます女神っぽくなってきたぞ!
- 761 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 20:20:05.323 ID:7nRg7TfQo
- 作者のテンションあがってきてて笑う。
- 762 名前:きのこ軍:2020/12/12(土) 20:20:19.342 ID:7nRg7TfQo
- これがユリガミぱわー。
- 763 名前:Route:C-9:2020/12/12(土) 22:17:44.414 ID:pVacs5r60
- Route:C
Chapter9
- 764 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:25:08.938 ID:pVacs5r60
- ――――――。
再び、景色が移り変わった。
わたしの身体にはひどい倦怠感……。
心と体を繋ぎ止める血――それが、ぴりぴりと泡立つ感覚が全身を脈打たせていた。
ユリガミ
「っ……」
そのひどい感覚に思わず、腕を掴もうとした。
けれども、上腕と掴もうとした腕が、肘を掴んでしまう。
手も震えている。……わたしは、心身が疲れているのだろうか。
何があったのだろう。
――人々から願いを託されてから、わたしは……。
ダメだ。思い出せない……
記憶は相変わらず修復されていない。
なら、わたしのすべきこと――それはあたりの状況の把握だ。
どうやら、ここは……路地裏らしい。
――途端、わたしは焦燥感に苛まれ、身体はどこかを目指して駆け始めた。
巫女装束がはためく。黒髪が揺れ、肩のあたりをぶらぶらと揺れる。
- 765 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:30:07.438 ID:pVacs5r60
- そして……わたしはある場所で立ち止まった。
そこでは――目の前で、白髪の天狗が男に追い詰められていた。
背中に白い翼を生やした、二つ結いの少女。
彼女は腰が抜け、行き止まりで固まっている。まな板の上の鯉のように……。
追い詰めているのは、髪の毛の薄い初老の男……その背中からは、欲望を隠さない薄汚い魂かにじみ出ていた。
―――わたしはなぜか二人に見覚えがあった。しかし……同時に、わたしの中には違和感があった。
何かが矛盾している……そう心が叫んでいるような気がする。
いったい、どうして――。
男
「へへへっ――僕から逃げようったって、そうはいかない
お前からはあの子のにおいがするから、先生が確かめてやるよぉ」
少女
「――っ」
俯いた少女の表情は絶望に染まり怯え切っていた。
男を拒んでいること一目瞭然だった……。
わたしは――この少女を守るために、この男を始末しなくてはいけない!
真実を追い求める前に、疑問に耽る前に……為すべきことがある!
ユリガミ
「待ちなさい――」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 766 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:32:38.723 ID:pVacs5r60
- 男
「……!
き、君は……!」
男は、わたしの顔を見て心の底から驚いていた。
――この男も、【嵐】なのだろうか……?相変わらず、魔女とでも思われているのだろうか。
男
「ふ、ふふふ……君に、前はまんまと食わされた……
しかし、今度こそ僕の超能力でオシオキしてやろう!
ぐへへへへっ……それから、その身体を……」
男の醜く歪んだ口元――それは欲望を抑えきれない、理性を持たない肉塊。
わたしに襲い掛かってきたあの化け物のような嫌悪感。
わたしの身体は、いらついていた。
どうしてこんな存在が世にはびこっているの……?どうして、生きているの?
吐き気を催す。反吐が出る。わたしは、あいつを――殺してやろう――。
そんな考えが――漆黒に染まった殺意がわたしの中で煮えていた。
それは心にも浸透し、わたしを殺意に染め上げてゆく。
- 767 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:37:16.450 ID:pVacs5r60
- 男
「喰らえっ!」
男は、懐中電灯を構えてわたしに向けた。それは武術を修めた事のない素人のそれ――だけど、嫌な予感があった。
それは直感的に覚えた感覚で、理に準ずるようなものではない。
しかし、わたしはその直感を信じて、後ろにかわした!
一瞬の閃光と、じゅっ――と焦げるような音。わたしの足元のアスファルトが、一瞬にしてドロドロに溶けた。
男
「くそう……不意打ちでもだめかぁああ」
男は、懐中電灯のスイッチを切り、腕ごとだらりと下に下げた。
ああ、そうか――とわたしはすぐに納得した。この男は光を操る力を持っている。
男
「くら――」
男が、再び懐中電灯をこちらに向け、スイッチを入れようとする。
それと同時に、わたしは、懐を探った。
そこには黒い髪の毛が巻き付いた針があった。
針の金属の色は見えない。黒い髪で覆われた闇に溶ける漆黒の針……。
男の攻撃してくる位置を予測しながら、わたしは漆黒の針を投げつけた。
- 768 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:40:56.354 ID:pVacs5r60
- 男
「くら――えっ!」
わたしは素早く光の束を回避した。
一方で、黒い針は、光の束に辺り……あっさりと蒸発した。
いいや……正確には……蒸発したのは針だけだ。
巻き付いた黒髪は溶けることなく……男の腕に、ぴとりとまとわりついた。
男
「あ――?グギャアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!」
その瞬間、男は苦しみ始め、獣のような声で絶叫しだした。
髪が張り付いたが部分とぐずぐずと溶け、消滅しはじめ……、引き剥がそうと掴んだ指も、同じようになっていた――。
- 769 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:42:41.602 ID:pVacs5r60
- 男
「いでぇぇえっ!い――」
その断末魔をこれ以上少女に聞かせる意味はない――わたしは、悶え苦しみ、蹲る男を蹴り飛ばした。
少女からできるだけ離すように――その姿すらも、目に入れさせないように……。
ユリガミ
「死ね――死んでしまえ―
お前のせいで――」
――呪詛の言葉が口からこぼれた。
それを抑え込もうとするわたしの心に反して、身体はそれを許さなかった。
おそらくは少女も聞いているだろうに……わたしの身体はどうしてもその言葉を吐き続けた。
――わたしは太刀の刃を振り下ろし、男の首を刎ねた。
ごろりと転がる、醜い肉塊……わたしは、その光景に――不思議と付き物が落ちたような感覚を覚えた気がした。
ただ、汚らわしい死体がある。わたしはそれに思いを馳せる事すらない――それよりも、やるべきことがある。
- 770 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:43:59.903 ID:pVacs5r60
- ユリガミ
「大丈夫――?」
太刀を収め、わたしは震える少女に声をかけた。
少女
「…………」
少女は、俯いて震えるばかり――。
ちらりと覗いたその赤い瞳は苺のように赤かった。まるで瑪瑙のように……あるいは血のように……。
――わたしの、抑えられない衝動がこうしてしまったのかもしれない。
それでも、わたしは震える少女に手を貸した。
少女は……涙で濡れた目で、わたしを見つめていた。
- 771 名前:Route:C-9 めがみの みて:2020/12/12(土) 22:46:16.068 ID:pVacs5r60
- ……その顔は、やはり見覚えがあった。
どうしてだろう。
わたしにはその記憶はないが――彼女と一度出会ったことがあるのかもしれない。
少女
「うん……ありがとう……」
そして少女は震える声で、感謝の言葉を紡いだ。
その声色には、感謝と恐怖と困惑とが入り混じっているようにも思えた。
無理もない……少女にこんな残虐な光景を見せてしまったのだから……。
そして、わたしは……。
- 772 名前:SNO:2020/12/12(土) 22:47:48.427 ID:pVacs5r60
- 戦闘シーン無双しかしてなくね?
- 773 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 09:41:40.161 ID:jDanbwJEo
- たまには苦戦する姿も見たいものですね(バッド期待勢)
- 774 名前:ルート祖C-10:2020/12/13(日) 12:45:53.216 ID:fi9QPJ.M0
- Route:C
Chapter10
- 775 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:49:06.568 ID:fi9QPJ.M0
- ――――――。
わたしは、気が付くと――どこかの集落に居た。
……あの少女は何処に行ったのだろうか。
相変らず、過程の記憶がないからもどかしさを覚えつつも――前へと進んでいく。
住民たちは、ばらばらの種族で構成されていた。
ここは人や、オーガや、エルフや魔族……その垣根を越えた空間ということ?
――彼らあるいは彼女らは、身を寄せ合って震えている。それは、わたしに願いを託した人々のようにひどく打ちひしがれているようにも見える。
集落の中を見やると、たき火を囲む人々たちの服装は、いずれも綺麗ではなく、まるで着の身着のまま逃げてきたようだった。
入口の立札には、難民キャンプ 【会議所】管轄と書いてある。
――つまり、これは【嵐】によって傷付いた難民の避難所ということになる。
わたしは、ユリガミとして知られている。
だから、悟られないように――笠を被り、気配を殺しながら、難民キャンプの中をうろついた。
……もっとも、顔を隠したとしても、場に似合わない巫女装束のためか、
あるいは服装がきれいすぎるからか……わたしは奇異の目で見られていた。
――とはいえ、それを気にする必要もない。
わたしには、真実に向かうだけ。
女神として尊敬されようと、魔女として蔑まれようと……わたしは真実に辿り着くための道を進むだけ。
- 776 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:52:46.592 ID:fi9QPJ.M0
- ???
「炊き出しですよ、皆さん」
――聞き覚えのある声。その可愛らしい少女の声の主を確かめてみると……。
???
「焦らないで、順番通りに並んでください!」
先程の助けた少女が、張り切って炊き出しをしていた。
難民
「マイちゃん、いつもありがとう」
マイ
「はい、七彩さん……今日も一番乗りですね」
彼女は、マイ――と言う名前なのか。
気丈に、難民たちに食事を振る舞っている。
その名前にも、わたしの耳は聞き覚えがあった。
……どこで聞いたのか。あるいは……彼女を助けてから名前を聞いたのか……。
それでも献身的な振る舞いは、多くの人に好感をもたれるものだろう
――そうわたしは感じていた。
- 777 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:53:27.575 ID:fi9QPJ.M0
- わたしは、遠くでマイが炊き出しをする様子を眺めていた。そこにはどこか興味を惹かれるものがあった。
どうしてだろう。彼女が天狗だから……?
隻眼の女天狗――ヤミのことを思い起こすから、わたしは彼女を見ているの?
わたしは、炊き出しが終わるまで、マイを見ていた。
人々の体調や性格に応じた会話――その気遣いで、心因的なストレスを和らげている。
炊き出し後の片付け――も、マイは献身的に手伝っていた。
少し周りを気にしながら……男に追い回されたのだから、それも当然だろう。
それでも――彼女が今無事である。その事実に、わたしは少し安堵していた。
わたしが胸をなでおろしていると、何者かの気配があった。
その気配の方向を、横目で見る……すると……。
???
「君は……ユリガミで、いいんだな?」
後ろで髪を縛った白髪の女性が、訝し気にわたしを見ながら、訊ねていた。
- 778 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 12:59:25.600 ID:fi9QPJ.M0
- ――その背はわたしよりも高く、フチのように漆黒の眼球と青白い瞳をしている。
???
「私はシズ――よろしく頼む――」
わたしは、その姿を見て――彼女が名乗った記憶ほ思い出していた。
そうだ、彼女はシズ。腕利きの女鍛冶師。
ユリガミ
「ええ……」
そしてわたしは淡々と答える……。
シズはその様子を見て、納得したような表情で頷いた。
シズ
「あの娘は――このご時世で、自分にもできることはないかと言って、
炊き出しを手伝っているんだが……」
シズ
「最近、ストーカーに追い回されていて、不安でたまらないとのことだ
こうやって人がいっぱいいる場所でないと安心できない……と本人は言っていたが、
どの道、ストーカーが居る限り……リスキーなことには構わない」
シズ
「……君の邪魔になるかもしれない
だが、できればマイを助けてやってほしい」
ユリガミ
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 779 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 13:00:33.187 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「……構わないけれど」
――わたしはマイのことは分からない。
ただ、男に追い回される不幸な身の上――それぐらいしか、知っていることがない。
……本当にそうだろうか、いや、それ以外にわかることはないのだから、そうなのだろう。
……でも、本当に?
わたしは彼女を見たような気がする……しかしどこで……。
頭を抱えても、その理由は思い出すことできなかった。
シズ
「……大丈夫か?調子が悪いのかい?」
ユリガミ
「いえ、大丈夫――」
ふらついたわたしを抱き留めようとするシズを制し、わたしは手をかざした。
……そして、わたしは……。
- 780 名前:Route:C-10 しろがねの てんぐ:2020/12/13(日) 13:02:12.299 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「……その願い、引き受けましょう」
願いを受け容れながら、わたしは【勾玉】を握りしめた。
――どうやら、これはわたしの癖らしい。それをすることが、願いを聞き入れる合図のようにも思える。
シズ
「感謝する――
できれば、君に無茶はしてほしくはないが――
可能な範囲で助けてやってほしい……」
深々と礼したあと、シズはその場を立ち去った――。
シズはわたしに関して何らかの信頼があるようだ。
――というより、ユリガミという存在だからこそ、
害悪から己を守るために、わたしに頼ったのかもしれない。
――マイを救うこと。それは真実には関係がないのかもしれない。
それでも、その行動はわたしの存在意義のようにも思え、
遠くで揺れるマイの髪……二つ結いの白髪は兎の耳のようにぱたぱたと触れて……。
- 781 名前:SNO:2020/12/13(日) 13:02:54.595 ID:fi9QPJ.M0
- 七彩さんが出てきた!やった!
なおカスケード主人公のうち半分ぐらいは出てない模様
- 782 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 19:08:13.910 ID:T3i7ldrEo
- だんだんと全容が少しずつ見えてきたかもしれない
- 783 名前:Route:C-11:2020/12/13(日) 20:20:32.605 ID:fi9QPJ.M0
- Route:C
Chapter11
- 784 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:21:30.393 ID:fi9QPJ.M0
- ――――――。
わたしは、戦火に巻き込まれて、ぼろぼろの街を歩いていた。
マイ――彼女は、此処にはいない。
え?わたしは、彼女を見捨ててしまった――?
真実に向かう為なら――わたしは、少女を見捨ててしまっていいの?
ヤミ
「貴女は――心に決めた事は、たとえ何があろうともやり遂げる――そういう人です
それが地獄の門だったとしても――貴女は、為すべきことのためならば、死すらも厭わないのですから
その意思の強さが、貴女の【力】の原動力でもあるのだから――」
――ヤミに、こんなことを、言われたような気がする。
それでも、災禍に巻き込まれた少女たちを見捨てるのはおかしいだろう。
少なくとも――わたしは【嵐】を撃退し、マイを守るべきだ。
願いを託されて、それを見捨てて真実に向かう――そんな虫のよい話はないから。
- 785 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:23:21.283 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「マイは――どこに――」
頭を押さえながら、わたしは考える……。
過程を失った記憶。思い出そうとすると、きりきりと痛み出す記憶――。
――やはり、思い出せない。
それでも……一瞬だけ、わたしの脳裏に景色が広がった。
それはヤミと会話した屋敷だった。あの場所に――マイは居るの?
しかし……思い浮かんだのは……マイではなく、あの子の姿だった。
???
「じゃーんっ♪」
???
「おねえちゃん、ほら、うさぎさんだよっ」
あの子は、本の中から兎を呼び出し、はしゃいでいた。
それは屏風の中の虎も呼び出さんとばかりの奇跡だ。
ユリガミ
「ふふっ、すごいすごい」
わたしは、手を叩いて無邪気に褒めていた。
ヤミも、後ろで微笑んだ表情を見せて――
記憶が、少し修復されているのか……それが呼び水となったのか、わたしの頭の痛みは覚めつつあり、
思考が急速にまとまりはじめ――ひとつの仮定へと思い至った。
- 786 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:25:45.595 ID:fi9QPJ.M0
- 屋敷でヤミと話した時、彼女は、襖の奥に目配せていた。
そこに、マイが居るとすれば――
ヤミ
「此処は、わたくしが護ります――
貴女が、真実以外のことに後ろ髪を引かれないように」
その発言にも、納得がいく。ヤミの発言の真意は、マイを守る意思の表明――。
ユリガミ
「ちょっと待って――おかしい」
しかし、その考えには重大な問題点があることに気が付く。
時系列がおかしい……。そもそも、苺が狙われているのは、ヤミと会話したあとでの話だ。
仮にマイが屋敷に居るのなら、どうして男に狙われる可能性のある炊き出しに出ていたの?
荒れ狂う時代で生活するため、仕方なく――とも思ったけれど、それにしても納得がいかなかった。
- 787 名前:Route:C-11 きおくの だんぺん:2020/12/13(日) 20:26:54.040 ID:fi9QPJ.M0
- あの屋敷は――集落からは遠かったはず。
屋敷は、外界から離れた場所。安全性の面で言えば、屋敷の方が上だ。
どくん……。
心臓が、脈打ちだした。
わたしは、重大な見落としをしているのではないか?
抜け落ちた記憶の断片――そこには思い出すべき核心が含まれていないのではないか?
急激に不安に包まれるわたしの心――まるで、快晴だった天気が一瞬にして雨雲に包まれたように……。
どくん、どくん、どくん、どくん。
早鐘を突くように心臓が脈打つ。不安が心を塗りつぶそうとする。
そして――わたしの目に映る景色はぼやけはじめて……。
- 788 名前:SNO:2020/12/13(日) 20:27:18.227 ID:fi9QPJ.M0
- あとすこしで791レス越えますね…
- 789 名前:Route:C-12:2020/12/13(日) 21:32:54.551 ID:fi9QPJ.M0
- Route:C
Chapter12
- 790 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:34:48.003 ID:fi9QPJ.M0
- ――――――。
わたしは、どこかの廃屋に居た。
一体、ここはどこなの?此処が、真実に関係しているということなの?
???
「っ――」
困惑する私の横から、女性の息を呑む声が聞こえた。
この声には聞き覚えがある。
それは――
ヤミ
「【嵐】に……してやられたようですね――」
それは、ヤミだった。人々を代表して【嵐】の撃破を託した彼女……。
マイの居場所を知るかもしれない、彼女がそこに立っていた……。
- 791 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:39:03.289 ID:fi9QPJ.M0
- ヤミの足元には、一人の血まみれの男が倒れていた。
男はよく見れば様々な部位を義体化していたらしく、金属の破片とオイルも辺りに散らばっていた。
???
「マ、マサカ……君ガ、まさかとは思うガ、君ガユ、ユリガミ――サマなのカ?」
男が、わたしを見て驚愕した表情を見せた。
わたしが無言でうなずいてみせると、男はほっとしたような表情を見せた。
ヤミ
「社長――なぜ戯言を――」
困惑したヤミが後ろを振り向いて、わたしの存在に気が付いた。
ヤミ
「……貴女は」
彼女は、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに真剣な表情に切り替えた。
ヤミ
「………」
無言でわたしを見るヤミの目は、鋭い刃のようにわたしを射すくめたかと思うと、
足元で倒れている男……社長に目を向けていた。
- 792 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:41:59.772 ID:fi9QPJ.M0
- 社長
「ユリガミサマ――私はもウ……ダメダ
敵が近くにイる、敵――【嵐】ヲ倒してクレェ…」
社長と呼ばれた男は、もはや、虫の息で……最後の力を振り絞るようにわたしに告げた。
――【嵐】。彼がこんな状況になっているのも【嵐】が原因だというのか。
社長
「うぐッ……」
――願いの言葉を伝え終わったかと思うと、社長は事切れた。
ヤミ
「………」
ヤミは、複雑な表情でその最期を見下ろしていた。
いったい、彼女は何を思っているの?彼女の願いを、叶えらることができなかったが故の失望……?
しかし、敵がいると彼は言い残した。
なら――余計なことを考えるのは今ではない。
わたしにできることは――居るとされる、敵の撃破だ。
- 793 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:50:23.337 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「そこだっ――」
わたしは太刀を抜き、背後から感じる気配に斬り込んだ!
???
「ぐがッ!」
???
「ギャッ!」
男たちの断末魔。確かな肉と骨を断ち切る手ごたえ……。
???
「突然現れて、一体なんだってんだ……クソが……ァ……」
しかし……傷にまみれた身体で男たちは起き上がり、わたしを睨みつけながらそう吐き捨てた。
ヤミ
「……彼らは、消滅させない限りしつこく蘇る存在です
貴女なら……問題はないでしょう」
わたしが太刀を構える後ろで、ヤミは冷淡な声色で、まるで試しているかのようにわたしに告げた。
社長と呼ばれた男は――身体を義体化しているにも関わらず殺されたというのに……。
その冷たい言葉は、わたしへの失望のためなのかもしれない。
男
「シェッ!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 794 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 21:56:34.891 ID:fi9QPJ.M0
- しかし、わたしにはそんなくだらない攻撃に対応する技術を知っている。
背後に居るナイフの切り筋はすでに予測できている……
わたしは、鞘を背後に投げつけた。
男
「おっと?!」
その一瞬の目くらましのうちに、わたしは着地点で再び跳ぶ。
カランカランと音を立てて落ちる鞘とともに、わたしはふたりの男を見据えて対峙していた。
男
「そんな光物振り回されたら、怖くてたまんねェ――
お前ら、捕まえて監禁してやるゥ」
男は、わたしを睨みつけ高々とそう宣言した。
男
「死ね!」
男たちが、ナイフと剣を用いた連携攻撃をしていた。
ユリガミ
「――はっ」
しかしその攻撃も見切るのは容易だった。
わたしは攻撃の軌道の隙間を見極め――間隙を縫って、太刀で一人の首を刎ねた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 795 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 22:00:59.147 ID:fi9QPJ.M0
- 男
「ぐぐぐ……一瞬で消し去るなんて……
ならヤツを殺したのと同じ方法で殺してやるッ」
もう一人の男がいきり立ってわたしとヤミに憎悪の目線を向けた。
眼は血走っている……しかしわたしは、その光景を見ても何も感じ取ることはなかった。
ヤミ
「……彼女を殺すことは、無理でしょう」
男
「うるさい――女ァ!」
男が激高すると同時に、雷撃のような魔術が四方八方からヤミを襲った。
ヤミ
「――はっ!」
ヤミは風を起こして雷撃を散らせた。ぱちぱちと音を立てて雷撃は地面に散らばりとろけて消える。
男
「くそ――しかし、これでわかったぞ……その技術では自分しか守れんようだな……
残念だが、こっちの女のほうはもらったァ!」
男はわたしに攻撃の手を向けた。
――あの四方八方から来る雷撃。どうやってかわす……?
男の口ぶりからすれば、あの回避方法はヤミ自身しかできないようだ。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 796 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 22:02:43.567 ID:fi9QPJ.M0
- ユリガミ
「男の【力】でわたしを殺すことはできない――」
わたしは……動かなかった。
同時にまるで台本を読むかのように、その言葉がすらすらと口を突いて出た。
そして、わたしの身には――宣言通り何も起きなかった。
まるで溶けるようにその雷撃は消滅した。
男
「え……馬鹿な!?」
男は、慌てながら、再度わたしに何か雷撃をわたしに向けようとする。
――それは、わたしには通じない!
その隙を突いて、わたしは男の首を一撃で刎ねた!
男
「ぐわぁああああッ!」
男の胴体と首が分かれて地面に落ちた。
ばしゃっ――と、血液が霧のように散らばる……。
一方のわたしには――相も変わらず、返り血はない。
さらに、わたしが男の死体に触れようとすると……その男もまた、消滅した。
わたしは、これで敵を撃退したのだ、と確信していた。
- 797 名前:Route:C-12 あくむの はいおく:2020/12/13(日) 22:06:45.556 ID:fi9QPJ.M0
- しかし……わたしの中のわたしの声。通じない【力】――。そして……力及ばずに死んだ存在。
戦いを切り抜けても疑念がわたしの中に増えるばかりだった。
――人々の総意をまとめたヤミは、失望しているだろう。
わたしは、本当に女神なのか――それすらも疑わしくなるような感覚。
ユリガミ
「……」
足元で倒れている社長と呼ばれた男――【嵐】による犠牲者の一人。
【嵐】に苦しむ人々の救済となったのか?ヤミの命は救えたけれど……。
わたしが悩む一方で、ヤミは納得したようにわたしを見ながら言った。
ヤミ
「……貴女のその力は、やはり――ユリガミの【力】ですね」
――今更、何を言っているのだろう。
ヤミはわたしのことを知っているはずだが……。
いいや、願いをしくじったが故の嫌味なのかもしれない……。
ユリガミ
「……ヤミ」
そして、わたしは、ヤミに話しかけようとして……。
- 798 名前:SNO:2020/12/13(日) 22:07:07.204 ID:fi9QPJ.M0
- さようなら作者……。
- 799 名前:きのこ軍:2020/12/13(日) 22:19:16.152 ID:T3i7ldrEo
- 底が見えなくて実にいい。
- 800 名前:Route:C-13:2020/12/14(月) 21:56:17.812 ID:5sApY14E0
- Route:C
Chapter13
- 801 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 21:57:44.393 ID:5sApY14E0
- ―――――。
わたしは……どこかのビルの駐車場を歩いていた。
ヤミはどうなったの……?そう思っていると、人影を視認した。
???
「誰――?」
……それはヤミではなかった。
女性の声に、わたしはびっくりして、立ち止まる。
???
「貴女は――」
ぬっと、姿を現した女性は、わたしを見定める様に眺めるかと思うと―。
???
「…ごきげんよう、お嬢様」
そう、わたしを呼んだ……。
- 802 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 21:59:23.758 ID:5sApY14E0
- 彼女の髪は、シズやフチのように白く――
その目もまた、シズやフチのように漆黒の眼球と青白い瞳をしていた。
ふわりとした髪は背まで伸び、ピアスだらけの耳に、左手首に巻き付いた手首。
くるくると螺旋を描く髪と、紫色のレディーススーツからは高貴な雰囲気がある。
……しかし、右腕と両足は、機械であることを隠さない義肢で出来ていた。
すでに死した社長と同じような存在ということ……。
どこかチグハグな印象をわたしは覚えていた。
???
「弦夜――例のお嬢様です――
――私がついていますので、ご安心を」
女性は、他の誰かの名前を呼んだ。
それに呼応するようにコツコツと靴の音が響く……。
……そして足音が近づくとともに、サングラスをかけた白髪の男性が現れた。
身長はわたしよりも高い。黒いスーツとネクタイはビッシリと整い、
まさに上に立つもののような、帝のような雰囲気を醸し出している。
弦夜
「すまんな、サラ」
弦夜と呼ばれた男性は、女性をサラと呼んだ。
- 803 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:02:20.275 ID:5sApY14E0
- ユリガミ
(あれ――)
……なんとも言えない違和感があった。
何かが噛み合わないような……それでも、弦夜と呼ばれた男性が、女性をそう呼ぶのなら間違いないだろう、とも思えた。
実に不思議な感覚だった。
わたしにとって、彼らは敵ではない――そう本能が告げていた。
弦夜
「ふむ……
なるほど、そういうことか――」
弦夜は、見定める様に男はわたしの身体をじろりと見て――わたしの首を見たとたん、納得したように頷いた。
その視線に合わせる様に、わたしの手が首筋をなぞったとき、わたしもまた納得した。
サラ
「流石は、女神の血を引くだけはありますわね――【勾玉】を持っていても、問題がない様子です
……まぁ、危なっかしいことに、変わりないですわ……」
弦夜
「それにしても、きみがここに来るとはな――
――あちこちを彷徨っているとは聞いたが……確かなようだ」
首の【勾玉】を見て、彼らはこの場の状況を把握しているらしい。
会話内容から察するに、これこそがユリガミであることの証ということなのだろう。
それにしても、わたしをお嬢様と呼ぶなんて……彼らはわたしの素性を知っているのだろうか?
- 804 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:04:05.304 ID:5sApY14E0
- サラ
「弦夜……お嬢様をどうします?」
サラは、生身の左腕で弦夜のタバコに火を着けた。
それはもはや日常動作であるかのように、自然と息の合った動きでもあった。
弦夜
「そうだな……」
煙を吐いて、弦夜は頷いた。
弦夜
「とりあえず……
きみは、我が社――ルミナス・マネイジメントの警備をすり抜けてここに来たのは間違いない……」
その言葉で思い出した。彼は月詠弦夜(つくよみげんや)――ルミナス・マネイジメントの長。
企業のトップ。帝のような存在……だからわたしは上に立つものなのだと判断したのだろう。
そして、サラはそれを補佐する秘書だということも同時に思い出す……。
サラ
「そうですわね
一応、素性を知ってはいますが――幸鉢の得た情報からも考えると……
……お嬢様を消したほうが、安全かと思いますが?」
――物騒な発言に、わたしの心はぴくりと跳ねた。
義体化された右腕は兵装であることには違いはない。
……顔色一つ変えずに、日常会話のように告げるサラは、今まで出会った男よりもぞくりとするものがあった。
- 805 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:05:47.653 ID:5sApY14E0
- 弦夜
「サラ……戯言はいらんだろう」
サラ
「あら、バレました?
ふふふ、冗談ですよぉ、お嬢様……単に、弦夜とお話しするのに嫉妬してるだけですから♪」
それを手で制する弦夜。それに、サラの口ぶりからすれば、本気で殺す気はないようだ。
これがわたしを油断させる作戦かもしれないから、気を緩めることはできないけれど……。
弦夜
「それにしても――きみが、いろいろと動いているとは
にわかには信じがたいが……」
二本目の煙草に手を付ける弦夜。サングラスの奥の瞳は見えない……。
ゆっくりと煙を吐き出すと、そう答えた。
弦夜
「そこらの強者に負けぬ【力】も備えているのは、間違いないようだが――」
サラ
「そうですわね――あの子も出し抜けるのは確実でしたわね」
見据えるような弦夜の言葉に、わたしに備わる【力】を思い返す……。
そうだ……わたしは太刀の腕に覚えがあるのだ……。
その腕で敵を打ち倒せるからこそ――ユリガミと、そう呼ばれるのだ。
- 806 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:06:26.464 ID:5sApY14E0
- 弦夜
「まぁ、それはともかく……聞きたいことがある
きみは何のために戦っているんだ……?」
弦夜は、三本目の煙草を吹かしながら、本当に意外そうに……そう言った。
どうして、そんなことを言うのだろう……?わたしにはわからなかった。
わたしのことを知ってはいても、行動する理由を知らない――それぐらいしか、訊ねられた理由が思いつかなかった。
弦夜
「【彼女】は君の手によって死んだ――
他にも、会議所の優秀な兵も、殺され……世界から希望が失われているその状況で
きみは――何のために突き進むのか――その理由を聞きたい」
真剣に問う弦夜の言葉には重みがあった。
それは帝としての、上に立つものとしての立ち振る舞いのようにも見えた。
いまだにサングラスの奥の瞳は見えないが……おそらくはその眼もまた真剣なのだろう。
わたしは――どうしたいの――?
いいや、悩む理由はない。わたしにはたった一つの単純な答えがある。
- 807 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:06:53.266 ID:5sApY14E0
- ユリガミ
「真実を探すため――」
はっきりと、堂々と――わたしは彼らに答えた。
弦夜
「そうか……」
彼はどこか静観したような言葉を返すと、吸い終わった煙草を携帯灰皿に放り込んだ。
サラ
「あらあら、お嬢様は自信たっぷりのようですわね」
そして、にっこりと口を緩めたサラが、携帯灰皿を回収する……。
ふたりはわたしの言葉をどう受け止めているのだろうか……。
- 808 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:07:20.832 ID:5sApY14E0
- 弦夜
「……それがきみの望みなら、俺はきみには干渉はしない
これ以上……我が社に敵対しなければ、の話だが
サラの方はどうするかは分からんが」
サラ
「ふふふ、弦夜の言葉は絶対ですもの――
私も、お嬢様に手出しはできないですわ、ふふふ……
まぁ、貴女の【力】は危険ですから、個人的には無力化ぐらいはしたいですけど♪」
真剣で重苦しい弦夜と対比して、サラの言葉はひどく明るく、それが逆に恐ろしさを際立てていた。
それでも……わたしは真実にたどり着かなくてはいけない。
だからこうやって前に進んでいるのだから。
- 809 名前:Route:C-13 みかどの けつみゃく:2020/12/14(月) 22:07:59.242 ID:5sApY14E0
- 弦夜
「――さらばだ」
サラ
「また会うかは分かりませんが――雑魚相手にはやられないように」
そして――ふたりは投げ出すように、突き放すようにわたしにそう言い残すと、その場を立ち去って行った。
サラは弦夜の腕に縋りつき……弦夜はそれを突き離そうとせず、そのままに……。
革靴のカツカツとした靴音と、義体由来の金属のコンコンとした足音が辺りに響く。
立ち去る彼らの背中は……少し孤独に見えた。
――わたしは、遠くなるふたりの背中を、ぼうっと見つめていて……。
- 810 名前:SNO:2020/12/14(月) 22:08:27.031 ID:5sApY14E0
- しまったぁ・・・久しぶりに出るキャラにふりがなをつけていなかったぁ・・・
- 811 名前:きのこ軍:2020/12/14(月) 22:24:35.359 ID:.QutmfHso
- 気にかけてしまっているようでまじすまない
- 812 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:35:02.178 ID:HQUkm.VM0
- Route:C
Chapter14
- 813 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:36:50.841 ID:HQUkm.VM0
- ――――――。
相も変わらず、わたしはこことは違うどこかに居た。
???
「やっと、見つけたわよ!」
鬱蒼とした森の中――わたしの前には、小柄なエルフの少女――。
金色の髪の毛と、紅蓮の瞳――そこには、強い意思のようなものを感じられる。
???
「貴女があの女を殺した張本人ね?」
ユリガミ
「え……?」
いきなり、そんな質問をする彼女は何者?
――あの子のことを尋ねているのは、間違いないのだけれど。
???
「え、じゃないわよ
たとえアンタが虎であっても、龍じゃないわよねっ!」
まくしたてるように少女は、地団太を踏む。
彼女は……龍虎の関係でも、語ろうとしているの……?
- 814 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:39:19.549 ID:HQUkm.VM0
- わけがわからない……。
わたしの記憶うんぬんとはまた別の方向性で、悩みの種が増える感覚。
ユリガミ
「――あなたは、龍なの?」
――わたしは思うがままの言葉を呟いた。
それは深慮もなければ思案もない、ひどく単純な言葉でもあった。
フィン
「そうよ、だってわたしはフィン・ジェンシャン――
名前からして、龍にふさわしいもんっ!」
しかし……わたしの回答に、彼女は否定する素振りはなかった。
わたしの考えは合っていたらしい。
肯定するような返答を終えると、フィンと名乗った少女は腕を高く掲げた。
――とても、嫌な予感がする。
わたしはフィンの一挙手一投足を注視しながら、太刀を構えた。
- 815 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:42:35.492 ID:HQUkm.VM0
- 瞬間、空は暗雲に染まり、いきなり大雨が降りだした。
さらには雹、吹雪、落雷、嵐……ありとあらゆる天候が、わたしに襲い掛かる!
ユリガミ
「くっ――」
迫り来る天候の変化は、わたしを、周り全てで押し流そうとする――。
雷はわたしを消さんとばかりに宙を駆け巡り、水はわたしの足を止め、風はわたしを吹き飛ばそうとし、霜がわたしを縛り付けようとする。
彼女は、龍と名乗ったが――なるほど確かに、この【力】は龍のものと言っても変わりない。
フィン
「トリプルキーック!」
天候変化に交えて、蹴りが三発。
フィン
「波乗り――!」
さらに、水しぶきに乗せた攻撃が一発。だが、こちらの攻撃は武術――捌くのはたやすい。
致命的な一撃を受けず、軽い傷で受け流すことはわたしにとって難しくはなかったが……。
フィン
「おりゃーっ!」
――天候を操ることに関しては、反撃の糸口が見つからない。
遠距離から攻撃してくる相手でも、弓や銃やらならば、本人の筋肉の動きから軌道を推察できる。
しかしフィンのそれは、一挙手一投足が読めない。人智を越えた【力】であることしか分からない。
- 816 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:45:26.741 ID:HQUkm.VM0
- ――雨は相変わらず降り注ぐ。
身体に対する影響も計り知れない。体温は確実に奪われている。
……こんなところで倒れるわけにはいけない。
わたしは真実にたどり着くまでは、前へ進み続けなければならない。
――わたしとフィンの戦い。
互いに決定打は与えられないものの、戦況としてはわたしのほうが不利だった。
武術は悪天候の中でも戦える余地があるけれど……
この悪天候は、ある程度予測できる範疇にはない……。
それでも、わたしは耐えていた。
それはあの子への贖罪と真実へ向かう気持ち――そして、【嵐】を倒してほしいと願った人々の思いによって……。
- 817 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:02.173 ID:HQUkm.VM0
- フィン
「武術は、荒れ狂う天候の前では――すべてを洗い流す力の前では無力なの
それなのに……あたしのライバルは皆いなくなっちゃう――屏風の中に掻き消えてしまうんだもん
だから、あんたで憂さを晴らしてやる!」
フィンの言葉に、どこか既視感がある。それは――
???
「ははは……当然でしょう?
これは私の持論ですが、いかなる武術を極めようと、それを押しつぶす【力】があれば無意味になりますからね」
わたしに襲い掛かってきた大男の発言だった。フィンの言い分は、まるで大男の同胞のよう。
そして、さらに天候を操る【力】を持つ。フィンも、【嵐】の一員なの――?
フィン
「アイスボールっ!」
ユリガミ
「くっ!」
考えている間にも、絶え間なくフィンの攻撃――すなわち天候操作と武術による攻撃が続く。
軌道がまったく予測できないものもある。
わたしに出来ることは、攻撃の意思を感じ取るだけ。
フィン
「ボルテッカーッ!」
雷を纏った突進。こちらは、武術と【力】の合わせ技!
武術による攻撃なら予測もしやすいのに、別の【力】になると――相手の殺気を読むぐらいしか対処方法はない。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 818 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:21.501 ID:HQUkm.VM0
- ユリガミ
「――――っ」
体力が奪われてゆく。それは自然を操る【力】、武術ではない、【力】に――。
あの男の言う通り――全てを押しつぶす【力】こそが、全てということ?
どうにかフィンの攻撃をやめさせたいが、太刀を振るえる範囲には居ない。
今、飛び道具を使っても、天候操作で逸らされる可能性が高い。わたしはどう切り抜ける――?
フィン
「今、知ってる情報から推測すると――
アンタには、必ず勝って――強くならなきゃいけないのっ――」
フィンは、悲愴に染まった感情にまかせて吹雪を起こした。
濡れた髪の毛や、服が凍りつき、またたく間にわたしの動きが制限される。
もはや、わたしに打つ手はないのか――?
- 819 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:50:52.683 ID:HQUkm.VM0
- その時――。
ユリガミ
「――いいや、違う
人智を越えた【力】というのは、天候操作ではない」
わたしは、確かにわたしが紡いだ――しかし、わたしが紡いだわけではない言葉をフィンに投げかけた。
それは――まるで、別のわたしが喋ったかのようにも思えた。
フィンに向ける表情すらも、わたしの意思ではないよう……。
フィン
「!?」
フィンの表情が固まる。まるで、自己を否定されたかのような、絶望にも満ちた表情が顔に張り付いていた。
それに付随して、一瞬だけ彼女の動きも固まった。
- 820 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:52:02.520 ID:HQUkm.VM0
- フィン
「フン、なによ――あいつみたいなことを言って……
あたしのこの【力】だって強いのよ!」
フィンは、すぐにわたしを見据え、再び攻撃を仕掛けようとした。
しかし冷静さはわずかに欠けている。その――やや欠いた状態。
それはわたしにとって充分なほどの猶予だった……。わたしは、太刀と鞘とをフィンに投げつけた。
フィン
「―――えっ!?」
宙を舞う刀と鞘。それと同時に、わたしも地を駆ける。
フィンが視認する、3つの標的……それに眩んだ一瞬で十分だった。
わたしは、フィンの鳩尾に、一撃を加えた。
- 821 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:53:10.749 ID:HQUkm.VM0
- フィン
「うう――ひきょーもの……っ」
その一撃で、ぱたりと、フィンは崩れ落ち――地面に倒れた。
……同時に、天候も元通りに戻った。急激に、冷えていた外気が元に戻ってゆく。
ユリガミ
「はぁ――はぁ――」
疲労感。身体がひどく重い。
ありえない気候の変化に晒されたからか。厄介な相手だったからか……。
気絶したフィンの傍にゆっくりと歩み、彼女の脈を確認した。
――彼女は、気絶しているだけだ。何故かわたしはほっと胸をなでおろした。
どうして、こんな気持ちになるのだろう。
- 822 名前:Route:C-14 ぐれんの しょうじょ:2020/12/16(水) 21:53:24.464 ID:HQUkm.VM0
- ユリガミ
「やっぱり……あの子をこの太刀の刃で斬ったから?」
地面に落ちた太刀を拾い上げながら、わたしはぽつりと呟いた。
彼女が、【嵐】だったのかは分からない。
それでもわかる事は一つだけあった。
わたしは人智を越えた【力】を知っているということだ。
そう。
そ れ を わ た し が 一 番 よ く 知 っ て い る の だ か ら …。
空は、フィンを撃破したからか、暗雲が消えうせていた。
わたしは、ゆっくりと森の向こうへと歩き始めた……。
- 823 名前:SNO:2020/12/16(水) 21:53:55.699 ID:HQUkm.VM0
- 女の子バトル!
- 824 名前:きのこ軍:2020/12/16(水) 22:15:38.983 ID:khWqlFOAo
- フィンの意味不明な感じな。
- 825 名前:Route:C-15:2020/12/17(木) 22:45:25.215 ID:ZkxNVsXY0
- Route:C
Chapter15
- 826 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:45:42.689 ID:ZkxNVsXY0
- ――――――。
ここは――何処かの廃工場か。
もはや……わたしは、見知らぬ場所に居ることにすっかり慣れ切っていた。
そしてあたりの様子を伺う……そこには一人の男性が佇んでいた。
シルクハットをかぶった、軍服の男性。
――わたしに襲い掛かってきた男とは雰囲気が違う。
鍛えられた肉体と、整えられた口ひげは、真摯に物事に向き合い、欲を制する直向きさが伺えた。
彼もまた、シズやフチのような白髪と、漆黒の眼球と青白い瞳……。
この場所に誘われた――ということなのか、あるいはわたしがこの場所に誘ったのか――。
最も、その理由を問う必要はない。わたしは、警戒するように男性を見つめていると……。
- 827 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:50:19.654 ID:ZkxNVsXY0
- ???
「ようやく、君を見つけることができた……
早速、本題に入ろう……」
男性は、丁寧に語り掛けた。
この男性は、今までに見た男の中では少なくとも弦夜に近い人間だろう。
???
「君は……【会議所】から出てきたと聞くが――
【彼女】はどうなったか、知っているか?」
しかし、彼はわたしを責めるような言葉を、淡々と告げた。
それは、胸をえぐり取られるように、ひどくわたしの心を揺さぶった。
あの紅い月の光景が頭をよぎり、頭痛がわたしを苛む。
頭を押さえるわたし……目の前が紅く染まっているような気がする……。
???
「大丈夫か……?」
心配そうに眉を顰める男性。
しかしその表情に打算のようなものはない。本気で心配しているように思える。
彼は、心配こそしても、わたしには触れようとしなかった。
恐らく、わたしには指一本触れないという意思があるもかもしれない。
その様子を見ていると、急に冷静になった。
すうっと頭痛が引き、わたしの口からすらすらと言葉が紡がれた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 828 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:52:11.825 ID:ZkxNVsXY0
- ???
「俺は、ルミナス・マネイジメントの人間として――【会議所】での出来事を、調査している……
【彼女】が死んだ時間帯に、君らしき人物が走り去っていった――とのことで、君を探していた……」
重々しく、渋い声で男性はわたしにそう答えた。
それにしても、ルミナス・マネイジメントの人間だとは……だから弦夜に近しい存在と感じたのだろうか。
彼の語る……【彼女】の死。
そうか……あの子の……ことを……。
???
「【彼女】は、君が殺したのか?」
――彼は厳しい声でその質問を投げかけた。
それはわたしの心を鋭く貫く。とてもとても――重々しい楔を打ち付けられた感覚でもあった。
それでも、事実であることにはかわりがない。
ユリガミ
「……ええ
わたしが、彼女を……この手で斬った」
だから、彼の質問にわたしは頷いた。
認めなくてはいけない。わたしが真実を目指す根源から目を背けてはいけない。
- 829 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:55:44.012 ID:ZkxNVsXY0
- ???
「そうか……君が……
俺には信じられないが、君がそう認めるのなら――そういうことなのだろう」
彼もまた、短く頷いた。
その顔には陰が落ち、表情は読めないが……どこか達観したような雰囲気もあった。
ユリガミ
「わたしを……どうするの……」
――少なくとも、わたしは真実を探さなくてはいけない。
もしここで尋問をされたりしたら、真実に向かえなくなる。
場合によっては……この男性を……。
???
「……君をどうするかだが
俺は何も関与しない――ほかの余罪はなさそうだからな――」
――そう思っているわたしにとって、彼の答えは意外なものだった。
ユリガミ
「わたしを……見逃すの……?」
???
「……俺の任務は、調査だけだ
それ以上のことは命令されていない」
……わたしは内心ほっとしていた。
この男性は、わたしにとって敵とは思えなかったから。
たとえわたしを探していても、戦いを避けられるのはありがたかった。
- 830 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 22:58:15.499 ID:ZkxNVsXY0
- しかし、男性は腕を組み、何かを思案していた。
その答えが見つかったのか、ひとつ頷くと……。
???
「しかし、一つ君に忠告するとしたら――
フィンというエルフの少女には気を付けたほうがいい」
わたしに、そう告げた。
フィン――天候を操る【力】を持つ少女。
しかし――打ち倒したはずではないのか。
???
「【彼女】を殺したと知れば……その怒りをぶつけるだろうからな」
――フィンを殺さなかったことで、面倒事になったのかもしれない。
……それでも、わたしはフィンを殺さなくてよかった。そう思う。
もし、殺していたりしたら……。あの子の時の二の舞だから。
その他、【嵐】のメンバーや、長身の達人の男、巨大なケダモノ……記憶にない部分で倒し、命を奪った者もいるかもしれない。
それでも――わたしの中では、殺すべき存在と、殺したくない存在が――あいまいながらも位置付けられていた。
あの子も……後者だったのに……わたしは手にかけていた。
それでも、落ち込んではいられない……きっと、殺したくない存在だからこそ、わたしが真実へ向かう理由なのだから。
- 831 名前:Route:C-15 ぶこつな もののふ:2020/12/17(木) 23:01:29.114 ID:ZkxNVsXY0
- ???
「彼女の【力】は、厄介なものだからな……」
――その言葉はすでに理解できていた。フィンとは一度戦ったのだから。
ユリガミ
「……そうね」
少し俯きながら、彼の言葉にわたしはうなずいた――。
わたしはフィンを打ち倒したから。それなのに、彼がわたしにこう告げるということは――。
いずれ、彼女と再び会い見える――そういうことなのだろうか。
???
「……命には、気を付けろ
俺は……年頃の乙女が消えるのは、まっぴらだからな……」
相変らず、彼女が【嵐】がどうかは分からないけれど。
それでも……わたしは進み続けなくてはいけない。
彼の、後悔の念の籠った……低い声を背に……。
わたしはその場を後にし、進み続けた。
彼の姿はすでに遠くなっていた。追いかける素振りもない。
――真実は……。わたしのたどり着くべき真実は……。
恐らく――もうすこしで――。
- 832 名前:SNO:2020/12/17(木) 23:02:13.908 ID:ZkxNVsXY0
- これは秘密だけどあと数回の更新で終わるらしい?
- 833 名前:きのこ軍:2020/12/17(木) 23:33:45.855 ID:jR4GfnqUo
- 乙
ん?もしかしてすみれじゃない…?
- 834 名前:Route:C-16:2020/12/18(金) 23:34:06.344 ID:z.2MHdwo0
- Route:C
Chapter16
- 835 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:35:10.676 ID:z.2MHdwo0
- ――――――。
もう、何度目だろうか……。
わたしは、また何処かわからない場所に居る。そこへ行くまでの記憶がないことも、相変らずだ。
舗装された――とは言え、ところどころボロボロの街をわたしはふらふらと彷徨うように歩いていた。
この街の様子も……【嵐】によるものだろうか……?
そばには電気屋の店頭があって……置かれているクリスタル・テレビジョンからは、様々なニュースが流れている。
――わたしは、亡者のような足取りをしつつ、横目でその映像を見ていた。
- 836 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:37:33.412 ID:z.2MHdwo0
- キャスター
「緊急ニュースが入りました
悲劇の報せです――
……【会議所】の兵士、集計班さんと¢さんが【嵐】によって暗殺されたとのことです――」
わずかに動揺した、キャスターの語りとともに、ふたりの顔が映し出された。
……それは青髪の男性と、黒髪の男性――。
どちらとも整った顔をしている……。
ユリガミ
「っ……!?」
その顔を見た途端、ずきり、とわたしの頭は痛み出した。ぶるぶると体も震え始めた……。
からからに口が乾く……だらりと汗が背中を伝う……わたしの肉体はとても不吉な予兆を覚えていた。
……わたしには彼らに心当たりが全くない。
それなのに、この身体は明らかに動揺していた。
いったい……どういうことなの……。
ユリガミ
「はぁ……はぁ……」
胸を押さえながら……わたしは足を止めていた。
わたしが混乱している間にも、報道は続いていて……。
映像の中ではもみあげの目立つ男性――B`Zが神妙な顔でキャスターの質問に答えていた。
- 837 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:39:16.962 ID:z.2MHdwo0
- キャスター
「【会議所】では、この事件をどう受け止めていますか?」
B`Z
「会議所の兵士がここ最近暗殺される事件が増えています
ベテラン兵、新人兵を問わず――誠に遺憾であります」
キャスター
「なるほど
それでは、今後の【会議所】の動向についてお聞かせ願えませんか?」
B`Z
「はい、我々は頑固、【嵐】には屈せず、【会議所】の維持に努める所存でございます
きのたけ理論を維持することがこの場所の役割にもなるのですから」
キャスター
「ありがとうございました――
次のニュースです――」
映像に映ったB`Zの表情は、絶望の中でも立ち向かおうとする意志が感じられた。
わたしも――似たようなものだろう。
……わたしは、真実を見つけるのが【終わり】になるけれど。
- 838 名前:Route:C-16 ひげきの しらせ:2020/12/18(金) 23:44:02.705 ID:z.2MHdwo0
- ……会議所の兵士は、ニュースの内容やB`Zの口ぶりからすれば、次々と死んでいるらしい。
わたしの手に負えない部分で――悲劇が起きている。
胸の苦しみは相変わらず。悲劇の報せはわたしの心を負の方向へと蝕もうとしている。
わたしは会議所の一員という社長なる男を守ることはできなかった。
……その後悔によるものか。それほどまでに――わたしは役目を果たせていないのか――。
ヤミがわたしに願いを託していたのは……そういった可能性を危惧してのものだったのだろう。
……守ることができていない。マイのことも、はっきりとわかっていない。
ユリガミ
「……わたしはどうすればいいの?」
ぽつりと、悩みがこぼれかけた。
そして【勾玉】を祈るように握り締める。
ユリガミ
「――っ」
しかし、その悩みは――すぐに吹き飛んだ。
悩むな。そこで立ち止まっても、真実におそらくたどり着けるものではない。
真実にたどり着くためには、前へ進む以外の方法はないのだから。
わたしは――その本筋を忘れてはいけない。
悲劇に心を痛め、足を止め、その本筋を忘れてはいけないのだ。
……犠牲者は増えてしまった。
それでも、わたしには、わたしができることをする……。
これが、わたしにできる精いっぱいのことだから……。
- 839 名前:SNO:2020/12/18(金) 23:45:25.642 ID:z.2MHdwo0
- カスでは今絶賛活躍しているお方が…
- 840 名前:きのこ軍:2020/12/18(金) 23:55:31.526 ID:lMa9vqFIo
- あっさりと逝って悲しいなあ
- 841 名前:Route:C-17:2020/12/19(土) 12:46:34.787 ID:UCu58hcA0
- Route:C
Chapter17
- 842 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:01:51.579 ID:UCu58hcA0
- ――――――。
ドッグオンと轟音が鳴り響き、砂煙が舞い上がる光景が、わたしの目の前には在った。
ユリガミ
「――っ!?」
突然、破壊音がわたしの耳に響いた。
土をえぐるような音。水しぶき。刃が何かを切り裂く音……。
……誰も目の前には、居ない。そもそも街とは全然異なる場所だ。
ここは――険しい岩山の中腹らしい……。
この頂には、何かがあるのだろうか。
破壊音のした方角へと、わたしは近づいてみた。
- 843 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:05:30.627 ID:UCu58hcA0
- わたしに襲い掛かった長身の男が、タキシードを着た銀髪の男と戦っていた。
……何故か、消し飛んだはずの長身の男の腕は――まるで何事もなかったかのように、存在していた。
どうして――?それを思うまでもなく、戦いは目まぐるしく進んでいた。
銀髪の男
「戦闘術【魂】――ストーンエッジ」
石の刃が長身の男に襲い掛かる。しかし、長身の男もまた石の刃を操り、相殺した。
銀髪の男
「――やっぱりお前は、ふざけた態度だろうと達人なことに変わりはないな」
???
「はっはっは――筍魂さん――いつもはおちゃらけているあなたの方だって達人であることは変わりはないでしょうが」
筍魂
「チッ――俺のように、武術に関して愚直に追い求めないてめェの態度が嫌いなんだよ」
筍魂と呼ばれた男は、舌打ちをしながらも、構えを崩さない。
――相変らず、長身の男は、おどけた口調をしながらも、構えの姿勢自体は解いていない。
- 844 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:12:49.795 ID:UCu58hcA0
- これは、達人同士の戦い。わたしの時とは違い同門対決だ。
二人とも、戦闘技術は同じぐらいに高められている。
――違うのは、武術に対するスタンスのみ。それぞれの意思のぶつかり合いとも言えた。
筍魂
「戦闘術【魂】――マッハパンチ!」
???
「戦闘術【魂】、燕返し」
筍魂の神速の突きに合わせて、長身の男が手刀で切りつける!
筍魂
「なんて面倒な奴だ、お前は」
筍魂の腕からは、わずかに出血――一方で、長身の男の手からも出血していた。
???
「いやいや――カウンターをしたにも関わらず、一撃を貰った側からすれば、あなたの方が面倒ですよ」
出血した手をばたばたと振りながら、不敵に長身の男は笑った。
- 845 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:16:27.448 ID:UCu58hcA0
- 筍魂
「フン――武術は【力】よりも優れた存在であることを――」
???
「ははは――優れた【力】こそが真の強さだということを――」
筍魂・???
「示してやるッ!」
長身の男は、再び薬を自己注射し、ケダモノのように変化した。
筍魂・???
「うおおおおおーーーッッ!!」
二人がぶつかり合う。わたしは――ただその光景を見るばかり。
岩が削れて舞う砂塵が、二人の影を映すだけ。
そして、その戦いの結末は――
筍魂
「戦闘術【魂】――風起こしッ!!」
その渾身の攻撃は、長身の男に直撃した――!
???
「ああ、残念――私、痛覚も切ったので――
お返しです、戦闘術【魂】、ブレイズキック」
だが……筍魂の渾身の一撃を、長身の男は変化させた肉体で受け切り、
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 846 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:18:40.962 ID:UCu58hcA0
- 筍魂
「ガハッ――」
血を吐きながら……筍魂は奈落の底へと消えていった。
わたしは――呆然と、とうまきにその光景を眺めているだけだった。
???
「ハハ、ハハハハハハ――防御を考えなくてもいい――
【力】は、鍛錬でようやくたどり着くことのできる技術をすっ飛ばせる――
フフ、フフフフフフフフフハハハハハハハハハーーッ」
納得したためか、男は高笑いをしながら崖下を見つめていた。
???
「あの女神の【力】のように――私の考えは、正しいようですね」
――その言葉は、わたしの心をひどく動揺させた。
わたしは――こいつの信念に――褒め称えられている――。
- 847 名前:Route:C-17 いわやまの しとう:2020/12/19(土) 13:20:04.389 ID:UCu58hcA0
- そして男はわたしに目もくれずに立ち去ってゆく。
わたしは――いったい――どうしてこんなやつに――。
どうして――?
ユリガミ
「……っぁっ!」
それを考えようとすると、頭痛がひどくなる。
まるで、思い出してはいけない記憶に触れたように。
ユリガミ
「くっ――」
近くの岩に腰掛けながら、わたしは頭痛が治まるのを待っていた。
ふと見上げた月は弓を張った月が天に浮かんでいる。
あの満月の日から――あの子を切ったときから、どれだけ時が過ぎたのだろうか――
そんなことを考えながら、わたしはただ、ただ――月を見上げていて……。
- 848 名前:SNO:2020/12/19(土) 13:20:19.282 ID:UCu58hcA0
- メリバになるのかなぁ?
- 849 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 17:14:26.997 ID:nqgeZCUYo
- メリバじゃなくてバッド直行定期
- 850 名前:Route:C-18:2020/12/19(土) 17:34:39.940 ID:UCu58hcA0
- Route:C
Chapter18
- 851 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:42:14.701 ID:UCu58hcA0
- ――――――。
わたしの目の前には、【会議所】があった。
わたしは、ついに――ここに辿り着いたのか。夜空の下で、わたしは【会議所】を見上げていた。
――どれほど、わたしはここまで時間をかけたのだろうか。
数々の人が死んでいった。わたしの――【嵐】への抵抗は意味があったのだろうか。
そもそも……本当に、ここがわたしのたどり着くべき場所なのか。
……もはや、そんなことはどうでもいい。
わたしにできることは、真実に辿り着くために、前へ進むこと。
――疑うのは、【会議所】を調べてから。そうしてから、情報をようやく精査できるのだから……。
わたしは、【会議所】を、眺めた。
背後にそびえる岩山と、同じぐらいの城壁――しかし、ところどころヒビが入り、茨が絡み付いていた。
これは、【嵐】の攻撃によるものなのだろう。
背後にそびえる岩山は、筍魂と長身の男の戦った場所だろうか。
- 852 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:42:36.855 ID:UCu58hcA0
- ……わたしは、【嵐】と戦いながら、失った記憶に苦しみながら、辿り着いた。
あの子を――この手を斬った理由を求める為に。
それは、わたしが納得するだけの自己満足かもしれない。
それでも――向かう必要がある。それが、あの時死ぬことができなかった意味なのだろうと感じた。
ユリガミ
「――っ!?」
足元に目をやろうとして、わたしは、反射的に目を閉じた。
それは何かから逃げる合図のようにも思えた。
眼前には暗黒の世界が広がり、びゅうう――っと風の音が耳を通り過ぎる。
わたしを呼び止めるかのように、風が吹いていた。
わたしの服の裾や、肩まで伸びた黒髪が風になびいて揺れている。
――わたしは、風で揺れる髪の毛を片手で抑えながら、ぐっともう片方の手に力を込める。
- 853 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:43:33.483 ID:UCu58hcA0
- ユリガミ
「だめ――逃げてはいけない――」
――わたしは、真相に近付いている。そんな予感があった。
それなのに、どうしてこんなにも不安な気持ちになるの?逃げたくなるの?
……わたしは、自然と【勾玉】に手を寄せていた。
ユリガミ
「どうか、わたしが真実を見つけられますように――」
わたしは、胸元の【勾玉】を握りながら、祈った――それはわたし自身への願いでもあった。
……その祈りが届くのかは分からない。
――それでも、祈念することはわたしの心を落ち着ける一要因にもなった。
この気持ち――これが、人々がわたしに願いを託した時の気持ち?
- 854 名前:Route:C-18 いばらの じょうへき:2020/12/19(土) 17:45:32.946 ID:UCu58hcA0
- ――わたしはユリガミという女神として、願いを託される存在。
……恐らく、これまでも、そしてこれからも――わたしはそう呼ばれるのだろう。
――ある時では魔女と呼ばれるかもしれない。
でも――ここまでわたしが来れた理由。それはわたしが前に進むことを信じ続けてきたからだ。
その姿勢もまた、女神として称えられる要因のひとつだと、わたしは思っていた。
だから、わたしも祈ろう――わたし自身に。これから先、真実に辿り着けるように。
ユリガミ
「行こう――真実を見る為に」
――ようやく、目を開けることができた。
そしてわたしは前を見据える。広がる光景は【会議所】――茨の城壁――。
風にわたしは逆らう。意思は揺ぎ無いこと見せるために。
一歩、一歩――わたしは足を進め始めて……。
- 855 名前:SNO:2020/12/19(土) 17:46:05.627 ID:UCu58hcA0
- 茨の城壁と書いて茨城――書き込んでいるときに思いついた。
- 856 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 17:48:20.697 ID:nqgeZCUYo
- 納 豆 要 塞
それはさておき、会議所が最終決戦てことはもう陥落してますね…ほとんど生き残ってなさそう。
- 857 名前:Route:C-19:2020/12/19(土) 20:23:51.907 ID:UCu58hcA0
- Route:C
Chapter19
- 858 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:26:59.934 ID:UCu58hcA0
- ――――――。
ここは、あの子を斬ったあの中庭のようだ。
茨の巻き付いた城壁の中――すなわち、ここが【会議所】ということ?
ユリガミ
「……あの子を斬ったのは、【会議所】だったのね……」
一人ごちったわたしは……ひどく、疲れ切っていた。
わたしの始まりは、わたしの終わりでもあった――そういうことなの?
わたしは【逃げた】場所へと戻ってきている――そういうことなの?
ふと――ぽたりと、液体が滴る音が聞こえた。
それはとても近く――わたしの腕から。
――はっ!
わたしはすぐに両手を挙げた。
――そして、すぐに気が付く。わたしは――再び、血にまみれていた。
赤く、金気臭い液体が、わたしの身体を染め上げていた。
ユリガミ
「え――どうして――」
ぽた――ぽた――っ。困惑するわたしをよそに、紅い液体は地面へと散らばる。
わたしの衣服の裾から、血の雫がぽたぽたと流れ落ちてゆく……。
どういう、こと、なの……?
わたしは、記憶を失っている間に誰かを斬ったの……?
- 859 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:28:34.051 ID:UCu58hcA0
- どくん――どくん――
急に、心臓が早鐘を打つように脈打ち始める。
血に染まった事実が、胸をかき乱そうとしている。
いったい――何があったの……?
社長を殺害した男……【嵐】のメンバー……長身の男……醜いケダモノ……
彼らと相まみえたとき、わたしは返り血の一滴すらも浴びてはいない。
返り血を浴びたのは――
わたしが、血に染まったのは――
思い出そうとするだけで、身体が震える。
ぶるぶると――がたがたと――わたしは身震いする。
さあっと、体温が下がる感覚もあった。
凍てつく雪山の中に放り出されたかのように――。
横たわる少女の亡骸――あの子を斬った感覚は、覚えてはいない。
どうしてあの子と戦ったのか――それも、覚えてはいない。
それでも、あの紅い月と返り血は覚えていた。
……わたしは不安でたまらない。どうしようもない不穏な気配があった。
- 860 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:31:30.374 ID:UCu58hcA0
- ふと、わたしは天を見上げた。
天上に広がる夜空には、星々が瞬いてはいるけれど、月はいない。
満ち欠けを永遠に繰り返す金色の鈴は、完全に欠けていた。
血染めのわたしと、満ちた――あるいは欠けた月――。
朔の夜と望の夜は、血染めのわたしを境に鏡合わせになっていた。
ユリガミ
「――わたしは、どうして……」
血に染まったことが、どうしてこれほどまでにわたしを動揺させるの?
あの子の出来事は、それほどまでに――わたしが畏怖するまでの記憶になっているの?
――その瞬間、何かの光景がわたしの中を駆け巡った。
それは戦いの光景――ふたりの人物の戦い――ああ、これは――。
ユリガミ
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ひどく、わたしは動揺していた。
この先は――わたしのたどり着くべき場所のはずなのに――
真実に近づいているのに――どうして、一歩が踏み出せないの?
――逃げたい、そんな気持ちが心の中にあった。
わたしは……たまらなく、恐怖に打ちひしがれていたのだ。
わたしは――真実から目を逸らそうとしているの?
今、此処で起きていることから目を逸らそうとして、何も考えないようにしているの――?
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 861 名前:Route:C-19 しんげつの ちだまり:2020/12/19(土) 20:38:40.773 ID:UCu58hcA0
- ……………。
それは、まるで赤子が乳を求めるかのように。
それは、とても原始的な行動だった。
……わたしの手は、滑らかに動き、胸元の【勾玉】を握った。
この【勾玉】はとてつもない【力】がある――。
――そうだ。それは、わたしが一番知っている。
――そうだ。だから、わたしは――。
ユリガミ
「どうか――わたしに真実に立ち向かうだけの【力】を、わたしにください」
【勾玉】に込めてぽつりとそう呟き、再び祈りを捧げた。
それは、わたしに願いを託した人々のように……。
ふと、目の前の景色が、歪んだ気がした。
ぐらりと、景色が変わる。ぐらりと、空気が変わる……。
――ああ、この感覚は、幾度となくわたしは味わってきた感覚だ……。
そして………………。
- 862 名前:SNO:2020/12/19(土) 20:39:05.855 ID:UCu58hcA0
- これは秘密だけど次で終わるかもしれない みんなには秘密だよ
- 863 名前:たけのこ軍:2020/12/19(土) 22:58:15.389 ID:l8lRnlf60
- ようやくおいついたぞ
RouteCは時間軸を追える物がないから今後の章が出たら読み直さないと謎が多いな…
- 864 名前:きのこ軍:2020/12/19(土) 23:09:59.049 ID:nqgeZCUYo
- 読みが当たりそう
- 865 名前:Route:C-20:2020/12/20(日) 00:06:05.511 ID:RKGgwQgI0
- Route:C
Chapter20
- 866 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:08:48.329 ID:RKGgwQgI0
- ――――――。
わたしは――薄暗い部屋の中に居た。ここは、地下室なの――?
近くには、本が山積みになった机がある。灯り代わりのランプの向こうは、薄暗く見えない。
……ここは、【会議所】の、何処かなのだろう。それだけは確固たる事実だと言えた。
――失った記憶の中にその答えや理由があるのかもしれないけれど、もうどうだっていい。
わたしは真実に近づいていることは間違いはないのだから……。
この場所は、真実にたどり着くために、重要な場所……それを、心か、あるいは身体か――そのどこかで理解していた。
――わたしの視線の先には、白髪の人物が居た。
その人物は、梔子の飾りの入った功夫服を着て、同じく梔子の飾りで彩られた棍を持っていた。
その顔は見えない。
伸びた前髪は、目を、鼻を、口を覆い、表情を――そして、性別をも完全に隠している。
その人物に――わたしは見覚えがあった。
その人物の名前……それは……。
- 867 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:13:59.062 ID:RKGgwQgI0
- わたしが考えようとしたその時……。
だれかが、そこに割り込んできた。
そこには――神父装束の人物が、居た。
黒衣をはためかせながら、靴音を響かせ、ゆっくりと、ゆっくりと歩いてくる。
神父
「――無口さん、行方不明になったと聞いたが……
――死んでは、いないようだ……どうして最近この辺りをうろついている?」
神父装束の人物は白髪の人物を無口と呼んだ。
――無口?いいや、違う……わたしが知っているのはその名前ではない……。
白髪の人物の名前……わたしの頭の中はひどく矛盾に混乱しているが、結局、思い出すことはできなかった……。
そうしている間にも――わたしのことを意に介せずに、二人は対峙していた。
無口
「……」
白髪の人物……無口は、神父装束の人物の答えに何も答えなかった。
――その無口という名前のように。
口をなくした花の――梔子で飾られた名前の通りに――。
- 868 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:16:11.182 ID:RKGgwQgI0
- 神父
「まぁ、あなたは知っているとは思うが……私は黒砂糖――
疑わしきは――とのことだから、あなたを始末させてもらう」
神父装束の人物――黒砂糖が宣言すると同時に、紫の雷は無口へと放たれた。
無口
「……」
しかし……無口も同時に紫の雷を放ち、相殺させた。
黒砂糖
「――その腕は、いなくなる前から変わらず
研鑽はしているようだけれど」
無口は、漆黒の棍を……黒砂糖は、懐から諸刃の剣を取り出し、二人は同時にぶつかった!
鋼の刃と、棍が織りなす金属音。ふたつの得物の軌道は、鏡合わせのようにそっくりだった。
それは、黒砂糖の操る剣術と、無口の操る棍術が、同じ水準にあるとも言えた。
――長身の男や筍魂と呼ばれていた男も一種の達人だった。
わたしもそれに準ずる技術を持っている――そう言われたこともある。
恐らくは……無口と黒砂糖も同じ類の人物なのだろうと、直感で悟った。
無口の人物は、わたしの攻め方と、守り方――それを完全に模倣しているようにも思えた。
……無口がわたしの技術を見たのか?あるいはわたしが無口の技術を見たのか――?
- 869 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:18:26.477 ID:RKGgwQgI0
- 少なくとも、わたしは無口に見覚えがあるから、恐らくはどちらかなのだろうが……それがどちらかまでは思い出せなかった。
無口と黒砂糖は互いに攻守の応酬を幾度もなく繰り返していた。
すなわち千日手……ふたりとも傷すら負っていなかった。
体力を極力使わない立ち回りをしているから、息の切れる音一つもない。
黒砂糖
「コパンミジン」
黒砂糖
「ブラックサンダー」
黒砂糖
「アポロソーラーレイ」
黒砂糖
「アスタフリスク」
炎に雷、光に闇――矢継ぎ早に魔術の連撃を加えながらも、剣で切りかかる。
淀みない動き。スキもなければ、無駄もない。完成された動きといってもいい。
最も、それは無口にも言えた。相手の突きを、大薙ぎを、逆袈裟懸けを、完璧に処理していた。
――わたしは、ただふたりの戦いぶりを見ているだけだった。
身体は前に出ようとしない。それは身を守るため――それともほかの理由があるのか――。
――どちらにせよ、この場に割りこむのは得策に思えない。
下手に動けない。迂闊なことをすると真実にたどり着けない。そんな予感があったから。
- 870 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:19:28.108 ID:RKGgwQgI0
- 相手を見て分かった違いは、得物の届く範囲。棍のほうが、剣よりも若干長い。
刃の有無によって、受ける傷の深さは異なるが、互いの持つ武術の技量の前では、そのような差は些末な事だった。
無口
「ブラックサンダー」
無口は、黒砂糖と全く魔術を唱えていた。
二人が操るのはフィンのものとは違う。これは魔力に依って作られた雷……魔力独特のぴりぴりとした感触を知覚しながら、わたしはそう思っていた。
――魔術もまた、技術の一つ。どわたしには才がないから扱えないが……。
その技術が拮抗しているならば、魔術のぶつかり合いもまた互角となった。
無口
「ガルボルガノン」
無口
「ホルンサイクロン」
無口
「ミールメイルストロム」
静かに放たれる詠唱。織りなす炎、風、水――その中に在る魔力を感じ取っているのか、黒砂糖は冷静に回避していた。
そこに剣の反撃を加えるが――無口もまた、冷静に受け流していた。
- 871 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:26:27.204 ID:RKGgwQgI0
- 魔術の攻撃は、辺りの本や机にぶつかり、それらを破壊してゆく。
それでも、ふたりの存在は、破壊されてはいない!
互いに相手、撃退するという意思はそこにあった。
――ふたりの戦いを見ながら、わたしは……。
無口という人物に対して、何かあったのではないか――そう感じ取っていた。
間違いなく、わたしは無口を知っている――
頭のどこかでそう告げている。――その具体的な内容までは思い出せないのに。
――ああ、そうだ……。
ユリガミ
「――っ」
電流が走った感覚――ふたりに悟られないように、出かけた声を殺しながら、わたしはゆっくりと頭を押さえる。
――そうだ、あの人は……。
無口
「……、強くならなくてはいけない」
わたしの名前を呼んで――語り掛けている。
――わたしはあの人を地上から見上げている。
わたしの中で、何かがはじけそうだった。
もつれあった何かがほどけそうな――そんな感覚を覚えていた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 872 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:28:19.724 ID:RKGgwQgI0
- 一体、何が――わたしは顔を上げようとしたけれど、身体がひどく苦しい。
肺の中の空気が、奪われているような感覚があった。
これは魔術ではない――まるで、フィンの天候操作のような――そんな【力】。
――ふと、記憶の残滓が頭をよぎった。
恐怖で押さえつけられた子供――醜いケダモノのような男――【力】に屈する男女――
ユリガミ
(いったい――これは……?)
記憶の残滓に戸惑いながら……息苦しさに、わたしはぐらりと膝を突いた。
一方で、黒砂糖は……顔を少し歪めてはいたものの、その場に立っていた。
無口より遠い私がこの様なのだから、恐らくは――黒砂糖の方が苦しいはずなのに……。
黒砂糖
「無口さん――これは……超能力か?
しかし……私にその能力は……効果的とは言えないな」
苦笑しながら、黒砂糖は空中に指を滑らせ、何かを描き出す……。
――途端、そこには黒砂糖の姿をした分身が現れた。
- 873 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:30:13.752 ID:RKGgwQgI0
- 黒砂糖
「――私は兎も角、こちらには無意味だろう」
――分身。それは空気など必要ない。そういう意味だろうか……。
それでも、黒砂糖本人には影響はあるはずなのに……。
この状況に、わたしは、どうすればいい――?
息が苦しい。酸素が奪われ、思考が徐々に鈍麻化していく……。
ぼやける眼前の果てで――
黒砂糖ともそして分身は剣を構え、無口を切り裂かんと空間を駆けた。
無口は――その攻撃を棍で打ち払う。金属音が鈍く響き渡る……。
……互いに全力を尽くした戦い。一対二の争い――。
やがて、二人の身体には傷が走り始めた。血しぶきがぽたぽたと地面に散らばってゆく……。
その紅い色は、暗い部屋の中だからはっきりとはわからない。
それでもランプの明かりの下には確かな紅があった。
- 874 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:32:53.952 ID:RKGgwQgI0
- ユリガミ
「……どうしたらいい?」
不安と焦燥感の入り混じった感覚。
どうしたら……いいの……?
このままでは、二人のどちらかは――あるいは二人とも、命を落としてしまう。
どうにかして、わたしは二人を死なせてはいけない――そうしなければならないという使命感に駆られていた。
――すでに、前に進む力はない。
だから、わたしにできること――それは――。
首元に手を動かすことは、どうにかできた。
――大丈夫。信じよう。【勾玉】を。ユリガミを。
わたしは、【勾玉】を握りながら祈った。
ユリガミ
(どうか――どうかわたしに、この苦難の道を切り抜けるすべを――)
- 875 名前:Route:C-20 くちなしの もののふ:2020/12/20(日) 00:38:19.420 ID:RKGgwQgI0
- その瞬間――。
わたしの心の中で――わたしのものとは違う女性の声が――響いていた。
???
「貴女にはやるべきことがある」
――神々しい、そしてどこか優しげな声が、はっきりと響いていた。
???
「それは――この戦いを止めること」
――真剣な口調で語られる言葉。
その言葉は、乾いた地面に水が吸い込まれるようにわたしの中に染み渡っていく。
???
「この戦いを止めることが――貴女が真に為すべきこと」
……その声に、わたしの身体は聞き覚えがあると言っている。
わたしの記憶には心当たりがないけれど――それでも、この声を無視してはいけない、そんな予兆があった。
わたしは……この声の言葉を信じるべきなのだろうか。
今までに出会ったことのない人物。――あるいは、どこかで出会ったかもしれない人物。
その言葉を……わたしはどう受け止めればいい?
ユリガミ
「…………」
ぼやける視界の向こうでふたりが戦う様子を見ながら………息苦しさに淀む思考の中でも考えを巡らせて、わたしはひとつの結論に至った。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 876 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:40:30.201 ID:RKGgwQgI0
- ???・ユリガミ
「戦いを、やめ、て――!」
頭の中で響く声に、続けて――
わたしは――その言葉とともに、二人の間に割って入った。
息苦しさも、強引に捻じ伏せて……わたしの為すべきことのために。
黒砂糖
「――!?」
無口
「…………!」
ふたりは……困惑したようにわたしを見ていた。
同時に、息苦しさは消滅し……。黒砂糖の分身含めた、三人の視線がわたしに集中した。
――もしかしたら、わたしも敵とみなされるかもしれない。
緊張のためか、わたしの背中にはじんわりと汗が滲んだ。
それでも、わたしは不思議と恐怖を覚えなかった。
きっと――わたしには、初めからここに辿り着くのだと、わかっていたのだと思う。
- 877 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:43:05.385 ID:RKGgwQgI0
- ???・ユリガミ
「あなたたちが争って得られることはない――
今なすべきことではないことは、二人とも分かっているでしょう?」
頭の中で、諭すような声が響く。
わたしも、彼女と同じ口調で、諭すように一言一句同じ言葉を続けた。
黒砂糖
「……きみは誰だ
太刀を腰にぶらさげたきみも……私にとっての敵なのか?」
黒砂糖は、分身に無口を任せ、わたしの目の前で剣の刃を向けた。
目の前にある鈍い金属の塊。わたしは血に塗れて命を落とすかもしれない――。
しかしその脅しはわたしにとって障害とはならなかった。
ここで命を捧げてもいい。それぐらい、わたしにとって――この行動が必要不可欠だったから。
- 878 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:44:36.516 ID:RKGgwQgI0
- ???・ユリガミ
「違う――わたしが為すべきことは――」
???・ユリガミ
「絶望の未来を回避する行動――」
黒砂糖への答え……それは声の主に言わされているかのように、
あるいはわたしの中で答えが決まっていたかのように、すらすらと口をついて出た。
無口
「……黒砂糖、退け」
わたしの言葉に何かを察したらしい無口は、初めて言葉らしい言葉を発した。
とても短く――そして強い口調で――あたりの空気を切り裂くような鋭い言葉を――。
無口
「彼女は――少なくとも、私や君の敵ではない」
黒砂糖
「……どうやら、そのようだ」
――無口の真剣な口調に、黒砂糖はわたしに向けた剣を離した。
- 879 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:46:26.343 ID:RKGgwQgI0
- 黒砂糖
「……私は、この少女に手を出せとは言われていない
一旦は退かせてもらおう……」
黒砂糖は、不服そうにつぶやきながらも、その場を立ち去って行った。
その背中が遠くなるのを見つめながら……わたしはほっとしていた。
わたしは――この争いを、止めることができたのだ……。
???
「――それでいいの
あとは貴女がすべてを……思い出すことができれば……」
わたしが呆然しているうち、ほっとしたような、満足したような謎の声が響き――
瞬間、わたしの中に悟りが広がった。
失われた記憶は急速に復旧し、わたしの中で不鮮明な部分が鮮明になっていった。
あまりにも急激すぎて、ばちばちと雷に打たれた感覚。
それでも――恐怖はなかった。痛みもない。むしろ、憑きものが落ちた感覚にも思えた。
- 880 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:49:50.421 ID:RKGgwQgI0
- 確かに――わたしはあの子を確かに斬ったことに間違いはない。
――しかし、あの子の命は失われてはいない。
あの子は、傷ついてはいるけれど、眠っている。
いつ覚めるかもわからない闇の中で、目覚めを待っている……。
そうだ……わたしは向かわなくてはいけない。
あの子に謝るために――あの子を救い出し、楽園に戻る為に。
――わたしの中に、あの子と過ごした記憶の一部が思い出された。
ユリガミ
「――貴女は、大人になったらどんな人間になりたいの?」
少女
「わたしは、おねえちゃんと結婚して、一緒に幸せにくらしたい!」
ユリガミ
「……わたしと?」
少女
「だっておねえちゃんは、とても綺麗、とっても頼りになって」
少女
「……憧れの、大好きなおねえちゃんだから」
――誇らしげに語るあの子は、言葉の終わりに、少し顔を背けてほほを染めていた。
ユリガミ
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 881 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:51:51.073 ID:RKGgwQgI0
- あの子の仕草が、声が、姿が、心が――まるで昨日のように思い出せる。
――あの子と過ごした楽園の日々。
それはヤミの居た屋敷の一部屋での出来事だった……。
そうだ、あの場所はわたしの住処でもあったのだ。
わたしは、この幸せな光景を失い、絶望を抱えたまま、この世界を彷徨っていた。
行き場をなくし……永遠と彷徨うわたしに向けた誰かの言葉が、その世界に一筋の光明を見せた。
――わたしはあの幸せを取り戻すことが出来る。希望を取り戻すことが出来る。
だから、行こう。だから、征こう。
あの子を救い出すために、【彼女】の眠る場所へと、わたしは向かわなくてはいけないのだから……。
無口
「……私は、貴女の向かうべき場所へ、誘わなくてはいけない」
無口は、傷口を押さえながら、指を空中に指し示した。
わたしは、無言で頷く。大丈夫――わたしの意思はきちんと伝わっている。
- 882 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:53:57.866 ID:RKGgwQgI0
- ――続く無口の言葉に、わたしは耳を傾けようとした。
無口
「……ユリガミを取り戻すために」
――え?
今……なんて……言ったの……?
わたしを――取り戻す――?
何を言っているの?わたしは――わたしは――ここに――。
途端に不安が胸をかき乱した。
まるで世界が崩れ落ちたかのように――わたしの身体はわたしの思うままに動こうとはしない。
わたしの意識に反して、わたしの身体は――無口と名乗るその人物の後ろを追いかけはじめた。
わたしは他人事のようにその光景を見ていた。
――他人事のように、風景が流れ去っていった。
- 883 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:55:13.814 ID:RKGgwQgI0
- ――わたしはどこに向かっているの?
とても重要なように思えるけれど、わからない、わからない、わからない……。
無口
「……、………」
――何かを無口が言っている。
ユリガミ
「………………」
わたしも何かを呟いている――それなのに、分からない。
わたしの意思に反して言葉を発しているように思える。
まるで別の言語を話しているように、わたしはなにもかもを知覚できなくなっていた。
どういう……こと……なの……。
――もう、わたしには……なにもかもが、わからなかった。
- 884 名前:Route:C-20 ゆりがみの かなたに:2020/12/20(日) 00:56:20.592 ID:RKGgwQgI0
わたしには、何も聞こえない――
いや、それだけではない。見ることも、触れることも、嗅ぐことも、味わうことも。すべてがなくなっていた。
―― わ た し は ど こ に あ る の ?
――― わ た し は ど こ に い る の ?
―――そして、光が一瞬世界を覆いつくすように輝いたかと思うと……。
わ た し の 世 界 か ら 色 が 失 わ れ て い っ た … … 。
- 885 名前:Route:C Ending:2020/12/20(日) 00:57:22.727 ID:RKGgwQgI0
- ――Revealed the moon card.
But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.
―――Route:C Fin.
- 886 名前:SNO:2020/12/20(日) 00:58:31.990 ID:RKGgwQgI0
- なんか勢いに突っ走った更新速度だったけど、Route:C、終。
- 887 名前:きのこ軍:2020/12/20(日) 01:02:37.239 ID:hkt5gB0co
- 更新おつ次章に持ち越しかな
- 888 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/22(火) 19:58:21.160 ID:1BjummYA0
The end of all flesh has come before me,
for the earth is filled with violence through them.
Behold, I will destroy them with the earth.
――Genesis 6:13
- 889 名前:prewar 陰陽ノ現:2020/12/22(火) 19:59:53.056 ID:1BjummYA0
- 月と太陽が入れ替わる狭間――
それは、ありとあらゆるものの境目でもある――。
純白の布の上に置かれた水晶玉。何もかもを透通す水晶の球体。
その中に浮かぶ世界は、空を舞う雲のように絶え間なく動いていた。
すべてが、なにものかの意思に導かれるように……。
……その存在の名は分からない。
科学や魔術などの知恵に秀でた人間なのか――
身体能力の高いオーガなのか――
魔術に秀でたエルフや魔族なのか――
あるいは、語られることも少ない少数種族か――
それとも、知性を持たないと言われる獣か――
もしかしたら、神か悪魔といった、超常的な存在なのかもしれない。
いずれにせよ、どのような存在であろうと――われわれは立ち向かわなくてもいけない。
世界の流れは止まる事はなく、常に前へと進んでいるのだから……。
世界は、すべてが陰陽に支配されている。
互いが絡み合うことで構成される――逆に言えば、互いが分離したままの世界はありえないのだ。
絡み合う陰陽の中で――流動する景色。
うねる世界の渦の中で……ふいに人物の影が見えた。
渦をかき分けるたび、その人物の影は鮮明になってくる。
まるで、その人物が始点となるかのように――渦巻く景色が、その人物の視点へと移っていく。
……ふと、水晶玉の手元にタロットカードがあるのが見えた。
なにか因縁めいたものを覚え、22枚のカードの山を崩してシャッフルし……カードを1枚引いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 890 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:00:56.908 ID:1BjummYA0
- ――希望を祈念する白髪の女性だった。
- 891 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:01:37.131 ID:1BjummYA0
- Route:D
Chapter0
- 892 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:04:22.380 ID:1BjummYA0
- ……私は、現を見ていた。
私は【鏡】を胸の中で抱き、そこに広がる現を、見つめていた。
そこに在る世界。【鏡】の中で広がる世界では……天空に浮かぶまあるい月。
いつの日か、月を見て、自分自身をこう思ったことがある――。
私欲の果てに、月のような存在と呪われた成り果てた――哀れなる乙女だと。
それは……一時の欲望に身をゆだねてしまった愚かな女の思いだ。
太陽が消え去って月と成り果てた……死を捨てた愚かな女の……。
ざんの肉を喰らった呪いは、私の中に永遠と刻み付けられているのだ。
――生きとし生けるものには、終わりがある。
しかし――私の中の呪いは……その終わりを良しとはしない。
これは、ある意味で滑稽な話だ……。私は、初めに望んでいたものは……死だったのだから……。
- 893 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:07:21.466 ID:1BjummYA0
- それでも――。
それでも、私の見る月は、永遠と沈むことなく天空に浮かんでいた。
朝に姿を隠すはずの変若水の在る場所は、今や――永遠のものとなっていた。
それは私にとってひどく違和感のある場所でもあった――。
私のたどり着くべき場所ではない――そんな予兆が、身体のどこかで叫んでいるようでもあった。
世界を見渡せば、幸せそうに歩く女性たちが見える。
友人として――あるいは恋人として――。
それはとても素敵な世界に思えた。幸せそうに暮らす人々の生き様……そして、終わりを迎える……。
……けれども、私の中で大切な何かが失われているという予感はあった。
――今の私には、過去の記憶がなかった。
すべてが抜け落ちていた。私という器は、記憶という名の水を溜めることができず、すべてを洗い流してしまっていた。
- 894 名前:Route:D-0 月:2020/12/22(火) 20:09:39.711 ID:1BjummYA0
- ???
「―――」
ふと、私の中に――何かがよぎる感覚があった。
そうだ……私は……。
――この世界は、あってはならない。
その言葉が頭の中で響き渡った。
そうだ――この【鏡】の向こうはあってはならない世界。
私は――この世界から抜け出さなくてはいけない。
理由は分からない。けれども、その強迫観念にも思える感情は、
原始的な恐怖のようでもあった。
私は、今一度……【鏡】を力強く抱いた。
三つ足のカラスの骨をかたどった外装は、脆そうな見た目に反して、きしむ音ひとつ立てない。
カラスの立ち姿が、私にとって、とても力強く見えた。
――そのまま、私は祈るように目を瞑って……。
- 895 名前:Route:D:2020/12/22(火) 20:10:41.350 ID:1BjummYA0
- 4人目の主人公とはいったい誰だろう……
- 896 名前:きのこ軍:2020/12/22(火) 22:09:46.449 ID:wHdr1uW6o
- 更新おつ 儚い出だしですね
- 897 名前:Route:D-1:2020/12/23(水) 21:59:13.827 ID:xN/CTYgs0
- Route:D
Chapter1
- 898 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:01:06.335 ID:xN/CTYgs0
- ――――――。
空に浮かぶは満ちた月。影に隠れることなく円い鈴がそこに存在している。
月下に照らされた大地の上には、龍しかり、キマイラしかり――空想上の生物が蔓延っていた。
その光景は、一見すれば夢の中で描かれる幻のようにも思える。
……だが、それは紛れもない現実であることを、私は理解していた。
やがて、巫女装束の女性が現れた。彼女の髪は黒く、腰よりも下まで伸びている。
横の髪は結わえているけれど、それでも胸まである長さだ――。
――黒髪の女性は、腰に携えた太刀を抜き、視線をある一点に向けた。
その視線の先には、赤いロリヰタ服を着た少女……。
彼女の手には漆黒の【剣】があった……。それを見ると、どくんと心臓が跳ねた。
女性と少女を見た私は、その光景を見るや否や、目を見開いて、ぎゅっと手を胸の前で握った。
祈るように……祈りを捧げる巫女のように……。
- 899 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:02:44.618 ID:xN/CTYgs0
- 女性には、面識はないはずなのに既視感を覚える。
……それがどうしてかは分からないけれど、私の身体は痺れるようなぴりぴりとした感覚があった。
そして……少女は――私にとって、たいせつなそんざい。自らを犠牲にしてでも守りたい存在でもあった。
それは理解していても……――どうして、たいせつなそんざいなのかは、分からない。
思い出すことができない。記憶が失われているから……。
それでも、ただ、心の奥で――
あるいは本能で――そう感じ取っているのだけはわかる。
……やがて、少女を中心として赤い薔薇の花びらが浮かんだ。
その赤い花びらの周りには、白い瘴気が纏わりついていた。
その光景が、私にとってひどく不吉なものに見えた。
まるで、羽を得た青年が天を目指し続けたが為に命を落とすような感覚を覚えたからだ。
……少女に呼応するかのように、女性も花びらを浮かべた。
それは少女とは対照的で、白百合の花びらで、周りには黒い瘴気が纏わりついていた。
赤と白――白と黒――それらの花びらと瘴気がぶつかり合いながら、二人は戦った。
- 900 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:05:08.012 ID:xN/CTYgs0
- ――どれほど、戦っていただろう。
どれほど、二人は戦っていたのだろう……。
???
「っ――――!」
切り裂く音が、耳に響いた。遅れて――血が滴り落ちる、とても嫌な音が耳を通り抜ける。
呆然と……私はその景色を見ていた。
少女はぐらりと、糸が切れたようにバランスを崩して仰向けに倒れ、
女性は、だらりと血の滴った太刀をぶらさげながら、立ち尽くしていた。
戦いの終わりを示すかのように、二人を纏った花びらは消え、少女の胸で渦巻く黒い瘴気と、地面に突き刺さった【剣】がそこに残っていた。
???
「あ――あああ―――っ」
その惨劇に、私は思わず号泣していた。
大粒の涙がぽろぽろと落ちる。拭う事もできず、呆然とその光景を見つめるばかり……。
その間も、眼から溢れる涙は尽きることなく流れ続けた。
ぽたりと、涙が鏡面に落ちる。
その向こうで滲んだ景色は……惨劇の光景を映し続けている……。
- 901 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:08:37.113 ID:xN/CTYgs0
- 黒髪の女性
「ごめんね、ごめんね―――――」
なぜか、女性は少女を抱き寄せ、返り血で衣服が汚れるのも厭わず、少女の為に泣き続けた。
どうして――?少女を殺すことは、彼女にとってそれほど苦痛だったということなの――?
自分で、斬ったというのに……?
――やがて、泣き切った女性は、魂が抜けたかのようにその場に立ち尽くしたかと思うと、
太刀で己を突き刺し、ぽたぽたと血の花を地面に咲かせた。
同時に、月が蝕まれ、血のように紅く染まり、彼女を中心として白い花びらと黒い瘴気が生まれてゆく……。
しかし……自らを刃で突き刺しているのに、女性に死の気配はなかった。
私はひどく恐怖の感情に苛まれる……。
まさか――彼女――も――。
呆然としているうち、女性は首に掛けた【勾玉】を呆然としたように握りしめていた。
立ち尽くしたような――それでいて、彫像のように綺麗な姿勢を保った女性と、
白と黒のコントラストは何度見ても忘れられないと思えるほどに印象的だった。
さらに花びらは増えてゆく。花吹雪のように……それはふわりふわりと空を舞っている。
ふわりと瘴気によって辺りを漂い、風か、あるいは何かの意思によって遥か遠く、天の頂から海の底まで舞い散った。
――天の紅い月は、まるで彼女の意思に呼応するかのように、世界すべてを埋め尽くすかのように輝いていた。
- 902 名前:Route:D-1 散華:2020/12/23(水) 22:10:11.827 ID:xN/CTYgs0
- ふと、私は気が付いた。
……これはとてつもない凶兆であることに。
止めなくてはいけない。目の前で起きた悲劇で心を締め付け、立ち止まっている場合ではない。
そう考えている間にも、私の周りに白い花びらや紅い光が見えた。
……同時に、私の下腹部に違和感があった。
それは己が性別の立ち位置を塗り替えるかのような、根源的な変化のようにも思えた。
必死に耐えようとしても、抗うことすらできない。ただただその超越的な流れに流されるだけだった。
???
「駄目――このまでは、世界は――」
身体を包む違和感で、心がおかしくなりそうだった。
それでも、私は歯を食いしばって、【鏡】を抱きしめて祈りを込めた。
その凶兆を、その悲劇を、食い止めるために――。
???
「願わくば――どうか――私に【力】を――」
天は砕け、辺りからは水しぶきが津波のように降り注ぐ。
白い花びらと黒い瘴気が、私を中心として押し流されてゆく。
やがて、彼女の【力】が全てを包み込むと同時に――
世 界 は 終 わ り を 迎 え た 。
- 903 名前:SNO:2020/12/23(水) 22:10:34.813 ID:xN/CTYgs0
- 世界終わっちゃった
- 904 名前:Route:D-2:2020/12/24(木) 19:24:21.418 ID:IpHWips20
- Route:D
Chapter2
- 905 名前:Route:D-2 神鏡:2020/12/24(木) 19:25:57.436 ID:IpHWips20
- ――――――。
気が付くと、私は寝台の上で眠っていた。
???
「今の光景は――――夢――?」
髪をくしゃりと掴みながら……私は呆然と佇んでいた。
記憶の中には、斬られた少女の亡骸が焼き付いている。
その光景は、現実に起きた出来事だ。白百合の花びらが、自分自身の周りにも運ばれたのだから……。
だが、【鏡】の向こうに映る景色には、少女の亡骸も――
女性の引き起こした凶兆も……過ぎ去ったのかのように、
あるいは、初めから存在していなかったかのように――
……静寂だけが、そこにはあった。
- 906 名前:Route:D-2 神鏡:2020/12/24(木) 19:28:04.933 ID:IpHWips20
- ???
「…………」
私は、傍らに置かれていた【鏡】を手に取り、鏡面を見つめていた。
【鏡】からは、限りない神々しさを感じさせられる。まるで、雲一つない日に照る太陽のように……。
【鏡】は、周りは三本足の烏をモチーフにした飾りで彩られ、鏡面は、一点の曇りもない銀が広がっていた。
私は、【鏡】に映る自分自身の姿を覗き込んだ。
雪景色のように真っ白な髪と、透き通るような白い肌と、血のような赤い瞳――。
――色素を欠いたその姿は、確かに私なのだと認識できる。
その顔は、不安に満ちた沈んだ表情だ。
……それもそのはず、絶望の景色を見たのだから……。
……また、身に纏う服は夜闇のような黒装束で、白い身体をより際立たせていた。
この衣装も、私が私であると――自己の存在を証明しているのだとわかる。
……これは尼僧のものだ。私は比丘尼に属する存在ということなの……?
確信は持てなかった。
なぜなら――今の私に、記憶というものがまるで存在しなかったからだ。
私の中にある記憶、それは――凶兆の景色、ただそれだけ。
- 907 名前:Route:D-2 神鏡:2020/12/24(木) 19:28:58.652 ID:IpHWips20
- だから――私の名前は分からない。
ここがどこなのか――この【鏡】がどういったものなのかもわからない――。
記憶を引き出そうとしても、思い出すことが出来ない。
少女が斬られたその光景――その景色がわたしにとってのすべて。
???
「これが、私なのか……
でも、どうして私と、そう言い切れるの?」
ぽつりと、不安げにつぶやいた声は、誰にも聞こえることはない。
鏡の中で私は困惑した表情をしていた。これは……本当に私なの?
直感に頼ることすらもできない。その直感に必要な経験が今の私にはまるで存在していないから。
しばらくして、私は【鏡】を抱えながら、自分自身に想いを馳せているうち、思考の渦に全身を集中させ……。
祈るように、目を瞑って……深い処へと沈んでいった……。
- 908 名前:SNO:2020/12/24(木) 19:29:30.883 ID:IpHWips20
- 白髪多いって言われるんよ 否定はできないんよ
- 909 名前:きのこ軍:2020/12/24(木) 20:07:44.739 ID:GnS96FwIo
- D-1の文章すごくよきですね。お上手になりましたね。。
- 910 名前:Route:D-3 :2020/12/24(木) 23:11:58.277 ID:IpHWips20
- Route:D
Chapter3
- 911 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:16:53.781 ID:IpHWips20
- ――――――。
気が付くと、【鏡】の向こうでは……岩山に立つ男女が二人。
ひび割れ、茨が絡み付く城壁を見下ろしていた。
空に浮かぶ月は、完全な望月ではなかったものの、まもなく満ちようとしている形だ。
……二人は、白い髪と白い肌……まるで、私のように……
しかし彼らの白は私とは違う白にも思えた。
色素を欠いた私とは違う――そんな、白色。
それに、眼は私とは違う。彼らは黒い眼球に青白い瞳を持っていた。
………彼らは、何者なのだろうか。
二人とも、スーツを着込んでいる。――なにより女性は、その脚と右腕を鋼の義肢へと変えていた。
全身から醸し出す雰囲気は、一般人――ではあるまい。
少なくとも、上に立つ立場の存在に思える。
帝国の主……すべてを束ねる頂に居る存在に……。
私は、彼らからそれほどの威圧感を【鏡】越しに感じ取っていた。
- 912 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:43:38.461 ID:IpHWips20
- 男
「………もはや、これまでか」
男性は、タバコの煙をくゆらせ、達観したように呟いた。
その眼下には茨の城壁。これは彼らにとっての城なのだろうか……?
女
「……そうですわね、弦夜
姫様を止めることが、不可能になってしまいましたわ」
弦夜と呼んだ男性に、腕を絡める女性。
その仕草は、上下関係を感じさせない――むしろ同等にあるように思えた。
弦夜
「……この分だと、俺の命も長くはもたんな――」
女
「そうですわね……
まぁ、リーダーの不灰を始末できて、あの組織を崩壊させられたから……
それだけは、救いですわね……」
二人は、月を見上げながらぽつりとつぶやいた。
何かを成し遂げた――それでいて、とても寂しい感覚があった。
私は、二人の姿にとても儚さを覚えていたのだ。
- 913 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:47:15.216 ID:IpHWips20
- 弦夜
「ああ……それより、彼女たちの方はどうだ?」
女
「ああ、あの子たちなら
ブラック……いいや、闇美(ヤミ)に一任していますわ」
弦夜
「そうか……彼女ならば、問題はあるまい」
二人の言葉からは、死を覚悟している……そんな感情が読み取れた。
一体、二人には何があったのか……私には分からない。
二人には迫り来る死への恐怖は感じ取れない。受け容れようとする強い意志がそこにはあった。
それは決して揺るがすことのできない固く強い意志……。
女
「ねぇ、弦夜――
今からでも、姫様を――鈴鶴(すずる)様を始末することは、敵いませんか?」
弦夜
「……彼女は既に、女神の【力】とその血でもって――常人を凌駕した存在となっている
それに彼女は輝夜の娘――手出しは無用だ」
懇願するような女性の声を、弦夜は手で制す。
一体、何の話なのか――わたしにはわからない……。
女
「……そう
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 914 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:54:32.571 ID:IpHWips20
- 弦夜
「もう、それ以上は言うな……
――敗者は何も言わず立ち去る……それだけだ」
女
「わかりましたわ……
では、弦夜……鈴鶴様が完全に目覚めたその時は、貴方のことを私が殺してあげます
貴方の命を奪っていいのは、私だけしか、いないのだから……」
ぎらりと光る女性の眼は、私にも伝わるぐらいに震えていた。
彼女は――もしかしたら――弦夜と、心中するつもりなの――?
弦夜
「……昔から、君はそうだったな」
女
「――当り前ですわ
【力】が目覚める前から――そして目覚めたときも、弦夜のことが好きだから
……お願いだから、私と……最期の時までを……」
女
「この崩れ落ちそうな世界でも――逢瀬も夜伽も――まだできる余地はあるでしょう?」
女性はすでに泣いていた。鋼の義肢を持つ姿にこぼれて光る涙は、
儚いガラス細工のように夜空を抜けていた。
……その仕草は、声色は、表情は……彼らが間もなく死の運命へ誘われることを示していた。
弦夜
「ああ……」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 915 名前:Route:D-3 節制:2020/12/24(木) 23:57:20.215 ID:IpHWips20
- 私が目を開けたとき、【鏡】の中の景色は薄れ、
そこには――銀色の鏡面と、私の顔だけが映っていた。
……これは、どういうことなの?
あの悲劇を……二人は知っているの?
――分からない。わからない。ワカラナイ……。
彼らはも死を受け容れようとしている。まるで、寿命の終わりを悟ったかのように。
彼らの仕草は、声色は、表情は……彼らが間もなく死の運命へ誘われることを示していた。
……あの凶兆が、原因なのだろうか。
――私は、彼らの姿勢が、彼らにとっての幸福のようにも思えた。
同時に――それが間違っているようにも思えた。
この矛盾した、あやふやで、あいまいな感覚。その原因は何?
私はその意味も分からずに……ただ、【鏡】を抱きしめて……。
- 916 名前:SNO:2020/12/24(木) 23:58:01.839 ID:IpHWips20
- 夜伽の意味はググってしらべてみてね!
- 917 名前:きのこ軍:2020/12/25(金) 09:19:27.093 ID:fAyENffMo
- わからないです!(純粋)
展開は前章と同じだな
- 918 名前:Route:D-4:2020/12/25(金) 20:16:11.307 ID:R3YSSkEw0
- Route:D
Chapter4
- 919 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:18:00.268 ID:R3YSSkEw0
- ――――――。
気が付くと、私の隣には、ひとりの少女が座っていた。
後ろで束ねた紺碧色の髪と、翡翠色の瞳をした女性は、恐る恐る――といった表情で私の顔を覗いていた。
――女性についての記憶は曖昧で、名前もすぐには出てこない。
それでも、私の中には引っかかるものがあった。
記憶は欠落していても、身体は覚えている――ということだろうか。
???
「バラガミ、大丈夫?」
自然に話しかけてきた少女の様子から、彼女は自分自身の事を知っていると読み取れるが、
どういった関係性なのか……、それは私にはわからない。
――彼女はバラガミと私を呼んだ。それが私の名前なの?
バラガミ
「……ええ」
少女の出したバラガミという呼び名。
その呼び名に思い当たる節はないものの、欠けた破片がはまったように、
しっくりと受け止められ、流されるままにその名前に頷いた。
- 920 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:24:28.404 ID:R3YSSkEw0
- バラガミ
「ええと……貴女は……?」
それでも、目の前の女性が何者かはわからない――。
……困惑しながらも、私は訊ねた。
???
「また、記憶の欠落があるのね――」
……特別、私の発言に疑問符を浮かべなかった女性の発言から、
彼女と私とは少なからず付き合いがあったことが伺えた。
悲劇的な光景から今に至るまでの過程を、思い出すことができない。
そして、自分自身の過去すらも思い出せない。
理由も知らないまま、【鏡】を通して世界を見る事で何かを感じただけ。
そんな私に、女性は優しく答えを返した。
細波
「じゃあ、もう一度伝えるわ
私は細波(さざなみ)――」
細波。穏やかな波を意味する言葉は、静かな彼女の振る舞いと口調に相応しい名前だった。
- 921 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:29:33.429 ID:R3YSSkEw0
- バラガミ
「……細波、色々と聞きたいことがあるのだけれど」
細波
「私が答えられる内容のものならいいけれど」
――不安が胸を過る。それでも私に訊ねなくてはいけない。
バラガミ
「……その、白い花びらを纏った花吹雪がこの辺りを舞ったことを覚えている?」
――あの、恐ろしい凶兆を……。思い返して、身体が少し震える。
細波
「……白い花びら……花吹雪……?
ごめんなさい……ここに花びらなんて舞ってはいないわ……」
――しかし、私の感情とは裏腹にきょとんとした表情で、細波は答えた。
バラガミ
「……え?」
細波
「……貴女も女神の血を引いているから、予知夢を見たのかもしれないけれど
……少なくとも、私はここで花吹雪は見ていないわ……もちろん、夢の中でも」
きっぱりと断言した細波の言葉に、私は呆然としていた。
少女が斬られた場面は、脳裏に深く刻み込まれているし、あの紅い月は見たら忘れる事なんて出来ない。
それなのに……あの光景は、夢幻の世界での出来事だった――というの?
- 922 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:30:56.018 ID:R3YSSkEw0
- 細波
「……大丈夫?顔色が悪いけれど」
バラガミ
「……いえ、大丈夫」
心配そうに顔を覗き込む細波の言葉を、わたしは手で制した。
……あの出来事は、少なくとも私の中で留めておくべきだ、と感じたから。
細波
「なら、いいけれど……
他に、私に訊きたいことはある?」
バラガミ
「――いいえ、大丈夫
また、尋ねることはあるかもしれないけれど」
細波
「分かったわ……私は、いつもの場所に居るから……」
立ち去る細波の、後ろで結わえられた髪が揺れる様子を、私はぼうっと眺めていた。
- 923 名前:Route:D-4 隠者:2020/12/25(金) 20:40:43.303 ID:R3YSSkEw0
- バラガミ
「……女神の血」
細波はそう言った。自分の中には女神の血が流れている――と。
正直なところ、身に覚えがないが、彼女に嘘を言っている気配は感じ取れなかった。
彼女の言葉を信じるならば、予知夢という結論になるが……。
どうしても、その答えは違うような気がする。
身体が感じ取った凶兆は、確実に現実の出来事だった。
花吹雪が自分自身の周りにも表れ、紅い光が見え、身体の変質を感じ取った記憶。これが夢であるはずはない。
バラガミ
「わからない……わからない……」
もし、凶行が現実に起こっていたのなら、細波も覚えているはずだ……。
――もしかしあら、あの悲劇は、【鏡】を通して見ていたから、私だけが知りうる事柄なのかもしれないけれど。
……だが、あの凶兆までを忘れるとは考え難い。それは、私の周囲にまで来ていたから。
矛盾した情報が、どう結び付くのか。
それを思い出そうと、目をつぶっているうち、私は自然と【鏡】を抱きしめていて――。
- 924 名前:SNO:2020/12/25(金) 20:41:16.263 ID:R3YSSkEw0
- 誰かの予想は当たったのかなぁ?
- 925 名前:きのこ軍:2020/12/26(土) 12:25:37.073 ID:ORB7yMpoo
- バラガミ伝説が関わってくるという予想までは当っていた。
- 926 名前:Route:D-5:2020/12/26(土) 13:12:14.501 ID:vXvv.fQI0
- Route:D
Chapter5
- 927 名前:Route:D-5 塔:2020/12/26(土) 13:13:29.029 ID:vXvv.fQI0
- ――――――。
私が祈っている間に、いつの間にか、【鏡】の向こうでは、どこかの荒野での戦いが写っていた。
バラガミ
「これは……?」
そこには、茸の傘のような頭頂部をした、浅黒い肌の醜悪な見た目の生物が、緑や黄色の軍服を着た兵士たちを薙ぎ倒していた。
その生物の胴と比べると極めて短い手足が虫のように地面を這いずり回るしぐさは、【鏡】の向こうから見ても気持ち悪さを覚えるほどだ。
バラガミ
「……そんな」
悲劇を食い止める祈りは通じなかったのか――私は、落胆した気持ちでその惨劇をただ見ていた。
兵士
「ひるむな、DBを倒すぞーーーッ!」
兵士たち
「了解です、山本さん…!ウォオオーーーーーッ!!」
リーダーと思わしき屈強な兵士――山本の表情は鉛のように重々しく、しかしどこか諦観の念も感じさせる表情をしていた。
それでも、その感情を声に出さないように活力を振り絞っており、軍人としての意地を感じられた。
その声を皮切りに、兵士たちは鼓舞しあい、辺りは大歓声で沸いた。
――まだ、希望は……あるの……?
わたしは、祈るようにその光景を見ていた。
- 928 名前:Route:D-5 塔:2020/12/26(土) 13:17:39.129 ID:vXvv.fQI0
- だが、DBと呼ばれた生物は、どうやら身体から悪臭を放っているらしく、
近寄るだけで兵士たちの表情が苦悶に歪み、昏倒する者までいた。
DB
「ヴォーーーーーッ、大量撃破、大量撃破……」
DBのしわがれた老人のような声は、【鏡】の向こうからでも嫌悪感を覚える。
つまりは……DBは、徹底して不快感を与えさせる生物ということだろうか。
バラガミ
「……どうか、彼らに幾ばくかの加護を」
私はただ祈るだけだった。
それが直ぐに結びつかなくとも――祈り続けることが、自身の存在意義なのだと思えたから。
兵士
「グフフ……俺は強い方が好きだ!会議所なんていられるかっ!」
が……その祈りもむなしく、戦況は悪化するばかり。
兵士たちの攻撃は当たれど、致命傷になっていない……。
バラガミ
「あ……ぁあぁぁぁ……」
私の口からは、絶望に染まった声が漏れた。
そこにあるのは……DBによる、蹂躙だったから……。
- 929 名前:Route:D-5 塔:2020/12/26(土) 13:20:22.033 ID:vXvv.fQI0
- それどころか、DBと対抗しているはずの兵士たち――恐らくは、【会議所】という場所に属するであろう兵士たち――
彼らが、洗脳されたかのように裏切り始めた。
残酷な現実――先程までの熱意はとうに消え、兵士はひとり――また一人と崩れ落ちてゆく。
DB
「コレデ、終戦だァアアアあアアアアア」
山本
「ぐあアアアーーーッ!!」
そして、最後まで立ち向かっていた兵士が朽ち果てる様子を見て――
DBと、死体の山の重なる荒野を見て――
バラガミ
「……っ」
私は、【鏡】を抱きしめながら、ふらりと地面に倒れ込んだ。
その悪夢のような光景――現実を、変える事すらできない悲しみに包まれながら……。
私は……ひどく悲しい気持ちになっていた。
私の無力さが浮き出るようにも思えた。それほどに……私の心はズタズタだった。
私は、不意にぎゅっと目を閉じた。その光景から逃れるために……。
あるいは、何かに祈りをささげるために……。
世界は暗黒に染まる。一つの光もない闇で私は――――
- 930 名前:SNO:2020/12/26(土) 13:20:57.097 ID:vXvv.fQI0
- 章題の意味するところとは……
- 931 名前:きのこ軍:2020/12/26(土) 22:11:43.839 ID:ORB7yMpoo
- タロットか
- 932 名前:Route:D-6:2020/12/26(土) 22:41:20.951 ID:vXvv.fQI0
- Route:D
Chapter6
- 933 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:05:13.100 ID:vXvv.fQI0
- ――――――。
気が付くと、私は、【鏡】の向こうで起きる出来事を見つめていた。
やはりその過程は分からない――だが、そのことすらも考えさせない光景が【鏡】の向こうに写っていた。
それは、またしても悲劇。
自分が出来ることは、【鏡】を通してその光景を見るだけで、その事実に介入することはできない。
???
「これで……残りは、ひとり……
あはははは、それにしても、私はほんとうに愚かだねぇ、ほんとうに……あはははは……」
呆然と……心を失ったように、嗤う女性の声が聞こえた。
角を生やし、紫紺色のローブに包んだ彼女の手には……
片手に翡翠色に輝く三叉槍のような剣と、もう片方の手にレモン色の魔法弾があった。
剣からはぬめぬめと輝く血がどろどろにこびりついていた。
何人も斬ったのか……辺りにはバラバラにされた男たちの死体も転がっていた。
男
「ま、待ってくれ……た、たすけ……」
ブルブルと震える男が、腰を抜かして後ずさりながら女性を見ていた。
あまりの恐怖に失禁し、がたがたと歯を鳴らして震える様は、憐れにも思えるほどだった……。
その向こうでは、恐らくは店舗であったであろう家屋が、業火に包まれていた。
???
「は?何、冗談言ってるの?あははははっ、イラない存在だからまともに考えられないのかな?
そっかぁ……エレガントでハッピーな二人の関係を破壊したのにそんなこと言えるんだぁ……
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 934 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:06:14.719 ID:vXvv.fQI0
- その隣では――泣き叫ぶ少女の声があった。
女神の血を引いている――と細波は言ったが、それが何だと言うのだろうか。
ここにあるのは絶望だ……。私は、悔しさに唇を噛んでいた。
???
「シズ!シズーーーーっ!」
シズと呼ばれた長身の白髪の女性は、地面に崩れ落ちていた。
銃弾が胸を貫いたことが、致命傷になったらしい。すでに赤黒く変色した血は、時間の経過を思わせた。
シズの身体に、小柄な白髪の少女が縋りつき、泣き叫んでいた。
少女の悲愴な声が胸をきゅっと締め付ける。その光景は、紅い月の時のように、私の心を深くえぐった。
辺りにも死体が散らばっており、軍服を着た男たちが折り重なるように倒れ伏していた。
白い髪に黒い髪――金色の髪――さまざまな種族の者たちが崩れ落ちている。
シルクハットに、拳銃に、軍帽に……様々な装飾品も散らばっていた。
- 935 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:13:55.120 ID:vXvv.fQI0
- そして……紫紺色のローブを着た女性は、先ほどとはうって変わって、
慈しみを浮かべた儚げな表情で、泣き叫ぶ少女を抱きしめていた。
少女
「……な、なく、ちゃん」
絞り出すような少女の声は、蚊の鳴くほどに小さかった。
なくちゃん
「――フチちゃん、守れなくて……ごめんね」
なくちゃん――と呼ばれた女性は、その場に広がる死体を見つめながら、口惜しそうにそう呟いた。
フチ
「なくちゃんは……謝らなくていい
……義兄さんも加勢してくれたけれど、多勢に無勢で――貴女が来てくれなかったら……あたしも……」
フチは折り重なる死体の一角に目線を動かし……再びなくちゃんと呼んだ女性を見た。
フチ
「……シズが死んじゃった
シズが、シズが……」
フチにとってシズは大切な存在だったのだろう。その取り乱しようは、ヒビの入った硝子細工のようだった。
そして、耐えきれなくなったのか、魔族の女性の胸にすがりつき、泣きじゃくっていた。
なくちゃん
「……ごめんね
私が、遅かったばかりに……【嵐】からふたりを守れなかった……」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 936 名前:Route:D-6 愚者:2020/12/26(土) 23:17:30.190 ID:vXvv.fQI0
- 二人はとても儚い存在に思えた。
同時に私の心はひどく衝撃を受けていた。悲しみが胸を包み、目頭が焼かれたように熱い。
フチ
「あ……ぁぁぁ……」
フチの涙が流れ落ちる。体が震える。
そして私もまた――涙をあふれさせていた。
心がずきずきと痛んだ。悲しみにむせぶ二人の姿が、私の心を押しつぶさんとしていた。
その、悲愴な光景を見ながら、私は――再び祈った。
この悲劇に巻き込まれた女性への救いを。この景色を観測している私にできることはそれしかないのだから。
私は、涙を浮かべながら……。
バラガミ
「私に、悲劇を食い止めるためのいくばくかの【力】を――」
【鏡】越しの景色に重なるように映った私の表情は真剣そのものだった。
涙に滲んだ視界に映る私の姿を見て、確かに私には女神の血が流れているのだと、客観的に感じ取っていた。
そして深く祈りを捧げる私の思考は、現から徐々に乖離し始めて……。
- 937 名前:SNO TIPS:2020/12/26(土) 23:26:27.439 ID:vXvv.fQI0
- -愚者
タロットの大アルカナに属するカードの1枚。
カード番号は0や、あるいは無番号で表記される。
正位置は自由、無邪気、天真爛漫、天才
逆位置はわがまま、ネガティブ焦り、意気消沈などを示す。
無計画に旅を始めようとする足元の危機に気が付かぬ危うさはあれど――
……純真無垢で前へ進める自由な可能性を秘めた存在なのかもしれない。
- 938 名前:きのこ軍:2020/12/27(日) 09:34:06.394 ID:ReflaknAo
- 魔王が愚者だったかはえー 続々と明らかになっていくし悲しい
- 939 名前:Route:D-7:2020/12/27(日) 20:29:26.119 ID:eHtH7kKg0
- Route:D
Chapter7
- 940 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:31:34.274 ID:eHtH7kKg0
- ――――――。
気が付くと、私は寝台の上で横たわっていた。
バラガミ
「――【鏡】、【鏡】はどこ?」
【鏡】は胸の中に――何事もなかったように治まっていた。
……まるで子供を撫でるように、私はほっとした表情で鏡を見つめていた。
バラガミ
「はぁーっ……」
そして、溜め息を一つ落とした。
死の運命に抗うことなく受け入れる男女の姿は――
先程のDBに蹂躙される兵士たちの光景は――
泣き叫ぶ少女の声は――
すべて、私の心を苦しめんと締め付け、私の表情に暗く陰を落とした。
透き通る白い肌に浮かぶ陰影は、まるで、つくりもののように綺麗で――そして、淋しく見えた。
……これは私なのだとわかっていても……いまだ、現実感はなかった。
- 941 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:40:06.962 ID:eHtH7kKg0
- ふと、私は部屋を見渡した。
自分は何処にいるのだろうか。これまで【鏡】を通して絶望的な光景を目にしていたが、
自分自身やその周りを――もっとも近くにあるものを見ていないということに思い至ったからだ。
部屋の壁や床には、赤を起点とした豪華絢爛な飾りがされており、寝台もよく見れば高貴な者の使う特別なのものだ。
装飾は8つの首を持つ龍をあしらえたものだ。とても丁寧な、雲に囲まれるその姿は……
神を祀る――それほどまでに大きな存在なのだと、なぜだか感じ取っていた。
……私には記憶はなくても、その神々しさは本能で感じとったのかもしれない。
次に、窓の外に目をやった。
……しかしその世界は暗黒で包まれていた。夜――ということ?
――ふと、私の身体がぶるぶると震えた。不意にあの凶兆を思い出してしまったからだ。
……それでも、震える身体に鞭を打ち、壁にしがみつくように手をかけ、窓の向こうへと目を向けた。
その世界では……泡が立っては空へと消えていた。
ここは一体……。
バラガミ
「わからない……ここは……いったい」
ここも――夢幻の世界の一部なのだろうか?
バラガミ
「ここは――どこ――?」
呆然としながら、私は呟いていた。
行き場を失った声が部屋へと充満していく。空気は重く、私の心もそれに併せて重くなってゆく。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 942 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:42:33.305 ID:eHtH7kKg0
- バラガミ
「さざ…なみ……そうだ、彼女に……」
そこで私は思い出す……細波は、近くにいるはずだ。
彼女を呼んで、身の回りのことを、聞いて……今の状況を判断しなくては!
――そう思ったが、考えようとした途端に頭痛が私を襲った。
バラガミ
「――っ!」
その痛みは、まるで周りのことを考えさせないようとばかりに、ずきずきと脳内に響いた。
バラガミ
「痛い――はぁ、はぁ、はぁ……」
考えることをやめる、息を荒くしながら寝台に身を投げた。
……すると途端に痛みが引いた。
まるで、考えないようにを指示されているかのように――。
バラガミ
「……この痛みは、意味のある痛みなのかもしれない」
――突然、閃きとともに私は一つの仮説に至った。
それは突拍子もないものだった。無から突然生まれたものでもあった。
- 943 名前:Route:D-7 苦難:2020/12/27(日) 20:48:19.823 ID:eHtH7kKg0
- バラガミ
「理由は分からないけれど、私は、女神と呼ばれている」
――その事実だけは、嘘偽りではない。
確実に……私は女神なのだ。そう言えるだけの根拠は、ない。
しかし――私の何かが……それを認めていた。
バラガミ
「私が女神だというのなら、女神として、この苦難を受け容れる――」
……救われない悲劇に、周りのことが分からない。
私はまさに籠の中の鳥のように……何も知らない白鷺のようにまっしろな存在だった。
そして【鏡】越しの光景に心を痛め、白は黒に染まってゆく。
何も――私にできることはない。それでも……
バラガミ
「――私の周りに訪れた……あるいは訪れる苦難に、私は目を逸らさない」
私は、そう決意した。
バラガミ
「それが、絶望しか見えない今、私の出来る唯一の行動だから」
鼓舞するように、私は呟く。
鏡面に映る私の顔は真剣そのもので、赤い瞳は、まるで焔が宿ったかのように燃えていた。
そして、再び【鏡】を抱いて祈りを捧げ始めた……。
心は祈りというひとつの行動に集約されていた。
やがて、私の視る景色は揺れる水面のように流れて行って……。
- 944 名前:SNO:2020/12/27(日) 20:48:50.996 ID:eHtH7kKg0
- 表現むずいんよ。
- 945 名前:きのこ軍:2020/12/27(日) 21:22:19.976 ID:ReflaknAo
- でも書きながら成長している感ある
- 946 名前:Route:D-8:2020/12/28(月) 18:38:31.871 ID:k8gQLupY0
- Route:D
Chapter8
- 947 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:42:22.830 ID:k8gQLupY0
- ――――――。
【鏡】の向こうでは、再びどこかの景色が写っていた。
巨大な城の後ろにそびえる険しい山の頂上で、一人の天狗の女性が座っていた。
背中に生えた翼は、左は黒、右は白――髪も、正中線を境に左は黒、右は白と分かれていた。
その顔は、右目を縦に、と左頬を横に走る傷が刻まれ、さらに右目がつぶれていることも相まって、いやがおうにも威圧感を覚えさせる。
頬を撫でる左手も、中指は第一関節より上から――薬指と小指は、第二関節よりも上からを欠損していた。
天狗
「――あの人は、ひと月もしないうちに目覚めるでしょう」
寂しそうな天狗の声。
あの人とは誰のことなのだろうか――【鏡】越しに対話する事もできないから、私には分かりようもない。
天狗
「――わたくしに出来ることは、彼女を導くことだけ……」
ぽつりと零れた言葉は、苦難を受け容れようと決意した私のように、決意に溢れていた。
天狗の女性は、ばさりと翼を広げると、山頂から飛び立ち、城から少し離れた所に広がる荒野に降り立った。
孤独に佇む背中は、何かを背負っているような重さを感じられた。
- 948 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:44:44.423 ID:k8gQLupY0
- その時、天狗の前に、屈強な数十人の兵士たちが武器を持って詰め寄った。
兵士
「ネエチャン、確か――ブラック……だったな?目障りなので仕留めてやるよ」
――ブラック。その名前には聞き覚えがあった。
……弦夜と一緒に居た女性が語っていた名前だ。
弦夜
「そうか……それより、彼女たちの方はどうだ?」
女
「ブラック……いいや、ヤミに一任していますわ」
――しかし、彼女の言い方からして、天狗の名前はヤミが正しいようだ。
少なくとも――彼らにとっては、天狗の名はブラック……そういうことなのだろうか。
……私には、ヤミという名前の方がしっくりと来た。
兵士
「待て待て……捕まえようぜ、仮にも天狗の女だぞぉ?初めて見る女じゃないか」
兵士
「確かに、天狗なんて見たこともないからなぁ……」
にやついた口元と、漏れる言葉は品性を感じられない。
下劣そのもので、吐き気を催しそうなぐらいに醜い。
腐臭に塗れた欲望という名の塊。
それらは大地をも汚さんとばかりに……辺りに浸食していた……。
- 949 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:46:18.770 ID:k8gQLupY0
- ヤミ
「……お前らのような奴が、あの人を不快にさせる……
蛆虫よりも醜い……生物とも物質とも認めたくない、悍ましい存在が……
お前らのような存在が……あの人を……繭から目覚めさせた……」
天狗――ヤミは、冷たい言葉を吐き捨てた。
恨みが篭ったかのように、その目元は怒りでつり上がっているようにも見えた。
兵士
「ハン、生意気なアバズレがぁ!」
ヤミの言葉にいきり立った兵士たちは、剣や杖を構えて天狗に襲い掛かった。
その勢いはまるで吹きすさぶ嵐のよう。彼女はそれに耐えることができるのか……じわりと汗が流れるのを感じていた。
ヤミ
「すぅうううう――――――っ」
……一方の天狗は、ただ一呼吸してその場に立ち尽くすばかり。
バラガミ
「――――!」
この後に起こる光景――それは、再び絶望なのだろうか。目を覆いたくなるような惨劇なのか。
私は、ぎゅっと目を瞑りながら、天狗の無事を祈った。
ヤミ
「――はっ」
私の祈りが通じたのか――あるいは、天狗の実力なのか。
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- 950 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:48:29.122 ID:k8gQLupY0
- 兵士たち
「うぐぁああーッ!」
断末魔と血しぶきをあげ、兵士たちはその場で倒れた。
兵士
「く、くそっ!マジックジャマーだ!起動しろ!」
遅れて、標的ではなかった兵士が何やら機械を弄り始めた。
――その瞬間、辺りには空気を震わす波のようなものが渦巻いていた。
兵士
「……よし、お前のそのよくわからん魔術は封じ込めた!
消させてもらうッ!」
ヤミ
「………」
――ヤミは、風の刃を続けて放とうとはしなかった。
まさか……これは……彼女の攻撃を封じた、ということ……?
これから……彼女は一体……。
私の心は不安に浸食される。しかし続くヤミの言葉は……
ヤミ
「思考が汚らしいから、実力もそれと同じ……
あの人なら、もっときれいに処分してくれることでしょうに……
わたくしは――やっぱり、あの人には敵わないですね」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 951 名前:Route:D-8 正義:2020/12/28(月) 18:49:27.223 ID:k8gQLupY0
- ――ヤミは、いともたやすく……男たちを消し去った。
……さらに、追い打ちのように、あるいは蘇らないように、風の刃で兵士たちの死体をバラバラにした。
彼女は、もはや肉塊と化した兵士たちには目もくれず、その場を立ち去っていった……。
バラガミ
「……数十人も居たのに、たった一人で切り抜けた?」
その光景はこれまで見た絶望的な風景ではなく、希望と言ってもよかった。
バラガミ
「……まだ、世界は絶望で包まれていないの?」
少なくとも、今この瞬間は、希望はある。
私は、なにか報われたようなものを感じた……。
バラガミ
「……ならば、私は祈ってみせる
希望が見えるようになる、その時まで……たとえ、希望がこの一瞬だったとしても……」
私が選んだ道――苦難に立ち向かうという決意は、さらに固まった。私は、再び【鏡】を抱いて祈り始める。
まるで母が赤子を守るかのように――まるで愛しい子供を抱きしめるかのように……
私は、【鏡】に自分全てを捧げるかのように、祈りを捧げた……。
- 952 名前:SNO:2020/12/28(月) 18:50:30.295 ID:k8gQLupY0
- 強いんよ?
- 953 名前:きのこ軍:2020/12/28(月) 19:33:25.002 ID:kVcr9gl2o
- 祈り系主人公
- 954 名前:Route:D-9:2020/12/29(火) 19:25:25.960 ID:kdHxTSNY0
- Route:D
Chapter9
- 955 名前:Route:D-9 神託:2020/12/29(火) 19:27:48.923 ID:kdHxTSNY0
- ――――――。
どれだけの、時間が経ったのだろうか……長い時間が経った気もするし、たった数分の短い刻かもしれない。
それでも、私は祈り続ける。たった一つの希望だけで、絶望に立ち向かう決意が高まってゆく。
同時に、女神と言われるようになった理由についても思いを馳せる。
女神と言われるからには、それ相応の理由があるのだから。
バラガミ
(ひとつは――私が女神を降ろす器――巫女であるという可能性)
それが一番妥当な結論かもしれない。
遠くの景色を映す【鏡】は、ただの鏡ではないことは明らかだ。
そんな特別な鏡と、それを抱く己自身が女神の憑代である――とても単純で妥当な理由。
バラガミ
(でも、もう一つ――私そのものが、女神という可能性)
しかし自身への細波の言葉は、単に女神の憑代への態度には思えなかった。
女神そのものへの態度……。私は特別な存在なのだと……神々しい存在なのだと……。
しかし……。
バラガミ
「でも――私に出来る事は祈ることだけ」
どちらにせよ、今はただ【鏡】と共に祈るだけだった。
絶望だけが蔓延る――たとえ私の視る世界が絶望しかなくとも……。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 956 名前:Route:D-9 神託:2020/12/29(火) 19:29:36.646 ID:kdHxTSNY0
- 【鏡】に映る光景。
眼前に広がる景色ではでは疲弊した人々が、神への祈りを捧げている。
暗雲が空を纏い、恐らくはDBが原因だろうか、枯れた草花の残骸が大地に広がっている。
住民
「――お願いします、ユリガミサマ……どうか、【会議所】の……」
ユリガミ――その単語に、私は目を丸くして驚いた。
その言葉を聞くまで、不思議と意識することはなかったが……バラガミのバラは、茨を持つあの薔薇の事だろうか。
ならばユリガミのユリは、幾重にも合わさる葉を持つ百合の事なのだろうか……?
バラガミ
「ユリガミ――ユリガミ――」
何故か引っかかるものがあった。住民の一人は、丁寧に折りたたまれた紙を取り出し、ユリガミに祈っていた。
【鏡】の映す光景は、私が念じるとともにその住民のもとへと移った。
そして、その紙には――
白い花びらが世界を包んだ時に見た――忘れることなどできやしない、
あの、黒い髪の女性の絵が描かれていた。
バラガミ
「――!」
やがて、私は――納得した。
白百合の花びらを纏う巫女は、ユリガミと呼ばれている。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 957 名前:Route:D-9 神託:2020/12/29(火) 19:30:20.948 ID:kdHxTSNY0
- 住人を映し出したことは、私にそう結論付けさせるがための、【鏡】の神託のようにも思えた。
――が、同時に……新たな疑問が生まれた。
あの少女は――?
赤い薔薇の花びらを纏っていた、とてもたいせつなそんざいの少女。
黒髪の女性がユリガミなら……その少女こそが、バラガミなのではないのか?
……いいや、少女はあの時死んだのだ。
ユリガミの太刀で斬られたのを……この眼がはっきりと捉えたのだから。
だから、仮に少女がバラガミだとしても、自分がバラガミではないという証拠にはならない。
少女の役目を引き継ぐ――そういった出来事があったのかもしれない。
断片として存在する記憶のために、そう言い切れるわけではないけれど……。
バラガミ
「ともかく、今は私に出来ることをするだけ――」
私は、納得できない何かを……違和感を覚えながらも、
それを振り切って、祈りを続けることにした。
己の存在や、少女のことは気にならないといえば嘘になる――が、それを追い求めている場合ではない。
ただ、祈り続ける。
疲弊する住民のために――あるいは、自分の中で希望を失わないために。
――絶望に立ち向かう。希望へとたどり着く。
それが――今ここに居る理由だから。
私は、再び【鏡】と共に祈り続け…………。
- 958 名前:SNO:2020/12/29(火) 19:30:39.270 ID:kdHxTSNY0
- 書き込む前タイトルが信託になってたんよあぶないんよ
- 959 名前:きのこ軍:2020/12/29(火) 22:01:07.322 ID:m1zWBMqko
- そっかバラとユリの関係か 気づかなかった
- 960 名前:Route:D-10:2020/12/29(火) 22:45:43.254 ID:kdHxTSNY0
- Route:D
Chapter10
- 961 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:47:09.729 ID:kdHxTSNY0
- ――――――。
再び、私が【鏡】を見た時――それは、何処かの地下室だった。
そこに居たのは、端正な顔つきの蒼い長髪の男性と、これまた整った顔の――少し気弱そうな表情の、黒い短髪の男性。
何故か、その顔を見ると私の心臓は脈打ち始めた。
バラガミ
「え……」
記憶の何処かで、その男性に心当たりがある。だが、どうしてかは思い出せない。
どうにか思い出そうとすると、少女の亡骸が脳裏をよぎった。彼らは少女と関わりがあるのか?
バラガミ
「っ……」
失われた記憶の中に、答えはあるのだろう……。
だが、思い出せない。そしてわたしは思い出すことを放棄した。
……それを考えようとすると、また、頭痛が私を襲うからだ。私が為すべきことは記憶を取り戻すことではないから……。
【鏡】に広がる向こうの景色では、突然――頭髪を剃り落した大柄の男が現れた。
黒髪の男性
「シューさん、誰かいるッ!」
蒼髪の男性
「――誰だっ!」
- 962 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:51:16.479 ID:kdHxTSNY0
- 大柄の男
「どうも――¢さんに、集計班さん――」
……大柄の男は、舐める様にふたりを見つめてそう呟いた。
その会話と視線の方向から察するに、黒髪の男性が¢で、蒼髪の男性が集計班のようだ。
なぜか……彼らを見るたびに、わたしの胸はばくばくと高鳴っていた。
なぜ――どうして――こんなにも――。
欠落した記憶の中で何かが叫んでいるようにも思えた。それは本能的な感覚でもあった……。
大柄の男
「DBを生み出した張本人がたに会えて、うれしいですねぇ……」
DB――あの恐ろしい生物のことだ……。
……そんな、まさか――うそでしょう?
大柄な男
「誰が発案したかは知りませんが、ともかくあなた方は自作自演を行ったんです
DBという名の架空の化け物を生み出し――それを撃退することで、【会議所】の士気を高めていた」
まさか、彼らが――そんな――。
わたしは首を振り必死に否定しようとするけれど、続く言葉は――。
¢
「ど、どうして……どこから……掴んだんよ……」
¢の、がっくりとうなだれた様子からは――痛いところを突かれたと言っているようなものだった。
- 963 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:52:31.066 ID:kdHxTSNY0
- 彼らは――あのバケモノに関わっていたというの――。
大柄な男
「フフフ……【会議所】も大変ですね……世界の中枢であり、見かけは善でも……
内部はどの組織でもあるように、魑魅魍魎が渦巻く裏がある
あなた方がDBを作らなければ、我々がDBを作り出すこともできなかった……」
肩をすくめ、見下すように笑う大柄な男……。
余裕綽々の表情で彼らを見つめている……しかし、集計班が手をかざし、何かを呟いた。
集計班
「――マグラビティ!」
その声とともに、大柄な男の足元には土色の紋章が刻まれていた。
どうやら……集計班の唱えた術式に依るものか。大柄な男の動きを封じようとしていた。
¢
「…!、動くなっ!手を挙げるんよ!」
¢は、うなだれた感情を切り替え、二丁の銃を構えた。
それは戦士の眼でもあった……。
大柄な男
「おやおや……流石はエースに、情報解析のプロ――
私をどうにかしようというわけですね?」
大柄な男は、両手を挙げながらも、くつくつと笑いをこぼしながら余裕たっぷりに答えていた。
- 964 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:53:56.524 ID:kdHxTSNY0
- 集計班
「……お前は、【嵐】の孟覚眠(モン・ジェイミン)だな――貴様は兵士狩りをしているが……何故だ?
【嵐】は何を目的としている?どうしてお前がここにいる?答えてもらおう――
――答えなければ、銃の引き金を引いて始末する」
覚眠
「おやおや、怖いですねぇ……
フフフ……まぁ、いいでしょう……」
覚眠――と呼ばれた男は、おどけた風にぺらぺらと喋り始めた。
覚眠
「一つ目の質問ですが――まぁ、これは私の任務なんです
有望な強者を消し去らないと、活動が満足にできないですからね……」
¢
「そ、そのために……乙海や、魂さん……ほかにも、集落で暮らす兵士を……」
¢は震えた声で答えた。しかし……その手は震えていない。
感情と肉体の動きを完全に分けているようだった。
……乙海……オトメ……その単語には、聞き覚えがあった。
しかし……どこで?わたしの記憶のどこかで引っかかっているけれど、それが何なのかは分からなかった。
覚眠
「まぁ、強者を放っておくと、私にとっても色々と邪魔なんですよねぇ
さて、第二の質問――【嵐】の目的は……」
――困惑する私の見る景色では、勿体ぶりながら、覚眠が言葉を続けていた。
- 965 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:55:15.406 ID:kdHxTSNY0
- 覚眠
「なんてことはない、ひどくありきたりな目的――簡単に言えば、世界征服です」
覚眠
「きのたけ理論――あの理論は、コルヴォ=フェルミが見つけたというのが世界共通の認識ですが……
それよりも前に、【嵐】のリーダーはそれに辿り着いていた
しかし、その理論を活かすには膨大な組織力が必要だったから、待っていたんですよ……表の人間が理論に辿り着くのを」
覚眠
「そしてコルヴォ=フェルミが理論を見つけてくれたおかげで、大衆に理論が知られ
――理論に関わる施設も、各国の協力で作られ……世界は発展していった
そして我々は、その世界をハイエナのように横取りするという、ひどく単純なことをするだけなんですよ、フフフ」
集計班
「……」
集計班は、苦虫をかみつぶした表情で、おかしげに話す覚眠の言葉を聞いていた。
¢
「じゃ、じゃあ……企業への襲撃も……」
覚眠
「なかなか鋭いようですね、貴方の想像している通りですよ……
そして第三の質問ですが――私は貴方達がここに行くのを尾けていた、ただそれだけです」
¢
「そんな……、誰の気配も……なかったはずなのに……」
¢は、銃を構えながらも、その心はぶるぶると震えているようでもあった。
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- 966 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:55:54.230 ID:kdHxTSNY0
- 覚眠
「気に病むことはありません……戦闘術【魂】を応用しただけですから……
さて、私はいろいろと教えてあげましたが……いかがでしたか?
冥途の土産の言葉に――満足してくれたところで――」
――そして、覚眠は、ふうっと息を吹いた。
¢
「――!」
集計班
「っ――!」
その動きに、¢は素早く銃の引き金を引いた。
同時に集計班も覚眠を縛り付けた紋章に【力】を込めていた。
覚眠
「――戦闘術【魂】、コールドフレア」
――しかし、覚眠は……
その動きよりも早く……何処から呼び出したかもわからない、吹雪を二人にぶつけた。
¢
「――ぐはッ」
集計班
「がは――ッ」
銃弾も紋章も、吹雪にかき消されて消え去り――
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 967 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:57:58.559 ID:kdHxTSNY0
- 覚眠
「初めから、私に攻撃すればよかったんです
【嵐】の目的――そんな、戯言を聞くよりも早く――
そうしていれば、あるいは――勝ち目があったかもしれないのに――」
嘲り笑う覚眠の姿を見て、絶望の単語が私の脳裏を過った。
それは、何度目かは分からないが――心をズタズタにするような感覚であることは違いない。
バラガミ
「やめて――お願い――」
涙を流しながら、私は【鏡】越しに、懇願するようにそう呟いていた……。
覚眠
「それにしても空しいものです、情報処理能力に長けた集計班ともあろうお方でも――
機敏さと二刀流を活かしたエース兵士の¢ともあろうお方でも――
私の力の前には、なすすべもなく……抵抗する前に敗北してしまう――」
集計班と、¢は、氷像と化し、地面に這いつくばっていた。
砕けた身体の欠片が散らばり、その体の中に宿る紅を散らして。
その光景は私の心はひどく揺さぶられる。
紅い月の凶兆や、少女が斬られた時の光景が眼前を過った――。
集計班
「あ、ぐ……き、さ、ま――」
絞り出すような苦しい声は、一言ごとに刺されたような感覚になる。
苦しむ二人の様子に、私はひどく動揺していた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 968 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 22:59:34.735 ID:kdHxTSNY0
- その光景を見て、私の口の中はからからに乾き、顔に汗の粒が浮かんだ。
心臓はばくばくと脈打ち、張り裂けそうな悲しみが全身に響いた。
覚眠
「ああ、最期に教えてあげましょう
私は、世界征服なんてどうでもいいんです……ほかのメンバーから尋問すべきでしたね?
そうすれば長生きできたでしょうに」
覚眠
「――世界を獲るなんてくだらないことは……
他の人がやるでしょう……
フフフ……それでは、さようなら――」
集計班
「ま――て――」
飄々とした口調で立ち去った覚眠と、その足を掴もうとする集計班――。
しかし凍り付いた身体は動かない。手を伸ばそうとする仕草が……私の心をズタズタに傷つけた。
……そして、集計班も悔しさを浮かべた顔で力尽き果てた。
ふたりの亡骸は、少女の亡骸と重なるところがあった。
バラガミ
「――」
呆然と、その光景を見つめる私……。どうしてもこんなに悲しいのだろう。
この二人の男性は、自分にとって大切な存在だったということなのだろうか?
……あるいは、その光景そのものに、心をずきずきと痛めているのかもしれない。
- 969 名前:Route:D-10 悪魔:2020/12/29(火) 23:00:10.053 ID:kdHxTSNY0
- バラガミ
「わからない――わからない――
心が揺さぶられるのに、その理由がわからない――
あの女の子も――そして、この男の子も――」
涙を流しながら、【鏡】の向こうで死んだふたりを見つめながら祈った。
バラガミ
「どうか――これまで不幸になった人が救われるように――
私は祈りを捧げる――」
バラガミ
「――とても悲しいし、心が張り裂けそうでも
私にできることは、これしかないのだから――」
言い聞かせるように――まるで現実から目を背けるように、私は祈った。
閉じた目からは未だ涙があふれている。
それでも――私は祈り続けた。
- 970 名前:SNO:2020/12/29(火) 23:01:20.399 ID:kdHxTSNY0
- 溜め技でなんか強そうな奴を適当に選びましたんよ。
- 971 名前:きのこ軍:2020/12/29(火) 23:30:22.273 ID:m1zWBMqko
- コールドフレアなんてポケモンのワザあったっけと思ったら、伝説ポケモンの専用技か
それはそうと固有兵士が死んでいくのは悲しいなあ。
- 972 名前:Route:D-11:2020/12/30(水) 18:22:46.240 ID:VOze98Lg0
- Route:D
Chapter11
- 973 名前:Route:D-11 奇跡:2020/12/30(水) 18:23:58.マオウ ID:VOze98Lg0
- ――――――。
再び、私が目を開けた時……【鏡】の中には、先程の地下室が映し出されていた。
バラガミ
「ここは……」
先程の情景を思い出し、私は顔をしかめていたが、ある事実に気がついて目を丸くして驚いていた。
バラガミ
「えっ……?」
集計班
「………」
¢
「………」
そこには――先程の男性――集計班と¢が、何事もなかったかのように佇んでいたからだ。
集計班は、薄暗い地下室の、ロッキングチェアに揺られながら考え事をしていた。
¢は、椅子に足を組んで、きょろきょろしながら本を読んでいた。
二人の向こうには、たくさんの本が無造作に積み上がっている。
その様子に、なぜか懐かしさを覚えながらも――
バラガミ
「………二人は、今……命が在るの?」
私は、ぽつりと言葉を呟いて、この光景が意味することについて考えていた。
- 974 名前:Route:D-11 奇跡:2020/12/30(水) 18:25:54.030 ID:VOze98Lg0
- 胸を貫かれ、致命傷を負ったはずなのに……、傷ひとつなく、ふたりはそこに居た。
それは私が祈った事に起因するの?
少なくとも――私にはある言葉が頭の中にあった。
バラガミ
「これは、奇跡――?」
この現象は、奇跡……神の与えたもうた奇跡……。
私が目を閉じ、そして開けるまでに何があったか――それは分からない。
あるいは、その間に目を開けていたのかもしれないが、記憶が失われたのかもしれない。
ただ一つ言える事は、人智を越えた何かが……そこで起きたということだった。
¢
「大戦はまだやり直せると思うんよ――だから今はひたすら耐える……」
集計班
「ええ……いろいろな【死】はあれど――まだ、完全に崩壊したわけではないですから……」
¢は、ぐっとこぶしを握って呟いた。その言葉に集計班もうなずいている。
何かへの希望。そのために、苦難を耐えようとする言葉。
――それは……この、不可思議な現象を目にしたわたしにとって、心強い言葉でもあった。
- 975 名前:Route:D-11 奇跡:2020/12/30(水) 18:27:33.633 ID:VOze98Lg0
- 集計班
「花は季節になればまた咲くように……終わらぬ絶望はない……」
集計班は、先程の出来事などなかったかのように、感慨深く、遠くを見つめながら、誰に伝えるわけでもない独り言を零した。
¢
「――シューさんの言葉通りなんよ
まだまだぼくらは戦える、できる範囲で人助けや、治安維持をしながら、大戦の再開を持つんよ」
近くには、花の図鑑があり……私の視線はその一点に注がれた。
その表紙にはスミレの花が描かれている――スミレの花言葉は色によっても異なるけれど、
全般的なもので言えば「謙虚」「誠実」「小さな幸せ」――。
……その意味が、すっと記憶の中から引きだされた。
どうしてだろうか……私は、スミレの花言葉に、深い思い入れがあるのだろうか。
心をこめて、丁寧に向き合うほどに……。
集計班
「DB計画が、こんな形で仇となったのは、まったくもって想像外だったが――」
¢
「……シューさん、もともとぼくが持ち出したプランだから、責任はぼくが……」
集計班
「いや……これは表ざたにはしないほうがいいでしょう」
集計班
「【嵐】が、われわれの作り出したDBという架空の存在をもとに、別のDBをけしかけたのは事実です
しかし――われわれの計画の細部までは知りえないでしょう……
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 976 名前:Route:D-11 奇跡:2020/12/30(水) 18:28:54.361 ID:VOze98Lg0
- ¢
「……確かに、話し合ったのは、ぼくとシューさんしかいないから、計画は知りえないわけだ」
集計班
「最も……われわれのDBに詳しい人物は、私と¢さんを含め3人で――
今や私とあなたを含め2人になってしまった……
もちろん、どこかで漏れた可能性はあるが、それについて考えてもらちがあかない」
¢
「……確かに、そうなんよ
今は……目の前のことを見ないと」
……DBという化け物は、彼らの手で生み出された存在らしい。
しかし会話の内容から察するに、それを悪用された――それがあの惨劇の事実ということ、だろうか。
……私は、少しほっとしていた。
どうしてだろうか……彼らが、破壊衝動に目覚めていないから……?
ふたりの話し合う真剣な表情に、私は不思議と希望の存在を実感していた。
奇跡が生み出した希望……本当に不思議な光景でもあった……。
バラガミ
「――どうして、奇跡が起きたのだろう」
私は鏡面に指を這わせた。
そのしぐさは我が子をあやすような―あるいは恋人同士のスキンシップのようでもあった。
やがて、【鏡】の向こうの景色は薄れ、銀色の鏡面と、反射した私の顔がそこにはあった。
- 977 名前:Route:D-11 奇跡:2020/12/30(水) 18:29:19.542 ID:VOze98Lg0
- バラガミ
「――スミレ」
ふと、わたしは花の名前を呟いた。
バラガミ
「私は知っているはず――知っている――」
どうしても、私の中でひっかかるそんな単語だった――
けれど、思い出そうとすると――。
バラガミ
「うぁっ……」
頭痛が私を襲う。
今、思い出してはいけない――考えてはいけない――そう誰かから言われているようにも思えた。
バラガミ
「そうだ――私は、祈ることだけを考えればいい」
少なくとも――祈ることで希望が生まれ、祈る事で奇跡が生まれた。
完全な絶望が広がるわけではない。私にだって、できることがある。
そう思うと、頭痛はすぐに引いた。――すなわち、そういうことなのだろう。
だから――私は【鏡】を抱いて祈った。
更なる奇跡のために……希望を捨てないために……。
- 978 名前:SNO:2020/12/30(水) 18:30:03.088 ID:VOze98Lg0
- ¢さんの語尾は●●なんよにするかしないかで迷ったけどつけることにしたなんよ
- 979 名前:きのこ軍:2020/12/30(水) 21:12:06.886 ID:3CRJ15A2o
- なんにでもんよんよ付けても阿呆っぽさが出るので、ここぞというときに使えばむしろ効果的。
そういう語尾フェチです。
- 980 名前:Route:D-12:2020/12/31(木) 00:29:24.536 ID:6u4F60iE0
- Route:D
Chapter12
- 981 名前:Route:D-12 神勅:2020/12/31(木) 00:33:10.016 ID:6u4F60iE0
- ――――――。
気が付くと、細波が私の隣に座っていた。
何時の間に――彼女はここに?
いいや、それを考えるのは無駄だ。私は記憶が飛ぶのだから。
それを追及するよりも、私には優先すべき事があるのだ――。
そう、思っていると……。
細波
「バラガミ――運命の時はあと少し……」
細波の言葉が響く。
運命の時――意味深な言葉を呟いた細波は、表情を変えずに私を見つめていた。
バラガミ
「運命の――時――」
……その単語に、心当たりがあるような気がする。
だが、その意味合いはどうしても思い出せない。
けれども、とても大切なことである――
それは、忘れてはならない重要な要素なのだと……心の奥底で理解していた。
細波
「あらかじめ釘を刺しておくけれど
――私は貴女にこれ以上は教える事はできない……」
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- 982 名前:Route:D-12 神勅:2020/12/31(木) 00:38:27.200 ID:6u4F60iE0
- バラガミ
「……どうして、何も教える事ができないの?」
細波
「ほかでもない、貴女がそう仰ったから――
記憶を失っても、その時に、運命の時が来ること以外は、貴女自身に教えてはいけない――と」
バラガミ
「私が、私に言伝を――?」
細波
「ええ……貴女が、そう言ったの」
――私が、そう……言ったのか……。
彼女の口ぶりからは嘘というものは感じ取れない。
……失われた記憶の断片に、私がそう言った場面があるのだろう。
そして――逆に言えば、この時期(とき)に、運命の時についてを教えることに意味があるともいえた。
バラガミ
「ありがとう――私に教えてくれて――」
――私は記憶を失っていても何かの準備をしていた……そういうことなのか。
そう思うと、不思議と納得がいった。
細波
「いえ――
貴女の祈りが通じることを、私たちも望んでいるから
それでは、お願いね、バラガミ――」
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- 983 名前:Route:D-12 神勅:2020/12/31(木) 00:41:25.409 ID:6u4F60iE0
- ……私たちという単語から、細波をはじめとした何者かが、私に期待しているらしい。
確かに、先程奇跡は起きた。私の祈りが、集計班と¢を蘇らせることに繋がっていた……。
バラガミ
「……私が、私への言伝を」
そして誰にも届かない言葉を呟きながら、【鏡】に映る私の顔を見た。
白い髪。赤い瞳。黒い衣装――それは何度見ても変わることはない。
だが、その表情は――まるで雲に隠れた太陽が、切れ目から顔を覗かせたように明るくなっていた。
……それにしても、バラガミと呼ばれた私が、私自身に言伝をするなんて。
まさに、神勅というべきなのかもしれない。
【運命の時】――とやらが、近づいている。
その時、私は何を見るのか……その時私は、どうすべきなのか……。
その具体的な内容がわからないことに、一抹の不安もあるが……いいや、大丈夫。
……私はその時に祈りを捧げる。それを私自身が指示している。
……恐らく、そのために私はここまで【鏡】を通して景色を見、祈りを捧げて来たのだ。
私がその時まで祈りを捧げ続けるために、余計な記憶が欠損されているのだろう。
純粋な、まっしろな――祈りだけに神経を注げるように――。
……心の中に、相変らず不安という名の火は燃え、煙をあげている。
けれども、大丈夫。私は祈りを捧げてみせる。
私は、心の中でそう繰り返しながら【鏡】に祈りを捧げ始め……。
- 984 名前:SNO:2020/12/31(木) 00:41:44.981 ID:6u4F60iE0
- どこで埋めよう。
- 985 名前:D-13:2020/12/31(木) 09:25:18.607 ID:6u4F60iE0
- Route:D
Chapter13
- 986 名前:D-13 運命の輪:2020/12/31(木) 09:26:46.372 ID:6u4F60iE0
- ――――――。
【鏡】の向こうでは、白髪の人物と、神父姿の人物が血まみれで倒れ伏せていた。
バラガミ
「…………一体、これはどういうこと」
――視界の果てで誰かが駆け抜けた気がするが……今、私にとってはそれよりも眼前の光景の方が大切だった。
二人ともすでに息はない。ぴくりとも体は動かずに……地面に紅の花を散らしている
それは凶兆の余波のようにも思えて、私の心はがくがくと震えはじめる感覚があった……。
バラガミ
「えっ――」
唖然としているうちに、映された景色は霞むように消え――【鏡】には私の顔だけが映っていた。
しばらく、呆然としていたが――やがて、わたしはめまいにも似た感覚を覚えていた。
バラガミ
「どういうこと――いったい、これは――」
私の中で何かが失われていくような感覚……心と体が乖離していくような、不気味な感覚……。
先ほど【鏡】に広がっていた光景は、自分への神託である運命の時、そのものであると……わたしの中で言っていた。
泥濘に沈んでいくような感覚の中、私の思考はとても鮮明に思案し始めた。
私は、この運命の時をどうすればいい……?
私に――バラガミに定められた責務は、一体何なの?
しかし、それを求めてもわかるわけではない。だが、解き明かさなくてはいけない。
私自身が――運命の時――そう告げたことには、恐らく理由があるのだから…。
- 987 名前:D-13 運命の輪:2020/12/31(木) 09:29:13.643 ID:6u4F60iE0
- バラガミ
「……私は、誰かを救わなければ……いけない?」
――私の中には……凶兆の景色が広がった。
その凶兆のさなか、ユリガミが斬ったあの少女が、舞い散る花びらが頭をよぎった。
バラガミ
「もし――もし、私にその【力】があるのなら――」
……その時、私は、集計班と¢が蘇った出来事を……私が奇跡としたその出来事を思い出した。
……祈って奇跡が起こせるのなら、血まみれで倒れていたふたりを――蘇らせることができる?
……そこで私は思い至った。少女のことを救うことはできないのか、と。
私の見た凶兆からは時間が経っている――少女の死体があるかどうかも定かではない。
それでも――可能性はある。
バラガミ
「悩んでいる場合では、ない……私は、祈ることだけしかできない……」
……そう、悩むべきではない。
どうせ考えても、その答えに直ぐにはたどり着くことはない。ならば、私に出来ることをすることが最善策だろう。
奇跡によって少女が生き返る――その可能性がわずかにでもあるのなら。
私は、祈ってみせる。
だから――。
私は、【鏡】を抱いて、奇跡を願って祈りを捧げた。
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- 988 名前:D-13 運命の輪:2020/12/31(木) 09:29:46.344 ID:6u4F60iE0
- 私の声が、私に呼びかけていた――。
バラガミ
「私の【力】で、ふたりを救って――」
その声は、とても凛々しく、神々しく――私は、バラガミという女神と言われるに相応しいものだと……なぜだか他人事のように認識した。
そう……。
運命の時に祈りを捧げることが――。
神託の通りに、私は祈ろう――。
バラガミ
「バラガミとして、私は祈りを捧げる――
ふたりを救う――それがすべてを救うことに繋がるから――」
すらすらと口をついた言葉は、私のこの意識とは違う存在に言わされたかのように発せられた。
同時に――私の目の前の景色はぐらりと歪んだ。
波に呑まれるような感覚。何かに引きずり込まれるような感覚。
……この感覚を、私は味わったことがあるような気がする。
だが、私はそれに抗ってみせる。私は祈りを捧げる。
その感覚に全身がつつまれても、意思を変えない。諦めない。奇跡のために……。
そして………………。
- 989 名前:SNO:2020/12/31(木) 09:30:00.136 ID:6u4F60iE0
- 運命?
- 990 名前:Route:D-14:2020/12/31(木) 12:14:16.615 ID:6u4F60iE0
- Route:D
Chapter14
- 991 名前:Route:D-14 太陽:2020/12/31(木) 12:17:56.302 ID:6u4F60iE0
- ――――――。
再び、景色が元に戻った。
【鏡】の向こうでは――私が見た――神父姿の人物と白髪の人物が死闘を繰り広げていた。
バラガミ
「……これは、どういうこと?」
再びの奇跡に、私は少し狼狽したが――すぐに、此処が【運命の時】なのだと認識することができた。
同時に――二人の戦いを見つめる私の中に、今までの記憶が津波のように流れ込んだ。
少女の死。DBに蹂躙される人々。天狗のヤミ。ユリガミへ祈りを捧げる人々。集計班と¢の死と復活……。
そして、運命の時、神父姿の人物と白髪の人物が相打ちになったことに――。
ああ、そうか……と私は思う。
様々な情報や情景が、逆回しとなって私の中を巡った。
同時に、私は納得。
バラガミ
「そうか――私は、時を遡っていた――」
女神の【力】――、私は時を遡ることができる【力】を持っていた……。
私はその【力】を操り、何度も何度も、繰り返し繰り返し、無限に時を戻っていた。
どうして?それは――
バラガミ
「絶望の景色を――紅い月の凶兆を防ぐため――」
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- 992 名前:Route:D-14 太陽:2020/12/31(木) 12:20:15.356 ID:6u4F60iE0
- しかし、どうすればいい――?
ふと、視線を二人から逸らした。……誰かがそこには居たから。
――そこには、二人の死闘を眺める少女が一人居た。
肩まで伸びた黒い髪。白と赤の巫女装束。腰には白百合の太刀……。
首に掛けられた【勾玉】からは神々しさの一片があった。
――彼女は、息苦しそうな表情を浮かべていた。まるで溺れる者のように……。
しかし……彼女は……あの子は……。
……私は、彼女をとても、よく知っていた。
……どうして……どうして……あなたが、ここに……いるの……?
――――――。
――――――。
――――――。
……それと同時に、私の記憶が徐々に修復されていくのを感じていた。
失われた記憶の断片は、ぽっかりとあいた隙間を埋めるように……やがてそれは完全に取り戻されていった。
そうだ……私がどうして時を戻していたのか。
――この瞬間の運命を切り替えるために……。
だが、幾度もなく失敗し、二人は相打ちとなってしまった。
二人の死を呼び水として、あの絶望の結末に繋がるということも、幾度もなく理解――いいや、体験していた。
何度も世界はに凶兆に飲み込まれていったのだ……。私はどうすればいい――?
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- 993 名前:Route:D-14 太陽:2020/12/31(木) 12:21:10.683 ID:6u4F60iE0
- バラガミ
「貴女にはやるべきことがある」
バラガミ
「それは――この戦いを止めること」
バラガミ
「この戦いを止めることが――貴女が真に為すべきこと」
愛しい我が子に――瞿麦に――私はゆっくりと語り掛けた。
その光景は……私にとってとても馴染み深いものだった。
瞿麦
「……」
瞿麦は、少し考える素振りを見せて……納得するように頷いた。
私の声は、届いたらしい。
バラガミ・瞿麦
「戦いを、やめ、て――!」
わたしは、まるで、子供を叱るように強い口調で、言い聞かせるように――【鏡】の向こうの瞿麦に向けて、語り掛けた。
――その言葉もまた、瞿麦に届き、私と同じ言葉を、息を切らしながら続ける。
神父姿の人物
「――!?」
白髪の人物
「…………!」
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- 994 名前:Route:D-14 太陽:2020/12/31(木) 12:22:56.884 ID:6u4F60iE0
- ふたりは……困惑したように瞿麦を見ていた。
同時に、その視線は私にも重なった。二人は私のことを認識はしていないだろうが、
私は、止まるわけにはいかない……。すぐに、瞿麦を通じて語り掛けた。
バラガミ・瞿麦
「あなたたちが争って得られることはない――
今なすべきことではないことは、二人とも分かっているでしょう?」
――わたしは諭すような声で、そして瞿麦も同じ口調で……一言一句同じ言葉を語った。
神父姿の人物
「……きみは誰だ
太刀を腰にぶらさげたきみも……私にとっての敵なのか?」
神父姿の人物は、真剣なまなざしで瞿麦に剣の刃を突きつけた。
その顔にも既視感はあった。――でも、今、それに思いを馳せる必要はない。
バラガミ・瞿麦
「違う――わたしが為すべきことは――」
瞿麦の表情は見えない。しかし――身体は震えていなかった。恐怖の感情も読み取れない。
恐らく……瞿麦と私の目的は同じなのだろう。私はまたも言葉を紡ぎ――それを同じく、瞿麦が語った……。
バラガミ・瞿麦
「絶望の未来を回避する行動――」
神父姿の人物への答え……それは初めから言うと決めていたかのようにすらすらと口をついて出た。
……大丈夫。私の言葉は、そして瞿麦の想いは……きっと届いている。
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- 995 名前:Route:D-14 太陽:2020/12/31(木) 12:23:35.691 ID:6u4F60iE0
- 白髪の人物
「彼女は――少なくとも、私や君の敵ではない勢力だ」
黒砂糖
「……そのようだ」
黒砂糖
「……私は、この少女に手を出せとは言われていない
一旦は退かせてもらおう……」
黒砂糖は、不服そうにつぶやきながら、その場を立ち去って行った。
とにかく、私は――この争いを、止めることができたのだ……。
運命の時で――為すべきことを、成し遂げたのだ……。
いつしか、【鏡】の中の光景は薄れ始めた。
おそらく――もう、私が何かをする必要はない……そういうことなのだろう。
バラガミ
「――それでいいの
あとは貴女がすべてを……思い出すことができれば……」
だから、私は最後に瞿麦に言葉を残した。
……彼女もまた、私の【力】に巻き込まれていたからだ。
- 996 名前:Route:D-14 太陽:2020/12/31(木) 12:26:03.273 ID:6u4F60iE0
- 私が記憶を失っていた理由――それは単純明快だ。
何度も時を戻しているうちに、積み重なる記憶が心の負担になる。
それを防ぐために――運命の時までの時の環だけを記憶するようにしていたのだ。
――それは、瞿麦にも同じようなことが言えるだろう。彼女も私と同じ境遇にあった……そんな気がする。
だからこそ……私はその言葉を瞿麦に残したのだ。
――そして今、凶兆が起きる未来はなくなったのだ。
私の目的は果たした。だから、記憶も戻り、色々な事実も認識できるようになった。
時を戻す【力】で、黒砂糖と白髪の人物の命を救ったのだ。
……いや、終わってはいない。
まだ、やるべきことがある。それは、凶兆の時に死んだあの子を……澄鴒を救わなければならない。
澄鴒は【会議所】で目覚める時を待っているはずだ。
今までは――白髪の人物と黒砂糖のふたりを死なせたことによって運命が狂い、凶兆の未来に繋がることになっていた。
その未来の過程では、見知らぬ人から、血を分けた息子まで……死の運命を背負っていた。
- 997 名前:Route:D-14 太陽:2020/12/31(木) 12:27:31.401 ID:6u4F60iE0
- だが――今回は違う。
ふたりは死ななかった。それを起点に、あの絶望を回避できる――私はそう確信していた。
だから、行こう。
此処で祈る役目は終わり、私は向かわなくてはいけない――。
澄鴒を救うために、【会議所】へ――。
私は、この空間から出なければならない。
私は、いつまでもここにいてはいけない。
――なぜなら、私は……海神の世界で眠り続けるわけにはいけないのだから……。
深淵の中に広がる世界に私は居た。暗くて深い場所に私はいた。
しかし私は目覚めなければいけない。戻らなければいけない。空の広がる大地へと……。
私に流れる血に宿る女神が治める世界へと。
眠り姫たる澄鴒を起こすために――私の血を引く、愛しき我が子のために……。
- 998 名前:Route:D Ending:2020/12/31(木) 12:28:33.057 ID:6u4F60iE0
- ――Revealed the sun card.
But This story hasn't finished yet.
Haven't reached the truth.
Go ahead the another Route.
―――Route:D Fin.
- 999 名前:???:2020/12/31(木) 12:35:34.353 ID:6u4F60iE0
- ――すべての鍵は、ひとつの点に辿り着いた。
陰陽の重なり合う場所に……。
彼女たちを遮るを苦難を越え、各々のたどり着くべき場所を見つけた。
――――
乙 女 は 今 目 覚 め な け れ ば な ら な い 。
世 界 の あ る べ き 場 所 へ と 。
――――To be continued Route:E.
- 1000 名前:SNO:2020/12/31(木) 12:38:31.826 ID:6u4F60iE0
- 次スレに続く。
http://kinohinan4.s601.xrea.com/test/read.cgi/prayforkinotake/1609385851/
- 1001 名前:1001:Over 1000 Thread
- ∧
ノ ヽ
/ ヽ
, ‐' ー- 、 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ ノ ヽ ヽ <うーん…難しいですね…
/ ─ ─ | \__________
_/ ω \_
(_/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\__γ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
\_________/ |@獅ソは嫌だ…dat落ちは嫌だ… |
|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| 乂____________________ノ
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_ト、 |:::::::::●::::::::::::,::●::::::::| |:::::≦ =@ノ ノ ̄丁フ  ̄フ | / ヽ○  ̄丁フ  ̄丁フ  ̄丁フ  ̄フヽヽ
≧:::::\. |::::::::::::ニ::::::::田::::::::::::| /::√` ノ ノ \ ノ\ ノ ノ \ ノ ノ ノ ノ
´ ̄|::|_|:::::::::::::ム::::::ノ|ム::::::::::=]'/
. └─‐::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::| ̄ このスレッドは1000を超えました。
ノ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ 今後も用法用量を守って節度ある正しいスレ立てを行いましょう。
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